説明

光学式エンコーダ用反射板の製造方法

【課題】所謂インモールド成型により、射出成形で基材を形作るのと同時に、反射板の反射パターンを転写する工程を有することで、低コストで生産効率を高くすることができる光学式エンコーダ用反射板の製造方法を提供する。
【解決手段】反射領域と非反射領域でパターンが形成され反射面部12を備えた光学式エンコーダ用反射板10の製造方法において、パターンの反射領域を形成する反射材13を有するシート30と、反射面部を形作ると共にシートを係止可能な反射面部形成部22を備えた一の型21を含む、2以上の型21,25を有する射出成形用金型20とを用い、反射面部形成部にシートを係止させて金型の型締めを行う工程と、当該型締めを行った金型の内部20aに樹脂を射出して、基材11を形成すると共に、反射面部形成部で反射面部となる部分を形作り、かつ、反射面部となる部分にシートから反射材を転写させて反射面部を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式エンコーダ用反射板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学式エンコーダは、被検体の回転角度や移動距離等を計測するための位置センサーであり、従来、エンコーダディスク(光学式エンコーダ用反射板)に反射領域と非反射領域とを設け、この反射領域で反射する光を受光素子で検出して位置を特定する反射型エンコーダ等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、一般的に、反射材が非反射材の表面に配置されることで反射領域と非反射領域とを設けている従来の光学式エンコーダ用反射板は、以下のような方法により製造されている。
【0004】
まず、基材上に真空蒸着やスッパタリング等により非反射材からなる非反射層を形成し、その上に真空蒸着やスッパタリングなどにより反射材からなる反射層を形成する。次に、反射層上にフォトレジスト膜を形成した後、フォトマスクを介して露光する。露光後のフォトレジスト膜に現像処理を施してレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして反射層にエッチング処理などを施して非反射層を露出させる。その後、レジストパターンを除去してパターニングされた反射層を露出させる。これにより、表面に非反射領域とパターニングされた反射領域とを有する従来の光学式エンコーダ用反射板が得られるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−121142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記したように非反射層とその表面に配置された反射層とを備える光学式エンコーダ用反射板を製造する場合には、真空蒸着やスパッタリングなどの真空プロセスが2工程と、レジストプロセスとエッチング処理を施して、所望の反射領域と非反射領域を形成しているが、一般的に、真空成膜工程はコスト高となり、さらに前記したように工程数が多くなることで生産効率が低下するため、これらを改善したいとの要望があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、所謂インモールド成型により、射出成形で基材を形作るのと同時に、反射板の反射パターンを転写する工程を有することで、低コストで生産効率を高くすることができる光学式エンコーダ用反射板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、本発明は、反射領域と非反射領域でパターンが形成された反射面部(12)を備えた光学式エンコーダ用反射板(10)の製造方法において、前記パターンの前記反射領域を形成する反射材(13)を有するシート(30)と、前記反射面部(12)を形作ると共に前記シート(30)を係止可能な反射面部形成部(22)を備えた一の型(21)を含む、2以上の型(21,25)を有する射出成形用金型(20)と、を用い、前記反射面部形成部(22)に前記シート(30)を係止させて前記射出成形用金型(20)の型締めを行う工程と、当該型締めを行った前記射出成形用金型(20)の内部(20a)に樹脂(11a)を射出して、基材(11)を形成すると共に、前記反射面部形成部(22)で前記反射面部(12)となる部分を形作り、かつ、前記反射面部(12)となる部分に前記シート(30)から前記反射材(13)を転写させて前記反射面部(12)を形成する工程と、を有する光学式エンコーダ用反射板(10)の製造方法としたことを特徴とする。
【0009】
なお、ここでは、本発明をわかりやすく説明するため、実施の形態を表す図面の符号に対応付けて説明したが、本発明が実施の形態に限定されるものではないことは言及するまでもない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所謂インモールド成型により、射出成形で基材を形作るのと同時に、反射板の反射パターンを転写する工程を有することで、光学式エンコーダ用反射板を、低コストで生産効率の高い製造方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る光学式エンコーダ用反射板の製造方法により製造された光学式エンコーダ用反射板の一例を示す横断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光学式エンコーダ用反射板の製造方法における一部の工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
