説明

光スイッチ装置並びにその構成及び調整方法

【課題】ポート間損失に差がある周回性AWGを用いた多波長一括変調により光マルチキャストを行うために用いられる波長スイッチとして構成された光スイッチ装置において、光受信器に要求されるダイナミックレンジを小さくする。
【解決手段】第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最小/最大である出力ポートを第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最大/最小である入力ポートに接続し、この接続に対して並行関係となるように、第1の周回性AWGの他の出力ポートと第2の周回性AWGの他の入力ポートとを接続する。各波長可変光源ごとのその波長可変光源から第2の周回性AWGの各出力ポートまでの損失量の平均値に基づき、第2の周回性AWGの各出力ポートから出力される光パワーの最大値と最小値との差が最小化されるように、各波長可変光源の利得電流量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号の経路を切り替える波長選択型の光スイッチ装置に関し、特に、光マルチキャスト通信に適した光スイッチ装置と、その構成及び調整方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術の発展に伴い、同一データを同時に複数箇所に送信するマルチキャスト通信を、電気信号に変換することなく光信号のままで実現する光マルチキャスト技術が求められてきている。従来より、2×2光スイッチを多段接続し、各光スイッチにおいて光信号のオン(ON)/オフ(OFF)制御を行うことでマルチキャスト制御を実現可能な、ブロードキャスト&セレクト型の光パケットスイッチが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ブロードキャスト&セレクト型の光パケットスイッチは、最終的な分岐数をNとしてN2に比例して制御端子数が増える。このため、スイッチ制御を行うドライバの制御が複雑となり、多くのハードウェア資源を必要とする問題があった。
【0003】
これに対して例えば特許文献2には、複数の波長可変光源と波長合分波器を利用し、ポートごとに波長を割り当て、多元接続する波長選択型の光スイッチが提案されている。波長選択型光スイッチは、複数の波長可変光源が送信する各光信号の波長を切り替えることで、各光信号が出力されるポートを切り替えることができる。波長選択型の光スイッチのことを波長スイッチとも呼ぶ。この波長スイッチを用いてマルチキャスト制御を行えば、制御端子数を少なくしたままN×Nの大規模な光パケットスイッチを実現可能と考えられる。例えば、2個のN×N周回性AWG(アレイ導波路回折格子;arrayed wavegude grating)と外部変調器とを用いた多波長一括変調により、波長スイッチを用いたマルチキャスト制御が可能となる。
【0004】
N×N周回性AWGについて簡単に説明すると、N×N周回性AWGは、N個の入力ポートとN個の出力ポートとを有しており、異なるN個の波長λ1〜λNの信号光を任意の1つの入力ポートに与えたとき、N個の出力ポートには重複なくN個の波長λ1〜λNのうちのいずれか1つの信号光が現れるという性質を有し、またその入出力間の対称性から、異なる入力ポートに同一波長の信号光を与えたときには、それらの信号光は独立性を有したまま、異なる出力ポートに現れる、という性質を有する。したがって、N×N周回性AWGは、波長可変光源と組み合わせ、波長分割多重光通信における波長ルーティングに好適に使用されるものである。
【0005】
図1は、2個のN×N周回性AWGと外部変調器とを用いた多波長一括変調により光マルチキャストを行う波長スイッチの構成を示すブロック図である。波長可変光源11が第1のN×N周回性AWG12のN個の入力ポートの各々に接続し、第1のN×N周回性AWG12のN個の出力ポートの各々には変調器13が接続し、これらN個の変調器13の出力は第2のN×N周回性AWG14のN個の入力ポートにそれぞれ接続し、第2のN×N周回性AWG14のN個の出力ポートの各々には光受信器15が接続している。
【0006】
