光ヘッド装置
【課題】複数の情報記録面を有する光ディスクに対して小型化および非点収差成分量を抑制して記録・再生する光ヘッド装置を提供する。
【解決手段】ビーム整形比mが1とは異なる立ち上げプリズム15に対して、立ち上げプリズム15で発生する非点収差成分量を低減させるとともに、フォーカス成分(Power)量を変化させても、立ち上げプリズム15を出射する光の非点収差成分量が一定のレベル以下にする可変フォーカス部14を備えることで、複層光ディスクの各情報記録面に対して良好な記録・再生ができるとともに光ヘッド装置の小型化を実現できる。
【解決手段】ビーム整形比mが1とは異なる立ち上げプリズム15に対して、立ち上げプリズム15で発生する非点収差成分量を低減させるとともに、フォーカス成分(Power)量を変化させても、立ち上げプリズム15を出射する光の非点収差成分量が一定のレベル以下にする可変フォーカス部14を備えることで、複層光ディスクの各情報記録面に対して良好な記録・再生ができるとともに光ヘッド装置の小型化を実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ストレージを扱う光学系として、CD、DVD、光磁気ディスクなどの光記録媒体および、「Blu−ray」(登録商標:以下BD)などの高密度光記録媒体に情報の記録または再生(以下、「記録・再生」という)を行う光ヘッド装置並びにこの光ヘッド装置を用いた光ディスク装置に関する。なお、これら光記録媒体および高密度光記録媒体を以下、「光ディスク」といい、とくに複数の情報記録層の集光面(情報記録面)を有する光ディスクを以下、「複層光ディスク」という。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータなどの小型化に伴い、これらの機器に用いられる光ディスク装置の小型化が求められている。この要求に対して、光ディスク装置に搭載される光ヘッド装置に三角柱の形状の立ち上げプリズムを用いることで光が進行する方向(空間)を変えて、これによって光ヘッド装置を薄型化し、光ディスク装置の小型化を実現している。
【0003】
この立ち上げプリズムは、(光軸に対して垂直な面の)形状が楕円形である光を入射した場合に、出射する光の形状を円形に整形するビーム整形機能を有する場合がある。また、複層光ディスクの各情報記録面に集光するために、立ち上げプリズムに入射する光の平行度を変化させることによって各情報記録面のカバー厚の違いによって発生する球面収差成分量を制御する光ヘッド装置が報告されている(特許文献1)。しかしながら、この立ち上げプリズムを使用した場合、球面収差成分量を制御するためにプリズムへ非平行光を入射すると、情報記録面上に集光させるときの非点収差成分量が大きくなり、記録・再生特性が劣化するという問題点があった。
【0004】
また、特許文献1に記載の光ヘッド装置における問題点を解決するものとして、立ち上げプリズムに起因して発生する非点収差成分量を抑制するためにビーム整形倍率を1.00に近づける特性を有する立ち上げプリズムを配置することで出射する光の形状を円形とし、集光点が異なる各情報記録面に集光する光の非点収差成分量の発生を抑制する光ヘッド装置が報告されている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−5903号公報
【特許文献2】特開2007−213755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように特許文献1に記載の光ヘッド装置は、ビーム整形倍率が1.1〜1.3の間と大きい立ち上げプリズムを使用していることから、非点収差成分量の発生について考慮されていない。これにより、情報記録面が単一である光ディスクに対しては、入射する光を平行光として非点収差成分量を低減するように調整できるが、複層光ディスクの記録・再生時に、集光させる情報記録面を切り替える場合、例えば立ち上げプリズムへ収束しながら入射する光と、発散しながら入射する光と、に切り替えるようにして制御すると、1.1〜1.3のビーム整形倍率の立ち上げプリズムでは、大きな非点収差成分量が発生してしまい、集光すべき情報記録面すべてに対して良好な集光特性が得られないという問題があった。
【0007】
さらに、特許文献2に記載の光ヘッド装置の立ち上げプリズムは、ビーム整形倍率を0.97〜1.03としているため、立ち上げプリズムにより大きなビーム整形機能を発生させることができない。つまり、立ち上げプリズムに楕円形で入射する光を円形にして出射させる機能を有さないので、光ディスクに対して円形に集光させるために、立ち上げプリズムに入射する光を円形としなければならないという制限がある。さらに、ビーム整形倍率を0.97〜1.03とするために立ち上げプリズムの形状が光ヘッド装置の厚み方向に大きくなってしまったり、加工が困難な形状となってしまったりするなど、光ヘッド装置の小型化や低コスト化に制限があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、光源と、前記光源から出射する光の光軸と直交する平面における前記光の形状を変えるビーム整形素子と、前記ビーム整形素子から出射する光を複数の情報記録面を有する光ディスクに集光させる対物レンズと、前記光ディスクから反射された光を受光する光検出器を備える光ヘッド装置において、前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、前記ビーム整形素子と、フォーカス成分量と非点収差成分量とを可変して、光の発散状態を変化させる可変フォーカス部と、を有する光ヘッド装置を提供する。
【0009】
この構成により、複層光ディスクを記録・再生する光ヘッド装置を小型化できるとともに、複層光ディスクの複数の情報記録面のうちそれぞれの情報記録面に収束する光の非点収差を抑制することができるので、良好な記録・再生を実現することができる。
【0010】
また、前記ビーム整形素子は、平行して進行する入射光Aの光軸と直交する平面における前記入射光Aの形状が長軸または短軸に相当する第1の方向を径d1、前記第1の方向と直交し、前記長軸または前記短軸の他方に相当する第2の方向を径d2とする楕円であり、前記ビーム整形素子を出射する出射光Aの光軸と直交する平面における前記出射光Aの形状が前記径d1を直径とする円であるとき、d2/d1で表されるビーム整形比mを有し、前記可変フォーカス部は、平行して進行する入射光Bの光軸と直交する平面における前記入射光Bの形状が円であり、前記可変フォーカス部を出射する出射光Bの光軸と直交する平面上で前記出射光Bの同じ位相となる位置を結んでできる等位相波面の形状が、長軸の径がa、短軸の径がbとなる楕円であるとき、a×m×c=b、またはa=m×c×bであって、0.97≦c≦1.03を満足する上記の光ヘッド装置を提供する。また、前記ビーム整形素子の前記ビーム整形比mは、m>1.009または、m<0.991である上記の光ヘッド装置を提供する。
【0011】
この構成により、ビーム整形比mの大きさに大きな制限なくビーム整形素子を選択することができるので、設計自由度が高くなるとともに、該当するビーム整形比に合わせて非点収差成分量を抑制するように可変フォーカス部を設計できるので、複層光ディスクの複数の情報記録面のうちそれぞれの情報記録面に収束する光の非点収差を抑制することができるので、光ヘッド装置において良好な記録・再生を実現することができる。
【0012】
また、前記可変フォーカス部は、2枚の透明基板を対向配置し、前記透明基板間に挟持された液晶に印加する電圧に応じて前記液晶を透過する光の焦点距離を変化させる液晶レンズ素子から構成される上記の光ヘッド装置を提供する。また、前記透明基板の一方の面には透明電極と、鋸歯形状または鋸歯を階段形状で近似した断面形状を有する透明材料からなるとともに入射平面上で光軸を中心として楕円率κの相似となる複数の楕円状に形成される凹凸部と、を有する上記の光ヘッド装置を提供する。
【0013】
また、前記凹凸部の楕円率κは、0.97×m≦κ≦1.03×mであるかまたは、0.97/m≦κ≦1.03/mである上記の光ヘッド装置を提供する。
【0014】
この構成により、液晶レンズに印加する電圧を制御することによって、複数の情報記録面のうちそれぞれの情報記録面に光を収束させるとき、容易にフォーカス成分量および非点収差成分量が最適な値となるように制御することができ、光ヘッド装置において良好な記録・再生を実現することができる。
【0015】
また、前記可変フォーカス部は、光源から出射された光の発散状態を変えるコリメータレンズと、前記コリメータレンズを光軸方向に平行に移動する機構を有するコリメータレンズ位置調整部と、非点収差成分を発生させることができる非点収差生成部からなる上記に記載の光ヘッド装置を提供する。さらに、前記非点収差生成部は、2枚の透明基板に液晶が挟持され、少なくとも一方の前記透明基板に非点収差成分を発生させる特定のパターンに分割された透明電極が形成される液晶収差補正素子である上記に記載の光ヘッド装置を提供する。
【0016】
この構成により、コリメータレンズの移動により簡易的にフォーカス成分量の可変ができ、このフォーカス成分量に比例するように非点収差成分量を発生することにより、容易にフォーカス成分量および非点収差成分量が最適な値となるように制御することができ、光ヘッド装置において良好な記録・再生を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、複層光ディスクの各情報記録面に非点収差成分量を抑制して良好に集光させて記録・再生できるとともに、小型化を実現し、さらに設計自由度が大きい光ヘッド装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光ヘッド装置10の模式図である。光源11から出射した光は、コリメータレンズ13で平行光となり、可変フォーカス部14を透過し、ビーム整形機能を発現する立ち上げプリズム15に入射する。立ち上げプリズム15に入射した光は、光ディスクに向けて偏向され、対物レンズ17によって光ディスク18の情報記録面(例えば情報記録面18b)に集光される。光ディスク18で反射された光は、偏光ビームスプリッタ12で偏向され、レンズ19を透過して光検出器20で光ディスク18の情報記録面18a、18bに記録された情報の再生信号、フォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号などの光情報が検出される。なお、光源11から光ディスク18に至るまでの光路を「往路」、光ディスク18から光検出器20に至るまでの光路を「復路」という。
【0019】
また、偏光ビームスプリッタ12と対物レンズ17との間の光路中に波長λの光に対してλ/4の位相差を与える1/4波長板16を配置してもよい。偏光ビームスプリッタ12は、光源11とコリメータレンズ13との間の光路中に配置するものとは限らず、コリメータレンズ13と立ち上げプリズム15との間の光路中にあってもよい。図1において、点線は光の幅を模式的に示すものであり、一点鎖線は光の中心(光軸)を示す。なお、光路中の可変フォーカス部14と立ち上げプリズム15との配置は図1に示す順に限らず、例えば往路の光路中において、立ち上げプリズム15を透過した後に可変フォーカス部14が配置される構成であってもよい。例えば、図1の光ヘッド装置10の構成のように往路において立ち上げプリズム15の前に可変フォーカス部14を配置すると、光ヘッド装置10のZ方向(厚さ方向)の幅を小さくすることができる。
【0020】
なお、光ヘッド装置10は、上記のフォーカスエラー信号に基づいて対物レンズ17を光軸方向に移動制御する図示しないフォーカスサーボと、上記のトラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ17を光軸方向に垂直となる方向に制御する図示しないトラッキングサーボと、を備える。
【0021】
光源11は、2種類または3種類の単一波長の直線偏光の光を出射する構成としてもよい。かかる構成の光源としては、2個または3個の半導体レーザチップが同一基板上にマウントされた、所謂ハイブリッド型の2波長レーザ光源または3波長レーザ光源や、互いに異なる波長の光を出射する2個または3個の発光点を有するモノリシック型の2波長レーザ光源または3波長レーザ光源でもよい。例えば、3種類の波長として、BD用の405nm波長帯(385〜420nm)、DVD用の660nm波長帯(640〜675nm)、CD用の785nm波長帯(770〜800nm)の半導体レーザを用いることができる。
【0022】
第1の実施形態に係る光ヘッド装置10の可変フォーカス部14は、後述するように液晶レンズ素子から構成される。液晶レンズ素子は、液晶に電圧を印加するための透明電極を備えており、電気信号によって、透過する光の波面形状を変化させることができる。例えば液晶レンズ素子に入射する光の光軸と直交する平面の形状が変わらずに進む平行光が入射したときに、電圧信号を印加しない場合、波面を変化させずに平行したまま透過させ、電圧を印加することで、透過する光のフォーカス成分(Power)量と非点収差成分量とを変化させる。また、フォーカス成分量は、例えば平行光の場合、光の光軸と直交する平面の形状が変わらないので0であるが、光の光軸と直交する平面の形状の大きさが変わる場合、0とは異なる値となり、この形状の大きさの変化を表す値である。なお、「光の光軸と直交する平面の形状」は、以下「光の形状」という。
【0023】
