説明

元素分析装置および元素分析方法

【課題】レーザー誘起ブレイクダウン分光法による元素分析装置及び方法で、空間分解能及び時間分解能を考慮し、高精度、効率的に分析を行う元素分析装置及び分析方法を提供する。
【解決手段】パルスレーザー光3のレーザー源ユニット50、前記パルスレーザー光3を試料7に照射しプラズマ8を発生させるレーザー光照射ユニット60、発生する蛍光9を測定用蛍光検出器20を含む蛍光測定ユニット70、前記試料7に含まれる元素の濃度の分析表示、レーザー電源2の制御用表示制御ユニット60、を備える元素分析装置で、前記レーザー光照射ユニット60は前記プラズマ8からの蛍光9のうち前記試料7表面から所定の長さ離れた計測領域から出る蛍光9を前記蛍光測定ユニット70に導く入射位置調整可能な蛍光入射スリット10を備え、前記蛍光測定ユニット70は、前記蛍光入射スリット10を透過した蛍光の特定波長のみを透過させる波長選択素子19を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含有される元素の濃度を分析する元素分析装置および元素分析方法に関し、特に、レーザー誘起ブレイクダウン分光法を用いて試料に含有される元素の濃度を高精度で分析する元素分析装置および元素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれる各種元素を検出し定量する元素分析は、多くの生産現場で用いられている。例えば鉄鋼生産ラインでは、含有する不純物元素の管理に元素分析は無くてはならない技術である。
【0003】
鉄鋼成分の分析では、まず銑鉄をサンプリングし、分析装置に合わせた形に試料を切り出す。その後、スパーク分光分析装置で含有する炭素(C)や硫黄(S)などの軽元素から重金属元素までをオフラインで分析している。このような元素分析では、サンプリングや試料の加工、その後のオフライン分析などに長時間が必要である。
【0004】
一方、鉄鋼生産や鉄鋼取り扱いの現場では、その場で短時間で構成元素の成分が分析可能な手法が求められている。
【0005】
この手法の一つとして、レーザー光を用いた新しい技術であるレーザー誘起ブレイクダウン分光法(Laser-induced Breakdown Spectroscopy;LIBS法)が開発されている。このLIBS法では、パルスレーザー光を測定試料に直接照射してプラズマを発生させる。このプラズマから発生するプラズマ光を分光し、原子固有の波長の発光を検出することによって、試料中の元素種、量が検出できる。このため、鉄鋼生産ライン等の生産現場では、近年、試料の前処理が不要で、迅速・簡便な元素分析が可能なレーザー誘起ブレイクダウン分光法が用いられている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2000−310596号公報
【特許文献2】特開2004−205266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザー誘起ブレイクダウン分光法は、元素から発せられる蛍光を測定対象としている。この蛍光発光には、空間分布および時間分布があり、分析対象元素により、発光強度の高い位置や発光強度の高い時間が異なる。発光位置に関しては1ミリメートル程度の高さの違いで、また、発光時間に関してはマイクロ秒の違いで、検出感度への影響が生ずる。このため、生成される蛍光中に含まれる元素毎の発光を詳細に測定するためには空間分解能および時間分解能を有した計測装置が必要である。
【0007】
しかしながら、従来のレーザー誘起ブレイクダウン分光法を用いた元素分析装置は、上述した空間分解能および時間分解能を考慮しておらず、精度の高い元素分析が困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、レーザー照射によって生じるプラズマから放出される蛍光強度から元素分析を行う際に、空間分解能および時間分解能を考慮することにより、高精度で、かつ、効率的に元素分析を行うことができる元素分析装置および元素分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明に係る元素分析装置は、パルスレーザー光を生成するレーザー源ユニットと、前記パルスレーザー光を試料に照射しプラズマを発生させるレーザー光照射ユニットと、前記プラズマから発生する蛍光を測定する蛍光検出器を有する蛍光測定ユニットと、前記試料に含有される元素の濃度を分析表示するとともにレーザー源を制御する表示制御ユニットと、を備える元素分析装置において、前記レーザー光照射ユニットは前記プラズマから発生する蛍光のうち前記試料の表面から所定の長さ離れた計測領域から放出される蛍光を前記蛍光測定ユニットに導く入射位置調整可能な蛍光入射スリットを備え、前記蛍光測定ユニットは、前記蛍光入射スリットを透過した蛍光の特定波長のみを透過させる波長選択素子を備えることを特徴する。
