説明

光スイッチ及び光スイッチング方法

【課題】 簡易な構造で光損失の抑制を実現する光スイッチを提供する。
【解決手段】 有限光学系を構成するGRINレンズ14,15,16は、入力用光ファイバ11の出射端面11a及び出力用光ファイバ12,13に取り付けられている。入力用光ファイバ11と出力用光ファイバ12,13との間に、反射面17aを有する可動ミラー17が配置されている。入力用光ファイバ11のGRINレンズ14により集光された光は、可動ミラー17の反射面17aで反射すると出力用光ファイバ12に入射する(図1の(a)参照)。可動ミラー17を透過すると、入力用光ファイバ11からの光は出力用光ファイバ13に入射する(図1の(b)参照)。可動ミラー17は、図示しないアクチュエータにより揺動して、反射位置と透過位置の選択がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバから他の光ファイバへの接続切り替えを行うための光スイッチ及び光スイッチング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光通信等で各種の光学デバイス、例えば光スイッチが用いられている。光スイッチは、光ファイバ伝送路の光路の切り換えや遮断を行うもので、複数の光ファイバ及び光路切換素子を有する構成のものがある。すなわち、光スイッチは、所望の入力用光ファイバから出射される光通信用の光を、光路切換素子により光路を切り換えて所望の出力用光ファイバに入射させるように構成されている。
【0003】
光スイッチの具体的な構成を図4を用いて説明する。図4は、光スイッチの一例として特許文献1に記載されている光スイッチ100の要部を表す説明図である。図4に示すように、各入力用光ファイバ101a,…,101dから、コリメートレンズとして機能する各入力用レンズ列102に光学信号103が送られる。入力用レンズ列102の各々により光学信号103からビーム104a,…,104dが生成され、第1の傾斜ミラー105に受光される。ここで、光路途中に設けられた第1の傾斜ミラー105及び第2の傾斜ミラー106は、それぞれ図示しない複数のミラー素子からなり、各ミラー素子の傾斜は制御により変えられるようになっている。
第1の傾斜ミラー105に受光された各ビーム104a,…,104dは、第2の傾斜ミラー106のミラー素子のうちの特定のミラー素子に向けて反射され、さらに第2の傾斜ミラー106で出力用レンズ列107に向けて反射される。
【0004】
【特許文献1】特開2001−174724号公報(第3〜4頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、光通信の伝送経路・伝送装置にとっては、その間の光損失を少なくすることが重要である。しかしながら、上記の特許文献1の構造では、入力用光ファイバ101a,…,101dから出力用光ファイバ108a,…,108dに至る2つの傾斜ミラー105,106の傾き角度に誤差がある場合には光損失についての問題が生じ得る。すなわち、2つの傾斜ミラー105,106の傾き角度に誤差がある場合には、出力用光ファイバ108a,…,108dのコア部に対して位置や傾きのずれが生じ、出力用レンズ列107で形成された光学信号109は、出力用ファイバ108a,…,108dから出力される際に大きな光損失が発生する可能性がある。
【0006】
この問題を解決するものとして、光路切換素子の角度をモニタしながら、常に光路切換素子の角度が所定値となるように補正するフィードバック機構を設けることも考えられるが、光スイッチの構造が複雑になり、多くのコストがかかるという二次的な問題が発生する。
【0007】
本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、簡易な構造で光損失の抑制を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明が適用される光スイッチは、入力用光ファイバと、入力用光ファイバから一旦出射された光が入射する出力用光ファイバと、入力用光ファイバから光が出射されてから出力用光ファイバに入射するまでの区間内に設けられ、入力用光ファイバから出射された光を集光する有限光学系と、有限光学系により集光される又は集光された光の光路を切り換える切り換え手段とを含む。
