説明

光学材料及び成形体の製造方法

【課題】光学レンズに適用可能な優れた光学性能や機械的強度を有する有機無機複合体からなる光学材料の製造方法を提供する。
【解決手段】不飽和基を有する重合性単量体から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる光学材料の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子を含有する混合物にマイクロ波を照射して、前記不飽和基を有する重合性単量体から重合反応生成物を生成する光学材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合体からなる光学材料及び成形体の製造方法に関し、詳しくは、不飽和基を有する重合性単量体からなる重合反応生成物、及び金属酸化物粒子を含有する有機無機複合体からなる光学材料及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、1950年代の後半にカメラのファインダー用に使用され、その後、1980年代に入ってからCDプレーヤーの光ピックアップ用レンズに採用されてから光学用途に本格的に利用されている。
【0003】
プラスチックは、射出成形、圧縮成形、注型重合等でレンズ作製が可能であり、研磨や研削等を必要とするガラスレンズに比べて量産性に優れている。
しかしながら、プラスチックレンズはガラスレンズに比べて、屈折率やアッベ数の多様性に乏しく、また、温度による屈折率の変化も大きい。そのことから、現状は携帯電話用レンズやCDプレーヤーなどの光ピックアップ用レンズとして、プラスチックの欠点を補完しながら限られた用途で利用されている。
【0004】
このようなプラスチックレンズなどの光学材料の光学特性や機械的強度を補う技術が提案されている。例えば、有機材料が有する成形性と無機材料が有する光学性能や機械的強度の両者の長所を兼ね備えた有機高分子材料に種々の無機物粒子を充填した有機無機複合材料が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
有機無機複合材料の機能を十分に発現するためには、無機物粒子の凝集を防止して有機高分子材料の中に無機物粒子を均一に分散した状態を実現する必要がある。特に、この技術を光学レンズ用途に適用する場合、光の波長よりも十分に小さいナノスケールの無機物粒子を使用しなければならないため、粒子間の凝集力は強くなり、均一分散はより困難になってくる。また、光学性能や機械的強度などの無機材料の性能を十分に発揮するためには、かなりの高濃度で無機物粒子を有機高分子材料に充填する必要がある。
【0006】
無機物粒子を有機高分子材料の中に凝集を防止して均一に複合化する方法として、無機物粒子を液体状態である反応性単量体に分散した溶液を開始剤の存在下に熱や光で重合する技術が報告されている(特許文献1)。有機無機複合材料の製造方法において、無機物粒子を分散した反応性単量体を重合することによって有機無機複合材料を製造する方法は、例えばポリメチルメタクリレートのような熱可塑樹脂に無機物粒子を複合化し、例えば射出成形等の方法で成形体を製造する方法に比べて、無機物粒子の凝集を防止して均一に複合化する簡便な方法である。
【0007】
しかしながら、光学材料、特に、比較的厚い成形体が必要とされる光学レンズ用途に適用する場合、無機物粒子を含んだ単量体溶液を開始剤の存在下で熱や光で重合させる方法は、成形体の製造に適切であるとはいい難い。
【0008】
熱による重合の場合、加熱工程において、所定の温度まで昇温する方法では、成形体の表面部と中心部で所定温度に到達するまで時間差が生じ、重合反応性の違いによる無機物粒子の凝集やクラックなどの不具合が発生しやすい。これを回避するためには、昇温速度を小さくし、所定温度に達するまで十分な時間をかける方法もあるが、この方法ではプラスチックの長所である量産性には不適切である。
【0009】
また、光による重合の場合、開始剤による光吸収や無機物粒子による吸収や散乱の影響で、成形体の表面部と中心部での光強度が異なり、重合反応性の違いによる無機物ナノ粒子の凝集やクラックなどの不具合が発生しやすい。
【0010】
また、熱や光で重合する方法の他にマイクロ波照射による重合方法が知られている。マイクロ波照射による重合反応としては、例えば、脂肪酸ジオールと脂肪族ジカルボン酸の重縮合反応によるポリエステルの製造(特許文献2)や環状芳香族ポリカーボネートオリゴマーの開環重合による芳香族ポリカーボネートの製造(特許文献3)が報告されている。
【特許文献1】特開2005−316219号公報
【特許文献2】特開2006−169397号公報
【特許文献3】特許3682536号公報
【非特許文献1】季刊化学総説No.42、「無機有機ナノ複合物質」、(財)日本化学会編、発行日 1999年09月10日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、光学レンズに適用可能な優れた光学性能や機械的強度を有する有機無機複合体からなる光学材料及び成形体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する光学材料の製造方法は、不飽和基を有する重合性単量体から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる光学材料の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子を含有する混合物にマイクロ波を照射して、前記不飽和基を有する重合性単量体から重合反応生成物を生成することを特徴とする。
【0013】
また、上記の課題を解決する光学材料の製造方法は、不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる光学材料の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体、チオール基を有する化合物及び金属酸化物微粒子を含有する混合物にマイクロ波を照射して、前記不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物の反応により生成するスルフィド結合を有する重合反応生成物を生成することを特徴とする光学材料の製造方法。
【0014】
上記の課題を解決する成形体の製造方法は、不飽和基を有する重合性単量体から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる成形体の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子を含有する混合物をマイクロ波に不活性な材料からなる型の中でマイクロ波を照射することによって重合反応生成物を生成すると共に成型することを特徴とする。
【0015】
また、上記の課題を解決する成形体の製造方法は、不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる成形体の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体、チオール基を有する化合物及び金属酸化物微粒子を含有する混合物をマイクロ波に不活性な材料からなる型の中でマイクロ波を照射することによって重合反応生成物を生成すると共に成型することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、光学レンズに適用可能な優れた光学性能や機械的強度を有する有機無機複合体からなる光学材料及び成形体の製造方法を提供できる。
また、本発明は、欠陥のない高品質な光学材料及び成形体の製造方法を提供できる。
【0017】
さらに本発明は、低コストで生産可能な光学材料及び成形体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る光学材料の製造方法は、不飽和基を有する重合性単量体から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる光学材料の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子を含有する混合物にマイクロ波を照射して、前記不飽和基を有する重合性単量体から重合反応生成物を生成することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る光学材料の製造方法は、不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる光学材料の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体、チオール基を有する化合物及び金属酸化物微粒子を含有する混合物にマイクロ波を照射して、前記不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物の反応により生成するスルフィド結合を有する重合反応生成物を生成することを特徴とする光学材料の製造方法。
【0020】
前記混合物に含有される金属酸化物粒子の含有量が30重量%以上であることが好ましい。
前記不飽和基を有する重合性単量体がアクリル系化合物であることが好ましい。
【0021】
前記混合物が重合開始剤を含有することが好ましい。
前記不飽和基を含有する重合性単量体及びチオール基を有する化合物の少なくとも一つが金属酸化物微粒子表面と化学結合または金属酸化物微粒子表面に物理吸着していることが好ましい。
【0022】
光学材料が光学レンズであることが好ましい。
本発明に係る成形体の製造方法は、不飽和基を有する重合性単量体から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる成形体の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子を含有する混合物をマイクロ波に不活性な材料からなる型の中でマイクロ波を照射することによって重合反応生成物を生成すると共に成型することを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る成形体の製造方法は、不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる成形体の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体、チオール基を有する化合物及び金属酸化物微粒子を含有する混合物をマイクロ波に不活性な材料からなる型の中でマイクロ波を照射することによって重合反応生成物を生成すると共に成型することを特徴とする。
【0024】
前記成型体の厚さが1.0mm以上であることが好ましい。
本発明による有機無機複合体からなる光学材料の製造方法は、外部熱源からの熱伝導や熱輻射により開始剤が分解されて開始されるラジカル重合反応や外部光源からの光照射により開始剤が分解されて開始されるラジカル重合反応などを利用するものではなく、マイクロ波を選択的に吸収したマイクロ波に活性な化合物の誘導加熱により開始される重合反応を利用するものである。
【0025】
マイクロ波照射による重合反応としては、例えば、脂肪酸ジオールと脂肪族ジカルボン酸の重縮合反応によるポリエステルの製造や環状芳香族ポリカーボネートオリゴマーの開環重合による芳香族ポリカーボネートの製造が報告されているが、本発明ではマイクロ波を有機無機複合体からなる光学材料の製造方法に用いることを特徴とする。
【0026】
マイクロ波に活性な化合物の誘導加熱に使用するマイクロ波の周波数は、300MHz以上30GHz以下の範囲であり、好ましくは1GHz以上10GHz以下の範囲であり、さらに好ましくは2.45GHzである。また、マイクロ波照射の出力は、50W以上800W以下の範囲であり、好ましくは100W以上300W以下の範囲である。
