説明

光フリップフロップ回路

【課題】新規な動作原理に基づく、より装置構成がシンプルで、低コスト化を図ることが期待される光フリップフロップ回路を提供する。
【解決手段】第1のスイッチSW1は、光源光と信号光を入射する2つの入力ポート、光出力のための2つの出力ポート所定の光入力条件で熱レンズを形成する熱レンズ形成素子を備える。第2のスイッチSW2は第1のスイッチSW1と同様な構成であるが、利用する波長の関係が逆となっている。OFFからONにするときは、セットのためのパルス信号を入力し、第2のスイッチSW2の一方の出力光を第1のスイッチSW1にフィードバックさせてON状態を維持させる。ONからOFFにするときは、さらなる信号光のパルスを入力させる。これにより、ONとOFFの2つの状態が安定して維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、新規な動作原理に基づく光フリップフロップ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フリップフロップ回路とは、「ON」と「OFF」あるいは「HIGH」と「LOW]の2つの安定状態を持つ電子回路であり、2つの状態を「0」と「1」に対応させることで1ビットの情報を保持でき、加える信号によって2つの状態が交互に変化するようになっている基本的な電子回路素子である。
【0003】
近年、光通信技術や光情報処理技術等の急速な進展にともない、光技術分野においても、従来より基本的な電子回路素子であったフリップフロップ回路に相当する光フリップフロップ回路の研究開発がなされてきており、いくつかの提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、基板極性がnの双安定レーザの過飽和吸収領域と、基板極性がpの双安定レーザの過飽和吸収領域を、それぞれバイアスを介して接続し、一方の双安定レーザが発振すると、他方の双安定レーザが発振を止める光インバータ回路としての光フリップフロップ回路が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、半導体光変調回路を用いてすべての素子を同一基板上にモノリシック集積し、より高速、低電圧、かつ光軸のずれのない信頼性の高い光フリップフロップ回路が提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、受光素子と、発光素子と、電気信号を発光素子へ導く導電路と、光信号を受光素子へ導く導光路と、入力光信号を受光素子に与える一方、発光素子より出力された出力光信号を導出する光入出力部とを備え、制御信号、入出力信号のすべてが光で行えるようにした光フリップフロップ回路が提案されている。
【特許文献1】特開平6−95194号公報
【特許文献2】特開平4−130316号公報
【特許文献3】特開平2−190019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来提案されている光フリップフロップ回路は、いずれもその装置構成が複雑なものであり、装置コストが高くならざるを得ず、これからさらに急速に進展していく光通信、光情報等の分野においては、より装置構成がシンプルで、低コストな光フリップフロップの実現が望まれていた。
【0008】
この出願の発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、新規な動作原理を基づき、より装置構成がシンプルで、低コスト化を図ることが期待される光フリップフロップ回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この出願の発明は、上記課題を解決するものとして、第1には、第1の波長λ1を有するパルス状の第1の信号光と第2の波長λ2を有する連続光である第1の光源光とを同軸でかつ収束して入射する第1の信号入力部、第1の信号光に対し吸収性を示し第1の光源光に対し透過性を示す波長帯域を持つ第1の光吸収膜を有し、第1の光吸収膜が第1の信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、第1の信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は光源光を通常の開き角度で出射する状態と、第1の信号光が照射されて熱レンズが形成された場合は光源光を通常の開き角度より大きい開き角度で出射する状態とを、第1の信号光の照射の有無に対応させて実現させる第1の熱レンズ形成素子、及び第1の熱レンズ形成素子より出射した第1の光源光のうち、通常の開き角度で出射した第1光源光は第1の出力ポートから出力させ、通常の開き角度より大きい開き角度で出射した第1の光源光は第2の出力ポートから出力させる第1の光源光選択部を備えた第1の光スイッチと;第1の光スイッチの第2の出力ポートから出力される第2の波長λ2の光源光を第2の信号光として取り込み、この第2の信号光と第1の波長λ1を有する連続光である第2の光源光とを同軸でかつ収束して入射する第2の信号入力部、第2の信号光に対し吸収性を示し第2の光源光に対し透過性を示す波長帯域を持つ第2の光吸収膜を有し、第2の光吸収膜が第2の信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、第2の信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は第2の光源光を通常の開き角度で出射する状態と、第2の信号光が照射されて熱レンズが形成された場合は第2の光源光を通常の開き角度より大きい開き角度で出射する状態とを、第2の信号光の照射の有無に対応させて実現させる第2の熱レンズ形成素子、及び出射した第2の光源光のうち、通常の開き角度で出射した第2光源光は第1の出力ポートから出力し、通常の開き角度より大きい開き角度で出射した第2の光源光は第2の出力ポートから出力させる第2の光源光選択部を備えた第2の光スイッチと;第2の光スイッチの第2の出力ポートから出力した第2の光源光をフィードバック光とし、第1の信号光パルスに続けて第1の信号光として第1の光スイッチに入力させるフィードバック部とを具備し;セットのための第1の信号光パルスが入力した時点でスイッチON状態となり、フィードバック光によりその状態を維持させ、リセットのための第1の信号光パルスが第1の光スイッチに入力すると、第1の熱レンズ形成素子において、通常の開き角度より大きい開き角度よりさらに大きな開き角度の第1の光源光が形成されて、この第1の光源光の第2出力ポートからの出力が遮断されてスイッチOFFとなることを特徴とする光フリップフロップ回路を提供する。
【0010】
また、この出願の発明によれば、上記第1の発明において、第1の光源光選択部と第2の光源光選択部がそれぞれ穴付ミラーであり、それぞれ通常の開き角度のときは第1の光源光と第2の光源光を穴より通過させ、それぞれ通常の開き角度より大きな開き角度のときは穴付ミラーのミラー部により第1の光源光と第2の光源光の光路の方向を変更させることを特徴とする光フリップフロップ回路を提供する。
【発明の効果】
【0011】
この出願の発明によれば、熱レンズ形成素子を利用した新しい原理に基づく、より装置構成がシンプルで、低コスト化を図ることが期待される光フリップフロップ回路の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この出願の発明は上記のとおりの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、この出願の発明の一実施形態に係る光フリップフロップ回路の構成を模式的に示した図である。
【0014】
この光フリップフロップ回路(1)では、第1のスイッチ(SW1)と第2のスイッチ(SW2)が直列に接続配置されている。
【0015】
第1のスイッチ(SW1)には、波長650nmの連続(CW)光である光源光(11)を取り込むための入力ポート(12)と、波長1550nmのパルス状信号光[ゲート光](13)を取り込むための入力ポート(14)が設けられている。入力ポート(12)の下流側には入射した光源光(11)を平行光とするためのレンズ(15)が配置され、入力ポート(14)の下流側には入射した信号光(13)を平行光とするためのレンズ(16)が配置されている。レンズ(15)の下流側にはダイクロイックミラー(17)が配置され、レンズ(16)の下流側にはレンズ(16)からの平行光の光路を変えるミラー(18)が配置されている。ダイクロイックミラー(17)はレンズ(15)からの平行光は透過させ、ミラー(16)からの平行光の光路を変えて、光源光(11)と信号光(13)を同軸の重なり合った平行光とする。ダイクロイックミラー(17)の下流側にはレンズ(19)、熱レンズ形成素子(20)、レンズ(21)、フィルター(22)、穴付ミラー(23)、レンズ(24)がそれぞれ配置されている。レンズ(19)はダイクロイックミラー(17)からの重なり合った平行光を焦点が熱レンズ形成素子(20)内となるように収束させる。熱レンズ形成素子(20)は、光源光(11)のみが入射した場合には通常の開き角度で光源光(11)を出射し、光源光(11)と信号光(13)が同時に入射した場合には熱レンズを形成し、通常の開き角度より大きな開き角度で両者の光(11)、(13)を出射する。また、熱レンズ形成素子(20)は、熱レンズが形成されている状態で、さらなるリセットのための信号光パルスが第2の入力ポート(14)から入射すると、信号光全体のパルス強度が閾値を越えて、熱レンズが乱れ、両者の光(11)、(13)を適切な大きな開き角度よりもさらに大きな開き角度とする。レンズ(21)は出射した両者の光(11)、(13)を平行光にする。