説明

光学ガラス

【課題】紫外域において、高屈折率、高透過率を有する光学ガラスを提供する。
【解決手段】Si、Al、MgおよびOを含有するガラスであって、Siを陽イオン%で40%以上60%以下、Alを陽イオン%で10%以上35%以下、Mgを陽イオン%で20%以上35%以下含有し、Si、Al、Mgの合計の陽イオン%が99.5%以上であり、FeおよびNaの含有量がそれぞれ0.01wtppm以下であり、かつ波長248nmの光に対する透過率が厚さ5mmで40%以上である光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線および真空紫外線を光源とする装置に用いられる光学ガラスに関する。特にKrFエキシマレーザ(波長248nm)などの紫外線から真空紫外線までに用いるレンズ、プリズム、窓材などの光学部品として用いられる光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高集積化に伴い、集積回路をウェハー上に、より微細に描画する光リソグラフィ技術の開発が求められている。この手段としては、より短波長の光源を用いるか、投影レンズのN.A.を大きくすることが考えられる。短波長の光源としては、F2レーザー(波長157nm)やEUV(波長13nm)が挙げられる。また、現行のArFエキシマレーザを用い、投影レンズとウェハーの間に超純水などを満たす、液浸露光技術も有力で注目されている。
【0003】
従来、紫外線から真空紫外線を用いる装置に使用されるレンズ、プリズム、窓材などの光学部品には、高透過性、高均質性、高耐光性、低光分散および低熱膨張係数などの特性を併せ持つ、合成石英ガラスや蛍石(CaF2)が主に用いられてきた。
【0004】
合成石英ガラスは、近赤外域から真空紫外域にわたる広範囲な波長域で透明であり、波長157nmにおいて、厚さ1cmで95%の透過率を有する。
蛍石は合成石英ガラスよりも短波長まで透過し、波長157nmにおいて、厚さ10mmで99%より大きな透過率を有するものが報告されている。
【0005】
また、特許文献1には、SiO2、Al23、B23、CaOを含有し、鉄分の含有量がFeとして50ppm以下としたガラス材が開示されている。このガラス材の主な目的は、光触媒フィルタなどに使用される光触媒の担持用であり、波長365nmでの紫外線透過特性の向上を求めたものである。高純度原料を用いるとともに、ガラス材の製造工程における不純物の混入を避け、さらに還元剤を用いることで、波長310nmから410nm付近の透過率を向上させている。還元剤の作用は、波長365nm付近に吸収を持つFe3+イオンを、波長850nm付近に吸収を持つFe2+イオンに還元させることである。
【0006】
しかしながら、波長248nmにおける屈折率は、従来の露光装置に使用されている合成石英ガラスで1.51、蛍石で1.47である。さらに、結晶である蛍石には、真性複屈折の問題が存在する。
【0007】
これらの問題点を鑑み、例えば非特許文献1では、液浸露光用の高屈折率光学部材として立方晶系のMgO単結晶、立方晶系のMgAl24単結晶および多結晶の評価が行われている。
【特許文献1】特開2001−64038号公報
【非特許文献1】John H.Burnett,Simon G.Kaplan,Eric L.Shirley,Paul J.Tompkins,and JamesE.Webb,”High−Index Materials for 193 nmImmersion Lithography,”Proceedings SPIE5754−57 (2005年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1での評価では、波長248nmでのMgO単結晶の屈折率は約1.82であり、また、MgAl24単結晶では約1.77であり、紫外線波長域用の光学部材として充分な屈折率を有している。また、波長248nmでの透過率は、MgO単結晶では厚さ9mmで約18%、MgAl24単結晶では厚さ3.4mmで約80%、MgAl24多結晶では厚さ2.7mmで約72%である。
【0009】
しかしながら、波長253.7nmでの真性複屈折は、MgO単結晶で16.0±0.5nm/cm(外挿値)、MgAl24単結晶で14.6±0.1nm/cm(外挿値)であり、CaF2の−0.55±0.07nm/cmよりもはるかに大きな値である。
