説明

光伝送装置、光伝送システム、波長分散量算出方法及び分散補償方法

【課題】 伝送路を構成する光ファイバの種類の混在率を考慮して伝送路の波長分散量を適切な範囲で算出することを目的とする。
【解決手段】 伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と、伝送路の距離とを用いて、伝送路を構成する光ファイバの種別の混在率の取り得る範囲を算出する手段を備える。また、伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と、伝送路の距離と、混在率を用いて波長分散量の取り得る範囲を算出する手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバケーブルの特性による信号品質劣化を補償する光伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
WDM(Wavelength Division Multiplex)方式は、複数の異なる波長の光信号を1本の光ファイバ上に多重して伝送する方式である。同方式における個々の波長の伝送フォーマット、多重化形式、監視内容はITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)勧告であるG.709 "Interfaces for the Optical Transport Network"に定められている。また、伝送装置間の接続に用いられる光ファイバーケーブルには、ITU−T勧告G.653 "Characteristics of a single-mode optical fiber and cable"で規定されるSMF(Single Mode Fiber)ケーブルやG.653" Characteristics of a dispersion-shifted single mode optical fiber and cable"で規定されるDSF(Dispersion Sifted Fiber)ケーブルが通常用いられている。
【0003】
しかし、これら光ファイバケーブルには、波長分散係数(Chromatic dispersion coefficient)、減衰係数(attenuation coefficient)、PMD係数(Polarization mode dispersion coefficient)などの、ファイバあるいはケーブルに対する固有の特性によって、光信号の劣化が生じる。WDM方式によって、高速光伝送を実現するためには、これらの分散特性が光信号の伝送に与える影響を補償することが必要である。
【0004】
従来の装置では、個々の光伝送路(伝送装置間の光ファイバケーブル)での特定の波長の波長分散係数、分散スロープ係数、距離を予め設定しておき、複数の伝送路を経由した伝送を行う際は、予め設定した値から累積の分散補償量を算出して、可変分散補償器の設定値を決定している(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−202009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、システムの構築時にすべての値を、事前に、正確に測定することは困難である上、測定のための特別な設備と期間が必要となり、システムを安価・早期に構築することが妨げられるという問題があった。また、算出の元となる数値が、不確定な幅を持った結果、累積の分散補償量も不確定な幅を持つため、適切な範囲内で補償値を探索することができず、算出に長時間必要となり、また、探索する範囲が不正確であったために誤った結果が算出されてしまうという問題があった。
【0007】
また、システムによっては、隣接する伝送装置間の伝送路が、複数の光ファイバ・ケーブル(ピース)を接続することによって構成され、SMFとDSFに代表される複数種類のピースが混在している場合がある。この場合、光ファイバの分散、非線形効果はファイバの種別により異なり、その混在率により影響を受けることになることから、混在率を求めることが必要になる。しかしながら、光ファイバの混在率が考慮されていないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであり、伝送路を構成する光ファイバの種別と混在率の取り得る範囲を算出する手段を備え、また、混在率を用いて伝送路の波長分散量の取り得る範囲を算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる光伝送装置は、伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と、該伝送路の距離とを用いて、該伝送路を構成する光ファイバの種別と混在率の取り得る範囲を算出する手段を備える。