【0010】
また、本発明に係る元素分析方法は、分析対象の元素が含まれる模擬試料にパルスレーザー光を照射し、発生した蛍光の位置分布及び蛍光強度の時間的変化から計測領域と計測時間を決定するステップと、試料にパルスレーザー光を照射しプラズマを発生させるステップと、前記計測領域にあるプラズマから放出される蛍光を前記計測領域に対応して配置された蛍光入射スリットをとおして波長選択素子に導くステップと、前記波長選択素子により前記透過した蛍光のうち特定波長の蛍光のみを透過させるステップと、前記決定された計測時間に基づいて前記特定波長の蛍光の強度を計測するステップと、前記計測された蛍光の強度に基づいて分析対象とする元素の濃度を求めるステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザー誘起ブレイクダウン分光法を用いた元素分析装置およびその方法において、空間分解能および時間分解能を考慮することにより、高精度で、かつ、効率的に元素分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る元素分析装置の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る元素分析装置の全体構成図であり、図2(a)、(b)は元素分析装置主要部の縦断面図及び平面断面図である。
【0014】
本実施形態の元素分析装置は、固体の試料7に含まれる成分元素を分析する装置である。この元素分析装置は、レーザー源ユニット50、レーザー光照射ユニット60、蛍光測定ユニット70、及び表示制御ユニット80から構成される。
【0015】
レーザー源ユニット50は、レーザー発振器1、レーザー電源2、反射ミラー4及び集光レンズ5から構成される。レーザー発振器1は、例えばYAGレーザー発振器からなり、レーザー電源2に接続されている。レーザー電源2は、表示制御ユニット80を構成する計測制御用コンピュータ23、及びタイミングコントローラ25に接続されている。また、反射ミラー4および集光レンズ5は、レーザー発振器1から射出されるパルスレーザー光3が試料7の表面に集光するように配置されている。
【0016】
なお、本実施形態では、レーザー発振器1としてYAGレーザー発振器を用いているが、レーザーブレイクダウンが可能なパルスレーザーであればエキシマレーザやCO2レーザーなどを用いることができる。
【0017】
レーザー光照射ユニット60は、内部の雰囲気を所望のバッファガスに置換するためのバッファガス導入口12およびバッファガス排出口13と、分析対象をとする試料を設置する試料台14と、レーザー光照射によって発生するプラズマ8から発生する蛍光9のうち、試料7の表面から所定の距離の所定の大きさの領域で発生した蛍光のみを蛍光測定ユニット70に入射させるための入射位置調整可能な蛍光入射スリット10から構成される。
【0018】
蛍光測定ユニット70は、レーザー光照射ユニット11の蛍光入射スリット10を通過した蛍光9の光軸高さを上方に上げて観測しやすくするための反射プリズム16、蛍光9の計測位置を規定するための蛍光出射ユニット18、分析対象とする元素の特定波長のみを通過させる波長選択素子19および蛍光を電気信号に変換する蛍光検出器20から構成される。
【0019】
この蛍光測定ユニット70において、蛍光9の計測高さは、蛍光9と蛍光入射スリット10および蛍光出射スリット18の相対位置に応じて、試料7にパルスレーザー光3が照射されることにより発生したプラズマ8から発生する蛍光9のうち、試料7の表面から所定の距離の所定の大きさの領域で発生した蛍光のみを蛍光検出器20に到達させることができる。
【0020】
ここで、蛍光入射スリット10および蛍光出射スリット18で規定され、蛍光検出器20に到達する蛍光9が発生しているプラズマ8の内部の領域を計測領域91と呼び、計測領域91と試料7の表面との距離を計測高さと呼ぶ。
【0021】
タイミングコントローラ25は、パルスレーザー光3を発振するタイミング信号26を生成する。このタイミング信号26は、タイミングコントローラ25からレーザー電源2に伝達され、タイミング信号26を受信したレーザー電源2は、レーザー発振器1に電力を供給し、例えばパルスエネルギーが10mJ程度で、パルス幅5ns程度のパルスレーザー光3を発生させる。このようなパルスレーザー光3の出力は、パルス的に2MW程度となる。