なお、本実施の形態では、本発明の製造方法で製造する光学式エンコーダ用反射板として、ロータリーエンコーダのエンコーダディスクに用いられる円盤状の反射板を例にして説明する。
【0014】
最初に、本発明の実施の形態に係る光学式エンコーダ用反射板の製造方法で製造した光学式エンコーダ用反射板及び当該光学式エンコーダ用反射板を備えた光学式エンコーダの構成について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る光学式エンコーダ用反射板の製造方法により製造された光学式エンコーダ用反射板の一例を示す横断面図である。
【0015】
本実施の形態に係る光学式エンコーダ1は、被検体2(ここでは、モータ)の回転軸2aの回転数、回転角度等を検出するものである。この光学式エンコーダ1は、光を反射しない非反射材(ここでは、黒色に着色されたプラスチック)からなる基材11と、当該基材11の上部に形成された反射面部12に設けられ、光を反射する反射材13とを備えた円盤状の光学式エンコーダ用反射板10を有している。また、本実施の形態の光学式エンコーダ用反射板10は、基材11と、前記した回転軸2aに係合、固定されて当該回転軸2aと一体に回転する軸受け用ハブ14とが共に非反射材で構成されて一体化して形成されている。
【0016】
また、この光学式エンコーダ1は、軸受け用ハブ14を含む光学式エンコーダ用反射板10を覆うように配置されたハウジング3、当該ハウジング3に取り付けられ、光学式エンコーダ用反射板10の反射面部12の上方に位置する発光素子4及び受光素子5、軸受け用ハブ14及び反射面部12の下面側に取り付けられた永久磁石6、ハウジング3に取り付けられ、永久磁石6の上方に位置する磁気センサ7等を有して構成されている。なお、光学式エンコーダ用反射板10は、ベアリング8によりハウジング3に対して相対回転可能に保持されている。
【0017】
光学式エンコーダ用反射板10は、光を反射しない非反射材で形成された基材11を有している。また、その上部には、基材11と同じ非反射材で一体化して構成された、反射面部12が平面状に形成されている。また、反射面部12には、所定の反射パターンを形成し、発光素子4からの光を反射する反射材13を有しており、この反射材13が配置された部分と、非反射材からなる基材11が反射面部12に露出した部分とで、反射面部12に、反射板10における反射領域と非反射領域を形成している。
【0018】
このように構成された光学式エンコーダ1では、所定の波長の光を発光素子4から出射して、この光を光学式エンコーダ用反射板10の反射面部12における反射材13で反射させて受光素子5で検出することにより、反射材13の反射パターンに対応する光の強度に応じて受光素子5から出力される信号から反射板10の回転角度、すなわち、軸受け用ハブ14及び回転軸2aの回転角度を検出することができる。なお、この光学式エンコーダ1は、軸受け用ハブ14及び反射面部12の下面側に取り付けられた永久磁石6の磁極を磁気センサ7で検出することにより、軸受け用ハブ14(回転軸2a)の回転数および回転方向を検出するように構成されている。
【0019】
次に、本発明の実施の形態に係る光学式エンコーダ用反射板10の製造方法について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る光学式エンコーダ用反射板の製造方法における一部の工程を示す概略図である。なお、図2に示した工程以外の工程については、従来と同様であるので、説明を省略する。
【0020】
本発明の実施の形態に係る光学式エンコーダ用反射板10の製造方法では、金型にシートを配置した上で射出成形を行う、所謂インモールド成型を行うようになっている。図2(a)に示すように、まず、インモールド成型が可能な、2以上の型を有する射出成形用金型20を用意する。本実施の形態の射出成形用金型20は、一の型21及び他の型25の2つの型を有するものである。
【0021】
この射出成形用金型20のうちの一の型21には、平面状で、かつ、後述するシート30を配置して係止することが可能な構成の反射面部形成部22を有しており、この反射面部形成部22で光学式エンコーダ用反射板10の平面状の反射面部12を形成できるようになっている。また、本実施の形態における射出成形用金型20の他の型25には、光学式エンコーダ用反射板10と一体化した軸受け用ハブ14を形成する軸受け用ハブ形成部26を有している。
【0022】
そして、射出成形用金型20の2つの型21,25の間に、シート30を配置し、さらに、シート30を一の型21の反射面部形成部22に係止する。本実施の形態では、一の型21の反射面部形成部22には、シート30を真空吸着する吸着装置が設けられており(図示省略)、これにより、シート30を反射面部形成部22に係止するようになっている。
【0023】
ここで、シート30は、基材フィルム31に反射材13がパターニングされたものである。さらに詳細に説明すると、本実施の形態のシート30は、ロール巻きの転写シートであり、基材フィルム31と、離型層(図示省略)と、図柄層または金属薄膜模様層等の転写層(反射材13を有する層)と、接着剤層(図示省略)などが順次積層した構造を有するものである。離型層には、例えば、パラフィン系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、メラミン樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、およびこれらの複合離型剤などが用いられる。転写層の反射材13は、例えば、離型層を有する基材フィルム31に、アルミニウム蒸着で反射パターンを作製したものである。反射材13としては、アルミニウムの他、金やクロム等を使用しても良い。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、シート30を、その反射材13が射出成形用金型20の内部20aを向くようにして反射面部形成部22に係止して配置し、その状態で射出成形用金型20の型締めを行う。
