説明

光偏向器

【課題】3次元方向に偏向を行うことができる光偏向器を提供する。
【解決手段】電界を印加することにより、電界の方向に沿って屈折率分布を線形に変化させることができる電気光学物質12の領域を備え、この領域の光Lの入射境界面及び領域からの光の出射境界面の双方又はいずれか一方における、電界の方向に直交する面内での光の屈折と、屈折率分布に従った光の屈折とによって、光を偏向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力された光を3次元的に偏向させて出力することができる光偏向器に関する。
【背景技術】
【0002】
光ビームを偏向する技術は、走査型電子顕微鏡や、レーザプリンタや、バーコードスキャナや、光クロスコネクトなどの幅広い分野で使用されている。
【0003】
光ビームを偏向させる手法としては、回転ミラーや、音響光学効果や、電気光学効果などが利用されている。例えば、光通信分野で用いられる光クロスコネクトでは、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を利用した微小なミラーが用いられている。この光クロスコネクトは、ミラーの角度を機械的に制御することにより、数十〜一千チャネルの回線を取り扱うことができる。
【0004】
しかし、MEMS技術を利用した光偏向器は、ミラーを機械的に駆動する必要がある。そのため、偏向角の切替え時間を約1m秒よりも短縮することができない。
【0005】
その点、電気光学効果を利用した偏向素子は、原理的に高速に偏向角を切替えることが可能である(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0006】
また、近年、空間電荷を誘電体内に注入することにより、電界と同一方向の屈折率分布を誘電体内に発生させ、光ビームを偏向させる素子が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【特許文献1】米国特許第6449084号明細書
【特許文献2】米国特許第6947625号明細書
【非特許文献1】Koichiro Nakamura,Jun Miyazu,Masahiro Sasaura and Kazuo Fujiura,「Wide−angle,low−voltage electro−optic beam deflection based on space−charge−controlled mode of electrical conduction in KTa1−XNbXO3」,APPLIED PHYSICS LETTERS 89,131115(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2並びに非特許文献1に開示されている光偏向器は、入射光を含む平面内でしか、光を偏向させて出射させることができないという問題点があった。
【0008】
この発明は、このような問題点に鑑みなされたものである。したがって、この発明の目的は、光偏向器への入射光を3次元的に偏向した出射光として出射することができる光偏向器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的の達成を図るために、この発明による光偏向器は、以下に説明するような構成上の特徴を有している。
【0010】
この発明の第1の要旨による光偏向器は、電界が印加されることにより、電界の方向に沿って屈折率分布が線形に変化する、電気光学物質の作用領域を備えている。
【0011】
作用領域の光の入射境界面及び作用領域からの光の出射境界面の双方又はいずれか一方における、電界の方向に直交する面内での光の屈折と、屈折率分布に従った光の屈折とによって、光を偏向させる。
【0012】
この第1の要旨の光偏向器の構成によれば、電界の強さと、光の入射角及び/又は出射角を考慮して出射光の入射光に対する偏向の向きと大きさを決めることができる。
【0013】
上述の光偏向器の実施に当り、電気光学物質は、カー効果により屈折率が変化する材料からなり、作用領域は、光の伝播方向に直列に、少なくとも第1領域、第2領域及び第3領域として設けられている。
【0014】
第1領域は、光の入射境界面に対応する第1面、及び光の出射境界面に対応しかつ第1面に非平行な第2面を備えておいる。
【0015】
第2領域は、光の入射境界面に対応する第3面、及び光の出射境界面に対応しかつ第3面に非平行な第4面を備えている。
【0016】
第3領域は、光の入射境界面に対応する第5面、及び光の出射境界面に対応する第6面を備えている。
【0017】
ここで、第1面と第4面とが互いに平行であり、かつ、第2面と第3面とが互いに平行に対向しており、かつ、第5面と第6面とが平行である。
【0018】
この光偏向器の実施に当り、第1領域は、第1及び第2面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられていて、平面形状が互いに合同な三角形状の第1及び第2端面を有していることが好ましい。
【0019】
また、第2領域は、第3及び第4面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられていて、平面形状が互いに合同な三角形の第3及び第4端面を有していることが好ましい。
【0020】
そして第1及び第2領域は、第2面と第3面とが、平行に対向配置されて、両領域により相俟って底面が平行四辺形の直方体を形成していることが好ましい。
【0021】
また、第3領域は、第5及び第6面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられている第5及び第6端面を有していて、底面が平行四辺形の直方体であることが好ましい。
【0022】
あるいは、第3領域は、第1及び第2領域と形状が同一の2個の第1及び第2副領域を備えていてもよい。
【0023】
また、第1領域の第1端面及び第2端面に第1表面電極及び第1裏面電極がそれぞれ設けられており、第2領域の第3端面及び第4端面に、第2表面電極及び第2裏面電極がそれぞれ設けられており、第3領域の第5端面及び第6端面に、第3表面電極及び第3裏面電極がそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0024】
上述の光偏向器の実施に当り、電気光学物質は、前記電界の方向に沿って、電気光学係数の分布が線形となるように予め形成されていて、電界が印加された場合に、ポッケルス効果により屈折率が、電界の方向に沿って線形な屈折率分布に変化する材料からなるのがよい。
【0025】
作用領域は、光の伝播方向に、直列に第1領域及び第2領域として設けられている。
【0026】
第1領域は、光の入射境界面に対応する第1面、及び光の出射境界面に対応しかつ第1面に非平行な第2面を備えている。
【0027】
第2領域は、光の入射境界面に対応する第3面、及び光の出射境界面に対応する第4面を備えている。
【0028】
そして、第1〜第4面の間に下記のいずれかの条件が成り立つ。
【0029】
条件1:第1面と第4面とが平行に対向し、かつ、第2面と第3面とが互いに平行に対向している。
【0030】
条件2:第3面と第4面とが平行である。
【0031】
また、第1領域は、第1及び第2面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられた第1及び第2端面を有しており、第2領域は、第3及び第4面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられた第3及び第4端面を有していることが好ましい。
【0032】
そして、条件1が成り立つ場合、第1及び第2領域は、端面の平面形状が互いに合同な三角形であり、第1及び第2領域は、第2面と第3面とが、対向配置されて、両領域により相俟って端面の平面形状が平行四辺形の直方体を形成していることが好ましい。
【0033】
この場合において、作用領域は、第1及び第2領域の形状及び配置とそれぞれ同一の形状及び配置を有する第3及び第4領域を更に備え、及び第3及び第4領域は、第1及び第2領域の直列配置に対して、光の伝播方向に、直列に、配置されていることが好ましい。
【0034】
また、条件2が成り立つ場合、第1領域の第1及び第2端面の平面形状は、三角形であり、及び第2領域の第3及び第4端面の平面形状は、平行四辺形であることが好ましい。
【0035】
また、上述の光偏向器の実施に当り、第1領域の第1端面及び第2端面に、第1表面電極及び第1裏面電極がそれぞれ設けられており、第2領域の第3端面及び第4端面に、第2表面電極及び第2裏面電極がそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0036】
あるいは、第1領域の第1端面に第1表面電極が設けられており、第2領域の第3端面に第2表面電極が設けられており、第1領域の第2端面及び第2領域の第4端面は、電気光学物質の面内にあり、電気光学物質の面上に第1及び第2領域に共通する共通裏面電極が設けられていてもよい。
【0037】
上述の光偏向器の実施に当り、電気光学物質は、電界の方向に沿った屈折率の変化が線形となるように、組成が変化していてもよい。
【0038】
また、電気光学物質は、電界の方向に沿った屈折率の変化が線形となるように分極又は結晶格子反転領域の占める比率が変化してもよい。
【0039】
また、この発明の光偏向器アレイは、上述の光偏向器を複数個、基板上に並列したものである。
【0040】
また、この発明の第2の要旨による光偏向器は、電界を印加することにより、カー効果によって電界の方向に沿って屈折率分布を線形に変化させることができる電気光学物質の作用領域であって、それぞれの電界の方向が直交している第1領域及び第2領域を備えている。そして、第1領域の光の入射境界面及び出射境界面の間における屈折率分布に従った光の屈折と、第2領域の光の入射境界面及び出射境界面の間における屈折率分布に従った光の屈折とにより、光を3次元的に偏向させる。
【0041】
この第2の要旨の光偏向器の構成によれば、電界の強さと光の入射角及び/又は出射角を考慮して出射光の入射光に対する偏向の向きと大きさとを決めることができる。
【発明の効果】
【0042】
この発明は、上述のように構成したので、光を3次元方向に偏向可能な光偏向器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。なお、各図は、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係について、この発明が理解できる程度に概略的に示したものにすぎない。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は、以下の実施の形態に何ら限定されない。また、各図において、共通する構成要素には同符号を付し、その説明を省略することもある。
【0044】
(発明の概要)
以下、この発明の基本的な実施形態について説明する。
【0045】
この実施形態の光偏向器は、電気光学物質の作用領域を備えている。この作用領域は、光の入射境界面と出射境界面とを有している。また、作用領域は、入射境界面と出射境界面との間に電界が印加されることにより、この電界の方向に沿って屈折率分布が線形に変化する領域とする。この入射境界面及び出射境界面の双方又はいずれか一方における、電界方向に直交する面内での光の屈折と、屈折率分布に従った光の屈折とによって、光の入射方向に対する光の出射方向を3次元的に偏向させて光を作用領域から出射させる。
【0046】
(実施の形態の概念)
以下、図1を参照して、この実施の形態の光偏向器の基本的な構造の一例とその動作について説明する。図1(A)は、最少の構成要素、つまり1個の作用領域を備えた光偏向器(以下、「光偏向器モデル」と称する。)の斜視図である。図1(B)は、光の偏向の説明に供する図1(A)の平面図である。図1(C)は、光の偏向の説明に供する図1(A)の側面図である。
【0047】
光偏向器モデル11は、直方体状の電気光学物質12を用いて形成されている。この光偏向器モデルの構成では、電気光学物質12は、大きく分けて作用領域14と非作用領域15とに区画される。
【0048】
