説明

光ディスク記録媒体、光ディスク製造方法

【課題】カバー層、ハードコート層を有する層構造の光ディスク記録媒体を、効率がよく、安価に、高品質に製造することが出来るようにする。
【解決手段】ディスク基板(成形樹脂基板1)と、記録層L0,L1,L2,L3と、カバー層2と、表面保護のためのハードコート層3を備えた層構造において、カバー層2は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成され、ハードコート層3は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成される。そしてカバー層2とハードコート層3を合わせた膜厚が、ディスク中央部から周辺部にかけて略均一とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク記録媒体の構造及び光ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2003−22586号公報
【特許文献2】特開2007−257759号公報
【特許文献3】特開平8−164355号公報
【特許文献4】特開平9−173946号公報
【特許文献5】特開2002−153800号公報
【特許文献6】特開2006−95452号公報
【特許文献7】特開2008−21353号公報
【0003】
近年、光学的な情報記録方式のメディアの一つである光ディスクは、パーソナルコンピュータの普及や、地上波デジタル放送の開始と普及、ハイビジョンテレビの一般家庭への普及の加速に伴い、高密度記録、大容量化が進んでいる。例えばCD(Compact Disc)からDVD(Digital Versatile Disc)、そしてブルーレイディスク(Blu-ray Disc(登録商標))と、より多くの情報を記録可能とした光ディスク記録媒体が提供されている。また現在でも、さらなる記録密度の大容量化が求められている。
【0004】
大容量の光ディスク記録媒体としてのブルーレイディスクは、直径が約12cm、厚みは約1.2mmの光ディスクである。その厚み方向の層構造としては、約1.1mmの基板上の凹凸形状に金属薄膜や誘電体膜などを積層して記録層を形成する。そして厚み約0.1mmのカバー層を設けるなどして構成されている。このようなブルーレイディスクは、約25GB(Giga Byte)の記録容量を備える。
【0005】
また、更なる大容量化のために、記録層を複数設ける多層ディスクも開発されている。
多層のブルーレイディスクの製造方法は、例えば上記特許文献1に記載されているが、一般的には次のようにしてなされる。
一例として記録層が2つある2層ディスクの製造方法について説明する。
まず、片面に凹凸形状からなるピットや案内溝(グルーブ)を有する厚み約1.1mmの成形樹脂基板(ディスク基板)上に金属薄膜や熱記録が可能な薄膜材料などを形成し、第1の記録層L0を形成する。
次に、記録層を隔てる数μmから数十μmの厚みを有するスペーサ層を前記基板の記録層上に形成する。
次に、そのスペーサ層の上に片面にピットや案内溝などの凹凸形状を有するスタンパーを押圧することによるピットや案内溝をスペーサ層上に転写する。
次に、スペーサ層の上に転写されたピットや案内溝上に、記録再生するレーザ光の波長に対して所定の透過率を有する金属薄膜あるいは熱記録が可能な薄膜材料を形成し、第2の記録層L1を形成する。
そして第2の記録層を保護する保護層(カバー層)を第2の記録層上に形成する。
【0006】
2層以上の多層化を図る場合は、例えば上記特許文献2に記載されているように、信号の記録再生時の層間クロストークを考慮しつつ、上記の第2の記録層L1の形成工程を数回繰り返し、例えば第3,第4の記録層L2,L3を順に積層することで可能となる。
【0007】
このようにして形成される多層のブルーレイディスクは、ディスクの傾きによる信号劣化の影響を低減するために、積層された記録層を0.1mmの範囲内に形成することが求められる。
そして上記2層ディスクでは第1の記録層L0と、数ミクロンから数十ミクロンのスペーサ層を介して第2の記録層L1が形成され、その上に光透過性の保護層で構成される。
【0008】
また、上記多層のブルーレイディスクは、基板の最内周から最外周にかけて均質な記録かつまた読み出しのために、第1の記録層L0と第2の記録層L1の間に設定されるスペーサ層の光学的特性および物理的形状の均質性と均一性が求められる。その上面に連続して形成される保護層(カバー層)についても光学的特性および物理的形状の均質性と均一性が求められる。同時に安価なメディア製造方法が期待されている。
