説明

元素分析用前処理装置及び元素分析装置

【課題】空気の混入を無くし試料が超微量であっても元素分析装置における元素成分の分析においてバラツキが飛躍的に小さくなり、分析能力を向上させることができる元素分析用前処理装置を提供する。
【解決手段】元素分析用前処理装置2は、試料保持部材11と、試料導入用開閉弁12と、酸化管13と、還元管14と、反応ガス供給手段15と、キャリアガス供給手段16と、反応ガスとキャリアガスとを択一に酸化管13に供給する切替弁17と、ガスクロマトグラフ3と、を有して構成されている。還元管14を通過した試料ガス中の水分(HO)を除去する水分トラップ18を有し、この水分トラップ18を通過した試料ガスの混合ガス)をガスクロマトグラフ3で分離し分析装置5に送る。切替弁17はチャンバ19の内部に備えられ、チャンバ19は、パージガス供給手段22から供給される不活性ガス(He or Ar)をパージガスとして導入する。切替弁17からの空気の混入を遮断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を高温で燃焼させて炭酸ガスと窒素酸化物とを含む試料ガスとし、この試料ガスをキャリアガスで搬送させて酸化、還元、水分の除去を行った後に、炭酸ガスと窒素ガスとに分離する、元素分析用前処理装置及び元素分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底に堆積している堆積物,プランクトン等の動植物について、それらの物質に含有されている有機炭素と窒素との安定同位体比を測定(以下、炭素・窒素安定同位体比測定と言う)すると、過去の地球環境変動の推定及び未来の予測,物質循環の解明,動植物の生成経路,生物の栄養状態等を知ることができる。
【0003】
そのため、炭素・窒素安定同位体比測定を行う装置等の元素分析装置の開発が行われている。炭素・窒素安定同位体比測定の装置は、一般に、試料である物質の炭素と窒素との安定同位体比等を測定する質量分析装置と、この質量分析装置へ送る試料を準備するための前処理装置、即ち元素分析用前処理装置(フラッシュ式元素分析計ともいう)と、を備えている。
【0004】
従来の元素分析用前処理装置は、試料を供給するオートサンプラと、酸化管と、還元管と、反応ガス供給手段と、キャリアガス供給手段と、を備えている。酸化管は、オートサンプラから燃焼部に供給された試料を反応ガス(酸素ガス)で燃焼させて試料ガスを生成し、さらに試料ガスを酸化部に通し酸化剤で酸化する。還元管は、酸化管に接続されていて試料ガスの中の窒素酸化物を窒素ガスに還元する。反応ガス供給手段は、試料を燃焼させる反応ガスを酸化管の燃焼部に供給する。キャリアガス供給手段は、試料ガスを酸化及び還元、水分除去手段へ輸送するためのキャリアガスを酸化管の燃焼部に供給する。
【0005】
海底に堆積している堆積物,プランクトン等の動植物である有機物は、窒素:炭素比が一般に1:10程度であり、窒素の割合が少ない。この有機物(試料)が少量のときには、特に窒素が少ないため、従来の元素分析用前処理装置によれば、元素分析装置で炭素と窒素との安定同位体比を測定したくても測定することができないケースが多かった
特許文献1に記載された元素分析用前処理装置によれば、酸化管における燃焼部の流路断面積を下流部の酸化カラム部の流路断面積より大きく形成したことによって、炭素及び窒素等の元素の検出能力が向上されて、微量の試料であっても炭素と窒素との安定同位体比の測定や、各元素成分の質量分析等を正確に行うことができるようになった。例えば、試料の重さが約50μg未満のものでも、元素分析装置で検出される炭素成分及び窒素成分の検出強度(ガス量)が大きく得られ、応答曲線(クロマトグラム)も大きく表れるため、炭素・窒素安定同位体比の精密な測定ができるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−70134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された元素分析用前処理装置においても、測定値にバラツキが生じるので、バラツキが生じない元素成分の分析能力の更なる向上がさらに必要であった。
【0008】
本発明者らは、測定値にバラツキが生じてしまうことについて鋭意に研究した。その結果、特許文献1に記載された元素分析用前処理装置に係る実用装置が、以下のような構造になっていることに着目した。
【0009】
