光制御装置およびそれを用いた光制御システム
【課題】光の利用効率を向上した反射型の光制御装置を提供する。
【解決手段】
光制御装置100は、基板30と、第1反射層32と、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜34と、透明電極36と、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わる反射特性を有する第2反射層102と、を備える。第1反射層32と、光変調膜34と、透明電極36と、第2反射層102と、から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長と、所定の波長とが略同一になるように設定する。
【解決手段】
光制御装置100は、基板30と、第1反射層32と、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜34と、透明電極36と、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わる反射特性を有する第2反射層102と、を備える。第1反射層32と、光変調膜34と、透明電極36と、第2反射層102と、から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長と、所定の波長とが略同一になるように設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界の印加により屈折率が変化する電気光学材料を用いた光制御装置およびそれを用いた光制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量の記録方式として、ホログラムの原理を利用したデジタル情報記録システムが知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
ホログラム記録装置の空間光変調器の材料としては、たとえばチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(以下、PLZTという)等の電気光学効果を有するものを用いることができる。PLZTは、(Pb1-yLay)(Zr1-xTix)O3の組成を有する透明セラミックスである。電気光学効果とは、物質に電界を印加するとその物質に分極が生じ屈折率が変化する現象をいう。電気光学効果を利用すると、印加電圧をオン、オフすることにより光の位相を切り替えることができる。そのため、電気光学効果を有する光変調材料を空間光変調器等の光シャッターに適用することができる。
【0004】
こうした光シャッター等の素子への適用においては、従来、バルクのPLZTが広く利用されてきた(たとえば特許文献2)。しかし、バルクPLZTを用いた光シャッターは、微細化、集積化の要請や、動作電圧の低減や低コスト化の要請に応えることは困難である。また、バルクのPLZTを製造するバルク法は、原料となる金属酸化物を混合した後、1000℃以上の高温で処理する工程を含むため、素子形成プロセスに適用した場合、材料の選択や素子構造等に多くの制約が加わることとなる。
【0005】
こうしたことから、バルクPLZTに代え、基材上に形成した薄膜のPLZTを光制御素子へ応用する試みが検討されている。特許文献3には、ガラス等の透明基板上にPLZT膜を形成し、その上に櫛形電極を設けた表示装置が記載されている。この表示装置は、PLZT膜が形成された表示基板の両面に偏光板が設けられた構成を有する。ここで、各画素の電極端子部が外部の駆動回路と接続されることにより、所望の画素が駆動され、表示基板の一面側に設けられた光源からの透過光により所望の表示をすることができるようになっている。
【特許文献1】特開2002−297008号公報
【特許文献2】特開平5−257103号公報
【特許文献3】特開平7−146657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したようなPLZT膜等の光変調膜を光シャッター等の素子として実用化するためには、光変調膜へ印加する電圧のオン、オフを制御するためのドライブ回路を光変調膜とともに基板上に作り込む必要がある。その場合、上記特許文献3に記載されたような構成では、ドライブ回路が形成された領域を表示領域として用いることができず、有効な表示領域を充分とることができないという問題がある。
【0007】
また、上述したような透過型の表示装置では、照射光として可視光を利用する場合、ドライブ回路を可視光に対して不透明なシリコン等の基板上に形成することができないという問題もあった。さらに、特許文献3に記載の表示装置では、偏光板を用いるために、偏光板による光の損失が発生してしまう。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、光の利用効率を向上した反射型の光制御装置およびそれを用いた光制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の光制御装置は、基板と、基板上に設けられた第1の反射層と、第1の反射層上に設けられ、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜と、前記光変調膜上に設けられた透明電極と、透明電極上に設けられ、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わる反射特性を有する第2の反射層と、を備え、第1の反射層と、光変調膜と、透明電極と、第2の反射層と、から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長と、所定の波長とが略同一になるように設定した。
【0010】
この態様によると、第1、第2の反射層で光変調膜および透明電極を挟むことにより、外部から入射した光が2つの反射層間で多重反射するファブリペロー型の共振器が構成される。光変調膜に印加する電界を変化させることにより、光変調膜の屈折率を変化させ、この共振器の共振波長をシフトさせることができ、光制御装置の上面から入射された光が反射する光量を制御することができる。このとき、第2の反射層の反射特性が、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わるように形成し、この所定の波長が共振波長と略同一となるように設定することによって、共振波長がシフトしたときの反射率の変化が大きくなるようにすることができる。この結果、光制御装置のオンオフ比を向上し、光の利用効率を向上することが出来る。
【0011】
所定の波長をλcと、光変調膜の屈折率をnpと、透明電極の屈折率をniと、透明電極の膜厚をtiと、光制御装置に入射する光の入射角をθiと、透明電極から光変調膜に入射する光の入射角をθpと、第1の反射層で反射する光の位相変化量をφと、mを次数としたときに、光変調膜の膜厚tpが、
【数1】
となるように設定してもよい。このとき、共振波長と所定の波長とを略同一とすることができる。
【0012】
次数mは、4≦m≦10の範囲の整数であってもよい。光制御装置のオンオフ比は、光変調膜の膜厚に比例して増加する。但し、光変調膜の膜厚が大きくなりすぎると、十分な屈折率変化を得るためにより大きな電界を印加しなければならなくなる。光変調膜の膜厚を上記のように設定した場合、好適な印加電圧で高いオンオフ比を実現でき、光の利用効率を向上することができる。
【0013】
第2の反射層は、屈折率の異なる複数の誘電体膜の積層構造を有してもよい。屈折率の異なる誘電体膜を積層して第2の反射層を形成することにより、積層する層数、誘電体膜の材料によって反射率を精度良く制御することができる。
【0014】
複数の誘電体膜の少なくとも1つは、シリコン酸化膜であってもよい。また、複数の誘電体膜の少なくとも1つは、シリコン窒化膜であってもよい。シリコン酸化膜やシリコン窒化膜として形成する場合、通常のシリコン半導体製造プロセスの成膜技術をそのまま適用することができる。
【0015】
第2の反射層の誘電体膜の積層数は、19層以上かつ23層以下であってもよい。このとき、共振波長のシフト量と反射率変化の急峻さとのバランスがとれ、好適に高いオンオフ比を実現でき、光の利用効率を向上することができる。
【0016】
光変調膜は、印加した電界の2乗に比例して屈折率が変化する電気光学材料で形成されてもよい。電気光学材料は、チタン酸ジルコン酸鉛またはチタン酸ジルコン酸ランタン鉛であってもよい。
【0017】
上述の光制御装置は、半導体基板上に形成されてもよい。この場合、半導体基板に光制御装置の制御回路を集積化して形成することができるので、光制御装置とその制御回路の小型化を図ることができる。
【0018】
本発明の別の態様は、光制御システムである。この光制御システムは、上述の光制御装置と、光制御装置に光を照射する発光部と、光制御装置から出射される光を受ける受光部と、を備える。この態様によると、たとえばホログラム記録装置や、表示装置を実現することができる。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光制御装置によれば、光の利用効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る光制御装置の概要を説明する。この光制御装置は、外部からの電圧印加によって反射率が変化する光制御装置である。この光制御装置は、ファブリーペロー型の共振器構造を有し、電界の印加に応じて屈折率の変化する光変調膜と、この光変調膜を挟むようにして形成される2層の反射層を備える。光制御装置に光を入射した状態で、制御信号を与えると、光制御装置の反射率を変化させることができ、反射される光の強度を制御することができる。光制御装置により反射された光は、反射率に比例した強度を有するため、この反射光を記録媒体あるいは光検出素子等により記録、検出することにより、様々なアプリケーションに利用することができる。