【0010】
特許文献1では、波長365nmの紫外線透過性の向上のために、ガラス材中の鉄分の含有量を50ppm以下としている。ガラス中のFe含有量を1.0ppmとし、還元剤として不純物を0.1ppm含有するSiを0.01重量%使用した場合において、波長248nm付近における厚さ1mmの透過率は約50%である。しかしながら、屈折率の点で十分ではない。
【0011】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、紫外域において、高屈折率、高透過率を有し、かつ真性複屈折を示さない光学ガラスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、紫外域において、高屈折率、高透過率および高均質性を有し、且つ真性複屈折が問題とならない光学部材を新規に探索し、その結果、SiO2およびAl23を含有し、これらにMgOを添加した光学ガラスが有効であることを見出した。
【0013】
本発明の光学ガラスは、Si、Al、MgおよびOを含有するガラスであって、Siを陽イオン%で40%以上60%以下、Alを陽イオン%で10%以上35%以下、Mgを陽イオン%で20%以上35%以下含有し、Si、Al、Mgの合計の陽イオン%が99.5%以上であり、FeおよびNaの含有量がそれぞれ0.01wtppm以下であり、かつ波長248nmの光に対する透過率が厚さ5mmで40%以上であることを特徴とする。
【0014】
前記光学ガラスは、OH基の含有量が5000wtppm以下であることが好ましい。前記光学ガラスは、波長248nmの光に対する屈折率が1.56以上、より好ましくは1.57以上であるとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、紫外域の波長領域において、高屈折率、高透過率を有し、かつ真性複屈折を示さない光学ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の光学ガラスは、紫外線の波長領域において、合成石英ガラスおよび蛍石に比較して高屈折率であるとともに高透過性を有している。
【0017】
酸化物について、バンドギャップと可視光領域の屈折率の間に相関があることが知られている。具体的には、屈折率nとバンドギャップEg(eV)の間に、
【0018】
【数1】

【0019】
なる関係があることが、経験的に知られている(S.H.Wemple and M.DiDomenico,Jr.,“Oxygen−octahedra ferroelectrics: II Electro−optical and nonlinear−optical device applications,” J.Appl.Phys.,vol.40,pp.735−752,1969年2月参照)。
【0020】
紫外線から真空紫外線領域においても同様な相関関係が存在すると仮定する。この場合、合成石英ガラス(Eg=9eV程度,仮想温度により変動)よりもバンドギャップが狭く、且つ、波長248nmのエネルギーに当たる5.0eVよりもバンドギャップが広い酸化物材料を用いる。すると、高屈折率と高透過率の両特性を有するガラス材料を得ることができると考えられる。例えば、前述のように、MgOのバンドギャップは7.6eV、MgAl24で7.75eVであり、この条件に当てはまっている。
【0021】
蛍石のようなフッ化物系の材料はバンドギャップが広いため、短波長まで良好に透過する。しかし、フッ化物イオンの電子分極率(1.04×10-24cm3)が酸化物イオンの電子分極率(3.88×10-24cm3)よりも小さいために、高屈折率化の上では望ましくない。
【0022】
このような仮定を元に、本発明者らが鋭意検討を行った結果、SiO2にAl23(Eg=8.7eV)、およびMgO(Eg=7.6eV)を添加した、上記SiO2−Al23−MgO系ガラスが見出された。これらのガラス系では、高純度化の検討が不十分であった。
【0023】
前述したように、波長248nmにおける屈折率は、合成石英ガラスで1.51、蛍石で1.47であるが、上記SiO2−Al23−MgO系ガラスは、波長248nmにおける屈折率が1.57である。
【0024】