さらに、これら光ディスク記録媒体は、長期保存の用途がその使用目的の重要なひとつであるから、長期にわたって、記録情報が保持されることが期待される。このため高温多湿環境や、低温環境下でも良好な記録特性を保持可能な多層構造が求められる。
【0009】
上記のように、1又は複数の記録層より表面側(レーザ入射面側)には、記録層の保護層として光透過性の樹脂層であるカバー層が形成されるが、光透過性樹脂を所定面積に塗布する技術として、スピンコート法が知られている。
【0010】
このスピンコート法では、いかにして均一な塗膜を作成するかが重要な課題であり、上記特許文献3〜7に、各種技術が開示されている。例えば高速回転時の気流を均一にして膜厚を一様にする工夫(特許文献3)や、基板中央部の塗布膜厚の不均一性の改善に、回転軸を傾斜させて遠心力のほかに重力も利用する方法(特許文献4,5,6)が提案されている。また特許文献7では、カバー層を第1層のスピンコートと第2層のスピンコートで形成し、2層構成のカバー層の厚みを均一化する技術が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
カバー層の厚みの均一化は、正確な情報の記録再生という点でも重要な要素となっているが、このように従来より、スピンコート法によってカバー層を形成する際に、ディスク基板の内周から外周にかけて一様に塗膜が形成されるように各種の工夫がなされていた。
また、カバー層に加えて、カバー層の表面(レーザ入射面側)に、表面保護のために1〜5μm程度の厚みのハードコート層を形成することも行われている。いわゆるベアディスク状態でのユーザの取り扱い時を考慮し、表面強度を向上させる材料による保護層を加えるものである。このハードコート層についてもスピンコートで形成されるが、厚みの均一化が求められる。
【0012】
このため、カバー層形成時や、ハードコート層形成時には、塗布膜厚を一様とするために塗布装置やIRヒーターによる熱線の管理など緻密な制御が必要となっていた。このため製造工程上の難易度が増し、また製造効率の低下やコスト上の不利が生ずるという問題があった。
そこで本発明は、カバー層、ハードコート層を有する層構造の光ディスク記録媒体を、効率がよく、安価に、高品質に製造することが出来るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光ディスク記録媒体は、ディスク基板と、上記ディスク基板の一面側に形成される少なくとも1つの記録層と、上記記録層のレーザ入射面側に形成される光透過型の樹脂層であるカバー層と、上記カバー層のレーザ入射面側において表面保護のために形成される光透過型の樹脂層であるハードコート層を備える。そして上記カバー層は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成され、上記ハードコート層は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成され、上記カバー層と上記ハードコート層を合わせた膜厚が、ディスク中央部から周辺部にかけて略均一とされている。
また上記ディスク基板と上記カバー層の間に、上記記録層として複数の記録層が形成されている。
また上記カバー層は、その中央部の厚みに対して外周部の厚みが90%以上となる傾斜率で、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成されている。
また上記ハードコート層は、その中央部の厚みに対して外周部の厚みが300%以下となる傾斜率で、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成されている。
【0014】
本発明の光ディスク製造方法は、ディスク基板を成型する工程と、上記ディスク基板の一面側に少なくとも1つの記録層を形成する工程と、上記記録層のレーザ入射面側において、光透過型の樹脂層であるカバー層を、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成する工程と、上記カバー層のレーザ入射面側において、表面保護のための光透過型の樹脂層であるハードコート層を、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなり、上記カバー層と上記ハードコート層を合わせた膜厚が、ディスク中央部から周辺部にかけて略均一となるように形成する工程とを有する。
【0015】
