説明

光ピックアップ、対物レンズ駆動装置及び光ディスク装置

【課題】簡易な構成で、対物レンズをラジアル方向及びタンジェンシャル方向にチルト駆動させ得るようにする。
【解決手段】レンズホルダ11を弾性支持する複数本のサスペンションワイヤ15の一部を、駆動電流が通電されることによる発熱に応じて全長が短縮する形状記憶合金で形成した。この、形状記憶合金で形成したサスペンションワイヤ15uR及び15uL、又は15dR及び15dLに駆動電流を通電することによりその全長を短縮させて、レンズホルダ11と共に対物レンズ9をチルトさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ピックアップ、対物レンズ駆動装置及び光ディスク装置に関し、対物レンズを光ディスクに追従してチルトする光ピックアップに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスク装置の対物レンズに対して光ディスクが相対的に傾斜(チルト)すると、この影響によって光ビームのスポットにコマ収差が発生する。そして、このコマ収差の影響によって検出信号の品質が悪化し、安定した記録や再生動作を行い得なくなるという問題がある。
【0003】
このため対物レンズの駆動装置(アクチュエータ)において、対物レンズをフォーカス方向に駆動するためのフォーカシングコイルを2組設け、この2組が互いに逆方向の推力が発生するよう駆動電流を加えることにより、当該対物レンズを光ディスクのラジアル方向にチルトさせて、光ディクスのチルトを補償し得るようになされた3軸アクチュエータが広く利用されている。
【0004】
この3軸アクチュエータを備えた光ディスク装置では、光ピックアップからの信号出力や別途設けられたチルトセンサによって光ディクスのラジアル方向のチルト量を検出し、当該検出したチルト量に応じて対物レンズをラジアル方向にチルトさせることにより、記録面に対する光ビームの垂直性を保ち、スポットに生じるコマ収差を抑制するようになされている。
【0005】
ところで近年、記録容量を高めることを目的として種々の光ディスクが提案されている。例えばブルーレイディスク(登録商標、以下BDとも呼ぶ)は、光ビームの光源として青色レーザダイオードを用い、この光ビームを大開口数の対物レンズで集光することにより記録密度を向上させ、例えばDVD等の従来の光ディスクに比して格段に大きな記録容量を実現している。
【0006】
ここで、上述したコマ収差は、対物レンズ開口数の3乗に比例し、基板厚さとディスク傾き角に比例し、光ビームの波長に反比例する。このため、ブルーレイディスクのような大記録容量の光ディスクでは、光ディスクのチルトによって発生するコマ収差が大きくなり、このことはチルトに対する許容量が小さいことを意味する。
【0007】
このため、対物レンズをラジアル方向及びタンジェンシャル方向(トラックと平行な方向)の双方にチルトし得る4軸アクチュエータを備えた光ピックアップが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
この4軸アクチュエータは、レンズホルダを弾性支持するサスペンションワイヤが取り付けられたサスペンションベースを、チルトコイルによってタンジェンシャル方向に傾斜させることにより、サスペンションベース、サスペンションワイヤ及びレンズホルダを一体でタンジェンシャル方向にチルトさせるようになされている。
【特許文献1】特開2001−110075公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上述した構成の4軸アクチュエータを備えた光ピックアップでは、サスペンションベース、サスペンションワイヤ及びレンズホルダを一体でチルトさせることから、光ピックアップが大型化してしまうとともに、別途チルトコイルを設ける必要があるため光ピックアップが複雑化してしまうという問題があった。
【0010】
