説明

光変調器およびその作製方法

【課題】光変調器の信号線間クロストークを抑制し、これに伴い小型化が実現可能な光変調器およびその作製方法を提供する。
【解決手段】基板1上に形成された複数の光導波路3と、光導波路3内を通過する光を変調するために設けられる信号線電極4と、光導波路3上に信号線電極4を配してなる光変調部12とを備える光変調器において、信号線電極4がその周囲を誘電体絶縁膜5によって覆われ、誘電体絶縁膜5がその外側をグラウンド電極6によって覆われるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器およびその作製方法に関し、特に電気クロストークを抑制可能な光変調器およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9に従来のマッハツェンダー変調器の構造図、図10に図9のX−X断面図を示す。
図9に示すように、従来のマッハツェンダー変調器は二つの光導波路3と、二つの光カプラー10,11と、二つの光カプラー10,11の間に配設され光導波路3に高周波信号を印加する信号線電極4とを備えて構成されている。そして、信号線電極4によって光導波路3に高周波信号が印加される領域が二つの変調部12として構成されている。
【0003】
図10に示すように、変調部12において、基板1上にはグラウンド層2を介して光導波路3が形成され、この光導波路3の伝播方向両側に誘電体絶縁膜5が形成されている。そして、光導波路3上には信号線電極4がパターンニングされ、誘電体絶縁膜5の光の伝播方向両側にはグラウンド電極6が形成されている。なお、図中L1はチャネル間隔、L2は素子の幅を示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ken Tsuzuki, Yasuo Shibata, Nobuhiro Kikuchi, Mitsuteru Ishikawa, Takako Yasui, Hiroyuki Ishii, and Hiroshi Yasaka、“Full C-Band Tunable DFB Laser Array Copackaged With InP Mach-Zehnder Modulator for DWDM Optical Communication Systems”、IEEE Journal of selected topic in quantum electronics、2009年、Vol.15、No.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、隣り合う変調部12は光と電気のクロストークの影響を抑えるためにそのチャネル間L1を離す必要がある。光のクロストークは20μm以上間隔L1が空いていれば十分に抑えられるが、電気信号のクロストークは間隔L1を最低でも100μm以上離す必要があった。そのため、電気信号のクロストークの影響が、素子の小型化のボトルネックとなっていた。
【0006】
通信用光変調器は、多チャネル化、多値化の流れに伴い、更なる小型化の要求が高まっている。ここで、光変調器デバイスは高周波信号線を有する光導波路の間隔を狭めることで大幅な素子の小型化が可能となるが、先の電気クロストークの影響により現状の構造では更なる小型化が難しかった。
【0007】
このようなことから本発明は、従来の素子作製プロセスで使われている装置、材料を用いて簡単に作製可能であって、且つ、電気クロストークを抑制する構造を適用することで、チャネル間隔を狭小化することが可能な小型の光変調器およびその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る光変調器は、基板上に並行して形成された複数の光導波路と、前記光導波路内を通過する光を変調するために前記光導波路に沿ってそれぞれ設けられる複数の信号線電極とにより光変調部が構成される光変調器において、前記光変調部が、前記信号線電極の周囲を覆う誘電体と、前記誘電体の外周を覆うグラウンド電極とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る光変調器は、第1の発明に係る光変調器において、前記光変調部がマッハツェンダー型光変調器の光変調部を構成することを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る光変調器は、第1の発