説明

光カプラ及びその製造方法

【課題】光損失が少なく、同一信号の異なる出力端でのパワーの差異が少ないカプラ。
【解決手段】ハーフミラーHM−a、b、cがいずれもp波(Ap、Bp、Cp)を100%透過し、s波(As、Bs、Cs)を100%反射する場合、In−aから入力されたs波AsはOut−cに達するまで、減衰は無い。In−aから入力されたp波ApはOut−bに達する迄、減衰は無い(2.A)。In−aとOut−c間はIn−aとOut−b間より長いので、光硬化性樹脂から成るコアを伝送する間の損失についてはIn−aとOut−c間損失の方はIn−aとOut−b間損失よりも大きい。同一入力の異なる出力端でのパワーのバランスを取るため、ハーフミラーHM−bでは85%が透過してOut−bに達することとする。残りの15%は、ハーフミラーHM−bで反射され、損失となる(2.D)。これによりOut−bとOut−cのパワーの差が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信に用いる光カプラに関する。本発明において光カプラとは、任意の光入力端から入力された信号を、減衰量は異なるにしても全ての光出力端に分配して出力するものを言うものとする。この際、光入力端と光出力端に対となるものがある場合は、当該対となる光入力端から入力された信号は、それと対となる光出力端には出力されないことが好ましいが、出力されることがあっても良いものとする。
【背景技術】
【0002】
家庭内、若しくは、自動車、電車、航空機、船舶などの輸送機器内で構築されているLAN技術に、光通信技術を適用する試みが多数展開されている。ここにおいて、任意の光入力端から入力された信号を、低減衰量で他の全ての光出力端に分配して出力する光カプラが求められている。光カプラについては、例えば非特許文献1(富士ゼロックス社のホームページ参照)に簡明な説明がある他、特許文献5が参考になる。
一方、本願出願人らは、光硬化性樹脂液に、光ファイバ等から当該樹脂液の硬化光を照射すると、硬化樹脂による集光が生じることで、長尺の軸状のコアを形成する、自己形成光導波路を多数開発し、出願している。下記特許文献1乃至4はその一部である。
【特許文献1】特許第4011283号
【特許文献2】特開2002−365459
【特許文献3】特開2004−149579
【特許文献4】特開2005−347441
【特許文献5】特開2001−154046
【非特許文献1】富士ゼロックス テクニカルレポート 1996 No.11
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光カプラの製造方法としては、通常、ガラスファイバの融着によるものが広く知られている。しかしガラスファイバを融着させるための装置自体が高価である。また、製造工程が複雑で長時間を要する。結果、ガラスファイバの融着による光カプラは極めてコストの高いものであった。さらに、ガラスファイバの融着による光カプラは、小規模光LANで用いられるプラスチック光ファイバ(POF)との接続が容易でない。
また、プラスチック光ファイバ(POF)を用いた光カプラも知られている。しかし、これはプラスチック光ファイバ(POF)を言わば束ねただけのものであり、大きさも例えば7cm程度と、光LANを形成する装置としては大きなものしか知られてない。
一方、本発明者らは上記特許文献1乃至4に示した、自己形成光導波路の応用として光カプラを開発すべく鋭意努力した結果、以下に示す新規な光カプラを完成した。尚、本発明の光カプラは構造が新規であって、特に上記自己形成光導波路の製造方法を適用することで容易に製造可能なものである。
本発明は特に、挿入損失の低減を目的とする。更には、同一入力からの、異なる出力端での出力パワーの差異の低減をも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に係る発明は、第1、第2及び第3の光入力端と、第1、第2及び第3の光出力端と、第1、第2及び第3のハーフミラーと、それらを光導波路で接続した光カプラであって、
光導波路は全て、その光軸が1つの共通平面内に配置するように設計され、
第1、第2及び第3のハーフミラーは全て、共通平面に対して垂直に配置され、
第i(i=1,2,3)の光入力端と第iの光出力端は第iのハーフミラーの反射面に対して互いに反対側に位置し、
第i(i=1,2,3)の光入力端から入力された光が光導波路を通って第i+1(i=3の時は第1、以下同じ)の光出力端に達する際には第iのハーフミラーと第i+1のハーフミラーを透過するものであり、