このようにフォーカス(Power)成分量が変化する可変フォーカス部14に例えば、平行光が入射すると、透過する光は発散しながら進むかまたは、収束しながら進む。このように、入射する光に対して収束させるように光を出射させたり発散させるように光を出射させたりする機能のいずれか、または両方の機能を含むものを「発散状態を変化させる」と表現する。一方、非点収差成分量は、収束させたり発散させたりしても光の形状が相似であって変わらない場合0であるが、例えばこの形状が円から楕円に変化するように形状が変化する場合、0とは異なる値となる。
【0024】
立ち上げプリズム15は、断面が二等辺三角形の形状をした三角柱の形状をなしている。また、図1に示すように断面としたとき、入射面15aに相当する辺と反射面15cに相当する辺の長さが等しい二等辺三角形の形状である。光は、立ち上げプリズム15の入射面15aから入射し、出射面15b方向へ進行し、出射面15bでは反射され、反射面15c方向へ進行する。反射面15cで反射され、再度出射面15bに進行した光は、立ち上げプリズム15を出射して光ディスク18の方向へ進行する。このように立ち上げプリズム15に入射する光の進行方向に対して出射する光の進行方向はほぼ90°の角度をなす。このような立ち上げプリズム15は、光の形状を変えるアナモルフィックプリズムとしての機能を有する。なお、出射面15bは、出射面15bと光の進行方向とがなす角度によって、光を反射したり透過したりする。
【0025】
次に、この立ち上げプリズム15を用いた光ヘッド装置10について説明する。ここでは、光源11から光が出射して進行する方向をX方向とし、立ち上げプリズム15から出射して進行する方向をZ方向、つまり、立ち上げプリズム15に入射する方向に対し、立ち上げプリズム15を出射する方向が直角方向に偏向して進行するものとする。また、立ち上げプリズム15のビーム整形機能として、例えば、入射する光の形状が楕円となる光に対し、出射する光の形状を円とするものを考える。この立ち上げプリズム15の光入射面15aへの入射光(光軸方向はX方向)のうちZ方向の径をd2、Z方向と直交するY方向の径をd1とし、立ち上げプリズム15の光出射面15cからの出射光(光軸方向はZ方向)が径d1の円とする。つまり、図示しないが、立ち上げプリズム15へ入射する光および出射する光の形状のうちY方向の径は等しいものとする。そして、ビーム径の比d2/d1をビーム整形比mとして表す。本願発明は、ビーム整形比が1とは異なる(m≠1)立ち上げプリズムを配置した場合でも大きな非点収差成分量を発生させないように可変フォーカス部14を調整できる設計自由度が高い光ヘッド装置が実現できる。
【0026】
ここで、光ディスク18として、複層光ディスクであるBDを記録・再生する場合を考える。BDは、情報記録面の厚さ方向の間隔が25μmと規格化されており、隣り合う情報記録面、例えば図1の情報記録面18aと情報記録面18bとでは集光すべき位置が異なることから、フォーカスする成分(Power)量がそれぞれの情報記録面で異なるように可変フォーカス部14から出射する光の発散状態を変える。
【0027】
そして、ここで図1の光ヘッド装置10に示すように、ビーム整形比が1とは異なる(m≠1)特性を有するビーム整形素子である立ち上げプリズム15を配置する場合を考える。このとき、可変フォーカス部14が光軸を中心とするY−Z平面でY方向とZ方向に対していずれも同じ発散および収束特性(同じ倍率)を発生する場合、立ち上げプリズム15で発生する非点収差成分量により、情報記録面に有効に集光されず、良好な記録・再生特性が得られない。
【0028】
この場合、いずれか一方の情報記録面(18aまたは18b)に対する集光特性が良くなるように調整しても、もう一方の情報記録面に対しては、非点収差成分量が増大するため良好な集光特性が得られない。例えば、立ち上げプリズム15に平行光を入射させて情報記録面18bに大きな非点収差が発生しないように集光させることができても、焦点が遠くに位置する情報記録面18aに集光するように、可変フォーカス部14を制御して立ち上げプリズム15に発散する光を入射させると、フォーカス成分(Power)量に応じて発生する非点収差が大きくなるため良好な集光特性を得ることができない。
【0029】
図2は、例として、フォーカス成分(Power)量1λrmsを有する平行光を立ち上げプリズム15のようなビーム整形素子に入射させ、ビーム整形比mの変化に対し、出射した光の収差成分量をフォーカス成分(Power)量と非点収差成分(AST)量と、に分けたときの特性を示すグラフである。このように、ビーム整形機能を発生させない立ち上げプリズム(横軸:ビーム整形比m=1)である場合、入射光のフォーカス成分(Power)量1λrmsがそのまま出射光に現れ、非点収差成分量は発生しないが、ビーム整形比mが1から離れる値になるにしたがって大きな非点収差成分量が発生する。一般に光ヘッド装置の記録・再生の際に許容される非点収差成分量は0.04λrms程度であるのに対して、ビーム整形比mが1より離れた値であればそれだけ大きな値の非点収差成分量が発生するため、これを一定レベル以下に抑える工夫が必要となる。
【0030】
図2では簡単のため、ビーム整形素子15へ入射する光のフォーカス成分量が1λrmsである場合の特性を示したが、実際に、複数の情報記録面を有する光ディスクに与えるべき光のフォーカス成分量は異なる。なお、入射する光のフォーカス成分量と、発生する非点収差成分量とは比例し、例えば、ビーム整形素子15へフォーカス成分量が10λrmsの光が入射すると、図2に示す非点収差成分量の10倍の非点収差成分量が発生する。実際にBDの場合、使用する光の波長λは405nmであり、対物レンズ16の開口数NAは0.85と大きく、前述のようにBDの隣り合う2つの情報記録面間では前述のようにカバー厚が25μm異なる。このため、一方の情報記録面に対して他方の情報記録面に集光させる場合、対物レンズに入射する発散光または収束光の可変すべきフォーカス成分量は実際に約3.36λrmsとなる。このため、可変フォーカス部14を調整してそれぞれの情報記録面に適したフォーカス成分量を与える必要がある。
【0031】
具体的に、上記を考慮すると、例えば立ち上げプリズム15のみで、可変フォーカス部14を有さない光ヘッド装置を考えたとき、非点収差成分量は0.04λrms程度を許容できるのは、ビーム整形比mは、0.991≦m≦1.009の値の特性を有するものに制限される。一方、光ヘッド装置に可変フォーカス部14を有する光ヘッド装置であれば、ビーム整形比mは、m>1.009または、m<0.991であっても、非点収差成分量は0.04λrms程度に抑制することが可能である。したがって、光ヘッド装置において良好な記録・再生を実現するための設計自由度が高くなる。
【0032】
また、ビーム整形比mが一定の値に固定されたビーム整形素子(立ち上げプリズム15)に光が入射するとき、上記の説明のように入射する光のフォーカス成分(Power)量[λrms]の増加に対して、ビーム整形素子15を出射する光のフォーカス成分量と非点収差成分量は比例して増加する。図3は、例として、ビーム整形比m=0.8となるビーム整形素子15に、光のフォーカス成分量を変化させて入射させたとき、ビーム整形素子15を出射する光のフォーカス成分量および非点収差成分量を示すグラフである。これより、これらは比例関係となっていることがわかる。
【0033】
このようにビーム整形比m≠1となるビーム整形素子15を用いる場合、複層光ディスクの各情報記録面へ集光する非点収差成分量を抑制して良好な集光特性を得るために、可変フォーカス部14は、複層光ディスクの各情報記録面に集光させるようにフォーカス成分量を制御すると同時に、それにともなって発生する非点収差成分量も制御する機能をあわせ持つことが求められる。そのため、これら2つの成分量を制御できれば、ビーム整形素子15(立ち上げプリズム15)に要求されるビーム整形比mが取り得る範囲を広くすることができる。
【0034】
つまり、可変フォーカス部は、フォーカス成分量に応じてビーム整形素子15で発生する非点収差成分量を考慮し、この非点収差を打ち消すような非点収差成分量を予め発生させる機能を発生させる。このようにすることで、ビーム整形素子15を出射する光の非点収差成分量がキャンセルされ、ビーム整形素子15を出射する光の形状が円に近づくため、複層光ディスクの各情報記録面において非点収差成分量を低減させ、良好な集光特性を得ることができる。
【0035】
図4は、可変フォーカス部に光軸と直交する平面(X−Y面)が円形となる平行光が入射し、ビーム整形素子を出射する光の形状の様子を模式的に示すものである。可変フォーカス部では、上記の説明のように、フォーカス成分量を大きくすることで非点収差成分量も大きくなる。このように非点収差成分量が大きくなると、可変フォーカス部を出射する光は、楕円形状となる。例えば、図4に示すように、可変フォーカス部を出射する光が、Y方向が長軸方向となる楕円形状となる場合、その光がビーム整形素子に入射して円形の光となって出射するように調整する。つまり、ビーム整形素子では、図4に示すY方向に比べてX方向に大きく発散する特性を有する場合、光は楕円から円となる。ここで、ビーム整形素子(立ち上げプリズム15)を出射する光の(光軸と直交する平面の)形状を長軸の径に対する短軸の径の比であるアスペクト比とすると、このアスペクト比が1であれば円となる。このようにアスペクト比が1、つまり図4においてa=b、となるようにすると、フォーカス成分量を変化させても非点収差成分量が大きくならないので集光特性が向上する。このように、可変フォーカス部で発生する非点収差成分量をビーム整形素子で発生する非点収差成分量と、がキャンセルされるように調整するとよい。
【0036】
次に、可変フォーカス部14の具体的な態様について説明する。まず、前述のように立ち上げプリズム(ビーム整形比m≠1)で発生する非点収差成分量をキャンセルするために、可変フォーカス部14を出射する波面について考える。図5は、光軸と直交する平面における等位相波面形状を示す模式図である。なお、「等位相波面形状」とは、光軸と直交する平面上で同じ位相となる位置を結んでできる形状のことをいう。図5(a)は、フォーカス成分量と非点収差成分量とを考慮したときの波面形状の一例を示す模式図であって、ここでは、可変フォーカス部14を出射した光の波面形状に相当し、等位波面形状が楕円となる。
【0037】
この例では、第1の方向である長軸方向の半径をa1と第2の方向である短軸方向の半径をb1とする。例えば、この波面形状の光が、第1の方向が図1のZ方向に一致するように可変フォーカス部14を調整し、ビーム整形比m(=d2/d1)>1となる立ち上げプリズム15を入射すると、Z方向のビーム径のみ1/m倍となって出射される。そのため立ち上げプリズム15の透過後の波面形状は図5(b)のように変形し、a2=a1/m、b2=b1となる。このとき非点収差成分量を十分に小さくするために、ビーム整形素子15透過後の波面形状が円(a2=b2)、つまりアスペクト比が1となるように調整することが好ましい。
【0038】
ここで、ビーム整形素子15を出射する光の非点収差成分量を制御するために、
a1×m×c=b1 … (1)
が成立するcを与える。このとき、0.97≦c≦1.03のいずれかで式(1)が成立する場合、フォーカス成分量が1λrmsで非点収差成分量は約0.04λrms以下であって好ましく、0.98≦c≦1.02のいずれかで式(1)が成立する場合、フォーカス成分量が1λrmsのときの非点収差成分量は約0.027λrms以下となり、より好ましい。
【0039】
また、上記の説明のようにBDの情報記録面間の間隔25μmの焦点距離の変化に相当するフォーカス成分量となる3.36λrmsとした場合、式(1)において、0.991≦c≦1.009のいずれかで成立すると非点収差成分量が約0.04λrms以下となるので好ましい。なお、これまでm>1として説明したが、m<1である場合でも、可変フォーカス部14を出射する波面がa1<b1となるように調整すればよく、このときも上記の式(1)が成立するようにcの値を調整するとよく、m<1であってもcが取り得る上記の好ましい範囲、より好ましい範囲は同じである。
【0040】
図6は、ビーム整形素子15のビーム整形比をmとして、該ビーム整形素子15を出射する光のフォーカス成分(Power)量が1λrmsとするとき、該ビーム整形素子15を出射する光の非点収差成分(AST)量を0λrmsとするために可変フォーカス部14を出射する光のフォーカス成分量および非点収差成分量の条件を示すグラフである。つまり、ビーム整形素子15のビーム整形比mの値が決まると、図6に示すようなフォーカス成分量と非点収差成分量となる光を出射するように可変フォーカス部14を設計することで、複層光ディスクのいずれの情報記録面においても良好な集光特性を得ることができるものである。そして、ビーム整形素子15に入射させる光のフォーカス(Power)成分量をP[λrms]、非点収差成分量をA[λrms]とすると、
T=|A/P−(0.66×(m−1)2−1.41×(m−1))| …(2)
の関係式において、T≦0.15が成立するようなPおよびAとなる各成分量の光を出射できるように制御するとよい。同様の理由でTが「0」に近づく値になるにつれて非点収差成分量を抑制でき、T≦0.10であることが好ましく、T≦0.05であることがより好ましく、T≦0.02であることがさらに好ましい。
【0041】
このように、mの値が決まって、上記の式(2)のTの値が0に近づくような関係が成立するように、PとAの比がほぼ一定にするように可変フォーカス部14で調整することで、ビーム整形素子15を出射する光はフォーカス成分量のみを考慮すればよく、非点収差成分量は十分に低いレベルとすることができる。したがって、複層光ディスクの各情報記録面に対して品質良く記録・再生でき、好ましい。
【0042】
次に、具体的に可変フォーカス部14としての構成である、液晶レンズ素子について説明する。図7は、図1の光ヘッド装置10の可変フォーカス部14として用いられる具体的な液晶レンズ素子30の構成を示したものである。図7(a)は液晶レンズ素子30の平面模式図であり、図7(b)は、平面模式図のA−A´に沿った断面を示す断面模式図である。
