説明

光ファイバレーザ用光ファイバ及びその製造方法、並びに光ファイバレーザ

【課題】光ファイバレーザにおける光ファイバの温度上昇を抑え、レーザ光の高出力化を図った光ファイバレーザ用光ファイバ及びその製造方法、並びに光ファイバレーザを提供する。
【解決手段】希土類元素が添加された希土類添加コア2と、希土類添加コアの周囲に形成されたクラッド3とを備え、クラッド3の端部から励起光Leを入射し、希土類元素を励振させて高出力のレーザ発振光Lを出力する光ファイバレーザ用光ファイバ1において、 希土類添加コア2が長手方向に沿って複数個のコア領域2a,2b,…,2n−1,2nに分割されており、各コア領域2a,2b,…,2n−1,2nに添加された希土類元素の添加濃度が異なるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類添加コアとクラッドを備えた高出力の光ファイバレーザ用光ファイバ及びその製造方法、並びに光ファイバレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工や医療用途などへの適用を目的として、より高出力で安価な光源の開発が求められている。これらの要求に対し、光ファイバレーザは、高効率でしかも高品質のレーザ光を簡単に取り出せるという理由で注目を集めている。
【0003】
このような高出力光ファイバレーザに使用される光ファイバとして、図9に示すような光ファイバ91がある。この光ファイバ91は、希土類元素(Yb、Er、Er/Yb、Tm、Ndなど)をドープしたコア92と、第1クラッド93a、第2クラッド93bからなるクラッド93を備えたダブルクラッドファイバである。また、第2クラッド93bの外周に図示していないが、紫外線硬化型樹脂などからなる被覆層が設けられている。
【0004】
光ファイバ91の一端部には、励起光Le9として、マルチモードLD(半導体レーザ)から出射した光を入射する。第1クラッド93a内に集光した励起光Le9は、光ファイバ91中を伝搬し、コア92の希土類添加元素を励起する。そして、励起された希土類元素から発振光がコア92に伝搬し、光ファイバ91の他端から高出力のレーザ発振光L9が出射する。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0006】
【特許文献1】特開平5−249328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の光ファイバ91では、コア92としてYb添加(ドープ)コアを用いた場合、励起光Le9に対するレーザ発振光L9の光/光変換効率が約80%で、約20%のエネルギーが熱となる。
【0008】
このため、従来の光ファイバ91では、光ファイバレーザの高出力化に伴い、光ファイバ91の温度上昇、特に、光ファイバ91の入射端近傍の温度の上昇が大きく、光ファイバ91の被覆層の損害のおそれがあり、光ファイバレーザの出力が制限されるという問題がある。
【0009】
その他にも、高出力光ファイバレーザの制限要因として、ファイバ非線形、ファイバの破壊、励起方式などの種々の問題がある。すなわち、従来の光ファイバ91では、光ファイバレーザの高出力化と共に、高い励起光パワーも必要となり、ダブルクラッドファイバ中のエネルギー密度が過剰となり、発熱、ファイバ非線形、ファイバ破壊などの問題が発生してしまう。
【0010】
現状の光ファイバレーザでは、これらの制限要因をバランスよく取り除くことも要求されている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、光ファイバレーザにおける光ファイバの温度上昇を抑え、レーザ光の高出力化を図った光ファイバレーザ用光ファイバ及びその製造方法、並びに光ファイバレーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、希土類元素が添加された希土類添加コアと、上記希土類添加コアの周囲に形成されたクラッドとを備え、上記クラッドの端部から励起光を入射し、希土類元素を励振させて高出力のレーザ発振光を出力する光ファイバレーザ用光ファイバにおいて、
上記希土類添加コアが長手方向に沿って複数個のコア領域に分割されており、各コア領域に添加された希土類元素の添加濃度が異なる光ファイバレーザ用光ファイバである。
【0013】
