説明

光学フィルムとそれを備える偏光板および画像表示装置

【課題】波長が短いほど複屈折が小さい波長分散性を示す、新規な光学フィルムの提供。
【解決手段】式(1)に示す構造(A)を主鎖に有する重合体(B)を含む光学フィルムとする。R1は炭素数1〜20のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、Xは、エーテル結合を環構造の一部として有する4員環以上の飽和複素環構造。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す光学フィルムと、この光学フィルムを備える偏光板および画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した光学部材が、画像表示分野において幅広く使用されている。このような光学部材の一つに、色調の補償、視野角の補償などを目的として画像表示装置に組み込まれる位相差板(位相差フィルム)がある。例えば、反射型の液晶表示装置(LCD)では、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(リターデーション)が波長の1/4である位相差板(λ/4板)が使用される。有機ELディスプレイ(OLED)では、外光の反射防止を目的として、偏光板とλ/4板とを組み合わせた反射防止板が用いられることがある(特許文献1参照)。これら複屈折性を示す光学部材は、今後のさらなる用途拡大が期待される。
【0003】
従来、光学部材には、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、アクリルなどが主に用いられてきたが、これら一般的な高分子は、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(即ち、位相差が増大する)波長分散性を示す。表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(即ち、位相差が減少する)波長分散性を示す光学部材が望まれる。本明細書では、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、一般的な高分子ならびに当該高分子により形成された光学部材が示す波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。
【0004】
一方、特許文献2に、正の固有複屈折を有する重合体と、負の固有複屈折を有する重合体とを含む樹脂組成物からなる位相差板が開示されている。また、特許文献3に、正の固有複屈折を有する分子鎖と、負の固有複屈折を有する分子鎖とを有する共重合体からなる位相差板が開示されており、これらの位相差板は、逆波長分散性を示す。なお、特許文献2には、正の固有複屈折を有する重合体としてポリノルボルネンが、負の固有複屈折を有する重合体としてスチレン系重合体が例示されている。特許文献3には、正の固有複屈折を有する分子鎖としてノルボルネン鎖が、負の固有複屈折を有する分子鎖としてスチレン鎖などのスチレン系の分子鎖が例示されている。
【特許文献1】特開2007−273275号公報
【特許文献2】特開2001−337222号公報
【特許文献3】特開2001−235622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、逆波長分散性を示す新規な光学フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学フィルムは、以下の式(1)に示される構造(A)を主鎖に有する重合体(B)を含み、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す。
【0007】
【化5】

【0008】
式(1)において、R1は炭素数1〜20のアルキル基であり、R2は水素原子または炭素数1〜20アルキル基であり、Xは、エーテル結合(−O−)を環構造の一部として有する4員環以上の飽和複素環構造である。
【0009】
本発明の位相差板は、上記本発明の光学フィルムを備える。
【0010】
本発明の画像表示装置は、上記本発明の光学フィルムを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学フィルムは、構造(A)を主鎖に有する重合体(B)を含むことにより、逆波長分散性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[重合体(B)]
重合体(B)は、以下の式(1)に示される構造(A)を主鎖に有する。
【0013】
【化6】

