説明

光コネクタ部材

【課題】簡易な接続構造で高精度にフェルールとスリーブを接続可能な光コネクタ部材を提供する。
【解決手段】光コネクタ部材1は、異なる光ファイバケーブル6の端部にそれぞれ設けられるフェルール2を2つと、これらのフェルール2を円筒内径面3cで同軸に突き合わせて嵌合保持する円筒状のスリーブ3とからなり、スリーブ内径面の軸方向の一部に、フェルール2と非接触の部分であるスリーブ内径側ヌスミ部3aを有し、フェルール2において素線挿入孔2cを構成する内径面の軸方向の一部に、フェルール内径側ヌスミ部2aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力側の光ファイバケーブルの端部に設けられるフェルールと、受取側の光ファイバケーブルの端部に設けられるフェルールと、これらのフェルールを円筒内径面で同軸に突き合わせて嵌合保持する円筒状のスリーブとからなる光コネクタ部材に関し、特に、スリーブにヌスミ部を形成して、精度保証が必要な部分を少なくした樹脂製の光コネクタ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの光ファイバケーブルを接続する部材として、光コネクタ部材がある。この光コネクタ部材は、各光ファイバケーブルの端部に取り付けられるフェルールと、このフェルール同士を同軸に突き合わせて保持するスリーブとから構成される。スリーブは、主に円筒形状とされ、円筒内径面でフェルール同士を同軸に突き合わせて嵌合保持している。光ファイバケーブル同士の接続に際しては、光の減衰を防ぐために、光ファイバケーブルの端部に設けられたフェルール同士(より詳細には、フェルール接合端部における光ファイバ素線)の同軸度を小さくする必要がある。このため、光コネクタ部材におけるスリーブの内径寸法やフェルールの外径寸法を高精度化することが必要となる。なお、同軸度とは、共通の軸線をもつように配置されたフェルール同士の軸線が一致していない程度をいう(JIS B 0182)。
【0003】
光コネクタ用スリーブは、このような高精度が要求されることから、構成材料として主にセラミックスが用いられている。例えば、筒状体の一方の開口から他方の開口へ通ずる軸方向のスリットを有し、両開口から挿通された光ファイバ同士を接続する光通信用割スリーブにおいて、該スリーブをジルコニア、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミニウム、コージュライト、ムライトなどを主成分とする結晶粒子を有するセラミックスで形成したものが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
近年、自動車分野においても、車載されるカーナビやAV機器で取り扱うデータ量の増大により、車内での高容量情報伝達の要求が強くなり、従来のワイヤーハーネスに代えて、情報伝達速度の速い光ファイバの採用が検討されている。また、自動車分野では省エネルギ化が進んでおり、軽量化などを行なう目的でも、上記光ファイバの採用が検討されている。情報伝達量の増加から、光ファイバは従来のプラスチックから光通信で使用されるガラス製となり、芯径もより小さいものが求められているため、上記スリーブの内径寸法やフェルールの外径寸法のさらなる高精度化が要求されている。
【0005】
また、光コネクタ部材は、光ファイバケーブル20m毎に1個程度の割合で必要となることから、光ファイバケーブルを長くする場合、軽量化の妨げとなる。よって、従来の光コネクタ部材に比べて、コンパクトで軽量な構造が要求されている。このような要求に対し、軽量化や、量産化、低コストを図るべく、射出成形等による樹脂製のフェルールとスリーブとから構成されるコネクタ部材の開発が進められている。
【0006】
光コネクタ部材のフェルールを樹脂製としたものとして、外径寸法精度や同軸度を高めるため、スリーブへの挿着面を形成するとともに樹脂注入孔を有する硬質材製のインサートパイプを樹脂製のフェルール本体外周に被着したフェルールが提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
光コネクタ部材のスリーブを樹脂製としたものとして、側面に一定幅のスリットが設けられた中空円筒状のプラスチック割りスリーブであって、樹脂を射出成形した場合の樹脂の流動方向とその垂直方向の物性値の比で表した樹脂の異方性の値が1.5以下の樹脂組成物を含んでなるスリーブが提案されている(特許文献3参照)。また、スリーブを複数材料から形成したものとして、フェルールが挿入される第1スリーブ(内径側)をセラミックス製あるいは樹脂製とし、第1スリーブの外側を覆う第2スリーブ(外径側)を金属製とした光ファイバ用コネクタも提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−347857号公報
