光信号分析装置
【課題】試料から発せられる光のゆらぎの相関をノイズの影響なく求める簡単な構成の光信号分析装置を提供する。
【解決手段】光信号分析装置は、励起光を発するレーザー10と、試料Sからの光を取得する顕微鏡部30と、顕微鏡部30で取得した光から蛍光を抽出する蛍光抽出部20と、蛍光抽出部20で抽出された蛍光を処理する処理部40とを有している。処理部40は、受けた光の強度に対応する光強度信号を出力する光検出器41と、光検出器41から出力される蛍光信号に対応する蛍光データを記憶する蛍光記憶部42と、光検出器41から出力されるノイズに対応するノイズデータを記憶するノイズ記憶部44と、蛍光データからノイズデータを差し引いた処理データを出力するノイズ処理部45と、処理データを利用して相関演算を行なう相関演算部43とを有している。
【解決手段】光信号分析装置は、励起光を発するレーザー10と、試料Sからの光を取得する顕微鏡部30と、顕微鏡部30で取得した光から蛍光を抽出する蛍光抽出部20と、蛍光抽出部20で抽出された蛍光を処理する処理部40とを有している。処理部40は、受けた光の強度に対応する光強度信号を出力する光検出器41と、光検出器41から出力される蛍光信号に対応する蛍光データを記憶する蛍光記憶部42と、光検出器41から出力されるノイズに対応するノイズデータを記憶するノイズ記憶部44と、蛍光データからノイズデータを差し引いた処理データを出力するノイズ処理部45と、処理データを利用して相関演算を行なう相関演算部43とを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料から発せられる光のゆらぎの相関を求める光信号分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003−189852号公報は、閾値を用いたノイズの除去方法を開示している。蛍光物質から放射される蛍光の信号は、電気信号に変換されて検出される。この方法では、ある閾値を予め決めておき、これよりもフォトンパルス数が多く測定された場合のみ、蛍光が検出されたと判断する。この閾値は、装置のノイズなどを考慮して設定する。
【0003】
特開2004−157246号公報や特開2005−91895号公報は、照射レーザーに周波数変調を与え、各光検出系において変調周波数に対応する成分を検出するようにすることにより、信号光とは異なる周波数を持つ外部からの迷光や電気的なノイズなどのノイズ成分を信号光から分離するという方法を開示している。この手法では、ほとんどのノイズ信号を除去することができ、精度の高い相関カーブを取得することができる。
【特許文献1】特開2003−189852号公報
【特許文献2】特開2004−157246号公報
【特許文献3】特開2005−91895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2003−189852号公報の方法では、設定した閾値を超えない蛍光信号はすべてノイズと判断され検出されない。2光子励起のように微小な蛍光の信号を検出する場合、この方法では、蛍光の検出漏れが多く発生してしまい、精度の良い相関カーブを取得することが難しい。
【0005】
特開2004−157246号公報や特開2005−91895号公報の方法では、光路上に変調周波数の発生器や分離器などを設置しなければならず、測定装置が複雑になる上、設置費用が発生する。
【0006】
本発明は、この様な実状を考慮して成されたものであり、その目的は、試料から発せられる光のゆらぎの相関をノイズの影響なく求める簡単な構成の光信号分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による光信号分析装置は、受けた光の強度に対応する光強度信号を出力する光検出器と、前記光検出器から出力される光強度信号に含まれるノイズに対応するノイズデータをあらかじめ記憶するノイズデータ記憶手段と、前記光強度信号に対応する光強度データから前記ノイズデータを差し引いた処理データを出力するノイズ処理手段と、前記処理データを利用して相関演算を行なう相関演算手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試料から発せられる光のゆらぎの相関をノイズの影響なく求める簡単な構成の光信号分析装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
<第一実施形態>
光信号分析装置は、試料から発せられる光のゆらぎの相関を求める装置であり、図1に示すように、励起光を発するレーザー10と、試料Sに励起光を照射するとともに試料Sからの光を取得する顕微鏡部30と、顕微鏡部30で取得した光から蛍光を抽出する蛍光抽出部20と、蛍光抽出部20で抽出された蛍光を処理する処理部40とを有している。