【0014】
式(1)において、R1は炭素数1〜20のアルキル基であり、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、Xは、エーテル結合を環構造の一部として有する4員環以上の飽和複素環構造である。なお、本明細書におけるアルキル基は、全て、直鎖であっても分岐を有していてもよい。
【0015】
重合体の主鎖に存在する構造(A)は、当該重合体に逆波長分散性を与える作用を有する。本発明の光学フィルムは、構造(A)が有するこの作用により、逆波長分散性を示す。
【0016】
逆波長分散性を示す従来の光学フィルムでは、「正の固有複屈折を示す重合体(分子鎖)」と「負の固有複屈折を示す重合体(分子鎖)」との組み合わせが必要であった。例えば、特許文献2(特開2001−337222号公報)では、正の固有複屈折を有する重合体と負の固有複屈折を有する重合体との組み合わせによって逆波長分散性が実現され、特許文献3(特開2001−235622号公報)では、正の固有複屈折を有する分子鎖と負の固有複屈折を有する分子鎖との組み合わせによって逆波長分散性が実現される。これに対して本発明の光学フィルムでは、このような組み合わせによらずとも、逆波長分散性が得られる。
【0017】
また、逆波長分散性を示す従来の光学フィルムでは、組み合わせる重合体および分子鎖における固有複屈折の符号以外にも、光学フィルムとして必要不可欠な特性である「光学的な透明さ」を確保するために互いの相溶性が重要となり、事実上、光学フィルムがとりうる組成範囲が限定される。これに対して本発明の光学フィルムでは、構造(A)自体が、当該構造を主鎖に有する重合体(B)に逆波長分散性を与えるため、基本的に、重合体間の相溶性あるいは分子鎖間の相溶性を考慮する必要がなく、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度が高い。
【0018】
1は、重合体(B)に逆波長分散性を与える作用がより確実となることから、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、典型的には、メチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基である。
【0019】
2は、環構造Xがより安定することから、水素原子が好ましい。
【0020】
環構造Xは、エーテル結合を環構造の一部として有する4員環以上の飽和複素環構造である限り、その具体的な構造は特に限定されない。
【0021】
環構造Xは、環構造としての安定性の観点から4員環以上であるが、重合体(B)に逆波長分散性を与える作用がより確実となること、また、環構造としての安定性がより高くなることから、5員環または6員環が好ましい。
【0022】
環構造Xにおけるエーテル結合を構成する酸素原子は、炭素原子C1を2位として、4位の位置にあることが好ましい。この場合、環構造Xがより安定する。
【0023】
環構造Xにおいて、炭素原子C1およびC2ならびにエーテル結合を構成する酸素原子を除き、メチレン基(−CH2−)の炭素原子によって環が構成されていることが好ましい。換言すれば、環構造Xにおいて、炭素原子C1およびC2を除き、当該環を構成する炭素原子に結合した水素原子は、置換されていないことが好ましい。この場合、重合体(B)に逆波長分散性を与える構造(A)の作用がより確実となる。
【0024】
重合体(B)の構成は、構造(A)を主鎖に有する限り特に限定されず、例えば重合体(B)は、構造(A)を分子構造に含む構成単位を有していてもよい。
【0025】
重合体(B)は、構造(A)を含む構成単位として、以下の式(2)に示される構成単位(C)を有していてもよい。
【0026】
【化7】

【0027】
式(2)においてY1およびY2は、互いに独立して、単結合またはメチレン基である。R1、R2および環構造Xは、構造(A)のR1、R2および環構造Xと同じである。なお、両末端に炭素−炭素二重結合を有するとともに、2位の炭素原子にカルボン酸エステル基が結合したジエン系モノマーの環化重合によって重合体(B)を製造した場合、Y1は、典型的にはメチレン基である。Y1がメチレン基である構成単位(C)を、以下の式(5)に示す。
【0028】
【化8】

【0029】
構成単位(C)は、以下の式(3)により示される構成単位(C1)であってもよい。構成単位(C1)におけるR3、R4として好ましい基(原子)は、構造(A)におけるR1、R2として好ましい基(原子)と同じである。式(3)に示すように、構成単位(C1)における環構造はオキサン(oxane)構造である。オキサン構造では、上記4位の位置にエーテル結合を構成する酸素原子があり、式(1)、(2)の炭素原子C1およびC2に相当する炭素原子ならびにエーテル結合を構成する酸素原子を除き、メチレン基の炭素原子によって環が構成されている。
【0030】
【化9】

【0031】
構成単位(C)は、以下の式(4)により示される構成単位(C2)であってもよい。構成単位(C2)におけるR5、R6として好ましい基(原子)は、構造(A)におけるR1、R2として好ましい基(原子)と同じである。式(4)に示すように、構成単位(C2)における環構造はオキソラン(oxolane)構造である。オキソラン構造では、上記4位の位置にエーテル結合を構成する酸素原子があり、式(1)、(2)の炭素原子C1およびC2に相当する炭素原子ならびにエーテル結合を構成する酸素原子を除き、メチレン基の炭素原子によって環が構成されている。
【0032】
【化10】

