説明

光デジタルコヒーレント受信器

【課題】入力に雑音成分が増えても、誤り訂正が適切に行なえる光デジタルコヒーレント受信器を提供する。
【解決手段】光デジタルコヒーレント受信器内の適応等化部の後段であって、周波数オフセット推定・補償部の前段に、適応等価部の出力の信号レベルを目標値に調整するALC処理部を設ける。ALC処理部は、適応等化部からの出力の振幅値に対応する離散的なモニタ値についてサンプル数を計数するヒストグラムを生成する。そして、ヒストグラムのピーク値のモニタ値が目標値となるように、適応等化部の出力に乗算するレベル調整係数を決定し、適応等化部の出力に乗算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の実施形態は、光デジタルコヒーレント受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
クラウドコンピューティング、インターネットを利用した動画配信などの新たなサービスの普及による通信トラフィックの急激な増加が予想されている。増加を続ける通信トラフィックに対応するため、100Gbps級の信号を伝送可能な光送受信器の研究開発がおこなわれている。
【0003】
しかしながら、1波長あたりのビットレートを大きくすると、光信号対雑音比(OSNR:Optical Signal to Noise Ratio)耐力の低下や、伝送路の波長分散、偏波モード分散もしくは非線形効果などによる波形歪みによる信号品質の劣化が大きくなる。そのため、近年、OSNR耐力および伝送路の波形歪み耐力があるデジタルコヒーレント受信方式が注目されている(非特許文献1)。
【0004】
光デジタルコヒーレント受信方式では、OSNR耐力の改善とデジタル信号処理回路による波形歪み補償や光伝送路の伝播特性の時間変動に対する適応等化が可能となる為、高ビットレートの伝送でも高い特性を得ることができる。
【0005】
また、従来の光強度のON/OFFを2値信号に割り当て直接検波する方式に対して、光デジタルコヒーレント受信方式は、光強度と位相情報をコヒーレント受信方式により抽出し、抽出された強度と位相情報をADC(Analog-Digital Converter)により量子化することによって、デジタル信号処理回路にて復調を行う方式である。
【0006】
光デジタルコヒーレント受信方式にて使用される位相変調方式の一つであるDP-QPSK(Dual Polarization-Quadrature Phase Shift Keying:4値位相偏移変調)は、P偏光とS偏光それぞれについて、変調された4つの光位相(0deg, 90deg, 180deg, 270deg)に2ビットのデータを割り当てることができる。DP-QPSKでは、シンボル速度を情報の転送速度に比べて1/4に低減できるため、システムの小型化/低コスト化が可能となる。
【0007】
図1は、従来の光デジタルコヒーレント受信器の構成例を示す図である。
光デジタルコヒーレント受信器10においては、光受信データに対してADC12にて量子化処理を実施し、受信データデジタル処理部11で量子化処理後の処理をデジタルで行なう。
【0008】
受信データデジタル処理部11の振幅アンバランス補正部13は、ADC12でデジタル化された、I信号とQ信号からなる受信データのI信号振幅とQ信号振幅のアンバランスを補正する。これは、I信号振幅とQ信号振幅に大きなアンバランスがあると、後段の処理において、誤りを発生しやすくなってしまうので、これを補正するものである。振幅アンバランス補正部13で処理された信号は、固定等化部14に入力される。固定等化部14は、光ファイバからなる伝送路の特性を考慮して、受信信号に対し、分散補償や偏波モード分散、非線形効果等による波形歪の補償(等化)をデジタル処理で行なうものである。固定等化部14では、予め定められた量の等化処理を行う。これにより、光伝送路に固有の特性によって生じる分散の補償を行なう。固定等化部14から出力された信号は、サンプリング位相調整部15に入力される。サンプリング位相調整部15は、受信信号の信号値をサンプリングするタイミングを調整するものであり、サンプリング位相検出部16で検出されたサンプリング位相値に基づいて、サンプリングタイミングを調整する。サンプリングタイミングが信号の遷移タイミングになっていると、信号のサンプリング値が間違ったものになりやすいので、サンプリングタイミングが信号の遷移タイミングにならないようにするものである。
【0009】