また、タンジェンシャル方向のチルト駆動のためのコイル及びマグネットを従来の3軸アクチュエータに付加して、4軸アクチュエータを構成することも考えられるが、この場合、各コイルの磁気回路が相互に干渉するため、設計が困難であるとともに、4軸アクチュエータが大型化してしまうという問題があった。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、簡易な構成で、対物レンズをチルト駆動させ得る光ピックアップ、対物レンズ駆動装置、及び光ディスク装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明の光ピックアップにおいては、対物レンズを保持するレンズホルダと、レンズホルダを弾性支持する複数本のサスペンションワイヤと、レンズホルダに設けられ、対応するサスペンションワイヤを介して駆動電流が供給されるコイルと、コイルに対向して設けられたマグネットとを設け、サスペンションワイヤの一部を、駆動電流が通電されることによる発熱に応じて全長が短縮する形状記憶合金で形成した。
【0013】
形状記憶合金で形成したサスペンションワイヤに駆動電流を通電することによりその全長を短縮させて、レンズホルダと共に対物レンズをチルトさせることができる。
【0014】
また、本発明の対物レンズ駆動装置においては、対物レンズを保持するレンズホルダと、レンズホルダを弾性支持する複数本のサスペンションワイヤと、レンズホルダに設けられ、対応するサスペンションワイヤを介して駆動電流が供給されるコイルと、コイルに対向して設けられたマグネットとを設け、サスペンションワイヤの一部を、駆動電流が通電されることによる発熱に応じて全長が短縮する形状記憶合金で形成した。
【0015】
形状記憶合金で形成したサスペンションワイヤに駆動電流を通電することによりその全長を短縮させて、レンズホルダと共に対物レンズをチルトさせることができる。
【0016】
また、本発明の光ディスク装置においては、対物レンズを保持するレンズホルダと、レンズホルダを弾性支持する複数本のサスペンションワイヤと、サスペンションワイヤに駆動電流を供給する駆動電流供給手段と、レンズホルダに設けられ、対応するサスペンションワイヤを介して駆動電流が供給されるコイルと、コイルに対向して設けられたマグネットとを設け、サスペンションワイヤの一部を、駆動電流が通電されることによる発熱に応じて全長が短縮する形状記憶合金で形成した。
【0017】
形状記憶合金で形成したサスペンションワイヤに駆動電流を通電することによりその全長を短縮させて、レンズホルダと共に対物レンズをチルトさせることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、対物レンズを保持するレンズホルダと、レンズホルダを弾性支持する複数本のサスペンションワイヤと、レンズホルダに設けられ、対応するサスペンションワイヤを介して駆動電流が供給されるコイルと、コイルに対向して設けられたマグネットとを設け、サスペンションワイヤの一部を、駆動電流が通電されることによる発熱に応じて全長が短縮する形状記憶合金で形成したことにより、当該形状記憶合金で形成したサスペンションワイヤに駆動電流を通電してその全長を短縮させて、レンズホルダと共に対物レンズをチルトさせることができ、かくして、簡易な構成で、対物レンズをチルト駆動させ得る光ピックアップ、対物レンズ駆動装置、及び光ディスク装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【実施例】
【0020】
(1)光ディスク装置の全体構成
図1において、1は本発明を適用した光ディスク装置を示し、制御部2によって全体を統括制御するようになされている。そして光ディスク装置1は、光ディスク100が装填された状態において図示しない外部機器からの再生指示等を受け付けると、当該制御部2から駆動部3及び信号処理部4を制御することにより、光ディスク100に記録された情報を読み出すようになされている。
【0021】
実際上、駆動部3は、制御部2の制御に基づき、スピンドルモータ5により光ディスク100を所望の回転速度で回転させ、スレッドモータ6により光ピックアップ7を光ディスク100の径方向であるトラッキング方向へ大きく移動させ、さらに4軸アクチュエータ8により対物レンズ9を光ディスク100に対して近接又は離隔させる方向であるフォーカス方向及びトラッキング方向の2方向へそれぞれ細かく移動させる。
【0022】
これと並行して信号処理部4は、光ピックアップ7により対物レンズ9から所定の光ビームを光ディスク100の所望トラックに対して照射させ、その反射光の検出結果を基に再生信号を生成し、制御部2を介してこの再生信号を図示しない外部機器へ送出させる。
【0023】