請求項2の発明は、上記複数個のコア領域は、それぞれの添加濃度が長手方向の中央部を中心として対称である請求項1記載の光ファイバレーザ用光ファイバである。
【0014】
請求項3の発明は、上記複数個のコア領域は、長手方向の長さが異なる請求項1または2記載の光ファイバレーザ用光ファイバである。
【0015】
請求項4の発明は、使用時の長手方向の温度分布が170℃以下である請求項1〜3いずれかに記載の光ファイバレーザ用光ファイバである。
【0016】
請求項5の発明は、上記複数個のコア領域は、500ppm、700ppm、1100ppmのいずれかの添加濃度を有する希土類添加コアを組み合わせてなる請求項1または2記載の光ファイバレーザ用光ファイバである。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1〜5いずれかに記載した光ファイバレーザ用光ファイバの製造方法であって、希土類元素の添加濃度が異なる希土類添加コアをそれぞれ有する複数本の分割ファイバを作製し、各分割ファイバの端末同士を融着接続する光ファイバレーザ用光ファイバの製造方法である。
【0018】
請求項7の発明は、請求項1〜5いずれかに記載した光ファイバレーザ用光ファイバと、上記光ファイバレーザ用光ファイバの端部に接続された光結合器と、上記光結合器を介してクラッドに励起光を入射させる複数個の光源とを備えた光ファイバレーザである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光ファイバの長手方向に沿った励起光の吸収特性が簡単に制御でき、光ファイバの長手方向に沿った温度分布を平坦化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明者らは、光ファイバレーザの研究・開発にあたり、まず熱効果を検討し、さらにファイバ非線形(非線形光学効果)、ファイバの破壊、励起方式を検討し、これら4つの制限(問題)要因をバランスよく取り除くべく、研究・開発を重ねた。
【0021】
熱効果では、光ファイバの被覆部分が損傷することにより、光ファイバの断線、変換効率低下が発生して出力パワーが低下してしまう。その対策として太径ファイバ、空気クラッド、耐熱被覆の使用などがある。また、ファイバ非線形により、レーザ光の出力が飽和してしまう。その対策としてMFDの拡大、ファイバの短尺寸化などがある。ファイバの破壊には、ファイバヒューズ、ファイバ端面の損傷などがあり、その対策としてMFD(モードフィールド径)の拡大、ガラス構造の改善などがある。励起方式では、光ファイバの入射端での熱集中などが発生するおそれがある。その対策として側面励起などがある。
【0022】
その他、コア部の屈折率の不均一により、ビーム品質への悪影響なども考えられるが、基本的には、上記の制限要因をバランスよく取り除けば、現状の光ファイバレーザ用光ファイバの問題はほとんど解決できると考えられる。そして、本発明者らは、以上の点を踏まえて鋭意研究した結果、本発明を完成した。
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。まず、図7を用いて、本発明の好適な実施形態を示す光ファイバレーザ用光ファイバを使用した光ファイバレーザを説明する。
【0024】
図7に示すように、本実施形態に係る光ファイバレーザ71は、光源を備えてレーザ発振光Lを出力するための光学部72と、その光学部72に接続されて光源を駆動する図示しないLDドライバなどの駆動装置とで主に構成される。
【0025】
光学部72は、後述する本実施形態に係る光ファイバレーザ用光ファイバ1と、その光ファイバレーザ用光ファイバ1の両端部近傍(後述する両光結合部76a,76bよりも外側)にそれぞれ設けられる光源部73A,73Bとからなる。
【0026】
光源部73Aは、高出力の励起光を出射するための複数個の励起用光源74と、これら励起用光源74にそれぞれ接続された複数本の励起用光路75と、これら励起用光路75にそれぞれ光学的に接続され、各励起用光源74からの出射光を光ファイバレーザ用光ファイバ1に光結合する光結合器76とからなる。
【0027】
各励起用光源74としては、安価な光伝送に適したマルチモードLDを用いる。本実施形態では、一例として、波長λe(915nmあるいは975〜980nm)の励起光Leを出射するマルチモードLDを用いた。
【0028】
