説明

光ファイバ素線の製造方法および光ファイバ素線の製造装置

【課題】 高速化、長尺化された光ファイバ素線の製造においても、二次被覆装置のニップルへの付着物の付着を防いで、被覆工程を円滑化し、かつ高品位の光ファイバ素線を得る光ファイバ素線の製造方法および光ファイバ素線の製造装置を提供する。
【解決手段】 光ファイバ裸線3の外周に一次被覆樹脂5を被覆し、一次被覆樹脂5を硬化して一次被覆層を形成して一次被覆光ファイバ7とし、一次被覆光ファイバ7の外周に二次被覆装置8により二次被覆樹脂9を被覆し、二次被覆樹脂9を硬化し二次被覆層を形成して光ファイバ素線11とする被覆工程を備えた光ファイバ素線の製造方法において、被覆工程にて、二次被覆装置8に導入する前の一次被覆光ファイバ7に対して、一次被覆樹脂5に含まれる揮発分が固化したものを溶融する温度のパージガスを吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの高速紡糸に用いられる光ファイバ素線の製造方法および光ファイバ素線の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線は、通常、光ファイバ裸線の外周をヤング率の比較的低い硬化性樹脂で被覆して一次被覆層を形成した後、この一次被覆層の外周をヤング率の比較的高い硬化性樹脂で被覆して二次被覆層を形成することにより得られる。このように光ファイバ裸線を被覆する被覆工程は、光ファバ素線の製造工程の一部として行われる。
【0003】
図5は、光ファイバ素線の製造工程の一例を示す模式図である。
光ファイバ母材101は、加熱炉102にて約2000℃で溶融紡糸され、光ファイバ裸線103に形成される。
【0004】
この光ファイバ裸線103は、引き続き一次被覆装置104に導入されて、その外周が一次被覆用の紫外線硬化型または熱硬化型などからなる硬化性樹脂105で被覆され、引き続き一次硬化装置106で紫外線照射または加熱などにより、硬化性樹脂105が硬化されて一次被覆層が形成された一次被覆光ファイバ107とされる。
【0005】
この一次被覆光ファイバ107は、引き続き二次被覆装置108に導入されて、その外周が二次被覆用の硬化性樹脂109で被覆され、引き続き二次硬化装置110により硬化性樹脂109が硬化されて二次被覆層が形成され、二層の硬化樹脂からなる被覆層が設けられた光ファイバ素線111とされる。
この光ファイバ素線の製造工程は、被覆層の偏肉などによる障害を避けるために、上方から下方に向けて垂直ライン上で行われる。
【0006】
近年、光ファイバ素線の製造が高速化、長尺化されるに伴って、被覆工程に種々の問題が発生している。
例えば、一次被覆用の硬化性樹脂105が硬化する際には、この硬化反応により生じる熱(以下、「反応熱」という。)によって、硬化性樹脂105に含まれる比較的低分子量の未重合成分がガス(以下、「揮発分」という。)となって発生する。この揮発分は、一次硬化装置106で発生する。
【0007】
そして、一次被覆光ファイバ107の移動に伴い揮発分も移動して、図6に示すように、揮発分が二次被覆装置108のニップル112に設けられたコーティングポート113の内壁や周辺部に引き込まれる。この揮発分は液化または固化し、コーティングポート113の内壁や周辺部に付着する(以下、「付着物114」という。)。この付着物114は、コーティングポート113の光ファイバの導入部(穴)を塞ぐとともに、一次被覆光ファイバ107に接触して一次被覆層の表面を粗し、この表面を平滑面で無くしてしまうことがある。
【0008】
一次被覆層の表面が平滑面でないと、一次被覆層と二次被覆層116との界面に空気を巻き込んでしまい、結果として、この界面にボイドが生じるという問題がある。また、付着物114のうち固化したものが、二次被覆層116に混入する際、二次被覆用樹脂液面を乱し、二次被覆層116内にボイドを生じるという問題がある。このように一次被覆層と二次被覆層116との界面や二次被覆層116内にボイドが存在すると、製品の品質を低下させ、時には断線などの原因ともなり、被覆不能に陥ることがある。
【特許文献1】特開2003−212605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもの高速化、長尺化された光ファイバ素線の製造においても、二次被覆層中にボイドが生じるのを防いで、被覆工程を円滑化し、かつ高品位の光ファイバ素線を得る光ファイバ素線の製造方法および光ファイバ素線の製造装置を提供するで、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る光ファイバ素線の製造方法は、光ファイバ裸線の外周に一次被覆用の硬化性樹脂を被覆し、該一次被覆用の硬化性樹脂を硬化して一次被覆層を形成して一次被覆光ファイバとし、該一次被覆光ファイバの外周に二次被覆装置により二次被覆用の硬化性樹脂を被覆し、該二次被覆用の硬化性樹脂を硬化し二次被覆層を形成して光ファイバ素線とする被覆工程を備えた光ファイバ素線の製造方法であって、前記二次被覆装置に導入する前の一次被覆光ファイバに対して、前記一次被覆用の硬化性樹脂に含まれる揮発分の固化したものを溶融する温度のパージガスを吹き付けることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る光ファイバ素線の製造方法は、請求項1において、前記揮発分を溶融する温度は、35℃以上、80℃以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係る光ファイバ素線の製造装置は、光ファイバ裸線の外周に被覆した一次被覆用の硬化性樹脂を硬化する一次硬化装置と、該一次硬化装置により前記一次被覆用の硬化性樹脂が硬化されてなる一次被覆光ファイバの外周に二次被覆用の硬化性樹脂を被覆する二次被覆装置と、前記一次硬化装置と前記二次被覆装置との間に、前記二次被覆装置に連設されたパージ部と、該パージ部に前記一次被覆光ファイバの進行方向に漸次拡径するテーパ管状に形成され、前記一次被覆光ファイバが非接触的に導入されかつ導出される導管部と、該導管部の大径部に設けられ、パージガスを前記導管部内に吹き込むパージガス吹込部と、を備えた光ファイバ素線の製造装置であって、前記パージガス吹き込み部にはパージガス導入管が接続され、該パージガス導入管には前記導管部内に吹き込む前のパージガスを加熱するパージガス加熱部が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被覆工程にて、二次被覆装置に導入する前の一次被覆光ファイバに対して、一次被覆用の硬化性樹脂に含まれる揮発分の固化したものを溶融する温度のパージガスを吹き付けるので、コーティングポート内に付着した揮発分の固化したものを効率的に除去することができるから、二次被覆層中にボイドが生じるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施した光ファイバの被覆方法および光ファイバの被覆装置について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る光ファイバ素線の製造装置および本発明に係る光ファイバ素線の製造方法における光ファイバ素線の製造工程の一実施形態を示す模式図である。図2は、本発明に係る光ファイバ素線の製造装置を構成する二次被覆装置、および、この二次被覆装置に連設されたパージ部の一実施形態を示す概略断面図である。
図1中、符号1は光ファイバ母材、2は加熱炉、3は光ファイバ裸線、4は一次被覆装置、5は一次被覆用の硬化性樹脂(以下、「一次被覆樹脂」と略す。)、6は一次硬化装置、7は一次被覆光ファイバ、8は二次被覆装置、9は二次被覆用の硬化性樹脂(以下、「二次被覆樹脂」と略す。)、10は二次硬化装置、11は光ファイバ素線をそれぞれ表している。また、図2中、符号12はニップル、13はコーティングポート、15はコーティングダイス、16は二次被覆層、20はパージ部、21は一次被覆光ファイバ7の導入孔、22は導管部、23は大径部、24はパージガス吹込部、25はパージガス導入管、26はパージガス加熱部、27はパージガスをそれぞれ表している。
【0016】
この実施形態における光ファイバ素線の製造装置は、加熱炉2と、一次被覆装置4と、一次硬化装置6と、二次被覆装置8と、二次硬化装置10と、パージ部20と、パージガス加熱部25とから概略構成されている。
【0017】
この光ファイバ素線の製造装置では、加熱炉2、一次被覆装置4、一次硬化装置6、二次被覆装置8および二次硬化装置10が、上方から下方に向けてこの順に垂直ライン上に配されており、一次硬化装置4と二次被覆装置8との間には、前記の垂直ライン上に二次被覆装置8に連接するようにパージ部20が設けられ、パージ部20に接続されたパージガス導入管25にはパージガス加熱部26が設けられている。
【0018】
二次被覆装置8のニップル12には、一次被覆光ファイバ7の導入孔となるコーティングポート13が設けられており、二次被覆装置8におけるコーティングポート13の下方かつ光ファイバの紡糸方向には、一次被覆光ファイバ7に二次被覆樹脂9を被覆するためのコーティングダイス15が設けられている。