【0011】
蛍光抽出部20は、レーザー10からの励起光を反射するミラー21と、励起光を顕微鏡部30に向けて反射するとともに試料Sから発せられる光を透過するダイクロイックミラー22と、ダイクロイックミラー22を透過した光を収束する収束レンズ23と、収束レンズ23の焦点に配置されたピンホール24と、収束レンズ23により収束された光を平行化するコリメートレンズ25と、ダイクロイックミラー22を透過した光から蛍光を選択的に透過する蛍光フィルター27と、蛍光フィルター27を透過した光を収束する収束レンズ26とを有している。
【0012】
顕微鏡部30は、試料Sを載せるステージ31と、ステージ31の下に配置された対物レンズ32と、蛍光抽出部20からの励起光を対物レンズ32に向けて反射するとともに試料Sからの光を蛍光抽出部20に向けて反射するミラー33とを有している。
【0013】
処理部40は、受けた光の強度に対応する光強度信号を出力する光検出器41と、光検出器41から出力される蛍光信号に対応する蛍光データを記憶する蛍光記憶部42と、光検出器41から出力される光強度信号に含まれるノイズに対応するノイズデータをあらかじめ記憶するノイズ記憶部44と、蛍光記憶部42に記憶されている蛍光データからノイズ記憶部44に記憶されているノイズデータを差し引いた処理データを出力するノイズ処理部45と、ノイズ処理部45から出力される処理データまたは蛍光記憶部42から出力される蛍光データを利用して相関演算を行なう相関演算部43と、相関演算部43で求められた相関カーブなどの演算結果を表示する表示部46とを有している。
【0014】
図1の光信号分析装置の動作について図2のフローチャートを参照しながら説明する。
【0015】
S1:測定準備をする。測定準備としては、試料の設置、光検出器の変更、実験条件の設定などがある。
【0016】
S2:測定条件を確認する。ノイズデータの測定は蛍光強度の測定と同じ条件で行なう必要がある。このため、まずノイズデータ測定の条件が蛍光強度測定の条件と同じであることを確認する。
【0017】
S3:ノイズを測定する。試料Sに励起光を照射していない状態で、光検出器41から出力される光強度信号を調べる。
【0018】
S4:ノイズデータを保存する。光検出器41から出力される光強度信号をサンプリングしたデータをノイズデータとしてノイズ記憶部44に保存する。
【0019】
S5:蛍光強度を測定する。試料Sに励起光を照射している状態で、光検出器41から出力される光強度信号を調べる。ここで得られる蛍光信号はノイズを含んでいる。
【0020】
S6:蛍光データを保存する。光検出器41から出力される光強度信号をサンプリングしたデータを蛍光データとして蛍光記憶部42に保存する。蛍光データのデータ数とノイズデータのデータ数を同じにするため、両者のデータ取得時間は揃えておく。
【0021】
S7:ノイズ処理前データ(ノイズを含んでいる蛍光データ)を利用して相関演算を行なうか判断する。ノイズ処理前データを利用しない場合は、S8とS9の処理を飛ばしてS10の処理に進む。ノイズ処理前データを利用する場合は、S8とS9の処理を行なう。
【0022】
S8:ノイズ処理前データを利用して相関カーブを取得する。
【0023】
S9:S8で取得した相関カーブに対してフィッティング処理などを行なう。
【0024】
S10:ノイズ記憶部44に記憶されているノイズデータと蛍光記憶部42に記憶されている蛍光データとをノイズ処理部45に読み込む。
【0025】
S11:ノイズ処理部45においてノイズ処理を行なう。ノイズ処理では、ノイズを含んでいる蛍光データからノイズデータを差し引くことによって、ノイズを含んでいない蛍光データを得る。
【0026】
S12:ノイズ処理後の蛍光データを利用して相関カーブを取得する。
【0027】
S13:S12で取得した相関カーブに対してフィッティング処理などを行なう。
【0028】
S14:測定が終了か判断する。測定が終了でない場合は、S5の処理に戻る。その際、必要に応じて、測定点の変更などを行なう。測定が終了である場合は、測定を終了する。
【0029】
前述のS8とS12において、FCSの相関カーブは下記の(1)式を用いて計算する。遅延時間τでの相関値は、ある時間tの蛍光信号と時間(t+τ)の蛍光信号との積和の平均値を時間tの蛍光信号の平均値の2乗で割った値で与えられる。
【数1】
【0030】