サンプリング位相調整部15から出力された信号は、適応等化部17に入力される。適応等化部17においては、固定等化部14は補償し切れなかった、伝送路の経年劣化等の原因による波形歪を補償するものである。適応等化部17は、デジタルフィルタで構成され、タップの係数を制御することによって、波形歪を補償する。タップ係数としては、等化ウェイト演算部18において演算された重みを持つ値が設定される。適応等化部17の出力信号は、周波数オフセット推定・補償部19に入力される。周波数オフセット推定・補償部19においては、光通信システムの送信機側で使用している搬送波の周波数と、受信側で用いる局発波の周波数のずれを補償する。送信側で使用する搬送波の周波数と、受信側の局発波の周波数にずれがあると、I−Q平面にける信号点がI−Q平面上で回転してしまうので、これを防止するものである。
【0010】
周波数オフセット推定・補償部19からの出力信号は、キャリア位相オフセット推定・補償部20に入力される。キャリア位相オフセット推定・補償部20は、信号点のI−Q平面上での信号位相の90度分のオフセットを補正するものである。すなわち、周波数オフセット推定・補償部19で信号点がI−Q平面上で回転するのを防止したことにより、信号点は、I−Q平面上のいずかの場所にとどまるようになる。しかし、信号点の回転を止めたことのみでは、信号点の位相が90度回転した位置に存在しているかもしれない。したがって、この90度回転した位置に止まっているかもしれない信号点について、90度もとの位置に戻してやる処理をするものである。この90度の位相のずれは、キャリア波の位相のオフセットによって生じるので、キャリア波の位相オフセットを補償することにより、信号点の90度分の回転を元に戻すことが出来る。
【0011】
キャリア位相オフセット推定・補償部20からの出力信号は、誤り訂正符号部21に入力される。誤り訂正符号部21は、ビタビ復号やターボ復号などを行なうものであり、信号点がI−Q平面のどこの象限に存在する可能性が高いかを尤度をもって評価し、誤りを訂正するものである。
【0012】
従来技術には、以下のようなものがある。
例えば、入力信号レベル揺らぎに対応した光受信機の識別器の最適閾値設定回路方式や、無線受信機におけるAD変換器のフルスケールレンジを活用したダイナミックレンジの大きな利得制御方式、パルス信号に対応した光受信機のAGC増幅器、光受信機におけるパルス信号に対応した受光素子の保護と増幅器飽和防止回路方式などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−59309号公報
【特許文献2】特開2009−206968号公報
【特許文献3】特開平10−173456号公報
【特許文献4】特開2005−39860号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】D. Ly-Gagnon, IEEE JLT, vol.24, pp.12-21, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
光デジタルコヒーレント受信器の適応等化部(AEQ: Adaptive EQualizer)では、適用するアルゴリズムに依存して適応等化部出力信号での信号成分のレベルが変動する。適応等化処理の後段で実施する誤り訂正処理では、入力信号中の信号成分が誤り訂正処理に最適なレベル(誤り訂正符号部の回路構成によって設定される)であることが求められているが、光デジタルコヒーレント受信器での適応等化部出力信号に対して、信号成分を最適なレベルとする調整方法は従来示されていない。
【0016】
既存の信号レベルの判定方法として、適応等化部出力信号の総電力平均値を使用する方法やピーク電力の平均を使用する方法がある。適応等化部出力信号の総電力平均値を使用する方法では、信号成分と雑音成分の総電力値が一定レベルとなる適応等化アルゴリズムを適用した場合、適応等化部出力信号の総電力平均値は雑音成分まで含めた値となり、適応等化部入力信号に含まれる雑音成分に依存して適応等化部出力信号での信号成分のレベルが変動すると、信号成分のレベルを正確に判定して調整することができない。
【0017】
図2は、適応等化部入力の雑音量(すなわち、OSNR)が異なる場合の適応等化部出力の例を示している。
適応等化部出力信号の信号成分と雑音成分の総電力を一定レベルとする適応等化アルゴリズムを使用した場合に、雑音成分に依存して信号成分が変動する。図2において、OSNR100dB(雑音成分:小:図2(a))時は信号成分の平均はほぼ1.0だが、OSNR12dB(雑音成分:多:図2(b))時は信号成分の平均は1.0よりも小さくなっており、雑音成分によって信号成分のレベルが変動している。