フィルター(22)は信号光(13)をカットし、光源光(11)は通過させる。穴付ミラー(23)は通常の開き角度の光源光(11)はその穴を通過させ、通常の開き角度より大きな開き角度の光源光(11)はミラー部分で反射させ、その光路を変える。穴付ミラー(23)の下流側のミラー(24)は、穴付ミラー(23)の穴を通過した光源光(11)を収束させる。図1において穴付ミラー(23)の下方には、穴付ミラー(23)により反射した光源光(11)をさらに反射させ、光路を変えるミラー(25)が配置され、その下流側にはミラー(25)からの平行光を収束させるレンズ(26)が配置されている。第1のスイッチ(SW1)には、2つの出力ポート(27)、(28)が設けられている。出力ポート(27)は信号光(13)OFF時にレンズ(24)で収束された650nm光出力を行う。出力ポート(28)は信号光(13)ON時にレンズ(26)で収束された650nm光出力を行う。
【0016】
第2のスイッチ(SW2)には、波長1550nmの連続(CW)光である光源光(31)を取り込むための入力ポート(32)と、第1のスイッチ(SW1)の出力ポート(28)から出力される650nm光出力を信号光[ゲート光](33)として取り込むための入力ポート(34)が設けられている。入力ポート(32)の下流側には入射した光源光(31)を平行光とするためのレンズ(35)が配置され、入力ポート(34)の下流側には入射した信号光(33)を平行光とするためのレンズ(36)が配置されている。レンズ(35)の下流側にはダイクロイックミラー(37)が配置され、レンズ(36)の下流側にはレンズ(36)からの平行光の光路を変えるミラー(38)が配置されている。ダイクロイックミラー(37)はレンズ(35)からの平行光は透過させ、ミラー(36)からの平行光の光路を変えて、光源光(31)と信号光(33)を同軸の重なり合った平行光とする。ダイクロイックミラー(37)の下流側にはレンズ(39)、熱レンズ形成素子(40)、レンズ(41)、フィルター(42)、穴付ミラー(43)、レンズ(44)がそれぞれ配置されている。レンズ(39)はダイクロイックミラー(37)からの重なり合った平行光を焦点が熱レンズ形成素子(40)内となるように収束させる。熱レンズ形成素子(40)は、光源光(31)のみが入射した場合には通常の開き角度で光源光(31)を出射し、光源光(31)と信号光(33)が同時に入射した場合には熱レンズを形成し、通常の開き角度より大きな開き角度で両者の光(31)、(33)を出射する。レンズ(41)は出射した両者の光(31)、(33)を平行光にする。フィルター(42)は信号光(33)をカットし、光源光(31)は通過させる。穴付ミラー(43)は、通常の開き角度の光源光(31)はその穴を通過させ、通常の開き角度より大きな開き角度の光源光(31)はミラー部分で反射させ、その光路を変える。穴付ミラー(43)の下流側のミラー(44)は、穴付ミラー(43)の穴を通過した光源光(31)を収束させる。図1において穴付ミラー(43)の下方には、穴付ミラー(43)により反射した光源光(31)をさらに反射させ、光路を変えるミラー(45)が配置され、その下流側にはミラー(45)からの平行光を収束させるレンズ(46)が配置されている。第2のスイッチ(SW2)には、2つの出力ポート(47)、(48)が設けられている。出力ポート(47)は信号光(33)OFF時にレンズ(44)で収束された1550nm光出力を行う。出力ポート(48)は信号光(33)ON時にレンズ(46)で収束された1550nm光出力を行う。
【0017】
この実施形態の光フリップフロップ(1)では、第2のスイッチ(SW2)の出力ポート(48)と第1のスイッチ(SW1)の入力ポート(14)を連結するフィードバック部(51)が設けられている。このフィードバック部(51)は、図1の左下に記載されているように、第1のスイッチ(SW1)の入力ポート(14)に入力した波長1550nmのパルスP1に続けて、第2スイッチ(SW2)から出力される波長1550nmのフィードバック光(52)をパルスP2として第1のスイッチ(SW1)の入力ポート(14)に入射させ、光フリップフロップ(1)のON状態を維持させる。パルスP1のパルス幅、パルス高さ(強度)は、例えばパルス幅0.5ms〜1ms程度、パルス高さ数mW〜10mWのように設定することができるが、特にこれに限定されない。パルス幅は第1のスイッチ(SW1)、第2のスイッチ(SW2)を構成する系の応答時間に対応させて決めることができる。パルスP2のパルス幅はON状態の維持時間に対応し、パルス高さはパルスP2と同じにしてもよいし、異ならせてもよい。
【0018】
ここで第1のスイッチ(SW1)の熱レンズ形成素子(20)と第2のスイッチ(SW2)の熱レンズ形成素子(40)について説明する。
【0019】