【0033】
重合体(B)が構成単位(C)を有する場合、重合体(B)の全構成単位に占める構成単位(C)の割合(重合体(B)における構成単位(C)の含有率)は特に限定されないが、逆波長分散性を示す光学フィルムをより確実に得るために、およそ70重量%以上であることが好ましく、80重量%以上がより好ましい。
【0034】
重合体(B)は、分子構造が異なる2以上の構造(A)を主鎖に有してもよいし、構成単位(C)を有する場合、分子構造が異なる2以上の構成単位(C)を有していてもよい。
【0035】
重合体(B)は、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる限り、構成単位(C)以外の構成単位(D)を有してもよい。
【0036】
構成単位(D)は、例えばビニル化合物単位であり、より具体的な例は、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位、不飽和カルボン酸化合物単位、不飽和カルボン酸アミド化合物単位、シアン化ビニル化合物単位である。構成単位(D)は、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位が好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、α−ヒドロキシアクリル酸メチル、α−ヒドロキシアクリル酸エチルの各(メタ)アクリル酸エステルの重合により形成される構成単位である。特に、メタクリル酸メチル単位、メタクリル酸シクロヘキシル単位、メタクリル酸イソボルニル単位、メタアクリル酸ベンジル単位が好ましい。
【0038】
芳香族ビニル化合物単位は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,5−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、ジビニルベンゼンの各芳香族ビニル化合物の重合により形成される構成単位である。特に、スチレン単位が好ましい。
【0039】
不飽和カルボン酸化合物単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩の重合により形成される構成単位である。
【0040】
不飽和カルボン酸アミド化合物単位は、例えば、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N,N−ジ(n−プロピル)アクリルアミド、N−(n−ブチル)アクリルアミド、N−(n−ヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N−(n−オクチル)(メタ)アクリルアミド、N−(t−オクチル)アクリルアミド、N−(n−ドデシル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジグリシジル(メタ)アクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(5−グリシドキシペンチル)アクリルアミド、N−(6−グリシドキシヘキシル)アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドの各化合物の重合により形成される構成単位である。
【0041】
シアン化ビニル化合物単位は、例えば、(メタ)アクリロニトリル単位である。
【0042】
構成単位(D)は、その他のビニル化合物単位であってもよく、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド;アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニルなどのジビニルエステル類;マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド類;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩;の重合により形成される構成単位である。
【0043】
重合体(B)における各構成単位の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。
【0044】
重合体(B)は、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる限り、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造など、環構造X以外の環構造を主鎖に有していてもよい。この場合、当該環構造の種類によっては、重合体(B)のガラス転移温度(Tg)が向上し、重合体(B)を含む光学フィルムの耐熱性が向上する。
【0045】
この環構造は、光学特性に優れる光学フィルムが得られることから、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。
【0046】
構成単位(C)を有する重合体(B)は、例えば、以下の式(6)に示す、両末端に炭素−炭素二重結合(C3=C4およびC5=C6)を有するとともに、2位の炭素原子C4にカルボン酸エステル基が結合したジエン系モノマーの環化重合により製造できる。ただし、重合体(B)の製造方法は、この方法に限定されない。
【0047】
【化11】

