説明

光増幅装置

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、光増幅装置に関し、特に安定、かつ効率よく高い増幅度を得る光通信用光ファイバレーザ増幅装置に関するものである。
〔従来の技術〕
近年、Nd(ネオジウム)、Er(エルビウム)、Pr(プラセオジウム)、Yb(イツテリビウム)等の希土類元素を添加した光ファイバ(以下、希土類元素添加光ファイバと記す)をレーザ活性物質とした、単一モード光ファイバレーザあるいは光増幅器が、光センサや光通信の分野で多くの利用の可能性を有することが報告され、その応用が期待されている。
希土類元素添加光ファイバを用いた光ファイバレーザ増幅器としては、Erを添加した石英系光ファイバをレーザ活性物質として用い、半導体レーザを励起光源として、波長1.54μmで光増幅を確認した例がアール・ジェー・メアーズ等(R.J.Mears et al,Electron.Lett.,23,pp.1028,1987)によって報告されている。
第5図は、上述した従来の光ファイバ増幅器の構成例であって、1は信号源のレーザダイオード(LD)光源(波長1.53μm)、2は入力電気信号、3は集光用レンズ、4は励起用LD光源(波長0.808μm)、5はダイクロイックミラー、6はエルビウム(Er)添加単一モード光ファイバ、7は誘電体多層膜などの狭帯域フィルタ、8は伝送用光ファイバである。
これを動作するには、先ず励起用レーザダイオード4を点灯し、出力光を集光レンズ3およびダイクロイックミラー5を介して光ファイバ6に入射せしめ、光ファイバ6に添加されたErを励起した反転分布状態を作る。ついで、入力信号2によりレーザダイオード1を駆動し、その出力光をレンズ3および3′を介して、光ファイバ6に入射せしめる。この信号光は、光ファイバ6を伝ぱんする際励起状態にあるErにより増幅され、フィルタ7を介して伝送用光ファイバ8に結合される。この際、入力信号光は数dB増幅される。
〔発明が解決しようとする課題〕
第5図に示した光ファイバレーザ増幅装置の問題点は、光ファイバ6のコア径が通常数μmと小さいため、大出力のLD光源(例えば、レーザ活性部がアレイ型になっているもの)との結合効率が悪く、高い増幅度が得にくいという点である。また、光ファイバ6の長さを長くとる必要があり、光増幅装置の小型化を図る上で制約となっていた。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、かかる従来の問題点を解決するためになされたものであり、コア部に希土類元素が添加されており、かつ両端部がそれぞれ、単一モード光ファイバの導波条件を満たすように連続的に細径化されているロッド状光ファイバ母材からなる光導波路媒体と、光導波路媒体の側面に設けられた光励起用光学系とを具えたことを特徴とする。
[作 用]
希土類元素を含む光増幅用媒体としてロッド状プリフォームを用い、実効的な励起断面積を拡大することにより、被増幅信号のモード状態にほとんど影響を与えることなく、集束スポット径が大きな出力LD光源による励起が可能になる。
第1図に本発明に使用する光増幅用媒体を示す。すなわち、コア部11およびクラッド部12からなり通常の光ファイバの40〜50倍の外径を有するEr添加光ファイバ母材ロッド10の両端を、小型酸水素バーナにより延伸し、テーパ部13,13′および単一モードファイバ部9,9′を形成する。この際、テーパ部13,13′の長さを、ロッドの外径に対し十分長くとることにより、光信号はほとんどモード変換を受けることなく、低損失で伝ぱんする。これと同様な現象は、テーパ状ロッドを使用した光結合実験において、既にエイチ・エム・プレスバイ等(H.M.Presby et al,Electron.Lett.,Vol.24,pp.34〜35)によって確認されている。
第1図に示したロッドにおいて、ロッド中央部の径が例えば5mmのとき、コア部の径は約400μmとなるため、出射スポット径の大きなレーザを励起光源として使用しても、上記媒体中のErを効率良く励起することが可能である。励起光はコア部の狭い領域で吸収される必要があるため、媒体中のEr濃度が高く、励起光を十分吸収することが要求される。
このように本発明では、通常の光ファイバ増幅器で用いられる、光ファイバ端面からの励起方法に替えて、太径のロッド状母材10の外周または、テーパ部13および13′より励起を行なう方法を採用しているため、励起レーザの集束光スポットが必ずしも数μm以下である必要がない。活性部がアレイ状に並べられている出力1w以上の大出力LD等を光源として使用できるため、高い増幅度を容易に達成できるばかりでなく、装置の小型化にも有効である。さらに、本発明で使用する光増幅器媒体では、そのコア径がテーパ部で連続的にかつ滑らかに変化しているため、信号光が媒体を通過する際、ほとんどテーパ変換損失を受けることなく伝ぱんする。
また、本発明では、光増幅媒体に対し、ダイクロイックミラーなしに容易に複数個のレーザを励起光源として使用できる特徴があり、光増幅器の増幅度および信頼性を高めることができる。
以上の様に、本発明によれば、高増幅度、高信頼度にして小型の光増幅器を提供することが可能となる。
〔実施例〕
以下、図面にもとづき、実施例について説明する。
実施例−1 第2図は、本発明の第1の実施例の概念図である。第5図5図に示した従来装置と同一部分は同一参照番号を付して説明を省略する。図中、8′は伝送用単一モード光ファイバ、14はアレイ形レーザダイオード(波長0.808μm)、15はアレイ形レーザダイオード14の出力光を集光するシリンドリカルレンズ、16はミラー、17および17′は光ファイバの接続点、18は光パワーメータである。