【0027】
本発明に係る光学材料の製造方法は、(1)少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子を含有する混合物、または(2)少なくとも不飽和基を有する重合性単量体、チオール基を有する化合物及び金属酸化物微粒子を含有する混合物を用いて、前記混合物(1)または(2)にマイクロ波を照射して重合反応生成物を生成することを特徴とする。
【0028】
不飽和基を有する重合性単量体としては、メタクリル酸やアクリル酸などの不飽和カルボン酸、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステルなどの不飽和カルボン酸エステル、メタアクリルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド、スチレンやジビニルベンゼンなどのスチレン誘導体、2−ノルボルネンやジシクロペンタジエンなどのノルボルネン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明における混合物に含有される不飽和基を有する重合性単量体の含有量は、好ましくは30重量%以上95重量%以下、さらに好ましくは50重量%以上90重量%以下である。
【0030】
金属酸化物微粒子としては、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニア(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン(Sb25)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化珪素(SiO2)、酸化インジウムスズ(ITO)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
金属酸化物微粒子の粒子径は、光学レンズ用途のように透明性を必要とするような場合、粒子径が大きいと光散乱の影響で透過率が低下するために、光の波長よりも十分に小さいナノスケールの金属酸化物微粒子を使用しなければならない。従って、本発明で使用される金属酸化物微粒子の平均粒子径は、50nm以下、好ましくは20nm以下である。
【0032】
本発明における混合物に含有される金属酸化物微粒子の含有量は、目標とする光学性能や機械的特性によって異なり、また、使用する金属酸化物粒子や不飽和基を有する重合性単量体の重合生成物の種類によっても異なるが、少なくとも10重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは35重量%以上である。
【0033】
本発明は、混合物にチオール基を有する化合物を含有してもよい。この場合、不飽和基とチオール基の間でスルフィド結合が形成され、重合反応生成物に硫黄原子が導入される。その結果、重合反応生成物の屈折率が増加し、有機無機複合体の屈折率を向上させるのに有効である。また、チオール基は不飽和基を有する重合性単量体の重合促進剤として作用するために重合反応の効率が向上する。その結果、有機無機複合体の均一性の向上や大気中での製造が可能になる。さらに分子内にチオール基が複数存在する場合は、チオール基を有する化合物を介して三次元網目構造が形成されるために、有機無機複合体の機械的特性が向上する。従って、混合物がチオール基を有する化合物を含有することによって、有機無機複合体からなる光学材料の高屈折率化、機械的特性の向上、及び量産化に有利に作用する。
【0034】
チオール基を有する化合物としては、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)などの脂肪族化合物やトリアジンチオール化合物などの芳香族化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明における混合物に含有されるチオール基を有する化合物の含有量は、好ましくは0重量%以上20重量%以下、さらに好ましくは1重量%以上10重量%以下である。
【0036】
本発明では、混合物が重合開始剤や遷移金属化合物などの触媒を含有してもよい。熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスカルボアミド、イソプロピルヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビスヘキサンなどが挙げられる。光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1、2−ジフェニルエタン−1−オンなどが挙げられる。
【0037】
本発明における混合物に含有される触媒の含有量は、好ましくは0重量%以上1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以上0.5重量%以下である。
本発明における混合物には、更に分散剤や界面活性剤の金属酸化物微粒子の凝集を防止するための添加剤を含有していてもよい。
【0038】
有機無機複合体からなる光学材料の成形方法としては、不活性な材料で製造した所定の型の中に少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子からなる混合物を入れた後、マイクロ波照射して直接成形体を成形する注型重合法が挙げられる。
【0039】
また、マイクロ波に不活性な材料で製造した適当な容器に少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子からなる混合物を入れてマイクロ波照射してマスターバッチを作製した後、射出成形や圧縮成形により成形する方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の有機無機複合体からなる光学材料の製造方法は、成形体が厚いほど効果が発揮され、成形体の厚みが1.0mm以上、特に10mm以上で顕著である。