【0018】
図3は、適応等化部入力での雑音量の違いによる適応等化部出力の課題を示す図である。
図3(a)に示されるように、OSNRが100dBの場合の適応等化部の出力は、雑音成分が少ないため、信号点の振幅が一定の値の周辺に揃っており、振幅値は、図3(a)の場合、約1.0となっている。一方、図3(b)に示されるように、OSNRが12dBの場合には、雑音成分が多く信号成分にのっているために、信号点の分布が広がっており、信号成分の振幅値の平均は、約0.85となっている。すなわち、適応等化部の入力の信号成分に雑音成分が多くのると、適応等化部の出力の信号成分の振幅が影響を受け、OSNRが良い場合と悪い場合で、信号成分にレベル差を生じる。なお、振幅値rは一般に、I信号の振幅をI、Q信号の振幅をQとすると、r=√(I+Q)で表される。ここで、I+Qは、電力値を表し、これの平方根をとることにより、振幅値が得られる。以下においても、振幅値と電力値の関係は、同様である。
【0019】
以下の実施形態では、入力に雑音成分が増えても、誤り訂正が適切に行なえる光デジタルコヒーレント受信器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以下の実施形態の一側面における光デジタルコヒーレント受信器は、光受信信号を光コヒーレント受信検波し、デジタル信号処理によって受信信号の復調を行う光デジタルコヒーレント受信器において、受信信号の波形歪を補償して出力する適応等化部と、該適応等化部の出力信号の振幅値をサンプルして、該振幅値に対応する離散値としてのモニタ値を決定する動作を繰り返し、複数回サンプル動作のうちで、前記モニタ値の異なる値がそれぞれ得られたサンプル回数が最も多いモニタ値と目標値から、前記出力信号に乗算すべきレベル調整係数を生成し、該出力信号に該レベル調整係数を乗算することで信号レベル調整を行う信号レベル調整部とを備える。
【発明の効果】
【0021】
以下の実施形態では、入力に雑音成分が増えても、誤り訂正が適切に行なえる光デジタルコヒーレント受信器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の光デジタルコヒーレント受信器の構成例を示す図である。
【図2】適応等化部入力の雑音量(OSNR)が異なる場合の適応等化部出力の例を示している。
【図3】適応等化部入力での雑音量の違いによる適応等化部出力の課題を示す図である。
【図4】本実施形態の光デジタルコヒーレント受信器のブロック構成図である。
【図5】適応等化部の構成を説明する図(その1)である。
【図6】適応等化部の構成を説明する図(その2)である。
【図7】ALC処理部のブロック構成図である。
【図8】ヒストグラムの生成方法を説明する図である。
【図9】ALC処理部の処理を示すフローチャートである。
【図10】レベル調整係数生成部でのレベル調整係数作成方法の一例を示す図である。
【図11】ヒストグラムの例を示す図である。
【図12】本実施形態の動作を説明する図(その1)である。
【図13】本実施形態の動作を説明する図(その2)である。
【図14】図2の信号図に表される信号に対し、本実施形態を適用した結果を示す図である。
【図15】レベル調整係数生成部でのレベル調整係数作成方法の別の例を説明する図である。
【図16】レベル調整係数の生成処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図4は、本実施形態の光デジタルコヒーレント受信器のブロック構成図である。
図4においては、図1と同じ構成要素には、同じ参照符号を付し、説明を省略する。
図4に示すように本実施形態では、適応等化部17と周波数オフセット推定・補償部19の間に、ALC(Automatic Level Control)処理部25を設ける。ALC処理部25は、適応等化部17からの信号の振幅値を検出することを複数のサンプルにわたって行ない、どの振幅値に何個のサンプルがあったかを示すデータを保持する。このデータはヒストグラムを構成し、このデータの中からもっともサンプル数の多かった振幅値を決定する。そして、そのサンプル数の多かった振幅値が、誤り訂正符号部21の入力の最適レベルになるように、信号レベル(振幅値)を補正するようにする。
【0024】
また、ALC処理部25には後述するように、適応等化部出力信号に対してレベルモニタ値生成部、モニタ値のヒストグラム生成部、レベル調整係数生成部およびレベル調整係数乗算処理部を設ける。