【特許文献2】特開2001−96570号公報
【特許文献3】特開平9−318842号公報
【特許文献4】特開2002−250840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2〜4に提案されているように、樹脂製スリーブや樹脂製フェルールを用いる場合では、寸法安定性の確保が困難である。特に車載用等のように広い温度領域で使用される場合では、温度変化に伴い、光コネクタ部材におけるスリーブの内径寸法やフェルールの外径寸法が変化し、突き合わされた光ファイバ素線の芯ずれ等により、光の減衰が起こり、伝達損失が大きくなるおそれがある。特にスリーブとフェルールの嵌合部分が軸方向に長い等の場合は、その全範囲で精度保証が必要となり、うねりやヒケの影響で内径面形状を高精度に維持することが困難となる。
【0010】
通常、光コネクタ部材において、接続部位での光伝達損失を抑える方法としては、部材精度を向上させる、もしくは、接続方法を工夫して接続精度を向上させる方法が挙げられる。スリーブやフェルールの材質は、軽量化、量産化、低コスト等を図る観点からセラミックス製(特許文献1)よりも樹脂製(特許文献2〜4)とすることが好ましいが、この場合、上述のとおり、セラミックス製のものと比較して部材精度の確保が困難になる。そこで、特に、樹脂製部材を使用する場合には、より高精度に接続することが可能なフェルールとスリーブの接続方法の検討が必要になる。
【0011】
本発明はこのような問題に対処すべくなされたものであり、簡易な接続構造で高精度にフェルールとスリーブを接続可能な光コネクタ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光コネクタ部材は、入力側の光ファイバケーブルの端部に設けられるフェルールと、受取側の光ファイバケーブルの端部に設けられるフェルールと、これらのフェルールを円筒内径面で同軸に突き合わせて嵌合保持する円筒状のスリーブとからなる光コネクタ部材であって、上記スリーブの内径面の軸方向の一部に、上記フェルールと非接触の部分であるスリーブ内径側ヌスミ部を有することを特徴とする。
【0013】
上記スリーブ側ヌスミ部が、上記スリーブの内径面全周にわたり形成される段部であることを特徴とする。また、上記光コネクタ部材は、上記スリーブの一方の円筒端面が一方の上記フェルールと当接する構造であり、上記スリーブ側ヌスミ部が上記円筒端面に開口して形成されることを特徴とする。
【0014】
上記フェルールにおいて光ファイバ素線挿入孔を構成する内径面の軸方向の一部に、フェルール内径側ヌスミ部を有することを特徴とする。
【0015】
上記フェルール内径側ヌスミ部が、上記フェルールの内径面全周にわたり形成される段部であり、光ファイバ心線を保持する側に開口して形成されることを特徴とする。
【0016】
上記フェルールにおいて上記フェルール内径側ヌスミ部を含めた内径が、上記光ファイバ素線挿入孔の内径より大きく、かつ、上記光ファイバ素線挿入孔の内径の2倍以下であることを特徴とする。
【0017】
それぞれの上記フェルールにおける上記フェルール内径側ヌスミ部を除く光ファイバ素線挿入孔の軸方向長さの合計が、上記スリーブ側ヌスミ部を除くスリーブの軸方向長さよりも小さいことを特徴とする。
【0018】
上記フェルールおよび上記スリーブが、樹脂製であることを特徴とする。また、上記樹脂が、それぞれ、液晶性樹脂またはポリエーテルイミド樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光コネクタ部材は、異なる光ファイバケーブル(入力側、受取側)の端部にそれぞれ設けられるフェルールを2つと、これらのフェルールを円筒内径面で同軸に突き合わせて嵌合保持する円筒状のスリーブとからなり、スリーブの内径面の軸方向の一部に、上記フェルールと非接触の部分であるスリーブ内径側ヌスミ部を有し、スリーブの内径の一部分でフェルールを固定できるので、スリーブの精度保証が必要な部位を最小限にすることができる。この結果、スリーブ内径の全範囲でフェルールを保持する場合よりも、内径面形状のうねりやヒケの影響を受けにくく、接続精度を高精度にできる。
【0020】
また、フェルールにおいて光ファイバ素線挿入孔を構成する内径面の軸方向の一部に、フェルール内径側ヌスミ部を有するので、光ファイバ素線を保持する精度保証が必要な部位を狭めることができる。
【0021】
さらに、スリーブおよびフェルールを共に樹脂製とすることで、光コネクタ部材の軽量化、小型化(省スペース化)、低コスト化が図れる。上記スリーブおよびフェルールのヌスミ構造と併せることで、樹脂製として軽量化などを図りながら、接続精度を高精度にできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光コネクタ部材の一例を示す軸方向断面図である。
