説明

光学フィルム、偏光板、及び画像表示装置

【課題】含フッ素共重合体を有する低屈折率層の耐擦傷性を良化させるためにポリロタキサン化合物を使用した際、塗膜の白濁がなく、低反射率で耐擦傷性に優れた反射防止膜を提供する。
【解決手段】透明支持体上に少なくとも1層の低屈折率層を有し、該低屈折率層が(A)疎水的なポリロタキサン化合物、(B)含フッ素共重合体および有機溶剤を含有する低屈折率層形成用組成物から形成されたことを特徴とする光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板、及び該光学フィルム又は該偏光板をディスプレイの最表面に用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムは、一般に、陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や液晶表示装置(LCD)のようなディスプレイ装置において、外光の反射によるコントラスト低下や像の映り込みを防止するために光学干渉の原理を用いて反射率を低減するよう画像表示装置のディスプレイの最表面に配置される。
【0003】
反射防止フィルムは、画像表示装置のディスプレイの最表面に配置されるため、最上層となる低屈折率層には高い耐擦傷性が要求される。しかしながら、薄膜である低屈折率層において高い耐擦傷性を実現するためには、皮膜自体の強度、及び下層への優れた密着性が必要である。
【0004】
一方、反射防止フィルムにおいて、低い反射率を実現するために、低屈折率層にはできるだけ屈折率の低い材料が望まれる。層の屈折率を下げるには、(1)フッ素原子を導入する、(2)密度を下げる(空隙を導入する)などの手段があるが、いずれも皮膜強度や密着性が損なわれ耐擦傷性が低下する方向であり、低い屈折率と高い耐擦傷性の両立は困難であった。
【0005】
例えば、含フッ素ポリマー中にポリシロキサン構造を導入することにより、皮膜表面の摩擦係数を下げて耐擦傷性を改良する手段が記載されている(特許文献1〜3参照)。これらの文献に開示された技術は、耐擦傷性改良に対してある程度有効であるが、耐擦傷性が十分でなかった。
【0006】
近年、斬新な手法を用いて物理ゲル、化学ゲルのいずれにも分類されない新しい種類のゲル、即ち「環動ゲル又はトポロジカルゲル」が提案されており、このような環動ゲルにはポリロタキサンが用いられている。ロタキサンは環状化合物とこの環状化合物の空洞を貫通する直鎖状高分子体からなり、この直鎖状高分子体の両末端をキャップした構造を持つ概念的化合物として知られている。このロタキサンを複数架橋して、環動ゲルに適用可能な架橋ポリロタキサンが開示されている。(特許文献4参照)
【0007】
この架橋ロタキサンは直鎖状分子に串刺し状に貫通されている環状分子が当該直鎖状に沿って移動可能(滑車効果)であるために粘弾性を有し、張力が加わっても、この滑車効果によって当該張力を均一に分散させることができるので、従来の架橋ポリマーとは異なり、クラックや傷が極めて生じ難いという優れた性質を有するものである。
しかしながら反射防止フィルムにおける耐擦傷性を改良するためにフッ素ポリマーを含有した低屈折率層にこのロタキサン、架橋ロタキサンを応用しようとした場合、塗膜の白濁が起こり、画質の低下を引き起こすことがわかった。
【特許文献1】特開平11−189621号公報
【特許文献2】特開平11−228631号公報
【特許文献3】特開2000−313709号公報
【特許文献4】特許第3475252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように低屈折率層の屈折率を下げながら耐擦傷性に優れたフィルムを得るためにはフッ素原子が導入されたポリマー成分を使用する事が効果的である。しかしながら、フッ素が導入されたポリマーは非常に疎水的であるために親水的なポリロタキサン化合物と混合すると通常両者の相溶性が悪いために塗膜が白濁してしまう。
【0009】
本発明の目的は、ポリロタキサン化合物を用いながら塗膜の白濁がなく、耐擦傷性が向上した光学フィルム、また十分な反射防止性能を有しながら塗膜の白濁がなく耐擦傷性をより向上させた反射防止フィルム、及び該光学フィルムの製造方法の提供にある。本発明の別の目的は、該光学フィルム又は該反射防止フィルムを具備した偏光板及びディスプレイ装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである。
【0011】
(1)透明支持体上に少なくとも1層の低屈折率層を有し、該低屈折率層が(A)疎水的なポリロタキサン化合物、(B)含フッ素共重合体および有機溶剤を含有する低屈折率層形成用組成物から形成されたことを特徴とする光学フィルム。
(2)前記(A)成分の疎水的なポリロタキサン化合物が、環状分子が疎水化修飾された化合物であることを特徴とする前記1に記載の光学フィルム。
(3)前記(A)成分の疎水的なポリロタキサン化合物が、環状分子としてシクロデキストリン分子を有することを特徴とする前記1または2に記載の光学フィルム。
(4)前記(A)成分の疎水的なポリロタキサン化合物が、不飽和二重結合基を有するポリロタキサン化合物であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の光学フィルム。
(5)前記低屈折率層が、さらに(C)1分子中に不飽和二重結合基を複数個有する化合物を含有することを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の光学フィルム。
(6)前記(C)の少なくとも1つがオルガノシロキサン構造を有する前記5に記載の光学フィルム。
(7)前記(C)の少なくとも1つが、重合性基を二つ以上有し、かつフッ素含有率が20.0質量%以上である含フッ素多官能モノマーであることを特徴とする前記5または6に記載の光学フィルム。
(8)前記低屈折率層が、さらに(D)無機微粒子を含有することを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載の光学フィルム。
(9)偏光膜と、該偏光膜の両側に保護フィルムとを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも一方が、前記1〜8のいずれかに記載の光学フィルムであることを特徴とする偏光板。
(10)前記1〜8のいずれかに記載の光学フィルム又は前記9に記載の偏光板がディスプレイの最表面に用いられていることを特徴とする画像表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリロタキサン化合物を用いながら塗膜の白濁がなく、耐擦傷性が向上した光学フィルムが得られる。また、十分な反射防止性能を有しながら塗膜の白濁がなく、耐擦傷性をより向上させた反射防止フィルムを得られる。さらに該光学フィルム又は該反射防止フィルムを具備した偏光板及び画像表示装置が得られる。
【0013】
詳細には、含フッ素共重合体を有する低屈折率層の耐擦傷性を良化させるためにポリロタキサン化合物を使用した際、疎水的なポリロタキサン化合物を使用したり、1分子中に不飽和二重結合基を複数個有する化合物を併用することで塗膜の白濁がなく、低反射率で耐擦傷性に優れた反射防止膜を提供することができる。これは、親水的なポリロタキサンと疎水的な含フッ素共重合体との相溶性が疎水的なポリロタキサンの使用、上記化合物との併用により良化したものと推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の光学フィルムは、透明支持体上に少なくとも1層の低屈折率層を有し、該低屈折率層が(A)疎水的なポリロタキサン化合物、(B)含フッ素共重合体および有機溶剤を含有する低屈折率層形成用組成物から形成される光学フィルムである。
【0015】
本発明では、含フッ素共重合体は、塗膜の屈折率を低下させるために効果的であり、疎水的なポリロタキサン化合物と相溶し、かつ応力緩和により外力に対して強く傷つき難い塗膜を得るのに効果的である。
【0016】
本発明では、前記(A)成分、(B)成分は特に限定されないが、前記(A)成分を1〜30重量%、(B)成分を30〜99重量%含有する塗布組成物を塗設してなる低屈折率層を有することが好ましい。
【0017】
前記(A)成分は1〜20重量%含有することが好ましく、5〜20重量%含有することがより好ましい。
【0018】
前記(B)成分は30〜80重量%含有することが好ましく、30〜70重量%含有することがより好ましい。
【0019】
[疎水的なポリロタキサン化合物(A)]
ロタキサンは、ダンベル形などの軸分子に、環状の分子をはめこんだ形の分子をいい、軸分子としてポリエチレングリコールなどの高分子を用いることにより、シクロデキストリンのような環状分子を複数閉じ込めたものをポリロタキサンと称する。ここで、「ポリ」とは1つの軸分子に環状分子が複数個はめこまれたことを意味する。
【0020】
本発明において、疎水的であるとは、疎水的な構造を有するのであれば、特に限定されることはないが、環状分子が疎水化修飾されていることが好ましい。具体的なの1つの態様は、ポリロタキサン中の環状分子としてシクロデキストリンを用いた場合、環状分子中の水酸基の少なくとも一つが他の有機基(疎水基)によって修飾されていることを意味する。
【0021】
具体的なポリロタキサンの構造の一例として、環状の分子に軸分子となる末端官能基を有する鎖状ポリマー分子が串刺し状に包接されており、かつ上記シクロデキストリン分子が上記末端官能基を有する鎖状ポリマー分子から脱離できなくするに充分嵩高い封鎖基で上記末端官能基が化学修飾されている化合物が挙げられる。
【0022】
上記ポリロタキサンに用いられる環状の分子としては、その環の中に鎖状ポリマー分子を通しうるものであれば、何ら制限無く用いることができる。好適に用いられる環状分子としては、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、クリプタンド類、大環状アミン類、カリックスアレーン類、シクロファン類などが挙げられる。特にシクロデキストリン類が有機化合物と抱接化合物を作りやすい性質を持つことから好ましい。シクロデキストリン類は複数のグルコースがα−1、4−結合で環状に連なった化合物であり、中でも、6個、7個、および8個のグルコースで形成された化合物は、α−、β−、およびγ−シクロデキストリンと呼ばれより好適に用いられる。特にα−シクロデキストリン分子であるのがよい。
【0023】
また、これらのシクロデキストリンの水酸基の少なくとも一つが他の有機基(疎水基)によって置換された修飾デキストリン類は、その溶剤への溶解性が向上するため、さらに好ましく用いられる。ここで有機基(疎水基)の導入率は30%以上が好ましく、50%以上がさらに好ましい。30%未満であると含フッ素共重合体との相溶性が悪化し好ましくない。
【0024】
疎水基の具体例として、例えばアルキル基、ベンジル基、ベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、硝酸エステル基、トシル基、光硬化部位としてアルキル置換エチレン性不飽和基、熱硬化部位としてアルキル置換エポキシ基などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、上記の疎水性修飾ポリロタキサンにおいては、上述の疎水基の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて有していてもよい。更に機能層が反射防止機能を付与されている場合には、疎水基がフッ素化合物(置換されていてもよいフッ化アルキル基など)で形成されていることが好ましい。
【0025】
環状分子が有する置換基の更に具体的な例としては下記のものが適用できる。
【0026】
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換または無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、
【0027】
アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビシクロアルケニル基(置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換または無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル基)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族または非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5または6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、
【0028】
シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、
【0029】
カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、
【0030】
アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換または無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、
【0031】
メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換または無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイルベンゾイル基)、
【0032】
アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、アリールおよびヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換または無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、
【0033】
ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)を表わす。
【0034】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。これらの炭素数は前記対応する置換基と同様であり、好ましい例も同様である。
【0035】
環状分子が有する置換基として、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、シリル基であり、より好ましくは、アルキル基、アルケニル基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、シリル基であり、さらに好ましくは、アルキル基、アルケニル基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基である。
【0036】
環状分子は複数の種類の置換基を有しても良く、そのうち少なくとも一つが重合性基であることが好ましい。環状分子に複数存在する置換基の組み合わせの例としては、アセチル基/重合性基、アルキル基/重合性基、シリルオキシ基/重合性基などが挙げることができる。この二つの置換基は、同一の環状分子上に存在していても良いし、同一のポリロタキサン分子(本発明における化合物)に結合された同一でない環状分子上に存在していても良い。
【0037】
環状分子の有する重合性基の例としては、熱又は光により重合が進行する基であることが好ましく、さらに付加重合反応または縮合重合反応が可能な基が好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基または開環重合性基が好ましい。
【0038】
さらに好ましくは、下記P1、P2、P3、P4で表される基である。
【0039】
【化1】