【0043】
液晶レンズ素子30は、図7(b)の断面模式図に示すように透明基板31、32と、透明電極33、34が備えられ、シール35と、液晶層(液晶)36と、凹凸部37と、透明電極と電気的に接続される端子電極41、42を備え、図示しない駆動電源回路に接続されている。液晶層36には、常光屈折率noおよび異常光屈折率ne(no≠ne)を有するネマティック液晶を用いる。凹凸部37は、屈折率nsの透明材料を用いて形成しており、深さdを有する断面が凹凸形状となっている。この凹凸部37は、好ましくは、鋸歯形状(ブレーズ形状)または鋸歯形状を階段状で近似した形状(擬似ブレーズ形状)を有するものである。なお、透明電極33は、凹凸部37上に形成される例を示しているが、これに限らず、透明基板31上に形成されていてもよい。また、透明電極34は一面がベタとなる電極として説明するが、後述するようにブレーズ形状の領域に相当するように輪帯領域に分割されていてもよい。
【0044】
また、図7(a)の平面模式図には、光軸を中心として楕円率κ(長軸の長さと短軸の長さの比:b1/a1)が一定である楕円形状の線38を示す。なお、使用するビーム整形素子15のビーム整形比mが決まることで、上記の式(2)を満足するように、楕円率κを設定することができる。つまり、ビーム整形比m(または1/m)と楕円率κとが等しくなるようにフレネルレンズパターンを形成し、特定の割合のフォーカス成分(Power)量と非点収差成分量の比が得られるように調整するとよい。楕円38は、それぞれ図7(b)の断面模式図に示す凹凸部の凸部の頂点を結んだ線に相当し、この液晶レンズ素子30を出射する光の位相は、この楕円38に沿って同じとなるものである。なお、最も外側に位置する楕円39は、図7(b)の断面模式図では、最も外側のブレーズ形状の段差がゼロになる点を結んだ線に相当する。そして、図7(a)に示す光軸を含む楕円領域が図7(b)の凹凸部37の中心の領域に相当し、図7(a)に示す隣り合う楕円で囲まれた輪帯領域が、それぞれ図7(b)の1つのブレーズ形状の凹凸の領域に相当する。
【0045】
次いで、液晶レンズ素子30を構成する材料について説明する。透明基板31、32は、入射する光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的等方性材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。凹凸部37の材料としては、各種の無機材料や、感光性樹脂や熱硬化樹脂などの有機材料を用いることができる。無機材料としてはSiOxNy膜(x、yはSiに対するOおよびNの原子数比)、SiO2膜、Si3N4膜、Al2O3膜などを用いることができるが、中でもSiOxNy膜が、成膜条件によりx、yを変化させて所望の屈折率に調整可能であり、透明性、耐久性にも優れる点から好ましく用いられる。また、この凹凸部37は、光学的等方性材料でも、複屈折性を示す材料で形成してもよく、この凹凸部37は、印加する電圧に応じて液晶層36の屈折率変化が生じる入射光の偏光方向に対して、液晶が取り得る屈折率n1と屈折率n2(n1<n2)の間の屈折率nsの透明材料で形成してあればよい。透明電極33、34としては、ITO(酸化錫ドープ酸化インジウム)膜、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)膜、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)膜などの酸化物透明導電膜が高い透明性と導電率とが得られるため好ましく用いられる。
【0046】
液晶層36はネマティック相液晶から構成され、以下にこのネマティック相液晶の液晶分子の配向方向について説明する。ここで、液晶は、誘電率異方性Δε>0となる特性を有するものを考え、この液晶の配向方法を例として説明する。液晶を配向させるために透明電極33、34上に図示しない配向膜を形成する。なお、液晶層36にΔε>0となる液晶材料を用いるホモジニアス配向は、同じ配向方向となるように配向膜を形成する。具体的に配向膜として、ポリイミド膜を塗布して一定の方向にラビングされたもので構成されてなるもの、SiOを基板面に対して斜め方向から蒸着してなる斜方蒸着膜などが用いられる。なお、誘電率異方性Δε>0となる液晶に限らず、誘電率異方性Δε<0となる液晶を用いてもよい。
【0047】
次に、ブレーズ形状または、擬似ブレーズ形状を有する凹凸部37の断面形状について説明する。本発明の液晶レンズ素子30に入射する平面波の透過波面において、光軸(x=y=0)の光線に対して半径rの長さだけ離れた位置を通過する光線の光路長差OPD(r)は、図7(a)より液晶レンズ素子の楕円率κをb1/a1とすると、
OPD(r)=α1r2+α2r4+α3r6+α4r8+・・・ … (3)
但し、r2={(b1/a1)・x}2+y2、
α1、α2、α3、α4・・・;定数
となるベキ級数の式を満たすようにする。このように構成することによって、光ヘッド装置に液晶レンズ素子30を配置したとき、複層光ディスクのカバー厚の違いに起因して発生する球面収差成分量を補正する透過波面を生成することができるとともに、立ち上げプリズムで発生する非点収差成分量をキャンセルするように作用する。とくに式(2)を満足するようにフォーカス成分量と非点収差成分量を調整することで、立ち上げプリズムを出射する光の非点収差成分量を低レベルに抑制したままフォーカス(Power)成分量を変化させ、各情報記録面に集光させることができる。
【0048】
ここで、式(3)の曲線の具体的な形状について、図8に符号αで示す。なお、横軸は半径r、縦軸は光路長差OPDを入射光の波長λの単位で表記する。そして、波長λの入射光に対して、λの整数倍の光路長差を有する透過波面は同等を見なすことができる。したがって、図8のαで示すグラフ(光路長差)を波長λ間隔で分割して光路長差をゼロの面に投影した光路長差を示すグラフβは、グラフαと実質的に同等である。グラフβで示される光路長差は、全てλ以内(図中では−λからゼロの範囲)であり、これを反映させて断面が鋸歯状となっているものである。
【0049】
次に、凹凸部37の深さdについては、以下のようになる。この場合、凹凸部37の凸部(屈折率nsの等方性材料部分)と透明電極34との間隔g(以下、「セルギャップ」という)にある液晶にはほぼ同一の電圧が印加される。このため、このセルギャップ内の液晶の屈折率変化は、透過光の波面を一様にシフトするのみであるので波面変化を無視することができる。
【0050】
一方、透明電極33、34間に電圧Vを印加すると、異常光屈折率を示す方向の偏光方向(以下、「異常光偏光」という)の光に対する液晶層36(液晶)の実質的な屈折率をn(V)とすると、液晶層36と凹凸部37の屈折率差Δn(V)は、Δn(V)=n(V)−nsとなる。例えば、印加電圧をV+1として、このとき図8のグラフβに相当する透過波面の光路長差を生成するためには、図7(b)に示す凹凸部37の深さdを、
d=λ/|Δn(V+1)| … (4)
但し、λ;入射光の波長、
Δn(V+1)=n(V+1)−ns=n1−ns、
n1,ns;屈折率、
となる値に設定するとよい。
【0051】
ここで、印加電圧Vを変化させると、屈折率差Δn(V)も変化する。例えば、Δn(V0)=0となる印加電圧V0では、液晶レンズ素子30の透過波面は変化しない。また、Δn(V−1)=−Δn(V+1)となる印加電圧V−1では、図8のグラフγに示す光路長差の透過波面が生じる。これは、光路長差ゼロの面に対して図8のグラフβと面対称の光路長差の透過波面に相当する。このように、透過波面変化なしの状態、図8のグラフβおよびγの波面状態の都合3種類の波面状態を印加電圧の大きさを変化させることにより生成することができる。また、屈折率nsをn1あるいはn2とほぼ等しくすると、透過波面は透過波面変化なし状態と、βあるいはγの状態のいずれかの2つの波面状態を生成することが可能である。また、式(4)で1λを基準に深さdを設定したが、例えば2λを基準として設定してもよい。
【0052】
また、透明電極34は一面がベタな電極として説明したが、それに限らない。図9は、図7(b)に示す透明電極34を分割した場合の平面模式図であり、図7(b)の1つのブレーズ形状からなる輪帯領域と(光軸方向からみて)一致するように分割されていてもよい。つまり、光軸を含む電極セグメント34aは、図7(b)の凹凸部37の中心の領域と一致し、同様に図7(b)の1つのブレーズ形状の凹凸の領域はそれぞれ電極セグメント34b〜34hに一致するように設計する。
【0053】
また、回折型の液晶レンズ素子30と図示しない屈折型液晶レンズ素子とを積層させた構造を有する液晶レンズ素子を使用してもよい。この場合、回折型液晶レンズ素子30では、大きなフォーカス成分量を与え、非点収差成分量を与えたり与えなかったりする切り替えを制御し、一方、屈折型液晶レンズ素子でフォーカス成分量と非点収差成分量とを複層光ディスクのカバー厚さ(各情報記録面)に合わせて微調整することができるのでさらに好ましい。
【0054】
上記では、Δn(V0)=0となる印加電圧V0であるとき、そしてΔn(V−1)=−Δn(V+1)となる印加電圧V−1であるときの2つの電圧によって透過波面の切り替えをするものである。つまり、液晶レンズ素子30を出射する光の1つは、入射する光の波面を変化させない平行光のままであり、もう1つは収束または発散させる光とする(フォーカス成分量を発生)ものである。しかし、このように複層光ディスクの各情報記録面に集光させるため、液晶レンズで発生させる出射光の状態はこれに限らず、例えば、1つは収束させる光、もう1つは発散させる光として切り替えてもよい。さらに、出射光の状態は同じ収束させる光であっても、収束の度合い(フォーカス成分量の大きさ)を2点以上設定して、その変化によって各情報記録面に集光させてもよい。また、例えば、3層の情報記録面を有する複層光ディスクの場合、液晶レンズ30を出射する光の状態は、収束させる光、透過波面を変えない平行光、発散させる光、とするそれぞれの電圧を設定することによって各情報記録面へ集光する位置を切り替えることもできる。
【0055】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態に係る光ヘッド装置50の模式図である。第1の実施形態に係る光ヘッド装置10では、可変フォーカス部14として、液晶レンズ素子30について説明したが、第2の実施形態に係る光ヘッド装置50の可変フォーカス部51は、コリメータレンズ53、コリメータレンズ53を光軸方向に位置調整するコリメータレンズ位置調整部52と、非点収差を補正する非点収差生成部60とからなる。なお、光ヘッド装置50において、光ヘッド装置10と同じものは同じ番号を付して説明の重複を避ける。
【0056】
コリメータレンズ位置調整部52はコリメータレンズ53を光軸方向と平行に移動させることができるものであって、この位置調整によって出射する光を収束させたり、発散させたりして、フォーカス成分(Power)量を調整し、複層光ディスク18の各情報記録面18a、18bに集光させる。そして、これまでの説明のように、フォーカス成分(Power)量が変化すると非点収差成分量も変化するので、非点収差を補正するため非点収差生成部60を配置する。
【0057】
次に、図11は、非点収差生成部60として、液晶を用いる液晶収差補正素子60の具体的構成を示す。図11(a)は液晶収差補正素子60の平面模式図であり、図11(b)は、平面模式図のB−B´に沿った断面を示す断面模式図である。図11(a)に示すように、液晶収差補正素子60は、一方の透明基板(例えば透明基板65aに透明電極61、62a、62b、63a、63bが形成され、それぞれの透明電極には独立に電圧を印加できるように図示しない電気的配線が施され、電圧制御装置に接続される。また、透明電極61、62a、62b、63a、63bは印加する電圧により非点収差を発生させるようなパターンに形成されている。そして、入射する光の有効領域64の中心は、透明電極61の中心と一致するように調整される。なお、これらの透明電極61、62a、62b、63a、63bをまとめてパターン電極という。また、この電極パターンは一例であり、非点収差を補正できるパターン電極であればこれに限らない。
【0058】
図11(b)の断面模式図に示すように液晶収差補正素子60は、パターン電極が形成された透明基板65aと、パターン電極と対向する透明基板65b側には、一面に透明電極67が形成され、周辺にシール69が施されて液晶層68が挟持されて構成される。また、透明基板65a、65bにはそれぞれ図示しない配向膜が施され、互いに同一方向、例えば、X方向に配向されている。液晶層68はネマティック相液晶から構成され、ここでは、誘電率異方性Δε>0となる液晶を用いるものとする。
【0059】
液晶層68に電圧を印加しないとき(以下、電圧非印加時という)には、液晶分子の長軸方向は液晶層68内でX方向に配向されるが、電圧を印加するとき(以下、電圧印加時という)には液晶の長軸方向は液晶層68の厚さ方向に向けて配向する。このとき、電圧値をそれぞれのパターン電極で調整することで、電極パターンごとに液晶の配向が変化する。つまり、液晶は常光屈折率noと異常光屈折率ne(no<ne)を有する複屈折性材料であるので、それぞれのパターン電極を出射する光の位相は、それぞれのパターン電極に印加される電圧を制御することによって変えられる。例えば、(電圧非印加時に)X方向に配向され、X方向の直線偏光が入射するとき、入射光に対して異常光屈折率となるが、パターン電極に電圧を印加することによって液晶分子の長軸方向が液晶層の厚さ方向に配向するため、常光屈折率となる。これを利用して入射する光の波面に対して出射する光の波面を変えることができる。なお、液晶は誘電率異方性Δε>0のものに限らず、誘電率異方性Δε<0であってもよい。