有限光学系は、入力用光ファイバ側及び出力用光ファイバ側の各々に設けられていることを特徴とすることができる。また、入力用光ファイバ側に設けられている有限光学系は、光が出射する部分に密着し、出力用光ファイバ側に設けられる有限光学系は、光が入射する部分に密着していることを特徴とすることができる。
有限光学系は、集光性を有するGRINレンズであるのが好ましい。また、入力用光ファイバ1本に対して出力用光ファイバを2本備えてなり、切り換え手段は、2本の出力用光ファイバの中から出力先として選択された出力用光ファイバに入射させるように、光の光路を切り換えることを特徴とすることができる。
【0009】
他の観点から捉えると、本発明が適用される光スイッチング方法は、入力用光ファイバから一旦出射された光を操作して出力用光ファイバに入射させる光スイッチング方法において、入力用光ファイバから出射された光を集光し、集光される途中又は集光された光の光路を切り換えて出力用光ファイバに光を入射させる。
入力用光ファイバから出射された光の光路を変えるためのミラーが配置され、ミラーを予め定められた複数の位置のいずれかに動かすことにより光の光路を切り換えることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な構造で光損失の抑制を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る光スイッチを示す概略構成図である。
図1に示すように、光スイッチ10は、入力用光ファイバ11と、出力用光ファイバ12,13と、GRIN(GRaded-INdex)レンズ(集光手段,有限光学系)14,15,16と、可動ミラー(切り換え手段)17とを備えている。入力用光ファイバ11及び出力用光ファイバ12,13は図示しない基板に配置されている。また、入力用光ファイバ11及び出力用光ファイバ12,13は、図示を省略した端部に、図示しない光コネクタに接続されている。なお、図1中のfは入力用光ファイバ11からの光の焦点の位置を示している。
【0012】
GRINレンズ14,15,16は、入力用光ファイバ11の出射端面11a及び出力用光ファイバの各入射端面12a,13aに密着して取り付けられている。このGRINレンズ14,15,16は、円柱状媒体の中心軸から周辺方向に向かうに従って屈折率が徐々に変化する光学素子であり、端面が平らであるにも関わらず、結像特性等を有する特殊なレンズである。本実施の形態のGRINレンズ14,15,16は、入射した光が集光するように構成されている。このため、入力用光ファイバ11の出射端面11aに取り付けたGRINレンズ14は、入力用光ファイバ11から出力された光を集光させる。すなわち、GRINレンズ14は有限光学系を構成している。GRINレンズ15,16もGRINレンズ14と同様に構成されている。
【0013】
なお、上述したように、GRINレンズ14,15,16は、各光ファイバ11,12,13の各端面11a,12a,13aに密着して取り付けられているが、GRINレンズ14,15,16と光ファイバ11,12,13の端面11a,12a,13aとの間にクリアランスないしは隙間を設けて取り付けるように構成することも考えられる。GRINレンズ14,15,16を光ファイバ11,12,13の端面11a,12a,13aに密着させて取り付ける場合には、取り付けが容易である反面、GRINレンズ14,15,16の長さが長くなる。その一方で、クリアランスを設ける場合には、密着する場合よりもGRINレンズ14,15,16の長さを短くすることができる反面、光ファイバ11,12,13への取付け作業性が低下する。これらの利害得失を考慮して、いずれを採用するかを決定することになる。
また、本実施の形態ではGRINレンズ14,15,16を用いているが、光を集光するための別の手段をGRINレンズ14,15,16の代わりに用いることができる。
【0014】
図1に示すように、入力用光ファイバ11と出力用光ファイバ12,13との間に、反射面17aを有する可動ミラー17が配置されている。具体的には、可動ミラー17は、入力用光ファイバ11のGRINレンズ14により集光された光の焦点位置に反射面17aが位置するように配設されている。また、可動ミラー17は、反射面17aで反射した反射光の光軸が、反射面17aに入射した光の光軸に対して90度傾斜する方向に向かうように配設されている。
この可動ミラー17は、紙面垂直方向に延びる揺動軸17bを有し、図示しないアクチュエータにより揺動軸17bを中心に揺動される。すなわち、可動ミラー17は、図示しないアクチュエータにより同図の(a)に示す反射位置又は同図の(b)に示す透過位置になるように駆動される。このようにして、可動ミラー17は、反射面17aに入射した光を全反射するほか、入射角度を変えることで反射面17aに入射した光を反射させずに透過する。
