説明

光学フィルム用粘着剤組成物及びその加工品

【課題】光学フィルムを貼着した後、高湿熱条件下に置かれた場合でも剥がれや発泡を生じさせないだけでなく、再剥離が必要な場合でも被着体に汚染を生じず、上記光学フィルムに寸法変化が生じる際にもその応力に対応し、光漏れによる色むらを抑制可能であり、なおかつ、上記光学フィルムをロール状に巻き取る際にも皺や凹みの発生を抑制することのできる光学フィルム用粘着剤組成物を提供すること、及び当該粘着剤組成物を用いた光学フィルムを提供すること。
【解決手段】構成モノマーとして、8〜35重量部の芳香環含有アクリルモノマーと、1〜12重量部のアミド基含有アクリルモノマーを含むアクリル系ポリマー100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤を4〜20重量部配合してなる光学フィルム用粘着剤組成物およびこの粘着剤組成物より得られる粘着剤層を少なくとも片方の面に設けたことを特徴とする光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム用粘着剤組成物およびその加工品に関するものである。より詳しくは、光学フィルムに有利に用いられ、優れた耐久性および光漏れ防止効果を有し、かつ光学フィルムに適用された際には、当該光学フィルムの巻き取り時における皺や凹みの発生を抑制する光学フィルム用粘着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム用途の粘着剤には、この用途に特有の諸特性が要求される。これらは例えば、
(1)耐久性:すなわち光学フィルムを被着体に貼り合わせたとき、高温高湿度雰囲気下においても発泡、浮き、剥がれ等を生じさせないこと、
(2)リワーク性:すなわち貼付時に位置ズレ等が生じた場合の貼り直しに堪えること、
(3)光漏れ防止性:すなわち光学フィルムの収縮に伴う応力下にあっても、表示装置に予期せぬ光漏れによる色むらを発生させないこと、
(4)加工性:すなわち粘着剤を適用した光学フィルムの加工が容易であること
などである。
【0003】
上記特性のうち、近年は光漏れ防止性に関する種々の検討がなされている。ところで、この光漏れ現象の発生は、表示装置中の偏光板が高温高湿下で収縮を生じるとき、この偏光板を貼着している粘着剤層も応力下に置かれる結果、粘着剤層を構成するポリマーが一定方向に配向し、粘着剤層が複屈折性を呈するようになることが一つの原因と考えられている。粘着剤層中の複屈折を低減するためには、粘着剤を構成するポリマー側鎖に芳香環を導入することが一つの解決策として挙げられる。そこで例えば特許文献1では、芳香環含有アクリルモノマーと、アミノ基含有アクリルモノマーとを一定量含有するモノマー混合物を共重合させてなる光学フィルム用粘着剤組成物を開示している。一方で特許文献2では、粘着剤層にかかる応力緩和に着目して、芳香環含有アクリルモノマーを含むモノマー混合物を、分子量分布が比較的大きくなるように共重合させた、引張り弾性率の低い光学フィルム用粘着剤組成物を開示している。
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2のような構成では、光漏れの低減効果は得られるものの、芳香環含有アクリルモノマーを含む粘着剤は一般に弾性率が低いために、このような粘着剤を適用した光学フィルムをロール状に巻き取った際に皺や凹み等が発生し、歩留まりが悪くなるという問題がある。
【0005】
一方、例えば特許文献3のように、粘着剤層のエージング時間を短縮することによって、当該粘着剤層が適用された光学フィルムにおけるカット性等の加工性を向上させる試みもなされている。しかしながら、特許文献3のような手法を芳香環含有アクリルモノマー系の粘着剤に適用すると、芳香環含有アクリルモノマーを含む粘着剤層の弾性率の低さから、要求される加工性の中でも皺や凹みの抑制は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−242767号公報
【特許文献2】特開2007−138056号公報
【特許文献3】特開2009−173772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる技術背景に鑑みてなされたものであり、偏光フィルム、位相差フィルム、楕円偏光フィルム等の光学フィルムを貼着した後、高湿熱条件下に置かれても剥がれや発泡を生じさせないだけでなく、再剥離が必要な場合でも被着体に汚染を生じず、上記光学フィルムに寸法変化が生じる際にもその応力に対応し、光漏れによる色むらを抑制可能であり、なおかつ、上記光学フィルムをロール状に巻き取る際にも皺や凹みの発生を抑制することのできる光学フィルム用粘着剤組成物を提供すること、及び当該粘着剤組成物を用いた光学フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、アクリル系ポリマーの配合について検討を行った結果、アクリル系ポリマーの構成成分として芳香環含有アクリルモノマーの他にアミド基含有アクリルモノマーを加え、かつこのポリマーの架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を利用することで、光学フィルム用粘着剤に要求される主な特性を全て満足させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、構成モノマーとして、8〜35重量部の芳香環含有アクリルモノマーと、1〜12重量部のアミド基含有アクリルモノマーを含むアクリル系ポリマー100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤を4〜20重量部配合してなる光学フィルム用粘着剤組成物である。