作用領域14は、電気光学物質12中に設定されていて、外部から電圧を印加することにより、この電圧により発生する電界の方向に沿って屈折率が線形に変化する。電圧の強度が大きくなれば、それに応じて屈折率の変化率も大きくなる。作用領域14は、電界を発生する電極の形状によって画成される。作用領域14にこの電圧を印加するために、作用領域14の両底面には、それぞれ互いに合同の形状を有する直角三角形状の電極17a及び17bが形成されている。従って、この構成例では、作用領域14は、電気光学物質12の第1及び第2主面12c及び12dのそれぞれに、直角三角形状の互いに同形の両底面を有する三角柱の領域である。非作用領域15は、電気光学物質12において、作用領域14を除いた残りの領域である。
【0049】
これらの電極17a及び17bに所定の電圧を印加することにより、作用領域14には、第1主面12cから第2主面12dに向かう方向に沿った電界が発生する。その結果、作用領域14の屈折率が、第1主面12cから第2主面12dに向かう方向に沿って線形に変化する。以降、第1主面12cに垂直であり、かつ第1主面12cから第2主面12dに向かう方向を「深さ方向」と称し、図1(A)に矢印aで示す。また、第1主面12cに平行な面内において、深さ方向に直交する方向を「水平方向」と称し、図1(A)に矢印bで示す。
【0050】
また、作用領域14は、光Lの入射境界面19aと出射境界面19bとを備えている。光偏向器モデル11においては、入射境界面19aは、光Lの伝播方向に対して垂直に延在している。また、出射境界面19bは、光Lの伝播方向に対して傾斜して延在している。
【0051】
上述のように、電圧印加によって、作用領域14の屈折率が変化することにより、作用領域14中の屈折率と、非作用領域15の屈折率との間で差が生じる。その結果、光Lは、入射境界面19a及び出射境界面19bの双方又はいずれか一方において、電界の方向に直交する面内で、つまり水平方向に屈折される。なお、水平方向での光の偏向角は、作用領域14に印加する電圧の大きさで調整することができる。
【0052】
図1(B)に示すように、光偏向器モデル11の場合には、入射境界面19aは、光Lの伝播方向に対して垂直に延在しているので、入射境界面19aでは光Lの屈折は生じない。一方、出射境界面19bは、光Lの伝播方向に対して傾斜して延在しているので、出射境界面19bにおいて、水平方向に光Lの屈折が生じる。つまり、この場合、光Lは、入射境界面19a及び出射境界面19bの内、出射境界面19bで屈折される。
【0053】
図1(C)に示すように、電極17a及び17bへの電圧印加により生じる電界により、作用領域14の屈折率分布が深さ方向に線形に変化する。その結果、光Lは、作用領域14を湾曲屈折光として伝播する過程で、この屈折率分布に従って、屈折率が高くなる方向へと深さ方向に曲げられて、入射光に対し偏向される。深さ方向での光の偏向角は、作用領域14に印加する電圧の大きさ、したがって屈折率の変化の度合いで調整することができる。
【0054】
このように、光偏向器モデル11においては、作用領域14に電圧を印加することにより、作用領域14の屈折率を変化させることができる。結果として、光Lを水平方向及び深さ方向の両方向、つまり3次元方向に偏向することができる。
【0055】
なお、電極17a及び17bに電圧を印加することにより、作用領域14の屈折率分布を変化させるに当っては、後述のようにカー効果又はポッケルス効果を利用することが可能である。
【0056】
これから説明を行う実施の形態1〜5は、いずれも、この光偏向器モデル11の言わば応用例である。すなわち、実施の形態1〜5では、電気光学物質中に作用領域を複数個設けることにより、光の偏光の自由度をより高めている。
【0057】
(実施の形態1)
以下、図2〜図6を参照して、実施の形態1の光偏向器について説明する。
【0058】
(構造)
図2は、光偏向器の概略構成を示す斜視図である。なお、図2において、図面が煩雑となるのを防ぐために、電極は、厚みを無視して平面として描いている。
【0059】
光偏向器10は、電気光学物質12と、電気光学物質12の内部に、第1、第2及び第3領域として設けられた作用領域14とを備えている。
【0060】
電気光学物質12は、両端面12a及び12bの平面形状が正方形状の直方体である。一方の端面12aは、電気光学物質12に、伝播方向(図中矢印A)に沿った光Lが入力される面となっている。また、一方の端面12aに対向する他方の端面12bは、電気光学物質12から、偏向された光Lが出力される面となっている。
【0061】
また、電気光学物質12は、後述する第1〜第3表面電極22a,24a及び26aが形成されている第1主面12cと、後述する第1〜第3裏面電極22b,24b及び26bが形成される第2主面12dとを備えている。以降、第1主面12cに垂直であり、かつ第1主面12cから第2主面12dに向かう方向を「深さ方向a」と称する。また、第1主面12cに平行な面内において、深さ方向に直交する方向を「水平方向b」と称する。
【0062】
電気光学物質12は、深さ方向に沿った電界を印加することにより、電界の方向に沿って屈折率を線形に変化させることができる材料を用いて形成されている。
【0063】
ここで、「線形」とは、電界の方向に沿って、第1主面12cから測った電気光学物質12中における距離と、電気光学物質12の屈折率との間に1次関数が成立することを示す。
【0064】
より詳細には、電気光学物質12は、電界印加に伴う電荷注入により、カー効果に基づいて、印加した電界強度の2乗に比例して屈折率が電界の方向に沿って線形に変化する材料で構成されている。ここで、電気光学物質12としては、好ましくは、例えばKTa1−XNb(ただしXは、0<X<1である。)を用いることができる。
【0065】
ここで、「カー効果」とは、媒質(電気光学物質12)に印加された電界の強さの2乗に比例して、当該媒質(電気光学物質12)の屈折率が変化する効果のことを示す。
【0066】
作用領域14は、光Lの伝播方向に沿って、電気光学物質12中に直列に、互いに離間して3個設けられている。これらの作用領域14は、光Lの伝播方向の上流側から、第1領域16、第2領域18及び第3領域20の順番で配置されている。
【0067】
第1領域16には、第1表面電極22aと第1裏面電極22bとが設けられている。以下、両電極22a及び22bを特に区別する必要がない場合には、「第1電極対22」と称する。
【0068】
第1表面電極22aは、平面形状が直角三角形であり、第1主面12cに設けられている。ここで、第1表面電極22aが設けられている第1主面12cの領域を「第1領域16の一方の端面16a」と称する。
【0069】
第1裏面電極22bは、第1表面電極22aと形状が合同であり、第2主面12dに設けられている。つまり、第1裏面電極22bは、第1表面電極22aの第2主面12dへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、第1裏面電極22bが設けられている第2主面12dの領域を「第1領域16の他方の端面16b」と称する。
【0070】
このように、第1領域16は、第1表面電極22a及び第1裏面電極22bで挟まれた電気光学物質12の領域、つまり、一方の端面16aと他方の端面16bとの間の電気光学物質12で構成される直三角柱状の領域である。
【0071】
第1領域16は、第1領域16への光Lの入射境界面に対応する側面である第1面16cを備えている。第1面16cは、電気光学物質12の一方の端面12a側に、この端面12aに対して平行に位置している。この構成例では、光Lは、入射光として、この第1面16cに対して垂直に入射する。
【0072】
また、第1領域16は、第1領域16からの光Lの出射境界面に対応する側面である第2面16dを備えている。第2面16dは、電気光学物質12の他方の端面12b側に位置していて、直角三角形の第1表面電極22aの斜辺に沿って形成される側面である。また、第2面16dは、第1面16cに対して非平行に延在するとともに、光Lの伝播方向に対して、直角以外の角度で交差している。
【0073】
第1領域16において、第1面16c及び第2面16d以外の側面16eは、電気光学物質12の側面と平行に延在している。
【0074】
第2領域18には、第2表面電極24aと第2裏面電極24bとが設けられている。以下、両電極24a及び24bを特に区別する必要がない場合には、「第2電極対24」と称する。
【0075】
第2表面電極24aは、平面形状が第1表面電極22aと合同の直角三角形であり、第1主面12cに設けられている。ここで、第2表面電極24aが設けられている第1主面12cの領域を「第2領域18の一方の端面18a」と称する。
【0076】
第2裏面電極24bは、第2表面電極24aと形状が合同であり、第2主面12dに設けられている。つまり、第2裏面電極24bは、第2表面電極24aの第2主面12dへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、第2裏面電極24bが設けられている第2主面12dの領域を「第2領域18の他方の端面18b」と称する。
【0077】
第2領域18は、第2領域18への光Lの入射境界面に対応する側面である第3面18cを備えている。第3面18cは、電気光学物質12の一方の端面12a側に、第2面16dすなわち出射境界面と平行に位置している。この構成例では、第3面18cは、直角三角形の第2表面電極24aの斜辺に沿って形成される側面である。第2面16dからの光Lが入射光として、第3面18cに直角以外の角度で入射する。
【0078】
また、第2領域18は、第2領域18からの光Lの出射境界面に対応する側面である第4面18dを備えている。第4面18dは、電気光学物質12の他方の端面12b側に、この端面12bと平行に位置していて、第3面18cに対して非平行に延在する。
【0079】
第2領域18において、第1面18c及び第2面18d以外の側面18eは、電気光学物質12の側面と平行に延在している。
【0080】
ここで、第1領域16と第2領域18との位置関係について説明する。これら領域16及び18は、それぞれ対応する面の形状が合同であり、従って、それぞれの領域16及び18は、大きさが同一の直三角柱である。
【0081】
第1領域16の第1面16cは、第2領域18の第4面18dと平行に延在している。そして、第1領域16の第2面16dと、第2領域18の第3面18cとは互いに平行に対向して延在している。つまり、第1及び第2領域16及び18は、相俟って直方体を実質的に形成するように配置されている。
【0082】
第3領域20には、第3表面電極26aと第3裏面電極26bとが設けられている。以下、両電極26a及び26bを特に区別する必要がない場合には、「第3電極対26」と称する。
【0083】
第3表面電極26aは、平面形状が長方形状であり、第1主面12cに設けられている。ここで、第3表面電極26aが設けられている第1主面12cの領域を「第3領域20の一方の端面20a」と称する。
【0084】
第3裏面電極26bは、第3表面電極26aと形状が合同であり、第2主面12dに設けられている。つまり、第3裏面電極26bは、第3表面電極26aの第2主面12dへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、第3裏面電極26bが設けられている第2主面12dの領域を「第3領域20の他方の端面20b」と称する。
【0085】
このように、第3領域20は、第3表面電極26a及び第3裏面電極26bとで挟まれた電気光学物質12の領域、つまり、一方の端面20aと他方の端面20bとの間の電気光学物質12で構成される直方体状の領域である。
【0086】
第3領域20は、第3領域20への光Lの入射境界面に対応する側面である第5面20cを備えている。第5面20cは、電気光学物質12の一方の端面12a側に、この端面12aと平行に位置している。
【0087】
また、第3領域20は、第3領域20からの光Lの出射境界面に対応する側面である第6面20dを備えている。第6面20dは、電気光学物質12の他方の端面12b側に、この端面12bに平行に位置していて、第5面20cと平行である。
【0088】
また、第3領域20において、第5面20c及び第6面20d以外の側面20e及び20fは、電気光学物質12の側面に平行に延在している。
【0089】
ここで、第1〜第3表面電極22a,24a及び26aと第1〜第3裏面電極22b,24b及び26bは、第1〜第3領域16,18及び20のそれぞれに対して、効果的に電荷を注入することができるように、電気光学物質12とオーミック接合している。第1〜第3表面電極22a,24a及び26aと、第1〜第3裏面電極22b,24b及び26bとを構成する材料としては、電気光学物質12との間の仕事関数差の小さい金属、好ましくは、例えばTiやCr等が好適である。