【0022】
図1は、第1の実施の形態に係る光制御装置10の断面図である。光制御装置10は、基板30と、第1反射層32と、光変調膜34と、透明電極36と、第2反射層40と、を備える。
【0023】
第1の実施の形態に係る光制御装置10は、基板30上に形成される。この基板30の材料としては、表面が平坦なガラス、シリコンなどを好適に用いることができる。たとえばシリコンなどの半導体基板からなる基板30であれば、基板上にスイッチング素子を設け、その上に光制御装置10を形成してもよい。この場合、光制御装置10とその制御回路の小型化を図ることができる。
【0024】
基板30上には、第1反射層32が形成される。第1反射層32の材料としては、たとえばPtなどの金属材料を好適に用いることができる。第1反射層32の厚みは、200nm程度とする。第1の実施の形態において、第1反射層32はPtで形成され、この第1反射層32は、後述するように光変調膜34に電界を印加する電極としても機能する。第1反射層32をPtで形成した場合、第1反射層32の反射率は50%から80%程度となる。
【0025】
第1反射層32の上面には光変調膜34が設けられる。この光変調膜34の材料としては、印加した電界に応じて屈折率が変化する固体の電気光学材料を選択する。このような電気光学材料としては、PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、LiNbO3、GaA−MQW、SBN((Sr,Ba)Nb2O6)等を用いることができるが、特にPLZTが好適に用いられる。
【0026】
光変調膜34の膜厚tpは、入射光の入射角および波長に応じて決定され、たとえば入射光を650nm付近の赤色光とした場合、500nmから1500nmの範囲で形成するのが望ましい。後述のように、光変調膜34に印加される電界は、膜の厚み方向に印加されるため、膜厚tpを1500nm以下とすることで、十分な屈折率変化を得るための電界を印加することが容易となる。また、膜厚tpを500nm以上とすることで、十分な光学膜厚変化を得ることができる。
【0027】
光変調膜34の上面には、透明電極36が設けられる。透明電極36は、たとえば、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnO、IrO2などにより形成することができる。透明電極36をITOやZnOで形成した場合、その膜厚tiは100nm〜150nm程度とする。IrO2で形成する場合には、膜厚tiをより薄く、例えば50nm程度とすることが望ましい。この透明電極36は、抵抗値と透過率がトレードオフの関係となるため、その膜厚tiは実験的に定めてもよい。
【0028】
透明電極36の上面には、第2反射層40が形成される。この第2反射層40は、誘電体多層膜によって形成され、屈折率の異なる第1誘電体膜42、第2誘電体膜44が交互に積層される。以下においては、屈折率が大きい方の誘電体膜の屈折率をnHと、屈折率が小さい方の誘電体膜の屈折率をnLと表す。第1誘電体膜42、第2誘電体膜44の材料の組み合わせとしては、SiO2(nL=1.48)、Si3N4(nH=2.0)を用いることができる。誘電体多層膜をシリコン酸化膜およびシリコン窒化膜で形成する場合、シリコン半導体集積回路の製造プロセスおよび製造装置をそのまま使用することができる。
【0029】
誘電体多層膜は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成することができる。SiO2膜は、TEOS、O2雰囲気中で温度200℃の条件で成長させ、Si3N4膜は、SiH4、NH3雰囲気中で温度200℃の条件で好適に成長させることができる。また、誘電体多層膜は、イオンビームスパッタ法により形成してもよい。
【0030】
第1誘電体膜42、第2誘電体膜44のそれぞれの1層分の膜厚dは、光制御装置10に入射する光の波長をλ、誘電体膜の屈折率をnとすると、d=λ/(n×4)となるように調節する。
【0031】
たとえば、光制御装置10に波長が650nmの赤色のレーザ光が用いられる場合には、第1誘電体膜42の膜厚d1は、その材料としてSiO2(n=1.48)とした場合、d1=633/(4×1.48)=109nm程度とする。また、第2誘電体膜44の膜厚d2は、材料としてSi3N4(n=2.0)を用いた場合、d2=650/(4×2)=81nm程度とする。第2反射層40を構成する誘電体膜の厚みd1、d2は、必ずしも厳密にλ/(n×4)に設計されている必要はない。
【0032】
誘電体膜の材料としてはシリコン窒化膜に替えて、TiO3(n=2.2)を用いてもよい。この場合、第2誘電体膜44の厚みd2は、d2=650/(4×2.2)=73nm程度とする。
【0033】
図1において、光変調膜34から第2反射層40に入射する光の反射率R2は、光変調膜34から第1反射層32に入射する光の反射率R1と等しくなるように設計するのが好ましい。反射率R1は、第1反射層32に用いる金属材料によって定まり、Ptを選択する場合、上述したように50〜80%となる。
【0034】
従ってこのとき、反射率R2も50〜80%となるように設計する。第2反射層40は、誘電体多層膜によって構成されるため、その反射率R2は入射する光の波長によって変化する。後述するように、光制御装置10の第1反射層32、光変調膜34、透明電極36および第2反射層40は、ファブリーペロー型の共振器を構成し、共振波長λmを有する。第1の実施の形態に係る光制御装置10においては、少なくともこの共振波長λm周辺の波長帯域において、反射率R2がほぼ一定となるように第2反射層40を形成する。例えば、第1反射層32の反射率R1が80%であり、共振波長λmが650nmの場合には、600〜700nm程度の範囲において、第2反射層40の反射率R2が80%となるように設定するのが好ましい。
【0035】
第2反射層40の反射率R2は、第1誘電体膜42、第2誘電体膜44の材料および厚みによって調節することができる。第1の実施の形態においては、図1に示すように、第2反射層40は、第1誘電体膜42および第2誘電体膜44をそれぞれ3層づつ交互に積層している。第2反射層40において、第1誘電体膜42、第2誘電体膜44を積層する順番は逆であってもよい。また、反射率R2を微調節するために、第3の誘電体膜をさらに積層してもよい。
【0036】
第1の実施の形態においては、透明電極36と第1反射層32とが電極対を形成する。第1反射層32の電位は接地電位に固定され、透明電極36の電位は制御部12によって制御される。
【0037】
制御部12は、光制御装置10に入射した光を変調して出射せしめる制御電圧Vcntを生成し、出力する機能を有する。制御部12は、基板30中に作り込んでもよい。制御電圧Vcntは、ハイレベルVHまたはローレベルVLの2値をとる信号である。ハイレベルVHは、15〜20V程度の電位であり、ローレベルVLは、接地電位と等しい。
【0038】
以上のように構成された光制御装置10の動作について説明する。光制御装置10は、光変調膜34および透明電極36を、第1反射層32、第2反射層40で挟んだ構造となっており、所謂ファブリペロー型の共振器を構成している。ファブリペロー型の共振器である光制御装置10は、入射する光の波長によって反射率Rが変化するという反射特性を有する。光制御装置10の反射率Rは、入射光の強度をIinと、反射光の強度をIoutとするとき、R=Iout/Iinで定義される。光制御装置10の反射率Rが最も小さくなるときの波長を共振波長とよび、λmで表す。
【0039】
図2は、光制御装置10の共振波長λmについて説明するための図である。同図において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付している。図2に示すように、光制御装置10の上方から、入射光130が入射する場合を考える。ここで、透明電極36と第2反射層40の境界面で反射された反射光132と、第1反射層32と光変調膜34の境界面で反射された反射光134に着目する。
【0040】
反射光132と、反射光134の位相差δは、(1)式のように表される。
【数2】
(1)式において、niは透明電極36の屈折率、tiは透明電極36の膜厚、θiは光制御装置10に入射した光の入射角、npは光変調膜34の屈折率、tpは光変調膜34の膜厚、θpは透明電極36から光変調膜34に入射した光の入射角、λは空気中での光の波長、φは第1反射層32で光が反射するときの位相変化量である。共振波長λmは、反射光132、反射光134が弱め合うときなので、次に示す(2)式を満たす必要がある。
【数3】
(2)式において、mは次数であり、正の整数である。(2)式をλmについて変形すると、(3)式のようになり、共振波長λmを表すことができる。
【数4】
【0041】
上述のように、光変調膜34の屈折率nは、光変調膜34に印加される電界Eに依存する。いま、第1反射層32を接地電位とし、図示しない透明電極36に制御電圧Vcntを印加すると、光変調膜34には、厚み方向に電界E=Vcnt/tが印加される。光変調膜34としてPLZTを用いた場合、光変調膜34の屈折率nの変化量Δnと、印加される電界Eとの間には、
Δn=1/2×(n)3×R×E2 …(4)