【0025】
信号レベル調整時のレベル設定値をテーブル値や数式などを用いて設定することにより、誤り訂正符号部での最適な信号レベルへ短時間での信号レベル調整を可能とする。
また、信号レベル調整時のレベル変更量をコントロールすることにより、誤り訂正符号部などALC処理部より後段処理での急峻なレベル変動による影響を緩和することを可能にする。
モニタ値のヒストグラム作成に使用する総データ数を可変とすることで、信号レベル調整間隔やモニタ値判定の信頼度を調整することを可能にする。
【0026】
図5及び図6は、適応等化部の構成を説明する図である。
適応等化部は、デジタルフィルタからなる。図5に示されるように、適応等化部は、それぞれの偏光の信号から得られたI信号とQ信号からなる複素信号を入力とする。入力信号は、1サンプル分だけ遅延させる遅延器(Tで示されている)が直列に配列された回路に入力される。各遅延器で1サンプル分ずつ遅延された信号は順次出力されるが、出力される信号には、タップ係数(フィルタ係数)が乗算器30によって乗算される。タップ係数は、フィルタ係数適用制御回路31によって制御される。タップ係数が乗算された信号は、加算器31によって加算される。加算器31の出力は、更に、加算器32によって加算され、適応等化部の出力として出力される。適応等化部の出力としては、2つの直交する偏光に対する出力信号であるE_h’とE_v’が得られる。
【0027】
タップ係数の更新は、例えば、以下の式にしたがって行なわれる。
w(n+1)=w(n)−μr(n)(|y−γ)y
【0028】
ここで、r(n)は、nサンプル目の受信信号であり、複素信号である。上付きの*は、複素共役をとることを意味する。yは、n番目の出力信号であり、w(n)は、n番目のタップ係数である。すなわち、w(n)は、現在の受信信号r(n)に乗算される現在のタップ係数であり、w(n+1)は、次の受信信号r(n+1)に乗算されるタップ係数である。γは、出力信号の電力値の目標値であり、上記式によるタップ係数の更新は、出力信号の電力値がγに近づくように動作する。γの値は、例えば、1などである。μは、タップ係数の更新を、どのぐらいの速度で行なうかというパラメータである。μが大きいほど、タップ係数の更新値が大きくなるので、タップ係数が早く新しい値に変更されるが、余り早くタップ係数を更新すると、信号の揺らぎなどによってタップ係数が激しく変動することになってしまう。すなわち、このことは、フィルタの動作として好ましくないので、μを適切な小さな値として、タップ係数が徐々に変化するように調整するものである。μの値は、例えば、0.02などである。γとμの値は、装置の設計の段階で予め設定しておく。
【0029】
図6にあるように、入力信号としては、光信号の2つの偏光に対応して、E_hとE_vとがある。このような入力信号は、偏波混合、偏波モード分散、あるいは、波長分散のために、波形歪が発生している。ここでの入力信号は、固定等化部を通った後であるので、固定的な波形歪分は補償されており、固定等化部で補償し切れなかった分の波形歪が残っている。これを図5のフィルタに通すと、最適なタップ係数となった場合波形が適切に整形され、出力信号E_h’、E_v’の電力値が一定となる。
【0030】
図7は、ALC処理部のブロック構成図である。
モニタ値生成部40において、適応等化部の出力信号を使用してモニタ値の生成を行う。モニタ値としては、QPSK信号のIQデータ電力値や振幅値などが候補となるが、以下はIQデータの振幅値での例を示す。
【0031】
モニタ値生成部40において生成したモニタ値に対してヒストグラム生成部41においてヒストグラムを生成する。ヒストグラムは、あるモニタ値を有するサンプルが何個あるかを計数することによって生成される。適応等化部から信号が出力されるたびに、モニタ値生成部40は、信号のモニタ値を生成し、そのモニタ値をヒストグラム生成部41に入力する。ヒストグラム生成部41は、モニタ値が入力されるごとに、サンプル数をカウントアップし、各モニタ値についてのサンプル数のデータを生成する。ヒストグラム生成部41は、モニタ値が入力されるごとに記憶部42にヒストグラムの情報を更新して格納する。ヒストグラムは、実際には、モニタ値に対し、モニタ値に対応するインデックス値が設定されており、各インデックス値についてサンプル数を記憶する。
【0032】