【0040】
上記式P1〜P4中、R511、R512、R513、R521、R522、R523、R531、R532、R533、R541、R542、R543、R544、およびR545はそれぞれ各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。nは0または1を表す。
【0041】
重合性基P1、P2、P3またはP4は環状分子と直接結合していても、連結基を介して結合してもよい。連結基として好ましくはアルキレンオキシ基アルキレンオキシカルボニルオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基である。これらの具体的な例を下記に示す。
【0042】
アルキレンオキシ基(例えばエチレンオキシ、プロピレンオキシ、ブチレンオキシ、ペンチレンオキシ、ヘキシレンオキシ、ヘプチレンオキシなどのアルキレンオキシ基、またエチレンオキシエトキシなどのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシ基)、アルキレンオキシカルボニルオキシ基(例えばエチレンオキシカルボニルオキシ、プロピレンオキシカルボニルオキシ、ブチレンオキシカルボニルオキシ、ペンチレンオキシカルボニルオキシ、ヘキシレンオキシカルボニルオキシ、ヘプチレンオキシカルボニルオキシなどのアルキレンオキシカルボニルオキシ基、またエチレンオキシエトキシカルボニルオキシなどのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシカルボニルオキシ基)、アルキレンオキシカルボニル基(例えばエチレンオキシカルボニル基、プロピレンオキシカルボニル基、ブチレンオキシカルボニル基、ペンチレンオキシカルボニル基、ヘキシレンオキシカルボニル基、ヘプチレンオキシカルボニル基などのアルキレンオキシカルボニル基、またはエチレンオキシエトキシカルボニル基などのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシカルボニル基)が挙げられる。
【0043】
重合性基P1中、nは0まはた1の整数を表し、nが1であることが好ましく、nが1の時はP1は置換又は無置換のビニルエーテル基を表す。重合性基P1の置換基R511、R513は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表すが、R511がメチル基でR513が水素原子、またはR511、R513が共に水素原子の組み合わせが好ましい。
【0044】
置換基R512は水素原子、置換または無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基(メチル、エチルなど)が好ましく、さらに水素原子が好ましい。従って、重合性基P1としては、一般には重合活性の高い官能基である無置換のビニルオキシ基が好ましく用いられる。
【0045】
重合性基P2は置換または無置換のオキシラン基を表す。重合性基P2の置換基R521、R522は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、R521、R522がともに水素原子が好ましい。
【0046】
置換基R523は水素原子、置換または無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、水素原子またはメチル、エチル、n−プロピルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0047】
重合性基P3は置換または無置換のアクリル基を表す。重合性基P3の置換基R531、R533は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、R531がメチル基でR533が水素原子、またはR531、R533が共に水素原子の組み合わせが好ましい。
【0048】
置換基R532は水素原子、置換または無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、水素原子が好ましい。従って、重合性基P3としては、無置換のアクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、クロトニルオキシ基などの重合活性の高い官能基が好ましく用いられる。
【0049】
重合性基P4は、置換または無置換のオキセタン基を表す。R542、R543、R544およびR545は各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、R542、R543、R544およびR545が共に水素原子が好ましい。
【0050】
541は水素原子、置換または無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、水素原子またはメチル、エチル、n−プロピルなどの炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0051】
環状分子のもつ置換基数は、置換基導入可能な結合が形成される数により変化する。例えば環状分子がα―シクロデキストリンである場合、環状分子1分子あたりの水酸基数は18個であることから、置換基の導入可能数は18であり、平均9個の置換基が導入された場合、導入量は50%と示す。
【0052】
上記環状分子の有する置換基の導入率は特に制限はないが、5〜95%であることが好ましい。
【0053】
直鎖状分子は、環状分子に包接され、共有結合等の化学結合でなく機械的な結合で一体化することができる分子または物質であって、直鎖状のものであれば、特に限定されない。
なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で環状分子が移動可能であれば、直鎖状分子は分岐鎖を有していてもよく、また置換基を有してもよい。有しても良い置換基の例としては、上記環状分子が有する置換基が挙げられる。
【0054】
前記直鎖状分子としては、公知のものを用いることができる。例えば、ポリエーテル類(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフランなど)、ポリオレフィン類(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエンなど)、セルロース類(例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、シロキサン類(ポリジメチルシロキサン)、を挙げることができる。好ましくはポリエーテル類(特にポリエチレングリコールであるのがよい。)である。これらの直鎖状分子は、単独でも、2種以上混在していてもよい。
直鎖状分子は、その分子量が1万以上、好ましくは2万以上、より好ましくは3.5万以上であるのがよい。
【0055】
直鎖状分子に包接される環状分子の個数(包接量)は、環状分子がシクロデキストリンの場合、その最大包接量を1とすると、0.05〜0.60が好ましく、0.10〜0.50が更に好ましく、0.20〜0.40が更に好ましい。0.05未満では滑車効果が発現しないことがあり、0.60を超えると、環状分子であるシクロデキストリンが密に配置され過ぎてシクロデキストリンの可動性が低下することがあり、またシクロデキストリン自体の有機溶剤に対する非溶解性が強化されてしまい、得られるポリロタキサンの有機溶剤への溶解性も低下することがある。前記環状分子の包接量は、直鎖状分子1分子(1本)に対して、シクロデキストリン環が平均何分子(何個)、包接しているかを意味する。環状分子の最大包接量は、直鎖状分子の長さと環状分子との厚さにより、決定することができる。例えば、直鎖状分子がポリエチレングリコールであり、環状分子がα−シクロデキストリン分子の場合、最大包接量は、実験的に求められている値が、「Macromolecules1993,26,5698−5703」に記載されている。
本発明においては、上記文献に記載された方法を用いて求めた値を採用する。
【0056】
末端官能基を有する鎖状ポリマー分子としては、封鎖基を結合しうる反応性基を末端に有している分子であれが何ら制限無く用いることができる。ここで好適に用いられる末端官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸クロライド基、フェノール基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、スチリル基、活性エステル基、チオール基、ラクトン環基、環状/鎖状酸無水物基、カーボネート基、シラン基、シラノール基、アルコキシシリル基などであり、特に好ましくは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基が挙げられる。
【0057】
鎖状ポリマー分子において、一つの分子中にこれらの末端官能基が複数種共存することも好適に用いられる。また、上記鎖状ポリマー分子としては、貫通した輪状分子が脱離できないような構造を形成しうる鎖状ポリマー分子であれば、何ら制限無く用いることができる。好適に用いられる鎖状ポリマー分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類;ポリブタジエンジオール、ポリイソプレンジオール、ポリイソブチレンジオール、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)ジオール、水素化ポリブタジエンジオール、ポリエチレンジオール、ポリプロピレンジオールなどの末端水酸基ポリオレフィン類;ポリカプロラクトンジオール、ポリ乳酸、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル類;末端シラノール型ポリジメチルシロキサンなどの末端官能性ポリシロキサン類;末端アミノ基ポリエチレングリコール、末端アミノ基ポリプロピレングリコール、末端アミノ基ポリブタジエンなどの末端アミノ基鎖状ポリマー類;および上記官能基を一分子中に3つ以上有する3官能性以上の多官能性鎖状ポリマー分子類などが挙げられる。一般的に鎖状分子は、ポリエチレングリコールがよく用いられるが、含フッ素共重合体との相溶性を良化させるためにポリエチレングリコールとより疎水的なポリプロピレングリコール等の共重合体を用いることも好ましい。
【0058】
上記末端官能基を有する鎖状ポリマーは、その分子量は2千〜100万、好ましくは1万〜50万の範囲が好適に用いられる。分子量が2千未満では、末端封鎖基による運動性への制限効果があり、応力緩和効果が十分に発現しない。また、分子量が100万を超える場合、該ロタキサンのマトリックス樹脂への溶解性が低下し、また作業性も低下する。
【0059】
上記嵩高い封鎖基としては、上記した末端官能基と反応することによって末端に結合し、上記輪状の分子が脱離できないような十分嵩高い基であれば何ら制限無くもちいることができる。特に好ましく用いられる封鎖基としては、2,4−ジニトロフェニル基、トリチル基、ダンシル基、2,4,6−トリニトロフェニル基、トリイソプロピルシリル基、ナフタレン誘導体基、アントラセン誘導体基、フルオレセイン類、ピレン類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類が挙げられる。これらの封鎖基は同一直鎖状分子において同種類が2種混在していてもよく、異種が2種混在してもよい。末端官能基を有する鎖状ポリマーと封鎖基との反応に先立ち、該鎖状ポリマーの末端官能基をより反応性の高い官能基に変換することも好適に行われる。たとえば、ポリエチレングリコールの水酸基末端にカルボニルジイミダゾールと反応させ、つづいてエチレンジアミンと反応させることによって、末端アミノ基ポリエチレングリコールが合成される。なお、以下「ポリエチレングリコール」、「ポリプロピレングリコール」は、これらの分子末端が化学修飾によって変成されている場合も包含される。また、嵩高い封鎖基に更に反応性基(例えばエチレン性不飽和基、エポキシ基などの光及び熱架橋性基が好ましい)が結合された化合物も好ましい。
【0060】
<架橋ポリロタキサン化合物>
架橋ポリロタキサンは、直鎖状分子に串刺し状に貫通されている2つ以上の環状分子同士が化学結合されている2架橋基含有化合物をいい、この2つ以上の環状分子は同じでも異なっていてもよい。この際、化学結合は、単なる結合であっても、種々の原子又は分子を介する結合であってもよい。
【0061】
前記2架橋基含有化合物は、架橋基を2つ以上有する化合物であれば、特に限定されない。したがって、2架橋基含有化合物は、架橋基を3つ以上有してもよい。2架橋基含有化合物として、例えば、塩化シアヌル、エチレングリコールグリシジルエーテル及びグルタルアルデヒド、並びにこれらの誘導体などを挙げることができ、これらからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。特に、2架橋基含有化合物は、塩化シアヌル又はその誘導体であるのがよい。2架橋基含有化合物が塩化シアヌル又はその誘導体である場合、該2架橋基含有化合物が環状分子と結合している状態は、次の式Iで表すことができる。ここで、Lは環状分子と結合する一価の基又は単結合を示し、X及びYのいずれか一方又は双方はイオン性基を有する基を示す。
【0062】
【化2】

【0063】
本発明において、架橋基反応性イオン性基含有化合物は、2架橋基含有化合物が有する架橋基と反応する性質を有すると共に、反応した後、イオン性基を有する。架橋基反応性イオン性基含有化合物として、官能基を2以上有する化合物を挙げることができ、例えば、アミノ酸又はその誘導体などを挙げることができる。
【0064】
前記イオン性基は、イオン性を有するものであれば、特に限定されない。例えば、イオン性基は、−COOX基(Xは、水素(H)、アルカリ金属その他1価の金属を示す)、−SOX基(Xは前述と同じ定義である)、−NH基、−NHX’基(X’は1価のハロゲンイオンを表す)、−PO基、及び−HPO基などを挙げることができ、これらからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0065】
この架橋ロタキサンは、直鎖状分子に串刺し状に貫通されている環状分子が当該直鎖状に沿って移動可能(滑車効果)であるために、粘弾性を有する。張力が加わっても、この滑車効果によって当該張力を均一に分散させ、内部応力を緩和できる。さらに、これらの架橋ロタキサンを形成するシクロデキストリンの水酸基の少なくとも一つが他の有機基(疎水基)によって置換された修飾架橋ポリロタキサン類は、その溶剤への溶解性が向上するため、さらに好ましく用いられる。疎水基の具体例として、例えばアルキル基、ベンジル基、ベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、硝酸エステル基、トシル基、光硬化部位としてアルキル置換エチレン性不飽和基、熱硬化部位としてアルキル置換エポキシ基などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、上記の疎水性修飾ポリロタキサンにおいては、上述の疎水基の1 種を単独で又は2 種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0066】
架橋剤は、その分子量が2000未満、好ましくは1000未満、より好ましくは600未満、最も好ましくは400未満であるのがよい。
【0067】
架橋剤は、2架橋基含有化合物として記載した塩化シアヌル、エチレングリコールグリシジルエーテル及びグルタルアルデヒド、並びにこれらの誘導体の他、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、フェニレンジイソシアネート、ジイソシアン酸トリレイン、ジビニルスルホン、1,1’−カルボニルジイミダゾール、及びアルコキシシラン類からなる群から選ばれるのがよい。
【0068】
架橋ポリロタキサン化合物において、少なくとも2分子のポリロタキサンは各ポリロタキサンの少なくとも1つの環状分子の少なくとも1つのOH基が架橋に関与するのがよい。
【0069】
本発明の架橋ポリロタキサンを有するトポロジカルゲルは、例えば次のように調製することができる。即ち、1)環状分子と直鎖状分子とを混合して環状分子の開口部に直鎖状分子が串刺し状に包接する擬ポリロタキサンを調製する擬ポリロタキサン調製工程;2)前記環状分子が串刺し状態から脱離しないように、擬ポリロタキサンの両末端を封鎖基で封鎖してポリロタキサンを調製するポリロタキサン調製工程;及び3)少なくとも2分子のポリロタキサンの各々の環状分子同士を、化学結合を介して結合させて該少なくとも2分子のポリロタキサンを架橋する架橋工程;を有し、4)架橋基を2つ以上有する2架橋基含有化合物を用いて前記架橋工程を行い、該架橋工程後又は該架橋工程中、2架橋基含有化合物の少なくとも1つの架橋基と、該架橋基と反応する基及びイオン性基を有する架橋基反応性イオン性基含有化合物とを、反応させて、環状分子が架橋基反応性イオン性基含有化合物由来の基を有し且つイオン性基を有する工程を有することにより、調製することができる。なお、2架橋基含有化合物として塩化シアヌル、エチレングリコールグリシジルエーテル及びグルタルアルデヒド、並びにこれらの誘導体などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0070】
また、次のように調製することもできる。即ち、1)環状分子と直鎖状分子とを混合して環状分子の開口部に直鎖状分子が串刺し状に包接する擬ポリロタキサンを調製する擬ポリロタキサン調製工程;2)前記環状分子が串刺し状態から脱離しないように、擬ポリロタキサンの両末端を封鎖基で封鎖してポリロタキサンを調製するポリロタキサン調製工程;及び3)少なくとも2分子のポリロタキサンの各々の環状分子同士を、化学結合を介して結合させて該少なくとも2分子のポリロタキサンを架橋する架橋工程;を有し、4)架橋工程後、環状分子が有する基と反応する基及びイオン性基を有する環状分子反応性イオン性基含有化合物を、架橋ポリロタキサンと反応させて、環状分子が環状分子反応性イオン性基含有化合物由来の基を有し且つイオン性基を有する工程を有することにより調製することができる。
【0071】
ここで、環状分子反応性イオン性基含有化合物として、次のものを挙げることができる。即ち、環状分子がα−シクロデキストリンなどの−OH基を有する場合、環状分子反応性イオン性基含有化合物は、該−OH基と反応する基及びイオン性基を有するのがよい。
より具体的には、環状分子反応性イオン性基含有化合物として、以下の式で表される化合物(ProcionBlueMX−R)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0072】
【化3】

【0073】
より具体的には、次のように調製することができる。即ち、1)環状分子と直鎖状分子とを混合して環状分子の開口部に直鎖状分子が串刺し状に包接する擬ポリロタキサンを調製する擬ポリロタキサン調製工程;2)前記環状分子が串刺し状態から脱離しないように、擬ポリロタキサンの両末端を封鎖基で封鎖してポリロタキサンを調製するポリロタキサン調製工程;3)少なくとも2分子のポリロタキサンの各々の環状分子同士を、塩化シアヌルを用いることにより、化学結合を介して結合させて該少なくとも2分子のポリロタキサンを架橋する架橋工程;及び4)得られた架橋ポリロタキサンに、塩化シアヌルのCl基と反応する基及びイオン性基を有する化合物を反応させて、シクロデキストリン分子が上記式Iで表される基(式I中、Lは環状分子と結合する一価の基又は単結合を示し、X及びYのいずれか一方又は双方はイオン性基を有する基を示す)を有する工程を有することにより調製することができる。
【0074】
なお、上記調製方法において、用いる環状分子、直鎖状分子、封鎖基等は、上記したものを用いることができる。
【0075】
架橋基反応性イオン性基含有化合物と、2架橋基含有化合物との反応、即ち架橋基反応性イオン性基含有化合物の架橋基反応性の基と、2架橋基含有化合物の1つの架橋基との反応に用いられる条件は、反応に用いられる基に依存するが、特に限定されず、種々の反応方法、反応条件を用いることができる。例えば、酸クロライド反応、シランカップリング反応などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0076】
ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンの配合量は、低屈折率層の固形分中1〜30重量部が好ましく、1〜20重量部がさらに好ましい。1重量部未満では、ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンによる応力緩和効果が十分ではなく、一方、30重量部を超えると、屈折率が大幅に上昇してしまうため好ましくない。
【0077】
[含フッ素共重合体(B)]
本発明において、含フッ素共重合体は、反応性の官能基を有しており、塗布組成物として調製され低屈折率層を形成することが可能なポリマーであれば構造に特に制限はない。塗布・硬化時に揮発せずに層を形成する観点からは、含フッ素共重合体は分子量1000以上500,000以下が好ましい。含フッ素共重合体の屈折率は1.34〜1.44が好ましく、更に好ましくは1.35〜1.40である。
【0078】
本発明に用いることのできる含フッ素共重合体として以下の構造のものを挙げることができる。
【0079】
一般式1
(MF1)a−(MF2)b−(MF3)c−(MA)d−(MB)e
一般式1中、a〜eは、それぞれ各構成成分のモル分率を表し、30≦a+b≦70、0≦c≦50、5≦d≦50、0≦e≦20の関係を満たす値を表す。
【0080】
一般式1中、(MF1)は下記一般式[1−1]で表される単量体から重合される構成成分を表す。
一般式[1−1]
(CF2=CF−Rf1)
式中、Rf1は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。
【0081】
(MF2)は下記一般式[1−2]で表される単量体から重合される構成成分を表す。
一般式[1−2]
(CF2=CF−ORf12)
式中、Rf12は炭素数1〜30の含フッ素アルキル基を表わす。
【0082】
(MF3)は下記一般式[1−3]で表される単量体から重合される構成成分を表す。
一般式[1−3]
(CH2=CH−ORf13)
式中、Rf13は炭素数1〜30の含フッ素アルキル基を表す。
【0083】
(MA)は、架橋反応に関与しうる反応性基を少なくとも1つ以上含有する構成成分を表す。(MB)は、任意の構成成分を表わす。
【0084】
以下、一般式1の各構成成分について、詳細に説明する。
一般式[1−1]
(CF2=CF−Rf1)
式中、Rf1は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。一般式[1−1]の化合物としては重合反応性の観点からは、ペルフルオロプロピレン又はペルフルオロブチレンが好ましく、入手性の観点からペルフルオロプロピレンであることが特に好ましい。
【0085】
一般式[1−2]
(CF2=CF−ORf12)
式中、Rf12は炭素数1〜30の含フッ素アルキル基を表わし、好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10の含フッ化アルキル基であり、炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基であることがさらに好ましい。また、該フッ化アルキル基は置換基を有していてもよい。Rf12の具体例としては、
−CF{M2−(1)}、
−CFCF{M2−(2)}、
−CFCFCF{M2−(3)}、
−CFCF(OCFCFCF)CF{M2−(4)}などが挙げられる。
【0086】
一般式[1−3]
(CH2=CH−ORf13)
式中、Rf13は炭素数1〜30の含フッ素アルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜15の含フッ素アルキル基であり、直鎖{例えば−CFCF、−CH(CFH、−CHCH(CFF(a:2〜12の整数)など}であっても、分岐構造{例えば−CH(CF、−CHCF(CF、−CH(CH)CFCF、−CH(CH)(CFCFHなど}を有していてもよく、また脂環式構造(好ましくは5員環又は6員環、例えばペルフルオロシクロへキシル基、ペルフルオロシクロペンチル基又はこれらで置換されたアルキル基等)を有していてもよく、エーテル結合(例えば-CHOCHCFCF、-CHCHOCH(CFH、-CHCHOCH(CFF(b:2〜12の整数)、−CHCHOCFCFOCFCFHなど)を有していてもよい。なおRf13で表される置換基はここで述べた置換基に限られるものではない。
【0087】
一般式[1−3]で表わされる上記単量体は、例えば、“Macromolecules”,32巻(21)、p.7122(1999年)、特開平2−721号公報等に記載のごとくビニロキシアルキルスルホネート、ビニロキシアルキルクロリド等の離脱基置換アルキルビニルエーテル類に対して、塩基触媒存在下含フッ素アルコールを作用させる方法;国際出願特許第92/05135号パンフレット記載のごとく、含フッ素アルコールとブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類をパラジウム触媒存在下混合してビニル基の交換を行う方法;米国特許第3420793号明細書記載のごとく、含フッ素ケトンとジブロモエタンをフッ化カリウム触媒存在化で反応させた後アルカリ触媒により脱HBr反応を行う方法;等により合成することができる。
【0088】
以下に、一般式[1−3]で表わされる構成成分の好ましい例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0089】
【化4】