【0090】
(動作)
次に、図3〜図6を参照して、光偏向器10の動作について説明する。
【0091】
まず、第1電極対22及び第2電極対24に所定の電界を印加した場合における光偏向器10の動作について説明する。
【0092】
図3(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図3(B)及び(C)は、図3(A)を矢印B方向から見た側面図である。
【0093】
第1電極対22において、第1表面電極22aに正の電圧を印加し、第1裏面電極22bを接地した場合を考える。なお、この場合、第2及び第3電極対24及び26間には電界が印加されていないものとする。電圧の印加により電界が印加される作用領域では、以下のように屈折率が変化する。しかし、電圧が印加されないため電界が発生しない非作用領域では、屈折率は一定である。
【0094】
この場合、第1裏面電極22bから電子が電気光学物質12に注入されることで、第1裏面電極22b側の電界は減少する。一方、第1表面電極22a側では注入電子の電荷により電界が増大して屈折率が減少する。その結果、図3(B)に示すように、電荷注入に伴うカー効果により、電気光学物質12の屈折率は、第1表面電極22aから第1裏面電極22bにかけて線形に増加するように分布する。
【0095】
その結果、図3(A)に示すように、第1領域16の屈折率が、周囲の電気光学物質12の領域よりも減少する。よって、図3(A)に示すように、第1面16cから第1領域16へと入射した光Lは、第2面16dから出射される。光Lが第2面16dから出射する際に、屈折率の不連続に基づいて図面右側に屈折、つまり偏向される。つまり、この場合には、第1面16c(入射境界面)及び第2面16d(出射境界面)の内、第2面16dにおいて光Lが水平方向に偏向される。
【0096】
また、図3(B)に示すように、電気光学物質12は第1領域16内部において、第1表面電極22aから第1裏面電極22bにかけて線形に増加する屈折率分布を有する。その結果、光Lは、この屈折率分布に従って、第1領域16を通過する際に深さ方向下側へと屈折、つまり偏向される。従って、第1領域16からの出射光は、水平方向の偏光と、水平方法に直交する方向の偏光とが組み合わされた方向に進行する。よって、出射光は入射光に対して3次元的に偏向されている。
【0097】
なお、図3(A)及び(B)の例では、第2及び第3電極対24及び26には電界が印加されていないので、第2及び第3領域18及び20では、光Lは偏向されずに直進し、他方の端面12bから出射するときに屈折される。
【0098】
これまでは、第1表面電極22aを正極とし、及び第1裏面電極22bを接地した場合について説明した。図3(C)は、深さ方向に関して、上述とは逆方向の電界を印加した場合、つまり、第1裏面電極22bを正極とし、及び第1表面電極22aを接地した場合の光Lの偏向の様子を示している。
【0099】
この場合、図3(C)に示すように、電気光学物質12の屈折率は、第1表面電極22aから第1裏面電極22bにかけて線形に減少するように分布する。
【0100】
その結果、水平方向における光Lの偏向は、図3(A)と同様であるが、深さ方向における光Lの偏向は、図3(B)と逆になる。つまり、光Lは、第1領域16の屈折率分布に従って深さ方向上側へと偏向される。
【0101】
次に、図4(A)及び(B)を参照して、第2電極対24のみに電界を印加した場合について説明する。図4(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図4(B)は、図4(A)を矢印C方向から見た側面図である。なお、図4(A)及び(B)においては、第1及び第3電極対22及び26には電界が印加されていないものとする。電圧の印加により電界が印加される作用領域では、以下のように屈折率が変化する。しかし、電圧が印加されないため電界が発生しない非作用領域では、屈折率は一定である。
【0102】
第2電極対24に対して電界を印加した場合も、第1電極対22の場合と同様である。より詳細には、第2表面電極24aを正極とし、及び第2裏面電極24bを接地した場合に第2領域18に生じる屈折率分布は、第1領域16と同様となる。つまり、電荷注入に伴うカー効果により、電気光学物質12の屈折率は、第2表面電極24aから第2裏面電極24bにかけて線形に増加するように分布する。さらに、第2領域18の屈折率が周囲の電気光学物質12よりも減少する。
【0103】
その結果、図4(A)に示すように、水平方向に関しては、第3面18cから第2領域18に入射した光Lは、第3面18cで図面左側に屈折つまり偏向され、第2領域18を直進する。そして、第4面18dから出射される際に、さらに図面左側に偏向される。つまり、この場合には、第3面18c(入射境界面)及び第4面18d(出射境界面)の双方において、光Lが水平方向に偏向される。
【0104】
また、図4(B)に示すように、深さ方向に関しては、第2領域18を伝播する光Lは、第1領域と同様に、第2領域18の屈折率分布に従って、第2領域を通過する際に深さ方向下側へと屈折、つまり偏向される。
【0105】
また、図示はしないが、電界の方向を逆にした場合、つまり、第2表面電極24aを接地し、及び第2裏面電極24bを正極とした場合も第1領域16と同様である。すなわち、水平方向での偏向方向は、図4(A)と同様であるが、深さ方向では偏向方向が図4(B)とは逆方向になり、光Lは深さ方向上側へと偏向される。
【0106】
次に、図5(A)及び(B)を参照して、第1及び第2電極対22及び24に、同方向、かつ同じ大きさ電界を同時に印加した場合について説明する。なお、この場合、第3電極対26には、電界が印加されていないものとする。電圧の印加により電界が印加される作用領域では、以下のように屈折率が変化する。しかし、電圧が印加されないため電界が発生しない非作用領域では、屈折率は一定である。
【0107】
図5(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器10の平面図である。図5(B)は、図5(A)におけるD線に沿った断面切り口を示す図である。
【0108】
ここで、第1及び第2表面電極22a及び24aを正極とし、第1及び第2裏面電極22b及び24bを接地した場合について考える。
【0109】
このとき、図5(A)に示すように、水平方向で見た場合、言わば、第1及び第2領域16及び18が合体することにより、三角プリズム形状が消失する。つまり、光Lが垂直に入射する第1面16cと第4面18dとを備えた、平面形状が長方形状の四角柱形の合体領域が形成される。その結果、この合体領域で、光Lは偏向されることがない。
【0110】
図5(B)に示すように、深さ方向に関しては、光Lは、第1及び第2領域16及び18の双方で、深さ方向下側へと偏向される。よって、光Lは、第1領域16又は第2領域18単独の場合よりも、より大きな偏向角で深さ方向下側へと偏向される。
【0111】
なお、図示はしないが、電界の方向を逆にした場合、つまり、第1及び第2表面電極22a及び24aを接地し、第1及び第2裏面電極22b及び24bを正極とした場合には、深さ方向における光Lの偏向方向は、図5(B)とは逆になる。つまり、この場合には、水平方向では光Lは偏向されないが、深さ方向では、第1領域16又は第2領域18単独の場合よりも、より大きな偏向角で、深さ方向上側へと偏向される。
【0112】
次に、図6(A)〜(C)を参照して、第1及び第3電極対22及び26に対して所定の電界を印加した場合における光偏向器10の動作について説明する。
【0113】
図6(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器10の平面図である。図6(B)及び(C)は、図6(A)を矢印B方向から見た側面図である。
【0114】
図6(A)に示すように、第3領域20は、光Lの入射境界面に対応する側面である第5面20cと、光Lの出射境界面に対応する側面である第6面20dとが平行に延在している。そのため、第3領域20においては、光Lは、水平方向には偏向されない。つまり、第3領域20は、深さ方向にのみ光Lを偏向する。
【0115】
図6(B)は、第3電極対26への印加電界と、第1電極対22への印加電界とが同方向かつ同じ大きさの場合を示している。より詳細には、図6(B)においては、第1表面電極22aを正極として、及び第1裏面電極22bを接地し、並びに、第3表面電極26aを正極とし、及び第3裏面電極26bを接地している。
【0116】
この場合、図6(A)に示すように、光Lは、第1領域16により図面右側に偏向されて第3領域20に入射する。そして、第3領域20に入射した光Lは、この領域20では水平方向には偏向されずに直進する。しかし、光Lは、第3領域20において、深さ方向に偏向される。つまり、第3領域20と第1領域16の深さ方向の屈折率分布は共通となり、それぞれ第1主面12cから第2主面12dにかけて増加する分布を持つ。よって、第1領域16において、深さ方向下側に偏向された光Lは、第3領域20に入射して、さらに深さ方向下側に偏向されて出射される。
【0117】
図6(C)は、第3電極対26への印加電界と、第1電極対22への印加電界が逆方向かつ同じ大きさの場合を示している。より詳細には、図6(C)においては、第1表面電極22aを正極として、及び第1裏面電極22bを接地し、並びに、第3表面電極26aを接地し、及び第3裏面電極26bを正極としている。
【0118】
この場合、第3領域20と第1領域16とで、屈折率分布は逆となる。よって、第1領域16で下方向に偏向された光Lが、第3領域20において、上方向に偏向され、結果として光Lは、深さ方向で偏向されない状態で出射される。
【0119】
(効果)
このように、この実施の形態の光偏向器10は、電気光学物質12の第1及び第2主面12c及び12dに電極を設けるという簡単な構成で、光Lを3次元方向(水平方向と深さ方向の双方)に偏向することができる。
【0120】
また、この実施の形態の光偏向器10は、電気光学物質12の第1及び第2主面12c及び12dにのみ電極が設けられている。その結果、光偏向器10をフォトリソグラフィ技術等の半導体装置の製造法をそのまま利用して作成することができる。結果として、光偏向器の量産性が向上する。
【0121】
(設計条件等)
なお、第1主面12cに存在する第1〜第3表面電極22a,24a及び26aが、互いに近接して存在していると、印加する電界同士が干渉してしまうおそれがある。これは、第2主面12dに存在する第1〜第3裏面電極22b,24b及び26bでも同様である。
【0122】
この電界の干渉を避けるためには、第1〜第3表面電極22a,24a及び26aは、それぞれ電気光学物質の厚み(深さ方向の長さ)以上に離間して配置することが好ましい。これは、第1〜第3裏面電極22b,24b及び26bでも同様である。
【0123】
また、サイズ的な問題により、第1〜第3表面電極22a,24a及び26a(第1〜第3裏面電極22b,24b及び26b)を離間して配置できない場合には、これらの電極の間に溝を設けても良い。このように構成することによっても、各電極22a,24a及び26a(22b,24b及び26b)の間の電界の干渉を防止することができる。なお、この溝は、半導体装置の製造で用いられる、従来周知のダイシング又はドライエッチング等の技術を応用することにより簡単に作成することができる。
【0124】
また、この実施の形態では、光偏向器10に電極対22,24及び26が3個設けられている場合について説明した。しかし、電極対の個数は3個には限定されない。設計に応じて、任意好適な個数とすることができる。
【0125】
また、第3領域20において、第1又は第2領域16又は18と同程度の深さ方向の偏向を生じさせるためには、第3電極対26の光伝播方向に沿った長さを、第1及び第2電極対22及び24の全長よりも短くすることができる。具体的には、第3電極対26の光伝播方向に沿った長さを、第1又は第2領域16又は18中を光Lが実際に伝播する長さと同程度、好ましくは、例えば第1及び第2領域16及び18の1/2程度とすることができる。
【0126】
(応用例)
次に、図7を参照して、光偏向器10の応用例である光偏向器アレイについて説明する。
【0127】
図7は、光偏向器アレイの構成を概略的に示す斜視図である。
【0128】