【0022】
次に、本元素分析装置を用いた元素分析手法について説明する。
パルスレーザー光3が、反射ミラー4および集光レンズ5を介して試料7に集光照射されると、いわゆるブレイクダウンが生じ、試料7の表面の一部がプラズマ化する。このようにしてプラズマ8が発生すると、このプラズマ8はパルスレーザー光3の照射終了とともに再結合が始まり、数μsないし数十μsの間は照射試料の構成元素が励起状態の原子となる。この励起状態の原子は、下準位に遷移するときに原子数に比例した蛍光9を放出する。この蛍光9のうち、プラズマ8の計測領域91で発生したもののみが蛍光入射および出射スリットを通って蛍光検出器20に入射する。蛍光検出器20に入射した蛍光9は、電気信号に変換された後、計測制御用コンピュータ23に伝達される。
【0023】
また、計測制御用コンピュータ23には、タイミングコントローラ25からタイミング信号26から所定の時間遅れた蛍光測定用のゲート信号30が伝達される。このゲート信号30によって計測制御用コンピュータ23は、レーザー照射後の特定の時間帯に生成された蛍光9のみを計測する。この蛍光9を計測する特定の時間帯を計測期間と呼ぶこととする。
【0024】
プラズマ8から発生する蛍光9の発光強度は、元素ごとにプラズマ8中の位置又は試料表面からの距離によって異なる。また、蛍光9の発光強度の時間変化も元素ごとに異なる。
【0025】
例えば、鉄鋼中の炭素濃度は、鉄と炭素の成分比から求めることができる。このため、炭素からの蛍光強度および鉄からの蛍光強度がともに大きいと、鉄鋼中の炭素濃度の分析精度が高い。また、バックグラウンドのレベルは小さいほうが好ましい。
【0026】
そこで、本実施形態に係る元素分析装置を用いる際には、分析対象の試料に応じて、予め分析精度が高い計測領域を設定しておく。
すなわち、パルスレーザー光3が試料7に照射されて発生するプラズマ8から放出される蛍光9の波長ごとの強度の計測高さに対する変化に基づいて、所定の分析精度が得られる計測領域を設定する。
【0027】
例えば、分析したい成分元素を含有する模擬試料にレーザー光を照射してプラズマを発生させ、それぞれの成分元素に対応する蛍光の強度の計測高さに対する変化を計測する。この蛍光強度の計測高さに対する変化に基づいて、計測領域を設定することができる。
【0028】
また、試料にレーザー光を照射して発生したプラズマから放出される蛍光の強度の時間変化は、レーザー光の照射後、強いバックグウラウンド光が発生した後、特定元素の蛍光は時間の経過に伴って一旦上昇した後に小さくなっていく。この蛍光強度の時間変化は、蛍光を発する元素によって異なる。
【0029】
このため、バックグラウンド成分の蛍光強度が小さく、かつ、測定対象元素の蛍光強度が高い期間にプラズマから発生する蛍光を測定することにより、測定対象の濃度を精度よく分析できる。
そこで、本実施の形態の元素分析装置を用いる際には、分析対象の試料に応じて、予め分析精度が高い計測期間を設定しておく。
【0030】
このようにして設定した計測領域および計測期間において、プラズマ8から放出される蛍光9を測定する。この計測領域および計測期間における蛍光9の強度のうち、分析対象の元素に対する波長の強度を用いて、分析対象の元素の濃度を求めることができる。
【0031】
このように、パルスレーザー光3の照射後の特定の時間帯での、プラズマ8中の特定の位置における蛍光9を計測することにより、測定対象の元素から放出される蛍光を高感度、かつ、高S/N(信号対雑音比)で計測することができる。これにより、レーザー誘起ブレイクダウン分光法による元素分析の精度が向上する。
【0032】
また、反射ミラー4を用いることにより、パルスレーザー光3の進路を変化させることができるため、試料7に対するレーザー発振器1の配置の自由度が高まる。また、集光レンズ5を用いることにより、パルスレーザー光3のエネルギー密度が高まるため、プラズマ8の発生効率が向上する。
【0033】
さらに、蛍光伝送用の反射プリズム16を用いることにより蛍光検出器20に入射する蛍光9の強度を高めることができるため、蛍光9の計測精度が向上し、最終的な分析精度が高まる。なお、この反射プリズム16の代わりに反射ミラーで代用することも可能である。
【0034】