なお、可動ミラー17内を透過させるときには、図示しないアクチュエータにより可動ミラー17を光路内から退避させるように平行移動可能に構成することも考えられる。また、アクチュエータとしては、例えばモータ等の周知慣用技術によるものを用いることができる。また、本実施の形態では、可動ミラー17を焦点位置に配設しているが、焦点位置からずれた位置に配設する構成にしてもよい。
【0015】
ここで、入力用光ファイバ11からの光の光源波長は1550nmで、入力用光ファイバ11及び出力用光ファイバ12,13はいずれも、コア径が10μmのシングルモードファイバである。また、入力用光ファイバ11のGRINレンズ14により集光された光の焦点位置は、そのGRINレンズ14の出力端から15mmの位置である。
【0016】
このように構成された光スイッチ10は、次のように機能する。すなわち、図1の(a)に示すように、可動ミラー17が反射位置にあるときには、入力用光ファイバ11のGRINレンズ14により集光された光は、可動ミラー17の反射面17aで反射して出力用光ファイバ12の入射端面13aから入射される。また、図1の(b)に示すように、可動ミラー17が透過位置にあるときには、入力用光ファイバ11のGRINレンズ14により集光された光は、可動ミラー17で反射せずに透過して出力用光ファイバ13の入力端に入力される。このように、可動ミラーの位置を反射位置又は透過位置にすることにより、入力用光ファイバ11のGRINレンズ14により集光された光の接続状態が変わり、光路の切り換えを行うことができる(光のスイッチング動作)。
【0017】
次に、可動ミラー17の角度ずれに対する光損失について図2及び図3を用いて説明する。
図2は、有限光学系で構成した本実施の形態の光スイッチ20についての実験内容を示したもので、(a)はその概略構成図、(b)は実験結果を示すグラフである。また、図3は、無限光学系で構成した従来の光スイッチ30についての実験内容を示したもので、(a)はその概略構成図、(b)は実験結果を示すグラフである。図2の(b)及び図3の(b)において、それぞれ縦軸が光損失(dB)で横軸が可動ミラーの回転ずれ角(度)である。
なお、無限光学系とは、光ファイバから発せられる発散光をレンズを用いて平行光にコリメート(collimate)して出力する光学系をいう。また、有限光学系とは、光ファイバから発せられる発散光をレンズを用いてそのレンズ端から一定の距離において焦点を結ぶようにして出力する光学系をいう。
【0018】
ここで、図2の(a)に示す光スイッチ20は、図1の(a)に示す光スイッチ10と基本的な構成が同じである。図3の(a)に示す従来の光スイッチ30では、平行光を出力するGRINレンズを用いており、他の構成は図2の(a)と同じである。このため、図2の(a)及び図3の(a)において、同一の構成要素については図1の(a)と同じ符号を用い、かつ、その説明を省略する。
なお、図2の(a)におけるGRINレンズ14の出射端面から焦点fまでの距離は15mmである。また、図3の(a)における平行光の径は400μmであり、一対のGRINレンズ14,15;34、35の端面間の光軸距離は30mmである。また、レーザ波長λは1550nmで、光ファイバ11,12はシングルモードファイバである。
図3の(a)に図示したGRINレンズ34,35は無限光学系を構成しているため、図2の(a)の有限光学系を構成するGRINレンズ14,15よりも長さが短い。
【0019】
上述した条件下で本実施の形態の光スイッチについて実験を行ったところ、図2の(b)に示すように、比較的緩やかな放物線形状2Bを得た。一般的には光損失を、光スイッチ全体で1dB以下に抑えなければならないと言われている。
1db以下の光損失のうち、可動ミラー17の角度ずれに起因する光損失を0.5dBまで許容すると仮定した場合に、光スイッチ20の場合に許容される可動ミラー17の角度ずれを図2の(b)から求めると、約0.13度である。
これに対し、従来の光スイッチ30の場合に許容される可動ミラー17の角度ずれを図3の(b)から求めると、約0.03度となる。可動ミラー17の角度ずれは、例えば経時変化、環境温度の変化、あるいは製造時のばらつきによって生じるものであり、約0.03度という許容角度としては必ずしも大きいものではない。