図7を参照すると、光偏向器アレイ28は、基板上に配置された大面積の平行平板である電気光学物質13に、実施の形態1の光偏向器10(図2)が複数個、並列して作り込まれている。これは、光偏向器10においては、電極が電気光学素子12の第1及び第2主面12c及び12dにのみ設けられていることにより可能となったものである。つまり、光偏向器10においては、第1及び第2主面12c及び12d以外の側面に電極等の構造体が存在しないことにより、複数個の光偏向器10を共通の電気光学物質13に作り込むことが可能となっている。
【0129】
このように、光偏向器10は、第1及び第2主面12c及び12d以外の側面に電極等を有していないので、簡単に集積化することができる。また、光偏向器アレイ28は、製造に当っても、半導体装置で用いられるフォトリソグラフィ技術をそのまま応用できるので、コスト性に優れている。
【0130】
(実施の形態2)
図8〜10を参照して、実施の形態2の光偏向器について説明する。
【0131】
(構造)
図8は、光偏向器の概略構成を示す斜視図である。なお、図8において、図面が煩雑となるのを防ぐために、電極は、厚みを無視して平面として描いている。
【0132】
この実施の形態の光偏向器32は、電気光学物質12中に形成された領域の形状及び配置が異なっている以外は、実施の形態1の光偏向器10と同様に構成されている。そこで、以降、主にこれらの相違点について説明する。
【0133】
光偏向器32は、電気光学物質12と、電気光学物質12の内部に設けられた3個の作用領域34とを備えている。
【0134】
3個の作用領域34は、光Lの伝播方向に沿って、電気光学物質12中に直列して設けられている。これらの作用領域34は、光の伝播方向の上流側から、第1領域36、第2領域38、及び第3領域40の順番で配置されている。
【0135】
第3領域40は、さらに、2個のサブ領域42及び43に分割されている。これらのサブ領域を第1サブ領域42及び第2サブ領域43とそれぞれ称する。詳細は後述するが、第1及び第2サブ領域42及び43は、互いにその形状が合同であり、かつ、それぞれ第1及び第2領域36及び38とも形状が合同である。なお、第1及び第2サブ領域42及び43が、上述した「第3副領域」に対応する。
【0136】
第1領域36には、第1表面電極44aと第1裏面電極44bとが設けられている。以下、両電極44a及び44bを特に区別する必要がない場合には、「第1電極対44」と称する。
【0137】
第1表面電極44aは、平面形状が二等辺三角形であり、その底辺を光Lの伝播方向と平行にして、第1主面12cに設けられている。ここで、第1表面電極44aが設けられている第1主面12cの領域を「第1領域36の一方の端面36a」と称する。
【0138】
第1裏面電極44bは、第1表面電極44aと形状が合同であり、第2主面12dに設けられている。つまり、第1裏面電極44bは、第1表面電極44aの第2主面12dへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、第1裏面電極44bが設けられている第2主面12dの領域を「第1領域36の他方の端面36b」と称する。
【0139】
このように、第1領域36は、第1表面電極44a及び第1裏面電極44bとで挟まれた電気光学物質12の領域、つまり、一方の端面36aと他方の端面36bとの間の電気光学物質12で構成される直三角柱状の領域である。
【0140】
第1領域36は、第1領域36への光Lの入射境界面に対応する側面である第1面36cを備えている。第1面36cは、電気光学物質12の一方の端面12a側に位置していて、光Lが直角以外の角度で入射する。
【0141】
また、第1領域36は、第1領域36からの光Lの出射境界面に対応する側面である第2面36dを備えている。第2面36dは、電気光学物質12の他方の端面12b側に位置している。この構成例では、第2面36dは、第1面36cに対して非平行に延在する側面である。第2面36dは、第1面36cからの光Lが直角以外の角度で出射する。
【0142】
また、第1領域36において、第1面36c及び第2面36d以外の側面36eは、電気光学物質12の側面と平行に延在している。
【0143】
第2領域38には、第2表面電極46aと第2裏面電極46bとが設けられている。以下、両電極46a及び46bを特に区別する必要がない場合には、「第2電極対46」と称する。
【0144】
第2表面電極46aは、平面形状が第1表面電極44aと合同の二等辺三角形であり、底辺を光Lの伝播方向と平行にして、第1主面12cに設けられている。ここで、第2表面電極46aが設けられている第1主面12cの領域を「第2領域38の一方の端面38a」と称する。
【0145】
第2裏面電極46bは、第2表面電極46aと形状が合同であり、第2主面12dに設けられている。つまり、第2裏面電極46bは、第2表面電極46aの第2主面12dへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、第2裏面電極46bが設けられている第2主面12dの領域を「第2領域38の他方の端面38b」と称する。
【0146】
このように、第2領域38は、第2表面電極46a及び第2裏面電極46bとで挟まれた電気光学物質12の領域、つまり、一方の端面38aと他方の端面38bとの間の電気光学物質12で構成される直三角柱状の領域である。
【0147】
第2領域38は、第2領域38への光Lの入射境界面に対応する側面である第3面38cを備えている。第3面38cは、電気光学物質12の一方の端面12a側に位置していて、光Lが直角以外の角度で入射する。
【0148】
また、第2領域38は、第2領域38からの光Lの出射境界面に対応する側面である第4面38dを備えている。第4面38dは、電気光学物質12の他方の端面12b側に位置している。この構成例では、第4面38dは、第3面38cに対して非平行に延在する。第4面38dは、第3面38cからの光Lが直角以外の角度で出射する。
【0149】
また、第2領域38において、第1面38c及び第2面38d以外の側面38eは、電気光学物質12の側面と平行に延在している。
【0150】
第3領域40は、第1サブ領域42及び第2サブ領域43を含んでいる。
【0151】
第1サブ領域42には、第1領域36と合同な立体形状を有していて、第1領域36を光Lの伝播方向に平行移動した位置に設けられている。
【0152】
第1サブ領域42は、第1サブ表面電極48aと第1サブ裏面電極48bとが設けられている。以下、両電極48a及び48bを特に区別する必要がない場合には、「第1サブ電極対48」と称する。
【0153】
第1サブ表面電極48aは、平面形状が第1表面電極44aと合同の二等辺三角形であり、底辺を光Lの伝播方向と平行にして、第1主面12cに設けられている。ここで、第1サブ表面電極48aが設けられている第1主面12cの領域を「第1サブ領域42の一方の端面42a」と称する。
【0154】
第1サブ裏面電極48bは、第1サブ表面電極48aと形状が合同であり、第2主面12dに設けられている。つまり、第1サブ裏面電極48bは、第1サブ表面電極48aの第2主面12dへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、第1サブ裏面電極48bが設けられている第2主面12dの領域を「第1サブ領域42の他方の端面42b」と称する。
【0155】
このように、第1サブ領域42は、第1サブ表面電極48a及び第1サブ裏面電極48bとで挟まれた電気光学物質12の領域、つまり、一方の端面42aと他方の端面42bとの間の電気光学物質12で構成される直三角柱状の領域である。
【0156】
第1サブ領域42は、第1サブ領域42への光Lの入射境界面に対応する側面である第1サブ面42cを備えている。第1サブ面42cは、電気光学物質12の一方の端面12a側に位置していて、光Lが直角以外の角度で入射する。なお、ここで、第1サブ面42cが、上述した「第3領域40の第5面」に対応する。
【0157】
また、第1サブ領域42は、第1サブ領域42からの光Lの出射境界面に対応する側面である第2サブ面42dを備えている。第2サブ面42dは、電気光学物質12の他方の端面12b側に位置している。この構成例では、第2サブ面42dは、第1サブ面42cに対して非平行に延在する。第2サブ面42dは、第1サブ面42cからの光Lが直角以外の角度で出射する。
【0158】
また、第1サブ領域42において、第1サブ面42c及び第2サブ面及び42d以外の側面42eは、電気光学物質12の側面と平行に延在している。
【0159】
第2サブ領域43には、第2領域38と合同な立体形状を有していて、第2領域38を光Lの伝播方向に平行移動した位置に設けられている。
【0160】
第2サブ領域43には、第2サブ表面電極50aと第2サブ裏面電極50bとが設けられている。以下、両電極50a及び50bを特に区別する必要がない場合には、「第2サブ電極対50」と称する。
【0161】
第2サブ表面電極50aは、平面形状が第2表面電極46aと合同の二等辺三角形であり、底辺を光Lの伝播方向と平行にして、第1主面12cに設けられている。ここで、第2サブ表面電極50aが設けられている第1主面12cの領域を「第2サブ領域43の一方の端面43a」と称する。
【0162】
第2サブ裏面電極50bは、第2サブ表面電極50aと形状が合同であり、第2主面12dに設けられている。つまり、第2サブ裏面電極50bは、第2サブ表面電極50aの第2主面12dへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、第2サブ裏面電極50bが設けられている第2主面12dの領域を「第2サブ領域43の他方の端面43b」と称する。
【0163】
このように、第2サブ領域43は、第2サブ表面電極50a及び第2サブ裏面電極50bとで挟まれた電気光学物質12の領域、つまり、一方の端面43aと他方の端面43bとの間の電気光学物質12で構成される直三角柱状の領域である。
【0164】
第2サブ領域43は、第2サブ領域43への光Lの入射境界面に対応する側面である第3サブ面43cを備えている。第3サブ面43cは、電気光学物質12の一方の端面12a側に位置していて、光Lが直角以外の角度で入射する。
【0165】
また、第2サブ領域43は、第1サブ領域43からの光Lの出射境界面に対応する側面である第4サブ面43dを備えている。第4サブ面43dは、電気光学物質12の他方の端面12b側に位置している。この構成例では、第4サブ面43dは、第3サブ面43cに対して非平行に延在する。また、第4サブ面43dは、第3サブ面43cからの光Lのが直角以外の角度で出射する。なお、ここで、第4サブ面43dが、上述した「第3領域40の第6面」に対応する。
【0166】
また、第2サブ領域43において、第3サブ面43c及び第4サブ面及び43d以外の側面43eは、電気光学物質12の側面と平行に延在している。
【0167】
(動作)
次に、図9を参照して、光偏向器32の動作について説明する。
【0168】
図9(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図9(B)は、図9(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【0169】
図9(A)は、第1電極対44の第1表面電極44aに正の電圧を印加し、及び第1裏面電極44bを接地し、かつ、第1サブ表面電極48aを接地し、及び第1サブ裏面電極48bに正の電圧を印加した場合を示している。
【0170】
この場合、(実施の形態1)と同様の理由により、第1領域36では、電気光学物質12の屈折率が、深さ方向に線形、つまり第1表面電極44aから第1裏面電極44bにかけて増加するように分布する。逆に、第1サブ領域42では、電気光学物質12の屈折率が、深さ方向に線形、つまり第1サブ表面電極48aから第1サブ裏面電極48bにかけて減少するように分布する。
【0171】
これらの結果、第1領域36及び第1サブ領域42の屈折率が周囲の電気光学物質12よりも減少する。
【0172】
よって、図9(A)に示すように、水平方向においては、第1領域36に入射した光Lは、まず第1面36c及び第2面36dを通過するたびに、図面左側に屈折される。つまり、この場合には、第1面36c(入射境界面)及び第2面36d(出射境界面)の双方において、光Lが水平方向に偏向される。
【0173】