即ち本発明では、カバー層を形成する際、その膜厚が均一となるようにはせず、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成する。そしてハードコート層については、逆にディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくようにし、カバー層とハードコート層のトータルでの厚みを均一化する。
スピンコートにより膜形成する場合、樹脂材料の別や回転速度等によるが、一般に外周側が厚くなるのが自然である。このため、膜厚を均一化するためには緻密な制御が必要となっていたわけであるが、カバー層の厚みをディスク外周側で薄くなるようにするには、均一化制御と同じくIRヒーターによる熱線の管理などで可能である。一方、ハードコート層については、スピンコートで自然に外周側が厚くなることを利用するため、特に緻密な管理は必要ない。例えば回転数の設定のみで、カバー層の傾斜に対応する傾斜の厚み変化を実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光ディスク記録媒体を、効率がよく、かつプロセス整合性良く、安価に、高品質に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。実施の形態としては、記録層が4層形成される多層光ディスクを挙げる。
まず図1(a)(b)に本例の光ディスクの層構造を模式的に示して説明する。
図1(a)は、4つの記録層L0,L1,L2,L3を有する本例の光ディスクの断面の一部を示したものである。
本例の光ディスクは、厚みが1.1mmで、外径が約120mmの円盤状の成形樹脂基板(ディスク基板)1の一面側に4つの記録層L0,L1,L2,L3が形成されている。なお図面上、上方が、記録再生時にレーザ光が入射されるレーザ入射面である。
【0018】
図1(a)に示すように、1.1mm厚の成形樹脂基板1上に第1の記録層L0が成膜される。そして所定の膜厚(例えば19μm)の第1のスペーサ層4を介して第2の記録層L1が成膜される。
また、所定の膜厚(例えば11μm)の第2のスペーサ層5が形成され、次に、第3の記録層L2が成膜される。さらに所定の膜厚(例えば15μm)の第3のスペーサ層6が形成され、次に第4の記録層L3が成膜される。
そして所定の膜厚(例えば53μm)のカバー層2が形成され、さらに指紋や汚れ傷への耐性の強いハードコート層3を2μm厚程度で形成して、4層の光ディスクが構成される。即ち、成形樹脂基板上において、約100μmの厚みの間に記録層L0、スペーサ層4、記録層L1、スペーサ層5、記録層L2、スペーサ層6、記録層L3、カバー層2、ハードコート層3が形成されることになる。
【0019】
図1(b)に、この100μmの厚みの間の記録層L0からハードコート層3までの詳細な構造を示している。これは、光ディスクを追記型ディスクとした場合の例である。
図からわかるように、記録層L0,L1,L2,L3は、それぞれ誘電膜11、記録膜12、誘電膜13、反射膜14が成膜されて成る。ここで記録層L0,L1,L2,L3のそれぞれにおける記録膜12は、追記型相変化材料からなる記録膜で、読み取り時の各層からの信号量が同等となるように膜設計される。
【0020】
(誘電膜)
記録層L0,L1,L2,L3に用いられる誘電膜11,13の厚さは、好ましくは3nm〜100nmの範囲であり、光学特性および熱特性を考慮して決定される。
誘電膜11,13の材料としては、記録再生用レーザの波長に対して吸収能の低い材料が好ましく、具体的には、消衰係数Kの値が0.2以下である材料が好ましい。かかる材料としては、例えばZnS−SiO2 混合体(好ましくは、モル比4:1)を挙げることができる。ZnS−SiO2 混合体以外にも、従来から光ディスク記録媒体の誘電膜の材料として用いられている公知のものを用いることも可能である。
【0021】
例えば、Al、Si、Ta、Ti、Zr、Nb、Mg、B、Zn、Pb、Ca、La、Ge等の金属および半金属等の元素の窒化物、酸化物、炭化物、フッ化物、硫化物、窒酸化物、窒炭化物、酸炭化物等およびこれらを主成分と材料を用いることができる。好ましくは、AlNX(0.5≦X≦1)、AlN、Al23-X (0≦X≦1)、Al23 、Si34-X (0≦X≦1)、SiOX (1≦X≦2)、SiO2 、SiO、MgO、Y23、MgAl24 、TiOX(1≦X≦2)、TiO2 、BaTiO3 、StTiO4、Ta25-X (0≦X≦1)、Ta25、GeOX (1≦X≦2)、SiC、ZnS、PbS、Ge−N、Ge−N−O、Si−N−O、CaF2 、LaF、MgF2 、NaF、ThF4等を用いることができる。
【0022】
(記録層)
