光中継装置および光中継方法
【課題】 フォトリフラクティブ素子において回折された画像に歪みを生じさせることなく、従来必要であった消去光の照射に必要な光学系の構成を不要とすることができる光中継装置を提供する。
【解決手段】 光中継装置が備える光学システム2は、複数のフォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cが積層されたフォトリフラクティブ素子11と、偏光ビームスプリッタ12とによって交差偏光4波混合光学系によって構成されている。制御光CLとポンプ光PLとによって、フォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cのそれぞれに対して、入力画像IPに含まれるいずれか1つの部分画像に対応した箇所に屈折率格子RLが形成される。ここで、フォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cのそれぞれに対応する入力部分画像が互いに異なっていることによって、出力される出力画像OPにおける部分画像の配列が変換される。
【解決手段】 光中継装置が備える光学システム2は、複数のフォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cが積層されたフォトリフラクティブ素子11と、偏光ビームスプリッタ12とによって交差偏光4波混合光学系によって構成されている。制御光CLとポンプ光PLとによって、フォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cのそれぞれに対して、入力画像IPに含まれるいずれか1つの部分画像に対応した箇所に屈折率格子RLが形成される。ここで、フォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cのそれぞれに対応する入力部分画像が互いに異なっていることによって、出力される出力画像OPにおける部分画像の配列が変換される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、出力する光中継装置および光中継方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報を光信号として伝送する際の切り替えや接続を行う装置としての光インターコネクションが多種提案されている。この光インターコネクションにおいて、従来、光信号を電気信号に一旦変換してコネクション処理を行い、その後再度光信号に変換する処理が行われるものがある。
【0003】
このような光−電気変換型の光インターコネクションは、光−電気変換によって生じる電磁干渉や発熱などの問題を有している。また、光信号がパラレルで伝送される場合には、光−電気変換型の光インターコネクションは、次のような中継処理を行うことになる。まず、入力された光画像(パラレル信号)が電気信号に変換され、電気信号においてパラレル・シリアル変換が行われる。その後、シリアル電気信号が光信号に変換され、光伝送路に送出される。そして、光伝送路の受信側は、これとは逆の手順を行うことによって、光画像(パラレル信号)を得る。すなわち、光−電気変換型の光インターコネクションは、パラレル−シリアル変換、およびシリアル−パラレル変換が行われることによる処理時間の長大化という問題も有している。
【0004】
以上のような光−電気変換型の光インターコネクションが有する問題を解決する手法の一つとして、フォトリフラクティブ材料を媒質として用いた全光インターコネクションが提案されている。この全光インターコネクションは、1対1だけでなく1対多、多対多接続の制御に光を用いることができるので、任意の接続パターンを全光学的に構築することができる(非特許文献1参照)。
【0005】
通信に光信号を用いることは、光の高速性による高速通信が実現されるだけでなく、同時に光の空間並列性を利用することによる高速通信をも実現することが可能となる。これは、全光インターコネクションが、ピクセルデータからなる2次元画像データのような空間的に並列な光信号をそのまま利用できることを意味する。すなわち、全光インターコネクションが画像を直接操作することによって、これまで膨大な処理時間が必要とされてきた2次元画像データと1次元時系列信号との変換処理が不要となる。その上でこの画像を複数個一括して接続することによって、より高速で大容量の通信が実現できる。
【0006】
従来、空間的に並列な信号および画像を直接接続する全光インターコネクションは、BaTiO3やLiNbO3などの電気光学結晶を用いて、図11に示すような光学系によって実現されている(非特許文献2参照)。この光学系は、フォトリフラクティブ結晶101、偏光ビームスプリッタ102、およびプリズム103を備えている。同図に示す例では、ポンプ光PL、および、屈折率格子RLの誘起を制御する3行3列のマトリックス状の制御光CLはともに常光線であり、入力画像IPおよび出力画像OPはともに異常光線である交差偏光4波混合系が用いられている。まず、以下の3行3列の行列Cで表される制御光CLが偏光ビームスプリッタ102に入射される。
【0007】
【数1】
【0008】
ここで、行列Cの各要素において、0は制御光CLの暗部を示しており、1は制御光CLの明部、つまり制御光CLの照射を示している。制御光CLは常光線であるため、偏光ビームスプリッタ102によってフォトリフラクティブ結晶101方向に反射される。この制御光CLとともにフォトリフラクティブ結晶101に入射されたポンプ光PLによって、フォトリフラクティブ結晶101内にマトリックスパターンに応じた屈折率格子RLが誘起される。この屈折率格子RLはインターコネクションにおける乗算器としての役割を果たす。
【0009】
以上のように誘起された屈折率格子RLに対して、ポンプ光PLと対向伝搬になる方向から、縦1列に並べられた入力画像IPがフォトリフラクティブ結晶101内へ入射すると、入力画像IPは屈折率格子RLによって制御光CLの入射方向(偏光ビームスプリッタ102の方向)に回折される。回折された入力画像IPは異常光線であるため、偏光ビームスプリッタ102を透過する。偏光ビームスプリッタ102を透過した画像光は、さらにプリズム103によって横1列に揃えられ、出力画像OPとして出力される。
【0010】
上記の過程を経ることにより、入力画像IPと出力画像OPとの接続パターンとして、入力部分画像ia−出力部分画像oC、入力部分画像ib−出力部分画像oA、入力部分画像ic−出力部分画像oBが形成され、各入力部分画像と各出力部分画像との1対1接続が実現される。接続パターンの変更は、制御光CLのマトリックス状のパターンを変更することによって任意に実現される。
【非特許文献1】P. Yeh, Introduction to Photorefractive Nonlinear Optics, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1993.
【非特許文献2】T. Kaneda, A. Okamoto, S. Honma, T. Nakada, and K. Sato, “Optical image connector with photorefractive four-wave mixing,” Proc. 2nd International Conference on Optical Design and Fabrication (ODF2000), no.P27, pp.229-232, Tokyo, Japan, Nov. 2000.
【非特許文献3】Symthetic studies of TPD (tetra-phenyl-diphenyldiamine) acrylate based polymers and their composition photorefractive performances, M. Yamamoto,J. K. Cammack, S. Ciccotti, P. Wang, Nitto Denko Technical Co.; J.Thomas, B. Kippelen, G. R. Meredith, S. R. Marder, Univ. of Arizona, Proceedings of SPIE Vol.4991-57, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
屈折率格子が生成される媒質として、BaTiO3に代表されるフォトリフラクティブ結晶を用いた場合、結晶の相互作用長(媒質の厚み)がmmオーダーであるため、媒質内の屈折率格子も同様の厚さで誘起されうることになる。図12(a)に示すように、屈折率格子が厚くなると、それだけ入力画像IPが屈折率格子内を伝搬する距離dが長くなる。屈折率格子内では入力画像IPは制御光CL方向に回折されるため、この伝搬距離dが長いと、屈折率格子において回折された出力画像OPは、同図に示すように水平方向に歪んだ画像となる。
【0012】
出力画像の歪みを改善するためには屈折率格子が相互作用領域内に薄く誘起される必要がある。従来は、図12(b)に示すように、フォトリフラクティブ結晶101の上端から、一様でインコヒーレントな消去光ELを屈折率格子が誘起されうる相互作用領域の大部分に照射する手法が用いられている。ここで、消去光ELは、図12(c)に示すように、大部分が明部であり、その1つの対角線付近に幅の狭い暗部が設けられている光となっている。これにより、フォトリフラクティブ結晶101内に、幅dの狭い屈折率格子が残ることになる。このような状態にすれば、入力画像IPが屈折率格子内を伝搬する距離dが短くなるので、出力画像OPにおける水平方向への歪みを抑制することができる。
【0013】
しかしながら、この手法を用いる場合、フォトリフラクティブ結晶上端から消去光を照射するための構成を設けることによる光学系の大型化や、各相互作用領域に対して同様の制御を行うことによる光学系の複雑化を招く。また、消去光の照射によって屈折率格子の相互作用長が短くなるため、回折効率の低下も懸念される。さらに、結晶の相互作用長がmmオーダーであるフォトリフラクティブ結晶は基本的に高価であり、装置コストの上昇を招くという問題もある。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、フォトリフラクティブ素子において回折された画像に歪みを生じさせることなく、従来必要であった消去光の照射に必要な光学系の構成を不要とすることができる光中継装置および光中継方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る光中継装置は、上記課題を解決するために、光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力する光中継装置であって、複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子と、上記各フォトリフラクティブ基板に屈折率格子を形成するための光を照射する光照射手段とを備え、上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するとともに、上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力することを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る光中継方法は、複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子を備え、光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力する光中継装置における光中継方法において、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するステップと、上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力するステップとを有することを特徴としている。