【0010】
また本発明は、上記光学フィルム用粘着剤組成物より得られる粘着剤層を少なくとも片方の面に設けたことを特徴とする光学フィルムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芳香環含有アクリルモノマーを配合した粘着剤に特有の弾性率の低さを解消することができ、優れた耐久性および光漏れ防止効果を有し、かつ光学フィルムに適用した際には、当該光学フィルムの巻き取り時に皺や凹みの発生を抑制する光学フィルム用粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光学フィルム用粘着剤組成物は、芳香環含有アクリルモノマー8〜35重量部と、アミド基含有アクリルモノマー1〜12重量部とを構成モノマー中に含むアクリル系ポリマーを、このポリマー100重量部に対し4〜20重量部のイソシアネート系架橋剤により架橋させることにより調製される。
【0013】
本発明で用いる、構成モノマーとして8〜35重量部の芳香環含有アクリルモノマーと、1〜12重量部のアミド基含有アクリルモノマーとを含むアクリル系ポリマー(以下、「アクリル系ポリマー(A)」という)は、前記量の芳香環含有アクリルモノマーおよびアミド基含有アクリルモノマーと、後述するアルキル基含有アクリルモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させたものであり、このモノマー混合物中には、必要に応じてカルボキシル基含有アクリルモノマーをさらに加えても良い。
【0014】
本発明のアクリル系ポリマー(A)を構成する芳香環含有アクリルモノマー(以下、「芳香環モノマー(a1)」という)は、分子内に芳香環を有するアクリルモノマーである。この芳香環モノマー(a1)の具体例としては、例えば、フェニルアクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル化β−ナフトールアクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。芳香環モノマー(a1)の配合量は、上記のようにアクリル系ポリマー(A)の構成モノマー中、8〜35質量%であり、好ましくは9.5〜20質量%である。
【0015】
芳香環モノマー(a1)の配合量が8質量%未満だと、アクリル系ポリマー(A)の複屈折抑制性が満足に得られなくなる。また、芳香環モノマー(a1)の配合量が35質量%より多いと、アクリル系ポリマー(A)の弾性率が小さくなり、得られる粘着剤層は凹みを生じやすく加工性に劣るものとなる。
【0016】
また、本発明のアクリル系ポリマー(A)を構成するアミド基含有アクリルモノマー(以下、「アミド基モノマー(a2)」という)は、分子内にアミド基またはN置換アミド基を有するアクリルモノマーである。このアミド基モノマー(a2)の具体例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−エチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。このアミド基モノマー(a2)の配合量も、上記したようにアクリル系ポリマー(A)の構成モノマー中、1〜12質量%であり、好ましくは2.5〜10質量%である。
【0017】
アミド基モノマー(a2)の配合量が1質量%未満だと、得られる粘着剤組成物中において、後述するイソシアネート系架橋剤の反応を十分に促進することができず、得られる粘着剤層は弾性率の低いものとなる結果、凹みを生じやすく加工性に劣るものとなる。また、アミド基モノマー(a2)の配合量が12質量%より多いと、得られる粘着剤組成物中でイソシアネート系架橋剤の反応が進みすぎ、得られる粘着剤層は適度な粘着力を持たないものとなる。
【0018】
更に、本発明のアクリル系ポリマー(A)は、上記芳香環モノマー(a1)およびアミド基モノマー(a2)の他に、その主要成分として分子内に炭素数1〜12の直鎖または分岐アルキル基を有するアクリルモノマー(以下、「アクリルモノマー(a3)」という)を含む。アクリルモノマー(a3)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。このアクリルモノマー(a3)の配合量は、アクリル系ポリマー(A)の構成モノマー中、45〜90質量%であり、より好ましくは65〜87質量%である。
【0019】