【0060】
次に、非点収差を与えるため、具体的にパターン電極に与える電圧について説明する。例えば、透明電極61にVa、透明電極62a、62bに電圧Vb、透明電極63a、63bに電圧Vcを与え、Vb>Va、Vc<Vaとなるように設定にする。このとき、液晶収差補正素子60にZ方向から平面波(同じ位相)で入射する光のうち、透明電極61を出射する光に対して透明電極62a、62bを出射する光の位相は進み、透明電極63a、63bを出射する光の位相は遅れる。このように電圧を調整して、X方向の位相とY方向の位相を非対称にすることで非点収差を与え、ビーム整形素子である立ち上げプリズム15で発生する非点収差を相殺するように制御することができる。そして、可変フォーカス部51で発生するフォーカス(Power)成分量と非点収差成分量との比が、式(2)を満足するように調整することによって、フォーカス成分量を変えても立ち上げプリズム15を出射する光の非点収差成分を低いレベルに抑制することができる。
【0061】
(実施例1)
まず、第1の実施形態に係る可変フォーカス部14として液晶レンズ素子30の具体的な作製方法を、図7を用いて説明する。透明基板31、32として石英ガラス基板面上にSiOxNy(但し、x,yはOとNの元素比率を示す)をスパッタリング法により成膜する。この場合、例えばSiターゲットを用いるとともに、Arガスに酸素および窒素を混入した放電ガスを用いて、屈折率ns(=1.64)の透明な均一屈折率膜SiOxNyを成膜し、その膜厚をd(=3.5μm)としている。
【0062】
さらに、図8のグラフβの形状に相当するように、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィにてレジストをパターニングした後、反応性イオンエッチング法によりSiOxNy膜を加工する。その結果、図7(a)の平面模式図の楕円39(長径:6.25mm、短径:5.00mm)の領域に、鋸歯形状を8段の階段形状で近似した断面形状で図7(b)にその断面を示すような凹凸部37を加工する。このとき、楕円38および楕円39の楕円率はいずれも0.8となる。次に、凹凸部37の表面に透明電極33としてITO膜を成膜する。さらに、ポリイミド膜(図示せず)を透明電極33上に膜厚約50nmとなるよう塗布した後に焼成し、ポリイミド膜表面をX軸方向にラビング配向処理して配向膜とする。
【0063】
また、対向する透明基板32として石英ガラス基板上に透明電極34としてITO膜を成膜し、その上にポリイミド膜(図示せず)を膜厚約50nm塗布した後に焼成し、ポリイミド膜表面をX軸方向にラビング配向処理して配向膜とする。さらにその上に、直径7μmのギャップ制御材が混入された接着材を印刷パターニングしてシール35を形成し、透明基板31と重ね合わせて圧着し、透明電極の間隔が最大7μm、最小3.5μm(ギャップg=3.5μm)とし、d=gの空セルを作製する。その後、ネマティック液晶を空セルの注入口(図示せず)から注入し、その注入口を封止して図7に示す液晶レンズ素子30とする。この液晶には、常光屈折率no(=1.50)および異常光屈折率ne(=1.75)の正の誘電異方性を有するネマティック液晶を用いる。また、この液晶は、透明電極33、34の面に、平行かつX軸方向に液晶分子の配向が揃ったホモジニアス配向であり、凹凸部37の凹部に充填されている。
【0064】
このようにして得られた液晶レンズ素子30の透明電極33、34間に図示しない駆動電源回路を接続することにより、液晶層36に電圧が印加される。液晶層36への印加電圧を0Vから増加させると、液晶層36のX軸方向の実質的な屈折率が、n1=ne(=1.75)からn2=no(=1.50)まで変化する。その結果、X軸の偏光面を有する直線偏光入射光に対して、液晶層36と凹凸部37との屈折率差が、
Δnmax(=n1−ns)=0.11、
から
△nmin(=n2−ns)=−0.14、
まで変化し、凹凸部37の凹部に充填された液晶層36の厚さ分布に応じて、透過波面が変化する。
【0065】
ここで、例えばBDを記録・再生するとき、使用波長λ(=405nm)で、カバー厚87.5μmの光ディスク18に対して、収差がゼロとなるように設計されたNA0.85の対物レンズ17を、カバー厚100μmと75μmの2つの情報記録面に集光させる場合を考える。そして、図1の光ヘッド装置10において、ビーム整形比mが0.8(Y方向のビーム径は透過前後で不変)の立ち上げプリズム15を配し、可変フォーカス部14に液晶レンズ素子30を楕円38、39の長軸がY方向、短軸がZ方向となるように配置する。液晶レンズ素子30の深さdを調整して、電圧がV+1のときにカバー厚75μmの情報記録面(例えば18b)、電圧がV−1のときにカバー厚100μmの情報記録面(例えば18a)に集光するようにフォーカス成分(Power)量を調整する。このとき、光源11から光の形状が円である平行光が入射して、液晶レンズ素子30を出射すると、印加する電圧のよってフォーカス成分量を調整できるとともに、液晶レンズ素子30で発生させる非点収差成分量が立ち上げプリズム15で発生する非点収差成分量と相殺するように作用するので、各情報記録面上での非点収差成分量を抑制し集光させることができる。
【0066】
(実施例2)
第2の実施形態に係る可変フォーカス部51として液晶収差補正素子60の具体的な作製方法を、図11を用いて説明する。透明基板65aとして石英ガラス基板面上に、透明電極としてITO膜を成膜する。そして、透明基板65a面上のITO膜は、図11(a)に示すようなパターンとなるようにエッチングを行い、透明電極61、62a、62b、63aおよび63bを形成する。さらに、ITO膜上にポリイミド膜(図示せず)を膜厚約50nmとなるよう塗布した後に焼成し、ポリイミド膜表面をラビング配向処理して配向膜とする。
【0067】
また、対向する透明基板65bとして石英ガラス基板上に透明電極67としてITO膜を成膜し、その上にポリイミド膜(図示せず)を膜厚約50nm塗布した後に焼成し、ラビング配向処理して配向膜とする。さらにその上に、直径7μmのギャップ制御材が混入された接着材を印刷パターニングしてシール67を形成し、透明基板65aとラビング方向が一致するように対向させ圧着し、透明電極の間隔が約7μmの空セルを作製する。その後、ネマティック液晶を空セルの注入口(図示せず)から注入し、その注入口を封止して図11に示す液晶収差補正素子60とする。この液晶には、常光屈折率no(=1.50)および異常光屈折率ne(=1.75)の正の誘電異方性を有するネマティック液晶を用いる。また、この液晶は、透明電極65a、65bの面に、平行かつX軸方向に液晶分子の配向が揃ったホモジニアス配向であり、液晶層68に充填されている。
【0068】
作製した液晶収差補正素子60を光ヘッド装置50に設置し、各透明電極に図示しない駆動電源回路を接続することにより、液晶層68に電圧が印加される。コリメータレンズ53から出射する光が平行光となるように、コリメータレンズ位置調整部52によって調整した位置(A点とする)に固定したとき、各透明電極には電圧を印加せず、液晶収差補正素子60を出射する光には位相分布を与えないようにして、情報記録面18bに集光させる。
【0069】
次に、コリメータレンズ位置調整部52によってA点とは異なる位置にコリメータレンズ53を光軸と平行するように移動させ、コリメータレンズ53を出射する光が発散する位置(B点とする)に固定し、透明電極61にVa、透明電極62a、62bに電圧Vb、透明電極63a、63bに電圧Vcを与え、Vb>Va、Vc<Vaとなるように設定にする。このとき、透明電極62a、62bを出射する光の位相は進み、透明電極63a、63bを出射する光の位相は遅れ、一定の非点収差成分量を発生させる。これによって、立ち上げプリズム15において、フォーカス成分(Power)量に対応した非点収差成分量をキャンセルするように働き、もう一つの情報記録面18aに非点収差成分量を十分に抑制して集光させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明の可変フォーカス部を用いることで、とくにビーム整形比mが1とは異なるビーム整形素子を使用して小型化を実現する光ヘッド装置においても、フォーカス成分量を可変しても非点収差成分量が低いレベルを維持することができる。とくに情報記録面を複数有する複層光ディスクの記録・再生の品質を高めた光ヘッド装置を実現することができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光ヘッド装置を示す模式図。
【図2】ビーム整形比mのビーム整形素子に入射するフォーカス成分量1λrmsの光に対して出射する光の各成分量の特性を示すグラフ。
【図3】ビーム整形比mが0.8のビーム整形素子に入射する光のフォーカス成分量を変化させ、ビーム整形素子を出射する光の各成分量の特性を示すグラフ。
【図4】可変フォーカス部に光軸およびビーム整形素子に入射/出射する光の形状の様子を示す模式図。
【図5】可変フォーカス部およびビーム整形素子を出射する光の当位相波面形状を示す模式図。
【図6】ビーム整形比mのビーム整形素子を出射する光のフォーカス成分量を1λrmsとするとき、入射する光の各成分量の特性を示すグラフ。
【図7】第1の実施形態に係る光ヘッド装置の可変フォーカス部となる液晶レンズの構成を示す平面模式図および断面模式図。
【図8】液晶レンズにより生成される透過波面の光路長差を示す一例のグラフ。
【図9】液晶レンズの電極パターンを示す平面模式図。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る光ヘッド装置を示す模式図。
【図11】第2の実施形態に係る光ヘッド装置の可変フォーカス部に用いられる液晶収差補正素子の構成を示す平面模式図および断面模式図。
【符号の説明】
【0072】
10、50 光ヘッド装置
11 光源
12 ビームスプリッタ
13、52 コリメートレンズ
14、51 可変フォーカス部
15 立ち上げプリズム(ビーム整形素子)
15a 立ち上げプリズムの光入射面
15b 立ち上げプリズムの光出射面
15c 立ち上げプリズムの光反射面
16 1/4波長板
17 対物レンズ
18 (複層)光ディスク
18a、18b 情報記録面
19 シリンドリカルレンズ
20 光検出器
30 液晶レンズ
31、32、65a、65b 透明基板
33、34、34a、34b、34c、34d、34e、34f、34g、34h、61、62a、62b、63a、63b、67 透明電極
35、69 シール
36、68 液晶層
37 凹凸部
38、39 楕円
41、42 端子電極
52 コリメータレンズ位置調整部
60 液晶収差補正素子
64 (入射光の)有効領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ストレージを扱う光学系として、CD、DVD、光磁気ディスクなどの光記録媒体および、「Blu−ray」(登録商標:以下BD)などの高密度光記録媒体に情報の記録または再生(以下、「記録・再生」という)を行う光ヘッド装置並びにこの光ヘッド装置を用いた光ディスク装置に関する。なお、これら光記録媒体および高密度光記録媒体を以下、「光ディスク」といい、とくに複数の情報記録層の集光面(情報記録面)を有する光ディスクを以下、「複層光ディスク」という。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータなどの小型化に伴い、これらの機器に用いられる光ディスク装置の小型化が求められている。この要求に対して、光ディスク装置に搭載される光ヘッド装置に三角柱の形状の立ち上げプリズムを用いることで光が進行する方向(空間)を変えて、これによって光ヘッド装置を薄型化し、光ディスク装置の小型化を実現している。
【0003】
この立ち上げプリズムは、(光軸に対して垂直な面の)形状が楕円形である光を入射した場合に、出射する光の形状を円形に整形するビーム整形機能を有する場合がある。また、複層光ディスクの各情報記録面に集光するために、立ち上げプリズムに入射する光の平行度を変化させることによって各情報記録面のカバー厚の違いによって発生する球面収差成分量を制御する光ヘッド装置が報告されている(特許文献1)。しかしながら、この立ち上げプリズムを使用した場合、球面収差成分量を制御するためにプリズムへ非平行光を入射すると、情報記録面上に集光させるときの非点収差成分量が大きくなり、記録・再生特性が劣化するという問題点があった。
【0004】
また、特許文献1に記載の光ヘッド装置における問題点を解決するものとして、立ち上げプリズムに起因して発生する非点収差成分量を抑制するためにビーム整形倍率を1.00に近づける特性を有する立ち上げプリズムを配置することで出射する光の形状を円形とし、集光点が異なる各情報記録面に集光する光の非点収差成分量の発生を抑制する光ヘッド装置が報告されている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−5903号公報
【特許文献2】特開2007−213755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように特許文献1に記載の光ヘッド装置は、ビーム整形倍率が1.1〜1.3の間と大きい立ち上げプリズムを使用していることから、非点収差成分量の発生について考慮されていない。これにより、情報記録面が単一である光ディスクに対しては、入射する光を平行光として非点収差成分量を低減するように調整できるが、複層光ディスクの記録・再生時に、集光させる情報記録面を切り替える場合、例えば立ち上げプリズムへ収束しながら入射する光と、発散しながら入射する光と、に切り替えるようにして制御すると、1.1〜1.3のビーム整形倍率の立ち上げプリズムでは、大きな非点収差成分量が発生してしまい、集光すべき情報記録面すべてに対して良好な集光特性が得られないという問題があった。