の関係が成り立つ。(4)式から分かるように、光変調膜34は、印加される電界の2乗に比例して屈折率が変化する。ここでRは電気光学定数(カー定数)である。
【0042】
図3は、光制御装置10に入射する光の波長λと反射率Rの関係を示す図である。図3に示す(I)は、制御電圧VcntがローレベルVL、すなわち、透明電極36と第1反射層32の電位が同じで、光変調膜34に電界が印加されていないときの光制御装置10の反射特性を示す。このとき、光制御装置10の共振波長はλm1である。制御電圧VcntをハイレベルVHに変化させ、光変調膜34に電界Eを印加すると、(4)式から、光変調膜34の屈折率がnpからnp+Δnに変化する。光変調膜34の屈折率npが変化した場合、(3)式から、共振波長λmも変化し、共振波長がλm1からλm2にシフトする。λm2はλm1より大きい値である。このときの反射特性を図3に(II)で示す。
【0043】
光制御装置10に入射する光の波長λを、制御電圧VcntがローレベルVLのときの共振波長λm1と等しくなるように設定した場合、制御電圧VcntをローレベルVLからあるハイレベルVHに変化させると、共振波長λmがλm1からλm2にシフトすることにより、光制御装置10の反射率RはRm1からRm2に変化する。
【0044】
ここで、光変調膜34に電界Eを印加しない場合を光制御装置10のオフ状態とよび反射率をRoffと、電界Eを印加した場合を光制御装置10のオン状態とよび反射率をRonとしたとき、Ron/Roffをオンオフ比と定義する。入射光の強度Iinが一定のとき、反射光の強度Ioutは、反射率Rに比例することになる。したがって、オンオフ比が大きい方が反射光の強度Ioutを精度よく制御でき、光の利用効率も高いことを意味する。
【0045】
共振波長λmにおける光制御装置10の反射率Rは、第1反射層32での反射率R1および第2反射層40での反射率R2が近い程低くなる。したがって、上述のように、第2反射層40の誘電体多層膜の層数、材料を調節し、第1反射層32での反射率R1と第2反射層40での反射率R2を等しく設計することにより、オフ状態での反射率Rを低く設定し、オンオフ比を高くとることができる。
【0046】
このように、第1の実施の形態に係る光制御装置10においては、光変調膜34に印加する電界を変化させることにより、反射率を変化させ、反射光Ioutの強度を制御する光スイッチ素子を実現することができる。
【0047】
第1の実施の形態に係る光制御装置10は、反射型の構成となっているため、入射光Iinを基板30を透過させる必要がない。その結果、従来の透過型の光制御装置に比べて、光の利用効率を向上することができる。また、光制御装置10では、反射率Rを制御することによって反射光の強度Ioutを変化させるため、偏向板や検光子を必要とせず、光の利用効率が高いという利点を有する。
【0048】
(第2の実施の形態)
図4は、第2の実施の形態に係る光制御装置100の断面図である。図4に示すように、第2の実施の形態に係る光制御装置100は、基板30と、第1反射層32と、光変調膜34と、透明電極36と、第2反射層102と、を備える。なお、第1の実施の形態と同一または対応する構成要素には同様の符号を付すと共に、重複する説明は適宜省略する。
【0049】
第2の実施の形態に係る光制御装置100では、透明電極36上に形成する第2反射層102の構成が、第1の実施の形態に係る光制御装置10の第2反射層40とは異なる。第1の実施の形態に係る光制御装置10では、上述したように光制御装置10の共振波長λm周辺の波長帯域において、第2反射層40の反射率がほぼ一定となるように第2反射層40を形成した。
【0050】
第2の実施の形態に係る光制御装置100においては、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わる反射特性を有するように第2反射層102を形成する。このような、所定の波長において反射帯と透過帯が急峻に切り替わるような反射特性を有するものは、エッジフィルタとよばれる。図5は、第2反射層102の反射特性を示す図である。図5において、λ0はエッジフィルタの中心波長である。図5に示すように、第2反射層102の反射特性は、波長λcにおいて反射帯と透過帯とが急峻に切り替わっている。波長λcは反射率Rが50%となるときの波長であり、カットオフ波長とよばれる。そして、光制御装置100では、第1反射層32と、光変調膜34と、透明電極36と、第2反射層102と、から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長λmと、カットオフ波長λcとが略同一になるように設定する。共振波長λmと、カットオフ波長λcとが略同一とは、両者の差が20nm以内であることをいう。
【0051】
図4に戻り、第2反射層102の構成について説明する。図4に示すように、第2反射層102は屈折率の異なる2つの誘電体膜を積層した構成となっており、透明電極36側から、下端誘電体膜48、第1誘電体膜42、第2誘電体膜44、第1誘電体膜42、・・・(第1誘電体膜42と第2誘電体膜44の積層の繰り返し)・・・、第1誘電体膜42、第2誘電体膜44、第1誘電体膜42、上端誘電体膜46の順で積層されている。上端誘電体膜46、下端誘電体膜48および第2誘電体膜44は、同一の材料で構成され、第1誘電体膜42よりも屈折率の高い材料が用いられる。上端誘電体膜46、下端誘電体膜48および第2誘電体膜44の材料としては、Si3N4(nH=2.0)を用いることができる。また、第1誘電体膜42の材料としては、SiO2(nL=1.48)を用いることができる。
【0052】
第1誘電体膜42の膜厚d1および第2誘電体膜44の膜厚d2は、図5において示したエッジフィルタの中心波長λ0の1/(4×n)倍となるように形成される。すなわち、第1誘電体膜42の膜厚d1は、d1=λ0/(nL×4)となるように、第2誘電体膜44の膜厚d2は、d2=λ0/(nH×4)となるように形成される。
【0053】
上端誘電体膜46の膜厚d3および下端誘電体膜48の膜厚d4は、中心波長λ0の1/(8×n)倍となるように形成される。すなわち、上端誘電体膜46の膜厚d3は、d3=λ0/(nH×8)となるように、下端誘電体膜48の膜厚d4は、d4=λ0/(nH×8)となるように形成される。
【0054】
カットオフ波長λcにおける反射帯と透過帯の変化は、第2反射層102の誘電体膜の積層数が多くなるほど急峻になる。但し、積層数が多くなると、カットオフ波長周辺においてリップルが発生する場合があるので、このリップルを軽減するために、各誘電体膜の膜厚を微調整してもよい。
【0055】
上述したように、第2の実施の形態においては、第2反射層102のカットオフ波長λcと、第1反射層32、光変調膜34、透明電極36、第2反射層102から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長λmとが略同一になるように設定する。共振波長λmは、上述した(3)式によって定まる。(3)式において、共振波長λmをカットオフ波長λcとし、式を変形すると、(5)式のように表すことができる。
【数5】
ここで、(5)式におけるmは次数であり、正の整数であるから、共振波長λmとカットオフ波長λcが略同一になるような光変調膜34の膜厚tは、次数mによって定まる離散的な値となる。例えば、光変調膜34の屈折率np=2.3、レーザ光の入射角θi=0°、カットオフ波長λc=650nmであるとする。このとき、カットオフ波長λcと共振波長λmとが略同一となるためには、光変調膜34の膜厚tpを、141nm(m=1)、283nm(m=2)、423nm(m=3)・・・と設定する必要がある。なお、上記の計算例においては、第1反射層32での位相変化量φ=1.0とし、ti=55nmとしている。
【0056】
図6は、第2の実施の形態に係る光制御装置100の反射特性を示す図である。図6においては、第2の実施に実施の形態に係る光制御装置100の反射特性110の他に、比較用として第1の実施の形態に係る光制御装置10の反射特性112も示している。図6の反射特性110は、光変調膜34の膜厚tp=283nm(m=2)、レーザ光の入射角θi=0°、第2反射層102の積層数を21層としたときの反射特性である。一方の比較用として示した第1の実施の形態に係る光制御装置10の反射特性112は、光変調膜34の膜厚tp=283nm、レーザ光の入射角θi=0°、第2反射層40の積層数を7層としたときの反射特性である。
【0057】
図6に示すように、反射特性110は、反射特性112と比較して、共振波長λmの短波長側において急峻に反射率Rが変化していることが分かる。第2の実施の形態に係る光制御装置100においても、第1の実施の形態に係る光制御装置10と同様に、光変調膜34に電界を印加することによって共振波長λmをシフトさせることができる。このとき、共振波長λmは、図3を用いて説明したように共振波長が大きくなる方向にシフトするから、共振波長λmより短波長側の反射率変化が急峻な第2の実施の形態に係る光制御装置100は、第1の実施の形態に係る光制御装置10よりもオン状態のときの反射率Ronが高くなる。すなわち、第2の実施の形態に係る光制御装置100は、第1の実施の形態に係る光制御装置10よりもオンオフ比が向上し、光の利用効率が改善する。
【0058】
