説明

充填ノズルおよび施工方法

【課題】 固定部材を母材に固定するための孔が、横方向や上方向に穿孔されたものであっても、孔内に空気だまりを生じることなく粘性接着剤を密充填することができ、かつ施工の手間を著しく軽減できる充填ノズル等を提供する。
【解決手段】 粘性接着剤を母材表面に穿たれた孔内に充填するためのノズルであって、硬質でパイプ形状の本体部と、前記本体部外側面の前記出口近傍に設けられたフランジ部とからなり、前記本体部は前記粘性接着剤の入り口を一端にかつ出口を他端に有しており、前記フランジ部は前記本体部に固定されており、前記フランジ部の外周は前記孔の内側面の全周に密着可能であることを特徴とする充填ノズル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物や岩盤の表面に穿孔し、孔内に粘性接着剤を充填して、孔内に挿入されたアンカーボルト等を固定化するに際し、粘性接着剤を充填するためのノズル等に関し、具体的には穿孔された孔内に粘性接着剤を密充填するための充填ノズルおよびそれを用いた施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物や岩盤等の母材に対して、それらの表面にドリル等を用いて穿孔し、その孔内に粘性接着剤を充填してからアンカーボルト等の固定部材を挿入し、固定部材を母材に固着する施工方法が一般に行われている。
【0003】
孔内に接着剤を充填する方法の一つとして、孔内に接着剤充填用の細いノズルまたはパイプを孔の底(孔の開口部から一番離れた奥の部分)近くまで挿入し、このノズル等を通して接着剤を孔内に送り込んで充填する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。接着剤の充填が終了すると、固定部材が孔に挿入されて接着剤を硬化させることで、固定部材が母材に固定化される。この方法では、孔が鉛直下向き方向に穿孔された場合には、自然に接着剤を孔内に密充填することができる。
【0004】
しかし、孔が横向き(水平向き)や上向きに穿孔されたものである場合は、孔の底近くに空気が残存しやすく、接着剤が密充填されにくいという問題点があった。孔内にこのような空気だまりが生じると固定部材の固定化後の強度が低下するうえ、空気だまりが生じているかどうかを外部から判断することも困難である。
【0005】
そこで、空気だまりの発生を防止するために次のごとき接着剤の充填方法が知られている。孔が横向きである場合で説明すると、まず孔内に固定部材を挿入し、粘土のように粘性の高い硬化性の樹脂シール材を用いて孔の入り口を封鎖すると共に固定部材を孔に対して仮固定する。その際、固定部材の下側で固定部材と孔の内側面との間に、接着剤注入用の軟質プラスチック製などのパイプを、パイプの一方の口が孔の底近くに達するように、他の口がシール材を貫通して孔の開口部の外側に達するようにして設けておく。さらに固定部材の上側でシール材を貫通する程度の長さの空気抜き用の同様なパイプを設けておく。しかるのち下側のパイプから接着剤を孔内に充填していくと、孔内の空気は接着剤の充填圧力により順次上側のパイプから押し出され、最終的に孔内には空気だまりが生じない(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
しかし、この方法では、孔内に空気だまりは生じにくいものの、充填作業にかなりの手間と時間を要する。また、パイプが孔内に設けられた状態のまま接着剤が固化するから、孔ごとにパイプを使い捨てせざるを得ない。さらに、接着剤が固化したあとに外部に残った部分のパイプを切断除去する手間を要する。
【特許文献1】2002−338818号公報
【非特許文献1】「接着の技術」誌、Vol.14、No.3(1994)、通巻36号、54頁〜59頁(特に58頁の図5.22参照)、日本接着学会刊
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固定部材を固定する孔が横方向や上方向に穿孔されたものであっても、孔内に空気だまりを生じることなく粘性接着剤を密充填することができ、かつ施工の手間を著しく軽減できる充填ノズル、またはそれを用いた施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1は、粘性接着剤を母材表面に穿たれた孔内に充填するためのノズルであって、硬質でパイプ形状の本体部と、前記本体部外側面の前記出口近傍に設けられたフランジ部とからなり、前記本体部は前記粘性接着剤の入り口を一端にかつ出口を他端に有しており、前記フランジ部は前記本体部に固定されており、前記フランジ部の外周は前記孔の内側面の全周に密着可能であることを特徴とする充填ノズルである。