特許文献1には記載されていないが、実用装置は、オートサンプラと酸化管とが試料導入用開閉弁を介して接続されている。そして、酸素ガスボンベから供給される反応ガス(酸素ガス)の供給管とヘリウムガスボンベから供給されるキャリアガス(Heガス)の供給管とが電磁三方弁の2つの入力ポートに接続されている。さらに、電磁三方弁の残り1つの出力ポートと試料導入用開閉弁の下流側(酸化管側)通路とが供給管で接続されている。この実用装置によれば、電磁三方弁を切替操作することで反応ガスとキャリアガス(Heガス)とが択一に酸化管に供給されている。さらに、ヘリウムガスボンベから供給されるキャリアガス(Heガス)が、試料導入用開閉弁の上流側(オートサンプラ側)通路にオートサンプラのためのパージガスとして常時供給されている。
【0010】
測定値にバラツキが生じることの原因は、電磁三方弁から微量な空気の混入があるためであった。電磁三方弁の弁筐から空気が微量でも混入すれば、該空気がキャリアガスとともに酸化管に導入することになり、空気の構成成分の微量な窒素がその都度の測定値に影響を及ぼすと考えられる。本発明者らは、オートサンプラのパージガスとしてキャリアガス(Heガス)を使用していることから、パージガスが十分に機能せずオートサンプラ内の空気を完全に追い出すことができない、と考えた。すなわち、試料導入用開閉弁の弁体の凹部にはパージガスよりも重い空気が残留しており、試料導入用開閉弁が開いてオートサンプラからの試料を酸化管に供給する際に、試料導入用開閉弁の弁体の凹部内の残留空気が酸化管に混入する。このため、空気の構成成分の窒素がその都度の測定値に影響を及ぼすのではないか、と考えた。
【0011】
本発明は、上述した点に鑑み案出されたものであり、酸化管への空気の混入を無くし試料が超微量であっても元素分析装置における元素成分の分析においてバラツキが飛躍的に小さくなり、分析能力を向上させることができる元素分析用前処理装置を提供すること及び該元素分析用前処理装置を備えた元素分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の元素分析用前処理装置は、内部をパージガスでパージされた状態で試料を収容し試料を試料導入用開閉弁を通して供給する試料保持部材と、試料導入用開閉弁に接続されていて、試料保持部材から供給された試料を燃焼させて試料ガスを生成し、さらに試料ガスを酸化する酸化管と、酸化管に接続されていて、試料ガスの中の窒素酸化物を窒素ガスに還元させる還元管と、試料を燃焼させる反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、試料ガスを還元手段へ輸送するためのキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、反応ガスとキャリアガスとを択一に酸化管へ供給する切替弁と、生成したガスを分離するガスクロマトグラフと、を備えてなり、切替弁は、弁筐がチャンバの内部に備えられかつ弁体を駆動するアクチュエータがチャンバの外部に備えて構成され、チャンバは、キャリアガスとは別の不活性ガスであるヘリウムガス又はアルゴンガスをパージガスとして導入し、切替弁から酸化管へ択一に供給する反応ガス又はキャリアガス中への空気の混入を遮断する機能を有して構成されたことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、切替弁からの空気の混入を無くしたことで、試料が超微量であっても、ガスクロマトグラフィーに接続される分析手段において、特許文献1の前処理装置を使用した場合と比較して、バラツキが飛躍的に小さくなり、元素成分をさらに正確に分析できるようになる。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の元素分析用前処理装置は、内部をパージガスでパージされた状態で試料を収容し試料を試料導入用開閉弁を通して供給する試料保持部材と、試料導入用開閉弁に接続されていて、試料保持部材から供給された試料を燃焼させて試料ガスを生成し、さらに試料ガスを酸化する酸化管と、酸化管に接続されていて、試料ガスの中の窒素酸化物を窒素ガスに還元させる還元管と、試料を燃焼させる反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、試料ガスを還元手段へ輸送するためのキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