光学体、窓材、建具、日射遮蔽装置、および建築物
【課題】高い上方反射性能を維持でき、かつ、波長選択反射層による光吸収を抑制することができる光学体を提供する。
【解決手段】光学体は、凹凸面を有する第1の光学層と、凹凸面上に形成された波長選択反射層と、凹凸面を埋めるように波長選択反射層上に形成された第2の光学層とを備える。波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過するものである。凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが所定の関係を満たす。
【解決手段】光学体は、凹凸面を有する第1の光学層と、凹凸面上に形成された波長選択反射層と、凹凸面を埋めるように波長選択反射層上に形成された第2の光学層とを備える。波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過するものである。凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが所定の関係を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学体、窓材、建具、日射遮蔽装置、および建築物に関する。詳しくは、入射光を指向反射する光学体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高層ビル、住居などの建築用ガラスや車窓ガラスに太陽光の一部を吸収、または反射させる層が設けられるケースが増加している。これは地球温暖化防止を目的とした省エネルギー対策のひとつであり、太陽から注がれる光エネルギーが窓から屋内に入り、屋内温度が上昇することによりかかる冷房設備の負荷を軽減することを目的としている。太陽光から注がれる光エネルギーは、波長380〜780nmの可視領域と780〜2100nmの近赤外領域とが大きな比率を占めている。このうち後者波長域における窓の透過率は、人間の視認性と無関係であるため、高透明性かつ高熱遮蔽性を有する窓としての性能を左右する重要な要素となる。
【0003】
可視領域の透明性を維持しながら近赤外線を遮蔽する方法としては、近赤外領域に高い反射率を有する層を窓ガラスに設ける方法と、近赤外領域に高い吸収率を有する層を窓ガラスに設ける方法がある。
【0004】
前者の方法については、反射層として光学多層膜、金属含有層、透明導電性層などを用いる技術が既に数多く開示されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、このような反射層は平面上の窓ガラスに設けられるため、入射した太陽光を正反射させることしかできない。このため、上空から照射されて正反射された光は、屋外の別な建物や地面に到達し、吸収されて熱に変わり周囲の気温を上昇させる。これにより、このような反射層が窓全体に貼られたビルの周辺では、局所的な温度上昇が起こり都市部ではヒートアイランドが増長されたり、反射光の照射面のみ芝生が生長しないなどの問題が生じている。
【0005】
後者の方法としては有機系の色素層を用いる技術が数多く開示されている(例えば特許文献2〜4参照)。しかしながら、このような色素層を窓ガラスに貼ると、窓表面で吸収された光が熱に変わり、その一部が輻射熱として屋内に伝わるため、色素層は遮蔽能が不十分であるという問題や熱応力によりガラスが割れるという問題がある。また、色素層の耐候性が低く、頻繁に貼り換えができない高層ビルなどには使いづらいという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第05/087680号パンフレット
【特許文献2】特開平06−299139号公報
【特許文献3】特開平09−316115号公報
【特許文献4】特開2001−89492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる光学体、窓材、建具、日射遮蔽装置、および建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術が有する上述の課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、特定の波長帯を選択的に反射する波長選択反射層をコーナーキューブ上に形成し、この波長選択反射層により入射光を指向反射する光学体を発明するに至った。
【0009】
上記光学体では、波長選択反射層により入射光を3回反射することで、再帰的に入射光を反射することができる。しかしながら、このように反射回数が多いため、波長選択反射層の光吸収量が平板に対して約3倍となり、発熱量が大きくなってしまう。したがって、かかる光学体を窓用フィルムとして使用した場合には、窓付近の空間では大気が暑く感じられるため、冷房の利用が増大して、CO2排出量が多くなる。
【0010】
そこで、本発明者らは、高い上方反射性能を維持でき、かつ、波長反射回数を1回、もしくは2回に低減できる光学体について鋭意検討を重ねた。その結果、頂角αおよび底角βが所定の関係を満たす複数の三角柱状体を一次元配列して凹凸面を形成し、この凹凸面上に波長選択反射層を形成することを見出すに至った。
本発明は以上の検討に基づいて案出されたものである。
【0011】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、
凹凸面を有する第1の光学層と、
凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
凹凸面を埋めるように波長選択反射層上に形成された第2の光学層と
を備え、
波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過するものであり、
凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、
三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが以下の式(1)、または(2)を満たしている光学体である。
−3.6α+396≦β≦80 (85≦α≦90) ・・・(1)
α−30≦β≦−α+170 (90≦α≦100) ・・・(2)
【0012】
第2の発明は、
凹凸面を有する第1の光学層と、
凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
凹凸面を埋めるように波長選択反射層上に形成された第2の光学層と
を備え、
波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過するものであり、
凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、
三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが以下の式(3)、または(4)を満たしている光学体である。
30≦β≦α−50 (80≦α≦90) ・・・(3)
30≦β≦−α+130 (90≦α≦100) ・・・(4)
【0013】
本発明の光学体では、非対称な三角柱状体を一次元配列することにより凹凸面を形成し、この凹凸面上に波長選択反射層を形成している。したがって、本発明の光学体を窓材などの被着体に適用した場合には、特定波長帯の光を上方に反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる。また、本発明の光学体を建造物の窓材などに適用した場合には、特定波長帯の光を指向反射し、建築物などの所定の空間に入り込むのを排除できるのに対して、特定波長帯以外の光を所定の空間に取り込むことできる。
【0014】
また、本発明の光学体では、三角柱状体の頂角αおよび傾斜角βが所定の関係を満たしているので、本発明の光学体を窓材などの被着体に適用した場合には、高い上方反射率を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、特定波長帯の光を反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる光学体において、光の吸収による発熱を低減することにより、安全性の向上、および省エネルギー化を実現することが可能である。また、高い上方反射率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1Aは、第1の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。図1Bは、第1の実施形態に係る光学フィルムを被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。
【図2】図2は、光学フィルムに対して入射する入射光と、光学フィルムにより反射された反射光との関係を示す斜視図である。
【図3】図3Aは、第1の光学層に形成された三角柱状体の形状例を示す斜視図である。図3Bは、図3Aに示す三角柱状体が形成された第1の光学層を備える光学フィルムの一構成例を示す断面図である。
【図4】図4Aは、図3Bに示した光学フィルムの一部を拡大して表す拡大断面図である。図4Bは、図3Bに示した波長選択反射層を拡大して表す拡大断面図である。
【図5】図5A、図5Bは、第1の実施形態に係る光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。
【図6】図6Aは、第1の実施形態に係る光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。図6Bは、第1の実施形態に係る光学フィルムの機能の一例を説明するための平面図である。
【図7】図7は、第1の実施形態に係る光学フィルムを製造するための製造装置の一構成例を示す概略図である。
【図8】図8A〜図8Cは、第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図9】図9A〜図9Cは、第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図10】図10A〜図10Cは、第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図11】図11Aは、第1の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。図11Bは、第1の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。
【図12】図12Aは、第2の実施形態に係る光学フィルムの第1の構成例を示す斜視図である。図12Bは、第2の実施形態に係る光学フィルムの第2の構成例を示す斜視図である。図12Cは、第2の実施形態に係る光学フィルムの第3の構成例を示す斜視図である。
【図13】図13は、第3の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。
【図14】図14は、第4の実施形態に係るブラインド装置の一構成例を示す斜視図である。
【図15】図15Aは、スラットの第1の構成例を示す断面図である。図15Bは、スラットの第2の構成例を示す断面図である。
【図16】図16Aは、第7の実施形態に係るロールスクリーン装置の一構成例を示す斜視図である。図16Bは、スクリーンの一構成例を示す断面図である。
【図17】図17Aは、第8の実施形態に係る建具の一構成例を示す斜視図である。図17Bは、光学体の一構成例を示す断面図である。
【図18】図18は、上方反射率の定義を説明するための模式図である。
【図19】図19A〜図19Cは、シミュレーションの設定条件を説明するための模式図である。
【図20】図20は、試験例1のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示す図である。
【図21】図21Aは、試験例2のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図21Bは、試験例2のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図21Cは、試験例2のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。
【図22】図22Aは、試験例5のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。図22Bは、試験例6のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。図22Cは、試験例7のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。
【図23】図23Aは、試験例5のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。図23Bは、実施例1の光学フィルムの反射率の測定結果を示す図である。
【図24】図24Aは、試験例6のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。図24Bは、実施例2の光学フィルムの反射率の測定結果を示す図である。
【図25】図25Aは、比較例2の光学フィルムの作製に用いる原盤のコーナーキューブ形状を示す上面図である。図25B、図25Cは、比較例2の光学フィルムの作製に用いる原盤のコーナーキューブ形状を示す側面図である。
【図26】図26Aは、実施例3、4、比較例1における波長選択反射層の各層の平均膜厚の測定方法を説明するための模式図である。図26Bは、比較例2における波長選択反射層の各層の平均膜厚の測定方法を説明するための模式図である。
【図27】図27Aは、実施例3、4、比較例1、2の上方面の波長選択反射層の各層の平均膜厚を示す模式図である。図27Bは、実施例3、4、比較例1、2の下方面の波長選択反射層の各層の平均膜厚を示す模式図である。
【図28】図28Aは、試験例8〜10のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図28Bは、試験例11のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。
【図29】図29Aは、試験例12、13のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図29Bは、試験例14のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。
【図30】図30は、第1の実施形態に係る光学フィルムの全体形状の一例を示す斜視図である。
【図31】図31A、図31Bは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの貼り合わせ方法の一例を説明するための略線図である。
【図32】図32A、図32Bは、貼り合わせ方向による光学フィルムの反射機能の相違を説明するための略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.第1の実施形態(非対称な三角柱状体を1次元配列した光学フィルムの例)
2.第2の実施形態(光散乱体をさらに備えた光学フィルムの例)
3.第3の実施形態(自己洗浄効果層をさらに備えた光学フィルムの例)
4.第4の実施形態(ブラインド装置に光学フィルムを適用した例)
5.第5の実施形態(ロールスクリーン装置に光学フィルムを適用した例)
6.第6の実施形態(建具に光学フィルムを適用した例)
【0018】
<1.第1の実施形態>
[光学フィルムの構成]
図1Aは、第1の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。図1Bは、第1の実施形態に係る光学フィルムを被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。光学体としての光学フィルム1は、いわゆる指向反射性能を有する光学フィルムである。図1Aに示すように、この光学フィルム1は、凹凸形状の界面を内部に有する光学層2と、この光学層2の界面に設けられた波長選択反射層3とを備える。光学層2は、凹凸形状の第1の面を有する第1の光学層4と、凹凸形状の第2の面を有する第2の光学層5とを備える。光学層内部の界面は、対向配置された凹凸形状の第1の面と第2の面とにより形成されている。具体的には、光学フィルム1は、凹凸面を有する第1の光学層4と、第1の光学層4の凹凸面上に形成された波長選択反射層3と、波長選択反射層3が形成された凹凸面を埋めるように、波長選択反射層3上に形成された第2の光学層5とを備える。光学フィルム1は、太陽光などの光が入射する入射面S1と、この入射面S1より入射した光のうち、光学フィルム1を透過した光が出射される出射面S2とを有する。光学フィルム1は、内壁部材、外壁部材、窓材、壁材などに適用して好適なものである。また、光学フィルム1は、ブラインド装置のスラット(日射遮蔽部材)、およびロールスクリーン装置のスクリーン(日射遮蔽部材)として用いても好適なものである。さらに、光学フィルム1は、障子などの建具(内装部材または外装部材)の採光部に設けられる光学体として用いても好適なものである。
【0019】
光学フィルム1が、必要に応じて、光学層2の出射面S2に第1の基材4aをさらに備えるようにしてもよい。また、光学フィルム1が、必要に応じて、光学層2の入射面S1に第2の基材5aをさらに備えるようにしてもよい。なお、このように第1の基材4a、および/または第2の基材5aを光学フィルム1に備える場合には、第1の基材4a、および/または第2の基材5aを光学フィルム1に備えた状態において、後述する透明性、および透過色などの光学特性を満たすことが好ましい。
【0020】
光学フィルム1が、必要に応じて貼合層6をさらに備えるようにしてもよい。この貼合層6は、光学フィルム1の入射面S1および出射面S2のうち、窓材10に貼り合わされる面に形成される。この貼合層6を介して、光学フィルム1は被着体である窓材10の屋内側または屋外側に貼り合わされる。貼合層6としては、例えば、接着剤(例えば、UV硬化型樹脂、2液混合型樹脂)を主成分とする接着層、または粘着剤(例えば、感圧粘着材(PSA:Pressure Sensitive Adhesive))を主成分とする粘着層を用いることができる。貼合層6が粘着層である場合、貼合層6上に形成された剥離層7をさらに備えることが好ましい。このような構成にすることで、剥離層7を剥離するだけで、貼合層6を介して窓材10などの被着体に対して光学フィルム1を容易に貼り合わせることができるからである。
【0021】
光学フィルム1が、第2の基材5aと、貼合層6および/または第2の光学層5の接合性を向上させる観点から、第2の基材5aと、貼合層6および/または第2の光学層5との間に、プライマー層(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。また、同様の箇所の接合性を向上させる観点から、プライマー層に代えて、またはプライマー層と共に、公知の物理的前処理を施すことが好ましい。公知の物理的前処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理などが挙げられる。
【0022】
光学フィルム1が、窓材10などの被着体に貼り合わされる入射面S1または出射面S2上、またはその面と波長選択反射層3との間に、バリア層(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。このようにバリア層を備えることで、入射面S1または出射面S2から波長選択反射層3への水分の拡散を低減し、波長選択反射層3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、光学フィルム1の耐久性を向上させることができる。
【0023】
光学フィルム1は、表面に耐擦傷性などを付与する観点から、ハードコート層8をさらに備えるようにしてもよい。このハードコート層8は、光学フィルム1の入射面S1および出射面S2のうち、窓材10などの被着体に貼り合わされる面とは反対側の面に形成することが好ましい。光学フィルム1の入射面S1または出射面S2に、防汚性などを付与する観点から、撥水性または親水性を有する層をさらに備えてもよい。このような機能を有する層は、例えば、光学層2上に直接備える、またはハードコート層8などの各種機能層上に備えるようにしてもよい。
【0024】
光学フィルム1は、光学フィルム1を窓材10などの被着体に容易に貼り合わせ可能にする観点からすると、可撓性を有することが好ましい。ここで、フィルムにはシートが含まれるものとする。すなわち、光学フィルム1には光学シートも含まれものとする。
【0025】
光学フィルム1は、透明性を有していることが好ましい。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5との屈折率差が、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。0.008を超え0.010以下の範囲であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。0.005を超え0.008以下の範囲であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。0.005以下であれば、回折パターンは殆ど気にならない。第1の光学層4および第2の光学層5のうち、窓材10などと貼り合わせる側となる光学層は、粘着剤を主成分としてもよい。このような構成とすることで、粘着材を主成分とする第1の光学層4、または第2の光学層5により光学フィルム1を窓材10などに貼り合わせることができる。なお、このような構成にする場合、粘着剤の屈折率差が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0026】
第1の光学層4と第2の光学層5とは、屈折率などの光学特性が同じであることが好ましい。より具体的には、第1の光学層4と第2の光学層5とが、可視領域において透明性を有する同一材料、例えば同一樹脂材料からなることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5とを同一材料により構成することで、両者の屈折率が等しくなるので、可視光の透明性を向上させることができる。ただし、同一材料を出発源としても、成膜工程における硬化条件などにより最終的に生成する層の屈折率が異なることがあるので、注意が必要である。これに対して、第1の光学層4と第2の光学層5とを異なる材料により構成すると、両者の屈折率が異なるので、波長選択反射層3を境界として光が屈折し、透過像がぼやける傾向がある。特に、遠くの電灯など点光源に近い物を観察すると回折パターンが顕著に観察される傾向がある。なお、屈折率の値を調整するために、第1の光学層4および/または第2の光学層5に添加剤を混入させてもよい。
【0027】
第1の光学層4と第2の光学層5は、可視領域において透明性を有することが好ましい。ここで、透明性の定義には2種類の意味があり、光の吸収がないことと、光の散乱がないことである。一般的に透明と言った場合に前者だけを指すことがあるが、第1の実施形態に係る光学フィルム1では両者を備えることが好ましい。現在利用されている再帰反射体は、道路標識や夜間作業者の衣服など、その表示反射光を視認することを目的としているため、例えば散乱性を有していても、下地反射体と密着していれば、その反射光を視認することができる。例えば、画像表示装置の前面に、防眩性の付与を目的として散乱性を有するアンチグレア処理をしても、画像は視認できるのと同一の原理である。しかしながら、第1の実施形態に係る光学フィルム1は、指向反射する特定の波長以外の光を透過する点に特徴を有しており、この透過波長を主に透過する透過体に接着し、その透過光を観察するため、光の散乱がないことが好ましい。但し、その用途によっては、第2の光学層5に意図的に散乱性を持たせることも可能である。
【0028】
光学フィルム1は、好ましくは、透過した特定波長以外の光に対して主に透過性を有する剛体、例えば、窓材10に粘着剤などを介して貼り合わせて使用される。窓材10としては、高層ビルや住宅などの建築用窓材、車両用の窓材などが挙げられる。建築用窓材に光学フィルム1を適用する場合、特に東〜南〜西向きの間のいずれかの向き(例えば南東〜南西向き)に配置された窓材10に光学フィルム1を適用することが好ましい。このような位置の窓材10に適用することで、より効果的に熱線を反射することができるからである。光学フィルム1は、単層の窓ガラスのみならず、複層ガラスなどの特殊なガラスにも用いることができる。また、窓材10は、ガラスからなるものに限定されるものではなく、透明性を有する高分子材料からなるものを用いてもよい。光学層2が、可視領域において透明性を有することが好ましい。このように透明性を有することで、光学フィルム1を窓ガラスなどの窓材10に貼り合せた場合、可視光を透過し、太陽光による採光を確保することができるからである。また、貼り合わせる面としてはガラスの内面のみならず、外面にも使用することができる。
【0029】
また、光学フィルム1は他の熱線カットフィルムと併用して用いることができ、例えば空気と光学フィルム1との界面(すなわち、光学フィルム1の最表面)に光吸収塗膜を設けることもできる。また、光学フィルム1は、ハードコート層、紫外線カット層、表面反射防止層などとも併用して用いることができる。これらの機能層を併用する場合、これらの機能層を光学フィルム1と空気との間の界面に設けることが好ましい。ただし、紫外線カット層については、光学フィルム1よりも太陽側に配置する必要があるため、特に室内の窓ガラス面に内貼り用として用いる場合には、該窓ガラス面と光学フィルム1の間に紫外線カット層を設けることが望ましい。この場合、窓ガラス面と光学フィルム1の間の貼合層中に、紫外線吸収剤を添加するようにしてもよい。
【0030】
また、光学フィルム1の用途に応じて、光学フィルム1に対して着色を施し、意匠性を付与するようにしてもよい。このように意匠性を付与する場合、透明性を損なわない範囲で第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、可視領域における特定の波長帯の光を主として吸収する構成とすることが好ましい。
【0031】
図2は、光学フィルム1に対して入射する入射光と、光学フィルム1により反射された反射光との関係を示す斜視図である。光学フィルム1は、光Lが入射する入射面S1を有する。光学フィルム1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L1を選択的に正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L2を透過することが好ましい。また、光学フィルム1は、上記特定波長帯以外の光に対して透明性を有し、その透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。但し、θ:入射面S1に対する垂線l1と、入射光Lまたは反射光L1とのなす角である。φ:入射面S1内の特定の直線l2と、入射光Lまたは反射光L1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。ここで、入射面内の特定の直線l2とは、入射角(θ、φ)を固定し、光学フィルム1の入射面S1に対する垂線l1を軸として光学フィルム1を回転したときに、φ方向への反射強度が最大になる軸である(図3参照)。但し、反射強度が最大となる軸(方向)が複数ある場合、そのうちの1つを直線l2として選択するものとする。なお、垂線l1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。
【0032】
選択的に指向反射する特定の波長帯の光、および透過させる特定の光は、光学フィルム1の用途により異なる。例えば、窓材10に対して光学フィルム1を適用する場合、選択的に指向反射する特定の波長帯の光は近赤外光であり、透過させる特定の波長帯の光は可視光であることが好ましい。具体的には、選択的に指向反射する特定の波長帯の光が、主に波長帯域780nm〜2100nmの近赤外線であることが好ましい。近赤外線を反射することで、光学体をガラス窓などの窓材に貼り合わせた場合に、建物内の温度上昇を抑制することができる。したがって、冷房負荷を軽減し、省エネルギー化を図ることができる。ここで、指向反射とは、正反射以外のある特定の方向への反射を有し、かつ、指向性を持たない拡散反射強度よりも十分に強いことを意味する。ここで、反射するとは、特定の波長帯域、例えば近赤外域における反射率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上であることを示す。透過するとは、特定の波長帯域、例えば可視光域における透過率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上であることを示す。
【0033】
光学フィルム1において、指向反射する方向φoが−90°以上、90°以下であることが好ましい。光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空方向に戻すことができるからである。周辺に高い建物がない場合にはこの範囲の光学フィルム1が有用である。また、指向反射する方向が(θ、−φ)近傍であることが好ましい。近傍とは、好ましく(θ、−φ)から5度以内、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内の範囲内のずれのことをいう。この範囲にすることで、光学フィルム1を窓材10に貼った場合、同程度の高さが立ち並ぶ建物の上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を他の建物の上空に効率良く戻すことができるからである。このような指向反射を実現するためには、一方向に延在された柱状体を一次元配列して、第1の光学層4または第2の光学層5の凹凸面を形成することが好ましい。(θ、φ)方向(−90°<φ<90°)から入射した光は、柱状体の傾斜角に基づいて(θo、−φ)方向(0°<θo<90°)に反射させることができる。
【0034】
光学フィルム1において、特定波長体の光の指向反射が、再帰反射近傍方向、すなわち、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光に対する、特定波長体の光の反射方向が、(θ、φ)近傍であることが好ましい。光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に戻すことができるからである。ここで近傍とは5度以内が好ましく、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内である。この範囲にすることで、光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に効率良く戻すことができるからである。また、赤外線センサーや赤外線撮像のように、赤外光照射部と受光部が隣接している場合は、再帰反射方向は入射方向と等しくなければならないが、本発明のように特定の方向からセンシングする必要がない場合は、厳密に同一方向とする必要はない。
【0035】
光学フィルム1において、透過性を持つ波長帯に対する透過像鮮明度に関し、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、さらに好ましくは75以上である。透過像鮮明度の値が50未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。50以上60未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。60以上75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が、好ましくは230以上、より好ましくは270以上、さらに好ましくは350以上である。透過像鮮明度の合計値が230未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。230以上270未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。270以上350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。ここで、透過像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。
