説明

元素分析装置および元素分析方法

【課題】LIBS法を用いてより多くの元素を分析できるようにする。
【解決手段】元素分析装置は、試料16に照射するとプラズマが発生するパルスレーザ光3を生成するレーザ光発振器1と、レーザ光集光レンズ6により試料表面16a上で最大直径が50μm以上で200μm以下の領域内に集光可能に構成されたレーザ光集光部と、試料表面16a上の集光領域に照射するレーザ光照射部を有する。レーザ光照射部のレーザ光照射側には、内部に試料16を設置可能に構成されてレーザ光照射を受ける試料表面16aの雰囲気が気密に保持された試料配置部15が配置される。プラズマ21から発生する蛍光22のうち試料表面16aから光軸方向に所定の距離だけ離れた位置から放出される蛍光22を集光する蛍光集光部13と、蛍光集光部13で集光した蛍光22の波長およびこの波長の強度に基づいて元素含有量を定量する手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ誘起ブレイクダウン法を用いた元素分析装置およびその分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれる各種元素を検出して定量する元素分析は、多くの分野で用いられている技術である。例えば、鉄鋼の生産ラインでは、製品に含有される不純物元素を管理することは必須の工程である。
【0003】
鉄鋼成分の元素分析では、先ず銑鉄をサンプリングし、分析装置で測定可能な形状に試料を切り出す。その後に、例えばスパーク分光分析装置などによって含有する炭素(C)や硫黄(S)などの軽元素から重金属元素までを、生産ラインとは別の場所で分析している。
【0004】
また、今後、拡大が予想される水素エネルギ利用で問題となる金属材料の水素脆化の評価においても、水素(H)の迅速定量分析技術の開発が望まれている。この水素分析は、金属試料をサンプリングして分析装置に合わせた形に試料を切り出した後に高温燃焼させて、この高温燃焼によって発生するガスの成分を分析している。このような元素分析方法では、サンプリングや試料の加工、その後のオフライン分析などに多くの時間を必要とする。
【0005】
一方、鉄鋼生産や鉄鋼取り扱いの現場では、ライン上で短時間に構成元素の成分が分析可能な手法が要求されている。
【0006】
この手法の一つとして、レーザ光を用いたレーザ誘起ブレイクダウン分光法(Laser-induced Breakdown Spectroscopy;以下LIBS法と称す。)が開発されている。このLIBS法では、例えば特許文献1および特許文献2に開示されているように、パルスレーザ光を測定試料に直接照射してプラズマを発生させる。このプラズマから発生するプラズマ光を分光し、原子固有の波長の発光を検出することによって、試料中の元素の種類、元素の量等を検出できる。このため、試料の前処理が不要で、迅速且つ簡便な元素分析が可能である。
【特許文献1】特開2004−205266号公報
【特許文献2】特開2000−310596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LIBS法は、元素から発生する蛍光を測定対象としている。この蛍光には、レーザ光照射により試料表面のレーザ光照射領域の蒸発した原子が発する原子固有の発光と、雰囲気ガス中に含まれる原子の発光が含まれる。
【0008】
LIBS法では、レーザ光の集光は1枚ないし複数枚のレンズで集光し、照射領域の大きさは直径が数100μm程度であることが一般的である。したがって、発生する蛍光はこの数100μmの領域で発生する。
【0009】
一方、試料の組成が多成分系の場合、数100μm以下の微小な領域で、元素成分比が異なる場合も多い。また、水素化物のようなデンドライトは100μm以下の微小領域で形成される。このような微小領域で元素分析を行うためには、レーザ照射領域をより小さくする必要がある。
【0010】