【0009】
ここで、前記フランジ部が、前記本体部に着脱自在に固定されていることは好ましい。また、前記フランジ部が、前記本体部と一体成形されていることは好ましい。また、前記フランジ部が、弾性を有するテープ状物を渦巻き状に貼り重ねて形成されたものであることは好ましい。また、前記粘性接着剤が2液型接着剤で、前記出口は一つで前記入り口は二つあり、前記本体部内の前記入り口近傍にスタティックミキサーが設けられていることは好ましい。
【0010】
発明の第2は、母材表面に一定方向の孔を穿ち、前記フランジ部のフランジ形状が、前記孔の前記一定方向に対して略直角方向断面の形状にほぼ合致する請求項1から5のいずれかに記載の充填ノズルを、前記充填ノズルの前記出口を前記孔に向けて前記孔内に前記出口が前記孔の底にほぼ達するまで挿入し、次いで、一定量の前記粘性接着剤を前記入り口から前記本体部内を介して前記孔内に圧入し、しかるのち、前記充填ノズルを前記孔から引き抜くことを特徴とする施工方法である。
【発明の効果】
【0011】
固定部材を固定する孔が横向きや上向きに穿孔されたものであっても、孔内に空気だまりが生じにくく粘性接着剤を密充填することができる。また、施工が簡便で手間が著しく軽減されるうえ、孔内にパイプ等が残存することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図面を参照しながら説明する。まず図1は、コンクリート構造物や岩盤等の母材の表面に、ドリルなどで一定方向に向けて穿たれた孔の中に、エポキシ系接着剤などの高粘性の接着剤を密充填するための充填ノズルの一例を示した模式図である。図1(1)は正面図、(2)は側面図である。なお、孔の有する一定方向とは、孔の開口部から底へ向けた方向を言い、例えば、ドリルを用いて穿孔する場合はドリルの刃の回転軸の方向を言う。
【0013】
充填ノズルは、硬質でパイプ形状の本体部を有しており、この本体部の内部を通って粘性接着剤が孔の底に充填される。本体部の一端には、粘性接着剤を本体部内部に導入するための入り口が設けられており、他端には、本体部内部から粘性接着剤を吐出するための出口が設けられている。図1の充填ノズル1の例では、本体部10には、一カ所の出口14と、二カ所の入り口12、13が設けられている。入り口が二カ所設けられているのは、使用する粘性接着剤として主剤と硬化剤とからなる二液混合型の接着剤を用いることを前提としているからである。なお、二カ所の入り口は、後述する接着剤の各タンクと嵌め込みにより接合できるようになっている。また、二液型の接着剤を用いるため、本体部10内部には、入り口12と13から別個に注入された主剤と硬化剤とを、本体部内部を移動中に均一に混合するためのスタティックミキサー11が設けられている。
【0014】
本体部は硬質であり、孔内に充填ノズルを押し込んだり、引き抜いたりする際の力にたえる必要がある。後で詳述するが、充填ノズルを穴内に押し込み際には、フランジ部で孔が封鎖されることにより孔内に発生する残存空気の圧力に抗してフランジ部を押し込む力に耐える必要がある。また、引き抜きの際には、フランジ部を穴内から確実に引き抜けるだけの引っ張り強度を有していることが必要である。本体部の材質は硬質で粘性接着剤と化学反応したり接着剤の溶剤に溶解したりしないものであれば良く特に限定されないが、例えば、金属や硬質プラスチックを用いて成形されているのが好ましい。ノズル内部の液状態の視認性が良いことから透明な硬質プラスチックであることがより好ましく、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。中でもポリプロピレン樹脂を用いるのが好ましい。
【0015】
充填ノズルの粘性接着剤の出口近傍には、孔に充填ノズルを挿入した場合に、孔の一定方向に対して蓋となるフランジ部が設けられている。このフランジ部は、本体部の外側面に設けられて、本体部の軸方向(孔の一定方向に同じ)に対して略直角をなしている。フランジ部のフランジ面形状(軸方向から見た形状)は、孔の一定方向から見た断面の形状と寸法に同じ形状でほぼ同じ寸法である。これは、孔内に粘性接着剤を充填する際に、粘性接着剤をフランジと孔底面との間の空間に閉じこめながら充填することで、孔内に空気だまりが生じないようにするためである。