言い換えると、光スイッチ20の場合に許容される可動ミラー17の角度ずれは、従来の光スイッチ30の場合に許容される可動ミラー17の角度ずれと比較すると、4倍以上に拡大されている。このように、光スイッチ20では、可動ミラー17の角度ずれの許容範囲が大きくなっていることがわかる。
【0020】
本実施の形態に係る光スイッチは、いわゆる1入力2出力タイプ、言い換えると入力用光スイッチの数が単数で出力用光スイッチの数が複数の場合であるが、これ以外の構成にも適用することができる。すなわち、入力用光スイッチが複数で出力用光スイッチが単数の場合、入力用光スイッチが複数で出力用光スイッチが複数の場合(多入力多出力タイプ)、及び入力用光スイッチが単数で出力用光スイッチが単数の場合(ON/OFF方式の1入力1出力タイプ)にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る光スイッチを示す概略構成図である。
【図2】(a)は、有限光学系で構成した本実施の形態の光スイッチについての実験構成を示す説明図で、(b)はその実験結果を示すグラフである。
【図3】(a)は、無限光学系で構成した従来の光スイッチについての実験構成を示す説明図で、(b)はその実験結果を示すグラフである。
【図4】従来の光スイッチを示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0022】
10,20…光スイッチ、11…入力用光ファイバ、11a…出射端面、12,13…出力用光ファイバ、12a,13a…入射端面、14,15,16…GRINレンズ、17…可動ミラー、17a…反射面、17b…揺動軸、f…焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力用光ファイバと、
前記入力用光ファイバから一旦出射された光が入射する出力用光ファイバと、
前記入力用光ファイバから光が出射されてから前記出力用光ファイバに入射するまでの区間内に設けられ、当該入力用光ファイバから出射された光を集光する有限光学系と、
前記有限光学系により集光される又は集光された光の光路を切り換える切り換え手段と
を含む光スイッチ。
【請求項2】
前記有限光学系は、前記入力用光ファイバ側及び前記出力用光ファイバ側の各々に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項3】
前記入力用光ファイバ側に設けられている前記有限光学系は、光が出射する部分に密着し、前記出力用光ファイバ側に設けられる当該有限光学系は、光が入射する部分に密着していることを特徴とする請求項2に記載の光スイッチ。
【請求項4】
前記有限光学系は、集光性を有するGRINレンズであることを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項5】
前記入力用光ファイバ1本に対して前記出力用光ファイバを2本備えてなり、
前記切り換え手段は、前記2本の出力用光ファイバの中から出力先として選択された出力用光ファイバに入射させるように、光の光路を切り換えることを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項6】
入力用光ファイバから一旦出射された光を操作して出力用光ファイバに入射させる光スイッチング方法において、
前記入力用光ファイバから出射された光を集光し、
集光される途中又は集光された光の光路を切り換えて前記出力用光ファイバに光を入射させる、光スイッチング方法。
【請求項7】
前記入力用光ファイバから出射された光の光路を変えるためのミラーが配置され、
前記ミラーを予め定められた複数の位置のいずれかに動かすことにより光の光路を切り換えることを特徴とする請求項6に記載の光スイッチング方法。
【請求項8】
前記入力用光ファイバ1本に対して前記出力用光ファイバを2本備え、
前記2本の出力用光ファイバのいずれかに入射するように光の光路を切り換えることを特徴とする請求項6に記載の光スイッチング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−58747(P2006−58747A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242235(P2004−242235)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】