第iの光入力端から入力された光が光導波路を通って第i−1(i=1の時は第3、以下同じ)の光出力端に達する際には第iのハーフミラーと第i−1のハーフミラーで反射されるものであり、
第1、第2及び第3のハーフミラーのうち、少なくとも2つは、p波の透過率が90%以上でs波の反射率が90%以上であり、残りの1つは、p波の透過率が60%以上でs波の反射率が60%以上であることを特徴とする。
【0005】
請求項2に係る発明は、第1、第2及び第3のハーフミラーのうち、少なくとも2つは、p波の透過率が95%以上でs波の反射率が95%以上であることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、第1及び第3のハーフミラー間の光路長が、第1及び第2のハーフミラー間の光路長並びに第2及び第3のハーフミラー間の光路長より長く、第2のハーフミラーのp波の透過率が90%未満でs波の反射率が90%未満であることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、第1及び第3のハーフミラー間の光路に、全反射ミラーが配置されていることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、第1、第2及び第3のハーフミラーと全反射ミラーは、共通平面内の正方形の4頂点に配置されており、第1、第2及び第3のハーフミラーの反射面は正方形の4つの内角の二等分線を含む面として、全反射ミラーの反射面は残りの1つの内角の二等分線に垂直な面として配置され、光導波路は、その光軸が、正方形の4辺と、それらを各々延長した直線上に形成されていることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、光導波路は、光硬化性樹脂の硬化物から成ることを特徴とする。
【0006】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の光カプラの製造方法において、液状の未硬化の光硬化性樹脂に、当該光硬化性樹脂を硬化させうる光を照射することで光導波路を自己集光的に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の特徴は、ハーフミラーを3枚用い、3つの光入力端と3つの光出力端を光導波路コアで接続する際に、光導波路の光軸を1つの共通平面内に配置し、ハーフミラーをその共通平面に垂直とする、即ち、入射面を共通として、各ハーフミラーがs波とp波を完全に又は少なくとも部分的に分離可能とすることである。
例えば、ハーフミラーが全てs波の100%とp波の0%を反射し、p波の100%とs波の0%を透過するものであれば、1つの入力端から入射した信号光は、2枚のハーフミラーを通過してもs波の100%とp波の100%、即ち元の信号光の50%ずつが、他の2つの出力端に達する。
次に、1枚目のハーフミラーがs波の90%とp波の10%を反射するものであり、2枚目のハーフミラーがs波の70%とp波の30%を反射するものであれば、s波の63%とp波の3%、合わせて元の信号光の33%が到達する。
同じく、1枚目のハーフミラーがs波の10%とp波の90%を透過するものであり、2枚目のハーフミラーがs波の30%とp波の70%を透過するものであれば、s波の3%とp波の63%、合わせて元の信号光の33%が到達する。
このように、本発明においては、2枚のハーフミラーがいずれも偏光特性の無い50%透過、50%反射の場合の到達率25%と比較して、到達効率が格段に改善される。
【0008】
本発明に係るカプラの、光入力端、光出力端及びハーフミラー、並びにそれらを接続する光導波路の配置は任意であり、例えば正三角形の3頂点にハーフミラーを配置することも可能である。例えば全反射ミラーを配置させることで、光カプラの設計の自由度を大きくできる。全反射ミラーを3枚用いて、全反射ミラーとハーフミラーを正六角形の頂点に交互に配置させることも可能である。
しかし、各光入力端及び光出力端と最も近いハーフミラーまでの光導波路や、ハーフミラー間の光導波路の光路長は完全に同一とはしがたい。或いは、試作段階で、光導波路の製造方法に依存する理由、例えば双方向の光軸の不一致等により、各光導波路のハーフミラーとの接続部その他での損失が、6通りの光入力端と光出力端の組み合わせにより異なってしまう。