本来ならば、蛍光強度信号に含まれるノイズ信号をそのまま除去することが望ましいが、除去の対象であるノイズはバックグラウンドノイズであるため、ノイズの平均値は大きく変動しないと考えてよい。このため、ノイズ信号が蛍光強度信号と同じ時間帯に測定したものでなくも、蛍光強度信号に含まれるノイズ信号とほぼ同じ信号を除去できる。また、相関カーブの取得には(1)式を用いて大量のデータの平均値を求める統計的な演算を行なうため、演算結果が大きく変わることはない。
【0031】
S11におけるノイズ処理のモデル図を図3に示す。図3は、ノイズ処理前の蛍光データ(A)からノイズデータ(B)を差し引いてノイズデータを含んでいない蛍光データ(C)を取得する様子を表している。図3中の数値は、それぞれ、各サンプリング周期の間に光検出器41が検出するフォトン数を示している。
【0032】
本実施形態に従ってノイズ除去を行なった実験結果を図4〜図8に示す。図4は、光検出器から出力される光強度信号に含まれているノイズに対応するノイズ信号を示している。このノイズ信号は、S3の処理において光検出器41から出力される光強度信号を2μsecでサンプリングしたものである。ノイズ信号強度はおよそ2kHzである。図5は、ノイズを含んでいるノイズ処理前の蛍光信号を示している。この蛍光信号は、S5の処理において光検出器41から出力される光強度信号を2μsecでサンプリングしたものである。図6は、図5の蛍光信号に基づいて算出した相関カーブを示している。図7は、ノイズを含んでいないノイズ処理後の蛍光信号を示している。この蛍光信号は、図5の蛍光信号から図4のノイズ信号を差し引いたものである。図8は、図7の蛍光信号に基づいて算出した相関カーブを示している。
【0033】
図7の蛍光信号は、図5の蛍光信号に比べて、ノイズ成分に相当する2kHz程度値が小さくなっており、ノイズ成分が除去されていることが分かる。相関カーブをフィッティングして得られる値N(共焦点領域内に含まれる平均分子数)とt1(拡散時間)の値を比較すると、図6ではNの値は1.838であるのに対し、図8では1.435と小さくなっている。これは、図6ではノイズを分子の蛍光信号とみなして相関カーブを計算していたため、Nの値が図8のNの値に比べて大きくなったと考えられる。拡散時間に関しては、図6では4.479×10−5secであるのに対し、図8では4.599×10−5secと大きくなっている。これは、図8ではノイズ除去によって相関カーブの振幅が大きくなり、それに伴い半値幅のx軸の値が右にシフトしたため、図6に比べてt1の値が大きくなったと考えられる。
【0034】
以上のように、上述したノイズ除去を行なったことにより、予想通りの傾向を示す結果が得られた。
【0035】
本実施形態によれば、試料Sから発せられる光のゆらぎの相関を、バックグラウンドノイズの影響を除去して求める簡単な構成の光信号分析装置が提供される。
【0036】
ノイズデータの記憶(測定と保存)は、種々のタイミングで行なってよい。例えば、装置の起動時に行なってよい。あるいは、試料Sから発せられる光のゆらぎの検出を開始する前に行なってもよい。また、ノイズ処理を行なう前に行なってもよい。さらには、装置の起動から所定時間が経過した後に行なってよい。所定時間は、装置内部の温度が実質的に飽和する温度に達するのに必要とする時間に基づいて決定されるとよい。
【0037】
本実施形態では、ノイズ処理後の蛍光データを利用して相関演算を行なうほかに、ノイズ処理前データ(ノイズを含んでいる蛍光データ)を利用して相関演算を行なうために、蛍光記憶部42を有しているが、ノイズ処理前データを利用した相関演算を行なわない場合には、蛍光記憶部42を省いてもよい。
【0038】
<第二実施形態>
光検出器41から出力される光強度信号に含まれるノイズには、バックグラウンドノイズの他にも、励起光の漏れがある。励起光は、通常は、蛍光だけを透過するダイクロイックミラー22や蛍光フィルター27によって除去される。しかし、励起光の強度が強い場合には、励起光がフィルターなどで100%除去しきれずに、光検出器41に到達することがある。
【0039】
本実施形態では、バックグラウンドノイズの除去に加えて、励起光の漏れによるノイズの除去に向けられている。ノイズの除去は、基本的には、図2のフローチャートと同様に行なう。ただし、以下の点が相違する。
【0040】
S1の測定準備において、試料Sに代えて、蛍光を発しない試料代替品、例えばスライドガラスなどをステージ31上に配置する。
【0041】
S3のノイズ測定において、試料代替品に励起光を照射している状態で、光検出器41から出力される光強度信号を調べる。
【0042】
そのほかの処理は第一実施形態と同様である。
【0043】
