説明

光学ガラス

【課題】Sb含有量を低減しつつ、可視域にて高透過率を維持することが可能な光学ガラスを提供する。
【解決手段】組成として質量%で、SiO 35%以上、Sb 50ppm未満、Fe 30ppm未満を含有する光学ガラスであって、(Fe含有量/全Pt含有量)の値が5.5〜14であることを特徴とする光学ガラス。10mm厚で測定した透過率の吸収端が310nm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視域における透過率に優れ、光学レンズ等の各種用途に好適な光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等のレンズとしては非球面形状のレンズが広く用いられている。これらのレンズ用ガラス素材には、可視域(特に、400nm付近)において透過率が高いことが要求される。またその他に、カメラ等の薄型化に寄与する光学特性として、屈折率1.5〜1.8、アッベ数νd30〜70程度が要求されている。
【0003】
これらのガラスは、例えば白金製の溶融容器を用いて原料バッチを溶融し、清澄工程を経て生産される。ここで、清澄工程で融液ガラス中に残存している微塵泡を浮上させるため、Sbなどの清澄剤が使用される(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−176748号公報
【特許文献2】特開2007−169086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Sbは環境に対する懸念から、近年その使用が制限される傾向にある。しかしながら、Sbの添加量を低減すると、特に400nm付近の可視域透過率が大きく低下するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、Sb含有量を低減しつつ、可視域にて高透過率を維持することが可能な光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は種々検討を行った結果、SiOを35%以上含有する光学ガラスにおいて、Sbの添加量を低減した際の可視域透過率の低下は、溶融器具等からガラス中に混入するPtイオンが原因であることを突き止めた。具体的には、後述するように、酸化剤として機能するFeと全Pt含有量の質量比を適宜調整することにより、Ptイオンの酸化還元状態を制御し、結果として、可視域透過率の低下を抑制することが可能であることを見出し、本発明として提案するものである。
【0008】
すなわち、本発明は、組成として質量%で、SiO 35%以上、Sb 50ppm未満、Fe 30ppm未満を含有する光学ガラスであって、(Fe含有量/全Pt含有量)の値が5.5〜14であることを特徴とする光学ガラスに関する。
【0009】
Ptイオンの価数は、ガラス融液中に存在する他の元素の影響を受けて変化する。この場合の酸化還元反応は下記式によって表される。
Pt4+ + O2− ⇔ Pt2+ + 1/2O
【0010】
式中のPt4+はPtの酸化状態であり、Pt2+はPtの還元状態を表す。Ptは酸化状態と還元状態で光を吸収する波長が異なるため、ガラス融液の酸化還元状態により可視域における透過率が変化することとなる。具体的には、Pt4+は紫外域に吸収を持つため、可視域の透過率には影響を与えないが、Pt2+は可視域に吸収を持つため、特に400nm付近の透過率が低下しやすくなる。
【0011】
ガラス融液の酸化還元状態は、価数変化により酸化剤として機能する酸化物により大きく左右される場合がある。例えば、清澄剤として添加されるSbは3価と5価の価数が存在し、5価から3価に変化する際に酸素を放出するとともに、酸化剤としても機能する。よって、Sb量が比較的多い場合は、Ptイオンは酸化状態(Pt4+)となりやすく、紫外に吸収を持ち可視域には影響がないが、Sb添加量を低減すると、Ptは還元状態(Pt2+)となりやすく、可視域の透過率が低下しやすくなる。
【0012】
そこで、Ptイオンの価数調整に適した元素を調査したところ、酸化剤として機能する酸化物であるFeを含有させることが適切であることがわかった。さらに、(Fe含有量/全Pt含有量)の値を上記範囲に制限することにより、Ptイオンを効果的に酸化状態にシフトさせ、可視域透過率の低下を抑制できることがわかった。
【0013】
なお、Feは波長300nm付近に吸収を持つため、過剰に含有させると吸収端を長波長側へシフトさせ、結果として可視域の透過率が低下する傾向がある。そこで、本発明ではFeの含有量を30ppm未満に制限することにより、Feによる可視域透過率の低下を極力抑制している。
【0014】
以上のように、本発明の光学ガラスは、清澄剤であるSbの含有量が比較的少ない場合であっても、可視域の透過率を高く維持することが可能となる。
【0015】
第二に、本発明の光学ガラスは、10mm厚で測定した透過率の吸収端が310nm以下であることを特徴とする。
【0016】
10mm厚で測定した透過率の吸収端が310nm以下と短波長側に存在すれば、特に400nm付近の可視域透過率に優れたガラスであると言える。
【0017】