各励起用光源74は、光源部73A,73Bごとに直列接続され、これらが上述した駆動装置に接続される。各励起用光路74としては、マルチモード光ファイバや光導波路を用いる。光結合器76としては、マルチカプラや励起コンバイナを用いる。
【0029】
光ファイバレーザ用光ファイバ1の両端部で、両光結合器76よりも内側には、光ファイバレーザ用光ファイバ1へ入射した励起光Leを反射励振するための光反射部77a,77bが設けられる。本実施形態では、光ファイバレーザ用光ファイバ1に、励起光波長に対しては透過し、発振光波長に対しては高い反射率を有するFBG(ファイバブラッググレーティング)を2つ形成して、光反射部77a,77bとした。
【0030】
光反射部77b(光ファイバレーザ用光ファイバ1のレーザ発振光Lの出射側)となるFBGは、部分的にレーザ発振光を反射するように、光反射部77aとなるFBGとは格子間隔を異ならせて形成される。
【0031】
さて、図1は本発明の好適な実施形態を示す光ファイバレーザ用光ファイバの概略図である。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る光ファイバレーザ用光ファイバ1は、所定の励起を行うことで発光する発光機能を有し、その発光した光を反射励振させることでレーザ発振媒体となるものである。
【0033】
この光ファイバレーザ用光ファイバ1は、希土類が添加された希土類添加コア2と、その希土類添加コア2の周囲に形成されたクラッド3とからなる。
【0034】
希土類添加コア2は、純粋石英にYb、Er、Er/Yb、Tm、Ndなどの希土類元素を微少量添加(ドープ)したものである。本実施形態では、励起光Leが波長λe(915nmあるいは975〜980nm)であり、波長λ(1030〜1100nm)のレーザ光Lを出射させるために、希土類元素としてYbを用いた。Ybは、波長λeの励起光Lの吸収と、波長λの光の増幅(誘導放出)とに適した希土類元素である。
【0035】
光ファイバレーザ用光ファイバ1では、光ファイバの長手方向に沿った温度分布を平坦化すべく、希土類添加コア2を光ファイバの長手方向に沿って複数個のコア領域2a,2b,…,2n−1,2nに分割されており、各コア領域2a,2b,…,2n−1,2nにされた添加希土類元素の添加濃度が異なる。
【0036】
図1の例では、両端のコア領域2a,2nの添加濃度を最も低くし、コア領域2a,2nからコア領域2b,2n−1へとファイバ長手方向の中心に近づくにつれて添加濃度を徐々に高くし、かつ光ファイバの長手方向の中央部を中心として複数個のコア領域2a,2b,…,2n−1,2nの添加濃度が対称(添加濃度分布が線対称)となるようにした。さらにこの構成に加え、図4で後述するように、各コア領域2a,2b,…,2n−1,2nの長さを部分的に異なるようにしてもよい。
【0037】
これらの場合、一般に使用される片側からのみ励起光を入射する光ファイバレーザだけでなく、図7の光ファイバレーザ71のような両側から励起光Leを入射させるタイプの光ファイバレーザにも、光ファイバレーザ用光ファイバ1を利用できる。
【0038】
クラッド3は、石英材料からなり、ポンピングガイドである内側の第1クラッド31と、その外周に設けられ、石英材料からなる第2クラッド32とで構成されるダブルクラッド型である。本実施形態では、希土類添加コア2とクラッド3とでPCF(フォトニッククリスタルファイバ)を構成するように、光ファイバの長手方向に沿って貫通する複数の空孔をハニカム状に配列してなるフォトニック結晶構造を第1クラッド31に形成した。
【0039】
次に、光ファイバレーザ用光ファイバ1の一例を、より詳細に説明する。
【0040】
励起方式については、特に限定されるものではないが、図7の光ファイバレーザ71で側面励起、端面励起のどちらでも採用することができる。まず、従来の光ファイバ91について、動作時の熱解析を行った。その結果を図3に示す。ただし、励起用光源73として、波長977nm、出力6.5kWのマルチモードLDを用い、希土類添加コア2の直径=50μm、第1クラッド31までの直径dμm、コアへ添加されたYb濃度=1000ppm、励起光Leの吸収損失=0.5dB/m(@977nm)、第2クラッド32までの直径をd+100μmとした。
【0041】
