説明

光ファイバの巻取り方法及び巻取り装置

【課題】良好な線叩き防止効果及び除電効果を維持しつつ光ファイバを良好に巻取ることが可能な光ファイバの巻取り方法及び巻取り装置を提供する。
【解決手段】ボビン20を回転させてボビン20の胴部20bに光ファイバ素線1を巻取る巻取り方法であって、ボビン20の胴部20bへ光ファイバ素線1を巻取る際に、ボビン20における光ファイバ素線1の巻付け箇所の周方向外側を線叩き防止カバー30で覆うとともに、ボビン20の鍔部20aと線叩き防止カバー30との隙間から線叩き防止カバー30で覆った光ファイバ素線1の巻付け箇所へ静電除去器41によってイオン化空気を吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを巻取る巻取り方法及び巻取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続的に送られてくる光ファイバ素線を巻取る際に、パスラインに沿って巻取りリールの上流側に配設した静電除去器により、光ファイバ素線に帯電した電荷を、100Hz以上の放電周波数で除電することで、リールへの良好な巻取りを保証することが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、リール近傍に静電除去器を設け、光ファイバ素線及び巻取りリールに帯電した静電気を除去することも記載されている。
【0003】
一方、ボビン上に線条体を巻取るのに、線条体を案内する切欠を有し、ボビンの軸方向に内径が順次拡大されたボビンの巻取り幅より短い幅の環状ガイドで、ボビン上の線条体のパスラインを覆い、線条体の巻取り途中での切断に対しても、切断端末線を環状ガイド内に確実に収納して線叩きの発生を防止することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−357136号公報
【特許文献2】特開2005−200114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電気がボビンや光ファイバ素線に帯電していると、巻飛びなどの巻異常が発生して伝送特性の低下を招き、再巻替えが必要となる場合がある。このため、特許文献1のように、光ファイバ素線をボビンに巻取る際に、静電除去器を用いて除電しているが、特許文献2のように、線叩きを防止するための環状ガイド等の線叩き防止カバーで光ファイバ素線の巻き付け箇所を外側から覆うと、静電除去器からのイオン化空気が線叩き防止カバーによって遮られ、光ファイバ素線を巻付けているボビンの表面にイオン化空気が直接当たらなくなり、十分な除電効果を得ることができなくなる。また、静電除去器の近傍部分における線叩き防止カバーの一部を削除して(周方向の一部を切り欠いて)静電除去器からのイオン化空気がボビン表面に当たるようにして、除電効果を高めることも考えられるが、この場合、線叩き防止カバーによる線叩き防止効果が低下してしまう。
【0006】
本発明の目的は、良好な線叩き防止効果及び除電効果を維持しつつ光ファイバを良好に巻取ることが可能な光ファイバの巻取り方法及び巻取り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできる本発明の光ファイバの巻取り方法は、ボビンを回転させて前記ボビンの胴部に光ファイバを巻取る光ファイバの巻取り方法であって、
前記ボビンの胴部へ前記光ファイバを巻取る際に、前記ボビンにおける前記光ファイバの巻付け箇所の周方向外側を線叩き防止カバーで覆うとともに、前記ボビンの鍔部と前記線叩き防止カバーとの隙間から前記線叩き防止カバーで覆った前記光ファイバの巻付け箇所へ静電除去器によってイオン化させた空気を吹き付けることを特徴とする。
【0008】
本発明の光ファイバの巻取り装置は、回転されるボビンの胴部に光ファイバを巻取らせる光ファイバの巻取り装置であって、
前記ボビンにおける前記光ファイバの巻付け箇所の周方向外側を覆う線叩き防止カバーと、
前記ボビンの鍔部と前記線叩き防止カバーとの隙間から前記線叩き防止カバーで覆った前記光ファイバの巻付け箇所へイオン化させた空気を吹き付ける静電除去器とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボビンの胴部への光ファイバの巻付け箇所を線叩き防止カバーで覆うことによって良好な線叩き防止効果を図りつつ、線叩き防止カバーとボビンの隙間から巻付け箇所へ静電除去器からイオン化させた空気を吹き付けることによって良好な除電効果を維持して光ファイバをボビンの胴部へ巻取ることができる。これにより、線叩きを抑えつつ静電気による巻飛びなどの巻異常を確実に防止することができる。特に、静電気が生じやすい高速での巻取り時に、良好な除電効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用される巻替え装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る巻取り装置の平面図である。