第三に、本発明の光学ガラスは、10mm厚で測定した700nmにおける透過率T700と380nmにおける透過率T380の差ΔT(=T700−T380)が12%以下であることを特徴とする。
【0018】
上記ΔTが12%以下であれば、波長400nm付近における吸収が少なく、可視域透過率に優れたガラスであると言える。
【0019】
第四に、本発明の光学ガラスは、塩基性度が5.5以上であることを特徴とする。
【0020】
後述するように、ガラスの塩基性度が大きい場合、FeイオンはPtに対して酸化力を有するFe3+の状態で存在しやすく、Fe含有量が少なくてもPtイオンを効果的に酸化することができる。
【0021】
第五に、本発明の光学ガラスは、さらに、Bを7%以上および/またはAlを1%以上含有することを特徴とする。
【0022】
当該構成により、5.5以上の塩基性度を有する光学ガラスが得られやすくなる。
【0023】
第六に、本発明の光学ガラスは、全Pt含有量が15ppm以下であることを特徴とする。
【0024】
全Pt含有量を15ppm以下に制限することにより、結果としてPt2+イオンの含有量も低減でき、可視域透過率を向上させることが可能となる。
【0025】
第七に、本発明の光学ガラスは、光学レンズ用途に使用されることを特徴とする。
【0026】
第八に、本発明の光学ガラスは、モールドプレス成形用途に使用されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例における試料No.1〜3のガラス試料の透過率曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の光学ガラスは、組成として質量%で、SiO 35%以上、Sb 50ppm未満、Fe 30ppm未満を含有する光学ガラスであって、(Fe含有量/全Pt含有量)の値が5.5〜14であることを特徴とする。なお、以下の説明で、「%」は特に断りのない限り「質量%」を示す。
【0029】
本発明において、Sbは環境負荷物質であるため、その含有量は50ppm未満に制限され、30ppm以下、10ppm以下、特に5ppm以下であることが好ましい。なお、下限については特に限定されないが、Ptイオンを酸化させる機能と清澄剤としての機能を発揮させることを目的として、1ppm以上含有させてもよい。
【0030】
FeはFe自体の吸収が300nm付近にあるため、その含有量が多すぎると可視域透過率の低下につながる。したがって、Feの含有量は30ppm未満、特に20ppm以下であることが好ましい。なお、下限は特に限定されないが、Feはガラス原料や溶融容器等から不純物として混入しやすい成分であるため、現実的には1ppm以上である。
【0031】
本発明において、Ptの含有量は15ppm以下、10ppm以下、特に5ppm以下であることが好ましい。Ptの含有量が15ppmより多くなると、結果的にPt2+の含有量も多くなりやすく、可視域透過率が低下する傾向がある。下限は特に限定されるものではないが、現実的には1ppm以上である。
【0032】
本発明では、Ptと、Ptを酸化する作用を有するFeの割合を厳密に制限することにより、可視域での透過率が高い光学ガラスを得ることができる。具体的には、(Fe含有量/全Pt含有量)の値は5.5〜14、5.5〜13、特に6〜8であることが好ましい。(Fe含有量/全Pt含有量)の値を当該範囲に制限することにより、Ptイオンを効果的に酸化状態にシフトさせることができる。結果として、400nm付近の吸収を極力低減することができ、可視域透過率を向上させることが可能となる。
【0033】
ガラス中でFe成分はFe3+またはFe2+として存在する。Fe2+、Fe3+、Pt2+の各イオンの酸化力を比較すると、Fe2+<Pt2+<Fe3+となり、Fe3+はPt2+を酸化できるが、Fe2+はPt2+を酸化する効果がない。
【0034】
ガラス中でFe成分がFe2+で存在するかFe3+で存在するかは、ガラス中で陽イオンが酸素を引きつける力、つまり塩基性度に依存している。
【0035】
本発明において塩基性度とは、(酸素原子のモル数の総和/陽イオンのField Strengthの総和)×100として定義される。式中のField Strength(以下、F.S.と表記する)は次式により求められる。
F.S.=Z/r
【0036】
Zはイオン価数、rはイオン半径(Å)を示している。ガラス中の元素の配位数、イオン価数はガラス組成によって変化するものであり、それにともなってイオン半径の数値も変化する。そのため、正確な塩基性度を算出するにあたって、各元素のイオン価数、イオン半径は、ガラス組成系に応じて適宜選択することが好ましい。本発明のガラス組成系では、Z、rの数値は表1の値を用いることが適当である。
【0037】
【表1】

【0038】
ガラスの塩基性度が大きい場合、Fe成分はPt2+に対して酸化力を有するFe3+で存在しやすく、Fe含有量が少ない場合であっても、Pt2+の酸化に有効である。一方、ガラスの塩基性度の小さい場合、Fe成分はFe2+で存在しやすくなり、Ptイオンは還元状態にシフトしやすくなる。
【0039】
以上の観点より、本発明の光ガラスの塩基性度は5.5以上、6以上、特に6.5以上であることが好ましい。なお、上限は特に限定されないが、塩基性度が高すぎると、モールドプレス成形を行う際にガラスが金型に融着しやすくなるため、11以下、10.5以下、特に9.5以下であることが好ましい。