、反応ガスとキャリアガスとを択一に酸化管へ供給する切替弁と、生成したガスを分離するガスクロマトグラフと、を備えてなり、切替弁は、弁筐がチャンバの内部に備えられかつ弁体を駆動するアクチュエータがチャンバの外部に備えて構成され、チャンバは、キャリアガスとは別の不活性ガスであるヘリウムガス又はアルゴンガスをパージガスとして導入され、切替弁から酸化管へ択一に供給する反応ガス又はキャリアガス中への空気の混入を遮断するように構成され、試料導入用開閉弁の上流位置に試料保持部材のパージガスとして、切替弁を介して反応ガス又はキャリアガスを切替式に導入する機能を有して構成されたことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、切替弁からの空気の混入を無くしかつ試料保持部材からの空気の混入を無くしたことで、試料が超微量であっても、ガスクロマトグラフィーに接続される分析手段において、特許文献1の前処理装置を使用した場合と比較して、バラツキが飛躍的に小さくなり、元素成分をさらに正確に分析できるようになる。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の元素分析装置は、上記何れかの元素分析用前処理装置とこの元素分析用前処理装置に接続される分析手段とを有することを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、切替弁からの空気の混入を無くしたことで又は切替弁からの空気の混入を無くしかつ試料保持部材からの空気の混入を無くしたことで、試料が超微量であっても、炭素・窒素の安定同位体比の測定や、各元素成分の質量分析等を行う場合において、特許文献1の前処理装置を使用した場合と比較して、バラツキが飛躍的に小さくなり、元素成分をさらに正確に分析できるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化管への空気の混入を無くし試料が超微量であっても、元素分析装置における元素成分の分析においてバラツキが飛躍的に小さくなり、分析能力を向上させることができる元素分析用前処理装置を提供することができる。また、この元素分析用前処理装置を備えた元素分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る元素分析装置を示す模式的な正面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1の装置の他の動作状態を示す要部正面図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】図1の装置のコントローラの制御信号の出力のタイムチャートである。
【図6】実施例1の元素分析の結果に係り、窒素安定同位体比の測定結果を表した分布グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る元素分析用前処理装置及び元素分析装置を説明する。
【0021】
試料は、例えば、海底に堆積している堆積物や、プランクトン等の動植物からなる超微量な自然界の物質(有機化合物)であり、炭素(12C,13C)と窒素(14N,15N)とを含んでいる。試料は、重さが1〜10μg程度の小さなものであり、錫箔で形成されたカプセル内に封入される。
〔元素分析用前処理装置と元素分析装置の構成の概略〕
図1において、元素分析装置1は、微量の試料中に含まれている元素を分析する装置であり、元素分析用前処理装置2を含み、元素分析用前処理装置2で生成された試料ガスを元素分析するための成分の測定ガスに分離するオープンスプリット4と、その測定ガスの元素成分を分析する分析手段5と、から構成されている。
【0022】
元素分析装置1は、例えば、微量の試料から生成される炭素(12C,13C)および窒素(14N,15N)について、炭素・窒素安定同位体比を測定するための測定装置である。分析手段5において、試料中に含まれる元素(C,N)の安定同位体比を測定するためには、予めそれぞれの元素が気体(CO,N)になっている必要があり、そのために、試料をガス化させる装置が元素分析用前処理装置2である。
【0023】
この元素分析装置1は、例えば、微量の試料から生成される炭素(12C,13C)及び窒素(14N,15N)について、炭素・窒素安定同位体比を測定するための質量分析装置や炭素・窒素安定同位体比測定装置等である。