また、分析対象とする元素によっては、雰囲気を空気以外のガス置換することも必要となる。発光するプラズマ光中の元素発光は、空間分布があり、生成するプラズマの空間位置において、分析対象元素により発光強度の高い位置が異なる。このため、生成される蛍光中に含まれる元素毎の発光を詳細に測定するためには、分析対象元素に適した蛍光計測条件を設定可能な蛍光計測装置が必要である。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、LIBS法を用いてより多くの元素を高精度に分析できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため本発明に係る元素分析装置は、試料に含有される元素濃度を分析する元素分析装置において、前記試料に照射するとプラズマが発生するレーザ光を生成するレーザ光発振装置と、前記レーザ光を伝送するレーザ光伝送部と、前記レーザ光伝送部により伝送された前記レーザ光を、レーザ光集光用レンズにより試料表面上で、最大直径が50μm以上で200μm以下の領域内に集光可能に構成されたレーザ光集光部と、前記レーザ光集光部で集光された前記レーザ光を、前記集光領域に照射するレーザ光照射部と、前記レーザ光照射部のレーザ光照射側に配置されて、内部に前記試料を設置可能に構成されて、レーザ光照射を受ける前記試料表面の雰囲気を気密に保持された試料配置部と、前記プラズマから発生する蛍光のうち前記試料表面から前記光軸方向に所定の距離だけ離れた位置から放出される蛍光を集光する蛍光集光部と、前記蛍光集光部で集光した前記蛍光の波長およびこの波長の強度に基づいて、元素含有量を定量する手段と、を有する。
【0013】
また、本発明に係る元素分析方法は、試料に含有される元素濃度を分析する元素分析方法において、パルスレーザ光が前記試料表面上で、最大直径が50μm以上で200μm以下の領域内に集光するように調整する集光領域調整工程と、前記照射領域調整工程の後に、前記集光領域に前記パルスレーザ光を照射するレーザ光照射工程と、前記プラズマ光から発生する蛍光の一部を集光する蛍光検出工程と、集光された前記蛍光の元素含有量を定量する元素分析工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、LIBS法を用いてより多くの元素を高精度に分析できるようにすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る元素分析装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
本発明に係る元素分析装置の第1の実施形態について、図1〜図5を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る第1の実施形態の元素分析装置の構成を示すブロック図である。図2は、図1の試料ユニット15および蛍光集光ユニット13の詳細を示す正面図である。図3は、図2の上面図である。図4は、試料16、蛍光集光レンズ23、および蛍光伝送用光ファイバ26の相対的な位置関係を示す概略上面図である。図5は、図2の試料ユニット15の立断面図である。
【0018】
先ず、本実施形態の元素分析装置の構成について説明する。
【0019】
本実施の形態の元素分析装置は、固体の試料16の表面(試料表面16a)に含まれる成分元素を分析する装置である。この元素分析装置は、レーザ発振器1、レーザ電源2、タイミングコントローラ31、蛍光検出器27、および計測制御用コンピュータ29を有している。
【0020】
レーザ発振器1は、例えばYAGレーザ等のパルスレーザ光3を発振する発振器である。このレーザ発振器1はレーザ電源2に接続されている。レーザ電源2は、タイミングコントローラ31に接続されている。蛍光検出器27は元素分析を行うための蛍光を検出する装置であって、計測制御用コンピュータ29を介してタイミングコントローラ31に接続されている。
【0021】
また、元素分析装置は、レーザ光照射ユニット10、試料ユニット15、蛍光集光ユニット13、およびモニタカメラ33を有している。
【0022】
レーザ光照射ユニット10は、レーザ光を反射させる反射ミラー4、光軸を調整するための光軸調整ミラー5を有する。このレーザ光照射ユニット10の一部は、筐体12に固定されており、この筐体12には、ダイクロイックミラー11、レーザ光集光レンズ6、パルスレーザ光3の集光位置を調節可能な微動ステージ34が配置されている。なお、図1では、ダイクロイックミラー11の固定方法等の図示は省略している。
【0023】
ダイクロイックミラー11は、これに入射するパルスレーザ光3の全部またはほとんどを反射して、可視光の一部を透過させる特性を有している。
【0024】