本発明のアクリル系ポリマー(A)の重合に当たっては、上記各モノマーの他、必要によりカルボキシル基含有アクリルモノマー(以下、「カルボキシル基モノマー(a4)」という)を使用することもできる。
【0020】
このカルボキシル基モノマー(a4)は、分子内にカルボキシル基を有するアクリルモノマーである。このカルボキシル基モノマー(a4)を適量配合することにより、粘着剤組成物の凝集性等が向上する。
【0021】
カルボキシル基モノマー(a4)としては、例えば(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、3−カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、4−カルボキシブチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。このカルボキシル基モノマー(a4)の配合量は、アクリル系ポリマー(A)の構成モノマー中0.5〜8質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0022】
アクリル系ポリマー(A)を構成するモノマー成分としては、前記モノマーの他に、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した以外のモノマーを任意で、モノマー全量の40質量%以下の範囲で用いることができる。この任意モノマーの割合は、さらには30質量%以下であるのが好ましい。かかる任意モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルモノマーなどが挙げられる。
【0023】
さらには任意モノマーとして、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル系モノマー、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有アクリルモノマーなどが挙げられる。
【0024】
上記した各モノマーの重合は、アクリル系ポリマーを得るための一般的な方法、例えば上記各モノマーを必要により溶媒とともに混合し、次いで適切な重合開始剤を加え、熱または光等を作用させることで行うことができる。
【0025】
本発明のアクリル系ポリマー(A)の分子量は特に限定されないが、光学フィルムに適用した際に良好な物性を発現させるためには、重量平均分子量で40〜200万程度とすることが好ましく、50〜150万程度がより好ましい。
【0026】
上記のようにして得られるアクリル系ポリマー(A)を利用し、本発明の光学フィルム用粘着剤組成物を調製するには、常法に従ってアクリル系ポリマー(A)に所定量のイソシアネート系架橋剤を加えて反応させれば良い。この際に、必要によりシランカップリング剤を加えることができる。
【0027】
本発明の光学フィルム用粘着剤組成物に使用できるイソシアネート系架橋剤(以下、「架橋剤(B)」という)の例としては、トリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネートモノマー及びこれらイソシアネートモノマーをトリメチロールプロパンなどと付加したイソシアネート化合物やイソシアヌレート化物、ビュレット型化合物、さらにはポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなど付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネートなどを挙げることができる。これらの中でも、本発明にはトリレンジイソシアネート系架橋剤が好ましい。架橋剤(B)の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して4〜20重量部であり、8〜15重量部とすることが好ましい。
【0028】
ところで本発明においては、粘着剤層中又は被着体等から粘着剤層に移行してきた水分がイソシアネート系架橋剤(B)と反応することを発端としてポリ尿素が生成し、このようなポリ尿素鎖がアクリル系ポリマー(A)と絡み合うことで、単純な高架橋とは異なるIPN(相互侵入網目高分子)構造を形成していると推察される。ここで、本発明のアクリル系ポリマー(A)がアミド基モノマー(a2)を構成要素として含むことで、上記ポリ尿素生成反応が適度に促進される結果、上記IPN構造形成が良好に進行する。そうすることで、本発明の光学フィルム用粘着剤組成物は、従来の芳香環を含有する粘着剤組成物と比較して高い弾性率を発現していると推察される。
【0029】
なお、架橋剤(B)の量が上記範囲を逸脱して少ないと、上記IPN構造がうまく形成されず、得られる粘着剤層は弾性率の低いものとなり、凹みを生じやすく加工性に劣る上、耐久性も劣るものとなる。また、架橋剤(B)の量が上記範囲を逸脱して多いと、過剰に生成したポリ尿素鎖がアクリルポリマー構造中に取り込まれずにブリードアウトし、再剥離時に被着体を汚染するおそれがある。
【0030】