そこで、ハーフミラーの1つを、当該損失の調整用に用いると良い。即ち、全てのハーフミラーをs波の100%とp波の0%を反射し、p波の100%とs波の0%を透過するものとした場合に伝送損失が小さい伝送路の伝送損失を大きくして、他の伝送路とのバランスをとると良い。
この手法を用いれば、例えば全反射ミラーを配置させることで、光カプラの光導波路の設計の自由度を大きくできる。例えば全反射ミラー1個とハーフミラー3個を正方形の4頂点に配置し、全反射ミラーと対角に配置されるハーフミラーの伝送損失を大きくすると良い。これにより、全反射ミラーを介する光路長が当該正方形の1辺分だけ長くなることによる損失、及び全反射ミラーでの反射の際の損失とにより伝送損失が大きくなることとのバランスをとることができる。即ち、同一入力端からの信号を2つの出力端から得るときに、それら2つの出力端で得られる光信号のパワーの差異を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、少なくとも2つのハーフミラーはs波を全反射し、p波を全透過することが理想である。しかし、どの様な場合でも損失を0にはできないこと、或いはフィルタ作製上の現実性を考慮して、s波の90%以上とp波の10%未満を反射し、p波の90%以上とs波の10%未満を透過するものとする。更にはs波の95%以上とp波の5%未満を反射し、p波の95%以上とs波の5%未満を透過するものとすれば十分である。より好ましくは、s波の97%以上とp波の3%未満を反射し、p波の97%以上とs波の3%未満を透過するものが良い。
【0010】
また、以下で示す実施例のように、正方形の4頂点に3つのハーフミラーと1つの全反射ミラーを配置し、当該正方形の4辺の延長上に3つの光入力端と光出力端とを配置させ、全反射ミラーと対角の位置のハーフミラーで伝送損失を調整することができる。この場合は、当該ハーフミラーの特性はs波の60%以上とp波の40%未満を反射し、p波の60%以上とs波の40%未満を透過するものとする。より好ましくはs波の80%以上90%未満とp波の10%以上20%未満を反射し、p波の80%以上90%未満とs波の10%以上20%未満を透過するものが良い。p波の透過率やs波の反射率が下がりすぎると、最終的に得られる光出力が小さくなる。p波の透過率やs波の反射率の下限は、形成しようとする光カプラの挿入損失特性により、60%〜90%の間で調整すると良い。
【0011】
本発明の実施に用いるハーフミラーとミラーは、入手可能な任意の材料、任意の部材により形成できる。尚、以下の説明で容易に理解できる通り、ハーフミラーの厚さは薄い方が、理想的には平面が好ましい。誘電体多層膜により形成する際、当該誘電体多層膜の厚さも薄い方が好ましいが、下記に述べる自己形成光導波路を用いる場合は、透明基板であるガラス基板等自体も極力薄いものを用いることが好ましい。
また、本発明の本質部分ではないが、光カプラに外部から光ファイバ等の外部光導波路を接続する必要があるので、光カプラには当該接続構造が設けられるべきである。当該接続構造は、コネクタ又はコネクタレセプタクルとして使用可能な任意のものを選択できる。
【0012】
本発明の光カプラの光導波路を自己形成光導波路とする場合、上記特許文献1乃至4に示された様々な手法を用いることができる。尚、コアのみを形成して、クラッドを形成しない、即ちコア周囲の空気をクラッドとした光カプラとしても良い。
自己形成光導波路を形成するための光硬化性樹脂液は、入手可能な任意のものを適用できる。硬化機構も、ラジカル重合、カチオン重合其の他任意である。硬化光は一般的にはレーザ光が好ましい。レーザの波長と強度で、光硬化性樹脂液の硬化速度を調整すると良い。尚、光硬化開始剤(光重合開始剤)は光硬化性樹脂液とレーザの波長に応じ、入手可能な任意のものを適用できる。これらについては、本願出願人が共願人である例えば特許文献3に次のものが列挙されている。
【0013】
構造単位中にフェニル基等の芳香族環を一つ以上含んだものが高屈折率、脂肪族系のみからなる場合は低屈折率となる。屈折率を下げるために構造単位中の水素の一部をフッ素に置換したものであっても良い。
脂肪族系としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコール。
芳香族系としてはビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、ビスフェノールF、ノボラック、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、p-アルキルフェノールノボラック等の各種フェノール化合物等。