【0016】
フランジ部は、本体部の粘性接着剤の出口近傍に設けられている。これは、充填ノズルを孔内に押し込んだ際に、孔の底面とフランジ面との間の空間をできるだけ小さくして、この空間内に残存する空気量を少なくするためである。従って、フランジ部は出口と面一になるように設けられていても良い。
【0017】
同様に、充填ノズルを孔内に押し込んだ際に、孔の底面の形状に沿って若干変形して残存空気を減少させる機能と、孔の内側面にフランジの外周全体が十分密着して、孔の内側面とフランジ外周の隙間から粘性接着剤が漏れないようにする機能とを発揮するため、フランジ部は、ある程度の弾性または可撓性を有していることを要する。それぞれの孔形状と寸法に対応して若干の変型が可能で、しかも粘性接着剤の漏れが生じない程度の密着性が維持できればよい。したがって、ある程度の弾性があるのが好ましい。また、フランジ部の大きさは、孔の断面に比してちょうど同じか若しくはわずかに大きめとするのがよい。このようにすることで、前記フランジ部の外周の全体が、孔の内側面の全周に密着可能となる。
【0018】
なお、密着とは、粘性接着剤が孔の内側面とフランジとの隙間から漏れない程度に接していることを言うが、この隙間から空気は漏れることが望ましい。通常、ドリルなどで穿孔された孔の内側面は、1ミリ弱程度の高さの微細な凹凸を有しており、この凹凸の部分から空気が抜けることが可能である。
【0019】
フランジ部は、ある程度の弾性または可撓性と、押し込みの際に空気の圧力に抗するだけの強度を有し、さらに粘性接着剤の溶剤に侵されないことが必要である。そのため、フランジ部の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニルなどの比較的硬質の樹脂を薄手に加工して可撓性を持たせたものを使用できるし、低発泡倍率のポリウレタン発泡体のごとく、ある程度の強度と弾性を合わせ持つものを使用することもできる。さらには段ボール紙を一枚で、または複数枚を積層して用いることも可能である。さらには、ポリウレタン発泡体を基材にした比較的厚手のテープを、本体部に渦巻き状に貼り重ねるようにして巻いても良い。いずれにせよ、所定の強度を有したうえで、粘性接着剤がフランジ部と孔側面の隙間から漏れない一方、空気は漏れるように密着できればよい。
【0020】
図1の例では、前記フランジ部20のフランジ面の中央に本体部の出口14が設けられ(図1(1))、フランジ面は本体部の軸方向に略直角となるようになっている(図1(2))。フランジ部20は、出口14の近傍に設けられており、さらに本体部10に対し、フランジ受け15とナット25により着脱自在に固定されている。この具体的な構造を図2を用いて説明する。図2は、充填ノズルからフランジ部20を取り外した状態の断面の一部を拡大して示した図である。本体部10の出口14の近傍には、出口側から順番に、ネジ部19、フランジ固定部18、段差部15が設けられている。段差部15は、フランジ部20の穴21がフランジ固定部18にはめ込まれた場合に、フランジ部20の軸方向の位置を面17で固定する。また、ネジ部9は、ナット25の雌ねじと噛み合って、フランジ部20を段差部15と挟むことで、本体部10に対するフランジ部20の軸方向位置を固定する。
【0021】
これで、孔内に充填ノズルを挿入する際や引き抜く際に、本体部10と一緒にフランジ部20を軸方向に動かすことが可能になる。また、種々の径のドリルで穿孔された直径が異なる孔に対して、対応する径のフランジ部を各種用意し、それぞれに応じたフランジ部を適宜選択して使用することも可能となる。
【0022】
図3は、充填ノズル1を、接着剤容器を内蔵したディスペンサー30に装着した状態を示した模式図である。接着剤容器は主剤容器42と硬化剤容器40の2本で一組のカートリッジとなっている。充填ノズル1の2本の入り口は、それぞれが主剤容器42と硬化剤容器40に接続されている。2本の接着剤容器の充填ノズル1が接続された側の反対側は、ピストン41、43となって可動であり、ハンドル31を図中のA方向に押し込むと、ハンドル31に接続された2本のロッド32、33によってピストン41、43が容器内に押し込まれ、容器内の主剤と硬化剤とが一緒に充填ノズル1内に押し出されるようになっている。充填ノズル1内では、スタティックミキサー11によって主剤と硬化剤とが均一に混合され、ノズル出口14から接着剤が吐出されることになる。
