説明

光学フィルムの製造方法

【課題】厚さのバラツキが極めて小さいアクリル樹脂製の光学フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】押出部2から押し出されたアクリル樹脂製のフィルムFは、中心部に比べて両端部の厚さが小さく、中央部分にその厚さが均一な均厚部を有し、両端部にその厚さが次第に減少する漸減部を有している。このフィルムFを縦延伸部3に供すると、厚さが平準化され、フラットな形状の縦延伸フィルムFが得られる。その後、横延伸部5に供することにより、厚さのバラツキが極めて小さい光学フィルムFが得られる。光学フィルムFは偏光子保護フィルムとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子保護フィルム等の光学フィルムの製造方法に関するものである。特に本発明は、アクリル樹脂を主成分とする光学フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の表示装置に広く使用されている偏光子保護フィルム等の光学フィルムの代表的な製造方法として、溶液流延製膜法を利用するものや、溶融押出法を利用するものが知られている。
【0003】
溶液流延製膜法は、樹脂を溶媒に溶かしてその溶液を支持体上に広がり状に流し、溶媒を蒸発させてフィルムを得る方法である。偏光子保護フィルムを得るには、溶液流延製膜法で得られたフィルムを更に延伸処理することとなる。溶液流延製膜法は、膜厚の均一性に優れるという利点があるものの、溶媒を乾燥させるための設備が必須であり、製造設備が大規模なものにならざるを得ないという問題点がある。
【0004】
一方、溶融押出法は、押出機に取り付けられたTダイからフィルム状の樹脂を押し出す工程を有するものである(例えば、特許文献1〜4)。溶融押出法では押出機から押し出された厚さの厚い樹脂フィルムを延伸し、薄膜化してフィルムを得る。例えば、アクリル樹脂などでは、押出機から押し出された樹脂フィルムを二対のロールで挟み、進行方向前方のロールの周速を後方のロールよりも速めてシートを長手方向に延伸する。すなわち縦方向延伸を行う。偏光子保護フィルムを得るには、縦方向延伸されたフィルムをさらに横方向に延伸することとなる。すなわち、縦方向延伸されたフィルムの両端部をクリップで挟み、両端のクリップの間隔を広げることによって前記したフィルムを先の延伸方向に対して垂直方向に延伸する。
【0005】
溶融押出法では溶媒を乾燥させる必要が無いので、設備の構成が比較的簡単であるが、膜の厚さにバラツキが生じやすいという問題点がある。そこで特許文献1に開示された方法では、溶融状態の樹脂を主ロールとタッチロールの間に押し出す際、樹脂の厚さが幅方向の中央で最大となり、挟圧領域に相当する端部で最小となる様に厚さ調整を行う。すなわち溶融状態の樹脂を主ロールとタッチロールの間で挟圧する際、前記ロールが撓んで幅方向中央部分の押圧力が端部に比べて小さくなることに注目し、溶融状態の樹脂を主ロールとタッチロールの間に押し出す際、樹脂の厚さが幅方向の中央で最大となる様にして樹脂に掛かる挟圧力を均一化している。
【0006】
特許文献2,3,4に開示された方法でも、延伸前のフィルムの断面形状が、幅方向の中央で最大となる様に調整している。すなわちフィルムを横方向に延伸する際、フィルムは幅方向の中心部から引き延ばされ、延伸領域が次第に端部側に広がって行く。そのため、平坦なフィルムを横方向に延伸すると、中央部分が薄くなる傾向となることに注目し、延伸前のフィルムの断面形状が、幅方向の中央で最大となる様に調整している。
【0007】
図4は、従来技術のフィルム製造装置の構成とともに、特許文献2,3,4に開示された位相差フィルムの製造方法を模式的に表した図である。図4に示すフィルム製造装置101は、押出工程を担う押出部102、縦延伸工程を担う縦延伸部103、及び、横延伸工程を担う横延伸部105を有する。押出部102のTダイから押し出された樹脂フィルムFは、縦延伸部103にて縦方向(長手方向)に延伸され、その後、横延伸部105にて横方向(幅方向)に延伸される。
【0008】
図4(c−1)〜(c−4)は各工程におけるフィルムFの断面形状を模式的に示しており、図4(c−1)はTダイからの押し出し直後の樹脂フィルムの断面形状、図4(c−2)は縦延伸直後の樹脂の断面形状、図4(c−3)は横延伸中における樹脂の断面形状、図4(c−4)は横延伸後における樹脂の断面形状である。特許文献2,3,4に開示された方法では、図4(c−1)の様に断面形状が幅方向の中央で厚さが最大となった樹脂フィルムFを縦方向に延伸し、図4(c−2)の様に幅方向の中央で厚さが最大となった縦延伸フィルムとする。その後、この縦延伸フィルムを横方向に延伸し、図4(c−3)の様に中央部から延伸を開始させてその延伸領域を端部側にまで広げ、図4(c−4)の様に均一な厚さの位相差フィルム等の光学フィルムFを得る。