これら、あるいはこれらから任意に1種乃至複数種選択された多価アルコールのオリゴマー(ポリエーテル)の構造を有する比較的低分子(分子量3000程度以下)骨格に、反応基として次の官能基等を導入したもの。
〔ラジカル重合性材料〕
ラジカル重合可能なアクリロイル基等のエチレン性不飽和反応性基を構造単位中に1個以上、好ましくは2個以上有する光重合性モノマー及び/又はオリゴマー。エチレン性不飽和反応性基を有するものの例としては、(メタ)アクリル酸エステル、イタコン酸エステル、マレイン酸エステル等の共役酸エステルを挙げることができる。
〔カチオン重合性材料〕
カチオン重合可能なオキシラン環(エポキシド)、オキセタン環等の反応性エーテル構造を構造単位中に1個以上、好ましくは2個以上有する、光重合性のモノマー及び/又はオリゴマー。オキシラン環(エポキシド)としては、オキシラニル基の他、3,4-エポキシシクロヘキシル基なども含まれる。またオキセタン環とは、4員環構造のエーテルである。
【0014】
〔ラジカル重合開始剤〕
ラジカル重合性モノマー及び/又はオリゴマーから成るラジカル重合性材料の重合反応を光によって活性化する化合物である。具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン類、アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン及びN,N-ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類、2-メチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン及び2-アミルアントラキノン等のアントラキノン類、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン及び2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール類、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4'-ジクロロベンゾフェノン、4,4'-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン及び4-ベンゾイル-4'-メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン類、並びに2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。尚、ラジカル重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を併用しても良く、また、これらに限定されることはない。
〔カチオン重合開始剤〕
カチオン重合性モノマー及び/又はオリゴマーから成るカチオン重合性材料の重合反応を光によって活性化する化合物である。具体例としては、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレニウム塩、ピリジニウム塩、フェロセニウム塩、ホスホニウム塩、チオピリニウム塩が挙げられるが、熱的に比較的安定であるジフェニルヨードニウム、ジトリルヨードニウム、フェニル(p-アニシル)ヨードニウム、ビス(p-t-ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウムなどの芳香族ヨードニウム塩、ジフェニルスルホニウム、ジトリルスルホニウム、フェニル(p-アニシル)スルホニウム、ビス(p-t-ブチルフェニル)スルホニウム、ビス(p-クロロフェニル)スルホニウムなどの芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩光重合開始剤が好ましい。芳香族ヨードニウム塩および芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩光重合開始剤を使用する場合、アニオンとしてはBF4-、AsF6-、SbF6-、PF6-、B(C6F5)4-などが挙げられる。尚、カチオン重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を併用しても良く、また、これらに限定されることはない。
【0015】
〔配置図による伝送経路の説明〕