この波長スイッチによりマルチキャスト通信を行う場合には、例えば、第1のN×N周回性AWG12の1番目の出力ポートに接続した変調器13によって多波長一括変調を行うこととすると、第2のN×N周回性AWG14の1番目の入力ポートからマルチキャストの宛先となる複数の出力ポートにそれぞれ伝達する複数の波長を選択し、選択された複数の波長が第1のN×N周回性AWG12の1番目の出力ポートに多重して現れるように、各波長可変光源11での波長を制御してそれらの波長可変光源11からの光を第1のN×N周回性AWG12の入力ポートに加える。その結果、第1のN×N周回性AWG12の1番目の出力ポートに接続した変調器13を通る光は、マルチキャストの各宛先に送られる光が波長多重されたものであるので、この変調器13において変調信号に基づいて光変調を行うことによって、各宛先へのマルチキャスト通信を行うことが可能になる。なお、第1及び第2のN×N周回性AWG12,14が同一構成であるとすれば、AWGの対称性に基づき、第1のN×N周回性AWG12の入力ポートのうち、第2のN×N周回性AWG14での出力ポート(すなわち転送先ポート)と対称の位置にある入力ポートに、転送先ポートに対応する波長に光を加えればよい。
【0007】
この構成では、波長可変光源11、変調器13及び第2のN×N周回性AWG14は、波長ルーティングを行う際にも用いられる基本スイッチ部を構成する。この基本スイッチ部だけでポイント・ツー・ポイントの転送を行うことが可能である。これに対し、第1のN×N周回性AWGは、マルチキャストに用いられる複数の波長の光を特定の1個の変調器で波長多重したまま変調する多波長一括変調を実現するために設けられたものであり、マルチキャストの実現のために用いられる。
【0008】
ところで、周回性AWGは、その中心部に配置された導波路と周辺部に配置された導波路との間で回折効率が異なることに起因して、入出力ポートの組み合わせと透過波長の組み合わせにより、そこを通過する光に対するパワー減衰率が異なり、入出力ポート間で挿入損失差が生じる。周回性AWGの原理から、入出力ポートの組み合わせによってその入出力ポート間を透過する波長は一意に定まるので、実際には、入出力ポートの組み合わせだけでパワー減衰率を考えることができる。図2は、周回性AWGにおける入出力ポート間の損失差(相対的な損失量)を説明する図である。なお、図2及び後述の図4に示すグラフでは、説明のため、損失差を表す縦軸において、相対的な損失が大きい方を正側としている。
【0009】
図2(a)は、32×32周回性AWGでの入出力ポート間の損失量(減衰量)を、入力ポートと出力ポートの組み合わせごとに相対的に示したものである。32個の入力ポートのうちの中央あたりの入力ポート(例えば16番目の入力ポート)から32個の出力ポートのうちの中央あたりの出力ポート(例えば16番目の出力ポート)への損失量が一番小さく、端にある入力ポート(例えば、1番目あるいは32番目の入力ポート)から端にある出力ポート(例えば、1番目あるいは32番目の出力ポート)への損失量が一番大きく、その差は例えば6dB程度となる。
【0010】
図1に示したような波長一括変調により光マルチキャストを行う波長スイッチを考えると、変調器を介して2つのN×N周回性AWGを単純に接続すると、すなわち、変調器を介して前段の周回性AWGのk番目(kは1以上N以下の整数)の出力ポートを後段の周回性AWGのk番目の入力ポートに接続すると、前段の周回性AWGの入力ポートから後段の周回性AWGの出力ポートまででは、図2(b)に示すように、入出力ポートの組み合わせに応じて損失量の差は12dBほどにもなる。
【0011】
このように入出力ポートの組み合わせによって損失量が大きく異なると、光受信器で必要となるダイナミックレンジが大きくなる。特に、周回性AWGを2段以上直列に接続する構成では、入出力ポートの組み合わせによる損失量の差がさらに大きくなり、光受信器にはより大きなダイナミックレンジを必要とする。必要ダイナミックレンジの増大は、光受信器での自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)の処理時間の増加につながるため、スループットの低下という問題をもたらす。
【0012】
周回性AWGから出力される光のポート間損失差を小さくする方法として、挿入損失を均一化にしたAWGを使用することも考えられる。しかしながら、挿入損失を均一化にしたAWGは、その導波路設計が複雑であるためスイッチポートの大規模化には適さず、より多くの転送先ポートへのマルチキャストには使用できないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−36195号公報
【特許文献2】特開平5−244649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
多数の転送先に対して多波長一括変調により光マルチキャストを行う場合には、ポート間に損失差がある周回性AWGを使用する必要があって、光受信器に要求される必要ダイナミックレンジが大きくなり、AGCの処理時間の増加につながってスループットの低下がもたらされるという課題がある。
【0015】