第1領域36から出射された光は、偏向されずに第2領域38を直進し、第1サブ領域42に入射する。第1サブ領域42も、上述のように屈折率が周囲の電気光学物質12よりも減少しているので、光Lは、第1サブ面42c及び第2サブ面42dにおいて、図面左側に屈折されて、出射される。つまり、この場合には、第1サブ面42c(入射境界面)及び第2サブ面42d(出射境界面)の双方において、光Lが水平方向に偏向される。
【0174】
これらの結果、水平方向においては、光Lは、第1領域36及び第1サブ領域42で同じ方向(図面左側)に偏向される。
【0175】
一方、図9(B)に示すように、深さ方向では、第1領域36においては、光Lは、深さ方向に線形に増加する屈折率分布に従い、深さ方向下側に屈折されて、第1領域36から出射される。そして、偏向されずに第2領域38を直進して、第1サブ領域42へと入射する。ところで、第1サブ領域42の深さ方向における屈折率分布は、第1領域36とは逆に、深さ方向に線形に減少している。よって、第1サブ領域42において、光Lは、深さ方向上側に屈折される。つまり、光Lは、第1領域36で受けた深さ方向下側への偏向とは逆方向の偏向を第1サブ領域42で受ける。結果として、光Lは、深さ方向で偏向されることなく、光偏向器32から出射される。
【0176】
次に、図10を参照して、第1領域36と第2領域38とに、同方向の電界を印加し、かつ第1及び第2サブ領域42及び43に電界を印加しない場合について説明する。
【0177】
図10(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図10(B)は、図10(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【0178】
図10(A)及び(B)に示すように、第1及び第2表面電極44a及び46aに正の電圧を印加し、かつ第1及び第2裏面電極44b及び46bを接地し、さらに第1及び第2サブ領域42及び43に電界を印加しない場合、光Lは、水平方向には偏向されることなく、深さ方向下側へのみ大きく偏向される。
【0179】
図示はしないが、上述とは逆に電界を印加した場合、つまり、第1及び第2表面電極44a及び46aを接地し、かつ第1及び第2裏面電極44b及び46bに正の電圧を印加し、さらに第1及び第2サブ領域42及び43に電界を印加しない場合、光Lは、水平方向には偏向されることなく、深さ方向上側へのみ大きく偏向される。
【0180】
次に図11を参照して、第2領域38と第2サブ領域43とに同方向の電界を印加し、第1領域36と第1サブ領域42とに電界を印加しない場合について説明する。
【0181】
図11(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図11(B)は、図11(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【0182】
図11(A)及び(B)に示すように、第2表面電極46a及び第2サブ表面電極50aを接地し、かつ第2裏面電極46b及び第2サブ裏面電極50bに正の電圧を印加し、さらに第1及び第1サブ領域36及び42に電界を印加しない場合、光Lを水平方向右側かつ深さ方向上側に偏向させることができる。
【0183】
図示はしないが、上述とは逆に電界を印加した場合、つまり、第2表面電極46a及び第2サブ表面電極50aに正の電圧を印加し、かつ第2裏面電極46b及び第2サブ裏面電極50bを接地し、さらに第1及び第1サブ領域36及び42に電界を印加しない場合、光Lを水平方向左側かつ深さ方向下側に偏向させることができる。
【0184】
(効果、設計条件及び応用例)
このように構成されている光偏向器32は、実施の形態1の光偏向器10と同様の効果を奏する。
【0185】
また、光偏向器32では、光偏向器10の場合と同様に、電極の電界の干渉を防ぐために、各電極を電気光学物質12の厚み以上に離間させるか、又は各電極の間に溝を設けることが好ましい。
【0186】
また、光偏向器10の場合と同様、光偏向器32に設ける電極対44,46,48及び50は、4対には限定されない。設計に応じて、任意好適な個数とすることができる。例えば、電極対44,46,48及び50の組を、光Lの伝播方向に沿って、電気光学物質12に直列に2組以上設けてもよい。
【0187】
また、光偏向器32は、光偏向器10の場合と同様に、アレイ化することが可能である。
【0188】
(実施の形態3)
以下、図12〜図16を参照して、実施の形態3の光偏向器について説明する。
【0189】
実施の形態3の光偏向器は、ポッケルス効果を用いて、光の偏向を行う点が実施の形態1及び2の光偏向器と異なっている。
【0190】
ここで、「ポッケルス効果」とは、媒質に印加された電界の強さの1乗に比例して、当該媒質の屈折率が変化する効果のことを示す。
【0191】
図12は、光偏向器の概略構成を示す斜視図である。なお、図12において、図面が煩雑となるのを防ぐために、電極は、厚みを無視して平面として描いている。
【0192】
図12を参照すると、光偏向器52は、電気光学物質54と、電気光学物質54の内部に設けられた2個以上の作用領域56とを備えている。
【0193】
光偏向器52は、以下に列記する点を除いて、実施の形態1の光偏向器10と同様の構造を有している。
(1)電気光学物質54として、予め電気光学係数が深さ方向に線形に分布しているものを用いている。
(2)裏面電極66が各表面電極62a及び64aに対して共通に1個のみ設けられている。
(3)光偏向器10で設けられていた第3領域20が存在しない。
(4)各表面電極62a及び64aと裏面電極66はオーミック電極でない。あるいは、キャリア注入に対して逆バイアスとする。
【0194】
そこで、以降、主にこれらの相違点について説明する。
【0195】
電気光学物質54は、両端面54a及び54bの平面形状が正方形状の四角柱である。端面54aは、電気光学物質54に、伝播方向(図中矢印A)に沿った光Lが入力される面となっている。以降、端面54aを「一方の端面54a」とも称する。また、端面54bは、電気光学物質54から光Lが出力される面となっている。以降、端面54bを「他方の端面54b」とも称する。
【0196】
また、電気光学物質54は、後述する第1及び第2表面電極62a及び64aが形成されている第1主面54cと、後述する裏面電極66が形成される第2主面54dとを備えている。以降、第1主面54cから第2主面54dに向かう方向を「深さ方向」と称し、及び第1主面54cの面内において、深さ方向に直交する方向を「水平方向」と称する。
【0197】
電気光学物質54は、深さ方向に沿って電気光学係数の分布が線形となるように予め形成されている点が、実施の形態1及び2の電気光学物質12と異なっている。
【0198】
より詳細には、電気光学物質54は、深さ方向に組成等を変えることにより、予め深さ方向の電気光学係数の分布を線形に増加させている。このような材料としては、好ましくは、例えばKTa1−XNb(ただしXは、0<X<1である。)において、Xの値を深さ方向に線形に増加させたものを用いることができる。
【0199】
このような電気光学物質54に電界を印加すると、ポッケルス効果により、印加電界の正負(プラス又はマイナス)により、屈折率の変化の方向を制御することができる。つまり、印加電界の正負によって、電気光学物質の屈折率分布を深さ方向に線形に増加(印加電圧:プラス)させることも、逆に線形に減少(印加電圧:マイナス)させることもできる。
【0200】
なお、このように深さ方向に電気光学係数を予め線形に変化させた電気光学物質54としては、上述したKTa1−XNbの他に、組成を深さ方向に線形に変化させた、InGaAsP等の化合物半導体を用いることができる。また、電気光学物質54としては、分極又は結晶格子反転領域の占める比率が深さ方向に線形に変化しているLiNbO等の材料を用いることができる。
【0201】
作用領域56は、光Lの伝播方向に沿って、電気光学物質54中に直列して2個設けられている。これらの作用領域56は、光の伝播方向の上流側から、第1領域58及び第2領域60の順番で配置されている。
【0202】
第1領域58に設けられた第1表面電極62aは、平面形状が直角三角形であり、第1主面54cに設けられている。ここで、第1表面電極62aが設けられている第1主面54cの領域を「第1領域58の一方の端面58a」と称する。また、第1表面電極62aの第2主面54dへの正射影で与えられる領域を「第1領域58の他方の端面58b」と称する。
【0203】
第1領域58は、一方の端面58aと他方の端面58bとの間の電気光学物質54で構成される直三角柱状の領域である。
【0204】
第1領域58は、第1領域58への光Lの入射境界面に対応する側面である第1面58cを備えている。第1面58cは、電気光学物質54の一方の端面54a側に位置していて、光Lが垂直に入射する。
【0205】
また、第1領域58は、第1領域58からの光Lの出射境界面に対応する側面である第2面58dを備えている。第2面58dは、電気光学物質54の他方の端面54b側に位置している。この構成例では、第2面58dは、直角三角形の第1表面電極62aの斜辺に沿って形成される側面である。また、第2面58dは、第1面58cに対して非平行に延在する。第2面58dは、第1面58cからの光Lが直角以外の角度で出射する。
【0206】
また、第1領域58において、第1面58c及び第2面58d以外の側面58eは、電気光学物質54の側面と平行に延在している。
【0207】
第2領域60に設けられた第2表面電極64aは、第1表面電極62aと平面形状が合同の直角三角形であり、第1主面54cに設けられている。ここで、第2表面電極64aが設けられている第1主面54cの領域を「第2領域60の一方の端面60a」と称する。また、第2表面電極64aの第2主面54dへの正射影で与えられる領域を「第2領域60の他方の端面60b」と称する。
【0208】
第2領域60は、一方の端面60aと他方の端面60bとの間の電気光学物質54で構成される直三角柱状の領域である。
【0209】
第2領域60は、第2領域60への光Lの入射境界面に対応する側面である第3面60cを備えている。第3面60cは、電気光学物質54の一方の端面54a側に位置していて、第2表面電極64aの斜辺に沿って形成される側面であり、第4面60dに対して非平行に延在するとともに、光Lが直角以外の角度で入射する。
【0210】
また、第2領域60は、第2領域60からの光Lの出射境界面に対応する側面である第4面60dを備えている。この構成例では、第4面60dは、電気光学物質54の他方の端面54b側に位置している。第4面60dは、第3面60cからの光Lが垂直に出射する。
【0211】
また、第2領域60において、第3面60c及び第4面60d以外の側面60eは、電気光学物質54の側面と平行に延在している。
【0212】
ここで、第1領域58と第2領域60との位置関係について説明する。これら領域58及び60は、それぞれ対応する面の形状が合同であり、従って、それぞれの領域58及び60は、大きさが同一の直三角柱である。
【0213】
第1領域58の第1面58cは、第2領域60の第4面60dと平行に延在している。そして、第1領域58の第2面58dと、第2領域60の第3面60cとは互いに平行に対向して延在している。つまり、第1及び第2領域58及び60は、相俟って直方体を実質的に形成するように配置されている。
【0214】
裏面電極66は、電気光学物質54の第2主面54dの全面に設けられている。この裏面電極66は、第1及び第2表面電極62a及び64aに対して、共通電極とされている。
【0215】
また、第1及び第2表面電極62a及び64bと裏面電極66とは、より効果的にポッケルス効果を生じさせるために、電気光学物質54とのオーミック接触性が悪くなるように形成されている。より詳細には、第1及び第2表面電極62a及び64bと裏面電極66の材料としては、好ましくは、例えばPt、Au等の金属が好適である。そして、これらの金属を、好ましくは、例えばフォトリソグラフィーを用いて、第1及び第2表面電極62a及び64bと裏面電極66として作成することがよい。
【0216】
(動作)
以下、図13〜図16を参照して、光偏向器52の動作について説明する。
【0217】
まず、図13を参照して、第1表面電極62aに正の電圧を印加し、裏面電極66を接地した場合について説明する。
【0218】
図13(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図13(B)は、図13(A)を矢印B方向から見た側面図である。