本実施形態に従ってノイズ除去を行なった実験結果を図9〜図13に示す。図9は、レーザー10の出力10%における励起光の漏れによるノイズ信号を示している。図10は、ノイズを含んでいるノイズ処理前の蛍光信号を示している。図11は、図10の蛍光信号に基づいて算出した自己相関カーブを示している。図12は、ノイズを含んでいないノイズ処理後の蛍光信号を示している。この蛍光信号は、図10の蛍光信号から図9のノイズ信号を差し引いたものである。図13は、図12の蛍光信号に基づいて算出した自己相関カーブを示している。
【0044】
この実験では、励起光の漏れによるノイズを測定するための試料代替品には濾過水(MilliQ水)を用い、蛍光を測定する際の実際の試料Sにはローダミングリーン(R6G(30NM))の溶液を用いた。
【0045】
図11と図13を比較して分かるように、ノイズ処理を行なって求めた平均分子数Nの値が、ノイズ処理を行なわずに求めた平均分子数Nの値より小さくなっており、予想していた結果となった。これは、励起光の漏れによるノイズを試料Sから発せられた蛍光とみなして、実際より多くの試料分子から蛍光が発せられていると解釈され、実際の平均分子数より大きな値になったと考えられる。
【0046】
本実施形態によれば、試料Sから発せられる光のゆらぎの相関を、励起光の漏れによるノイズの影響とバックグラウンドノイズによる影響とを共に除去して求める簡単な構成の光信号分析装置が提供される。
【0047】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態による光信号分析装置を概略的に示している。
【図2】図1の光信号分析装置の動作のフローチャートである。
【図3】ノイズを含んでいるノイズ処理前の蛍光データからノイズデータを差し引くことにより、ノイズを含んでいない蛍光データを取得する様子を表したモデル図である。
【図4】第一実施形態におけるバックグラウンドノイズによるノイズ信号を示している。
【図5】第一実施形態におけるノイズ処理前の蛍光信号を示している。
【図6】図5の蛍光信号に基づいて算出した相関カーブを示している。
【図7】第一実施形態におけるノイズ処理後の蛍光信号を示している。
【図8】図7の蛍光信号に基づいて算出した相関カーブを示している。
【図9】第二実施形態における励起光の漏れによるノイズ信号を示している。
【図10】第二実施形態におけるノイズ処理前の蛍光信号を示している。
【図11】図10の蛍光信号に基づいて算出した自己相関カーブを示している。
【図12】第二実施形態におけるノイズ処理後の蛍光信号を示している。
【図13】図12の蛍光信号に基づいて算出した自己相関カーブを示している。
【符号の説明】
【0049】
10…レーザー、20…蛍光抽出部、21…ミラー、22…ダイクロイックミラー、23…収束レンズ、24…ピンホール、25…コリメートレンズ、26…収束レンズ、27…蛍光フィルター、30…顕微鏡部、31…ステージ、32…対物レンズ、33…ミラー、40…処理部、41…光検出器、42…蛍光記憶部、43…相関演算部、44…ノイズ記憶部、45…ノイズ処理部、46…表示部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料から発せられる光のゆらぎの相関を求める光信号分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003−189852号公報は、閾値を用いたノイズの除去方法を開示している。蛍光物質から放射される蛍光の信号は、電気信号に変換されて検出される。この方法では、ある閾値を予め決めておき、これよりもフォトンパルス数が多く測定された場合のみ、蛍光が検出されたと判断する。この閾値は、装置のノイズなどを考慮して設定する。
【0003】
特開2004−157246号公報や特開2005−91895号公報は、照射レーザーに周波数変調を与え、各光検出系において変調周波数に対応する成分を検出するようにすることにより、信号光とは異なる周波数を持つ外部からの迷光や電気的なノイズなどのノイズ成分を信号光から分離するという方法を開示している。この手法では、ほとんどのノイズ信号を除去することができ、精度の高い相関カーブを取得することができる。
【特許文献1】特開2003−189852号公報
【特許文献2】特開2004−157246号公報
【特許文献3】特開2005−91895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2003−189852号公報の方法では、設定した閾値を超えない蛍光信号はすべてノイズと判断され検出されない。2光子励起のように微小な蛍光の信号を検出する場合、この方法では、蛍光の検出漏れが多く発生してしまい、精度の良い相関カーブを取得することが難しい。