図3に示すように、従来の光ファイバ91は、両端部に近いほどファイバ温度が高くなり、第1クラッド31までの直径dが600μmと大きくなっても、両端部では約265℃もの高温になっていることがわかる。
【0042】
単にファイバ長を長くすれば、光ファイバの温度を低くでき、熱を平均化することが可能であると考えられるが、非線形光学効果の影響により、高出力化できなくなってしまう。
【0043】
そこで、ファイバ非線形を考慮するため、非線形効果である光ファイバ中の誘導ラマン散乱(SRS)と、ファイバ中の誘導ブリユアン散乱(SBS)を検討した。
【0044】
ここで、誘導ラマン散乱とは、媒質に光を入射したとき、入射光と入射光により生じる光学フォノン(結晶格子の光学的振動)との相互作用により生ずる散乱をいう。この散乱光は、ストークス散乱光と呼ばれる。ラマン散乱で発生するストークス光は前方散乱も後方散乱も同程度に観測される。光ファイバ非線形閾値であるSRS閾値Pthrは、式(1)で示される。
【0045】
【数1】

【0046】
式(1)より、LDの入力パワーを大きくしていくと、光ファイバで発生する熱も増加するため、使用する帯域以外の帯域にピークが現れてしまうことがある。この現象は光ファイバレーザの出力に悪影響となるため、入力パワーを増大しつつ、熱による影響を抑制する必要がある。
【0047】
また、誘導ブリユアン散乱とは、入射光と媒質中を通過する音波(結晶格子の音響的振動)との相互作用により発生する散乱をいう。ブリユアン散乱で発生するストークス光は後方散乱のみしか発生しない。光ファイバ非線形閾値であるSBS閾値Pthbは、式(2)で示される。
【0048】
【数2】

【0049】
式(2)より、入射光強度が大きくなると、反射光強度が増加することがある。これに伴い、透過光強度が飽和してしまい、出力の飽和化が起こる。実際には、SRSの影響の方がSBSの影響よりも十分大きいので、主にSRSの発生閾値を考慮すればよい。
【0050】
さらに、式(1)、(2)より、SRSとSBSの発生閾値は、光ファイバのコアの有効断面積と比例し、ファイバ有効長と反比例することがわかる。つまり、SRSとSBSを抑えるためには、できるだけ光ファイバの有効断面積を大きく、ファイバ有効長を短くする必要がある。
【0051】
単なるガラス体での破壊の閾値は、3GW/cm(30W/μm)であるが、光ファイバに加工(ドーパントなども含む)を施すと、その閾値が低下することが知られている。例えば、10kWの出力を有する光ファイバでは、MFDが36μm以上必要である。
【0052】
光ファイバレーザ用光ファイバの制限要因の一例を、コア部ガラスの破壊閾値が500MW/cmの場合について図2にまとめて示す。図2に示すように、10kWの出力を実現するには、MFD≧51μm(Aeff≧1000μm)が必要である。また、MFD=51μmのファイバにおいてSRSを抑制するためには、ファイバ長は約33mより短く、好ましくは約30m以下にする必要がある。さらに、熱光学問題(熱光学閾値)を考慮すると、抽出出力≧300W/mが必要である。したがって、この場合、図2中の網掛け部分Aの範囲内で、かつ10kWの出力を実現するために、図2中の点Xとなるように、図1の光ファイバレーザ用光ファイバ1を設計する。
【0053】
以上の点を考慮し、本実施形態に係る光ファイバレーザ用光ファイバ1は、各コア領域2a,2b…2n−1,2nの長手方向の長さが異なるように、約5m以上であり、出力が5kW以上、好ましくは10kW以上、使用(動作)時の使用時の長手方向の温度分布がファイバ全長にわたって170℃以下であるとよい。
【0054】
より詳細には、図4に示すように、光ファイバレーザ用光ファイバ1は、複数個のコア領域が第1コア領域2aと第2コア領域2bと第3コア領域2cとからなる合計5個のコア領域からなり、第1コア領域2aおよび第2コア領域2bが約5m、第3コア領域2cが約10mである。
【0055】
さらに、光ファイバレーザ用光ファイバ1では、図5および図6に示したYb濃度と吸収損失(吸収特性)を考慮し、各コア領域2a,2b…2n−1,2nは、500ppm、700ppm、1100ppmのいずれかの添加濃度を有する希土類添加コアを組み合わせてなる。
【0056】
本実施形態では、第1コア領域2aのYb濃度が500ppm、第2コア領域2bのYb濃度が700ppm、第3コア領域2cのYb濃度が1100ppmである。
【0057】