【0048】
式(6)におけるR7は、式(2)におけるR1に対応する基である。R8は、式(2)におけるR2に対応する基である。Zは、エーテル結合、またはエーテル結合と少なくとも1つのメチレン基とを有する直鎖構造である。Zがメチレン基を有する場合、当該メチレン基に結合した水素原子は、炭素数1〜20のアルキル基により置換されていてもよいが、置換されていないことが好ましい。
【0049】
式(6)に示すジエン系モノマーを環化重合して、C34間およびC56間の二重結合を開くとともにC4とC6とを結合させることにより、Y1がメチレン基であり、Y2が単結合である構成単位(C)を有する重合体(B)が得られる。また、式(6)に示すジエン系モノマーを環化重合して、C34間およびC56間の二重結合を開くとともにC4とC5とを結合させることにより、Y1およびY2がメチレン基である構成単位(C)を有する重合体(B)が得られる。
【0050】
なお、C4とC5との結合およびC4とC6との結合は同時に起こりうるため、式(6)に示すジエン系モノマーの環化重合により、通常、Y2が単結合である構成単位(C)およびY2がメチレン基である構成単位(C)の双方を有する重合体(B)が得られる。また、Y2が単結合である構成単位(C)と、Y2がメチレン基である構成単位(C)とは互いに転位可能であるため、重合条件によって、重合体(B)における双方の構成単位(C)の含有率が変化することがある。なお、重合系に加えたジエン系モノマーの全量が環化重合されるとは限らないため、ジエン系モノマーに由来する構成単位であって環構造を有さない構成単位を、重合体(B)が有することがある。
【0051】
Zは、典型的には、1つのエーテル結合と、1つまたは2つのメチレン基とを有する直鎖構造である。この場合、エーテル結合は、カルボン酸エステル基が結合した炭素原子C4を2位として、4位の位置にあることが好ましい。
【0052】
式(6)に示すジエン系モノマーの具体例を、以下の式(7)に示す。式(7)におけるR9は、式(2)におけるR1に対応する基であり、R10は、式(2)におけるR2に対応する基である。
【0053】
【化12】