【0090】
【化5】

【0091】
【化6】

【0092】
【化7】

【0093】
【化8】

【0094】
【化9】

【0095】
【化10】

【0096】
M1−(43) CH2=CH−O−CH2CH2(CF28
【0097】
一般式1において、(MA)は架橋反応に関与しうる反応性基を少なくとも1つ以上含有する構成成分を表す。架橋反応に関与し得る反応性基としては例えば、水酸基または加水分解可能な基を有するシリル基(例えばアルコキシシリル基、アシルオキシシリル基等)、反応性不飽和2重結合を有する基((メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニルオキシ基等)、開環重合反応性基(エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基等)、活性水素原子を有する基(たとえば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルバモイル基、メルカプト基、β―ケトエステル基、ヒドロシリル基、シラノール基等)、酸無水物、求核剤によって置換され得る基(活性ハロゲン原子、スルホン酸エステル等)等が挙げられる。
【0098】
これらの反応性基の中でも、単独で重合活性を有する基が好ましく、加水分解可能なシリル基、反応性不飽和2重結合を有する基、開環重合反応性基がより好ましく、特に好ましくは、加水分解性シリル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基、またはエポキシ基である。(MA)の特に好ましい形態として一般式4〜8が挙げられる。
【0099】
【化11】

【0100】
一般式4中、Lは炭素数1〜20のアルキレン基を表わし、置換基を有していても良く(例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる)、脂肪族環構造(例えばシクロヘキサン環等)を有していても良い。好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基であり、特に好ましくはエチレン基、またはプロピレン基である。sは0または1を表し、重合反応性の観点から好ましくはsが0の場合である。Xは水酸基または加水分解可能な基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、クロロ、ブロモ等のハロゲン原子、アセトキシ基、フェノキシ基等のアシルオキシ基)を表わし、好ましくは、メトキシ基またはエトキシ基である。一般式4で表わされる構成成分は、特開昭48−62726号に記載のごとくヒドロシリル化反応を利用する手法等によって合成することができる。
【0101】
【化12】

【0102】
一般式5中、Lは炭素数1〜20のアルキレン基を表わし、置換基を有していても良く(例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる)、脂肪族環構造(例えばシクロヘキサン環等)を有していても良い。好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数2〜5のアルキレン基である。tは0または1を表し、好ましくはtが1の場合である。Rは水素原子またはメチル基を表し、好ましくは水素原子の場合である。一般式5中の不飽和2重結合は水酸基を有するポリマーを合成した後、(メタ)アクリル酸クロライド等の酸ハライド、(メタ)アクリル酸無水物等の酸無水物を作用させる等の方法で導入しても良く、3―クロロプロピオン酸エステル部位を有するビニルモノマーを重合させた後で脱塩化水素を行う等の定法によって形成しても良い。
【0103】
【化13】

【0104】
一般式6中、Lおよびuはそれぞれ一般式5におけるLおよびtと同じ意味を表す。一般式6で表される構成成分中のアリル基も、一般式5の構成成分同様水酸基を有するポリマーを合成した後、アリルハライドを作用させる等の方法で導入することができる。
【0105】
【化14】

【0106】
一般式7中、Lはそれぞれ一般式5におけるLと同じ意味を表す。vは0または1を表す。RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を表し、好ましくは水素原子の場合である。一般式7で表される構成成分は、水酸基を有するビニルエーテルにエピクロロヒドリン等のエポキシ化合物を作用させる方法、触媒存在下ブチルビニルエーテルにグリシドールを作用させてエーテル交換を行う方法等によって合成したエポキシ基含有ビニルエーテルを重合させることによって得られる。
【0107】
【化15】

【0108】
一般式8におけるL、w、RおよびRはそれぞれ一般式7におけるL、v、RおよびRと同じ意味を表す。一般式8で表される構成成分も一般式7で表される構成成分と同様にして合成される。
【0109】
上記で構成成分(MA)の特に好ましい例として説明した以外の他の官能基もモノマー段階から導入されていても良いし、水酸基等の反応性基を有するポリマーを合成後に導入しても良い。
【0110】
以下に上記一般式1で表されるポリマー中の(MA)で表わされる構成成分の好ましい例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0111】
【化16】

【0112】
【化17】

【0113】
【化18】

【0114】
【化19】

【0115】
【化20】

【0116】
【化21】

【0117】
【化22】

【0118】
【化23】

【0119】
【化24】

【0120】
【化25】

【0121】
【化26】

【0122】
【化27】

【0123】
【化28】

【0124】
一般式1において(MB)は任意の構成成分を表わし、(MF1),(MF2)で表わされる単量体及び(MA)で表わされる構成成分を形成する単量体と共重合可能な単量体の構成成分であれば特に制限はなく、基材への密着性、ポリマーのTg(皮膜硬度に寄与する)、溶剤への溶解性、透明性、滑り性、防塵・防汚性、及びポリロタキサン化合物との相溶性等種々の観点から適宜選択することができる。
【0125】
例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、シクロへキシルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル等のビニルエステル類、を例として挙げることができる。
【0126】
また、特に、滑り性、防汚性の観点からは、(MB)で示す成分は以下に示すポリシロキサン構造を有する構成単位を用いることが好ましい。
【0127】
(ポリシロキサン構造を有する構成単位)
主鎖又は側鎖に下記一般式2で表されるポリシロキサン繰り返し単位を含むことができる。
【0128】
【化29】

【0129】
式中、R、Rは同一であっても異なっていてもよく、アルキル基又はアリール基を表す。アルキル基としては炭素数1〜4が好ましく、例としてメチル基、トリフルオロメチル基、エチル基等が挙げられる。アリール基としては炭素数6〜20が好ましく、例としてフェニル基、ナフチル基が挙げられる。これらの中でもメチル基およびフェニル基が好ましく、特に好ましくはメチル基である。pは2〜500の整数を表わし、好ましくは5〜350であり、特に好ましくは8〜250の場合である。
【0130】
側鎖に一般式2であらわされるポリシロキサン構造を有するポリマーは、例えばJ. Appl. Polym. Sci. 2000, 78, 1955、特開昭56−28219号公報等に記載のごとく、エポキシ基、水酸基、カルボキシル、酸無水物基等の反応性基を有するポリマーに対して、相対する反応性基(例えばエポキシ基、酸無水物基に対してアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、水酸基等)を片末端に有するポリシロキサン(例えばサイラプレーンシリーズ(チッソ株式会社製)など)を高分子反応によって導入する方法、ポリシロキサン含有シリコンマクロマーを重合させる方法によって合成することができ、どちらの方法も好ましく用いることができる。
【0131】
主鎖へのポリシロキサン部分構造導入方法には特に制限はなく、例えば特開平6−93100号公報に記載のアゾ基含有ポリシロキサンアミド(市販のものではVPS-0501、1001(商品名;ワコー純薬工業(株)社製))等のポリマー型開始剤を用いる方法、重合開始剤、連鎖移動剤由来の反応性基(例えばメルカプト基、カルボキシル基、水酸基等)をポリマー末端に導入した後、片末端あるいは両末端反応性基(例えばエポキシ基、イソシアネート基等)含有ポリシロキサンと反応させる方法、ヘキサメチルシクロトリシロキサン等の環状シロキサンオリゴマーをアニオン開環重合にて共重合させる方法等が挙げられるが、中でもポリシロキサン部分構造を有する開始剤を利用する手法が容易であり好ましい。
【0132】
また、低屈折率化の観点からは、(MB)で示す成分は、特開2005−76006号公報に記載のフルオロ化シクロアルキル基含有ブロック共重合体ユニットであることも好ましい。
【0133】
また、本発明ではポリロタキサン化合物との相溶性を上げるという観点から含フッ素共重合体中に親水性のユニットを導入することも好ましい。具体的には、(MA)の項で記載した(MA−31)〜(MA−35)のような水酸基含有ユニットや(MA−43)〜(MA−45)のようなカルボキシル基を含有するユニット等が好ましく用いられる。
【0134】
一般式1中、a〜eは、それぞれ各構成成分のモル分率を表し、
30≦a+b≦70、0≦c≦50、5≦d≦50、0≦e≦20
の関係を満たす値を表す。素材の低屈折率化のためには(MF1)成分及び(MF2)成分のモル分率(%)a+bを高めることが望まれるが、重合反応性の点で一般的な溶液系ラジカル重合反応では50〜70%程度の導入が限界でありこれ以上は困難である。本発明においては、a+bは40%以上であることが好ましく、45%以上であることが特に好ましい。
【0135】
本発明では低屈折率化の手段として(MF1)成分及び(MF2)成分に加えて(MF3)成分が導入される。(MF3)成分のモル分率cは10≦c≦50の範囲であることが好ましく、特に好ましくは20≦c≦40の場合である。またこれら含フッ素モノマー成分のモル分率の和は、60≦a+b+c≦90の範囲であることが好ましく、60≦a+b≦75であることが特に好ましい。
【0136】
(MA)で表わされる重合体単位の割合が少なすぎると硬化膜の強度が弱くなる。本発明では特に、(MA)成分のモル分率は5≦d≦40の範囲であることが好ましく、15≦d≦30の範囲であることが特に好ましい。
【0137】
(MB)で表わされる任意の構成成分のモル分率(%)eは0≦e≦20の範囲であることが好ましく、0≦d≦10%の範囲であることが特に好ましい。
【0138】
本発明における低屈折率層の形成に用いられる含フッ素ポリマーの数平均分子量は、1,000〜500,000が好ましく、より好ましくは5,000〜300,000であり、特に好ましくは10,000〜100,000である。
【0139】
ここで、数平均分子量は、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒THF、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0140】
以下に、本発明の一般式1で表わされるポリマーの例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。なお表1には、重合することにより一般式1のフッ素含有構成成分を形成する単量体(MF1)、(MF2)、(MF−3)、(MA)及び(MB)の組み合わせとして表記する。表中a〜eは、各成分の単量体のモル比(%)を表す。表中(MB)成分でwt%の記載があるものは、全重合体中の該成分の質量%を示す。
【0141】
【表1】