【発明の効果】
【0010】
伝送路を構成する光ファイバの種別と混在率の取り得る範囲を算出できる。また、混在率を用いて伝送路の波長分散量の取り得る範囲を算出することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1における光伝送システムの構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における可変分散補償器に設定する分散補償量を決定する処理のシーケンスチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1における光ファイバの種別に応じた波長分散係数の取り得る範囲を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1における光ファイバの種別の混在率の取り得る範囲を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1における情報記憶部203に記録されるレコードの構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下に、本実施の形態にかかる光伝送装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するためのものではない。
【0013】
図1に本実施の形態にかかる光伝送システムの構成図を示す。図1は、WDM伝送のための送信、中継、受信を行う伝送装置101、102、103と、1台または複数の伝送装置を監視制御する管理装置201により構成されている。伝送装置101は、WDM送信機能を有し、伝送装置102はWDM中継機能を有し、伝送装置103はWDM受信機能を有する構成とする。伝送路105、106、107は、光ファイバ・ケーブルであり、伝送装置間で、波長多重された光信号を伝搬させる。
【0014】
次に、伝送装置101の構成について説明する。光送信器111は、ユーザデータを1つの波長の光信号に変換して送信する機能を有する。伝送装置101には光送信器111が複数配置され、それぞれ異なる波長の光信号を生成する。光合波器121は、複数の光送信器111から生成された波長の異なる光信号を多重する。光増幅器131は、多重化された光のパワーを増幅して送信する。カプラ125は、光を分岐または結合する。監視制御部141は、監視制御光を送受信し、後述の説明では2波長の監視制御光を用いて波長分散の測定を行う。また、監視制御部141は管理装置201と監視制御のための通信、および伝送装置101内の各部を監視制御する機能を有する。
【0015】
次に、伝送装置102の構成について説明する。固定分散補償器151は、受信した光の波長分散を補償するが、分散補償量の変更が出来ない特性を持つ。光増幅器132は、受信した光のパワーを増幅する。光スイッチ161は光信号を別経路に出力する機能を有し、図1では伝送装置101から受信した光信号を伝送路106または伝送路107に転送する。また、光増幅器133、監視制御部142は、ぞれぞれ、前述の光増幅器131、監視制御部141と同様の機能を有する。また、光カプラ126、127は、前述の光カプラ125と同様の機能を有する。
【0016】
次に、伝送装置103の構成について説明する。光分波器191は、波長多重された光を1波長毎の光に分離する。可変分散補償器171は、本実施の形態では、1波長につき1台設置されており、分波された光信号に対して、波長分散を補償し、かつ分散補償量の変更が可能な特性を有する。光受信器181は、分波された1波長を受信して、ユーザデータに変換する。また、その際、受信したビットの誤り数をカウントする機能を有する。ビット誤りは、FEC(Forward Error Correction)の情報を光送信器111にて送信データに付加して光信号を送信し、光受信器181にて参照することにより検出可能である。また、固定分散補償器152、光増幅器134、監視制御部143、光カプラ128は、ぞれぞれ、前述の固定分散補償器151、光増幅器131、監視制御部141、光カプラ125と同様の機能を有する。
【0017】