本発明の光学ガラスは、Si、Al、MgおよびOを含有するSi−Al−Mg−O系ガラスであって、Siを陽イオン%で40%以上60%以下、Alを陽イオン%で10%以上35%以下、Mgを陽イオン%で20%以上35%以下含有し、Si、Al、Mgの合計の陽イオン%が99.5%以上であり、FeおよびNaの含有量が0.01wtppm以下であり、かつ波長248nmの光に対する透過率が厚さ5mmで40%以上であることが好ましい。
【0025】
光学ガラスには、Siを含有する。光学ガラスに含有されるSiの含有量は、陽イオン%で40%以上60%以下、好ましくは45%以上55%以下が望ましい。
なお、ここでいう、Siの陽イオン%とは、Siの陽イオンとAlの陽イオンとMgの陽イオンの数の合計に対するSiの陽イオンの数である。
【0026】
同様に、Alの陽イオン%とは、Siの陽イオンとAlの陽イオンとMgの陽イオンの数の合計に対するAlの陽イオンの数である。
また同様に、Mgの陽イオン%とは、Siの陽イオンとAlの陽イオンとMgの陽イオンの数の合計に対するMgの陽イオンの数である。
【0027】
SiO2は、単独でもガラスを形成することができ、一般的に最も良く用いられるガラス成分である。前述したように、Egが約9eVであり、紫外線および真空紫外線に対して非常に優れた透過性および耐光性を示す。一方で屈折率は波長248nmにおいて1.51であり、小さい。したがって、より短波長の光を透過させるためには、含有量を増加させることが好ましいが、屈折率向上の上では不利となる。また、Siの含有量が多いほどガラス化し易く、熱膨張係数が小さくなり、ガラスとしての安定性が向上するが、粘性が高くなるとともに融点も高くなる。このことは、溶融の際のエネルギー代が高くなることを意味するとともに、るつぼ等の容器の材質が限られ、コスト高の原因となる。したがって、Siの含有量は上記の範囲が適当である。
【0028】
光学ガラスには、Alを含有する。光学ガラスに含有されるAlの含有量は、陽イオン%で10%以上35%以下、好ましくは12%以上33%以下が望ましい。
Al23は、単独でガラスを形成することは困難であるが、SiO2等のいわゆるガラス形成酸化物に添加することで、化学的耐久性を向上させるガラス成分である。前述したように、Egが8.7eVであり、紫外線および真空紫外線の透過性が高く、また、SiO2よりも屈折率を向上させる効果が高いため、上記の範囲の含有量とすることが好ましい。
【0029】
光学ガラスには、Mgを含有する。光学ガラスに含有されるMgの含有量は、陽イオン%で20%以上35%以下、好ましくは22%以上33%以下が望ましい。
MgOは、ガラス形成における、いわゆる修飾酸化物として作用し、粘性を下げる。前述したように、MgOのEgが7.6eVであり、KrFエキシマレーザー(波長248nm)のエネルギー5.0eVよりも大きいが、合成石英ガラスにおいては、紫外線透過性を低減させる不純物として扱われている。Mg−Oの結合エネルギーは88kcal/molであり、SiO2(150kcal/mol)やAl23(115kcal/mol)に比較して結合強度が小さくなっている。したがって、屈折率を向上させる上ではMg−Oの含有量を増加させることが好ましいが、逆に紫外線および真空紫外線の透過性および耐光性を高める上では、含有量を低減させることが好ましい。したがって、Mgの含有量は上記の範囲が適当である。
【0030】
また、光学ガラスに含有される不純物として、FeおよびNaの含有量がそれぞれ0.01wtppm以下、好ましくは0.001wtppm以下が望ましい。wtppmとは光学ガラスの全重量に占める、Fe又はNaの重量割合である。
【0031】
本発明の光学ガラスは、紫外線を光源とする装置に用いられるガラス製光学部材であり、同用途の合成石英ガラスおよび蛍石と同様に、紫外線領域に吸収を持つ不純物量を可能な限り少なくすることが好ましい。すなわち、高純度の原料を用い、製造工程における不純物の混入もできる限り排除することが必要である。
【0032】
紫外線および真空紫外線透過材料の主な不純物としては、金属元素酸化物が挙げられる。
具体的な金属元素酸化物としては、例えば、TiやFeなどの遷移金属や、NaやKなどのアルカリ金属の酸化物が挙げられ、実質的に含まないことが望ましい。また、この他の金属酸化物で、バンドギャップが使用したい紫外線および真空紫外線のエネルギーに近いか、またはそれ以下の物質は、言うまでも無く、実質的に含まないことが望ましい。
【0033】
