光制御装置
光制御装置8は、基板32と、絶縁膜38と、第一のトランジスタ14と、絶縁膜38上に設けられた反射膜44と、反射膜44上に設けられた光変調膜46と、光変調膜46に配して二次元に配置された複数の電極対48および49と、第一の電極48の上に設けられた偏光板52とを有する。ここで、光変調膜46は、印加された電界の大きさにより屈折率が変化する材料により構成される。このような材料として、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含むPLZTを用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量の記録方式として、ホログラムの原理を利用したデジタル情報記録システムが知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
図14は、ホログラム記録装置の一例を示す図である。ホログラム記録装置100は、レーザ光源102と、ビームスプリッタ104と、ビームエキスパンダ106と、空間光変調器SLM108と、ホログラムパターン書き込み手段110と、フーリエ変換レンズ112と、記録媒体114と、ミラー116と、回動ミラー118とを主に有する。ここで、空間光変調器SLM108としては、透過型の表示装置が用いられる。
【0004】
ホログラム記録装置100において、レーザ光源102から発せられたレーザ光は、ビームスプリッタ104で2つの光に分割される。そのうち一方の光は、ビームエキスパンダ106でビーム径が拡大され、平行光として空間光変調器SLM108に照射される。ホログラムパターン書き込み手段110は、空間光変調器SLM108にホログラムパターンを電気信号として送信する。
【0005】
空間光変調器SLM108は、受け取った電気信号に基づき、平面上にホログラムパターンを形成する。空間光変調器SLM108に照射された光は、空間光変調器SLM108を透過すると光変調され、ホログラムパターンを含む信号光となる。この信号光は、フーリエ変換レンズ112を通過してフーリエ変換され、記録媒体114内に集光される。
【0006】
一方、ビームスプリッタ104において分割されたもう一方の光は、参照光としてミラー116および回動ミラー118を経て記録媒体114内に導かれる。記録媒体114内において、ホログラムパターンを含む信号光と参照光の光路とが交差して光干渉パターンを形成する。光干渉パターン全体が屈折率の変化(屈折率格子)として記録媒体114に記録される。
【0007】
ホログラム記録装置100において、このように、1フレームの画像が記録媒体114に記録される。1フレームの画像の記録が終了したら、回動ミラー118を所定量回転するとともにその位置を所定量平行移動させ、記録媒体114に対する参照光の入射角度を変化させ、2フレーム目の画像を同じ手順で記録する。このような処理を繰り返すことにより、角度多重記録を行う。
【0008】
ホログラム記録装置の空間光変調器SLMの材料としては、たとえばPLZT等の電気光学効果を有するものを用いることができる。PLZTは、(Pb1−yLay)(Zr1−xTix)O3の組成を有する透明セラミックスである。電気光学効果とは、物質に電界を印加するとその物質に分極が生じ屈折率が変化する現象をいう。電気光学効果を利用すると、印加電圧をオン、オフすることにより光の位相を切り替えることができる。そのため、電気光学効果を有する光変調材料を空間光変調器SLM等の光シャッターに適用することができる。
【0009】
こうした光シャッター等の素子への適用においては、従来、バルクのPLZTが広く利用されてきた(特許文献2)。しかし、バルクPLZTを用いた光シャッターは、微細化、集積化の要請や、動作電圧の低減や低コスト化の要請に応えることは困難である。また、バルク法は、原料となる金属酸化物を混合した後、1000℃以上の高温で処理する工程を含むため、素子形成プロセスに適用した場合、材料の選択や素子構造等に多くの制約が加わることとなる。
【0010】
こうしたことから、バルクPLZTに代え、基材上に形成した薄膜のPLZTを光制御素子へ応用する試みが検討されている。特許文献3には、ガラス等の透明基板上にPLZT膜を形成し、その上に櫛形電極を設けた表示装置が記載されている。この表示装置は、PLZT膜が形成された表示基板の両面に偏光板が設けられた構成を有する。ここで、各画素の電極端子部が外部の駆動回路と接続されることにより、所望の画素が駆動され、表示基板の一面側に設けられた光源からの透過光により所望の表示をすることができるようになっている。
【特許文献1】特開2002−297008号公報
【特許文献2】特開平5−257103号公報
【特許文献3】特開平7−146657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述したようなPLZT膜等の光変調膜を光シャッター等の素子として実用化するためには、光変調膜へ印加する電圧のオン、オフを制御するためのドライブ回路を光変調膜とともに基板上に作り込む必要がある。その場合、上記特許文献3に記載されたような構成では、ドライブ回路が形成された領域を表示領域として用いることができず、有効な表示領域を充分とることができないという問題がある。また、上述したような透過型の表示装置では、照射光として可視光を利用する場合、ドライブ回路を可視光に対して不透明なシリコン等の基板上に形成することができないという問題もあった。
【0012】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、基板上に形成された光変調膜を用いた光制御装置において、光変調膜のドライブ回路を基板上に形成した場合でも、表示領域を充分に確保する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、基板と、基板上に設けられた反射膜と、反射膜上に設けられ、印加された電界の大きさにより屈折率が変化する材料により構成された固体の光変調膜と、光変調膜に設けられた電極と、を含むことを特徴とする光制御装置が提供される。
【0014】
このように、基板と光変調膜の間に反射膜を設けることにより、光変調膜中で変調された光を反射膜で反射させて取り出すことができる。これにより、たとえば基板中、または基板と反射膜との間に光変調膜のドライブ回路等を設けた場合であっても、光変調膜の全面を表示領域として用いることができる。また、光変調膜に照射する光に対して不透明な材料により基板を構成することもできる。これにより、たとえば可視光に対して不透明なシリコン等の材料により基板を構成した場合であっても、可視光を光変調膜に照射して、反射膜で反射させた光の位相を変調して取り出すことができる。ここで、反射膜は、たとえばPt等の金属膜とすることができる。また、光制御装置は、光変調膜上に設けられた偏光板をさらに含むことができる。これにより、位相が変調した光を偏光板を介して可視的に取り出すことができる。さらに、電極は、電極対とすることができる。また、反射膜を導電性の材料により構成し、反射膜と一の電極とを電極対として用いることもできる。この場合、光変調膜の厚さ方向に電界が印加されることになる。
【0015】
また、光変調膜として固体の材料を用いた場合、電子の分布状態が変わることにより屈折率が変化するので、電界を印加したときの応答性が高くなる。これにより、光のオン、オフを高速にすることができる。また、光変調膜として固体の材料を用いることにより、液晶状態の膜を用いた場合より、耐久性を高めることができる。ここで、このような固体の光変調膜としては、PLZT、LiNbO3、GaAs−MQW、SBN((Sr,Ba)Nb2O6)等を用いることができるが、後述するように、PLZTが好ましく用いられる。
【0016】
本発明の光制御装置において、電極は、マトリクス状に配置された複数の電極対を含むことができる。
【0017】
このように配置された複数の電極対のそれぞれに異なる電圧を印加することにより、光変調膜上に複数の画素により構成された画像パターンを形成することができる。本発明の光制御装置において、光変調膜として固体の材料を用いるので、光のオン、オフを高速にすることができ、画素間の輝度のばらつきを低減することができる。
【0018】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、印加された電界の二乗に比例して屈折率が変化する材料により構成することができる。
【0019】
光変調膜として、このような二次電気光学効果を有する材料を用いることにより、光のオン、オフを高速にすることができる。
【0020】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含むPLZTにより構成されたことを特徴とする。
【0021】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする。
【0022】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする。
【0024】
本発明の光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、多結晶PLZTを構成するグレインの平均粒子径が800nm以上であることを特徴とする。
【0025】
本発明の光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、多結晶PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)としたときに、I(111)/I(110)の値が1以上であることを特徴とする。
【0026】
なお、本発明において、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下というのは、ZrおよびTiの原子数の和に対するLaの原子数の割合が5%以上30%以下であることに相当する。
【0027】
PLZTは強誘電体であり、その分極変化速度は電界の指数関数に比例する。このため、光のオン、オフの高速化が可能となる。また、光のオン、オフのために必要な電界の増加量を小さくすることができる。また、PLZTの結晶は異方性が小さいので、結晶グレインごとの切替速度の差が小さい。このため、切替時の速度のばらつきを低減することができる。
【0028】
これに加え、本発明の多結晶PLZTは、高いLa組成を有するため、安定で大きな二次電気光学効果を示し、光変調膜として優れた性能を発揮する。
【0029】
図15は、多結晶PLZTの組成とその膜特性の関係を示す相図である。図15に示されるように、二次電気光学効果が発揮されるのは比較的La含量の多い組成である。そこで本発明者は、高ランタン組成の原料を用いてゾルゲル法によるPLZTの成膜を試みたが、得られた膜の比誘電率は低く、カー定数の値が小さかった。
【0030】
この原因は必ずしも明らかではないが、多結晶PLZT中のランタンの存在状態が原因であると推察される。すなわち、上記製法で得られた多結晶PLZTでは、ランタンが多結晶PLZTの粒界に偏析し、グレイン中に取り込まれず、いわばPZTとLa酸化物が分離した状態で膜中に存在し、これが原因となって比誘電率が低くなったものと考えられる。仮にPZTとLa酸化物が分離して別々のドメインを形成した場合、膜の比誘電率は、各材料の比誘電率の面積平均に近い値となると予想される。ここで、ランタン酸化膜の比誘電率は30程度であり、PZTの比誘電率(1000以上)に比べてはるかに小さい値をとる。このため、このような形態をとった場合、膜全体の比誘電率は大きく低下することとなる。
【0031】
そこでさらに、本発明者は、ランタンを高組成で含有する比誘電率の高い膜を作製する方法について検討を行った。その結果、ゾルゲル法による製造プロセスにおける条件設定により、比誘電率の高い膜を得ることができることを見いだした。具体的には、たとえば、熱処理によるグレイン成長後の冷却過程で冷却速度を大きくすることにより、ランタンの析出に伴う比誘電率の低下を抑制することが可能となった。このような方法を採用することにより、優れた二次電気光学効果が安定的に発揮される高誘電率膜の製造が実現される。
【0032】