【0019】
二次被覆装置8に連設されるパージ部20には、一次被覆光ファイバ7の導入孔21を基端とし、一次被覆光ファイバ7の進行方向(紡糸方向)に漸次拡径するテーパ管状に形成され、一次被覆光ファイバ7を非接触的に、上方から導入し、かつ、下方から導出する導管部22が設けられている。
【0020】
導管部22の大径部23には、パージガス27を導管部22内に吹き込むためのディフューザを有するパージガス吹込部24が設けられている。また、パージガス吹込部24には、パージガス27を導管部22内に吹き込むパージガス導入管25が接続されている。さらに、パージガス導入管25には、その外周を囲むように、導管部22内に吹き込む前のパージガス27を加熱するためのパージガス加熱部26が設けられている。
【0021】
パージ部20の導入孔21の開口径は、パージ部20内に導入される一次被覆光ファイバ7の外径の2倍以上、8倍以下であることが好ましい。
例えば、一次被覆光ファイバ7の外径が0.2mmであれば、導入孔21の開口径は0.4mm以上、1.6mm以下とすることが好ましい。
【0022】
導入孔21の開口径が一次被覆光ファイバ7の外径の2倍未満であると、導入孔21近傍において、微少な線振れによって、一次被覆光ファイバ7が導入孔21の内壁に接触し、損傷するおそれがある。一方、導入孔21の開口径が一次被覆光ファイバ7の外径の8倍を超えると、パージガス27によるエアナイフ効果が薄れ、一次被覆層をなす一次被覆樹脂5に含まれる揮発分が液化または固化して、コーティングポート13の内壁や周辺部に付着した付着物の除去が困難になる。このような観点から、導入孔21の開口径は、パージ部20内に導入される一次被覆光ファイバ7の外径の3倍以上、6倍以下であることがより好ましく、5倍程度であることが特に好ましい。
【0023】
導管部22のテーパ角およびその長さは特に限定されるものではなく、パージ部20内に導入される一次被覆光ファイバ7の走行速度、二次被覆装置8における二次被覆樹脂9の供給圧、パージガスの流速(容積速度)、導入孔21の開口径、コーティングポート13の開口径などを考慮した上で、一次被覆光ファイバ7が過度な線振れを起こさない範囲でパージガス27によるエアナイフ効果が最大となる範囲であることが好ましい。
【0024】
また、パージ部20は、テーパ角およびその長さが異なる数種類のものを用意して、一次被覆光ファイバ7の外周に二次被覆層16を形成する工程の運転条件に応じて最適なものに付け替えるようにしてもよい。例えば、導入孔21の開口径が1.0mmの場合、パージ部20のテーパ角は一次被覆光ファイバ7の走行軸(一次被覆光ファイバ7の走行方向と平行な軸)に対して5°以上、30°以下であることが好ましく、10°以上、15°以下であることがより好ましい。また、導入孔21の開口径が1.0mmの場合、パージ部20の長さは、10mm以上、50mm以下であることが好ましく、10mm以上、20mm以下であることがより好ましい。
【0025】
パージガス吹込部24は、パージガス導入管25を介して、パージガス27を導管部22内に一定の流速で導入するようになっている。また、パージガス吹込部24とパージガス導入管25との接続部、あるいは、パージガス導入管25の長手方向の途中に、パージガス27を清浄化するためのフィルタ(図示略)が設けられている。これにより、パージガス24は導管部22のテーパ管状壁面に沿って一次被覆光ファイバ7の走行に逆らって次第に加速加圧されながら上昇し、導入孔21と一次被覆光ファイバ7との間隙からエアナイフとして効果的な角度で一次被覆光ファイバ7の周面に向けて均等に噴出される。
【0026】
パージガス導入管25の外周を囲むように設けられたパージガス加熱部26としては、特に限定されるものではなく、導管部22内に吹き込む前のパージガス27を、その流速に応じて所定の温度に加熱することができるものであれば、いかなるもので用いられる。また、導管部22内に吹き込むパージガス27の温度を所定の温度、すなわち、揮発分を溶融する温度(35℃以上、80℃以下)とするためには、パージガス加熱部26は、パージ部20の近傍に設けられることが望ましい。
【0027】
この実施形態では、一次硬化装置4と二次被覆装置8との間に、二次被覆装置8に連接するようにパージ部20が設けられ、パージ部20に接続されたパージガス導入管25にはパージガス加熱部26が設けられているから、二次被覆装置8に導入される前の一次被覆光ファイバ7の一次被覆層をなす一次被覆樹脂5に含まれる揮発分が固化したものを効率的に除去することができるから、二次被覆装置8のニップル12に付着物が付着することがない。