これらの条件を満たすように光ファイバレーザ用光ファイバ1を作製し、光ファイバレーザ用光ファイバ1に波長975〜980nmの励起光を入射すると、熱特性が図4中の実線で示すようになる。このため、光ファイバレーザ用光ファイバ1は、出力10kW以上で、かつ使用時のファイバ温度がファイバ全長にわたって170℃以下の特性を有する。
【0058】
以下の説明では、光ファイバレーザ用光ファイバ1のうち、第1〜第3コア領域2a〜2cを含む部分を、それぞれfiber1(f1)、fiber2(f2)、fiber3(f3)とする。吸収損失は波長977nmにおいて、fiber1で0.3dB/m、fiber2で0.4dB/m、fiber3で0.6dB/mである。図4の光ファイバレーザ用光ファイバ1を図7の光ファイバレーザ71で使用する場合には、両端に光結合器75をそれぞれ接続すればよい。
【0059】
図4では比較のために、従来の光ファイバ91の熱特性を点線で示した。光ファイバ91は全長にわたりfiber3からなり、図3の点線(d=600μm)で示したものである。なお、光ファイバレーザ用光ファイバ1のコア径、クラッド径は、光ファイバ91と同一にした。
【0060】
図4により、光ファイバレーザ用光ファイバ1は、ファイバ全長にわたって使用時の長手方向の温度分布が170℃以下であるのに対し、従来の光ファイバ91は、中央部付近では170℃以下になるものの、光源に近い励起光導入部である両端部では265℃と非常に高温になってしまうことがわかる。
【0061】
次に、光ファイバレーザ用光ファイバ1の製造方法の一例を説明する。
【0062】
まず、中心に配置され、プリフォーム(母材)線引き後に希土類添加コア2となる細径石英棒と、この細径石英棒の周りに、プリフォーム線引き後に第1クラッド31となるハニカム状のフォトニック結晶を構成するように配列され、細径石英棒と同じ外径の細径石英管と、これら細径石英棒、細径石英管を挿入する石英ジャケット管とを作製する。
【0063】
細径石英棒は、まず、MCVD法を用いて、原料ガスと酸水素バーナにより、希土類元素のYb(Yb原料として、例えばYb(DPM)を用いた。DPMはジピバロイルメタナト。)が添加された石英ロッドを作製する。この石英ロッドを所定の雰囲気下(例えば、流量が10L/minのHe、および流量が200cc/minのClで構成されるガス)、所定の温度(例えば、約1500℃)で加熱処理した後、通常の光ファイバの線引きと同様の方法にて線引きすると、細径石英棒が得られる。細径石英棒は、上述したfiber1〜fiber3を作製するため、Ybの濃度がそれぞれ500ppm、700ppm、1100ppmである3種類を作製した。
【0064】
また、細径石英管は、市販の合成石英管(例えば、信越石英社製のF300)を細径石英棒と同様の方法にて加熱処理、および線引きして得られる。
【0065】
上述した方法により得られた細径石英棒および細径石英管は、それぞれ所定の長さに切断される。細径石英管については、この切断時に両端の封止を行う。その後、各切断部の表面に付着している汚れやゴミを除去するために、流水を用いて破片などの大きいゴミを洗い流した後、エタノールを用いて超音波洗浄を行う。各切断部の表面から遊離した汚れやゴミを純水で洗い流した後、1〜2%のフッ酸を用いて酸洗浄し、表面仕上げを行う。
【0066】
その後、細径石英棒と、この細径石英棒の周囲に複数本束ねた細径石英管とを石英ジャケット管に挿入配置してPCF用プリフォームを作製する。その際、細径石英管同士が互いに交差することなく、両端部が同じ位置に配列されるようにするため、石英ジャケット管内への挿入は、純水中で超音波による微振動を与えながら行うことが好ましい。
【0067】
具体的には、純水を入れた超音波洗浄器の中に、所定寸法の石英ジャケット管を斜めに立てて配置し、その石英ジャケット管内に細径石英棒と細径石英管を順次配列してPCF用プリフォームを作製する。石英ジャケット管の長手方向の寸法精度は、この配列の良否に大きく影響することから、その内径変動は±0.1mm以下に調整される。
【0068】
得られたPCF用プリフォームを乾燥用の容器に入れて、付着した水分を蒸発、乾燥させた後、脱水処理を行う。この乾燥処理は、真空容器を用い、真空容器内を油圧回転式真空ポンプで真空引きすることによって行う。
【0069】