すなわち光ピックアップ7は、装着された光ディスクの種別に応じた波長の出射光ビームを対物レンズで集光し、当該光ディスク100の記録層に焦点を合致させて照射するとともに、当該合焦記録層で反射された反射光ビームを対物レンズ9で受光して光電変換し、各種検出信号を生成して信号処理部4に供給する。
【0024】
駆動部3は、信号処理部4から供給されるフォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号に基づいて4軸アクチュエータ8を駆動する。また信号処理部4は、光ピックアップ7から供給される再生信号に対して所定の信号処理を施した後、制御部2を介して外部に出力する。
【0025】
かかる構成に加えて光ピックアップ7には、光ビームのスポット照射位置近傍における光ディスク100のチルトをラジアル方向及びタンジェンシャル方向に分けて検出するチルトセンサ10が設けられている。制御部2は、当該チルトセンサ10から供給されるラジアルチルト検出信号及びタンジェンシャルチルト検出信号に基づいて、光ディスク100のチルトを補償するように対物レンズ9をラジアル方向及びタンジェンシャル方向にチルトさせるラジアルチルト制御信号及びタンジェンシャルチルト制御信号を生成し、駆動部3に供給する。
【0026】
駆動電流供給手段としての駆動部3は、制御部2から供給されたラジアルチルト制御信号及びタンジェンシャルチルト制御信号に基づいてラジアルチルト駆動電流及びタンジェンシャルチルト駆動電流を生成し4軸アクチュエータ8を供給することにより、検出した光ディスク100のチルトを補償するように対物レンズ9をラジアル方向及びタンジェンシャル方向にチルトさせる。
【0027】
(2)4軸アクチュエータの構成
次に、本発明による4軸アクチュエータ8の構成を図2を用いて説明する。この、対物レンズアクチュエータとしての4軸アクチュエータ8は、対物レンズ9を備えたレンズホルダ11を、固定部12から延設された5対(計10本)のサスペンションワイヤ15を介して弾性支持している。この固定部12は、光ピックアップのベース13に対して固定されている。
【0028】
レンズホルダ11における固定部12側の側面には、その中央部にトラッキングコイル20trkAが設けられているとともに、当該トラッキングコイル20trkAの両側には2つのフォーカシングコイル20Fcs1A及び20Fcs2Aが設けられている。同様に、レンズホルダ11における固定部12の反対側側面には、その中央部にトラッキングコイル20trkBが設けられているとともに、当該トラッキングコイル20trkBの両側には2つのフォーカシングコイル20Fcs1B及び20Fcs2Bが設けられている。
【0029】
またベース13には、マグネット21Aが、トラッキングコイル20trkA、フォーカシングコイル20Fcs1A及び20Fcs2Aに対向するように取り付けられているとともに、マグネット21Bが、トラッキングコイル20trkB、フォーカシングコイル20FcsB1及び20FcsB2に対向するようにして取り付けられている。
【0030】
図2に示したようにサスペンションワイヤ15は、レンズホルダ11の両側面にそれぞれ5本ずつ配置されており、対向する同じ段のサスペンションワイヤ15が対となって、レンズホルダ11の駆動に寄与している。
【0031】
すなわち、トラッキングコイル20trkA及び20trkB、フォーカシングコイル20Fcs1A、20Fcs1B、20Fcs2A及び20Fcs2Bは、いわゆるボイスコイルでなり、それぞれ対応するサスペンションワイヤ15を介して駆動部3から駆動電流が供給される。
【0032】
すなわち図3は各コイル20及びサスペンションワイヤ15の結線状態を示し、フォーカシングコイル20Fcs1A及びこれに対向したフォーカシングコイル20Fcs1Bが直列に接続されているとともに、これらの端部にはそれぞれフォーカシングコイル給電用のサスペンションワイヤ15Fcs1R及び15Fcs1Lが接続されており、駆動部3は、光ディスク100側(以降、この方向を上側とも呼ぶ)から2段目のサスペンションワイヤ15Fcs1R及び15Fcs1Lを介して、フォーカシングコイル20Fcs1A及び20Fcs1Bに対して第1のフォーカシングコイル駆動電流を給電する。
【0033】