図7は、第2反射層102の積層数と共振波長λmのシフト量Δλの関係を示す図である。図7の縦軸は、光制御装置100をオン状態にしたときの共振波長λmのシフト量Δλを表し、横軸は、第2反射層102の積層数を表す。なお、光変調膜34の膜厚tp=283nm、レーザ光の入射角θi=0°と設定している。図7に示すように、第2反射層102の積層数が多くなるに従い、共振波長λmのシフト量Δλが減る傾向がある。共振波長λmのシフト量が減ると、オン状態のときの反射率Ronが小さくなるので、オンオフ比が低下してしまう。しかし、第2反射層102の積層数を少なくしすぎると、今度は共振波長λmの短波長側での反射率変化の急峻さが失われるので、やはりオンオフ比が低下してしまう。このように、共振波長λmのシフト量Δλと、共振波長λmの短波長側での反射率変化の急峻さはトレードオフの関係にあるため、第2反射層102の誘電体膜の最適な積層数は実験的に定めてもよい。本発明者による実験によると、第2反射層102の誘電体膜の積層数が19層〜23層の範囲にある場合に、共振波長λmのシフト量Δλと反射率変化の急峻さとのバランスがとれ、好適に高いオンオフ比を実現できたので、この範囲に定めてもよい。
【0059】
図8は、光変調膜34の膜厚を変化させた場合の光制御装置100の反射特性を示す図である。第2反射層102のカットオフ波長λcを650nmとし、共振波長λmが650nmとなるように光変調膜34の膜厚tpを変化させている。第2反射層102の誘電体膜の積層数は21層とし、レーザ光の入射角θiは、0°である。図8において、反射特性114は光変調膜34の膜厚tp=283nm(m=2)のとき、反射特性116は、tp=1415nm(m=10)のとき、反射特性118は、tp=2830nm(m=20)のときの反射特性である。
【0060】
図8から分かるように、共振波長λmの短波長側の反射率の変化は、光変調膜34の膜厚tpが厚くなるほど急峻になっている。よって、光変調膜34の膜厚tpが厚いほど、共振波長λmがシフトしたときの反射率変化が大きいことになり、光制御装置100のオンオフ比は向上することになる。
【0061】
図9は、光制御装置100のオンオフ比と、光変調膜34の膜厚の関係を示す図である。図9の縦軸は、光制御装置100のオンオフ比を表す。横軸は、光変調膜34の膜厚tpを次数mを用いて表している。(5)式に示すように、光変調膜34の膜厚tpは次数mによって定まる離散的な値となり、次数mが増えるごとに光変調膜34の膜厚tpは厚くなる。図9に示すように、光制御装置100のオンオフ比は、次数mに比例して、すなわち光変調膜34の膜厚tpに比例して増加することが分かる。但し、光変調膜34の膜厚tpが大きくなりすぎると、十分な屈折率変化を得るためにより大きな電界を印加しなければならなくなる。従って、次数mは、4≦m≦10程度の範囲とするのが好ましい。光変調膜の膜厚tpを上記のように設定した場合、好適な印加電圧で高いオンオフ比を実現でき、光の利用効率を向上することができる。
【0062】
以上のように、第2の実施の形態に係る光制御装置100では、第2反射層102の反射特性が、所定の波長において急峻に反射帯と透過帯とが切り替わるように形成し、この所定の波長が共振波長と略同一となるように設定することによって、共振波長がシフトしたときの反射率の変化が大きくなるようにすることができる。この結果、光制御装置100のオンオフ比が向上し、光の利用効率を向上することが出来る。
【0063】
図10(a)、(b)は、光制御装置がマトリクス状に配置された空間光制御装置を示す図である。図10(a)は、空間光制御装置8の平面図を示す。空間光制御装置8は、基板30上に8行8列の2次元状に配列された複数の画素20を備える。画素20は、20μm×20μm程度のサイズにて構成される。
【0064】
図10(b)は、図10(a)に示す空間光制御装置のA−A’線断面図を示す。1つの画素20が図4で示した光制御装置100に対応しており、光変調膜34などの構成要素については、光制御装置100と同一である。空間光制御装置8では、図10(b)に示すように、ビアおよび配線38を介して透明電極36が外部に引き出されている。配線38の材料としてはAlなどが好適に用いられる。配線38の上面には、さらに保護膜を形成してもよい。
【0065】
空間光制御装置8には、画素20ごとに制御部12から制御電圧Vcntが与えられ、画素20ごとに反射率を制御することができる。
【0066】
空間光制御装置8を用いてさまざまな光変調システムを構成することができる。図11は、空間光制御装置8を用いたホログラム記録装置70を示す図である。ホログラム記録装置70は、発光部と、受光部と、空間光制御装置8とを備える。発光部は、レーザ光源72と、ビームエクスパンダ74とを備える。受光部は、フーリエ変換レンズ76と、記録媒体78とを備える。
【0067】
ホログラム記録装置70において、レーザ光源72から発せられたレーザ光は、図示しないビームスプリッタで2つの光に分割される。このうち一方の光は、参照光として用いられ、記録媒体78内に導かれる。もう一方の光は、ビームエクスパンダ74でビーム径が拡大され、平行光として空間光制御装置8に照射される。
【0068】
空間光制御装置8に照射された光は、画素毎に異なる強度を有する信号光として空間光制御装置8から反射される。この信号光は、フーリエ変換レンズ76を通過してフーリエ変換され、記録媒体78内に集光される。記録媒体78内において、ホログラムパターンを含む信号光と参照光の光路とが交差して光干渉パターンを形成する。光干渉パターン全体が屈折率の変化(屈折率格子)として記録媒体78に記録される。
【0069】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0070】
実施の形態では、光制御装置100をホログラム記録装置70の空間光制御装置として用いる場合について説明したがこれには限定されず、表示装置、光通信用スイッチ、光通信用変調器、光演算装置、および暗号化回路等にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の実施の形態に係る光制御装置の断面図である。
【図2】光制御装置の共振波長λmについて説明するための図である。
【図3】光制御装置に入射する光の波長λと反射率Rの関係を示す図である。
【図4】第2の実施の形態に係る光制御装置の断面図である。
【図5】第2反射層の反射特性を示す図である。
【図6】第2の実施の形態に係る光制御装置の反射特性を示す図である。
【図7】第2反射層の積層数と共振波長λmのシフト量Δλの関係を示す図である。
【図8】光変調膜の膜厚を変化させた場合の光制御装置の反射特性を示す図である。
【図9】光制御装置のオンオフ比と、光変調膜の膜厚の関係を示す図である。
【図10】(a)は、空間光制御装置の平面図を示す。(b)は、(a)に示す空間光制御装置のA−A’線断面図を示す。
【図11】空間光制御装置を用いたホログラム記録装置を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
8 空間光制御装置、 10 光制御装置、 12 制御部、 20 画素、 30 基板、 32 第1反射層、 34 光変調膜、 36 透明電極、 38 配線、 40 第2反射層、 42 第1誘電体膜、 44 第2誘電体膜、 46 上端誘電体膜、 48 下端誘電体膜、 60 制御部、 70 ホログラム記録装置、 72 レーザ光源、 74 ビームエクスパンダ、 76 フーリエ変換レンズ、 78 記録媒体、 100 光制御装置、 102 第2反射層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界の印加により屈折率が変化する電気光学材料を用いた光制御装置およびそれを用いた光制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量の記録方式として、ホログラムの原理を利用したデジタル情報記録システムが知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
ホログラム記録装置の空間光変調器の材料としては、たとえばチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(以下、PLZTという)等の電気光学効果を有するものを用いることができる。PLZTは、(Pb1-yLay)(Zr1-xTix)O3の組成を有する透明セラミックスである。電気光学効果とは、物質に電界を印加するとその物質に分極が生じ屈折率が変化する現象をいう。電気光学効果を利用すると、印加電圧をオン、オフすることにより光の位相を切り替えることができる。そのため、電気光学効果を有する光変調材料を空間光変調器等の光シャッターに適用することができる。
【0004】
こうした光シャッター等の素子への適用においては、従来、バルクのPLZTが広く利用されてきた(たとえば特許文献2)。しかし、バルクPLZTを用いた光シャッターは、微細化、集積化の要請や、動作電圧の低減や低コスト化の要請に応えることは困難である。また、バルクのPLZTを製造するバルク法は、原料となる金属酸化物を混合した後、1000℃以上の高温で処理する工程を含むため、素子形成プロセスに適用した場合、材料の選択や素子構造等に多くの制約が加わることとなる。
【0005】
こうしたことから、バルクPLZTに代え、基材上に形成した薄膜のPLZTを光制御素子へ応用する試みが検討されている。特許文献3には、ガラス等の透明基板上にPLZT膜を形成し、その上に櫛形電極を設けた表示装置が記載されている。この表示装置は、PLZT膜が形成された表示基板の両面に偏光板が設けられた構成を有する。ここで、各画素の電極端子部が外部の駆動回路と接続されることにより、所望の画素が駆動され、表示基板の一面側に設けられた光源からの透過光により所望の表示をすることができるようになっている。
