説明

光学デバイス

【課題】 振動が接着層Sの内部で吸収されにくく、付着した異物を除去することができ、再付着する異物の量を抑えることができる光学デバイス100を提供する。
【解決手段】振動手段を備え光学デバイス100全体を振動させる光学デバイス100であって、それぞれの主面が平行となる位置に設けられている複数枚の光学素子110a,110bと、光を透過させることができ、隣接しあう前記光学素子110a,110bの間に設けられ前記隣接する光学素子110a,110bを接合する接着層120と、所定の一つの前記光学素子110aの主面に設けられている振動子120と、を備えており、前記接着層120のヤング率が1GPa以上となっており、前記接着層120が導電材料からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光学素子を組み合わせて機能する光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の光学素子を組み合わせて機能する光学デバイスは、例えば、レンズ交換式のデジタルカメラに用いられているモジュールに組み込まれている。
このモジュールは、例えば、光学デバイスの一例である複屈折板と光学デバイスの一例である位相板とを組み合わせて構成されている。
光学デバイスの一例である位相板は、例えば、光学素子の複屈折を利用し、入射された光を常光成分と異常光成分に位相差を生じさせる波長板がある
ここで、波長板は、入射された光を常光成分と異常光成分との2成分に変換し90°の位相差を生じさせる1/4波長板を例に説明する。
【0003】
光学デバイスの一例である1/4波長板は、例えば、2つの光学素子から主に構成されている。また、1/4波長板は、それぞれの光学素子の主面が平行な状態に配置されている接合されている。
2つの光学素子は、例えば、水晶が用いられており、それぞれ所定の大きさに設けられた水晶板である。
従って、1/4波長板は、光学素子である水晶板の主面が平行となる様に配置されて接合されている。
ここで、1/4波長板の一方の主面は、一方の光学素子の露出側主面である。また、1/4波長板の他方の主面は、他方の光学素子の露出側主面である。つまり、1/4波長板の両主面は、最外に位置する光学素子の露出側主面である。
ここで、最外に位置する光学素子の露出側主面は、光学デバイスに最初に光が入射する面と最後に光が出射する面である。
光学デバイスの一例である1/4波長板は、一方の主面から他方の主面にかけて光を透過させることで、一方の主面で入射された光の常光成分と異常光成分に90°の位相差を生じさせる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
光デバイスは、例えば、2つの光学素子が接着剤からなる接着層が設けられて接合されている。また、光デバイスは、両主面に反射防止膜が設けられている。
反射防止膜は、空気層から光学素子に光が進行する場合、又は、光学素子から空気層に光が進行する場合、光が主面で反射することを抑えるために設けられている。
接着層に用いられる接着剤は、光学素子と近似の屈折率となっている。このため、光学素子と接着剤からなる接着層との界面で光が屈折及び反射することがない(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ここで、接着層に用いられる接着剤は、例えば、紫外線に反応し硬化する紫外線硬化樹脂や加熱により硬化する熱硬化性樹脂といった反応硬化性樹脂かからなっている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
レンズ交換式のデジタルカメラに光学デバイスが用いられた場合、このような光学デバイスは、光学デバイスの表面に異物が付着し撮影した映像に異物が写りこむなどの問題が生じている。
そこで、このような光学デバイスは、例えば、モジュールを振動させることで光学デバイスに付着した異物を除去している。つまり、このような光学デバイスは、モジュールが振動させられることで、所定の一つの光学素子が振動させられて、接着層を介して振動が伝播されて所定の他の一つの光学素子が振動させられた状態となり、異物が除去されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−271900号公報
【特許文献2】特開2008−51998号公報
【特許文献3】特開平10−39120号公報
【特許文献4】特開2009−177715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の光学デバイスは、隣接しあう光学素子の間に接着剤からなる接着層が設けられて、隣接しあう光学素子が接合されている。また、従来の光学デバイスは、所定の一つの光学素子が振動させられる構造となっている。