【0028】
なお、この実施形態では、パージ部20が二次被覆装置8に直接取り付けられている例を示したが、本発明の光ファイバ素線の製造装置はこれに限定されない。本発明の光ファイバ素線の製造装置にあっては、パージ部の設置位置は、一次硬化装置と二次被覆装置との中間であれば特に限定されない。
【0029】
ただし、パージ部20が独立した位置に設置される場合には、パージガス27が効率よく導入孔21から吹き出されるように、例えば図3に示すように、パージ部20の一次被覆光ファイバ7が導出される側にガスシール部28を設けることが好ましい。このガスシール部28には、一次被覆光ファイバ7を非接触に通過させる導出孔29が形成されている。これにより、パージガス吹込部24から吹き込まれたパージガス27は、その一部が導出孔29を通じて下方に漏出するが、吹き込みガスの流速を調節することにより、有効量のパージガス27を一次被覆光ファイバ7の走行方向に逆行して導入孔21から吹き出させることができる。
【0030】
また、この実施形態では、1つのパージ部20が二次被覆装置8に直接取り付けられている例を示したが、本発明の光ファイバ素線の製造装置はこれに限定されない。本発明の光ファイバ素線の製造装置にあっては、一次硬化装置と二次被覆装置との中間であれば、2つ以上のパージ部を直列にして設置してもよい。2つ以上のパージ部を直列にして設置する場合、各パージ部の形状は同一であっても、異なっていてもよい。ただし、これらのパージ部は、その少なくとも1つが一次被覆光ファイバの進行方向に漸次拡径するテーパ管状の導管部を有し、かつ、この導管部の大径部にパージガス吹込部が設けられていればよい。
【0031】
図4に、2つのパージ部を直列に設置した例を示す。
この例では、図2に示したパージ部20と同一形状の第一のパージ部30と、第二のパージ部40が、大径部23およびパージガス吹込部24を共有して互いに逆向きに接合して設置されている。これにより、共有するパージガス吹込部24からパージガス27を吹き込むと、パージガス27は、それぞれの導管部32、42を通って、第一のパージ部30の導入孔31、および、第二のパージ部40の導出孔41から吹き出される。
【0032】
この例においても、少なくとも第一のパージ部30は、一次被覆光ファイバ7の走行方向に漸次拡径するテーパ管状の導管部32を有し、かつ、この導管部32の大径部23にパージガス吹込部24が設けられているので、パージガス27の一部は一次被覆光ファイバ7の走行方向に逆行して、一次被覆光ファイバ7の周面に均等に吹き付けられる。これにより、揮発分が液化または固化して、コーティングポート13の内壁や周辺部に付着した付着物が効果的に除去される。このとき、第二のパージ部40の導出孔41は前記のガスシール部の役割を果たす。これとともに、第一のパージ部30と、第二のパージ部40を一体化し、導管部32と導管部42を連通してなるガス流空間43が、一次被覆光ファイバ7の被覆層内に含まれる揮発性物質も放散させ、一次被覆層と二次被覆層との密着性を高めるなどの効果をもたらす。
【0033】
2個またはそれ以上のパージ部を、その全ての導管部が一次被覆光ファイバ7の進行方向に漸次拡径するテーパをなすように、重ね傘状に配置することもできる。この場合は、それぞれの導入孔から吹き出すパージガスがそれぞれエアナイフ効果を現すので、揮発分が液化または固化して、コーティングポート13の内壁や周辺部に付着した付着物の除去効率がきわめて高く、線引きの高速化・長尺化がさらに進んだ場合にも対応できるものとなる。
【0034】
次に、図1および図2を参照して、本発明に係る光ファイバ素線の製造方法の一実施形態を説明する。
光ファイバ母材1は、加熱炉2にて約2000℃で溶融紡糸され、光ファイバ裸線3に形成される。
【0035】
この光ファイバ裸線3は、引き続き一次被覆装置4に導入されて、その外周が一次被覆用の紫外線硬化型または熱硬化型などからなる一次被覆樹脂5で被覆され、引き続き一次硬化装置6で紫外線照射または加熱などにより、一次被覆樹脂5が硬化されて一次被覆層が形成された一次被覆光ファイバ7とされる(被覆工程)。
【0036】
この一次被覆光ファイバ7は、引き続き二次被覆装置8に導入されて、その外周が二次被覆樹脂9で被覆され、引き続き二次硬化装置10により二次被覆樹脂9が硬化されて二次被覆層16が形成され、一次被覆層および二次被覆層からなる被覆層が設けられた光ファイバ素線11とされる(被覆工程)。