【0024】
元素分析用前処理装置2は、オープンスプリット4と分析手段5を除いた構成部分である。試料中に含まれる元素(C,N)の安定同位体比を分析手段5で測定するためには、予めそれぞれの元素が気体(CO,N)になっている必要がある。そのために、元素分析用前処理装置2は試料を各分析用成分の被測定ガス(気体試料)にガス化するための装置である。元素分析用前処理装置2は、試料を反応ガス(=酸素(O))で燃焼させてガス化し、このガス化した試料ガス(CO,NO)を酸化させ、NOについて還元して窒素ガス(N)とし、水分(HO)を除去して二酸化炭素ガス(CO)と窒素ガス(N)との混合ガスである被測定ガスとし、さらにガスクロマトグラフ3で該被測定ガスを二酸化炭素ガス(CO)と窒素ガス(N)との成分に分離してオープンスプリット4に送る装置である。
〔第1の実施形態〕
この実施形態では、炭素・窒素安定同位体比測定の装置に適用する場合を示す。
【0025】
以下に基本構成部分を概略説明し、次いで特徴構成部分を詳細に説明し、続いてその他の構成部分を簡単に説明するが、発明者は一部同一であることから、いずれにも説明が無い部分の構成はその詳細に説明されている特許文献1と同一であるものとする。例えば、オートサンプラの構成は、パージガスの供給を除いて特許文献1のオートサンプラと同一である。
〔基本構成部分の概略説明〕
図1に示すように、元素分析装置1は、元素分析用前処理装置2と、水分トラップ18を通過した試料ガス((CO),(N)の混合ガス)を測定用の測定ガス(CO),(N)の成分に分離するガスクロマトグラフ3と、オープンスプリット4と、分析手段5とを有して構成されている。
【0026】
図1に示すように、元素分析用前処理装置2は、オートサンプラ11と、試料導入用開閉弁12と、酸化管13と、還元管14と、反応ガス供給手段15と、キャリアガス供給手段16と、反応ガスとキャリアガスとを択一に酸化管13に供給する切替弁17と、パージガス供給手段22と、キャリアガスの供給量を調整するマスフローコントローラ23と、反応ガスの供給量を調整するマスフローコントローラ24と、を有している。
【0027】
元素分析用前処理装置2にあっては、試料Mを供給するオートサンプラ11が試料導入用開閉弁12を介して酸化管13と接続され、酸化管13の下流端に還元管14が接続されている。反応ガス供給手段15から供給される反応ガス(酸素)とキャリアガス供給手段16から供給されるキャリアガス(不活性ガス)とは切替弁17に導入される。切替弁17を切り替えることで、反応ガスとキャリアガスとが択一に酸化管13に供給される。元素分析用前処理装置2は、還元管14を通過した試料ガス中の水分(HO)を除去する水分トラップ18を有する。この水分トラップ18を通過した試料ガス((CO),(N)の混合ガス)はガスクロマトグラフ3に送られる。これらの構成部分の機能は、特許文献1の構成と同一である。
【0028】
オートサンプラ11では、その内部がパージガスでパージされた状態で試料Mを収容している。この試料Mは、オートサンプラ11から試料導入用開閉弁12を通して酸化管13に供給される。試料導入用開閉弁12は、弁筐12aと、弁体12bとを有してなる。
【0029】
弁筐12aは、前面部に透明な蓋板を備えていて、蓋板を通して弁内部を見られる構造である。弁体12bは、例えばU字状凹部を有し、U字状凹部が上向きのときに、オートサンプラ11から供給される試料MをU字状凹部に収容し、この状態から弁体12bが180度回転してU字状凹部を下向きにして、試料Mを酸化管13内へ落下させる構成である。その後、弁体12bが180度回転してU字状凹部が上向きなった位置で停止して、オートサンプラ11から次に供給される試料Mを収容するようになっている。弁体12bを180度往復回動させる駆動源は、後述するオートサンプラ11の試料送りテーブルを間欠回転させるサーボモータ11aにより行われる。
【0030】
酸化管13は、試料導入用開閉弁12の出口に接続されている。酸化管13は、上流側に燃焼部13aを有し、下流側に酸化剤(酸化触媒)を充填している酸化部13bを有する。酸化管13は、オートサンプラ11から燃焼部13aに供給された試料Mを燃焼させて試料ガスを生成し、さらに該試料ガスを酸化部13bに充填した酸化剤に接触させて試料ガス中の一酸化炭素,一酸化窒素を酸化させて二酸化炭素,窒素酸化物にする。酸化剤は、例えば、上流側に充填される粒径が1〜2mmの粒状の酸化クロム(Cr203)と、下流側に充填される粒径が1〜2mmの粒状の酸化銀コバルト(Co3O4/Ag)と、の2種類の試薬からなる。還元管14は、酸化管13にU字を構成するように接続されていて、試料ガスの中の窒素酸化物を窒素ガスに還元させる。反応ガス供給手段15は、酸化管13内の試料Mを燃焼させる反応ガスを供給する。キャリアガス供給手段16は、試料ガスを還元手段14へ輸送するためのキャリアガスを供給する。