記録層L0,L1,L2,L3に用いられる記録膜12の膜厚は、好ましくは5nm〜30nmの範囲であり、例えば15nm程度である。
この記録膜12の材料としては、レーザ光の照射を受けて不可逆的な状態変化を生じる相変化材料を使用できる。このような材料としては、例えば、カルコゲン化合物または単体のカルコゲン等を使用できる。カルコゲン化合物としては、例えば、Sb、Teの共晶系材料を使用でき、好ましくは、Geなどの添加元素が添加されたSb、Teの共晶系材料を使用できる。
【0023】
例示するならば、Ge−Sb−Te、Sb−Te、In−Sb−Te、Ag−In−Sb−Te、Au−In−Sb−Te、Ge−Sb−Te−Pd、Ge−Sb−Te−Se、Ge−Sb−Te−Bi、Ge−Sb−Te−Co、Ge−Sb−Te−Auを含む系、またはこれらの系に窒素、酸素などのガス添加物を導入した系等を挙げることができる。
添加元素を記録膜12に添加すると、信頼性などの特性を向上できる一方、信号特性の低下を招いてしまう。この点を考慮すると、記録膜12における添加元素の量は10atm%以下にすることが好ましい。
【0024】
(反射膜)
記録層L0,L1,L2,L3に用いられる反射膜14の厚さは、好ましくは3nm以上であり、より好ましくは5nm〜60nmの範囲である。反射膜14の反射率は、各記録層L0,L1,L2,L3毎に、それぞれ適切な反射率に設計される。
反射膜14の材料としては、例えば金属または半金属を使用できる。反射膜の材料は、反射能および熱伝導率を考慮して選ぶことが好ましく、例えば、記録再生用レーザ光の波長に対して反射能を有し、熱伝導率が0.0004[J/(cm・K・s)]〜4.5[J/(cm・K・s)]の範囲にある金属元素、半金属元素およびそれらの化合物あるいは混合物である。
【0025】
具体的に例示するならば、反射膜14の材料としては、Al、Ag、Au、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Ge等の単体、またはこれらを主成分とする合金を挙げることができる。これらのうち、特にAl系、Ag系、Au系、Si系、Ge系の材料が実用性の面から好ましい。合金としては、例えばAl−Ti、Al−Cr、Al−Cu、Al−Mg−Si、Ag−Pd−Cu、Ag−PdTi、Si−B等が好適に用いられる。
【0026】
これらの材料のうちから、光学特性および熱特性を考慮して設定することが好ましい。例えば、単波長領域においても高反射率を有する点を考慮すると、Al系またはAg系材料を用いることが好ましい。一般には反射膜の膜厚を光が透過しない程度の厚さ、例えば50nm以上に設定すると、反射率を高くすることができ、且つ、熱を逃げやすくできる。反射膜の膜厚を適度な厚さ、例えば10nm程度に設定すると、透過率を上げつつ、熱の逃げを確保することができる。
【0027】
また、反射膜14は単層の構造に限られず、例えば金属または半金属よりなる層(反射層)を2層積層した積層構造とすることも可能であり、さらに、2層以上の多層構造とすることも可能である。これにより光学設計がし易くなり、且つ、熱特性とのバランスも取り易くなる。なお、誘電体層と反射層の間に、SiN膜などからなるバリア層を設けてもよい。
【0028】
(スペーサ層)
各記録層L0,L1,L2,L3の間には、スペーサ層4,5,6が形成される。
この各スペーサ層4,5,6は、光ディスク記録媒体の多層構造を形成する紫外線感光性を有する光透過性の材料をスピンコート法で回転塗布され紫外線の照射で硬化して配置される。多層の光ディスク記録媒体から情報信号の記録再生をする場合、このスペーサ層4,5,6の配置と膜厚は、層間クロストークを抑制する目的で設定される。
【0029】
(カバー層)
カバー層2は、光ディスクの保護を目的として形成される。情報信号の記録再生は、例えば、レーザ光がカバー層2を通じて記録層L0,L1,L2,L3のいずれかに集光されることによって行われる。
本例の場合、カバー層2としては、例えば紫外腺硬化樹脂のスピンコート及び紫外線照射による硬化によって形成するが、カバー層2としては、紫外線硬化樹脂とポリカーボネートシート、または接着層とポリカーボネートシート用いることができる。
カバー層2は、多層の光ディスク記録媒体では、1.1mmの成形樹脂基板1上に、多層の記録層を含めて100μmとなるように設定される。
【0030】
(ハードコート層)
ハードコート層3は、カバー層2と同様に光ディスクの保護を目的とするが、特に光ディスクに対する機械的な衝撃、傷に対する保護、さらには利用者の取り扱い時の指紋の付着などから、情報信号の記録再生品質を保護するために形成される。
