説明

光学式ガスセンサ

【課題】金属酸化膜と触媒金属膜の多層構造から構成される光学式ガスセンサにおいて、従来の単体触媒金属膜の検知応答性の遅さを改善すること。
【解決手段】従来の単体触媒金属膜をパラジュウムPdとルテニュウムRu、パラジュウムPdと白金Pt、あるいはパラジュウムPdとロジュウムRhの組み合わせから成る合金または2層構造金属触媒膜とする。これにより、検知ガス曝露時間に対する光学特性変化がほぼ一次関数で表現される効果を利用し、単位時間当たりの光学変化を検知に利用する。これにより、従来吸着平衡に達する迄の時間(約200秒)が必要であった検知応答性を0.1〜1秒以内の高速検知に改善可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化膜を検知膜としたガスセンサに関わるもので、特に光学的な検知を行うガスセンサの構造に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
来るべき水素エネルギー社会の実現に向けて、水素ステーション等のインフラ整備と水素自動車や燃料電池の開発が盛んに行われている。水素自動車等高圧の水素ボンベを利用する場合には、爆発の危険性が大きいことから、各自動車メーカとも居室内と高圧水素ラインの最低1ヶ所ずつ水素検知器を搭載し、水素漏洩時には高圧水素ボンベの元バルブを自動遮断する安全対策を行っているのが通常である。これらに用いる水素センサについて、防爆設計の容易な光学検知式水素センサが、例えば特開昭60−039536号公報や特開昭62−257047号公報に開示されている。このセンサには三酸化タングステンWO等の金属酸化膜が用いられており、水素の吸着に伴う光学特性の変化を原理としたセンサとなっている。
【0003】
図1(a)は光学式ガスセンサの従来の検知膜構造の一例を示す断面図、(b),(c)は従来の検知膜の光学式ガスセンサを使用した透過型センサシステム、反射型センサシステムの構成を示す図である。(a)において、1は基材、2は基材1の上に形成した金属酸化膜、3は金属酸化膜2の上に形成したパラジュウムPd等の単体金属触媒膜である。すなわち、従来の検知膜構造は基材1−金属酸化膜2−単体金属触媒膜3よりなる3層構造であった。(b)に示す透過型センサシステムにおいて、10は検知光源、13は検知膜、11は光パワーメータまたはホトダイオード(受光センサ)であり、これらが光ファイバ12により接続された構成となっている。なお、14は光ファイバ12と検知膜13を対向して保持するためのホルダである。(c)に示す透過型センサシステムにおいては、検知膜13の背面に反射膜15が設けられ、検知光源10の光が光ファイバ12を介して検知膜13に照射され、これが反射膜15で反射されて光ファイバ12を介して光パワーメータまたはホトダイオード11(受光センサ)で検出される構造である。なお、16はサーキュレータであり、検知光源10の光を光ファイバ12に送出し、光ファイバ12から戻ってくる光を光パワーメータまたはホトダイオード11に導く働きをする。
【0004】
基材1−金属酸化膜2−単体金属触媒膜3よりなる3層構造の従来の検知膜構造が水素ガスに暴露されると透過光あるいは反射光(反射光の場合、検知膜による光の減衰効果を2重に受ける)が減衰することによりガスを検知することができる。しかし,この形式のセンサは水素ガスに暴露による光学変化に時間がかかるため,検知応答性が劣るという欠点があった。
【0005】
図2は従来の検知膜による検知応答性を、横軸に時間、縦軸に光損失をとって説明する図である。図は濃度を異にする3段階の水素ガスについての検知応答性を示す。図からわかるように、センサは水素ガスに暴露により、急速に光損失が増大する一方で、短時間で光強度変化が飽和状態(吸着平衡に到達)になり、かつ、水素ガスの濃度に対する光強度変化の飽和値に大きな差がない。したがって、初期の光強度変化を検出してガス検知とすることができず、実質的に光強度変化の飽和する時間(吸着平衡に達する迄の時間)まで待って水素ガスの濃度を判定せざるを得ず、光強度変化の飽和時間(吸着平衡に達する迄の時間)が検知応答時間となっていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−039536号公報
【特許文献2】特開昭62−257047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明が解決しようとする問題点は、検知応答性の改善である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では上記課題を解決するため、従来検知膜に接していた単体金属触媒層をパラジュウムPdとルテニュウムRu、白金Pt、あるいはロジュウムRhの組み合わせからなる構造とし、検知ガス暴露時間に対する光学特性変化を一次関数的な挙動に改善する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単位時間当たりの光強度変化、すなわち、光強度の変化率から水素ガスの濃度が判定できることになり、高速濃度検知を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図3は本発明による三酸化タングステンWOまたは五酸化バナジュウムVを検知膜とする光学式水素センサの実施例を説明する断面図である。図3(a),(b)は透過型センサシステムに適用する透過型センサであり、(c),(d)は反射型センサシステムに適用する反射型センサである。
【0011】
いずれの実施例においても、基材1−金属酸化膜2の構成は、図1で説明した従来例と同じであるが、本発明の実施例においては、単体金属触媒膜3に代えて、パラジュウムPdとルテニュウムRu、パラジュウムPdと白金Pt、あるいはパラジュウムPdとロジュウムRhの組み合わせからなる合金触媒膜4に置換し、または、上記2種類の組み合わせからなる2層金属膜触媒5−1,5−2の積層構造に置換する。なお、6は反射型検知膜構造とするためのアルミニュウムAlの薄膜である。
【0012】