上記光変調膜は、Laの含有率が5原子%以上30原子%以下と高いランタン組成を有するとともに、多結晶PLZTの周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上と高い値となっている。前述したように、比誘電率はグレイン中にランタンが取り込まれているかどうかを示す指標となる。このような高い比誘電率は、多結晶PLZTグレイン中に相当量のランタンが取り込まれた形態をとることによって実現される。
【0033】
この構造体は、上記したように、熱処理によるグレイン成長後の冷却過程で冷却速度を大きくすることにより作製することができる。この構造体は、優れた二次電気光学効果を安定的に発揮する素子として好適に利用される。なお、光変調膜は、多結晶PLZT以外の、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上となる材料から構成されていても良い。
【0034】
また光変調膜は、多結晶PLZTを構成するグレインの平均粒子径が800nm以上となっている。このため、ランタンが多結晶PLZTグレイン中に取り込まれやすく、高い二次電気光学効果が安定的に発揮される。また、グレインの粒子径が大きいため、粒界の密度が低減し、入射光の散乱が抑制される。このため、二次電気光学効果を利用する光制御素子に応用した場合、効率の高い優れた素子が得られる。
【0035】
また第三の構造体は、多結晶PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)としたときに、I(111)/I(110)の値が1以上となっている。すなわち、この構造体では、多結晶PLZTの結晶グレインが、(111)方向に優先配向している。
【0036】
PLZTの結晶粒子を(100)方向に優先配向させようとした場合、(100)配向した結晶の他に(001)配向した結晶が存在すると、光の散乱が大きくなる。これに対し、(111)方向に優先配向させることにより、結晶の配向方向のぶれを低減することができる。このため、結晶粒界における光の散乱を抑制し、電気光学効果を増加させることができる。なお、本発明に係るPLZT膜中の結晶構造は、主として立方晶および正方晶である。このため、これらの結晶粒子の膜中における配置状態を最適化することにより、二次電気光学効果を安定的に発揮させることができる。
【0037】
本発明において、X線回折における(111)面における回折ピークの半値幅を5度以下とすることにより、膜の結晶性を高めることができる。このため、電気光学効果を増加させることができる。
【0038】
さらに本発明に係る光変調膜の製造方法は、基板の一表面にPb、Zr、TiおよびLaを含む液体を塗布、乾燥して膜を形成した後、該膜を加熱して結晶化し、次いで1200℃/minより大きい速度で冷却する工程を含むことを特徴とする。
【0039】
この製造方法は、熱処理後、急速冷却を行うものである。こうした冷却をすることにより、ランタンの析出に伴う比誘電率の低下を抑制することができ、優れた二次電気光学効果が安定的に発揮する高誘電率膜を安定的に製造できる。このような方法を用いることにより、上述したような好ましい特性を有する光変調膜を、たとえばシリコン等の基板上に形成された反射膜上に形成することができる。
【0040】
本発明の光制御装置において、基板と反射膜との間に設けられた電極のスイッチング素子をさらに含むことができる。また、本発明の光制御装置は、基板と反射膜との間に設けられた絶縁膜をさらに含むことができ、スイッチング素子は、絶縁膜に形成することができる。本発明の光制御装置は、基板と反射膜との間に設けられた電極対に印加するデータを保持する記憶素子をさらに含むことができる。
【0041】
スイッチング素子は、たとえばシリコン基板上に形成されたMOSトランジスタとすることができる。また、記憶素子は、たとえばシリコン基板上に形成されたSRAMとすることができる。このように、スイッチング素子や記憶素子を反射膜の背面(光変調膜が設けられた面とは反対側の面)に設けることにより、光変調膜の全面を表示領域として用いることができる。これにより、反射膜の背面全面をドライブ回路を設ける領域として利用することができるので、種々の機能を有するドライブ回路を設けることもできる。
【0042】
本発明の光制御装置は、基板と反射膜との間に設けられ、電極に接続した配線をさらに含むことができる。
【0043】
本発明の光制御装置において、電極対はそれぞれ櫛形に形成することができ、櫛歯部分が互いに対向するように交互に配置することができる。
【0044】
このような電極対を用いることにより、電極間の間隔を狭くすることができるので、電極間に印加する電圧を低くしても、光変調膜の屈折率を精度よく制御することができる。この場合、光変調膜の厚さ方向に実質的に垂直な方向に電界が印加されることになる。
【0045】
以上、本発明の構成について説明したが、これらの構成を任意に組み合わせたものも本発明の態様として有効である。また、本発明の表現を他のカテゴリーに変換したものもまた本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、基板上に形成された光変調膜を用いた光制御装置において、光変調膜のドライブ回路を基板上に形成した場合でも、表示領域を充分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第一の実施の形態における光制御装置の構成を示す部分断面図である。
【図2】第一の電極および第二の電極の形状を示す上面図である。
【図3】図1に示した光制御装置の構成を示す回路図である。
【図4】ホログラム記録装置を示す図である。
【図5(a)】光演算装置を示す図である。
【図5(b)】入力ベクトルと複数の画素ベクトル(演算行列)との論理演算によって、出力ベクトルを得る計算式を示す図である。
【図6】本発明の第二の実施の形態における光制御装置の構成を示す部分断面図である。
【図7】図6に示した光制御装置の構成を示す回路図である。
【図8】本実施の形態における光制御装置において、輝度データが書き込まれる様子を示す模式図である。
【図9】本実施の形態における光制御装置の他の例を示す回路図である。
【図10】実施例のPLZT膜の、屈折率とカー定数との関係を示す図である。
【図11】実施例のPLZT膜の、比誘電率とカー定数との関係を示す図である。
【図12】実施例のPLZT膜の、X線回折ピーク強度比とカー定数との関係を示す図である。
【図13】実施例のPLZT膜の、X線回折ピークの半値幅とカー定数との関係を示す図である。
【図14】ホログラム記録装置の一例を示す図である。
【図15】PLZTの相状態を示す図である。
【図16】図1に示した光制御装置の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
8 光制御装置、10 画素領域、12 第二のトランジスタ、14 第一のトランジスタ、16 第二の記憶素子、18 第一の記憶素子、20 光学素子、32 基板、34 素子分離領域、35 ドレイン、36 ソース、37 ゲート、38 絶縁膜、40 プラグ、42 配線、44 反射膜、46 光変調膜、48 第一の電極、49 第二の電極、50 保護膜、52 偏光板、60 制御部、70 ホログラム記録装置、72 レーザ光源、74 ビームエキスパンダ、76 フーリエ変換レンズ、78 記録媒体。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本実施の形態で説明する光制御装置は、ホログラム記録/再生装置における空間光変調器SLM、表示装置、光通信用スイッチ、光通信用変調器、光演算装置、および暗号化回路等に適用することができる。
【0050】
(第一の実施の形態)
図1は、本発明の第一の実施の形態における光制御装置8の構成を示す部分断面図である。光制御装置8は、基板32と、基板32上に設けられた絶縁膜38と、絶縁膜38上に設けられた反射膜44と、反射膜44上に設けられた光変調膜46と、光変調膜46上に配置された第一の電極48および第二の電極49と、第一の電極48および第二の電極49を覆うように形成された保護膜50とを含む。また、保護膜50上には偏光板52が配置される。ここで、第一の電極48および第二の電極49は、光変調膜46上に配置された構成としているが、第一の電極48および第二の電極49を反射膜44上に形成し、その上に光変調膜46を形成した構成とすることもできる。
【0051】
本実施の形態における光変調膜46は、印加された電界の大きさにより屈折率が変化する材料により構成される。光変調膜46としては、固体の膜が好ましく用いられる。このような膜としては、たとえば、PLZT、LiNbO3、GaAs−MQW、SBN((Sr,Ba)Nb2O6)等を用いることができる。この中でも、PLZTが好ましく用いられる。好ましいPLZTについては後述する。
【0052】
基板32には、素子分離領域34、ドレイン(またはソース)35、およびソース(またはドレイン)36が設けられる。基板32としては、単結晶シリコン基板を用いることができる。絶縁膜38にはゲート37が設けられ、これにより第一のトランジスタ14が構成される。絶縁膜38は、たとえばシリコン酸化膜により構成される。また、絶縁膜38には、ソース36に接続して構成されたプラグ40および配線42が設けられる。配線42は、たとえばアルミニウムにより構成される。プラグ40は、たとえばタングステンにより構成される。
【0053】
反射膜44(膜厚約100nm)は、たとえばPtにより構成することができる。光変調膜46は、たとえば膜厚が約1.2μmとなるように形成することができる。
【0054】
第一の電極48および第二の電極49(膜厚それぞれ約150nm)は、たとえばPt、ITO(Indium Tin Oxide)、IrO2等により構成することができる。第一の電極48および第二の電極49を光変調膜46上に形成する場合は、これらの第一の電極48および第二の電極49をITO等の透明な材料により構成することが好ましい。また、第一の電極48および第二の電極49としてIrO2を用いた場合も、膜厚を薄く(たとえば約50nm程度)することにより、透過膜として用いることもできる。これにより、各画素の表示領域を広くすることができる。保護膜50(膜厚約数μm)は、たとえばSiNまたはアルミナにより構成することができる。
【0055】
図2は、第一の電極48および第二の電極49の形状を示す上面図である。第一の電極48および第二の電極49は、それぞれ櫛形に形成され、櫛歯の部分が他方の電極の櫛歯に挟まれるように配置される。本実施の形態において、各画素は、それぞれ一組の櫛形の第一の電極48および第二の電極49により構成される。ここで、第一の電極48と第二の電極49の間隔は、たとえば0.5〜1.5μmとすることができる。また、第一の電極48および第二の電極49の櫛歯部分の幅は、たとえば0.5〜1.5μmとすることができる。第一の電極48および第二の電極49間の間隔をこのような範囲とすることにより、第一の電極48および第二の電極49間の電位差を小さくしても、光変調膜46の屈折率を精度よく制御することができる。図1は、図2のA−A’断面図に該当する。
【0056】
図1に戻り、第一の電極48は接地され、第二の電極49には輝度データが印加される。光変調膜46の一画素を構成する領域において、第二の電極49に印加される電圧に応じて、光変調膜46の屈折率が変化する。このような状態で、光制御装置8の偏光板52上から光を照射すると、照射された光は偏光板52を通過して保護膜50を介して光変調膜46に入射する。このとき、光変調膜46に入射した光は、その領域における光変調膜46の屈折率に応じて異なる角度で屈折する。光変調膜46に入射した光は反射膜44で反射され、光変調膜46を通過して保護膜50を介して偏光板52から出射する。このとき、光変調膜46の屈折率に応じて、偏光板52から出射する光の透過率が異なり、偏光板52上に各フレームの輝度データを表示することができる。
【0057】
図3は、図1に示した光制御装置8の構成を示す回路図である。
光制御装置8は、二次元に配置された複数の画素10、およびこれらの画素10への輝度データの書き込み等を制御する制御部60を含む。ここでは図示していないが、光制御装置8は、複数のビットラインBLを制御するデータ制御回路および複数のワードラインWLを制御する選択制御回路等を含むことができ、この場合、制御部60はこれらの制御回路を制御する。