【0007】
さらに、特許文献2に記載の光ヘッド装置の立ち上げプリズムは、ビーム整形倍率を0.97〜1.03としているため、立ち上げプリズムにより大きなビーム整形機能を発生させることができない。つまり、立ち上げプリズムに楕円形で入射する光を円形にして出射させる機能を有さないので、光ディスクに対して円形に集光させるために、立ち上げプリズムに入射する光を円形としなければならないという制限がある。さらに、ビーム整形倍率を0.97〜1.03とするために立ち上げプリズムの形状が光ヘッド装置の厚み方向に大きくなってしまったり、加工が困難な形状となってしまったりするなど、光ヘッド装置の小型化や低コスト化に制限があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、光源と、前記光源から出射する光の光軸と直交する平面における前記光の形状を変えるビーム整形素子と、前記ビーム整形素子から出射する光を複数の情報記録面を有する光ディスクに集光させる対物レンズと、前記光ディスクから反射された光を受光する光検出器を備える光ヘッド装置において、前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、前記ビーム整形素子と、フォーカス成分量と非点収差成分量とを可変して、光の発散状態を変化させる可変フォーカス部と、を有する光ヘッド装置を提供する。
【0009】
この構成により、複層光ディスクを記録・再生する光ヘッド装置を小型化できるとともに、複層光ディスクの複数の情報記録面のうちそれぞれの情報記録面に収束する光の非点収差を抑制することができるので、良好な記録・再生を実現することができる。
【0010】
また、前記ビーム整形素子は、平行して進行する入射光Aの光軸と直交する平面における前記入射光Aの形状が長軸または短軸に相当する第1の方向を径d1、前記第1の方向と直交し、前記長軸または前記短軸の他方に相当する第2の方向を径d2とする楕円であり、前記ビーム整形素子を出射する出射光Aの光軸と直交する平面における前記出射光Aの形状が前記径d1を直径とする円であるとき、d2/d1で表されるビーム整形比mを有し、前記可変フォーカス部は、平行して進行する入射光Bの光軸と直交する平面における前記入射光Bの形状が円であり、前記可変フォーカス部を出射する出射光Bの光軸と直交する平面上で前記出射光Bの同じ位相となる位置を結んでできる等位相波面の形状が、長軸の径がa、短軸の径がbとなる楕円であるとき、a×m×c=b、またはa=m×c×bであって、0.97≦c≦1.03を満足する上記の光ヘッド装置を提供する。また、前記ビーム整形素子の前記ビーム整形比mは、m>1.009または、m<0.991である上記の光ヘッド装置を提供する。
【0011】
この構成により、ビーム整形比mの大きさに大きな制限なくビーム整形素子を選択することができるので、設計自由度が高くなるとともに、該当するビーム整形比に合わせて非点収差成分量を抑制するように可変フォーカス部を設計できるので、複層光ディスクの複数の情報記録面のうちそれぞれの情報記録面に収束する光の非点収差を抑制することができるので、光ヘッド装置において良好な記録・再生を実現することができる。
【0012】
また、前記可変フォーカス部は、2枚の透明基板を対向配置し、前記透明基板間に挟持された液晶に印加する電圧に応じて前記液晶を透過する光の焦点距離を変化させる液晶レンズ素子から構成される上記の光ヘッド装置を提供する。また、前記透明基板の一方の面には透明電極と、鋸歯形状または鋸歯を階段形状で近似した断面形状を有する透明材料からなるとともに入射平面上で光軸を中心として楕円率κの相似となる複数の楕円状に形成される凹凸部と、を有する上記の光ヘッド装置を提供する。
【0013】
また、前記凹凸部の楕円率κは、0.97×m≦κ≦1.03×mであるかまたは、0.97/m≦κ≦1.03/mである上記の光ヘッド装置を提供する。
【0014】
この構成により、液晶レンズに印加する電圧を制御することによって、複数の情報記録面のうちそれぞれの情報記録面に光を収束させるとき、容易にフォーカス成分量および非点収差成分量が最適な値となるように制御することができ、光ヘッド装置において良好な記録・再生を実現することができる。
【0015】
また、前記可変フォーカス部は、光源から出射された光の発散状態を変えるコリメータレンズと、前記コリメータレンズを光軸方向に平行に移動する機構を有するコリメータレンズ位置調整部と、非点収差成分を発生させることができる非点収差生成部からなる上記に記載の光ヘッド装置を提供する。さらに、前記非点収差生成部は、2枚の透明基板に液晶が挟持され、少なくとも一方の前記透明基板に非点収差成分を発生させる特定のパターンに分割された透明電極が形成される液晶収差補正素子である上記に記載の光ヘッド装置を提供する。
【0016】
この構成により、コリメータレンズの移動により簡易的にフォーカス成分量の可変ができ、このフォーカス成分量に比例するように非点収差成分量を発生することにより、容易にフォーカス成分量および非点収差成分量が最適な値となるように制御することができ、光ヘッド装置において良好な記録・再生を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、複層光ディスクの各情報記録面に非点収差成分量を抑制して良好に集光させて記録・再生できるとともに、小型化を実現し、さらに設計自由度が大きい光ヘッド装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光ヘッド装置10の模式図である。光源11から出射した光は、コリメータレンズ13で平行光となり、可変フォーカス部14を透過し、ビーム整形機能を発現する立ち上げプリズム15に入射する。立ち上げプリズム15に入射した光は、光ディスクに向けて偏向され、対物レンズ17によって光ディスク18の情報記録面(例えば情報記録面18b)に集光される。光ディスク18で反射された光は、偏光ビームスプリッタ12で偏向され、レンズ19を透過して光検出器20で光ディスク18の情報記録面18a、18bに記録された情報の再生信号、フォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号などの光情報が検出される。なお、光源11から光ディスク18に至るまでの光路を「往路」、光ディスク18から光検出器20に至るまでの光路を「復路」という。
【0019】
また、偏光ビームスプリッタ12と対物レンズ17との間の光路中に波長λの光に対してλ/4の位相差を与える1/4波長板16を配置してもよい。偏光ビームスプリッタ12は、光源11とコリメータレンズ13との間の光路中に配置するものとは限らず、コリメータレンズ13と立ち上げプリズム15との間の光路中にあってもよい。図1において、点線は光の幅を模式的に示すものであり、一点鎖線は光の中心(光軸)を示す。なお、光路中の可変フォーカス部14と立ち上げプリズム15との配置は図1に示す順に限らず、例えば往路の光路中において、立ち上げプリズム15を透過した後に可変フォーカス部14が配置される構成であってもよい。例えば、図1の光ヘッド装置10の構成のように往路において立ち上げプリズム15の前に可変フォーカス部14を配置すると、光ヘッド装置10のZ方向(厚さ方向)の幅を小さくすることができる。
【0020】
なお、光ヘッド装置10は、上記のフォーカスエラー信号に基づいて対物レンズ17を光軸方向に移動制御する図示しないフォーカスサーボと、上記のトラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ17を光軸方向に垂直となる方向に制御する図示しないトラッキングサーボと、を備える。
【0021】
光源11は、2種類または3種類の単一波長の直線偏光の光を出射する構成としてもよい。かかる構成の光源としては、2個または3個の半導体レーザチップが同一基板上にマウントされた、所謂ハイブリッド型の2波長レーザ光源または3波長レーザ光源や、互いに異なる波長の光を出射する2個または3個の発光点を有するモノリシック型の2波長レーザ光源または3波長レーザ光源でもよい。例えば、3種類の波長として、BD用の405nm波長帯(385〜420nm)、DVD用の660nm波長帯(640〜675nm)、CD用の785nm波長帯(770〜800nm)の半導体レーザを用いることができる。
【0022】
第1の実施形態に係る光ヘッド装置10の可変フォーカス部14は、後述するように液晶レンズ素子から構成される。液晶レンズ素子は、液晶に電圧を印加するための透明電極を備えており、電気信号によって、透過する光の波面形状を変化させることができる。例えば液晶レンズ素子に入射する光の光軸と直交する平面の形状が変わらずに進む平行光が入射したときに、電圧信号を印加しない場合、波面を変化させずに平行したまま透過させ、電圧を印加することで、透過する光のフォーカス成分(Power)量と非点収差成分量とを変化させる。また、フォーカス成分量は、例えば平行光の場合、光の光軸と直交する平面の形状が変わらないので0であるが、光の光軸と直交する平面の形状の大きさが変わる場合、0とは異なる値となり、この形状の大きさの変化を表す値である。なお、「光の光軸と直交する平面の形状」は、以下「光の形状」という。
【0023】
このようにフォーカス(Power)成分量が変化する可変フォーカス部14に例えば、平行光が入射すると、透過する光は発散しながら進むかまたは、収束しながら進む。このように、入射する光に対して収束させるように光を出射させたり発散させるように光を出射させたりする機能のいずれか、または両方の機能を含むものを「発散状態を変化させる」と表現する。一方、非点収差成分量は、収束させたり発散させたりしても光の形状が相似であって変わらない場合0であるが、例えばこの形状が円から楕円に変化するように形状が変化する場合、0とは異なる値となる。
【0024】
立ち上げプリズム15は、断面が二等辺三角形の形状をした三角柱の形状をなしている。また、図1に示すように断面としたとき、入射面15aに相当する辺と反射面15cに相当する辺の長さが等しい二等辺三角形の形状である。光は、立ち上げプリズム15の入射面15aから入射し、出射面15b方向へ進行し、出射面15bでは反射され、反射面15c方向へ進行する。反射面15cで反射され、再度出射面15bに進行した光は、立ち上げプリズム15を出射して光ディスク18の方向へ進行する。このように立ち上げプリズム15に入射する光の進行方向に対して出射する光の進行方向はほぼ90°の角度をなす。このような立ち上げプリズム15は、光の形状を変えるアナモルフィックプリズムとしての機能を有する。なお、出射面15bは、出射面15bと光の進行方向とがなす角度によって、光を反射したり透過したりする。
【0025】
次に、この立ち上げプリズム15を用いた光ヘッド装置10について説明する。ここでは、光源11から光が出射して進行する方向をX方向とし、立ち上げプリズム15から出射して進行する方向をZ方向、つまり、立ち上げプリズム15に入射する方向に対し、立ち上げプリズム15を出射する方向が直角方向に偏向して進行するものとする。また、立ち上げプリズム15のビーム整形機能として、例えば、入射する光の形状が楕円となる光に対し、出射する光の形状を円とするものを考える。この立ち上げプリズム15の光入射面15aへの入射光(光軸方向はX方向)のうちZ方向の径をd2、Z方向と直交するY方向の径をd1とし、立ち上げプリズム15の光出射面15cからの出射光(光軸方向はZ方向)が径d1の円とする。つまり、図示しないが、立ち上げプリズム15へ入射する光および出射する光の形状のうちY方向の径は等しいものとする。そして、ビーム径の比d2/d1をビーム整形比mとして表す。本願発明は、ビーム整形比が1とは異なる(m≠1)立ち上げプリズムを配置した場合でも大きな非点収差成分量を発生させないように可変フォーカス部14を調整できる設計自由度が高い光ヘッド装置が実現できる。
【0026】
ここで、光ディスク18として、複層光ディスクであるBDを記録・再生する場合を考える。BDは、情報記録面の厚さ方向の間隔が25μmと規格化されており、隣り合う情報記録面、例えば図1の情報記録面18aと情報記録面18bとでは集光すべき位置が異なることから、フォーカスする成分(Power)量がそれぞれの情報記録面で異なるように可変フォーカス部14から出射する光の発散状態を変える。
【0027】
そして、ここで図1の光ヘッド装置10に示すように、ビーム整形比が1とは異なる(m≠1)特性を有するビーム整形素子である立ち上げプリズム15を配置する場合を考える。このとき、可変フォーカス部14が光軸を中心とするY−Z平面でY方向とZ方向に対していずれも同じ発散および収束特性(同じ倍率)を発生する場合、立ち上げプリズム15で発生する非点収差成分量により、情報記録面に有効に集光されず、良好な記録・再生特性が得られない。
【0028】
この場合、いずれか一方の情報記録面(18aまたは18b)に対する集光特性が良くなるように調整しても、もう一方の情報記録面に対しては、非点収差成分量が増大するため良好な集光特性が得られない。例えば、立ち上げプリズム15に平行光を入射させて情報記録面18bに大きな非点収差が発生しないように集光させることができても、焦点が遠くに位置する情報記録面18aに集光するように、可変フォーカス部14を制御して立ち上げプリズム15に発散する光を入射させると、フォーカス成分(Power)量に応じて発生する非点収差が大きくなるため良好な集光特性を得ることができない。