〔元素分析用前処理装置の作用〕
試料導入用開閉弁12を開き、オートサンプラ11内の試料Mを酸化管13の燃焼部13aに供給し、また、切替弁17が反応ガス供給手段15から供給される反応ガスを燃焼部13aに供給する。これにより、燃焼部13a内の試料Mを反応ガスにより燃焼させて試料ガスとする。次いで、切替弁17を切り替える。これにより、該切替弁17を通して燃焼部13aにキャリアガスを供給する。このキャリアガスで試料ガスを酸化管の酸化部に給送し、試料ガスを酸化剤で酸化する。続いて、キャリアガスで試料ガスを還元管14の還元部14aに給送し、ここで、上記試料ガスの中の窒素酸化物を還元剤に触れさせて窒素ガスに還元させる。このため、ガスクロマトグラフにおいて窒素ガスと炭酸ガスとに分離するための窒素ガスと炭酸ガスとの混合状態の測定用ガスが生成する。
〔特徴構成部分の詳細な説明〕
図2に示すように、本実施形態の切替弁17は、弁筐171と、弁筐171に収容された弁体172と、弁体172を90度往復回動させる空圧式ロータリアクチュエータ173(図1参照)と、を備えてなるロータリー四方弁である。空圧式ロータリアクチュエータ173は、弁筐171から離れて設けられ、出力軸175が弁体172の軸部174と接続された構成である。
【0031】
切替弁17は、弁筐171がチャンバ19の内部に備えられている。チャンバ19は、パージガスの入口19aと出口19bを有すると共に、切替弁17と接続される4本の配管の通し孔及び出力軸175の通し孔を有する。
【0032】
チャンバ19は、パージガス供給手段22から供給される不活性ガス、具体的にはヘリウムガス又はアルゴンガスをパージガスとして入口19aから導入し、出口19b及び4本の配管の通し孔から排出する。このため、切替弁17は、弁筐171がチャンバ19によって空気と完全遮断されるので、酸化管13へ択一に供給する反応ガス又はキャリアガス中への空気の混入を遮断する。
【0033】
切替弁17の弁筐171には、第1の入力ポートaと、第2の入力ポートbと、第1の出力ポートcと、第2の出力ポートdとを有する。
【0034】
第1の入力ポートaは、反応ガス供給手段15に反応ガス供給管20aを介して接続されている。第2の入力ポートbは、キャリアガス供給手段16にキャリアガス供給管20bを介して接続されている。第1の出力ポートcは、試料導入用開閉弁12の上流位置のパージガス入口管12cにパージガス供給管20cを介して接続されている。第2の出力ポートdは、試料導入用開閉弁12の下流位置の反応ガス兼キャリアガス入口管12dに反応ガス兼キャリアガス供給管20dを介して接続されている。弁体172には、二つの入力ポートa,bの一方と二つの出力ポートc,dの一方と接続する第1の連通ポートeと第2の連通ポートfとを有する。
〔特徴部分の機能〕
図1に示すコントローラ21は、オートサンプラ11の試料送りテーブルを間欠回転させるサーボモータ11aと、切替弁17の空圧式ロータリアクチュエータ173とを所定の時間系列で反復動作するように制御する。サーボモータ11aの出力軸に図示しない動力伝達系があり、この動力伝達系を介してオートサンプラ11の試料送りテーブルの間欠回転と試料導入用開閉弁12の開閉動作が連動して行われる。
【0035】
図2,図4に示すように、切替弁17は、空圧式ロータリアクチュエータ173(図1参照)で弁体172(図2参照)を90度往復回動することで、反応ガスとキャリアガスとを択一に酸化管13へ供給する。切替弁17の切替えがどちらの状態であっても、反応ガスとキャリアガスは切替弁17のところで供給を停止されない。
【0036】