次に、管理装置201の構成について説明する。管理装置201は、伝送装置101、102、103を監視制御するための制御通信部204と、可変分散補償器171に設定した補償値を含む情報を記憶する情報記憶部203、および、光ファイバの混在率や可変分散補償器171に設定する分散補償値について演算するための演算処理部202を備える。
【0018】
次に、図2を用いて本実施の形態にかかる光伝送システムの動作内容について説明する。図2は、本実施の形態にかかる光伝送システムの可変分散補償器171に設定する分散補償値を決定する処理のシーケンスチャートである。まず、概略を説明する。図2のステップ1において、伝送装置101〜103は特定の波長の波長分散量と、伝送装置間の伝送路の距離を測定する。ステップ2において、管理装置201は波長分散量と伝送装置間の伝送路の距離を元に伝送路を構成するファイバの種別(SMF/DSF)と混在率の取り得る範囲を算出する。ステップ3において、管理装置201は混在率とファイバ種別に応じた特性値を元に、伝送路における波長分散量の取り得る範囲を算出する。ステップ4において、管理装置201は可変分散補償器171に設定すべき分散補償値の取り得る範囲を算出する。ステップ5において、管理装置201は分散補償値が取り得る範囲内での最適な分散補償値の探索動作を行う。ステップ6において、管理装置201は分散補償値の最終設定値を決定し、その情報をレコードに保存する。
【0019】
次に、ステップ1の動作について説明する。本実施の形態における光伝送システムでは、伝送路における、ある特定の波長についての波長分散量を測定する。隣接する装置間の伝送路の波長分散量を測定は、ITU−T勧告G.709にて定義されるOSC(Optical supervisory channel)光といった、ユーザデータ(ペイロード)のデータ伝送を行う波長とは異なる波長の監視制御光用波長を使う。伝送装置101の監視制御部141は監視制御光用波長である2つの波長の異なる光信号を送信し、伝送装置102の監視制御部142が光信号を受信し、光信号間の伝送遅延差を測定することで、2つの波長の中間波長についての波長分散量を算出する。2つの波長(単位:nm)をλ1、λ2とし、それぞれの波長を持つ光信号の伝送遅延差(到達時間差。単位:ps)をTとすると、波長分散量vは下記の計算によって求められる。
【0020】
【数1】

【0021】
ただし、波長分散量vは、波長によって異なるため、波長λの関数v(λ)になる。上記の波長分散量vは、2つの波長の中間となる波長λm=(λ21)/2に対する波長分散量v(λm)と見なすことができる。また、同様に、監視制御部142から送られる光信号によって監視制御部143は伝送路106の波長分散量vを測定する。
【0022】
また、ステップ1では伝送装置102、103は伝送装置間の伝送路105、106の距離dを測定する。距離dを測定するためには、伝送路による伝送遅延時間が必要となる。本実施の形態では以下の方法によって距離dを測定する。
【0023】
伝送装置Aが送信したデータAを伝送装置Bで受信した後直ちに、伝送装置Bが直ちにデータBを伝送装置Aに送信することで、伝送装置AはデータAを送信した時間を起点として、データBを受信するまでの時間を計測する。この時間は、伝送路を往復した時間である。従って、これを2で除した値が、片道の伝送遅延時間である。光ファイバ中の光の伝搬速度は既に知られている値であるため、伝送遅延時間に伝搬速度を乗ずることで、伝送路の距離を得ることができる。厳密には、光ファイバ中の光の伝搬速度は、ファイバの種別、波長によって僅かに異なるが、光の伝搬速度全体に対して微小であるため、距離の測定に関しては、ファイバ種別、波長の依存性を考慮する必要は無い。図1では、伝送装置101から伝送装置102への片方向の光伝送のための構成を示しているが、伝送装置102にも伝送装置101に対して光信号を送信することができる光送信器を備えて、伝送装置102から伝送装置101の逆方向についても伝送路(光ファイバケーブル)が接続されているとし、また、双方向の伝送路が同距離であるとすれば、以上で述べた方法により、距離を得ることが可能である。
【0024】
具体的には、監視制御部142が監視制御部141に監視制御光を送信し、それを監視制御部141にて受信した後、監視制御部141から監視制御部142に監視制御光を送信する。監視制御部142はこれを受信し、伝送遅延時間を算出する。これによって監視制御部142は伝送路105の距離dを得る。同様の方法にて監視制御部143は伝送路106の距離dを測定する。
【0025】