【0017】
上記の構成または方法では、まずフォトリフラクティブ素子が、複数のフォトリフラクティブ基板によって構成されている。各フォトリフラクティブ基板には光照射手段によって光が照射され、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子が形成される。また、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なっている。すなわち、入力された複数の光信号は、それぞれ対応するフォトリフラクティブ基板に形成された屈折率格子において回折して出力されることになる。したがって、各フォトリフラクティブ基板における屈折率格子の形成位置に応じて、光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力することが可能となる。
【0018】
また、従来のフォトリフラクティブ結晶を用いた構成の場合、出力光における画像の歪みを抑制するために、消去光をフォトリフラクティブ結晶に照射することによって屈折率格子の相互作用長を短くする必要があったが、上記本発明の構成または方法によれば、このような処理を行う必要がなくなる。これは、各フォトリフラクティブ基板は、1つの光信号に対応する屈折率格子が形成されればよいので、フォトリフラクティブ基板自体の厚みを薄くすることによって、屈折率格子の相互作用長を短くすることができるからである。すなわち、従来必要であった消去光の照射に必要な光学系の構成を不要とすることができるので、装置コストの低減、装置構成の簡素化、装置サイズの小型化を図ることができる。
【0019】
なお、空間的に並列に伝送される複数の光信号とは、空間的に独立な強度情報・位相情報を有する信号チャネルを2次元に並べたものであればよい。このような光信号とは、2次元画像や、独立した光通信チャネルを複数束ねた光信号などが挙げられる。例えば、光信号が2次元画像である場合、該2次元画像をピクセルの集合と考えることで、画像の1ピクセルがそれぞれ独立した通信チャネルとみなすことができる。逆に言えば、独立したチャネルの集合体が2次元画像をなしていると考えることも可能である。独立した光通信チャネルを複数束ねた光信号とは、例えばファイバ通信の場合でいえば、複数のファイバを束ねて用いる場合に相当する。
【0020】
また、本発明に係る光中継装置は、上記の構成において、上記フォトリフラクティブ基板が、有機材料であるフォトリフラクティブポリマーによって構成されている構成としてもよい。
【0021】
上記の構成では、フォトリフラクティブ基板がフォトリフラクティブポリマーによって構成されている。フォトリフラクティブポリマーの特性としては、単位長さあたりの利得が大きいため(高感度)、無機材料であるフォトリフラクティブ結晶を用いるよりも小さな相互作用長で、フォトリフラクティブ結晶と同等の回折効率を得ることができる。したがって、上記の構成によれば、フォトリフラクティブ結晶を用いる場合と比べて、装置サイズをさらに小型化することが可能となる。
【0022】
また、フォトリフラクティブポリマーは、典型的な無機フォトリフラクティブ結晶に比べて、媒質の時定数が小さいという特性を有している。よって、上記の構成によれば、屈折率格子の立ち上げを迅速に行うことが可能となるので、高速に配列変換を切り替えることが可能となる。
【0023】
また、フォトリフラクティブポリマーは、有機化学合成によって生成されるため、結晶の成長によって生成されるフォトリフラクティブ結晶に比べてコストが著しく安価であるというメリットもある。さらに、フォトリフラクティブポリマーは、フォトリフラクティブ結晶と比較して、複雑な形状に成形することも容易であるというメリットもある。
【0024】
また、本発明に係る光中継装置は、上記の構成において、上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、ポンプ光を照射するとともに、屈折率格子を形成する部分にのみ光を照射するための光変調素子から出射された制御光を照射するものである構成としてもよい。
【0025】
上記の構成によれば、偏光4波混合光学系によって屈折率格子の形成および回折による配列変換が実現されることになる。よって、短時間で屈折率格子を形成することが可能となるので、高速な配列変換切り替えを行うことが可能となる。
【0026】
また、光変調素子によって屈折率格子を形成する箇所を変更することができるので、光変調素子における光出射領域を切り替える制御を行うことによって、任意の位置に屈折率格子を形成することが可能となる。よって、配列変換も容易に行うことができる。
【0027】
また、本発明に係る光中継装置は、上記の構成において、上記制御光を反射して上記フォトリフラクティブ基板に対して照射するとともに、上記フォトリフラクティブ基板からの回折光を透過して上記光出力部に伝送する偏光ビームスプリッタを備え、上記ポンプ光および制御光を常光線とし、入力される光信号および出力される光信号を異常光線とする構成としてもよい。
【0028】
上記の構成によれば、交差偏光4波混合光学系によって屈折率格子の形成および回折による配列変換が実現されることになる。交差偏光4波混合を採用した場合、平行偏光4波混合を採用した場合と比較して、次のようなメリットがある。平行偏光4波混合では、入射光と出力光との偏光が同じであるため、ビームスプリッタの設置によって制御光の入射時における分岐損失、および、回折されてきた光信号の分岐損失が発生することになる。この分岐損失は、ビームスプリッタに入射する全ての光波が50:50に分岐されることに起因している。これに対して、交差偏光4波混合では、常光線の制御光と異常光線の回折光とが偏光ビームスプリッタに入射するため、常光線を反射し、異常光線を透過する偏光ビームスプリッタによって損失なく光線を分岐することが可能となる。
【0029】
また、本発明に係る光中継装置は、上記の構成において、上記フォトリフラクティブ素子をn個(nは2以上の整数)備えるとともに、各フォトリフラクティブ素子に対応して上記光照射手段を備え、入力された光信号が、n−1個のフォトリフラクティブ素子を順次透過し、各フォトリフラクティブ素子において回折された光信号が上記光出力部から出力される構成としてもよい。
【0030】
フォトリフラクティブ素子に入射される光信号は、基本的には屈折率格子によって回折されることになるが、回折せずにそのままフォトリフラクティブ素子を透過する光も存在する。上記の構成では、この透過光を利用して、次のフォトリフラクティブ素子への入射光信号とするようになっている。ここで、各フォトリフラクティブ素子において、それぞれ異なる配列変換が行われるように光照射手段による光の照射が行われれば、各フォトリフラクティブ素子によって出力される出力光信号を、それぞれ任意の配列変換が行われた状態とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る光中継装置は、以上のように、複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子と、上記各フォトリフラクティブ基板に屈折率格子を形成するための光を照射する光照射手段とを備え、上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するとともに、上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力する構成である。
【0032】
また、本発明に係る光中継方法は、以上のように、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するステップと、上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力するステップとを有する方法である。
【0033】
これにより、回折された画像に歪みを生じさせることなく、従来必要であった消去光の照射に必要な光学系の構成を不要とすることができるので、装置コストの低減、装置構成の簡素化、装置サイズの小型化を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りである。本実施形態に係る光中継装置は、空間的に並列に伝送される信号や画像信号の配列を変換して出力する光インターコネクション機能を有する装置である。
【0035】
(光中継装置の構成)
図2は、本実施形態に係る光中継装置1の概略構成を示している。同図に示すように、光中継装置1は、配列変換部10、光入力部7、および光出力部8を備えた構成となっている。光入力部7は、空間的に並列に伝送される信号や画像信号を光伝送路から入力し、配列変換部10に伝送する。配列変換部10は、光入力部7から入力された空間的に並列に伝送される信号や画像信号(以降、入力画像IPと称する)の配列を変換し、出力画像OPを光出力部8に伝送する。なお、入力画像IPの配列変換処理とは、入力画像IPに含まれる複数の部分画像の配列順番を変換する処理を示している。光出力部8は、配列変換部10から伝送された出力画像OPを、光伝送路に対して出力する。
【0036】
配列変換部10は、光学システム2、光源(光照射手段)3、光分離素子(光照射手段)4、光変調素子5、制御部6、および電圧印加部9を備えた構成となっている。光源3は、光学システム2において用いられる光を供給する光源である。この光源3は、例えばレーザ光源によって構成される。レーザ光源としては、例えばHe−Neレーザ、アルゴンイオンレーザ、および半導体レーザなどが挙げられる。
【0037】
光分離素子4は、光源3から出射された光を分離し、一方をポンプ光PL(詳細は後述する)として光学システム2に伝送し、他方を制御光CL(詳細は後述する)の元となる光として光変調素子5に伝送する。この光分離素子4は、例えばミラーやビームスプリッタなどによって構成される。なお、本実施形態では、光学システム2で用いられる光の光源を1つとし、光分離素子4によってポンプ光PLおよび制御光CLに分離する構成となっているが、ポンプ光PL用光源、および制御光CL用光源をそれぞれ独立して設ける構成としてもよい。
【0038】
光変調素子5は、光分離素子4から送られた光に対して各領域毎に光の伝送/非伝送を制御することによって制御光CLを生成し、光学システム2に伝送する。すなわち、光変調素子5は、受光領域を複数の領域に分割し、各領域における光の伝送/非伝送を制御することが可能となっている。この光変調素子5としては、例えば液晶シャッタやPLZTなどが用いられる。なお、光変調素子5は、光の透過/遮断を制御することによって光の伝送/非伝送を制御するものであってもよいし、光の反射/非反射を制御することによって光の伝送/非伝送を制御するものであってもよい。
【0039】
制御部6は、光変調素子5の各領域における光の伝送/非伝送制御を行う。この各領域における光の伝送/非伝送制御は、外部からの指示入力に基づいて行われる。言い換えれば、外部から制御部6に対して指示入力を行うことによって、制御光CLの状態を変化させ、配列変換処理を変更することが可能となっている。
【0040】
光学システム2は、入力画像IPを光学的に処理することによって配列変換を行い、出力画像OPを生成するものであり、フォトリフラクティブ素子11、偏光ビームスプリッタ12、およびプリズム13を備えている。なお、この光学システム2の詳細については後述する。
【0041】
電圧印加部9は、フォトリフラクティブ素子11に対して電圧を印加するものであり、これにより、フォトリフラクティブ素子11内の分子の配向を揃えることが可能となる。
【0042】
(光学システムの構成)
次に、光学システム2の構成について図1を参照しながら説明する。同図に示す例では、3つの部分画像ia・ib・icからなる入力画像IPに対して、各部分画像の配列変換を行い、3つの部分画像oa・ob・ocからなる出力画像OPを出力する構成となっている。言い換えれば、3チャネルの入力信号の配列変換を行って3チャネルの出力信号を生成する構成となっている。なお、配列変換の対象となる部分画像またはチャネルの数は、3つに限定されるものではなく、2以上の任意の数とすることが可能である。