【0219】
第1表面電極62aに正の電圧を印加した場合、電気光学物質54の電気光学係数は、深さ方向、つまり、第1表面電極62aから裏面電極66に向かう方向に線形に増加している。よって、電界の印加で生じるポッケルス効果により、第1領域58の屈折率分布は、深さ方向に線形に増加する分布に変化する。
【0220】
その結果、第1領域58の屈折率が周囲の電気光学物質54よりも大きくなる。よって、図13(A)に示すように、水平方向においては、光Lは、第2面58dで図面左側に屈折、つまり偏向される。この場合には、第1面58c(入射境界面)及び第2面58d(出射境界面)の内、第2面58dにおいて光Lが水平方向に偏向される。
【0221】
図13(B)に示すように、深さ方向においては、第1領域58の屈折率が深さとともに線形に増加するので、光Lは、第1領域58を通過する過程で、深さ方向下側に屈折、つまり偏向される。
【0222】
次に、図14を参照して、第1表面電極62aに負の電圧を印加し、裏面電極66を接地した場合について説明する。
【0223】
図14(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図14(B)は、図13(A)を矢印B方向から見た側面図である。
【0224】
この場合、ポッケルス効果により、第1領域58の屈折率分布は、深さ方向、つまり、第1表面電極62aから裏面電極66に向かう方向に線形に減少する分布に変化する。
【0225】
その結果、第1領域58の屈折率が周囲の電気光学物質54よりも小さくなる。よって、図14(A)に示すように、水平方向においては、光Lは、第2面58dで図面右側に屈折、つまり偏向される。この場合には、第1面58c(入射境界面)及び第2面58d(出射境界面)の内、第2面58dにおいて光Lが水平方向に偏向される。
【0226】
図14(B)に示すように、深さ方向においては、第1領域58の屈折率が深さとともに線形に減少するので、光Lは、第1領域58を通過する過程で、深さ方向上側に屈折、つまり偏向される。
【0227】
次に、図15を参照して、第1及び第2表面電極62a及び64aを組み合わせて用いた場合について説明する。
【0228】
図15(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図15(B)は、図15(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【0229】
第1及び第2表面電極62a及び64aに符合が正で、大きさの等しい電界を印加した場合について考える。この場合、第1及び第2表面電極62a及び64aは協働して、言わば、単一の長方形の電極と同等の作用を奏する。
【0230】
よって、図15(A)に示すように、光Lは、水平方向には偏向されないで直進する。それに対し、図15(B)に示すように、深さ方向においては、第1及び第2領域58及び60の屈折率分布は、互いに等しく、深さとともに増加する。つまり、第1及び第2領域58及び60において、屈折率が第1主面54cから第2主面54dに向かって増加する。その結果、光Lは、第1領域58と第2領域60との両領域でそれぞれ深さ方向下側に偏向される。よって、深さ方向における偏向の程度が、図13(B)の場合よりも大きくなる。
【0231】
図示はしないが、第1及び第2表面電極62a及び64aに符合が負で、大きさの等しい電界を印加した場合も同様であり、光Lは、水平方向には偏向されず、深さ方向上側に大きく偏向される。
【0232】
次に、図16を参照して、第1表面電極62aに正の電圧を印加し、かつ、第2表面電極64aに、第1表面電極62aに印加したと同じ大きさで、符合が負の電圧を印加した場合について説明する。
【0233】
図16(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図16(B)は、図16(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【0234】
この場合、図16(B)に示すように、深さ方向においては、第1領域58の屈折率分布と第2領域60の屈折率分布とが、相殺し合う。その結果、深さ方向では、光Lの偏向は生じない。
【0235】
それに対し、水平方向においては、図16(A)に示すように、第1領域58の屈折率が周囲の電気光学物質54よりも大きくなる。その結果、光Lは、第1領域58の第2面58dで図面左側に偏向される。さらに、第2領域60の屈折率が周囲の電気光学物質54よりも小さいので、光Lは、第3面60c及び第4面60dでさらに図面左側に偏向される。
【0236】
結果として、この場合には、光Lは、深さ方向には偏向されず、水平方向には、図面左側に大きく偏向される。
【0237】
図示はしないが、第1表面電極62aに負の電圧を印加し、かつ、第2表面電極64aに、第1表面電極62aに印加したと同じ大きさで、符合が正の電圧を印加した場合も上述と同様である。つまり、光Lは、深さ方向には偏向されず、水平方向には、図面右側に大きく偏向される。
【0238】
(効果、設計条件及び応用例)
この実施の形態の光偏向器52は、実施の形態1の光偏向器10と同様の効果を奏する。
【0239】
さらに、ポッケルス効果を利用して光Lを偏向させる光偏向器52は、カー効果を用いる光偏向器10及び32よりも少ない電極数で、光Lを同程度の角度範囲で偏向させることができる。
【0240】
光偏向器52では、光偏向器10の場合と同様に、電極の電界の干渉を防ぐために、各電極を電気光学物質54の厚み以上に離間させるか、又は各電極の間に溝を設けることが好ましい。
【0241】
また、光偏向器10の場合と同様、光偏向器52に設ける第1表面電極62a及び第2表面電極64aは、2個には限定されない。設計に応じて、任意好適な個数とすることができる。例えば、電極62a及び64aからなる電極対を、光Lの伝播方向に沿って、電気光学物質12に直列に2組設けてもよい。また、例えば、実施の形態2の光偏向器32のような二等辺三角形状の表面電極を互い違いに直列してもよい。
【0242】
また、光偏向器52は、光偏向器10の場合と同様に、アレイ化することが可能である。
【0243】
また、この実施の形態においては、裏面電極66を、第1及び第2表面電極62a及び64aに対する共通電極とし、第2主面54dの全面に設けた場合について説明した。しかし、裏面電極66は、実施の形態1及び2で示したように、第1及び第2表面電極62a及び64aごとに、それぞれ1個ずつ設けてもよい。このように構成することによっても、光偏向器52は上述したような効果を奏する。
【0244】
(実施の形態4)
以下、図17〜図21を参照して、実施の形態4の光偏向器について説明する。
【0245】
図17は、光偏向器の概略構成を示す斜視図である。なお、図17において、図面が煩雑となるのを防ぐために、電極は、厚みを無視して平面として描いている。
【0246】
実施の形態4の光偏向器70は、電気光学物質54中に設けられた第1及び第2領域72及び74の形状が異なっている以外は、実施の形態3の光偏向器52と同様である。従って、以降、主にこの相違点について説明する。
【0247】
図17を参照すると、光偏向器70において、第1及び第2領域72及び74は、光Lの伝播方向に沿って、電気光学物質54中に直列して2個設けられている。これらの領域72及び74は、光の伝播方向の上流側から、第1領域72及び第2領域74の順番で配置されている。
【0248】
第1領域72には、第1表面電極76aが設けられている。第1表面電極76aは、平面形状が二等辺三角形であり、その底辺を光Lの伝播方向と平行にして、第1主面54cに設けられている。
【0249】
ここで、第1表面電極76aが設けられている第1主面54cの領域を「第1領域72の一方の端面72a」と称する。また、第1表面電極76aの第2主面54dへの正射影で与えられる領域を「第1領域72の他方の端面72b」と称する。
【0250】
第1領域72は、一方の端面72aと他方の端面72bとの間の電気光学物質54で構成される直三角柱状の領域である。
【0251】
第1領域72は、第1領域72への光Lの入射境界面に対応する側面である第1面72cを備えている。第1面72cは、電気光学物質54の一方の端面54a側に位置していて、第2面72dに対して非平行に延在するとともに、光Lが直角以外の角度で入射する。
【0252】
また、第1領域72は、第1領域72からの光Lの出射境界面に対応する側面である第2面72dを備えている。この構成例では、第2面72dは、電気光学物質54の他方の端面54b側に位置している。第2面72dは、第1面72cからの光Lが直角以外の角度で出射する。
【0253】
また、第1領域72において、第1面72c及び第2面72d以外の側面72eは、電気光学物質54の側面と平行に延在している。
【0254】
第2領域74には、第2表面電極78aが設けられている。第2表面電極78aは、平面形状が長方形であり、互いに対向する2辺を光Lの伝播方向に垂直に交差させて、第1主面54cに設けられている。
【0255】
ここで、第2表面電極78aが設けられている第1主面54cの領域を「第2領域74の一方の端面74a」と称する。また、第2表面電極78aの第2主面54dへの正射影で与えられる領域を「第2領域74の他方の端面74b」と称する。
【0256】
第2領域74は、一方の端面74aと他方の端面74bとの間の電気光学物質54で構成される直方体状の領域である。
【0257】
第2領域74は、第2領域74への光Lの入射境界面に対応する側面である第3面74cを備えている。第3面74cは、電気光学物質54の一方の端面54a側に位置していて、第4面74dに対して平行に延在するとともに、光Lが直角に入射する。
【0258】
また、第2領域74は、第2領域74からの光Lの出射境界面に対応する側面である第4面74dを備えている。この構成例では、第4面74dは、電気光学物質54の他方の端面54b側に位置している。第4面74dは、第3面74cからの光Lが直角に出射する。
【0259】
また、第2領域74において、第1面74c及び第2面74d以外の側面74e及び74fは、電気光学物質54の側面と平行に延在している。
【0260】
ここで、第1領域72と第2領域74との位置関係について説明する。
【0261】
第1領域72の第1面72cと第2面72dとは、互いに非平行に延在している。また、第2領域74の第3面74cと第4面74dとは、互いに平行に延在している。
【0262】
(動作)
以下、図18〜図21を参照して、光偏向器70の動作について説明する。
【0263】
まず、図18を参照して、第1表面電極76aに正の電圧を印加した場合について説明する。
【0264】
図18(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図18(B)は、図18(A)を矢印B方向から見た側面図である。
【0265】
この場合、電気光学物質54の電気光学係数が深さ方向に線形に増加しているので、ポッケルス効果により、第1領域72の屈折率分布は、深さ方向、つまり第1表面電極76aから裏面電極66に向かう方向に線形に増加する分布に変化する。
【0266】
その結果、第1領域72の屈折率が周囲の電気光学物質54よりも大きくなる。よって、図18(A)に示すように、水平方向においては、光Lは、第1及び第2面72c及び72dを通過するたびに図面左側に屈折、つまり偏向される。つまり、この場合には、第1面72c(入射境界面)及び第2面72d(出射境界面)の双方において、光Lが水平方向に偏向される。
【0267】
図18(B)に示すように、深さ方向においては、第1領域72の屈折率が深さとともに線形に増加するので、光Lは、第1領域72を通過する過程で、深さ方向下側に屈折、つまり偏向される。
【0268】
次に、図19を参照して、第1表面電極76aに負の電圧を印加した場合について説明する。
【0269】
図19(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。図19(B)は、図19(A)を矢印B方向から見た側面図である。
【0270】
この場合、ポッケルス効果により、第1領域72の屈折率分布は、深さ方向に線形に減少する分布に変化する。
【0271】
その結果、第1領域72の屈折率が周囲の電気光学物質54よりも小さくなる。よって、図19(A)に示すように、水平方向においては、光Lは、第1及び第2面72c及び72dを通過するたびに、図面右側に屈折、つまり偏向される。つまり、この場合には、第1面72c(入射境界面)及び第2面72d(出射境界面)の双方において、光Lが水平方向に偏向される。