これを動作するには、先ず出力1.5Wのレーザダイオード14を点灯し、その出力光を、シリンドリカルレンズ15を用いて、光ファイバロッド10のコア部11に集光する。ここで、レーザダイオード14の光はその80%以上が吸収され、その透過光はミラー16により反射され再び母材10のコア部11に集光され、吸収される。この結果、光ファイバ状ロッド10のコア部11に添加されたEr(Er濃度:27,000ppm)は励起状態となる。
ついで、信号用光源1を点灯し、1Gb/sのベースバンド信号2を印加し、その出力を光パワーメータ18で測定する。ついで、レーザダイオード14の出力強度を変えさせながら、出力を測定したところ、増幅度は最大22dBが得われることがわかった。なお、使用した光ファイバプリフォーム状ロッド10は外径4.8mm,コア部11の径310μm,均一径部の長さ40mm,テーパ部の長さはそれぞれ20mmであった。
実施例−2 第3図は、本発明の第2の実施例に用いたプリフォーム状ロッドおよびその励起光学系の概念図である。
本実施例の特徴は、第3図に示す様に、光の励起をロッドのテーパ部より行なっている点である。テーパ部からの励起を容易にするため、母材は高NA(NA=0.25)のものを使用しており、母材の中心軸と励起光束の入射角度θは10゜以下とした。母材の寸法は均一径部の長さが150mm,径が約6.2mm,コア部の径が約220μm、テーパ部13,13′の長さがそれぞれ38mmであった。母材のErの濃度は、約14,500ppmであった。
これを動作するには、出力1.8w,波長1.483μmのアレイ状励起光源14を点灯し、プリフォーム状ロッドのコア部に結合させる。ここに、励起光のスポット径は110μmであった。このときの結合効率は、32%であった。この状態で実施例1と同様の実験系で光増幅度を測定したところ、24dBの増幅度が得られた。
なお、本実施例において、テーパ部13′からも励起できることは言うまでもない。
実施例−3 第4図は、本発明の第3の実施例に用いたプリフォーム状ロッドおよびその励起光学系の概念図であって、19は液体窒素用保冷容器,20は液体窒素,21は同注入口,22は霜付き防止用リング状ヒーターである。第4図は、基本的には第2の実施例と同一であるが、励起光学系を2系列(14および14′)としたところ、励起時の自然放出光によるS/N劣化を防止するため、ロッドの冷却装置を付加した点にある。
これを動作するには、冷却用液体窒素20を注入口21より保冷容器19に満たす。プリフォーム状ロッド10が十分冷えた後、実施例−2と同様の方法で、プリフォーム状ロッド中のErを波長1.483μmのレーザダイオード14,14′で励起し、実施例−1と同様の手法で光増幅度の測定を行なった。その結果、光増幅度29dBが得られた。
〔発明の効果〕
以上説明した様に、本発明によれば、励起用光源であるLDの集光スポット形状の制約が大幅に緩和されるばかりでなく、光増幅器媒体の側面からの励起が可能となり、かつ複数個の励起光源を同時に使用できるため、高い光増幅度と高い信頼性が得られる。また、ロッド状母材を増幅器媒体としているため、増幅系に悪影響を及ぼすことなく媒体を冷却することが容易で、自然放出光によるS/N劣化を防止できる。
したがって、高増幅度,高S/N比かつ小型にして信頼性の高い光増幅器を提供できることから、長距離大容量光伝送系に使用できるばかりでなく、超高感度光計測に応用できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の光増幅器に使用する光増幅用媒体の概念図、
第2図は本発明の第1の実施例の概念図、
第3図は本発明の第2の実施例に用いる光増幅用媒体および励起光学系の概念図、
第4図は本発明の第3の実施に用いる光増幅用媒体および励起光学系の概念図、
第5図は従来装置の基本構成図である。
1……レーザ光源、
2……入力電気信号、
3,3′……集光レンズ、
4,4′……励起用レーザダイオード、
5……ダイクロイックミラー、
6……Er添加光ファイバ、
7……フィルタ、
8……伝送用ファイバ、
9,9′……Er添加単一モード光ファイバ、
10……Er添加光ファイバプリフォーム状ロッド、
11……コア部、
12……クラッド部、
13,13′……テーパ部、
14……アレイ状励起光源、
15……シリンドリカルレンズ、
16……ミラー、
17……光ファイバ接続点、
18……光パワーメータ、
19……保冷容器、
20……液体窒素、
21……液体窒素注入口、
22……ヒータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】コア部に希土類元素が添加されており、かつ両端部がそれぞれ、単一モード光ファイバの導波条件を満たすように連続的に細径化されているロッド状光ファイバ母材からなる光導波路媒体と、該光導波路媒体の側面に設けられた光励起用光学系とを具えたことを特徴とする光増幅装置。

【第1図】
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【第3図】
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【第2図】
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【第4図】
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【第5図】
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【特許番号】第2617564号
【登録日】平成9年(1997)3月11日
【発行日】平成9年(1997)6月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−60341
【出願日】平成1年(1989)3月13日
【公開番号】特開平2−239236
【公開日】平成2年(1990)9月21日
【出願人】(999999999)日本電信電話株式会社