本発明の目的は、ポート間損失に差がある周回性AWGを用いた多波長一括変調により光マルチキャストを行うために用いられる波長スイッチとして構成された光スイッチ装置であって、光受信器に要求されるダイナミックレンジを小さくすることができる光スイッチ装置を提供することになる。
【0016】
本発明の別の目的は、ポート間損失に差がある周回性AWGを用いた多波長一括変調により光マルチキャストを行うために用いられる波長スイッチとして構成されて光受信器に要求されるダイナミックレンジを小さくすることができる光スイッチ装置を構成及び調整する方法を提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の光スイッチ装置は、第1の周回性AWGと、第1の周回性AWGの各入力ポートにそれぞれ接続する波長可変光源と、第2の周回性AWGと、第1の周回性AWGと第2の周回性AWGとの間に設けられた外部変調器と、を備え、多波長一括変調によるマルチキャストを行う光スイッチ装置において、第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最小である出力ポートを第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最大である入力ポートに接続する第1の接続形態、あるいは、第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最大である出力ポートを第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最小である入力ポートに接続する第2の接続形態、のいずれかが選択され、選択された接続形態での接続に対して並行関係となるように、第1の周回性AWGの他の出力ポートと第2の周回性AWGの他の入力ポートとが接続されている。
【0018】
本発明の光スイッチ装置を構成及び調整する方法は、第1の周回性AWGと、第1の周回性AWGの各入力ポートにそれぞれ接続する波長可変光源と、第2の周回性AWGと、第1の周回性AWGと第2の周回性AWGとの間に設けられた外部変調器と、を備え、多波長一括変調によるマルチキャストを行う光スイッチ装置を構成及び調整する方法において、第1及び第2の周回性AWGに用いる周回性AWGでの入力ポートの各々と出力ポートの各々との間の挿入損失を測定する測定段階と、測定結果に基づき、第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最小である出力ポートを第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最大である入力ポートに接続する第1の接続形態、あるいは、第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最大である出力ポートを第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最小である入力ポートに接続する第2の接続形態、のいずれかを選択して、選択した接続形態での接続に対して並行関係となるように、第1の周回性AWGの他の出力ポートと第2の周回性AWGの他の入力ポートとを接続する接続段階と、測定結果に基づき、各波長可変光源ごとの当該波長可変光源から第2の周回性AWGの各出力ポートまでの損失量の平均値を算出する平均値算出段階と、平均値に基づき、第2の周回性AWGの各出力ポートから出力される光パワーの最大値と最小値との差が最小化されるように、各波長可変光源の利得電流量を調整する調整段階と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、N×N周回性AWGと外部変調器とを用いて多波長一括変調により光マルチキャストを行う波長スイッチとして構成された光スイッチ装置において、出力側に設けられる光受信器に要求されるダイナミックレンジを小さくすることができ、AGC処理に要する時間を短縮して高スループットを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】2個のN×N周回性AWGと外部変調器とを有して多波長一括変調により光マルチキャストを行う波長スイッチの構成を示すブロック図である。
【図2】(a),(b)は、周回性AWGにおける入出力ポート間の相対的な損失量を説明するグラフである。
【図3】本発明における光スイッチ装置の構成方法の原理を説明する図である。
【図4】2段の周回性AWGをクロス接続したときの入出力ポート間の相対的な損失量を説明するグラフである。
【図5】接続先の決定方法を説明する図である。
【図6】パワー調整方法を説明する図である。
【図7】接続構成の決定とパワー調整を行うための配置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