このため、接着剤からなる接着層のヤング率が低い場合、従来の光学デバイスは、接着剤からなる接着層の内部で吸収されて、所定の光学素子で生じさせられた振動が所定の他の光学素子に伝播されない恐れがある。
つまり、従来の光学デバイスは、接着剤からなる接着層の内部で振動が吸収されるため所定の光学素子を振動させても所定の他の光学素子が振動させられない恐れがあり、所定の他の光学素子に付着した異物を除去することができない恐れがある。
【0009】
また、従来の光学デバイスは、隣接しあう光学素子の間に接着剤からなる接着層が設けられて、隣接しあう光学素子が接合されている。
また、光学素子が水晶などの誘電体からなる場合、従来の光学素子は、帯電しやすくなっている。このため、モジュールを振動させた後に光学素子が帯電した場合、従来の光学デバイスは、除去した異物が、再び、付着する恐れがある。
【0010】
そこで、本発明では、振動が接着層の内部で吸収されにくく、付着した異物を除去することができ、再付着する異物の量を抑えることができる光学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、それぞれの主面が平行となる位置に設けられている複数枚の光学素子と、光を透過させることができ、隣接しあう前記光学素子の間に設けられ前記隣接する光学素子を接合する接着層と、所定の一つの前記光学素子の主面に設けられている振動子と、を備えており、前記接着層のヤング率が1GPa以上であることを特徴とする。
【0012】
前記課題を解決するために、前記接着層が導電材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このような光学デバイスは、光を透過させることができる接着層が隣接しあう光学素子の間に設けられており、この接着層を介して隣接しあう光学素子が接合されている。また、このような光学デバイスは、振動子が所定の一つの光学素子に設けられている。また、このような光学デバイスは、接着層のヤング率が1GPa以上となっている。
つまり、このような光学デバイスは、隣接しあう光学素子の間にヤング率が1GPa以上の接着層が設けられているので、従来の光学デバイスと比較して振動が接着層の内部で吸収されにくい。このため、このような光学デバイスは、従来の光学デバイスと比較して、振動子により振動された所定の一つの光学素子の振動が所定の他の一つの光学素子へ伝播しやすくなっている。
従って、振動子によって所定の一つの光学素子を振動させた場合、このような光学デバイスは、従来の光学デバイスと比較して接着層での振動の吸収を抑えることができるので、振動子を振動させることで所定の他の光学素子を容易に振動させることができる。
【0014】
また、このような光学デバイスは、接着層が導電材料からなっている。
このため、このような光学デバイスは、導電材料からなる接着層とグラウンドとを電気的に接続すると、接着層に接している光学素子をグラウンドと同電位とすることができる。
つまり、このような光学デバイスは、接着層とグラウンドとを電気的に接続し同電位とすることで、接着層と接している光学素子が帯電しないため、再び付着する異物の量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る光学デバイスの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光学デバイスの振動子の周波数とアドミタンスとの関係の一例を示す周波数特性図である。
【図3】従来の光学デバイスの振動子の周波数とアドミタンスとの関係の一例を示す周波数特性図である。
【図4】本発明の実施形態に係る光学デバイスに設けられた接着層のヤング率と振動子のアドミタンス最大値との関係を示す相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施するための最良の形態について説明する。なお、各図面において、各構成要素の状態をわかりやすくするために誇張して図示している。
【0017】
本発明の実施形態に係る光学デバイスについて説明する。
光学デバイスは、例えば、1/4波長板である。
光学デバイス100は、図1に示すように、複数枚の光学素子110a,110bと接着層130と振動子120を備えている。また、光学デバイス100は、最外に位置する光学素子110a,110bの露出側主面に反射防止膜Hが設けられている。
【0018】
ここで、最外に位置する光学素子110a,110bの露出側主面は、光学デバイス100に最初に光が入射する面と最後に光が出射する面である。
また、光学デバイス100の一方の主面は、光学デバイス100に最初に光が入射する面、つまり、最外に位置する光学素子110bの露出側主面である。
また、光学デバイス100の他方の主面は、光学デバイス100に最後に光が出射する面、つまり、最外に位置する光学素子110aの露出側主面である。
【0019】