生成されたヒストグラムは、記憶部42に格納され、レベル調整係数生成部43が参照可能とする。記憶部42に格納されたヒストグラムから、レベル調整係数生成部43が、もっともサンプル数(データ数)の多いモニタ値(インデックス値からモニタ値を読み取る)を判定し、レベル調整係数を生成する。生成したヒストグラムのピーク値(もっともサンプル数の多いモニタ値)を受信信号の信号成分の信号レベル(振幅値)と判定し、信号成分の信号レベルが目標値となるようにレベル調整係数を生成する。ヒストグラムのピーク値を信号成分の信号レベルであるとみなすのは、以下のような理由による。すなわち、雑音成分はランダムに発生するので、雑音成分の振幅や発生頻度がまちまちであるため、1つの振幅に多く発生する可能性が低いと考えられる。一方、信号成分は振幅が予め決められており、規則正しく生成されるので、雑音成分が混合した信号の中にあっても、最も発生頻度の高い振幅に対応すると考えられるからである。
【0033】
レベル調整係数生成部43は、記憶部42からヒストグラムの情報を読み込み、レベル調整係数を決定すると、記憶部42に対し、ヒストグラムの情報をクリアするよう指示を出す。レベル調整係数は、レベル調整係数乗算処理部44に送られる。レベル調整係数乗算処理部44では、適応等化部の出力に、レベル調整係数を乗算して、レベル調整後出力を得る。レベル調整係数の乗算は、レベル調整係数生成部43からレベル調整係数が出力されるごとに行なう。レベル調整係数生成部43での目標(振幅)値とは、後段にて実施される誤り訂正処理を実施する際の適正な信号レベル(振幅値)(固定値を含む)である。
【0034】
図8は、ヒストグラムの生成方法を説明する図である。
ヒストグラム生成部41は、モニタ値が入力されると、モニタ値を離散的な階級に分けるための閾値とインデックス値を対応付けて保持するテーブルを参照して、現在入力されたモニタ値に対応するインデックス値を取得する(1)。次に、記憶部に格納されているヒストグラムのデータから、取得されたインデックス値に対応するデータ数(サンプル数)を読み出す(2)。そして、このサンプル数を+1だけ増加して(3)、記憶部に格納されているヒストグラム(データ数)のデータを更新する(4)。これにより、モニタ値が入力されるごとに、ヒストグラムの形が変化することになる。
【0035】
図9は、ALC処理部の処理を示すフローチャートである。
ステップS10において、適応等化部からの出力信号が得られると、ステップS13において、出力信号からモニタ値を生成する。ステップS14において、モニタ値からヒストグラムを生成(データ数を増加)し、ステップS15において、総データ数判定を行なう。総データ数判定とは、最終的にヒストグラムを構成する、記憶部に格納された総データ数が、予め決められた総データ数に至ったかを判定するものである。ステップS15の判断がNo(総データ数が予め決められた値に届いていない)の場合には、ステップS13に戻って、ヒストグラムの生成を続ける。ステップS15の判断がYes(総データ数が予め決められた値に届いた)の場合には、ステップS16において、レベル調整係数を生成する。ステップS16で生成されたレベル調整係数は、ステップS11のレベル調整係数乗算処理に渡され、適応等化部の出力信号に乗算されるレベル調整係数を更新するのに使われる。ステップS11でのレベル調整係数乗算処理により、ステップS12において、レベル調整後の出力信号が得られる。また、ステップS16において、レベル調整係数が生成されると、ステップS17において、ヒストグラムの情報をクリアし、ステップS13に戻って、新しいヒストグラムの生成を始める。
【0036】
図10は、レベル調整係数生成部でのレベル調整係数生成方法の一例を示す図である。
図10のレベル調整係数生成方法を生成方法1として説明する。生成方法1では、ヒストグラムのピーク値(もっともサンプル数の多いモニタ値(インデックス値))と目標振幅値との差分を補正するための値をレベル調整係数として採用する。レベル調整係数の値を決定する方法としては、ヒストグラムピーク値を入力としてテーブルを参照する方法や式から算出する方法などがある。
【0037】
図10では、テーブルを参照する方法を説明する。レベル調整係数生成部には、ヒストグラムのピーク値を索引できるように、ヒストグラムのインデックス値とレベル調整係数を対応付けて保持するテーブルが設けられる。レベル調整係数生成部は、ヒストグラムの情報から、データ個数が最大のインデックス値を検出する。インデックス値は、モニタ値と一対一に対応する値である。図10では、インデックス値をモニタ値に相当する値として記載している。ピーク値のインデックス値が分かると、これを用いて、テーブルを参照し、レベル調整係数を取得する。