図3は、本発明における光スイッチ装置の構成方法の原理を説明している。本発明に基づく光スイッチ装置は、図1に示したものと同様に、2個のN×N周回性AWG(アレイ導波路回折格子)と外部変調器とを組み合わせて多波長一括変調により光マルチキャストを行うものである。ここでは説明のため、2つのN×N周回性AWGをN×N周回性AWG #1及びN×N周回性AWG #2と記載することによって区別する。
【0023】
図2(a)を用いて説明したように、周回性AWGでは、その内部の導波路における回折効率の差によって、入出力ポートの組み合わせ間で挿入損失に差が生じる。図2(b)に示したように単純に2段の周回性AWGを接続すると、前段の周回性AWGでの入力ポートと後段の周回性AWGでの出力ポートとの組み合わせ間の損失差がさらに大きくなる。ところで、デシベル(dB)を単位として用いて損失を考えるとすると、全体としての挿入損失は、前段の周回性AWGでの挿入損失と後段の周回性AWGでの挿入損失の和となる。そこで、例えば、損失の大きなポートが損失の小さなポートに接続するようにすれば、図3(a)に示すように、2段接続における挿入損失の差は、単一の周回性AWGでの挿入損失の差よりもむしろ小さくなると考えられる。なお、変調器は、前段の周回性AWGのN個の出力ポートと後段の周回性AWGのN個の入力ポートとをそれぞれ接続する経路に1個ずつ設けられているから、変調器ごとの挿入損失が同じであるとすれば、全体としての挿入損失の差には寄与しない。
【0024】
そこで、本発明に基づく光スイッチ装置では、前段となるN×N周回性AWG #1の出力ポートのうち平均挿入損失が最小である出力ポートと、後段となるN×N周回性AWG #2の入力ポートのうち平均挿入損失が最大である入力ポートとを接続するか、あるいは、N×N周回性AWG #1の出力ポートのうち平均挿入損失が最大である出力ポートと、N×N周回性AWG #2の入力ポートのうち平均挿入損失が最小である入力ポートとを接続する。そして、図3(b)に示すように、この接続と並行関係となるように、周回性AWG #1の他の出力ポートと周回性AWG #2の他の入力ポートとを接続する。このような接続方式をクロス接続と名付ける。このような構成によれば、周回性AWGを2段接続した場合であっても、挿入損失の差の増大を防ぐことができ、光受信器における必要なダイナミックレンジを小さくすることができる。
【0025】
前段の出力ポートと後段の入力ポートとの間で、平均挿入損失が最小の出力ポートと平均挿入損失が最大の入力ポートとを接続するか、平均挿入損失が最大の出力ポートと平均挿入損失が最小の入力ポートとを接続するかについては、光受信器における必要ダイナミックレンジを小さくする観点から、これらの平均挿入損失の和が小さい方の接続を選択することが好ましい。
【0026】
ここでN×N周回性AWGのある出力ポートにおける平均挿入損失とは、その周回性AWGのN個の入力ポートからその出力ポートまでのそれぞれの損入損失のうちの最大値と最小値との平均のことを意味する。同様に、ここでN×N周回性AWGのある入力ポートにおける平均挿入損失とは、その入力ポートからその周回性AWGのN個の出力ポートまでのそれぞれの損入損失のうちの最大値と最小値との平均のことを意味する。
【0027】
平均挿入損失に基づいてN×N周回性AWG #1ではa番目の出力ポートとN×N周回性AWG #2のb番目の入力ポートとを接続すべきとなった場合、上述したクロス接続では、iを1以上N以下の整数としてb−a+iを計算し、b−a+i≦0であるときには、N×N周回性AWG #1のi番目の出力ポートをN×N周回性AWG #2のb−a+i+N番目の入力ポートに接続し、1≦b−a+i≦Nであるときには、N×N周回性AWG #1のi番目の出力ポートをN×N周回性AWG #2のb−a+i番目の入力ポートに接続し、N<b−a+iであるときには、N×N周回性AWG #1のi番目の出力ポートをN×N周回性AWG #2のb−a+i−N番目の入力ポートに接続する。
【0028】
図4は、図2(b)の場合と同じ2個の32×32周回性AWGを使用し、上述したようにクロス接続を採用したときの前段の周回性AWGの入力ポートと後段の周回性AWGの出力ポートとの組み合わせ間での挿入損失の差を示している。図4に示したものでは、損失差は5dB程度であり、クロス接続を用いることにより、図2(b)に示したものとはもちろんのこと、図2(a)に示した単一の周回性AWGにおける損失差よりも損失差を小さくできることが分かる。
【0029】
図5は、前段の周回性AWGと後段の周回性AWGとの接続先の具体的な決定例を示している。ここでは、説明を簡単にするため、2つのN×N周回性AWGは同一の挿入損失特性を有するものとする。以下では、“[番号]”の記載によってポート番号を表記することとする。