明に係る光変調器において、前記光変調部が少なくとも二つの前記マッハツェンダー型光変調器を有するマッハツェンダー変調器アレイの光変調部を構成することを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る光変調器の作製方法は、基板上に並行して形成された複数の光導波路と、前記光導波路内を通過する光を変調するために前記光導波路に沿ってそれぞれ設けられる複数の信号線電極とにより光変調部が構成される光変調器の作製方法であって、基板上に前記光変調器の素子の表面構造として前記光導波路層、誘電体絶縁膜、前記信号線電極およびグラウンド電極を形成する工程と、前記素子の表面にパターンニングで前記信号線電極の周囲のみに前記誘電体絶縁膜を形成する工程と、前記誘電体絶縁膜の周囲に蒸着によってグラウンド電極を形成する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光変調器の信号線間クロストークを抑制し、これに伴い小型化が実現可能な光変調器を提供することができる。また、従来の素子作製プロセスで使われている装置、材料を用いて静電遮蔽構造を達成することが可能な光変調器の作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る光変調器の変調部の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る静電遮蔽型導波路EADFBレーザアレイの構成図である。
【図3】本発明の実施例1に係る静電遮蔽型導波路EADFBレーザアレイの形成手順を示す説明図である。
【図4】本発明の実施例1に係るEADFBレーザアレイのBER特性測定系を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例2に係る静電遮蔽型マッハツェンダー変調器の構成図である。
【図6】本発明の実施例2に係るマッハツェンダー変調器を用いたアイパターン測定系を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例3に係る静電遮蔽型マッハツェンダー変調器アレイの構成図である。
【図8】本発明の実施例3に係るマッハツェンダー変調器アレイを用いたアイパターン測定系を示す説明図である。
【図9】従来のマッハツェンダー変調器の構成図である。
【図10】図9のX−X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る光変調器およびその作製方法の詳細を説明する。
図1に本実施形態に係る光変調器の光変調部における断面構造を示す。図1に示すように、本実施形態に係る光変調器の変調部は、基板1上にグラウンド層2を介して形成された光導波路3の直上にそれぞれ信号線電極4がパターンニングされて構成されている。そしてこの光導波路3および信号線電極4の周囲に誘電体絶縁膜5が形成され、さらにこの誘電体絶縁膜5の周囲にグラウンド電極6が蒸着されている。なお、光導波路3は光導波路コア層3aと、光導波路コア層3aの上下に形成される光導波路クラッド層3bとから構成されている。
【0015】
続いて、本実施形態に係る光変調器の作製方法について説明する。本実施形態においては、上述した従来の作製手順と同様に基板1上に表面構造を形成した後(すなわち光導波路層3、誘電体絶縁膜5、信号線電極4、およびグラウンド電極6を図10に示した状態まで形成した後)、パターンニング技術を用いて信号線電極4の周囲のみに誘電体絶縁膜5を形成し、続いて誘電体絶縁膜5の周囲に蒸着装置でグラウンド電極6を蒸着することで光変調器を作製する。
なお、本実施形態において光導波路3は、例えばSi,Al,Ga,In,As,PまたはSbの中の少なくとも二種類以上の元素からなるIII−V族化合物半導体で構成すれば好適である。
【0016】
本実施形態に係る光変調器によれば、誘電体絶縁膜5およびグラウンド電極6によって信号線電極4を覆っている。これにより、信号線電極4からの電磁波を静電遮蔽することができ、信号線電極4からの電磁波がグラウンド電極6の外部に広がることを防止することができる。すなわち、本実施形態に係る光変調器によれば、隣接する信号線間でのクロストークを抑制することができる。このため、従来に比較して変調部のチャネル間隔を狭めることが可能となり、これにより光変調器の小型化が可能となる。また、本実施形態に係る光変調器の作製方法によれば、従来の光変調器の作製に用いる装置、材料のみを用いて、電気クロストークを抑制可能な光変調器を作製することができる。