【0054】
式(7)に示すジエン系モノマーの環化重合により、式(3)に示す構成単位(C1)および/または式(4)に示す構成単位(C2)を有する重合体(B)が得られる。
【0055】
構成単位(D)を有する重合体(B)は、例えば、式(6)に示すジエン系モノマーと、重合によって構成単位(D)となるモノマーとを含むモノマー群を、ジエン系モノマーの環化が進行する条件で共重合することで製造できる。
【0056】
上述したラクトン環構造などを主鎖に有する重合体(B)は、例えば、式(6)に示すジエン系モノマーと、重合あるいは環化反応によって当該環構造が形成されるモノマーとを含むモノマー群を、ジエン系モノマーの環化が進行する条件で共重合することで製造できる。
【0057】
重合方法は、例えばラジカル重合である。ラジカル重合時には、必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤などを加えてもよい。
【0058】
重合開始剤は、例えば、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘプタンニトリル)、1,1’−アゾビス(1−フェニルエタン)、フェニルアゾトリフェニルメタン、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸メチル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−バレロニトリル)などのアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化t−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ラウロイル、過酢酸t−ブチル、過安息香酸t−ブチル、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシピバレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーイソノナノエート、t−アミルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシベンゾエートなどの過酸化物系開始剤である。
【0059】
式(6)に示すジエン系モノマーの環化重合は、当該モノマーを溶解する任意の重合溶媒により行うことができる。重合溶媒は、トルエン、キシレンなどの無極性溶媒からなってもよいし、ケトン系溶媒、アミド系溶媒などの極性溶媒を含んでいてもよい。なお、極性溶媒とは、極性基を有する溶媒であり、極性基は、例えばカルボニル基、水酸基、エステル基、エーテル基、アミド基、シアノ基である。
【0060】
ケトン系溶媒は、例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、イソプロピルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトンである。アミド系溶媒は、例えば、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドである。
【0061】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、逆波長分散性を示す限り、重合体(B)以外の任意の材料、例えば重合体(B)以外の重合体、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどを含んでもよい。
【0062】
重合体(B)以外の重合体は、例えば、メタクリル酸メチル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどのモノマーを1種類以上用いた重合体または共重合体である。当該重合体および共重合体は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造などの環構造を主鎖に有していてもよい。この場合、光学フィルムとしての耐熱性が向上する。
【0063】
この環構造は、光学特性に優れる光学フィルムが得られることから、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。
【0064】
本発明の光学フィルムにおける重合体(B)の含有率は、通常、50重量%以上であり、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。重合体(B)の含有率は、公知の手法、例えば1H−NMRあるいはIRにより求めることができる。
【0065】
本発明の光学フィルムは、通常、一軸延伸性または二軸延伸性のフィルムであり、逆波長分散性をはじめとする、延伸による重合体の配向に基づく光学特性を示す。
【0066】
本発明の光学フィルムの製造方法は特に限定されず、重合体(B)あるいは重合体(B)を含む組成物をフィルムとし、得られたフィルムを所定の方向に延伸(典型的には一軸延伸または逐次二軸延伸)すればよい。重合体(B)あるいは重合体(B)を含む組成物をフィルムとする際には、キャスト法、溶融成形法(例えば溶融押出成形、プレス成形)などの公知の手法を用いることができる。
【0067】
本発明の光学フィルムは多層構造を有していてもよく、この場合、多層構造を構成する層のうち、少なくとも1つの層が重合体(B)を含めばよい。
【0068】
本発明の光学フィルムは逆波長分散性を示す。即ち、本発明の光学フィルムは、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折(あるいは位相差もしくはリターデーション)が小さくなる光学特性を示す。このような広帯域の光学フィルムを用いることによって、表示特性に優れる画像表示装置を構築できる。
【0069】
本発明の光学フィルムは、例えば、位相差板としてもよいし、得られる位相差に基づくリターデーションを光の波長の1/4とすることで、位相差板の一種であるλ/4板としてもよい。また、本発明の光学フィルムを、偏光板などの他の光学部材と組み合わせて、反射防止板とすることもできる。
【0070】
本発明の光学フィルムは、用途に応じて、他の光学部材と組み合わせて用いてもよい。
【0071】
本発明の光学フィルムの用途は特に限定されず、従来の光学部材と同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)に使用が可能である。
【0072】
[偏光板]
本発明の偏光板の構造は、上記本発明の光学フィルムを備える限り、特に限定されない。本発明の偏光板は、例えば、偏光子の片面または両面に偏光子保護フィルムを接合させた構造を有する。このとき、少なくとも1つの偏光子保護フィルムが、本発明の光学フィルムであってもよいし、偏光板が、偏光子および偏光子保護フィルム以外の層を有しており、当該層が本発明の光学フィルムであってもよい。
【0073】
偏光子は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを染色、延伸して得た偏光子;脱水処理したポリビニルアルコールあるいは脱塩酸処理したポリ塩化ビニルなどのポリエン偏光子;多層積層体あるいはコレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルムからなる偏光子などの公知の偏光子である。なかでも、ポリビニルアルコールを染色、延伸して得た偏光子が好ましい。
【0074】
本発明の偏光板の構造の典型的な一例は、ポリビニルアルコールをヨウ素または二色性染料などの二色性物質により染色した後に一軸延伸して得た偏光子の片面または両面に、偏光子保護フィルムとして、本発明の光学フィルムを接合させた構造である。
【0075】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置の構造は、上記本発明の光学フィルムを備える限り、特に限定されない。本発明の画像表示装置は、例えば液晶表示装置(LCD)であり、当該LCD装置の画像表示部が、液晶セル、偏光板、バックライトなどの部材とともに、本発明の光学フィルムを備える。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0077】
最初に、本実施例において作製した重合体の重量平均分子量、ガラス転移温度(Tg)および5%重量減少温度の評価方法を示す。
【0078】
[重量平均分子量]
重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー製
カラム:TSK−GEL SuperHZM−M 6.0×150 2本直列
ガードカラム:TSK−GEL SuperHZ−L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK−GEL SuperH−RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量0.6mL/分
カラム温度:40℃
【0079】
[ガラス転移温度]
重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0080】
[5%重量減少温度]
重合体の5%重量減少温度(重合体を一定の速度で昇温したときに、その重量が5%減少した時点の温度)は、示差熱量天秤(リガク社製、TG−8120)を用いて、サンプル質量が10mg、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下の条件で評価した。
【0081】
(製造例1:重合体(B)の作製)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、以下の式(8)に示すアリルオキシメチルアクリル酸メチル(AMA)100重量部と、重合溶媒としてメチルエチルケトン100重量部とを仕込み、これに窒素を通じつつ、70℃まで昇温させた。
【0082】
【化13】