次に、ステップ2の動作について説明する。ステップ2では、管理装置201が波長分散量、距離の測定結果を元に、ファイバの種別(SMF/DSF)に応じた波長分散特性値を用いて、ファイバの種別(SMF/DSF/両者混在)と、ファイバの混在率の取り得る範囲を特定する。図3は、λmを海底ケーブルなどの比較的長距離の光通信システムなどで用いられるC帯域(1526nm〜1570nm)の波長としたとき、ファイバの種別(SMF/DSF)に応じた、波長(横軸)と波長分散係数(縦軸)の範囲の関係を示した例である。以降の説明においては、上記の波長地域であることを前提とする。波長分散係数は、単位距離(km)あたりの波長分散量であり、伝送路上のファイバの材料・構造が同一であれば、伝送路の波長分散量は、波長分散係数に距離を乗じた値となる。ITU−T勧告G.652、G.653において、それぞれのファイバ種別に応じた、ゼロ分散波長、波長分散係数、波長分散スロープ係数の上限値、下限値について推奨値が規定されており、これらの値を本実施の形態において用いることが可能である。また、推奨値以外にも、ファイバ製造時の保障性能や測定等により、実際に伝送システムに用いられている光ファイバの波長分散係数等の特性の取り得る範囲が判明している場合には、それらの値を用いても良い。また、以下の説明では最大値、最小値を用いるが、必ずしも最大値、最小値でなくとも良く、算出に用いる定数は適宜変えることができる。後述する波長分散スロープ係数も同様である。図3において、波長λmに対するDSFの波長分散係数の最小値Cdminm)、最大値Cdmaxm)、波長λmに対するSMFの最小値Csminm)、最大値Csmaxm)である。
【0026】
ステップ1で測定した波長分散量v、距離dを使って、以下の計算により、混在率rの取り得る範囲を算出する。ある伝送路におけるSMFピースの占める割合をrとすると、DSFピースは1−rと表すことができる。例えば、r=1の場合、伝送路はSMFのみで構成され、r=0の場合、伝送路はDSFのみで構成されると判断することができる。
すなわち、混在率rを算出することによって、伝送路を構成する光ファイバの種別を特定することができる。混在率rを用いると伝送路は距離d×rのSMFピースと、距離d×(1−r)のDSFピースにより構成されることから、以下の式が成り立つ。
【0027】
【数2】

【0028】
これを、混在率rについて書くと、以下の式になる。
【0029】
【数3】

【0030】
上式によりSMFとDSFが混在している場合の混在率rの取り得る範囲(rmin≦r≦rmax)が決まる。混在率rの取り得る範囲を図示すると、図4のようになる。数式3によって、伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と、伝送路の距離とを用いて伝送路を構成する光ファイバの種別の混在率の取り得る範囲を算出することが可能となる。
【0031】
伝送路105に関して、管理装置201の演算処理部202は、制御通信部204を用いて、伝送装置102の監視制御部142より、波長分散量vと距離dを読み出す。またCdminm)、Cdmaxm)、Csminm)、Csmaxm)の値は、伝送路に依らない伝送システム全体に適用可能な値であり、演算処理部202を実現するプログラムまたは情報記憶部203の記憶領域に予め保持することが可能である。これらの値を参照し、数式3から混在率rの取り得る範囲を得る。演算処理部202はまた、同様の動作を行い、伝送路106に関しても、監視制御部143から、伝送路106についての波長分散量vと距離dを読み出し、混在率rの取り得る範囲を求める。
【0032】
次に、ステップ3の動作について説明する。ステップ3では、管理装置201が伝送路における、任意の波長λに対する波長分散量の取り得る範囲を算出する。ステップ2により、SMFの混在率rの取り得る範囲が確定すると、混在率rのSMF分と混在率(1−r )のDSF分に分け、ファイバ種別毎に異なる分散スロープ係数の最小値、最大値を元に、全体の波長分散量の取り得る幅を算出する。なお、分散スロープ係数(単位ps/nm/nm/km)とは、分散係数の単位波長(nm)あたりの変化量である。SMF分の波長分散スロープ係数Ss、DSF分の波長分散スロープ係数をSdとすると、波長λにおける伝送路の波長分散v(λ)は、以下の値となる。
【0033】
【数4】

【0034】