ハードコート層3としては、機械的強度を向上させるためにシリカゲルの微粉末を混入したものや、溶剤タイプ、無溶剤タイプなどの紫外線硬化樹脂が用いることが出来る。
機械的強度を有し、指紋などの油脂分をはじくためには、ハードコート層3は1μmから数μmの厚さを有するようにする。
【0031】
このような層構造における本実施の形態の光ディスク製造工程を図2,図3,図4で説明する。図2,図3は光ディスク製造過程の各状態の模式図、図4は製造工程を示したフローチャートである。
なお、ここではスタンパを用いて成形樹脂基板を作成する段階から述べるが、スタンパは、これに先立つ原盤マスタリング、現像、スタンパ生成という工程を経て形成される。本例は4層ディスクであるため、スタンパとしても各記録層L0,L1,L2,L3に対応したスタンパが生成される。そして図2,図3で示すディスク製造工程は、これらのスタンパを用いることになる。
【0032】
図4(a)のステップF101として、成形樹脂基板1の成形が行われる。例えばポリカーボネート樹脂の射出成形により成形樹脂基板1を成形する。ここで成形される成形樹脂基板1は記録層L0となる凹凸パターン(グルーブ又はピットパターン)が形成されるものである。
図2(a)は成形樹脂基板1を成形する金型を概略的に示している。この金型は、下キャビティ120と上キャビティ121から成り、下キャビティ120には、記録層L0についての凹凸パターンを転写するための記録層L0用のスタンパ100が配置される。スタンパ100には、転写のための凹凸パターン100aが形成されている。
【0033】
このような金型を用いて射出成形で成形樹脂基板1を成形するが、成形される成形樹脂基板1は図2(b)のようになる。
即ちポリカーボネート樹脂による成形樹脂基板1は、その中心はセンターホール20とされるとともに、その一面側は、金型内のスタンパ100に形成された凹凸パターン100aが転写された記録層L0の凹凸パターンとなる。
【0034】
続いて図4(a)ステップF102で、記録層L0の形成が行われる。即ち成形樹脂基板1の凹凸パターン上に、スパッタリングにより、反射膜14、誘電膜13、記録膜12,誘電膜11が順に成膜され、図2(c)のように記録層L0が形成される。
次にステップF103で、スペーサ層4の形成が行われる。
この場合、図2(c)のように記録層L0が形成された基板面に、紫外線硬化型樹脂がスピンコートにより展延され、図示しない記録層L1用のスタンパが押し当てられながら紫外線が照射されることによって樹脂硬化が行われる。そしてスタンパが剥離されることで、図3(a)のように成形樹脂基板1上に、記録層L1用の凹凸パターンが形成されたスペーサ層4が形成される。
【0035】
次にステップF104で、記録層L1の形成が行われる。即ちスペーサ層4の凹凸パターン上に、スパッタリングにより、反射膜14、誘電膜13、記録膜12,誘電膜11が順に成膜され、図3(b)のように記録層L1が形成される。
その後、ステップF105でスペーサ層5の形成、ステップF106で記録層L2の形成が同様に行われ、またステップF107でスペーサ層6の形成、ステップF108で記録層L3の形成が同様に行われる。
この時点で図3(c)のように、成形樹脂基板1上に、記録層L0,L1,L2,L3が形成された状態となる。
【0036】
続いてステップF109でカバー層2が形成される。カバー層2は紫外線硬化型樹脂のスピンコート及び紫外線照射による硬化により形成される。ここで、図3(d)では説明のために極端に示しているが、カバー層2は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成される。
このステップF109の処理を図4(b)に示しているが、まずステップF109aとしてカバー層材料(紫外線硬化型樹脂)のスピンコートを行う。このときにスピンコートによる紫外線硬化型樹脂の展延に応じて、半径方向にIR(遠赤外線)ランプを移動させながら照射する。後述するが、このIRランプの移動制御によって、周辺部が薄くなるような樹脂の展延が可能となる。
そしてステップF109bで全面に紫外線照射を行い、展延された紫外線硬化型樹脂を硬化させる。以上でカバー層2が形成される。
【0037】
次にステップF110でハードコート層3を形成する。ハードコート層3は、表面保護のために適切な材料としての紫外線硬化型樹脂のスピンコート及び紫外線照射による硬化により形成される。図3(e)に示すようにハードコート層3は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成される。