【0043】
この例では、フォトリフラクティブ素子11は、第1〜第3のフォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cが多層化された構成となっている。なお、配列変換の対象となる部分画像またはチャネルの数がn(2以上の整数)の場合には、フォトリフラクティブ素子11は、n層のフォトリフラクティブポリマーが多層化された構成となる。
【0044】
フォトリフラクティブ素子11は、光分離素子4(図1においては図示せず)からのポンプ光PL、偏光ビームスプリッタ12からの制御光CL、および、光入力部7(図1においては図示せず)からの入力画像IPを受け、出力画像OPを偏光ビームスプリッタ12に向けて出射する。また、偏光ビームスプリッタ12は、光変調素子5(図1においては図示せず)から制御光CLを受け、この制御光CLをフォトリフラクティブ素子11に対して出射するとともに、フォトリフラクティブ素子11から出力画像OPを受け、この出力画像OPをプリズム13に対して出射する。プリズム13は、偏光ビームスプリッタ12から出力画像OPを受け、この出力画像OPを光出力部8(図1においては図示せず)に対して出射する。
【0045】
また、ポンプ光PLおよび制御光CLは常光線となっており、入力画像IPおよび出力画像OPは異常光線となっている。以上のような構成により、光学システム2は、交差偏光4波混合光学系となっている。
【0046】
(配列変換処理)
次に、図3(a)〜図3(c)を参照しながら、光学システム2による配列変換処理の手順について説明する。まず、図3(a)を参照しながら、フォトリフラクティブ素子11に屈折率格子RLが生成される様子について説明する。前記した数1と同じ3行3列の行列Cで表される制御光CLが偏光ビームスプリッタ12に入射される。制御光CLは常光線であるため、偏光ビームスプリッタ12によってフォトリフラクティブ素子11方向に反射される。そしてポンプ光PLと制御光CLとがフォトリフラクティブ素子11に入射する。
【0047】
フォトリフラクティブ素子11では、第1のフォトリフラクティブポリマー11Aにおいて制御光CLのA列に対応する屈折率格子RLが形成され、第2のフォトリフラクティブポリマー11Bにおいて制御光CLのB列に対応する屈折率格子RLが形成され、第3のフォトリフラクティブポリマー11Cにおいて制御光CLのC列に対応する屈折率格子RLが形成される。これは以下の作用によるものである。
【0048】
例えば制御光のA列が各フォトリフラクティブポリマーを通過する際に、ポンプ光PLと重なる領域は第1のフォトリフラクティブポリマー11Aの領域のみとなるので、制御光のA列に関しては第1のフォトリフラクティブポリマー11Aのみに屈折率格子RLが形成される。同様にして、制御光のB列に関しては第2のフォトリフラクティブポリマー11Bのみに屈折率格子RLが形成され、制御光のC列に関しては第3のフォトリフラクティブポリマー11Cのみに屈折率格子RLが形成される。すなわち、このような状態が実現されるように、各フォトリフラクティブポリマーの配置位置、ポンプ光PLの入射角度および光領域の幅、制御光CLの入射角度および各列の幅が精確に調整されていることになる。
【0049】
以上のようにフォトリフラクティブ素子11内に屈折率格子RLが形成された後に、図3(b)に示すように、入力画像IPがフォトリフラクティブ素子11に対してポンプ光PLと対向伝搬するように照射される。すると、入力部分画像iaはポンプ光PLとC列の制御光CLとで誘起された屈折率格子RLによって4波混合が生じ、制御光CLの入射方向(偏光ビームスプリッタ12の方向)に回折される。同様に入力部分画像ib・icはポンプ光PLと、A・B列の制御光CLとで誘起された屈折率格子RLによって偏光ビームスプリッタ12の方向に回折される。回折された各入力部分画像は異常光線であるため、図3(b)のように偏光ビームスプリッタ12を透過する。偏光ビームスプリッタ12を透過した各回折画像は高さがそれぞれ違うため、プリズム13によって同じ高さに揃えられる。これによって入力画像IPにおける各入力部分画像と、出力画像OPにおける各出力部分画像との1対1接続が実現される。
【0050】
また、配列変換のパターンを変更する際には、図3(c)に示すように、制御光CLにおける行列Cを変更すればよい。このように、制御光CLにおける行列Cを変更することによって、入力画像IPにおける各入力部分画像の配列はそのままで、出力画像OPにおける各出力部分画像の配列を変更することができる。
【0051】
(制御光による出力画像の位置制御の詳細)
図4は、制御光CLによる出力画像OPの位置制御の状態を示している。この図では、3枚に並べられたフォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cに入射された1枚の入力部分画像iaが、2枚目のフォトリフラクティブポリマー11B内で誘起された屈折率格子RLによって回折され出力されている。制御光CLによる行列Cのパターンは任意に変更できるため、屈折率格子RLは任意のフォトリフラクティブポリマー内で誘起させることが可能である。屈折率格子RLが誘起される位置によって得られる出力部分画像の位置は変化する。したがって、制御光CLによる行列Cのパターンによって出力部分画像の位置を制御することが可能となることがわかる。
【0052】
図4に示す例では、入力部分画像3枚を縦1列に並べ、3行3列のマトリックスパターンで与えられる制御光CLを用いることによって、縦に配列された入力部分画像の配列(順番)を並べ替えて、3枚横1列の出力部分画像を出力する全光インターコネクションが実現される。
【0053】
(フォトリフラクティブポリマーによる回折)
次に、フォトリフラクティブポリマーによる回折作用について図5を参照しながら説明する。フォトリフラクティブポリマー11Xは、媒質自体の厚さ(相互作用長)dが10μmオーダーとなっている。よって、フォトリフラクティブポリマー11X内に誘起される屈折率格子RLも10μmオーダーの薄いものとなる。そのため、入力画像IPは歪みなく回折され、出力画像OPにおける水平方向への歪みは生じない。
【0054】
また、フォトリフラクティブポリマーはフォトリフラクティブ結晶に比べて高い結合係数を有している。具体的には、フォトリフラクティブポリマーは最大で13000(1/m)程度の結合係数を有しているが(例えば非特許文献3参照)、フォトリフラクティブ結晶(BaTiO3)は異常光線でおおよそ1700(1/m)前後の結合係数を有している。よって、フォトリフラクティブポリマーは、相互作用長が短くても、フォトリフラクティブ結晶と同等もしくはそれ以上の効率で入力画像を回折することができる。以下に、このことについてより詳細に説明する。
【0055】
フォトリフラクティブポリマーは有機材料である一方、フォトリフラクティブ結晶は無機材料である。フォトリフラクティブポリマーの特性としては、単位長さあたりの利得が大きいため(高感度)、無機材料であるフォトリフラクティブ結晶を用いるよりも小さな相互作用長で、フォトリフラクティブ結晶と同等の回折効率を得ることができる。具体的には、フォトリフラクティブポリマーは、フォトリフラクティブ結晶の1/10程度の相互作用長で同等な性能を得ることができる。したがって、フォトリフラクティブポリマーを用いる構成によれば、フォトリフラクティブ結晶を用いる場合と比べて、光学システム2をよりコンパクトに構成することが可能となる。
【0056】
なお、回折効率は、結合係数と相互作用長との積で表される結合強度に依存するものである。すなわち、入力画像を回折させるにはある程度の結合強度が必要なため、相互作用長が薄いときは結合係数がより高い媒質を用いる必要がある。一般的には厚いフォトリフラクティブポリマーを用いれば回折効率は大きくなる。しかしながら、フォトリフラクティブポリマーを厚くしすぎると吸収損失も大きくなり、透過する光が弱くなるので、フォトリフラクティブポリマーの相互作用長としては10〜100μmであることが望ましい。ただし、実際には、フォトリフラクティブポリマーの作成上の制約や用いる波長などに応じて、フォトリフラクティブポリマーの相互作用長を設定する必要がある。
【0057】
また、フォトリフラクティブポリマーは、典型的な無機フォトリフラクティブ結晶に比べて、媒質の時定数が小さいという特性を有している。ここでいう時定数とは、応答速度のことであり、具体的には、媒質内に誘起される屈折率格子の立ち上がり時間を想定している。無機フォトリフラクティブ結晶の場合では立ち上がり時間は秒オーダーである一方、フォトリフラクティブポリマーの場合では数ミリ秒〜数10ミリ秒のオーダーとなる(非特許文献3参照)。よって、フォトリフラクティブポリマーを用いれば、屈折率格子の立ち上げを迅速に行うことが可能となるので、高速に配列変換を切り替えることが可能となり、動画データの中継なども可能とすることが期待できる。
【0058】
また、フォトリフラクティブポリマーは、フォトリフラクティブ結晶に比べてコストが著しく安価であるというメリットもある。詳しく説明すると、フォトリフラクティブ結晶は、例えばBaTiO3結晶の場合、5mm角くらいの大きさまで成長させるのに時間がかかるため、非常に高価である一方、フォトリフラクティブポリマーは、有機化学合成によって生成されるため、材料コストは著しく安価である。
【0059】
さらに、フォトリフラクティブ結晶は、上記のように困難な成長プロセスを経て形成されるため、コストがかかるだけでなく、加工性も良くない。よって、材料選択の自由度が限られている。これに対し、有機フォトリフラクティブポリマーは安価で、複雑な形状に成形することも容易である。また、フォトリフラクティブポリマーに代表される有機媒質では、現在でも新物質が次々と発見され,合成手法の進歩により新分子構造をもつ物質が数多く合成されるなど,材料選択の自由度は極めて高いというメリットもある。
【0060】
(光学システムの別の構成例)
次に、光学システム2の別の構成例について説明する。図1に示した構成では、光学システム2は交差偏光4波混合光学系となっているが、図6に示すように、平行偏光4波混合光学系による構成としてもよい。図1に示す構成と異なる点は、偏光ビームスプリッタ12の代わりにビームスプリッタ12Aが設けられている点である。また、フォトリフラクティブ素子11に入射される入力画像IP、ポンプ光PL、および制御光CLの偏光がすべて同一に設定される。他の構成については図1に示した構成と同様であるので、ここではその説明を省略する。以上のような平行偏光4波混合光学系によっても、上記と同様の配列変換動作を行うことが可能である。
【0061】
しかしながら、光学システム2を構成する光学系として、交差偏光4波混合光学系を用いる方が、平行偏光4波混合光学系を用いるよりも好ましい。以下にこの理由について説明する。
【0062】
交差偏光4波混合は、結合係数が低いとされる常光線を用いてフォトリフラクティブ素子11内に屈折率格子RLを誘起することになるので、異常光線の回折効率が平行偏光4波混合に比べて低い。詳しく説明すると、回折効率は一般に媒質の結合強度に依存する。結合強度は媒質の相互作用長と結合係数との積で表されるが、この場合は相互作用長が同じであることを想定しているので、結合係数が高い方が回折効率が高いことになる。ここで、結合係数は、異常光線の方が常光線に比べて高いので、結合係数の低い常光線によって屈折率格子を生成する方が、異常光線同士で生成する場合よりも回折効率が低くなる。
【0063】