PCF用プリフォームにおける石英ジャケット管の両端に石英ダミー管を融着した後、石英ダミー管側からClおよびOを所定の割合(例えば、Clを200cc/min、Oを50cc/minの割合)で導入すると共に、石英ダミー管側から所定の割合(例えば、約80Pa(0.6Torr)/minの割合)で排気を行い、石英ジャケット管の内部をClおよびOで一定時間置換する。
【0070】
その後、石英ダミー管側からさらにCを所定の割合(例えば、20cc/minの割合)で導入し、PCF用プリフォーム内の圧力を一定(例えば、約73Pa(0.55Torr))に保った状態で、酸水素バーナを用いてPCF用プリフォームを加熱する。これにより、石英ジャケット管内の脱水処理を行いながら、細径石英棒、細径石英管、および石英ジャケット管の表面エッチング処理を行う。
【0071】
この表面エッチング処理・脱水処理の後、石英ダミー管側からCl、Oを導入しながら、石英ダミー管を封止する。その後、再び酸水素バーナを用いて、PCF用プリフォームを加熱し、細径石英棒、細径石英管、および石英ジャケット管が融着一体化される。
【0072】
そして、この融着一体化したPCF用プリフォームを通常の光ファイバの線引き工程により、所定のファイバ径(外径φ)に線引きし、同一ラインにて紫外線(UV)硬化樹脂を被覆することにより、中心にYbが添加された希土類添加コア2と、この希土類添加コア2の外周にハニカム状の周期構造の空孔が形成されたクラッド3とからなるPCFが得られる。
【0073】
このようにして得られるPCFにおいて、希土類添加コア2のYbの濃度がそれぞれ500ppm、700ppm、1100ppmである3種類のPCF(3本の分割ファイバとしてのfiber1〜3となる)を作製した。
【0074】
このYb濃度が異なるfiber1〜3を所望の長さにカットした後、端末同士を融着接続により接続して、本実施形態に係る光ファイバレーザ用光ファイバ1を得る。
【0075】
より詳細には、例えば、約5mにカットしたfiber1の一方の端末部分のUV硬化樹脂rのみを除去し(図8(a))、このUV硬化樹脂rを除去した端末部分に、同様にして端末部分のUV硬化樹脂rを除去した約5mからなるfiber2を融着接続機を用いて融着接続する(図8(b))。その後、融着接続部分のUV硬化樹脂rが除去された部分に再度UV硬化樹脂rをリコートする(図8(c))。このような接続方法を用いて、fiber1〜3を接続することにより、図4で一例を示した約30mの光ファイバレーザ用光ファイバ1が得られる。
【0076】
本実施形態の作用を、図7の光ファイバレーザ71の動作と共に説明する。
【0077】
駆動装置により各励起用光源74を駆動すると、各励起用光源74から励起光が出射され、各光結合部75で光源部73A,73B内の全励起用光源74からの励起光が光結合され、光ファイバレーザ用光ファイバ1に両側方から励起光Leがそれぞれ入射される。
【0078】
入射した励起光Leは、光ファイバレーザ用光ファイバ1の内部で増幅され、さらに光反射部77a,77bがレーザ共振器の全反射鏡および出力鏡として働くことで、高出力のレーザ発振光Lが生成され、光ファイバレーザ用光ファイバ1の出射端から出力される。
【0079】
光ファイバレーザ用光ファイバ1は、反射励振による光ファイバの長手方向に沿った温度分布を平坦化すべく、ファイバ長手方向に沿って希土類添加コア2を複数個のコア領域2a,2b,…,2n−1,2nに分割すると共に、各コア領域2a,2b,…,2n−1,2nに添加する希土類元素の添加濃度を異ならせている。
【0080】
希土類添加ファイバの吸収特性は、添加物の濃度に大きく依存する。このため、光ファイバの長手方向において、各コア領域2a,2b,…,2n−1,2nに添加する希土類元素の添加濃度を適宜異なるように制御することで、光ファイバレーザ用光ファイバ1では、全長にわたり励起光Leを導入した際の発熱を従来の光ファイバよりも低く抑えることができる。これにより、発熱による光出力の低下を抑制できる。
【0081】
すなわち、光ファイバレーザ用光ファイバ1では、ファイバレーザ用希土類添加ファイバの吸収特性を光ファイバの長手方向において制御して異ならせることで、フラットな温度分布を実現できる。
【0082】
したがって、光ファイバレーザ用光ファイバ1によれば、光ファイバの長手方向に平坦化した(フラットな)温度分布を簡単に形成でき、この光ファイバレーザ用光ファイバ1を用いることにより、高出力の光ファイバレーザを実現できる。