【実施例1】
【0017】
(導波路型EA変調器付きレーザアレイ)
図2ないし図4に基づいて本発明に係る光変調器およびその作製方法の第一の実施例を説明する。本実施例は、本発明の効果を示す一つの例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行い得ることは言うまでもない。
【0018】
図2に示すように、本実施例に係る光変調器は2チャネル導波路型EA変調器付き分布帰還形レーザアレイ(以下、2チャネル導波路型EADFBレーザアレイという)の一部を構成している。具体的には、図2に示す2チャネル導波路型EADFBレーザアレイは、二つの分布帰還型半導体レーザ(以下、DFBレーザという)7、このDFBレーザ7から出力された光を伝搬する光導波路3、二つの光導波路3を伝搬する光を合波する光合波器8、および、DFBレーザ7と光合波器8との間に配設され光導波路3に高周波信号を印加する信号線電極4とを備えて構成されている。そして、信号線電極4によって光導波路3に高周波信号が印加される領域が二つの導波路型EA変調器9として構成されている。
【0019】
なお、図2に示す静電遮蔽型2チャネル導波路型EADFBレーザアレイの導波路型EA変調器9におけるI−I断面構造は、図1に示し上述した変調部の構造と概ね同様であ
り、ここでは詳しい説明は省略する。
本実施例ではDFBレーザ7のチャネル間隔を50μmとし、光合波器8としてマルチモード干渉型合波器(以下、MMIカプラという)を用いた。
また、DFBレーザ7のバイアス電流はそれぞれ100mA、信号振幅電圧は2Vppとした。光ファイバは10kmとした。DFBレーザ7から出射される光の波長は1305nm、1310nmとした。
【0020】
1.動作原理と作製工程
以下に、本実施例に係る光変調器によって信号線間におけるクロストークを低減することができる理由について説明する。本実施例においては、図1に示し上述した構成と同様に、従来の構成に比較して、信号線電極4が誘電体絶縁膜5とグラウンド電極6で覆われている。これにより、信号線電極4からの電磁波は静電遮蔽されるため、グラウンド電極6の外側に広がることがない。よって、隣り合う導波路3上の信号線間クロストークを抑制することが可能となる。
【0021】
次に、本実施例に係る光変調器が簡易に作成可能である理由を、図3を用いて説明する。基板1上に表面構造として光導波路層3、信号線電極4、誘電体絶縁膜5、グラウンド電極6を図10に示し上述した従来の光変調部の状態まで作成するところは従来のEADFBレーザアレイと同様の工程となる(図3(a))。次に、信号線電極4を覆うように誘電体絶縁膜5を形成し、誘電体絶縁膜5が不要な部分(例えば、本実施例ではグラウンド電極6を覆っている部分)をパターンニングで取り除く(図3(b))。最後に、金の蒸着とリフトオフで、誘電体絶縁膜5を覆うようにグラウンド電極6を形成する(図3(c))。このとき、最後に形成するグラウンド電極6は、図3(a)に示す先に形成されたグラウンド電極6と接続が取れるようにしておくものとする。以上で、静電遮蔽された信号線が完成する。ここで、本実施例において用いる誘電体絶縁膜5とグラウンド電極6として用いられる金とは、従来のEADFBレーザアレイを作成するときと同じものであり、プロセス装置も、フォトリソグラフィ、蒸着装置と従来の工程でも使う装置だけである。よって、本構造を有するデバイスは、従来の素子作製プロセスで使われている装置、材料を用いて作製可能であるといえる。
【0022】
2.レーザアレイの変調特性
図4は2チャネル導波路型EADFBレーザアレイの変調特性を測定するための測定系である。図4に示す2チャネルパルスパターン発生器(以下、2Ch-PPGという)101からは40Gbpsの信号がそれぞれ出力されており、2チャネル導波路型EADFBレーザアレイを備えた多チャネル光送信モジュール102内の導波路型EA変調器9にそれぞれつながっている。また、2チャネルレーザ駆動電源103は多チャネル光送信モジュール102内の各DFBレーザ7のチャネルに接続されている。多チャネル光送信モジュール102のEADFBレーザアレイから出力された光はシングルモードファイバ104を介して、光分波器105に入る。そして、分波された光のうち1つが光可変減衰器106で減衰された後、フォトディテクタ107に入力され、電気信号に変換される。この電気信号がエラーディテクタ108に入る。観測したチャネルは波長1305nmのチャネルとした。