レーザ光集光レンズ6は、入射されたパルスレーザ光3を試料表面16aに集光させる機能を有している。このレーザ光集光レンズ6は、例えば光学顕微鏡などに用いられる80倍の対物レンズによって、試料表面16aのレーザ光照射領域の最大直径が約50μm程度となるように構成されている。また、50倍の対物レンズを用いるときは照射領域の最大直径は約80μmで、20倍の対物レンズを用いるときは約200μmとなるように構成されている。本実施形態では、80倍対物レンズを用いて、比較的微小な領域にパルスレーザ光3を集光させるように構成されている。なお、これら3種類の倍率の対物レンズが取付け可能であるが、これらに限らない。
【0025】
モニタカメラ33は、ダイクロイックミラー11の上方で、このダイクロイックミラー11と対向する位置に配置されている。このモニタカメラ33には、レーザ光集光レンズ6の位置を移動したときに生じる焦点位置のシフトを補正する機能などが備えられている。
【0026】
試料ユニット15は、レーザ光照射ユニット10におけるパルスレーザ光3の下流側に配置されている。図1の例ではレーザ光照射ユニット10の下方に配置されている。この試料ユニット15は、内部が気密に保たれた略直方体形状の容器で、内部には、試料16を固定可能な試料ホルダ17が配置されている。試料ホルダ17は、試料ホルダ固定台18に取り付けられている。試料ユニット15の上面には、例えば光学ガラスなどにより形成されてレーザ光を透過させるレーザ照射窓14が設けられている。
【0027】
微動ステージ34は、レーザ光集光レンズ6の焦点を試料表面16aに合わせるために、上下移動する機能を有している。
【0028】
さらに、レーザ光軸に沿った側面には、内部の雰囲気を所望のバッファガスに置換するためのバッファガス導入口19と、内部のバッファガスを排気するためのバッファガス排気口20が形成されている。図1および図2では、バッファガス導入口19およびバッファガス排気口20の開口位置等の詳細な図示は省略している。図4および図5に示すように、バッファガス導入口19は、試料ユニット15の側面に形成されて、バッファガス排気口20は、バッファガス導入口19が形成された側面に対向する側面に形成されている。
【0029】
試料ユニット15内には、バッファガスがバッファガス導入口19から供給されてバッファガス排気口20から排気されるように構成されたバッファガス流路が形成される。試料ホルダ17は、このバッファガス流路の底面に分析対象となる試料16を複数設置可能になるように配置されている。図4および図5では、3つの試料16が、バッファガスの流路に沿って配列された例を示している。
【0030】
試料ユニット15の内部雰囲気の水分を排除して試料16中の水素や酸素を検出する場合には、バッファガスとして例えばHeガスなどが用いられる。
【0031】
バッファガス導入口19と垂直な試料ユニット15の両側の側面には、レーザ光照射によって発生するレーザ生成プラズマ21の蛍光を蛍光集光ユニット13に透過させる蛍光観察窓25が形成されている。これらの蛍光観察窓25は、互いに対向するように形成されている。
【0032】
また、試料ユニット15内には、カートリッジヒータやシーズヒータ等のヒータ(図示せず)が取り付け可能に構成されている。ヒータの図示は省略しているが、このヒータは、図2に示す試料ユニット15の側面に形成されたヒータ挿入孔37から、試料ユニット15内に設置することができるように構成されている。
【0033】
蛍光集光ユニット13は、蛍光集光レンズ23、この蛍光集光レンズ23で集光された蛍光を蛍光検出器27に導光する蛍光伝送用光ファイバ26、この蛍光伝送用光ファイバ26を支持する蛍光伝送用光ファイバスリーブ24、および蛍光伝送用光ファイバスリーブ24を固定する固定スリーブ38を有する。図2〜図4では、2枚の蛍光集光レンズ23を有する例を示している。なお、図1では、1枚の蛍光集光レンズ23のみを図示し、もう1枚の蛍光集光レンズ23は省略している。
【0034】
蛍光集光ユニット13は、図2に示すように、パルスレーザ光3の光軸に対してほぼ垂直な方向(水平方向)に延びたアーム13aを有する。このアーム13aは、レーザ光集光レンズ6の外枠を取り囲むリング13bに接続されている。
【0035】
このアーム13aには、2枚の蛍光集光レンズ23をそれぞれ固定するための支柱36が配置されている。2枚の蛍光集光レンズ23は、水平方向に並んで配列されて、これらの光軸はアーム13aとほぼ平行、すなわち水平方向になるように配置されている。
【0036】
蛍光集光レンズ23を固定する支柱36は、アーム13aに沿って水平方向に移動可能に構成されている。支柱36は、水平移動させて固定する位置が定まった後に、固定ねじ35等によって固定される。
【0037】