また、波長選択素子19としては特定の波長のみを透過する干渉フィルターやエタロン、等を用いることにより、測定対象の元素から放出される蛍光を高S/N(信号対雑音比)で計測することができる。なお、干渉フィルターやエタロン、等の波長選択素子を使用する場合には、入射光を平行光とすることが必要で、このために蛍光集光レンズ17を用いる。この蛍光集光レンズ17の焦点距離fはレンズとプラズマ光までの距離を選ぶことにより、プラズマ光を平行光として波長選択素子19に入射することが可能である。
【0035】
また、所望の波長選択素子を選択可能にするために、複数の波長選択素子19を選択可能に設置してもよい。例えば、図5に示すように、複数の波長選択素子19を円周上に固定したホルダに設置し回転して選択する方式や、波長選択素子を直線上に並べたホルダをスライドさせて選択する方式を用いることができる。各波長選択素子の透過波長を適宜設定することにより、順次、異なる元素の蛍光を測定することができる。
【0036】
また、試料7にパルスレーザー光3を照射して発生したプラズマ8の発光強度は試料の雰囲気ガス種によって異なる。このため、試料の測定の際には、分析対象とする元素に適したバッファガスをバッファガス導入口12から導入することにより、蛍光9の強度を高めることができる。
【0037】
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、予め設定された計測領域および計測期間においてプラズマ8から放出される蛍光9を測定することにより、測定対象の元素から放出される蛍光を高感度、かつ、高S/N比で計測することができるので、分析対象の元素の濃度を高精度で、かつ、効率よく求めることができる。
【0038】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態に係る元素分析装置のレーザー照射ユニット60と蛍光測定ユニット70の縦断面図である。
【0039】
本第2の実施形態では、第1の実施形態に係る蛍光測定ユニット70と蛍光入射スリット10を高さ方向に平行移動可能なものとしたものである。これにより、試料7にパルスレーザー光3を照射して発生したプラズマ8から放出される蛍光9のうち、所定の計測領域からの蛍光9のみを、蛍光測定器20に入射させることができる。
【0040】
本第2の実施形態によれば、蛍光測定ユニット70と蛍光入射スリット10を単に移動させることにより、所定の計測領域からの蛍光9のみを、蛍光測定器20に入射させることができるので、分析対象の元素の濃度を高精度で、かつ、効率よく求めることができる。
【0041】
[第3の実施形態]
図4(a)、(b)は、本発明の第3の実施形態に係る元素分析装置のレーザー照射ユニット60と蛍光測定ユニット70の縦断面図及び平面断面図である。
【0042】
本第3の実施形態の元素分析装置は、レーザー照射ユニット60と蛍光測定ユニット70の境界部に、両ユニットの内部を同一の雰囲気条件とするための貫通部を設けたものである。
【0043】
一般に、測定対象元素の蛍光波長が230nm程度以下となると空気の透過率が著しく減少する。これは酸素による紫外光の吸収が高いためである。このため、この領域の蛍光波長を測定しようとする場合には、できるだけ光路長を短くして、光路中の酸素を排除することが望ましい。
【0044】
本第3の実施形態では、レーザー照射ユニット60と蛍光測定ユニット70の境界部に両ユニットに連通するガス通気口32を設けて、雰囲気ガスを共通にし、酸素を含まないバッファガスをバッファガス導入口12から導入することにより、紫外波長領域の蛍光9の強度を、空気による減衰の影響を受けることなく計測することができる。
【0045】
なお、バッファガスとしては、ArやHeなどを用いることができる。
【0046】
本第3の実施形態によれば、レーザー照射ユニット60と蛍光測定ユニット70をガス通気口32によって共通の雰囲気とすることにより、測定対象の元素から放出される蛍光を高感度、かつ、高S/N比で計測することができる。
【0047】
[第4の実施形態]
図6および図7は、本発明の第4の実施形態に係る元素分析装置のレーザー照射ユニット60と蛍光測定ユニット70の縦断面図である。
【0048】
本第4の実施形態は、蛍光測定ユニット70を複数設置したことを特徴とする。図6は蛍光測定ユニット70を2台設けた例を示し、図7は蛍光測定ユニット70を3台設けた例を示す。
【0049】
追加した蛍光測定ユニット70の波長選択素子19の透過波長を別の波長に設定することにより、同時に異なる元素の蛍光を測定することができる。
【0050】