【0083】
昇温に伴う環流が始まったところで、重合開始剤として0.2重量部の2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を添加し、AMAの重合を100℃の環流下において6時間進行させて、透明な重合体(B)を作製した。
【0084】
得られた重合体(B)が有する構成単位を1H−NMRにより評価したところ、重合体(B)は、以下の式(9)に示す構成単位を有することが確認できた。
【0085】
【化14】

【0086】
得られた重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は5.6万、Tgは74℃、5%重量減少温度は360℃であった。
【0087】
(製造例2:主鎖にラクトン環構造を有する重合体(E)の作製)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、35重量部のメタクリル酸メチル(MMA)および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0088】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0089】
次に、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、以下の式(10)に示すラクトン環構造を主鎖に有する透明な重合体(E)を得た。重合体(E)は、構造(A)を有さない。
【0090】
【化15】

【0091】
得られた重合体(E)のMwは10万、Tgは140℃、5%重量減少温度は365℃であった。
【0092】
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(B)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約150μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、オートグラフ(島津製作所社製、以降の比較例においても同じ)により、延伸倍率が1.5倍となるように延伸温度79℃で自由端一軸延伸して、厚さ120μmの延伸フィルム(F1)を得た。
【0093】
得られた延伸フィルム(F1)における位相差(面内位相差)の波長分散性を、全自動複屈折計(王子計測器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。波長分散性の評価結果を以下の表1に示す。なお、表1ならびに以降の比較例における各表では、測定波長を590nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。また、各表に示す面内位相差は、膜厚100μmあたりの値である。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示すように、実施例1で作製した延伸フィルム(F1)は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0096】
(比較例1)
製造例2で作製した重合体(E)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ約150μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムをオートグラフにより、延伸倍率が2.0倍となるように延伸温度145℃で自由端一軸延伸して、厚さ100μmの延伸フィルム(F2)を得た。
【0097】
得られた延伸フィルム(F2)における位相差(面内位相差)の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表2に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
表2に示すように、比較例1で作製した延伸フィルム(F2)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる、即ち、ポリカーボネートなどの一般的な高分子を用いた光学フィルムと同様の、波長分散性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の光学フィルムは、従来の複屈折性を示す光学フィルムと同様に、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)をはじめとする画像表示装置に広く使用でき、本発明の光学フィルムの使用により、画像表示装置の表示特性を向上できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)に示される構造(A)を主鎖に有する重合体(B)を含み、
少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す光学フィルム。
【化1】

式(1)において、R1は炭素数1〜20のアルキル基であり、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、Xは、エーテル結合を環構造の一部として有する4員環以上の飽和複素環構造である。
【請求項2】
前記環構造Xにおいて、炭素原子C1およびC2ならびに前記エーテル結合を構成する酸素原子を除き、メチレン基の炭素原子によって環が構成されている請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記重合体(B)が、
前記構造(A)を含む構成単位として、以下の式(2)に示される構成単位(C)を有する請求項1に記載の光学フィルム。
【化2】

式(2)においてY1およびY2は、互いに独立して、単結合またはメチレン基である。
【請求項4】
前記構成単位(C)が、以下の式(3)に示される構成単位である請求項3に記載の光学フィルム。
【化3】

式(3)において、R3は炭素数1〜20のアルキル基であり、R4は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基である。
【請求項5】
前記構成単位(C)が、以下の式(4)に示される構成単位である請求項3に記載の光学フィルム。
【化4】

式(4)において、R5は炭素数1〜20のアルキル基であり、R6は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基である。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学フィルムを備える偏光板。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学フィルムを備える画像表示装置。

【公開番号】特開2010−134193(P2010−134193A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310095(P2008−310095)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】