図2は、熱レンズ形成素子(20)を説明するための概念図である。熱レンズ形成素子(20)は、図3の実線で示すように、波長650nmの光源光(11)に対しては透過性を示し、波長1550nmの信号光(13)に対しては吸収性を示す波長帯域を持つ色素よりなる光吸収膜(20’)を有している。このような波長帯域を持つ色素としては、市販の赤外線吸収色素を好適に用いることができ、さらに具体的には、例えば、日本カーリット株式会社製、CIR−960を使用することができる。
【0020】
熱レンズ形成素子(20)では、上記のような波長帯域を持つ光吸収膜(20’)に波長1550nmの信号光(13)が照射されると、その光に対して吸収性を示すため光を吸収した領域及びその周辺領域の温度が上昇し、屈折率が変化し、その温度分布に応じて屈折率が変化して熱レンズ(TL)が形成され、信号光(13)の照射が終わると元の状態に戻るという可逆的な屈折率変化を生じる。したがって、熱レンズ形成素子(20)に連続(CW)光である光源光(11)のみが照射され信号光(13)がOFFの場合には、図2(a)のように熱レンズ(TL)は形成されないため、通常の開き角度で光源光(11)が出射し、レンズ(21)で平行光とされ、断面が円形状のビームとして穴付ミラー(22)の穴をそのまま通過する。一方、熱レンズ形成素子(20)に光源光(11)が照射されかつ信号光(13)がONの場合には、図2(b)のように熱レンズ(TL)が形成され、通常の開き角度より大きい角度で光源光(11)が出射し、レンズ(21)で平行光とされ、断面がリング状のビームとして穴付ミラー(22)のミラー部で反射され、光路の方向が変えられる。
【0021】
一方、熱レンズ形成素子(40)は、図3の鎖線で示すように、波長1550nmの光源光(31)に対しては透過性を示し、波長650nmの信号光(33)に対しては吸収性を示す波長帯域を持つ色素よりなる光吸収膜を有している。このような波長帯域を持つ色素としては、溶剤可溶性のフタロシアニン色素を好適に用いることができ、さらに具体的には、例えば、銅(II)2,9,16,23−テトラ−tert−ブチル−29H,31H−フタロシアニン(Copper(II)2,9,16,23-tetra-tert-butyl-29H,31H-phthalocyanine)を使用することができる。熱レンズの形成、その作用に関しては上記と同様である。
【0022】
熱レンズ形成素子(20)、(40)は、基本的に上記のような吸収、透過の波長特性を持ち、熱レンズの形成可能な光吸収膜(20’)、(40’)を有しておればよく、光吸収を促進させる層や、伝熱層、保温層等、この出願の発明者らの出願に係る特開2005−265986号公報に記載されているような各種の構造のものとすることができる。
【0023】
次に、この出願の発明の実施形態に係る光フリップフロップ回路(1)の動作について説明する。
【0024】
先ず、光フリップフロップ回路(1)をOFFからONにする場合について述べる。光フリップフロップ回路(1)がOFFのときには、第1のスイッチ(SW1)においては信号光(13)は入射しておらず、連続光である光源光(11)のみが入力ポート(12)より入射し、レンズ(15)で平行光とされ、ダイクロイックミラー(17)を通過し、レンズ(19)で収束され、熱レンズ形成素子(20)内で焦点を結ぶ。このとき、熱レンズ形成素子(20)では熱レンズが形成されていないため、光源光(11)は通常の開き角度で熱レンズ形成素子(20)より出射し、レンズ(21)により平行光とされ、フィルター(22)を通過し、穴付ミラー(23)の穴を通過し、レンズ(24)により収束され、出力ポート(27)より650nm光出力として出力される。
【0025】
このとき、第2のスイッチ(SW2)においては入力ポート(34)から信号光(33)は入射しておらず、連続光である光源光(31)のみが入力ポート(32)より入射し、レンズ(35)で平行光とされ、ダイクロイックミラー(37)を通過し、レンズ(39)で収束され、熱レンズ形成素子(24)内で焦点を結ぶ。このとき、熱レンズ形成素子(40)では熱レンズが形成されていないため、光源光(31)は通常の開き角度で熱レンズ形成素子(40)より出射し、レンズ(41)により平行光とされ、フィルター(42)を通過し、穴付ミラー(43)の穴を通過し、レンズ(44)により収束され、出力ポート(47)より1550nm光出力として出力される。
【0026】
光フリップフロップ回路(1)が上記のようなOFF状態のときにセットのためのパルス状信号光(13)[図1の左下のパルスP1]が入力すると、そのパルスの先端エッジ(図1に矢印で示す)でスイッチONとなる。
【0027】