【0029】
図2は、例として、フォーカス成分(Power)量1λrmsを有する平行光を立ち上げプリズム15のようなビーム整形素子に入射させ、ビーム整形比mの変化に対し、出射した光の収差成分量をフォーカス成分(Power)量と非点収差成分(AST)量と、に分けたときの特性を示すグラフである。このように、ビーム整形機能を発生させない立ち上げプリズム(横軸:ビーム整形比m=1)である場合、入射光のフォーカス成分(Power)量1λrmsがそのまま出射光に現れ、非点収差成分量は発生しないが、ビーム整形比mが1から離れる値になるにしたがって大きな非点収差成分量が発生する。一般に光ヘッド装置の記録・再生の際に許容される非点収差成分量は0.04λrms程度であるのに対して、ビーム整形比mが1より離れた値であればそれだけ大きな値の非点収差成分量が発生するため、これを一定レベル以下に抑える工夫が必要となる。
【0030】
図2では簡単のため、ビーム整形素子15へ入射する光のフォーカス成分量が1λrmsである場合の特性を示したが、実際に、複数の情報記録面を有する光ディスクに与えるべき光のフォーカス成分量は異なる。なお、入射する光のフォーカス成分量と、発生する非点収差成分量とは比例し、例えば、ビーム整形素子15へフォーカス成分量が10λrmsの光が入射すると、図2に示す非点収差成分量の10倍の非点収差成分量が発生する。実際にBDの場合、使用する光の波長λは405nmであり、対物レンズ16の開口数NAは0.85と大きく、前述のようにBDの隣り合う2つの情報記録面間では前述のようにカバー厚が25μm異なる。このため、一方の情報記録面に対して他方の情報記録面に集光させる場合、対物レンズに入射する発散光または収束光の可変すべきフォーカス成分量は実際に約3.36λrmsとなる。このため、可変フォーカス部14を調整してそれぞれの情報記録面に適したフォーカス成分量を与える必要がある。
【0031】
具体的に、上記を考慮すると、例えば立ち上げプリズム15のみで、可変フォーカス部14を有さない光ヘッド装置を考えたとき、非点収差成分量は0.04λrms程度を許容できるのは、ビーム整形比mは、0.991≦m≦1.009の値の特性を有するものに制限される。一方、光ヘッド装置に可変フォーカス部14を有する光ヘッド装置であれば、ビーム整形比mは、m>1.009または、m<0.991であっても、非点収差成分量は0.04λrms程度に抑制することが可能である。したがって、光ヘッド装置において良好な記録・再生を実現するための設計自由度が高くなる。
【0032】
また、ビーム整形比mが一定の値に固定されたビーム整形素子(立ち上げプリズム15)に光が入射するとき、上記の説明のように入射する光のフォーカス成分(Power)量[λrms]の増加に対して、ビーム整形素子15を出射する光のフォーカス成分量と非点収差成分量は比例して増加する。図3は、例として、ビーム整形比m=0.8となるビーム整形素子15に、光のフォーカス成分量を変化させて入射させたとき、ビーム整形素子15を出射する光のフォーカス成分量および非点収差成分量を示すグラフである。これより、これらは比例関係となっていることがわかる。
【0033】
このようにビーム整形比m≠1となるビーム整形素子15を用いる場合、複層光ディスクの各情報記録面へ集光する非点収差成分量を抑制して良好な集光特性を得るために、可変フォーカス部14は、複層光ディスクの各情報記録面に集光させるようにフォーカス成分量を制御すると同時に、それにともなって発生する非点収差成分量も制御する機能をあわせ持つことが求められる。そのため、これら2つの成分量を制御できれば、ビーム整形素子15(立ち上げプリズム15)に要求されるビーム整形比mが取り得る範囲を広くすることができる。
【0034】
つまり、可変フォーカス部は、フォーカス成分量に応じてビーム整形素子15で発生する非点収差成分量を考慮し、この非点収差を打ち消すような非点収差成分量を予め発生させる機能を発生させる。このようにすることで、ビーム整形素子15を出射する光の非点収差成分量がキャンセルされ、ビーム整形素子15を出射する光の形状が円に近づくため、複層光ディスクの各情報記録面において非点収差成分量を低減させ、良好な集光特性を得ることができる。
【0035】
図4は、可変フォーカス部に光軸と直交する平面(X−Y面)が円形となる平行光が入射し、ビーム整形素子を出射する光の形状の様子を模式的に示すものである。可変フォーカス部では、上記の説明のように、フォーカス成分量を大きくすることで非点収差成分量も大きくなる。このように非点収差成分量が大きくなると、可変フォーカス部を出射する光は、楕円形状となる。例えば、図4に示すように、可変フォーカス部を出射する光が、Y方向が長軸方向となる楕円形状となる場合、その光がビーム整形素子に入射して円形の光となって出射するように調整する。つまり、ビーム整形素子では、図4に示すY方向に比べてX方向に大きく発散する特性を有する場合、光は楕円から円となる。ここで、ビーム整形素子(立ち上げプリズム15)を出射する光の(光軸と直交する平面の)形状を長軸の径に対する短軸の径の比であるアスペクト比とすると、このアスペクト比が1であれば円となる。このようにアスペクト比が1、つまり図4においてa=b、となるようにすると、フォーカス成分量を変化させても非点収差成分量が大きくならないので集光特性が向上する。このように、可変フォーカス部で発生する非点収差成分量をビーム整形素子で発生する非点収差成分量と、がキャンセルされるように調整するとよい。
【0036】
次に、可変フォーカス部14の具体的な態様について説明する。まず、前述のように立ち上げプリズム(ビーム整形比m≠1)で発生する非点収差成分量をキャンセルするために、可変フォーカス部14を出射する波面について考える。図5は、光軸と直交する平面における等位相波面形状を示す模式図である。なお、「等位相波面形状」とは、光軸と直交する平面上で同じ位相となる位置を結んでできる形状のことをいう。図5(a)は、フォーカス成分量と非点収差成分量とを考慮したときの波面形状の一例を示す模式図であって、ここでは、可変フォーカス部14を出射した光の波面形状に相当し、等位波面形状が楕円となる。
【0037】
この例では、第1の方向である長軸方向の半径をa1と第2の方向である短軸方向の半径をb1とする。例えば、この波面形状の光が、第1の方向が図1のZ方向に一致するように可変フォーカス部14を調整し、ビーム整形比m(=d2/d1)>1となる立ち上げプリズム15を入射すると、Z方向のビーム径のみ1/m倍となって出射される。そのため立ち上げプリズム15の透過後の波面形状は図5(b)のように変形し、a2=a1/m、b2=b1となる。このとき非点収差成分量を十分に小さくするために、ビーム整形素子15透過後の波面形状が円(a2=b2)、つまりアスペクト比が1となるように調整することが好ましい。
【0038】
ここで、ビーム整形素子15を出射する光の非点収差成分量を制御するために、
a1×m×c=b1 … (1)
が成立するcを与える。このとき、0.97≦c≦1.03のいずれかで式(1)が成立する場合、フォーカス成分量が1λrmsで非点収差成分量は約0.04λrms以下であって好ましく、0.98≦c≦1.02のいずれかで式(1)が成立する場合、フォーカス成分量が1λrmsのときの非点収差成分量は約0.027λrms以下となり、より好ましい。
【0039】
また、上記の説明のようにBDの情報記録面間の間隔25μmの焦点距離の変化に相当するフォーカス成分量となる3.36λrmsとした場合、式(1)において、0.991≦c≦1.009のいずれかで成立すると非点収差成分量が約0.04λrms以下となるので好ましい。なお、これまでm>1として説明したが、m<1である場合でも、可変フォーカス部14を出射する波面がa1<b1となるように調整すればよく、このときも上記の式(1)が成立するようにcの値を調整するとよく、m<1であってもcが取り得る上記の好ましい範囲、より好ましい範囲は同じである。
【0040】
図6は、ビーム整形素子15のビーム整形比をmとして、該ビーム整形素子15を出射する光のフォーカス成分(Power)量が1λrmsとするとき、該ビーム整形素子15を出射する光の非点収差成分(AST)量を0λrmsとするために可変フォーカス部14を出射する光のフォーカス成分量および非点収差成分量の条件を示すグラフである。つまり、ビーム整形素子15のビーム整形比mの値が決まると、図6に示すようなフォーカス成分量と非点収差成分量となる光を出射するように可変フォーカス部14を設計することで、複層光ディスクのいずれの情報記録面においても良好な集光特性を得ることができるものである。そして、ビーム整形素子15に入射させる光のフォーカス(Power)成分量をP[λrms]、非点収差成分量をA[λrms]とすると、
T=|A/P−(0.66×(m−1)2−1.41×(m−1))| …(2)
の関係式において、T≦0.15が成立するようなPおよびAとなる各成分量の光を出射できるように制御するとよい。同様の理由でTが「0」に近づく値になるにつれて非点収差成分量を抑制でき、T≦0.10であることが好ましく、T≦0.05であることがより好ましく、T≦0.02であることがさらに好ましい。
【0041】
このように、mの値が決まって、上記の式(2)のTの値が0に近づくような関係が成立するように、PとAの比がほぼ一定にするように可変フォーカス部14で調整することで、ビーム整形素子15を出射する光はフォーカス成分量のみを考慮すればよく、非点収差成分量は十分に低いレベルとすることができる。したがって、複層光ディスクの各情報記録面に対して品質良く記録・再生でき、好ましい。
【0042】
次に、具体的に可変フォーカス部14としての構成である、液晶レンズ素子について説明する。図7は、図1の光ヘッド装置10の可変フォーカス部14として用いられる具体的な液晶レンズ素子30の構成を示したものである。図7(a)は液晶レンズ素子30の平面模式図であり、図7(b)は、平面模式図のA−A´に沿った断面を示す断面模式図である。
【0043】
液晶レンズ素子30は、図7(b)の断面模式図に示すように透明基板31、32と、透明電極33、34が備えられ、シール35と、液晶層(液晶)36と、凹凸部37と、透明電極と電気的に接続される端子電極41、42を備え、図示しない駆動電源回路に接続されている。液晶層36には、常光屈折率noおよび異常光屈折率ne(no≠ne)を有するネマティック液晶を用いる。凹凸部37は、屈折率nsの透明材料を用いて形成しており、深さdを有する断面が凹凸形状となっている。この凹凸部37は、好ましくは、鋸歯形状(ブレーズ形状)または鋸歯形状を階段状で近似した形状(擬似ブレーズ形状)を有するものである。なお、透明電極33は、凹凸部37上に形成される例を示しているが、これに限らず、透明基板31上に形成されていてもよい。また、透明電極34は一面がベタとなる電極として説明するが、後述するようにブレーズ形状の領域に相当するように輪帯領域に分割されていてもよい。
【0044】
また、図7(a)の平面模式図には、光軸を中心として楕円率κ(長軸の長さと短軸の長さの比:b1/a1)が一定である楕円形状の線38を示す。なお、使用するビーム整形素子15のビーム整形比mが決まることで、上記の式(2)を満足するように、楕円率κを設定することができる。つまり、ビーム整形比m(または1/m)と楕円率κとが等しくなるようにフレネルレンズパターンを形成し、特定の割合のフォーカス成分(Power)量と非点収差成分量の比が得られるように調整するとよい。楕円38は、それぞれ図7(b)の断面模式図に示す凹凸部の凸部の頂点を結んだ線に相当し、この液晶レンズ素子30を出射する光の位相は、この楕円38に沿って同じとなるものである。なお、最も外側に位置する楕円39は、図7(b)の断面模式図では、最も外側のブレーズ形状の段差がゼロになる点を結んだ線に相当する。そして、図7(a)に示す光軸を含む楕円領域が図7(b)の凹凸部37の中心の領域に相当し、図7(a)に示す隣り合う楕円で囲まれた輪帯領域が、それぞれ図7(b)の1つのブレーズ形状の凹凸の領域に相当する。
【0045】
次いで、液晶レンズ素子30を構成する材料について説明する。透明基板31、32は、入射する光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的等方性材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。凹凸部37の材料としては、各種の無機材料や、感光性樹脂や熱硬化樹脂などの有機材料を用いることができる。無機材料としてはSiOxNy膜(x、yはSiに対するOおよびNの原子数比)、SiO2膜、Si3N4膜、Al2O3膜などを用いることができるが、中でもSiOxNy膜が、成膜条件によりx、yを変化させて所望の屈折率に調整可能であり、透明性、耐久性にも優れる点から好ましく用いられる。また、この凹凸部37は、光学的等方性材料でも、複屈折性を示す材料で形成してもよく、この凹凸部37は、印加する電圧に応じて液晶層36の屈折率変化が生じる入射光の偏光方向に対して、液晶が取り得る屈折率n1と屈折率n2(n1<n2)の間の屈折率nsの透明材料で形成してあればよい。透明電極33、34としては、ITO(酸化錫ドープ酸化インジウム)膜、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)膜、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)膜などの酸化物透明導電膜が高い透明性と導電率とが得られるため好ましく用いられる。
【0046】