【0036】
光学フィルム1において、透過性を持つ波長帯に対するヘイズが、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。ヘイズが6%を超えると、透過光が散乱され、曇って見えるためである。ここで、ヘイズは、村上色彩製HM−150を用いて、JIS K7136で規定される測定方法により測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。光学フィルム1の入射面S1、好ましくは入射面S1および出射面S2は、透過像鮮明度を低下させない程度の平滑性を有する。具体的には、入射面S1および出射面S2の算術平均粗さRaは、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。なお、上記算術平均粗さRaは、入射面の表面粗さを測定し、2次元断面曲線から粗さ曲線を取得し、粗さパラメータとして算出したものである。なお、測定条件はJIS B0601:2001に準拠している。以下に測定装置および測定条件を示す。
測定装置:全自動微細形状測定機 サーフコーダーET4000A(株式会社小坂研究所)
λc=0.8mm、評価長さ4mm、カットオフ×5倍
データサンプリング間隔0.5μm
【0037】
光学フィルム1の透過色はなるべくニュートラルに近く、色付きがあるとしても涼しい印象を与える青、青緑、緑色などの薄い色調が好ましい。このような色調を得る観点からすると、入射面S1から入射し、光学層2および波長選択反射層3を透過し、出射面S2から出射される透過光および反射光の色度座標x、yは、例えばD65光源の照射に対しては、好ましくは0.20<x<0.35かつ0.20<y<0.40、より好ましくは、0.25<x<0.32かつ0.25<y<0.37、更に好ましくは0.30<x<0.32かつ0.30<y<0.35の範囲を満たすのが望ましい。更に、色調が赤みを帯びないためには、好ましくはy>x−0.02、より好ましくはy>xの関係を満たすのが望ましい。また、反射色調が入射角度によって変化すると、例えばビルの窓に適用された場合に、場所によって色調が異なったり、歩くと色が変化して見えるため好ましくない。このような色調の変化を抑制する観点からすると、5°以上60°以下の入射角度θで入射面S1または出射面S2から入射し、光学フィルム1により反射された正反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、光学フィルム1の両主面のいずれにおいても、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.01以下である。このような反射光に対する色座標x、yに関する数値範囲の限定は、入射面S1、および出射面S2の両方の面において満たされることが望ましい。
【0038】
正反射近傍での色変化を抑制するためには、好ましくは5°以下、更に好ましくは10°以下の傾斜角を有する平面が含まれないことが好ましい。また、波長選択反射層3が樹脂で覆われている場合、入射光が空気から樹脂に入射する際に屈折するため、より広い入射角の範囲で正反射光近傍での色調変化を抑制することができる。その他、正反射以外への反射色が問題になる場合は、問題となる方向に指向反射しないように、光学フィルム1を配置することが好ましい。
【0039】
以下、光学フィルム1を構成する第1の光学層4、第2の光学層5、および波長選択反射層3について順次説明する。
【0040】
(第1の光学層、第2の光学層)
第1の光学層4は、例えば、波長選択反射層3を支持し、かつ保護するためのものである。第1の光学層4は、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、例えば、樹脂を主成分とする層からなる。第1の光学層4の両主面のうち、例えば、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹凸面(第1の面)である。波長選択反射層3は該凹凸面上に形成される。
【0041】
第2の光学層5は、波長選択反射層3が形成された第1の光学層4の第1の面(凹凸面)を包埋することにより、波長選択反射層3を保護するためのものである。第2の光学層5は、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、例えば、樹脂を主成分とする層からなる。第2の光学層5の両主面のうち、例えば、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹凸面(第2の面)である。第1の光学層4の凹凸面と第2の光学層5の凹凸面とは、互いに凹凸を反転した関係にある。
【0042】
第1の光学層4の凹凸面は、例えば、1次元配列された非対称な複数の三角柱状体4cにより形成されている。第2の光学層5の凹凸面は、例えば、1次元配列された非対称な複数の三角柱状体5cにより形成されている。第1の光学層4の三角柱状体4cと第2の光学層5の三角柱状体5cとは、凹凸が反転している点のみが異なるので、以下では第1の光学層4の三角柱状体4cについて説明する。
【0043】
光学フィルム1において、三角柱状体4cのピッチPは、好ましくは5μm以上5mm以下、より好ましくは5μm以上250μm未満、さらに好ましくは20μm以上200μm以下である。三角柱状体4cのピッチが5μm未満であると、三角柱状体4cの形状を所望のものとすることが難しい上、波長選択反射層3の波長選択特性は一般的には急峻にすることが困難であるため、透過波長の一部を反射することがある。このような反射が起こると回折が生じて高次の反射まで視認されるため、透明性が悪く感じられる傾向がある。一方、三角柱状体4cのピッチが5mmを超えると、指向反射に必要な三角柱状体4cの形状を考慮した場合、必要な膜厚が厚くなりフレキシブル性が失われ、窓材10などの剛体に貼りあわせることが困難になる。また、三角柱状体4cのピッチを250μm未満にすることにより、さらにフレキシブル性が増し、ロール・ツー・ロールでの製造が容易となり、バッチ生産が不要となる。窓などの建材に本発明の光学素子を適用するためには、数m程度の長さが必要であり、バッチ生産よりもロール・ツー・ロールでの製造が適している。さらに、ピッチを20μm以上200μm以下とした場合には、より生産性が向上する。
【0044】
また、第1の光学層4の表面に形成される三角柱状体4cの形状は1種類に限定されるものではなく、複数種類の形状の三角柱状体4cを第1の光学層4の表面に形成するようにしてもよい。複数種類の形状の三角柱状体4cを表面に設ける場合、複数種類の形状の三角柱状体4cからなる所定のパターンが周期的に繰り返されるようにしてもよい。また、所望とする特性によっては、複数種類の三角柱状体4cがランダム(非周期的)に形成されるようにしてもよい。
【0045】
図3Aは、第1の光学層に形成された三角柱状体の形状例を示す斜視図である。図3Bは、図3Aに示す三角柱状体が形成された第1の光学層を備える光学フィルムの一構成例を示す断面図である。三角柱状体4cは、一方向に延在された非対称な三角柱状体であり、この柱状の三角柱状体4cが一方向に向かって一次元配列されている。このような形状にすることで、入射光を1回または2回の反射で上空へ戻すことができる。したがって、入射光を3回の反射で上空へ戻すコーナーキューブに比して、波長選択反射層3の光吸収量を低減し、発熱を抑制することができる。波長選択反射層3はこの三角柱状体4c上に成膜させるため、波長選択反射層3の形状は、三角柱状体4cの表面形状と同様の形状を有することになる。
【0046】
図3Aに示すように、三角柱状体4cは、光学フィルム1の入射面S1または出射面S2に垂直な垂線l1に対して非対称な形状を有する三角柱状体である。この場合、三角柱状体4cの主軸lmが、垂線l1を基準にして三角柱状体4cの配列方向aに傾くことになる。ここで、三角柱状体4cの主軸lmとは、三角柱状体断面の底辺の中点と三角柱状体の頂点とを通る直線を意味する。地面に対して略垂直に配置された窓材10に光学フィルム1を貼り合わせた場合には、三角柱状体4cの主軸lmが、垂線l1を基準にして窓材10の上方側(上空側)または下方側(地面側)に傾くこととなる。図3Bでは、三角柱状体4cの主軸lmが、垂線l1を基準にして窓材10の下方(地面側)に傾いた例が示されている。
【0047】
図4Aは、図3Bに示した光学フィルムの一部を拡大して表す拡大断面図である。図4Bは、図3Bに示した波長選択反射層を拡大して表す拡大断面図である。三角柱状体4cは、波長選択反射層3を形成する成膜面である三角柱面を形成する第1の傾斜面Sp1と第2の傾斜面Sp2とを有する。第1の傾斜面Sp1が、光学フィルム1を窓材10などの被着体に貼り合わせた場合に、上方側(上空側)となる面であり、第2の傾斜面Sp2が、光学フィルム1を窓材10などの被着体に貼り合わせた場合に、下方側(地面側)となる面である。以下では、第1の傾斜面Sp1、第2の傾斜面Sp2に形成された波長選択反射層3の膜厚をそれぞれ、波長選択反射層3の第1の膜厚d1、第2の膜厚d2と称する。
【0048】
三角柱状体4cは、第1の傾斜面Sp1と第2の傾斜面Sp2により形成される頂角αと、入射面S1または出射面S2に対する第1の傾斜面Sp1の傾斜角βとを有する。傾斜角βは、光学フィルム1を窓材10などの被着体に貼り合わせた場合に、上方側(上空側)となる傾斜角である。光学フィルム1は、各三角柱状体4cにおける傾斜角βが頂角αよりも上方になるようにして、窓材10や建築物などの被着体に対して貼り合わされる。三角柱状体の先端に曲率Rを付すようにしてもよい。このように先端に曲率Rが付されている場合、頂角Rは、曲率Rにより湾曲する頂部より手前の部分の辺の開き角度とする。
【0049】
頂角αおよび傾斜角βは、以下の式(1)〜(4)のいずれか1つの式を満たしている。いずれか1つの式を満たすことで、高い上方反射率を得ることができるからである。
−3.6α+396≦β≦80 (85≦α≦90) ・・・(1)
α−30≦β≦−α+170 (90≦α≦100) ・・・(2)
30≦β≦α−50 (80≦α≦90) ・・・(3)
30≦β≦−α+130 (90≦α≦100) ・・・(4)
【0050】
頂角αおよび傾斜角βが式(1)または(2)を満たしている場合、第1の膜厚d1と第2の膜厚d2とがほぼ同一であることが好ましい。これにより、透過性能、及び反射性能の向上を見込むことができるからである。ここで、膜厚がほぼ同一とは、第1の膜厚d1に対する、第2の膜厚d2の割合((d1/d2)×100)[%]が、±10%以下であることをいう。
【0051】
頂角αおよび傾斜角βが式(3)または(4)を満たしている場合、第1の膜厚d1と第2の膜厚d2とが異なっていても良い。この場合、片方の斜面の波長選択反射層3が薄いと、光を反射できずに透過してしまうため、波長選択反射層3の厚みは7nm以上とすることが好ましい。一方、波長選択反射層3の厚みが14nmを超えると、反射光の色浮が生じてしまうため、波長選択反射層3の厚みは14nm以下とすることが好ましい。すなわち、膜厚の比率は200%以下であることが好ましい。
【0052】
第1の光学層4が、100℃での貯蔵弾性率の低下が少なく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異ならない樹脂を主成分としていることが好ましい。具体的には、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下であり、100℃での貯蔵弾性率が3×107Pa以上である樹脂を含んでいることが好ましい。なお、第1の光学層4は、1種類の樹脂で構成されているのが好ましいが、2種類以上の樹脂を含んでいてもよい。また、必要に応じて、添加剤が混入されていてもよい。
【0053】
このように100℃での貯蔵弾性率の低下が少なく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異ならない樹脂を主成分としていると、熱、または熱と加圧とを伴うプロセスが第1の光学層4の凹凸面(第1の面)を形成後に存在する場合でも、設計した界面形状をほぼ保つことができる。これに対して、100℃での貯蔵弾性率の低下が大きく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異なる樹脂を主成分としていると、設計した界面形状からの変形が大きくなり、光学フィルム1にカールが生じたりする。
【0054】
ここで、熱を伴うプロセスには、アニール処理などのように直接的に光学フィルム1またはその構成部材に対して熱を加えるようなプロセスのみならず、薄膜の成膜時、および樹脂組成物の硬化時などに、成膜面が局所的に温度上昇して間接的にそれらに対して熱を加えるようなプロセスや、エネルギー線照射により金型の温度が上昇し、間接的に光学フィルムに熱を加えるようなプロセスも含まれる。また、上述した貯蔵弾性率の数値範囲を限定することにより得られる効果は、樹脂の種類に特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化型樹脂、およびエネルギー線照射型樹脂のいずれでも得ることができる。
【0055】
第1の光学層4の貯蔵弾性率は、例えば以下のようにして確認することができる。第1の光学層4の表面が露出している場合には、その露出面の貯蔵弾性率を微小硬度計を用いて測定することにより確認することができる。また、第1の光学層4の表面に第1の基材4aなどが形成されている場合には、第1の基材4aなどを剥離して、第1の光学層4の表面を露出させた後、その露出面の貯蔵弾性率を微小硬度計を用いて測定することにより確認することができる。
【0056】
高温下での弾性率の低下を抑制する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂にあっては、側鎖の長さおよび種類などを調整する方法が挙げられ、熱硬化型樹脂、およびエネルギー線照射型樹脂にあっては、架橋点の量および架橋材の分子構造などを調整する方法が挙げられる。但し、このような構造変更によって樹脂材料そのものに求められる特性が損なわれないようにすることが好ましい。例えば、架橋剤の種類によっては室温付近での弾性率が高くなり、脆くなってしまったり、収縮が大きくなりフィルムが湾曲したり、カールしたりすることがあるので、架橋剤の種類を所望とする特性に応じて適宜選択することが好ましい。
【0057】
第1の光学層4が、結晶性高分子材料を主成分として含んでいる場合には、ガラス転移点が、製造プロセス中の最高温度より大きく、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が少ない樹脂を主成分としていることが好ましい。これに対して、ガラス転移点が、室温25℃以上、製造プロセス中の最高温度以下の範囲内にあり、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が大きい樹脂を用いると、製造プロセス中に、設計した理想的な界面形状を保持することが困難になる。
【0058】
第1の光学層4が、非晶性高分子材料を主成分として含んでいる場合には、融点が、製造プロセス中の最高温度より大きく、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が少ない樹脂を主成分としていることが好ましい。これに対して、融点が、室温25℃以上、製造プロセス中の最高温度以下の範囲内にあり、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が大きい樹脂を用いると、製造プロセス中に、設計した理想的な界面形状を保持することが困難になる。
【0059】
ここで、製造プロセス中の最高温度とは、製造プロセス中における第1の光学層4の凹凸面(第1の面)の最高温度を意味している。上述した貯蔵弾性率の数値範囲、およびガラス転移点の温度範囲は、第2の光学層5も満たしていることが好ましい。
【0060】
すなわち、第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下である樹脂を含んでいることが好ましい。室温25℃において光学フィルム1に可撓性を付与することができるので、ロール・ツー・ロールでの光学フィルム1の製造が可能となるからである。
【0061】
第1の基材4a、および第2の基材5aは、例えば、透明性を有している。基材の形状としては、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、フィルム状を有することが好ましいが、特にこの形状に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aの材料としては、例えば、公知の高分子材料を用いることができる。公知の高分子材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられるが、特にこれらの材料に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aの厚さは、生産性の観点から38〜100μmであることが好ましいが、この範囲に特に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aは、エネルギー線透過性を有することが好ましい。これにより、後述するように、第1の基材4a、または第2の基材5aと波長選択反射層3との間に介在させたエネルギー線硬化型樹脂に対して、第1の基材4a、または第2の基材5a側からエネルギー線を照射し、エネルギー線硬化型樹脂を硬化させることができるからである。
【0062】
第1の光学層4、および第2の光学層5は、例えば、透明性を有する。第1の光学層4、および第2の光学層5は、例えば、樹脂組成物を硬化することにより得られる。樹脂組成物としては、製造の容易性の観点からすると、光または電子線などにより硬化するエネルギー線硬化型樹脂、または熱により硬化する熱硬化型樹脂を用いることが好ましい。エネルギー線硬化型樹脂としては、光により硬化する感光性樹脂組成物が好ましく、紫外線により硬化する紫外線硬化型樹脂組成物が最も好ましい。樹脂組成物は、第1の光学層4、または第2の光学層5と波長選択反射層3との密着性を向上させる観点から、リン酸を含有する化合物、コハク酸を含有する化合物、ブチロラクトンを含有する化合物をさらに含有することが好ましい。リン酸を含有する化合物としては、例えばリン酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはリン酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。コハク酸を含有する化合物としては、例えば、コハク酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはコハク酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。ブチロラクトンを含有する化合物としては、例えば、ブチロラクトンを含有する(メタ)アクリレート、好ましくはブチロラクトンを官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。
【0063】
紫外線硬化型樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有している。また、紫外線硬化型樹脂組成物が、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤および酸化防止剤などをさらに含有するようにしてもよい。
【0064】
アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることが好ましい。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。ここで、オリゴマーとは、分子量500以上60000以下の分子をいう。
【0065】
光重合開始剤としては、公知の材料から適宜選択したものを使用できる。公知の材料としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。重合開始剤の配合量は、固形分中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光硬化性が低下し、実質的に工業生産に適さない。一方、10質量%を超えると、照射光量が小さい場合に、塗膜に臭気が残る傾向にある。ここで、固形分とは、硬化後のハードコート層12を構成する全ての成分をいう。具体的には例えば、アクリレート、および光重合開始剤などを固形分という。
【0066】
樹脂はエネルギー線照射や熱などによって構造を転写できるものが好ましく、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、熱可塑性樹脂など上述の屈折率の要求を満たすものであればどのような種類の樹脂を使用しても良い。
【0067】
硬化収縮を低減するために、オリゴマーを添加してもよい。硬化剤としてポリイソシアネートなどを含んでもよい。また、第1の光学層4、および第2の光学層5との密着性を考慮して水酸基やカルボキシル基、リン酸基を有するような単量体、多価アルコール類、カルボン酸、シラン、アルミ、チタンなどのカップリング剤や各種キレート剤などを添加しても良い。
【0068】
樹脂組成物が、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。この架橋剤としては、環状の架橋剤を用いることが特に好ましい。架橋剤を用いることで、室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。なお、室温での貯蔵弾性率が大きく変化すると、光学フィルム1が脆くなり、ロール・ツー・ロール工程などによる光学フィルム1の作製が困難となる。環状の架橋剤としては、例えば、ジオキサングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0069】
第1の基材4a、または第2の基材5aは、第1の光学層4、または第2の光学層5より水蒸気透過率が低いことが好ましい。例えば、第1の光学層4をウレタンアクリレートのようなエネルギー線硬化型樹脂で形成する場合には、第1の基材4aを第1の光学層4より水蒸気透過率が低く、かつ、エネルギー線透過性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂により形成することが好ましい。これにより、入射面S1または出射面S2から波長選択反射層3への水分の拡散を低減し、波長選択反射層3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、光学フィルム1の耐久性を向上させることができる。なお、厚み75μmのPETの水蒸気透過率は、10g/m2/day(40℃、90%RH)程度である。
【0070】
第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、極性の高い官能基を含み、その含有量が第1の光学層4と第2の光学層5とで異なることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5との両方が、リン酸化合物(例えば、リン酸エステル)を含み、第1の光学層4と第2の光学層5とにおける上記リン酸化合物の含有量が異なることが好ましい。リン酸化合物の含有量は、第1の光学層4と第2の光学層5とにおいて、好ましくは2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上異なる。
【0071】
第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、リン酸化合物を含む場合、波長選択反射層3は、リン酸化合物を含む第1の光学層4または第2の光学層5と接する面に、酸化物もしくは窒化物、酸窒化物を含むことが好ましい。波長選択反射層3は、リン酸化合物を含む第1の光学層4または第2の光学層5と接する面に、酸化亜鉛(ZnO)または酸化ニオブを含む層を有することが特に好ましい。これらの光学層と波長選択反射層3との密着性が向上するためである。また、波長選択反射層3がAg等の金属を含む場合に、腐食防止効果が高いからである。また、この波長選択反射層3は、Al、Gaなどのドーパントを含有していても良い。金属酸化物層をスパッタ法等で形成する場合に、膜質や平滑性が向上するからである。
【0072】
第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、光学フィルム1や窓材10などに意匠性を付与する観点からすると、可視領域における特定の波長帯の光を吸収する特性を有することが好ましい。樹脂中に分散させる顔料は、有機系顔料および無機系顔料のいずれであってもよいが、特に顔料自体の耐候性が高い無機系顔料とすることが好ましい。具体的には、ジルコングレー(Co、NiドープZrSiO4)、プラセオジムイエロー(PrドープZrSiO4)、クロムチタンイエロー(Cr、SbドープTiO2またはCr、WドープTiO2)、クロムグリーン(Cr2O3など)、ピーコックブルー((CoZn)O(AlCr)2O3)、ビクトリアグリーン((Al、Cr)2O3)、紺青(CoO・Al2O3・SiO2)、バナジウムジルコニウム青(VドープZrSiO4)、クロム錫ピンク(CrドープCaO・SnO2・SiO2)、陶試紅(MnドープAl2O3)、サーモンピンク(FeドープZrSiO4)などの無機顔料、アゾ系顔料やフタロシアニン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0073】
(波長選択反射層)
波長選択反射層3は、例えば、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光のうち、特定波長帯の光を指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過するものである。波長選択反射層3は、例えば、積層膜、透明導電層、または機能層である。また、積層膜、透明導電層、および機能層を2以上組み合わせて波長選択反射層3としてもよい。波長選択反射層3の平均層厚は、好ましくは20μm、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。波長選択反射層3の平均層厚が20μmを超えると、透過光が屈折する光路が長くなり、透過像が歪んで見える傾向がある。反射層の形成方法としては、例えば、スパッタ法、蒸着法、ディップコーティング法、ダイコーティング法などを用いることができる。
【0074】
以下、積層膜、透明導電層、および機能層について順次説明する。
(積層膜)
積層膜は、例えば、屈折率の異なる低屈折率層および高屈折率層を交互に積層してなる積層膜である。または、積層膜は、例えば、赤外領域において反射率の高い金属層と、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する高屈折率層とを交互に積層してなる積層膜である。高屈折率層としては、光学透明層、または透明導電層を用いることができる。
【0075】
赤外領域において反射率の高い金属層は、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのAg系、Cu系、Al系、Si系またはGe系の材料が好ましい。また、金属層の材料として合金を用いる場合には、金属層は、AlCu、AlTi、AlCr、AlCo、AlNdCu、AlMgSi、AgPdCu、AgPdTi、AgCuTi、AgPdCa、AgPdMg、AgPdFe、AgまたはSiBなどを主成分とすることが好ましい。また、金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。特に、金属層の材料としてAgを用いる場合には、上記材料を添加することが好ましい。
【0076】
光学透明層は、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する光学透明層である。光学透明層は、例えば酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタンなどの高誘電体を主成分とする。透明導電層は、例えば、ZnO系酸化物、インジウムドープ酸化錫などの主成分とする。なお、ZnO系酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(GAZO)、Alをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびガリウム(Ga)をドープした酸化亜鉛(GZO)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0077】
また、積層膜に含まれる高屈折率層の屈折率は、1.7以上2.6以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.8以上2.6以下、更に好ましくは1.9以上2.6以下である。これにより、クラックが発生しない程度の薄い膜で可視光領域での反射防止が実現できるからである。ここで、屈折率は、波長550nmにおけるものである。高屈折率層は、例えば、金属の酸化物を主成分とする層である。金属の酸化物としては、層の応力を緩和し、クラックの発生を抑制する観点からすると、酸化亜鉛以外の金属酸化物を用いることが好ましい場合もある。特に、酸化ニオブ(例えば、五酸化ニオブ)、酸化タンタル(例えば、五酸化タンタル)、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。高屈折率層の膜厚は、好ましくは10nm以上120nm以下、より好ましくは10nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上80nm以下である。膜厚が10nm未満であると、可視光が反射しやすくなる傾向がある。一方、膜厚が120を超えると、透過率の低下やクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0078】
なお、積層膜は、無機材料からなる薄膜に限定されるものではなく、高分子材料からなる薄膜や高分子中に微粒子などを分散した層を積層して構成してもよい。また、これら光学透明層成膜時の下層金属の酸化劣化を防ぐ目的で、成膜する光学透明層の界面に数nm程度のTiなどの薄いバッファー層を設けてもよい。ここで、バッファー層とは、上層成膜時に、自らが酸化することで下層である金属層などの酸化を抑制するための層である。
【0079】
(透明導電層)
透明導電層は、可視領域において透明性を有する導電性材料を主成分とする透明導電層である。透明導電層は、例えば、酸化錫、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ含有体、インジウムドープ酸化錫、インジウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化錫などの透明導電物質を主成分とする。もしくはこれらのナノ粒子や金属などの導電性を持つ材料のナノ粒子、ナノロッド、ナノワイヤーを樹脂中に高濃度に分散させた層を用いても良い。
【0080】
(機能層)
機能層は、外部刺激により反射性能などが可逆的に変化するクロミック材料を主成分とする。クロミック材料は、例えば、熱、光、侵入分子などの外部刺激により構造を可逆的に変化させる材料である。クロミック材料としては、例えば、フォトクロミック材料、サーモクロミック材料、ガスクロミック材料、エレクトロクロミック材料を用いることができる。
【0081】
フォトクロミック材料とは、光の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。フォトクロミック材料は、例えば紫外線などの光照射により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。フォトクロミック材料としては、例えばCr、Fe、NiなどをドープしたTiO2、WO3、MoO3、Nb2O5などの遷移金属酸化物を用いることができる。また、これらの層と屈折率の異なる層を積層することで波長選択性を向上させることもできる。