同様に、フォーカシングコイル20Fcs2A及びこれに対向したフォーカシングコイル20Fcs2Bが直列に接続されているとともに、これらの端部にはそれぞれフォーカシングコイル給電用のサスペンションワイヤ15Fcs2R及び15Fcs2Lが接続されており、駆動部3は、上側から3段目のサスペンションワイヤ15Fcs2R及び15Fcs2Lを介して、フォーカシングコイル20Fcs2A及び20Fcs2Bに対して第2のフォーカシングコイル駆動電流を給電する。
【0034】
さらに、トラッキングコイル20trkA及びトラッキングコイル20trkBが直列に接続されているとともに、これらの端部にはそれぞれトラッキングコイル給電用のサスペンションワイヤ15trkR及び15trkLが接続されており、駆動部3は上側から4段目のサスペンションワイヤ15trkR及び15trkLを介して、トラッキングコイル20trkA及び20trkBに対してトラッキングコイル駆動電流を給電する。
【0035】
このようにして各コイル20には、5対のサスペンションワイヤ15のうち、最も光ディスク100に近い最上段の組及び最も光ディスク100から離れた最下段の組を除く3組(サスペンションワイヤ15Fcs1R及び15Fcs1L、15Fcs2R及び15Fcs2L、15trkR及び15trkL)を介して駆動電流が供給される。
【0036】
なお、これら駆動電流供給用の各サスペンションワイヤ15Fcs1R及び15Fcs1L、15Fcs2R及び15Fcs2L、15trkR及び15trkLは、最上段及び最下段を除く何れの位置に配置してもよい。
【0037】
そしてこの4軸アクチュエータ8は、供給される第1のフォーカシングコイル駆動電流、第2のフォーカシングコイル駆動電流及びトラッキングコイル駆動電流に応じて、レンズホルダ9をフォーカシング方向への移動、トラッキング方向への移動及びラジアル方向のチルト(以下、単にラジアルチルトと呼ぶ)の計3方向に駆動する。
【0038】
例えば、トラッキングコイル20trkA及び20trkBに対してトラッキングコイル駆動電流が供給されると、マグネット21A及び21Bとの間で図2に示す矢印T方向又はその逆の方向への推力を発生し、これによりレンズホルダ9はトラッキング方向に移動する。
【0039】
一方、フォーカシングコイル20Fcs1A及び1Bと、フォーカシングコイル20Fcs2A及び20Fcs2Bとに対して同方向のフォーカシングコイル駆動電流が供給されると、マグネット21A及び21Bとの間で図2に示す矢印F方向又はその逆の方向への推力を発生し、これによりレンズホルダ9はフォーカシング方向に移動する。
【0040】
また、フォーカシングコイル20Fcs1A及び1Bと、フォーカシングコイル20Fcs2A及び20Fcs2Bとに対して逆方向のフォーカシングコイル駆動電流が供給されると、これらは互いに逆方向に推力(すなわち偶力)を発生し、これによりレンズホルダ9は、図4(A)に示すrad+方向又はその逆方向にラジアルチルトする。
【0041】
さらに、フォーカシングコイル20Fcs1A及び1Bと、フォーカシングコイル20Fcs2A及び20Fcs2Bとに対して同方向かつ異なる電流値でフォーカシングコイル駆動電流が供給されると、これらは同方向かつ異なる大きさの推力を発生し、これによりレンズホルダ9はフォーカシング方向に移動しつつラジアルチルトする。
【0042】
以上の動作は従来の3軸アクチュエータと同様であるが、本発明の4軸アクチュエータ8はこれに加えて、最上段のサスペンションワイヤ15uR及び15uLと、最下段のサスペンションワイヤ15dR及び15dLとによって、レンズホルダ9をタンジェンシャル方向にもチルトさせるようになされている。
【0043】
これら4本のサスペンションワイヤ15uR、15uL、15dR及び15dLは、例えばTi−Ni系の形状記憶合金で形成されており、その温度上昇に応じて長さが短縮するような特性を有している。従って、サスペンションワイヤ15uRと15uL、又はサスペンションワイヤ15dR及び15dLに駆動電流を供給して発熱させることで、電流値に応じた収縮を発生させることができる。
【0044】
また、駆動電流の供給を停止するとサスペンションワイヤ15uR、15uL、15dR及び15dLの発熱も停止し、自然冷却によって温度が低下していくが、当該サスペンションワイヤは細い線状に形成されていることからその温度低下も早く、これにより駆動電流の供給停止に応じて速やかに元の長さへと復帰(伸張)する。
【0045】