製法の概要を説明すると以下のようである。基材1はガラス基板であり、このガラス基板1上に大気開放型CVD法(ソース材料:ヘキサタングステンカルボニル,形成温度:500℃)により500〜1,000nmの厚さの多孔性三酸化タングステンWO膜を検知膜2として形成する(図3(a)−(d))。この際、検知膜2の形成に大気開放型CVD法を用いたが、スパッタ法やプラズマCVD法等どの様な形成方法でも構わない。その後、スパッタ法または蒸着法により各々5nmの厚さのRu/Pdの2層金属触媒膜5−1,5−2を形成する(図3(b),(d))。さらに、この2層構造の金属触媒膜をアニール処理等による合金化を行い、合金化金属触媒膜4としても効果は同じである(図3(a),(c))。また、反射型の検知膜とする場合には、更にガラス基板1の裏面に反射率の高いAl等の金属反射膜6をスパッタ法や蒸着法により形成する(図3(c),(d))。
【0013】
本発明による水素検知膜の検知波長範囲は800nm〜2.2μmとなっており、最大吸収波長は1.5μmである。上記では、三酸化タングステンWOを検知膜11として用いたが、三酸化タングステンWOの代わりに五酸化バナジュウムVを用いてもほぼ同等の効果の光学式水素検知膜が得られる。
【0014】
図4は本発明による検知膜の検知応答性を、横軸に時間、縦軸に光損失をとって説明する図である。図からわかるように、本発明による検知膜は、水素ガス暴露時間に対する光強度変化を一次関数に近似できる上、検知感度は非常に高い。上記一次関数の傾きが、その時点における水素ガス濃度に対応しており、濃度検知も正確に行うことができる。三酸化タングステンWO膜の厚さを調整することにより、水素ガス濃度0.01%〜100%の広い範囲で正確且つ高速な検知が可能である。
【0015】
すなわち、図2に示す従来の検知膜の検知応答性が、ほぼ飽和状態に達する(吸着平衡に達する迄の時間)まで測定を続けないと水素ガス濃度を知ることができなかったのに対して、本発明によれば、光強度変化が一次関数に近似したものとなり、一次関数の傾きが水素ガス濃度を示すものとなる。したがって、光強度変化率を計測して、これがノイズでないことを確認するための短時間の確認時間の経過により水素ガス濃度を知ることができる。具体的には、0.1〜1秒以内の短時間検知が可能となった。
【0016】
本発明による検知膜の検知応答性を、水素ガス暴露時間に対する光強度変化を一次関数に近似できる理由は、金属膜触媒が水素化触媒と酸化触媒の組み合わせとなっていることにより、それぞれの触媒よる作用が競合して、結果として一次関数に近似できる特性が得られるものと考えられる。したがって、実施例で説明したように、パラジュウムPdとルテニュウムRu、パラジュウムPdと白金Pt、あるいはパラジュウムPdとロジュウムRhの組み合わせからのみならず、水素化触媒パラジュウムPdに対して、酸化触媒白金Pt,ルテニュウムRu,ロジュウムRhを適宜組み合わせて3元系触媒としても、同様の効果が得られることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は光学式ガスセンサの従来の検知膜構造の一例を示す断面図、(b),(c)は従来の検知膜の光学式ガスセンサを使用した透過型センサシステム、反射型センサシステムの構成を示す図である。
【図2】従来の検知膜による検知応答性を、横軸に時間、縦軸に光損失をとって説明する図である。
【図3】本発明による三酸化タングステンWOまたは五酸化バナジュウムVを検知膜とする光学式水素センサの実施例を説明する断面図である。(a),(b)は透過型センサシステムに適用する透過型センサであり、(c),(d)は反射型センサシステムに適用する反射型センサである。
【図4】本発明による検知膜の検知応答性を、横軸に時間、縦軸に光損失をとって説明する図である。
【符号の説明】
【0018】
1…基材(ガラス基板)、2…金属酸化膜(WO3またはV2O5)、3…触媒金属膜、4…合金化金属触媒膜、5−1,5−2…2層化金属触媒膜、6…反射膜、10…検知光源、11…パワーメータまたはホトダイオードPD、12…光ファイバ、13…検知膜、14…検知膜固定ホルダ、15…反射膜、16…サーキュレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に形成された三酸化タングステンWOまたは五酸化バナジュウムVのいずれかの金属酸化膜よりなる検知膜と、前記検知膜に接するように形成されたパラジュウムPdとルテニュウムRu、パラジュウムPdと白金Pt、あるいはパラジュウムPdとロジュウムRhのいずれかの組み合わせから成る2層金属触媒膜とを備える光学式ガスセンサ。
【請求項2】
前記2層金属触媒膜に代えて、パラジュウムPdと、ルテニュウムRu、白金Pt、およびロジュウムRhの二つとの組み合わせからなる3層金属触媒膜とされた請求項1記載の光学式ガスセンサ。
【請求項3】
光源と、
前記光源の光を照射される、支持基板上に形成された三酸化タングステンWOまたは五酸化バナジュウムVのいずれかの金属酸化膜よりなる検知膜と、前記検知膜に接するように形成されたパラジュウムPdとルテニュウムRu、パラジュウムPdと白金Pt、あるいはパラジュウムPdとロジュウムRhのいずれかの組み合わせから成る2層金属触媒膜とを備える光学式ガスセンサと、
前記照射された光源の光の透過光あるいは反射光を検出する受光センサとを有する光学式ガスセンサシステムであって、
前記受光センサの検出する光損失の時間変化率によりガスを検知する光学式ガスセンサシステム。
【請求項4】
前記時間変化率が所定時間継続することを確認してガス検知を出力する請求項3記載の光学式ガスセンサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−57233(P2007−57233A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239328(P2005−239328)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】