【0023】
用いられる粘性接着剤としては、固定部材の母材への固定に使用される通常の接着剤を使用すればよいが、特にフランジ部と孔の内側面との隙間から接着剤が漏れにくくするためには、充填する際の粘度が、25℃でB型粘度計(ローターNo.7)を用いて測定した場合に、30〜100Pa・Sであることが望ましい。また、接着剤の充填後に固定部材を挿入しやすくするためには、チキソトロピー性が4〜10であることが好ましい。ここで、チキソトロピー性は、B型粘度計(ローターNo.7)を用いて25℃の温度条件で、2rpmで測定した粘度の測定値を20rpmで測定した粘度の測定値で除して求めた。このような粘性接着剤は一液型のものでも良いし、主剤と硬化剤とからなる二液混合型であっても良いが、耐久性の観点から二液型を用いるのが望ましい。具体的には、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリウレタン系樹脂を用いた接着剤を用いるのが望ましい。
【0024】
次に、このような充填ノズルを用いて、コンクリート構造物や岩盤などの母材に、アンカーボルトや異形棒鋼等の固定部材を固定化するための施工方法について、図4を用いて説明する。図4は、コンクリートの鉛直表面に、水平方向にドリルで穿たれた孔に、充填ノズルを用いて接着剤を充填する工程を示した断面図(1)〜(5)からなる。まず、図4(1)で示した孔50は、あらかじめドリルで穿孔されて、その内側面51がブラシなどで清掃されている。孔50の直径は特に限定されないが、8mm以上70mm以下とするのが好ましい。この範囲で空気だまりのない接着剤の充填が可能で、かつ固定部材の確実な固定が可能になる。より好ましくは12mm以上60mm以下である。なお、孔が鉛直上向きに穿孔されたものである場合は、さらに50mm以下とするのがよい。この範囲で充填された粘性接着剤が垂れにくく、確実な固定が可能となる。
【0025】
孔50の穿孔方向から見た形状は円形であるから、フランジ部も軸方向からみた形状が円形のものとする。さらに、その孔50の直径52にほぼ直径が同じか、またはわずかに大きい直径のフランジ部20を有する充填ノズル1を選択する。このようなフランジ部を選択することで、フランジ部が孔に対して蓋として機能する。なお、本体部の直径は6mm以上20mm以下の範囲内とするのが望ましい。この範囲でノズルに必要な強度が確保され、かつ粘性接着剤の充填にも支障が生じないからである。なお、孔の穿孔方向から見た形状が円形に限定されないことは言うまでもなく、例えば、四角形状であってもよい。その場合は、孔に合わせた四角形状のフランジ部を用意すればよい。
【0026】
次に、この充填ノズル1をディスペンサー(図示していない)に装着して、フランジ部を先頭にして孔内に挿入する(図中B方向)。その際、孔内の空気が圧縮されて押し込み抵抗になるが、空気は、この圧力でフランジ部と孔内側面との隙間から少しずつ漏れていく。フランジ部が孔の底に達した状態になるまで押し込むと、孔内の空気はほとんど孔底とフランジに挟まれた空間から漏れ出て押し込み抵抗も消滅する。フランジ部が十分押し込まれると、フランジ部は孔底の形状に合わせて若干変型し、充填ノズルの出口14が孔の底に達する状態となる(図4(2))。
【0027】
この状態で、ディスペンサーを操作して主剤61と硬化剤60とを充填ノズル内に圧入し、充填ノズル内のスタティックミキサーにより均一に混合された粘性接着剤をノズル出口から孔内に充填する。図4(3)は充填途中の状態を示した図である。粘性接着剤62が孔内に充填されていくと、その充填圧力によりフランジ部20が図中C方向に押し戻される。
【0028】
充填された粘性接着剤の量が、孔の大きさ及び固定部材の大きさからあらかじめ計算された必要な粘性接着剤の量に達した段階で充填が終了する。すると、本体部を図中D方向に引っ張り、フランジ部を接着剤充填部分63から引き離す。その際、接着剤充填部分63は、チキソトロピー性によって充填時の形を維持したままとなる(図4(4))。このとき、大気圧がフランジ部にかかって抵抗となるが、そのまま孔から充填ノズルを引き抜く。すると、粘性接着剤が空気だまりを生じることなく、孔内に充填された状態が得られる(図4(5)。最後に、固定部材を孔内に挿入し、一定時間保持して固定化させればよい。