また、光学ガラスに含有されるOH基の含有量が5000wtppm以下、好ましくは2000wtppm以下が望ましい。
OH基はMgの周辺に存在し、ガラスの網目構造の不安定化を促進する効果がある。このことは、紫外線や真空紫外線に対する耐光性の低減につながる。したがって、その含有量は少ない方が良い。
【0034】
上記のようなそれぞれの成分の特性から、目的とする波長や、その波長での透過率および屈折率に応じて含有量を調節することが必要である。
光学ガラスは、波長248nmの光に対する透過率が厚さ5mmで40%以上、好ましくは50%以上であることが望ましい。
【0035】
また、光学ガラスは、波長248nmの光に対する屈折率が、SiO2の屈折率1.51より大きいことが望ましい。
光学ガラスの製造方法としては、前述のように、不純物の混入をできる限り排除できる方法が好ましい。具体的には、例えば、電気、アークプラズマまたは火炎により原料を溶融する方法、火炎加水分解法、直接法、VAD法およびMCVD法等のスート再溶融法、プラズマCVD法、ゾルゲル法等が挙げられる。言うまでもなく、いずれも高純度の原料を用いることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
実施例1
まず、原料ガスとしてSiCl4とO2を用い、CVD装置にてSiO2ガラス容器内でSiO2のスートを合成する。これをAとする。
【0037】
次に、純度99.9999%以上のAlCl3水和物およびMgCl2水和物を超純水に溶解し、先に合成したAを含浸させる。その後に約12時間、乾燥窒素ガス中にて乾燥させる。これをBとする。
【0038】
次に、酸水素バーナーを用いてBをSiO2ガラス容器の外側から約2,300℃にて加熱し、溶融後、冷却させることでガラスを得る。
得られたガラスは、ガラス容器と融着した状態であるため、中心部を切り出し、光学研磨を行い、厚さ約5mmの平行平板とした。
【0039】
蛍光X線分析法を用いて組成分析を行った結果、陽イオン%の比で示すと、Si:Al:Mg=48.7:26.9:24.4であった。また、Fe含有量およびNa含有量はいずれも0.01wtppm以下であった。
【0040】
可視紫外分光光度計を用いてガラスの透過率を測定した。
J.A.Woollam製、高速分光エリプソメーター、M−2000Dを用いてガラスの屈折率を測定した。
【0041】
図1に本実施例により得られたガラスの屈折率の波長依存性を示す。図2に本実施例により得られたガラスの透過率の波長依存性を示す。
波長248nmにおける透過率は厚さ5mmで43%であった。波長248nmにおける屈折率は1.57であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の光学ガラスは、紫外域において、高屈折率、高透過率を有するので、紫外線から真空紫外線までに用いるレンズ、プリズム、窓材などの光学部品として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例1に係わる屈折率の波長依存性を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係わる透過率の波長依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、Al、MgおよびOを含有するガラスであって、Siを陽イオン%で40%以上60%以下、Alを陽イオン%で10%以上35%以下、Mgを陽イオン%で20%以上35%以下含有し、Si、Al、Mgの合計の陽イオン%が99.5%以上であり、FeおよびNaの含有量がそれぞれ0.01wtppm以下であり、かつ波長248nmの光に対する透過率が厚さ5mmで40%以上であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
波長248nmの光に対する屈折率が1.57以上であることを特徴とする請求項1または2記載の光学ガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−143718(P2008−143718A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328745(P2006−328745)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】