しかしながら、平行偏光4波混合では、入射光と出力光との偏光が同じであるため、ビームスプリッタ12Aの設置によって制御光CLの入射時における分岐損失、および、回折されてきた入力画像IPの分岐損失が発生することになる。この分岐損失は、ビームスプリッタ12Aに入射する全ての光波が50:50に分岐されることに起因している。これに対して、交差偏光4波混合では、常光線の制御光CLと異常光線の入力画像IPとを用いているため、常光線を反射し、異常光線を透過する偏光ビームスプリッタ12によって損失なく光線を分岐することが可能である。
【0064】
すなわち、交差偏光4波混合光学系を用いる場合、平行偏光4波混合光学系を用いる場合と比較して、結合係数が低いことによって回折効率の低下が生じるが、偏光ビームスプリッタ12による分岐損失は低くなる。ここで、回折効率の低下と分岐損失の低下を比較した場合、実際には分岐損失の低下の効果が大きいので、交差偏光4波混合光学系を用いる方が、平行偏光4波混合光学系用いるよりも光の利用効率が高いことになる。
【0065】
なお、ビームファニング現象を生じさせることが可能なフォトリフラクティブポリマーを用いることが可能である場合には、フォトリフラクティブポリマーに対して相対する面から2本の入射光を互いの位相共役光として返す相互励起型位相共役鏡を用いる方式も考えられる。ビームファニング現象とは、結晶内の不純物や媒質端面での光の散乱によってフォトリフラクティブポリマー内で入射光が扇状に広がる現象である。ただし、この現象を介してから屈折率格子を形成する必要があるので、屈折率格子の生成のために長い時間を要する点が問題となる。
【0066】
(複数の出力画像を出力する構成)
次に、1つの入力画像IPに対して、複数種類の配列変換を行い、それぞれの配列変換に対応した複数の出力画像OPを出力する構成について説明する。図7は、これを実現する構成の概略を示している。同図に示すように、この例における光学システム2は、図1に示す構成を複数設けた構成となっている。なお、図7においては、フォトリフラクティブ素子11が複数設けられている状態のみが示されているが、実際には、各フォトリフラクティブ素子11に対応して偏光ビームスプリッタ12およびプリズム13が設けられている。
【0067】
図1に示す構成では、入力画像IPを図7におけるAで示す光学系によって配列変換を行っているが、Aで示す光学系におけるフォトリフラクティブ素子11において、入力画像IPのうち、偏光ビームスプリッタ12方向へ回折せずに、そのまま透過する光が存在する。図7におけるBで示す光学系は、Aで示す光学系において回折されなかった光を利用して配列変換を行うものとなっている。同様に、Cで示す光学系は、さらにBで示す光学系において回折されなかった光を利用して配列変換を行うものとなっている。
【0068】
ここで、Aで示す光学系、Bで示す光学系、およびCで示す光学系において用いる制御光CLによる行列Cをそれぞれ任意に設定すれば、Aで示す光学系、Bで示す光学系、およびCで示す光学系で出力される出力画像OP1、OP2、およびOP3を、それぞれ任意の配列変換が行われた状態で出力することが可能となる。
【0069】
なお、上記の構成の場合、Aで示す光学系、Bで示す光学系、およびCで示す光学系のそれぞれのフォトリフラクティブ素子11に入射される入力画像IPの光量はそれぞれ異なることになる。例えば、Aで示す光学系への入力時点で光量が100であった入力画像IPは、Aで示す光学系におけるフォトリフラクティブ素子11を透過する際に回折光分の光量が減少するので、Bで示す光学系におけるフォトリフラクティブ素子11に入射する時点では(100−Aでの回折分)の光量となる。したがって、Bで示す光学系での制御光CLの光量を、Aで示す光学系における制御光CLの光量と同じにしていては、最適な回折効率が得られなくなる。よって、各光学系における制御光CLの光量を、各光学系における入力画像IPの入射光量に応じて適宜調整することが好ましい。
【0070】
(実験結果)
次に、図1に示すような、フォトリフラクティブポリマーを用いた交差偏光4波混合光学系によって入力画像が歪みなく回折されることを確認した実験結果について説明する。図8は、その実験系を示す。同図において、M、L、PBS、HWP、およびLMはそれぞれミラー、レンズ、偏光ビームスプリッタ、半波長板、および入力画像生成用光変調素子を示している。また、光の経路を示す線において、破線は常光線、実線は異常光線を示している。
【0071】
本実験で用いるフォトリフラクティブポリマーは、PATPD(tetra-Phenyl-Diphenyldiamine acrylate homopolymer)である。光源には633nmのHe−Neレーザを用いた。レンズL1の焦点距離は500mm、レンズL2、L3の焦点距離は100mmである。
【0072】
ここで、入力画像を高い回折効率で出力画像として得るためには、フォトリフラクティブポリマー内の分子の配向が揃っていることが好ましい。そのために、フォトリフラクティブポリマーに外部電界を加えている。本実験ではフォトリフラクティブポリマーをはさむガラス板に付着している透明電極に90V/mmの外部電界を加えた。また、信号光・ポンプ光は互いに異なる入射面からフォトリフラクティブポリマーの表面に対してともに60度の角度で入射される。制御光はポンプ光側の入射面からフォトリフラクティブポリマー表面に対して15度の角度で入射される。
【0073】
He−Neレーザから出射された光は、PBS1によって異常光線と常光線とに分離される。異常光線は、光変調素子LMを通過することによって入力画像が形成され、信号光としてフォトリフラクティブポリマーに入射する。一方、PBS1によって分離された常光線は、PBS3によって常光線と異常光線とに分離され、常光線は制御光としてフォトリフラクティブポリマーに入射し、異常光線はポンプ光としてフォトリフラクティブポリマーに入射する。フォトリフラクティブポリマーによる回折光は、レンズL2を介してCCD1に照射され、信号光がフォトリフラクティブポリマーを透過した光は、レンズL3を介してCCD2に照射される。すなわち、CCD1による検出画像が、出力画像に相当するものであり、CCD2による検出画像が、入力画像に相当する。
【0074】
なお、ポンプ光(常光線)と制御光(常光線)とによって媒質中に屈折率格子が形成されるが、本実験は回折される画像の質を確認するためのものであるので、制御光にはマスクを与えていない。屈折率格子が形成されたあと、フォトリフラクティブポリマーに信号光として図9に示すような3枚の入力画像を入射させる。
【0075】
入力画像は屈折率格子によって制御光方向に回折される。回折された出力画像を図10に示す。同図に示すように、出力画像はほぼ歪みなく回折されていることがわかる。出力画像の歪みは厚い屈折率格子によって入力画像が回折されたときに起こる。フォトリフラクティブ結晶を用いた場合では消去光を照射することによって屈折率格子が薄く誘起されるようにし、出力画像の歪みを抑制してきた。これに対して、本実施形態の構成のように、薄いフォトリフラクティブポリマーを用いることによって消去光なしにくっきりとした画像を回折することが可能であることが確認された。
【0076】
また、制御光を遮断すると、フォトリフラクティブポリマー内に屈折率格子が誘起されないことになる。そのため、入力画像は回折されず透過した入力画像のみがCCD2において観測された。すなわち、回折画像のON/OFFが制御光によって全光学的に切り替えられることが確認された。
【0077】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る光中継装置は、ボード間光通信などで用いられる光中継装置に適用することが可能である。これはコンピュータの高速化・低発熱化を目的に、CPU、メモリ、ボード間の通信を光におきかえる場合に好適に用いることができる。
【0079】
また、本発明に係る光中継装置は、ホログラフィックメモリ内に多重記録されたページデータの切り替えなどにも利用可能である。ホログラフィックメモリでは、2次元情報としてデータが記録されているので、複数の2次元情報を、1次元(シリアル)に変換することなく、光のままコピー、あるいは、交換することが可能となる。
【0080】
また、光・電気変換の限界速度を超える超高速光通信においては、1本の伝送路に全信号をシリアル変換することは困難であるので、複数の伝送路に並走されるパラレル伝送方式に優位性がある。このようなパラレル伝送路間の信号の切り替えや接続のために本発明に係る光中継装置を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態に係る光中継装置が備える光学システムの概略構成を示す斜視図である。
【図2】上記光中継装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】同図(a)〜同図(c)は、上記光学システムによる配列変換処理の手順を示す図である。
【図4】制御光による出力画像の位置制御の状態を示す図である。
【図5】フォトリフラクティブポリマーによる回折の状態を示す図である。
【図6】平行偏光4波混合光学系によって構成した場合の光学システムの概略を示す斜視図である。
【図7】1つの入力画像に対して、複数種類の配列変換を行い、それぞれの配列変換に対応した複数の出力画像を出力する構成を示す図である。
【図8】フォトリフラクティブポリマーを用いた交差偏光4波混合光学系によって入力画像が歪みなく回折されることを確認した実験の実験系を示す図である。
【図9】実験で用いた入力画像を示す図である。
【図10】実験結果としての出力画像を示す図である。
【図11】従来の光インターコネクションにおける光学系を示す図である。
【図12】同図(a)は、結晶の相互作用長が長い場合に出力画像に歪みが生じた状態を示す図であり、同図(b)は、消去光を照射することによって屈折率格子の厚みを薄くした状態を示す図であり、同図(c)は、消去光の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 光中継装置
2 光学システム
3 光源(光照射手段)
4 光分離素子(光照射手段)
5 光変調素子
6 制御部
7 光入力部
8 光出力部
9 電圧印加部
10 配列変換部
11 フォトリフラクティブ素子
11A・11B・11C・11X フォトリフラクティブポリマー
12 偏光ビームスプリッタ
12A ビームスプリッタ
13 プリズム
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、出力する光中継装置および光中継方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報を光信号として伝送する際の切り替えや接続を行う装置としての光インターコネクションが多種提案されている。この光インターコネクションにおいて、従来、光信号を電気信号に一旦変換してコネクション処理を行い、その後再度光信号に変換する処理が行われるものがある。
【0003】
このような光−電気変換型の光インターコネクションは、光−電気変換によって生じる電磁干渉や発熱などの問題を有している。また、光信号がパラレルで伝送される場合には、光−電気変換型の光インターコネクションは、次のような中継処理を行うことになる。まず、入力された光画像(パラレル信号)が電気信号に変換され、電気信号においてパラレル・シリアル変換が行われる。その後、シリアル電気信号が光信号に変換され、光伝送路に送出される。そして、光伝送路の受信側は、これとは逆の手順を行うことによって、光画像(パラレル信号)を得る。すなわち、光−電気変換型の光インターコネクションは、パラレル−シリアル変換、およびシリアル−パラレル変換が行われることによる処理時間の長大化という問題も有している。
【0004】
以上のような光−電気変換型の光インターコネクションが有する問題を解決する手法の一つとして、フォトリフラクティブ材料を媒質として用いた全光インターコネクションが提案されている。この全光インターコネクションは、1対1だけでなく1対多、多対多接続の制御に光を用いることができるので、任意の接続パターンを全光学的に構築することができる(非特許文献1参照)。
【0005】