【0023】
上述した測定系において符号誤り率特性(以下、BER特性という)を測定した結果は、2チャネル同時に動作させて測定したときの最小受信感度が-7dBm、単体で動作させたときの最小受信感度が−7.1dBmであった。この結果から、50μmと非常に狭い間隔にした時でも静電遮蔽の効果により、ほとんど受信感度が劣化しない程度のクロストークに抑制できていることが分かった。
【0024】
比較として、従来構造の2チャネル導波路型EADFBレーザアレイについてもBER特性測定を行った。このとき、従来型の導波路間隔も50μmとした。結果は、2チャネル同時に動作させて測定したときの最小受信感度が−6.2dBm、単体で動作させたときの最小受信感度が−7.1dBmであった。この受信感度劣化は、主にクロストークにより信号波形が劣化したために起こっていると考えられる。
以上より、静電遮蔽構造を有する本実施例に係る変調器を備えた導波路型EADFBレーザアレイはクロストーク低減に有効であり、つまりレーザアレイの小型化に有効であることが明らかである。
【実施例2】
【0025】
(MZ変調器)
図5および図6に基づいて本発明に係る光変調器およびその作製方法の第2の実施例を説明する。本実施例は、本発明の効果を示す一つの例示であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行い得ることは言うまでもない。
【0026】
図5に示すように、本実施例に係る光変調器はマッハツェンダー変調器を構成している。具体的には、二つの光導波路3と、入力された二つの光信号を分岐する光カプラー10と、この光カプラー10によって分岐された光信号を入力して二つに分岐する光カプラー11と、二つの光カプラー10,11の間に配設され光導波路3に高周波信号を印加する信号線電極4とを備えて構成されている。そして、信号線電極4によって光導波路3に高周波信号が印加される領域が二つの変調部12として構成されている。
【0027】
なお、本実施例において変調部12の導波路3間隔は50μmとし、光カプラー10,11としてMMIカプラーを用いた。
また、レーザ光源からの出力は+5dBm、波長1550nm、信号振幅電圧は3Vppとした。また、光ファイバは40kmとした。
なお、図5に示す静電遮蔽型マッハツェンダー変調器の変調部12におけるI−I断面
構造は、図1に示し上述したものとおおむね同様であり、ここでは詳しい説明は省略する。
【0028】
1.動作原理と作製工程
変調部12の導波路3上の信号線間でクロストークを減らせる理由について説明する。本実施例においては、図1に示し上述した構成と同様に、従来の構成に比較して、信号線電極4が誘電体絶縁膜5とグラウンド電極6で覆われている。これにより、信号線電極4からの電磁波は静電遮蔽されるため、グラウンド電極6の外側に広がることがない。よって、隣り合う導波路上の信号線間クロストークを抑制することが可能となる。
【0029】
次に、本実施例に係る光変調器が簡易に作成可能である理由を、図3を用いて説明する。基板1上に表面構造として光導波路層3、誘電体絶縁膜5、信号線電極4、グラウンド電極6を図10に示し上述した従来の光変調部の状態まで作成するところは従来のマッハツェンダー変調器と同様の工程となる(図3(a))。次に、信号線電極4を覆うように誘電体絶縁膜5を形成し、誘電体絶縁膜5が不要な部分(例えば、本実施例ではグラウンド電極6を覆っている部分)をパターンニングで取り除く(図3(b))。最後に、金の蒸着とリフトオフで、誘電体絶縁膜5を覆うようにグラウンド電極6を形成する(図3(c))。このとき、最後に形成するグラウンド電極6は、図3(a)に示す先に形成されたグラウンド電極6と接続が取れるようにしておくものとする。以上で、静電遮蔽された信号線が完成する。ここで、本実施例において用いる誘電体絶縁膜5とグラウンド電極6の金は、従来のマッハツェンダー変調器を作成するときと同じものであり、プロセス装置も、フォトリソグラフィ、蒸着装置と従来の工程でも使う装置だけである。よって、本構造を有するデバイスは、従来の素子作製プロセスで使われている装置、材料を用いて作製可能であるといえる。
【0030】
2.マッハツェンダー変調器の変調特性