【0037】
その後、光ファイバ素線11は、ターンプーリ(図示略)によって別方向に向きを変えられ、引取機(図示略)、ダンサーロール(図示略)を順に経て、巻取ドラム(図示略)に巻き取られる。
【0038】
この実施形態では、上記の被覆工程にて、二次被覆装置8に連設されたパージ部20内に一次被覆光ファイバ7を導入し、パージ部20内において、二次被覆装置8に導入する前の一次被覆光ファイバ7に対して、一次被覆樹脂5に含まれる揮発分が固化したものを溶融する温度に制御されたパージガス27を吹き付ける。
【0039】
すなわち、被覆工程にて、二次被覆装置8に導入する前の一次被覆光ファイバ7に対して、一次被覆樹脂5に含まれる揮発分が固化したものを溶融する温度に制御されたパージガス27を吹き付けることにより、一次被覆光ファイバ7に付着した状態で随伴する揮発分が固化したものは、パージガス27によって溶融し、光ファイバ周辺から吹き飛ばされて除去されるか、あるいは、液化して二次被覆樹脂9に溶解する。したがって、二次被覆装置8のニップル12に設けられたコーティングポート13の内壁や周辺部に付着物が付着することがない。よって、一次被覆層と二次被覆層16の界面近傍、もしくは、二次被覆層16中にボイドが生じることがない。
また、パージガス27は、一次被覆光ファイバ7の周面に均等に吹き付けられるので、一次被覆光ファイバ7がこれによって線振れなどを起こすことはない。
【0040】
上記の揮発分を溶融する温度は、35℃以上、80℃以下であることが好ましく、30℃以上、50℃以下であることがより好ましい。一次被覆光ファイバ7に吹き付けられるパージガス27の温度を、上記の範囲内とすれば、次被覆装置8に導入される前の一次被覆光ファイバ7の一次被覆層をなす一次被覆樹脂5に含まれる揮発分を効率的に除去することができるから、二次被覆層16中にボイドが生じることがない。
【0041】
パージガス27としては、清浄化された不活性ガスであればいずれでもよい。安価に常時入手できるものの例は窒素ガスであるが、炭酸ガス、アルゴンガス、キセノンガス、シランガス、フロンガスなども便利に使用できる。
【0042】
なお、被覆工程にて、パージガス27を、一次被覆光ファイバ7の走行方向とは反対の方向に吹き付けることが好ましい。すなわち、被覆工程にて、パージガス吹込部24からパージガス27を導管部22内に吹き込み、これを導管部22の一次被覆光ファイバ7の導入孔21から吹き出すと、二次被覆装置8に導入される前の一次被覆光ファイバ7にパージガス27が、一次被覆光ファイバ7の走行方向に対して逆方向に、かつ、一次被覆光ファイバ7の周面に吹き付けられ、一次被覆光ファイバ7に随伴する揮発分が固化したものを、パージガス27によって光ファイバ周辺から効率的に吹き飛ばして、除去することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例)
図1に示した光ファイバ素線の製造工程において、図2に示したパージ部20および二次被覆装置8を備え、パージ部20に接続されたパージガス導入管25にパージガス加熱部26が設けられた光ファイバ素線の製造装置を用いて、光ファイバ素線の高速・長尺の線引きを行った。
パージ部20の導入孔21の開口径を1.0mm、導管部22のテーパ角を10°、導管部22の長さを15mmとした。パージガス27としては窒素ガスを用い、供給ガス量は5l/minとした。加熱部26により加熱された導管部22内に吹き込むパージガス27の温度を40℃とした。一次被覆光ファイバ7の直径は0.2mmであった。
なお、光ファイバ素線の製造工程における光ファイバの線速を10m/sとし、線引き長さは150kmで完了とした。
【0045】
(比較例)
加熱部26を用いて、導管部22内に吹き込むパージガス27の温度を35℃〜80℃内の温度に制御しない以外は実施例と同様にして、光ファイバ素線の高速・長尺の線引きを行った。
【0046】
実施例では、上記の条件下において問題なく線引きを完了することができた。また、得られた光ファイバ素線には、二次被覆層16中にボイドが観察されなかった。