【図3】各種の巻取り方式を示す図であって、(a)〜(c)は、それぞれ巻取り装置の概略構成図である。
【図4】除電効果の評価結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る光ファイバの巻取り方法及び巻取り装置の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。まず、本実施形態に係る巻取り装置を備えた巻替え装置について説明する。なお、以下の実施形態では巻替え装置を例示して説明するが、本発明は、光ファイバ素線を着色して巻き取る着色装置に対しても適用可能である。
図1に示すように、巻替え装置11は、光ファイバ素線(光ファイバ)1を指示された長さに分割しながら巻替えるものであり、光ファイバ素線1は繰り出しボビン12に巻かれている。光ファイバ素線1は、石英系ガラスのコア及びクラッドからなるガラスファイバの周囲に樹脂を被覆したものであり、繰り出しボビン12から繰り出された光ファイバ素線1は、ガイドローラ13,16を介してキャプスタンローラ17へ案内される。そして、光ファイバ素線1はキャプスタンローラ17を経て、所定の線速で引き取られ、その後、ダンサーローラ18及びローラ19を介して、ボビン20に巻取られる。
【0012】
次に、ボビン20へ光ファイバ素線1を巻取らせる巻取り装置について説明する。
図2に示すように、巻取り装置21は回転駆動される駆動軸22を備え、駆動軸22はボビン20の一方側の鍔部20aに嵌められる。駆動軸22と反対側からは、押えコーン25が押し込まれて、ボビン20は駆動軸22に回転可能に取り付け固定され、例えば、図2の右側から見て時計方向に回転される。また、駆動軸22は軸方向へ往復移動される。これにより、ボビン20も軸方向へ往復移動されるようになっている。
【0013】
ボビン20の外周には、巻取り装置21に固定された線叩き防止カバー30が設けられている。この線叩き防止カバー30は、ボビン20の巻取り幅より短い幅で、外周壁32の両側部にボビン20の鍔部20aが通過しうる径の開口31を有する環状体で形成される。また、この線叩き防止カバー30には、光ファイバ素線1が線叩き防止カバー30を通過できるように孔35が設けられている。
【0014】
また、巻取り装置21は、線叩き防止カバー30の軸方向の両側にそれぞれ配置された一対のスポットタイプの静電除去器41を備えている。これらの静電除去器41は、噴射ノズル42を有しており、この噴射ノズル42の先端から、+または−にイオン化したイオン化空気を噴出する。これらの静電除去器41は、ボビン20の胴部20bへの光ファイバ素線1の巻付け箇所へ向かって斜めに配置されており、ボビン20の鍔部20aと線叩き防止カバー30との隙間から光ファイバ素線1の巻付け箇所へイオン化空気を吹き付ける。
【0015】
これらの静電除去器41も、巻取り装置21の、往復移動するボビン20とは衝突しないような位置に固定されており、噴射ノズル42からボビン20の胴部20bに向けてイオン化空気を吹き付けるようにする。ボビン20は往復移動するため、ボビン20がターンするときに一方の静電除去器41が一方の鍔部20aに最も近づき、他方の静電除去器41が他方の鍔部20aから最も遠ざかることになる。
【0016】
線叩き防止カバー30と静電除去器41は上記のように巻取り装置21に対して固定されている。このため、ボビン20が軸方向へ往復移動することにより、線叩き防止カバー30及び静電除去器41が、ボビン20に対してボビン20の軸方向へ相対的に移動される。
【0017】
さらに、巻取り装置21は、バータイプの静電除去器51を備えている。この静電除去器51は、バー本体52と、このバー本体52の長手方向に沿って間隔をあけて設けられた複数の噴出口53とを有しており、これらの噴出口53から、+または−にイオン化したイオン化空気を噴出する。この静電除去器51は、線叩き防止カバー30よりも外周側に支持されており、ボビン20の軸方向に沿って配置されている。
【0018】