【0030】
N×N周回性AWGのN個の入力ポートの各々について、その入力ポートからN個の出力ポートのそれぞれに対する挿入損失を測定する。その測定結果は、図5においてN×Nのマトリクスとして表されるようなものになる。例えば、入力ポート[2]から出力ポート[N]への挿入損失は−13dBである。そして、出力ポートごとに、その出力ポートに対するN個の入力ポートからの挿入損失の最大値と最小値の和の半分を求め、それをその出力ポートの平均挿入損失とする。出力ポート[1]の場合であれば、入力ポート[1],[N]からの挿入損失の−14dBが最大であり、入力ポート[N/2]からの挿入損失の−8dBが最小であるので、平均挿入損失は、{(−14)+(−8)}/2=−11(dB)ということになる。同様に、入力ポートごとに、その入力ポートからN個の出力ポートへの挿入損失の最大値と最小値の和の半分を求め、それをその入力ポートの平均挿入損失とする。
【0031】
次に、N個の出力ポートの中から、平均挿入損失が最小である出力ポートと最大である出力ポートとを探し出し、N個の入力ポートの中から、平均挿入損失が最小である入力ポートと最大である入力ポートとを探し出す。図5に示したものでは、出力ポートに関しては、出力ポート[N/2]の平均挿入損失が−4.5dBであってこれが最小であり、出力ポート[N]の平均挿入損失が−11.5dBであってこれが最大となる。入力ポートに関しては、入力ポート[N/2]の平均挿入損失が−5dBであってこれが最小であり、入力ポート[N]の平均挿入損失が−11.5dBであってこれが最大となる。これにより、前段の出力ポート[N/2]を後段の入力ポート[N]に接続するか、あるいは、前段の出力ポート[N]を後段の入力ポート[N/2]に接続するか、いずれかということになる。そこで、これらの両方の接続に関し、出力ポートの平均挿入損失と入力ポートの平均挿入損失の和を算出すると、前者は(−4.5)+(−11.5)=−16(dB)となり、後者は(−11.5)+(−5)=−16.5(dB)となって、減衰の大きさとしては前者の和の方が小さい。そこで、前者を選択し、前段の出力ポート[N/2]を後段の入力ポート[N]に接続する。他の出力ポートと他のについては、この選択した接続構成と並行関係となるように相互に接続すればよい。ここでは図示していないが、前段の周回性AWGの出力ポートと後段の周回性AWGの入力ポートとの間の各接続には、それぞれ、変調器が設けられている。
【0032】
本実施形態では、以上のようにして、光スイッチ装置における2つのN×N周回性AWG間の接続構成を決定したら、次に、前段のN×N周回性AWGの入力ポートに接続する各波長可変光源におけるパワーを調整する。ここで波長可変光源のパワーを調整するのは、光スイッチ装置内での光ルーティングに伴って光受信器に入射する信号光のレベルが変動することをなるべく小さくし、光受信器に必要とされるダイナミックレンジを小さくするためである。各波長可変光源は、いずれも、λ1〜λNのN通りの波長の光を放射することができるものとする。
【0033】
前段の周回性AWGの任意の1つの入力ポートに着目すると、この入力ポートに接続する波長可変光源でλ1〜λNのN通りの波長の光を発生させて周回性AWGに入射させた場合に、波長に応じて後段の周回性AWGの異なる出力ポートから信号光が得られることになる。その場合、N個の出力ポートの各々ごとに光の損失量が異なるが、そのうちの最大の損失量と最小の損失量との平均値(=(最大の損失量+最小の損失量)/2)を求めることとする。i番目の入力ポートに接続する波長可変光源(すなわちi番目の波長可変光源)についてこのように求めた平均値をLiとおく(iは1以上N以下の整数)。N個の波長可変光源の各々についてこのような平均値を求め、これらをL1〜LNとする。図6は、平均値Liの算出の仕方を説明する図である。ここでは、5×5周回性AWGを2段接続したものとして、各出力ポートごとに5通りの波長のそれぞれの損失量が示され、これから光源ごとの損失の平均値をどのように求めるかが示されている。
【0034】
任意の1つの波長可変光源としてj番目(jは1以上N以下の整数)の波長可変光源に注目し、その光源の出力パワーをPjとすると、
(1)Lj+PjがMax(L1,…,LN)+{Max(L1,…,LN)を与える光源の出力パワー}と等しくなるように、j番目の波長可変光源の利得電流量を減少させる、あるいは、
(2)Lj+PjがMin(L1,…,LN)+{Min(L1,…,LN)を与える光源の出力パワー}と等しくなるように、j番目の波長可変光源の利得電流量を増大させる、
のいずれかの調整を行う。このような調整をN個の波長可変光源の全てについて行うことによって、光受信器ごとにその光受信器での受光パワーにおける最大値と最小値との差最小にすることができて、光受信器に必要とされるダイナミックレンジを小さくすることができる。