また、この際、元素によって蛍光発光が強くなる高さが異なる場合もあり、その場合は、第2の実施形態で示したように、それぞれの蛍光測定ユニット70の高さを測定対象元素に適した高さに設定すればよい。
【0051】
本第4の実施形態によれば、複数の元素の濃度を同時に計測することができるので、分析対象の元素が複数であっても、元素の濃度を高精度で、かつ、短時間で効率よく求めることができる。
【0052】
[第5の実施の形態]
図8は、本発明の第5の実施形態に係る元素分析装置の全体構成図である。
本第5の実施形態では、蛍光検出器20を蛍光測定ユニット60の外部に配置し、蛍光測定ユニット60内には蛍光伝送用光ファイバ27を設置する。これにより、蛍光9の電気信号化を蛍光測定ユニット21の外部で行うようにしたもので、蛍光9の光ファイバへの入射損失や伝送損失による減少が生じるものの、蛍光測定ユニット60には電源供給が不要となるばかりでなく、その大きさを小さくすることが可能となる。
【0053】
また、プラズマ生成用のレーザー光も光ファイバ伝送方式とすれば、レーザー照射ユニット60と蛍光測定ユニット70を遠隔から操作することが可能となる。
【0054】
本第5の実施形態によれば、蛍光検出器20を蛍光測定ユニット60の外部に配置することにより、蛍光測定ユニット60への電源供給が不要となり、また、その大きさを小さくすることが可能となるので、コンパクトな装置構成で元素の濃度を高精度で、かつ、効率よく求めることができる。
【0055】
[第6の実施の形態]
図9は、本発明の第6の実施形態に係る元素分析装置のレーザー照射ユニット60と蛍光測定ユニット70の横断面図と信号処理のブロック図を示したものである。この実施形態では、3台の蛍光測定ユニット70を用い、また、各蛍光検出器20を蛍光測定ユニット60の外部に配置する構成としている。
【0056】
この第6の実施形態において、測定対象の元素に応じて、蛍光測定対象をλ1、λ2およびλ3の波長に設定した蛍光測定器20に蛍光測定ユニット70から光ファイバ27を通過した蛍光を入射し、それぞれの蛍光時間波形29に応じて、蛍光測定のゲート幅30を設定して信号処理を行う。
【0057】
この際、信号処理器31では測定対象の元素検出のS/N比が高くなるような演算を行った後に、元素濃度の分析を行う。
この信号処理器31の演算としては、λ1、λ2およびλ3の各信号に対して、例えば、λ2波長をバックグラウンドとした信号処理を行う。
【0058】
具体的には、λ2波長をバックグラウンドとした引き算処理を行い、濃度信号=λ1−λ2を求める。
又は、λ2波長をバックグラウンドとした引き算処理を行い、濃度信号=(λ1−λ2)/(λ3−λ2)を求めることにより、基準元素濃度をλ3信号で評価を行う。
【0059】
上記の信号処理手段は一例であって、測定対象に応じた各種演算が可能である。
また、蛍光測定ユニット70も3台に限定するものではなく、2台又は4台以上設置してもよいことはもちろんである。
【0060】
本第6の実施形態によれば、異なる計測高さにおいてプラズマ8から発生した蛍光9を検出し、信号処理することにより、分析対象の元素が複数であっても、元素の濃度を高精度、高S/N比で、かつ、短時間で検出することができる。
【0061】
以上、本発明の元素分析装置および元素分析方法を、第1乃至第6の実施形態により説明したが、これらは単なる例示であり、これらに限定されるものではない。また、第1乃至第6の実施形態を適宜組み合わせてもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る元素分析装置の全体構成図。
【図2】(a)は本発明の第1の実施形態に係る元素分析装置主要部の縦断面図、(b)はその平面断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る元素分析装置の構成図。
【図4】(a)は本発明の第3の実施形態に係る元素分析装置の縦構成図、(b)はその平面断面図。
【図5】本発明に係る元素分析装置の波長選択素子を示す図。
【図6】本発明の第4の実施形態に係る元素分析装置の構成図。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る元素分析装置の構成図。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る元素分析装置の全体構成図。
【図9】本発明の第6の実施形態に係る元素分析装置の全体構成図。
【符号の説明】
【0063】