ここで、4本のサスペンションワイヤ15uR、15uL、15dR及び15dLは何れも同じ線径及び線長でなり、これによりそれぞれの電気抵抗Rも同一となる。さらに、図2に示すように、上側のサスペンションワイヤ15uRと15uLとが直列に接続されているとともに、下側のサスペンションワイヤ15dRと15dLとが直列に接続されている。
【0046】
このため、対となるサスペンションワイヤ15uR及び15uL、サスペンションワイヤ15dR及び15dLにはそれぞれ等しい電流が流れ、これによる発熱によって等しく収縮する。そして、2対のサスペンションワイヤ15uR及び15uL、15dR及び15dLは、レンズホルダ11を支持する全15本のサスペンションワイヤ15のうち、仮想的なタンジェンシャル方向のチルト軸から上側又は下側に偏移して取り付けられていることから、その収縮によってレンズホルダ11は上側又は下側に反り上がり、かくして当該レンズホルダ11は上述したタンジェンシャル方向のチルト軸周りに回転する(すなわちタンジェンシャル方向にチルトする)。
【0047】
例えば図4(B)は、上側のサスペンションワイヤ15uR及び15uLに対してタンジェンシャルチルト駆動電流を供給した状態を示し、当該サスペンションワイヤ15uR及び15uLが発熱によって収縮することにより、レンズホルダ9は図に示すtan+方向にタンジェンシャルチルトする。
【0048】
一方、図4(C)は、下側のサスペンションワイヤ15dR及び15dLに対してタンジェンシャルチルト駆動電流を供給した状態を示し、当該サスペンションワイヤ15dR及び15dLが発熱によって収縮することにより、レンズホルダ9は図4(B)に示すtan−方向にタンジェンシャルチルトする。
【0049】
このようにして本発明の光ピックアップ7は、上側のサスペンションワイヤ15uR及び15uL又は下側のサスペンションワイヤ15dR及び15dLに対して、チルトセンサ10で検出した光ディスク100のタンジェンシャルチルトに応じた電流値のタンジェンシャルチルト駆動電流を供給することにより、光ディスク100のタンジェンシャルチルトに追従して対物レンズ9を所望の角度でタンジェンシャルチルトさせることができる。
【0050】
図5は、本発明の光ピックアップ7によるレンズホルダ9の様々なチルト動作状態を示し、フォーカシングコイル20fcsに対するフォーカシングコイル駆動電流の逆方向供給と、サスペンションワイヤ15uR及び15uL、又はサスペンションワイヤ15dR及び15dLに対するタンジェンシャルチルト駆動電流の供給の組み合わせによって、ラジアルチルトrad+又はrad−と、タンジェンシャルチルトtan+又はtan−とを組み合わせた2軸チルト駆動を行うことができる。
【0051】
(3)動作及び効果
以上の構成において、この光ピックアップ7では、レンズホルダをサスペンションワイヤで弾性支持してコイル駆動する従来型の3軸アクチュエータに対し、形状記憶合金で形成された4本のサスペンションワイヤ15uR、15uL、15dR及び15dLを、対物レンズ9を含むレンズホルダ11の重心に対して略対称に付加し、上側のサスペンションワイヤ15uR及び15uL、下側のサスペンションワイヤ15dR及び15dLをそれぞれ直列に接続して4軸アクチュエータ8を構成した。
【0052】
これにより光ピックアップ7では、上側のサスペンションワイヤ15uR及び15uL、又は下側のサスペンションワイヤ15dR及び15dLにタンジェンシャルチルト駆動電流を供給することで、当該サスペンションワイヤを発熱させて収縮させ、対物レンズ9をレンズホルダ11とともに、タンジェンシャルチルト駆動電流に応じた角度だけタンジェンシャル方向にチルトさせることができる。
【0053】
このように本願発明の4軸アクチュエータ8は、従来型の3軸アクチュエータに対して4本のサスペンションワイヤ15uR、15uL、15dR及び15dLを付加するだけの簡易かつ小型な構成で、フォーカス、トラッキング、ラジアルチルト及びタンジェンシャルチルトの計4軸で対物レンズ9を駆動することができる。
【0054】
特許文献1で示した従来の4軸アクチュエータでは、サスペンションベース、サスペンションワイヤ及びレンズホルダを一体でタンジェンシャルチルトさせることから、タンジェンシャルチルトする際の可動部分の質量が大きく、これにより高い応答速度を得られないという問題がある。
【0055】