本発明の光学フィルム用粘着剤組成物の調製に当たっては、上記アクリル系ポリマー(A)および架橋剤(B)の他に、必要によりシランカップリング剤を配合することができる。このシランカップリング剤(以下、「カップリング剤(C)」ということがある)を配合することで、被着体への粘着力および得られる粘着剤層の耐久性を向上させる効果が得られる。
【0031】
このカップリング剤(C)としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基含有ケイ素化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基含有ケイ素化合物、アセトアセチル基含有ケイ素化合物、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ構造を有するケイ素化合物が好ましい。カップリング剤(C)を配合する場合の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して0.05〜1重量部であり、好ましくは0.05〜0.6重量部である。
【0032】
本発明の光学フィルム用粘着剤組成物は、アクリル系ポリマー(A)、架橋剤(B)および必要によりカップリング剤(C)から調製されるが、更にこれを必要により溶剤等に溶解し、光学フィルム上に塗工することで粘着剤層を形成することができる。
【0033】
本発明の光学フィルム用粘着剤組成物が利用される光学フィルムは、特に限定されるものではなく、例えば偏光フィルム、位相差フィルム、楕円偏光フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、光拡散フィルム、ガラス飛散防止フィルムおよび表面保護フィルム等に使用することができる。
【0034】
本発明の光学フィルム用粘着剤組成物は、アミド基含有モノマーおよびイソシアネート系架橋剤を使用することにより強固なIPN構造が形成されるため、従来の芳香環モノマーを使用した粘着剤層と比較して、高い弾性率を有する粘着剤層の形成を可能としたものである。この結果、従来の光学フィルムの欠点であった巻き取り時の皺や凹みの発生を抑制することができる。
【0035】
なお、アミド基含有モノマーに類似するものとしてアミノ基含有モノマーがあるが、仮にアミド基含有モノマーに代えてこれを配合しても、本発明のような強固なIPN構造を形成することができない上に、シート老化性に優れた粘着剤層を得ることはできない。またアミド基含有モノマーとアミノ基含有モノマーを併用した場合でも、本発明の粘着剤層に匹敵するシート老化性を得ることはできず、強固なIPN構造を形成することもできない。
【0036】
また、粘着剤層に所定の耐久性、加工性等を発現させるためには、本発明のアクリル系ポリマー(A)は水酸基含有アクリルモノマーを構成要素として実質的に含んでいないことが好ましい。これは、アクリル系ポリマーが活性な水酸基を含む場合、当該水酸基がイソシアネート系架橋剤と速やかに反応して、本発明で意図されるIPN構造がうまく形成されないためと考えられる。
【実施例】
【0037】
次に実施例、製造例および試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0038】
製 造 例 1〜13
攪拌機、還流冷却器、温度計及び窒素導入管を備えた反応装置に、それぞれ表1に示す重量部(以下、実施例又は表で、「部」と略記することがある)の各共重合モノマーと酢酸エチルを仕込み、アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学社製)(以下「AIBN」と略記する)0.1部を加え、反応容器内の空気を窒素ガスで置換した。次いで、窒素雰囲気下で攪拌しながら72℃に昇温した後、8時間反応させることにより、表1に記載の分子量を有するアクリル系ポリマーを得た。
【0039】
モノマー組成:
【表1】

【0040】
実 施 例 1〜8、比 較 例 1〜7
製造例1〜13で作製したアクリル系ポリマーそれぞれ100重量部に対して、後記表2に記載の架橋剤およびシランカップリング剤(0.3重量部)をそれぞれ添加して混合し、粘着剤組成物を得た。
【0041】
得られた粘着剤組成物を、表面に離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム上に、乾燥後の厚さが20μmになるように塗布し、90℃で溶媒を除去し、粘着シートを得た。この粘着シートを偏光フィルムの片面に転写し、粘着剤付き偏光フィルムを得た。
【0042】
試 験 例 1
上記実施例及び比較例で得られた粘着剤付き偏光フィルムについて、それらの耐久性、シート老化性、光漏れ防止性および加工性の各特性を以下の評価方法で評価した。結果を粘着剤組成物の配合と共に表2に示す。
【0043】
< 評価方法 >
( 耐久性 )
上記粘着剤付き偏光フィルムをそれぞれ250mm×350mmに裁断し、PETフィルムを剥離後、ガラス基板上に貼り付けて作製した試料片を、85℃/ドライ条件で500時間放置し、耐熱耐久性試験を行った。また、同様に作製した試料片を、60℃/95%RHで500時間放置し、耐湿熱耐久性試験を行った。これらの試験後、試料片に発生する発泡、浮き、剥がれの状態を目視で観察し、下記基準で耐久性を評価した。