図1.Aは特に請求項5に係る発明について、第1、第2及び第3の光入力端In−a、In−b及びIn−cと、第1、第2及び第3の光出力端Out−a、Out−b及びOut−cと、第1、第2及び第3のハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−cと、全反射ミラーMを、正方形ABCDを入射面として配置した構成を示す配置図である。図1.Aにおいては、第1、第2及び第3のハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−cと、全反射ミラーMを太線で、第1、第2及び第3の光入力端In−a、In−b及びIn−cからの入射光の光路と第1、第2及び第3の光出力端Out−a、Out−b及びOut−cへの出射光の光路を単方向矢印で、第1、第2及び第3のハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−cと、全反射ミラーM間の光路を双方向矢印で示した。
【0016】
図1.Aの配置図が請求項5に係る発明の特徴を備えていることを示す。
既に述べたほか、単方向矢印と双方向矢印の光路には光導波路のコアが形成されるべきである。また、全ての光路(単方向矢印と双方向矢印)は正方形ABCDと同一の共通平面内に位置している。即ち、図1.Aは入射面内の各入射光の反射及び透過を示している。
また、第1、第2及び第3のハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−cは、正方形ABCDの3つの頂点A、B及びCの内角の二等分線を含み、正方形ABCD(入射面)に垂直に形成されている。また、全反射ミラーMは、正方形ABCDの残りの頂点Dの内角の二等分線に垂直に形成されている。
正方形ABCDの辺ABの、頂点A側の延長上に第1の光入力端In−aが、また頂点B側の延長上に第2の光出力端Out−bが配置されている。
正方形ABCDの辺BCの、頂点B側の延長上に第2の光入力端In−bが、また頂点C側の延長上に第3の光出力端Out−cが配置されている。
正方形ABCDの辺CDの、頂点C側の延長上に第3の光入力端In−cが配置されている。
正方形ABCDの辺DAの、頂点A側の延長上に第1の光出力端Out−aが配置されている。
【0017】
第1の光入力端In−aからハーフミラーHM−aの点Aに向けて入射した光は、その透過光が、第2のハーフミラーHM−bの点Bに向けて伝送され、且つ当該ハーフミラーHM−bを透過して第2の光出力端Out−bに達する。
第1の光入力端In−aからハーフミラーHM−aの点Aに向けて入射した光は、その反射光が、全反射ミラーの点Dに向けて伝送され、点Dで反射されて第3のハーフミラーHM−cの点Cに向けて伝送され、且つ当該ハーフミラーHM−cで反射して第3の光出力端Out−cに達する。
第2の光入力端In−bからハーフミラーHM−bの点Bに向けて入射した光は、その透過光が、第3のハーフミラーHM−cの点Cに向けて伝送され、且つ当該ハーフミラーHM−cを透過して第3の光出力端Out−cに達する。
第2の光入力端In−bからハーフミラーHM−bの点Bに向けて入射した光は、その反射光が、第1のハーフミラーHM−aの点Aに向けて伝送され、且つ当該ハーフミラーHM−aで反射して第1の光出力端Out−aに達する。
第3の光入力端In−cからハーフミラーHM−cの点Cに向けて入射した光は、その透過光が、全反射ミラーの点Dに向けて伝送され、点Dで反射されて第1のハーフミラーHM−aの点Aに向けて伝送され、且つ当該ハーフミラーHM−aを透過して第1の光出力端Out−aに達する。
第3の光入力端In−cからハーフミラーHM−cの点Cに向けて入射した光は、その反射光が、第2のハーフミラーHM−bの点Bに向けて伝送され、且つ当該ハーフミラーHM−bで反射して第2の光出力端Out−bに達する。
【0018】
尚、正方形ABCDの4頂点にハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−cと、全反射ミラーMを配置した場合、図1.Bのように光入力端In−a、In−b及びIn−cと、光出力端Out−a、Out−b及びOut−cを配置することも可能である。
即ち、正方形ABCDの辺ABの、頂点A側の延長上に光出力端Out−aが、また頂点B側の延長上に光入力端In−bが配置されている。
正方形ABCDの辺BCの、頂点B側の延長上に光出力端Out−bが、また頂点C側の延長上に光入力端In−cが配置されている。
正方形ABCDの辺CDの、頂点C側の延長上に光出力端Out−cが配置されている。