1…レーザー発振器、2…レーザー電源、3…レーザー光、4…反射ミラー、5…レーザー光集光レンズ、6…レンズホルダ、7…試料、8…プラズマ、9…蛍光、10…蛍光入射スリット、12…バッファガス導入口、13…バッファガス排出口、14…試料台、15…測定ベース、16…反射プリズム、17…蛍光集光レンズ、18…蛍光出射スリット、19…波長選択素子、20…蛍光検出器、22…蛍光信号、23…計測制御用コンピュータ、24…タイミングコントローラ制御信号、25…タイミングコントローラ、26…レーザー発振タイミング信号、27…蛍光伝送用光ファイバ、28…バックグラウンド信号、29…蛍光時間波形、30…蛍光測定ゲート幅、31…信号演算機、32…ガス通気口、50…レーザー源ユニット、60…レーザー光照射ユニット、70…蛍光測定ユニット、80…表示制御ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザー光を生成するレーザー源ユニットと、前記パルスレーザー光を試料に照射しプラズマを発生させるレーザー光照射ユニットと、前記プラズマから発生する蛍光を測定する蛍光検出器を有する蛍光測定ユニットと、前記試料に含有される元素の濃度を分析表示するとともにレーザー源を制御する表示制御ユニットと、を備える元素分析装置において、
前記レーザー光照射ユニットは前記プラズマから発生する蛍光のうち前記試料の表面から所定の長さ離れた計測領域から放出される蛍光を前記蛍光測定ユニットに導く入射位置調整可能な蛍光入射スリットを備え、
前記蛍光測定ユニットは、前記蛍光入射スリットを透過した蛍光の特定波長のみを透過させる波長選択素子を備えることを特徴する元素分析装置。
【請求項2】
前記レーザー光照射ユニットは、レーザー照射領域にバッファガスを供給排出するためのバッファガス導入口およびバッファガス排出口を備えることを特徴とする請求項1記載の元素分析装置。
【請求項3】
前記レーザー光照射ユニットと前記蛍光測定ユニットとの間に前記バッファガスを連通させるガス通気口を設けたことを特徴とする請求項2記載の元素分析装置。
【請求項4】
透過波長が異なる波長選択素子を選択可能に複数設けたことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の元素分析装置。
【請求項5】
前記レーザー光照射ユニットの周囲に複数の蛍光測定ユニットを配置し、前記レーザー光照射ユニットは各蛍光測定ユニットに対応した蛍光入射スリットを備えることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の元素分析装置。
【請求項6】
前記複数の蛍光測定ユニットに配置された各波長選択素子の透過波長がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項に記載の元素分析装置。
【請求項7】
前記蛍光測定ユニットは、前記蛍光の光路を変換するプリズムを備えるとともに、前記蛍光入射スリットを透過した蛍光の前記プリズムへの入射位置を調整可能とするために、前記レーザー光照射ユニットに対して変位可能に構成したことを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項に記載の元素分析装置。
【請求項8】
前記蛍光測定器を前記蛍光測定ユニットの外部に配置し、光ファイバにより蛍光を前記蛍光測定器に伝送すること特徴とする請求項1乃至7いずれか1項に記載の元素分析装置。
【請求項9】
分析対象の元素が含まれる模擬試料にパルスレーザー光を照射し、発生した蛍光の位置分布及び蛍光強度の時間的変化から計測領域と計測時間を決定するステップと、試料にパルスレーザー光を照射しプラズマを発生させるステップと、前記計測領域にあるプラズマから放出される蛍光を前記計測領域に対応して配置された蛍光入射スリットをとおして波長選択素子に導くステップと、前記波長選択素子により前記透過した蛍光のうち特定波長の蛍光のみを透過させるステップと、前記決定された計測時間に基づいて前記特定波長の蛍光の強度を計測するステップと、前記計測された蛍光の強度に基づいて分析対象とする元素の濃度を求めるステップと、を有することを特徴とする元素分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−19626(P2010−19626A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179081(P2008−179081)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】