【0058】
画素10は、それぞれ、第一のトランジスタ14と、光学素子20とを含む。ここで、光学素子20は、図1に示した光変調膜46、第一の電極48および第二の電極49により構成される。また、本実施の形態において、光学素子20は、光学素子20の現フレームの輝度データを保持する第一の記憶素子18としても機能する。
【0059】
第一のトランジスタ14において、ドレイン(またはソース)はビットラインBL1に接続され、ゲートはワードラインWL2に接続される。また、ソース(またはドレイン)は、光学素子20の一方の電極(図1の第二の電極49)に接続される。光学素子20の他方の電極(図1の第一の電極48)は接地される。
【0060】
このような状態で、制御部60は、ワードラインWL1およびビットラインBL1、ワードラインWL1およびビットラインBL2・・・を順次選択して一行目の画素10の第一のトランジスタ14をオンとし、第一の記憶素子18に輝度データを書き込んでいく。一行目の画素10の第一の記憶素子18への輝度データの書き込みが終了すると、制御部60は、ワードラインWL2およびビットラインBL1、ワードラインWL2およびビットラインBL2・・・を順次選択し、二行目の画素10の第一の記憶素子18に輝度データを書き込んでいく。
【0061】
このようにして、制御部60は、光制御装置8のすべての画素10に輝度データを書き込んでいく。すべての画素10の第一の記憶素子18に輝度データが書き込まれると、制御部60は、再びワードラインWL1およびビットラインBL1を選択して、次のフレームの輝度データの書き込みを開始する。このとき、各画素10において、第一のトランジスタ14がスイッチング素子として機能するため、光学素子20は、輝度データに応じて発光する。
【0062】
図4は、本実施の形態における光制御装置8を空間光変調器SLMとして用いた場合のホログラム記録装置を示す図である。ホログラム記録装置70は、レーザ光源72と、ビームエキスパンダ74と、フーリエ変換レンズ76と、記録媒体78とを含む。制御部60は、空間光変調器SLMのホログラムパターンの形成を制御する。
【0063】
ホログラム記録装置70において、レーザ光源72から発せられたレーザ光は、図示しないビームスプリッタで2つの光に分割される。このうち一方の光は、参照光として用いられ、記録媒体78内に導かれる。もう一方の光は、ビームエキスパンダ74でビーム径が拡大され、平行光として空間変調器SLM(光制御装置8)に照射される。このとき、光制御装置8には、各画素の第一の電極48および第二の電極49の電位差に応じてホログラムパターンが形成されており、空間変調器SLMに照射された光は、ホログラムパターンを含む信号光として空間変調器SLMから反射される。この信号光は、フーリエ変換レンズ76を通過してフーリエ変換され、記録媒体78内に集光される。記録媒体78内において、ホログラムパターンを含む信号光と参照光の光路とが交差して光干渉パターンを形成する。光干渉パターン全体が屈折率の変化(屈折率格子)として記録媒体78に記録される。
【0064】
図5(a)と図5(b)は、本実施の形態における光制御装置8を光演算装置に適用した例を示す図である。図5(a)に示すように、光制御装置8の表示画面にはマトリクス状の画素ベクトルが表示されている。光源からの光が入力ベクトルとして光制御装置8に照射されると、入力ベクトルと複数の画素ベクトルとの論理演算を並列に行うことができ、検出器で出力ベクトルとして検出される。これにより、図5(b)に示すように、入力ベクトル(入力X1〜X8)と複数の画素ベクトル(演算行列)との論理演算を並列に行うことができ、出力ベクトル(出力(f1〜f8)が得られる。このように、光制御装置8を用いると、一度の演算で出力ベクトルが得られるので、高速な演算を実現することができる。
【0065】
なお、本実施の形態における光制御装置8は、図16に示した構成とすることもできる。ここでは、反射膜44を導電性の材料により構成し、第二の電極49として用いた点で図1に示した構成と異なる。ここで、反射膜44は、画素毎に分離して形成される。第一の電極48は、ITOやIrO2等の透明電極により構成することができ、光変調膜46上に一面に形成することができる。ここでは、光変調膜46の膜厚方向に電界が印加される。また、図16では図示していないが、光制御装置8は、図1に示した構成と同様、偏光板52を含む構成とすることもできる。これにより、光の位相の変調を可視的に取り出すことができる。なお、図1に示した光制御装置8においても、偏光板52を含まない構成とすることができる。
【0066】
以上のように、本実施の形態における光制御装置8は、反射型の表示装置として用いることができるので、表示画面の反対側の面に第一のトランジスタ14等を形成しても、表示画面を広く用いることができる。
【0067】
(第二の実施の形態)
図6は、本発明の第二の実施の形態における光制御装置の構成を示す部分断面図である。本実施の形態において、第一の実施の形態における光制御装置8と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。本実施の形態において、各画素に複数のトランジスタおよび複数の記憶素子が設けられた点で第一の実施の形態と異なる。
【0068】
光制御装置8は、第一の実施の形態と同様、基板32と、絶縁膜38と、反射膜44と、光変調膜46と、第一の電極48および第二の電極49と、保護膜50とを含む。また、保護膜50上には偏光板52が配置される。
【0069】
ここで、基板32および絶縁膜38には、SRAM(Static Random Access Memory)である第二の記憶素子16が形成される。第二の記憶素子16は、第一のトランジスタ14に接続するよう設けられる。
【0070】
図7は、図6に示した光制御装置8の構成を示す回路図である。
画素10は、それぞれ、第一のトランジスタ14と、第二のトランジスタ12と、第二の記憶素子16と、光学素子20とを含む。ここでも、光学素子20は、光学素子20の現フレームの輝度データを保持する第一の記憶素子18として機能する。第二の記憶素子16は、光学素子20の次のフレームの輝度データを記憶する。第一のトランジスタ14は、第二の記憶素子16が保持する輝度データを第一の記憶素子18に転送して光学素子20の輝度値を変更するスイッチ素子として機能する。
【0071】
第二のトランジスタ12において、ドレイン(またはソース)はビットラインBL1に接続され、ゲートはワードラインWL2に接続される。また、ソース(またはドレイン)は、第二の記憶素子16に接続される。第一のトランジスタ14において、ドレイン(またはソース)は第二の記憶素子16に接続され、ゲートは切り替えラインFLに接続される。また、ソース(またはドレイン)は、光学素子20の一方の電極(図5の第二の電極49)に接続される。光学素子20の他方の電極(図5の第一の電極48)は、接地される。
【0072】
表示画面を構成するすべての画素10の光学素子20が対応する第一の記憶素子18に保持された輝度データに応じて発光している間、制御部60は、ワードラインWL1およびビットラインBL1、ワードラインWL1およびビットラインBL2・・・を順次選択して一行目の画素10の第二のトランジスタ12をオンとし、対応する第二の記憶素子16に次のフレームの輝度データを書き込んでいく。一行目の画素10の第二の記憶素子16への書き込みが終了すると、制御部60は、ワードラインWL2およびビットラインBL1、ワードラインWL2およびビットラインBL2・・・を順次選択し、二行目の画素10の第二のトランジスタ12に次のフレームの輝度データを書き込んでいく。このようにして、制御部60は、現フレームの輝度データが光制御装置8のすべての画素10に同時に表示されている間に、バックグランドで、各画素10に次のフレームの輝度データを書き込んでいく。
【0073】
光制御装置8のすべての画素10の第二の記憶素子16に次のフレームの輝度データが書き込まれると、制御部60は、切り替えラインFLに所定の電圧を印加する。これにより、すべての画素10の第一のトランジスタ14が略同時にオンとなり、第二の記憶素子16に保持されていた次のフレームの輝度データがそれぞれ対応する光学素子20に転送され、すべての画素10の光学素子20は次のフレームの輝度データに応じて発光する。
【0074】
この後、制御部60は、同様の処理を行い、各画素10の第二の記憶素子16にその次のフレームの輝度データを書き込んでいく。
【0075】
図8は、本実施の形態における光制御装置8において、輝度データが書き込まれる様子を示す模式図である。図7に示すように、表示画面には現フレームの輝度データが表示されている。このとき、バックグラウンドで、各画素の第二の記憶素子16(図7参照)に次のフレームの輝度データが書き込まれていく。この間、すべての画素に現フレームの輝度データが表示されている。バックグランドにおけるすべての画素の第二の記憶素子16への輝度データの書き込みが終了すると、制御部60は切り替えラインFLに所定の電圧を印加して表示画面に次のフレームの輝度データが表示されるよう表示画面を切り替える。その後、制御部60は、再び、バックグラウンドで、その次のフレームの輝度データの書き込みを開始する。
【0076】
このようにすれば、各画素への輝度データの書き込みが行われている間、表示画面には同一フレームの輝度データが表示された状態となる。従って、本実施の形態における光制御装置8を図4に示したようなホログラム記録装置70の空間光変調器SLMとして用いた場合、バックグラウンドで次のフレームの輝度データがすべての画素に書き込まれている間、光制御装置8には現フレームの輝度データが表示されているので、輝度データの書き込みと記録媒体78へのホログラムパターンの記録とを同時に行うことができ、記録媒体78へのホログラムパターンの記録を効率的に行うことができる。また、各フレーム間の切り替え時間は、制御部60(図7)が切り替えラインFLに所定の電圧を印加して第一のトランジスタ14がオンとされるのに必要な物理的な時間のみなので、非常に短い時間とすることができ、記録媒体78へのホログラムパターンの記録を大幅に短縮することができる。
【0077】
同様に、本実施の形態における光制御装置8を図5に示したような光演算装置に適用した場合も、光演算を行っている間にバックグラウンドで次のフレームの輝度データを書き込むことができるので、論理演算をより高速に行うことができる。
【0078】
図9は、本実施の形態における光制御装置8の他の例を示す回路図である。光制御装置8は、第一の記憶素子18として、SRAMをさらに含むことができる。このように、第二の記憶素子16および第一の記憶素子18としてSRAMを用いることにより、第二の記憶素子16に保持された輝度データを第一の記憶素子18に転送する際の転送残りを低減することができ、精度よく輝度データの転送を行うことができる。
【0079】
次に、本発明の第一および第二の実施の形態における光変調膜46として好ましい材料を説明する。本実施の形態における光変調膜46は、以下のような性能を有することが好ましい。
(1)制御部60により表示画面に表示する輝度データを切り替えたときに、前フレームの輝度データが残存しないこと。
(2)制御部60により表示画面に表示する輝度データを切り替えたときに、切り替え速度のばらつきが小さいこと。
【0080】
以上のような性能を満たす材料として、以下に示すPLZT膜が好ましく用いられる。
以下の実施の形態において、La組成とは、特に断りのない限り、ZrおよびTiの原子数の和に対するLaの原子数の割合をいう。
(第一のPLZT膜)
第一のPLZT膜としては、ゾルゲル法を用いてシリコン基板上に形成された反射膜(Pt膜)上に形成したものが挙げられる。以下、製法を説明する。
【0081】
はじめに、シリコン基板上にシリコン酸化膜を形成し、その上にPt膜を形成する。Pt膜表面に、Pb、La、Zr、およびTiの各金属アルコキシドを含む混合溶液をスピンコートする。出発原料となる金属アルコキシドとして、たとえばPb(CH2COO)2・3H2O、La(O−i−C3H7)3、Zr(O−t−C4H9)4、Ti(O−i−C3H7)4等を用いることができる。また、混合溶液中の原子組成は、図8の相図において二次電気光学効果が得られる組成とする。本実施形態では、Pb:La:Zr:Ti=105:9:65:35としている。また、混合溶液の膜厚は、たとえば100nm〜5μm程度とする。