正方形ABCDの辺DAの、頂点A側の延長上に光入力端In−aが配置されている。
図1.Bの配置は、明らかに、図1.Aの配置を直線BDに対して線対称に配置したものと実体として一致する。図1.Bの配置においては、「第1」が添え字cを有する光入力端、光出力端、ハーフミラーであり、「第3」が添え字aを有する光入力端、光出力端、ハーフミラーである。結局、図1.Bの配置も請求項5に係る発明の特徴を備える。
正方形ABCDの4頂点にハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−cと、全反射ミラーMを配置した場合、光入力端と光出力端の他の配置は、光カプラとして機能しない。
【0019】
次に、図1.Aの配置でハーフミラーHM−bがs波とp波を完全に分離する場合と、s波とp波を完全には分離しない場合の伝送経路を示す。ハーフミラーHM−a及びHM−cは、s波を100%反射し、p波を100%透過するものとして説明する。
ここで、図1.Aの配置でハーフミラーHM−bがs波とp波を完全には分離しない場合が請求項5に係る発明に相当する。
以下、光入力端In−aから入力されたs波Asとp波Ap、光入力端In−bから入力されたs波Bsとp波Bp、光入力端In−cから入力されたs波Csとp波Cpとがどの様に伝送するかを示す。
【0020】
図2.A、図2.B及び図2.Cは、図1.Aの配置でハーフミラーHM−bがs波とp波を完全に分離する場合の伝送経路を示す平面図である。即ち、ハーフミラーHM−a及びHM−cと同様に、ハーフミラーHM−bはs波を100%反射し、p波を100%透過するものとして説明する。
図2.Aのように、光入力端In−aから入力されたs波Asは、ハーフミラーHM−aで反射され、全反射ミラーMで反射され、ハーフミラーHM−cで反射されて光出力端Out−cに達する。この間、透過及び反射による減衰は一切無い。
また、光入力端In−aから入力されたp波Apは、ハーフミラーHM−aを透過し、ハーフミラーHM−bも透過して光出力端Out−bに達する。この間、透過及び反射による減衰は一切無い。
図2.Bのように、光入力端In−bから入力されたs波Bsは、ハーフミラーHM−bで反射され、ハーフミラーHM−aで反射されて光出力端Out−aに達する。この間、透過及び反射による減衰は一切無い。
また、光入力端In−bから入力されたp波Bpは、ハーフミラーHM−bを透過し、ハーフミラーHM−cも透過して光出力端Out−cに達する。この間、透過及び反射による減衰は一切無い。
図2.Cのように、光入力端In−cから入力されたs波Csは、ハーフミラーHM−cで反射され、ハーフミラーHM−bで反射されて光出力端Out−bに達する。この間、透過及び反射による減衰は一切無い。
また、光入力端In−cから入力されたp波Cpは、ハーフミラーHM−cを透過し、全反射ミラーMで反射され、ハーフミラーHM−aも透過して光出力端Out−aに達する。この間、透過及び反射による減衰は一切無い。
【0021】
一方、図2.D、図2.E及び図2.Fは、図1.Aの配置でハーフミラーHM−bがs波とp波を完全には分離しない場合の伝送経路を示す平面図である。例えば、ハーフミラーHM−bはs波を85%反射し15%透過し、p波を85%透過し15%反射するものとして説明する。
図2.Dのように、光入力端In−aから入力されたs波Asは、ハーフミラーHM−aで反射され、全反射ミラーMで反射され、ハーフミラーHM−cで反射されて光出力端Out−cに達する。この間、透過及び反射による減衰は一切無い。
また、光入力端In−aから入力されたp波Apは、ハーフミラーHM−aを透過し、ハーフミラーHM−bでは85%が透過して光出力端Out−bに達する。残りの15%は、ハーフミラーHM−bで反射され、損失となる。
図2.Eのように、光入力端In−bから入力されたs波Bsは、ハーフミラーHM−bで85%が反射され、ハーフミラーHM−aで反射されて光出力端Out−aに達する。この際、s波Bsは、ハーフミラーHM−bを15%が透過し、ハーフミラーHM−cで反射されて、損失となる。
また、光入力端In−bから入力されたp波Bpは、ハーフミラーHM−bを85%が透過し、ハーフミラーHM−cも透過して光出力端Out−cに達する。この際、p波Bpは、ハーフミラーHM−bで15%が反射され、ハーフミラーHM−aを透過して、損失となる。
図2.Cのように、光入力端In−cから入力されたs波Csは、ハーフミラーHM−cで反射され、ハーフミラーHM−bで85%が反射されて光出力端Out−bに達する。残りの15%は、ハーフミラーHM−bを透過し、損失となる。