これに対して本発明の4軸アクチュエータ8では、タンジェンシャルチルトする際の可動部分がレンズホルダ11、対物レンズ9及び各コイル20に限られており、これらの質量は格段に小さい。そして、形状記憶合金で形成されたサスペンションワイヤサスペンションワイヤ15uR、15uL、15dR及び15dLの収縮応答性は1/1000秒程度と極めて速く、また伸張応答性についても、その線径が細いことによる冷却効率の良さと、他のサスペンションワイヤによって張力が加えられていることから、収縮時に近い応答性を得ることができる。
【0056】
これにより本発明の4軸アクチュエータ8は、特許文献1で示した従来の4軸アクチュエータに比べ、格段に速いタンジェンシャルチルトの応答速度を得ることができる。
【0057】
以上の構成によれば、レンズホルダ11を弾性支持する複数本のサスペンションワイヤ15の一部を形状記憶合金で形成し、当該サスペンションワイヤ15に通電して発熱させることにより、当該サスペンションワイヤ15を収縮させてレンズホルダ11をタンジェンシャル方向にチルトさせるようにしたことにより、簡易かつ小型な構成で、フォーカス、トラッキング、ラジアルチルト及びタンジェンシャルチルトの計4軸で対物レンズ9を駆動することができる。
【0058】
(4)他の実施の形態
なお、上述の実施の形態においては、形状記憶合金で形成された4本のサスペンションワイヤ15uR、15uL、15dR及び15dLを3軸アクチュエータに付加することにより、フォーカス、トラッキング、ラジアルチルトに加えてタンジェンシャルチルトを行い得る4軸アクチュエータ8を構成するようにしたが、本発明はこれに限らず、フォーカス及びトラッキング駆動のみを行う2軸アクチュエータに、形状記憶合金で形成された4本のサスペンションワイヤを付加して、フォーカス、トラッキング及びタンジェンシャルチルトを行い得る3軸アクチュエータを構成することもできる。
【0059】
また上述の実施の形態においては、レンズホルダ11の上側及び下側それぞれに形状記憶合金でなるサスペンションワイヤ15uR、15uL、15dR及び15dLを設け、上側又は下側の一方のみに通電して収縮させることにより、対物レンズを基準位置から+方向及び−方向にタンジェンシャルチルトさせるようにしたが、本発明はこれに限らず、形状記憶合金でなるサスペンションワイヤを、レンズホルダ11の上側又は下側の一方のみに設けても、対物レンズを+方向及び−方向にタンジェンシャルチルトさせることができる。
【0060】
すなわち、形状記憶合金でなるサスペンションワイヤの非通電時における全長を、他のサスペンションワイヤより長くなるようにそれぞれの全長を定めておけば、レンズホルダは非通電時において一方にチルトした状態となる。
【0061】
この状態から、当該形状記憶合金でなるサスペンションワイヤへの駆動電流を増加させていくと、レンズホルダのチルトは徐々に減少していき、ある電流値においてレンズホルダのチルトはゼロとなる。そして、さらに駆動電流を増加させていくと、レンズホルダのチルトは非通電時と逆の方向に増加していく。
【0062】
従って、上述したレンズホルダのチルトがゼロとなる時の電流値を基準電流値として設定し、所望のチルト量に応じて駆動電流を当該基準電流値から増減するようにすれば、形状記憶合金でなるサスペンションワイヤをレンズホルダの上側又は下側の一方のみに設けても、対物レンズをタンジェンシャルチルトさせることができる。
【0063】
また上述した実施の形態においては、光ディスク装置1で用いられる光ピックアップ7のアクチュエータ8に本発明を適用した場合について述べたが、これに限らず、他の種々の構成の光ピックアップに本発明を適用しても良い。すなわち、光ピックアップ7は光ディスク装置1に組み込まれるもの以外でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、光ディスク装置に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】光ディスク装置の全体構成を示す略線図である。
【図2】本発明の4軸アクチュエータの構成を示す略線図である。
【図3】サスペンションワイヤの結線状態を示す略線図である。
【図4】4軸アクチュエータのチルト動作を示す略線図である。
【図5】4軸アクチュエータのチルト動作を示す略線図である。
【符号の説明】
【0066】
