説明

光学ガラス

【課題】優れた耐候性を備えた低分散のリン酸塩光学ガラスを提供する。
【解決手段】P:40〜65質量%と、LiO+NaO+KOの合計:1〜5質量%(但し5%を除く)とを含有し、更に、MgO+CaOの合計の質量%と、LiO+NaO+KOの合計の質量%との比(MgO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が6〜38の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関し、特に、低分散のリン酸塩光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
を主成分とするリン酸塩光学ガラスは、低分散であるという特徴から、様々な光学素子の材料として用いられる有用な光学ガラスである。その一方で、Pは水に可溶性であることから、リン酸塩光学ガラスは耐候性が比較的低いという問題があった。そのため、リン酸塩光学ガラスの耐候性を改善する試みが行われている。例えば、特許文献1、2には、ガラスの組成比を所定の範囲とすることにより、耐候性を改善させたリン酸塩光学ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−11544号公報
【特許文献2】特開2006−52119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は、ポータブル型の機器や車載型の機器など、過酷な環境で使用する機器が増加したため、リン酸塩光学ガラスにも更に高い耐候性が求められるようになってきた。しかしながら、特許文献1、2に記載されたリン酸塩光学ガラスは、未だ十分な耐候性を有しているとは言い難く、これらの要求に十分に応えることができないという問題があった。
【0005】
本発明は上記のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、優れた耐候性を備えた低分散のリン酸塩光学ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0007】
1.
:40〜65質量%と、
LiO+NaO+KOの合計:1〜5質量%(但し5%を除く)とを含み、
MgO+CaOの合計の質量%と、LiO+NaO+KOの合計の質量%との比
(MgO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が6〜38の範囲であることを特徴とする光学ガラス。
【0008】
2.
Al:1〜10質量%、
:1〜20質量%、
LiO:1〜5質量%(但し5%を除く)、
CaO:6〜38質量%、
であることを特徴とする前記1に記載の光学ガラス。
【0009】
3.
NaO:0〜3質量%、
O:0〜3質量%、
MgO:0〜25質量%、
SrO:0〜10質量%、
BaO:0〜12質量%、
ZnO:0〜14質量%、
Sb:0〜0.5質量%、
であることを特徴とする前記2に記載の光学ガラス。
【0010】
4.
SiO:0〜0.1質量%であることを特徴とする前記2に記載の光学ガラス。
【0011】
5.
PbO、As及びフッ素成分を、何れも含有しないことを特徴とする前記1から4の何れか1項に記載の光学ガラス。
【0012】
6.
屈折率(nd)が1.54〜1.62、アッベ数(νd)が65〜70であることを特徴とする前記1から5の何れか1項に記載の光学ガラス。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリン酸塩光学ガラスは、P:40〜65質量%と、LiO+NaO+KOの合計:1〜5質量%(但し5%を除く)とを含み、耐候性を高めるのに有効な成分であるMgO+CaOの合計の質量%と、耐候性を悪化させるがガラスの安定化に欠かせない成分であるLiO+NaO+KOの合計の質量%との比(MgO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が所定の範囲となるようにしている。そのため、優れた耐候性を備えた低分散のリン酸塩光学ガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は該実施の形態に限られるものではない。
【0015】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ガラス成分中の、MgO+CaOの合計の質量%と、LiO+NaO+KOの合計の質量%との比(MgO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が、優れた耐候性を備えたガラスを得るための指標となるという知見を得た。MgO及びCaOは、リン酸塩光学ガラスの耐候性を高めるのに非常に有効な成分であることが分かった。一方、LiO、NaO及びKOは、耐候性を著しく悪化させるが、リン酸塩光学ガラスの安定化のためには欠かせない成分であることが分かった。このような知見に基づいて更に検討を重ねた結果、P:40〜65質量%と、LiO+NaO+KOの合計:1〜5質量%(但し5%を除く)とを含み、MgO+CaOの合計の質量%と、LiO+NaO+KOの合計の質量%との比(MgO+CaO)/(LiO+NaO+KO)を6〜38の範囲とすることにより、優れた耐候性を備えた低分散のリン酸塩光学ガラスが得られることを見いだした。