【0142】
上記表中の略号は、以下を表す。
(MF1)成分:HFP:ヘキサフルオロプロピレン
(MF2)成分:FPVE:パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)
(MB)成分:EVE:エチルビニルエーテル
VPS―1001(アゾ基含有ポリジメチルシロキサン、ポリシロキサン部の分子量約1万、(株)和光純薬工業製)
FM−0721(メタクリロイル変性ジメチルシロキサン、平均分子量5000、(株)チッソ製)
NE−30(反応性ノニオン乳化剤、エチレンオキサイド部位含有、(株)旭電化工業製)
【0143】
本発明の塗布組成物には、適宜硬化触媒、あるいは硬化剤等が配合されても良く公知のものを使用することができる。本発明の塗布組成物は、含フッ素ポリマー、硬化触媒及び溶媒を含有してなる。その他に、硬化促進や重合体の用途に対してする性能を向上させるための添加剤、添加物などを含んでいても良い。
【0144】
例えば、一般式1のポリマーが加水分解性シリル基を硬化反応性部位として含有する場合には、ゾルゲル反応の触媒として公知の酸あるいは塩基触媒を配合することができ、例えば塩酸、硫酸、硝酸などの無機ブレンステッド酸類、シュウ酸、酢酸、ギ酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などの有機ブレンステッド酸類、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクテート、トリイソプロポキシアルミニウム、テトラブトキシジルコニウム等のルイス酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基類、トリエチルアミン、ピリジン、テトラメチルエチレンジアミンなどの有機塩基類などを挙げることができるが、特に酸触媒が好ましく、中でもパラトルエンスルホン酸等の有機ブレンステッド酸類またはジブチル錫ジラウレート等のルイス酸類が好ましい。
【0145】
これらの硬化触媒の添加量は、触媒の種類、硬化反応性部位の違いによって任意であるが、一般的には塗布組成物全固形分に対して0.1〜15質量%程度が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%程度である。
【0146】
<塗布液の溶剤>
以上説明した本発明に係る(A)疎水的なポリロタキサン化合物と(B)含フッ素共重合体とを組み合わせてコーティング組成物となし、この組成物から低屈折率層を形成することができる。コーティング組成物の溶剤に制限は無いが、少なくとも2種類の揮発性溶剤を含有することが好ましい。例えば、アルコールとその誘導体類、エーテル類、ケトン類、炭化水素類、エステル類、の中から選ばれる少なくとも2種を組み合わせて用いることが好ましい。バインダー成分の溶解度、無機微粒子の安定性、コーティング液の粘度調節などの観点から溶剤を選択することができる。
【0147】
特に好ましい組み合わせはアルコールとその誘導体類、ケトン類、エステル類の中から少なくとも2種類、更に好ましくは3種類用いることである。好ましい例としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2−メトキシプロパノール、2−ブトキシエタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの中から2種又は3種を併用して用いることができる。
【0148】
本発明では(A)、(B)成分のみでも塗膜を得る事が可能であるが、低屈折率層がさらに(C)1分子中に不飽和二重結合基を複数個有する化合物を含有することも好ましい。
【0149】
本発明の低屈折率層形成用組成物では、前記(A)成分、(B)成分、以下に述べる(C)成分は特に限定されないが、前記(A)成分を1〜30重量%、(B)成分を5〜80重量%、(C)成分を1〜50重量%含有する塗布組成物であることが好ましい。
【0150】
前記(A)成分は1〜20重量%含有することが好ましく、5〜20重量%含有することがより好ましい。
【0151】
前記(B)成分は5〜60重量%含有することが好ましく、5〜40重量%含有することがより好ましく、5〜30重量%含有することがさらに好ましい。
【0152】
前記(C)成分は5〜50重量%含有することが好ましく、10〜50重量%含有することがより好ましく、15〜50重量%含有することがさらに好ましい。
【0153】
[1分子中に不飽和二重結合基を複数個有する化合物(C)]
本発明では上記含フッ素共重合体に対して硬化剤として適宜(C)1分子中に不飽和二重結合基を複数個有する化合物を併用しても良い。(C)の化合物としては1分子中に不飽和二重結合基を複数有するものであれば特に制限はないが、耐擦傷性改良効果、およびポリロタキサンと併用した際の塗膜の白濁を抑えるという観点から種々の多官能モノマーを好ましく用いることができる。これは、ポリロタキサンとの相溶性が含フッ素共重合体のみの使用に比べて良化するためであると推測される。上記多官能モノマーの分子量は、2000以下であることが好ましく、1000以下がより好ましい。
【0154】
該モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の重合性官能基を有する化合物が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。特に好ましくは下記の1分子内に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を用いることができる。これら化合物は、特にポリマー本体に不飽和二重結合基を有する化合物を用いた場合に耐擦傷性、あるいは薬品処理後の耐擦傷性改良に対する併用効果が大きく好ましい。
【0155】
不飽和二重結合基を有する化合物の具体例としては、
ネオペンチルグリコールアクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステル類;
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステル類;
ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸ジエステル類;
2,2−ビス{4−(アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル}プロパン、2−2−ビス{4−(アクリロキシ・ポリプロポキシ)フェニル}プロパン等のエチレンオキシドあるいはプロピレンオキシド付加物の(メタ)アクリル酸ジエステル類;
等を挙げることができる。
【0156】
さらにはエポキシ(メタ)アクリレート類、ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類も、光重合性多官能モノマーとして、好ましく用いられる。
【0157】
中でも、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類が好ましい。さらに好ましくは、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能モノマーが好ましい。例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−クロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0158】
(メタ)アクリロイル基を有する多官能アクリレート系化合物類の具体化合物としては、日本化薬(株)製KAYARAD DPHA、同DPHA−2C、同PET−30、同TMPTA、同TPA−320、同TPA−330、同RP−1040、同T−1420、同D−310、同DPCA−20、同DPCA−30、同DPCA−60、同GPO−303、大阪有機化学工業(株)製V#3PA、V#400、V#36095D、V#1000、V#1080等のポリオールと(メタ)アクリル酸のエステル化物を挙げることができる。また紫光UV−1400B、同UV−1700B、同UV−6300B、同UV−7550B、同UV−7600B、同UV−7605B、同UV−7610B、同UV−7620EA、同UV−7630B、同UV−7640B、同UV−6630B、同UV−7000B、同UV−7510B、同UV−7461TE、同UV−3000B、同UV−3200B、同UV−3210EA、同UV−3310EA、同UV−3310B、同UV−3500BA、同UV−3520TL、同UV−3700B、同UV−6100B、同UV−6640B、同UV−2000B、同UV−2010B、同UV−2250EA、同UV−2750B(日本合成化学(株)製)、UL−503LN(共栄社化学(株)製)、ユニディック17−806、同17−813、同V−4030、同V−4000BA(大日本インキ化学工業(株)製)、EB−1290K、EB−220、EB−5129、EB−1830,EB−4858(ダイセルUCB(株)製)、ハイコープAU−2010、同AU−2020((株)トクシキ製)、アロニックスM−1960(東亜合成(株)製)、アートレジンUN−3320HA,UN−3320HC,UN−3320HS、UN−904,HDP−4Tなどの3官能以上のウレタンアクリレート化合物、アロニックスM−8100,M−8030,M−9050(東亞合成(株)製、KRM−8307(ダイセルサイテック(株)製)などの3官能以上のポリエステル化合物なども好適に使用することができる。
【0159】
さらに、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物などのオリゴマー又はプレポリマー等もあげられる。
【0160】
モノマーバインダーとしては、例えば特開2005−76005号、同2005−36105号に記載されたデンドリマーや、例えば特開2005−60425号記載のようなノルボルネン環含有モノマーを用いることもできる。
【0161】
多官能モノマーは、二種類以上を併用してもよい。
これらのエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射または加熱により行うことができる。
光重合性多官能モノマーの重合反応には、光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤が好ましく、特に好ましいのは光ラジカル重合開始剤である。
【0162】
[オルガノシラン化合物]
本発明では、(C)1分子中に不飽和二重結合基を複数個有する化合物として、オルガノシラン化合物の加水分解物および/またはその部分縮合物の少なくとも一種の成分(いわゆるゾル成分(以下このように称する場合もある))を含有することも好ましい。ポリロタキサンと併用することは、塗膜の白濁を抑えながら良好な耐擦傷性を得るという観点で好ましい。
【0163】
このゾル成分は、塗布液を塗布後、乾燥、加熱工程で縮合して硬化物を形成し上記層のバインダーの一部となる。また、該硬化物が重合性不飽和結合を有する場合、活性光線の照射により3次元構造を有するバインダーが形成される。
【0164】
オルガノシラン化合物は、下記一般式1で表されるものが好ましい。
一般式1:(R−Si(X)4−m
上記一般式1において、R1は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。アルキル基としては、炭素数1〜30のアルキル基か好ましく、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは1〜6のものである。アルキル基の具体例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ヘキシル、デシル、ヘキサデシル等が挙げられる。アリール基としてはフェニル、ナフチル等が挙げられ、好ましくはフェニル基である。
Xは、水酸基または加水分解可能な基を表し、例えばアルコキシ基(炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましい。例えばメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる)、ハロゲン原子(例えばCl、Br、I等)、及びRCOO(Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。例えばCHCOO、CCOO等が挙げられる)で表される基が挙げられ、好ましくはアルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基またはエトキシ基である。
mは1〜3の整数を表し、好ましくは1〜2である。
【0165】
Xが複数存在するとき、複数のXはそれぞれ同じであっても異なっていても良い。
1に含まれる置換基としては特に制限はないが、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素等)、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アルキル基(メチル、エチル、i−プロピル、プロピル、t−ブチル等)、アリール基(フェニル、ナフチル等)、芳香族ヘテロ環基(フリル、ピラゾリル、ピリジル等)、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、i−プロポキシ、ヘキシルオキシ等)、アリールオキシ(フェノキシ等)、アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオ等)、アリールチオ基(フェニルチオ等)、アルケニル基(ビニル、1−プロペニル等)、アシルオキシ基(アセトキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ等)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(フェノキシカルボニル等)、カルバモイル基(カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N−メチル−N−オクチルカルバモイル等)、アシルアミノ基(アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ、アクリルアミノ、メタクリルアミノ等)等が挙げられ、これら置換基は更に置換されていても良い。
1は置換アルキル基もしくは置換アリール基であることが好ましく、中でも、下記一般式2で表されるビニル重合性の置換基を有するオルガノシラン化合物が好ましい。
【0166】
【化30】

【0167】
上記一般式2において、Rは水素原子、メチル基、メトキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、フッ素原子、または塩素原子を表す。アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。水素原子、メチル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、シアノ基、フッ素原子、および塩素原子が好ましく、水素原子、メチル基、メトキシカルボニル基、フッ素原子、および塩素原子が更に好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。
Yは単結合もしくは*−COO−**、*−CONH−**または*−O−**を表し、単結合、*−COO−**および*−CONH−**が好ましく、単結合および*−COO−**が更に好ましく、*−COO−**が特に好ましい。*は=C(R)−に結合する位置を、**はLに結合する位置を表す。
【0168】
Lは2価の連結鎖を表す。具体的には、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、内部に連結基(例えば、エーテル、エステル、アミドなど)を有する置換もしくは無置換のアルキレン基、内部に連結基を有する置換もしくは無置換のアリーレン基が挙げられ、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、内部に連結基を有するアルキレン基が好ましく、無置換のアルキレン基、無置換のアリーレン基、内部にエーテルあるいはエステル連結基を有するアルキレン基が更に好ましく、無置換のアルキレン基、内部にエーテルあるいはエステル連結基を有するアルキレン基が特に好ましい。置換基は、ハロゲン、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アルキル基、アリール基等が挙げられ、これら置換基は更に置換されていても良い。
【0169】
lはl=100−mの数式を満たす数を表し、mは0〜50の数を表す。mは0〜40の数がより好ましく、0〜30の数が特に好ましい。
〜R5は、ハロゲン原子、水酸基、無置換のアルコキシ基、もしくは無置換のアルキル基が好ましい。R〜Rは塩素原子、水酸基、無置換の炭素数1〜6のアルコキシ基がより好ましく、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基が更に好ましく、水酸基もしくはメトキシ基が特に好ましい。
は水素原子、アルキル基を表す。アルキル基はメチル基、エチル基などが好ましい。Rは前述の一般式1のRと同義であり、水酸基もしくは無置換のアルキル基がより好ましく、水酸基もしくは炭素数1〜3のアルキル基が更に好ましく、水酸基もしくはメチル基が特に好ましい。
【0170】
一般式1の化合物は2種類以上を併用しても良い。特に一般式2の化合物は一般式1の化合物2種類を出発原料として合成される。以下に一般式1の化合物および一般式2で表される化合物の出発原料の具体例を示すが、限定されるものではない。
【0171】
【化31】