【0082】
スピンコート後、所定の温度で乾燥を行い、次いでドライエアー雰囲気において仮焼成を行う。乾燥温度は、たとえば100℃以上250℃以下とする。ここでは200℃とする。仮焼成は、300℃以上、好ましくは400℃以上で行うことができる。こうすることにより、有機物、水分、残留炭素を確実に除去することができる。仮焼成の時間は、たとえば1分〜1時間程度とする。仮焼成まで、溶液の塗布・乾燥を所定の膜厚となるまで繰り返し行ってもよい。
【0083】
その後、O2雰囲気中で熱処理を施し、PLZTを結晶化しグレインを成長させる。熱処理温度は、たとえば600℃以上750℃以下とする。こうすることにより、PLZTを確実に結晶化することができる。また、熱処理温度は、700℃以上とすることが好ましい。こうすることにより、結晶の平均粒径を大きくすることができる。このため、グレインの比表面積を減少させ、Laの析出を抑制することができる。また、熱処理時間は、たとえば10秒以上5分以下とすることができ、1分以上とすることが好ましい。こうすることにより、さらに大きくすることができる。
【0084】
熱処理終了後、結晶化したPLZT膜を急速冷却する。通常、この冷却過程は400℃/min〜1000℃/min程度の速度で行われるが、この場合、PLZTのグレイン中にランタンを高濃度で導入することは困難となる。具体的には、原料組成において、ZrおよびTiの原子数の和に対し、Laの原子数の割合をたとえば7%以上とした場合、原料組成と同じ濃度でランタンをグレイン中に導入することはきわめて困難となる。そこで本実施の形態では、熱処理後の冷却過程において、冷却速度を大きくしている。冷却速度は、たとえば1200℃/minより大きくすることができ、たとえば1800℃/minとしてもよい。
【0085】
以上の工程を経て、シリコン基板上にPLZT薄膜を形成した構造体が得られる。このPLZT薄膜は、Laの含有率が5原子%以上30原子%以下と高いランタン組成を有する。上記手順で得られたPLZTについて周波数1MHzにおける比誘電率を測定したところ、1200であった。この値から判断して、本実施形態で得られるPLZTでは、グレイン中に充分な量のランタンが取り込まれていると考えられる。
【0086】
(第二のPLZT膜)
第二のPLZT膜は、シリコン基板上に形成されたPt膜上にシード層を形成した後、金属アルコキシド層をスピンコートして形成する。シード層を形成することにより、均一で結晶性の良好なPLZT膜を得ることができる。また、グレインサイズの大きいPLZT膜を安定的に得ることができる。
【0087】
シード層を形成するための混合液は、シード粒子、0.1〜10wt%程度の界面活性剤、および有機溶剤を含む液体とする。この混合液を、シリコン基板上にスピンコート等により塗布し、シード層を形成する。このようなシード層を形成することにより、シード粒子を核として良好に結晶化が進むため、均一で結晶性の良好なPLZT膜を得ることが可能となる。
【0088】
シード粒子として、たとえばTi超微粒粉を用いることができる。Ti超微粒粉は粒径0.5nmから200nm程度とするのが望ましく、さらに望ましくは粒径1nmから50nm程度とする。ところで、超微粒粉が核になるには、ある程度の原子の数が必要であり、原子1個では核にならず、また0.1nm程度の原子よりは充分に大きいサイズであることが望ましい。一方、核が大きすぎると、核の中心はTiのままで残ってしまう。したがってTiを残さないためには高いアニール温度が必要である。また、200nmを越えると平坦で均一なPLZT膜の形成が困難となる。また核が大きくなると、溶媒中に分散しにくくなる。
【0089】
また、シード粒子の濃度は、0.00001wt%(0.1wtppm)から1wt%程度とするのが望ましい。Ti超微粒粉は、混合液中の界面活性剤で周囲を被覆される。
【0090】
有機溶剤としては、αテルピオネールが好ましく用いられる。またこのほかキシレン、トルエン、2メトキシエタノール、ブタノール等を用いることも可能である。
【0091】
また、シード層を形成するに際し、混合液を塗布したのち、乾燥・焼成することが好ましい。乾燥は、たとえば200〜400℃程度で1〜10分間程度行うことができる。こうすることにより、溶媒を除去することができる。また、焼成は、シード層を結晶化させる温度とすることができる。概ね450〜750℃程度で約1〜10分程度加熱すればよい。
【0092】
以上述べた方法によれば、以下の性状を有する膜を安定的に形成することができる。
La組成:5原子%以上30原子%以下
比誘電率(周波数1MHz):1200以上
PLZTグレイン平均粒子径:800nm以上
PLZTのX線回折特性:I(111)/I(110)が1以上
(PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)とする。)
PLZTのX線回折における(111)面の回折ピーク半値幅:5度以下
【0093】
こうした性状を有する膜は、カー定数が大きく、二次電気光学効果に優れるため、本発明の第一および第二の実施の形態における光変調膜46として好適に用いることができる。
【実施例】
【0094】
[例1]
(PLZT膜の作製)
シリコン基板上に、スパッタ法によりPt膜を形成し、Pt膜上にゾルゲル法によりPLZTを成膜した。Pt膜の膜厚は約150nmとした。
【0095】
PLZT成膜用の混合溶液中の金属原子比は、Pb:La:Zr:Ti=105:9:65:35とした。まずスピンコートでPt膜上に混合溶液を塗布し、プリベークとして150℃で30分加熱し、次に仮焼成として450℃で60分加熱した。この一連の工程を4回繰り返した後、最後に700℃酸素雰囲気中で1分間本焼成を行った。そして本焼成後、PLZT膜を表1に示したそれぞれの冷却速度で冷却し、PLZT膜を得た。
【0096】
(評価)
表1中の試料1〜試料3のそれぞれについて、屈折率n、比誘電率ε、カー定数R、結晶粒径D、を測定した。また、試料1および試料3については、X線回折スペクトルを取得した。
【0097】
なお、試料の屈折率は、633nmの光における吸光度から算出した。なお、試料の比誘電率は、1MHzの交流電場中で測定した。また、膜中の結晶の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察により行った。また、X線回折測定の条件はθ/2θスキャンとし、X線の波長はCuKα:1.5418Åとした。
【0098】
【表1】
【0099】
(結果)
表1に、各試料の物性測定結果を示した。また、図10に、試料の屈折率nとカー定数Rとの関係を示す。また、図11に、試料の比誘電率εとカー定数Rとの関係を示した。また、図12に、試料のX線回折スペクトルにおける(111)面(ピークの2θ=約38度)と(110)面(ピークの2θ=約31度)とのピーク強度比をカー定数Rとの関係でプロットした。さらに、図13に、X線回折スペクトルにおける(111)面(ピークの2θ=約38度)の半値幅とカー定数との関係を示した。
【0100】
図10、図11、および表1より、屈折率が2.8以上または比誘電率が1200以上のPLZT膜において、大きなカー定数が得られることがわかった。また、結晶の平均粒径を約1μmとすることにより、大きなカー定数が得られることがわかった。
【0101】
これらのことから、試料3では、焼成後、急速冷却を行うことにより、結晶中のLaが結晶粒中に取り込まれることが示唆された。また、結晶の平均粒径が大きいほど比表面積が小さいため、Laの酸化物(たとえばLa2O3)の析出を抑制することができると考えられる。
【0102】
一方、試料1では、PZT相の屈折率とLa相(Laの酸化物相)の屈折率について加成則が成り立つことがわかる。このため、冷却速度が遅いと、Laの酸化物の析出が生じ、膜中にPZT相とLa相が形成されていることが示唆された。
【0103】
次に、図12および図13の結果より、以下のことがわかる。なお、PLZT膜中には、立方晶と正方晶とが混在していると考えられる。
【0104】
図12の結果より、膜全体として(111)面方向への配向性を増すことにより、二次電気光学効果を向上させることができることがわかる。これは、(111)面方向への配向を増すことにより、結晶粒子間の配向のぶれを低減することができるためと推察される。また、図13より、(111)面のピーク半値幅を小さくすることによっても、二次電気光学効果を向上させることができることが明らかになった。これは、ピーク半値幅を小さくすることにより、膜全体の結晶性が向上するためであると考えられる。
【0105】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明した。この実施の形態および実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の光制御装置は、ホログラム記録/再生装置における空間光変調器SLM、表示装置、光通信用スイッチ、光通信用変調器、光演算装置、および暗号化回路等に適用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量の記録方式として、ホログラムの原理を利用したデジタル情報記録システムが知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
図14は、ホログラム記録装置の一例を示す図である。ホログラム記録装置100は、レーザ光源102と、ビームスプリッタ104と、ビームエキスパンダ106と、空間光変調器SLM108と、ホログラムパターン書き込み手段110と、フーリエ変換レンズ112と、記録媒体114と、ミラー116と、回動ミラー118とを主に有する。ここで、空間光変調器SLM108としては、透過型の表示装置が用いられる。
【0004】
ホログラム記録装置100において、レーザ光源102から発せられたレーザ光は、ビームスプリッタ104で2つの光に分割される。そのうち一方の光は、ビームエキスパンダ106でビーム径が拡大され、平行光として空間光変調器SLM108に照射される。ホログラムパターン書き込み手段110は、空間光変調器SLM108にホログラムパターンを電気信号として送信する。
【0005】
空間光変調器SLM108は、受け取った電気信号に基づき、平面上にホログラムパターンを形成する。空間光変調器SLM108に照射された光は、空間光変調器SLM108を透過すると光変調され、ホログラムパターンを含む信号光となる。この信号光は、フーリエ変換レンズ112を通過してフーリエ変換され、記録媒体114内に集光される。
【0006】
一方、ビームスプリッタ104において分割されたもう一方の光は、参照光としてミラー116および回動ミラー118を経て記録媒体114内に導かれる。記録媒体114内において、ホログラムパターンを含む信号光と参照光の光路とが交差して光干渉パターンを形成する。光干渉パターン全体が屈折率の変化(屈折率格子)として記録媒体114に記録される。
【0007】
ホログラム記録装置100において、このように、1フレームの画像が記録媒体114に記録される。1フレームの画像の記録が終了したら、回動ミラー118を所定量回転するとともにその位置を所定量平行移動させ、記録媒体114に対する参照光の入射角度を変化させ、2フレーム目の画像を同じ手順で記録する。このような処理を繰り返すことにより、角度多重記録を行う。
【0008】
ホログラム記録装置の空間光変調器SLMの材料としては、たとえばPLZT等の電気光学効果を有するものを用いることができる。PLZTは、(Pb1−yLay)(Zr1−xTix)O3の組成を有する透明セラミックスである。電気光学効果とは、物質に電界を印加するとその物質に分極が生じ屈折率が変化する現象をいう。電気光学効果を利用すると、印加電圧をオン、オフすることにより光の位相を切り替えることができる。そのため、電気光学効果を有する光変調材料を空間光変調器SLM等の光シャッターに適用することができる。
【0009】
こうした光シャッター等の素子への適用においては、従来、バルクのPLZTが広く利用されてきた(特許文献2)。しかし、バルクPLZTを用いた光シャッターは、微細化、集積化の要請や、動作電圧の低減や低コスト化の要請に応えることは困難である。また、バルク法は、原料となる金属酸化物を混合した後、1000℃以上の高温で処理する工程を含むため、素子形成プロセスに適用した場合、材料の選択や素子構造等に多くの制約が加わることとなる。