1……光ディスク装置、2……制御部、3……駆動部、4……信号処理部、5……スピンドルモータ、6……スレッドモータ、7……光ピックアップ、8……4軸アクチュエータ、9……対物レンズ、10……レンズホルダ、12……固定部、13……ベース、15……サスペンションワイヤ、20trkA、20trkB……トラッキングコイル、20Fcs1A、20Fcs2A、20Fcs1B、20Fcs2B……フォーカシングコイル、21A、21B……マグネット、100……光ディスク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを保持するレンズホルダと、
上記レンズホルダを弾性支持する複数本のサスペンションワイヤと、
上記レンズホルダに設けられ、対応する上記サスペンションワイヤを介して駆動電流が供給されるコイルと、
上記コイルに対向して設けられたマグネットと
を具え、
上記サスペンションワイヤの一部は、駆動電流が通電されることによる発熱に応じて全長が短縮する形状記憶合金で形成されている
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
上記コイルは、上記レンズホルダを対物レンズのフォーカス方向に移動させるフォーカシングコイルと、当該レンズホルダを光ディスクのトラッキング方向に移動させるトラッキングコイルからなり、
上記形状記憶合金で形成されたサスペンションワイヤは、上記複数本のサスペンションワイヤのうちの上記光ディスク側又はその反対側に偏移して設けられ、全長が短縮することにより上記レンズホルダを当該光ディスクのタンジェンシャル方向にチルトさせ、
上記対物レンズをフォーカス方向、トラッキング方向及びタンジェンシャルチルトの3軸で駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
上記フォーカシングコイルは上記対物レンズの光軸に対して対称に2組設けられ、双方に同方向の駆動電流を流すことにより当該レンズホルダを上記フォーカス方向に移動させるとともに、双方に逆方向の駆動電流を流すことにより当該レンズホルダを上記光ディスクのラジアル方向にチルトさせ、
上記対物レンズをフォーカス方向、トラッキング方向、ラジアルチルト及びタンジェンシャルチルトの4軸で駆動する
ことを特徴とする請求項2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
上記形状記憶合金で形成されたサスペンションワイヤは、上記複数本のサスペンションワイヤのうちの上記光ディスク側又はその反対側の双方に設けられ、上記光ディスク側又はその反対側のいずれかに対して通電することにより、上記レンズホルダを当該光ディスクのタンジェンシャル方向にチルトさせる
ことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項5】
上記形状記憶合金で形成されたサスペンションワイヤは、上記複数本のサスペンションワイヤのうちの上記光ディスク側又はその反対側の一方に設けられ、非通電時において上記レンズホルダが所定方向にチルトするよう、他の上記サスペンションワイヤよりも全長が長く設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項6】
対物レンズを保持するレンズホルダと、
上記レンズホルダを弾性支持する複数本のサスペンションワイヤと、
上記レンズホルダに設けられ、対応する上記サスペンションワイヤを介して駆動電流が供給されるコイルと、
上記コイルに対向して設けられたマグネットと
を具え、
上記サスペンションワイヤの一部は、駆動電流が通電されることによる発熱に応じて全長が短縮する形状記憶合金で形成されている
ことを特徴とする対物レンズ駆動装置。
【請求項7】
対物レンズを保持するレンズホルダと、
上記レンズホルダを弾性支持する複数本のサスペンションワイヤと、
上記サスペンションワイヤに駆動電流を供給する駆動電流供給手段と、
上記レンズホルダに設けられ、対応する上記サスペンションワイヤを介して駆動電流が供給されるコイルと、
上記コイルに対向して設けられたマグネットと
を具え、
上記サスペンションワイヤの一部は、上記駆動電流が通電されることによる発熱に応じて全長が短縮する形状記憶合金で形成されている
ことを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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