【0025】
次に、図2(c)に示すように、射出口27から樹脂11aを射出して、金型20の内部20aに充満させる。本実施の形態では、黒着色された溶融アクリル樹脂を射出注入するようになっている。このとき、この金型20の内部20aで、非反射材からなる基材11を形成すると共に、一の型21の反射面部形成部22で反射面部12となる部分を形作る。また、それと同時に、シート30の反射材13を反射面部12となる部分に転写させて、反射パターンを有する反射面部12を形成する。さらに、本実施の形態では、他の型25の軸受け用ハブ形成部26で、非反射材からなる軸受け用ハブ14を同時に形成するようになっている。
【0026】
そして、金型20の内部20aの樹脂11aが冷却された後、図2(d)に示すように、射出成形用金型20の型開きを行い、できあがった光学式エンコーダ用反射板10を取り出す。
【0027】
以上のように、本発明の実施の形態の光学式エンコーダ用反射板10の製造方法によれば、所謂インモールド成型により、射出成形で基材11を形作るのと同時に、光学式エンコーダ用反射板10の反射パターンにパターニングされた反射材13を転写する工程を有することで、従来の煩雑な工程が全く必要なくなり、光学式エンコーダ用反射板10を、低コストで生産効率の高い製造方法で製造することができる。
【0028】
すなわち、光学式エンコーダ用反射板10の製造工程の一部を本実施の形態のように行うことで、アルミニウム等の反射材13でパターニングされた反射領域と、黒色の非反射材からなる基材11を利用した非反射領域とを有する反射面部12が形成された光学式エンコーダ用反射板10を、簡単かつ低コストで得ることができる。
【0029】
また、本発明の実施の形態の光学式エンコーダ用反射板10の製造方法では、前記した作用効果に加え、軸受け用ハブ14の加工も必要なくなり、軸の精度出し工程も必要なくなる。このことから、大幅なコストダウンとなると共に、軸精度も向上するものである。
【0030】
すなわち、本実施の形態では、さらに同時に被検体2の回転軸2aを取り付ける軸受け用ハブ14を成型することができるために、回転軸2aへの取り付けを精度よく安定して行うことができ、さらに軸調整に費やすコストも低減することができる。
【0031】
なお、以上説明した実施の形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。
【0032】
例えば、前記した実施の形態では、エンコーダディスクを備えたロータリーエンコーダを例にして説明したが、本発明はこれに限るものではなく、テープ、ワイヤ等を備えたリニアエンコーダにも適用可能である。
【0033】
また、前記した実施の形態では、非反射材の色は黒色に着色されていたが、本発明はこれ限るものではなく、光を反射しないものであれば他の色でも可能である。但し、黒色が好ましい。
【0034】
また、前記した実施の形態では、シート30としてロール巻き状のものを使用したが、本発明はこれに限るものではなく、ロール巻き状でない(例えば、1枚ずつのもの)ものを使用しても良い。但し、ロール巻きのものは、生産効率が良いという特徴を有している。
【符号の説明】
【0035】
1 光学式エンコーダ
2 被検体
2a 回転軸
3 ハウジング
4 発光素子
5 受光素子
6 永久磁石
7 磁気センサ
8 ベアリング
10 光学式エンコーダ用反射板
11 基材
11a 樹脂
12 反射面部
13 反射材
14 軸受け用ハブ
20 射出成形用金型
20a 射出成形用金型の内部
21 一の型
22 反射面部形成部
25 他の型
26 軸受け用ハブ形成部
27 射出口
30 シート
31 基材フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射領域と非反射領域でパターンが形成された反射面部を備えた光学式エンコーダ用反射板の製造方法において、
前記パターンの前記反射領域を形成する反射材を有するシートと、
前記反射面部を形作ると共に前記シートを係止可能な反射面部形成部を備えた一の型を含む、2以上の型を有する射出成形用金型と、
を用い、
前記反射面部形成部に前記シートを係止させて前記射出成形用金型の型締めを行う工程と、
当該型締めを行った前記射出成形用金型の内部に樹脂を射出して、基材を形成すると共に、前記反射面部形成部で前記反射面部となる部分を形作り、かつ、前記反射面部となる部分に前記シートから前記反射材を転写させて前記反射面部を形成する工程と、
を有することを特徴とする光学式エンコーダ用反射板の製造方法。
【請求項2】
前記射出成形用金型に、前記光学式エンコーダ用反射板の回転軸と係合する軸受け用ハブを形成する軸受け用ハブ形成部を有しており、
前記射出成形時に、前記基材と一体化した前記軸受け用ハブを同時に形成することを特徴とする請求項1に記載の光学式エンコーダ用反射板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−252783(P2011−252783A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126458(P2010−126458)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】