【0035】
あるいは、(3)L1〜LNについての平均値と、L1〜LNの各々の値とが等しくなるように、各波長可変光源の利得電流量を増減してもよい。
【0036】
上記(1)〜(3)のいずれの場合であっても、前段と後段の周回性AWGの間に設けられる変調器においてそこを通過する光のレベルが当該変調器の最大受光レベル以下である必要がある。したがって、
【0037】
【数1】

【0038】
の条件を満たすようにする必要がある。
【0039】
次に、上述のように光スイッチ装置を構成し、各波長可変光源のパワーを調整するために使用される構成を説明する。光スイッチ装置を構成し、各波長可変光源のパワーを調整するためには、使用する周回性AWGにおける損失特性を測定した上で、出力ポートと入力ポートとの接続を決定し、また、波長可変光源ごとのパワーを計算する必要がある。図7は、そのための配置を示している。
【0040】
損失特性を測定する対象となるN×N周回性AWG20は、例えば、グリッド間隔がX GHzのものであるとする。これに対応して、X GHz刻みでN通りに波長を変化させること波長可変光源21がN個設けられている。N個の波長可変光源21からの光は、1対N分岐カプラ22によって合波された後、次に、もう1つの1対N分岐カプラ23によって、周回性AWG20のN個の入力ポート[1]〜[N]に分配される。周回性AWG20のN個の出力ポート[1]〜[N]の各々から出射する光のパワーを測定する光パワーメータ24が設けられており、光パワーメータ24での測定結果はパワー調整装置25に送られる。パワー調整装置25は、光スイッチ装置での前段の周回性AWGの出力ポートと後段の周回性AWGの入力ポートとの間の接続構成を決定し、各波長可変光源のパワーを調整するものであって、光パワーメータ24からの測定結果を記憶するパワー記憶部31と、パワー記憶部31に記憶された測定結果に基づいて、周回性AWG20での各入力ポートと各出力ポートとの間の損失量を計算する損失量計算部32と、出力ポートと入力ポートとの接続関係を決定し、さらに波長可変光源21を制御して波長可変光源21のパワーを決定するパワー調整部33と、を備えている。
【0041】
この構成では、N×N周回性AWG20の透過波長となるλ1〜λNのN通りの波長に関し、パワー調整部33によりN個の波長可変光源21において順番にこれらN通りの波長を発光させ、これらを同時に周回性AWG20のN個の入力ポートに導入することにより、光パワーメータ24によって、周回性AWG20のN個の出力ポートについて同時に受光パワーを測定する。受光パワーの測定結果は、パワー調整装置25に送られてパワー記憶部31内に記憶される。損失量計算部32は、パワー記憶部31を参照して、周回性AWG20での各入力ポートと各出力ポートとの間の損失量を計算する。次に、パワー調整部33は、計算された損失量に基づいて、上述したように、前段の周回性AWGのどの出力ポートと後段の周回性AWGのどの入力ポートとを接続すればよいかを決定する。前段の周回性AWGと後段の周回性AWGの接続関係が決定すれば、損失量計算部32で求めた損失量に基づいて、周回性AWGを2段接続したときに前段の周回性AWGの入力ポートから後段の周回性AWGの出力ポートまでの波長ごとの損失量が計算できるから、パワー調整部33は、上述した手順に従い、平均値L1〜LNを求め、光スイッチ装置における各波長可変光源の利得電流量を算出する。
【0042】
このようにしてこの実施形態では、N×N周回性AWGのポート間損失差を求め、2つの周回性AWGを通過後の出力パワーの最大値と最小値の差が最も小さくなるようなN×N周回性AWG間の接続構成の決定と、光源出力パワーの調整を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0043】
11,21 波長可変光源
12,14,20 N×N周回性AWG(アレイ導波路回折格子)
13 変調器
15 光受信器
22,23 1対N分岐カプラ
24 光パワーメータ
25 パワー調整装置
31 パワー記憶部
32 損失量計算部
33 パワー調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周回性AWGと、前記第1の周回性AWGの各入力ポートにそれぞれ接続する波長可変光源と、第2の周回性AWGと、前記第1の周回性AWGと前記第2の周回性AWGとの間に設けられた外部変調器と、を備え、多波長一括変調によるマルチキャストを行う光スイッチ装置において、