【図2】図1におけるフェルールのみの軸方向の拡大断面図である。
【図3】接合部における各部分の長さの関係を示す図である。
【図4】従来の光コネクタ部材を示す軸方向断面図である。
【図5】光ファイバ心線の保持部をフェルール先端部まで伸ばした場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の光コネクタ部材を図1に基づいて説明する。図1は、光コネクタ部材を用いた光ファイバケーブルの接合部を示す軸方向の断面図である。図1に示すように、光コネクタ部材1は、2つの光ファイバケーブル6を接続するものであり、異なる光ファイバケーブル6の端部にそれぞれ設けられるフェルール2を2つと、これらのフェルール2を円筒内径面3cで同軸に突き合わせて嵌合保持する円筒状のスリーブ3とから構成される。光コネクタ部材1では、スリーブ3の両側からフェルール2を圧入している。
【0024】
それぞれのフェルール2は、光ファイバケーブル6(入力側または受取側)の端部に設けられ、本体部に光ファイバ心線5が挿入され、先端部であるスリーブへの嵌合部2bの素線挿入孔2cに光ファイバ素線4が通されている。光ファイバ素線4は、石英ガラスからなる光ファイバ(例えば、0.125mm径)を紫外線硬化型樹脂で被覆したもの(例えば、0.25mm径)であり、光ファイバ心線5は、この素線をさらに樹脂などにより被覆したものである。素線挿入孔2cは、円管状であり、光ファイバ素線4の径よりも若干大きい孔径(+1〜20μm程度)を有する。光ファイバ素線4および光ファイバ心線5は、接着剤を介してそれぞれの挿入孔に固定される。
【0025】
光コネクタ部材1において、スリーブ3は、その円筒内径面3cに、一対のフェルール2の嵌合部2bがそれぞれ嵌合され、この一対のフェルール2を同軸に突き合わせた状態で保持している。これにより、フェルール2の先端部の素線挿入孔2cおよび光ファイバ素線4が同軸上に一致した状態で接続される。なお、振動によるフェルール先端部の接触により、該先端部の摩耗や欠けが生じることを防止するため、フェルール2の先端部同士を一定の隙間(微隙間)を空けて保持することもできる。
【0026】
スリーブ3は、円筒外径Dに対する円筒長さLの割合(L/D)が2以上の形状とすることが好ましい。L/Dを2以上とすることで、円筒内径面3cで保持するフェルール同士の同軸度を小さく維持しやすい。なお、円筒長さLが大きすぎると、対応するフェルールの長さも長くする必要があり、該フェルールの精度を維持した樹脂成形および加工が困難となるおそれがあることから、L/Dは2〜5程度とすることがより好ましい。スリーブ3の円筒長さは、2〜10mm程度である。また、スリーブ3の円筒厚み(ヌスミ部を除く部分)は、機械的強度を維持する目的から、0.3〜0.6mmとすることが好ましい。
【0027】
スリーブ3は、内径面の軸方向の一部に、フェルール2と非接触の部分であるスリーブ内径側ヌスミ部3aを有する。スリーブ3は、スリーブ内径側ヌスミ部3aを除いた軸方向部分の円筒内径面3cでフェルール2を保持(以下、当該保持部分を単に「保持部」ともいう)している。光コネクタ部材1は、スリーブ3の一方の円筒端面3bが一方のフェルール2の段部2dと当接する構造である。スリーブ側ヌスミ部3aは、スリーブ3の内径面全周(軸方向については上記一部)にわたり形成される段部であり、円筒端面3bに開口して形成されている。円筒状のスリーブ3における上記段部は、保持部の内径よりも径が大きい部分である。なお、スリーブ3が割スリーブである場合には、上記全周は、割部分を除く全周である。
【0028】
図1に示す態様の他、スリーブ側ヌスミ部3aは、内径面の円周方向で分離した複数の凹部として形成してもよい。また、軸方向で円筒端面3bに開口させない位置に形成してもよい。ただし、フェルール先端部を精度よく保持するため、スリーブ3の軸方向部分のうち、フェルール先端部に位置する部分(フェルール内径側ヌスミ部2aを除く素線挿入孔2cに相当する部分)は避けて、スリーブ側ヌスミ部3aを形成することが好ましい。
【0029】
また、図1で示す態様のスリーブ側ヌスミ部3aは、一定の高さの段部(スリーブ内径面から見て凹み)であるが、例えば、円筒端面3b側が最も高くなるようなテーパ状の段部としてもよい。また、当該段部の高さは、フェルール嵌挿時・保持時において、スリーブ3が変形や破損等を起こさない機械的強度を確保できる範囲であれば、任意の高さとできる。
【0030】