【0083】
図4の例のような光ファイバレーザ用光ファイバ1を用いて光ファイバレーザ71を構成した場合には、各光結合器76で多数の励起用光源74からの波長975nmの励起光を合波し、これを光ファイバレーザ用光ファイバ1の両側方から入射でき、しかもファイバ内(特に端部)での熱損失も少ない。
【0084】
このため、励起光Leに対するレーザ発振光Lの光/光変換効率を従来の限界を超える80%超にして、波長1030〜1100nmの高出力のレーザ発振光Lを出力できる。
【0085】
また、本実施形態に係る製造方法によれば、図1や図4に示した光ファイバレーザ用光ファイバ1を簡単かつ高精度に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の好適な実施形態を示す光ファイバレーザ用光ファイバの概略図である。
【図2】光ファイバレーザ用光ファイバの制限要因の一例を示す図である。
【図3】従来の光ファイバの熱解析の一例を示す図である。
【図4】本実施形態に係る光ファイバレーザ用光ファイバと、従来の光ファイバの熱解析の結果を示す図である。
【図5】Yb濃度と吸収損失の関係と、本実施形態に係る光ファイバレーザ用光ファイバにおける第1,第2コア領域のYb濃度の一例とを示す図である。
【図6】Yb濃度と吸収損失の関係と、本実施形態に係る光ファイバレーザ用光ファイバにおける第3コア領域のYb濃度の一例とを示す図である。
【図7】図1に示した光ファイバレーザ用光ファイバを使用した光ファイバレーザの概略図である。
【図8】図1に示した光ファイバレーザ用光ファイバの製造方法の一例を示す概略図である。
【図9】従来の光ファイバレーザ用光ファイバの概略図である。
【符号の説明】
【0087】
1 光ファイバレーザ用光ファイバ
2 希土類添加コア
2a,2b,…,2n−1,2n コア領域
3 クラッド
31 第1クラッド
32 第2クラッド
L レーザ発振光
Le 励起光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素が添加された希土類添加コアと、上記希土類添加コアの周囲に形成されたクラッドとを備え、上記クラッドの端部から励起光を入射し、希土類元素を励振させて高出力のレーザ発振光を出力する光ファイバレーザ用光ファイバにおいて、
上記希土類添加コアが長手方向に沿って複数個のコア領域に分割されており、各コア領域に添加された希土類元素の添加濃度が異なることを特徴とする光ファイバレーザ用光ファイバ。
【請求項2】
上記複数個のコア領域は、それぞれの添加濃度が長手方向の中央部を中心として対称である請求項1記載の光ファイバレーザ用光ファイバ。
【請求項3】
上記複数個のコア領域は、長手方向の長さが異なる請求項1または2記載の光ファイバレーザ用光ファイバ。
【請求項4】
使用時の長手方向の温度分布が170℃以下である請求項1〜3いずれかに記載の光ファイバレーザ用光ファイバ。
【請求項5】
上記複数個のコア領域は、500ppm、700ppm、1100ppmのいずれかの添加濃度を有する希土類添加コアを組み合わせてなる請求項1または2記載の光ファイバレーザ用光ファイバ。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載した光ファイバレーザ用光ファイバの製造方法であって、希土類元素の添加濃度が異なる希土類添加コアをそれぞれ有する複数本の分割ファイバを作製し、各分割ファイバの端末同士を融着接続することを特徴とする光ファイバレーザ用光ファイバの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5いずれかに記載した光ファイバレーザ用光ファイバと、上記光ファイバレーザ用光ファイバの端部に接続された光結合器と、上記光結合器を介してクラッドに励起光を入射させる複数個の光源とを備えたことを特徴とする光ファイバレーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−32910(P2009−32910A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195573(P2007−195573)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】