【0044】
評 価 状 態
○ : 発泡、浮き、剥がれ等の外観不良が認められなかった
△ : 発泡、浮き、剥がれ等の外観不良がわずかに認められた
× : 発泡、浮き、剥がれ等の外観不良が明らかに認められた
【0045】
( シート老化性 )
上記粘着剤付き偏光フィルムを40℃/50%RHで30日間保管した後、ガラス基板上に貼り付けて作製した試料片を、60℃/95%RHで1000時間放置し、試料片に発生する発泡、浮き、剥がれの状態を目視で観察し、シート老化性を評価した。なお、評価基準は耐久性におけるものと同様である。
【0046】
( 光漏れ防止性 )
上記のように作製された粘着剤付き偏光フィルム2枚を、ガラス基板の表裏面それぞれに、相互にクロスニコルになるようにラミネーターロールを用いて貼着し、次いで、50℃、5気圧に調整されたオートクレーブに20分間保持し、試料板を作製した。作製した試料板を、85℃の条件下で500時間放置し、光漏れ防止性を目視で観察した。評価基準は以下のとおりである。
【0047】
評 価
6 : 光漏れが確認されず、実用上問題ない
5 : 光漏れが0〜1.0mmの範囲で確認されるが、漏れが淡く実用上問題ない
4 : 光漏れが0〜1.0mmの範囲で確認され、漏れが比較的濃いが、実用上問
題ない
3 : 光漏れが1.0〜5.0mmの範囲で確認されるが、漏れが淡く実用上問題
ない
2 : 光漏れが1.0〜5.0mmの範囲で確認され、かつ漏れが濃く、実用上問
題になる
1 : 光漏れが5.0mm以上の範囲で確認され、実用上問題になる
【0048】
( 加工性 )
塗工直後の粘着剤付き偏光フィルムを100×100mmサイズにカットし、計100枚の試料片を作製し、これらの試料片を、偏光板面を上にして積み重ね、上から1kgの加重をかけ、23℃、50%RHの条件下で3日間放置し、凹みの発生を評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0049】
評 価
◎ : 凹みが生じたシートの合計枚数0枚
○ : 凹みが生じたシートの合計枚数1〜5枚
△ : 凹みが生じたシートの合計枚数6〜10枚
× : 凹みが生じたシートの合計枚数11枚以上
【0050】
< 結 果 >
【表2】

【0051】
表1および表2から明らかなように、所定量の芳香環含有アクリルモノマーと、アミド基含有アクリルモノマーを構成成分として含むアクリル系ポリマーから調製された粘着剤組成物を使用した実施例1から8の光学フィルムは、耐久性、シート老化性、光漏れ防止性の特性において良好なものであり、かつ、加工性においても優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の光学フィルム用粘着剤組成物を利用した光学フィルムは、耐久性、シート老化性、光漏れ防止性の特性において良好なばかりでなく、従来の粘着剤で問題となっていた加工性の問題も解消したものである。従って本発明は、光学フィルムの製造において有利に利用しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成モノマーとして、8〜35重量部の芳香環含有アクリルモノマーと、1〜12重量部のアミド基含有アクリルモノマーを含むアクリル系ポリマー100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤を4〜20重量部配合してなる光学フィルム用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記アクリル系ポリマーの構成モノマーとして、アルキル基含有アクリルモノマーを45〜90重量部含む請求項1記載の光学フィルム用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記アクリル系ポリマーの構成モノマーとして、さらにカルボキシル基含有アクリルモノマーを0.5〜8重量部含む請求項2記載の光学フィルム用粘着剤組成物。
【請求項4】
前記イソシアネート系架橋剤が、トリレンジイソシアネート系の硬化剤である請求項1〜3のうちのいずれか1項記載の光学フィルム用粘着剤組成物。
【請求項5】
さらにシラン系カップリング剤を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の光学フィルム用粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の光学フィルム用粘着剤組成物より得られる粘着剤層を少なくとも片方の面に設けたことを特徴とする光学フィルム。


【公開番号】特開2012−158702(P2012−158702A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20385(P2011−20385)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】