【0016】
以下、本発明のリン酸塩光学ガラスに含まれる各成分の含有量を上記のように限定した理由について詳細に説明する。
【0017】
はガラスを形成する主成分であり、必須の成分である。含有量が40質量%未満では目標とする光学恒数を維持できなくなり、65質量%を超えると耐候性が悪化する。そのため、Pの含有量は40〜65質量%の範囲とした。その中でも41〜62質量%の範囲がより好ましい。
【0018】
Alは耐候性向上に有効な成分である。含有量が1質量%未満では耐候性を向上させる効果が小さく、また、10質量%を超えるとガラスが失透しやすくなる。そのため、Alの含有量は1〜10質量%の範囲が好ましく、3〜8質量%の範囲がより好ましい。
【0019】
はガラスの分散を低下させる効果があると共に、ガラスの安定化にも寄与する成分である。含有量が1質量%未満ではそのような効果が小さく、また、20質量%を超えると耐候性が悪化する。そのため、Bの含有量は1〜20質量%の範囲が好ましく、5〜15質量%の範囲がより好ましい。
【0020】
アルカリ金属酸化物成分であるLiO、NaO、KOは、何れもガラス化を容易にし、またガラスの安定化にも寄与する。LiO+NaO+KOの合計が1質量%未満ではそのような効果が小さく、合計が5質量%以上では耐候性が悪化してしまう。そのため、LiO+NaO+KOの合計は、1〜5質量%(但し5%を除く)の範囲とした。1〜4.6質量%の範囲がより好ましい。また、これらの成分のうちLiOはガラスの安定化の効果が最も高く、耐候性への悪影響も比較的小さい。ガラスの安定化と耐候性への影響という観点から、LiOの含有量は1〜5質量%(但し5%を除く)の範囲が好ましく、1〜4.6質量%の範囲がより好ましい。NaOとKOは何れも任意成分である。NaOの含有量は0〜3質量%(0を含む)の範囲が好ましく、KOの含有量は0〜3質量%(0を含む)の範囲が好ましい。
【0021】
CaOは耐候性の向上に非常に有効な成分である。CaOは共存するPと共に、歯のエナメル質の主成分であり水に溶けない無色透明なリン酸カルシウムCa(POの形を作ることができる。含有量が6質量%未満では耐候性を向上する効果が十分ではなく、また、38質量%を超えるとガラスが失透しやすくなる。そのため、CaOの含有量は6〜38質量%の範囲が好ましく、18〜34質量%(但し18質量%を除く)の範囲がより好ましい。
【0022】
MgOはCaOと同程度に耐候性を向上させる効果を有する。しかし、CaOと比較すると耐洗浄性に劣り、純水中で超音波洗浄を行うと潜傷が発生しやすくなる場合があるため任意成分とした。MgOの含有量は0〜25質量%(0を含む)の範囲が好ましく、0〜20質量%(0を含む)の範囲がより好ましい。
【0023】
なお、上述の通り、MgO+CaOの合計の質量%と、LiO+NaO+KOの合計の質量%との比(MgO+CaO)/(LiO+NaO+KO)は、ガラスの耐候性と安定化のバランスの観点から、6〜38の範囲とする必要がある。8〜30の範囲がより好ましい。
【0024】
SrOは任意成分である。ガラスの安定化に効果があるが、多すぎると対洗浄性を悪化させる。そのため、SrOの含有量は0〜10質量%(0を含む)の範囲が好ましい。
【0025】
BaOは任意成分である。ガラスの安定化には非常に有効であるが、多すぎると耐候性を著しく悪化させる。そのため、BaOの含有量は0〜12質量%(0を含む)の範囲が好ましい。
【0026】
ZnOは任意成分である。屈折率を高めるのに有効であるが、多すぎると耐候性を悪化させる。そのため、ZnOの含有量は0〜14質量%(0を含む)の範囲が好ましい。
【0027】
Sbは任意成分である。溶融の際に清澄剤として使用すると効果的である。また、消色剤として使用することもできる。Sbの含有量は0〜0.5質量%(0を含む)の範囲が好ましい。清澄剤や消色剤として使用する必要がなければ含有させない方がより好ましい。
【0028】
また、上記各成分以外の成分(例えば、SiO、La、Y、TiO、CuO、Ta、PbO、As、フッ素成分など)は含有しないことが好ましい。但し、本発明の光学ガラスの特性に影響を与えない程度に含有することは許容される。この場合、P、B、LiO、NaO、KO、CaO、MgO、SrO、BaO、ZnO及びSbの合計含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
【0029】