【0172】
【化32】

【0173】
【化33】

【0174】
【化34】

【0175】
【化35】

【0176】
【化36】

【0177】
【化37】

【0178】
M-48 メチルトリメトキシシラン
【0179】
これらのうち、重合性基を含有するオルガノシランとしては(M−1)、(M−2)、及び(M−25)が特に好ましい。
【0180】
本発明の効果を得るためには、オルガノシランの加水分解物および/またはその部分縮合物における前記ビニル重合性基を含有するオルガノシランの含有量は、30質量%〜100質量%が好ましく、50質量%〜100質量%がより好ましく、70質量%〜95質量%が更に好ましい。前記ビニル重合性基を含有するオルガノシランの含有量が30質量%より少ないと、固形分が生じたり、液が濁ったり、ポットライフが悪化したり、分子量の制御が困難(分子量の増大)であったり、重合性基の含有量が少ないために重合処理を行った場合の性能(例えば反射防止膜の耐傷性)の向上が得られにくいために好ましくない。一般式2で表される化合物を合成する場合は、前記ビニル重合性基を含有するオルガノシランとして(M−1)、(M−2)、ビニル重合性基を有さないオルガノシランとして(M−19)〜(M−21)および(M−48)の中からそれぞれ1種をそれぞれ上記の量を組み合わせて用いると好ましい。
【0181】
本発明のオルガノシランの加水分解物およびその部分縮合物の少なくともいずれかは塗布品性能の安定化のためには揮発性を抑えることが好ましく、具体的には、105℃における1時間当たりの揮発量が5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0182】
本発明のオルガノシランの加水分解物およびその部分縮合物の少なくともいずれかにおける前記ビニル重合性基を含有するオルガノシランの含有量は、30質量%〜100質量%が好ましく、50質量%〜100質量%がより好ましく、70質量%〜100質量%が特に好ましい。前記ビニル重合性基を含有するオルガノシランの含有量が30質量%より少ないと、固形分が生じたり、液が濁ったり、ポットライフが悪化したり、分子量の制御が困難(分子量の増大)であったり、重合性基の含有量が少ないために重合処理を行った場合の性能(例えば反射防止膜の耐傷性)の向上が得られにくいために好ましくない。
【0183】
本発明に用いられるゾル成分は上記オルガノシランを加水分解および/または部分縮合することにより調製される。加水分解縮合反応は加水分解性基(X)1モルに対して0.05〜2.0モル、好ましくは0.1〜1.0モルの水を添加し、本発明に用いられる触媒の存在下、25〜100℃で、撹拌することにより行われる。
【0184】
本発明のオルガノシランの加水分解物およびその部分縮合物の少なくともいずれかにおいて、ビニル重合性基を含有するオルガノシランの加水分解物およびその部分縮合物いずれかの重量平均分子量は、分子量が300未満の成分を除いた場合に、450〜10000が好ましく、500〜5000がより好ましく、550〜3000が更に好ましい。
オルガノシランの加水分解物および/またはその部分縮合物における分子量が300以上の成分のうち、分子量が20000より大きい成分は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。10質量%より多く含有すると、そのようなオルガノシランの加水分解物および/またはその部分縮合物を含有する硬化性組成物を硬化させて得られる硬化皮膜は、透明性や基板との密着性が劣る場合がある。
【0185】
ここで、重量平均分子量及び分子量は、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒THF、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量であり、含有量は、分子量が300以上の成分のピーク面積を100%とした場合の、前記分子量範囲のピークの面積%である。
分散度(重量平均分子/数平均分子量)は3.0〜1.1が好ましく、2.5〜1.1がより好ましく、2.0〜1.1が更に好ましく、1.5〜1.1が特に好ましい。
【0186】
本発明のオルガノシランの加水分解物および部分縮合物の29Si−NMR分析により一般式1のXが−OSiの形で縮合している状態を確認できる。
この時、Siの3つの結合が−OSiの形で縮合している場合(T3)、Siの2つの結合が−OSiの形で縮合している場合(T2)、Siの1つの結合が−OSiの形で縮合している場合(T1)、Siが全く縮合していない場合を(T0)とした場合に縮合率αは
【0187】
数式(II):α=(T3×3+T2×2+T1×1)/3/(T3+T2+T1+T0)
【0188】
で表され、縮合率は0.2〜0.95が好ましく、0.3〜0.93がより好ましく、0.4〜0.9がとくに好ましい。
0.1より小さいと加水分解や縮合が十分でなく、モノマー成分が増えるため硬化が十分でなく、0.95より大きいと加水分解や縮合が進みすぎ、加水分解可能な基が消費されてしまうため、バインダーポリマー、樹脂基板、無機微粒子などの相互作用が低下してしまい、これらを用いても効果が得られにくくなる。
【0189】
本発明で用いるオルガノシラン化合物の加水分解物および部分縮合物について詳細を説明する。
オルガノシランの加水分解反応、それに引き続く縮合反応は、一般に触媒の存在下で行われる。触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸類;シュウ酸、酢酸、酪酸、マレイン酸、クエン酸、ギ酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基類;トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基類;トリイソプロポキシアルミニウム、テトラブトキシジルコニウム、テトラブチルチタネート、ジブチル錫ジラウレート等の金属アルコキシド類;Zr、TiまたはAlなどの金属を中心金属とする金属キレート化合物等;KF、NH4Fなどの含F化合物が挙げられる。
上記触媒は単独で使用しても良く、或いは複数種を併用しても良い。
【0190】
オルガノシランの加水分解・縮合反応は、無溶媒でも、溶媒中でも行うことができるが成分を均一に混合するために有機溶媒を用いることが好ましく、例えばアルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類などが好適である。
溶媒はオルガノシランと触媒を溶解させるものが好ましい。また、有機溶媒が塗布液あるいは塗布液の一部として用いることが工程上好ましく、含フッ素ポリマーなどのその他の素材と混合した場合に、溶解性あるいは分散性を損なわないものが好ましい。
【0191】
このうち、アルコール類としては、例えば1価アルコールまたは2価アルコールを挙げることができ、このうち1価アルコールとしては炭素数1〜8の飽和脂肪族アルコールが好ましい。
これらのアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテルなどを挙げることができる。
【0192】
また、芳香族炭化水素類の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを、エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど、ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを、エステル類の具体例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレンなどを挙げることができる。
これらの有機溶媒は、1種単独であるいは2種以上を混合して使用することもできる。該反応における固形分の濃度は特に限定されるものではないが通常1%〜100%の範囲である。
【0193】
オルガノシランの加水分解性基1モルに対して0.05〜2モル、好ましくは0.1〜1モルの水を添加し、上記溶媒の存在下あるいは非存在下に、そして触媒の存在下に、25〜100℃で、撹拌することにより行われる。
本発明においては、一般式ROH(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す)で表されるアルコールと一般式RCOCHCOR (式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のアルコキシ基を示す)で表される化合物とを配位子とした、Zr、TiまたはAlから選ばれる金属を中心金属とする少なくとも1種の金属キレート化合物の存在下で、25〜100℃で撹拌することにより加水分解を行うことが好ましい。
もしくは触媒に含F化合物を使用する場合、含F化合物が完全に加水分解・縮合を進行させる能力が有るため、添加する水量を選択することにより重合度が決定でき、任意の分子量の設定が可能となるので好ましい。すなわち、平均重合度Mのオルガノシラン加水分解物/部分縮合物を調整するためには、Mモルの加水分解性オルガノシランに対して(M−1)モルの水を使用すれば良い。
【0194】
金属キレート化合物は、一般式ROH(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す)で表されるアルコールとRCOCHCOR(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のアルコキシ基を示す)で表される化合物とを配位子とした、Zr、Ti、Alから選ばれる金属を中心金属とするものであれば特に制限なく好適に用いることができる。この範疇であれば、2種以上の金属キレート化合物を併用しても良い。本発明に用いられる 金属キレート化合物は、一般式Zr(ORp1(RCOCHCORp2、Ti(ORq1(RCOCHCORq2、およびAl(ORr1(RCOCHCORr2で表される化合物群から選ばれるものが好ましく、前記オルガノシラン化合物の加水分解物および部分縮合物の縮合反応を促進する作用をなす。
金属キレート化合物中のRおよびRは、同一または異なってもよく炭素数1〜10のアルキル基、具体的にはエチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec −ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、フェニル基などである。また、Rは、前記と同様の炭素数1〜10のアルキル基のほか、炭素数1〜10のアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec −ブトキシ基、t−ブトキシ基などである。また、 金属キレート化合物中のp1、p2、q1、q2、r1、およびr2は、それぞれp1+p2=4、q1+q2=4、r1+r2=3となる様に決定される整数を表す。
【0195】
これらの金属キレート化合物の具体例としては、トリ−n−ブトキシエチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−n−ブトキシビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n−ブトキシトリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(n−プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどのジルコニウムキレート化合物;ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトン)チタニウムなどのチタニウムキレート化合物;ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム、ジイソプロポキシアセチルアセトナートアルミニウム、イソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、イソプロポキシビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノアセチルアセトナート・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウムなどのアルミニウムキレート化合物などが挙げられる。
これらの金属キレート化合物のうち好ましいものは、トリ−n−ブトキシエチルアセトアセテートジルコニウム、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウムである。これらの金属キレート化合物は、1種単独であるいは2種以上混合して使用することができる。また、これらの金属キレート化合物の部分加水分解物を使用することもできる。
【0196】
金属キレート化合物は、前記オルガノシラン化合物に対し、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは0.5〜10質量%の割合で用いられる。金属キレート化合物が上記範囲で用いられることによりオルガノシラン化合物の縮合反応が早く、塗膜の耐久性が良好であり、オルガノシラン化合物の加水分解物および部分縮合物と金属キレート化合物を含有してなる組成物の保存安定性が良好である。
【0197】
本発明に用いられる塗布液には、上記ゾル成分および金属キレート化合物を含む組成物に加えて、β−ジケトン化合物およびβ−ケトエステル化合物の少なくともいずれかが添加されることが好ましい。以下にさらに説明する。
本発明で使用されるのは、一般式RCOCH2 CORで表されるβ−ジケトン化合物およびβ−ケトエステル化合物の少なくともいずれかであり、本発明に用いられる組成物の安定性向上剤として作用するものである。すなわち、前記金属キレート化合物(ジルコニウム、チタニウムおよびアルミニウム化合物の少なくともいずれかの化合物)中の金属原子に配位することにより、これらの金属キレート化合物によるオルガノシラン化合物の加水分解物および部分縮合物の縮合反応を促進する作用を抑制し、得られる組成物の保存安定性を向上させる作用をなすものと考えられる。β−ジケトン化合物およびβ−ケトエステル化合物を構成するRおよびRは、前記金属キレート化合物を構成するRおよびRと同様である。
【0198】
このβ−ジケトン化合物およびβ−ケトエステル化合物の具体例としては、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸−i−プロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec-ブチル、アセト酢酸−t−ブチル、2,4−ヘキサン−ジオン、2,4−ヘプタン−ジオン、3,5−ヘプタン−ジオン、2,4−オクタン−ジオン、2,4−ノナン−ジオン、5−メチル−ヘキサン−ジオンなどを挙げることができる。これらのうち、アセト酢酸エチルおよびアセチルアセトンが好ましく、特にアセチルアセトンが好ましい。これらのβ−ジケトン化合物およびβ−ケトエステル化合物は、1種単独でまたは2種以上を混合して使用することもできる。本発明においてβ−ジケトン化合物およびβ−ケトエステル化合物は、金属キレート化合物1モルに対し好ましくは2モル以上、より好ましくは3〜20モル用いられる。2モル未満では得られる組成物の保存安定性に劣るおそれがあり好ましいものではない。
【0199】
上記オルガノシラン化合物の加水分解物および部分縮合物の含有量は、比較的薄膜である反射防止層の場合は少なく、厚膜であるハードコート層や防眩層の場合は多いことが好ましい。含有量は効果の発現、屈折率、膜の形状・面状等を考慮すると、含有層(添加層)の全固形分の0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1〜15質量%が最も好ましい。
【0200】
[含フッ素多官能モノマー]
本発明では、(C)成分の1つとして、重合性基を二つ以上有し、かつ該含フッ素多官能モノマーのフッ素含有率が20.0質量%以上である含フッ素多官能モノマーを併用しても良い。
【0201】
(C)1分子中に不飽和二重結合基を複数個有する化合物としてフッ素を含有しない化合物を併用することで、耐擦傷性及びポリロタキサン化合物と併用した際の塗膜の白濁を抑えることが可能である。しかし、多量に添加すると屈折率が高くなるため好ましくない。そこで、含フッ素多官能モノマーを使用することで、塗膜の白濁を抑えつつ、低屈折率で優れた耐擦傷性改良効果を得ることができる。
【0202】
具体的には、特開2006−28409号公報の段落番号〔0023〕から〔0027〕に記載のX−2〜4、X−6、X−8〜14、X21〜32に加えて以下の化合物(X−33)も好ましく用いることができる。
【0203】
【化38】

【0204】
【化39】

【0205】
【化40】

【0206】
【化41】

【0207】
【化42】

【0208】
【化43】

【0209】
【化44】

【0210】
また、特開2006−284761号公報の段落番号〔0062〕から〔0065〕に記載の下記M−1〜M−16も好ましく用いることができる。
【0211】
【化45】

【0212】
【化46】

【0213】
【化47】

【0214】
【化48】

【0215】
また、以下に示す化合物MA1〜MA20も好ましく用いることができる。
【0216】
【化49】

【0217】
【化50】

【0218】
【化51】

【0219】
【化52】

【0220】
【化53】

【0221】
中でも耐擦傷性と低屈折率の両立という観点からX−22、およびM−1を用いることが特に好ましく、M−1を用いることが最も好ましい。
【0222】
また、WO2005/059601号公報の段落番号0135から0149に記載の下記化合物も好適に用いることができる。
【0223】
【化54】

【0224】
(上記一般式(I)中、A〜Aは各々独立に、アクリロイル基、メタクリロイル基、α−フルオロアクリロイル基、又はトリフルオロメタクリロイル基を表し、n,m,o,p,q,rは各々独立に、0〜2の整数を表し、 R〜Rは各々独立に、炭素数1〜3のアルキレン基、或いは、水素原子の1個以上がフッ素原子に置換された炭素数1〜3のフルオロアルキレン基を表す。)
【0225】
【化55】

【0226】
(上記一般式(II)中、A11〜A14は各々独立に、アクリロイル基、メタクリロイル基、α−フルオロアクリロイル基、又はトリフルオロメタクリロイル基を表し、s,t,u,vは各々独立に、0〜2の整数を表し、R11〜R14は各々独立に、炭素数1〜3のアルキレン基、或いは、水素原子の1個以上がフッ素原子に置換された炭素数1〜3のフルオロアルキレン基を表す。)
【0227】
さらには、特開2006−291077号公報の段落番号0014から0028に記載の化合物も好適に用いることができる。
【0228】
[水酸基と化学結合を形成する化合物]
本発明における低屈折率層は、水酸基を含む含フッ素ポリマー、及び該含フッ素ポリマー中の水酸基と反応し得る化合物(硬化剤)を含む硬化可能な組成物、いわゆる硬化性樹脂組成物を用いて形成されることが好ましい。硬化剤は水酸基と反応する部位を2個以上有することが好ましく、4個以上有することが更に好ましい。
【0229】
硬化剤の構造は、水酸基と反応しうる官能基を前記個数有するものであれば特に限定はなく、例えばポリイソシアネート類、イソシアネート化合物の部分縮合物、多量体や、多価アルコール、低分子量ポリエステル皮膜などとの付加物、イソシアネート基をフェノールなどのブロック化剤でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物、アミノプラスト類、多塩基酸又はその無水物などを挙げることができる。
【0230】
本発明では、保存時の安定性と架橋反応の活性の両立の観点、および形成される膜の強度の観点から、酸性条件下で水酸基含有化合物と架橋反応するアミノプラスト類が好ましい。アミノプラスト類は、含フッ素ポリマー中に存在する水酸基と反応可能なアミノ基、すなわちヒドロキシアルキルアミノ基もしくはアルコキシアルキルアミノ基、又は窒素原子に隣接し、且つアルコキシ基で置換された炭素原子を含有する化合物である。具体的には、例えばメラミン系化合物、尿素系化合物、ベンゾグアナミン系化合物等を挙げることができる。
【0231】
上記メラミン系化合物は、一般にトリアジン環に窒素原子が結合した骨格を有する化合物として知られているもので、具体的にはメラミン、アルキル化メラミン、メチロールメラミン、アルコキシ化メチルメラミン等を挙げることができる。特に、メラミンとホルムアルデヒドを塩基性条件下で反応して得られるメチロール化メラミン及びアルコキシ化メチルメラミン、並びにその誘導体が好ましく、特に保存安定性からアルコキシ化メチルメラミンが特に好ましい。またメチロール化メラミン及びアルコシ化メチルメラミンについて特に制約はなく、例えば「プラスチック材料講座[8]ユリア・メラミン樹脂」(日刊工業新聞社)に記載されているような方法で得られる、各種樹脂の使用も可能である。
【0232】
また上記尿素化合物としては、尿素の他、ポリメチロール化尿素その誘導体であるアルコキシ化メチル尿素、さらには環状尿素構造であるグリコールウリル骨格や2−イミダゾリジノン骨格を有する化合物も好ましい。前記尿素誘導体等のアミノ化合物についても前記「ユリア・メラミン樹脂」等に記載の各種樹脂の使用が可能である。
【0233】
本発明において架橋剤として好適に用いられる化合物としては、含フッ素共重合体との相溶性の点から、特にメラミン化合物又はグリコールウリル化合物が好ましく、その中でも反応性の観点から、架橋剤が分子中に窒素原子を含有し、且つ該窒素原子に隣接するアルコキシ基で置換された炭素原子を2個以上含有する化合物であることが好ましい。特に好ましい化合物は下記H−1、H−2で表される構造を有する化合物、及びそれらの部分縮合体である。式中Rは炭素数1〜6のアルキル基又は水酸基を表す。
【0234】
【化56】