すなわち、セットのための信号光(13)のパルスが入力ポート(14)より入射すると、レンズ(16)により平行光とされ、ミラー(18)で光路が変えられ、ダイクロイックミラー(17)に達する。一方、入力ポート(12)からは連続光である光源光(11)が入射し、レンズ(15)で平行光とされ、ダイクロイックミラー(17)に達する。このミラー(17)により、光源光(11)と信号光(13)は同軸で重なり合った平行光とされ、レンズ(19)により収束され、熱レンズ形成素子(20)内で焦点を結ぶ。このとき、熱レンズ形成素子(20)の光吸収膜は波長1550nmの信号光(13)に対して吸収性を示すため、熱レンズが形成される。これにより、光源光(11)と信号光(13)は通常の開き角度より大きい開き角度で出射し、(21)で平行光とされ、信号光(13)はフィルター(22)でカットされ、光源光(11)は穴付ミラー(23)のミラー部で反射され、光路が変わり、ミラー(25)によりさらに反射され、光路が再び変わり、レンズ(26)で収束され、出力ポート(28)から650nm光出力として出力される。
【0028】
この650nm光出力は、第2のスイッチ(SW2)の入力ポート(34)より信号光(33)として入射され、レンズ(36)により平行光とされ、ミラー(38)で光路が変えられ、ダイクロイックミラー(37)に達する。一方、入力ポート(32)からは波長1550nmの連続光である光源光(31)が入射し、レンズ(35)で平行光とされ、ダイクロイックミラー(37)に達する。このダイクロイックミラー(37)により、光源光(31)と信号光(33)は同軸で重なり合った平行光とされ、レンズ(39)により収束され、熱レンズ形成素子(40)内で焦点を結ぶ。このとき、熱レンズ形成素子(40)の光吸収膜は波長650nmの信号光(33)に対して吸収性を示すため、熱レンズが形成される。これにより、光源光(31)と信号光(33)は通常の開き角度より大きい開き角度で出射し、レンズ(41)で平行光とされ、信号光(33)はフィルター(42)でカットされ、光源光(31)は穴付ミラー(43)のミラー部で反射され、光路が変わり、ミラー(45)によりさらに反射され、光路が再び変わり、レンズ(46)で収束され、出力ポート(48)から650nm光出力として出力される。この650nm光出力はフィードバック光(52)となり、フィードバック部(51)により第1のスイッチ(SW1)の入力ポート(14)に送られ、図1の左下のパルスP2として、パルスP1の後に続き、パルスP1で設定したON状態を持続させる。
【0029】
次に、光フリップフロップ回路(1)をONからOFFにする場合について述べる。光フリップフロップ回路(1)がONのときには、上記のフィードバック光(52)のパルスP2がON状態のままであるが、このとき、リセットのためのさらなる信号光(13)のパルスが入力ポート(14)より入射すると、信号光(13)の強度はフィードバック分とリセット分を合わせたものとなり閾値を越える。すると、熱レンズ形成素子(20)に形成されていた熱レンズが乱され、開き角度はさらに大きなものとなり、穴付ミラー(23)のミラー部で反射されなくなる。これにより、出力ポート(28)での出力はストップし、第2のスイッチ(SW2)への信号光(34)の入射がストップするため、熱レンズ形成素子(40)の熱レンズが形成されなくなる。そして、第1のスイッチ(SW1)では出力ポート(27)から650nm光出力が出力され、第2のスイッチ(SW2)では出力ポート(48)からの1550nm光出力がストップし、出力ポート(47)から1550nm出力が出力され、その状態が維持され、光フリップフロップ回路(1)がOFFとなる。
【0030】
光フリップフロップ回路(1)のON、OFFの状態は第1のスイッチ(SW1)の出力ポート(27)の出力及び第2のスイッチ(SW2)の出力ポート(47)の出力の少なくとも一方の検出により知ることができる。
【0031】
以上、この出願の発明に係る光フリップフロップ回路を一実施形態により説明してきたが、この出願の発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形、変更が可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態では、第1のスイッチ(SW1)において波長650nmの光源光(11)と波長1550nmの信号光(13)を用い、第2のスイッチ(SW2)において波長1550nmの光源光(31)と波長650nmの信号光(33)を用いたが、第1のスイッチ(SW1)と第2のスイッチ(SW2)で波長の関係を逆にしてもよい。
【0033】
また、上記実施形態では650nmと1550nmの波長を利用したが、これに限定されず、熱レンズが形成可能であれば任意の大きさの波長をペアとして利用することができる。
【0034】
また、上記実施形態では、第2の出力ポート(48)の光出力をそのままフィードバック光(52)としたが、一部のみを利用してもよい。
【0035】
さらに、上記実施形態では、光源光選択部として穴付ミラーを用いたが、これに限定されず、穴部分が透明材料となっているもの等、光源光の選択ができるものであれば、使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この出願の発明の一実施形態に係る光フリップフロップ回路の構成を模式的に示した図である。