前記第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最小である出力ポートを前記第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最大である入力ポートに接続する第1の接続形態、あるいは、前記第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最大である出力ポートを前記第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最小である入力ポートに接続する第2の接続形態、のいずれかが選択され、前記選択された接続形態での接続に対して並行関係となるように、前記第1の周回性AWGの他の出力ポートと前記第2の周回性AWGの他の入力ポートとが接続された、光スイッチ装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の接続形態のうち、対応する出力ポートの平均挿入損失と対応する入力ポートの平均挿入損失との和において損失が小さい方の接続形態が選択される、請求項1に記載の光スイッチ装置。
【請求項3】
第1の周回性AWGと、前記第1の周回性AWGの各入力ポートにそれぞれ接続する波長可変光源と、第2の周回性AWGと、前記第1の周回性AWGと前記第2の周回性AWGとの間に設けられた外部変調器と、を備え、多波長一括変調によるマルチキャストを行う光スイッチ装置を構成及び調整する方法において、
前記第1及び第2の周回性AWGに用いる周回性AWGでの入力ポートの各々と出力ポートの各々との間の挿入損失を測定する測定段階と、
前記測定結果に基づき、前記第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最小である出力ポートを前記第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最大である入力ポートに接続する第1の接続形態、あるいは、前記第1の周回性AWGの出力ポートのうち平均挿入損失が最大である出力ポートを前記第2の周回性AWGの入力ポートのうち平均挿入損失が最小である入力ポートに接続する第2の接続形態、のいずれかを選択して、前記選択した接続形態での接続に対して並行関係となるように、前記第1の周回性AWGの他の出力ポートと前記第2の周回性AWGの他の入力ポートとを接続する接続段階と、
前記測定結果に基づき、前記各波長可変光源ごとの当該波長可変光源から前記第2の周回性AWGの各出力ポートまでの損失量の平均値を算出する平均値算出段階と、
前記平均値に基づき、前記第2の周回性AWGの各出力ポートから出力される光パワーの最大値と最小値との差が最小化されるように、前記各波長可変光源の利得電流量を決定する決定段階と、
を有することを特徴とする、光スイッチ装置を構成及び調整する方法。
【請求項4】
前記挿入損失の測定は、複数の波長可変光源と前記波長可変光源の出力光を合波する第1のカプラと前記第1のカプラからの出力光を測定対象の周回性AWGの複数の入力ポートに分解する第2のカプラとを使用し、
前記複数の波長可変光源において出力光の波長を変化させながら、前記測定対象の周回性AWGの複数の出力ポートにおける光パワーを同時に測定することによって行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記決定段階において、前記平均値算出段階で算出された各波長可変光源ごとの平均値のうち損失が最も大きいものと、当該損失が最も大きい平均値に対応した波長可変光源の出力パワーとの和を求めて基準値とし、各波長可変光源ごとに当該波長可変光源の前記平均値と出力パワーとの和が前記基準値となるように、各波長可変光源の利得電流量を減少させる、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記決定段階において、前記平均値算出段階で算出された各波長可変光源ごとの平均値のうち損失が最も小さいものと、当該損失が最も小さい平均値に対応した波長可変光源の出力パワーとの和を求めて基準値とし、各波長可変光源ごとに当該波長可変光源の前記平均値と出力パワーとの和が前記基準値となるように、各波長可変光源の利得電流量を増加させる、請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
前記決定段階において、前記平均値算出段階で算出された各波長可変光源ごとの平均値のさらに平均値を求めて基準値とし、各波長可変光源ごとに当該波長可変光源の前記平均値が前記基準値となるように、各波長可変光源の利得電流量を減少させる、請求項3または4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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