このステップF110の処理を図4(c)に示す。まずステップF110aとしてハードコート材料(紫外線硬化型樹脂)のスピンコートを行う。このときには、カバー層2の場合のようなIRランプの移動照射は行わない。後述するが特に制御は行わなくとも、周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成することができる。
そしてステップF110bで全面に紫外線照射を行い、展延された紫外線硬化型樹脂を硬化させる。以上でハードコート層3が形成される。
この場合、カバー層2とハードコート層3を合わせた膜厚が、ディスク中央部から周辺部にかけて略均一となるように形成されることになる。
【0038】
その後、ステップF111で、レーベル面側(レーザ入射面側の反対面側)に防湿膜21を形成する。なお、防湿膜21を形成しない場合もある。
そしてこのように層構造が形成された成形樹脂基板1に対して、最後にステップF112でレーベル面側に印刷が行われる。例えばオフセット印刷として、レーベル面側の全面にホワイトコートを施した上に例えばカラー印刷を行い、印刷層22を形成する。
その後、検査を経て光ディスクの完成となる。
【0039】
本実施の形態の光ディスクは、以上のように製造されるが、上記のカバー層2、ハードコート層3に特徴を有するものとなる。
即ち、図5に本例の光ディスクの層構造を示すが、カバー層2は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成され、ハードコート層3は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成される。そしてカバー層2とハードコート層3を合わせた膜厚が、ディスク中央部から周辺部にかけて略均一とされている。
以下、この点について詳述していく。
【0040】
一般にスピンコート法で光硬化性の樹脂などを塗布する場合の膜厚は、次式で記述される。すなわち、
d(r)=√(3η/4ρω2t)*(1−r0/r)4/3 ・・・(式1)
ここで、
d(r):回転中心からの距離での塗布膜厚
η:粘度 mPa・s
ρ:密度 g/cm3
ω:回転角速度 2πf
t:回転時間
r0:塗布開始位置
r:回転中心からの距離
である。
【0041】
この式1の意味するところは、スピンコート法で、塗布物質の粘度と密度、塗布回転数および塗布開始位置が決まれば、基板半径方向の膜厚が決定されるという点である。
図6に塗布物質が、20,500,1000,2000mPa・s(=cP)の4種の値を持つときの、半径方向の膜厚分布の計算結果を示している。横軸は成形樹脂基板1の半径位置、縦軸は膜厚である。
この図6からは、基板中心部から周辺部にかけて膜厚が増加方向に傾斜していることがわかる。さらに塗布開始位置が回転中心と同一のとき、塗布膜厚が一様になることも類推できる。
【0042】
膜厚が周辺部にかけて増加していくことは、本来、均一な膜厚を形成したいという要請に反する。このため塗布膜厚を一様にする目的でさまざまな対応が取られている。例えばスピンコートの際に、基板の中心部に、金属製のキャップを配置し、可能な限り塗布開始位置を中心部に近づける方法や、IR(近赤外線)ランプを用いて、スピンコート中に基板の中心部から外周部に向かって掃引して膜厚分布を一様にする方法などである。
ここで本例では、カバー層2を形成する際には、このような膜厚均一化の手法を応用して、逆に基板中心部から周辺部にかけて膜厚が薄くなるようにする。
【0043】
図7にスピンコート工程を模式的に示している。カバー層2の形成のためのスピンコートの際には、上記図3(c)の状態の成形樹脂基板1がスピンコート装置内に配置され、モータ31によって高速回転される。この場合に、センターホール20の部分にはキャップ35が嵌着され、樹脂供給ノズル32から紫外線硬化型樹脂がキャップ35上に滴下される。この滴下された紫外線硬化型樹脂が、モータ31による成形樹脂基板1の回転の際の遠心力によって、成形樹脂基板1上に展延されていく。
ここで、IRランプ33が成形樹脂基板1上を半径方向に移動可能とされており、スピンコート時に移動しながら遠赤外線の照射を行う。
【0044】
膜厚は、遠心力による展延速度、赤外線照射による熱、樹脂の供給量等の各条件設定によって制御できる。膜厚均一化を目的とする場合は、樹脂供給量や回転速度の実行条件の上で、赤外線照射の熱量と、その照射位置の半径方向の移動速度を制御する。
例えばIRランプ33の移動速度を、樹脂の展延速度に合わせることで、内外周での膜厚の均一化が可能である。ここで、移動速度を展延速度に比して遅くし、半径位置毎の蓄熱を制御することで、外周部の膜厚を薄くすることが可能となる。