これらの蛍光集光レンズ23は、支柱36をアーム13aに沿って水平移動させることによって、焦点を調整できるように構成されている。これらの蛍光集光レンズ23の焦点は、試料ユニット15の一方の側面に形成された蛍光観察窓25を介して試料ユニット15内部に合うように設定されている。
【0038】
試料ユニット15に遠い方の蛍光集光レンズ23と対向する位置には、蛍光集光レンズ23で集光した蛍光が入射される蛍光伝送用光ファイバ26が配置されている。上記の通り、この蛍光伝送用光ファイバ26は蛍光伝送用光ファイバスリーブ24によって支持されて、この蛍光伝送用光ファイバスリーブ24は固定スリーブ38によって固定される。固定スリーブ38は、支柱36を介して固定ねじ35などによりアーム13aに取り付けられている。
【0039】
アーム13aは、レーザ光集光レンズ6の外枠を取り囲むリング13bに接続されているため、レーザ光集光レンズ6を微動ステージ34などにより上下方向に移動させると、この上下移動に伴って蛍光集光ユニット13全体も上下移動可能に構成されている。
【0040】
この蛍光集光レンズ23は、図2に示すように、パルスレーザ光3を照射することによって生成する試料16からのレーザ生成プラズマ21の像を、蛍光伝送用光ファイバ24の入射面に任意の拡大率で結像させて、所望のプラズマ光の特定場所の光のみを蛍光検出器27へ導光する。なお、図2では、試料表面16a付近のパルスレーザ光3の図示を省略している。
【0041】
なお、この元素分析装置には、パルスレーザ光3の焦点合わせなどを補助するためのアライメント用照明器7と、このアライメント用照明器7で発生するアライメント用照明光8を試料表面16a等に照射するためのハーフミラー9を有する。
【0042】
続いて、パルスレーザ光の流れについて説明する。
【0043】
レーザ発振器1から発振されたパルスレーザ光3は、反射ミラー4および光軸調整ミラー5で反射して、レーザ光軸がほぼ水平な状態でダイクロイックミラー11に入射される。ダイクロイックミラー11は、水平に入射されたパルスレーザ光3を90度反射させて、鉛直下向き方向に光路変更させる。
【0044】
ダイクロイックミラー11で反射して鉛直下向きに光路変更されたパルスレーザ光3は、レーザ光集光用レンズ6によって、試料表面16aに集光される。
【0045】
ダイクロイックミラー11は、可視光を透過させる特性を有しているため、試料表面16aにパルスレーザ光3を照射したときに発生するレーザ生成プラズマ21のプラズマ光を透過させることができる。したがって、モニタカメラ33によって、このレーザ生成プラズマ21等を観察することができる。
【0046】
レーザ発振器1によって1つのパルスエネルギが1mJ程度で、パルス幅5ns程度のパルスレーザ光3を試料表面16aに照射させる。この場合、このパルスレーザ光3の1パルスの出力は、0.2MW程度となる。
【0047】
通常では、この程度の強度のパルスレーザ光3を試料表面16aに照射させてもレーザ生成プラズマ21は形成されない。これを、レーザ光集光レンズ6によって、照射領域を数μm〜数100μm程度の大きさに集光させると、いわゆるブレイクダウンの閾値を超えて、試料表面16aの一部がプラズマ化する。この場合、例えば80倍の対物レンズを用いることによって、照射領域の最大直径を50μm程度に設定することで、レーザ生成プラズマ21を形成させることができる。
【0048】
このようにしてレーザ生成プラズマ21が発生すると、このレーザ生成プラズマ21は、パルスレーザ光3の照射終了と共に再結合が始まり、数μs〜数十μsの間は、試料表面16aの構成元素が励起状態の原子となる。この励起状態の原子は、下準位に遷移するときに原子数に比例した蛍光22を放出する。
【0049】
この蛍光22のうち、レーザ生成プラズマ21の計測領域で発生したもののみを、蛍光集光ユニット13の蛍光集光レンズ23で集光させて、蛍光伝送用光ファイバ26を介して蛍光検出器27に入射させる。蛍光検出器27に入射した蛍光22は、蛍光22の波長およびこの波長の強度の情報を電気信号に変換される。電気信号に変換された蛍光信号28は、計測制御用コンピュータ29に伝達される。
【0050】
計測制御用コンピュータ29は、タイミングコントローラ31により出力されたタイミング信号32から、所定時間だけ遅れた蛍光測定用のゲート信号30を伝達する。これらの信号伝達によって、計測制御用コンピュータ29は、レーザ光照射後の特定の時間帯に生成された蛍光22のみを計測し、この蛍光22の元素分析を行う。