静電除去器41,51は、何れも、除電対象物である光ファイバ素線1及びボビン20の帯電状態をモニタリングする機能を持つものであることが好ましい。モニタリング機能を持つことにより、除電に適した+または−のいずれかにイオン化させたイオン化空気のみを噴出させることも可能になり、より除電効果を高めることもできる。
【0019】
上記の巻取り装置21によって光ファイバ素線1をボビン20上に巻取る方法の一例について説明する。
光ファイバ素線1の巻取り開始に際しては、まず線叩き防止カバー30がボビン20の鍔部20aの周方向外側位置に来るように、ボビン20をセットする。
【0020】
この状態で、線叩き防止カバー30の孔35を通して光ファイバ素線1の巻始端をボビン20の鍔部20a等に係止させた後、ボビン胴部20b上に光ファイバ素線1の巻取りが開始される。この後、ボビン20が軸方向へ往復移動することにより、光ファイバ素線1のパスラインがボビン20の軸方向に沿って移動され、ボビン20の胴部20bに光ファイバ素線1が巻取られる。
【0021】
線叩き防止カバー30は、上記のように巻取り装置21に対して固定されており、巻き取られる光ファイバ素線1のパスラインに対しては、相対的に同じ位置で固定されている。このため、光ファイバ素線1が巻き取られている間、線叩き防止カバー30は、ボビン20上の光ファイバ素線1のパスライン及びボビン20の胴部20bへの光ファイバ素線1の巻付け箇所を覆うように配され続ける。
【0022】
また、ボビン20の胴部20bへ光ファイバ素線1を巻取る際に、ボビン20の鍔部20aと線叩き防止カバー30との隙間から線叩き防止カバー30で覆った光ファイバ素線1の巻付け箇所へ静電除去器41の噴射ノズル42からイオン化空気を噴出させる。また、このとき、静電除去器51の各噴出口53からもイオン化空気を噴出させる。
【0023】
光ファイバ素線1の巻取りで、ボビン20が軸方向へ往復移動することにより、ボビン20の軸方向に沿ってパスラインが相対的に移動する。また、線叩き防止カバー30も、上記のように巻取り装置21に対して固定されているため、ボビン20に対し、光ファイバ素線1と一緒に軸方向に相対的に移動する。これにより、光ファイバ素線1の巻取り中は、線叩き防止カバー30によって常に光ファイバ素線1のパスラインが覆われる。
【0024】
一方、静電除去器41も、上記のように巻取り装置21に対して固定され、イオン化空気を噴出している。線叩き防止カバー30の幅はボビン20の幅より狭いので、ボビン20がターンする際に、静電除去器41の一方(ボビン20が近づいてきた方)を線叩き防止カバー30と干渉せずにボビン20に近づけることができ、鍔部20aと線叩き防止カバー30との隙間から、胴部20bの光ファイバ素線1の巻付け箇所に、イオン化空気を吹き付けることができる。このようにして、ボビン20の胴部20bに巻付けられる光ファイバ素線1は、その巻付け箇所に静電除去器41から吹き付けられるイオン化空気によって静電気が除去される。
【0025】
このように、上記実施形態によれば、ボビン20の胴部20bへの光ファイバ素線1の巻付け箇所を線叩き防止カバー30で覆うことによって良好な線叩き防止効果を図りつつ、巻付け箇所へ静電除去器41からイオン化させた空気を吹き付けることによって良好な除電効果を維持して光ファイバ素線1をボビン20の胴部20bへ巻取ることができる。これにより、線叩きを抑えつつ静電気による巻飛びなどの巻異常を確実に防止することができる。特に、静電気が生じやすい高速での巻取り時(例えば、線速1600m/分以上)にも、良好な除電効果を得ることができる。
【0026】
なお、バータイプの静電除去器51を設置しなくても、光ファイバ素線1の巻付け箇所へイオン化空気を直接吹き付ける静電除去器41を設ければ、光ファイバ素線1の巻飛びなどの巻異常を十分に防止することができるが、バータイプの静電除去器51を設ければ、この静電除去器51から噴出されるイオン化空気によってボビン20の静電気を軸方向全体にわたって低下させることができる。
【0027】
また、上記の例では、ローラ19のボビン20に対する軸方向位置を固定し、線叩き防止カバー30及び静電除去器41の軸方向位置も固定して、ボビン20を軸方向へ往復移動させている。このような構成にすると、光ファイバ素線1を案内するローラ19の移動が不要となるため、巻取り張力を安定化させることができるという利点がある一方、重いボビン20を往復移動させる必要が生じる。このようなボビントラバース方式のほかに、ボビン20の軸方向位置を固定し、光ファイバ素線1を往復移動させる方式(ローラトラバース方式)もあり、この方式に合わせて、線叩き防止カバー30及び静電除去器41の側を移動させるようにしてもよい。この場合は、光ファイバ素線1を案内するローラ19をボビン20の軸方向へ往復移動させ、その移動に合わせて線叩き防止カバー30及び静電除去器41も移動させる必要がある。