【0082】
サーモクロミック材料とは、熱の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。フォトクロミック材料は、加熱により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。サーモクロミック材料としては、例えばVO2などを用いることができる。また、転移温度や転移カーブを制御する目的で、W、Mo、Fなどの元素を添加することもできる。また、VO2などのサーモクロミック材料を主成分とする薄膜を、TiO2やITOなどの高屈折率体を主成分とする反射防止層で挟んだ積層構造としてもよい。
【0083】
または、コレステリック液晶などのフォトニックラティスを用いることもできる。コレステリック液晶は層間隔に応じた波長の光を選択的に反射することができ、この層間隔は温度によって変化するため、加熱により、反射率や色などの物性を可逆的に変化させることができる。この時、層間隔の異なるいくつかのコレステリック液晶層を用いて反射帯域を広げることも可能である。
【0084】
エレクトロクロミック材料とは、電気により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる材料である。エレクトロクロミック材料としては、例えば、電圧の印加により構造を可逆的に変化させる材料を用いることができる。より具体的には、エレクトロクロミック材料としては、例えば、プロトンなどのドープまたは脱ドープにより、反射特性が変わる反射型調光材料を用いることができる。反射型調光材料とは、具体的には、外部刺激により、光学的な性質を透明な状態と、鏡の状態、および/またはその中間状態に制御することができる材料である。このような反射型調光材料としては、例えば、マグネシウムおよびニッケルの合金材料、マグネシウムおよびチタンの合金材料を主成分とする合金材料、WO3やマイクロカプセル中に選択反射性を有する針状結晶を閉じ込めた材料などを用いることができる。
【0085】
具体的な機能層の構成としては、例えば、第2の光学層上に、上記合金層、Pdなどを含む触媒層、薄いAlなどのバッファー層、Ta2O5などの電解質層、プロトンを含むWO3などのイオン貯蔵層、透明導電層が積層された構成を用いることができる。または、第2の光学層上に透明導電層、電解質層、WO3などのエレクトロクロミック層、透明導電層が積層された構成を用いることができる。これらの構成では、透明導電層と対向電極の間に電圧を印加することにより、電解質層に含まれるプロトンが合金層にドープまたは脱ドープされる。これにより、合金層の透過率が変化する。また、波長選択性を高めるために、エレクトロクロミック材料をTiO2やITOなどの高屈折率体と積層することが望ましい。また、その他の構成として、第2の光学層上に透明導電層、マイクロカプセルを分散した光学透明層、透明電極が積層された構成を用いることができる。この構成では、両透明電極間に電圧を印加することにより、マイクロカプセル中の針状結晶が配向した透過状態にしたり、電圧を除くことで針状結晶が四方八方を向き、波長選択反射状態にすることができる。
【0086】
[光学フィルムの機能]
図5A、図5Bは、光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。図5Aに示すように、この光学フィルム1に入射した太陽光のうち近赤外線L1の一部は、入射した方向と同程度の上空方向に指向反射されるのに対して、可視光L2は光学フィルム1を透過する。
【0087】
また、図5Bに示すように、光学フィルム1に入射し、波長選択反射層3の反射層面で反射された光は、入射角度に応じた割合で、上空反射する成分LAと、上空反射しない成分LBとに分離する。そして、上空反射しない成分LBは、第2の光学層4と空気との界面で全反射された後、最終的に入射方向とは異なる方向に反射される。
【0088】
図6は、三角柱状体4cの稜線l3と、入射光Lおよび反射光L1との関係を示す。光学フィルム1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L1を選択的に(θo、−φ)の方向(0°<θo<90°)に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L2を透過することが好ましい。このような関係を満たすことで、特定波長帯の光を上空方向に反射できるからである。但し、θ:入射面S1に対する垂線l1と、入射光Lまたは反射光L1とのなす角である。φ:入射面S1内において柱状の三角柱状体4cの稜線l3と直交する直線とl2と、入射光Lまたは反射光L1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。なお、垂線l1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。
【0089】
[光学フィルムの全体形状]
図30は、第1の実施形態に係る光学フィルムの全体形状の一例を示す斜視図である。図30に示すように、光学フィルム1は、全体として帯状または矩形状の形状を有していることが好ましい。このような形状とすることで、光学フィルム1をロール・ツー・ロール工程により容易に作製することができる。また、ロール状などに光学フィルム1を巻回することで、取り扱いを容易とすることができる。以下では、帯状または矩形状を有する光学フィルム1の長手方向を長手方向DL、短手方向(幅方向ともいう。)を短手方向DWと称する。また、第1の光学層4に形成された三角柱状体4cの稜線lrの方向を稜線方向DRと称する。
【0090】
三角柱状体4cは、その稜線lrが光学フィルム1の短手方向DWと平行となるように第1の光学層4に形成されていることが好ましい。三角柱状体4cの稜線方向DRと光学フィルム1の長手方向を長手方向DLとが直交する関係にあることが好ましい。これにより、建築物の高さ方向と、帯状または矩形状の光学フィルム1の長手方向DLとが略平行の関係となるように、帯状または矩形状の光学フィルム1を建築物の窓材などに貼り合わせるだけで、光学フィルム1の反射機能を有効に発現させることができる。
【0091】
[光学フィルムの貼り合わせ方法]
図31A、図31Bは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの貼り合わせ方法の一例を説明するための略線図である。ビルディングなどの近年の高層建築物に設けられた窓材10は、横幅に比べて縦幅の方が大きい矩形状のものが一般的である。したがって、以下では、このような形状を有する窓材10に対して光学フィルム1を貼り合わせる例について説明する。
【0092】
まず、ロール状に巻回された光学フィルム(いわゆる原反)1から、帯状の光学フィルム1を巻き出し、貼り合わせる窓材10の形状に合わせて適宜裁断し、矩形状の光学フィルム1を得る。この矩形状の光学フィルム1は、図31Aに示すように、対向する1組みの長辺Laと、対向する1組みの短辺Lbとを有する。矩形状の光学フィルム1の長辺Laと、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRとが略直交している。すなわち、矩形状の光学フィルム1の長手方向DLと、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRの方向とが略直交している。
【0093】
次に、裁断した光学フィルム1の一方の短辺Lbを、矩形状の窓材10の上端に位置する短辺10aに位置合わせする。次に、矩形状の光学フィルム1を貼り合わせ層6などを介して窓材10の上端から下端に向かって順次貼り合わせる。これにより、光学フィルム1の他方の短辺Lbが、矩形状の窓材10の他端に位置する短辺10bに位置合わせされる。次に、必要に応じて、窓材10に貼り合わされた光学フィルム1の表面を押圧などして、窓材10と光学フィルム1との間に混入した気泡を脱気する。以上により、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRと、高層建築物などの建築物の高さ方向DHとが略平行となるように、矩形状の光学フィルム1が窓材10に貼り合わされる。
【0094】
[光学フィルムの貼り合わせ方向]
図32A、図32Bは、貼り合わせ方向による光学フィルム1の反射機能の相違を説明するための略線図である。
【0095】
図32Aでは、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRと、建築物の高さ方向DHとが略直交するように、光学フィルム1を窓材10に貼り合わさせた建築物500の例が示されている。すなわち、上述の光学フィルムの貼り合わせ方法により、光学フィルム1を窓材10に対して貼り合わせた例が示されている。このように光学フィルム1を窓材10に貼り合わせた場合には、光学フィルム1の反射機能を有効に発現させることができる。したがって、上方向から窓材10に入射した光の多くを、上方向に反射することができる。すなわち、窓材10の上方反射率を向上させることができる。
【0096】
図32Bでは、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRと、建築物の高さ方向DHとが直交せず、斜めの関係となるように、光学フィルム1を窓材10に貼り合わせた建築物600の例が示されている。このように光学フィルム1を窓材10に貼り合わせた場合には、光学フィルム1の反射機能を有効に発現させることができなくなる。したがって、上方向から窓材10に入射した光が、下方向に反射される割合が増加してしまう。すなわち、窓材10の上方反射率が低下してしまう。
【0097】
[光学フィルムの製造装置]
図7は、第1の実施形態に係る光学フィルムを製造するための製造装置の一構成例を示す概略図である。図7に示すように、この製造装置は、ラミネートロール41、42、ガイドロール43、塗布装置45、および照射装置46を備える。
【0098】
ラミネートロール41、42は、反射層付き光学層9と、第2の基材5aとをニップ可能に構成されている。ここで、反射層付き光学層9は、第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3を成膜したものである。なお、反射層付き光学層9として、第1の光学層4の波長選択反射層3が成膜された面と反対側の他主面上に第1の基材4aが形成されていてもよい。この例では、第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3が成膜され、他主面上に第1の基材4aが形成された場合が示されている。ガイドロール43は、帯状の光学フィルム1を搬送できるように、この製造装置内の搬送路に配置されている。ラミネートロール41、42およびガイドロール43の材質は特に限定されるものではなく、所望とするロール特性に応じてステンレスなどの金属、ゴム、シリコーンなどを適宜選択して用いることができる。
【0099】
塗布装置45は、例えば、コーターなどの塗布手段を備える装置を用いることができる。コーターとしては、例えば、塗布する樹脂組成物の物性などを考慮して、グラビア、ワイヤバー、およびダイなどのコーターを適宜使用することができる。照射装置46は、例えば、電子線、紫外線、可視光線、またはガンマ線などの電離線を照射する照射装置である。この例では、照射装置46として紫外線を照射するUVランプを用いた場合が図示されている。
【0100】
[光学フィルムの製造方法]
以下、図7〜図10を参照して、第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例について説明する。なお、以下に示す製造プロセスの一部または全部は、生産性を考慮して、ロール・ツー・ロールにより行われることが好ましい。但し、金型の作製工程は除くものとする。
【0101】
まず、図8Aに示すように、例えばバイト加工またはレーザー加工などにより、三角柱状体4cと同一の凹凸形状の金型、またはその金型の反転形状を有する金型(レプリカ)を形成する。次に、図8Bに示すように、例えば溶融押し出し法または転写法などを用いて、上記金型の凹凸形状をフィルム状の樹脂材料に転写する。転写法としては、型にエネルギー線硬化型樹脂を流し込み、エネルギー線を照射して硬化させる方法、樹脂に熱や圧力を加え、形状を転写する方法、または樹脂フィルムをロールから供給し、熱を加えながら型の形状を転写する方法(ラミネート転写法)などが挙げられる。これにより、図8Cに示すように、一主面に三角柱状体4cを有する第1の光学層4が形成される。
【0102】
また、図8Cに示すように、第1の基材4a上に、第1の光学層4を形成するようにしてもよい。この場合には、例えば、フィルム状の第1の基材4aをロールから供給し、該基材上にエネルギー線硬化型樹脂を塗布した後に型に押し当て、型の形状を転写し、エネルギー線を照射して樹脂を硬化させる方法が用いられる。なお、樹脂は、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。
【0103】
次に、図9Aに示すように、その第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3を成膜する。波長選択反射層3の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ウェットコーティング法、スプレーコーティング法などが挙げられ、これらの成膜方法から、三角柱状体4cの形状などに応じて適宜選択することが好ましい。次に、図9Bに示すように、必要に応じて、波長選択反射層3に対してアニール処理31を施す。アニール処理の温度は、例えば100℃以上250℃以下の範囲内である。
【0104】
次に、図9Cに示すように、未硬化状態の樹脂22を波長選択反射層3上に塗布する。樹脂22としては、例えば、エネルギー線硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂などを用いることができる。エネルギー線硬化型樹脂としては、紫外線硬化樹脂が好ましい。次に、図10Aのように、樹脂21上に第2の基材5aを被せることにより、積層体を形成する。次に、図10Bに示すように、例えばエネルギー線32または加熱32により樹脂22を硬化させるとともに、積層体に対して圧力33を加える。エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、可視光線、ガンマ線、電子線などを用いることができ、生産設備の観点から、紫外線が好ましい。積算照射量は、樹脂の硬化特性、樹脂や基材11の黄変抑制などを考慮して適宜選択することが好ましい。積層体に加える圧力は、0.01MPa以上1MPa以下の範囲内であることが好ましい。0.01MPa未満であると、フィルムの走行性に問題が生じる。一方、1MPaを超えると、ニップロールとして金属ロールを用いる必要があり、圧力ムラが生じ易く好ましくない。以上により、図10Cに示すように、波長選択反射層3上に第2の光学層5が形成され、光学フィルム1が得られる。
【0105】
ここで、図7に示す製造装置を用いて、光学フィルム1の形成方法について具体的に説明する。まず、図示しない基材供給ロールから第2の基材5aを送出し、送出された第2の基材5aは、塗布装置45の下を通過する。次に、塗布装置45の下を通過する第2の基材5a状に、塗布装置45により電離線硬化樹脂44を塗布する。次に、電離線硬化樹脂44が塗布された第2の基材5aをラミネートロールに向けて搬送する。一方、図示しない光学層供給ロールから反射層付き光学層9を送出し、ラミネートロール41、42に向けて搬送する。
【0106】
次に、第2の基材5aと反射層付き光学層9との間に気泡が入らないように、搬入された第2の基材5aと反射層付き光学層9とをラミネートロール41、42により挟み合わせ、第2の基材5aに対して反射層付き光学層9をラミネートする。次に、反射層付き光学層9によりラミネートされた第2の基材5aを、ラミネートロール41の外周面に沿わせながら搬送するとともに、照射装置46により第2の基材5a側から電離線硬化樹脂44に電離線を照射し、電離線硬化樹脂44を硬化させる。これにより、第2の基材5aと反射層付き光学層9とが電離線硬化樹脂44を介して貼り合わされ、目的とする長尺の光学フィルム1が作製される。次に、作製された帯状の光学フィルム1を図示しない巻き取りロールにより巻き取る。これにより、帯状の光学フィルム1が巻回された原反が得られる。
【0107】
硬化した第1の光学層4は、上述の第2の光学層形成時のプロセス温度をt℃としたときに、(t−20)℃における貯蔵弾性率が3×107Pa以上であることが好ましい。ここで、プロセス温度tとは、例えば、ラミネートロール41の加熱温度である。第1の光学層4は、例えば、第1の基材4a上に設けられ、第1の基材4aを介してラミネートロール41に沿うように搬送されるため、実際に第1の光学層4にかかる温度は、経験的に(t−20)℃程度であることが分かっている。したがって、第1の光学層4の(t−20)℃における貯蔵弾性率を3×107Pa以上にすることにより、熱、または熱と加圧とにより光学層内部の界面の凹凸形状が変形することを抑制することができる。
【0108】
また、第1の光学層4は、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下であることが好ましい。これにより、室温において可撓性を光学フィルムに付与することができる。したがって、ロール・ツー・ロールなどの製造工程により光学フィルム1を作製することが可能となる。
【0109】
なお、プロセス温度tは、光学層または基材の使用樹脂の耐熱性を考慮すると、200℃以下であることが好ましい。ただし、耐熱性の高い樹脂を用いることにより、プロセス温度tを200℃以上に設定することも可能である。
【0110】
第1の実施形態によれば、特定波長帯の光を反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる光学フィルム1において、波長選択反射層3による反射回数を1回または2回にすることができる。したがって、波長選択反射層3の光吸収による発熱を低減し、安全性の向上、および省エネルギー化(例えばCO2排出量の低減化)を実現することが可能である。
【0111】
また、非対称な複数の三角柱状体4cを一次元配列し、これらの三角柱状体4cの頂角αおよび傾斜角βを上記式(1)〜(4)のいずれか1つを満たす範囲内に設定しているので、高い上方反射率を得ることができる。また、コーナーキューブを三角柱状体4cとして用いた場合に比して、膜厚を小さくすることができる。したがって、光学フィルム1を低廉化することが可能となる。
【0112】
(1)素ガラス(フィルムを貼っていない状態のガラス)、(2)熱線反射平板構造を有するガラス、(3)コーナーキューブ型再帰反射構造(熱線再帰性反射構造)を有するガラス、(4)第1の実施形態に係る光学フィルムを貼ったガラスを窓に実際に設けた場合におけるガラスの室内側の温度の例を以下に示す。
素ガラス:32℃
熱線反射平板構造のガラス:34℃
熱線再帰性反射構造のガラス:35℃
第1の実施形態に係る光学フィルムを貼ったガラス:34.5℃
(但し、温度は、熱平衡到達後の平均温度である。)
この例に示すように、コーナーキューブ型再帰反射構造を有するガラスでは、素ガラスおよび熱線反射平板構造のガラスに比して温度が上昇する傾向がある。これに対して、第1の実施形態に係る光学フィルムを貼ったガラスでは、コーナーキューブ型再帰反射構造を有するガラスに比して温度が低下する傾向がある。
【0113】
<変形例>
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0114】
[第1の変形例]
図11Aは、第1の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。図11Aに示すように、この第1の変形例に係る光学フィルム1は、凹凸形状の入射面S1を有している。入射面S1の凹凸形状は、例えば、第1の光学層4の凹凸形状に倣うように形成されており、両形状の凸部の頂部と凹部の最下部との位置が一致している。入射面S1の凹凸形状は、第1の光学層4の凹凸形状よりもなだらかであることが好ましい。
【0115】
[第2の変形例]
図11Bは、第1の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。図11Bに示すように、この第2の変形例に係る光学フィルム1では、波長選択反射層3が形成された第1の光学層4の凹凸面のうちの凸形状頂部の位置が、第1の光学層4の入射面S1とほぼ同一の高さとなるように形成されている。
【0116】
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態は、特定波長の光を指向反射するのに対して、特定波長以外の光を散乱させる点において、第1の実施形態とは異なっている。光学フィルム1は、入射光を散乱する光散乱体を備えている。この散乱体は、例えば、光学層2の表面、光学層2の内部、および波長選択反射層3と光学層2との間のうち、少なくとも1箇所に設けられている。光散乱体は、好ましくは、波長選択反射層3と第1の光学層4との間、第1の光学層4の内部、および第1の光学層4の表面のうちの少なくとも一箇所に設けられている。光学フィルム1を窓材などの支持体に貼り合わせる場合、室内側および室外側のどちらにも適用可能である。光学フィルム1を室外側に対して貼り合わせる場合、波長選択反射層3と窓材などの支持体との間にのみ、特定波長以外の光を散乱させる光散乱体を設けることが好ましい。波長選択反射層3と入射面との間に光散乱体が存在すると、指向反射特性が失われてしまうからである。また、室内側に光学フィルム1を貼り合せる場合には、その貼り合わせ面とは反対側の出射面と、波長選択反射層3との間に光散乱体を設けることが好ましい。
【0117】
図12Aは、第2の実施形態に係る光学フィルム1の第1の構成例を示す断面図である。図12Aに示すように、第1の光学層4は、樹脂と微粒子11とを含んでいる。微粒子11は、第1の光学層4の主構成材料である樹脂とは異なる屈折率を有している。微粒子11としては、例えば有機微粒子および無機微粒子の少なくとも1種を用いることができる。また、微粒子11としては、中空微粒子を用いてもよい。微粒子11としては、例えば、シリカ、アルミナなどの無機微粒子、またはスチレン、アクリルやそれらの共重合体などの有機微粒子が挙げられるが、シリカ微粒子が特に好ましい。
【0118】
図12Bは、第2の実施形態に係る光学フィルム1の第2の構成例を示す断面図である。図12Bに示すように、光学フィルム1は、第1の光学層4の表面に光拡散層12をさらに備えている。光拡散層12は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0119】
図12Cは、第2の実施形態に係る光学フィルム1の第3の構成例を示す断面図である。図12Cに示すように、光学フィルム1は、波長選択反射層3と第1の光学層4との間に光拡散層12をさらに備えている。光拡散層12は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0120】
第2の実施形態によれば、赤外線などの特定波長帯の光を指向反射し、可視光などの特定波長対以外の光を散乱させることができる。したがって、光学フィルム1を曇らせて、光学フィルム1に対して意匠性を付与することができる。
【0121】
<3.第3の実施形態>
図13は、第3の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。第3の実施形態は、光学フィルム1の入射面S1および出射面S2のうち、被着体に貼り合わされる面とは反対側の露出面上に、洗浄効果を発現する自己洗浄効果層51をさらに備えている点において、第1の実施形態とは異なっている。自己洗浄効果層51は、例えば、光触媒を含んでいる。光触媒としては、例えば、TiO2を用いることができる。
【0122】
上述したように、光学フィルム1は入射光を半透過する点に特徴を有している。光学フィルム1を屋外や汚れの多い部屋などで使用する際には、表面に付着した汚れにより光が散乱され透過性および反射性が失われてしまうため、表面が常に光学的に透明であることが好ましい。そのため、表面が撥水性や親水性などに優れ、表面が自動的に洗浄効果を発現することが好ましい。
【0123】
第3の実施形態によれば、光学フィルム1が自己洗浄効果層51を備えているので、撥水性や親水性などを入射面に付与することができる。したがって、入射面に対する汚れなどの付着を抑制し、指向反射特性の低減を抑制できる。
【0124】
<4.第4の実施形態>
上述の第1の実施形態では、本発明を窓材などに適用する場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、窓材以外の内装部材や外装部材などに適用することが可能である。また、本発明は壁や屋根などのように固定された不動の内装部材および外装部材のみならず、季節や時間変動などに起因する太陽光の光量変化に応じて、太陽光の透過量および/または反射量を内装部材または外装部材を動かして調整し、屋内などの空間に取り入れ可能な装置にも適用可能である。第4の実施形態では、このような装置の一例として、複数の日射遮蔽部材からなる日射遮蔽部材群の角度を変更することにより、日射遮蔽部材群による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置(ブラインド装置)について説明する。
【0125】
図14は、第4の実施形態に係るブラインド装置の一構成例を示す斜視図である。図14に示すように、日射遮蔽装置であるブラインド装置は、ヘッドボックス203と、複数のスラット(羽)202aからなるスラット群(日射遮蔽部材群)202と、ボトムレール204とを備える。ヘッドボックス203は、複数のスラット202aからなるスラット群202の上方に設けられている。ヘッドボックス203からラダーコード206、および昇降コード205が下方に向かって延びており、これらのコードの下端にボトムレール204が吊り下げられている。日射遮蔽部材であるスラット202aは、例えば、細長い矩形状を有し、ヘッドボックス203から下方に延びるラダーコード206により所定間隔で吊り下げ支持されている。また、ヘッドボックス203には、複数のスラット202aからなるスラット群202の角度を調整するためのロッドなどの操作手段(図示省略)が設けられている。
【0126】
ヘッドボックス203は、ロッドなどの操作手段の操作により応じて、複数のスラット202aからなるスラット群202を回転駆動することにより、室内などの空間に取り込まれる光量を調整する駆動手段である。また、ヘッドボックス203は、昇降操作コード207などの操作手段の適宜操作に応じて、スラット群202を昇降する駆動手段(昇降手段)としての機能も有している。
【0127】
図15Aは、スラットの第1の構成例を示す断面図である。図15Aに示すように、スラット202は、基材211と、光学フィルム1とを備える。光学フィルム1は、基材211の両主面のうち、スラット群202を閉じた状態において外光が入射する入射面側(例えば窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。光学フィルム1と基材211とは、例えば、接着層または粘着層などの貼合層により貼り合される。
【0128】
基材211の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材211の材料としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。光学フィルム1としては、上述の第1〜第3の実施形態に係る光学フィルム1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0129】
図15Bは、スラットの第2の構成例を示す断面図である。図15Bに示すように、第2の構成例は、光学フィルム1をスラット202aとして用いるものである。光学フィルム1は、ラダーコード205により支持可能であるとともに、支持した状態において形状を維持できる程度の剛性を有していることが好ましい。
【0130】
<5.第5の実施形態>
第5の実施形態では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるロールスクリーン装置について説明する。
【0131】
図16Aは、第5の実施形態に係るロールスクリーン装置の一構成例を示す斜視図である。図16Aに示すように、日射遮蔽装置であるロールスクリーン装置301は、スクリーン302と、ヘッドボックス303と、芯材304とを備える。ヘッドボックス303は、チェーン205などの操作部を操作することにより、スクリーン302を昇降可能に構成されている。ヘッドボックス303は、その内部にスクリーンを巻き取り、および巻き出すための巻軸を有し、この巻軸に対してスクリーン302の一端が結合されている。また、スクリーン302の他端には芯材304が結合されている。スクリーン302は可撓性を有し、その形状は特に限定されるものではなく、ロールスクリーン装置301を適用する窓材などの形状に応じて選択することが好ましく、例えば矩形状に選ばれる。
【0132】
図16Bは、スクリーン302の一構成例を示す断面図である。図16Bに示すように、スクリーン302は、基材311と、光学フィルム1とを備え、可撓性を有していることが好ましい。光学フィルム1は、基材211の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。光学フィルム1と基材311とは、例えば、接着層または粘着層などの貼合層により貼り合される。なお、スクリーン302の構成はこの例に限定されるものではなく、光学フィルム1をスクリーン302として用いるようにしてもよい。
【0133】
基材311の形状としては、例えば、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材311としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。光学フィルム1としては、上述の第1〜第3の実施形態に係る光学フィルム1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0134】
<6.第6の実施形態>
第6の実施形態では、指向反射性能を有する光学体に採光部を備える建具(内装部材または外装部材)に対して本発明を適用した例について説明する。
【0135】
図17Aは、第6の実施形態に係る建具の一構成例を示す斜視図である。図24Aに示すように、建具401は、その採光部404に光学体402を備える構成を有している。具体的には、建具401は、光学体402と、光学体402の周縁部に設けられる枠材403とを備える。光学体402は枠材403により固定され、必要に応じて枠材403を分解して光学体402を取り外すことが可能である。建具401としては、例えば障子を挙げることができるが、本発明はこの例に限定されるものではなく、採光部を有する種々の建具に適用可能である。
【0136】
図17Bは、光学体の一構成例を示す断面図である。図17Bに示すように、光学体402は、基材411と、光学フィルム1とを備える。光学フィルム1は、基材411の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けられる。光学フィルム1と基材311とは、接着層または粘着層などの貼合層などにより貼り合される。なお、障子402の構成はこの例に限定されるものではなく、光学フィルム1を光学体402として用いるようにしてもよい。
【0137】
基材411は、例えば、可撓性を有するシート、フィルム、または基板である。基材411としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空欄に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来建具の光学体として公知のものを用いることができる。光学フィルム1としては、上述の第1〜第3の実施形態に係る光学フィルム1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0138】