なお従来技術では、主として、セルロースエステル(特許文献1)や環状オレフィン系樹脂であるノルボルネン系樹脂(特許文献2,3,4)主成分とする樹脂からなる光学フィルムを製造の対象としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−296537号公報
【特許文献2】特開2008−39807号公報
【特許文献3】特開2008−39808号公報
【特許文献4】特開2007−187977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、偏光子保護フィルム等の光学フィルムの素材となる樹脂は、透明性が高いものであることが望ましい。そこで、透明性が高いアクリル樹脂が光学フィルムの素材として適している。しかしながら、アクリル樹脂は、セルロースエステルや環状オレフィン系樹脂に比べて脆く、横方向への延伸に際しては特別の注意を要する。すなわち、横延伸を行う場合にはフィルムを加熱し、フィルムの両端を把持して横方向に引き延ばすが、フィルムの温度が高い場合には、把持部分が脆性破壊されてしまい歩留りが悪い。そのため、アクリル樹脂を横方向に延伸する場合には、比較的低温状態で延伸せざるを得ないが、比較的低温状態で延伸させる場合に、特許文献2,3,4に開示された技術を採用し、図4(c−2)の様に幅方向の中央で厚さが最大の縦方向延伸フィルムを横方向に延伸すると、横延伸後のフィルムの厚さにバラツキが生じやすい。
また特許文献2,3,4に開示された技術を採用し、図4(c−2)の様に幅方向の中央で厚さが最大の縦方向延伸フィルムを横方向に延伸したとしても、厚みバラツキの小さいフィルムを得ることは困難である。
そのため、アクリル樹脂を素材として偏光子保護フィルム等の光学フィルムを製造する場合には、横延伸前のフィルムの断面形状は、できる限りフラットであることが望ましい。
【0011】
一方、本発明者らの知見によれば、アクリル樹脂を素材として溶融押出法で縦延伸フィルムを成形すると、縦延伸後のフィルムは、図5(c−2),図6に示す様に両端部だけが厚くなる傾向となる。
すなわち、図5(c−1)に示す様な断面形状がフラットな樹脂を縦方向に延伸すると、図5(c−2),図6の様に幅方向の両端部だけが他の部位に比べて厚い縦延伸フィルムができてしまう。このような形状の縦延伸フィルムを横延伸すると、図5(c−3)の様になり、最終的に、図5(c−4)の様な中央部分の厚みが小さいフィルムとなってしまう。
【0012】
一方で、図7(a)に示す様な断面形状が半円状のアクリル樹脂を、同様にして縦方向に延伸すると、予想に反して半円状の一部が残ってしまい、幅方向の中央部分の厚さが均一とならない。この縦延伸フィルムを続いて横延伸すると、図7(b)に示す様な中央部分の厚みが大きいフィルムとなってしまう。
【0013】
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、アクリル樹脂を素材とする光学フィルムであって、厚さの均一性が高く且つ歩留りの高い光学フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、アクリル樹脂を主成分とする樹脂をフィルム状に連続的に押し出す押出工程と、前記押出工程で押し出されたフィルムを長手方向に延伸する縦延伸工程と、前記縦延伸工程を経たフィルムを横方向に延伸する横延伸工程とを包含する光学フィルムの製造方法において、
縦延伸工程に供されるフィルムは、中心部に比べて両端部の厚さが小さく、中央部分にその厚さが均一な均厚部を有し、両端部にその厚さが次第に減少する漸減部を有するものであり、
縦延伸工程によってフィルムの厚さを平準化し、その後に横延伸工程を行うことを特徴とする光学フィルムの製造方法である。
【0015】
本発明は光学フィルムの製造方法に係るものであり、アクリル樹脂を主成分とする樹脂をフィルム状に連続的に押し出す押出工程、前記押出工程で押し出されたフィルムを長手方向に延伸する縦延伸工程、及び、前記縦延伸工程を経たフィルムを横方向に延伸する横延伸工程の3工程を包含するものである。そして、本発明の光学フィルムの製造方法では、縦延伸工程に供されるフィルムの形状に特徴がある。すなわち、中心部に比べて両端部の厚さが小さく、中央部分にその厚さが均一な均厚部を有し、両端部にその厚さが次第に減少する漸減部を有するフィルムが縦延伸工程に供され、縦延伸工程によってフィルムの厚さが平準化される。本発明の光学フィルムの製造方法では、縦延伸工程に供されるフィルムが上記形状を有するので、縦延伸工程によってフィルムの厚さが平準化されてフラットとなり、フィルムの両端部だけが厚くなることはない。そのため、その後に横延伸工程を行っても、フィルムの中央部分の厚みが薄いフィルムとなることがなく、厚さの均一性が高度に保たれる。本発明の光学フィルムの製造方法によれば、厚さのバラツキが極めて小さいアクリル樹脂製の光学フィルムを製造することができる。本発明は、偏光子保護フィルム等の製造に有用である。