一方、比較例では、線引き長さ80kmで二次被覆層16にボイドの混入が認められ、100kmでニップル12から二次被覆樹脂9が溢れるなどにより被覆不能となった。この結果から、実施例で用いた加熱部が揮発分を効果的に除去し二次被覆層16中にボイドが生じることを防止し、高速・長尺の線引きを可能にしたことは明かである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の光ファイバ素線を得る光ファイバ素線の製造方法および光ファイバ素線の製造装置は、光ファイバのみならず、直列に2つ以上の被覆装置を有する全ての製造装置おける2番目以降の塗布部にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る光ファイバ素線の製造装置および本発明に係る光ファイバ素線の製造方法における光ファイバ素線の製造工程の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る光ファイバ素線の製造装置を構成する二次被覆装置、および、この二次被覆装置に連設されたパージ部の一実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る光ファイバ素線の製造装置に用いられるパージ部の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る光ファイバ素線の製造装置に用いられるパージ部の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図5】光ファイバ素線の製造工程の一例を示す模式図である。
【図6】従来の光ファイバ素線の製造装置を構成する二次被覆装置の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・光ファイバ母材、2・・・加熱炉、3・・・光ファイバ裸線、4・・・一次被覆装置、5・・・一次被覆樹脂、6・・・一次硬化装置、7・・・一次被覆光ファイバ、8・・・二次被覆装置、9・・・二次被覆樹脂、10・・・二次硬化装置、11・・・光ファイバ素線、12・・・ニップル、13・・・コーティングポート、15・・・コーティングダイス、16・・・二次被覆層、20・・・パージ部、21・・・導入孔、22・・・導管部、23・・・大径部、24・・・パージガス吹込部、25・・・パージガス導入管、26・・・パージガス加熱部、27・・・パージガス、28・・・ガスシール部、29・・・導出孔、30・・・第一のパージ部、31・・・導入孔、32・・・導管部、40・・・第二のパージ部、41・・・導出孔、42・・・導管部、43・・・ガス流空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線の外周に一次被覆用の硬化性樹脂を被覆し、該一次被覆用の硬化性樹脂を硬化して一次被覆層を形成して一次被覆光ファイバとし、該一次被覆光ファイバの外周に二次被覆装置により二次被覆用の硬化性樹脂を被覆し、該二次被覆用の硬化性樹脂を硬化し二次被覆層を形成して光ファイバ素線とする被覆工程を備えた光ファイバ素線の製造方法であって、
前記二次被覆装置に導入する前の一次被覆光ファイバに対して、前記一次被覆用の硬化性樹脂に含まれる揮発分の固化したものを溶融する温度のパージガスを吹き付けることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記揮発分を溶融する温度は、35℃以上、80℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
光ファイバ裸線の外周に被覆した一次被覆用の硬化性樹脂を硬化する一次硬化装置と、該一次硬化装置により前記一次被覆用の硬化性樹脂が硬化されてなる一次被覆光ファイバの外周に二次被覆用の硬化性樹脂を被覆する二次被覆装置と、前記一次硬化装置と前記二次被覆装置との間に、前記二次被覆装置に連設されたパージ部と、該パージ部に前記一次被覆光ファイバの進行方向に漸次拡径するテーパ管状に形成され、前記一次被覆光ファイバが非接触的に導入されかつ導出される導管部と、該導管部の大径部に設けられ、パージガスを前記導管部内に吹き込むパージガス吹込部と、を備えた光ファイバ素線の製造装置であって、
前記パージガス吹き込み部にはパージガス導入管が接続され、該パージガス導入管には前記導管部内に吹き込む前のパージガスを加熱するパージガス加熱部が設けられたことを特徴とする光ファイバ素線の製造装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−321687(P2006−321687A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146937(P2005−146937)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】