【0028】
また、上記実施形態では、本発明を光ファイバ素線1の巻替え工程に適用した場合を例示したが、本発明は、巻替え工程に限らず、光ファイバ素線1に着色樹脂を被覆させる着色工程など、光ファイバ素線1をボビン20に巻付けるあらゆる工程に適用可能である。
【実施例】
【0029】
異なる巻取り方法によってボビン20に光ファイバ素線1を線速約1600m/分で巻取り、巻取り量2km毎に帯電量を測定して除電効果を調べた。
【0030】
(1)巻取り方法
(比較例1)
図3(a)に示すように、線叩き防止カバー30及びバータイプの静電除去器51を巻取り装置21に設置し、ボビン20の軸方向にわたって静電除去器51からイオン化空気を噴射させながらボビン20に光ファイバ素線1を巻取る。
【0031】
(比較例2)
図3(b)に示すように、線叩き防止カバー30を設けずに、バータイプの静電除去器51を巻取り装置21に設置し、ボビン20の軸方向にわたって静電除去器51からイオン化空気を噴射させながらボビン20に光ファイバ素線1を巻取る。
【0032】
(実施例1)
図3(c)に示すように、線叩き防止カバー30及び一対のスポットタイプの静電除去器41を巻取り装置21に設置し、線叩き防止カバー30とボビン20の鍔部20aの隙間から光ファイバ素線1の巻付け箇所へ向かって静電除去器41からイオン化空気を吹き付けながらボビン20に光ファイバ素線1を巻取る。
【0033】
(2)調査結果
比較例1,2及び実施例1の除電効果の調査結果を、図4に示す。
【0034】
(比較例1)
比較例1では、巻取り量が増加するにしたがって、巻付け箇所が径方向外方へ移動して静電除去器51に近付くため、帯電量が減少したが、巻始めでは巻付け箇所が静電除去器51から離れており、しかも、パスラインを覆う線叩き防止カバー30によってイオン化空気が遮られるため、帯電量の減少はあまり見られなかった。
このように、この比較例1では、線叩き防止カバー30による線叩き防止効果は得られるものの十分な除電効果は得られなかった。
【0035】
(比較例2)
比較例2では、線叩き防止カバー30によるイオン化空気の遮蔽がないため、巻取り量に関わらず、巻始めから静電除去器51による除電効果が得られた。
しかし、この比較例2では、線叩き防止カバー30による線叩き防止効果は得られない。
【0036】
(実施例1)
実施例1では、線叩き防止カバー30とボビン20の鍔部20aの隙間から光ファイバ素線1の巻付け箇所へ向かって、静電除去器41からのイオン化空気が直接吹き付けられるため、線叩き防止カバー30が設けられていても、巻取り量に関わらず、巻始めから良好な除電効果が得られた。
このように、実施例1では、線叩き防止カバー30による良好な線叩き防止効果を図りつつ、良好な除電効果(±0.5kV以下)を得ることができた。
【符号の説明】
【0037】
1:光ファイバ素線(光ファイバ)、20:ボビン、20a:鍔部、20b:胴部、21:巻取り装置、30:線叩き防止カバー、41:静電除去器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンを回転させて前記ボビンの胴部に光ファイバを巻取る光ファイバの巻取り方法であって、
前記ボビンの胴部へ前記光ファイバを巻取る際に、前記ボビンにおける前記光ファイバの巻付け箇所の周方向外側を線叩き防止カバーで覆うとともに、前記ボビンの鍔部と前記線叩き防止カバーとの隙間から前記線叩き防止カバーで覆った前記光ファイバの巻付け箇所へ静電除去器によってイオン化させた空気を吹き付けることを特徴とする光ファイバの巻取り方法。
【請求項2】
回転されるボビンの胴部に光ファイバを巻取らせる光ファイバの巻取り装置であって、
前記ボビンにおける前記光ファイバの巻付け箇所の周方向外側を覆う線叩き防止カバーと、
前記ボビンの鍔部と前記線叩き防止カバーとの隙間から前記線叩き防止カバーで覆った前記光ファイバの巻付け箇所へイオン化させた空気を吹き付ける静電除去器とを備えていることを特徴とする光ファイバの巻取り装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−18562(P2013−18562A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150930(P2011−150930)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】