【0038】
あるいは、レベル調整係数を、(目標振幅値)/(インデックス値)のように式を使って演算して求めても良い。図10の例では、テーブルに、レベル調整係数として、(目標振幅値)/(インデックス値)の値を登録して、参照できるようにしている。なお、ここでは仮に、目標振幅値は、0.7としている。このように、式から算出する方法の場合はテーブル部分が式によって表現される。本生成方法は初回のレベル調整係数生成時やヒストグラムの信頼度が高い(ヒストグラム生成に使用されるデータ総数が多い)場合や信号のレベル変動に対してレベル調整係数を瞬時に追従させたい場合に使用する。テーブルを用いる場合はテーブルを、式を用いる場合は式を、レベル調整係数生成部の設計の際に予め決定しておく。
【0039】
図11は、ヒストグラムの例を示す図である。
図11においては、横軸をモニタ値(振幅値)に対応したインデックス値、縦軸をモニタ値に該当したデータ個数として生成したヒストグラムを、OSNRが100dBの場合、および、OSNRが12dBの場合について示している。
【0040】
図11(a)は、OSNRが100dBの場合の適応等化部出力のヒストグラムの例である。雑音成分が少ないので、信号振幅の大きさが乱されず、振幅のインデックス値が約1.0周辺に、信号レベルが集まっている。一方、図11(b)は、OSNRが12dBの場合であり、雑音成分が多い場合の信号レベルの様子を示している。さまざまな振幅の雑音成分が信号成分にのるために、適応等化部出力の信号成分の振幅値の分布は、すそが広がった形状となる。また、適応等化部は、雑音成分も含めて出力振幅を一定にしようとするので雑音成分の影響を大きく受け、ヒストグラムに現れる信号成分の振幅値の分布のピークの位置が約0.85と小さくなっている。
【0041】
図12及び図13は、本実施形態の動作を説明する図である。
図11のヒストグラムに対して、目標値を振幅値0.7と仮に設定した場合、図12に示すようなヒストグラムのピークと目標値との差分を補正するレベル調整係数を作成する。図12(a)は、OSNRが100dBの場合であり、図12(b)は、OSNRが12dBの場合である。今の場合、目標振幅値を0.7としている。したがって、図12(a)の場合には、ピーク値1.0が0.7になるように、図12(b)の場合には、ピーク値0.85が0.7になるように、レベル調整係数を作成する。誤り訂正符号部への入力の最適値が目標値であり、今は、0.7となっているので、図12(a)の場合も、図12(b)の場合もレベル調整が必要となっている。あるいは、誤り訂正符号部への最適値を1.0と設定すれば、図12(a)の場合にはレベル調整不要で、図12(b)の場合のみレベル調整を行なう必要が生じる。
【0042】
本実施形態によれば、目標値をいずれに設定しようとも、ALC処理部が適応等化部からの信号レベルを誤り訂正符号部への最適レベルとするので、より柔軟に対応可能となっている。
【0043】
図13は、レベル調整後の信号レベル(レベル調整後出力)の分布を表す図である。
図13(a)は、OSNRが100dBの場合であり、図13(b)は、OSNRが12dBの場合である。いずれの場合も、信号レベルの分布のピーク値が目標値である0.7になるように調整されている。前述したように、信号レベルの分布のピーク値には、主に信号成分が対応すると考えられることから、信号成分が誤り訂正符号部への最適レベルに調整されたことになる。
【0044】
図14は、図2に表される信号に対し、本実施形態を適用した結果を示す図である。
図14(a)は、OSNRが100dBの場合であり、図14(b)は、OSNRが12dBの場合である。図14(a)の方が図14(b)よりも雑音成分が少ない分だけ、信号の振幅rが揃っているが、いずれの場合も、信号レベルのピーク値の振幅が、約0.7となるように調整されている様子が示されている。なお、図14において、振幅値rは、I信号の振幅をI,Q信号の振幅をQとした場合、r=√(I+Q)である。
【0045】
図15は、レベル調整係数生成部でのレベル調整係数生成方法の別の例を説明する図である。