SMFの取り得る分散スロープ係数の最小値、最大値をそれぞれSsmin、Ssmaxとし、DSFの取り得る分散スロープ係数の最小値、最大値をそれぞれSdmin、Sdmaxとする。図3より分かる通り、Ssmax>Sdmax、Sdmin>Ssminの関係があり、また混在率rが小さくなれば波長分散係数の小さなDSFの割合が増加し、波長分散量v(λ)は小さくなるので、波長分散量v(λ)の取り得る範囲は、λ>λmの場合、
【0035】
【数5】

【0036】
となる。上式におけるSsmin、Ssmax、Sdmin、Sdmaxは伝送路に依らない伝送システム全体に適用可能な値であり、演算処理部202を実現するプログラムまたは情報記憶部203の記憶領域に予め保持することが可能である。また、ステップ2において混在率rの取り得る範囲は求められているので、波長分散量v(λ)の取り得る範囲(vmin(λ)≦v(λ)≦vmax(λ))が決定される。演算処理部202は、SMFのみの場合(r=1)、DSFのみの場合(r=0)、SMFとDSFが混在している場合の伝送路に関して、それぞれ、任意の波長に対する波長分散量v(λ)の取り得る範囲を狭い範囲で特定し、後述するステップ5での波長分散補償量の探索範囲を狭めることができる。これによって、波長分散補償量の導出に係る時間の削減が可能となることに加え、絞られた範囲内で波長分散補償量を探索するので、精度良く、適正な波長分散補償量の導出が可能となる。
【0037】
また、波長分散スロープ係数が既知でない場合には、図3で示した、波長分散係数の取り得る範囲に基づき、任意の波長に対する波長分散量の取り得る範囲を算出することも可能である。SMF、DSFの波長分散係数をそれぞれCs(λ)、Cd(λ)と記すと、下記式となる。
【0038】
【数6】

【0039】
図3から分かるようにCdmax(λ)<Csmin(λ)であり、波長分散量v(λ)は、rが小さいほど、小さくなることから、さらに下記の式が成り立つ。
【0040】
【数7】

【0041】
上記の式によっても、任意の波長の波長分散量v(λ)の取り得る範囲(vmin(λ)≦v(λ)≦vmax(λ))が決定される。尚、Cdmin(λ)、Cdmax(λ)、Csmin(λ)、Csmax(λ)の値は、伝送路に依らない伝送システム全体に適用可能な値であり、演算処理部202を実現するプログラムまたは情報記憶部203の記憶領域に予め保持することが可能である。数式5と7によって、伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と、伝送路の距離と、伝送路を構成する光ファイバの種別の混在率とを用いて、伝送路の波長分散量の取り得る範囲を算出することができる。尚、実際の混在率rの値が算出前に判明している場合には、数式5、数式7のrmin、rmaxに、取り得る範囲ではなく、その値を代入して波長分散量の取り得る範囲を算出しても良い。
【0042】
次に、ステップ4の動作について説明する。ステップ4では、ステップ3で決定した波長分散量の取り得る範囲を導出する式と、情報記憶部203に保存されている伝送路の分散補償値(以下、補償値と略する。)に関する情報に基づき、1つまたは複数の伝送区間を経由する伝送路の分散補償量(以下、補償量と略する。)を決定する。最初に、演算処理部202は、情報記憶部203から補償量を求めようとしている伝送路と、同一の伝送路について記録されているレコードか、あるいは、補償量を求めようとしている伝送路が、記録されている伝送路の経由する伝送区間すべてを含んでいるレコードを探す。尚、このレコードは後述するステップ6にて蓄積される。伝送システムを新設した場合や、新設の伝送区間のみで構築されている場合等には、該当するレコードが存在しないのでステップ5に進む。
【0043】
レコードの形式は、例えば、図5に示す形式であり、レコード#1には伝送路#1〜伝送路#Mを伝送区間とする経由する伝送路についての情報が記録されている。記録内容は伝送路#1〜伝送路#Mの送信端と受信端に対応する伝送装置の装置番号、および、伝送路#1〜伝送路#Mからなる伝送路を通過した際に必要となる、波長に対する補償値Hが記録されている。補償量を求めようとしている伝送路と、同一の伝送路について記録されているレコードがある場合には、本レコードに記録されている補償値Hを読み出すことによって、必要な補償量の情報を得ることができる。また、レコードに記録されている伝送路が、補償量を求めようとしている伝送路の、一部の伝送区間であってもそれを読み出し、レコードに記録がなかった伝送区間(補償値Hで補償されない区間)について、以下のように補償量を求める。
【0044】