図4に参考として従来の光コネクタ部材を用いた光ファイバケーブルの接合部の軸方向断面図を示す。図4に示すように、従来の光コネクタ部材11のスリーブ13を用いる場合、スリーブ内径面の全範囲でフェルール12を保持しており、この全範囲での精度保証が必要となるため、うねりやヒケの影響が大きい。これに対して、図1に示す本発明の光コネクタ部材では、スリーブ3にスリーブ側ヌスミ部3aを有するので、精度保証が必要な部位を狭めることができ、内径面形状のうねりやヒケの影響を受けにくく、接続精度の高精度化が可能になる。
【0031】
図1にように、スリーブ側ヌスミ部3aを、スリーブ3の内径面全周にわたり形成される段部とすることで、成形や加工が容易になる。また、スリーブ3の一方の円筒端面3bが一方のフェルール2と当接する構造において、スリーブ側ヌスミ部3aを該円筒端面3bに開口して形成することで、フェルール先端部をピンポイントで保持することが可能となる。また、スリーブ3の一方の円筒端面3bが、一方のフェルール2の段部2dと当接する構造にすることで、スリーブの位置決めが容易である。また、スリーブ側ヌスミ部3aをスリーブ3の円筒端面3bに開口して形成することで、スリーブを射出成形する場合、該ヌスミ部がアンダーカット部とならず、射出成形金型の構造が複雑とならない。
【0032】
フェルール2の嵌合部2bは、円筒状のスリーブ3に対して抜き挿し可能に嵌合される部分であり、素線挿入孔2cを軸心とした円筒形状である。ここで、素線挿入孔2cを軸心とした円筒形状とは、図1に示すように、素線挿入孔2cと同心の円柱形状から該素線挿入孔2c(ヌスミ部2a含む)の部分のみを取り除いた円筒形状である。また、スリーブ3へのフェルール2の組み込みが容易となるように、素線挿入孔2cの精度を悪化させない範囲で、フェルール先端部の角部にC面取やR面取を設けてもよい(図1ではC面取)。フェルール2の嵌合部2bの軸方向長さは、2つの該フェルールの嵌合部2bがスリーブ3の円筒内径面3cに嵌合保持できる長さであり、1〜5mm程度である。
【0033】
フェルール2のみの軸方向の拡大断面図を図2に示す。フェルール2は、素線挿入孔2cを構成する内径面の軸方向の一部に、フェルール内径側ヌスミ部2aを有する。フェルール2は、フェルール内径側ヌスミ部2aを除いた軸方向部分の素線挿入孔2cの内径面で光ファイバ素線4を保持している。フェルール側ヌスミ部2aは、フェルール2の素線挿入孔2cを構成する内径面全周(軸方向については上記一部)にわたり形成される段部であり、光ファイバ心線5を保持する側に開口して形成されている。この構造において、フェルール内径側ヌスミ部2aは、接着剤溜りとして機能する。
【0034】
図1および図2に示す態様の他、フェルール内径側ヌスミ部2aは、内径面の円周方向で分離した複数の凹部として形成してもよい。また、図1および図2で示す態様のフェルール内径側ヌスミ部2aは、一定の高さの段部(フェルール内径面から見て凹み)であるが、例えば、光ファイバ心線5を保持する側が最も高くなるようなテーパ状の段部としてもよい。
【0035】
フェルール内径側ヌスミ部2aの段部の高さは、光ファイバ素線4の接着溜りとして機能する範囲で任意の高さとできる。好ましくは、フェルール内径側ヌスミ部2aを含めた内径が、これを含めない先端部の素線挿入孔2cの内径より大きく、かつ、当該素線挿入孔2cの内径の2倍以下とする。この範囲であれば、接着剤溜りとして機能でき、さらにフェルールの成形性等に悪影響を与えない。なお、図5に示すように、光ファイバ素線の保持部長さを確保したまま、光ファイバ心線の保持部を先端部まで伸ばした場合、フェルールの肉厚が薄くなり、成形性が悪く、ショート等の不具合の原因となるおそれがある。
【0036】
従来のフェルールを用いる場合、素線挿入孔2cの内径面の全範囲で精度保証が必要となり、うねりやヒケの影響が大きい。これに対して、図1および図2に示す本発明の光コネクタ部材では、フェルール2にフェルール内径側ヌスミ部2aを有するので、精度保証が必要な部位を狭めることができる。
【0037】
また、図1および図2にように、フェルール側ヌスミ部2aを、フェルール2の内径面全周にわたり形成される段部とすることで、成形や加工が容易になる。また、フェルール2を樹脂製とする場合、素線挿入孔2cはコアピンで形成されるが、フェルール側ヌスミ部2aの部分はコアピン径が太くなるため、射出成形時におけるピンの撓みを抑えることができる。
【0038】
本発明の光コネクタ部材では、それぞれヌスミ部を有するスリーブとフェルールとを組み合わせることで、相乗効果が得られる。図3に接合部における各部分の長さの関係を示す。フェルール2におけるフェルール内径側ヌスミ部2aを除く素線挿入孔2cの軸方向長さ(Lf)の合計Aが、スリーブ側ヌスミ部3aを除くスリーブ3の軸方向長さ(Ls−Ls=Ls)よりも小さく設定することが好ましい。なお、図3では両側のフェルール2は同形状であるため、上記Aは、2×Lfとなる。これにより、スリーブ3のフェルール2の保持部長さ(Ls)が、フェルール2の光ファイバ保持部長さ合計(2×Lf)よりも大きくなり、十分な接続精度を確保できる。