図15のレベル調整係数生成方法を生成方法2として説明する。生成方法2では、ヒストグラムのピーク値と目標値との差分を補正するために、生成方法1によって得られたレベル調整係数を、現在使用しているレベル調整係数に任意の割合で反映し、新しいレベル調整係数として採用する。レベル調整係数を決定する方法としては、生成方法1を使用してヒストグラムのピーク値と目標値との差分を補正するレベル調整係数を仮の値として決定する。この仮の値と現在使用しているレベル調整係数との差分(Δ)を減算器50で算出し、この差分に任意の割合(係数)を乗算器51で乗算し、これを現在使用しているレベル調整係数へ加算器52で加算し(更新し)、新しいレベル調整係数とする。本生成方法はヒストグラムの信頼度が低い(ヒストグラム生成に使用されるデータ総数が少ない)場合や信号のレベル変動に対してゆっくりとレベル調整係数を追従させたい場合に使用する。
【0046】
図15で演算される値の例を以下に示す。
例1)
レベル調整係数(現使用値):0.7
レベル調整係数(仮の値) :0.8
任意割合 :0.5
Δ(レベル調整係数) = 0.8−0.7= 0.1
レベル調整係数(更新値) = 0.7+0.1×0.5 = 0.75
【0047】
例2)
レベル調整係数(現使用値):0.8
レベル調整係数(仮値) :0.7
任意割合 :0.5
Δ(レベル調整係数) = 0.7−0.8= −0.1
レベル調整係数(更新値) = 0.8+(−0.1)×0.5 = 0.75
【0048】
図16は、レベル調整係数の生成処理を説明するフローチャートである。
上記において示したレベル調整係数の生成方法1および2は、単独もしくは組み合わせて使用することが可能である。図16のフローチャートでは、生成方法1と2を組み合わせて使用する場合の処理の流れを説明する。
【0049】
図16のフローチャート中において、レベル調整係数更新処理がスタートすると、ステップS20において、初回のヒストグラムを生成する。以前にレベル調整係数の生成は行なわれていなかった場合、少ない総データ数で初回のヒストグラムを生成する。少ない総データ数とは、例えば、数万個などである。これは、初回では、早めにレベル調整係数を生成して、早く通常処理に移るためである。ステップS21において、係数生成方法1によって初回のレベル調整係数を生成する。係数生成方法1を使用するのは、今回の係数生成が初めてなので、以前に生成された係数が無いからである。ステップS22において、初回係数生成完了を待つ。
【0050】
ステップS23において、2回目以降、通常ヒストグラムを生成する。この場合には、初回のヒストグラムの生成に使った総データ数より多いデータ数を用いる。ヒストグラムの生成に使用する総データ数は、例えば、数百万個などである。通常処理の場合に、多くのデータ数でヒストグラムを生成するのは、データ数を多くすることで、ヒストグラムのピーク値の検出の信頼度を上げて、レベル調整係数の精度を上げるためである。ステップS24において、生成方法2でレベル調整係数を生成する。これは、レベル調整係数の変化をゆっくりと信号レベルの変化に追従させるためである。レベル調整係数を急激に信号レベルの変化に追従させると、雑音成分の影響で動作が激しく揺らいでしまう可能性があるので、通常処理においては、生成方法2を使用する。ステップS24の係数更新続行判定ではレベル調整開始からの時間や上位システムからの指示を受けて係数生成を継続するか否かを決定する。ステップS24で、続行すると決定された場合には、ステップS23に戻って、係数更新を続ける。終了すると決定された場合には、処理を終了する。
【0051】
このように、ヒストグラム生成に使用するモニタ値のデータ総数は可変とし、信号レベル調整間隔やモニタ値判定の信頼度を調整する。
生成したレベル調整係数をレベル調整係数乗算処理部にて適応等化部出力に乗算し、レベル調整後出力を生成する。
【0052】
以上詳述したように、本実施形態によれば光デジタルコヒーレント受信器での最適な適応等化部出力信号のレベル調整が実現できる。
【符号の説明】
【0053】
10 光デジタルコヒーレント受信器
11 受信データデジタル処理部
12 ADC
13 振幅アンバランス補正部
14 固定等化部
15 サンプリング位相調整部
16 サンプリング位相検出部
17 適応等化部
18 等化ウェイト演算部
19 周波数オフセット推定・補償部
20 キャリア位相オフセット推定・補償部
21 誤り訂正符号部
25 ALC処理部
30 乗算器
31、32 加算器
40 モニタ値
41 ヒストグラム生成部
42 記憶部
43 レベル調整係数生成部
44 レベル調整係数乗算処理部
50 減算器
51 乗算器
52 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光受信信号を光コヒーレント受信検波し、デジタル信号処理によって受信信号の復調を行う光デジタルコヒーレント受信器において、