【0016】
縦延伸工程に供されるフィルムにおける均厚部の幅は、フィルムの全幅の50%以上に渡り、両端部にある漸減部の幅の合計は前記フィルムの全幅の20%以上であり、漸減部の最も厚さの小さい部位の厚さは均厚部の厚さの95%以下である構成が好ましい(請求項2)。
【0017】
縦延伸工程に供されるフィルムは、その中央部であってフィルムの全幅の50%以上に渡る領域における最大の厚さと最小の厚さの差が5μm以下のものである構成が好ましい(請求項3)。
【0018】
光学フィルムが偏光子保護フィルムである構成が好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、厚さのバラツキが極めて小さいアクリル樹脂製の光学フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を説明する図であり、(a)はフィルム製造装置の概略を示す平面図、(b)は(a)の側面図、(c−1)〜(c−4)はいずれも各段階におけるフィルムの断面形状を示す断面図である。
【図2】図1(a),(b)のフィルム製造装置の縦延伸部の詳細を示す側面図である。
【図3】図1(c−1)の拡大図である。
【図4】従来技術の光学フィルムの製造方法を説明する図であり、(a)はフィルム製造装置の概略を示す平面図、(b)は(a)の側面図、(c−1)〜(c−4)はいずれも各段階におけるフィルムの断面形状を示す断面図である。
【図5】従来技術のアクリル樹脂製光学フィルムの製造方法を説明する図であり、(a)はフィルム製造装置の概略を示す平面図、(b)は(a)の側面図、(c−1)〜(c−4)はいずれも各段階におけるフィルムの断面形状を示す断面図である。
【図6】図5(c−2)の拡大図である。
【図7】断面形状が半円状のアクリル樹脂製フィルムを延伸した場合の挙動を示す断面図であり、(a)は縦延伸前の断面形状、(b)は最終品の断面形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳述する。
【0022】
図1(a),(b)に示すフィルム製造装置1は、押出工程を担う押出部2と、縦延伸工程を担う縦延伸部3と、横延伸工程を担う横延伸部5を有する。フィルム製造装置1の構成は、図4,5に示す従来技術のフィルム製造装置101のものと基本的に同じである。なお、図1(a),(b)では縦延伸部3の構成を簡略化して示しており、詳細な構成は図2に示している。
【0023】
押出部2はTダイ7を備えており、溶融状態のアクリル樹脂をシート状に押出可能である。
【0024】
図2に示すように、縦延伸部3は、複数のロール8a〜8k,10a,10bを有している。ロール8aはタッチロール、ロール8b,8c,8dは冷却ロール、ロール8e,8fはガイドロール、ロール8g,8hは予熱ロール、ロール8i,8jは延伸ロール、ロール8kは冷却ロールである。ロール50a,50bはニップロールであり、それぞれ延伸ロール8i,8jの上部に設けられている。
押出部2から押し出された樹脂は、タッチロール8aと冷却ロール8bの間、さらに、冷却ロール8b〜8dの間を通ることにより、フィルム状に成形される。次いで、成形されたフィルム状樹脂(フィルムF)は、ガイドロール8e,8fを経由した後、予熱ロール8g,8hを通ることで縦延伸前の予熱に供される。予熱されたフィルムFは、延伸ロール8i,8jとニップロール50a,50bの間を通ることにより、縦方向(搬送方向、長手方向)に延伸される(縦延伸工程)。すなわち、延伸ロール8jの回転速度を延伸ロール8iの回転速度よりも大きくすることにより、フィルムFが縦方向に延伸される。縦延伸されたフィルムFは、冷却ロール8kにて冷却された後、横延伸工程に供される。
なお本実施形態では、タッチロール8aを有さない構成も採用可能である。
【0025】
横延伸部5は、一対のガイド10を備えている。ガイド10はフィルムFの搬送方向に対して外側(幅方向)に広がっており、フィルムFの幅方向における両端を把持する把持部材(図示せず)がガイド10に沿って移動することにより、縦延伸部3から供給されたフィルムF(縦延伸フィルム)が横方向に延伸される(横延伸工程)。
【0026】
なお、上記した縦延伸と横延伸の方法の具体例としては、例えば、特開2002−212312号公報に記載された方法を挙げることができる。
【0027】
本実施形態では、押出部2が備えるTダイ7の断面形状が、図1(c−1),図3で示される形状と略同じである。そのため、押出部2から、図1(c−1),図3で示される様な断面形状を有する樹脂シートが押し出され、縦延伸部3に供される。
【0028】