試料導入用開閉弁12は、弁体12bに備えているU字状凹部が上向きのときに、該U字状凹部に、オートサンプラ11から供給される試料Mを収容する。この状態から、切替弁17が図1及び図2に示すように、弁体12bが180度回転してU字状凹部が下向きになると、試料Mがその自重で酸化管13内に落下する。切替弁17が図1及び図2に示す状態のときは、第1の入力ポートaと第2の出力ポートdとが第1の連通ポートeを介して連通し、並びに第2の入力ポートbと第1の出力ポートcとが第2の連通ポートfを介して連通する動作状態になる。これによって、切替弁17は、酸化管13に反応ガス(酸素)を供給し、オートサンプラ11の底部にキャリアガス(ヘリウムガス)をパージガスとして供給する。
【0037】
酸化管13ヘ反応ガスを供給すると、着火が行われ、試料Mが燃焼する。切替弁17は、試料Mの燃焼の終了に合わせ、図1及び図2に示す動作状態から図3,図4に示す動作状態に変わる。このとき、切替弁17は、第1の入力ポートaと第1の出力ポートcとが第1の連通ポートeを介して連通し、並びに第2の入力ポートbと第2の出力ポートdとが第2の連通ポートfを介して連通する動作状態になる。これによって、切替弁17は、酸化管13にキャリアガスを供給し、オートサンプラ11の底部に反応ガスをパージガスとして供給する。
【0038】
この場合、切替弁17は、弁筐171をチャンバ19で囲まれかつチャンバ19内をパージガス供給手段22からのヘリウムガス又はアルゴンガスでパージされている。このため、切替弁17の弁筐171の、弁体172を駆動するシャフトを通している開口部より空気が混入することは皆無である。
【0039】
さらに、図1,図2に示す動作状態、すなわち、酸化管13に反応ガス(酸素)を供給する時間及びオートサンプラ11の底部にキャリアガス(ヘリウムガス)をパージガスとして供給する動作状態の時間は、僅か数秒間である。測定サイクル時間の中の残りの時間は、図3,図4に示す動作状態、すなわち、酸化管13にキャリアガス(ヘリウムガス)を供給すると共に、オートサンプラ11の底部に反応ガス(酸素)をパージガスとして供給する動作状態の時間である。したがって、オートサンプラ11の内部が空気よりも重い酸素でパージされるから、オートサンプラ11の底部と試料導入用開閉弁12の上端部との間の初期の在留空気が効果的に排出される。キャリアガス(ヘリウムガス)がパージガスとしてオートサンプラ11内に入っても、オートサンプラ11内の蓋内面に移動し、オートサンプラ11の下半部は空気よりも重い酸素が占めることになる。このため、試料導入用開閉弁12の弁体12b内を酸素が占めるから、試料導入用開閉弁12が試料Mを酸化管13に供給する際に空気を混入させてしまうことは皆無である。
〔タイムチャート〕
図5は、コントローラ21の制御出力信号のタイムチャートである。
【0040】
コントローラ21は、図5に示す第1の信号S1と第2の信号S2とを出力する。第1の信号S1は、切替弁17の空圧式ロータリアクチュエータ173を駆動する信号である。第2の信号S2は、図示しないモータドライバを介してサーボモータ11aを駆動する信号である。
〔第1の信号S1〕
コントローラ21は、元素分析のための前処理をスタートしてから待ち時間t1を経過するまでの間、第1の信号S1の出力レベルを「0」に保ち、この間、キャリアガス(He)を酸化管13に供給し、待ち時間t1の経過時点で第1の信号S1の出力レベルを「1」としこの状態をt2の時間保持する。空圧式ロータリアクチュエータ173は、第1の信号S1の出力レベルが「0」から「1」となるときに、切替弁17の弁体172を図4の状態から90度回動させ図2の状態としこの状態をt2の時間維持し、この間、反応ガス(O)を酸化管13に供給する。また空圧式ロータリアクチュエータ173は、第1の信号S1の出力レベルが「1」から「0」となるときに、弁体172を図2の状態から90度反転回動させて図4の状態に復帰させ、再びキャリアガス(He)を酸化管13に供給する。
〔第2の信号S2〕
またコントローラ21は、元素分析のための前処理をスタートしてから待ち時間t3を経過するまでの間、第2の信号S2の出力レベルを「0」に保ち、待ち時間t3の経過時点で第2の信号S2の出力レベルを「1」としこの状態をt4の時間保持する。
【0041】
t3の経過時点は、第1の信号S1の出力レベル「1」の保持時間t2の約中間時点に対応している。t4の経過時点は、酸化管13内に落下した試料が反応ガスで燃焼された後、第1の信号S1の出力レベルが「1」から「0」に替わりキャリアガスを供給開始してから所要時間が経過した時点である。
【0042】