受信信号の波形歪を補償して出力する適応等化部と、
該適応等化部の出力信号の振幅値をサンプルして、該振幅値に対応する離散値としてのモニタ値を決定する動作を繰り返し、複数回サンプル動作のうちで、前記モニタ値の異なる値がそれぞれ得られたサンプル回数が最も多いモニタ値と目標値から、前記出力信号に乗算すべきレベル調整係数を生成し、該出力信号に該レベル調整係数を乗算することで信号レベル調整を行う信号レベル調整部と、
を備えることを特徴とする光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項2】
前記信号レベル調整前の前記適応等化部の前記出力信号を用いて、前記モニタ値を取得することを特徴とする請求項1に記載の光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項3】
前記目標値が、前記信号レベル調整部の後段に設けられる誤り訂正符号部への入力の最適値に対応することを特徴とする請求項1に記載の光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項4】
前記複数回としての総サンプル数を、最初に前記レベル調整係数を生成する場合と、2回目以降に該レベル調整係数を生成する場合とで異ならせることを特徴とする請求項1に記載の光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項5】
前記信号レベル調整部は、
前記サンプル数の最も多い前記モニタ値と目標値との差分を、前記レベル調整係数と対応付けて保持するテーブルを備え、
該テーブルを参照することによって、該レベル調整係数を決定することを特徴とする請求項1に記載の光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項6】
前記信号レベル調整部は、
前記サンプル数の最も多い前記モニタ値と目標値との差分から前記レベル調整係数を算出する式を保持し、
該式を用いて、該レベル調整係数を決定することを特徴とする請求項1に記載の光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項7】
前記式は、(レベル調整係数)=(目標値)/(サンプル数の最も多いモニタ値)で与えられることを特徴とする請求項6に記載の光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項8】
前記乗算によって決定されたレベル調整係数の一定割合を現在使用している前記レベル調整係数へ反映することで更新後のレベル調整係数を決定することを特徴とする請求項1に記載の光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項9】
前記レベル調整係数を初めて決定した場合には、該決定された該レベル調整係数を用いて、信号レベル調整を行い、2回目以降のレベル調整係数の決定においては、新しく決定されたレベル調整係数の一定割合を現在使用している前記レベル調整係数へ反映することで更新後のレベル調整係数を決定することを特徴とする請求項1に記載の光デジタルコヒーレント受信器。
【請求項10】
光受信信号を光コヒーレント受信検波し、デジタル信号処理によって受信信号の復調を行う光デジタルコヒーレント受信器における処理方法であって、
受信信号の波形歪を補償して出力し、
該適応等化部の出力信号の振幅値をサンプルして、該振幅値に対応する離散値としてのモニタ値を決定する動作を繰り返し、
複数回サンプル動作のうちで、前記モニタ値の異なる値がそれぞれ得られたサンプル回数が最も多いモニタ値と目標値から、前記出力信号に乗算すべきレベル調整係数を生成し、
該出力信号に該レベル調整係数を乗算することで信号レベル調整を行う、
ことを特徴とする処理方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図2】
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【図3】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−114599(P2012−114599A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260621(P2010−260621)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】