【0051】
以上の説明からわかるように、本実施形態では、試料表面16aに対して、測定対象元素を分析する領域を、最大直径が数100μm程度の微小領域になるように設定して、レーザ生成プラズマ21の蛍光22の測定領域と測定時間を最適化する。これによりパルスレーザ光3を照射した後の特定の時間帯において、レーザ生成プラズマ21中の特定位置の蛍光22を計測する。
【0052】
これにより、試料表面16aの微小領域における測定対象の元素から放出される蛍光22を高感度且つ高S/N(信号対雑音比)で計測することができ、微小領域におけるレーザ誘起ブレイクダウン分光法による元素分析が可能となる。したがって、より多くの種類の元素を高精度に分析できるようにすることが可能になる。
【0053】
試料16中の水素や酸素の成分を高精度に分析する場合には、空気中に存在する水分の影響を排除する必要がある。本実施形態の元素分析装置によれば、バッファガスをバッファガス導入口19から試料ユニット15内に供給し続けて、バッファガス排気口20から排気することにより、試料ユニット15内をバッファガスに置換することができる。試料16が設置された雰囲気をバッファガスで置換することによって、空気中に存在する水分などの影響を排除することが可能になる。
【0054】
一般に、空気中におかれた試料表面16aには水分が多く吸着しており、この水分が測定の大きな妨げとなる。本実施形態によれば、試料16へのレーザ照射を行う前に、試料ユニット15内に配置されたヒータによって、試料ユニット15内および試料表面16aに付着した水分除去することができる。このヒータによって、水分等の影響を低減することが可能となり、より高精度に試料中の元素分析が可能となる。
【0055】
また、本実施形態の元素分析装置によれば、蛍光集光レンズ23から遠い方に形成された蛍光観察窓25によって、パルスレーザ光3を試料表面16aに照射している状況を目視確認(モニタリング)することができる。一方の蛍光観察窓25でモニタリングしながら、蛍光集光レンズ23に近い側のもう一方の蛍光観察窓25を介して蛍光集光レンズ23へ集光することができる。
【0056】
これにより、パルスレーザ光3の照射状態を容易に確認することができる。
【0057】
レーザ光照射ユニット10において、パルスレーザ光3を試料表面16aへ照射する位置と、この位置で発生する蛍光22との相関評価が重要となる。本実施形態によれば、レーザ光集光レンズ6に光学顕微鏡で用いる光学系(対物レンズ)を用いているため、レーザ光集光レンズ6を光学顕微鏡として用いることもできる。よって、このレーザ光集光レンズ6により、試料表面16aの分析対象となる位置を予め容易に設定することができる。
【0058】
また、モニタカメラ33によって、試料表面16aへのパルスレーザ光3を照射している状況をモニタリングできる。このモニタカメラ33により、試料表面16aの分析対象となる位置を予め設定することも可能である。
【0059】
これらの手法により、試料表面16a上の設定した位置にパルスレーザ光3を照射する照準を容易に合わせることができる。設定した位置に照準を合わせてパルスレーザ光3を照射して、元素分析を行う。測定後においても、光学顕微鏡またはモニタカメラ33によって試料表面16aの照射領域の状態を再度確認することが可能となる。
【0060】
レーザ光照射ユニット10において、パルスレーザ光3の集光位置および蛍光計測のレーザ光軸方向の高さ位置を厳密に調整し設定する必要がある。また、試料表面16aの元素分布のマッピングには、試料表面16aの正確な位置を把握することが重要となる。本実施形態では、微動ステージ34によって、測定試料の正確な位置を設定することが可能である。
【0061】
本実施形態では、レーザ光集光レンズ6の外枠に、蛍光集光ユニット13のリング13bが取り付けられている。このため、レーザ光集光レンズ6の焦点を合わせるために、試料ユニット15を微動ステージ34により上下移動した場合においても、レーザ光集光レンズ6と蛍光集光ユニット13との空間的な相対位置が保持される。これにより、蛍光22を高感度に検出可能な位置を保持することが可能になる。
【0062】
[第2の実施形態]
本発明に係る元素分析装置の第2の実施形態について、図6および図7を用いて説明する。図6は、本実施形態の元素分析装置の構成の一部を示す正面図である。図7は、図6の上面図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0063】