【0235】
含フッ素ポリマーに対するアミノプラストの添加量としては、共重合体100質量部当たり、1〜50質量部であり、好ましくは3〜40質量部であり、さらに好ましくは5〜30質量部である。1質量部以上であれば、本発明の特徴である薄膜としての耐久性を十分に発揮することができ、50質量部以下であれば、光学用途に利用する際に本発明における低屈折率層の特徴である低屈折率を維持できるので好ましい。硬化剤を添加しても屈折率を低く保つという観点からは、添加しても屈折率の上昇が少ない硬化剤が好ましく、その観点では上記化合物のうち、H−2で表される骨格を有する化合物がより好ましい。
【0236】
本発明においては、上記水酸基含有ポリマーと上記多官能の反応性化合物を塗布組成物形成前にあらかじめ部分的に結合させて用いることもできる。特に本発明のようにフッ素含率が高い場合には有効であり、塗膜の硬度の上昇や併用する微粒子の分散安定性が向上する。
【0237】
(硬化触媒)
水酸基含有含フッ素化合物と前記硬化剤の反応には、以下の硬化触媒を含有することが好ましい。この系では酸により硬化が促進される為、硬化性樹脂組成物に、酸性物質を添加することが望ましいが、通常の酸を添加すると塗布液中でも架橋反応が進行してしまい、故障(ムラ、ハジキなど)の原因となる。従って、熱硬化系で保存安定性と硬化活性を両立するために、加熱により酸を発生する化合物を硬化触媒として添加することがより好ましい。
【0238】
硬化触媒は、酸と有機塩基からなる塩であることが好ましい。酸としては、スルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸など有機酸や硫酸、リン酸のような無機酸が挙げられ、ポリマーに対する相溶性の観点から有機酸がより好ましく、スルホン酸、ホスホン酸が更に好ましく、スルホン酸が最も好ましい。好ましいスルホン酸としては、p−トルエンスルホン酸(PTS)、ベンゼンスルホン酸(BS)、p−ドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)、p−クロロベンゼンスルホン酸(CBS)、1,4−ナフタレンジスルホン酸(NDS)、メタンスルホン酸(MsOH)、ノナフルオロブタン−1−スルホン酸(NFBS)などが挙げられ、何れも好ましく用いることができる(( )内は略称)。
【0239】
硬化触媒は、酸と組み合わせる有機塩基の塩基性および沸点によって大きく変化する。以下にそれぞれの観点から本発明で好ましく用いられる硬化触媒について説明する。
【0240】
有機塩基の塩基性が低い方が加熱時の酸発生効率が高く、硬化活性の観点からは好ましいが、塩基性が低すぎると保存安定性が不十分になる。従って、適度な塩基性を有する有機塩基を用いることが好ましい。塩基性の指標として共役酸のpKaを用いて表すと、本発明で用いる有機塩基のpKaは5.0〜10.5である必要があり、6.0〜10.0であることがより好ましく、6.5〜10.0であることがさらに好ましい。有機塩基のpKaの値は水溶液中での値が化学便覧 基礎編(改訂5版、日本化学会編、丸善、2004年)第2巻のII−334〜340頁に記載があるので、その中から適当なpKaを有する有機塩基を選ぶことができる。また、該文献に記載がなくても構造上適当なpKaを有する化合物も好ましく用いることができる。
【0241】
<光ラジカル重合開始剤>
光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、ロフィンダイマー類、オニウム塩類、ボレート塩類、活性エステル類、活性ハロゲン類、無機錯体、クマリン類などが挙げられる。
【0242】
アセトフェノン類の例には、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、1−ヒドロキシ−ジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシ−ジメチル−p−イソプロピルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、が含まれる。
ベンゾイン類の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテルおよびベンゾインイソプロピルエーテルが含まれる。
ベンゾフェノン類の例には、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、2,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノンおよびp−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、3,3',4,4'−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどが含まれる。
ホスフィンオキシド類の例には、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドが含まれる。
活性エステル類の例には1,2−オクタンジオン、1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、スルホン酸エステル類、環状活性エステル化合物などが含まれる。
オニウム塩類の例には、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩が挙げられる。
ボレート塩の例にはカチオン性色素とのイオンコンプレックス類が挙げられる。
活性ハロゲン類の例にはS−トリアジンやオキサチアゾール化合物が知られており、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(p−スチリルフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(3−Br−4−ジ(エチル酢酸エステル)アミノ)フェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−トリハロメチル−5−(p−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールが含まれる。
無機錯体の例にはビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウムが挙げられる。
クマリン類の例には3−ケトクマリンが挙げられる。
【0243】
これらの開始剤は単独でも混合して用いても良い。
「最新UV硬化技術」、(株)技術情報協会、1991年、p.159にも種々の例が記載されており本発明に有用である。
市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,127,819、907、1870(CGI-403/Irg184=7/3混合開始剤、500,369,1173,2959,4265,4263など)、OXE01)等、日本化薬(株)製のKAYACURE(DETX-S,BP-100,BDMK,CTX,BMS,2-EAQ,ABQ,CPTX,EPD,ITX,QTX,BTC,MCAなど)、サートマー社製のEsacure(KIP100F,KB1,EB3,BP,X33,KT046,KT37,KIP150,TZT)等が好ましい例として挙げられる。
【0244】
光重合開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーケトンおよびチオキサントン、などを挙げることができる。
更にアジド化合物、チオ尿素化合物、メルカプト化合物などの助剤を1種以上組み合わせて用いてもよい。
市販の光増感剤としては、日本化薬(株)製のKAYACURE(DMBI,EPA)などが挙げられる。
【0245】
<熱ラジカル開始剤>
熱ラジカル開始剤としては、有機あるいは無機過酸化物、有機アゾ及びジアゾ化合物等を用いることができる。
具体的には、有機過酸化物として過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシド、無機過酸化物として、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等、アゾ化合物として2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等、ジアゾ化合物としてジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【0246】
[無機微粒子(D)]
次に本発明における低屈折率層に好ましく用いることのできる微粒子について説明する。
【0247】
低屈折率層に含まれる微粒子の塗設量は、1〜100mg/m2が好ましく、より好ましくは5〜80mg/m2、更に好ましくは1〜70mg/m2である。微粒子の塗設量が該下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、該上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が悪化するなどの不具合が生じないので好ましい。該微粒子は、低屈折率層に含有させることから、低屈折率であることが好ましい。
【0248】
具体的には、低屈折率層に含まれる微粒子は、無機微粒子、中空の無機微粒子であって、低屈折率のものがあることが好ましく、中空の無機微粒子が特に好ましい。無機微粒子としては、例えば、シリカ又は中空シリカの微粒子が挙げられる。このような微粒子の平均粒径は、低屈折率層の厚みの30%以上100%以下が好ましく、より好ましくは30%以上80%以下、更に好ましくは35%以上70%以下である。すなわち、低屈折率層の厚みが100nmであれば、微粒子の粒径は30nm以上100nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以上80nm以下、更に好ましくは、35nm以上70nm以下である。
【0249】
上記のような(中空)シリカ微粒子は、その粒径が上記下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、上記上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が悪化するなどの不具合が生じないので好ましい。
【0250】
(中空)シリカ微粒子は、結晶質でも、アモルファスのいずれでもよく、また単分散粒子でも、凝集粒子(この場合は、2次粒子径が、低屈折率層の層厚の30%〜100%であることが好ましい)でも構わない。また、2種類以上の複数の粒子(種類又は粒径)を用いても構わない。粒子の形状は、球形が最も好ましいが、不定形であっても問題ない。
【0251】
低屈折率層の屈折率を低下させるために、中空のシリカ微粒子を用いることが特に好ましい。該中空シリカ微粒子は屈折率が1.17〜1.40、より好ましくは1.17〜1.35、さらに好ましくは1.17〜1.30である。ここでの屈折率は粒子全体としての屈折率を表し、中空シリカ粒子を形成している外殻のシリカのみの屈折率を表すものではない。この時、粒子内の空腔の半径をri、粒子外殻の半径をroとすると、空隙率xは下記数式(1)で算出される。
【0252】
数式(1): x=(4πri3/3)/(4πro3/3)×100
【0253】
空隙率xは、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは20〜60%、最も好ましくは30〜60%である。中空のシリカ粒子をより低屈折率に、より空隙率を大きくしようとすると、外殻の厚みが薄くなり、粒子の強度としては弱くなるため、耐擦傷性の観点から1.17未満の低屈折率の粒子は困難である。なお、これら中空シリカ粒子の屈折率はアッベ屈折率計{(株)アタゴ製}にて測定をおこなった。
【0254】
本発明においては、防汚性向上の観点から、更に、低屈折率層表面の表面自由エネルギーを下げることが好ましい。具体的には、含フッ素化合物やポリシロキサン構造を有する化合物を低屈折率層に使用することが好ましい。
【0255】
ポリシロキサン構造を有する添加剤としては、反応性基含有ポリシロキサン{例えば“KF−100T”,“X−22−169AS”,“KF−102”,“X−22−3701IE”,“X−22−164B”,“X−22−5002”,“X−22−173B”,“X−22−174D”,“X−22−167B”,“X−22−161AS” (商品名)、以上、信越化学工業(株)製;“AK−5”,“AK−30”,“AK−32”(商品名)、以上東亜合成(株)製;、「サイラプレーンFM0725」,「サイラプレーンFM0721」(商品名)、以上チッソ(株)製等}を添加するのも好ましい。また、特開2003−112383号公報の表2、表3に記載のシリコーン系化合物も好ましく使用できる。これらのポリシロキサンは低屈折率層全固形分の0.1〜10質量%の範囲で添加されることが好ましく、特に好ましくは1〜5質量%の場合である。
【0256】
(光学フィルムの層構成)
本発明の光学フィルム(反射防止フィルム)は、透明な基材(以下、支持体と呼ぶことがある。)上に、屈折率、膜厚、層の数、層順等を考慮して少なくとも一層の反射防止層が積層されている。
【0257】
本発明の光学フィルムは、一般に、最も単純な構成では、基材上に低屈折率層のみを塗設した構成である。更に反射率を低下させるには、反射防止層を、基材よりも屈折率の高い高屈折率層と、基材よりも屈折率の低い低屈折率層を組み合わせて構成することが好ましい。構成例としては、基材側から高屈折率層/低屈折率層の2層のものや、屈折率の異なる3層を、中屈折率層(基材又はハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているもの等があり、更に多くの反射防止層を積層するものも提案されている。中でも、耐久性、光学特性、コストや生産性等から、ハードコート層を有する基材上に、中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の順に塗布することが好ましい。
【0258】
本発明の光学フィルムの好ましい層構成の例を下記に示す。下記構成において、(帯電防止層)と表記したものは、その他の機能を有する層が帯電防止層の機能も合わせ持つ構成である。帯電防止層に帯電防止以外の機能を持たせることで、形成する層の数を減らすことができるため、該構成は生産性が向上し好ましい。
【0259】
・支持体/帯電防止層/低屈折率層、
・支持体/低屈折率層(帯電防止層)、
・支持体/防眩層(帯電防止層)/低屈折率層、
・支持体/防眩層/帯電防止層/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層/防眩層(帯電防止層)/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層/防眩層/帯電防止層/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層/帯電防止層/防眩層/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層(帯電防止層)/防眩層/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層/高屈折率層/帯電防止層/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層/高屈折率層(帯電防止層)/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層/帯電防止層/高屈折率層/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層(帯電防止層)/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層/中屈折率層(帯電防止層)/高屈折率層/低屈折率層、
・支持体/ハードコート層(帯電防止層)/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層、
・支持体/防眩層/高屈折率層(帯電防止層)/低屈折率層、
・支持体/防眩層/中屈折率層(帯電防止層)/高屈折率層/低屈折率層、
・支持体/帯電防止層/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層、
・帯電防止層/支持体/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層、
・支持体/帯電防止層/防眩層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層、
・帯電防止層/支持体/防眩層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層、
・帯電防止層/支持体/防眩層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層。
【0260】
光学干渉により反射率を低減できるものであれば、特にこれらの層構成のみに限定されるものではない。
【0261】
1−(12)支持体
本発明のフィルムの支持体としては、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明樹脂シートや透明ガラスなど、特に限定は無い。透明樹脂フィルムとしては、セルロースアシレートフィルム(例えば、セルローストリアセテートフィルム(屈折率1.48)、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム)、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルニトリルフィルム等が使用できる。
【0262】
<セルロースアシレートフィルム>
その中でも、透明性が高く、光学的に複屈折が少なく、製造が容易であり、偏光板の保護フィルムとして一般に用いられているセルロースアシレートフィルムが好ましく、セルローストリアセテートフィルムが特に好ましい。又、透明支持体の厚さは通常25μm〜1000μm程度とする。
【0263】
本発明ではセルロースアシレートフィルムに、酢化度が59.0〜61.5%であるセルロースアセテートを使用することが好ましい。
酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
セルロースアシレートの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。
また、本発明に使用するセルロースアシレートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の値が1.0に近いこと、換言すれば分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜1.7であることが好ましく、1.3〜1.65であることがさらに好ましく、1.4〜1.6であることが最も好ましい。
【0264】
一般に、セルロースアシレートの2,3,6位の水酸基は全体の置換度の1/3づつに均等に分配されるわけではなく、6位水酸基の置換度が小さくなる傾向がある。本発明ではセルロースアシレートの6位水酸基の置換度が、2,3位に比べて多いほうが好ましい。
全体の置換度に対して6位の水酸基が32%以上アシル基で置換されていることが好ましく、更には33%以上、特に34%以上であることが好ましい。さらにセルロースアシレートの6位アシル基の置換度が0.88以上であることが好ましい。6位水酸基は、アセチル基以外に炭素数3以上のアシル基であるプロピオニル基、ブチロイル基、バレロイル基、ベンゾイル基、アクリロイル基などで置換されていてもよい。各位置の置換度の測定は、NMRによって求めることができる。
本発明ではセルロースアシレートとして、特開平11−5851号公報の段落「0043」〜「0044」[実施例][合成例1]、段落「0048」〜「0049」[合成例2]、段落「0051」〜「0052」[合成例3]に記載の方法で得られたセルロースアセテートを用いることができる。
【0265】
<ポリエチレンテレフタレートフィルム>
本発明では、ポリエチレンテレフタレートフィルムも、透明性、機械的強度、平面性、耐薬品性および耐湿性共に優れており、その上安価であり好ましく用いられる。
透明プラスチックフィルムとその上に設けられるハードコート層との密着強度をより向上させるため、透明プラスチックフィルムは易接着処理が施されたされたものであることが更に好ましい。
市販されている光学用易接着層付きPETフィルムとしては東洋紡績社製コスモシャインA4100、A4300等が挙げられる。
【0266】
2.フィルムを構成する層
本発明のフィルムは、上記の各種化合物を混合、塗設することによって得られるものであるが、次に、本発明のフィルムを構成する層について記載する。
【0267】
2−(1)防眩層
防眩層は、表面散乱による防眩性と、好ましくはフィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性をフィルムに寄与する目的で形成される。
【0268】
防眩性を形成する方法としては、特開平6−16851号記載のような表面に微細な凹凸を有するマット状の賦型フィルムをラミネートして形成する方法、特開2000−206317号記載のように電離放射線照射量の差による電離放射線硬化型樹脂の硬化収縮により形成する方法、特開2000−338310号記載のように乾燥にて透光性樹脂に対する良溶媒の重量比が減少することにより透光性微粒子および透光性樹脂とをゲル化させつつ固化させて塗膜表面に凹凸を形成する方法、特開2000−275404号記載のように外部からの圧力により表面凹凸を付与する方法などが知られており、これら公知の方法を利用することができる。
本発明で用いることができる防眩層は好ましくはハードコート性を付与することのできるバインダー、防眩性を付与するための透光性粒子、および溶媒を必須成分として含有し、透光性粒子自体の突起あるいは複数の粒子の集合体で形成される突起によって表面の凹凸を形成されるものであることが好ましい。
マット粒子の分散によって形成される防眩層は、バインダーとバインダー中に分散された透光性粒子とからなる。防眩性を有する防眩層は、防眩性とハードコート性を兼ね備えていることが好ましい。
【0269】
上記マット粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO粒子等の無機化合物の粒子;アクリル粒子、架橋アクリル粒子、ポリスチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋スチレン粒子、架橋アクリル粒子、シリカ粒子が好ましい。
マット粒子の形状は、球形あるいは不定形のいずれも使用できる。
【0270】
マット粒子の粒度分布はコールターカウンター法により測定し、測定された分布を粒子数分布に換算する。
【0271】
これらの粒子の中から選ばれた各透光性粒子の屈折率にあわせて透光性樹脂の屈折率を調整することにより、本発明の内部ヘイズ、表面ヘイズを達成することができる。具体的には、後述する本発明の防眩層に好ましく用いられる3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーを主成分としてなる透光性樹脂(硬化後の屈折率が1.55〜1.70)と、スチレン含率50〜100質量%である架橋ポリ(メタ)アクリレート重合体からなる透光性粒子および/またはベンゾグアナミン粒子との組合せが好ましく、特に前記透光性樹脂とスチレン含率50〜100質量%である架橋ポリ(スチレン−アクリレート)共重合体からなる透光性粒子(屈折率が1.54〜1.59)との組合せが特に好ましい。
【0272】
透光性粒子は、形成された防眩層中に、防眩層全固形分中に3〜30質量%含有されるように配合されることが防眩性、画像ボケ、表面の白濁、ギラツキ等の観点から好ましい。より好ましくは5〜20質量%である。3質量%未満であると、防眩性が不足し、30質量%を超えると、画像ボケや表面の白濁やギラツキ等の問題が生じる。
また、透光性粒子の密度は、好ましくは10〜1000mg/m2、より好ましくは100〜700mg/m2である。
【0273】
また、透光性樹脂の屈折率と透光性粒子の屈折率の差の絶対値が0.04以下が好ましい。透光性樹脂の屈折率と透光性粒子の屈折率の差の絶対値は好ましくは0.001〜0.030であり、より好ましくは0.001〜0.020、更に好ましくは0.001〜0.015である。この差が0.040を超えると、フィルム文字ボケ、暗室コントラストの低下、表面の白濁等の問題が生じる。
ここで、前記透光性樹脂の屈折率は、アッベ屈折計で直接測定するか、分光反射スペクトルや分光エリプソメトリーを測定するなどして定量評価できる。前記透光性粒子の屈折率は、屈折率の異なる2種類の溶媒の混合比を変化させて屈折率を変化させた溶媒中に透光性粒子を等量分散して濁度を測定し、濁度が極小になった時の溶媒の屈折率をアッベ屈折計で測定することで測定される。
【0274】
また、粒子径の異なる2種以上のマット粒子を併用して用いてもよい。より大きな粒子径のマット粒子で防眩性を付与し、より小さな粒子径のマット粒子で別の光学特性を付与することが可能である。例えば、133ppi以上の高精細ディスプレイに防眩性反射防止フィルムを貼り付けた場合に、「ギラツキ」と呼ばれる表示画像品位上の不具合が発生する場合がある。「ギラツキ」は、防眩性反射防止防止フィルム表面に存在する凹凸により、画素が拡大もしくは縮小され、輝度の均一性を失うことに由来するが、防眩性を付与するマット粒子よりも小さな粒子径で、バインダーの屈折率と異なるマット粒子を併用することにより大きく改善することができる。
【0275】
防眩層の膜厚は、1〜10μmが好ましく、1.2〜8μmがより好ましい。薄すぎるとハード性が不足し、厚すぎるとカールや脆性が悪化して加工適性が低下する場合があるので、前記範囲内とするのが好ましい。
【0276】
一方、防眩層の中心線平均粗さ(Ra)を0.10〜0.40μmの範囲が好ましい。0.40μmを超えると、ギラツキや外光が反射した際の表面の白化等の問題が発生する。また、透過画像鮮明度の値は、5〜60%とするのが好ましい。
【0277】
防眩層の強度は、鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0278】
2−(2)ハードコート層
本発明のフィルムには、フィルムの物理的強度を付与するために、防眩層に加えてハードコート層を設けることができる。
好ましくは、その上に低屈折率層が設けられ、更に好ましくはハードコート層と低屈折率層の間に中屈折率層、高屈折率層が設けられ、反射防止フィルムを構成する。
ハードコート層は、二層以上の積層から構成されてもよい。
【0279】
本発明におけるハードコート層の屈折率は、反射防止性のフィルムを得るための光学設計から、屈折率が1.48〜2.00の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.52〜1.90であり、更に好ましくは1.55〜1.80である。本発明では、ハードコート層の上に低屈折率層が少なくとも1層あるので、屈折率がこの範囲より小さ過ぎると反射防止性が低下し、大き過ぎると反射光の色味が強くなる傾向がある。
【0280】
ハードコート層の膜厚は、フィルムに充分な耐久性、耐衝撃性を付与する観点から、ハードコート層の厚さは通常0.5μm〜50μm程度とし、好ましくは1μm〜20μm、さらに好ましくは2μm〜10μm、最も好ましくは3μm〜7μmである。
また、ハードコート層の強度は、鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
さらに、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0281】
ハードコート層は、電離放射線硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。例えば、電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーを含む塗布組成物を透明支持体上に塗布し、多官能モノマーや多官能オリゴマーを架橋反応、又は、重合反応させることにより形成することができる。
電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーの官能基としては、光、電子線、放射線重合性のものが好ましく、中でも光重合性官能基が好ましい。
光重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の不飽和の重合性官能基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0282】
ハードコート層には、内部散乱性付与の目的で、平均粒径が1.0〜10.0μm、好ましくは1.5〜7.0μmのマット粒子、例えば無機化合物の粒子または樹脂粒子を含有してもよい。
【0283】
ハードコート層のバインダーには、ハードコート層の屈折率を制御する目的で、高屈折率モノマーまたは無機粒子、或いは両者を加えることができる。無機粒子には屈折率を制御する効果に加えて、架橋反応による硬化収縮を抑える効果もある。本発明では、ハードコート層形成後において、前記多官能モノマーおよび/又は高屈折率モノマー等が重合して生成した重合体、その中に分散された無機粒子を含んでバインダーと称する。
【0284】
画像の鮮明性を維持する目的では、表面の凹凸形状を調整することに加えて、透過画像鮮明度を調整することが好ましい。クリアな反射防止フィルムの透過画像鮮明度は60%以上が好ましい。透過画像鮮明度は、一般にフィルムを透過して映す画像の呆け具合を示す指標であり、この値が大きい程、フィルムを通して見る画像が鮮明で良好であることを示す。透過画像鮮明度は好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上である。
【0285】
2−(3)高屈折率層、中屈折率層
本発明のフィルムには、高屈折率層、中屈折率層を設け、反射防止性を高めることができる。
以下の本明細書では、この高屈折率層と中屈折率層を高屈折率層と総称して呼ぶことがある。なお、本発明において、高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層の「高」、「中」、「低」とは層相互の相対的な屈折率の大小関係を表す。また、透明支持体との関係で言えば屈性率は、透明支持体>低屈折率層、高屈折率層>透明支持体の関係を満たすことが好ましい。
また、本明細書では高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層を総称して反射防止層と総称して呼ぶことがある。
【0286】
高屈折率層の上に低屈折率層を構築して、反射防止フィルムを作製するためには、高屈折率層の屈折率は1.55〜2.40であることが好ましく、より好ましくは1.60〜2.20、更に好ましくは、1.65〜2.10、最も好ましくは1.80〜2.00である。
【0287】
支持体から近い順に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層を塗設し、反射防止フィルムを作成する場合、高屈折率層の屈折率は、1.65乃至2.40であることが好ましく、1.70乃至2.20であることがさらに好ましい。中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.55乃至1.80であることが好ましい。
【0288】
高屈折率層および中屈折率層に用いるTiOを主成分とする無機粒子は、分散物の状態で高屈折率層および中屈折率層の形成に使用する。
無機粒子の分散において、分散剤の存在下で分散媒体中に分散する。
【0289】
本発明に用いる高屈折率層および中屈折率層は、分散媒体中に無機粒子を分散した分散液に、好ましくは、さらにマトリックス形成に必要なバインダー前駆体(例えば、後述する電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーなど)、光重合開始剤等を加えて高屈折率層および中屈折率層形成用の塗布組成物とし、透明支持体上に高屈折率層および中屈折率層形成用の塗布組成物を塗布して、電離放射線硬化性化合物(例えば、多官能モノマーや多官能オリゴマーなど)の架橋反応又は重合反応により硬化させて形成することが好ましい。
【0290】
さらに、高屈折率層および中屈折率層のバインダーを層の塗布と同時または塗布後に、分散剤と架橋反応又は重合反応させることが好ましい。
このようにして作製した高屈折率層および中屈折率層のバインダーは、例えば、上記の好ましい分散剤と電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーとが、架橋又は重合反応し、バインダーに分散剤のアニオン性基が取りこまれた形となる。さらに高屈折率層および中屈折率層のバインダーは、アニオン性基が無機粒子の分散状態を維持する機能を有し、架橋又は重合構造がバインダーに皮膜形成能を付与して、無機粒子を含有する高屈折率層および中屈折率層の物理強度、耐薬品性、耐候性を改良する。
【0291】
高屈折率層のバインダーは、該層の塗布組成物の固形分量に対して、5〜80質量%添加する。
【0292】
高屈折率層における無機粒子の含有量は、高屈折率層の質量に対し10〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜80質量%、特に好ましくは15〜75質量%である。無機粒子は高屈折率層内で二種類以上を併用してもよい。
高屈折率層の上に低屈折率層を有する場合、高屈折率層の屈折率は透明支持体の屈折率より高いことが好ましい。
高屈折率層に、芳香環を含む電離放射線硬化性化合物、フッ素以外のハロゲン化元素(例えば、Br,I,Cl等)を含む電離放射線硬化性化合物、S,N,P等の原子を含む電離放射線硬化性化合物などの架橋又は重合反応で得られるバインダーも好ましく用いることができる。
【0293】
高屈折率層の膜厚は用途により適切に設計することができる。高屈折率層を後述する光学干渉層として用いる場合、30〜200nmが好ましく、より好ましくは50〜170nm、特に好ましくは60〜150nmである。
【0294】
高屈折率層のヘイズは、防眩機能を付与する粒子を含有しない場合、低いほど好ましい。5%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
高屈折率層は、前記透明支持体上に直接、又は、他の層を介して構築することが好ましい。
【0295】
2−(4)低屈折率層
本発明のフィルムの反射率を低減するため、低屈折率層を用いることができる。低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.46であることが好ましく、1.25〜1.40であることがより好ましく、1.30〜1.37であることが特に好ましい。
低屈折率層の厚さは、30〜500nmであることが好ましく、70〜500nmであることがさらに好ましい。導電性付与のためには、低屈折率層を130〜500nmの厚みにすることが好ましい。低屈折率層のヘイズは、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も好ましい。具体的な低屈折率層の強度は、500g荷重の鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、光学フィルムの防汚性能を改良するために、表面の水に対する接触角が90度以上であることが好ましい。更に好ましくは95度以上であり、特に好ましくは100度以上である。
【0296】
2−(5)帯電防止層、導電性層
本発明においては、帯電防止層を設けることがフィルム表面での静電気防止の点で好ましい。帯電防止層を形成する方法は、例えば、導電性微粒子と反応性硬化樹脂を含む導電性塗工液を塗工する方法、或いは透明膜を形成する金属や金属酸化物等を蒸着やスパッタリングして導電性薄膜を形成する方法、ポリチオフェンやポリアニリンのような導電性の高分子を含有させる等の従来公知の方法を挙げることができる。導電性層は、支持体に直接又は支持体との接着を強固にするプライマー層を介して形成することができる。また、帯電防止層を反射防止膜の一部として使用することもできる。
【0297】
帯電防止層の厚さは、0.01〜10μmが好ましく、0.03〜7μmであることがより好ましく、0.05〜5μmであることがさらに好ましい。帯電防止層の表面抵抗は、10〜1012Ω/sqであることが好ましく、10〜10Ω/sqであることがさらに好ましく、10〜10Ω/sqであることが最も好ましい。帯電防止層の表面抵抗は、四探針法により測定することができる。
【0298】
帯電防止層は、実質的に透明であることが好ましい。具体的には、帯電防止層のヘイズが、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も好ましい。波長550nmの光の透過率が、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが最も好ましい。
本発明の帯電防止層は、強度が優れており、具体的な帯電防止層の強度は、1kg荷重の鉛筆硬度で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることがさらに好ましく、4H以上であることが最も好ましい。
【0299】
本発明の偏光板は、偏光膜と、該偏光膜の両側に設けられた保護フィルムとを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも一方が、本発明の光学フィルムである偏光板である。
【0300】
本発明の光学フィルム又は偏光板は、特に用途は限定されないが反射防止フィルムとして好適に利用できる。反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)、電界放出ディスプレイ(FED)、表面電界ディスプレイ(SED)のような様々な画像表示装置において、外光の反射や像の映り込みによるコントラスト低下を防止するために使用できる。
【0301】
本発明の画像表示装置(好ましくは液晶表示装置)は、本発明の光学フィルム又は偏光板を有する。本発明の光学フィルム又は偏光板はディスプレイの表面(表示画面の視認側)に配置されることが好ましい。
【実施例】
【0302】
本発明を詳細に説明するために、以下の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特別に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0303】
(光学フィルムの各種評価)
(スチールウール耐傷性評価)
ラビングテスターを用いて、以下の条件でこすりテストをおこなうことで、耐擦傷性の指標とすることが出来る。
評価環境条件:25℃、60%RH
こすり材:スチールウール(日本スチールウール(株)製、グレードNo.0000) 試料と接触するテスターのこすり先端部(1cm×1cm)に巻いて、バンド固定。
移動距離(片道):8cm、
こすり速度:8cm/秒、
荷重:200g/cm
先端部接触面積:1cm×1cm、こすり回数:10往復。
こすり終えた試料の裏側に油性黒インキを塗り、こすり部分の傷を反射光で目視観察し、擦った部分以外との反射光量との差によって評価する。
【0304】
(鏡面反射率)
鏡面反射率の測定は、分光光度計“V−550”[日本分光(株)製]にアダプター“ARV−474”を装着して、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における出射角−5゜の鏡面反射率を測定し、450〜650nmの平均反射率を算出し、反射防止性を評価することができる。
本発明の光学フィルムは、鏡面反射率2.0%以下とするのが、外光の反射を抑制でき、視認性が向上するため好ましい。鏡面反射率は1.4%以下が特に好ましい。
【0305】
(白濁感評価)
試料の裏側に油性黒インキを塗り、太陽光源下で目視観察する事により評価した。
【0306】
<反射防止フィルムの作製>
〔各層形成用塗布液の調製〕
[ゾル液(a)の調製]
温度計、窒素導入管、滴下ロートを備えた1000mLの反応容器に、3−アクリロキシオキシプロピルトリメトキシシラン187g(0.80モル)、メチルトリメトキシシラン27.2g(0.20モル)、メタノール320g(10モル)とフッ化カリウム(KF)0.06g(0.001モル)を仕込み、攪拌下室温で水15.1g(0.86モル)をゆっくり滴下した。滴下終了後室温で3時間攪拌した後、メタノール還溜下2時間加熱攪拌した。この後、低沸点成分を減圧留去し、更に濾過することによりゾル液(a)を120g得た。
【0307】
このようにして得た物質をGPCで測定した結果、質量平均分子量は1500であり、オリゴマー成分以上の成分のうち、分子量が1000〜20000の成分は30質量%であった。また1H−NMRの測定結果から、得られた物質の構造は、以下の一般式で表される構造であった。
【0308】
【化57】