【0272】
図19(B)に示すように、深さ方向においては、第1領域72の屈折率が深さとともに線形に減少するので、光Lは、第1領域72を通過する過程で、深さ方向上側に屈折、つまり偏向される。
【0273】
次に、図20及び図21を参照して、第1及び第2表面電極76a及び78aに所定の電極を印加した場合について説明する。
【0274】
まず始めに、図20(A)及び(B)を参照して、第1及び第2表面電極76a及び78aに同符号の電界を印加した場合について説明する。
【0275】
図20(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器70の平面図である。図20(B)は、図20(A)を矢印B方向から見た側面図である。なお、これらの図においては、第1及び第2表面電極76a及び78aの双方ともに正の電圧を印加した場合を想定している。
【0276】
この場合、第1領域72においては、図18(A)で示したように、光Lは、水平方向に関して図面左側に、かつ深さ方向に関して下側に屈曲されて第2領域74へと出射される。
【0277】
ところで、第2領域74の第3面74cと第4面74dとは平行に延在している。よって、図20(A)に示すように、第2領域74の屈折率の大小に関わりなく、第1領域72から第2領域74へと入射された光Lは、水平方向には偏向されない。
【0278】
一方、第2領域74は、深さ方向に関しては、第1領域72と同様の屈折率分布を有する。すなわち、第2領域74の屈折率は、深さとともに線形に増加する。従って、図20(B)に示すように、光Lは、第2領域74の屈折率分布に従い、深さ方向に関しては下側へと偏向される。
【0279】
以上をまとめると、この場合には、光Lは、水平方向に関しては、第1表面電極76aのみに電界を印加した場合と同様に偏向され、及び深さ方向に関しては、第1表面電極の76aのみに電界を印加した場合よりも、より大きく偏向される。
【0280】
次に、図21(A)及び(B)を参照して、第1及び第2表面電極76a及び78aに異なった符号の電界を印加した場合について説明する。
【0281】
図21(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器70の平面図である。図21(B)は、図21(A)を矢印B方向から見た側面図である。なお、これらの図においては、第1表面電極にプラスの電界を印加し、かつ第2表面電極にマイナスの電界を印加した場合を想定している。
【0282】
この場合、第1領域72においては、図19(A)で示したように、光Lは、水平方向に関して図面左側に、かつ深さ方向に関して下側に屈曲されて第2領域74へと出射される。
【0283】
ところで、第2領域74の第3面74cと第4面74dとは平行に延在している。よって、図21(A)に示すように、第2領域74の屈折率の大小に関わりなく、第1領域72から第2領域74へと入射された光Lは、水平方向には偏向されない。
【0284】
一方、第2領域74は、深さ方向に関しては、第1領域72と逆の屈折率分布を有する。すなわち、第2領域74の屈折率は、深さとともに線形に減少する。従って、図21(B)に示すように、光Lは、第2領域74の屈折率分布に従い、深さ方向に関しては上側へと偏向される。よって、第1領域72の偏向方向と第2領域74の偏向方向とが相殺し合い、深さ方向に関しては、光Lは偏向されない。
【0285】
以上をまとめると、この場合には、光Lは、水平方向に関しては、第1表面電極76aのみに電界を印加した場合と同様に偏向され、及び深さ方向に関しては偏向されない。
【0286】
(効果、設計条件及び応用例)
この実施の形態の光偏向器70は、実施の形態1の光偏向器10と同様の効果を奏する。
【0287】
さらに、ポッケルス効果を利用して光Lを偏向させる光偏向器70は、カー効果を用いる光偏向器10及び32よりも少ない電極数で、光Lを同程度の角度範囲で偏向させることができる。
【0288】
光偏向器70では、光偏向器10の場合と同様に、電極の電界の干渉を防ぐために、各電極を電気光学物質54の厚み以上に離間させるか、又は各電極の間に溝を設けることが好ましい。
【0289】
また、光偏向器10の場合と同様、光偏向器70に設ける第1及び第2表面電極76a及び78aは、2個には限定されない。設計に応じて、任意好適な個数とすることができる。
【0290】
また、光偏向器70は、光偏向器10の場合と同様に、アレイ化することが可能である。
【0291】
また、裏面電極を、実施の形態1及び2で示したように、第1及び第2表面電極76a及び78aごとに、それぞれ1個ずつ設けてもよい。
【0292】
(実施の形態5)
以下、図22〜図24を参照して、実施の形態5の光偏向器について説明する。
【0293】
(構造)
図22は、この実施の形態の光偏向器の概略構成を示す斜視図である。なお、図22において、図面が煩雑となるのを防ぐために、電極は、厚みを無視して平面として描いている。
【0294】
実施の形態5の光偏向器80は、電極を第1及び第2主面12c及び12dのみでなく、電気光学物質12の両側面にも設けた点が、今まで説明した光偏向器とは異なっている。
【0295】
図22を参照すると、光偏向器80は、電気光学物質12と、電気光学物質12の内部に設けられた2個以上の領域82とを備えている。
【0296】
電気光学物質12は、実施の形態1及び2と説明したものと同様である。ただし、この実施の形態における電気光学物質では、第1及び第2主面12c及び12dに直交する左及び右側面12e及び12fにも、後述する電極88a及び88bが設けられている。
【0297】
領域82は、第1領域84と第2領域86とを備える。これらの領域84及び86は、光Lの伝播方向に沿って、直列に配置されている。詳しくは後述するが、第1領域84及び第2領域86とは、それぞれの電界の方向が直交している。
【0298】
第1領域84には、左側面電極88aと右側面電極88bとが設けられている。以下、両電極88a及び88bを特に区別する必要がない場合には、「側面電極対88」と称する。
【0299】
左側面電極88aは、平面形状が長方形であり、左側面12eに設けられている。ここで、左側面電極88aが設けられている左側面12eの領域を「第1領域84の一方の端面84a」と称する。
【0300】
右側面電極88bは、左側面電極88aと形状が合同であり、右側面12fに設けられている。つまり、右側面電極88bは、左側面電極88aの右側面12fへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、右側面電極88bが設けられている右側面12fの領域を「第1領域84の他方の端面84b」と称する。
【0301】
このように、第1領域84は、左側面電極88a及び右側面電極88bで挟まれた電気光学物質12の領域、つまり、一方の端面84aと他方の端面84bとの間の電気光学物質12で構成される直方体の領域である。
【0302】
左側面電極88a及び右側面電極88bに所定の電圧を印加することにより、電気光学物質12の第1領域84には、水平方向の電界が形成される。
【0303】
つまり、側面電極対88に電界を印加することにより、電気光学物質12の屈折率分布を水平方向に沿って線形に変化させることができる。これにより、第1領域84では、光Lを水平方向に沿って偏向させることができる。
【0304】
第2領域86には、表面電極90aと裏面電極90bとが設けられている。以下、両電極90a及び90bを特に区別する必要がない場合には、「主面電極対90」と称する。
【0305】
表面電極90aは、平面形状が長方形であり、第1主面12cに設けられている。ここで、表面電極90aが設けられている第1主面12cの領域を「第2領域86の一方の端面86a」と称する。
【0306】
裏面電極90bは、表面電極90aと形状が合同であり、第2主面12dに設けられている。つまり、裏面電極90bは、表面電極90aの第2主面12dへの正射影に等しい領域に配置されている。ここで、裏面電極90bが設けられている第2主面12dの領域を「第2領域86の他方の端面86b」と称する。
【0307】
このように、第2領域86は、表面電極90a及び裏面電極90bで挟まれた電気光学物質12の領域、つまり、一方の端面86aと他方の端面86bとの間の電気光学物質12で構成される直方体の領域である。
【0308】
表面電極90a及び裏面電極90bに所定の電界を印加することにより、電気光学物質の第2領域86には、深さ方向の電界が形成される。
【0309】
つまり、主面電極対90に電界を印加することにより、電気光学物質12の屈折率分布を深さ方向に沿って線形に変化させることができる。これにより、第2領域86では、光Lを深さ方向に沿って偏向させることができる。
【0310】
(動作)
次に、図23及び図24を参照して、光偏向器80の動作について説明する。
【0311】
まず、図23(A)及び(B)を参照して、左側面電極88aに正の電圧を印加しかつ右側面電極88bを接地し、及び表面電極90aに正の電圧を印加しかつ裏面電極90bを接地した場合について説明する。
【0312】
ここで、図23(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器80の平面図である。図23(B)は、図23(A)を矢印B方向から見た側面図である。
【0313】
この場合、実施の形態1で説明したと同様の理由により、第1領域84においては、屈折率分布は、左側面電極88aから右側面電極88bにかけて線形に増加するように分布する。よって、図23(A)に示すように、第1領域84において、光Lは、深さ方向には偏向されず、水平方向においてのみ図面右側に偏向される。
【0314】
また、第2領域86においては、屈折率分布は、表面電極90aから裏面電極90bにかけて線形に増加するように分布する。よって、図23(B)に示すように、第1領域84を経て第2領域86に入射した光Lは、第2領域86において、水平方向には偏向されず、深さ方向下側にのみ偏向される。
【0315】
つまり、この場合、光Lは、水平方向右側に、かつ深さ方向下側に偏向される。
【0316】
次に、図24(A)及び(B)を参照して、左側面電極88aを接地しかつ右側面電極88bに正の電圧を印加し、及び表面電極90aを接地しかつ裏面電極90bに正の電圧を印加した場合について説明する。
【0317】
ここで、図24(A)は、光Lの伝播径路の説明に供する光偏向器80の平面図である。図24(B)は、図24(A)を矢印B方向から見た側面図である。
【0318】
この場合、第1領域84においては、屈折率分布は、左側面電極88aから右側面電極88bにかけて線形に減少するように分布する。よって、図24(A)に示すように、第1領域84において、光Lは、深さ方向には偏向されず、水平方向においてのみ図面左側に偏向される。
【0319】
また、第2領域86においては、屈折率分布は、表面電極90aから裏面電極90bにかけて線形に減少するように分布する。よって、図24(B)に示すように、第1領域84を経て第2領域86に入射した光Lは、第2領域86において、水平方向には偏向されず、深さ方向上側にのみ偏向される。
【0320】
つまり、この場合、光Lは、水平方向左側に、かつ深さ方向上側に偏向される。
【0321】
(効果)
このように、この実施の形態の光偏向器80においては、電気光学物質12の第1及び第2主面12c及び12dと、左及び右側面12e及び12fに電極を設けるという簡単な構成で、光Lを3次元方向に偏向することができる。
【図面の簡単な説明】
【0322】
【図1】実施の形態の波長変換素子の概略構成を示す図である。(A)は斜視図、(B)は平面図、(C)は側面図である。
【図2】実施の形態1の光偏向器の概略構成を示す斜視図である。
【図3】実施の形態1において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)及び(C)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図4】実施の形態1において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印C方向から見た側面図である。
【図5】実施の形態1において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)におけるD線に沿った断面切り口を示す図である。