【0039】
本発明の光コネクタ部材におけるフェルールおよびスリーブは、任意の材質から形成できるが、光コネクタ部材の軽量化、小型化(省スペース化)、低コスト化などを図れることから、共に樹脂製とすることが好ましい。
【0040】
樹脂材料としては、樹脂製スリーブ、樹脂製フェルールに使用される公知の樹脂を使用できる。バリなどの発生しにくい射出成形性に優れる樹脂が好ましい。また、広い温度範囲(−40℃〜90℃程度)での使用となる自動車車載用の光ファイバケーブルに利用可能とするため、弾性率が大きく温度変化に対する寸法安定性に優れた樹脂が好ましい。本発明で使用できる樹脂としては、例えば、液晶樹脂(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂などの結晶性樹脂、あるいは、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリフェニルサルフォン(PPSU)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂などの非晶性樹脂を使用できる。これらの樹脂の中でも、液晶樹脂またはポリエーテルイミド樹脂を用いることが好ましい。
【0041】
液晶樹脂としては、異方性溶融相を形成し得る芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステルイミド樹脂、芳香族ポリエステルアミド樹脂が挙げられる。また、芳香族ポリエステル樹脂としては、下記の化1〜化3に示される単位を有するものが挙げられる。耐熱性に優れることから、化1の全芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましい。液晶樹脂は、溶融状態で液晶性を示すため、成形時の流動性がよく、スリーブが薄肉である場合や、フェルールが複雑形状である場合でも、容易に成形できる。
【0042】
【化1】

【化2】

【化3】

上式において、nは0または1を、x、y、zはそれぞれ任意の整数を表す。
【0043】
その他、異方性溶融相を形成する液晶樹脂、例えばサーモトロピック液晶性を示す樹脂系のものであれば使用できる。
【0044】
ポリエーテルイミド樹脂は、分子内にイミド結合とエーテル結合とを有する熱可塑性樹脂であり、高い弾性率を有し、加工性(射出成形性)にも優れることから、上記液晶樹脂と同様に、スリーブ3およびフェルール2の樹脂材料として好適である。
【0045】
以上の樹脂材料には、射出成形時のヒケ防止や機械的強度向上などの目的で、公知の充填材を配合できる。本発明で使用できる充填材としては、例えば、繊維状充填材や、ガラスビーズ、グラファイト、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、黒鉛などの無機充填材が挙げられる。これらの充填材は、上記樹脂の成形時の流動性を低下させない範囲で配合できる。
【0046】
繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、タングステン心線もしくは炭素繊維などにボロンもしくは炭化ケイ素などを蒸着したいわゆるボロン繊維もしくは炭化ケイ素繊維、芳香族ポリアミド繊維等、また各種のウィスカ類が挙げられる。これらの繊維状充填材は、単独で使用しても複数種類を併用してもよい。また、繊維状充填材と、ベース樹脂となる液晶樹脂やポリエーテルイミド樹脂との密着性を高め、フェルールおよびスリーブの機械的特性を向上させるために、繊維状充填材の表面に、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などを含有した処理剤や、シラン系カップリング剤などを用いて表面処理を施してもよい。
【0047】
上記の繊維状充填材の中でも、特にガラス繊維または炭素繊維が好ましい。ガラス繊維および炭素繊維を使用することにより、成形体が引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率などの機械的強度に優れ、線膨張係数の低減も図れる。
【0048】