【0309】
更に、29Si−NMR測定による縮合率αは0.56であった。この分析結果から、本シランカップリング剤ゾルは直鎖状構造部分が大部分であることが分かった。また、ガスクロマトグラフィー分析から、原料のアクリロキシプロピルトリメトキシシランは5質量%以下の残存率であった。
【0310】
[ゾル液(b)の調製]
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器内において、メチルエチルケトン119質量部、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン“KBM−5103”{シランカップリング剤、信越化学工業(株)製}101質量部、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート3質量部を加え混合したのち、イオン交換水30質量部を加え、60℃で4時間反応させたのち、室温まで冷却し、ゾル液(b)を得た。
【0311】
ゾル液(b)の質量平均分子量は1600であり、オリゴマー成分以上の成分のうち、分子量が1000〜20000の成分は100質量%であった。また、ガスクロマトグラフィー分析から、原料のアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランは全く残存していなかった。このゾル液(b)のSP値は22.4であった。
【0312】
[ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンの調整]
ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンの調整は特許文献5、非特許文献1、2の下記調整方法を参考にして行った。
環状分子としてα−シクロデキストリン、直鎖状分子としてポリエチレングリコール、ブロック基として2,4−ジニトロフェニル基、架橋剤として塩化シアヌルを用いた場合の化合物の調製方法を記載する。
後に行うブロック化処理のために、ポリエチレングリコールの両末端をアミノ基に変性してポリエチレングリコール誘導体を得る。α−シクロデキストリン及びポリエチレングリコール誘導体を混合してポリロタキサンを調製する。調製に際して、最大包接量を1とした場合、包接量が1に対して、0.001〜0.6となるように、例えば混合時間を1〜48時間とし、混合温度を0℃〜100℃とすることができる。
一般に、ポリエチレングリコールの平均分子量20,000に対して、α−シクロデキストリンは、最大230個包装することができる。したがって、この値が最大包接量である。上記条件は、ポリエチレングリコールの平均分子量20,000を用いて、α−シクロデキストリンが平均60〜65個(63個)、即ち最大包接量の0.26〜0.29(0.28)の値で包接するための条件である。α−シクロデキストリンの包接量は、NMR、光吸収、元素分析などにより確認することができる。
得られたポリロタキサンを、DMFに溶解した2,4−ジニトロフルオロベンゼンと反応させることにより、ブロック化ポリロタキサンを得る。
次いで、得られたブロック化ポリロタキサンを水酸化ナトリウム水溶液に溶解する。この液に塩化シアヌルを添加して反応させることにより、α−シクロデキストリン同士が架橋した、架橋ポリロタキサンを得る。
【0313】
[ポリロタキサン化合物(PR−1)の調製]
<ポリエチレングリコールの両末端の活性化>
100mlの三角フラスコにポリエチレングリコール(PEGと略記する。平均分子量20,000)4g及び乾燥塩化メチレン20mlを入れてPEGを溶解した。この溶液をアルゴン雰囲気下におき、1,1’−カルボニルジイミダゾール0.8gを加え、引き続きアルゴン雰囲気下、室温(20℃)で6時間、攪拌、反応させた。
上記で得られた反応物を、高速攪拌したジエチルエーテル300mlに注いだ。10分間静置後、沈殿物を有する液を10,000rpmで5分間、遠心分離した。沈殿物を取り出し、40℃で3時間真空乾燥した。
得られた生成物を塩化メチレン20mlに溶解した。この液をエチレンジアミン10mlに3時間かけて滴下し、滴下後40分間攪拌した。得られた反応物をロータリーエバポレーターにかけ塩化メチレンを除去し、その後、水50mlに溶解し、透析チューブ(分画分子量8,000)に入れ、水中で3日間透析した。得られた透析物をロータリーエバポレーターで乾燥し、さらにこの乾燥物を塩化メチレン20mlに溶解し、ジエチルエーテル180mlで再沈させた。沈殿物を有する液を100,000rpmで5分間、遠心分離し、40℃で2時間真空乾燥して、PEGの両末端にアミノ基を導入した生成物を2.83g得た。
【0314】
<ポリロタキサンの調製>
α−シクロデキストリン(α−CDと略記する)3.6g及び上記調整化合物(分子量約2万)0.9gをそれぞれ80℃の水15mlに溶解した後、それぞれを混合し、5℃で6時間冷蔵し、ポリロタキサンを調製した。その後、40℃で12時間真空乾燥した。
【0315】
<ブロック化ポリロタキサンの調製>
上記で得られたポリロタキサンを100mlの三角フラスコに入れた。別個に、N,N-ジメチルホルムアミド10mlと2,4−ジニトロフルオロベンゼン2.4mlとを混合した溶液を用意し、ポリロタキサンが入ったフラスコ中にこの混合溶液を滴下し、アルゴン封入下、常温で反応させた。5時間後、混合物にジメチルスルホキシド40mlを加えて透明溶液とした。水750mlを激しく攪拌させたものに、この溶液を滴下し、薄黄色の沈殿物を得た。この沈殿物をジメチルスルホキシド50mlに再び溶解し、この溶解物を、激しく攪拌した0.1%塩化ナトリウム水溶液700mlに滴下し、再び沈殿させた。この沈殿物を、水とメタノールとによる洗浄、洗浄後に10,000rpm、1分間の遠心分離を各3回行った。得られた物質を50℃で12時間真空乾燥して、ブロック化ポリロタキサン(PR−1)3.03gを得た。
[疎水化修飾ポリロタキサン(PR−2)の調製]
<末端封止したポリロタキサンの調製>
数平均分子量2万のポリエチレングリコールビスアミン4.5gとα−シクロデキストリン18.0gとを水150mLに加え、80℃に加熱して溶解させた。その溶液を冷却し5℃で16時間静置した。生成した白いペースト状の沈殿を分取、乾燥した。
【0316】
前記乾燥物に、2,4−ジニトロフルオロベンゼン12.0gとジメチルホルムアミド50gの混合溶液に加えて室温で5時間攪拌した。その反応混合物にジメチルスルホキシド(DMSO)200mLを加えて溶解した後、水3750mLに注いで析出物を分取した。析出物を250mLのDMSOに再溶解した後、再び3500mLの0.1%食塩水へ注いで析出物を分取した。その析出物を水とメタノールで各3回ずつ洗浄後、50℃で12時間真空乾燥することで、ポリエチレングリコールビスアミンがα−シクロデキストリンに串刺し状に包接され、かつ両末端アミノ基に2,4−ジニトロフェニル基が結合した包接化合物2.0gを得た。
【0317】
得られた包接化合物(末端封止されたブロック化ポリロタキサン)の紫外光吸収測定及びH−NMR測定を行い、α−シクロデキストリンの包接量を算出したところ、包接量は72個であった。
包接量は、紫外光吸収測定およびH−NMR測定から算出できるが、具体的には紫外光吸収測定では、合成した包接化合物および2,4-ジニトロアニリンそれぞれの360nmにおけるモル吸光係数を測定することで、シクロデキストリンの包接量を算出した。また、H−NMR測定では、ポリエチレン部の水素原子とシクロデキストリン部の水素原子の積分比から算出した。
【0318】
<末端封止されたブロック化ポリロタキサンのアセチル修飾>
上記で合成した包接化合物(末端封止されたブロック化ポリロタキサン)1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこに無水酢酸6.7g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて一晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、1.2gのアセチル修飾した、疎水化修飾ポリロタキサン(PR−2)を得た。
【0319】
得られたアセチル修飾したポリロタキサンのH−NMR測定を行い、アセチル導入量を算出したところ、導入量は75%であった。
【0320】
〔不飽和二重結合基を有するポリロタキサン化合物(PR−3)の合成〕
<末端封止したポリロタキサンの調製>
数平均分子量2万のポリエチレングリコールビスアミン4.5gとα−シクロデキストリン18.0gとを水150mLに加え、80℃に加熱して溶解させた。その溶液を冷却し5℃で16時間静置した。生成した白いペースト状の沈殿を分取、乾燥した。
【0321】
前記乾燥物に、2,4−ジニトロフルオロベンゼン12.0gとジメチルホルムアミド50gの混合溶液に加えて室温で5時間攪拌した。その反応混合物にジメチルスルホキシド(DMSO)200mLを加えて溶解した後、水3750mLに注いで析出物を分取した。析出物を250mLのDMSOに再溶解した後、再び3500mLの0.1%食塩水へ注いで析出物を分取した。その析出物を水とメタノールで各3回ずつ洗浄後、50℃で12時間真空乾燥することで、ポリエチレングリコールビスアミンがα−シクロデキストリンに串刺し状に包接され、かつ両末端アミノ基に2,4−ジニトロフェニル基が結合した包接化合物2.0gを得た。
【0322】
得られた包接化合物(末端封止されたブロック化ポリロタキサン)の紫外光吸収測定及びH−NMR測定を行い、α−シクロデキストリンの包接量を算出したところ、包接量は72個であった。
包接量は、紫外光吸収測定およびH−NMR測定から算出できるが、具体的には紫外光吸収測定では、合成した包接化合物および2,4-ジニトロアニリンそれぞれの360nmにおけるモル吸光係数を測定することで、シクロデキストリンの包接量を算出した。また、H−NMR測定では、ポリエチレン部の水素原子とシクロデキストリン部の水素原子の積分比から算出した。
【0323】
<末端封止されたブロック化ポリロタキサンのアセチル修飾>
上記で合成した包接化合物(末端封止されたブロック化ポリロタキサン)1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこに無水酢酸6.7g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて一晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、1.2gのアセチル修飾したポリロタキサンが得られた。
【0324】
得られたアセチル修飾したポリロタキサンのH−NMR測定を行い、アセチル導入量を算出したところ、導入量は75%であった。
【0325】
<重合性基の導入>
上記で合成したアセチル修飾したポリロタキサン1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこにアクリル酸クロライド5.9g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて二晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、0.8gのアクリロイル及びアセチルで修飾したポリロタキサン(PR−3)が得られた。
【0326】
得られたアクリロイル及びアセチルで修飾したポリロタキサン(PR−3)のH−NMR測定を行い、アクリロイル及びアセチル導入量を算出したところ、導入量は87%であった。
【0327】
(1)防眩層用塗布液の調製
【0328】
───────────────────────────────────
防眩層用塗布液1の組成
───────────────────────────────────
PET−30 40.0質量部
DPHA 10.0質量部
イルガキュア184 2.0質量部
SX−350(30%) 2.0質量部
架橋アクリルースチレン粒子(30%) 13.0質量部
SP−13 0.06質量部
ゾル液(a) 11.0質量部
トルエン 38.5質量部
───────────────────────────────────
【0329】
上記塗布液を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過してハードコート層用塗布液1〜6を調製した。
【0330】
それぞれ使用した化合物を以下に示す。
・DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物[日本化薬(株)製]
・PET−30:ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物[日本化薬(株)製]
・イルガキュア184:重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製]
・SX−350:平均粒径3.5μm架橋ポリスチレン粒子[屈折率1.60、綜研化学(株)製、30%トルエン分散液、ポリトロン分散機にて10000rpmで20分分散後使用]
・架橋アクリル−スチレン粒子:平均粒径3.5μm[屈折率1.55、綜研化学(株)製、30%トルエン分散液、ポリトロン分散機にて10000rpmで20分分散後使用]
【0331】
・SP−13フッ素系表面改質剤
【0332】
【化58】