赤外線照射による加熱は、樹脂の粘度を下げるように作用する。従って周辺部へいくほど蓄熱量を上げ、粘度を下げていくことで、外周部を薄くできる。
このような制御を、上記図4(b)のステップF109aの段階で行う。そしてその後、ステップF109bで、UVランプ34によって紫外線照射を行い、展延された樹脂を硬化させる。
【0045】
一方、ハードコート層3の形成時には、図4(c)で述べたように、IRランプ33は用いないで、スピンコートによる樹脂の展延及び紫外線照射による硬化を行うことになる。
即ちハードコート層3の形成時には、スピンコート法による、上記式1に基づく膜厚の傾斜をつくる。
【0046】
図5には、保護層(カバー層2及びハードコート層3)の膜厚分布を示した一例である。横軸は成形樹脂基板1の半径位置、縦軸は膜厚を示す。
ここで、膜厚分布CVは、上述のように外周部にいくほど膜厚を薄くするようにして形成したカバー層2の膜厚分布を示している。
例えばこの膜厚分布CVのようにカバー層2が形成された後に、スピンコートの回転速度を3800rpm、3000rpm、2000rpm、1000rpmとした各種場合でハードコート層3を形成したときの膜厚分布を、膜厚分布(1)(2)(3)(4)として示している。膜厚分布(1)(2)(3)(4)で示す厚みは、カバー層2とハードコート層3の合計の膜厚である。
例えばこの場合、ハードコート層3のスピンコートの際の回転数を1000rpmとした場合に、光ディスク上の有効領域を含む領域(例えば半径位置23〜53mm)で、略均一な膜厚を得ることができた。即ち回転数を適切に選定するのみで、カバー層2とハードコート層3を合わせた膜厚がディスク中央部から周辺部にかけて略均一とされるように、ハードコート層3を、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成することができる。
通常、低粘度のハードコート材料のスピンコートの際には膜厚の制御が困難であるが、IRランプ33を用いるなどした特別の処理を必要としないで、一様な保護層を安価に構成することができる。
【0047】
なお、図8はカバー層2の膜厚分布CVとしての傾斜の大きさや、特定のハードコート材料という条件での実験の結果、ハードコート材料のスピンコートの回転数を1000rpmとしたときに、内外周で略均一の膜厚を形成できたものであって、カバー層2の傾斜率やハードコート材料が異なれば、ハードコート時の最適な回転数も異なっていくことになる。
【0048】
以上の説明のとおり、カバー層2の形成時には、IRランプ33を用いた膜厚制御により、外周部へいくほど膜厚を薄くする。そしてハードコート層3の形成時には、適切な回転数でスピンコートを行う。これによって結果として、カバー層2とハードコート層3を合わせた保護層としての膜厚を均一化できる。
従来は、カバー層とハードコート層をそれぞれ共に均一な膜厚で形成するために、製造工程の効率の悪化を招いていた。特に2〜数μmの膜厚であって低粘度材料を用いるハードコート層3は、均一な膜厚形成が困難であった。これに対して本例では、カバー層2の形成時には、従来の膜厚均一化の手法を応用して、外周部ほど薄くし、一方、ハードコート層3は、適切な回転数でスピンコートさせるのみで難易な膜厚制御は行わない。
このため光ディスクを、効率がよく、かつプロセス整合性良く、安価に、高品質に製造することが出来る。
【0049】
ところで、カバー層2は、その中央部の厚みに対して外周部の厚みが90%以上となる傾斜率で、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成されることが好適である。例えば図5の中央部の厚みTC1に対して、外周部の厚みTC2が90%以上とする。
なお、図8にもみられるようにディスクの最外縁部では膜厚の増大が生じ、また最内周部では膜厚が減少するが、ここでいう中央部の厚みTC1と外周部の厚みTC2とは、これらの最外縁部、最内周部を除いて、最も厚い部分の厚みと最も薄い部分の厚みとして考えればよい。
上述したように、4層ディスクの場合、カバー層2の厚みは例えば55μm前後である。この場合に、中央部の厚みに対して外周部の厚みが90%以上となるということは、最も厚い部分と最も薄い部分の厚みの差が5.5μm以内であることになる。
これは、この内外周での膜厚の差を、ハードコート層3によって埋めて合計膜厚を均一化することが容易な範囲であることを意味する。
また、ハードコート層3に着目して言えば、図5に示す中央の厚みTH1に対して外周部の厚みTH2が300%以下となる傾斜率とされることが好ましい。
これは例えば膜厚が1μm〜3μmとなるように傾斜していることを示すが、これは、あまり厚くなると良好にハードコート形成できないという事情による。