以下、試験例および実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例および実施例のみに限定されるものではない。
【0139】
図18は、上方反射率の定義を説明するための模式図である。
以下の試験例および実施例において、上方反射率は以下の式により定義される。
上方反射率Ru=[(上方向の反射光パワーの総計)/(入射光パワーの総計)]×100
但し、入射光のパワー=(上方向の反射光のパワー)+(下方向の反射光のパワー)
上方向:反射角(θ,φ)=(90,φ)〜(10°,φ)
下方向:反射角(θ,φ)=(−90°,φ)〜(10°,φ)
但し、θ=10°の方向は、上方向に含むものとする。
【0140】
以下の試験例および実施例では、光学フィルムを窓材などの被着体に貼り合わせた状態において、図18に示すように、三角柱状体を形成する2つの面のうち上方側となる第1の面Sp1を上方面Sp1と称し、下方側となる第2の面Sp2を下方面Sp2と称する。
また、上方面Sp1に形成される全反射層または波長選択反射層の膜厚(図4B中、第1の膜厚d1)を上方傾斜面の膜厚d1、下方面Sp2に形成される全反射層または波長選択反射層の膜厚(図4B中、第2の膜厚d2)を下方傾斜面の膜厚d2と称する。
【0141】
以下の試験例および実施例において、プリズムパターン1〜3は、以下のパターンを意味する。
【0142】
(プリズムパターン1)
図19Aは、プリズムパターン1の形状を示す断面図である。プリズムパターン1は、以下に示す設定条件にて非対称な三角柱状体を最稠密充填して形成されるパターンである。
ピッチ:100μm
頂角α:90°
傾斜角β:75°
対称性:無し
【0143】
(プリズムパターン2)
図19Bは、プリズムパターン2の形状を示す断面図である。プリズムパターン2は、以下に示す設定条件にて非対称な三角柱状体を最稠密充填して形成されるパターンである。
ピッチ:100μm
頂角α:90°
傾斜角β:35°
対称性:無し
【0144】
(プリズムパターン3)
図19Cは、プリズムパターン3の形状を示す断面図である。プリズムパターン3は、以下に示す設定条件にて非対称な三角柱状体を最稠密充填して形成されるパターンである。
ピッチ:100μm
頂角α:90°
傾斜角β:45°
対称性:有り
【0145】
以下の試験例および実施例において、波長選択反射層および全反射層は、以下の反射層を意味する。
【0146】
(波長選択反射層)
波長選択反射層は、波長帯域780〜2100nmの赤外光のみを反射し、上記以外の波長帯域の光を透過する反射層である。
【0147】
(全反射層)
全反射層は、波長帯域によらず、入射光を全て(100%)反射する反射層である。
【0148】
試験例および実施例について以下の順序で説明する。
1.頂角α、傾斜角β−上方反射率の関係
2.入射角度−上方反射率の関係
3.入射角度、反射角度−上方反射率の関係
3−1.シミュレーションによる計算
3−2.実サンプルによる測定
4.傾斜角度−波長選択反射層の膜厚の関係
5.波長−上方反射率の関係
6.入射角度−上方反射率の関係
7.波長、入射角−上方反射率の関係
【0149】
<1.頂角α、傾斜角β−上方反射率の関係>
(試験例1)
ORA社(Optical Research Associates)製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、非対称な三角柱状体が最稠密充填された指向反射面を設定した。以下に、指向反射面の設定条件を示す。
ピッチ:100μm
頂角α:20〜160°
傾斜角β:10〜80°
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0150】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)=(60°,0°)の方向から光を指向反射面に入射させて、上方反射率を求めた。その結果を図20に示す。
【0151】
図20は、試験例1のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示す図である。なお、図20中、α=90の直線上に付した「×」印は、図19A〜図19Cに示したプリズムパターン1〜3の有する頂角αおよび傾斜角βに対応する座標を示している。
【0152】
図20から以下のことがわかる。
頂角αおよび傾斜角βが、以下の式(1)〜(4)のいずれか1つを満たしている場合に、上方反射率80%以上を確保できることがわかる。
−3.6α+396≦β≦80 (85≦α≦90) ・・・(1)
α−30≦β≦−α+170 (90≦α≦100) ・・・(2)
30≦β≦α−50 (80≦α≦90) ・・・(3)
30≦β≦−α+130 (90≦α≦100) ・・・(4)
【0153】
<2.入射角度−上方反射率の関係>
(試験例2)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン1
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0154】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)を(0°,0°)〜(80°,0°)の範囲内で変化させて上方反射率を求めた。その結果を図21Aに示す。
【0155】
(試験例3)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例2と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図21Bに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:一上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0156】
(試験例4)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例2と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図21Cに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン3
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0157】
図21A〜図21Cは、試験例2、3、4のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図21A〜図21C中、入射角度60°における上方反射率が、図20中に「×」印にて示した座標に対応している。
【0158】
図21A〜図21Cから以下のことがわかる。
試験例2〜4では、全て同様に、入射角度0°〜約20°の範囲内において、入射角度の増加に伴って上方反射率が急激に増加し、入射角度約20°〜約70°の範囲内において、入射角度の増加に伴って上方反射率が徐々に低下する傾向がある。
しかし、試験例2では、入射角度約20°〜約70°の範囲内における上方反射率の低下の度合いが小さく抑えられているのに対して、試験例4では、入射角度約20°〜約70°の範囲内において上方反射率が著しく低下する傾向がある。また、試験例3では、入射角度40°付近にて上方反射率が急激に低下する傾向がある。
【0159】
<3.入射角度、反射角度−上方反射率の関係>
<3−1.シミュレーションによる計算>
(試験例5)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン1
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0160】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)を(0°,0°)〜(80°,0°)の範囲内で変化させて上方反射率を求めた。その結果を図22Aに示す。
【0161】
(試験例6)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例5と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図22Bに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0162】
(試験例7)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例5と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図22Cに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン3
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0163】
図22A〜図22Cから以下のことがわかる。
試験例5〜7では、上方向に再帰反射しているが、非対称な三角柱状体により指向反射面が形成されている試験例5、6では、対称な三角柱状体により指向反射面が形成されている試験例7に比して再帰反射の割合を高くできる。
対称な三角柱状体により指向反射面が形成されている試験例7では、非対称な三角柱状体により指向反射面が形成されている試験例5、6に比して下方向の反射率が高くなってしまう。
【0164】
<3−2.実サンプルによる測定>
(実施例1)
まず、バイトによる切削加工により、図19Aに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与した。次に、このNi−P製金型に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合樹脂(日本化薬社製、商品名DPHA)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を載置した。次に、PETフィルム側からUV光を混合樹脂に対して照射し、混合樹脂を硬化させた。
【0165】
次に、この樹脂とPETの積層体をNi−P製金型から剥がして、図19Aに示す複数の三角柱状体が一次元配列された成形面を有する樹脂層(第1の光学層)を得た。次に、成形した成形面に対し、全反射層であるAlTi層(ターゲット組成:Al/Ti=98.5at%/1.5at%)、を真空スパッタ法により100nmの厚さで成膜した。
【0166】
次に、交互多層膜上に再び上述の混合樹脂を塗布し、PETフィルムを載置して気泡を押し出した後に、UV光照射することで樹脂を硬化して、交互多層膜上に樹脂層(第2の光学層)を形成した。これにより、目的とする指向反射体である光学フィルムが得られた。
【0167】
(実施例2)
バイトによる切削加工により、図19Bに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与する以外は実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0168】
(反射分布)
ラムダビジョン製分光GONIOフォトメーターにより、入射角度15°、30°、45°、60°、75°のそれぞれに対して、反射分布を測定した。その結果を図23B、図24Bに示す。なお、図23A、図24Aには、実施例1、2の指向反射面と同一の設定条件にてシミュレーションにより求めた計算結果(試験例5、6の計算結果)を示す。
【0169】
図23A〜図24Bから、実サンプルである実施例1、2の上方反射率の測定結果は、シミュレーションである試験例5、6の計算結果と同様の傾向を示すことがわかる。
【0170】
<4.傾斜角度−波長選択反射層の膜厚の関係>
(実施例3)
まず、バイトによる切削加工により、図19Aに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与した。次に、このNi−P製金型に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合樹脂(日本化薬社製、商品名DPHA)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を載置した。次に、PETフィルム側からUV光を混合樹脂に対して照射し、混合樹脂を硬化させた。
【0171】
次に、この樹脂とPETの積層体をNi−P製金型から剥がして、図19Aに示す複数の三角柱状体が一次元配列された成形面を有する樹脂層(第1の光学層)を得た。次に、成形した成形面に対し、下記の多層膜を真空スパッタ法により成膜した。これにより、目的とする指向反射体である光学フィルムを得た。
1層目:GAZO層
2層目:AgNdCu層
3層目:GAZO層
4層目:AgNdCu層
5層目:GAZO層
【0172】
(実施例4)
バイトによる切削加工により、図19Bに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与する以外は実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0173】
(比較例1)
バイトによる切削加工により、図19Cに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与する以外は実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0174】
(比較例2)
まず、バイトによる切削加工により、図25A〜図25Cに示すコーナーキューブをNi−P製金型に付与した。次に、このNi−P製金型に、ウレタンアクリレート(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を設置し、PETフィルム側からUV光を照射して樹脂を硬化させた。
【0175】
次に、この樹脂とPETの積層体をNi―P製金型から剥がして、多数のコーナーキューブが2次元配列された成形面を有する樹脂層(第1の光学層)を得た。次に、実施例3と同一の成膜条件により多層膜を真空スパッタ法により成膜した。これにより、目的とする指向反射体である光学フィルムが得られた。
【0176】
(膜厚の測定方法)
図26Aは、実施例3、4、比較例1における波長選択反射層の各層の平均膜厚の測定方法を説明するための模式図である。
実施例3、4、比較例1における波長選択反射層の各層の平均膜厚は、以下のようにして測定した。まず、FIB(Focused Ion Beam)により光学フィルムを三角柱状体の稜線に垂直な方向にカットして断面を形成した。次に、TEM(Transmission Electron Microscope)を用いて、断面の三角形状を形成する2辺の中心位置においてn2方向の各層の膜厚t2を測定した。この測定を光学フィルムの任意の10箇所で繰り返し行い、その測定値を単純に平均(算術平均)して平均膜厚を求めた。このように膜厚の測定位置を規定するのは、三角柱状体上に形成された波長選択反射層の膜厚を測定すると、図26Aに示すように、その膜厚は三角柱状体を形成する斜面上の位置により異なるからである。なお、図26A中、n1方向、n2方向は以下の方向を示す。
n1方向:PETフィルムに付与された三角柱状体の傾斜面に対して垂直な方向
n2方向:PETフィルムの主面に対して垂直な方向(PETフィルムの厚さ方向)
【0177】
図26Bは、比較例2における波長選択反射層の各層の平均膜厚の測定方法を説明するための模式図である。
比較例2における波長選択反射層の各層の平均膜厚は、以下のようにして測定した。まず、FIBにより光学フィルムを、コーナーキューブを形成する辺を含むようにカットして断面を形成した。次に、TEMを用いて、コーナーキューブを形成する三角形の垂線の中心位置におけるn2方向の平均膜厚t2を測定した。この測定を光学フィルムの任意の10箇所で繰り返し行い、その測定値を単純に平均(算術平均)して平均膜厚を求めた。ここで、三角形の垂線とは、三角錐の錐面を形成する三角形の頂点から対辺(三角錐の底辺)に下した垂線を意味する。このように膜厚の測定位置を規定するのは、コーナーキューブ上に形成された波長選択反射層の膜厚を測定すると、図26Bに示すように、その膜厚はコーナーキューブを形成する三角形上の位置により異なるからである。なお、図26B中、n1方向、n2方向は以下の方向を示す。
n1方向:PETフィルムに付与されたコーナーキューブの傾斜面に対して垂直な方向
n2方向:PETフィルムの主面に対して垂直な方向(PETフィルムの厚さ方向)
【0178】
図27Aは、実施例3、4、比較例1、2の上方傾斜面Sp1(図18参照)における波長選択反射層の各層の平均膜厚(上方傾斜面の膜厚d1)を示す模式図である。図27Bは、実施例1、2、比較例1、2の下方傾斜面Sp2(図18参照)における波長選択反射層の各層の平均膜厚(下方傾斜面の膜厚d2)を示す模式図である。
【0179】
図27A、図27Bから以下のことがわかる。
非対称な三角柱状体により指向反射面が形成される実施例3、4では、上方反射面Sp1または下方反射面Sp2における波長選択反射層の平均膜厚を薄くすることができる。
これに対して、対称な三角柱状体により指向反射面が形成される比較例1では、上方反射面および下方反射面の両方の波長選択反射層の平均膜厚が厚くなる。また、コーナーキューブにより指向反射面が形成される比較例2では、コーナーキューブを形成する3つの三角形状の面における波長選択反射層の平均膜厚はいずれも厚くなる。
以上により、非対称な三角柱状体を用いて指向反射面を形成した場合には、対称な三角柱状体またはコーナーキューブを用いて指向反射面を形成した場合に比して、波長選択反射層の平均膜厚を全体として小さくすることができる。したがって、光学フィルムを低廉化することが可能となる。
【0180】
<5.波長−上方反射率の関係>
(試験例8)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン1
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0181】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)=(60°,0°)の方向から光を指向反射面に入射させて、各波長における上方反射率を求めた。その結果を図28Aに示す。
【0182】
(試験例9)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例8と同様にして、各波長における上方反射率を求めた。その結果を図28Bに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0183】
(試験例10)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例8と同様にして、各波長における上方反射率を求めた。その結果を図28Cに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン3
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0184】
図28A〜図28Cから以下のことがわかる。
三角柱状体により指向反射面が形成される試験例8〜10では、上方反射率に波長依存性があり、波長が約650nmを超えると、上方反射率が上昇する傾向にある。特に、試験例9において上方反射率の上方傾向が大きい。
【0185】
(試験例11)
入射角(θ0,φ)=(40°,0°)または(60°,0°)の方向から光を指向反射面に入射させる以外は試験例8と同様にして、各波長における上方反射率を求めた。その結果を図28Bに示す。
【0186】
図28Bから以下のことがわかる。
入射角(θ0,φ)=(40°,0°)では、入射角(θ0,φ)=(60°,0°)の場合に比して上方反射率が低くなる。すなわち、入射角θ0が小さい場合には、高波長帯域における上方反射率の上昇が小さくなる。
【0187】
<6.入射角度−上方反射率の関係>
(試験例12)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0188】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)=(0°,0°)〜(80°,0°)の範囲の方向から光を指向反射面に入射させて、上方反射率を求めた。その結果を図29Aに示す。
【0189】
(試験例13)
反射層の種類を波長選択反射層とする以外は試験例12と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図29Aに示す。
【0190】
図29Aから、反射層が波長選択反射層の場合と反射層が全反射層の場合とでは、上方反射率の入射角度依存性に同様の傾向があることがわかる。すなわち、どちらの層を用いた場合にも、入射角度40°付近において、上方反射率が一時的に落ち込む傾向があることがわかる。
【0191】
<7.波長、入射角−上方反射率の関係>
(試験例14)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0192】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)=(0°,0°)〜(80°,0°)の範囲の方向から光を指向反射面に入射させて、上方反射率を求めた。その結果を図29Bに示す。
【0193】
図29Bから、波長帯域1100〜1200nmの範囲において、入射角度60°近傍に上方反射率のピークがあることがわかる。
【0194】
以上の結果を総合すると、プリズムパターン1〜3について以下のことがわかる。
プリズムパターン1は、非対称性形状のため、2つの傾斜面の膜厚差が大きい。上方反射率が、プリズムパターン2に比して低下する傾向がある。反射層として全反射層を用いる場合には、プリズムパターンとしてプリズムパターン1を用いることが好ましい。
プリズムパターン1は、非対称性形状であるが、プリズムパターン1よりも2つの傾斜面の膜厚差が小さい。赤外領域(約1150nm以上)の反射率を50%以上にすることができる。
プリズムパターン3は、対称性形状のため、2つの傾斜面の膜厚差が無い。全反射層による反射性能が低く、波長選択反射層においても高い上方反射率を得ることができない。
【0195】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0196】
例えば、上述の実施形態において挙げた構成、方法、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0197】
また、上述の実施形態の各構成は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0198】
また、上述の実施形態では、ブランインド装置、およびロールスクリーン装置の駆動方式が手動式である場合を例として説明したが、ブランインド装置、およびロールスクリーン装置の駆動方式を電動式としてもよい。
【0199】
また、上述の実施形態では、光学フィルムを窓材などの被着体に貼り合わせる構成を例として説明したが、窓材などの被着体を光学フィルムの第1の光学層、または第2の光学層自体とする構成を採用するようにしてもよい。これにより、窓材などの光学体に予め指向反射の機能を付与することができる。
【0200】
また、上述の実施形態では、光学体が光学フィルムである場合を例として説明したが、光学体の形状はフィルム状に限定されるものではなく、プレート状、ブロック状などでもよい。
【0201】
上述の実施形態では、本発明を窓材、建具、ブラインド装置のスラット、およびロールスクリーン装置のスクリーンなどの内装部材または外装部材に適用した場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、上記以外の内装部材および外装部材にも適用可能である。
【0202】
本発明に係る光学体が適用される内装部材または外装部材としては、例えば、光学体自体により構成された内装部材または外装部材、指向反射体が貼り合わされた透明基材などにより構成された内装部材または外装部材などが挙げられる。このような内装部材または外装部材を室内の窓付近に設置することで、例えば、赤外線だけを屋外に指向反射し、可視光線を室内に取り入れることができる。したがって、内装部材または外装部材を設置した場合にも、室内照明の必要性が低減される。また、内装部材または外装部材による室内側への散乱反射も殆どないため、周囲の温度上昇も抑えることができる。また、視認性制御や強度向上など必要な目的に応じ、透明基材以外の貼り合わせ部材に適用することも可能である。
【0203】
また、上述の実施形態では、ブラインド装置、およびロールスクリーン装置に対して本発明を適用した例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、室内または屋内に設置される種々の日射遮蔽装置に適用可能である。
【0204】
また、上述の実施形態では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置(例えばロールスクリーン装置)に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、日射遮蔽部材を折り畳むことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置に対しても本発明は適用可能である。このような日射遮蔽装置としては、例えば、日射遮蔽部材であるスクリーンを蛇腹状に折り畳むことで、入射光線の遮蔽量を調整するプリーツスクリーン装置を挙げることができる。
【0205】
また、上述の実施形態では、本発明を横型ブラインド装置(ベネシアンブラインド装置)に対して適用した例について説明したが、縦型ブラインド装置(バーチカルブラインド装置)に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0206】
1 光学フィルム
2 光学層
3 波長選択反射層
4 第1の光学層
4a 第1の基材
5 第2の光学層
5a 第2の基材
6 貼合層
7 剥離層
8 ハードコート層
9 反射層付き光学層
S1 入射面
S2 出射面
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学体、窓材、建具、日射遮蔽装置、および建築物に関する。詳しくは、入射光を指向反射する光学体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高層ビル、住居などの建築用ガラスや車窓ガラスに太陽光の一部を吸収、または反射させる層が設けられるケースが増加している。これは地球温暖化防止を目的とした省エネルギー対策のひとつであり、太陽から注がれる光エネルギーが窓から屋内に入り、屋内温度が上昇することによりかかる冷房設備の負荷を軽減することを目的としている。太陽光から注がれる光エネルギーは、波長380〜780nmの可視領域と780〜2100nmの近赤外領域とが大きな比率を占めている。このうち後者波長域における窓の透過率は、人間の視認性と無関係であるため、高透明性かつ高熱遮蔽性を有する窓としての性能を左右する重要な要素となる。
【0003】
可視領域の透明性を維持しながら近赤外線を遮蔽する方法としては、近赤外領域に高い反射率を有する層を窓ガラスに設ける方法と、近赤外領域に高い吸収率を有する層を窓ガラスに設ける方法がある。
【0004】
前者の方法については、反射層として光学多層膜、金属含有層、透明導電性層などを用いる技術が既に数多く開示されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、このような反射層は平面上の窓ガラスに設けられるため、入射した太陽光を正反射させることしかできない。このため、上空から照射されて正反射された光は、屋外の別な建物や地面に到達し、吸収されて熱に変わり周囲の気温を上昇させる。これにより、このような反射層が窓全体に貼られたビルの周辺では、局所的な温度上昇が起こり都市部ではヒートアイランドが増長されたり、反射光の照射面のみ芝生が生長しないなどの問題が生じている。
【0005】
後者の方法としては有機系の色素層を用いる技術が数多く開示されている(例えば特許文献2〜4参照)。しかしながら、このような色素層を窓ガラスに貼ると、窓表面で吸収された光が熱に変わり、その一部が輻射熱として屋内に伝わるため、色素層は遮蔽能が不十分であるという問題や熱応力によりガラスが割れるという問題がある。また、色素層の耐候性が低く、頻繁に貼り換えができない高層ビルなどには使いづらいという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第05/087680号パンフレット
【特許文献2】特開平06−299139号公報
【特許文献3】特開平09−316115号公報
【特許文献4】特開2001−89492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる光学体、窓材、建具、日射遮蔽装置、および建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術が有する上述の課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、特定の波長帯を選択的に反射する波長選択反射層をコーナーキューブ上に形成し、この波長選択反射層により入射光を指向反射する光学体を発明するに至った。
【0009】
上記光学体では、波長選択反射層により入射光を3回反射することで、再帰的に入射光を反射することができる。しかしながら、このように反射回数が多いため、波長選択反射層の光吸収量が平板に対して約3倍となり、発熱量が大きくなってしまう。したがって、かかる光学体を窓用フィルムとして使用した場合には、窓付近の空間では大気が暑く感じられるため、冷房の利用が増大して、CO2排出量が多くなる。
【0010】
そこで、本発明者らは、高い上方反射性能を維持でき、かつ、波長反射回数を1回、もしくは2回に低減できる光学体について鋭意検討を重ねた。その結果、頂角αおよび底角βが所定の関係を満たす複数の三角柱状体を一次元配列して凹凸面を形成し、この凹凸面上に波長選択反射層を形成することを見出すに至った。
本発明は以上の検討に基づいて案出されたものである。
【0011】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、
凹凸面を有する第1の光学層と、
凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
凹凸面を埋めるように波長選択反射層上に形成された第2の光学層と
を備え、
波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過するものであり、
凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、
三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが以下の式(1)、または(2)を満たしている光学体である。
−3.6α+396≦β≦80 (85≦α≦90) ・・・(1)
α−30≦β≦−α+170 (90≦α≦100) ・・・(2)
【0012】
第2の発明は、
凹凸面を有する第1の光学層と、
凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
凹凸面を埋めるように波長選択反射層上に形成された第2の光学層と
を備え、
波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過するものであり、
凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、
三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが以下の式(3)、または(4)を満たしている光学体である。
30≦β≦α−50 (80≦α≦90) ・・・(3)
30≦β≦−α+130 (90≦α≦100) ・・・(4)
【0013】