通信に光信号を用いることは、光の高速性による高速通信が実現されるだけでなく、同時に光の空間並列性を利用することによる高速通信をも実現することが可能となる。これは、全光インターコネクションが、ピクセルデータからなる2次元画像データのような空間的に並列な光信号をそのまま利用できることを意味する。すなわち、全光インターコネクションが画像を直接操作することによって、これまで膨大な処理時間が必要とされてきた2次元画像データと1次元時系列信号との変換処理が不要となる。その上でこの画像を複数個一括して接続することによって、より高速で大容量の通信が実現できる。
【0006】
従来、空間的に並列な信号および画像を直接接続する全光インターコネクションは、BaTiO3やLiNbO3などの電気光学結晶を用いて、図11に示すような光学系によって実現されている(非特許文献2参照)。この光学系は、フォトリフラクティブ結晶101、偏光ビームスプリッタ102、およびプリズム103を備えている。同図に示す例では、ポンプ光PL、および、屈折率格子RLの誘起を制御する3行3列のマトリックス状の制御光CLはともに常光線であり、入力画像IPおよび出力画像OPはともに異常光線である交差偏光4波混合系が用いられている。まず、以下の3行3列の行列Cで表される制御光CLが偏光ビームスプリッタ102に入射される。
【0007】
【数1】
【0008】
ここで、行列Cの各要素において、0は制御光CLの暗部を示しており、1は制御光CLの明部、つまり制御光CLの照射を示している。制御光CLは常光線であるため、偏光ビームスプリッタ102によってフォトリフラクティブ結晶101方向に反射される。この制御光CLとともにフォトリフラクティブ結晶101に入射されたポンプ光PLによって、フォトリフラクティブ結晶101内にマトリックスパターンに応じた屈折率格子RLが誘起される。この屈折率格子RLはインターコネクションにおける乗算器としての役割を果たす。
【0009】
以上のように誘起された屈折率格子RLに対して、ポンプ光PLと対向伝搬になる方向から、縦1列に並べられた入力画像IPがフォトリフラクティブ結晶101内へ入射すると、入力画像IPは屈折率格子RLによって制御光CLの入射方向(偏光ビームスプリッタ102の方向)に回折される。回折された入力画像IPは異常光線であるため、偏光ビームスプリッタ102を透過する。偏光ビームスプリッタ102を透過した画像光は、さらにプリズム103によって横1列に揃えられ、出力画像OPとして出力される。
【0010】
上記の過程を経ることにより、入力画像IPと出力画像OPとの接続パターンとして、入力部分画像ia−出力部分画像oC、入力部分画像ib−出力部分画像oA、入力部分画像ic−出力部分画像oBが形成され、各入力部分画像と各出力部分画像との1対1接続が実現される。接続パターンの変更は、制御光CLのマトリックス状のパターンを変更することによって任意に実現される。
【非特許文献1】P. Yeh, Introduction to Photorefractive Nonlinear Optics, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1993.
【非特許文献2】T. Kaneda, A. Okamoto, S. Honma, T. Nakada, and K. Sato, “Optical image connector with photorefractive four-wave mixing,” Proc. 2nd International Conference on Optical Design and Fabrication (ODF2000), no.P27, pp.229-232, Tokyo, Japan, Nov. 2000.
【非特許文献3】Symthetic studies of TPD (tetra-phenyl-diphenyldiamine) acrylate based polymers and their composition photorefractive performances, M. Yamamoto,J. K. Cammack, S. Ciccotti, P. Wang, Nitto Denko Technical Co.; J.Thomas, B. Kippelen, G. R. Meredith, S. R. Marder, Univ. of Arizona, Proceedings of SPIE Vol.4991-57, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
屈折率格子が生成される媒質として、BaTiO3に代表されるフォトリフラクティブ結晶を用いた場合、結晶の相互作用長(媒質の厚み)がmmオーダーであるため、媒質内の屈折率格子も同様の厚さで誘起されうることになる。図12(a)に示すように、屈折率格子が厚くなると、それだけ入力画像IPが屈折率格子内を伝搬する距離dが長くなる。屈折率格子内では入力画像IPは制御光CL方向に回折されるため、この伝搬距離dが長いと、屈折率格子において回折された出力画像OPは、同図に示すように水平方向に歪んだ画像となる。
【0012】
出力画像の歪みを改善するためには屈折率格子が相互作用領域内に薄く誘起される必要がある。従来は、図12(b)に示すように、フォトリフラクティブ結晶101の上端から、一様でインコヒーレントな消去光ELを屈折率格子が誘起されうる相互作用領域の大部分に照射する手法が用いられている。ここで、消去光ELは、図12(c)に示すように、大部分が明部であり、その1つの対角線付近に幅の狭い暗部が設けられている光となっている。これにより、フォトリフラクティブ結晶101内に、幅dの狭い屈折率格子が残ることになる。このような状態にすれば、入力画像IPが屈折率格子内を伝搬する距離dが短くなるので、出力画像OPにおける水平方向への歪みを抑制することができる。
【0013】
しかしながら、この手法を用いる場合、フォトリフラクティブ結晶上端から消去光を照射するための構成を設けることによる光学系の大型化や、各相互作用領域に対して同様の制御を行うことによる光学系の複雑化を招く。また、消去光の照射によって屈折率格子の相互作用長が短くなるため、回折効率の低下も懸念される。さらに、結晶の相互作用長がmmオーダーであるフォトリフラクティブ結晶は基本的に高価であり、装置コストの上昇を招くという問題もある。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、フォトリフラクティブ素子において回折された画像に歪みを生じさせることなく、従来必要であった消去光の照射に必要な光学系の構成を不要とすることができる光中継装置および光中継方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る光中継装置は、上記課題を解決するために、光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力する光中継装置であって、複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子と、上記各フォトリフラクティブ基板に屈折率格子を形成するための光を照射する光照射手段とを備え、上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するとともに、上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力することを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る光中継方法は、複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子を備え、光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力する光中継装置における光中継方法において、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するステップと、上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力するステップとを有することを特徴としている。
【0017】
上記の構成または方法では、まずフォトリフラクティブ素子が、複数のフォトリフラクティブ基板によって構成されている。各フォトリフラクティブ基板には光照射手段によって光が照射され、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子が形成される。また、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なっている。すなわち、入力された複数の光信号は、それぞれ対応するフォトリフラクティブ基板に形成された屈折率格子において回折して出力されることになる。したがって、各フォトリフラクティブ基板における屈折率格子の形成位置に応じて、光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力することが可能となる。
【0018】
また、従来のフォトリフラクティブ結晶を用いた構成の場合、出力光における画像の歪みを抑制するために、消去光をフォトリフラクティブ結晶に照射することによって屈折率格子の相互作用長を短くする必要があったが、上記本発明の構成または方法によれば、このような処理を行う必要がなくなる。これは、各フォトリフラクティブ基板は、1つの光信号に対応する屈折率格子が形成されればよいので、フォトリフラクティブ基板自体の厚みを薄くすることによって、屈折率格子の相互作用長を短くすることができるからである。すなわち、従来必要であった消去光の照射に必要な光学系の構成を不要とすることができるので、装置コストの低減、装置構成の簡素化、装置サイズの小型化を図ることができる。
【0019】
なお、空間的に並列に伝送される複数の光信号とは、空間的に独立な強度情報・位相情報を有する信号チャネルを2次元に並べたものであればよい。このような光信号とは、2次元画像や、独立した光通信チャネルを複数束ねた光信号などが挙げられる。例えば、光信号が2次元画像である場合、該2次元画像をピクセルの集合と考えることで、画像の1ピクセルがそれぞれ独立した通信チャネルとみなすことができる。逆に言えば、独立したチャネルの集合体が2次元画像をなしていると考えることも可能である。独立した光通信チャネルを複数束ねた光信号とは、例えばファイバ通信の場合でいえば、複数のファイバを束ねて用いる場合に相当する。
【0020】
また、本発明に係る光中継装置は、上記の構成において、上記フォトリフラクティブ基板が、有機材料であるフォトリフラクティブポリマーによって構成されている構成としてもよい。
【0021】
上記の構成では、フォトリフラクティブ基板がフォトリフラクティブポリマーによって構成されている。フォトリフラクティブポリマーの特性としては、単位長さあたりの利得が大きいため(高感度)、無機材料であるフォトリフラクティブ結晶を用いるよりも小さな相互作用長で、フォトリフラクティブ結晶と同等の回折効率を得ることができる。したがって、上記の構成によれば、フォトリフラクティブ結晶を用いる場合と比べて、装置サイズをさらに小型化することが可能となる。
【0022】
また、フォトリフラクティブポリマーは、典型的な無機フォトリフラクティブ結晶に比べて、媒質の時定数が小さいという特性を有している。よって、上記の構成によれば、屈折率格子の立ち上げを迅速に行うことが可能となるので、高速に配列変換を切り替えることが可能となる。
【0023】
また、フォトリフラクティブポリマーは、有機化学合成によって生成されるため、結晶の成長によって生成されるフォトリフラクティブ結晶に比べてコストが著しく安価であるというメリットもある。さらに、フォトリフラクティブポリマーは、フォトリフラクティブ結晶と比較して、複雑な形状に成形することも容易であるというメリットもある。
【0024】