【特許文献1】特開2002−297008号公報
【特許文献2】特開平5−257103号公報
【特許文献3】特開平7−146657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したようなPLZT膜等の光変調膜を光シャッター等の素子として実用化するためには、光変調膜へ印加する電圧のオン、オフを制御するためのドライブ回路を光変調膜とともに基板上に作り込む必要がある。その場合、上記特許文献3に記載されたような構成では、ドライブ回路が形成された領域を表示領域として用いることができず、有効な表示領域を充分とることができないという問題がある。
【0007】
また、上述したような透過型の表示装置では、照射光として可視光を利用する場合、ドライブ回路を可視光に対して不透明なシリコン等の基板上に形成することができないという問題もあった。さらに、特許文献3に記載の表示装置では、偏光板を用いるために、偏光板による光の損失が発生してしまう。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、光の利用効率を向上した反射型の光制御装置およびそれを用いた光制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の光制御装置は、基板と、基板上に設けられた第1の反射層と、第1の反射層上に設けられ、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜と、前記光変調膜上に設けられた透明電極と、透明電極上に設けられ、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わる反射特性を有する第2の反射層と、を備え、第1の反射層と、光変調膜と、透明電極と、第2の反射層と、から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長と、所定の波長とが略同一になるように設定した。
【0010】
この態様によると、第1、第2の反射層で光変調膜および透明電極を挟むことにより、外部から入射した光が2つの反射層間で多重反射するファブリペロー型の共振器が構成される。光変調膜に印加する電界を変化させることにより、光変調膜の屈折率を変化させ、この共振器の共振波長をシフトさせることができ、光制御装置の上面から入射された光が反射する光量を制御することができる。このとき、第2の反射層の反射特性が、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わるように形成し、この所定の波長が共振波長と略同一となるように設定することによって、共振波長がシフトしたときの反射率の変化が大きくなるようにすることができる。この結果、光制御装置のオンオフ比を向上し、光の利用効率を向上することが出来る。
【0011】
所定の波長をλcと、光変調膜の屈折率をnpと、透明電極の屈折率をniと、透明電極の膜厚をtiと、光制御装置に入射する光の入射角をθiと、透明電極から光変調膜に入射する光の入射角をθpと、第1の反射層で反射する光の位相変化量をφと、mを次数としたときに、光変調膜の膜厚tpが、
【数1】
となるように設定してもよい。このとき、共振波長と所定の波長とを略同一とすることができる。
【0012】
次数mは、4≦m≦10の範囲の整数であってもよい。光制御装置のオンオフ比は、光変調膜の膜厚に比例して増加する。但し、光変調膜の膜厚が大きくなりすぎると、十分な屈折率変化を得るためにより大きな電界を印加しなければならなくなる。光変調膜の膜厚を上記のように設定した場合、好適な印加電圧で高いオンオフ比を実現でき、光の利用効率を向上することができる。
【0013】
第2の反射層は、屈折率の異なる複数の誘電体膜の積層構造を有してもよい。屈折率の異なる誘電体膜を積層して第2の反射層を形成することにより、積層する層数、誘電体膜の材料によって反射率を精度良く制御することができる。
【0014】
複数の誘電体膜の少なくとも1つは、シリコン酸化膜であってもよい。また、複数の誘電体膜の少なくとも1つは、シリコン窒化膜であってもよい。シリコン酸化膜やシリコン窒化膜として形成する場合、通常のシリコン半導体製造プロセスの成膜技術をそのまま適用することができる。
【0015】
第2の反射層の誘電体膜の積層数は、19層以上かつ23層以下であってもよい。このとき、共振波長のシフト量と反射率変化の急峻さとのバランスがとれ、好適に高いオンオフ比を実現でき、光の利用効率を向上することができる。
【0016】
光変調膜は、印加した電界の2乗に比例して屈折率が変化する電気光学材料で形成されてもよい。電気光学材料は、チタン酸ジルコン酸鉛またはチタン酸ジルコン酸ランタン鉛であってもよい。
【0017】
上述の光制御装置は、半導体基板上に形成されてもよい。この場合、半導体基板に光制御装置の制御回路を集積化して形成することができるので、光制御装置とその制御回路の小型化を図ることができる。
【0018】
本発明の別の態様は、光制御システムである。この光制御システムは、上述の光制御装置と、光制御装置に光を照射する発光部と、光制御装置から出射される光を受ける受光部と、を備える。この態様によると、たとえばホログラム記録装置や、表示装置を実現することができる。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光制御装置によれば、光の利用効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る光制御装置の概要を説明する。この光制御装置は、外部からの電圧印加によって反射率が変化する光制御装置である。この光制御装置は、ファブリーペロー型の共振器構造を有し、電界の印加に応じて屈折率の変化する光変調膜と、この光変調膜を挟むようにして形成される2層の反射層を備える。光制御装置に光を入射した状態で、制御信号を与えると、光制御装置の反射率を変化させることができ、反射される光の強度を制御することができる。光制御装置により反射された光は、反射率に比例した強度を有するため、この反射光を記録媒体あるいは光検出素子等により記録、検出することにより、様々なアプリケーションに利用することができる。
【0022】
図1は、第1の実施の形態に係る光制御装置10の断面図である。光制御装置10は、基板30と、第1反射層32と、光変調膜34と、透明電極36と、第2反射層40と、を備える。
【0023】
第1の実施の形態に係る光制御装置10は、基板30上に形成される。この基板30の材料としては、表面が平坦なガラス、シリコンなどを好適に用いることができる。たとえばシリコンなどの半導体基板からなる基板30であれば、基板上にスイッチング素子を設け、その上に光制御装置10を形成してもよい。この場合、光制御装置10とその制御回路の小型化を図ることができる。
【0024】
基板30上には、第1反射層32が形成される。第1反射層32の材料としては、たとえばPtなどの金属材料を好適に用いることができる。第1反射層32の厚みは、200nm程度とする。第1の実施の形態において、第1反射層32はPtで形成され、この第1反射層32は、後述するように光変調膜34に電界を印加する電極としても機能する。第1反射層32をPtで形成した場合、第1反射層32の反射率は50%から80%程度となる。
【0025】
第1反射層32の上面には光変調膜34が設けられる。この光変調膜34の材料としては、印加した電界に応じて屈折率が変化する固体の電気光学材料を選択する。このような電気光学材料としては、PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、LiNbO3、GaA−MQW、SBN((Sr,Ba)Nb2O6)等を用いることができるが、特にPLZTが好適に用いられる。
【0026】
光変調膜34の膜厚tpは、入射光の入射角および波長に応じて決定され、たとえば入射光を650nm付近の赤色光とした場合、500nmから1500nmの範囲で形成するのが望ましい。後述のように、光変調膜34に印加される電界は、膜の厚み方向に印加されるため、膜厚tpを1500nm以下とすることで、十分な屈折率変化を得るための電界を印加することが容易となる。また、膜厚tpを500nm以上とすることで、十分な光学膜厚変化を得ることができる。
【0027】
光変調膜34の上面には、透明電極36が設けられる。透明電極36は、たとえば、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnO、IrO2などにより形成することができる。透明電極36をITOやZnOで形成した場合、その膜厚tiは100nm〜150nm程度とする。IrO2で形成する場合には、膜厚tiをより薄く、例えば50nm程度とすることが望ましい。この透明電極36は、抵抗値と透過率がトレードオフの関係となるため、その膜厚tiは実験的に定めてもよい。
【0028】
透明電極36の上面には、第2反射層40が形成される。この第2反射層40は、誘電体多層膜によって形成され、屈折率の異なる第1誘電体膜42、第2誘電体膜44が交互に積層される。以下においては、屈折率が大きい方の誘電体膜の屈折率をnHと、屈折率が小さい方の誘電体膜の屈折率をnLと表す。第1誘電体膜42、第2誘電体膜44の材料の組み合わせとしては、SiO2(nL=1.48)、Si3N4(nH=2.0)を用いることができる。誘電体多層膜をシリコン酸化膜およびシリコン窒化膜で形成する場合、シリコン半導体集積回路の製造プロセスおよび製造装置をそのまま使用することができる。
【0029】