【0010】
こうしたことから、バルクPLZTに代え、基材上に形成した薄膜のPLZTを光制御素子へ応用する試みが検討されている。特許文献3には、ガラス等の透明基板上にPLZT膜を形成し、その上に櫛形電極を設けた表示装置が記載されている。この表示装置は、PLZT膜が形成された表示基板の両面に偏光板が設けられた構成を有する。ここで、各画素の電極端子部が外部の駆動回路と接続されることにより、所望の画素が駆動され、表示基板の一面側に設けられた光源からの透過光により所望の表示をすることができるようになっている。
【特許文献1】特開2002−297008号公報
【特許文献2】特開平5−257103号公報
【特許文献3】特開平7−146657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述したようなPLZT膜等の光変調膜を光シャッター等の素子として実用化するためには、光変調膜へ印加する電圧のオン、オフを制御するためのドライブ回路を光変調膜とともに基板上に作り込む必要がある。その場合、上記特許文献3に記載されたような構成では、ドライブ回路が形成された領域を表示領域として用いることができず、有効な表示領域を充分とることができないという問題がある。また、上述したような透過型の表示装置では、照射光として可視光を利用する場合、ドライブ回路を可視光に対して不透明なシリコン等の基板上に形成することができないという問題もあった。
【0012】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、基板上に形成された光変調膜を用いた光制御装置において、光変調膜のドライブ回路を基板上に形成した場合でも、表示領域を充分に確保する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、基板と、基板上に設けられた反射膜と、反射膜上に設けられ、印加された電界の大きさにより屈折率が変化する材料により構成された固体の光変調膜と、光変調膜に設けられた電極と、を含むことを特徴とする光制御装置が提供される。
【0014】
このように、基板と光変調膜の間に反射膜を設けることにより、光変調膜中で変調された光を反射膜で反射させて取り出すことができる。これにより、たとえば基板中、または基板と反射膜との間に光変調膜のドライブ回路等を設けた場合であっても、光変調膜の全面を表示領域として用いることができる。また、光変調膜に照射する光に対して不透明な材料により基板を構成することもできる。これにより、たとえば可視光に対して不透明なシリコン等の材料により基板を構成した場合であっても、可視光を光変調膜に照射して、反射膜で反射させた光の位相を変調して取り出すことができる。ここで、反射膜は、たとえばPt等の金属膜とすることができる。また、光制御装置は、光変調膜上に設けられた偏光板をさらに含むことができる。これにより、位相が変調した光を偏光板を介して可視的に取り出すことができる。さらに、電極は、電極対とすることができる。また、反射膜を導電性の材料により構成し、反射膜と一の電極とを電極対として用いることもできる。この場合、光変調膜の厚さ方向に電界が印加されることになる。
【0015】
また、光変調膜として固体の材料を用いた場合、電子の分布状態が変わることにより屈折率が変化するので、電界を印加したときの応答性が高くなる。これにより、光のオン、オフを高速にすることができる。また、光変調膜として固体の材料を用いることにより、液晶状態の膜を用いた場合より、耐久性を高めることができる。ここで、このような固体の光変調膜としては、PLZT、LiNbO3、GaAs−MQW、SBN((Sr,Ba)Nb2O6)等を用いることができるが、後述するように、PLZTが好ましく用いられる。
【0016】
本発明の光制御装置において、電極は、マトリクス状に配置された複数の電極対を含むことができる。
【0017】
このように配置された複数の電極対のそれぞれに異なる電圧を印加することにより、光変調膜上に複数の画素により構成された画像パターンを形成することができる。本発明の光制御装置において、光変調膜として固体の材料を用いるので、光のオン、オフを高速にすることができ、画素間の輝度のばらつきを低減することができる。
【0018】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、印加された電界の二乗に比例して屈折率が変化する材料により構成することができる。
【0019】
光変調膜として、このような二次電気光学効果を有する材料を用いることにより、光のオン、オフを高速にすることができる。
【0020】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含むPLZTにより構成されたことを特徴とする。
【0021】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする。
【0022】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明の光制御装置において、光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする。
【0024】
本発明の光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、多結晶PLZTを構成するグレインの平均粒子径が800nm以上であることを特徴とする。
【0025】
本発明の光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、多結晶PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)としたときに、I(111)/I(110)の値が1以上であることを特徴とする。
【0026】
なお、本発明において、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下というのは、ZrおよびTiの原子数の和に対するLaの原子数の割合が5%以上30%以下であることに相当する。
【0027】
PLZTは強誘電体であり、その分極変化速度は電界の指数関数に比例する。このため、光のオン、オフの高速化が可能となる。また、光のオン、オフのために必要な電界の増加量を小さくすることができる。また、PLZTの結晶は異方性が小さいので、結晶グレインごとの切替速度の差が小さい。このため、切替時の速度のばらつきを低減することができる。
【0028】
これに加え、本発明の多結晶PLZTは、高いLa組成を有するため、安定で大きな二次電気光学効果を示し、光変調膜として優れた性能を発揮する。
【0029】
図15は、多結晶PLZTの組成とその膜特性の関係を示す相図である。図15に示されるように、二次電気光学効果が発揮されるのは比較的La含量の多い組成である。そこで本発明者は、高ランタン組成の原料を用いてゾルゲル法によるPLZTの成膜を試みたが、得られた膜の比誘電率は低く、カー定数の値が小さかった。
【0030】
この原因は必ずしも明らかではないが、多結晶PLZT中のランタンの存在状態が原因であると推察される。すなわち、上記製法で得られた多結晶PLZTでは、ランタンが多結晶PLZTの粒界に偏析し、グレイン中に取り込まれず、いわばPZTとLa酸化物が分離した状態で膜中に存在し、これが原因となって比誘電率が低くなったものと考えられる。仮にPZTとLa酸化物が分離して別々のドメインを形成した場合、膜の比誘電率は、各材料の比誘電率の面積平均に近い値となると予想される。ここで、ランタン酸化膜の比誘電率は30程度であり、PZTの比誘電率(1000以上)に比べてはるかに小さい値をとる。このため、このような形態をとった場合、膜全体の比誘電率は大きく低下することとなる。
【0031】
そこでさらに、本発明者は、ランタンを高組成で含有する比誘電率の高い膜を作製する方法について検討を行った。その結果、ゾルゲル法による製造プロセスにおける条件設定により、比誘電率の高い膜を得ることができることを見いだした。具体的には、たとえば、熱処理によるグレイン成長後の冷却過程で冷却速度を大きくすることにより、ランタンの析出に伴う比誘電率の低下を抑制することが可能となった。このような方法を採用することにより、優れた二次電気光学効果が安定的に発揮される高誘電率膜の製造が実現される。
【0032】
上記光変調膜は、Laの含有率が5原子%以上30原子%以下と高いランタン組成を有するとともに、多結晶PLZTの周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上と高い値となっている。前述したように、比誘電率はグレイン中にランタンが取り込まれているかどうかを示す指標となる。このような高い比誘電率は、多結晶PLZTグレイン中に相当量のランタンが取り込まれた形態をとることによって実現される。
【0033】
この構造体は、上記したように、熱処理によるグレイン成長後の冷却過程で冷却速度を大きくすることにより作製することができる。この構造体は、優れた二次電気光学効果を安定的に発揮する素子として好適に利用される。なお、光変調膜は、多結晶PLZT以外の、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上となる材料から構成されていても良い。
【0034】
また光変調膜は、多結晶PLZTを構成するグレインの平均粒子径が800nm以上となっている。このため、ランタンが多結晶PLZTグレイン中に取り込まれやすく、高い二次電気光学効果が安定的に発揮される。また、グレインの粒子径が大きいため、粒界の密度が低減し、入射光の散乱が抑制される。このため、二次電気光学効果を利用する光制御素子に応用した場合、効率の高い優れた素子が得られる。
【0035】
また第三の構造体は、多結晶PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)としたときに、I(111)/I(110)の値が1以上となっている。すなわち、この構造体では、多結晶PLZTの結晶グレインが、(111)方向に優先配向している。
【0036】
PLZTの結晶粒子を(100)方向に優先配向させようとした場合、(100)配向した結晶の他に(001)配向した結晶が存在すると、光の散乱が大きくなる。これに対し、(111)方向に優先配向させることにより、結晶の配向方向のぶれを低減することができる。このため、結晶粒界における光の散乱を抑制し、電気光学効果を増加させることができる。なお、本発明に係るPLZT膜中の結晶構造は、主として立方晶および正方晶である。このため、これらの結晶粒子の膜中における配置状態を最適化することにより、二次電気光学効果を安定的に発揮させることができる。
【0037】
本発明において、X線回折における(111)面における回折ピークの半値幅を5度以下とすることにより、膜の結晶性を高めることができる。このため、電気光学効果を増加させることができる。
【0038】
さらに本発明に係る光変調膜の製造方法は、基板の一表面にPb、Zr、TiおよびLaを含む液体を塗布、乾燥して膜を形成した後、該膜を加熱して結晶化し、次いで1200℃/minより大きい速度で冷却する工程を含むことを特徴とする。
【0039】
この製造方法は、熱処理後、急速冷却を行うものである。こうした冷却をすることにより、ランタンの析出に伴う比誘電率の低下を抑制することができ、優れた二次電気光学効果が安定的に発揮する高誘電率膜を安定的に製造できる。このような方法を用いることにより、上述したような好ましい特性を有する光変調膜を、たとえばシリコン等の基板上に形成された反射膜上に形成することができる。
【0040】
本発明の光制御装置において、基板と反射膜との間に設けられた電極のスイッチング素子をさらに含むことができる。また、本発明の光制御装置は、基板と反射膜との間に設けられた絶縁膜をさらに含むことができ、スイッチング素子は、絶縁膜に形成することができる。本発明の光制御装置は、基板と反射膜との間に設けられた電極対に印加するデータを保持する記憶素子をさらに含むことができる。
【0041】