樹脂製のスリーブおよびフェルールは、上記液晶樹脂やポリエーテルイミド樹脂などをベース樹脂として、上記繊維状充填材などを配合した樹脂組成物を成形して得られる。樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。成形方法は、公知の成形法を採用できるが、製造効率などに優れる点で射出成形を採用することが好ましい。特に、射出成形を採用し、ゲート位置を最適化することで、フェルールおよびスリーブのそれぞれにおいて充填材の配向方向を軸方向に調整できる。フェルールとスリーブとの充填材配向を揃えることで、フェルールとスリーブの同方向での線膨張係数差を小さくすることができる。これにより、光ファイバ素線の芯ずれおよび角度ずれを小さくできる。また、充填材配向を軸方向とすることで、射出成形時の樹脂のヒケによるスリーブの円筒内径や、フェルールの嵌合部外径の寸法精度の低下を防止でき、光ファイバ素線の芯ずれや角度ずれを小さくできる。
【0049】
フェルールおよびスリーブのいずれもを樹脂製にすることで、これらをセラミックスで形成する場合と比較して、軽量化、低コスト化などが図れる。また、セラミックス製と比較して、振動や衝撃がフェルール内部までは伝わりにくく、石英ガラスからなる光ファイバ素線の破損などを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の光コネクタ部材は、スリーブおよびフェルールを樹脂製とする場合でも、簡易な接続構造で高精度にフェルールとスリーブとを接続可能であり、軽量化などを図りながら、光通信の伝達損失を低減できるので、各種用途における光ファイバケーブルを接続する光コネクタ部材として利用できる。特に、軽量化等が求められる自動車車載用の光ファイバケーブルの光コネクタ部材として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 光コネクタ部材
2 フェルール
2a フェルール内径側ヌスミ部
2b 嵌合部
2c 素線挿入孔
2d 段部
3 スリーブ
3a スリーブ内径側ヌスミ部
3b 円筒端面
3c 円筒内径面
4 光ファイバ素線
5 光ファイバ心線
6 光ファイバケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側の光ファイバケーブルの端部に設けられるフェルールと、受取側の光ファイバケーブルの端部に設けられるフェルールと、これらのフェルールを円筒内径面で同軸に突き合わせて嵌合保持する円筒状のスリーブとからなる光コネクタ部材であって、
前記スリーブの内径面の軸方向の一部に、前記フェルールと非接触の部分であるスリーブ内径側ヌスミ部を有することを特徴とする光コネクタ部材。
【請求項2】
前記スリーブ側ヌスミ部が、前記スリーブの内径面全周にわたり形成される段部であることを特徴とする請求項1記載の光コネクタ部材。
【請求項3】
前記光コネクタ部材は、前記スリーブの一方の円筒端面が一方の前記フェルールに当接する構造であり、前記スリーブ側ヌスミ部が前記円筒端面に開口して形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光コネクタ部材。
【請求項4】
前記フェルールにおいて光ファイバ素線挿入孔を構成する内径面の軸方向の一部に、フェルール内径側ヌスミ部を有することを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の光コネクタ部材。
【請求項5】
前記フェルール内径側ヌスミ部が、前記フェルールの内径面全周にわたり形成される段部であり、光ファイバ心線を保持する側に開口して形成されることを特徴とする請求項4記載の光コネクタ部材。
【請求項6】
前記フェルールにおいて前記フェルール内径側ヌスミ部を含めた内径が、前記光ファイバ素線挿入孔の内径より大きく、かつ、前記光ファイバ素線挿入孔の内径の2倍以下であることを特徴とする請求項5記載の光コネクタ部材。
【請求項7】
それぞれの前記フェルールにおける前記フェルール内径側ヌスミ部を除く光ファイバ素線挿入孔の軸方向長さの合計が、前記スリーブ側ヌスミ部を除くスリーブの軸方向長さよりも小さいことを特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれか1項記載の光コネクタ部材。
【請求項8】
前記フェルールおよび前記スリーブが、樹脂製であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の光コネクタ部材。
【請求項9】
前記フェルールおよび前記スリーブを形成する前記樹脂が、それぞれ、液晶性樹脂またはポリエーテルイミド樹脂であることを特徴とする請求項8記載の光コネクタ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−37121(P2013−37121A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171986(P2011−171986)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】