また、本発明に係る光中継装置は、上記の構成において、上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、ポンプ光を照射するとともに、屈折率格子を形成する部分にのみ光を照射するための光変調素子から出射された制御光を照射するものである構成としてもよい。
【0025】
上記の構成によれば、偏光4波混合光学系によって屈折率格子の形成および回折による配列変換が実現されることになる。よって、短時間で屈折率格子を形成することが可能となるので、高速な配列変換切り替えを行うことが可能となる。
【0026】
また、光変調素子によって屈折率格子を形成する箇所を変更することができるので、光変調素子における光出射領域を切り替える制御を行うことによって、任意の位置に屈折率格子を形成することが可能となる。よって、配列変換も容易に行うことができる。
【0027】
また、本発明に係る光中継装置は、上記の構成において、上記制御光を反射して上記フォトリフラクティブ基板に対して照射するとともに、上記フォトリフラクティブ基板からの回折光を透過して上記光出力部に伝送する偏光ビームスプリッタを備え、上記ポンプ光および制御光を常光線とし、入力される光信号および出力される光信号を異常光線とする構成としてもよい。
【0028】
上記の構成によれば、交差偏光4波混合光学系によって屈折率格子の形成および回折による配列変換が実現されることになる。交差偏光4波混合を採用した場合、平行偏光4波混合を採用した場合と比較して、次のようなメリットがある。平行偏光4波混合では、入射光と出力光との偏光が同じであるため、ビームスプリッタの設置によって制御光の入射時における分岐損失、および、回折されてきた光信号の分岐損失が発生することになる。この分岐損失は、ビームスプリッタに入射する全ての光波が50:50に分岐されることに起因している。これに対して、交差偏光4波混合では、常光線の制御光と異常光線の回折光とが偏光ビームスプリッタに入射するため、常光線を反射し、異常光線を透過する偏光ビームスプリッタによって損失なく光線を分岐することが可能となる。
【0029】
また、本発明に係る光中継装置は、上記の構成において、上記フォトリフラクティブ素子をn個(nは2以上の整数)備えるとともに、各フォトリフラクティブ素子に対応して上記光照射手段を備え、入力された光信号が、n−1個のフォトリフラクティブ素子を順次透過し、各フォトリフラクティブ素子において回折された光信号が上記光出力部から出力される構成としてもよい。
【0030】
フォトリフラクティブ素子に入射される光信号は、基本的には屈折率格子によって回折されることになるが、回折せずにそのままフォトリフラクティブ素子を透過する光も存在する。上記の構成では、この透過光を利用して、次のフォトリフラクティブ素子への入射光信号とするようになっている。ここで、各フォトリフラクティブ素子において、それぞれ異なる配列変換が行われるように光照射手段による光の照射が行われれば、各フォトリフラクティブ素子によって出力される出力光信号を、それぞれ任意の配列変換が行われた状態とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る光中継装置は、以上のように、複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子と、上記各フォトリフラクティブ基板に屈折率格子を形成するための光を照射する光照射手段とを備え、上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するとともに、上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力する構成である。
【0032】
また、本発明に係る光中継方法は、以上のように、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するステップと、上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力するステップとを有する方法である。
【0033】
これにより、回折された画像に歪みを生じさせることなく、従来必要であった消去光の照射に必要な光学系の構成を不要とすることができるので、装置コストの低減、装置構成の簡素化、装置サイズの小型化を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りである。本実施形態に係る光中継装置は、空間的に並列に伝送される信号や画像信号の配列を変換して出力する光インターコネクション機能を有する装置である。
【0035】
(光中継装置の構成)
図2は、本実施形態に係る光中継装置1の概略構成を示している。同図に示すように、光中継装置1は、配列変換部10、光入力部7、および光出力部8を備えた構成となっている。光入力部7は、空間的に並列に伝送される信号や画像信号を光伝送路から入力し、配列変換部10に伝送する。配列変換部10は、光入力部7から入力された空間的に並列に伝送される信号や画像信号(以降、入力画像IPと称する)の配列を変換し、出力画像OPを光出力部8に伝送する。なお、入力画像IPの配列変換処理とは、入力画像IPに含まれる複数の部分画像の配列順番を変換する処理を示している。光出力部8は、配列変換部10から伝送された出力画像OPを、光伝送路に対して出力する。
【0036】
配列変換部10は、光学システム2、光源(光照射手段)3、光分離素子(光照射手段)4、光変調素子5、制御部6、および電圧印加部9を備えた構成となっている。光源3は、光学システム2において用いられる光を供給する光源である。この光源3は、例えばレーザ光源によって構成される。レーザ光源としては、例えばHe−Neレーザ、アルゴンイオンレーザ、および半導体レーザなどが挙げられる。
【0037】
光分離素子4は、光源3から出射された光を分離し、一方をポンプ光PL(詳細は後述する)として光学システム2に伝送し、他方を制御光CL(詳細は後述する)の元となる光として光変調素子5に伝送する。この光分離素子4は、例えばミラーやビームスプリッタなどによって構成される。なお、本実施形態では、光学システム2で用いられる光の光源を1つとし、光分離素子4によってポンプ光PLおよび制御光CLに分離する構成となっているが、ポンプ光PL用光源、および制御光CL用光源をそれぞれ独立して設ける構成としてもよい。
【0038】
光変調素子5は、光分離素子4から送られた光に対して各領域毎に光の伝送/非伝送を制御することによって制御光CLを生成し、光学システム2に伝送する。すなわち、光変調素子5は、受光領域を複数の領域に分割し、各領域における光の伝送/非伝送を制御することが可能となっている。この光変調素子5としては、例えば液晶シャッタやPLZTなどが用いられる。なお、光変調素子5は、光の透過/遮断を制御することによって光の伝送/非伝送を制御するものであってもよいし、光の反射/非反射を制御することによって光の伝送/非伝送を制御するものであってもよい。
【0039】
制御部6は、光変調素子5の各領域における光の伝送/非伝送制御を行う。この各領域における光の伝送/非伝送制御は、外部からの指示入力に基づいて行われる。言い換えれば、外部から制御部6に対して指示入力を行うことによって、制御光CLの状態を変化させ、配列変換処理を変更することが可能となっている。
【0040】
光学システム2は、入力画像IPを光学的に処理することによって配列変換を行い、出力画像OPを生成するものであり、フォトリフラクティブ素子11、偏光ビームスプリッタ12、およびプリズム13を備えている。なお、この光学システム2の詳細については後述する。
【0041】
電圧印加部9は、フォトリフラクティブ素子11に対して電圧を印加するものであり、これにより、フォトリフラクティブ素子11内の分子の配向を揃えることが可能となる。
【0042】
(光学システムの構成)
次に、光学システム2の構成について図1を参照しながら説明する。同図に示す例では、3つの部分画像ia・ib・icからなる入力画像IPに対して、各部分画像の配列変換を行い、3つの部分画像oa・ob・ocからなる出力画像OPを出力する構成となっている。言い換えれば、3チャネルの入力信号の配列変換を行って3チャネルの出力信号を生成する構成となっている。なお、配列変換の対象となる部分画像またはチャネルの数は、3つに限定されるものではなく、2以上の任意の数とすることが可能である。
【0043】
この例では、フォトリフラクティブ素子11は、第1〜第3のフォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cが多層化された構成となっている。なお、配列変換の対象となる部分画像またはチャネルの数がn(2以上の整数)の場合には、フォトリフラクティブ素子11は、n層のフォトリフラクティブポリマーが多層化された構成となる。
【0044】
フォトリフラクティブ素子11は、光分離素子4(図1においては図示せず)からのポンプ光PL、偏光ビームスプリッタ12からの制御光CL、および、光入力部7(図1においては図示せず)からの入力画像IPを受け、出力画像OPを偏光ビームスプリッタ12に向けて出射する。また、偏光ビームスプリッタ12は、光変調素子5(図1においては図示せず)から制御光CLを受け、この制御光CLをフォトリフラクティブ素子11に対して出射するとともに、フォトリフラクティブ素子11から出力画像OPを受け、この出力画像OPをプリズム13に対して出射する。プリズム13は、偏光ビームスプリッタ12から出力画像OPを受け、この出力画像OPを光出力部8(図1においては図示せず)に対して出射する。
【0045】
また、ポンプ光PLおよび制御光CLは常光線となっており、入力画像IPおよび出力画像OPは異常光線となっている。以上のような構成により、光学システム2は、交差偏光4波混合光学系となっている。
【0046】
(配列変換処理)
次に、図3(a)〜図3(c)を参照しながら、光学システム2による配列変換処理の手順について説明する。まず、図3(a)を参照しながら、フォトリフラクティブ素子11に屈折率格子RLが生成される様子について説明する。前記した数1と同じ3行3列の行列Cで表される制御光CLが偏光ビームスプリッタ12に入射される。制御光CLは常光線であるため、偏光ビームスプリッタ12によってフォトリフラクティブ素子11方向に反射される。そしてポンプ光PLと制御光CLとがフォトリフラクティブ素子11に入射する。
【0047】
フォトリフラクティブ素子11では、第1のフォトリフラクティブポリマー11Aにおいて制御光CLのA列に対応する屈折率格子RLが形成され、第2のフォトリフラクティブポリマー11Bにおいて制御光CLのB列に対応する屈折率格子RLが形成され、第3のフォトリフラクティブポリマー11Cにおいて制御光CLのC列に対応する屈折率格子RLが形成される。これは以下の作用によるものである。
【0048】
例えば制御光のA列が各フォトリフラクティブポリマーを通過する際に、ポンプ光PLと重なる領域は第1のフォトリフラクティブポリマー11Aの領域のみとなるので、制御光のA列に関しては第1のフォトリフラクティブポリマー11Aのみに屈折率格子RLが形成される。同様にして、制御光のB列に関しては第2のフォトリフラクティブポリマー11Bのみに屈折率格子RLが形成され、制御光のC列に関しては第3のフォトリフラクティブポリマー11Cのみに屈折率格子RLが形成される。すなわち、このような状態が実現されるように、各フォトリフラクティブポリマーの配置位置、ポンプ光PLの入射角度および光領域の幅、制御光CLの入射角度および各列の幅が精確に調整されていることになる。
【0049】