縦延伸部3に供されるフィルムFの断面形状の詳細は、図1(c−1)と図3に示されるものであり、中心部21に比べて両端部22a,22bの厚さが小さい。そして、中央部分にその厚さが均一な均厚部23を有し、両端部22a,22bにその厚さが次第に減少する漸減部25a,25bを有している。
好ましい実施形態では、均厚部23の幅W2がフィルムFの全幅W1の50%以上に渡り、漸減部25a,25bの幅W3a,W3bの合計はフィルムFの全幅W1の20%以上であり、漸減部25a,25bの最も厚さの小さい部位の厚さT2は均厚部23の厚さT1の95%以下である。W1=W2+W3a+W3bであることが最も好ましい。
なお、両端部22a,22b、均厚部23、及び漸減部25a,25bのサイズ、並びに、フィルムFの表面と漸減部25a,25bを構成する平面とが成す角度θ(傾斜角θ,0°<θ<90°,図3参照)等については、Tダイ7のリップの調整ボルトを用いて自由に設定することができる。
【0029】
図3に示すフィルムFにおいて、W1は1000mm程度、W2は600mm程度、T1は130μm程度、T2は120μm程度であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
均厚部23の厚さT1のバラツキについて、好ましい実施形態では、中央部であってフィルムFの全幅W1の50%以上に渡る領域における最大の厚さと最小の厚さの差が5μm以下であり、T1とT2の差(10μm程度)よりも小さい。
別の好ましい実施形態では、前記した最大の厚さと最小の厚さの差が、最大の厚さの5%以内である。
【0031】
なお、理解を容易にするために、図3では一部のサイズが誇張して描かれている。
【0032】
次に、押出工程、縦延伸工程、及び横延伸工程におけるフィルムFの断面形状の変化について、従来技術(図5)と対比しながら順次説明する。
【0033】
まず、押出部2から押し出されたフィルムFは、図1(c−1),図3に示す様に、中心部21に比べて両端部22a,22bの厚さが小さく、中央部分にその厚さが均一な均厚部23を有し、両端部22a,22bにその厚さが次第に減少する漸減部25a,25bを有している。
ここで、アクリル樹脂製のフィルムの場合、縦延伸後のフィルムにおいては両端部だけが厚くなる傾向がある。そのため、縦延伸前のフィルムが従来技術のようなフラットな形状(図5(c−1))であると、縦延伸後のフィルムは図5(c−2),図6に示す様な両端部だけが厚いものとなってしまう。
しかし、本実施形態では、縦延伸前のフィルムが図1(c−1),図3に示す様な形状を有しているので、縦延伸後において均厚部23が中央部分に生じる「凹み」を補償する形となり、両端部22a,22bの厚さと中央部分の厚さとが一致して、厚さが平準化される。結果として、縦延伸後のフィルムFは、図1(c−2)に示す様なフラットな形状となる。
【0034】
縦延伸工程を終了したフィルムF(縦延伸フィルム)は、横延伸部5へ送られて横延伸工程に供される。このとき、横延伸工程に供されるフィルムF(縦延伸フィルム)は図1(c−2)のような断面形状を有するフラットなものであるので、図1(c−3)に示す様に横延伸中においてもフラットな形状は保持され、横延伸工程終了時においても図1(c−4)に示す様なフラットな形状が保持される。結果として、厚さの均一性が高度に保たれ、厚さのバラツキが極めて小さい光学フィルムFを得ることができる。
本実施形態によれば、図5(c−4)に示す様な中央部分の厚みが小さいフィルムとなることはない。また、図6(b)に示す様な中央部分の厚みが大きいフィルムとなることもない。
【0035】
本発明で使用するアクリル樹脂としては、光学フィルムの素材として一般的に用いられているものであれば、全て採用可能である。例えば、ポリメチルメタクリレートやメチルメタクリレート−スチレン共重合体にメチルアミンを反応させたグルタルイミド樹脂を採用することができる。より具体的には、下記一般式(1)及び(2)、又は(1)−(3)で表される繰り返し単位を含有するグルタルイミド樹脂を採用することができる。当該グルタルイミド樹脂の詳細は、例えば、国際公開第2005/54311号パンフレットや国際公開第2005/108438号パンフレットなどに記載されている。
【0036】
【化1】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0037】
【化2】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子また炭素数1〜8のアルキルを示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0038】
【化3】

(ここで、R7は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0039】
アクリル樹脂の他の例としては、ラクトン構造を有するものや、グルタル酸無水物単位を有するものが挙げられる。