図6はマッハツェンダー変調器の変調特性を測定するための測定系である。パルスパターン発生器(以下、PPGという)111からは40Gbpsの信号と反転信号がそれぞれ出力されており、光変調器モジュール112内のマッハツェンダー変調器にそれぞれつながっている。また、レーザ光源113から出力された光は光変調器モジュール112で変調された後、シングルモードファイバ114を介して、サンプリングオシロスコープ115に入力され、アイパターンが観測できる。
【0031】
アイパターンを測定した結果、消光比が9dBであった。
比較として、導波路間隔を50μmとした、従来構造のマッハツェンダー変調器をいれた光変調器モジュールで同様の測定を行った結果、消光比は8.1dBであった。これは、クロストークよる信号劣化で消光比が小さくなったと考えられる。
【0032】
以上より、本実施例に係る静電遮蔽構造を有する光変調器であるマッハツェンダー変調器はクロストーク低減に有効であり、つまり変調器デバイスの小型化に有効であることが明らかである。
【実施例3】
【0033】
(マッハツェンダー変調器アレイ)
図7および図8に基づいて本発明に係る光変調器およびその作製方法の第三の実施例を説明する。本実施例は、本発明の効果を示す一つの例示であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行い得ることは言うまでもない。
【0034】
図7に示すように、本実施例に係る光変調器はマッハツェンダー変調器アレイの一部を構成している。具体的には、実施例2において説明したマッハツェンダー変調器を二つ並列に配置し、これら二つのマッハツェンダー変調器それぞれの光カプラー11によって分岐された光の一方を入力してこれを分岐する光カプラー13を備えて構成されている。その他の構成は図5に示し上述したマッハツェンダー変調器の構成とおおむね同様であり、同様の作用を奏する部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
なお、本実施例において変調部の導波路3間隔はそれぞれ50μmとし、光カプラー10,11,13としてMMIカプラーを用いた。
また、レーザ光源からの出力はそれぞれ+5dBm、波長は1550nmと1560nm、信号振幅電圧はそれぞれ3Vppとした。また、光ファイバは40kmとした。
なお、図7に示す静電遮蔽型マッハツェンダー変調器の変調部におけるI−I断面構造
は、図1に示し上述したものとおおむね同様であり、ここでは詳しい説明は省略する。
【0036】
1.動作原理と作製工程
本実施例において変調部12の導波路3上に設けられた信号線間でクロストークが減らせる理由について説明する。本実施例においては、図1に示し上述した構成と同様に、従来の構成に比較して、信号線電極4が誘電体絶縁膜5とグラウンド電極6で覆われている。これにより、信号線電極4からの電磁波は静電遮蔽されるため、グラウンド電極6の外側に広がることがない。よって、隣り合う導波路3上の信号線間クロストークを抑制することが可能となる。
【0037】
次に、本実施例に係る光変調器が簡易に作成可能である理由を、図3を用いて説明する。基板1上に表面構造として光導波路層3、誘電体絶縁膜5、信号線電極4、グラウンド電極6を図10に示し上述した従来の光変調部の状態まで作成するところは従来のマッハツェンダー変調器と同様の工程となる(図3(a))。次に、信号線電極4を覆うように誘電体絶縁膜5を形成し、誘電体絶縁膜5が不要な部分(例えば、本実施例ではグラウンド電極6を覆っている部分)をパターンニングで取り除く(図3(b))。最後に、金の蒸着とリフトオフで、誘電体絶縁膜5を覆うようにグラウンド電極6を形成する(図3(c))。このとき、最後に形成するグラウンド電極6は、図3(a)に示す先に形成されたグラウンド電極6と接続が取れるようにしておくものとする。以上で、静電遮蔽された信号線が完成する。ここで、本実施例において用いる誘電体絶縁膜5とグラウンド電極6の金とは、従来のマッハツェンダー変調器を作成するときと同じものであり、プロセス装置も、フォトリソグラフィ、蒸着装置と従来の工程でも使う装置だけである。よって、本構造を有するデバイスは、従来の素子作製プロセスで使われている装置、材料を用いて作製可能であるといえる。
【0038】
2.マッハツェンダー変調器アレイの変調特性