以上のようにフォトリフラクティブ素子11内に屈折率格子RLが形成された後に、図3(b)に示すように、入力画像IPがフォトリフラクティブ素子11に対してポンプ光PLと対向伝搬するように照射される。すると、入力部分画像iaはポンプ光PLとC列の制御光CLとで誘起された屈折率格子RLによって4波混合が生じ、制御光CLの入射方向(偏光ビームスプリッタ12の方向)に回折される。同様に入力部分画像ib・icはポンプ光PLと、A・B列の制御光CLとで誘起された屈折率格子RLによって偏光ビームスプリッタ12の方向に回折される。回折された各入力部分画像は異常光線であるため、図3(b)のように偏光ビームスプリッタ12を透過する。偏光ビームスプリッタ12を透過した各回折画像は高さがそれぞれ違うため、プリズム13によって同じ高さに揃えられる。これによって入力画像IPにおける各入力部分画像と、出力画像OPにおける各出力部分画像との1対1接続が実現される。
【0050】
また、配列変換のパターンを変更する際には、図3(c)に示すように、制御光CLにおける行列Cを変更すればよい。このように、制御光CLにおける行列Cを変更することによって、入力画像IPにおける各入力部分画像の配列はそのままで、出力画像OPにおける各出力部分画像の配列を変更することができる。
【0051】
(制御光による出力画像の位置制御の詳細)
図4は、制御光CLによる出力画像OPの位置制御の状態を示している。この図では、3枚に並べられたフォトリフラクティブポリマー11A・11B・11Cに入射された1枚の入力部分画像iaが、2枚目のフォトリフラクティブポリマー11B内で誘起された屈折率格子RLによって回折され出力されている。制御光CLによる行列Cのパターンは任意に変更できるため、屈折率格子RLは任意のフォトリフラクティブポリマー内で誘起させることが可能である。屈折率格子RLが誘起される位置によって得られる出力部分画像の位置は変化する。したがって、制御光CLによる行列Cのパターンによって出力部分画像の位置を制御することが可能となることがわかる。
【0052】
図4に示す例では、入力部分画像3枚を縦1列に並べ、3行3列のマトリックスパターンで与えられる制御光CLを用いることによって、縦に配列された入力部分画像の配列(順番)を並べ替えて、3枚横1列の出力部分画像を出力する全光インターコネクションが実現される。
【0053】
(フォトリフラクティブポリマーによる回折)
次に、フォトリフラクティブポリマーによる回折作用について図5を参照しながら説明する。フォトリフラクティブポリマー11Xは、媒質自体の厚さ(相互作用長)dが10μmオーダーとなっている。よって、フォトリフラクティブポリマー11X内に誘起される屈折率格子RLも10μmオーダーの薄いものとなる。そのため、入力画像IPは歪みなく回折され、出力画像OPにおける水平方向への歪みは生じない。
【0054】
また、フォトリフラクティブポリマーはフォトリフラクティブ結晶に比べて高い結合係数を有している。具体的には、フォトリフラクティブポリマーは最大で13000(1/m)程度の結合係数を有しているが(例えば非特許文献3参照)、フォトリフラクティブ結晶(BaTiO3)は異常光線でおおよそ1700(1/m)前後の結合係数を有している。よって、フォトリフラクティブポリマーは、相互作用長が短くても、フォトリフラクティブ結晶と同等もしくはそれ以上の効率で入力画像を回折することができる。以下に、このことについてより詳細に説明する。
【0055】
フォトリフラクティブポリマーは有機材料である一方、フォトリフラクティブ結晶は無機材料である。フォトリフラクティブポリマーの特性としては、単位長さあたりの利得が大きいため(高感度)、無機材料であるフォトリフラクティブ結晶を用いるよりも小さな相互作用長で、フォトリフラクティブ結晶と同等の回折効率を得ることができる。具体的には、フォトリフラクティブポリマーは、フォトリフラクティブ結晶の1/10程度の相互作用長で同等な性能を得ることができる。したがって、フォトリフラクティブポリマーを用いる構成によれば、フォトリフラクティブ結晶を用いる場合と比べて、光学システム2をよりコンパクトに構成することが可能となる。
【0056】
なお、回折効率は、結合係数と相互作用長との積で表される結合強度に依存するものである。すなわち、入力画像を回折させるにはある程度の結合強度が必要なため、相互作用長が薄いときは結合係数がより高い媒質を用いる必要がある。一般的には厚いフォトリフラクティブポリマーを用いれば回折効率は大きくなる。しかしながら、フォトリフラクティブポリマーを厚くしすぎると吸収損失も大きくなり、透過する光が弱くなるので、フォトリフラクティブポリマーの相互作用長としては10〜100μmであることが望ましい。ただし、実際には、フォトリフラクティブポリマーの作成上の制約や用いる波長などに応じて、フォトリフラクティブポリマーの相互作用長を設定する必要がある。
【0057】
また、フォトリフラクティブポリマーは、典型的な無機フォトリフラクティブ結晶に比べて、媒質の時定数が小さいという特性を有している。ここでいう時定数とは、応答速度のことであり、具体的には、媒質内に誘起される屈折率格子の立ち上がり時間を想定している。無機フォトリフラクティブ結晶の場合では立ち上がり時間は秒オーダーである一方、フォトリフラクティブポリマーの場合では数ミリ秒〜数10ミリ秒のオーダーとなる(非特許文献3参照)。よって、フォトリフラクティブポリマーを用いれば、屈折率格子の立ち上げを迅速に行うことが可能となるので、高速に配列変換を切り替えることが可能となり、動画データの中継なども可能とすることが期待できる。
【0058】
また、フォトリフラクティブポリマーは、フォトリフラクティブ結晶に比べてコストが著しく安価であるというメリットもある。詳しく説明すると、フォトリフラクティブ結晶は、例えばBaTiO3結晶の場合、5mm角くらいの大きさまで成長させるのに時間がかかるため、非常に高価である一方、フォトリフラクティブポリマーは、有機化学合成によって生成されるため、材料コストは著しく安価である。
【0059】
さらに、フォトリフラクティブ結晶は、上記のように困難な成長プロセスを経て形成されるため、コストがかかるだけでなく、加工性も良くない。よって、材料選択の自由度が限られている。これに対し、有機フォトリフラクティブポリマーは安価で、複雑な形状に成形することも容易である。また、フォトリフラクティブポリマーに代表される有機媒質では、現在でも新物質が次々と発見され,合成手法の進歩により新分子構造をもつ物質が数多く合成されるなど,材料選択の自由度は極めて高いというメリットもある。
【0060】
(光学システムの別の構成例)
次に、光学システム2の別の構成例について説明する。図1に示した構成では、光学システム2は交差偏光4波混合光学系となっているが、図6に示すように、平行偏光4波混合光学系による構成としてもよい。図1に示す構成と異なる点は、偏光ビームスプリッタ12の代わりにビームスプリッタ12Aが設けられている点である。また、フォトリフラクティブ素子11に入射される入力画像IP、ポンプ光PL、および制御光CLの偏光がすべて同一に設定される。他の構成については図1に示した構成と同様であるので、ここではその説明を省略する。以上のような平行偏光4波混合光学系によっても、上記と同様の配列変換動作を行うことが可能である。
【0061】
しかしながら、光学システム2を構成する光学系として、交差偏光4波混合光学系を用いる方が、平行偏光4波混合光学系を用いるよりも好ましい。以下にこの理由について説明する。
【0062】
交差偏光4波混合は、結合係数が低いとされる常光線を用いてフォトリフラクティブ素子11内に屈折率格子RLを誘起することになるので、異常光線の回折効率が平行偏光4波混合に比べて低い。詳しく説明すると、回折効率は一般に媒質の結合強度に依存する。結合強度は媒質の相互作用長と結合係数との積で表されるが、この場合は相互作用長が同じであることを想定しているので、結合係数が高い方が回折効率が高いことになる。ここで、結合係数は、異常光線の方が常光線に比べて高いので、結合係数の低い常光線によって屈折率格子を生成する方が、異常光線同士で生成する場合よりも回折効率が低くなる。
【0063】
しかしながら、平行偏光4波混合では、入射光と出力光との偏光が同じであるため、ビームスプリッタ12Aの設置によって制御光CLの入射時における分岐損失、および、回折されてきた入力画像IPの分岐損失が発生することになる。この分岐損失は、ビームスプリッタ12Aに入射する全ての光波が50:50に分岐されることに起因している。これに対して、交差偏光4波混合では、常光線の制御光CLと異常光線の入力画像IPとを用いているため、常光線を反射し、異常光線を透過する偏光ビームスプリッタ12によって損失なく光線を分岐することが可能である。
【0064】
すなわち、交差偏光4波混合光学系を用いる場合、平行偏光4波混合光学系を用いる場合と比較して、結合係数が低いことによって回折効率の低下が生じるが、偏光ビームスプリッタ12による分岐損失は低くなる。ここで、回折効率の低下と分岐損失の低下を比較した場合、実際には分岐損失の低下の効果が大きいので、交差偏光4波混合光学系を用いる方が、平行偏光4波混合光学系用いるよりも光の利用効率が高いことになる。
【0065】
なお、ビームファニング現象を生じさせることが可能なフォトリフラクティブポリマーを用いることが可能である場合には、フォトリフラクティブポリマーに対して相対する面から2本の入射光を互いの位相共役光として返す相互励起型位相共役鏡を用いる方式も考えられる。ビームファニング現象とは、結晶内の不純物や媒質端面での光の散乱によってフォトリフラクティブポリマー内で入射光が扇状に広がる現象である。ただし、この現象を介してから屈折率格子を形成する必要があるので、屈折率格子の生成のために長い時間を要する点が問題となる。
【0066】
(複数の出力画像を出力する構成)
次に、1つの入力画像IPに対して、複数種類の配列変換を行い、それぞれの配列変換に対応した複数の出力画像OPを出力する構成について説明する。図7は、これを実現する構成の概略を示している。同図に示すように、この例における光学システム2は、図1に示す構成を複数設けた構成となっている。なお、図7においては、フォトリフラクティブ素子11が複数設けられている状態のみが示されているが、実際には、各フォトリフラクティブ素子11に対応して偏光ビームスプリッタ12およびプリズム13が設けられている。
【0067】
図1に示す構成では、入力画像IPを図7におけるAで示す光学系によって配列変換を行っているが、Aで示す光学系におけるフォトリフラクティブ素子11において、入力画像IPのうち、偏光ビームスプリッタ12方向へ回折せずに、そのまま透過する光が存在する。図7におけるBで示す光学系は、Aで示す光学系において回折されなかった光を利用して配列変換を行うものとなっている。同様に、Cで示す光学系は、さらにBで示す光学系において回折されなかった光を利用して配列変換を行うものとなっている。
【0068】
ここで、Aで示す光学系、Bで示す光学系、およびCで示す光学系において用いる制御光CLによる行列Cをそれぞれ任意に設定すれば、Aで示す光学系、Bで示す光学系、およびCで示す光学系で出力される出力画像OP1、OP2、およびOP3を、それぞれ任意の配列変換が行われた状態で出力することが可能となる。
【0069】
なお、上記の構成の場合、Aで示す光学系、Bで示す光学系、およびCで示す光学系のそれぞれのフォトリフラクティブ素子11に入射される入力画像IPの光量はそれぞれ異なることになる。例えば、Aで示す光学系への入力時点で光量が100であった入力画像IPは、Aで示す光学系におけるフォトリフラクティブ素子11を透過する際に回折光分の光量が減少するので、Bで示す光学系におけるフォトリフラクティブ素子11に入射する時点では(100−Aでの回折分)の光量となる。したがって、Bで示す光学系での制御光CLの光量を、Aで示す光学系における制御光CLの光量と同じにしていては、最適な回折効率が得られなくなる。よって、各光学系における制御光CLの光量を、各光学系における入力画像IPの入射光量に応じて適宜調整することが好ましい。
【0070】
(実験結果)