【実施例】
【0041】
次に本発明による実施例を示す。
実施例1
12wt%のZrO2微粒子/メチルメタクリレート分散液約2gをガラス製の試験管(内径約14mm)に入れ、次いで開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)約0.005gを添加した。ZrO2微粒子の濃度はZrO2微粒子/トルエン分散液(住友大阪セメント社製)のトルエンを減圧除去した後、ZrO2微粒子の残留固形物を所定量のメチルメタクリレートに再度分散して調整した。次いで、前記分散溶液中に窒素ガスを約5分間導入して分散溶液中の溶存酸素を除去した後、試験管をマイクロ波照射装置(Discover LabMate,CEM Corporation製)内に設置した。誘導加熱に使用するマイクロ波の周波数は2.45GHzであり、マイクロ波の出力を100Wから300Wの範囲で調整しながら試験管内の温度が65から80℃の範囲になるように設定し、一定温度になってから約30分間照射した。得られた重合生成物は若干の泡とクラックが認められたものの透明性を維持していた。
【0042】
実施例2
35wt%のZrO2微粒子/メチルメタクリレート分散液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で重合した。ZrO2微粒子の濃度調整は実施例1と同様にして行った。得られた重合生成物は若干の泡とクラックが認められたものの透明性を維持していた。
【0043】
実施例3
35wt%のZrO2微粒子/メチルメタクリレート分散液2gをガラス製の試験管(内径約12mm)に入れ、次いでチオール化合物として1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン(カレンズMT BD−1、昭和電工社製、二官能性チオール化合物)0.1gを添加し、約10分間攪拌した。さらに前記分散液に開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.005gを試験管に添加し、約10分間攪拌した。単量体の重合条件は実施例1と同様であった。得られた重合生成物は泡やクラックがほとんど認められず透明であった。
【0044】
実施例4
チオール化合物としてトリメチロールプロパントリス−3−メルカプトプロピオネートTMMP、堺化学製、三官能性チオール化合物)0.08gに変えたこと以外は実施例3と同様の方法で重合した。得られた重合生成物は、実施例3と同様に泡やクラックがほとんど認められず透明であった。
【0045】
実施例5
チオール化合物としてペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート(PEMP、四官能性チオール化合物)0.07gに変えたこと以外は実施例3と同様の方法で重合した。得られた重合生成物は、実施例3と同様に泡やクラックがほとんど認められず透明であった。
【0046】
実施例6
重合開始剤としてAIBNを用いなかったこと以外は実施例5と同様の方法で重合した。得られた重合生成物は、実施例3と同様に泡やクラックがほとんど認められず透明であった。
【0047】
実施例7
ZrO2微粒子の代わりに不飽和基を含有する重合性単量体で表面修飾したSiO2微粒子と、チオール化合物としてペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート(PEMP、四官能性チオール化合物)0.07gを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で重合した。得られた重合生成物は、実施例3と同様に泡やクラックがほとんど認められず透明であった。
【0048】
SiO2微粒子の表面修飾は次に示す条件下で行った。コロイダルシリカ(SiO2 30wt%、酢酸エチル分散、日産化学(株)製)400重量部と2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(分子量155/昭和電工(株)製)200重量部を混合し、さらにジラウリン酸ジ−n−ブチル錫0.05重量部を添加して室温(約20℃)で24時間撹拌した。反応終了後、50℃の減圧下で反応溶液から酢酸エチルを除去し、さらに50℃の減圧下で乾燥することにより不飽和基を含有する重合性単量体で表面修飾されたSiO2微粒子が得られた。
【0049】
得られた不飽和基を含有する重合性単量体で表面修飾されたSiO2微粒子の赤外吸収スペクトル測定を行ったことろ、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートのイソシアネート基由来のピーク(2227cm-1)が消失するとともに、ウレタン結合由来のピーク(1527cm-1)の生成が確認された。このことはSiO2微粒子の表面に存在するシラノール基と2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートのイソシアネート基の反応によりウレタン結合が生成し、SiO2微粒子の表面に化学結合が形成されたことを示唆している。重合性単量体の構造は式1に示す。
【0050】
【化1】

【0051】
比較例1
12wt%のZrO2微粒子/メチルメタクリレート分散液約2gをガラス製の試験管(内径約12mm)に入れ、次いで開始剤としてAIBN0.005gを試験管に添加し、約10分間攪拌した。前記分散溶液中に窒素ガスを約5分間導入して分散溶液中の溶存酸素を除去した後、試験管を油浴に入れて加熱した。油浴温度は65〜75℃に設定し、一定温度になってから約30分間加熱した。得られた重合生成物は多くのクラックが認められ、重合生成物全体が白濁していた。また、未反応の重合性単量体も残留していた。