また、光入力端In−cから入力されたp波Cpは、ハーフミラーHM−cを透過し、全反射ミラーMで反射され、ハーフミラーHM−aも透過して光出力端Out−aに達する。この間、透過及び反射による減衰は一切無い。
【実施例】
【0022】
上記図1.A及び図2.D、図2.E、図2.Fで説明した、請求項5に係る発明の具体的な一実施例として、光カプラ100を形成した。図3は光カプラ100の写真図である。図3の光カプラ100においては、3つの光入力端In−a、In−b及びIn−c、3つの光出力端Out−a、Out−b及びOut−c、ハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−c、並びに全反射ミラーMを繋ぐ光導波路は、筐体内にハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−c、並びに全反射ミラーMを配置したのち、未硬化の液状の光硬化性樹脂を充填して3つの光入力端In−a、In−b及びIn−c、3つの光出力端Out−a、Out−b及びOut−cから当該光硬化性樹脂を硬化しうる波長の硬化光を導入して、特許文献1乃至4その他公知の方法により形成された。尚、光導波路コア(Core)の各光入力端及び光出力端には、光ファイバのコアが直接接続している。
【0023】
ハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−cの、波長650nmの信号光に対する透過及び反射特性の設計値を表1に示す。
【表1】

【0024】
また、表1の設計値に基づき作製した、ハーフミラーHM−a及びHM−cの透過特性の実測データを図4に、ハーフミラーHM−bの透過特性の実測データを図5に示す。
図4の特性図のように、ハーフミラーHM−a及びHM−cは、波長620〜680nmの光の、p波(入射面内方向に電界)の透過率Tpは97%以上であり、s波(入射面に垂直方向に電界)の透過率Tsは1%未満である。即ち、ハーフミラーHM−a及びHM−cは、波長620〜680nmの光の、p波(入射面内方向に電界)の反射率は3%未満であり、s波(入射面に垂直方向に電界)の反射率は99%以上である。特に、波長650nmにおいては、p波の透過率は約98%であって反射率は2%未満、s波の透過率はほぼ0%であって反射率はほぼ100%である。
尚、p波、s波ともに透過率は波長に依存し、その透過率は上記波長範囲以外では大きく異なる。また、図4では全光束に対する平均透過率Tmeanも示した。
【0025】
また、図5の特性図のように、ハーフミラーHM−bは、波長470〜680nmの範囲で、p波(入射面内方向に電界)の透過率Tpは80〜82%、s波(入射面に垂直方向に電界)の透過率Tsは14〜15%である。尚、波長範囲を400〜750nmに広げても、透過率は各々5%大きくなる波長があるほか、極めてプラトーである。
また、図5では全光束に対する平均透過率Tmeanも示した。
【0026】
図4の透過特性を有するハーフミラーHM−a及びHM−c、並びに図5の透過特性を有するハーフミラーHM−bを用いた図3の写真図の光カプラ100の挿入損失を測定した。これを表2に示す。尚、図3の写真図の光カプラ100の、ハーフミラーHM−a、HM−b及びHM−cを、全て、偏光分離特性の低い、反射率50%透過率50%のハーフミラーに置き換えた光カプラ900を形成し、同様に挿入損失を測定し、表2に比較例として示した。
【表2】

【0027】
比較例において、いずれの光入力端In−a、In−b、In−cにおいても、出力すべき各々2つの光出力端における挿入損失の差(ポート間差)は1.3〜1.9dBと大きかった。即ち、同一信号の、異なる光出力端でのパワーが大きく異なってしまった。また、6つの伝送経路のうち、挿入損失が8dB以上の経路が4つあった。
一方、本実施例によれば、光入力端In−a、In−b及びIn−cから出力すべき各々2つの光出力端における挿入損失の差(ポート間差)は全て1dB未満となり、ポート間差を小さくすることができた。即ち、同一信号の異なる光出力端でのパワーが大きくは異ならなかった。また、6つの伝送経路のうち、挿入損失が8dBを越えるものは無くなり、6つの伝送経路のうち5つで挿入損失が減少した。