【0029】
このように、特定の充填ノズルを用いることで、空気だまりのない状態で粘性接着剤を充填することが簡単に行える。その際、孔の中に残存するパイプなども無く、作業も単純で手間がかからない。また、充填ノズルは、一日の作業を行っている間中、繰り返して使用できるから、必要な材料も最小限にとどめることができる。
【0030】
次に、充填ノズルの図1以外の他の例について説明する。図5は、フランジ部73が、本体部70と一体成形されている充填ノズル2の例である。この場合、孔の径に合わせてフランジ部73を交換選択することはできないが、代わりに孔径に合わせた充填ノズル2を複数種用意しておき、孔径に合わせて選択すればよい。
【0031】
また、図6は、充填ノズルのさらに他の例を示した図である。図6では、フランジ部が、ある程度の厚みと弾性を有する基材を用いた接着テープ90から形成されている。具体的には、本体部80のフランジ部を設けるべき部分に、そのような接着テープを巻きつけ、そのまま渦巻き状に張り重ねることによりフランジ部を形成する。このようにすると、フランジ部は接着テープの接着力により本体部に固定される。フランジ部に必要な弾性も兼ね備えるようになる。接着テープを貼り重ねる回数は、接着テープの厚みと孔の径を比較して適宜定めればよい。また、接着テープの幅は、5mm以上50mm以下とするのがよい。この範囲でフランジ部に必要な強度を満たすと共に、資源の無駄遣いを防止することができる。より好ましくは10mm以上30mm以下である。
【0032】
なお、このようにすると、フランジ部の外側に接着テープの端部91が残る。つまり、接着テープの厚み分の段差をフランジ部の外周に生じることになる。この段差は高くとも10mm以下とするのがよい。この範囲であれば、孔内に充填ノズルを挿入した段階で段差部分が適切につぶされるため、段差部分から粘性接着剤が漏れだし難い。従って、接着テープの厚みが10mm以下とするのがよい。より好ましくは5mm以下である。また、厚みは2mm以上とするのがよい。この程度の厚みがあると、フランジ部を形成する際に必要な接着テープの長さが短くて済み、フランジ部形成の作業量も少なくて済む。また、適度な弾性を得やすくなる。接着テープの基材は特に限定されないが、厚みと弾性を満たす観点から、例えば、発泡ポリウレタン等の発泡プラスチック類が例示される。
【0033】
このようなフランジ部の形成に用いることができる接着テープとしては、上記した性質を満たすものであれば特に制限されないが、例えば、セメダイン社製の商品名「戸当たりテープ」(厚さ4mm幅15mm長さ4mのもの)を例示することができる。
【0034】
このような接着テープを用いたフランジ部及び、それを有する充填ノズルは、その形成に若干の手間を要するものの、孔の径に合わせたフランジ部を作業現場で直ちに得ることが可能であるうえ、微調整も容易で好ましい。
【実施例1】
【0035】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂40部、ビスフェノールF型樹脂20部、反応性希釈剤としてフェニルグリシジルエーテル 10部、充填材として炭酸カルシウム15部、珪石粉8部、酸化チタン4部、揺変化剤として、アエロジル200(平均一次粒子径 12nm) 3部を、100分間混合、撹拌し、モルタル状の主剤樹脂を調整した。また、硬化剤成分として、変性脂肪族ポリアミン60部、炭酸カルシウム27部、珪石粉10部、アエロジル200(平均一次粒径 12nm)3部を50分間混合、攪拌し、モルタル状の硬化剤を調製した。これらを主剤/硬化剤=2/1で混合して粘性接着剤とした直後の粘度は60Pa・Sであり、また、チキソトロピー性は、5であった。次に、ミックスパック社製の 2:1の400cc用カートリッジに、上記で用意した主剤と硬化剤をそれぞれ充填し封止しカートリッジを作成した。
【0036】
図6に示したようにして、本体部のミキシングノズル(旭化成ジオテック社製、商品名「MX−EA5」、外直径10mmのもの)の先端部分に、面一になるように幅15mm、厚さ4mmの発泡プラスティックテープ(セメダイン社製、商品名「戸当たりテープ」)を、外直径が約28mmとなるように渦巻き状に巻きつけてフランジ部を形成し、充填ノズルとした。