【0005】
特開2004−157246号公報や特開2005−91895号公報の方法では、光路上に変調周波数の発生器や分離器などを設置しなければならず、測定装置が複雑になる上、設置費用が発生する。
【0006】
本発明は、この様な実状を考慮して成されたものであり、その目的は、試料から発せられる光のゆらぎの相関をノイズの影響なく求める簡単な構成の光信号分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による光信号分析装置は、受けた光の強度に対応する光強度信号を出力する光検出器と、前記光検出器から出力される光強度信号に含まれるノイズに対応するノイズデータをあらかじめ記憶するノイズデータ記憶手段と、前記光強度信号に対応する光強度データから前記ノイズデータを差し引いた処理データを出力するノイズ処理手段と、前記処理データを利用して相関演算を行なう相関演算手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試料から発せられる光のゆらぎの相関をノイズの影響なく求める簡単な構成の光信号分析装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
<第一実施形態>
光信号分析装置は、試料から発せられる光のゆらぎの相関を求める装置であり、図1に示すように、励起光を発するレーザー10と、試料Sに励起光を照射するとともに試料Sからの光を取得する顕微鏡部30と、顕微鏡部30で取得した光から蛍光を抽出する蛍光抽出部20と、蛍光抽出部20で抽出された蛍光を処理する処理部40とを有している。
【0011】
蛍光抽出部20は、レーザー10からの励起光を反射するミラー21と、励起光を顕微鏡部30に向けて反射するとともに試料Sから発せられる光を透過するダイクロイックミラー22と、ダイクロイックミラー22を透過した光を収束する収束レンズ23と、収束レンズ23の焦点に配置されたピンホール24と、収束レンズ23により収束された光を平行化するコリメートレンズ25と、ダイクロイックミラー22を透過した光から蛍光を選択的に透過する蛍光フィルター27と、蛍光フィルター27を透過した光を収束する収束レンズ26とを有している。
【0012】
顕微鏡部30は、試料Sを載せるステージ31と、ステージ31の下に配置された対物レンズ32と、蛍光抽出部20からの励起光を対物レンズ32に向けて反射するとともに試料Sからの光を蛍光抽出部20に向けて反射するミラー33とを有している。
【0013】
処理部40は、受けた光の強度に対応する光強度信号を出力する光検出器41と、光検出器41から出力される蛍光信号に対応する蛍光データを記憶する蛍光記憶部42と、光検出器41から出力される光強度信号に含まれるノイズに対応するノイズデータをあらかじめ記憶するノイズ記憶部44と、蛍光記憶部42に記憶されている蛍光データからノイズ記憶部44に記憶されているノイズデータを差し引いた処理データを出力するノイズ処理部45と、ノイズ処理部45から出力される処理データまたは蛍光記憶部42から出力される蛍光データを利用して相関演算を行なう相関演算部43と、相関演算部43で求められた相関カーブなどの演算結果を表示する表示部46とを有している。
【0014】
図1の光信号分析装置の動作について図2のフローチャートを参照しながら説明する。
【0015】
S1:測定準備をする。測定準備としては、試料の設置、光検出器の変更、実験条件の設定などがある。
【0016】
S2:測定条件を確認する。ノイズデータの測定は蛍光強度の測定と同じ条件で行なう必要がある。このため、まずノイズデータ測定の条件が蛍光強度測定の条件と同じであることを確認する。
【0017】
S3:ノイズを測定する。試料Sに励起光を照射していない状態で、光検出器41から出力される光強度信号を調べる。
【0018】
S4:ノイズデータを保存する。光検出器41から出力される光強度信号をサンプリングしたデータをノイズデータとしてノイズ記憶部44に保存する。
【0019】
S5:蛍光強度を測定する。試料Sに励起光を照射している状態で、光検出器41から出力される光強度信号を調べる。ここで得られる蛍光信号はノイズを含んでいる。
【0020】
S6:蛍光データを保存する。光検出器41から出力される光強度信号をサンプリングしたデータを蛍光データとして蛍光記憶部42に保存する。蛍光データのデータ数とノイズデータのデータ数を同じにするため、両者のデータ取得時間は揃えておく。
【0021】