スイッチング素子は、たとえばシリコン基板上に形成されたMOSトランジスタとすることができる。また、記憶素子は、たとえばシリコン基板上に形成されたSRAMとすることができる。このように、スイッチング素子や記憶素子を反射膜の背面(光変調膜が設けられた面とは反対側の面)に設けることにより、光変調膜の全面を表示領域として用いることができる。これにより、反射膜の背面全面をドライブ回路を設ける領域として利用することができるので、種々の機能を有するドライブ回路を設けることもできる。
【0042】
本発明の光制御装置は、基板と反射膜との間に設けられ、電極に接続した配線をさらに含むことができる。
【0043】
本発明の光制御装置において、電極対はそれぞれ櫛形に形成することができ、櫛歯部分が互いに対向するように交互に配置することができる。
【0044】
このような電極対を用いることにより、電極間の間隔を狭くすることができるので、電極間に印加する電圧を低くしても、光変調膜の屈折率を精度よく制御することができる。この場合、光変調膜の厚さ方向に実質的に垂直な方向に電界が印加されることになる。
【0045】
以上、本発明の構成について説明したが、これらの構成を任意に組み合わせたものも本発明の態様として有効である。また、本発明の表現を他のカテゴリーに変換したものもまた本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、基板上に形成された光変調膜を用いた光制御装置において、光変調膜のドライブ回路を基板上に形成した場合でも、表示領域を充分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第一の実施の形態における光制御装置の構成を示す部分断面図である。
【図2】第一の電極および第二の電極の形状を示す上面図である。
【図3】図1に示した光制御装置の構成を示す回路図である。
【図4】ホログラム記録装置を示す図である。
【図5(a)】光演算装置を示す図である。
【図5(b)】入力ベクトルと複数の画素ベクトル(演算行列)との論理演算によって、出力ベクトルを得る計算式を示す図である。
【図6】本発明の第二の実施の形態における光制御装置の構成を示す部分断面図である。
【図7】図6に示した光制御装置の構成を示す回路図である。
【図8】本実施の形態における光制御装置において、輝度データが書き込まれる様子を示す模式図である。
【図9】本実施の形態における光制御装置の他の例を示す回路図である。
【図10】実施例のPLZT膜の、屈折率とカー定数との関係を示す図である。
【図11】実施例のPLZT膜の、比誘電率とカー定数との関係を示す図である。
【図12】実施例のPLZT膜の、X線回折ピーク強度比とカー定数との関係を示す図である。
【図13】実施例のPLZT膜の、X線回折ピークの半値幅とカー定数との関係を示す図である。
【図14】ホログラム記録装置の一例を示す図である。
【図15】PLZTの相状態を示す図である。
【図16】図1に示した光制御装置の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
8 光制御装置、10 画素領域、12 第二のトランジスタ、14 第一のトランジスタ、16 第二の記憶素子、18 第一の記憶素子、20 光学素子、32 基板、34 素子分離領域、35 ドレイン、36 ソース、37 ゲート、38 絶縁膜、40 プラグ、42 配線、44 反射膜、46 光変調膜、48 第一の電極、49 第二の電極、50 保護膜、52 偏光板、60 制御部、70 ホログラム記録装置、72 レーザ光源、74 ビームエキスパンダ、76 フーリエ変換レンズ、78 記録媒体。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本実施の形態で説明する光制御装置は、ホログラム記録/再生装置における空間光変調器SLM、表示装置、光通信用スイッチ、光通信用変調器、光演算装置、および暗号化回路等に適用することができる。
【0050】
(第一の実施の形態)
図1は、本発明の第一の実施の形態における光制御装置8の構成を示す部分断面図である。光制御装置8は、基板32と、基板32上に設けられた絶縁膜38と、絶縁膜38上に設けられた反射膜44と、反射膜44上に設けられた光変調膜46と、光変調膜46上に配置された第一の電極48および第二の電極49と、第一の電極48および第二の電極49を覆うように形成された保護膜50とを含む。また、保護膜50上には偏光板52が配置される。ここで、第一の電極48および第二の電極49は、光変調膜46上に配置された構成としているが、第一の電極48および第二の電極49を反射膜44上に形成し、その上に光変調膜46を形成した構成とすることもできる。
【0051】
本実施の形態における光変調膜46は、印加された電界の大きさにより屈折率が変化する材料により構成される。光変調膜46としては、固体の膜が好ましく用いられる。このような膜としては、たとえば、PLZT、LiNbO3、GaAs−MQW、SBN((Sr,Ba)Nb2O6)等を用いることができる。この中でも、PLZTが好ましく用いられる。好ましいPLZTについては後述する。
【0052】
基板32には、素子分離領域34、ドレイン(またはソース)35、およびソース(またはドレイン)36が設けられる。基板32としては、単結晶シリコン基板を用いることができる。絶縁膜38にはゲート37が設けられ、これにより第一のトランジスタ14が構成される。絶縁膜38は、たとえばシリコン酸化膜により構成される。また、絶縁膜38には、ソース36に接続して構成されたプラグ40および配線42が設けられる。配線42は、たとえばアルミニウムにより構成される。プラグ40は、たとえばタングステンにより構成される。
【0053】
反射膜44(膜厚約100nm)は、たとえばPtにより構成することができる。光変調膜46は、たとえば膜厚が約1.2μmとなるように形成することができる。
【0054】
第一の電極48および第二の電極49(膜厚それぞれ約150nm)は、たとえばPt、ITO(Indium Tin Oxide)、IrO2等により構成することができる。第一の電極48および第二の電極49を光変調膜46上に形成する場合は、これらの第一の電極48および第二の電極49をITO等の透明な材料により構成することが好ましい。また、第一の電極48および第二の電極49としてIrO2を用いた場合も、膜厚を薄く(たとえば約50nm程度)することにより、透過膜として用いることもできる。これにより、各画素の表示領域を広くすることができる。保護膜50(膜厚約数μm)は、たとえばSiNまたはアルミナにより構成することができる。
【0055】
図2は、第一の電極48および第二の電極49の形状を示す上面図である。第一の電極48および第二の電極49は、それぞれ櫛形に形成され、櫛歯の部分が他方の電極の櫛歯に挟まれるように配置される。本実施の形態において、各画素は、それぞれ一組の櫛形の第一の電極48および第二の電極49により構成される。ここで、第一の電極48と第二の電極49の間隔は、たとえば0.5〜1.5μmとすることができる。また、第一の電極48および第二の電極49の櫛歯部分の幅は、たとえば0.5〜1.5μmとすることができる。第一の電極48および第二の電極49間の間隔をこのような範囲とすることにより、第一の電極48および第二の電極49間の電位差を小さくしても、光変調膜46の屈折率を精度よく制御することができる。図1は、図2のA−A’断面図に該当する。
【0056】
図1に戻り、第一の電極48は接地され、第二の電極49には輝度データが印加される。光変調膜46の一画素を構成する領域において、第二の電極49に印加される電圧に応じて、光変調膜46の屈折率が変化する。このような状態で、光制御装置8の偏光板52上から光を照射すると、照射された光は偏光板52を通過して保護膜50を介して光変調膜46に入射する。このとき、光変調膜46に入射した光は、その領域における光変調膜46の屈折率に応じて異なる角度で屈折する。光変調膜46に入射した光は反射膜44で反射され、光変調膜46を通過して保護膜50を介して偏光板52から出射する。このとき、光変調膜46の屈折率に応じて、偏光板52から出射する光の透過率が異なり、偏光板52上に各フレームの輝度データを表示することができる。
【0057】
図3は、図1に示した光制御装置8の構成を示す回路図である。
光制御装置8は、二次元に配置された複数の画素10、およびこれらの画素10への輝度データの書き込み等を制御する制御部60を含む。ここでは図示していないが、光制御装置8は、複数のビットラインBLを制御するデータ制御回路および複数のワードラインWLを制御する選択制御回路等を含むことができ、この場合、制御部60はこれらの制御回路を制御する。
【0058】
画素10は、それぞれ、第一のトランジスタ14と、光学素子20とを含む。ここで、光学素子20は、図1に示した光変調膜46、第一の電極48および第二の電極49により構成される。また、本実施の形態において、光学素子20は、光学素子20の現フレームの輝度データを保持する第一の記憶素子18としても機能する。
【0059】
第一のトランジスタ14において、ドレイン(またはソース)はビットラインBL1に接続され、ゲートはワードラインWL2に接続される。また、ソース(またはドレイン)は、光学素子20の一方の電極(図1の第二の電極49)に接続される。光学素子20の他方の電極(図1の第一の電極48)は接地される。
【0060】
このような状態で、制御部60は、ワードラインWL1およびビットラインBL1、ワードラインWL1およびビットラインBL2・・・を順次選択して一行目の画素10の第一のトランジスタ14をオンとし、第一の記憶素子18に輝度データを書き込んでいく。一行目の画素10の第一の記憶素子18への輝度データの書き込みが終了すると、制御部60は、ワードラインWL2およびビットラインBL1、ワードラインWL2およびビットラインBL2・・・を順次選択し、二行目の画素10の第一の記憶素子18に輝度データを書き込んでいく。
【0061】
このようにして、制御部60は、光制御装置8のすべての画素10に輝度データを書き込んでいく。すべての画素10の第一の記憶素子18に輝度データが書き込まれると、制御部60は、再びワードラインWL1およびビットラインBL1を選択して、次のフレームの輝度データの書き込みを開始する。このとき、各画素10において、第一のトランジスタ14がスイッチング素子として機能するため、光学素子20は、輝度データに応じて発光する。
【0062】
図4は、本実施の形態における光制御装置8を空間光変調器SLMとして用いた場合のホログラム記録装置を示す図である。ホログラム記録装置70は、レーザ光源72と、ビームエキスパンダ74と、フーリエ変換レンズ76と、記録媒体78とを含む。制御部60は、空間光変調器SLMのホログラムパターンの形成を制御する。
【0063】
ホログラム記録装置70において、レーザ光源72から発せられたレーザ光は、図示しないビームスプリッタで2つの光に分割される。このうち一方の光は、参照光として用いられ、記録媒体78内に導かれる。もう一方の光は、ビームエキスパンダ74でビーム径が拡大され、平行光として空間変調器SLM(光制御装置8)に照射される。このとき、光制御装置8には、各画素の第一の電極48および第二の電極49の電位差に応じてホログラムパターンが形成されており、空間変調器SLMに照射された光は、ホログラムパターンを含む信号光として空間変調器SLMから反射される。この信号光は、フーリエ変換レンズ76を通過してフーリエ変換され、記録媒体78内に集光される。記録媒体78内において、ホログラムパターンを含む信号光と参照光の光路とが交差して光干渉パターンを形成する。光干渉パターン全体が屈折率の変化(屈折率格子)として記録媒体78に記録される。
【0064】
図5(a)と図5(b)は、本実施の形態における光制御装置8を光演算装置に適用した例を示す図である。図5(a)に示すように、光制御装置8の表示画面にはマトリクス状の画素ベクトルが表示されている。光源からの光が入力ベクトルとして光制御装置8に照射されると、入力ベクトルと複数の画素ベクトルとの論理演算を並列に行うことができ、検出器で出力ベクトルとして検出される。これにより、図5(b)に示すように、入力ベクトル(入力X1〜X8)と複数の画素ベクトル(演算行列)との論理演算を並列に行うことができ、出力ベクトル(出力(f1〜f8)が得られる。このように、光制御装置8を用いると、一度の演算で出力ベクトルが得られるので、高速な演算を実現することができる。