【0040】
本発明において、SiOはガラスの骨格を構成するための必須成分である。SiOはガラスの耐候性を向上させる成分でもあり、Bに次いでアッベ数を高める効果が大きい。SiOの含有量は35%以上であり、36%以上、特に42%以上であることが好ましい。SiOの含有量が35%よりも少ないと、耐酸性や耐候性が悪化する傾向がある。一方、SiO含有量の上限は特に限定されないが、多すぎる場合は、屈折率が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。また、軟化点が高くなり、モールドプレス成形が困難になる傾向にある。したがって、SiOの含有量は60%以下、特に55%以下であることが好ましい。
【0041】
本発明の光学ガラスには、上記以外にBを7%以上および/またはAlを1%以上含有することが好ましい。これにより、5.5以上の塩基性度を達成しやすくなる。
【0042】
はアッベ数を高める成分である。Bの含有量は7%以上、特に8%以上であることが好ましい。Bの含有量が7%未満であると、アッベ数が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。一方、B含有量の上限は特に限定されないが、多すぎる場合は、耐酸性が低下する傾向にある。したがって、Bの含有量は25%以下、特に20%以下であることが好ましい。
【0043】
Alはガラスの耐候性を向上させる成分である。Alの含有量は1%以上、特に3%以上であることが好ましい。一方、Al含有量の上限は特に限定されないが、多すぎる場合は、ガラスの粘性が高くなり、清澄性が悪化したり、低温でのモールドプレス成形が困難になる傾向がある。したがって、Alの含有量は19%以下、特に15%以下であることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明の光学ガラスには、R’O(R=Li、Na、K) 0〜17%、RO(R=Ca、Sr、Ba) 0〜25%、La 7〜20%、ZrO 0〜2.5%を添加することができる。
【0045】
R’O成分はガラスの粘性を低減する成分であり、Sb量が少ない場合であっても良好な清澄性を維持できる効果がある。また、低温でのモールドプレス成形が可能になる。なお、R’Oを積極的に添加することにより、ガラスの塩基性度が上昇しやすくなり、Fe成分がFe3+の状態で存在しやすくなる。一方、多量に含有させると、化学耐久性が顕著に悪化し、洗浄工程においてガラス表面が変質しやすくなる。また、液相温度が上昇して作業範囲が狭くなり、量産性に悪影響を及ぼす傾向がある。したがって、R’Oの含有量は0〜17%、0.1〜13%、特に3〜12%であることが好ましい。
【0046】
LiOは、溶融温度や軟化点を低下させて作業性を高める効果が高い成分である。LiOの含有量は2〜12%、特に3〜10%であることが好ましい。LiOの含有量が2%より少ないと、溶融温度が高くなって作業性が低下する傾向がある。LiOの含有量が12%より多くなると、分相性が強まり、液相温度が高くなって作業性が悪化する傾向がある。
【0047】
NaOは、LiOと同様に、溶融温度や軟化点を低下させて作業性を高める効果を有する成分である。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス溶融時にB−NaOで表される揮発物が多くなり、脈理の生成が助長される傾向にある。したがって、NaOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0048】
Oは、LiOと同様に、溶融温度や軟化点を低下させて作業性を高める効果を有する成分である。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス溶融時にB−KOで表される揮発物が多くなり、脈理の生成が助長される傾向にある。したがって、KOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0049】
RO(R=Ca、Sr、Ba)成分は、R’O成分と同様にガラスの粘性を低下させる効果を有する。しかし、その含有量が多すぎると化学耐久性が悪化する傾向がある。したがって、ROの含有量は0〜25%、0〜20%、特に0.1〜15%であることが好ましい。
【0050】
CaOはR’Oに次いで軟化点を低下させる効果が大きい成分であり、R’Oと置換することで耐候性や耐酸性を高めることができる。また、屈折率を高める効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合、ガラス表面が変質しやすくなる。したがって、CaOの含有量は0〜15%、0〜10%、特に0.5〜10%であることが好ましい。
【0051】
SrOは、BaOと同様に耐候性を向上させ、屈折率を高める成分であるとともに、ガラスの液相温度を低下させて作業性を改善できる成分である。ただし、その含有量が多すぎると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合にガラス表面が変質しやすくなる。したがって、SrOの含有量は0〜15%、特に0.1〜10%であることが好ましい。