S7:ノイズ処理前データ(ノイズを含んでいる蛍光データ)を利用して相関演算を行なうか判断する。ノイズ処理前データを利用しない場合は、S8とS9の処理を飛ばしてS10の処理に進む。ノイズ処理前データを利用する場合は、S8とS9の処理を行なう。
【0022】
S8:ノイズ処理前データを利用して相関カーブを取得する。
【0023】
S9:S8で取得した相関カーブに対してフィッティング処理などを行なう。
【0024】
S10:ノイズ記憶部44に記憶されているノイズデータと蛍光記憶部42に記憶されている蛍光データとをノイズ処理部45に読み込む。
【0025】
S11:ノイズ処理部45においてノイズ処理を行なう。ノイズ処理では、ノイズを含んでいる蛍光データからノイズデータを差し引くことによって、ノイズを含んでいない蛍光データを得る。
【0026】
S12:ノイズ処理後の蛍光データを利用して相関カーブを取得する。
【0027】
S13:S12で取得した相関カーブに対してフィッティング処理などを行なう。
【0028】
S14:測定が終了か判断する。測定が終了でない場合は、S5の処理に戻る。その際、必要に応じて、測定点の変更などを行なう。測定が終了である場合は、測定を終了する。
【0029】
前述のS8とS12において、FCSの相関カーブは下記の(1)式を用いて計算する。遅延時間τでの相関値は、ある時間tの蛍光信号と時間(t+τ)の蛍光信号との積和の平均値を時間tの蛍光信号の平均値の2乗で割った値で与えられる。
【数1】
【0030】
本来ならば、蛍光強度信号に含まれるノイズ信号をそのまま除去することが望ましいが、除去の対象であるノイズはバックグラウンドノイズであるため、ノイズの平均値は大きく変動しないと考えてよい。このため、ノイズ信号が蛍光強度信号と同じ時間帯に測定したものでなくも、蛍光強度信号に含まれるノイズ信号とほぼ同じ信号を除去できる。また、相関カーブの取得には(1)式を用いて大量のデータの平均値を求める統計的な演算を行なうため、演算結果が大きく変わることはない。
【0031】
S11におけるノイズ処理のモデル図を図3に示す。図3は、ノイズ処理前の蛍光データ(A)からノイズデータ(B)を差し引いてノイズデータを含んでいない蛍光データ(C)を取得する様子を表している。図3中の数値は、それぞれ、各サンプリング周期の間に光検出器41が検出するフォトン数を示している。
【0032】
本実施形態に従ってノイズ除去を行なった実験結果を図4〜図8に示す。図4は、光検出器から出力される光強度信号に含まれているノイズに対応するノイズ信号を示している。このノイズ信号は、S3の処理において光検出器41から出力される光強度信号を2μsecでサンプリングしたものである。ノイズ信号強度はおよそ2kHzである。図5は、ノイズを含んでいるノイズ処理前の蛍光信号を示している。この蛍光信号は、S5の処理において光検出器41から出力される光強度信号を2μsecでサンプリングしたものである。図6は、図5の蛍光信号に基づいて算出した相関カーブを示している。図7は、ノイズを含んでいないノイズ処理後の蛍光信号を示している。この蛍光信号は、図5の蛍光信号から図4のノイズ信号を差し引いたものである。図8は、図7の蛍光信号に基づいて算出した相関カーブを示している。
【0033】
図7の蛍光信号は、図5の蛍光信号に比べて、ノイズ成分に相当する2kHz程度値が小さくなっており、ノイズ成分が除去されていることが分かる。相関カーブをフィッティングして得られる値N(共焦点領域内に含まれる平均分子数)とt1(拡散時間)の値を比較すると、図6ではNの値は1.838であるのに対し、図8では1.435と小さくなっている。これは、図6ではノイズを分子の蛍光信号とみなして相関カーブを計算していたため、Nの値が図8のNの値に比べて大きくなったと考えられる。拡散時間に関しては、図6では4.479×10−5secであるのに対し、図8では4.599×10−5secと大きくなっている。これは、図8ではノイズ除去によって相関カーブの振幅が大きくなり、それに伴い半値幅のx軸の値が右にシフトしたため、図6に比べてt1の値が大きくなったと考えられる。
【0034】
以上のように、上述したノイズ除去を行なったことにより、予想通りの傾向を示す結果が得られた。
【0035】
本実施形態によれば、試料Sから発せられる光のゆらぎの相関を、バックグラウンドノイズの影響を除去して求める簡単な構成の光信号分析装置が提供される。
【0036】
ノイズデータの記憶(測定と保存)は、種々のタイミングで行なってよい。例えば、装置の起動時に行なってよい。あるいは、試料Sから発せられる光のゆらぎの検出を開始する前に行なってもよい。また、ノイズ処理を行なう前に行なってもよい。さらには、装置の起動から所定時間が経過した後に行なってよい。所定時間は、装置内部の温度が実質的に飽和する温度に達するのに必要とする時間に基づいて決定されるとよい。