【0065】
なお、本実施の形態における光制御装置8は、図16に示した構成とすることもできる。ここでは、反射膜44を導電性の材料により構成し、第二の電極49として用いた点で図1に示した構成と異なる。ここで、反射膜44は、画素毎に分離して形成される。第一の電極48は、ITOやIrO2等の透明電極により構成することができ、光変調膜46上に一面に形成することができる。ここでは、光変調膜46の膜厚方向に電界が印加される。また、図16では図示していないが、光制御装置8は、図1に示した構成と同様、偏光板52を含む構成とすることもできる。これにより、光の位相の変調を可視的に取り出すことができる。なお、図1に示した光制御装置8においても、偏光板52を含まない構成とすることができる。
【0066】
以上のように、本実施の形態における光制御装置8は、反射型の表示装置として用いることができるので、表示画面の反対側の面に第一のトランジスタ14等を形成しても、表示画面を広く用いることができる。
【0067】
(第二の実施の形態)
図6は、本発明の第二の実施の形態における光制御装置の構成を示す部分断面図である。本実施の形態において、第一の実施の形態における光制御装置8と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。本実施の形態において、各画素に複数のトランジスタおよび複数の記憶素子が設けられた点で第一の実施の形態と異なる。
【0068】
光制御装置8は、第一の実施の形態と同様、基板32と、絶縁膜38と、反射膜44と、光変調膜46と、第一の電極48および第二の電極49と、保護膜50とを含む。また、保護膜50上には偏光板52が配置される。
【0069】
ここで、基板32および絶縁膜38には、SRAM(Static Random Access Memory)である第二の記憶素子16が形成される。第二の記憶素子16は、第一のトランジスタ14に接続するよう設けられる。
【0070】
図7は、図6に示した光制御装置8の構成を示す回路図である。
画素10は、それぞれ、第一のトランジスタ14と、第二のトランジスタ12と、第二の記憶素子16と、光学素子20とを含む。ここでも、光学素子20は、光学素子20の現フレームの輝度データを保持する第一の記憶素子18として機能する。第二の記憶素子16は、光学素子20の次のフレームの輝度データを記憶する。第一のトランジスタ14は、第二の記憶素子16が保持する輝度データを第一の記憶素子18に転送して光学素子20の輝度値を変更するスイッチ素子として機能する。
【0071】
第二のトランジスタ12において、ドレイン(またはソース)はビットラインBL1に接続され、ゲートはワードラインWL2に接続される。また、ソース(またはドレイン)は、第二の記憶素子16に接続される。第一のトランジスタ14において、ドレイン(またはソース)は第二の記憶素子16に接続され、ゲートは切り替えラインFLに接続される。また、ソース(またはドレイン)は、光学素子20の一方の電極(図5の第二の電極49)に接続される。光学素子20の他方の電極(図5の第一の電極48)は、接地される。
【0072】
表示画面を構成するすべての画素10の光学素子20が対応する第一の記憶素子18に保持された輝度データに応じて発光している間、制御部60は、ワードラインWL1およびビットラインBL1、ワードラインWL1およびビットラインBL2・・・を順次選択して一行目の画素10の第二のトランジスタ12をオンとし、対応する第二の記憶素子16に次のフレームの輝度データを書き込んでいく。一行目の画素10の第二の記憶素子16への書き込みが終了すると、制御部60は、ワードラインWL2およびビットラインBL1、ワードラインWL2およびビットラインBL2・・・を順次選択し、二行目の画素10の第二のトランジスタ12に次のフレームの輝度データを書き込んでいく。このようにして、制御部60は、現フレームの輝度データが光制御装置8のすべての画素10に同時に表示されている間に、バックグランドで、各画素10に次のフレームの輝度データを書き込んでいく。
【0073】
光制御装置8のすべての画素10の第二の記憶素子16に次のフレームの輝度データが書き込まれると、制御部60は、切り替えラインFLに所定の電圧を印加する。これにより、すべての画素10の第一のトランジスタ14が略同時にオンとなり、第二の記憶素子16に保持されていた次のフレームの輝度データがそれぞれ対応する光学素子20に転送され、すべての画素10の光学素子20は次のフレームの輝度データに応じて発光する。
【0074】
この後、制御部60は、同様の処理を行い、各画素10の第二の記憶素子16にその次のフレームの輝度データを書き込んでいく。
【0075】
図8は、本実施の形態における光制御装置8において、輝度データが書き込まれる様子を示す模式図である。図7に示すように、表示画面には現フレームの輝度データが表示されている。このとき、バックグラウンドで、各画素の第二の記憶素子16(図7参照)に次のフレームの輝度データが書き込まれていく。この間、すべての画素に現フレームの輝度データが表示されている。バックグランドにおけるすべての画素の第二の記憶素子16への輝度データの書き込みが終了すると、制御部60は切り替えラインFLに所定の電圧を印加して表示画面に次のフレームの輝度データが表示されるよう表示画面を切り替える。その後、制御部60は、再び、バックグラウンドで、その次のフレームの輝度データの書き込みを開始する。
【0076】
このようにすれば、各画素への輝度データの書き込みが行われている間、表示画面には同一フレームの輝度データが表示された状態となる。従って、本実施の形態における光制御装置8を図4に示したようなホログラム記録装置70の空間光変調器SLMとして用いた場合、バックグラウンドで次のフレームの輝度データがすべての画素に書き込まれている間、光制御装置8には現フレームの輝度データが表示されているので、輝度データの書き込みと記録媒体78へのホログラムパターンの記録とを同時に行うことができ、記録媒体78へのホログラムパターンの記録を効率的に行うことができる。また、各フレーム間の切り替え時間は、制御部60(図7)が切り替えラインFLに所定の電圧を印加して第一のトランジスタ14がオンとされるのに必要な物理的な時間のみなので、非常に短い時間とすることができ、記録媒体78へのホログラムパターンの記録を大幅に短縮することができる。
【0077】
同様に、本実施の形態における光制御装置8を図5に示したような光演算装置に適用した場合も、光演算を行っている間にバックグラウンドで次のフレームの輝度データを書き込むことができるので、論理演算をより高速に行うことができる。
【0078】
図9は、本実施の形態における光制御装置8の他の例を示す回路図である。光制御装置8は、第一の記憶素子18として、SRAMをさらに含むことができる。このように、第二の記憶素子16および第一の記憶素子18としてSRAMを用いることにより、第二の記憶素子16に保持された輝度データを第一の記憶素子18に転送する際の転送残りを低減することができ、精度よく輝度データの転送を行うことができる。
【0079】
次に、本発明の第一および第二の実施の形態における光変調膜46として好ましい材料を説明する。本実施の形態における光変調膜46は、以下のような性能を有することが好ましい。
(1)制御部60により表示画面に表示する輝度データを切り替えたときに、前フレームの輝度データが残存しないこと。
(2)制御部60により表示画面に表示する輝度データを切り替えたときに、切り替え速度のばらつきが小さいこと。
【0080】
以上のような性能を満たす材料として、以下に示すPLZT膜が好ましく用いられる。
以下の実施の形態において、La組成とは、特に断りのない限り、ZrおよびTiの原子数の和に対するLaの原子数の割合をいう。
(第一のPLZT膜)
第一のPLZT膜としては、ゾルゲル法を用いてシリコン基板上に形成された反射膜(Pt膜)上に形成したものが挙げられる。以下、製法を説明する。
【0081】
はじめに、シリコン基板上にシリコン酸化膜を形成し、その上にPt膜を形成する。Pt膜表面に、Pb、La、Zr、およびTiの各金属アルコキシドを含む混合溶液をスピンコートする。出発原料となる金属アルコキシドとして、たとえばPb(CH2COO)2・3H2O、La(O−i−C3H7)3、Zr(O−t−C4H9)4、Ti(O−i−C3H7)4等を用いることができる。また、混合溶液中の原子組成は、図8の相図において二次電気光学効果が得られる組成とする。本実施形態では、Pb:La:Zr:Ti=105:9:65:35としている。また、混合溶液の膜厚は、たとえば100nm〜5μm程度とする。
【0082】
スピンコート後、所定の温度で乾燥を行い、次いでドライエアー雰囲気において仮焼成を行う。乾燥温度は、たとえば100℃以上250℃以下とする。ここでは200℃とする。仮焼成は、300℃以上、好ましくは400℃以上で行うことができる。こうすることにより、有機物、水分、残留炭素を確実に除去することができる。仮焼成の時間は、たとえば1分〜1時間程度とする。仮焼成まで、溶液の塗布・乾燥を所定の膜厚となるまで繰り返し行ってもよい。
【0083】
その後、O2雰囲気中で熱処理を施し、PLZTを結晶化しグレインを成長させる。熱処理温度は、たとえば600℃以上750℃以下とする。こうすることにより、PLZTを確実に結晶化することができる。また、熱処理温度は、700℃以上とすることが好ましい。こうすることにより、結晶の平均粒径を大きくすることができる。このため、グレインの比表面積を減少させ、Laの析出を抑制することができる。また、熱処理時間は、たとえば10秒以上5分以下とすることができ、1分以上とすることが好ましい。こうすることにより、さらに大きくすることができる。
【0084】
熱処理終了後、結晶化したPLZT膜を急速冷却する。通常、この冷却過程は400℃/min〜1000℃/min程度の速度で行われるが、この場合、PLZTのグレイン中にランタンを高濃度で導入することは困難となる。具体的には、原料組成において、ZrおよびTiの原子数の和に対し、Laの原子数の割合をたとえば7%以上とした場合、原料組成と同じ濃度でランタンをグレイン中に導入することはきわめて困難となる。そこで本実施の形態では、熱処理後の冷却過程において、冷却速度を大きくしている。冷却速度は、たとえば1200℃/minより大きくすることができ、たとえば1800℃/minとしてもよい。
【0085】
以上の工程を経て、シリコン基板上にPLZT薄膜を形成した構造体が得られる。このPLZT薄膜は、Laの含有率が5原子%以上30原子%以下と高いランタン組成を有する。上記手順で得られたPLZTについて周波数1MHzにおける比誘電率を測定したところ、1200であった。この値から判断して、本実施形態で得られるPLZTでは、グレイン中に充分な量のランタンが取り込まれていると考えられる。
【0086】
(第二のPLZT膜)
第二のPLZT膜は、シリコン基板上に形成されたPt膜上にシード層を形成した後、金属アルコキシド層をスピンコートして形成する。シード層を形成することにより、均一で結晶性の良好なPLZT膜を得ることができる。また、グレインサイズの大きいPLZT膜を安定的に得ることができる。
【0087】
シード層を形成するための混合液は、シード粒子、0.1〜10wt%程度の界面活性剤、および有機溶剤を含む液体とする。この混合液を、シリコン基板上にスピンコート等により塗布し、シード層を形成する。このようなシード層を形成することにより、シード粒子を核として良好に結晶化が進むため、均一で結晶性の良好なPLZT膜を得ることが可能となる。
【0088】
シード粒子として、たとえばTi超微粒粉を用いることができる。Ti超微粒粉は粒径0.5nmから200nm程度とするのが望ましく、さらに望ましくは粒径1nmから50nm程度とする。ところで、超微粒粉が核になるには、ある程度の原子の数が必要であり、原子1個では核にならず、また0.1nm程度の原子よりは充分に大きいサイズであることが望ましい。一方、核が大きすぎると、核の中心はTiのままで残ってしまう。したがってTiを残さないためには高いアニール温度が必要である。また、200nmを越えると平坦で均一なPLZT膜の形成が困難となる。また核が大きくなると、溶媒中に分散しにくくなる。