サーボモータ11aは、第2の信号S2の出力レベルが「0」から「1」となるときに、試料導入用開閉弁12の弁体12bを180°回動させ、弁体12bに形成された凹部を上向き位置から下向きとなるように位置させ、該凹部に収容していた試料Mを酸化管13内に落下させる。またサーボモータ11aは、オートサンプラ11内の回動枠を一コマ分だけ回動し回動枠の一コマに収容していた試料を試料導入用開閉弁12の入口を通して弁体12bの上に落下させる。さらに、サーボモータ11aは、第2の信号S2の出力レベルが「1」から「0」となるときに、弁体12bをさらに180°回動させて弁体12bの上に落下した試料を上向きとなった凹部に受け入れる。
〔その他の構成部分の簡単な説明〕
反応ガス供給手段として、酸素ボンベを用いているが、試料を燃焼させるための純酸素(反応ガス)を、試料の燃焼に必要な最適量を供給できる手段であれば良い。キャリアガス供給手段として、ヘリウムガスボンベを用いているが、アルゴン(Ar)等の不活性ガスでも構わない。酸化管13は、下流部側が小径な段差を有する石英の透明な円筒管からなる。還元管14は、例えば、石英の透明な管からなり、還元剤が充填されて上流側に形成された還元部と、下流側に形成された排気部と、を有する。
【0043】
ガスクロマトグラフ3は、水分トラップを通過して導入された試料ガス(混合ガス)を分析用成分の測定ガスの成分(CO),(N)ごとに完全に分離する装置である。
【0044】
オープンスプリット4は、ガスクロマトグラフ3から送られて来た測定ガスと、キャリアガスとしてのヘリウムガス(He)と、検査基準となる標準窒素ガス(N)及び標準炭酸ガス(CO)とを交互に分析手段5に供給する装置である。
【0045】
分析手段5は、ガスクロマトグラフ3で得られた測定ガスの元素成分の安定同位体比や質量を測定して、試料M中の元素成分の分析結果を電気信号に変換してモニタ(図示せず)で表示する装置である。この分析手段5での炭素(12C,13C)と窒素(14N,15N)の安定同位体比の測定に当たっては、被測定ガス(CO),(N)の炭素・窒素安定同位体比の測定と、安定同位体比が既知の各標準ガス(CO),(N)との炭素・窒素安定同位体比の測定と、を交互に所望回数行って比較し、その偏差の平均値を算出している。
【0046】
〔その他の実施形態〕
本発明は上記の実施形態及び実施例の例示に限定されるものでなく、特許請求の範囲の技術的範囲には、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々、設計変更した形態が含まれる。
【0047】
(1)上記実施形態では、切替弁17として空圧式ロータリアクチュエータを用いたが、ソレノイドモータなどの電気駆動式や電磁駆動式のアクチュエータを用いても良い。
【0048】
(2)上記実施形態ではオートサンプラを例示したが、本発明の試料保持部材はオートサンプラに限られるものではない。
【実施例1】
【0049】
本発明者らが使用している特許文献1の元素分析用前処理装置を含む元素分析装置に係る実用装置Aと、この実用装置をベースとして改造した本発明に係る元素分析用前処理装置を含む元素分析装置の実用装置Bと、による元素分析の結果を図7に示す。
【0050】
図7は、横軸に窒素(15N)の質量(単位:マイクログラム)をとり、縦軸に窒素(15N)の、δ15N(実測値)−δ15N(真値)をとって、測定結果を表した分布グラフである。図7中、◇のマークは特許文献1の本発明に係る試験装置Aの測定結果を示し、◆のマークは本発明に係る実用装置Bの測定結果を示す。
【0051】
図7に示すように、◇のマークは試料の窒素の質量及び炭素の質量がそれぞれ100μg以上のときに偏差値0付近に集まっている。図7において、試料の窒素の質量が100μg未満のときに偏差が大きくなり、かつ大きくばらつき、測定精度が出ない。したがって、実用装置Aでは、測定精度のバラツキが少なく正確に測定できる限界が100μg付近であることを示している。
【0052】
これに対し、図7では、試料の窒素の質量が8μg〜0.1μgのときに、◆のマークが偏差値0の付近に集まって分布している。
【符号の説明】
【0053】
M 試料
1 元素分析装置
2 元素分析用前処理装置
3 ガスクロマトグラフ
4 オープンスプリット
5 分析手段
11 オートサンプラ
12 試料導入用開閉弁
13 酸化管
14 還元管
15 反応ガス供給手段
16 キャリアガス供給手段
17 切替弁
171 弁筐
172 弁体
173 空圧式ロータリアクチュエータ(アクチュエータ)
a 第1の入力ポート
b 第2の入力ポート
c 第1の出力ポート