まず、波長λに対して、任意の伝送路iについての波長分散v(λ)の取り得る範囲の最小値、最大値を前述の数式7を用いて、それぞれvmini(λ)、vmaxi(λ)とする(iは、1〜Nの整数、Nは、レコードに記録されていない残りの区間を経由する伝送路数)。これにより、1つまたは複数の伝送路を経由する、残りの区間全体の波長分散量v(λ)が取り得る範囲は、これらを合計したものであり、以下の式となる。
【0045】
【数8】

【0046】
i=1からNの伝送区間に関して、可変分散補償器171に設定すべき補償値は、伝送区間の波長分散量v(λ)から、各伝送路における固定分散補償器の補償量を減じた値である。固定分散補償器の補償量は、その製造元などにおいて測定することにより、既知とすることが容易である。そこで、固定分散補償器の補償量の取り得る範囲の最小値、最大値をそれぞれcmini(λ)、cmaxi(λ)とすると、補償値Hで補償されない区間に関する波長分散量は以下となる。
【0047】
【数9】

【0048】
尚、固定分散補償器の補償量の幅が無視できるとした場合には取り得る値の最大値、最小値とするのではなく定数cとしてもよい。
【0049】
以上より、伝送路全体に対して、可変分散補償器に設定する補償値の範囲は、読み出したレコードに記録された補償値Hと併せ、以下の式となる。
【0050】
【数10】

【0051】
演算処理部202は、以上の演算により、可変分散補償器171に設定する補償値v(λ)+Hの範囲を算出する。
【0052】
次に、ステップ5の動作について説明する。ステップ5では、管理装置201は前述の数式10で求めた補償値v(λ)+Hの範囲内で、可変分散補償器171の最終的に使用する補償値の探索を制御する。まず、管理装置201はステップ4で算出した補償値v(λ)+Hの取り得る範囲内を可変分散補償器171に設定する。可変分散補償器171はその範囲内で初期値を設定し、検出可能なビット誤りの単位時間あたりの発生率(以下、ビット誤り率とする。)を計測する。そして、管理装置201の制御に基づき、可変分散補償器171はビット誤り率の情報に基づき補償値を順次変更し、最も誤り率の少ない補償値が最適補償値として算出される。また、この範囲内で、所望の品質(規定のビット誤り率以下)が得られなかった時、補償値の設定を失敗とする。
【0053】
尚、光ファイバケーブルの波長分散量の取り得る範囲の他に、伝送路以外の装置内の部品が持つ分散、マージン等の値を付加することも可能である。また、最もビット誤り率の少ない補償値を最適補償値と決定するのではなく、ビット誤りの判定が出来た補償値の範囲の中心を最適補償値とするなどの、他の決定方法の採用も可能である。
【0054】
次に、ステップ6について説明する。ステップ6では、管理装置201が得られた最適な補償値、経由する伝送路、および波長を図5に示された形式のレコードとして情報記憶部203に保存する。この情報は、先にステップ4に関して説明したように、次回以降に、同一、または別の伝送装置間の伝送路における可変分散補償器の補償値を算出する際に利用される。
【0055】
以上の構成、動作により、本実施の形態では、以下のような効果が得られる。ファイバ種別に基づく固定的な特性情報である、波長分散係数、波長分散スロープ係数を、予め保持するのみで済み、伝送路やシステムに依存した可変の情報を予め測定することや、設定する必要が無く、測定のための特別な設備も必要としないことから、可変分散補償器の補償値の決定を自動化し、安価に、短期間のうちにシステムの構築が可能となる。可変分散補償器に設定する補償値の取り得る範囲を限定することで、必要な最適補償値を得るまでに要する時間を短縮できる。また、可変分散補償器の探索する範囲を確定することで、精度の良い適正な補償量を得ることが出来ることに加え、範囲内で良好な伝送が得られない場合に、短時間で失敗と判断することが容易となる。さらには、伝送路を構成するファイバ種別の混在率の取り得る範囲を得ることで、波長分散以外に非線形効果等の光ファイバの他の伝送特性を制御する際の情報として利用することが可能となる。
【0056】
尚、上記の説明はC帯域(1526nm〜1570nm)の波長を前提としたものであるが、他の波長帯域においても本発明は適用可能である。また、SMFとDSFの2種類について説明したが、本発明の適用は2種類に限られない。DSFにはNZ−DSF(Non-Zero Dispersion Shifted Fiber)も含まれるものとし、また、例えば、近距離通信に使用されるSI(Step index)型やGI(Graded-index)型などのMMF(Multi Mode Fiber)であっても適用可能である。
【0057】