【図2】熱レンズ形成素子を説明するための概念図である。
【図3】熱レンズ形成素子に用いる光吸収膜の波長特性の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 光フリップフロップ回路
SW1 第1のスイッチ
SW2 第2のスイッチ
11、31 光源光
12、14、32、34 入力ポート
13、33 信号光
15、16、19、21、24、26 レンズ
35、36、39、41、44、46 レンズ
17、37 ダイクロイックミラー
18、25、38、45 ミラー
20、40 熱レンズ形成素子
20’、40’ 光吸収膜
22、42 フィルター
23、43 穴付ミラー
27、28、47、48 出力ポート
51 フィードバック部
52 フィードバック光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の波長λ1を有するパルス状の第1の信号光と第2の波長λ2を有する連続光である第1の光源光とを同軸でかつ収束して入射する第1の信号入力部、
第1の信号光に対し吸収性を示し第1の光源光に対し透過性を示す波長帯域を持つ第1の光吸収膜を有し、第1の光吸収膜が第1の信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、第1の信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は光源光を通常の開き角度で出射する状態と、第1の信号光が照射されて熱レンズが形成された場合は光源光を通常の開き角度より大きい開き角度で出射する状態とを、第1の信号光の照射の有無に対応させて実現させる第1の熱レンズ形成素子、及び
第1の熱レンズ形成素子より出射した第1の光源光のうち、通常の開き角度で出射した第1光源光を第1の出力ポートから出力させ、通常の開き角度より大きい開き角度で出射した第1の光源光は第2の出力ポートから出力させる第1の光源光選択部を備えた第1の光スイッチと;
第1の光スイッチの第2の出力ポートから出力される第2の波長λ2の光源光を第2の信号光として取り込み、この第2の信号光と第1の波長λ1を有する連続光である第2の光源光とを同軸でかつ収束して入射する第2の信号入力部、
第2の信号光に対し吸収性を示し第2の光源光に対し透過性を示す波長帯域を持つ第2の光吸収膜を有し、第2の光吸収膜が第2の信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、第2の信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は第2の光源光を通常の開き角度で出射する状態と、第2の信号光が照射されて熱レンズが形成された場合は第2の光源光を通常の開き角度より大きい開き角度で出射する状態とを、第2の信号光の照射の有無に対応させて実現させる第2の熱レンズ形成素子、及び
出射した第2の光源光のうち、通常の開き角度で出射した第2光源光は第1の出力ポートから出力し、通常の開き角度より大きい開き角度で出射した第2の光源光は第2の出力ポートから出力させる第2の光源光選択部を備えた第2の光スイッチと;
第2の光スイッチの第2の出力ポートから出力した第2の光源光をフィードバック光とし、第1の信号光パルスに続けて第1の信号光として第1の光スイッチに入力させるフィードバック部を具備し;
セットのための第1の信号光パルスが入力した時点でスイッチON状態となり、フィードバック光によりその状態を維持させ、リセットのための第1の信号光パルスが第1の光スイッチに入力すると、第1の熱レンズ形成素子において、通常の開き角度より大きい開き角度よりさらに大きな開き角度の第1の光源光が形成されて、この第1の光源光の第2出力ポートからの出力が遮断されてスイッチOFFとなることを特徴とする光フリップフロップ回路。
【請求項2】
第1の光源光選択部と第2の光源光選択部がそれぞれ穴付ミラーであり、それぞれ通常の開き角度のときは第1の光源光と第2の光源光を穴より通過させ、それぞれ通常の開き角度より大きな開き角度のときは穴付ミラーのミラー部により第1の光源光と第2の光源光の光路の方向を変更させることを特徴とする請求項1に記載の光フリップフロップ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−212835(P2007−212835A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33568(P2006−33568)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504243718)株式会社トリマティス (24)
【Fターム(参考)】