【0050】
以上、実施の形態について説明してきたが、本発明の、光ディスク記録媒体の保護層構造(カバー層及びハードコート層)は、製造プロセスでの精密制御要素をひとつ減らすことを意味しており、産業的な有為性は大きい。具体的には、コストダウンプロセスとして利用することが出来る。
また実施の形態では4層ディスクの例を挙げたが、単層ディスク、2層ディスク、3層ディスク、5層以上のディスクでも、本発明が適用できることはいうまでもない。即ち単層ディスクであれ、2層以上の多層ディスクであれ、0.1mmの範囲でメディアを形成していたことを踏襲し、記録再生特性とともに生産性にすぐれ、コストの低廉化を図ることができる多層の追記型光ディスク記録媒体、書換え型光ディスク記録媒体、読み取り専用型の光ディスク記録媒体を提供することができる。
また本発明の考え方は、ひろくスペーサ層を形成するときにも流用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態の光ディスクの層構造の説明図である。
【図2】実施の形態のディスク製造工程の説明図である。
【図3】実施の形態のディスク製造工程の説明図である。
【図4】実施の形態のディスク製造工程のフローチャートである。
【図5】実施の形態の光ディスクの説明図である。
【図6】光透過性樹脂の半径方向の膜厚分布の説明図である。
【図7】実施の形態のカバー層形成のためのスピンコートの説明図である。
【図8】実施の形態のカバー層とハードコート層による膜厚の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 成形樹脂基板、2 カバー層、3 ハードコート層、4,5,6 スペーサ層、11,13 誘電膜 12 記録膜 14 反射膜 L0,L1,L2,L3 記録層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク基板と、
上記ディスク基板の一面側に形成される少なくとも1つの記録層と、
上記記録層のレーザ入射面側に形成される光透過型の樹脂層であるカバー層と、
上記カバー層のレーザ入射面側において表面保護のために形成される光透過型の樹脂層であるハードコート層を備え、
上記カバー層は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成され、上記ハードコート層は、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成され、上記カバー層と上記ハードコート層を合わせた膜厚が、ディスク中央部から周辺部にかけて略均一とされている光ディスク記録媒体。
【請求項2】
上記ディスク基板と上記カバー層の間に、上記記録層として複数の記録層が形成されている請求項1に記載の光ディスク記録媒体。
【請求項3】
上記カバー層は、その中央部の厚みに対して外周部の厚みが90%以上となる傾斜率で、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成されている請求項2に記載の光ディスク記録媒体。
【請求項4】
上記ハードコート層は、その中央部の厚みに対して外周部の厚みが300%以下となる傾斜率で、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなっていくように形成されている請求項3に記載の光ディスク記録媒体。
【請求項5】
ディスク基板を成型する工程と、
上記ディスク基板の一面側に少なくとも1つの記録層を形成する工程と、
上記記録層のレーザ入射面側において、光透過型の樹脂層であるカバー層を、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が薄くなっていくように形成する工程と、
上記カバー層のレーザ入射面側において、表面保護のための光透過型の樹脂層であるハードコート層を、ディスク中央部から周辺部にかけて膜厚が厚くなり、上記カバー層と上記ハードコート層を合わせた膜厚が、ディスク中央部から周辺部にかけて略均一となるように形成する工程と、
を有する光ディスク製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−40075(P2010−40075A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199647(P2008−199647)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】