中でも、SiOの含有量が多すぎると脈理を生じやすいという問題があるため、SiOの含有量は0〜0.1質量%(0を含む)であることが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0030】
また、PbO及びAsは何れも含有しないことが好ましい。それにより、ガラスを廃棄した場合に環境に与える影響を最小限に抑えることができる。更に、フッ素成分は、製造時の作業環境維持に特殊な処理装置を必要とするため、ガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0031】
本発明のリン酸塩光学ガラスは、上記のように各成分を所定の割合で含有しているため、優れた耐候性を備えていると共に、屈折率(nd)が1.54〜1.62、アッベ数(νd)が65〜70の範囲の光学恒数を有するという特性を有している。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
本発明の組成範囲内の光学ガラス15種類(実施例1〜15)、及び、本発明の組成範囲外の光学ガラス2種類(比較例1、2)を作製した。実施例1〜15のガラス組成を表1〜表3に、比較例1、2のガラス組成を表4にそれぞれ示す。なお、比較例1は前述の特許文献1に記載された実施例2、比較例2は特許文献2に記載された実施例3をそれぞれ追試したものである。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
先ず、酸化物原料、炭酸塩原料、硝酸塩原料、リン酸塩原料、水酸化物原料など、一般的なガラス原料を用いて、表1〜4に示すガラス組成となるようにガラスの原料を調合し、粉末状態で十分に混合して調合原料とした。これを、900℃〜1300℃に加熱された溶融槽に投入し、溶融、清澄、撹拌均質化した後、予め加熱された鉄製の鋳型に鋳込み、室温(25℃)まで−50℃/時間の冷却速度で徐冷して各サンプルを製造した。
【0039】
次に、製造した各サンプルについて、屈折率(nd)(ヘリウムd線(波長587.56nm)に対する屈折率)、アッベ数(νd)を測定すると共に、耐候性の評価を行った。屈折率ndとアッベ数νdは、作製した各サンプルをカルニュー光学工業社製の測定装置「KPR−200」を用いて測定した。また、耐候性の評価は、作製した各サンプルの表面を鏡面研磨した後、60℃、95%の清浄な恒温恒湿機内に168時間保持し、取り出したサンプルの表面を顕微鏡(40倍)で観察することにより行った。表面の状態に変化が無く耐候性が良好であると判断した場合を○印、表面に異常(くもりの発生や異質物の析出など)が確認され耐候性に問題有りと判断した場合を×印で表示した。
【0040】
結果を表1〜4に併せて示す。本発明の組成範囲外の光学ガラスである比較例1、2は耐候性に問題があるのに対して、本発明の組成範囲内である実施例1〜15は、何れも良好な耐候性を有していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
:40〜65質量%と、
LiO+NaO+KOの合計:1〜5質量%(但し5%を除く)とを含み、
MgO+CaOの合計の質量%と、LiO+NaO+KOの合計の質量%との比
(MgO+CaO)/(LiO+NaO+KO)が6〜38の範囲であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
Al:1〜10質量%、
:1〜20質量%、
LiO:1〜5質量%(但し5%を除く)、
CaO:6〜38質量%、
であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
NaO:0〜3質量%、
O:0〜3質量%、
MgO:0〜25質量%、
SrO:0〜10質量%、
BaO:0〜12質量%、
ZnO:0〜14質量%、
Sb:0〜0.5質量%、
であることを特徴とする請求項2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
SiO:0〜0.1質量%であることを特徴とする請求項2に記載の光学ガラス。
【請求項5】
PbO、As及びフッ素成分を、何れも含有しないことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
屈折率(nd)が1.54〜1.62、アッベ数(νd)が65〜70であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の光学ガラス。

【公開番号】特開2010−269980(P2010−269980A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124083(P2009−124083)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】