本実施形態では、蛍光集光レンズ23(図1〜図4)を介さずに、蛍光を直接、蛍光伝送用光ファイバ26に入射するように構成されている。分析対象の元素によっては、蛍光集光レンズ23を用いなくても、蛍光伝送用光ファイバ26に入射できるものもある。
【0064】
これにより、元素分析装置をより簡素化し、より効率的に分析することが可能になる。
【0065】
[第3の実施形態]
本発明に係る元素分析装置の第3の実施形態について、図8を用いて説明する。図8は、本発明に係る第3の実施形態の元素分析装置の構成を示すブロック図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0066】
本実施形態では、レーザ発振器1で発生させたパルスレーザ光3は、光ファイバ入射光学系39を介してレーザ光伝送用光ファイバ41に入射される。このレーザ光伝送用光ファイバ41を介してパルスレーザ光3はコリメータレンズ40に入射される。コリメータレンズ40を透過したパルスレーザ光3は、ダイクロイックミラー11で反射されて、第1の実施形態と同様に、試料表面16aに照射される。
【0067】
これにより、レーザ発振器1の持ち込みが困難な場所にある分析対象に対しても、その場での元素分析を行うことが可能となる。
【0068】
[その他の実施形態]
上記の実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成はこれらの実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0069】
上記の第1〜第3の実施形態では、レーザ発振器1にはYAGレーザ発振器が適用されているが、これに限らない。レーザブレイクダウンが可能なパルスレーザであれば、例えばエキシマレーザやCOレーザなどを用いることもできる。
【0070】
また、第1〜第3の実施形態の特徴を組み合わせることも可能である。例えば第2の実施形態の元素分析装置に、第3の実施形態の特徴である光ファイバを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の元素分析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の試料ユニットおよび蛍光集光ユニットの詳細を示す正面図である。
【図3】図2の上面図である。
【図4】図1の試料、蛍光集光レンズ、および蛍光伝送用光ファイバの相対的な位置関係を示す概略上面図である。
【図5】図2の試料ユニットの概略立断面図である。
【図6】本発明に係る第2の実施形態の元素分析装置の構成の一部を示す正面図である。
【図7】図6の上面図である。
【図8】本発明に係る第3の実施形態の元素分析装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0072】
1…レーザ発振器、2…レーザ電源、3…パルスレーザ光、4…反射ミラー、5…光軸調整ミラー、6…レーザ光集光レンズ、7…アライメント用照明器、8…アライメント用照明光、9…ハーフミラー、10…レーザ光照射ユニット、11…ダイクロイックミラー、12…筐体、13…蛍光集光ユニット、13a…アーム、13b…リング、14…レーザ照射窓、15…試料ユニット、16…試料、16a…試料表面、17…試料ホルダ、18…試料ホルダ固定台、19…バッファガス導入口、20…バッファガス排出口、21…レーザ生成プラズマ、22…蛍光、23…蛍光集光レンズ、24…蛍光伝送用光ファイバスリーブ、25…蛍光観察窓、26…蛍光伝送用光ファイバ、27…蛍光検出器、28…蛍光信号、29…計測制御用コンピュータ、30…ゲート信号、31…タイミングコントローラ、32…タイミング信号、33…モニタカメラ、34…微動ステージ、35…固定ねじ、36…支柱、37…ヒータ挿入孔、38…固定スリーブ、39…光ファイバ入射光学系、40…コリメータレンズ、41…レーザ光伝送用光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含有される元素濃度を分析する元素分析装置において、
前記試料に照射するとプラズマが発生するレーザ光を生成するレーザ光発振装置と、
前記レーザ光を伝送するレーザ光伝送部と、
前記レーザ光伝送部により伝送された前記レーザ光を、レーザ光集光用レンズにより試料表面上で、最大直径が50μm以上で200μm以下の領域内に集光可能に構成されたレーザ光集光部と、