このように、本実施例は、図4及び図5の特性を有するハーフミラーを用いることで、各伝送経路の挿入損失を十分に低減することができ、且つ、各光入力端ごとに、各々の2つの光出力端への伝送損失の差を低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の光カプラは、光通信回線の本線に挿入することで、分岐を形成できるものである。2線双方向光LANに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の構成を示す、光入力端、光出力端、ハーフミラー、全反射ミラーと光路を示す2つの配置図。
【図2】本発明における光伝送経路を示す、6つの平面図。
【図3】本発明の具体的な一実施例に係る光カプラ100の写真図。
【図4】光カプラ100のハーフミラーHM−a及びHM−cの、可視光付近でのp波の透過率Tpとs波の透過率Tsを示す特性図。
【図5】光カプラ100のハーフミラーHM−bの、可視光付近でのp波の透過率Tpとs波の透過率Tsを示す特性図。
【符号の説明】
【0030】
100:光カプラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2及び第3の光入力端と、
第1、第2及び第3の光出力端と、
第1、第2及び第3のハーフミラーと、
それらを光導波路で接続した光カプラであって、
前記光導波路は全て、その光軸が1つの共通平面内に配置するように設計され、
前記第1、第2及び第3のハーフミラーは全て、前記共通平面に対して垂直に配置され、
前記第i(i=1,2,3)の光入力端と前記第iの光出力端は前記第iのハーフミラーの反射面に対して互いに反対側に位置し、
前記第i(i=1,2,3)の光入力端から入力された光が前記光導波路を通って前記第i+1(i=3の時は第1、以下同じ)の光出力端に達する際には前記第iのハーフミラーと前記第i+1のハーフミラーを透過するものであり、
前記第iの光入力端から入力された光が前記光導波路を通って前記第i−1(i=1の時は第3、以下同じ)の光出力端に達する際には前記第iのハーフミラーと前記第i−1のハーフミラーで反射されるものであり、
前記第1、第2及び第3のハーフミラーのうち、少なくとも2つは、p波の透過率が90%以上でs波の反射率が90%以上であり、残りの1つは、p波の透過率が60%以上でs波の反射率が60%以上であることを特徴とする光カプラ。
【請求項2】
前記第1、第2及び第3のハーフミラーのうち、少なくとも2つは、p波の透過率が95%以上でs波の反射率が95%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光カプラ。
【請求項3】
前記第1及び前記第3のハーフミラー間の光路長が、前記第1及び前記第2のハーフミラー間の光路長並びに前記第2及び前記第3のハーフミラー間の光路長より長く、前記第2のハーフミラーのp波の透過率が90%未満でs波の反射率が90%未満であることを特徴とする請求項2に記載の光カプラ。
【請求項4】
前記第1及び前記第3のハーフミラー間の光路に、全反射ミラーが配置されていることを特徴とする請求項3に記載の光カプラ。
【請求項5】
前記第1、第2及び第3のハーフミラーと前記全反射ミラーは、前記共通平面内の正方形の4頂点に配置されており、前記第1、第2及び第3のハーフミラーの反射面は各々、前記正方形の3つの内角の二等分線を含む面として、前記全反射ミラーの反射面は残りの1つの内角の二等分線に垂直な面として配置され、
前記光導波路は、その光軸が、前記正方形の4辺と、それらを各々延長した直線上に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の光カプラ。
【請求項6】
前記光導波路は、光硬化性樹脂の硬化物から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の光カプラ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の光カプラの製造方法において、
液状の未硬化の光硬化性樹脂に、当該光硬化性樹脂を硬化させうる光を照射することで前記光導波路を自己集光的に形成することを特徴とする光カプラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−8665(P2010−8665A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167252(P2008−167252)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】