本発明の光学体では、非対称な三角柱状体を一次元配列することにより凹凸面を形成し、この凹凸面上に波長選択反射層を形成している。したがって、本発明の光学体を窓材などの被着体に適用した場合には、特定波長帯の光を上方に反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる。また、本発明の光学体を建造物の窓材などに適用した場合には、特定波長帯の光を指向反射し、建築物などの所定の空間に入り込むのを排除できるのに対して、特定波長帯以外の光を所定の空間に取り込むことできる。
【0014】
また、本発明の光学体では、三角柱状体の頂角αおよび傾斜角βが所定の関係を満たしているので、本発明の光学体を窓材などの被着体に適用した場合には、高い上方反射率を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、特定波長帯の光を反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる光学体において、光の吸収による発熱を低減することにより、安全性の向上、および省エネルギー化を実現することが可能である。また、高い上方反射率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1Aは、第1の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。図1Bは、第1の実施形態に係る光学フィルムを被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。
【図2】図2は、光学フィルムに対して入射する入射光と、光学フィルムにより反射された反射光との関係を示す斜視図である。
【図3】図3Aは、第1の光学層に形成された三角柱状体の形状例を示す斜視図である。図3Bは、図3Aに示す三角柱状体が形成された第1の光学層を備える光学フィルムの一構成例を示す断面図である。
【図4】図4Aは、図3Bに示した光学フィルムの一部を拡大して表す拡大断面図である。図4Bは、図3Bに示した波長選択反射層を拡大して表す拡大断面図である。
【図5】図5A、図5Bは、第1の実施形態に係る光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。
【図6】図6Aは、第1の実施形態に係る光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。図6Bは、第1の実施形態に係る光学フィルムの機能の一例を説明するための平面図である。
【図7】図7は、第1の実施形態に係る光学フィルムを製造するための製造装置の一構成例を示す概略図である。
【図8】図8A〜図8Cは、第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図9】図9A〜図9Cは、第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図10】図10A〜図10Cは、第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図11】図11Aは、第1の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。図11Bは、第1の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。
【図12】図12Aは、第2の実施形態に係る光学フィルムの第1の構成例を示す斜視図である。図12Bは、第2の実施形態に係る光学フィルムの第2の構成例を示す斜視図である。図12Cは、第2の実施形態に係る光学フィルムの第3の構成例を示す斜視図である。
【図13】図13は、第3の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。
【図14】図14は、第4の実施形態に係るブラインド装置の一構成例を示す斜視図である。
【図15】図15Aは、スラットの第1の構成例を示す断面図である。図15Bは、スラットの第2の構成例を示す断面図である。
【図16】図16Aは、第7の実施形態に係るロールスクリーン装置の一構成例を示す斜視図である。図16Bは、スクリーンの一構成例を示す断面図である。
【図17】図17Aは、第8の実施形態に係る建具の一構成例を示す斜視図である。図17Bは、光学体の一構成例を示す断面図である。
【図18】図18は、上方反射率の定義を説明するための模式図である。
【図19】図19A〜図19Cは、シミュレーションの設定条件を説明するための模式図である。
【図20】図20は、試験例1のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示す図である。
【図21】図21Aは、試験例2のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図21Bは、試験例2のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図21Cは、試験例2のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。
【図22】図22Aは、試験例5のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。図22Bは、試験例6のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。図22Cは、試験例7のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。
【図23】図23Aは、試験例5のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。図23Bは、実施例1の光学フィルムの反射率の測定結果を示す図である。
【図24】図24Aは、試験例6のシミュレーションの反射率の計算結果を示す図である。図24Bは、実施例2の光学フィルムの反射率の測定結果を示す図である。
【図25】図25Aは、比較例2の光学フィルムの作製に用いる原盤のコーナーキューブ形状を示す上面図である。図25B、図25Cは、比較例2の光学フィルムの作製に用いる原盤のコーナーキューブ形状を示す側面図である。
【図26】図26Aは、実施例3、4、比較例1における波長選択反射層の各層の平均膜厚の測定方法を説明するための模式図である。図26Bは、比較例2における波長選択反射層の各層の平均膜厚の測定方法を説明するための模式図である。
【図27】図27Aは、実施例3、4、比較例1、2の上方面の波長選択反射層の各層の平均膜厚を示す模式図である。図27Bは、実施例3、4、比較例1、2の下方面の波長選択反射層の各層の平均膜厚を示す模式図である。
【図28】図28Aは、試験例8〜10のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図28Bは、試験例11のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。
【図29】図29Aは、試験例12、13のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図29Bは、試験例14のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。
【図30】図30は、第1の実施形態に係る光学フィルムの全体形状の一例を示す斜視図である。
【図31】図31A、図31Bは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの貼り合わせ方法の一例を説明するための略線図である。
【図32】図32A、図32Bは、貼り合わせ方向による光学フィルムの反射機能の相違を説明するための略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.第1の実施形態(非対称な三角柱状体を1次元配列した光学フィルムの例)
2.第2の実施形態(光散乱体をさらに備えた光学フィルムの例)
3.第3の実施形態(自己洗浄効果層をさらに備えた光学フィルムの例)
4.第4の実施形態(ブラインド装置に光学フィルムを適用した例)
5.第5の実施形態(ロールスクリーン装置に光学フィルムを適用した例)
6.第6の実施形態(建具に光学フィルムを適用した例)
【0018】
<1.第1の実施形態>
[光学フィルムの構成]
図1Aは、第1の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。図1Bは、第1の実施形態に係る光学フィルムを被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。光学体としての光学フィルム1は、いわゆる指向反射性能を有する光学フィルムである。図1Aに示すように、この光学フィルム1は、凹凸形状の界面を内部に有する光学層2と、この光学層2の界面に設けられた波長選択反射層3とを備える。光学層2は、凹凸形状の第1の面を有する第1の光学層4と、凹凸形状の第2の面を有する第2の光学層5とを備える。光学層内部の界面は、対向配置された凹凸形状の第1の面と第2の面とにより形成されている。具体的には、光学フィルム1は、凹凸面を有する第1の光学層4と、第1の光学層4の凹凸面上に形成された波長選択反射層3と、波長選択反射層3が形成された凹凸面を埋めるように、波長選択反射層3上に形成された第2の光学層5とを備える。光学フィルム1は、太陽光などの光が入射する入射面S1と、この入射面S1より入射した光のうち、光学フィルム1を透過した光が出射される出射面S2とを有する。光学フィルム1は、内壁部材、外壁部材、窓材、壁材などに適用して好適なものである。また、光学フィルム1は、ブラインド装置のスラット(日射遮蔽部材)、およびロールスクリーン装置のスクリーン(日射遮蔽部材)として用いても好適なものである。さらに、光学フィルム1は、障子などの建具(内装部材または外装部材)の採光部に設けられる光学体として用いても好適なものである。
【0019】
光学フィルム1が、必要に応じて、光学層2の出射面S2に第1の基材4aをさらに備えるようにしてもよい。また、光学フィルム1が、必要に応じて、光学層2の入射面S1に第2の基材5aをさらに備えるようにしてもよい。なお、このように第1の基材4a、および/または第2の基材5aを光学フィルム1に備える場合には、第1の基材4a、および/または第2の基材5aを光学フィルム1に備えた状態において、後述する透明性、および透過色などの光学特性を満たすことが好ましい。
【0020】
光学フィルム1が、必要に応じて貼合層6をさらに備えるようにしてもよい。この貼合層6は、光学フィルム1の入射面S1および出射面S2のうち、窓材10に貼り合わされる面に形成される。この貼合層6を介して、光学フィルム1は被着体である窓材10の屋内側または屋外側に貼り合わされる。貼合層6としては、例えば、接着剤(例えば、UV硬化型樹脂、2液混合型樹脂)を主成分とする接着層、または粘着剤(例えば、感圧粘着材(PSA:Pressure Sensitive Adhesive))を主成分とする粘着層を用いることができる。貼合層6が粘着層である場合、貼合層6上に形成された剥離層7をさらに備えることが好ましい。このような構成にすることで、剥離層7を剥離するだけで、貼合層6を介して窓材10などの被着体に対して光学フィルム1を容易に貼り合わせることができるからである。
【0021】
光学フィルム1が、第2の基材5aと、貼合層6および/または第2の光学層5の接合性を向上させる観点から、第2の基材5aと、貼合層6および/または第2の光学層5との間に、プライマー層(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。また、同様の箇所の接合性を向上させる観点から、プライマー層に代えて、またはプライマー層と共に、公知の物理的前処理を施すことが好ましい。公知の物理的前処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理などが挙げられる。
【0022】
光学フィルム1が、窓材10などの被着体に貼り合わされる入射面S1または出射面S2上、またはその面と波長選択反射層3との間に、バリア層(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。このようにバリア層を備えることで、入射面S1または出射面S2から波長選択反射層3への水分の拡散を低減し、波長選択反射層3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、光学フィルム1の耐久性を向上させることができる。
【0023】
光学フィルム1は、表面に耐擦傷性などを付与する観点から、ハードコート層8をさらに備えるようにしてもよい。このハードコート層8は、光学フィルム1の入射面S1および出射面S2のうち、窓材10などの被着体に貼り合わされる面とは反対側の面に形成することが好ましい。光学フィルム1の入射面S1または出射面S2に、防汚性などを付与する観点から、撥水性または親水性を有する層をさらに備えてもよい。このような機能を有する層は、例えば、光学層2上に直接備える、またはハードコート層8などの各種機能層上に備えるようにしてもよい。
【0024】
光学フィルム1は、光学フィルム1を窓材10などの被着体に容易に貼り合わせ可能にする観点からすると、可撓性を有することが好ましい。ここで、フィルムにはシートが含まれるものとする。すなわち、光学フィルム1には光学シートも含まれものとする。
【0025】
光学フィルム1は、透明性を有していることが好ましい。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5との屈折率差が、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。0.008を超え0.010以下の範囲であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。0.005を超え0.008以下の範囲であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。0.005以下であれば、回折パターンは殆ど気にならない。第1の光学層4および第2の光学層5のうち、窓材10などと貼り合わせる側となる光学層は、粘着剤を主成分としてもよい。このような構成とすることで、粘着材を主成分とする第1の光学層4、または第2の光学層5により光学フィルム1を窓材10などに貼り合わせることができる。なお、このような構成にする場合、粘着剤の屈折率差が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0026】
第1の光学層4と第2の光学層5とは、屈折率などの光学特性が同じであることが好ましい。より具体的には、第1の光学層4と第2の光学層5とが、可視領域において透明性を有する同一材料、例えば同一樹脂材料からなることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5とを同一材料により構成することで、両者の屈折率が等しくなるので、可視光の透明性を向上させることができる。ただし、同一材料を出発源としても、成膜工程における硬化条件などにより最終的に生成する層の屈折率が異なることがあるので、注意が必要である。これに対して、第1の光学層4と第2の光学層5とを異なる材料により構成すると、両者の屈折率が異なるので、波長選択反射層3を境界として光が屈折し、透過像がぼやける傾向がある。特に、遠くの電灯など点光源に近い物を観察すると回折パターンが顕著に観察される傾向がある。なお、屈折率の値を調整するために、第1の光学層4および/または第2の光学層5に添加剤を混入させてもよい。
【0027】
第1の光学層4と第2の光学層5は、可視領域において透明性を有することが好ましい。ここで、透明性の定義には2種類の意味があり、光の吸収がないことと、光の散乱がないことである。一般的に透明と言った場合に前者だけを指すことがあるが、第1の実施形態に係る光学フィルム1では両者を備えることが好ましい。現在利用されている再帰反射体は、道路標識や夜間作業者の衣服など、その表示反射光を視認することを目的としているため、例えば散乱性を有していても、下地反射体と密着していれば、その反射光を視認することができる。例えば、画像表示装置の前面に、防眩性の付与を目的として散乱性を有するアンチグレア処理をしても、画像は視認できるのと同一の原理である。しかしながら、第1の実施形態に係る光学フィルム1は、指向反射する特定の波長以外の光を透過する点に特徴を有しており、この透過波長を主に透過する透過体に接着し、その透過光を観察するため、光の散乱がないことが好ましい。但し、その用途によっては、第2の光学層5に意図的に散乱性を持たせることも可能である。
【0028】
光学フィルム1は、好ましくは、透過した特定波長以外の光に対して主に透過性を有する剛体、例えば、窓材10に粘着剤などを介して貼り合わせて使用される。窓材10としては、高層ビルや住宅などの建築用窓材、車両用の窓材などが挙げられる。建築用窓材に光学フィルム1を適用する場合、特に東〜南〜西向きの間のいずれかの向き(例えば南東〜南西向き)に配置された窓材10に光学フィルム1を適用することが好ましい。このような位置の窓材10に適用することで、より効果的に熱線を反射することができるからである。光学フィルム1は、単層の窓ガラスのみならず、複層ガラスなどの特殊なガラスにも用いることができる。また、窓材10は、ガラスからなるものに限定されるものではなく、透明性を有する高分子材料からなるものを用いてもよい。光学層2が、可視領域において透明性を有することが好ましい。このように透明性を有することで、光学フィルム1を窓ガラスなどの窓材10に貼り合せた場合、可視光を透過し、太陽光による採光を確保することができるからである。また、貼り合わせる面としてはガラスの内面のみならず、外面にも使用することができる。
【0029】
また、光学フィルム1は他の熱線カットフィルムと併用して用いることができ、例えば空気と光学フィルム1との界面(すなわち、光学フィルム1の最表面)に光吸収塗膜を設けることもできる。また、光学フィルム1は、ハードコート層、紫外線カット層、表面反射防止層などとも併用して用いることができる。これらの機能層を併用する場合、これらの機能層を光学フィルム1と空気との間の界面に設けることが好ましい。ただし、紫外線カット層については、光学フィルム1よりも太陽側に配置する必要があるため、特に室内の窓ガラス面に内貼り用として用いる場合には、該窓ガラス面と光学フィルム1の間に紫外線カット層を設けることが望ましい。この場合、窓ガラス面と光学フィルム1の間の貼合層中に、紫外線吸収剤を添加するようにしてもよい。
【0030】
また、光学フィルム1の用途に応じて、光学フィルム1に対して着色を施し、意匠性を付与するようにしてもよい。このように意匠性を付与する場合、透明性を損なわない範囲で第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、可視領域における特定の波長帯の光を主として吸収する構成とすることが好ましい。
【0031】
図2は、光学フィルム1に対して入射する入射光と、光学フィルム1により反射された反射光との関係を示す斜視図である。光学フィルム1は、光Lが入射する入射面S1を有する。光学フィルム1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L1を選択的に正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L2を透過することが好ましい。また、光学フィルム1は、上記特定波長帯以外の光に対して透明性を有し、その透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。但し、θ:入射面S1に対する垂線l1と、入射光Lまたは反射光L1とのなす角である。φ:入射面S1内の特定の直線l2と、入射光Lまたは反射光L1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。ここで、入射面内の特定の直線l2とは、入射角(θ、φ)を固定し、光学フィルム1の入射面S1に対する垂線l1を軸として光学フィルム1を回転したときに、φ方向への反射強度が最大になる軸である(図3参照)。但し、反射強度が最大となる軸(方向)が複数ある場合、そのうちの1つを直線l2として選択するものとする。なお、垂線l1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。
【0032】
選択的に指向反射する特定の波長帯の光、および透過させる特定の光は、光学フィルム1の用途により異なる。例えば、窓材10に対して光学フィルム1を適用する場合、選択的に指向反射する特定の波長帯の光は近赤外光であり、透過させる特定の波長帯の光は可視光であることが好ましい。具体的には、選択的に指向反射する特定の波長帯の光が、主に波長帯域780nm〜2100nmの近赤外線であることが好ましい。近赤外線を反射することで、光学体をガラス窓などの窓材に貼り合わせた場合に、建物内の温度上昇を抑制することができる。したがって、冷房負荷を軽減し、省エネルギー化を図ることができる。ここで、指向反射とは、正反射以外のある特定の方向への反射を有し、かつ、指向性を持たない拡散反射強度よりも十分に強いことを意味する。ここで、反射するとは、特定の波長帯域、例えば近赤外域における反射率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上であることを示す。透過するとは、特定の波長帯域、例えば可視光域における透過率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上であることを示す。
【0033】
光学フィルム1において、指向反射する方向φoが−90°以上、90°以下であることが好ましい。光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空方向に戻すことができるからである。周辺に高い建物がない場合にはこの範囲の光学フィルム1が有用である。また、指向反射する方向が(θ、−φ)近傍であることが好ましい。近傍とは、好ましく(θ、−φ)から5度以内、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内の範囲内のずれのことをいう。この範囲にすることで、光学フィルム1を窓材10に貼った場合、同程度の高さが立ち並ぶ建物の上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を他の建物の上空に効率良く戻すことができるからである。このような指向反射を実現するためには、一方向に延在された柱状体を一次元配列して、第1の光学層4または第2の光学層5の凹凸面を形成することが好ましい。(θ、φ)方向(−90°<φ<90°)から入射した光は、柱状体の傾斜角に基づいて(θo、−φ)方向(0°<θo<90°)に反射させることができる。
【0034】
光学フィルム1において、特定波長体の光の指向反射が、再帰反射近傍方向、すなわち、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光に対する、特定波長体の光の反射方向が、(θ、φ)近傍であることが好ましい。光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に戻すことができるからである。ここで近傍とは5度以内が好ましく、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内である。この範囲にすることで、光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に効率良く戻すことができるからである。また、赤外線センサーや赤外線撮像のように、赤外光照射部と受光部が隣接している場合は、再帰反射方向は入射方向と等しくなければならないが、本発明のように特定の方向からセンシングする必要がない場合は、厳密に同一方向とする必要はない。
【0035】
光学フィルム1において、透過性を持つ波長帯に対する透過像鮮明度に関し、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、さらに好ましくは75以上である。透過像鮮明度の値が50未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。50以上60未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。60以上75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が、好ましくは230以上、より好ましくは270以上、さらに好ましくは350以上である。透過像鮮明度の合計値が230未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。230以上270未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。270以上350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。ここで、透過像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。
【0036】
光学フィルム1において、透過性を持つ波長帯に対するヘイズが、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。ヘイズが6%を超えると、透過光が散乱され、曇って見えるためである。ここで、ヘイズは、村上色彩製HM−150を用いて、JIS K7136で規定される測定方法により測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。光学フィルム1の入射面S1、好ましくは入射面S1および出射面S2は、透過像鮮明度を低下させない程度の平滑性を有する。具体的には、入射面S1および出射面S2の算術平均粗さRaは、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。なお、上記算術平均粗さRaは、入射面の表面粗さを測定し、2次元断面曲線から粗さ曲線を取得し、粗さパラメータとして算出したものである。なお、測定条件はJIS B0601:2001に準拠している。以下に測定装置および測定条件を示す。
測定装置:全自動微細形状測定機 サーフコーダーET4000A(株式会社小坂研究所)
λc=0.8mm、評価長さ4mm、カットオフ×5倍
データサンプリング間隔0.5μm
【0037】
光学フィルム1の透過色はなるべくニュートラルに近く、色付きがあるとしても涼しい印象を与える青、青緑、緑色などの薄い色調が好ましい。このような色調を得る観点からすると、入射面S1から入射し、光学層2および波長選択反射層3を透過し、出射面S2から出射される透過光および反射光の色度座標x、yは、例えばD65光源の照射に対しては、好ましくは0.20<x<0.35かつ0.20<y<0.40、より好ましくは、0.25<x<0.32かつ0.25<y<0.37、更に好ましくは0.30<x<0.32かつ0.30<y<0.35の範囲を満たすのが望ましい。更に、色調が赤みを帯びないためには、好ましくはy>x−0.02、より好ましくはy>xの関係を満たすのが望ましい。また、反射色調が入射角度によって変化すると、例えばビルの窓に適用された場合に、場所によって色調が異なったり、歩くと色が変化して見えるため好ましくない。このような色調の変化を抑制する観点からすると、5°以上60°以下の入射角度θで入射面S1または出射面S2から入射し、光学フィルム1により反射された正反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、光学フィルム1の両主面のいずれにおいても、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.01以下である。このような反射光に対する色座標x、yに関する数値範囲の限定は、入射面S1、および出射面S2の両方の面において満たされることが望ましい。
【0038】
正反射近傍での色変化を抑制するためには、好ましくは5°以下、更に好ましくは10°以下の傾斜角を有する平面が含まれないことが好ましい。また、波長選択反射層3が樹脂で覆われている場合、入射光が空気から樹脂に入射する際に屈折するため、より広い入射角の範囲で正反射光近傍での色調変化を抑制することができる。その他、正反射以外への反射色が問題になる場合は、問題となる方向に指向反射しないように、光学フィルム1を配置することが好ましい。
【0039】
以下、光学フィルム1を構成する第1の光学層4、第2の光学層5、および波長選択反射層3について順次説明する。
【0040】
(第1の光学層、第2の光学層)
第1の光学層4は、例えば、波長選択反射層3を支持し、かつ保護するためのものである。第1の光学層4は、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、例えば、樹脂を主成分とする層からなる。第1の光学層4の両主面のうち、例えば、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹凸面(第1の面)である。波長選択反射層3は該凹凸面上に形成される。
【0041】
第2の光学層5は、波長選択反射層3が形成された第1の光学層4の第1の面(凹凸面)を包埋することにより、波長選択反射層3を保護するためのものである。第2の光学層5は、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、例えば、樹脂を主成分とする層からなる。第2の光学層5の両主面のうち、例えば、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹凸面(第2の面)である。第1の光学層4の凹凸面と第2の光学層5の凹凸面とは、互いに凹凸を反転した関係にある。
【0042】
第1の光学層4の凹凸面は、例えば、1次元配列された非対称な複数の三角柱状体4cにより形成されている。第2の光学層5の凹凸面は、例えば、1次元配列された非対称な複数の三角柱状体5cにより形成されている。第1の光学層4の三角柱状体4cと第2の光学層5の三角柱状体5cとは、凹凸が反転している点のみが異なるので、以下では第1の光学層4の三角柱状体4cについて説明する。
【0043】
光学フィルム1において、三角柱状体4cのピッチPは、好ましくは5μm以上5mm以下、より好ましくは5μm以上250μm未満、さらに好ましくは20μm以上200μm以下である。三角柱状体4cのピッチが5μm未満であると、三角柱状体4cの形状を所望のものとすることが難しい上、波長選択反射層3の波長選択特性は一般的には急峻にすることが困難であるため、透過波長の一部を反射することがある。このような反射が起こると回折が生じて高次の反射まで視認されるため、透明性が悪く感じられる傾向がある。一方、三角柱状体4cのピッチが5mmを超えると、指向反射に必要な三角柱状体4cの形状を考慮した場合、必要な膜厚が厚くなりフレキシブル性が失われ、窓材10などの剛体に貼りあわせることが困難になる。また、三角柱状体4cのピッチを250μm未満にすることにより、さらにフレキシブル性が増し、ロール・ツー・ロールでの製造が容易となり、バッチ生産が不要となる。窓などの建材に本発明の光学素子を適用するためには、数m程度の長さが必要であり、バッチ生産よりもロール・ツー・ロールでの製造が適している。さらに、ピッチを20μm以上200μm以下とした場合には、より生産性が向上する。
【0044】
また、第1の光学層4の表面に形成される三角柱状体4cの形状は1種類に限定されるものではなく、複数種類の形状の三角柱状体4cを第1の光学層4の表面に形成するようにしてもよい。複数種類の形状の三角柱状体4cを表面に設ける場合、複数種類の形状の三角柱状体4cからなる所定のパターンが周期的に繰り返されるようにしてもよい。また、所望とする特性によっては、複数種類の三角柱状体4cがランダム(非周期的)に形成されるようにしてもよい。
【0045】