光学素子110a,110bは、それぞれの主面が平行となる位置に設けられている。
【0020】
反射防止膜Hは、光学素子110bと光学デバイス100の一方の主面側の空気との界面で反射される光の量を抑えるために設けられている。また、反射防止膜Hは、光学素子110aと光学デバイス100の他方の主面側の空気との界面で反射される光の量を抑えるために設けられている。
【0021】
振動子120は、振動を減衰させることなく伝播させることができる様に、例えば、硬化後のヤング率が1GPa以上の接着剤(図示せず)により、所定の一つの光学素子110aであって、光学デバイス100として用いる場合に光が透過しない位置に設けられている。
つまり、振動子120は、振動させられることで、所定の一つの光学素子110aを振動させ、振動させられた所定の一つの光学素子110aから接着層130の内部を振動が伝播して所定の他の一つの光学素子110bを振動させている。
【0022】
硬化後のヤング率が1GPa未満の接着剤により振動子120が接着されて設けられている場合、振動子120の振動が所定の一つの光学素子110aと間に存在する接着剤の内部で振動が吸収されてしまうため、所定の一つの光学素子110aが振動しない恐れがある。
このため、振動子120は、所定の一つの光学素子110aに硬化後のヤング率が1GPa以上の接着剤により固定されて、所定の一つの光学素子110aに設けられる。
【0023】
なお、ここでは、振動子120が所定の一つの光学素子110aに設けられている場合について説明するが、所定の他の一つの光学素子110bに設けてもよい。
【0024】
接着層130は、隣接しあう光学素子110a,110bの間に設けられ、隣接しあう光学素子110a,110bを接合している。
ここで、接着層130は、例えば、チタンが用いられている。
チタンからなる接着層130は、光を透過させることができる様に所定の厚みとなっている。
ここで、チタンからなる接着層130は、例えば、1nmとなっており、光を透過させることができる。
【0025】
また、接着層130は、ヤング率が1GPa以上となっている。
ここで、チタンからなる接着層130のヤング率は、例えば、115.7GPaとなっている。
【0026】
本発明の実施形態に係る光学デバイス100に設けられている振動子120の周波数が100kHz〜175kHz範囲での周波数特性を測定した。
図2は、本発明の実施形態に係る光学デバイスの振動子の周波数とアドミタンスとの関係の一例を示す周波数特性図である。図3は、従来の光学デバイスの振動子の周波数のアドミタンスとの関係の一例を示す周波数特性図である。
従って、図2及び図3は、横軸が周波数となっており、縦軸がアドミタンスとなっている。
ここで、アドミタンスは、インピーダンスの逆数、つまり、振動子120の抵抗値の逆数を示しており、アドミタンスが大きいほど振動子120の抵抗が小さく、アドミタンスが小さいほど振動子120の抵抗が大きくなっている。
【0027】
図3に示すように、従来の光学デバイスのアドミタンスの最大値が0.0063Sとなっている。また、図2に示すように、本発明の光学デバイス100のアドミタンスの最大値が0.013Sとなっている。つまり、本発明の光学デバイス100のアドミタンスの最大値が従来の光学デバイスのアドミタンスの最大値と比較して増加していることが分かる。
【0028】
このような本発明の実施形態に係る光学デバイス100は、所定の一つの光学素子110aに振動子120が設けられ、ヤング率が1GPa以上の接着層130が設けられて所定の一つの光学素子110aと所定の他の一つの光学素子110bが接合されている。このため、このような光学デバイス100は、従来の光学デバイスと比較してヤング率が大きいので、接着層130内部で振動が吸収されず所定の他の一つの光学素子110bの影響を受けてアドミタンスの最大値が大きくなったと推測できる。つまり、このような本発明の実施形態に係る光学デバイス100は、接着層130の内部で振動が吸収されていないため、振動子120が設けられていない所定の他の一つの光学素子110bを、従来の光学デバイスと比較して、振動させることができる。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係る光学デバイスに設けられた接着層のヤング率と振動子のアドミタンス最大値との関係を示す相関図を図4に示す。
ここで、図4に示すアドミタンス最大値は、例えば、周波数が100kHz〜175kHzでのアドミタンスの最大値としている。
【0030】
接着層130のヤング率が1GPa未満の場合、例えば、従来の光学デバイスに接着剤からなる接着層を設けている場合、図4に示すように、アドミタンス最大値は0.010S未満となっている。