【0052】
比較例2
35wt%のZrO2微粒子/メチルメタクリレート分散液を用いたこと以外は比較例1と同様の方法で重合した。得られた重合生成物は白濁して多くのクラックが認められた。また、未反応単量体が多く残留した。重合生成物のクラックと白濁の度合いが比較例1に比べてさらに悪化した。
【0053】
比較例3
35wt%のZrO2微粒子/メチルメタクリレート分散液約2gをガラス製の試験管(内径約12mm)に入れ、次いでチオール化合物としてチオール化合物として1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン(カレンズMT BD−1、昭和電工社製、二官能性チオール化合物)0.1gを添加し、約10分間攪拌した。さらに前記分散液に開始剤としてアゾイソブチロニトリル0.005gを試験管に添加し、約10分間攪拌した。単量体の重合条件は比較例1と同様である。得られた重合生成物は、比較例1、2に比べて透明性は増加したが、泡やクラックが多数認められた。
【0054】
比較例4
チオール化合物としてペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート(PEMP、堺化学製、四官能性チオール化合物)0.1gに変えたこと以外は比較例1と同様の方法で重合した。得られた重合生成物は、比較例3と同様に泡やクラックが多数認められた。
【0055】
比較例5
重合開始剤としてAIBNを用いなかったこと以外は比較例3と同様の方法で重合した。得られた生成物は流動性があり固化しなかった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、優れた光学性能や機械的強度を有する有機無機複合体からなる欠陥のない高品質な光学材料を製造できるので、カメラ、ビデオ、ディスプレー、プリンター、複写機、医療機器、露光装置、等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和基を有する重合性単量体から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる光学材料の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子を含有する混合物にマイクロ波を照射して、前記不飽和基を有する重合性単量体から重合反応生成物を生成することを特徴とする光学材料の製造方法。
【請求項2】
不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる光学材料の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体、チオール基を有する化合物及び金属酸化物微粒子を含有する混合物にマイクロ波を照射して、前記不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物の反応により生成するスルフィド結合を有する重合反応生成物を生成することを特徴とする光学材料の製造方法。
【請求項3】
前記混合物に含有される金属酸化物粒子の含有量が30重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学材料の製造方法。
【請求項4】
前記不飽和基を有する重合性単量体がアクリル系化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の光学材料の製造方法。
【請求項5】
前記混合物が重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の光学材料の製造方法。
【請求項6】
前記不飽和基を含有する重合性単量体及びチオール基を有する化合物の少なくとも一つが金属酸化物微粒子表面と化学結合または金属酸化物微粒子表面に物理吸着していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の光学材料の製造方法。
【請求項7】
光学材料が光学レンズであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の光学材料の製造方法。
【請求項8】
不飽和基を有する重合性単量体から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる成形体の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体及び金属酸化物微粒子を含有する混合物をマイクロ波に不活性な材料からなる型の中でマイクロ波を照射することによって重合反応生成物を生成すると共に成型することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項9】
不飽和基を有する重合性単量体とチオール基を有する化合物から生成される重合反応生成物及び金属酸化物微粒子を含有する有機無機複合体からなる成形体の製造方法であって、少なくとも不飽和基を有する重合性単量体、チオール基を有する化合物及び金属酸化物微粒子を含有する混合物をマイクロ波に不活性な材料からなる型の中でマイクロ波を照射することによって重合反応生成物を生成すると共に成型することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項10】
前記成型体の厚さが1.0mm以上であることを特徴とする請求項8または9に記載の成形体の製造方法。

【公開番号】特開2009−57493(P2009−57493A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227022(P2007−227022)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】