図3Aは、第1の光学層に形成された三角柱状体の形状例を示す斜視図である。図3Bは、図3Aに示す三角柱状体が形成された第1の光学層を備える光学フィルムの一構成例を示す断面図である。三角柱状体4cは、一方向に延在された非対称な三角柱状体であり、この柱状の三角柱状体4cが一方向に向かって一次元配列されている。このような形状にすることで、入射光を1回または2回の反射で上空へ戻すことができる。したがって、入射光を3回の反射で上空へ戻すコーナーキューブに比して、波長選択反射層3の光吸収量を低減し、発熱を抑制することができる。波長選択反射層3はこの三角柱状体4c上に成膜させるため、波長選択反射層3の形状は、三角柱状体4cの表面形状と同様の形状を有することになる。
【0046】
図3Aに示すように、三角柱状体4cは、光学フィルム1の入射面S1または出射面S2に垂直な垂線l1に対して非対称な形状を有する三角柱状体である。この場合、三角柱状体4cの主軸lmが、垂線l1を基準にして三角柱状体4cの配列方向aに傾くことになる。ここで、三角柱状体4cの主軸lmとは、三角柱状体断面の底辺の中点と三角柱状体の頂点とを通る直線を意味する。地面に対して略垂直に配置された窓材10に光学フィルム1を貼り合わせた場合には、三角柱状体4cの主軸lmが、垂線l1を基準にして窓材10の上方側(上空側)または下方側(地面側)に傾くこととなる。図3Bでは、三角柱状体4cの主軸lmが、垂線l1を基準にして窓材10の下方(地面側)に傾いた例が示されている。
【0047】
図4Aは、図3Bに示した光学フィルムの一部を拡大して表す拡大断面図である。図4Bは、図3Bに示した波長選択反射層を拡大して表す拡大断面図である。三角柱状体4cは、波長選択反射層3を形成する成膜面である三角柱面を形成する第1の傾斜面Sp1と第2の傾斜面Sp2とを有する。第1の傾斜面Sp1が、光学フィルム1を窓材10などの被着体に貼り合わせた場合に、上方側(上空側)となる面であり、第2の傾斜面Sp2が、光学フィルム1を窓材10などの被着体に貼り合わせた場合に、下方側(地面側)となる面である。以下では、第1の傾斜面Sp1、第2の傾斜面Sp2に形成された波長選択反射層3の膜厚をそれぞれ、波長選択反射層3の第1の膜厚d1、第2の膜厚d2と称する。
【0048】
三角柱状体4cは、第1の傾斜面Sp1と第2の傾斜面Sp2により形成される頂角αと、入射面S1または出射面S2に対する第1の傾斜面Sp1の傾斜角βとを有する。傾斜角βは、光学フィルム1を窓材10などの被着体に貼り合わせた場合に、上方側(上空側)となる傾斜角である。光学フィルム1は、各三角柱状体4cにおける傾斜角βが頂角αよりも上方になるようにして、窓材10や建築物などの被着体に対して貼り合わされる。三角柱状体の先端に曲率Rを付すようにしてもよい。このように先端に曲率Rが付されている場合、頂角Rは、曲率Rにより湾曲する頂部より手前の部分の辺の開き角度とする。
【0049】
頂角αおよび傾斜角βは、以下の式(1)〜(4)のいずれか1つの式を満たしている。いずれか1つの式を満たすことで、高い上方反射率を得ることができるからである。
−3.6α+396≦β≦80 (85≦α≦90) ・・・(1)
α−30≦β≦−α+170 (90≦α≦100) ・・・(2)
30≦β≦α−50 (80≦α≦90) ・・・(3)
30≦β≦−α+130 (90≦α≦100) ・・・(4)
【0050】
頂角αおよび傾斜角βが式(1)または(2)を満たしている場合、第1の膜厚d1と第2の膜厚d2とがほぼ同一であることが好ましい。これにより、透過性能、及び反射性能の向上を見込むことができるからである。ここで、膜厚がほぼ同一とは、第1の膜厚d1に対する、第2の膜厚d2の割合((d1/d2)×100)[%]が、±10%以下であることをいう。
【0051】
頂角αおよび傾斜角βが式(3)または(4)を満たしている場合、第1の膜厚d1と第2の膜厚d2とが異なっていても良い。この場合、片方の斜面の波長選択反射層3が薄いと、光を反射できずに透過してしまうため、波長選択反射層3の厚みは7nm以上とすることが好ましい。一方、波長選択反射層3の厚みが14nmを超えると、反射光の色浮が生じてしまうため、波長選択反射層3の厚みは14nm以下とすることが好ましい。すなわち、膜厚の比率は200%以下であることが好ましい。
【0052】
第1の光学層4が、100℃での貯蔵弾性率の低下が少なく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異ならない樹脂を主成分としていることが好ましい。具体的には、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下であり、100℃での貯蔵弾性率が3×107Pa以上である樹脂を含んでいることが好ましい。なお、第1の光学層4は、1種類の樹脂で構成されているのが好ましいが、2種類以上の樹脂を含んでいてもよい。また、必要に応じて、添加剤が混入されていてもよい。
【0053】
このように100℃での貯蔵弾性率の低下が少なく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異ならない樹脂を主成分としていると、熱、または熱と加圧とを伴うプロセスが第1の光学層4の凹凸面(第1の面)を形成後に存在する場合でも、設計した界面形状をほぼ保つことができる。これに対して、100℃での貯蔵弾性率の低下が大きく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異なる樹脂を主成分としていると、設計した界面形状からの変形が大きくなり、光学フィルム1にカールが生じたりする。
【0054】
ここで、熱を伴うプロセスには、アニール処理などのように直接的に光学フィルム1またはその構成部材に対して熱を加えるようなプロセスのみならず、薄膜の成膜時、および樹脂組成物の硬化時などに、成膜面が局所的に温度上昇して間接的にそれらに対して熱を加えるようなプロセスや、エネルギー線照射により金型の温度が上昇し、間接的に光学フィルムに熱を加えるようなプロセスも含まれる。また、上述した貯蔵弾性率の数値範囲を限定することにより得られる効果は、樹脂の種類に特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化型樹脂、およびエネルギー線照射型樹脂のいずれでも得ることができる。
【0055】
第1の光学層4の貯蔵弾性率は、例えば以下のようにして確認することができる。第1の光学層4の表面が露出している場合には、その露出面の貯蔵弾性率を微小硬度計を用いて測定することにより確認することができる。また、第1の光学層4の表面に第1の基材4aなどが形成されている場合には、第1の基材4aなどを剥離して、第1の光学層4の表面を露出させた後、その露出面の貯蔵弾性率を微小硬度計を用いて測定することにより確認することができる。
【0056】
高温下での弾性率の低下を抑制する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂にあっては、側鎖の長さおよび種類などを調整する方法が挙げられ、熱硬化型樹脂、およびエネルギー線照射型樹脂にあっては、架橋点の量および架橋材の分子構造などを調整する方法が挙げられる。但し、このような構造変更によって樹脂材料そのものに求められる特性が損なわれないようにすることが好ましい。例えば、架橋剤の種類によっては室温付近での弾性率が高くなり、脆くなってしまったり、収縮が大きくなりフィルムが湾曲したり、カールしたりすることがあるので、架橋剤の種類を所望とする特性に応じて適宜選択することが好ましい。
【0057】
第1の光学層4が、結晶性高分子材料を主成分として含んでいる場合には、ガラス転移点が、製造プロセス中の最高温度より大きく、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が少ない樹脂を主成分としていることが好ましい。これに対して、ガラス転移点が、室温25℃以上、製造プロセス中の最高温度以下の範囲内にあり、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が大きい樹脂を用いると、製造プロセス中に、設計した理想的な界面形状を保持することが困難になる。
【0058】
第1の光学層4が、非晶性高分子材料を主成分として含んでいる場合には、融点が、製造プロセス中の最高温度より大きく、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が少ない樹脂を主成分としていることが好ましい。これに対して、融点が、室温25℃以上、製造プロセス中の最高温度以下の範囲内にあり、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が大きい樹脂を用いると、製造プロセス中に、設計した理想的な界面形状を保持することが困難になる。
【0059】
ここで、製造プロセス中の最高温度とは、製造プロセス中における第1の光学層4の凹凸面(第1の面)の最高温度を意味している。上述した貯蔵弾性率の数値範囲、およびガラス転移点の温度範囲は、第2の光学層5も満たしていることが好ましい。
【0060】
すなわち、第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下である樹脂を含んでいることが好ましい。室温25℃において光学フィルム1に可撓性を付与することができるので、ロール・ツー・ロールでの光学フィルム1の製造が可能となるからである。
【0061】
第1の基材4a、および第2の基材5aは、例えば、透明性を有している。基材の形状としては、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、フィルム状を有することが好ましいが、特にこの形状に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aの材料としては、例えば、公知の高分子材料を用いることができる。公知の高分子材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられるが、特にこれらの材料に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aの厚さは、生産性の観点から38〜100μmであることが好ましいが、この範囲に特に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aは、エネルギー線透過性を有することが好ましい。これにより、後述するように、第1の基材4a、または第2の基材5aと波長選択反射層3との間に介在させたエネルギー線硬化型樹脂に対して、第1の基材4a、または第2の基材5a側からエネルギー線を照射し、エネルギー線硬化型樹脂を硬化させることができるからである。
【0062】
第1の光学層4、および第2の光学層5は、例えば、透明性を有する。第1の光学層4、および第2の光学層5は、例えば、樹脂組成物を硬化することにより得られる。樹脂組成物としては、製造の容易性の観点からすると、光または電子線などにより硬化するエネルギー線硬化型樹脂、または熱により硬化する熱硬化型樹脂を用いることが好ましい。エネルギー線硬化型樹脂としては、光により硬化する感光性樹脂組成物が好ましく、紫外線により硬化する紫外線硬化型樹脂組成物が最も好ましい。樹脂組成物は、第1の光学層4、または第2の光学層5と波長選択反射層3との密着性を向上させる観点から、リン酸を含有する化合物、コハク酸を含有する化合物、ブチロラクトンを含有する化合物をさらに含有することが好ましい。リン酸を含有する化合物としては、例えばリン酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはリン酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。コハク酸を含有する化合物としては、例えば、コハク酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはコハク酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。ブチロラクトンを含有する化合物としては、例えば、ブチロラクトンを含有する(メタ)アクリレート、好ましくはブチロラクトンを官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。
【0063】
紫外線硬化型樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有している。また、紫外線硬化型樹脂組成物が、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤および酸化防止剤などをさらに含有するようにしてもよい。
【0064】
アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることが好ましい。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。ここで、オリゴマーとは、分子量500以上60000以下の分子をいう。
【0065】
光重合開始剤としては、公知の材料から適宜選択したものを使用できる。公知の材料としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。重合開始剤の配合量は、固形分中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光硬化性が低下し、実質的に工業生産に適さない。一方、10質量%を超えると、照射光量が小さい場合に、塗膜に臭気が残る傾向にある。ここで、固形分とは、硬化後のハードコート層12を構成する全ての成分をいう。具体的には例えば、アクリレート、および光重合開始剤などを固形分という。
【0066】
樹脂はエネルギー線照射や熱などによって構造を転写できるものが好ましく、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、熱可塑性樹脂など上述の屈折率の要求を満たすものであればどのような種類の樹脂を使用しても良い。
【0067】
硬化収縮を低減するために、オリゴマーを添加してもよい。硬化剤としてポリイソシアネートなどを含んでもよい。また、第1の光学層4、および第2の光学層5との密着性を考慮して水酸基やカルボキシル基、リン酸基を有するような単量体、多価アルコール類、カルボン酸、シラン、アルミ、チタンなどのカップリング剤や各種キレート剤などを添加しても良い。
【0068】
樹脂組成物が、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。この架橋剤としては、環状の架橋剤を用いることが特に好ましい。架橋剤を用いることで、室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。なお、室温での貯蔵弾性率が大きく変化すると、光学フィルム1が脆くなり、ロール・ツー・ロール工程などによる光学フィルム1の作製が困難となる。環状の架橋剤としては、例えば、ジオキサングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0069】
第1の基材4a、または第2の基材5aは、第1の光学層4、または第2の光学層5より水蒸気透過率が低いことが好ましい。例えば、第1の光学層4をウレタンアクリレートのようなエネルギー線硬化型樹脂で形成する場合には、第1の基材4aを第1の光学層4より水蒸気透過率が低く、かつ、エネルギー線透過性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂により形成することが好ましい。これにより、入射面S1または出射面S2から波長選択反射層3への水分の拡散を低減し、波長選択反射層3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、光学フィルム1の耐久性を向上させることができる。なお、厚み75μmのPETの水蒸気透過率は、10g/m2/day(40℃、90%RH)程度である。
【0070】
第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、極性の高い官能基を含み、その含有量が第1の光学層4と第2の光学層5とで異なることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5との両方が、リン酸化合物(例えば、リン酸エステル)を含み、第1の光学層4と第2の光学層5とにおける上記リン酸化合物の含有量が異なることが好ましい。リン酸化合物の含有量は、第1の光学層4と第2の光学層5とにおいて、好ましくは2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上異なる。
【0071】
第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、リン酸化合物を含む場合、波長選択反射層3は、リン酸化合物を含む第1の光学層4または第2の光学層5と接する面に、酸化物もしくは窒化物、酸窒化物を含むことが好ましい。波長選択反射層3は、リン酸化合物を含む第1の光学層4または第2の光学層5と接する面に、酸化亜鉛(ZnO)または酸化ニオブを含む層を有することが特に好ましい。これらの光学層と波長選択反射層3との密着性が向上するためである。また、波長選択反射層3がAg等の金属を含む場合に、腐食防止効果が高いからである。また、この波長選択反射層3は、Al、Gaなどのドーパントを含有していても良い。金属酸化物層をスパッタ法等で形成する場合に、膜質や平滑性が向上するからである。
【0072】
第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、光学フィルム1や窓材10などに意匠性を付与する観点からすると、可視領域における特定の波長帯の光を吸収する特性を有することが好ましい。樹脂中に分散させる顔料は、有機系顔料および無機系顔料のいずれであってもよいが、特に顔料自体の耐候性が高い無機系顔料とすることが好ましい。具体的には、ジルコングレー(Co、NiドープZrSiO4)、プラセオジムイエロー(PrドープZrSiO4)、クロムチタンイエロー(Cr、SbドープTiO2またはCr、WドープTiO2)、クロムグリーン(Cr2O3など)、ピーコックブルー((CoZn)O(AlCr)2O3)、ビクトリアグリーン((Al、Cr)2O3)、紺青(CoO・Al2O3・SiO2)、バナジウムジルコニウム青(VドープZrSiO4)、クロム錫ピンク(CrドープCaO・SnO2・SiO2)、陶試紅(MnドープAl2O3)、サーモンピンク(FeドープZrSiO4)などの無機顔料、アゾ系顔料やフタロシアニン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0073】
(波長選択反射層)
波長選択反射層3は、例えば、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光のうち、特定波長帯の光を指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過するものである。波長選択反射層3は、例えば、積層膜、透明導電層、または機能層である。また、積層膜、透明導電層、および機能層を2以上組み合わせて波長選択反射層3としてもよい。波長選択反射層3の平均層厚は、好ましくは20μm、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。波長選択反射層3の平均層厚が20μmを超えると、透過光が屈折する光路が長くなり、透過像が歪んで見える傾向がある。反射層の形成方法としては、例えば、スパッタ法、蒸着法、ディップコーティング法、ダイコーティング法などを用いることができる。
【0074】
以下、積層膜、透明導電層、および機能層について順次説明する。
(積層膜)
積層膜は、例えば、屈折率の異なる低屈折率層および高屈折率層を交互に積層してなる積層膜である。または、積層膜は、例えば、赤外領域において反射率の高い金属層と、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する高屈折率層とを交互に積層してなる積層膜である。高屈折率層としては、光学透明層、または透明導電層を用いることができる。
【0075】
赤外領域において反射率の高い金属層は、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのAg系、Cu系、Al系、Si系またはGe系の材料が好ましい。また、金属層の材料として合金を用いる場合には、金属層は、AlCu、AlTi、AlCr、AlCo、AlNdCu、AlMgSi、AgPdCu、AgPdTi、AgCuTi、AgPdCa、AgPdMg、AgPdFe、AgまたはSiBなどを主成分とすることが好ましい。また、金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。特に、金属層の材料としてAgを用いる場合には、上記材料を添加することが好ましい。
【0076】
光学透明層は、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する光学透明層である。光学透明層は、例えば酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタンなどの高誘電体を主成分とする。透明導電層は、例えば、ZnO系酸化物、インジウムドープ酸化錫などの主成分とする。なお、ZnO系酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(GAZO)、Alをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびガリウム(Ga)をドープした酸化亜鉛(GZO)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0077】
また、積層膜に含まれる高屈折率層の屈折率は、1.7以上2.6以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.8以上2.6以下、更に好ましくは1.9以上2.6以下である。これにより、クラックが発生しない程度の薄い膜で可視光領域での反射防止が実現できるからである。ここで、屈折率は、波長550nmにおけるものである。高屈折率層は、例えば、金属の酸化物を主成分とする層である。金属の酸化物としては、層の応力を緩和し、クラックの発生を抑制する観点からすると、酸化亜鉛以外の金属酸化物を用いることが好ましい場合もある。特に、酸化ニオブ(例えば、五酸化ニオブ)、酸化タンタル(例えば、五酸化タンタル)、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。高屈折率層の膜厚は、好ましくは10nm以上120nm以下、より好ましくは10nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上80nm以下である。膜厚が10nm未満であると、可視光が反射しやすくなる傾向がある。一方、膜厚が120を超えると、透過率の低下やクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0078】
なお、積層膜は、無機材料からなる薄膜に限定されるものではなく、高分子材料からなる薄膜や高分子中に微粒子などを分散した層を積層して構成してもよい。また、これら光学透明層成膜時の下層金属の酸化劣化を防ぐ目的で、成膜する光学透明層の界面に数nm程度のTiなどの薄いバッファー層を設けてもよい。ここで、バッファー層とは、上層成膜時に、自らが酸化することで下層である金属層などの酸化を抑制するための層である。
【0079】
(透明導電層)
透明導電層は、可視領域において透明性を有する導電性材料を主成分とする透明導電層である。透明導電層は、例えば、酸化錫、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ含有体、インジウムドープ酸化錫、インジウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化錫などの透明導電物質を主成分とする。もしくはこれらのナノ粒子や金属などの導電性を持つ材料のナノ粒子、ナノロッド、ナノワイヤーを樹脂中に高濃度に分散させた層を用いても良い。
【0080】
(機能層)
機能層は、外部刺激により反射性能などが可逆的に変化するクロミック材料を主成分とする。クロミック材料は、例えば、熱、光、侵入分子などの外部刺激により構造を可逆的に変化させる材料である。クロミック材料としては、例えば、フォトクロミック材料、サーモクロミック材料、ガスクロミック材料、エレクトロクロミック材料を用いることができる。
【0081】
フォトクロミック材料とは、光の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。フォトクロミック材料は、例えば紫外線などの光照射により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。フォトクロミック材料としては、例えばCr、Fe、NiなどをドープしたTiO2、WO3、MoO3、Nb2O5などの遷移金属酸化物を用いることができる。また、これらの層と屈折率の異なる層を積層することで波長選択性を向上させることもできる。
【0082】
サーモクロミック材料とは、熱の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。フォトクロミック材料は、加熱により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。サーモクロミック材料としては、例えばVO2などを用いることができる。また、転移温度や転移カーブを制御する目的で、W、Mo、Fなどの元素を添加することもできる。また、VO2などのサーモクロミック材料を主成分とする薄膜を、TiO2やITOなどの高屈折率体を主成分とする反射防止層で挟んだ積層構造としてもよい。
【0083】
または、コレステリック液晶などのフォトニックラティスを用いることもできる。コレステリック液晶は層間隔に応じた波長の光を選択的に反射することができ、この層間隔は温度によって変化するため、加熱により、反射率や色などの物性を可逆的に変化させることができる。この時、層間隔の異なるいくつかのコレステリック液晶層を用いて反射帯域を広げることも可能である。
【0084】
エレクトロクロミック材料とは、電気により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる材料である。エレクトロクロミック材料としては、例えば、電圧の印加により構造を可逆的に変化させる材料を用いることができる。より具体的には、エレクトロクロミック材料としては、例えば、プロトンなどのドープまたは脱ドープにより、反射特性が変わる反射型調光材料を用いることができる。反射型調光材料とは、具体的には、外部刺激により、光学的な性質を透明な状態と、鏡の状態、および/またはその中間状態に制御することができる材料である。このような反射型調光材料としては、例えば、マグネシウムおよびニッケルの合金材料、マグネシウムおよびチタンの合金材料を主成分とする合金材料、WO3やマイクロカプセル中に選択反射性を有する針状結晶を閉じ込めた材料などを用いることができる。
【0085】
具体的な機能層の構成としては、例えば、第2の光学層上に、上記合金層、Pdなどを含む触媒層、薄いAlなどのバッファー層、Ta2O5などの電解質層、プロトンを含むWO3などのイオン貯蔵層、透明導電層が積層された構成を用いることができる。または、第2の光学層上に透明導電層、電解質層、WO3などのエレクトロクロミック層、透明導電層が積層された構成を用いることができる。これらの構成では、透明導電層と対向電極の間に電圧を印加することにより、電解質層に含まれるプロトンが合金層にドープまたは脱ドープされる。これにより、合金層の透過率が変化する。また、波長選択性を高めるために、エレクトロクロミック材料をTiO2やITOなどの高屈折率体と積層することが望ましい。また、その他の構成として、第2の光学層上に透明導電層、マイクロカプセルを分散した光学透明層、透明電極が積層された構成を用いることができる。この構成では、両透明電極間に電圧を印加することにより、マイクロカプセル中の針状結晶が配向した透過状態にしたり、電圧を除くことで針状結晶が四方八方を向き、波長選択反射状態にすることができる。
【0086】
[光学フィルムの機能]
図5A、図5Bは、光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。図5Aに示すように、この光学フィルム1に入射した太陽光のうち近赤外線L1の一部は、入射した方向と同程度の上空方向に指向反射されるのに対して、可視光L2は光学フィルム1を透過する。
【0087】
また、図5Bに示すように、光学フィルム1に入射し、波長選択反射層3の反射層面で反射された光は、入射角度に応じた割合で、上空反射する成分LAと、上空反射しない成分LBとに分離する。そして、上空反射しない成分LBは、第2の光学層4と空気との界面で全反射された後、最終的に入射方向とは異なる方向に反射される。
【0088】
図6は、三角柱状体4cの稜線l3と、入射光Lおよび反射光L1との関係を示す。光学フィルム1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L1を選択的に(θo、−φ)の方向(0°<θo<90°)に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L2を透過することが好ましい。このような関係を満たすことで、特定波長帯の光を上空方向に反射できるからである。但し、θ:入射面S1に対する垂線l1と、入射光Lまたは反射光L1とのなす角である。φ:入射面S1内において柱状の三角柱状体4cの稜線l3と直交する直線とl2と、入射光Lまたは反射光L1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。なお、垂線l1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。
【0089】
[光学フィルムの全体形状]
図30は、第1の実施形態に係る光学フィルムの全体形状の一例を示す斜視図である。図30に示すように、光学フィルム1は、全体として帯状または矩形状の形状を有していることが好ましい。このような形状とすることで、光学フィルム1をロール・ツー・ロール工程により容易に作製することができる。また、ロール状などに光学フィルム1を巻回することで、取り扱いを容易とすることができる。以下では、帯状または矩形状を有する光学フィルム1の長手方向を長手方向DL、短手方向(幅方向ともいう。)を短手方向DWと称する。また、第1の光学層4に形成された三角柱状体4cの稜線lrの方向を稜線方向DRと称する。
【0090】
三角柱状体4cは、その稜線lrが光学フィルム1の短手方向DWと平行となるように第1の光学層4に形成されていることが好ましい。三角柱状体4cの稜線方向DRと光学フィルム1の長手方向を長手方向DLとが直交する関係にあることが好ましい。これにより、建築物の高さ方向と、帯状または矩形状の光学フィルム1の長手方向DLとが略平行の関係となるように、帯状または矩形状の光学フィルム1を建築物の窓材などに貼り合わせるだけで、光学フィルム1の反射機能を有効に発現させることができる。
【0091】
[光学フィルムの貼り合わせ方法]
図31A、図31Bは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの貼り合わせ方法の一例を説明するための略線図である。ビルディングなどの近年の高層建築物に設けられた窓材10は、横幅に比べて縦幅の方が大きい矩形状のものが一般的である。したがって、以下では、このような形状を有する窓材10に対して光学フィルム1を貼り合わせる例について説明する。
【0092】
まず、ロール状に巻回された光学フィルム(いわゆる原反)1から、帯状の光学フィルム1を巻き出し、貼り合わせる窓材10の形状に合わせて適宜裁断し、矩形状の光学フィルム1を得る。この矩形状の光学フィルム1は、図31Aに示すように、対向する1組みの長辺Laと、対向する1組みの短辺Lbとを有する。矩形状の光学フィルム1の長辺Laと、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRとが略直交している。すなわち、矩形状の光学フィルム1の長手方向DLと、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRの方向とが略直交している。