液晶層36はネマティック相液晶から構成され、以下にこのネマティック相液晶の液晶分子の配向方向について説明する。ここで、液晶は、誘電率異方性Δε>0となる特性を有するものを考え、この液晶の配向方法を例として説明する。液晶を配向させるために透明電極33、34上に図示しない配向膜を形成する。なお、液晶層36にΔε>0となる液晶材料を用いるホモジニアス配向は、同じ配向方向となるように配向膜を形成する。具体的に配向膜として、ポリイミド膜を塗布して一定の方向にラビングされたもので構成されてなるもの、SiOを基板面に対して斜め方向から蒸着してなる斜方蒸着膜などが用いられる。なお、誘電率異方性Δε>0となる液晶に限らず、誘電率異方性Δε<0となる液晶を用いてもよい。
【0047】
次に、ブレーズ形状または、擬似ブレーズ形状を有する凹凸部37の断面形状について説明する。本発明の液晶レンズ素子30に入射する平面波の透過波面において、光軸(x=y=0)の光線に対して半径rの長さだけ離れた位置を通過する光線の光路長差OPD(r)は、図7(a)より液晶レンズ素子の楕円率κをb1/a1とすると、
OPD(r)=α1r2+α2r4+α3r6+α4r8+・・・ … (3)
但し、r2={(b1/a1)・x}2+y2、
α1、α2、α3、α4・・・;定数
となるベキ級数の式を満たすようにする。このように構成することによって、光ヘッド装置に液晶レンズ素子30を配置したとき、複層光ディスクのカバー厚の違いに起因して発生する球面収差成分量を補正する透過波面を生成することができるとともに、立ち上げプリズムで発生する非点収差成分量をキャンセルするように作用する。とくに式(2)を満足するようにフォーカス成分量と非点収差成分量を調整することで、立ち上げプリズムを出射する光の非点収差成分量を低レベルに抑制したままフォーカス(Power)成分量を変化させ、各情報記録面に集光させることができる。
【0048】
ここで、式(3)の曲線の具体的な形状について、図8に符号αで示す。なお、横軸は半径r、縦軸は光路長差OPDを入射光の波長λの単位で表記する。そして、波長λの入射光に対して、λの整数倍の光路長差を有する透過波面は同等を見なすことができる。したがって、図8のαで示すグラフ(光路長差)を波長λ間隔で分割して光路長差をゼロの面に投影した光路長差を示すグラフβは、グラフαと実質的に同等である。グラフβで示される光路長差は、全てλ以内(図中では−λからゼロの範囲)であり、これを反映させて断面が鋸歯状となっているものである。
【0049】
次に、凹凸部37の深さdについては、以下のようになる。この場合、凹凸部37の凸部(屈折率nsの等方性材料部分)と透明電極34との間隔g(以下、「セルギャップ」という)にある液晶にはほぼ同一の電圧が印加される。このため、このセルギャップ内の液晶の屈折率変化は、透過光の波面を一様にシフトするのみであるので波面変化を無視することができる。
【0050】
一方、透明電極33、34間に電圧Vを印加すると、異常光屈折率を示す方向の偏光方向(以下、「異常光偏光」という)の光に対する液晶層36(液晶)の実質的な屈折率をn(V)とすると、液晶層36と凹凸部37の屈折率差Δn(V)は、Δn(V)=n(V)−nsとなる。例えば、印加電圧をV+1として、このとき図8のグラフβに相当する透過波面の光路長差を生成するためには、図7(b)に示す凹凸部37の深さdを、
d=λ/|Δn(V+1)| … (4)
但し、λ;入射光の波長、
Δn(V+1)=n(V+1)−ns=n1−ns、
n1,ns;屈折率、
となる値に設定するとよい。
【0051】
ここで、印加電圧Vを変化させると、屈折率差Δn(V)も変化する。例えば、Δn(V0)=0となる印加電圧V0では、液晶レンズ素子30の透過波面は変化しない。また、Δn(V−1)=−Δn(V+1)となる印加電圧V−1では、図8のグラフγに示す光路長差の透過波面が生じる。これは、光路長差ゼロの面に対して図8のグラフβと面対称の光路長差の透過波面に相当する。このように、透過波面変化なしの状態、図8のグラフβおよびγの波面状態の都合3種類の波面状態を印加電圧の大きさを変化させることにより生成することができる。また、屈折率nsをn1あるいはn2とほぼ等しくすると、透過波面は透過波面変化なし状態と、βあるいはγの状態のいずれかの2つの波面状態を生成することが可能である。また、式(4)で1λを基準に深さdを設定したが、例えば2λを基準として設定してもよい。
【0052】
また、透明電極34は一面がベタな電極として説明したが、それに限らない。図9は、図7(b)に示す透明電極34を分割した場合の平面模式図であり、図7(b)の1つのブレーズ形状からなる輪帯領域と(光軸方向からみて)一致するように分割されていてもよい。つまり、光軸を含む電極セグメント34aは、図7(b)の凹凸部37の中心の領域と一致し、同様に図7(b)の1つのブレーズ形状の凹凸の領域はそれぞれ電極セグメント34b〜34hに一致するように設計する。
【0053】
また、回折型の液晶レンズ素子30と図示しない屈折型液晶レンズ素子とを積層させた構造を有する液晶レンズ素子を使用してもよい。この場合、回折型液晶レンズ素子30では、大きなフォーカス成分量を与え、非点収差成分量を与えたり与えなかったりする切り替えを制御し、一方、屈折型液晶レンズ素子でフォーカス成分量と非点収差成分量とを複層光ディスクのカバー厚さ(各情報記録面)に合わせて微調整することができるのでさらに好ましい。
【0054】
上記では、Δn(V0)=0となる印加電圧V0であるとき、そしてΔn(V−1)=−Δn(V+1)となる印加電圧V−1であるときの2つの電圧によって透過波面の切り替えをするものである。つまり、液晶レンズ素子30を出射する光の1つは、入射する光の波面を変化させない平行光のままであり、もう1つは収束または発散させる光とする(フォーカス成分量を発生)ものである。しかし、このように複層光ディスクの各情報記録面に集光させるため、液晶レンズで発生させる出射光の状態はこれに限らず、例えば、1つは収束させる光、もう1つは発散させる光として切り替えてもよい。さらに、出射光の状態は同じ収束させる光であっても、収束の度合い(フォーカス成分量の大きさ)を2点以上設定して、その変化によって各情報記録面に集光させてもよい。また、例えば、3層の情報記録面を有する複層光ディスクの場合、液晶レンズ30を出射する光の状態は、収束させる光、透過波面を変えない平行光、発散させる光、とするそれぞれの電圧を設定することによって各情報記録面へ集光する位置を切り替えることもできる。
【0055】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態に係る光ヘッド装置50の模式図である。第1の実施形態に係る光ヘッド装置10では、可変フォーカス部14として、液晶レンズ素子30について説明したが、第2の実施形態に係る光ヘッド装置50の可変フォーカス部51は、コリメータレンズ53、コリメータレンズ53を光軸方向に位置調整するコリメータレンズ位置調整部52と、非点収差を補正する非点収差生成部60とからなる。なお、光ヘッド装置50において、光ヘッド装置10と同じものは同じ番号を付して説明の重複を避ける。
【0056】
コリメータレンズ位置調整部52はコリメータレンズ53を光軸方向と平行に移動させることができるものであって、この位置調整によって出射する光を収束させたり、発散させたりして、フォーカス成分(Power)量を調整し、複層光ディスク18の各情報記録面18a、18bに集光させる。そして、これまでの説明のように、フォーカス成分(Power)量が変化すると非点収差成分量も変化するので、非点収差を補正するため非点収差生成部60を配置する。
【0057】
次に、図11は、非点収差生成部60として、液晶を用いる液晶収差補正素子60の具体的構成を示す。図11(a)は液晶収差補正素子60の平面模式図であり、図11(b)は、平面模式図のB−B´に沿った断面を示す断面模式図である。図11(a)に示すように、液晶収差補正素子60は、一方の透明基板(例えば透明基板65aに透明電極61、62a、62b、63a、63bが形成され、それぞれの透明電極には独立に電圧を印加できるように図示しない電気的配線が施され、電圧制御装置に接続される。また、透明電極61、62a、62b、63a、63bは印加する電圧により非点収差を発生させるようなパターンに形成されている。そして、入射する光の有効領域64の中心は、透明電極61の中心と一致するように調整される。なお、これらの透明電極61、62a、62b、63a、63bをまとめてパターン電極という。また、この電極パターンは一例であり、非点収差を補正できるパターン電極であればこれに限らない。
【0058】
図11(b)の断面模式図に示すように液晶収差補正素子60は、パターン電極が形成された透明基板65aと、パターン電極と対向する透明基板65b側には、一面に透明電極67が形成され、周辺にシール69が施されて液晶層68が挟持されて構成される。また、透明基板65a、65bにはそれぞれ図示しない配向膜が施され、互いに同一方向、例えば、X方向に配向されている。液晶層68はネマティック相液晶から構成され、ここでは、誘電率異方性Δε>0となる液晶を用いるものとする。
【0059】
液晶層68に電圧を印加しないとき(以下、電圧非印加時という)には、液晶分子の長軸方向は液晶層68内でX方向に配向されるが、電圧を印加するとき(以下、電圧印加時という)には液晶の長軸方向は液晶層68の厚さ方向に向けて配向する。このとき、電圧値をそれぞれのパターン電極で調整することで、電極パターンごとに液晶の配向が変化する。つまり、液晶は常光屈折率noと異常光屈折率ne(no<ne)を有する複屈折性材料であるので、それぞれのパターン電極を出射する光の位相は、それぞれのパターン電極に印加される電圧を制御することによって変えられる。例えば、(電圧非印加時に)X方向に配向され、X方向の直線偏光が入射するとき、入射光に対して異常光屈折率となるが、パターン電極に電圧を印加することによって液晶分子の長軸方向が液晶層の厚さ方向に配向するため、常光屈折率となる。これを利用して入射する光の波面に対して出射する光の波面を変えることができる。なお、液晶は誘電率異方性Δε>0のものに限らず、誘電率異方性Δε<0であってもよい。
【0060】
次に、非点収差を与えるため、具体的にパターン電極に与える電圧について説明する。例えば、透明電極61にVa、透明電極62a、62bに電圧Vb、透明電極63a、63bに電圧Vcを与え、Vb>Va、Vc<Vaとなるように設定にする。このとき、液晶収差補正素子60にZ方向から平面波(同じ位相)で入射する光のうち、透明電極61を出射する光に対して透明電極62a、62bを出射する光の位相は進み、透明電極63a、63bを出射する光の位相は遅れる。このように電圧を調整して、X方向の位相とY方向の位相を非対称にすることで非点収差を与え、ビーム整形素子である立ち上げプリズム15で発生する非点収差を相殺するように制御することができる。そして、可変フォーカス部51で発生するフォーカス(Power)成分量と非点収差成分量との比が、式(2)を満足するように調整することによって、フォーカス成分量を変えても立ち上げプリズム15を出射する光の非点収差成分を低いレベルに抑制することができる。
【0061】
(実施例1)
まず、第1の実施形態に係る可変フォーカス部14として液晶レンズ素子30の具体的な作製方法を、図7を用いて説明する。透明基板31、32として石英ガラス基板面上にSiOxNy(但し、x,yはOとNの元素比率を示す)をスパッタリング法により成膜する。この場合、例えばSiターゲットを用いるとともに、Arガスに酸素および窒素を混入した放電ガスを用いて、屈折率ns(=1.64)の透明な均一屈折率膜SiOxNyを成膜し、その膜厚をd(=3.5μm)としている。
【0062】
さらに、図8のグラフβの形状に相当するように、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィにてレジストをパターニングした後、反応性イオンエッチング法によりSiOxNy膜を加工する。その結果、図7(a)の平面模式図の楕円39(長径:6.25mm、短径:5.00mm)の領域に、鋸歯形状を8段の階段形状で近似した断面形状で図7(b)にその断面を示すような凹凸部37を加工する。このとき、楕円38および楕円39の楕円率はいずれも0.8となる。次に、凹凸部37の表面に透明電極33としてITO膜を成膜する。さらに、ポリイミド膜(図示せず)を透明電極33上に膜厚約50nmとなるよう塗布した後に焼成し、ポリイミド膜表面をX軸方向にラビング配向処理して配向膜とする。
【0063】
また、対向する透明基板32として石英ガラス基板上に透明電極34としてITO膜を成膜し、その上にポリイミド膜(図示せず)を膜厚約50nm塗布した後に焼成し、ポリイミド膜表面をX軸方向にラビング配向処理して配向膜とする。さらにその上に、直径7μmのギャップ制御材が混入された接着材を印刷パターニングしてシール35を形成し、透明基板31と重ね合わせて圧着し、透明電極の間隔が最大7μm、最小3.5μm(ギャップg=3.5μm)とし、d=gの空セルを作製する。その後、ネマティック液晶を空セルの注入口(図示せず)から注入し、その注入口を封止して図7に示す液晶レンズ素子30とする。この液晶には、常光屈折率no(=1.50)および異常光屈折率ne(=1.75)の正の誘電異方性を有するネマティック液晶を用いる。また、この液晶は、透明電極33、34の面に、平行かつX軸方向に液晶分子の配向が揃ったホモジニアス配向であり、凹凸部37の凹部に充填されている。
【0064】
このようにして得られた液晶レンズ素子30の透明電極33、34間に図示しない駆動電源回路を接続することにより、液晶層36に電圧が印加される。液晶層36への印加電圧を0Vから増加させると、液晶層36のX軸方向の実質的な屈折率が、n1=ne(=1.75)からn2=no(=1.50)まで変化する。その結果、X軸の偏光面を有する直線偏光入射光に対して、液晶層36と凹凸部37との屈折率差が、