【0052】
BaOは耐候性を向上させ、屈折率を高める成分であるとともに、ガラスの液相温度を低下させて作業性を改善できる効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合にガラス表面が変質しやすくなる。したがって、BaOの含有量は0〜25%、3〜25%、特に3〜12%であることが好ましい。
【0053】
Laは、ガラスの化学耐久性を維持しつつ、粘性を低下させて清澄性を向上させることができる成分である。しかし、その含有量が多すぎると、屈折率が必要以上に高くなる傾向がある。したがって、Laの含有量は7〜20%、特に7〜12%であることが好ましい。
【0054】
ZrOは屈折率を高める成分である。ZrOの含有量は0〜2.5%、特に0.1〜2%であることが好ましい。
【0055】
さらに、本発明の光学ガラスには、下記の成分を添加することができる。
【0056】
Gdはアッベ数を低下させることなく屈折率を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、失透しやすくなる。したがって、Gdの含有量は0〜15%、特に0.1〜10%であることが好ましい。
【0057】
TiOは、屈折率を高めるとともに、耐候性を向上させる成分である。ただし、Fe成分に対する還元作用が強く、Fe3+イオンをFe2+イオンに変化させやすいため、その含有量は極力少ないほうが好ましい。したがって、TiOの含有量は0.4%以下、0.2%以下、特に含有しないことが望ましい。
【0058】
Nbは屈折率を高めるために有効な成分であるが、一方でアッベ数を著しく低下させる。したがって、Nbの含有量は0〜15%、特に0.1〜10%であることが好ましい。
【0059】
Biは屈折率を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、ガラスが着色する傾向がある。したがって、Biの含有量は5%以下、特に3%以下であることが好ましい。
【0060】
は液相温度を低下させる成分である。ただし、その含有量が多すぎると、ガラスが分相しやすくなるとともに、洗浄工程でガラス表面がくもりやすくなる。したがって、Pの含有量は5%以下、特に3%以下であることが好ましい。
【0061】
なお、鉛成分(PbO)、砒素成分(As)およびF成分(F)は、環境上の理由から、実質的なガラスへの導入は避けるべきである。したがって、本発明ではこれらの成分は実質的に含有しない(具体的には、各々0.1%未満)であることが好ましい。
【0062】
本発明の光学ガラスは、10mm厚で測定した透過率の吸収端が310nm以下、特に300nm以下であることが好ましい。10mm厚で測定した透過率の吸収端が310nm以下と短波長側に存在すれば、特に400nm付近の可視域透過率が良好なガラスであると言える。
【0063】
また、可視域透過率を評価するための別の指標として、10mm厚で測定した700nmにおける透過率T700と380nmにおける透過率T380の差ΔT(=T700−T380)が12%以下、特に10%以下であることが好ましい。ΔTが当該範囲を満たせば、特に400nm付近の可視域透過率が良好なガラスであると言える。
【0064】
本発明の光学ガラスの光学定数は特に限定されないが、例えば、屈折率ndが1.5〜1.8、特に1.55〜1.7、アッベ数νdが30〜70、特に40〜65の範囲で適宜選択される。
【0065】
本発明の光学ガラスのガラス転移点Tgは、低いほどモールドプレス成形が容易となるため好ましい。具体的には、ガラス転移点Tgは、630℃以下、600℃以下、特に550℃以下であることが好ましい。
【0066】
次に、本発明の光学ガラス、およびそれを用いた光学レンズ等の光学部品の製造方法について説明する。
【0067】
まず、所望の組成を有するように調合したガラス原料を溶融容器内で溶融する。溶融温度は、均質なガラスが得られる温度であれば特に限定されないが、例えば1150〜1400℃であることが好ましい。また、溶融時間は、ガラス化および清澄を十分に促進する観点から、2時間以上、特に3時間以上であることが好ましい。ただし、Pt成分のガラス中への溶け込みによる着色を防止する観点から、溶融時間は8時間以下、特に5時間以下であることが好ましい。
【0068】
溶融容器内のガラス融液の深さは30mm以上、特に50mm以上であることが好ましい。ガラス融液の深さが30mm未満であると、ガラスの生産性に劣る傾向がある。一方、ガラス融液の深さの上限は特に限定されないが、深すぎると気泡の浮上に時間がかかるため、1m以下、特に0.5m以下であることが好ましい。
【0069】
続いて、溶融ガラスをモールドプレス成形が可能な大きさのプリフォームに成形する。さらに、プリフォームに対し、金型を用いてモールドプレス成形を行い、所望の形状に加工した後、洗浄、乾燥して光学部品を作製する。
【0070】
