説明

光学機器用反射鏡の製造方法

【課題】金属反射膜の変色が生じ難い光学機器用反射鏡の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維強化炭素を含む複合材料基材の被めっき面を所望の鏡面形状に成形する基材成形工程と、成形された複合材料基材の被めっき面に触媒溶液を塗布して触媒を付与した後、無電解めっきにより被めっき面に金属薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、金属薄膜を鏡面に仕上げる鏡面仕上げ工程とを含み、金属薄膜形成工程において、複合材料基材の被めっき面に対する触媒溶液の塗布量を制御して、被めっき面の面積に対して触媒溶液が塗布された延べ面積の割合(塗布率)を10%以上50%以下にすることを特徴とする光学機器用反射鏡の製造方法である。触媒溶液の塗布は、噴霧により行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器用反射鏡の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化炭素を含む複合材料は、その優れた機械的性質や熱的性質などにより、宇宙関連の光学機器に用いる反射鏡への適用が期待されている。このような複合材料を反射鏡として利用するためには、その表面に金属反射膜を形成する必要がある。そこで、例えば、特許文献1に開示されるように、残留液が気化除去しやすい厚みのめっき皮膜を形成した後、それを乾燥させるという処理を繰り返して、複合材料の表面にめっきを施すことが考えられる。
【0003】
【特許文献1】特開2002−206170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、炭素繊維強化炭素を含む複合材料には、表面よりも内側に広がった形状の孔がランダムに多数存在する。そしてこの孔にめっき前処理に用いる強酸の触媒溶液が捕捉されるとめっき工程中の洗浄工程では洗いきれず、残渣部分には健全にめっきを析出させることができなくなる。それにより、めっき表面に未析出部が生じたり、あるいは表面が被覆できても切削・研磨する段階で未析出部が表面に露出し、これら未析出部から残存溶液が出現することにより金属反射膜に変色が生じて反射鏡としての性能が低下するという問題がある。このような未析出部における金属反射膜の変色は触媒の残存成分によるものであるため、水分のみを気化させても変色を抑制することは困難である。一方、炭素繊維強化炭素を含む複合材料の表面に存在する孔の形状を制御することも事実上困難である。
本発明は上記状況を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金属反射膜の変色が生じ難い光学機器用反射鏡の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは上記のような従来の問題点を解決すべく鋭意研究、開発を遂行した結果、このような問題点を解決するためには、炭素繊維強化炭素を含む複合材料の被めっき面に対する触媒溶液の塗布率(被めっき面の面積に対する触媒溶液が塗布された延べ面積の割合)を特定の範囲にすることが有効であることに想到し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、炭素繊維強化炭素を含む複合材料基材の被めっき面を所望の鏡面形状に成形する基材成形工程と、前記複合材料基材の前記被めっき面に触媒溶液を塗布して触媒を付与した後、無電解めっきにより前記被めっき面に金属薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、前記金属薄膜を鏡面に仕上げる鏡面仕上げ工程とを含む光学機器用反射鏡の製造方法であって、前記複合材料基材の前記被めっき面に対する前記触媒溶液の塗布率を10%以上50%以下にすることを特徴とする光学機器用反射鏡の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金属反射膜の変色が生じ難い光学機器用反射鏡の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
実施の形態1.