誘電体多層膜は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成することができる。SiO2膜は、TEOS、O2雰囲気中で温度200℃の条件で成長させ、Si3N4膜は、SiH4、NH3雰囲気中で温度200℃の条件で好適に成長させることができる。また、誘電体多層膜は、イオンビームスパッタ法により形成してもよい。
【0030】
第1誘電体膜42、第2誘電体膜44のそれぞれの1層分の膜厚dは、光制御装置10に入射する光の波長をλ、誘電体膜の屈折率をnとすると、d=λ/(n×4)となるように調節する。
【0031】
たとえば、光制御装置10に波長が650nmの赤色のレーザ光が用いられる場合には、第1誘電体膜42の膜厚d1は、その材料としてSiO2(n=1.48)とした場合、d1=633/(4×1.48)=109nm程度とする。また、第2誘電体膜44の膜厚d2は、材料としてSi3N4(n=2.0)を用いた場合、d2=650/(4×2)=81nm程度とする。第2反射層40を構成する誘電体膜の厚みd1、d2は、必ずしも厳密にλ/(n×4)に設計されている必要はない。
【0032】
誘電体膜の材料としてはシリコン窒化膜に替えて、TiO3(n=2.2)を用いてもよい。この場合、第2誘電体膜44の厚みd2は、d2=650/(4×2.2)=73nm程度とする。
【0033】
図1において、光変調膜34から第2反射層40に入射する光の反射率R2は、光変調膜34から第1反射層32に入射する光の反射率R1と等しくなるように設計するのが好ましい。反射率R1は、第1反射層32に用いる金属材料によって定まり、Ptを選択する場合、上述したように50〜80%となる。
【0034】
従ってこのとき、反射率R2も50〜80%となるように設計する。第2反射層40は、誘電体多層膜によって構成されるため、その反射率R2は入射する光の波長によって変化する。後述するように、光制御装置10の第1反射層32、光変調膜34、透明電極36および第2反射層40は、ファブリーペロー型の共振器を構成し、共振波長λmを有する。第1の実施の形態に係る光制御装置10においては、少なくともこの共振波長λm周辺の波長帯域において、反射率R2がほぼ一定となるように第2反射層40を形成する。例えば、第1反射層32の反射率R1が80%であり、共振波長λmが650nmの場合には、600〜700nm程度の範囲において、第2反射層40の反射率R2が80%となるように設定するのが好ましい。
【0035】
第2反射層40の反射率R2は、第1誘電体膜42、第2誘電体膜44の材料および厚みによって調節することができる。第1の実施の形態においては、図1に示すように、第2反射層40は、第1誘電体膜42および第2誘電体膜44をそれぞれ3層づつ交互に積層している。第2反射層40において、第1誘電体膜42、第2誘電体膜44を積層する順番は逆であってもよい。また、反射率R2を微調節するために、第3の誘電体膜をさらに積層してもよい。
【0036】
第1の実施の形態においては、透明電極36と第1反射層32とが電極対を形成する。第1反射層32の電位は接地電位に固定され、透明電極36の電位は制御部12によって制御される。
【0037】
制御部12は、光制御装置10に入射した光を変調して出射せしめる制御電圧Vcntを生成し、出力する機能を有する。制御部12は、基板30中に作り込んでもよい。制御電圧Vcntは、ハイレベルVHまたはローレベルVLの2値をとる信号である。ハイレベルVHは、15〜20V程度の電位であり、ローレベルVLは、接地電位と等しい。
【0038】
以上のように構成された光制御装置10の動作について説明する。光制御装置10は、光変調膜34および透明電極36を、第1反射層32、第2反射層40で挟んだ構造となっており、所謂ファブリペロー型の共振器を構成している。ファブリペロー型の共振器である光制御装置10は、入射する光の波長によって反射率Rが変化するという反射特性を有する。光制御装置10の反射率Rは、入射光の強度をIinと、反射光の強度をIoutとするとき、R=Iout/Iinで定義される。光制御装置10の反射率Rが最も小さくなるときの波長を共振波長とよび、λmで表す。
【0039】
図2は、光制御装置10の共振波長λmについて説明するための図である。同図において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付している。図2に示すように、光制御装置10の上方から、入射光130が入射する場合を考える。ここで、透明電極36と第2反射層40の境界面で反射された反射光132と、第1反射層32と光変調膜34の境界面で反射された反射光134に着目する。
【0040】
反射光132と、反射光134の位相差δは、(1)式のように表される。
【数2】
(1)式において、niは透明電極36の屈折率、tiは透明電極36の膜厚、θiは光制御装置10に入射した光の入射角、npは光変調膜34の屈折率、tpは光変調膜34の膜厚、θpは透明電極36から光変調膜34に入射した光の入射角、λは空気中での光の波長、φは第1反射層32で光が反射するときの位相変化量である。共振波長λmは、反射光132、反射光134が弱め合うときなので、次に示す(2)式を満たす必要がある。
【数3】
(2)式において、mは次数であり、正の整数である。(2)式をλmについて変形すると、(3)式のようになり、共振波長λmを表すことができる。
【数4】
【0041】
上述のように、光変調膜34の屈折率nは、光変調膜34に印加される電界Eに依存する。いま、第1反射層32を接地電位とし、図示しない透明電極36に制御電圧Vcntを印加すると、光変調膜34には、厚み方向に電界E=Vcnt/tが印加される。光変調膜34としてPLZTを用いた場合、光変調膜34の屈折率nの変化量Δnと、印加される電界Eとの間には、
Δn=1/2×(n)3×R×E2 …(4)
の関係が成り立つ。(4)式から分かるように、光変調膜34は、印加される電界の2乗に比例して屈折率が変化する。ここでRは電気光学定数(カー定数)である。
【0042】
図3は、光制御装置10に入射する光の波長λと反射率Rの関係を示す図である。図3に示す(I)は、制御電圧VcntがローレベルVL、すなわち、透明電極36と第1反射層32の電位が同じで、光変調膜34に電界が印加されていないときの光制御装置10の反射特性を示す。このとき、光制御装置10の共振波長はλm1である。制御電圧VcntをハイレベルVHに変化させ、光変調膜34に電界Eを印加すると、(4)式から、光変調膜34の屈折率がnpからnp+Δnに変化する。光変調膜34の屈折率npが変化した場合、(3)式から、共振波長λmも変化し、共振波長がλm1からλm2にシフトする。λm2はλm1より大きい値である。このときの反射特性を図3に(II)で示す。
【0043】
光制御装置10に入射する光の波長λを、制御電圧VcntがローレベルVLのときの共振波長λm1と等しくなるように設定した場合、制御電圧VcntをローレベルVLからあるハイレベルVHに変化させると、共振波長λmがλm1からλm2にシフトすることにより、光制御装置10の反射率RはRm1からRm2に変化する。
【0044】
ここで、光変調膜34に電界Eを印加しない場合を光制御装置10のオフ状態とよび反射率をRoffと、電界Eを印加した場合を光制御装置10のオン状態とよび反射率をRonとしたとき、Ron/Roffをオンオフ比と定義する。入射光の強度Iinが一定のとき、反射光の強度Ioutは、反射率Rに比例することになる。したがって、オンオフ比が大きい方が反射光の強度Ioutを精度よく制御でき、光の利用効率も高いことを意味する。
【0045】
共振波長λmにおける光制御装置10の反射率Rは、第1反射層32での反射率R1および第2反射層40での反射率R2が近い程低くなる。したがって、上述のように、第2反射層40の誘電体多層膜の層数、材料を調節し、第1反射層32での反射率R1と第2反射層40での反射率R2を等しく設計することにより、オフ状態での反射率Rを低く設定し、オンオフ比を高くとることができる。
【0046】
このように、第1の実施の形態に係る光制御装置10においては、光変調膜34に印加する電界を変化させることにより、反射率を変化させ、反射光Ioutの強度を制御する光スイッチ素子を実現することができる。
【0047】
第1の実施の形態に係る光制御装置10は、反射型の構成となっているため、入射光Iinを基板30を透過させる必要がない。その結果、従来の透過型の光制御装置に比べて、光の利用効率を向上することができる。また、光制御装置10では、反射率Rを制御することによって反射光の強度Ioutを変化させるため、偏向板や検光子を必要とせず、光の利用効率が高いという利点を有する。
【0048】
(第2の実施の形態)
図4は、第2の実施の形態に係る光制御装置100の断面図である。図4に示すように、第2の実施の形態に係る光制御装置100は、基板30と、第1反射層32と、光変調膜34と、透明電極36と、第2反射層102と、を備える。なお、第1の実施の形態と同一または対応する構成要素には同様の符号を付すと共に、重複する説明は適宜省略する。
【0049】
第2の実施の形態に係る光制御装置100では、透明電極36上に形成する第2反射層102の構成が、第1の実施の形態に係る光制御装置10の第2反射層40とは異なる。第1の実施の形態に係る光制御装置10では、上述したように光制御装置10の共振波長λm周辺の波長帯域において、第2反射層40の反射率がほぼ一定となるように第2反射層40を形成した。
【0050】