図8はマッハツェンダー変調器アレイの変調特性を測定するための測定系である。2チャネルパルスパターン発生器(以下、2Ch−PPGという)121からは二つの40Gbpsの信号が出力され、それぞれ、信号と反転信号の出力があり、光変調器モジュール122内のマッハツェンダー変調器アレイにそれぞれつながっている。また、2チャネルレーザ光源123から出力された光は光変調器モジュール122で変調された後、シングルモードファイバ124を介して、分波器125で1つの波長だけ切り出された後、サンプリングオシロスコープ126に入力され、アイパターンが観測できる。観測したチャネルは波長1550nmのチャネルとした。
【0039】
アイパターンを測定した結果、片方のチャネルだけ動かしたときの消光比が9.2dB、両方のチャネルを同時に動かしたときの消光比が9.1dBであった。
比較として、導波路間隔を同様の50μmとし、従来構造のマッハツェンダー変調器アレイをいれた光変調器モジュールで同様の測定を行った結果、片方のチャネルだけ動かしたときの消光比は8.3dB、両方のチャネルを同時に動かしたときの消光比は7.6dBであった。これは、クロストークよる信号劣化で消光比が小さくなったと考えられる。
【0040】
以上より、本実施例の静電遮蔽構造を有するマッハツェンダー変調器アレイは電気クロストーク低減に有効であり、つまり変調器アレイの小型化に有効であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、光変調器およびその作製方法に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
2 グラウンド層
3 光導波路
3a 光導波路コア
3b 光導波路クラッド
4 信号線電極
5 誘電体絶縁膜
6 グラウンド電極
7 分布帰還形半導体レーザ(DFBレーザ)
8 光合波器
9 導波路型EA変調器
10,11,13 光カプラー
12 光変調部
101 2チャネルパルスパターン発生器(2Ch−PPG)
102 多チャネル光送信モジュール
103 2チャネルレーザ駆動電源
104 光ファイバ
105 光分波器
106 光可変減衰器
107 フォトディテクタ
108 パルスパターンジェネレータ
111 パルスパターン発生器(PPG)
112 光変調器モジュール
113 レーザ光源
114 光ファイバ
115 サンプリングオシロスコープ
121 2チャネルパルスパターン発生器(2Ch−PPG)
122 光変調器モジュール
123 レーザ光源
124 光ファイバ
125 光分波器
126 サンプリングオシロスコープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に並行して形成された複数の光導波路と、前記光導波路内を通過する光を変調するために前記光導波路に沿ってそれぞれ設けられる複数の信号線電極とにより光変調部が構成される光変調器において、
前記光変調部が、前記信号線電極の周囲を覆う誘電体と、
前記誘電体の外周を覆うグラウンド電極とを備える
ことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記光変調部がマッハツェンダー型光変調器の光変調部を構成する
ことを特徴とする請求項1記載の光変調器。
【請求項3】
前記光変調部が少なくとも二つの前記マッハツェンダー型光変調器を有するマッハツェンダー変調器アレイの光変調部を構成する
ことを特徴とする請求項1記載の光変調器。
【請求項4】
基板上に並行して形成された複数の光導波路と、前記光導波路内を通過する光を変調するために前記光導波路に沿ってそれぞれ設けられる複数の信号線電極とにより光変調部が構成される光変調器の作製方法であって、
基板上に前記光変調器の素子の表面構造として前記光導波路層、誘電体絶縁膜、前記信号線電極およびグラウンド電極を形成する工程と、
前記素子の表面にパターンニングで前記信号線電極の周囲のみに前記誘電体絶縁膜を形成する工程と、
前記誘電体絶縁膜の周囲に蒸着によってグラウンド電極を形成する工程とを有する
ことを特徴とする光変調器の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−247516(P2012−247516A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117579(P2011−117579)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】