【0093】
次に、裁断した光学フィルム1の一方の短辺Lbを、矩形状の窓材10の上端に位置する短辺10aに位置合わせする。次に、矩形状の光学フィルム1を貼り合わせ層6などを介して窓材10の上端から下端に向かって順次貼り合わせる。これにより、光学フィルム1の他方の短辺Lbが、矩形状の窓材10の他端に位置する短辺10bに位置合わせされる。次に、必要に応じて、窓材10に貼り合わされた光学フィルム1の表面を押圧などして、窓材10と光学フィルム1との間に混入した気泡を脱気する。以上により、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRと、高層建築物などの建築物の高さ方向DHとが略平行となるように、矩形状の光学フィルム1が窓材10に貼り合わされる。
【0094】
[光学フィルムの貼り合わせ方向]
図32A、図32Bは、貼り合わせ方向による光学フィルム1の反射機能の相違を説明するための略線図である。
【0095】
図32Aでは、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRと、建築物の高さ方向DHとが略直交するように、光学フィルム1を窓材10に貼り合わさせた建築物500の例が示されている。すなわち、上述の光学フィルムの貼り合わせ方法により、光学フィルム1を窓材10に対して貼り合わせた例が示されている。このように光学フィルム1を窓材10に貼り合わせた場合には、光学フィルム1の反射機能を有効に発現させることができる。したがって、上方向から窓材10に入射した光の多くを、上方向に反射することができる。すなわち、窓材10の上方反射率を向上させることができる。
【0096】
図32Bでは、光学フィルム1の入射面内における三角柱状体4cの稜線方向DRと、建築物の高さ方向DHとが直交せず、斜めの関係となるように、光学フィルム1を窓材10に貼り合わせた建築物600の例が示されている。このように光学フィルム1を窓材10に貼り合わせた場合には、光学フィルム1の反射機能を有効に発現させることができなくなる。したがって、上方向から窓材10に入射した光が、下方向に反射される割合が増加してしまう。すなわち、窓材10の上方反射率が低下してしまう。
【0097】
[光学フィルムの製造装置]
図7は、第1の実施形態に係る光学フィルムを製造するための製造装置の一構成例を示す概略図である。図7に示すように、この製造装置は、ラミネートロール41、42、ガイドロール43、塗布装置45、および照射装置46を備える。
【0098】
ラミネートロール41、42は、反射層付き光学層9と、第2の基材5aとをニップ可能に構成されている。ここで、反射層付き光学層9は、第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3を成膜したものである。なお、反射層付き光学層9として、第1の光学層4の波長選択反射層3が成膜された面と反対側の他主面上に第1の基材4aが形成されていてもよい。この例では、第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3が成膜され、他主面上に第1の基材4aが形成された場合が示されている。ガイドロール43は、帯状の光学フィルム1を搬送できるように、この製造装置内の搬送路に配置されている。ラミネートロール41、42およびガイドロール43の材質は特に限定されるものではなく、所望とするロール特性に応じてステンレスなどの金属、ゴム、シリコーンなどを適宜選択して用いることができる。
【0099】
塗布装置45は、例えば、コーターなどの塗布手段を備える装置を用いることができる。コーターとしては、例えば、塗布する樹脂組成物の物性などを考慮して、グラビア、ワイヤバー、およびダイなどのコーターを適宜使用することができる。照射装置46は、例えば、電子線、紫外線、可視光線、またはガンマ線などの電離線を照射する照射装置である。この例では、照射装置46として紫外線を照射するUVランプを用いた場合が図示されている。
【0100】
[光学フィルムの製造方法]
以下、図7〜図10を参照して、第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例について説明する。なお、以下に示す製造プロセスの一部または全部は、生産性を考慮して、ロール・ツー・ロールにより行われることが好ましい。但し、金型の作製工程は除くものとする。
【0101】
まず、図8Aに示すように、例えばバイト加工またはレーザー加工などにより、三角柱状体4cと同一の凹凸形状の金型、またはその金型の反転形状を有する金型(レプリカ)を形成する。次に、図8Bに示すように、例えば溶融押し出し法または転写法などを用いて、上記金型の凹凸形状をフィルム状の樹脂材料に転写する。転写法としては、型にエネルギー線硬化型樹脂を流し込み、エネルギー線を照射して硬化させる方法、樹脂に熱や圧力を加え、形状を転写する方法、または樹脂フィルムをロールから供給し、熱を加えながら型の形状を転写する方法(ラミネート転写法)などが挙げられる。これにより、図8Cに示すように、一主面に三角柱状体4cを有する第1の光学層4が形成される。
【0102】
また、図8Cに示すように、第1の基材4a上に、第1の光学層4を形成するようにしてもよい。この場合には、例えば、フィルム状の第1の基材4aをロールから供給し、該基材上にエネルギー線硬化型樹脂を塗布した後に型に押し当て、型の形状を転写し、エネルギー線を照射して樹脂を硬化させる方法が用いられる。なお、樹脂は、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。
【0103】
次に、図9Aに示すように、その第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3を成膜する。波長選択反射層3の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ウェットコーティング法、スプレーコーティング法などが挙げられ、これらの成膜方法から、三角柱状体4cの形状などに応じて適宜選択することが好ましい。次に、図9Bに示すように、必要に応じて、波長選択反射層3に対してアニール処理31を施す。アニール処理の温度は、例えば100℃以上250℃以下の範囲内である。
【0104】
次に、図9Cに示すように、未硬化状態の樹脂22を波長選択反射層3上に塗布する。樹脂22としては、例えば、エネルギー線硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂などを用いることができる。エネルギー線硬化型樹脂としては、紫外線硬化樹脂が好ましい。次に、図10Aのように、樹脂21上に第2の基材5aを被せることにより、積層体を形成する。次に、図10Bに示すように、例えばエネルギー線32または加熱32により樹脂22を硬化させるとともに、積層体に対して圧力33を加える。エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、可視光線、ガンマ線、電子線などを用いることができ、生産設備の観点から、紫外線が好ましい。積算照射量は、樹脂の硬化特性、樹脂や基材11の黄変抑制などを考慮して適宜選択することが好ましい。積層体に加える圧力は、0.01MPa以上1MPa以下の範囲内であることが好ましい。0.01MPa未満であると、フィルムの走行性に問題が生じる。一方、1MPaを超えると、ニップロールとして金属ロールを用いる必要があり、圧力ムラが生じ易く好ましくない。以上により、図10Cに示すように、波長選択反射層3上に第2の光学層5が形成され、光学フィルム1が得られる。
【0105】
ここで、図7に示す製造装置を用いて、光学フィルム1の形成方法について具体的に説明する。まず、図示しない基材供給ロールから第2の基材5aを送出し、送出された第2の基材5aは、塗布装置45の下を通過する。次に、塗布装置45の下を通過する第2の基材5a状に、塗布装置45により電離線硬化樹脂44を塗布する。次に、電離線硬化樹脂44が塗布された第2の基材5aをラミネートロールに向けて搬送する。一方、図示しない光学層供給ロールから反射層付き光学層9を送出し、ラミネートロール41、42に向けて搬送する。
【0106】
次に、第2の基材5aと反射層付き光学層9との間に気泡が入らないように、搬入された第2の基材5aと反射層付き光学層9とをラミネートロール41、42により挟み合わせ、第2の基材5aに対して反射層付き光学層9をラミネートする。次に、反射層付き光学層9によりラミネートされた第2の基材5aを、ラミネートロール41の外周面に沿わせながら搬送するとともに、照射装置46により第2の基材5a側から電離線硬化樹脂44に電離線を照射し、電離線硬化樹脂44を硬化させる。これにより、第2の基材5aと反射層付き光学層9とが電離線硬化樹脂44を介して貼り合わされ、目的とする長尺の光学フィルム1が作製される。次に、作製された帯状の光学フィルム1を図示しない巻き取りロールにより巻き取る。これにより、帯状の光学フィルム1が巻回された原反が得られる。
【0107】
硬化した第1の光学層4は、上述の第2の光学層形成時のプロセス温度をt℃としたときに、(t−20)℃における貯蔵弾性率が3×107Pa以上であることが好ましい。ここで、プロセス温度tとは、例えば、ラミネートロール41の加熱温度である。第1の光学層4は、例えば、第1の基材4a上に設けられ、第1の基材4aを介してラミネートロール41に沿うように搬送されるため、実際に第1の光学層4にかかる温度は、経験的に(t−20)℃程度であることが分かっている。したがって、第1の光学層4の(t−20)℃における貯蔵弾性率を3×107Pa以上にすることにより、熱、または熱と加圧とにより光学層内部の界面の凹凸形状が変形することを抑制することができる。
【0108】
また、第1の光学層4は、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下であることが好ましい。これにより、室温において可撓性を光学フィルムに付与することができる。したがって、ロール・ツー・ロールなどの製造工程により光学フィルム1を作製することが可能となる。
【0109】
なお、プロセス温度tは、光学層または基材の使用樹脂の耐熱性を考慮すると、200℃以下であることが好ましい。ただし、耐熱性の高い樹脂を用いることにより、プロセス温度tを200℃以上に設定することも可能である。
【0110】
第1の実施形態によれば、特定波長帯の光を反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる光学フィルム1において、波長選択反射層3による反射回数を1回または2回にすることができる。したがって、波長選択反射層3の光吸収による発熱を低減し、安全性の向上、および省エネルギー化(例えばCO2排出量の低減化)を実現することが可能である。
【0111】
また、非対称な複数の三角柱状体4cを一次元配列し、これらの三角柱状体4cの頂角αおよび傾斜角βを上記式(1)〜(4)のいずれか1つを満たす範囲内に設定しているので、高い上方反射率を得ることができる。また、コーナーキューブを三角柱状体4cとして用いた場合に比して、膜厚を小さくすることができる。したがって、光学フィルム1を低廉化することが可能となる。
【0112】
(1)素ガラス(フィルムを貼っていない状態のガラス)、(2)熱線反射平板構造を有するガラス、(3)コーナーキューブ型再帰反射構造(熱線再帰性反射構造)を有するガラス、(4)第1の実施形態に係る光学フィルムを貼ったガラスを窓に実際に設けた場合におけるガラスの室内側の温度の例を以下に示す。
素ガラス:32℃
熱線反射平板構造のガラス:34℃
熱線再帰性反射構造のガラス:35℃
第1の実施形態に係る光学フィルムを貼ったガラス:34.5℃
(但し、温度は、熱平衡到達後の平均温度である。)
この例に示すように、コーナーキューブ型再帰反射構造を有するガラスでは、素ガラスおよび熱線反射平板構造のガラスに比して温度が上昇する傾向がある。これに対して、第1の実施形態に係る光学フィルムを貼ったガラスでは、コーナーキューブ型再帰反射構造を有するガラスに比して温度が低下する傾向がある。
【0113】
<変形例>
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0114】
[第1の変形例]
図11Aは、第1の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。図11Aに示すように、この第1の変形例に係る光学フィルム1は、凹凸形状の入射面S1を有している。入射面S1の凹凸形状は、例えば、第1の光学層4の凹凸形状に倣うように形成されており、両形状の凸部の頂部と凹部の最下部との位置が一致している。入射面S1の凹凸形状は、第1の光学層4の凹凸形状よりもなだらかであることが好ましい。
【0115】
[第2の変形例]
図11Bは、第1の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。図11Bに示すように、この第2の変形例に係る光学フィルム1では、波長選択反射層3が形成された第1の光学層4の凹凸面のうちの凸形状頂部の位置が、第1の光学層4の入射面S1とほぼ同一の高さとなるように形成されている。
【0116】
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態は、特定波長の光を指向反射するのに対して、特定波長以外の光を散乱させる点において、第1の実施形態とは異なっている。光学フィルム1は、入射光を散乱する光散乱体を備えている。この散乱体は、例えば、光学層2の表面、光学層2の内部、および波長選択反射層3と光学層2との間のうち、少なくとも1箇所に設けられている。光散乱体は、好ましくは、波長選択反射層3と第1の光学層4との間、第1の光学層4の内部、および第1の光学層4の表面のうちの少なくとも一箇所に設けられている。光学フィルム1を窓材などの支持体に貼り合わせる場合、室内側および室外側のどちらにも適用可能である。光学フィルム1を室外側に対して貼り合わせる場合、波長選択反射層3と窓材などの支持体との間にのみ、特定波長以外の光を散乱させる光散乱体を設けることが好ましい。波長選択反射層3と入射面との間に光散乱体が存在すると、指向反射特性が失われてしまうからである。また、室内側に光学フィルム1を貼り合せる場合には、その貼り合わせ面とは反対側の出射面と、波長選択反射層3との間に光散乱体を設けることが好ましい。
【0117】
図12Aは、第2の実施形態に係る光学フィルム1の第1の構成例を示す断面図である。図12Aに示すように、第1の光学層4は、樹脂と微粒子11とを含んでいる。微粒子11は、第1の光学層4の主構成材料である樹脂とは異なる屈折率を有している。微粒子11としては、例えば有機微粒子および無機微粒子の少なくとも1種を用いることができる。また、微粒子11としては、中空微粒子を用いてもよい。微粒子11としては、例えば、シリカ、アルミナなどの無機微粒子、またはスチレン、アクリルやそれらの共重合体などの有機微粒子が挙げられるが、シリカ微粒子が特に好ましい。
【0118】
図12Bは、第2の実施形態に係る光学フィルム1の第2の構成例を示す断面図である。図12Bに示すように、光学フィルム1は、第1の光学層4の表面に光拡散層12をさらに備えている。光拡散層12は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0119】
図12Cは、第2の実施形態に係る光学フィルム1の第3の構成例を示す断面図である。図12Cに示すように、光学フィルム1は、波長選択反射層3と第1の光学層4との間に光拡散層12をさらに備えている。光拡散層12は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0120】
第2の実施形態によれば、赤外線などの特定波長帯の光を指向反射し、可視光などの特定波長対以外の光を散乱させることができる。したがって、光学フィルム1を曇らせて、光学フィルム1に対して意匠性を付与することができる。
【0121】
<3.第3の実施形態>
図13は、第3の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。第3の実施形態は、光学フィルム1の入射面S1および出射面S2のうち、被着体に貼り合わされる面とは反対側の露出面上に、洗浄効果を発現する自己洗浄効果層51をさらに備えている点において、第1の実施形態とは異なっている。自己洗浄効果層51は、例えば、光触媒を含んでいる。光触媒としては、例えば、TiO2を用いることができる。
【0122】
上述したように、光学フィルム1は入射光を半透過する点に特徴を有している。光学フィルム1を屋外や汚れの多い部屋などで使用する際には、表面に付着した汚れにより光が散乱され透過性および反射性が失われてしまうため、表面が常に光学的に透明であることが好ましい。そのため、表面が撥水性や親水性などに優れ、表面が自動的に洗浄効果を発現することが好ましい。
【0123】
第3の実施形態によれば、光学フィルム1が自己洗浄効果層51を備えているので、撥水性や親水性などを入射面に付与することができる。したがって、入射面に対する汚れなどの付着を抑制し、指向反射特性の低減を抑制できる。
【0124】
<4.第4の実施形態>
上述の第1の実施形態では、本発明を窓材などに適用する場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、窓材以外の内装部材や外装部材などに適用することが可能である。また、本発明は壁や屋根などのように固定された不動の内装部材および外装部材のみならず、季節や時間変動などに起因する太陽光の光量変化に応じて、太陽光の透過量および/または反射量を内装部材または外装部材を動かして調整し、屋内などの空間に取り入れ可能な装置にも適用可能である。第4の実施形態では、このような装置の一例として、複数の日射遮蔽部材からなる日射遮蔽部材群の角度を変更することにより、日射遮蔽部材群による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置(ブラインド装置)について説明する。
【0125】
図14は、第4の実施形態に係るブラインド装置の一構成例を示す斜視図である。図14に示すように、日射遮蔽装置であるブラインド装置は、ヘッドボックス203と、複数のスラット(羽)202aからなるスラット群(日射遮蔽部材群)202と、ボトムレール204とを備える。ヘッドボックス203は、複数のスラット202aからなるスラット群202の上方に設けられている。ヘッドボックス203からラダーコード206、および昇降コード205が下方に向かって延びており、これらのコードの下端にボトムレール204が吊り下げられている。日射遮蔽部材であるスラット202aは、例えば、細長い矩形状を有し、ヘッドボックス203から下方に延びるラダーコード206により所定間隔で吊り下げ支持されている。また、ヘッドボックス203には、複数のスラット202aからなるスラット群202の角度を調整するためのロッドなどの操作手段(図示省略)が設けられている。
【0126】
ヘッドボックス203は、ロッドなどの操作手段の操作により応じて、複数のスラット202aからなるスラット群202を回転駆動することにより、室内などの空間に取り込まれる光量を調整する駆動手段である。また、ヘッドボックス203は、昇降操作コード207などの操作手段の適宜操作に応じて、スラット群202を昇降する駆動手段(昇降手段)としての機能も有している。
【0127】
図15Aは、スラットの第1の構成例を示す断面図である。図15Aに示すように、スラット202は、基材211と、光学フィルム1とを備える。光学フィルム1は、基材211の両主面のうち、スラット群202を閉じた状態において外光が入射する入射面側(例えば窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。光学フィルム1と基材211とは、例えば、接着層または粘着層などの貼合層により貼り合される。
【0128】
基材211の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材211の材料としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。光学フィルム1としては、上述の第1〜第3の実施形態に係る光学フィルム1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0129】
図15Bは、スラットの第2の構成例を示す断面図である。図15Bに示すように、第2の構成例は、光学フィルム1をスラット202aとして用いるものである。光学フィルム1は、ラダーコード205により支持可能であるとともに、支持した状態において形状を維持できる程度の剛性を有していることが好ましい。
【0130】
<5.第5の実施形態>
第5の実施形態では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるロールスクリーン装置について説明する。
【0131】
図16Aは、第5の実施形態に係るロールスクリーン装置の一構成例を示す斜視図である。図16Aに示すように、日射遮蔽装置であるロールスクリーン装置301は、スクリーン302と、ヘッドボックス303と、芯材304とを備える。ヘッドボックス303は、チェーン205などの操作部を操作することにより、スクリーン302を昇降可能に構成されている。ヘッドボックス303は、その内部にスクリーンを巻き取り、および巻き出すための巻軸を有し、この巻軸に対してスクリーン302の一端が結合されている。また、スクリーン302の他端には芯材304が結合されている。スクリーン302は可撓性を有し、その形状は特に限定されるものではなく、ロールスクリーン装置301を適用する窓材などの形状に応じて選択することが好ましく、例えば矩形状に選ばれる。
【0132】
図16Bは、スクリーン302の一構成例を示す断面図である。図16Bに示すように、スクリーン302は、基材311と、光学フィルム1とを備え、可撓性を有していることが好ましい。光学フィルム1は、基材211の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。光学フィルム1と基材311とは、例えば、接着層または粘着層などの貼合層により貼り合される。なお、スクリーン302の構成はこの例に限定されるものではなく、光学フィルム1をスクリーン302として用いるようにしてもよい。
【0133】
基材311の形状としては、例えば、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材311としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。光学フィルム1としては、上述の第1〜第3の実施形態に係る光学フィルム1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0134】
<6.第6の実施形態>
第6の実施形態では、指向反射性能を有する光学体に採光部を備える建具(内装部材または外装部材)に対して本発明を適用した例について説明する。
【0135】
図17Aは、第6の実施形態に係る建具の一構成例を示す斜視図である。図24Aに示すように、建具401は、その採光部404に光学体402を備える構成を有している。具体的には、建具401は、光学体402と、光学体402の周縁部に設けられる枠材403とを備える。光学体402は枠材403により固定され、必要に応じて枠材403を分解して光学体402を取り外すことが可能である。建具401としては、例えば障子を挙げることができるが、本発明はこの例に限定されるものではなく、採光部を有する種々の建具に適用可能である。
【0136】
図17Bは、光学体の一構成例を示す断面図である。図17Bに示すように、光学体402は、基材411と、光学フィルム1とを備える。光学フィルム1は、基材411の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けられる。光学フィルム1と基材311とは、接着層または粘着層などの貼合層などにより貼り合される。なお、障子402の構成はこの例に限定されるものではなく、光学フィルム1を光学体402として用いるようにしてもよい。
【0137】
基材411は、例えば、可撓性を有するシート、フィルム、または基板である。基材411としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空欄に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来建具の光学体として公知のものを用いることができる。光学フィルム1としては、上述の第1〜第3の実施形態に係る光学フィルム1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0138】
以下、試験例および実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例および実施例のみに限定されるものではない。
【0139】
図18は、上方反射率の定義を説明するための模式図である。
以下の試験例および実施例において、上方反射率は以下の式により定義される。
上方反射率Ru=[(上方向の反射光パワーの総計)/(入射光パワーの総計)]×100
但し、入射光のパワー=(上方向の反射光のパワー)+(下方向の反射光のパワー)
上方向:反射角(θ,φ)=(90,φ)〜(10°,φ)
下方向:反射角(θ,φ)=(−90°,φ)〜(10°,φ)
但し、θ=10°の方向は、上方向に含むものとする。
【0140】
以下の試験例および実施例では、光学フィルムを窓材などの被着体に貼り合わせた状態において、図18に示すように、三角柱状体を形成する2つの面のうち上方側となる第1の面Sp1を上方面Sp1と称し、下方側となる第2の面Sp2を下方面Sp2と称する。
また、上方面Sp1に形成される全反射層または波長選択反射層の膜厚(図4B中、第1の膜厚d1)を上方傾斜面の膜厚d1、下方面Sp2に形成される全反射層または波長選択反射層の膜厚(図4B中、第2の膜厚d2)を下方傾斜面の膜厚d2と称する。
【0141】
以下の試験例および実施例において、プリズムパターン1〜3は、以下のパターンを意味する。
【0142】
(プリズムパターン1)
図19Aは、プリズムパターン1の形状を示す断面図である。プリズムパターン1は、以下に示す設定条件にて非対称な三角柱状体を最稠密充填して形成されるパターンである。
ピッチ:100μm
頂角α:90°
傾斜角β:75°
対称性:無し
【0143】
(プリズムパターン2)
図19Bは、プリズムパターン2の形状を示す断面図である。プリズムパターン2は、以下に示す設定条件にて非対称な三角柱状体を最稠密充填して形成されるパターンである。
ピッチ:100μm
頂角α:90°
傾斜角β:35°
対称性:無し
【0144】
(プリズムパターン3)
図19Cは、プリズムパターン3の形状を示す断面図である。プリズムパターン3は、以下に示す設定条件にて非対称な三角柱状体を最稠密充填して形成されるパターンである。
ピッチ:100μm
頂角α:90°
傾斜角β:45°
対称性:有り
【0145】
以下の試験例および実施例において、波長選択反射層および全反射層は、以下の反射層を意味する。
【0146】
(波長選択反射層)
波長選択反射層は、波長帯域780〜2100nmの赤外光のみを反射し、上記以外の波長帯域の光を透過する反射層である。
【0147】
(全反射層)
全反射層は、波長帯域によらず、入射光を全て(100%)反射する反射層である。
【0148】
試験例および実施例について以下の順序で説明する。
1.頂角α、傾斜角β−上方反射率の関係
2.入射角度−上方反射率の関係
3.入射角度、反射角度−上方反射率の関係
3−1.シミュレーションによる計算
3−2.実サンプルによる測定
4.傾斜角度−波長選択反射層の膜厚の関係
5.波長−上方反射率の関係
6.入射角度−上方反射率の関係
7.波長、入射角−上方反射率の関係
【0149】
<1.頂角α、傾斜角β−上方反射率の関係>
(試験例1)
ORA社(Optical Research Associates)製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、非対称な三角柱状体が最稠密充填された指向反射面を設定した。以下に、指向反射面の設定条件を示す。
ピッチ:100μm
頂角α:20〜160°
傾斜角β:10〜80°
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0150】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)=(60°,0°)の方向から光を指向反射面に入射させて、上方反射率を求めた。その結果を図20に示す。
【0151】
図20は、試験例1のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示す図である。なお、図20中、α=90の直線上に付した「×」印は、図19A〜図19Cに示したプリズムパターン1〜3の有する頂角αおよび傾斜角βに対応する座標を示している。
【0152】
図20から以下のことがわかる。
頂角αおよび傾斜角βが、以下の式(1)〜(4)のいずれか1つを満たしている場合に、上方反射率80%以上を確保できることがわかる。
−3.6α+396≦β≦80 (85≦α≦90) ・・・(1)
α−30≦β≦−α+170 (90≦α≦100) ・・・(2)
30≦β≦α−50 (80≦α≦90) ・・・(3)
30≦β≦−α+130 (90≦α≦100) ・・・(4)
【0153】
<2.入射角度−上方反射率の関係>
(試験例2)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン1
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0154】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)を(0°,0°)〜(80°,0°)の範囲内で変化させて上方反射率を求めた。その結果を図21Aに示す。
【0155】
(試験例3)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例2と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図21Bに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:一上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0156】
(試験例4)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例2と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図21Cに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン3
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0157】
図21A〜図21Cは、試験例2、3、4のシミュレーションの上方反射率の計算結果を示すグラフである。図21A〜図21C中、入射角度60°における上方反射率が、図20中に「×」印にて示した座標に対応している。
【0158】
図21A〜図21Cから以下のことがわかる。
試験例2〜4では、全て同様に、入射角度0°〜約20°の範囲内において、入射角度の増加に伴って上方反射率が急激に増加し、入射角度約20°〜約70°の範囲内において、入射角度の増加に伴って上方反射率が徐々に低下する傾向がある。
しかし、試験例2では、入射角度約20°〜約70°の範囲内における上方反射率の低下の度合いが小さく抑えられているのに対して、試験例4では、入射角度約20°〜約70°の範囲内において上方反射率が著しく低下する傾向がある。また、試験例3では、入射角度40°付近にて上方反射率が急激に低下する傾向がある。