【0037】
本実施形態では、ノイズ処理後の蛍光データを利用して相関演算を行なうほかに、ノイズ処理前データ(ノイズを含んでいる蛍光データ)を利用して相関演算を行なうために、蛍光記憶部42を有しているが、ノイズ処理前データを利用した相関演算を行なわない場合には、蛍光記憶部42を省いてもよい。
【0038】
<第二実施形態>
光検出器41から出力される光強度信号に含まれるノイズには、バックグラウンドノイズの他にも、励起光の漏れがある。励起光は、通常は、蛍光だけを透過するダイクロイックミラー22や蛍光フィルター27によって除去される。しかし、励起光の強度が強い場合には、励起光がフィルターなどで100%除去しきれずに、光検出器41に到達することがある。
【0039】
本実施形態では、バックグラウンドノイズの除去に加えて、励起光の漏れによるノイズの除去に向けられている。ノイズの除去は、基本的には、図2のフローチャートと同様に行なう。ただし、以下の点が相違する。
【0040】
S1の測定準備において、試料Sに代えて、蛍光を発しない試料代替品、例えばスライドガラスなどをステージ31上に配置する。
【0041】
S3のノイズ測定において、試料代替品に励起光を照射している状態で、光検出器41から出力される光強度信号を調べる。
【0042】
そのほかの処理は第一実施形態と同様である。
【0043】
本実施形態に従ってノイズ除去を行なった実験結果を図9〜図13に示す。図9は、レーザー10の出力10%における励起光の漏れによるノイズ信号を示している。図10は、ノイズを含んでいるノイズ処理前の蛍光信号を示している。図11は、図10の蛍光信号に基づいて算出した自己相関カーブを示している。図12は、ノイズを含んでいないノイズ処理後の蛍光信号を示している。この蛍光信号は、図10の蛍光信号から図9のノイズ信号を差し引いたものである。図13は、図12の蛍光信号に基づいて算出した自己相関カーブを示している。
【0044】
この実験では、励起光の漏れによるノイズを測定するための試料代替品には濾過水(MilliQ水)を用い、蛍光を測定する際の実際の試料Sにはローダミングリーン(R6G(30NM))の溶液を用いた。
【0045】
図11と図13を比較して分かるように、ノイズ処理を行なって求めた平均分子数Nの値が、ノイズ処理を行なわずに求めた平均分子数Nの値より小さくなっており、予想していた結果となった。これは、励起光の漏れによるノイズを試料Sから発せられた蛍光とみなして、実際より多くの試料分子から蛍光が発せられていると解釈され、実際の平均分子数より大きな値になったと考えられる。
【0046】
本実施形態によれば、試料Sから発せられる光のゆらぎの相関を、励起光の漏れによるノイズの影響とバックグラウンドノイズによる影響とを共に除去して求める簡単な構成の光信号分析装置が提供される。
【0047】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態による光信号分析装置を概略的に示している。
【図2】図1の光信号分析装置の動作のフローチャートである。
【図3】ノイズを含んでいるノイズ処理前の蛍光データからノイズデータを差し引くことにより、ノイズを含んでいない蛍光データを取得する様子を表したモデル図である。
【図4】第一実施形態におけるバックグラウンドノイズによるノイズ信号を示している。
【図5】第一実施形態におけるノイズ処理前の蛍光信号を示している。
【図6】図5の蛍光信号に基づいて算出した相関カーブを示している。
【図7】第一実施形態におけるノイズ処理後の蛍光信号を示している。
【図8】図7の蛍光信号に基づいて算出した相関カーブを示している。
【図9】第二実施形態における励起光の漏れによるノイズ信号を示している。
【図10】第二実施形態におけるノイズ処理前の蛍光信号を示している。
【図11】図10の蛍光信号に基づいて算出した自己相関カーブを示している。
【図12】第二実施形態におけるノイズ処理後の蛍光信号を示している。
【図13】図12の蛍光信号に基づいて算出した自己相関カーブを示している。
【符号の説明】
【0049】
10…レーザー、20…蛍光抽出部、21…ミラー、22…ダイクロイックミラー、23…収束レンズ、24…ピンホール、25…コリメートレンズ、26…収束レンズ、27…蛍光フィルター、30…顕微鏡部、31…ステージ、32…対物レンズ、33…ミラー、40…処理部、41…光検出器、42…蛍光記憶部、43…相関演算部、44…ノイズ記憶部、45…ノイズ処理部、46…表示部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から発せられる光のゆらぎの相関を求める光信号分析装置であって、