d 第2の出力ポート
e 第1の連通ポート
f 第2の連通ポート
18 水分トラップ
19 チャンバ
22 パージガス供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部をパージガスでパージされた状態で試料を収容し上記試料を試料導入用開閉弁を通して供給する試料保持部材と、
上記試料導入用開閉弁に接続されていて、上記試料保持部材から供給された上記試料を燃焼させて試料ガスを生成し、さらに該試料ガスを酸化する酸化管と、
上記酸化管に接続されていて、上記試料ガスの中の窒素酸化物を窒素ガスに還元させる還元管と、
上記試料を燃焼させる反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
上記試料ガスを上記還元手段へ輸送するためのキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、
上記反応ガスと上記キャリアガスとを択一に上記酸化管へ供給する切替弁と、
生成したガスを分離するガスクロマトグラフと、
を備えてなる、元素分析用前処理装置において、
上記切替弁は、弁筐がチャンバの内部に備えられかつ弁体を駆動するアクチュエータがチャンバの外部に備えられ、
上記チャンバは、上記キャリアガスとは別の不活性ガスであるヘリウムガス又はアルゴンガスをパージガスとして導入され、上記切替弁から上記酸化管へ択一に供給する上記反応ガス又は上記キャリアガス中への空気の混入を遮断するように構成された、ことを特徴とする元素分析用前処理装置。
【請求項2】
内部をパージガスでパージされた状態で試料を収容し上記試料を試料導入用開閉弁を通して供給する試料保持部材と、
上記試料導入用開閉弁に接続されていて、上記試料保持部材から供給された上記試料を燃焼させて試料ガスを生成し、さらに該試料ガスを酸化する酸化管と、
上記酸化管に接続されていて、上記試料ガスの中の窒素酸化物を窒素ガスに還元させる還元管と、
上記試料を燃焼させる反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
上記試料ガスを上記還元手段へ輸送するためのキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、
上記反応ガスと上記キャリアガスとを択一に上記酸化管へ供給する切替弁と、
生成したガスを分離するガスクロマトグラフと、
を備えてなる、元素分析用前処理装置において、
上記切替弁は、弁筐がチャンバの内部に備えられかつ弁体を駆動するアクチュエータがチャンバの外部に備えられ、
上記チャンバは、上記キャリアガスとは別の不活性ガスであるヘリウムガス又はアルゴンガスをパージガスとして導入され、上記切替弁から上記酸化管へ択一に供給する上記反応ガス又は上記キャリアガス中への空気の混入を遮断するように構成され、
上記試料導入用開閉弁の上流位置に上記試料保持部材のパージガスとして、上記切替弁を介して上記反応ガス又は上記キャリアガスを切替式に導入するように構成されたことを特徴とする、元素分析用前処理装置。
【請求項3】
上記切替弁は、上記反応ガスを入力する第1の入力ポートと、上記キャリアガスを入力する第2の入力ポートと、上記試料導入用開閉弁の上流位置に接続された第1の出力ポートと、上記試料導入用開閉弁の下流位置に接続された第2の出力ポートと、を有し、
上記試料導入用開閉弁が上記試料を上記燃焼部へ供給しない状態のときは、上記第1の入力ポートと上記第1の出力ポートとを連通すると共に上記第2の入力ポートと上記第2の出力ポートとを連通し、
上記試料導入用開閉弁が上記試料を上記酸化管へ供給した状態のときには、上記第1の入力ポートと上記第2の出力ポートとを連通すると共に上記第2の入力ポートと上記第1の出力ポートとを連通するように構成されたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の元素分析用前処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の元素分析用前処理装置と、該元素分析用前処理装置に接続される分析手段と、を有することを特徴とする、元素分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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