【0159】
<3.入射角度、反射角度−上方反射率の関係>
<3−1.シミュレーションによる計算>
(試験例5)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン1
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0160】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)を(0°,0°)〜(80°,0°)の範囲内で変化させて上方反射率を求めた。その結果を図22Aに示す。
【0161】
(試験例6)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例5と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図22Bに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0162】
(試験例7)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例5と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図22Cに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン3
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0163】
図22A〜図22Cから以下のことがわかる。
試験例5〜7では、上方向に再帰反射しているが、非対称な三角柱状体により指向反射面が形成されている試験例5、6では、対称な三角柱状体により指向反射面が形成されている試験例7に比して再帰反射の割合を高くできる。
対称な三角柱状体により指向反射面が形成されている試験例7では、非対称な三角柱状体により指向反射面が形成されている試験例5、6に比して下方向の反射率が高くなってしまう。
【0164】
<3−2.実サンプルによる測定>
(実施例1)
まず、バイトによる切削加工により、図19Aに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与した。次に、このNi−P製金型に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合樹脂(日本化薬社製、商品名DPHA)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を載置した。次に、PETフィルム側からUV光を混合樹脂に対して照射し、混合樹脂を硬化させた。
【0165】
次に、この樹脂とPETの積層体をNi−P製金型から剥がして、図19Aに示す複数の三角柱状体が一次元配列された成形面を有する樹脂層(第1の光学層)を得た。次に、成形した成形面に対し、全反射層であるAlTi層(ターゲット組成:Al/Ti=98.5at%/1.5at%)、を真空スパッタ法により100nmの厚さで成膜した。
【0166】
次に、交互多層膜上に再び上述の混合樹脂を塗布し、PETフィルムを載置して気泡を押し出した後に、UV光照射することで樹脂を硬化して、交互多層膜上に樹脂層(第2の光学層)を形成した。これにより、目的とする指向反射体である光学フィルムが得られた。
【0167】
(実施例2)
バイトによる切削加工により、図19Bに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与する以外は実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0168】
(反射分布)
ラムダビジョン製分光GONIOフォトメーターにより、入射角度15°、30°、45°、60°、75°のそれぞれに対して、反射分布を測定した。その結果を図23B、図24Bに示す。なお、図23A、図24Aには、実施例1、2の指向反射面と同一の設定条件にてシミュレーションにより求めた計算結果(試験例5、6の計算結果)を示す。
【0169】
図23A〜図24Bから、実サンプルである実施例1、2の上方反射率の測定結果は、シミュレーションである試験例5、6の計算結果と同様の傾向を示すことがわかる。
【0170】
<4.傾斜角度−波長選択反射層の膜厚の関係>
(実施例3)
まず、バイトによる切削加工により、図19Aに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与した。次に、このNi−P製金型に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合樹脂(日本化薬社製、商品名DPHA)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を載置した。次に、PETフィルム側からUV光を混合樹脂に対して照射し、混合樹脂を硬化させた。
【0171】
次に、この樹脂とPETの積層体をNi−P製金型から剥がして、図19Aに示す複数の三角柱状体が一次元配列された成形面を有する樹脂層(第1の光学層)を得た。次に、成形した成形面に対し、下記の多層膜を真空スパッタ法により成膜した。これにより、目的とする指向反射体である光学フィルムを得た。
1層目:GAZO層
2層目:AgNdCu層
3層目:GAZO層
4層目:AgNdCu層
5層目:GAZO層
【0172】
(実施例4)
バイトによる切削加工により、図19Bに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与する以外は実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0173】
(比較例1)
バイトによる切削加工により、図19Cに示す三角柱状体を反転した形状の2次元溝形状をNi−P製金型に付与する以外は実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0174】
(比較例2)
まず、バイトによる切削加工により、図25A〜図25Cに示すコーナーキューブをNi−P製金型に付与した。次に、このNi−P製金型に、ウレタンアクリレート(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を設置し、PETフィルム側からUV光を照射して樹脂を硬化させた。
【0175】
次に、この樹脂とPETの積層体をNi―P製金型から剥がして、多数のコーナーキューブが2次元配列された成形面を有する樹脂層(第1の光学層)を得た。次に、実施例3と同一の成膜条件により多層膜を真空スパッタ法により成膜した。これにより、目的とする指向反射体である光学フィルムが得られた。
【0176】
(膜厚の測定方法)
図26Aは、実施例3、4、比較例1における波長選択反射層の各層の平均膜厚の測定方法を説明するための模式図である。
実施例3、4、比較例1における波長選択反射層の各層の平均膜厚は、以下のようにして測定した。まず、FIB(Focused Ion Beam)により光学フィルムを三角柱状体の稜線に垂直な方向にカットして断面を形成した。次に、TEM(Transmission Electron Microscope)を用いて、断面の三角形状を形成する2辺の中心位置においてn2方向の各層の膜厚t2を測定した。この測定を光学フィルムの任意の10箇所で繰り返し行い、その測定値を単純に平均(算術平均)して平均膜厚を求めた。このように膜厚の測定位置を規定するのは、三角柱状体上に形成された波長選択反射層の膜厚を測定すると、図26Aに示すように、その膜厚は三角柱状体を形成する斜面上の位置により異なるからである。なお、図26A中、n1方向、n2方向は以下の方向を示す。
n1方向:PETフィルムに付与された三角柱状体の傾斜面に対して垂直な方向
n2方向:PETフィルムの主面に対して垂直な方向(PETフィルムの厚さ方向)
【0177】
図26Bは、比較例2における波長選択反射層の各層の平均膜厚の測定方法を説明するための模式図である。
比較例2における波長選択反射層の各層の平均膜厚は、以下のようにして測定した。まず、FIBにより光学フィルムを、コーナーキューブを形成する辺を含むようにカットして断面を形成した。次に、TEMを用いて、コーナーキューブを形成する三角形の垂線の中心位置におけるn2方向の平均膜厚t2を測定した。この測定を光学フィルムの任意の10箇所で繰り返し行い、その測定値を単純に平均(算術平均)して平均膜厚を求めた。ここで、三角形の垂線とは、三角錐の錐面を形成する三角形の頂点から対辺(三角錐の底辺)に下した垂線を意味する。このように膜厚の測定位置を規定するのは、コーナーキューブ上に形成された波長選択反射層の膜厚を測定すると、図26Bに示すように、その膜厚はコーナーキューブを形成する三角形上の位置により異なるからである。なお、図26B中、n1方向、n2方向は以下の方向を示す。
n1方向:PETフィルムに付与されたコーナーキューブの傾斜面に対して垂直な方向
n2方向:PETフィルムの主面に対して垂直な方向(PETフィルムの厚さ方向)
【0178】
図27Aは、実施例3、4、比較例1、2の上方傾斜面Sp1(図18参照)における波長選択反射層の各層の平均膜厚(上方傾斜面の膜厚d1)を示す模式図である。図27Bは、実施例1、2、比較例1、2の下方傾斜面Sp2(図18参照)における波長選択反射層の各層の平均膜厚(下方傾斜面の膜厚d2)を示す模式図である。
【0179】
図27A、図27Bから以下のことがわかる。
非対称な三角柱状体により指向反射面が形成される実施例3、4では、上方反射面Sp1または下方反射面Sp2における波長選択反射層の平均膜厚を薄くすることができる。
これに対して、対称な三角柱状体により指向反射面が形成される比較例1では、上方反射面および下方反射面の両方の波長選択反射層の平均膜厚が厚くなる。また、コーナーキューブにより指向反射面が形成される比較例2では、コーナーキューブを形成する3つの三角形状の面における波長選択反射層の平均膜厚はいずれも厚くなる。
以上により、非対称な三角柱状体を用いて指向反射面を形成した場合には、対称な三角柱状体またはコーナーキューブを用いて指向反射面を形成した場合に比して、波長選択反射層の平均膜厚を全体として小さくすることができる。したがって、光学フィルムを低廉化することが可能となる。
【0180】
<5.波長−上方反射率の関係>
(試験例8)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン1
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0181】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)=(60°,0°)の方向から光を指向反射面に入射させて、各波長における上方反射率を求めた。その結果を図28Aに示す。
【0182】
(試験例9)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例8と同様にして、各波長における上方反射率を求めた。その結果を図28Bに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0183】
(試験例10)
指向反射面の設定条件を以下のように変更する以外は試験例8と同様にして、各波長における上方反射率を求めた。その結果を図28Cに示す。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン3
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0184】
図28A〜図28Cから以下のことがわかる。
三角柱状体により指向反射面が形成される試験例8〜10では、上方反射率に波長依存性があり、波長が約650nmを超えると、上方反射率が上昇する傾向にある。特に、試験例9において上方反射率の上方傾向が大きい。
【0185】
(試験例11)
入射角(θ0,φ)=(40°,0°)または(60°,0°)の方向から光を指向反射面に入射させる以外は試験例8と同様にして、各波長における上方反射率を求めた。その結果を図28Bに示す。
【0186】
図28Bから以下のことがわかる。
入射角(θ0,φ)=(40°,0°)では、入射角(θ0,φ)=(60°,0°)の場合に比して上方反射率が低くなる。すなわち、入射角θ0が小さい場合には、高波長帯域における上方反射率の上昇が小さくなる。
【0187】
<6.入射角度−上方反射率の関係>
(試験例12)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:全反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0188】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)=(0°,0°)〜(80°,0°)の範囲の方向から光を指向反射面に入射させて、上方反射率を求めた。その結果を図29Aに示す。
【0189】
(試験例13)
反射層の種類を波長選択反射層とする以外は試験例12と同様にして、上方反射率を求めた。その結果を図29Aに示す。
【0190】
図29Aから、反射層が波長選択反射層の場合と反射層が全反射層の場合とでは、上方反射率の入射角度依存性に同様の傾向があることがわかる。すなわち、どちらの層を用いた場合にも、入射角度40°付近において、上方反射率が一時的に落ち込む傾向があることがわかる。
【0191】
<7.波長、入射角−上方反射率の関係>
(試験例14)
ORA社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーションを行い、上方反射率を求めた。
まず、以下に示す設定条件を有する指向反射面を設定した。
プリズムパターンの種類:プリズムパターン2
反射層の種類:波長選択反射層
膜厚:上方傾斜面の膜厚d1および下方傾斜面d2の膜厚が一定
【0192】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K、波長380〜1200nm)を設定し、入射角(θ0,φ)=(0°,0°)〜(80°,0°)の範囲の方向から光を指向反射面に入射させて、上方反射率を求めた。その結果を図29Bに示す。
【0193】
図29Bから、波長帯域1100〜1200nmの範囲において、入射角度60°近傍に上方反射率のピークがあることがわかる。
【0194】
以上の結果を総合すると、プリズムパターン1〜3について以下のことがわかる。
プリズムパターン1は、非対称性形状のため、2つの傾斜面の膜厚差が大きい。上方反射率が、プリズムパターン2に比して低下する傾向がある。反射層として全反射層を用いる場合には、プリズムパターンとしてプリズムパターン1を用いることが好ましい。
プリズムパターン1は、非対称性形状であるが、プリズムパターン1よりも2つの傾斜面の膜厚差が小さい。赤外領域(約1150nm以上)の反射率を50%以上にすることができる。
プリズムパターン3は、対称性形状のため、2つの傾斜面の膜厚差が無い。全反射層による反射性能が低く、波長選択反射層においても高い上方反射率を得ることができない。
【0195】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0196】
例えば、上述の実施形態において挙げた構成、方法、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0197】
また、上述の実施形態の各構成は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0198】
また、上述の実施形態では、ブランインド装置、およびロールスクリーン装置の駆動方式が手動式である場合を例として説明したが、ブランインド装置、およびロールスクリーン装置の駆動方式を電動式としてもよい。
【0199】
また、上述の実施形態では、光学フィルムを窓材などの被着体に貼り合わせる構成を例として説明したが、窓材などの被着体を光学フィルムの第1の光学層、または第2の光学層自体とする構成を採用するようにしてもよい。これにより、窓材などの光学体に予め指向反射の機能を付与することができる。
【0200】
また、上述の実施形態では、光学体が光学フィルムである場合を例として説明したが、光学体の形状はフィルム状に限定されるものではなく、プレート状、ブロック状などでもよい。
【0201】
上述の実施形態では、本発明を窓材、建具、ブラインド装置のスラット、およびロールスクリーン装置のスクリーンなどの内装部材または外装部材に適用した場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、上記以外の内装部材および外装部材にも適用可能である。
【0202】
本発明に係る光学体が適用される内装部材または外装部材としては、例えば、光学体自体により構成された内装部材または外装部材、指向反射体が貼り合わされた透明基材などにより構成された内装部材または外装部材などが挙げられる。このような内装部材または外装部材を室内の窓付近に設置することで、例えば、赤外線だけを屋外に指向反射し、可視光線を室内に取り入れることができる。したがって、内装部材または外装部材を設置した場合にも、室内照明の必要性が低減される。また、内装部材または外装部材による室内側への散乱反射も殆どないため、周囲の温度上昇も抑えることができる。また、視認性制御や強度向上など必要な目的に応じ、透明基材以外の貼り合わせ部材に適用することも可能である。
【0203】
また、上述の実施形態では、ブラインド装置、およびロールスクリーン装置に対して本発明を適用した例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、室内または屋内に設置される種々の日射遮蔽装置に適用可能である。
【0204】
また、上述の実施形態では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置(例えばロールスクリーン装置)に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、日射遮蔽部材を折り畳むことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置に対しても本発明は適用可能である。このような日射遮蔽装置としては、例えば、日射遮蔽部材であるスクリーンを蛇腹状に折り畳むことで、入射光線の遮蔽量を調整するプリーツスクリーン装置を挙げることができる。
【0205】
また、上述の実施形態では、本発明を横型ブラインド装置(ベネシアンブラインド装置)に対して適用した例について説明したが、縦型ブラインド装置(バーチカルブラインド装置)に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0206】
1 光学フィルム
2 光学層
3 波長選択反射層
4 第1の光学層
4a 第1の基材
5 第2の光学層
5a 第2の基材
6 貼合層
7 剥離層
8 ハードコート層
9 反射層付き光学層
S1 入射面
S2 出射面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面を有する第1の光学層と、
上記凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
上記凹凸面を埋めるように上記波長選択反射層上に形成された第2の光学層と
を備え、
上記波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過するものであり、
上記凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、
上記三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが以下の式(1)、または(2)を満たしている光学体。
−3.6α+396≦β≦80 (85≦α≦90) ・・・(1)
α−30≦β≦−α+170 (90≦α≦100) ・・・(2)
【請求項2】
凹凸面を有する第1の光学層と、
上記凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
上記凹凸面を埋めるように上記波長選択反射層上に形成された第2の光学層と
を備え、
上記波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過するものであり、
上記凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、
上記三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが以下の式(3)、または(4)を満たしている光学体。
30≦β≦α−50 (80≦α≦90) ・・・(3)
30≦β≦−α+130 (90≦α≦100) ・・・(4)
【請求項3】
上記三角柱状体は、上記波長選択反射層が形成される第1の傾斜面および第2の傾斜面を有し、
上記第1の傾斜面および第2の傾斜面に形成された上記波長選択反射層の膜厚がほぼ同一である請求項1または2記載の光学体。
【請求項4】
上記透過する波長の光に対する、JIS K−7105に準拠して測定した0.5mmの光学くしの透過像鮮明度が、50以上である請求項1または2記載の光学体。
【請求項5】
上記透過する波長の光に対する、JIS K−7105に準拠して測定した0.125、0.5、1.0、2.0mmの光学くしの透過像鮮明度の合計値が、230以上である請求項1または2記載の光学体。
【請求項6】
入射角(θ、φ)で入射面に入射した光のうち、特定波長帯の光を(θo、−φ)の方向(0°<θo<90°)に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過する請求項1または2記載の光学体。
(但し、θ:上記入射面に対する垂線と、上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角、φ:上記入射面内の特定の直線と、上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)
【請求項7】
上記波長選択反射層が、可視光領域において透明性を有する導電性材料を主成分とする透明導電膜、または外部刺激により反射性能が可逆的に変化するクロミック材料を主成分とする機能膜である請求項1または2記載の光学体。
【請求項8】
上記構造体のピッチが、5μm以上5mm以下である請求項1または2記載の光学体。
【請求項9】
上記第1の光学層と上記第2の光学層との屈折率差が、0.010以下である請求項1または2記載の光学体。
【請求項10】
5°以上60°以下の入射角度で、光学体の両面のいずれか一方から入射し、上記光学体により反射された正反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、上記両面のいずれにおいても、0.05以下である請求項1または2記載の光学体。
【請求項11】
上記第1の光学層と上記第2の光学層とが、可視光領域において透明性を有する同一樹脂からなり、上記第2の光学層には添加剤が含まれている請求項1または2記載の光学体。
【請求項12】
上記第1の光学層、および上記第2の光学層の少なくとも一方が、可視領域における特定の波長帯の光を吸収する請求項1または2記載の光学体。
【請求項13】
上記第1の光学層と上記第2の光学層とにより光学層が形成され、
上記光学層の表面、上記光学層の内部、および上記波長選択反射層と上記光学層との間のうち、少なくとも1箇所に光散乱体をさらに備える請求項1または2記載の光学体。
【請求項14】
上記光学体の上記入射面上に、撥水性または親水性を有する層をさらに備える請求項1または2記載の光学体。
【請求項15】
上記特定波長帯の光を指向反射し、所定の空間に入り込むのを排除するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過して所定の空間に取り込む請求項1または2記載の光学体。
【請求項16】
上記光学体は帯状または矩形状を有し、
上記光学体の長手方向と上記三角柱状体の稜線方向とが直交する関係にある請求項1または2記載の光学体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学体を備える窓材。
【請求項18】
上記光学体は、上記三角柱状体の稜線方向が建築物の高さ方向と略直交するように備えられている請求項17記載の窓材。
【請求項19】
上記光学体が、各々の上記三角柱状体において、傾斜角βが頂角αよりも上方になるように備えられている請求項17記載の窓材。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学体を採光部に備える建具。
【請求項21】
日射を遮蔽する1または複数の日射遮蔽部材を備え、
上記日射遮蔽部材が、請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学体を備える日射遮蔽装置。
【請求項22】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学体を備えた建築物であって、
上記光学体が、各々の上記三角柱状体において、傾斜角βが頂角αよりも上方になるように備えられている建築物。
【請求項1】
凹凸面を有する第1の光学層と、
上記凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
上記凹凸面を埋めるように上記波長選択反射層上に形成された第2の光学層と
を備え、
上記波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過するものであり、
上記凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、
上記三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが以下の式(1)、または(2)を満たしている光学体。
−3.6α+396≦β≦80 (85≦α≦90) ・・・(1)
α−30≦β≦−α+170 (90≦α≦100) ・・・(2)
【請求項2】
凹凸面を有する第1の光学層と、
上記凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
上記凹凸面を埋めるように上記波長選択反射層上に形成された第2の光学層と
を備え、
上記波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過するものであり、
上記凹凸面は、一次元配列された複数の三角柱状体により構成され、
上記三角柱状体は、頂角αおよび傾斜角βを有し、該頂角αおよび傾斜角βが以下の式(3)、または(4)を満たしている光学体。
30≦β≦α−50 (80≦α≦90) ・・・(3)
30≦β≦−α+130 (90≦α≦100) ・・・(4)
【請求項3】
上記三角柱状体は、上記波長選択反射層が形成される第1の傾斜面および第2の傾斜面を有し、
上記第1の傾斜面および第2の傾斜面に形成された上記波長選択反射層の膜厚がほぼ同一である請求項1または2記載の光学体。
【請求項4】
上記透過する波長の光に対する、JIS K−7105に準拠して測定した0.5mmの光学くしの透過像鮮明度が、50以上である請求項1または2記載の光学体。
【請求項5】
上記透過する波長の光に対する、JIS K−7105に準拠して測定した0.125、0.5、1.0、2.0mmの光学くしの透過像鮮明度の合計値が、230以上である請求項1または2記載の光学体。
【請求項6】
入射角(θ、φ)で入射面に入射した光のうち、特定波長帯の光を(θo、−φ)の方向(0°<θo<90°)に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過する請求項1または2記載の光学体。
(但し、θ:上記入射面に対する垂線と、上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角、φ:上記入射面内の特定の直線と、上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)
【請求項7】
上記波長選択反射層が、可視光領域において透明性を有する導電性材料を主成分とする透明導電膜、または外部刺激により反射性能が可逆的に変化するクロミック材料を主成分とする機能膜である請求項1または2記載の光学体。
【請求項8】
上記構造体のピッチが、5μm以上5mm以下である請求項1または2記載の光学体。
【請求項9】
上記第1の光学層と上記第2の光学層との屈折率差が、0.010以下である請求項1または2記載の光学体。
【請求項10】
5°以上60°以下の入射角度で、光学体の両面のいずれか一方から入射し、上記光学体により反射された正反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、上記両面のいずれにおいても、0.05以下である請求項1または2記載の光学体。
【請求項11】
上記第1の光学層と上記第2の光学層とが、可視光領域において透明性を有する同一樹脂からなり、上記第2の光学層には添加剤が含まれている請求項1または2記載の光学体。
【請求項12】
上記第1の光学層、および上記第2の光学層の少なくとも一方が、可視領域における特定の波長帯の光を吸収する請求項1または2記載の光学体。
【請求項13】
上記第1の光学層と上記第2の光学層とにより光学層が形成され、
上記光学層の表面、上記光学層の内部、および上記波長選択反射層と上記光学層との間のうち、少なくとも1箇所に光散乱体をさらに備える請求項1または2記載の光学体。
【請求項14】
上記光学体の上記入射面上に、撥水性または親水性を有する層をさらに備える請求項1または2記載の光学体。
【請求項15】
上記特定波長帯の光を指向反射し、所定の空間に入り込むのを排除するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過して所定の空間に取り込む請求項1または2記載の光学体。
【請求項16】
上記光学体は帯状または矩形状を有し、
上記光学体の長手方向と上記三角柱状体の稜線方向とが直交する関係にある請求項1または2記載の光学体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学体を備える窓材。
【請求項18】
上記光学体は、上記三角柱状体の稜線方向が建築物の高さ方向と略直交するように備えられている請求項17記載の窓材。
【請求項19】
上記光学体が、各々の上記三角柱状体において、傾斜角βが頂角αよりも上方になるように備えられている請求項17記載の窓材。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学体を採光部に備える建具。
【請求項21】
日射を遮蔽する1または複数の日射遮蔽部材を備え、
上記日射遮蔽部材が、請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学体を備える日射遮蔽装置。
【請求項22】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学体を備えた建築物であって、
上記光学体が、各々の上記三角柱状体において、傾斜角βが頂角αよりも上方になるように備えられている建築物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図30】
【図31】
【図32】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図30】
【図31】
【図32】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図29】
【公開番号】特開2012−3024(P2012−3024A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137782(P2010−137782)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]