第2の実施の形態に係る光制御装置100においては、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わる反射特性を有するように第2反射層102を形成する。このような、所定の波長において反射帯と透過帯が急峻に切り替わるような反射特性を有するものは、エッジフィルタとよばれる。図5は、第2反射層102の反射特性を示す図である。図5において、λ0はエッジフィルタの中心波長である。図5に示すように、第2反射層102の反射特性は、波長λcにおいて反射帯と透過帯とが急峻に切り替わっている。波長λcは反射率Rが50%となるときの波長であり、カットオフ波長とよばれる。そして、光制御装置100では、第1反射層32と、光変調膜34と、透明電極36と、第2反射層102と、から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長λmと、カットオフ波長λcとが略同一になるように設定する。共振波長λmと、カットオフ波長λcとが略同一とは、両者の差が20nm以内であることをいう。
【0051】
図4に戻り、第2反射層102の構成について説明する。図4に示すように、第2反射層102は屈折率の異なる2つの誘電体膜を積層した構成となっており、透明電極36側から、下端誘電体膜48、第1誘電体膜42、第2誘電体膜44、第1誘電体膜42、・・・(第1誘電体膜42と第2誘電体膜44の積層の繰り返し)・・・、第1誘電体膜42、第2誘電体膜44、第1誘電体膜42、上端誘電体膜46の順で積層されている。上端誘電体膜46、下端誘電体膜48および第2誘電体膜44は、同一の材料で構成され、第1誘電体膜42よりも屈折率の高い材料が用いられる。上端誘電体膜46、下端誘電体膜48および第2誘電体膜44の材料としては、Si3N4(nH=2.0)を用いることができる。また、第1誘電体膜42の材料としては、SiO2(nL=1.48)を用いることができる。
【0052】
第1誘電体膜42の膜厚d1および第2誘電体膜44の膜厚d2は、図5において示したエッジフィルタの中心波長λ0の1/(4×n)倍となるように形成される。すなわち、第1誘電体膜42の膜厚d1は、d1=λ0/(nL×4)となるように、第2誘電体膜44の膜厚d2は、d2=λ0/(nH×4)となるように形成される。
【0053】
上端誘電体膜46の膜厚d3および下端誘電体膜48の膜厚d4は、中心波長λ0の1/(8×n)倍となるように形成される。すなわち、上端誘電体膜46の膜厚d3は、d3=λ0/(nH×8)となるように、下端誘電体膜48の膜厚d4は、d4=λ0/(nH×8)となるように形成される。
【0054】
カットオフ波長λcにおける反射帯と透過帯の変化は、第2反射層102の誘電体膜の積層数が多くなるほど急峻になる。但し、積層数が多くなると、カットオフ波長周辺においてリップルが発生する場合があるので、このリップルを軽減するために、各誘電体膜の膜厚を微調整してもよい。
【0055】
上述したように、第2の実施の形態においては、第2反射層102のカットオフ波長λcと、第1反射層32、光変調膜34、透明電極36、第2反射層102から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長λmとが略同一になるように設定する。共振波長λmは、上述した(3)式によって定まる。(3)式において、共振波長λmをカットオフ波長λcとし、式を変形すると、(5)式のように表すことができる。
【数5】
ここで、(5)式におけるmは次数であり、正の整数であるから、共振波長λmとカットオフ波長λcが略同一になるような光変調膜34の膜厚tは、次数mによって定まる離散的な値となる。例えば、光変調膜34の屈折率np=2.3、レーザ光の入射角θi=0°、カットオフ波長λc=650nmであるとする。このとき、カットオフ波長λcと共振波長λmとが略同一となるためには、光変調膜34の膜厚tpを、141nm(m=1)、283nm(m=2)、423nm(m=3)・・・と設定する必要がある。なお、上記の計算例においては、第1反射層32での位相変化量φ=1.0とし、ti=55nmとしている。
【0056】
図6は、第2の実施の形態に係る光制御装置100の反射特性を示す図である。図6においては、第2の実施に実施の形態に係る光制御装置100の反射特性110の他に、比較用として第1の実施の形態に係る光制御装置10の反射特性112も示している。図6の反射特性110は、光変調膜34の膜厚tp=283nm(m=2)、レーザ光の入射角θi=0°、第2反射層102の積層数を21層としたときの反射特性である。一方の比較用として示した第1の実施の形態に係る光制御装置10の反射特性112は、光変調膜34の膜厚tp=283nm、レーザ光の入射角θi=0°、第2反射層40の積層数を7層としたときの反射特性である。
【0057】
図6に示すように、反射特性110は、反射特性112と比較して、共振波長λmの短波長側において急峻に反射率Rが変化していることが分かる。第2の実施の形態に係る光制御装置100においても、第1の実施の形態に係る光制御装置10と同様に、光変調膜34に電界を印加することによって共振波長λmをシフトさせることができる。このとき、共振波長λmは、図3を用いて説明したように共振波長が大きくなる方向にシフトするから、共振波長λmより短波長側の反射率変化が急峻な第2の実施の形態に係る光制御装置100は、第1の実施の形態に係る光制御装置10よりもオン状態のときの反射率Ronが高くなる。すなわち、第2の実施の形態に係る光制御装置100は、第1の実施の形態に係る光制御装置10よりもオンオフ比が向上し、光の利用効率が改善する。
【0058】
図7は、第2反射層102の積層数と共振波長λmのシフト量Δλの関係を示す図である。図7の縦軸は、光制御装置100をオン状態にしたときの共振波長λmのシフト量Δλを表し、横軸は、第2反射層102の積層数を表す。なお、光変調膜34の膜厚tp=283nm、レーザ光の入射角θi=0°と設定している。図7に示すように、第2反射層102の積層数が多くなるに従い、共振波長λmのシフト量Δλが減る傾向がある。共振波長λmのシフト量が減ると、オン状態のときの反射率Ronが小さくなるので、オンオフ比が低下してしまう。しかし、第2反射層102の積層数を少なくしすぎると、今度は共振波長λmの短波長側での反射率変化の急峻さが失われるので、やはりオンオフ比が低下してしまう。このように、共振波長λmのシフト量Δλと、共振波長λmの短波長側での反射率変化の急峻さはトレードオフの関係にあるため、第2反射層102の誘電体膜の最適な積層数は実験的に定めてもよい。本発明者による実験によると、第2反射層102の誘電体膜の積層数が19層〜23層の範囲にある場合に、共振波長λmのシフト量Δλと反射率変化の急峻さとのバランスがとれ、好適に高いオンオフ比を実現できたので、この範囲に定めてもよい。
【0059】
図8は、光変調膜34の膜厚を変化させた場合の光制御装置100の反射特性を示す図である。第2反射層102のカットオフ波長λcを650nmとし、共振波長λmが650nmとなるように光変調膜34の膜厚tpを変化させている。第2反射層102の誘電体膜の積層数は21層とし、レーザ光の入射角θiは、0°である。図8において、反射特性114は光変調膜34の膜厚tp=283nm(m=2)のとき、反射特性116は、tp=1415nm(m=10)のとき、反射特性118は、tp=2830nm(m=20)のときの反射特性である。
【0060】
図8から分かるように、共振波長λmの短波長側の反射率の変化は、光変調膜34の膜厚tpが厚くなるほど急峻になっている。よって、光変調膜34の膜厚tpが厚いほど、共振波長λmがシフトしたときの反射率変化が大きいことになり、光制御装置100のオンオフ比は向上することになる。
【0061】
図9は、光制御装置100のオンオフ比と、光変調膜34の膜厚の関係を示す図である。図9の縦軸は、光制御装置100のオンオフ比を表す。横軸は、光変調膜34の膜厚tpを次数mを用いて表している。(5)式に示すように、光変調膜34の膜厚tpは次数mによって定まる離散的な値となり、次数mが増えるごとに光変調膜34の膜厚tpは厚くなる。図9に示すように、光制御装置100のオンオフ比は、次数mに比例して、すなわち光変調膜34の膜厚tpに比例して増加することが分かる。但し、光変調膜34の膜厚tpが大きくなりすぎると、十分な屈折率変化を得るためにより大きな電界を印加しなければならなくなる。従って、次数mは、4≦m≦10程度の範囲とするのが好ましい。光変調膜の膜厚tpを上記のように設定した場合、好適な印加電圧で高いオンオフ比を実現でき、光の利用効率を向上することができる。
【0062】
以上のように、第2の実施の形態に係る光制御装置100では、第2反射層102の反射特性が、所定の波長において急峻に反射帯と透過帯とが切り替わるように形成し、この所定の波長が共振波長と略同一となるように設定することによって、共振波長がシフトしたときの反射率の変化が大きくなるようにすることができる。この結果、光制御装置100のオンオフ比が向上し、光の利用効率を向上することが出来る。
【0063】
図10(a)、(b)は、光制御装置がマトリクス状に配置された空間光制御装置を示す図である。図10(a)は、空間光制御装置8の平面図を示す。空間光制御装置8は、基板30上に8行8列の2次元状に配列された複数の画素20を備える。画素20は、20μm×20μm程度のサイズにて構成される。
【0064】
図10(b)は、図10(a)に示す空間光制御装置のA−A’線断面図を示す。1つの画素20が図4で示した光制御装置100に対応しており、光変調膜34などの構成要素については、光制御装置100と同一である。空間光制御装置8では、図10(b)に示すように、ビアおよび配線38を介して透明電極36が外部に引き出されている。配線38の材料としてはAlなどが好適に用いられる。配線38の上面には、さらに保護膜を形成してもよい。