受けた光の強度に対応する光強度信号を出力する光検出器と、
前記光検出器から出力される光強度信号に含まれるノイズに対応するノイズデータをあらかじめ記憶するノイズデータ記憶手段と、
前記光強度信号に対応する光強度データから前記ノイズデータを差し引いた処理データを出力するノイズ処理手段と、
前記処理データを利用して相関演算を行なう相関演算手段とを有することを特徴とする光信号分析装置。
【請求項2】
前記ノイズデータは、前記試料から発せられる前記光が前記光検出器に入射していないときに前記光検出器から出力される前記光強度信号に対応するデータであることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項3】
前記ノイズデータは、起動時に前記ノイズデータ記憶手段に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項4】
前記ノイズデータは、前記試料から発せられる前記光のゆらぎの検出を開始する前に前記ノイズデータ記憶手段に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項5】
前記ノイズデータは、前記ノイズ処理手段による処理を行なう前に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項6】
前記ノイズデータは、起動から所定時間が経過した後に前記ノイズデータ記憶手段に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項7】
前記所定時間は、装置内部の温度が実質的に飽和する温度に達するのに必要とする時間に基づいて決定されることを特徴とする請求項6に記載の光信号分析装置。
【請求項8】
前記相関演算はさらに、前記光強度データを利用して相関演算を行なうことを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項1】
試料から発せられる光のゆらぎの相関を求める光信号分析装置であって、
受けた光の強度に対応する光強度信号を出力する光検出器と、
前記光検出器から出力される光強度信号に含まれるノイズに対応するノイズデータをあらかじめ記憶するノイズデータ記憶手段と、
前記光強度信号に対応する光強度データから前記ノイズデータを差し引いた処理データを出力するノイズ処理手段と、
前記処理データを利用して相関演算を行なう相関演算手段とを有することを特徴とする光信号分析装置。
【請求項2】
前記ノイズデータは、前記試料から発せられる前記光が前記光検出器に入射していないときに前記光検出器から出力される前記光強度信号に対応するデータであることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項3】
前記ノイズデータは、起動時に前記ノイズデータ記憶手段に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項4】
前記ノイズデータは、前記試料から発せられる前記光のゆらぎの検出を開始する前に前記ノイズデータ記憶手段に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項5】
前記ノイズデータは、前記ノイズ処理手段による処理を行なう前に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項6】
前記ノイズデータは、起動から所定時間が経過した後に前記ノイズデータ記憶手段に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【請求項7】
前記所定時間は、装置内部の温度が実質的に飽和する温度に達するのに必要とする時間に基づいて決定されることを特徴とする請求項6に記載の光信号分析装置。
【請求項8】
前記相関演算はさらに、前記光強度データを利用して相関演算を行なうことを特徴とする請求項1に記載の光信号分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−107111(P2008−107111A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287909(P2006−287909)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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