次に、図1に示すような、フォトリフラクティブポリマーを用いた交差偏光4波混合光学系によって入力画像が歪みなく回折されることを確認した実験結果について説明する。図8は、その実験系を示す。同図において、M、L、PBS、HWP、およびLMはそれぞれミラー、レンズ、偏光ビームスプリッタ、半波長板、および入力画像生成用光変調素子を示している。また、光の経路を示す線において、破線は常光線、実線は異常光線を示している。
【0071】
本実験で用いるフォトリフラクティブポリマーは、PATPD(tetra-Phenyl-Diphenyldiamine acrylate homopolymer)である。光源には633nmのHe−Neレーザを用いた。レンズL1の焦点距離は500mm、レンズL2、L3の焦点距離は100mmである。
【0072】
ここで、入力画像を高い回折効率で出力画像として得るためには、フォトリフラクティブポリマー内の分子の配向が揃っていることが好ましい。そのために、フォトリフラクティブポリマーに外部電界を加えている。本実験ではフォトリフラクティブポリマーをはさむガラス板に付着している透明電極に90V/mmの外部電界を加えた。また、信号光・ポンプ光は互いに異なる入射面からフォトリフラクティブポリマーの表面に対してともに60度の角度で入射される。制御光はポンプ光側の入射面からフォトリフラクティブポリマー表面に対して15度の角度で入射される。
【0073】
He−Neレーザから出射された光は、PBS1によって異常光線と常光線とに分離される。異常光線は、光変調素子LMを通過することによって入力画像が形成され、信号光としてフォトリフラクティブポリマーに入射する。一方、PBS1によって分離された常光線は、PBS3によって常光線と異常光線とに分離され、常光線は制御光としてフォトリフラクティブポリマーに入射し、異常光線はポンプ光としてフォトリフラクティブポリマーに入射する。フォトリフラクティブポリマーによる回折光は、レンズL2を介してCCD1に照射され、信号光がフォトリフラクティブポリマーを透過した光は、レンズL3を介してCCD2に照射される。すなわち、CCD1による検出画像が、出力画像に相当するものであり、CCD2による検出画像が、入力画像に相当する。
【0074】
なお、ポンプ光(常光線)と制御光(常光線)とによって媒質中に屈折率格子が形成されるが、本実験は回折される画像の質を確認するためのものであるので、制御光にはマスクを与えていない。屈折率格子が形成されたあと、フォトリフラクティブポリマーに信号光として図9に示すような3枚の入力画像を入射させる。
【0075】
入力画像は屈折率格子によって制御光方向に回折される。回折された出力画像を図10に示す。同図に示すように、出力画像はほぼ歪みなく回折されていることがわかる。出力画像の歪みは厚い屈折率格子によって入力画像が回折されたときに起こる。フォトリフラクティブ結晶を用いた場合では消去光を照射することによって屈折率格子が薄く誘起されるようにし、出力画像の歪みを抑制してきた。これに対して、本実施形態の構成のように、薄いフォトリフラクティブポリマーを用いることによって消去光なしにくっきりとした画像を回折することが可能であることが確認された。
【0076】
また、制御光を遮断すると、フォトリフラクティブポリマー内に屈折率格子が誘起されないことになる。そのため、入力画像は回折されず透過した入力画像のみがCCD2において観測された。すなわち、回折画像のON/OFFが制御光によって全光学的に切り替えられることが確認された。
【0077】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る光中継装置は、ボード間光通信などで用いられる光中継装置に適用することが可能である。これはコンピュータの高速化・低発熱化を目的に、CPU、メモリ、ボード間の通信を光におきかえる場合に好適に用いることができる。
【0079】
また、本発明に係る光中継装置は、ホログラフィックメモリ内に多重記録されたページデータの切り替えなどにも利用可能である。ホログラフィックメモリでは、2次元情報としてデータが記録されているので、複数の2次元情報を、1次元(シリアル)に変換することなく、光のままコピー、あるいは、交換することが可能となる。
【0080】
また、光・電気変換の限界速度を超える超高速光通信においては、1本の伝送路に全信号をシリアル変換することは困難であるので、複数の伝送路に並走されるパラレル伝送方式に優位性がある。このようなパラレル伝送路間の信号の切り替えや接続のために本発明に係る光中継装置を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態に係る光中継装置が備える光学システムの概略構成を示す斜視図である。
【図2】上記光中継装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】同図(a)〜同図(c)は、上記光学システムによる配列変換処理の手順を示す図である。
【図4】制御光による出力画像の位置制御の状態を示す図である。
【図5】フォトリフラクティブポリマーによる回折の状態を示す図である。
【図6】平行偏光4波混合光学系によって構成した場合の光学システムの概略を示す斜視図である。
【図7】1つの入力画像に対して、複数種類の配列変換を行い、それぞれの配列変換に対応した複数の出力画像を出力する構成を示す図である。
【図8】フォトリフラクティブポリマーを用いた交差偏光4波混合光学系によって入力画像が歪みなく回折されることを確認した実験の実験系を示す図である。
【図9】実験で用いた入力画像を示す図である。
【図10】実験結果としての出力画像を示す図である。
【図11】従来の光インターコネクションにおける光学系を示す図である。
【図12】同図(a)は、結晶の相互作用長が長い場合に出力画像に歪みが生じた状態を示す図であり、同図(b)は、消去光を照射することによって屈折率格子の厚みを薄くした状態を示す図であり、同図(c)は、消去光の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 光中継装置
2 光学システム
3 光源(光照射手段)
4 光分離素子(光照射手段)
5 光変調素子
6 制御部
7 光入力部
8 光出力部
9 電圧印加部
10 配列変換部
11 フォトリフラクティブ素子
11A・11B・11C・11X フォトリフラクティブポリマー
12 偏光ビームスプリッタ
12A ビームスプリッタ
13 プリズム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力する光中継装置であって、
複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子と、
上記各フォトリフラクティブ基板に屈折率格子を形成するための光を照射する光照射手段とを備え、
上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するとともに、
上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力することを特徴とする光中継装置。
【請求項2】
上記フォトリフラクティブ基板が、有機材料であるフォトリフラクティブポリマーによって構成されていることを特徴とする請求項1記載の光中継装置。
【請求項3】
上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、ポンプ光を照射するとともに、屈折率格子を形成する部分にのみ光を照射するための光変調素子から出射された制御光を照射するものであることを特徴とする請求項1記載の光中継装置。
【請求項4】
上記制御光を反射して上記フォトリフラクティブ基板に対して照射するとともに、上記フォトリフラクティブ基板からの回折光を透過して上記光出力部に伝送する偏光ビームスプリッタを備え、
上記ポンプ光および制御光を常光線とし、入力される光信号および出力される光信号を異常光線とすることを特徴とする請求項3記載の光中継装置。
【請求項5】
上記フォトリフラクティブ素子をn個(nは2以上の整数)備えるとともに、各フォトリフラクティブ素子に対応して上記光照射手段を備え、
入力された光信号が、n−1個のフォトリフラクティブ素子を順次透過し、各フォトリフラクティブ素子において回折された光信号が上記光出力部から出力されることを特徴とする請求項1記載の光中継装置。
【請求項6】
複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子を備え、光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力する光中継装置における光中継方法において、
上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するステップと、
上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力するステップとを有することを特徴とする光中継方法。
【請求項1】
光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力する光中継装置であって、
複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子と、
上記各フォトリフラクティブ基板に屈折率格子を形成するための光を照射する光照射手段とを備え、
上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するとともに、
上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力することを特徴とする光中継装置。
【請求項2】
上記フォトリフラクティブ基板が、有機材料であるフォトリフラクティブポリマーによって構成されていることを特徴とする請求項1記載の光中継装置。
【請求項3】
上記光照射手段が、上記各フォトリフラクティブ基板に対して、ポンプ光を照射するとともに、屈折率格子を形成する部分にのみ光を照射するための光変調素子から出射された制御光を照射するものであることを特徴とする請求項1記載の光中継装置。
【請求項4】
上記制御光を反射して上記フォトリフラクティブ基板に対して照射するとともに、上記フォトリフラクティブ基板からの回折光を透過して上記光出力部に伝送する偏光ビームスプリッタを備え、
上記ポンプ光および制御光を常光線とし、入力される光信号および出力される光信号を異常光線とすることを特徴とする請求項3記載の光中継装置。
【請求項5】
上記フォトリフラクティブ素子をn個(nは2以上の整数)備えるとともに、各フォトリフラクティブ素子に対応して上記光照射手段を備え、
入力された光信号が、n−1個のフォトリフラクティブ素子を順次透過し、各フォトリフラクティブ素子において回折された光信号が上記光出力部から出力されることを特徴とする請求項1記載の光中継装置。
【請求項6】
複数のフォトリフラクティブ基板からなるフォトリフラクティブ素子を備え、光入力部から入力された、空間的に並列に伝送される複数の光信号の空間的な配列を変更し、光出力部から出力する光中継装置における光中継方法において、
上記各フォトリフラクティブ基板に対して、入力された上記複数の光信号のうち、いずれか1つの光信号が照射される位置にのみ屈折率格子を形成するとともに、各フォトリフラクティブ基板に対応する光信号がそれぞれ互いに異なるように光を照射するステップと、
上記屈折率格子によって回折された上記各光信号を上記光出力部から出力するステップとを有することを特徴とする光中継方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−308972(P2006−308972A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133199(P2005−133199)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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