【0333】
(防眩層101の塗設)
トリアセチルセルロースフィルム(TAC−TD80U、富士フイルム(株)製)をロール形態で巻き出して、スロットルダイを有するコーターを用いて、防眩層用塗布液1を直接押し出して塗布した。搬送速度30m/分の条件で塗布し、30℃で15秒間、90℃で20秒間乾燥の後、さらに窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照射量60mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、平均膜厚6.0μmの防眩性を有する防眩層を形成し、巻き取りHC−1を作製した。
【0334】
(低屈折率層用塗布液(Ln−1〜Ln−11)の調製)
各成分を下記表のように混合し、MEKに溶解して固形分5%の低屈折率層用塗布液を作製した。
【0335】
【表2】

【0336】
なお、上記表中における略号は以下の通りである。
「P−2、24、28、29」:本文表に記載の含フッ素共重合体
PET−30:ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物[日本化薬(株)製]
Irg.127:イルガキュア127、重合開始剤(日本チバガイギー(株)製)
M−1:本文に記載の含フッ素多官能アクリレート
RMS−033:メタクリロキシ変性シリコーン(Gelest(株)製)
MEK−ST−L:日産化学工業(株)製コロイダルシリカ平均粒子サイズ約50nm
サイメル303:日本サイテックインダストリーズ(株)製メチロール化メラミン
キャタリスト4050:日本サイテックインダストリーズ(株)製硬化触媒。
【0337】
(光学フィルム試料1〜11の作製)
ハードコート101の上に、上記低屈折率層用塗布液Ln−1〜Ln11を用い、低屈折率層膜厚が95nmになるように調節して、マイクログラビア塗工方式で光学フィルム試料1〜11をそれぞれ作製した。
【0338】
硬化条件を以下に示す。
<試料1〜8>
乾燥:80℃−60秒
UV硬化:60℃−1分、酸素濃度が0.01体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度120mW/cm2、照射量500mJ/cm2の照射量とした。
【0339】
<試料9〜11>
(1)乾燥:80℃−120秒
(2)熱硬化:110℃―10分
(3)UV硬化:60℃−1分、酸素濃度が0.01体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度120mW/cm2、照射量200mJ/cm2の照射量とした。
【0340】
(光学フィルムの鹸化処理)
得られた光学フィルムを以下の鹸化標準条件で処理・乾燥した。
アルカリ浴:1.5mol/dm水酸化ナトリウム水溶液、55℃で120秒。
第1水洗浴:水道水、60秒。
中和浴:0.05mol/dm硫酸、30℃−20秒。
第2水洗浴:水道水、60秒。
乾燥:120℃、60秒。
【0341】
(光学フィルムの評価)
上記の鹸化済みの光学フィルムを用いて以下の評価を行った。
(評価1)スチールウール耐傷性評価
本文記載の方法により試験し、こすり終えた試料の裏側に油性黒インキを塗り、反射光で目視観察して、こすり部分の傷を、以下の基準で評価した。荷重200g/cm、回数は10往復とした。
◎ :非常に注意深く見ても、全く傷が見えない。
○ :非常に注意深く見ると僅かに弱い傷が見える。
○△ :弱い傷が見える。
△ :中程度の傷が見える。
× :一目見ただけで分かる傷がある。
【0342】
(評価2)鏡面反射率の測定
本文記載の方法により450〜650nmの平均反射率を用いた。偏光板に加工されている試料は、偏光板形態のものをそのまま用い、フィルムそのものや偏光板を使用しない形態の表示装置の場合には、反射防止フィルムの裏面を粗面化処理した後、黒色のインクで光吸収処理(380〜780nmにおける透過率が10%未満)を行い、黒色の台上にて測定した。
【0343】
(評価3)白濁感の評価
本文記載の方法で以下の基準により評価を行った。
◎ :非常に注意深く見ても白濁が見えない
○ :非常に注意深く見るとうっすらと白濁しているのがわかる
○△:注意深く見ると白濁している
△ :膜全体が弱く白濁している。
× :一目見ただけで膜全体が強く白濁しているのがわかる
【0344】
評価結果を表3に示す。
【0345】
【表3】

【0346】
上記表から、本発明において、含フッ素共重合体を有する低屈折率層の耐擦傷性を良化させるためにポリロタキサン化合物を使用すると、塗膜の白濁がなく、低反射率で耐擦傷性に優れた反射防止膜が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体上に少なくとも1層の低屈折率層を有し、該低屈折率層が(A)疎水的なポリロタキサン化合物、(B)含フッ素共重合体および有機溶剤を含有する低屈折率層形成用組成物から形成されたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
前記(A)成分の疎水的なポリロタキサン化合物が、環状分子が疎水化修飾された化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記(A)成分の疎水的なポリロタキサン化合物が、環状分子としてシクロデキストリン分子を有することを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記(A)成分の疎水的なポリロタキサン化合物が、不飽和二重結合基を有するポリロタキサン化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記低屈折率層が、さらに(C)1分子中に不飽和二重結合基を複数個有する化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記(C)の少なくとも1つがオルガノシロキサン構造を有する請求項5に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記(C)の少なくとも1つが、重合性基を二つ以上有し、かつフッ素含有率が20.0質量%以上である含フッ素多官能モノマーであることを特徴とする請求項5または6に記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記低屈折率層が、さらに(D)無機微粒子を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項9】
偏光膜と、該偏光膜の両側に保護フィルムとを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも一方が、請求項1〜8のいずれかに記載の光学フィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の光学フィルム又は請求項9に記載の偏光板がディスプレイの最表面に用いられていることを特徴とする画像表示装置。

【公開番号】特開2009−204726(P2009−204726A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44790(P2008−44790)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】