前記レーザ光集光部で集光された前記レーザ光を、前記集光領域に照射するレーザ光照射部と、
前記レーザ光照射部のレーザ光照射側に配置されて、内部に前記試料を設置可能に構成されて、レーザ光照射を受ける前記試料表面の雰囲気を気密に保持された試料配置部と、
前記プラズマから発生する蛍光のうち前記試料表面から前記光軸方向に所定の距離だけ離れた位置から放出される蛍光を集光する蛍光集光部と、
前記蛍光集光部で集光した前記蛍光の波長およびこの波長の強度に基づいて、元素含有量を定量する手段と、
を有することを特徴とする元素分析装置。
【請求項2】
前記試料配置部は、
前記試料配置部内の雰囲気を置換するためのバッファガスを供給するバッファガス供給口と、
前記試料配置部内の前記バッファガスを排出するバッファガス排出口と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の元素分析装置。
【請求項3】
前記試料配置部は、前記プラズマを前記光軸方向に交わる方向から視認可能なプラズマ観測窓が形成されていること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の元素分析装置。
【請求項4】
前記試料配置部は、前記試料配置部内を加熱して前記試料に付着した水分を除去するためのヒータが取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項5】
前記レーザ光集光用レンズを介して前記試料表面を観察可能に構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項6】
前記試料表面が前記光軸方向に沿って移動可能に構成された試料移動機構を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項7】
前記レーザ光の光路と交わるように配置されて、所定の波長帯を反射させて可視光の一部を透過するダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーに対して前記試料と反対側に配置されたモニタ用カメラと、
を有し、
前記モニタ用カメラによって、前記試料表面およびプラズマを視認可能に構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項8】
前記蛍光集光部および前記レーザ光用集光レンズを互いに固定して、前記蛍光を集光する位置と、前記レーザ光集光位置との相対位置が所定の距離を保持するように固定したことを特徴する請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項9】
前記蛍光集光部には、複数の蛍光集光用レンズが配置されて、
前記プラズマの像を前記蛍光分光用光ファイバの入射面に、前記蛍光集光用レンズにより所定の拡大率で結像させて、所定の領域の蛍光のみを前記蛍光分光用光ファイバに導光することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項10】
前記レーザ伝送部は、光ファイバにより前記レーザ光を伝送するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項11】
試料に含有される元素濃度を分析する元素分析方法において、
パルスレーザ光が前記試料表面上で、最大直径が50μm以上で200μm以下の領域内に集光するように調整する集光領域調整工程と、
前記照射領域調整工程の後に、前記集光領域に前記パルスレーザ光を照射するレーザ光照射工程と、
前記プラズマ光から発生する蛍光の一部を集光する蛍光検出工程と、
集光された前記蛍光の元素含有量を定量する元素分析工程と、
を有することを特徴とする元素分析方法。
【請求項12】
前記レーザ光を集光するためのレーザ光集光用レンズで、前記試料表面を観察する試料表面観察工程を有することを特徴とする請求項11に記載の元素分析方法。
【請求項13】
前記元素分析工程および試料表面観察工程を並行して行うことを特徴とする請求項12に記載の元素分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−38560(P2010−38560A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198343(P2008−198343)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】