【0089】
また、シード粒子の濃度は、0.00001wt%(0.1wtppm)から1wt%程度とするのが望ましい。Ti超微粒粉は、混合液中の界面活性剤で周囲を被覆される。
【0090】
有機溶剤としては、αテルピオネールが好ましく用いられる。またこのほかキシレン、トルエン、2メトキシエタノール、ブタノール等を用いることも可能である。
【0091】
また、シード層を形成するに際し、混合液を塗布したのち、乾燥・焼成することが好ましい。乾燥は、たとえば200〜400℃程度で1〜10分間程度行うことができる。こうすることにより、溶媒を除去することができる。また、焼成は、シード層を結晶化させる温度とすることができる。概ね450〜750℃程度で約1〜10分程度加熱すればよい。
【0092】
以上述べた方法によれば、以下の性状を有する膜を安定的に形成することができる。
La組成:5原子%以上30原子%以下
比誘電率(周波数1MHz):1200以上
PLZTグレイン平均粒子径:800nm以上
PLZTのX線回折特性:I(111)/I(110)が1以上
(PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)とする。)
PLZTのX線回折における(111)面の回折ピーク半値幅:5度以下
【0093】
こうした性状を有する膜は、カー定数が大きく、二次電気光学効果に優れるため、本発明の第一および第二の実施の形態における光変調膜46として好適に用いることができる。
【実施例】
【0094】
[例1]
(PLZT膜の作製)
シリコン基板上に、スパッタ法によりPt膜を形成し、Pt膜上にゾルゲル法によりPLZTを成膜した。Pt膜の膜厚は約150nmとした。
【0095】
PLZT成膜用の混合溶液中の金属原子比は、Pb:La:Zr:Ti=105:9:65:35とした。まずスピンコートでPt膜上に混合溶液を塗布し、プリベークとして150℃で30分加熱し、次に仮焼成として450℃で60分加熱した。この一連の工程を4回繰り返した後、最後に700℃酸素雰囲気中で1分間本焼成を行った。そして本焼成後、PLZT膜を表1に示したそれぞれの冷却速度で冷却し、PLZT膜を得た。
【0096】
(評価)
表1中の試料1〜試料3のそれぞれについて、屈折率n、比誘電率ε、カー定数R、結晶粒径D、を測定した。また、試料1および試料3については、X線回折スペクトルを取得した。
【0097】
なお、試料の屈折率は、633nmの光における吸光度から算出した。なお、試料の比誘電率は、1MHzの交流電場中で測定した。また、膜中の結晶の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察により行った。また、X線回折測定の条件はθ/2θスキャンとし、X線の波長はCuKα:1.5418Åとした。
【0098】
【表1】
【0099】
(結果)
表1に、各試料の物性測定結果を示した。また、図10に、試料の屈折率nとカー定数Rとの関係を示す。また、図11に、試料の比誘電率εとカー定数Rとの関係を示した。また、図12に、試料のX線回折スペクトルにおける(111)面(ピークの2θ=約38度)と(110)面(ピークの2θ=約31度)とのピーク強度比をカー定数Rとの関係でプロットした。さらに、図13に、X線回折スペクトルにおける(111)面(ピークの2θ=約38度)の半値幅とカー定数との関係を示した。
【0100】
図10、図11、および表1より、屈折率が2.8以上または比誘電率が1200以上のPLZT膜において、大きなカー定数が得られることがわかった。また、結晶の平均粒径を約1μmとすることにより、大きなカー定数が得られることがわかった。
【0101】
これらのことから、試料3では、焼成後、急速冷却を行うことにより、結晶中のLaが結晶粒中に取り込まれることが示唆された。また、結晶の平均粒径が大きいほど比表面積が小さいため、Laの酸化物(たとえばLa2O3)の析出を抑制することができると考えられる。
【0102】
一方、試料1では、PZT相の屈折率とLa相(Laの酸化物相)の屈折率について加成則が成り立つことがわかる。このため、冷却速度が遅いと、Laの酸化物の析出が生じ、膜中にPZT相とLa相が形成されていることが示唆された。
【0103】
次に、図12および図13の結果より、以下のことがわかる。なお、PLZT膜中には、立方晶と正方晶とが混在していると考えられる。
【0104】
図12の結果より、膜全体として(111)面方向への配向性を増すことにより、二次電気光学効果を向上させることができることがわかる。これは、(111)面方向への配向を増すことにより、結晶粒子間の配向のぶれを低減することができるためと推察される。また、図13より、(111)面のピーク半値幅を小さくすることによっても、二次電気光学効果を向上させることができることが明らかになった。これは、ピーク半値幅を小さくすることにより、膜全体の結晶性が向上するためであると考えられる。
【0105】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明した。この実施の形態および実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の光制御装置は、ホログラム記録/再生装置における空間光変調器SLM、表示装置、光通信用スイッチ、光通信用変調器、光演算装置、および暗号化回路等に適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた反射膜と、
前記反射膜上に設けられ、印加された電界の大きさにより屈折率が変化する材料により構成された固体の光変調膜と、
前記光変調膜に設けられた電極と、
を含むことを特徴とする光制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御装置において、
前記電極は、マトリクス状に配置された複数の電極対を含むことを特徴とする光制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光制御装置において、
前記電極対はそれぞれ櫛形に形成され、櫛歯部分が互いに対向して交互に配置されたことを特徴とする光制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の光制御装置において、
前記電極のスイッチング素子が前記基板と前記反射膜との間に設けられたことを特徴とする光制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光制御装置において、
前記基板と前記反射膜との間に設けられた絶縁膜をさらに含み、
前記スイッチング素子は、前記絶縁膜に形成されたことを特徴とする光制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の光制御装置において、
前記電極に印加するデータを保持する記憶素子が前記基板と前記反射膜との間に設けられたことを特徴とする光制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の光制御装置において、
前記基板と前記反射膜との間に設けられ、前記電極に接続した配線をさらに含むことを特徴とする光制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の光制御装置において、
前記光変調膜は、印加された電界の二乗に比例して前記屈折率が変化する材料により構成されたことを特徴とする光制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の光制御装置において、
前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含むPLZTにより構成されたことを特徴とする光制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の光制御装置において、
前記光変調膜は、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする光制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれかに記載の光制御装置において、
前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であることを特徴とする光制御装置。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた反射膜と、
前記反射膜上に設けられ、印加された電界の大きさにより屈折率が変化する材料により構成された固体の光変調膜と、
前記光変調膜に設けられた電極と、
を含むことを特徴とする光制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御装置において、
前記電極は、マトリクス状に配置された複数の電極対を含むことを特徴とする光制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光制御装置において、
前記電極対はそれぞれ櫛形に形成され、櫛歯部分が互いに対向して交互に配置されたことを特徴とする光制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の光制御装置において、
前記電極のスイッチング素子が前記基板と前記反射膜との間に設けられたことを特徴とする光制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光制御装置において、
前記基板と前記反射膜との間に設けられた絶縁膜をさらに含み、
前記スイッチング素子は、前記絶縁膜に形成されたことを特徴とする光制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の光制御装置において、
前記電極に印加するデータを保持する記憶素子が前記基板と前記反射膜との間に設けられたことを特徴とする光制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の光制御装置において、
前記基板と前記反射膜との間に設けられ、前記電極に接続した配線をさらに含むことを特徴とする光制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の光制御装置において、
前記光変調膜は、印加された電界の二乗に比例して前記屈折率が変化する材料により構成されたことを特徴とする光制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の光制御装置において、
前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含むPLZTにより構成されたことを特徴とする光制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の光制御装置において、
前記光変調膜は、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする光制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれかに記載の光制御装置において、
前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であることを特徴とする光制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【国際公開番号】WO2005/015293
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512980(P2005−512980)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011381
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/011381
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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