プリフォームの成形方法としては、板状や塊状のガラス片から所定の形状に切り出して研磨、洗浄して作製してもよいが、溶融ガラスを連続的に所定量ずつ金型上に滴下し、冷却しながら成形を行う(その後必要に応じて、研削、研磨、洗浄を行う)液滴成形法を用いると、所望の形状を有するプリフォームを容易に作製できるため好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の光学ガラスを実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
表2および3は本発明の実施例(No.1、4、6、9)および比較例(No.2、3、5、7、8、10)を示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
各試料は、次のようにして作製した。
【0076】
Fe以外の成分の原料には純度99.9〜99.999%の原料粉末を使用した。Feは各成分の原料粉末中から混入する不純物に加えて、Fe粉末も追加し、含有量の調整を行った。
【0077】
各表に記載の組成となるように調合したガラス原料を白金ルツボに投入し、1350℃で2時間溶融した。次に、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却固化した後、アニールを行ってガラス試料を作製した。
【0078】
このようにして得られたガラス試料について、Pt含有量、ガラス転移点、透過率の吸収端およびΔT、屈折率、アッベ数を測定した。また、各ガラス組成より塩基性度を算出した。結果を表2および3に示す。
【0079】
Pt含有量は次のように測定した。まず粉砕したガラス試料を混酸(HF、HCLO、HNO、HClを含有)により分解後、加熱蒸発および乾固させて塩を得た。次いで、得られた塩に硝酸を加え、分級した後、ICP質量分析装置により定量した。
【0080】
ガラス転移点は、ガラス試料の熱膨張曲線における低温度域の直線と高温度域の直線の交点より求めた。
【0081】
透過率は次のようにして測定した。まず、10mm厚の両面ポリッシュ仕上げしたガラス試料を作製し、そのガラス試料について各波長における透過率を測定して透過率曲線を作成した。得られた透過率曲線から、透過率が0.1%以下になる波長を読み取り、その波長を吸収端とした。また波長700nmおよび380nmでの透過率を読み取り、その差をΔTとした。なお、試料No.1〜3の透過率曲線を図1に示す。
【0082】
屈折率、アッベ数の測定はVブロック法にて測定した。
【0083】
表2および3から明らかなように、実施例であるNo.1、4、6、9の光学ガラスは、(Fe含有量/全Pt含有量)の値が5.5〜14の範囲を満たしているため、吸収端が290nm以下と小さく、可視域での透過率に優れることがわかる。一方、比較例である試料No.2、5、8の光学ガラスは、(Fe含有量/全Pt含有量)が14を超えており、吸収端が315nm以上と長波長側にシフトした。また、比較例であるNo.3、7、10の光学ガラスは、(Fe含有量/全Pt含有量)が5.5より小さく、ΔTが13以上と大きくなった。これは、400nm付近でのPt2+による吸収があることを意味し、可視域透過率に劣るものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の光学ガラスは、CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等の光学レンズ用硝材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成として質量%で、SiO 35%以上、Sb 50ppm未満、Fe 30ppm未満を含有する光学ガラスであって、(Fe含有量/全Pt含有量)の値が5.5〜14であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
10mm厚で測定した透過率の吸収端が310nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
10mm厚で測定した700nmにおける透過率T700と380nmにおける透過率T380の差ΔT(=T700−T380)が12%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
塩基性度が5以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
さらに、Bを7%以上および/またはAlを1%以上含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
全Pt含有量が15ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
光学レンズ用途に使用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
モールドプレス成形用途に使用されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46392(P2012−46392A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191700(P2010−191700)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】