【0040】
上記した実施形態では、図1(a),(b)及び図2に示す構成からなるフィルム製造装置1を用いて光学フィルムを製造する例を示したが、本発明で用いるフィルム製造装置がこれに限定されないことは当然である。例えば、縦延伸部における冷却ロールの数等については、目的に応じて自由に設定することができる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
まず、各実験結果として示される物性及び評価値の測定方法について説明する。
【0043】
(1)イミド化率
1H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の1H−NMR測定を行った。3.5から3.8ppm付近のメタクリル酸メチルのO−CH3プロトン由来のピークの面積Aと、3.0から3.3ppm付近のグルタルイミドのN−CH3プロトン由来のピークの面積Bを求め、次式によりイミド化率Im(%)を算出した。
Im={B/(A+B)}×100
なお、ここで、「イミド化率」とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0044】
(2)酸価
樹脂0.3gを塩化メチレン37.5mLに溶解し、さらにメタノール37.5mLを加えた。次に0.1mmol%の水酸化ナトリウム水溶液5mLとフェノールフタレインのエタノール溶液数滴を加えた。次に0.1mmol%の塩酸を用いて逆滴定を行い、中和に要する塩酸の量から酸価を求めた。
【0045】
(3)ガラス転移温度
樹脂10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC,(株)島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0046】
(4)厚みと厚みバラツキ
アンリツ株式会社製の触針式連続フィルム厚み計(フィルムシックネステスタKG601B、及び電子マイクロメータK3001A)を使用して測定した。詳しくは、原反の場合、30mm(フィルムの流れ方向)×1,000mm(フィルムの幅方向全幅)のサンプルを切り出し、幅方向1,000mmの厚みを1mm間隔で連続的に測定し、平均値を厚みとした。また、一軸延伸フィルム(縦延伸後フィルム)の場合、フィルム幅方向に、幅30mm、長さ900mmの厚みを連続的に測定した。更に、逐次二軸延伸フィルムの場合、30mm(フィルムの流れ方向)×1,400mm(フィルムの幅方向全幅)のサンプルを切り出し、幅方向の両端からそれぞれ75mmを除いた厚みを幅方向に1mm間隔で測定し、平均値を厚みとした。厚みバラツキは、厚みの最大値と最小値の差とした。ただし、実施例1,2の原反フィルムのバラツキについては、W2に相当する部分の厚みの最大値と最小値の差とした。
【0047】
〔実施例1〕
1.樹脂の調製
押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いて、以下の手順で樹脂を調製した。タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機(1)、第2押出機(2)共に直径75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の同方向噛合型二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機原料供給口に原料樹脂を供給した。また、第1押出機、第2押出機に於ける各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。また、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続した。第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザーでカッティングしペレットとした。
【0048】
第1押出機に関して、原料の樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。第2押出機に関して、ベントで残存しているイミド化反応試剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルとトリエチルアミンの混合溶液を添加しイミド樹脂中間体2を製造した。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット化することで、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物のイミド化率は3.7%、酸価は0.29mmol/g、及びガラス転移温度は130℃であった。
【0049】
2.光学フィルムの製造