つまり、接着層130のヤング率が1GPa未満の場合、アドミタンス最大値が0.010S未満となっていることから、接着層130で振動が吸収されてしまい、所定の他の一つの光学素子110bを振動させることができず、所定の他の一つの光学素子110bに付着している異物を除去することができない恐れがある。
接着層130のヤング率が1GPa以上の場合、図4に示すように、アドミタンス最大値は、確実に0.010S以上となっている。
つまり、このような光学デバイス100は、接着層130のヤング率が1GPa以上なので、アドミタンス最大値が0.010S以上となり、所定の他の一つの光学素子110bを振動させることができ、所定の他の一つの光学素子110bに付着している異物を除去することができる。
【0031】
このような本発明の実施形態に係る光学デバイス100は、光を透過させることができる接着層130が隣接しあう光学素子110a,110bの間に設けられており、この接着層130を介して隣接しあう光学素子110a,110bが接合されている。また、このような光学デバイス100は、振動子120が所定の一つの光学素子110aに設けられている。また、このような光学デバイス100は、接着層130のヤング率が1GPa以上となっている。
つまり、このような光学デバイス100は、隣接しあう光学素子110a,110bの間にヤング率が1GPa以上の接着層130が設けられているので、従来の光学デバイスと比較して振動が接着層130の内部で吸収されにくい。このため、このような光学デバイス100は、従来の光学デバイスと比較して、振動子120により振動された所定の一つの光学素子110aの振動が所定の他の一つの光学素子110bへ伝播しやすくなっている。
従って、振動子120によって所定の一つの光学素子110aを振動させた場合、このような光学デバイス100は、従来の光学デバイスと比較して接着層130での振動の吸収を抑えることができるので、振動子120を振動させることで所定の他の光学素子110bを容易に振動させることができる。
【0032】
また、このような本発明の実施形態に係る光学デバイス100は、接着層130が導電材料からなっている。
このため、このような光学デバイス100は、導電材料からなる接着層130とグラウンドとを電気的に接続すると、接着層130に接している光学素子110a,110bをグラウンドと同電位とすることができる。
つまり、このような光学デバイス100は、接着層130とグラウンドとを電気的に接続し同電位とすることで、接着層130と接している光学素子110a,110bが帯電しないため、再び付着する異物の量を抑えることができる。
【0033】
なお、光学素子が水晶からなる場合について説明しているが、光学素子としての機能を備えていれば、例えば、ガラスであってもよい。
【0034】
なお、光学素子が2つ設けられている場合について説明しているが、複数の光学素子であれば、例えば、3つや4つであってもよい。
【0035】
なお、光学デバイスが1/4波長板の場合について説明したが、複数枚の光学素子を組み合わせた光学デバイスであれば、例えば、1/2波長板やローパスフィルタであってもよい。
【0036】
なお、接着層がチタンからなる場合について説明しているが、光を透過させることができ、かつ、隣接しあう光学素子を接合することができ、ヤング率が1GPa以上であれば、例えば、シリコン、タンタル、クロム、銅のいずれか一つから選択し用いてもよい。なお、このとき、接着層は光を透過することができる所定の厚みとなっている。
【0037】
なお、接着層がシリコン、チタン、タンタル、クロム、銅のいずれか一つから選択されている場合について説明しているが、隣接しあう光学素子を接合することができ、硬化後のヤング率が1GPa以上であれば、例えば、接着剤を用いてもよい。
【符号の説明】
【0038】
100 光学デバイス
110a,110b 光学素子
120 振動子
130 接着層
H 反射防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの主面が平行となる位置に設けられている複数枚の光学素子と、
光を透過させることができ、隣接しあう前記光学素子の間に設けられ前記隣接する光学素子を接合する接着層と、
所定の一つの前記光学素子の主面に設けられている振動子と、
を備えており、
前記接着層のヤング率が1GPa以上である
ことを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光学デバイスであって、前記接着層が導電材料からなることを特徴とする光学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−158514(P2011−158514A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17776(P2010−17776)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】