Δnmax(=n1−ns)=0.11、
から
△nmin(=n2−ns)=−0.14、
まで変化し、凹凸部37の凹部に充填された液晶層36の厚さ分布に応じて、透過波面が変化する。
【0065】
ここで、例えばBDを記録・再生するとき、使用波長λ(=405nm)で、カバー厚87.5μmの光ディスク18に対して、収差がゼロとなるように設計されたNA0.85の対物レンズ17を、カバー厚100μmと75μmの2つの情報記録面に集光させる場合を考える。そして、図1の光ヘッド装置10において、ビーム整形比mが0.8(Y方向のビーム径は透過前後で不変)の立ち上げプリズム15を配し、可変フォーカス部14に液晶レンズ素子30を楕円38、39の長軸がY方向、短軸がZ方向となるように配置する。液晶レンズ素子30の深さdを調整して、電圧がV+1のときにカバー厚75μmの情報記録面(例えば18b)、電圧がV−1のときにカバー厚100μmの情報記録面(例えば18a)に集光するようにフォーカス成分(Power)量を調整する。このとき、光源11から光の形状が円である平行光が入射して、液晶レンズ素子30を出射すると、印加する電圧のよってフォーカス成分量を調整できるとともに、液晶レンズ素子30で発生させる非点収差成分量が立ち上げプリズム15で発生する非点収差成分量と相殺するように作用するので、各情報記録面上での非点収差成分量を抑制し集光させることができる。
【0066】
(実施例2)
第2の実施形態に係る可変フォーカス部51として液晶収差補正素子60の具体的な作製方法を、図11を用いて説明する。透明基板65aとして石英ガラス基板面上に、透明電極としてITO膜を成膜する。そして、透明基板65a面上のITO膜は、図11(a)に示すようなパターンとなるようにエッチングを行い、透明電極61、62a、62b、63aおよび63bを形成する。さらに、ITO膜上にポリイミド膜(図示せず)を膜厚約50nmとなるよう塗布した後に焼成し、ポリイミド膜表面をラビング配向処理して配向膜とする。
【0067】
また、対向する透明基板65bとして石英ガラス基板上に透明電極67としてITO膜を成膜し、その上にポリイミド膜(図示せず)を膜厚約50nm塗布した後に焼成し、ラビング配向処理して配向膜とする。さらにその上に、直径7μmのギャップ制御材が混入された接着材を印刷パターニングしてシール67を形成し、透明基板65aとラビング方向が一致するように対向させ圧着し、透明電極の間隔が約7μmの空セルを作製する。その後、ネマティック液晶を空セルの注入口(図示せず)から注入し、その注入口を封止して図11に示す液晶収差補正素子60とする。この液晶には、常光屈折率no(=1.50)および異常光屈折率ne(=1.75)の正の誘電異方性を有するネマティック液晶を用いる。また、この液晶は、透明電極65a、65bの面に、平行かつX軸方向に液晶分子の配向が揃ったホモジニアス配向であり、液晶層68に充填されている。
【0068】
作製した液晶収差補正素子60を光ヘッド装置50に設置し、各透明電極に図示しない駆動電源回路を接続することにより、液晶層68に電圧が印加される。コリメータレンズ53から出射する光が平行光となるように、コリメータレンズ位置調整部52によって調整した位置(A点とする)に固定したとき、各透明電極には電圧を印加せず、液晶収差補正素子60を出射する光には位相分布を与えないようにして、情報記録面18bに集光させる。
【0069】
次に、コリメータレンズ位置調整部52によってA点とは異なる位置にコリメータレンズ53を光軸と平行するように移動させ、コリメータレンズ53を出射する光が発散する位置(B点とする)に固定し、透明電極61にVa、透明電極62a、62bに電圧Vb、透明電極63a、63bに電圧Vcを与え、Vb>Va、Vc<Vaとなるように設定にする。このとき、透明電極62a、62bを出射する光の位相は進み、透明電極63a、63bを出射する光の位相は遅れ、一定の非点収差成分量を発生させる。これによって、立ち上げプリズム15において、フォーカス成分(Power)量に対応した非点収差成分量をキャンセルするように働き、もう一つの情報記録面18aに非点収差成分量を十分に抑制して集光させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明の可変フォーカス部を用いることで、とくにビーム整形比mが1とは異なるビーム整形素子を使用して小型化を実現する光ヘッド装置においても、フォーカス成分量を可変しても非点収差成分量が低いレベルを維持することができる。とくに情報記録面を複数有する複層光ディスクの記録・再生の品質を高めた光ヘッド装置を実現することができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光ヘッド装置を示す模式図。
【図2】ビーム整形比mのビーム整形素子に入射するフォーカス成分量1λrmsの光に対して出射する光の各成分量の特性を示すグラフ。
【図3】ビーム整形比mが0.8のビーム整形素子に入射する光のフォーカス成分量を変化させ、ビーム整形素子を出射する光の各成分量の特性を示すグラフ。
【図4】可変フォーカス部に光軸およびビーム整形素子に入射/出射する光の形状の様子を示す模式図。
【図5】可変フォーカス部およびビーム整形素子を出射する光の当位相波面形状を示す模式図。
【図6】ビーム整形比mのビーム整形素子を出射する光のフォーカス成分量を1λrmsとするとき、入射する光の各成分量の特性を示すグラフ。
【図7】第1の実施形態に係る光ヘッド装置の可変フォーカス部となる液晶レンズの構成を示す平面模式図および断面模式図。
【図8】液晶レンズにより生成される透過波面の光路長差を示す一例のグラフ。
【図9】液晶レンズの電極パターンを示す平面模式図。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る光ヘッド装置を示す模式図。
【図11】第2の実施形態に係る光ヘッド装置の可変フォーカス部に用いられる液晶収差補正素子の構成を示す平面模式図および断面模式図。
【符号の説明】
【0072】
10、50 光ヘッド装置
11 光源
12 ビームスプリッタ
13、52 コリメートレンズ
14、51 可変フォーカス部
15 立ち上げプリズム(ビーム整形素子)
15a 立ち上げプリズムの光入射面
15b 立ち上げプリズムの光出射面
15c 立ち上げプリズムの光反射面
16 1/4波長板
17 対物レンズ
18 (複層)光ディスク
18a、18b 情報記録面
19 シリンドリカルレンズ
20 光検出器
30 液晶レンズ
31、32、65a、65b 透明基板
33、34、34a、34b、34c、34d、34e、34f、34g、34h、61、62a、62b、63a、63b、67 透明電極
35、69 シール
36、68 液晶層
37 凹凸部
38、39 楕円
41、42 端子電極
52 コリメータレンズ位置調整部
60 液晶収差補正素子
64 (入射光の)有効領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射する光の光軸と直交する平面における前記光の形状を変えるビーム整形素子と、
前記ビーム整形素子から出射する光を複数の情報記録面を有する光ディスクに集光させる対物レンズと、
前記光ディスクから反射された光を受光する光検出器を備える光ヘッド装置において、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、前記ビーム整形素子と、フォーカス成分量と非点収差成分量とを可変して、光の発散状態を変化させる可変フォーカス部と、を有する光ヘッド装置。
【請求項2】
前記ビーム整形素子は、平行して進行する入射光Aの光軸と直交する平面における前記入射光Aの形状が長軸または短軸に相当する第1の方向を径d1、前記第1の方向と直交し、前記長軸または前記短軸の他方に相当する第2の方向を径d2とする楕円であり、前記ビーム整形素子を出射する出射光Aの光軸と直交する平面における前記出射光Aの形状が前記径d1を直径とする円であるとき、d2/d1で表されるビーム整形比mを有し、
前記可変フォーカス部は、平行して進行する入射光Bの光軸と直交する平面における前記入射光Bの形状が円であり、前記可変フォーカス部を出射する出射光Bの光軸と直交する平面上で前記出射光Bの同じ位相となる位置を結んでできる等位相波面の形状が、長軸の径がa、短軸の径がbとなる楕円であるとき、
a×m×c=b、またはa=m×c×bであって、0.97≦c≦1.03を満足する請求項1に記載の光ヘッド装置。
【請求項3】
前記ビーム整形素子の前記ビーム整形比mは、m>1.009または、m<0.991である請求項1または請求項2に記載の光ヘッド装置。
【請求項4】
前記可変フォーカス部は、2枚の透明基板を対向配置し、前記透明基板間に挟持された液晶に印加する電圧に応じて前記液晶を透過する光の焦点距離を変化させる液晶レンズ素子から構成される請求項1〜3いずれか1項に記載の光ヘッド装置。
【請求項5】
前記透明基板の一方の面には透明電極と、鋸歯形状または鋸歯を階段形状で近似した断面形状を有する透明材料からなるとともに入射平面上で光軸を中心として楕円率κの相似となる複数の楕円状に形成される凹凸部と、を有する請求項4に記載の光ヘッド装置。
【請求項6】
前記凹凸部の楕円率κは、0.97×m≦κ≦1.03×mであるかまたは、0.97/m≦κ≦1.03/mである請求項4または請求項5に記載の光ヘッド装置。
【請求項7】
前記可変フォーカス部は、光源から出射された光の発散状態を変えるコリメータレンズと、
前記コリメータレンズを光軸方向に平行に移動する機構を有するコリメータレンズ位置調整部と、
非点収差成分を発生させることができる非点収差生成部からなる請求項1〜3いずれか1項に記載の光ヘッド装置。
【請求項8】
前記非点収差生成部は、2枚の透明基板に液晶が挟持され、少なくとも一方の前記透明基板に非点収差成分を発生させる特定のパターンに分割された透明電極が形成される液晶収差補正素子である請求項7に記載の光ヘッド装置。
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射する光の光軸と直交する平面における前記光の形状を変えるビーム整形素子と、
前記ビーム整形素子から出射する光を複数の情報記録面を有する光ディスクに集光させる対物レンズと、
前記光ディスクから反射された光を受光する光検出器を備える光ヘッド装置において、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、前記ビーム整形素子と、フォーカス成分量と非点収差成分量とを可変して、光の発散状態を変化させる可変フォーカス部と、を有する光ヘッド装置。
【請求項2】
前記ビーム整形素子は、平行して進行する入射光Aの光軸と直交する平面における前記入射光Aの形状が長軸または短軸に相当する第1の方向を径d1、前記第1の方向と直交し、前記長軸または前記短軸の他方に相当する第2の方向を径d2とする楕円であり、前記ビーム整形素子を出射する出射光Aの光軸と直交する平面における前記出射光Aの形状が前記径d1を直径とする円であるとき、d2/d1で表されるビーム整形比mを有し、
前記可変フォーカス部は、平行して進行する入射光Bの光軸と直交する平面における前記入射光Bの形状が円であり、前記可変フォーカス部を出射する出射光Bの光軸と直交する平面上で前記出射光Bの同じ位相となる位置を結んでできる等位相波面の形状が、長軸の径がa、短軸の径がbとなる楕円であるとき、
a×m×c=b、またはa=m×c×bであって、0.97≦c≦1.03を満足する請求項1に記載の光ヘッド装置。
【請求項3】
前記ビーム整形素子の前記ビーム整形比mは、m>1.009または、m<0.991である請求項1または請求項2に記載の光ヘッド装置。
【請求項4】
前記可変フォーカス部は、2枚の透明基板を対向配置し、前記透明基板間に挟持された液晶に印加する電圧に応じて前記液晶を透過する光の焦点距離を変化させる液晶レンズ素子から構成される請求項1〜3いずれか1項に記載の光ヘッド装置。
【請求項5】
前記透明基板の一方の面には透明電極と、鋸歯形状または鋸歯を階段形状で近似した断面形状を有する透明材料からなるとともに入射平面上で光軸を中心として楕円率κの相似となる複数の楕円状に形成される凹凸部と、を有する請求項4に記載の光ヘッド装置。
【請求項6】
前記凹凸部の楕円率κは、0.97×m≦κ≦1.03×mであるかまたは、0.97/m≦κ≦1.03/mである請求項4または請求項5に記載の光ヘッド装置。
【請求項7】
前記可変フォーカス部は、光源から出射された光の発散状態を変えるコリメータレンズと、
前記コリメータレンズを光軸方向に平行に移動する機構を有するコリメータレンズ位置調整部と、
非点収差成分を発生させることができる非点収差生成部からなる請求項1〜3いずれか1項に記載の光ヘッド装置。
【請求項8】
前記非点収差生成部は、2枚の透明基板に液晶が挟持され、少なくとも一方の前記透明基板に非点収差成分を発生させる特定のパターンに分割された透明電極が形成される液晶収差補正素子である請求項7に記載の光ヘッド装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−86621(P2010−86621A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256104(P2008−256104)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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