【0065】
空間光制御装置8には、画素20ごとに制御部12から制御電圧Vcntが与えられ、画素20ごとに反射率を制御することができる。
【0066】
空間光制御装置8を用いてさまざまな光変調システムを構成することができる。図11は、空間光制御装置8を用いたホログラム記録装置70を示す図である。ホログラム記録装置70は、発光部と、受光部と、空間光制御装置8とを備える。発光部は、レーザ光源72と、ビームエクスパンダ74とを備える。受光部は、フーリエ変換レンズ76と、記録媒体78とを備える。
【0067】
ホログラム記録装置70において、レーザ光源72から発せられたレーザ光は、図示しないビームスプリッタで2つの光に分割される。このうち一方の光は、参照光として用いられ、記録媒体78内に導かれる。もう一方の光は、ビームエクスパンダ74でビーム径が拡大され、平行光として空間光制御装置8に照射される。
【0068】
空間光制御装置8に照射された光は、画素毎に異なる強度を有する信号光として空間光制御装置8から反射される。この信号光は、フーリエ変換レンズ76を通過してフーリエ変換され、記録媒体78内に集光される。記録媒体78内において、ホログラムパターンを含む信号光と参照光の光路とが交差して光干渉パターンを形成する。光干渉パターン全体が屈折率の変化(屈折率格子)として記録媒体78に記録される。
【0069】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0070】
実施の形態では、光制御装置100をホログラム記録装置70の空間光制御装置として用いる場合について説明したがこれには限定されず、表示装置、光通信用スイッチ、光通信用変調器、光演算装置、および暗号化回路等にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の実施の形態に係る光制御装置の断面図である。
【図2】光制御装置の共振波長λmについて説明するための図である。
【図3】光制御装置に入射する光の波長λと反射率Rの関係を示す図である。
【図4】第2の実施の形態に係る光制御装置の断面図である。
【図5】第2反射層の反射特性を示す図である。
【図6】第2の実施の形態に係る光制御装置の反射特性を示す図である。
【図7】第2反射層の積層数と共振波長λmのシフト量Δλの関係を示す図である。
【図8】光変調膜の膜厚を変化させた場合の光制御装置の反射特性を示す図である。
【図9】光制御装置のオンオフ比と、光変調膜の膜厚の関係を示す図である。
【図10】(a)は、空間光制御装置の平面図を示す。(b)は、(a)に示す空間光制御装置のA−A’線断面図を示す。
【図11】空間光制御装置を用いたホログラム記録装置を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
8 空間光制御装置、 10 光制御装置、 12 制御部、 20 画素、 30 基板、 32 第1反射層、 34 光変調膜、 36 透明電極、 38 配線、 40 第2反射層、 42 第1誘電体膜、 44 第2誘電体膜、 46 上端誘電体膜、 48 下端誘電体膜、 60 制御部、 70 ホログラム記録装置、 72 レーザ光源、 74 ビームエクスパンダ、 76 フーリエ変換レンズ、 78 記録媒体、 100 光制御装置、 102 第2反射層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた第1の反射層と、
前記第1の反射層上に設けられ、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜と、
前記光変調膜上に設けられた透明電極と、
前記透明電極上に設けられ、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わる反射特性を有する第2の反射層と、
を備え、
前記第1の反射層と、前記光変調膜と、前記透明電極と、前記第2の反射層と、から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長と、前記所定の波長とが略同一になるように設定したことを特徴とする光制御装置。
【請求項2】
前記所定の波長をλcと、前記光変調膜の屈折率をnpと、前記透明電極の屈折率をniと、前記透明電極の膜厚をtiと、当該光制御装置に入射する光の入射角をθiと、前記透明電極から前記光変調膜に入射する光の入射角をθpと、前記第1の反射層で反射する光の位相変化量をφと、mを次数としたときに、前記光変調膜の膜厚tpが、
【数1】
となるように設定したことを特徴とする請求項1に記載の光制御装置。
【請求項3】
次数mは、4≦m≦10の範囲の整数であることを特徴とする請求項2に記載の光制御装置。
【請求項4】
前記第2の反射層は、屈折率の異なる複数の誘電体膜の積層構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項5】
前記複数の誘電体膜の少なくとも1つは、シリコン酸化膜であることを特徴とする請求項4に記載の光制御装置。
【請求項6】
前記複数の誘電体膜の少なくとも1つは、シリコン窒化膜であることを特徴とする請求項4または5に記載の光制御装置。
【請求項7】
前記第2の反射層の誘電体膜の積層数は、19層以上かつ23層以下であることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項8】
前記光変調膜は、印加した電界の2乗に比例して屈折率が変化する電気光学材料で形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項9】
前記電気光学材料は、チタン酸ジルコン酸鉛またはチタン酸ジルコン酸ランタン鉛であることを特徴とする請求項8に記載の光制御装置。
【請求項10】
当該光制御装置は、半導体基板上に形成されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の光制御装置と、
前記光制御装置に光を照射する発光部と、
当該光制御装置から出射される光を受ける受光部と、
を備えることを特徴とする光制御システム。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた第1の反射層と、
前記第1の反射層上に設けられ、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜と、
前記光変調膜上に設けられた透明電極と、
前記透明電極上に設けられ、所定の波長において反射帯と透過帯とが急峻に切り替わる反射特性を有する第2の反射層と、
を備え、
前記第1の反射層と、前記光変調膜と、前記透明電極と、前記第2の反射層と、から構成されるファブリーペロー型共振器の共振波長と、前記所定の波長とが略同一になるように設定したことを特徴とする光制御装置。
【請求項2】
前記所定の波長をλcと、前記光変調膜の屈折率をnpと、前記透明電極の屈折率をniと、前記透明電極の膜厚をtiと、当該光制御装置に入射する光の入射角をθiと、前記透明電極から前記光変調膜に入射する光の入射角をθpと、前記第1の反射層で反射する光の位相変化量をφと、mを次数としたときに、前記光変調膜の膜厚tpが、
【数1】
となるように設定したことを特徴とする請求項1に記載の光制御装置。
【請求項3】
次数mは、4≦m≦10の範囲の整数であることを特徴とする請求項2に記載の光制御装置。
【請求項4】
前記第2の反射層は、屈折率の異なる複数の誘電体膜の積層構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項5】
前記複数の誘電体膜の少なくとも1つは、シリコン酸化膜であることを特徴とする請求項4に記載の光制御装置。
【請求項6】
前記複数の誘電体膜の少なくとも1つは、シリコン窒化膜であることを特徴とする請求項4または5に記載の光制御装置。
【請求項7】
前記第2の反射層の誘電体膜の積層数は、19層以上かつ23層以下であることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項8】
前記光変調膜は、印加した電界の2乗に比例して屈折率が変化する電気光学材料で形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項9】
前記電気光学材料は、チタン酸ジルコン酸鉛またはチタン酸ジルコン酸ランタン鉛であることを特徴とする請求項8に記載の光制御装置。
【請求項10】
当該光制御装置は、半導体基板上に形成されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の光制御装置と、
前記光制御装置に光を照射する発光部と、
当該光制御装置から出射される光を受ける受光部と、
を備えることを特徴とする光制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−147934(P2007−147934A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341460(P2005−341460)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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