【図6】実施の形態1において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)及び(C)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図7】光偏向器アレイの構成を概略的に示す斜視図である。
【図8】実施の形態2の光偏向器の概略構成を示す斜視図である。
【図9】実施の形態2において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、図8(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【図10】実施の形態2において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【図11】実施の形態2において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【図12】実施の形態3の光偏向器の概略構成を示す斜視図である。
【図13】実施の形態3において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図14】実施の形態3において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図15】実施の形態3において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【図16】実施の形態3において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の線Dに沿った断面切り口を示す図である。
【図17】実施の形態4の光偏向器の概略構成を示す斜視図である。
【図18】実施の形態4において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図19】実施の形態4において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図20】実施の形態4において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図21】実施の形態4において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図22】実施の形態5の光偏向器の概略構成を示す斜視図である。
【図23】実施の形態5において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【図24】実施の形態5において、(A)は、光の伝播径路の説明に供する光偏向器の平面図である。(B)は、(A)の矢印B方向から見た側面図である。
【符号の説明】
【0323】
10,32,52,70,80 光偏向器
11 光偏向器モデル
12,13,54 電気光学物質
12a,54a 一方の端面
12b,54b 他方の端面
12c,54c 第1主面
12d,54d 第2主面
12e 右側面
12f 左側面
14,34,56,82 作用領域
15 非作用領域
16,36,58,72,84 第1領域
16a,36a,58a,72a,84a 第1領域の一方の端面
16b,36b,58b,72b,84b 第1領域の他方の端面
16c,36c,58c,72c 第1面
16d,36d,58d,72d 第2面
16e,36e,58e,72e 側面
17a,17b 電極
18,38,60,74,86 第2領域
18a,38a,60a,74a,86a 第2領域の一方の端面
18b,38b,60b,74b,86b 第2領域の他方の端面
18c,38c,60c,74c 第3面
18d,38d,60d,74d 第4面
18e,38e,60e,74e,74f 側面
19a 入射境界面
19b 出射境界面
20,40 第3領域
20a 第3領域の一方の端面
20b 第3領域の他方の端面
20c 第5面
20d 第6面
20e 側面
20f 側面
22,44 第1電極対
22a,44a,62a,76a 第1表面電極
22b,44b 第1裏面電極
24,46 第2電極対
24a,46a,64a,78a 第2表面電極
24b,46b 第2裏面電極
26 第3電極対
26a 第3表面電極
26b 第3裏面電極
28 光偏向器アレイ
42 第1サブ領域
42a 第1サブ領域の一方の端面
42b 第1サブ領域の他方の端面
42c 第1サブ面
42d 第2サブ面
43 第2サブ領域
43a 第2サブ領域の一方の端面
43b 第2サブ領域の他方の端面
43c 第3サブ面
43d 第4サブ面
48 第1サブ電極対
48a 第1サブ表面電極
48b 第1サブ裏面電極
50 第2サブ電極対
50a 第2サブ表面電極
50b 第2サブ裏面電極
66 裏面電極
88 側面電極対
88a 左側面電極
88b 右側面電極
90 主面電極対
90a 表面電極
90b 裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界が印加されることにより、該電界の方向に沿って屈折率分布が線形に変化する、電気光学物質の作用領域を備え、
該作用領域の光の入射境界面及び該作用領域からの光の出射境界面の双方又はいずれか一方における、前記電界の方向に直交する面内での前記光の屈折と、前記屈折率分布に従った前記光の屈折とによって、前記光を偏向させることを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
前記電気光学物質は、カー効果により前記屈折率が変化する材料とし、
前記作用領域は、前記光の伝播方向に直列に、少なくとも第1領域、第2領域及び第3領域として設けられており、
前記第1領域は、前記光の入射境界面に対応する第1面、及び前記光の出射境界面に対応しかつ該第1面に非平行な第2面を備えており、
前記第2領域は、前記光の入射境界面に対応する第3面、及び前記光の出射境界面に対応しかつ該第3面に非平行な第4面を備えており、
前記第3領域は、前記光の入射境界面に対応する第5面、及び前記光の出射境界面に対応する第6面を備えており、
前記第1面と前記第4面とが互いに平行であり、かつ、前記第2面と前記第3面とが互いに平行に対向しており、かつ、前記第5面と前記第6面とが平行であることを特徴とする請求項1に記載の光偏向器。
【請求項3】
前記第1領域は、前記第1及び第2面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられていて、平面形状が互いに合同な三角形状の第1及び第2端面を有しており、
前記第2領域は、前記第3及び第4面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられていて、平面形状が互いに合同な三角形の第3及び第4端面を有しており、
前記第1及び第2領域は、前記第2面と前記第3面とが、平行に対向配置されて、両領域により相俟って底面が平行四辺形の直方体を形成していることを特徴とする請求項2に記載の光偏向器。
【請求項4】
前記第3領域は、前記第5及び第6面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられている第5及び第6端面を有していて、底面が平行四辺形の直方体であることを特徴とする請求項2又は3に記載の光偏向器。
【請求項5】
前記第3領域は、前記第1及び第2領域と形状が同一の2個の第1及び第2副領域を備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の光偏向器。
【請求項6】
前記第1領域の第1端面及び第2端面に第1表面電極及び第1裏面電極がそれぞれ設けられており、
前記第2領域の第3端面及び第4端面に、第2表面電極及び第2裏面電極がそれぞれ設けられており、
前記第3領域の第5端面及び第6端面に、第3表面電極及び第3裏面電極がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の光偏向器。
【請求項7】
前記電気光学物質は、前記電界の方向に沿って、電気光学係数の分布が線形となるように予め形成されていて、前記電界が印加された場合に、ポッケルス効果により屈折率が、前記電界の方向に沿って線形に変化する材料からなり、
前記作用領域は、前記光の伝播方向に、直列に第1領域及び第2領域として設けられており、
前記第1領域は、前記光の入射境界面に対応する第1面、及び前記光の出射境界面に対応しかつ該第1面に非平行な第2面を備えており、
前記第2領域は、前記光の入射境界面に対応する第3面、及び前記光の出射境界面に対応する第4面を備えており、
前記第1〜第4面の間に下記のいずれかの条件が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の光偏向器。
条件1:前記第1面と前記第4面とが平行に対向し、かつ、前記第2面と前記第3面とが互いに平行に対向している。
条件2:前記第3面と前記第4面とが平行である。
【請求項8】
前記第1領域は、前記第1及び第2面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられた第1及び第2端面を有しており、前記第2領域は、前記第3及び第4面に直交しかつ互いに平行に離間して設けられた第3及び第4端面を有しており、
前記条件1が成り立つ場合、前記第1及び第2領域は、端面の平面形状が互いに合同な三角形であり、
前記第1及び第2領域は、前記第2面と前記第3面とが、対向配置されて、両領域により相俟って端面の平面形状が平行四辺形の直方体を形成していることを特徴とする請求項7に記載の光偏向器。
【請求項9】
前記作用領域は、前記第1及び第2領域の形状及び配置とそれぞれ同一の形状及び配置を有する第3及び第4領域を更に備え、及び
該第3及び第4領域は、前記第1及び第2領域の直列配置に対して、前記光の伝播方向に、直列に、配置されていることを特徴とする請求項8に記載の光偏向器。
【請求項10】
前記条件2が成り立つ場合、前記第1領域の第1及び第2端面の平面形状は、三角形であり、及び前記第2領域の第3及び第4端面の平面形状は、平行四辺形であることを特徴とする請求項7に記載の光偏向器。
【請求項11】
前記第1領域の第1端面及び第2端面に、第1表面電極及び第1裏面電極がそれぞれ設けられており、
前記第2領域の第3端面及び第4端面に、第2表面電極及び第2裏面電極がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の光偏向器。
【請求項12】
前記第1領域の第1端面に第1表面電極が設けられており、前記第2領域の第3端面に第2表面電極が設けられており、
前記第1領域の第2端面及び前記第2領域の第4端面は、前記電気光学物質の面内にあり、
該電気光学物質の面上に前記第1及び第2領域に共通する共通裏面電極が設けられていることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の光偏向器。
【請求項13】
前記電気光学物質は、前記電界の方向に沿った屈折率の変化が線形となるように、組成が変化していることを特徴とする請求項7〜12のいずれか一項に記載の光偏向器。
【請求項14】
前記電気光学物質は、前記電界の方向に沿った屈折率の変化が線形となるように分極又は結晶格子反転領域の占める比率が変化していることを特徴とする請求項7〜12のいずれか一項に記載の光偏向器。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の光偏向器を複数個、基板上に並列してなる光偏向器アレイ。
【請求項16】
電界を印加することにより、カー効果によって該電界の方向に沿って屈折率分布を線形に変化させることができる電気光学物質の作用領域であって、それぞれの前記電界の方向が直交している第1領域及び第2領域を備え、
前記第1領域の光の入射境界面及び出射境界面の間における前記屈折率分布に従った前記光の屈折と、前記第2領域の光の入射境界面及び出射境界面の間における前記屈折率分布に従った前記光の屈折とにより、前記光を3次元的に偏向させることを特徴とする光偏向器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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