【0037】
次に、サイズが500mm×500mm×1000mm、圧縮強度210Kg/cm2のコンクリートブロックを用意し、これを試験母材とした。これに、穿孔直径28mm、穿孔長180mmの孔を横向きにドリルで穿孔し、続いてブロワーとナイロンブラシとを用いて孔内側面を清掃して、試験孔を用意した。
【0038】
続いて、上記で得た充填ノズルを用い、上記のカートリッジと充填ノズルとを装着したディスペンサーを用い、図4に記載したのと同様の工程を経て、試験孔の底に接着剤樹脂を注入した。注入開始後、注入の圧力に従ってディスペンサーを手前に引くようにした。充填終了後、直径22mm長さ230mmのアンカーボルトを孔内に180mm挿入し、まる一日放置して固定化させた。アンカーボルトの固定強度を測定したところ、167kNであり、予定通りの十分な強度を示した。
【0039】
その後、アンカーボルトの中心軸を含む断面で、試験母材を切断して空気だまりの有無を確認したが、空気だまりは全く観察されず、良好な充填状態であったことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】充填ノズルの一例を示した模式図である。
【図2】充填ノズル1の先端部分の構造を示した断面図である。
【図3】充填ノズルをディスペンサーに装着した状態を示した模式図である。
【図4】孔に粘性接着剤を充填する工程を示した一連の図である。
【図5】充填ノズルの他の例を示した模式図である
【図6】充填ノズルのさらに他の例を示した模式図である
【符号の説明】
【0041】
1、2、3 充填ノズル
10、70、80 本体部
11、71、81 スタティックミキサー
12、13 入り口
14、72、82 出口
15 段差部
16 接着剤通り道
17 面
18 フランジ部固定部分
19 ネジ部
20、73 フランジ部
21 取り付け穴
22 取り付け穴内側面
25 ナット
26 ナット穴
27 ネジ溝
30 ディスペーサー
31 ハンドル
32、33 ロッド
40 硬化剤容器
41、43 ピストン
42 主剤容器
50 孔
51 孔内側面
52 孔直径
60 硬化剤
61 主剤
62 粘性接着剤
63 充填完了した粘性接着剤
90 接着テープ
91 テープ端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性接着剤を母材表面に穿たれた孔内に充填するためのノズルであって、硬質でパイプ形状の本体部と、前記本体部外側面の前記出口近傍に設けられたフランジ部とからなり、前記本体部は前記粘性接着剤の入り口を一端にかつ出口を他端に有しており、前記フランジ部は前記本体部に固定されており、前記フランジ部の外周は前記孔の内側面の全周に密着可能であることを特徴とする充填ノズル。
【請求項2】
前記フランジ部が、前記本体部に着脱自在に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の充填ノズル。
【請求項3】
前記フランジ部が、前記本体部と一体成形されていることを特徴とする請求項1に記載の充填ノズル。
【請求項4】
前記フランジ部が、弾性を有するテープ状物を渦巻き状に貼り重ねて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の充填ノズル。
【請求項5】
前記粘性接着剤が2液型接着剤で、前記出口は一つで前記入り口は二つあり、前記本体部内の前記入り口近傍にスタティックミキサーが設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の充填ノズル。
【請求項6】
母材表面に一定方向の孔を穿ち、前記フランジ部のフランジ形状が、前記孔の前記一定方向に対して略直角方向断面の形状にほぼ合致する請求項1から5のいずれかに記載の充填ノズルを、前記充填ノズルの前記出口を前記孔に向けて前記孔内に前記出口が前記孔の底にほぼ達するまで挿入し、次いで、一定量の前記粘性接着剤を前記入り口から前記本体部内を介して前記孔内に圧入し、しかるのち、前記充填ノズルを前記孔から引き抜くことを特徴とする施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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