本実施の形態での光伝送装置は、混在率または波長分散量の取り得る範囲を算出する機能を備える管理装置201に対応する。すなわち、光伝送装置は、これらの機能を備える伝送装置101〜103またはその一部分のみならず、光伝送を管理する管理装置であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
101〜103 伝送装置
105〜107 伝送路
111 光送信器
121 光合波器
125〜128 カプラ
131〜134 光増幅器
141〜143 監視制御部
151、152 固定分散補償器
161 光スイッチ
171 可変分散補償器
181 光受信器
191 光分波器
201 管理装置
202 演算処理部
203 情報記憶部
204 制御通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と、該伝送路の距離とを用いて、該伝送路を構成する光ファイバの種別の混在率の取り得る範囲を算出する手段を備える光伝送装置。
【請求項2】
前記混在率の取り得る範囲を算出する手段を用いて、前記伝送路を構成する光ファイバの種別を特定する手段を備える請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項3】
前記混在率の取り得る範囲を算出する手段は、予め保持された波長分散係数を用いる請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項4】
伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と、該伝送路の距離と、該伝送路を構成する光ファイバの種別の混在率とを用いて、該伝送路の波長分散量の取り得る範囲を算出する手段を備える光伝送装置。
【請求項5】
前記波長分散量の取り得る範囲を算出する手段は、予め保持された波長分散係数、または、予め保持された波長分散スロープ係数を用いる請求項4に記載の光伝送装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の光伝送装置であって、
前記算出した波長分散量の取り得る範囲内で、可変分散補償器の分散補償量の設定値を決定する手段を備える光伝送装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光伝送装置であって、
前記可変分散補償器への設定値と、その伝送路についての情報を記録する手段と、
該伝送路と同一の伝送路または該伝送路を伝送区間として含む伝送路について、前記記録された情報を参照して可変分散補償器の補償する波長分散量の取り得る範囲を算出する手段と、
を備える光伝送装置。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載の光伝送装置によって構成される光伝送システム。
【請求項9】
伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と該伝送路の距離を測定するステップと、
該伝送路を構成する光ファイバの種別の混在率の取り得る範囲を算出するステップと、
を含む波長分散量算出方法。
【請求項10】
伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と該伝送路の距離を測定するステップと、
該伝送路を構成する光ファイバの種別の混在率の取り得る範囲を算出するステップと、
測定した前記波長分散量と、前記伝送路の距離と、前記混在率とを用いて、伝送路の波長分散量の取り得る範囲を算出するステップと、を含む波長分散量算出方法。
【請求項11】
伝送路の少なくとも1つの波長の波長分散量と該伝送路の距離を測定するステップと、
該伝送路を構成する光ファイバの種別の混在率の取り得る範囲を算出するステップと、
測定した前記波長分散量と、前記伝送路の距離と、前記混在率とを用いて、伝送路の波長分散量の取り得る範囲を算出するステップと、
前記算出した波長分散量の範囲内で、可変分散補償器の分散補償量の設定値を決定するステップと、を含む分散補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−193077(P2011−193077A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55531(P2010−55531)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】