基本的に、図1,2に示す方法で光学フィルムを製造した。すなわち、得られた樹脂組成物を100℃で5時間乾燥後、50mm単軸押出機と1,100mm幅のTダイを用いてシート状に押し出し(押出工程)、金属製の冷却ロールで該シートを冷却して幅1,000mmの原反を得た。このフィルムの断面形状は図1(c−1),図3に示す様な形状であり、図3における各サイズは、W1=1000mm、W2=600mm、W3a=W3b=200mm、T1=130μm、T2=120μm、平均厚みは128μm、厚みバラツキは±1.0μmであった。
次いで、上記原反を、ロール縦延伸機を使用して縦延伸工程に供し、縦一軸延伸フィルムを得た。詳しくは、原反を、縦延伸機の予熱ロールで100℃に予熱した後、130℃の延伸ロールで2.0倍に延伸して、幅900mmの縦一軸延伸フィルムを得た。このフィルムの平均厚みは80μm、厚みバラツキは±1.0μmであった。
更に、上記縦一軸延伸フィルムを、横延伸機を使用して横延伸工程に供し、逐次二軸延伸フィルム(光学フィルム)を得た。詳しくは、縦一軸延伸フィルムを、横延伸機の予熱ゾーンで130℃に予熱した後、130℃の延伸ゾーンで2.0倍に延伸して、幅1,700mmの逐次二軸延伸フィルムを得た。このフィルムの断面形状は図1(c−4)に示す様なフラットな形状であり、平均厚みは40μm、厚みバラツキは±1.0μmであった。
【0050】
〔実施例2〕
原反の断面形状(図1(c−1),図3)について「W2=700mm、W3a=W3b=150mm」とする以外は実施例1と同様にして、逐次二軸延伸フィルムを得た。このフィルムの断面形状は図1(c−4)に示す様なフラットな形状であり、平均厚みは40μm、厚みバラツキは±1.5μmであった。
【0051】
〔比較例1〕
図5(c−1)に示す様な断面形状を有するフィルムを、実施例と同様の縦延伸工程と横延伸工程に供し、逐次二軸延伸フィルムを得た。このフィルムの断面形状は図5(c−4)に示す様な形状であり、平均厚みは40μm、厚みバラツキは±4.0μmであった。すなわち、本比較例で得られた逐次二軸延伸フィルムは、実施例のようなフラットな形状とはならず、厚みバラツキの大きいものであった。
【0052】
〔比較例2〕
図7(a)に示す様な断面形状を有するフィルムを、実施例と同様の縦延伸工程と横延伸工程に供し、逐次二軸延伸フィルムを得た。このフィルムの断面形状は図7(b)に示す様な形状であり、平均厚みは40μm、厚みバラツキは±3.0μmであった。すなわち、本比較例で得られた逐次二軸延伸フィルムは、実施例のようなフラットな形状とはならず、厚みバラツキの大きいものであった。
【0053】
実施例1,2及び比較例1,2の結果を表1にまとめた。
【表1】

【0054】
以上のように、本実施例によって、厚さの均一性が高度に保たれかつ厚さのバラツキも極めて小さいアクリル樹脂製の光学フィルムを製造することができた。
【符号の説明】
【0055】
F フィルム(光学フィルム)
21 中心部
22a,22b 両端部
23 均厚部
25a,25b 漸減部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂を主成分とする樹脂をフィルム状に連続的に押し出す押出工程と、前記押出工程で押し出されたフィルムを長手方向に延伸する縦延伸工程と、前記縦延伸工程を経たフィルムを横方向に延伸する横延伸工程とを包含する光学フィルムの製造方法において、
縦延伸工程に供されるフィルムは、中心部に比べて両端部の厚さが小さく、中央部分にその厚さが均一な均厚部を有し、両端部にその厚さが次第に減少する漸減部を有するものであり、
縦延伸工程によってフィルムの厚さを平準化し、その後に横延伸工程を行うことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
縦延伸工程に供されるフィルムにおける均厚部の幅は、フィルムの全幅の50%以上に渡り、両端部にある漸減部の幅の合計は前記フィルムの全幅の20%以上であり、漸減部の最も厚さの小さい部位の厚さは均厚部の厚さの95%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
縦延伸工程に供されるフィルムは、その中央部であってフィルムの全幅の50%以上に渡る領域における最大の厚さと最小の厚さの差が5μm以下のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
光学フィルムが偏光子保護フィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−88440(P2011−88440A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213401(P2010−213401)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】