本発明に係る光学機器用反射鏡の製造方法は、炭素繊維強化炭素を含む複合材料基材の被めっき面を所望の鏡面形状に成形する基材成形工程と、複合材料基材の被めっき面に触媒溶液を塗布して触媒を付与した後、無電解めっきにより被めっき面に金属薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、金属薄膜を鏡面に仕上げる鏡面仕上げ工程とを含むものである。
【0008】
まず、本発明における基材成形工程について説明する。
本発明における基材成形工程は、炭素繊維強化炭素を含む複合材料基材の被めっき面を所望の鏡面形状に成形する工程である。ここで基材として用いる炭素繊維強化炭素を含む複合材料は、炭素繊維強化炭素複合材料(C/C複合材料)として一般に用いられているものを制限なく用いることができ、例えば、C/CコンポジットCX−201、C/C501、C/C503(以上東洋炭素株式会社製)、CCM−190C、CCM−190G(以上日本カーボン株式会社製)、AC100、AC200、AC300(以上アクロス社製)、TOKAREC28S(東海カーボン株式会社製)等が挙げられる。これら炭素繊維強化炭素を含む複合材料の表面には、表面よりも内側に広がった形状の孔がランダムに多数存在している。本工程では、これら炭素繊維強化炭素を含む複合材料基材を切断したり成形型を用いて、所望の鏡面形状に加工すればよい。
【0009】
次に、本発明における金属薄膜形成工程について説明する。
本発明における金属薄膜形成工程は、基材成形工程で成形された複合材料基材の被めっき面に触媒溶液を塗布して触媒を付与した後、無電解めっきにより被めっき面に金属薄膜を形成する工程である。この金属薄膜形成工程では、複合材料基材の被めっき面に対する触媒溶液の塗布率を10%以上50%以下にすることが肝要である。複合材料基材の被めっき面に対する触媒溶液の塗布率が、10%未満ではめっき析出速度が遅すぎて工業的に問題があり、また50%を超えると金属反射鏡の変色が顕著に発生するためである。この塗布率は好ましくは20%以上40%以下である。ここでの触媒溶液は、例えば、Sn/Pd触媒溶液等の無電解めっきの前処理に用いられる従来公知の触媒付与溶液を制限なく用いることができる。触媒溶液中の触媒濃度は4重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
触媒溶液の塗布方法は、上記塗布率が達成できるものであれば特に限定されないが、触媒溶液を被めっき面に対して噴霧することが好ましい。スプレー等により噴霧を行うことにより、塗布率を容易に制御することができ且つ特殊な触媒溶液や他の特殊な装置を用いる必要がないので、低コストで長期信頼性に優れる光学機器用反射鏡を提供することができるという利点がある。
次いで、触媒が付与された複合材料の被めっき面に無電解めっき法により金属薄膜を形成する。無電解めっきを行うに際しての処理条件は、例えば、めっき液としてニッケル−リン合金(数重量%以上10重量%以下のリンを含む)を主体としたものを用い、処理温度を60℃以上100℃以下とすればよい。金属薄膜の厚みは、例えば5μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上50μm以下である。本発明では無電解めっき法を用いるため、均一な厚みの金属薄膜を安価に形成することができ、また炭素繊維強化炭素を含む複合材料に対して十分に高い密着強度が得られる。
【0010】
なお、金属薄膜形成工程における触媒付与に先立って、本発明の効果を損なわない範囲で、無電解めっきにおいて通常実施される基材のクリーナー・コンディショナー処理、水洗処理、エッチング処理、酸活性処理、プリディップ処理を適宜行ってもよい。また、金属薄膜形成工程における触媒付与後に、本発明の効果を損なわない範囲で、触媒活性化処理、水洗処理を適宜行ってもよい。さらに、金属薄膜形成工程における無電解めっき後に、水洗処理を適宜行ってもよい。これらの各処理における処理時間は、特に制限されることはなく、複合材料基材の種類及び処理に用いる薬剤等に応じて適宜調整すればよい。
【0011】
本発明における鏡面仕上げ工程は、金属薄膜形成工程において形成された金属薄膜を鏡面に仕上げて金属反射鏡を形成する工程である。ここでの鏡面加工方法は、所望の平滑性が得られるものであれば特に限定されず、切削加工、研磨加工等を適宜採用することができる。切削加工としては、例えば、切削加工機等により適宜行うことができ、また研磨加工としては、例えば、研磨紙、ダイヤモンド砥粒等を用いて適宜行うことができる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
厚さ3mmのC/CコンポジットCX−201(東洋炭素株式会社製)を50mm□に切断したものを試験片とした。金属薄膜形成工程は、表1に示す通りとした。試験片の4つのうち1つにドリルで穴をあけ、ここにポリプロピレンコーティングされたステンレス線を通して輪状とした。この輪にガラス棒を通してビーカーの上に保持し、ビーカー中の薬液またはイオン交換水1Lに静止状態にて浸漬することにより、触媒付与処理を除いた全ての処理を行った。まず、ウォーターバスで60℃に保持したメルプレートPC−321液(メルテックス株式会社製、クリーナー・コンディショナー)中に試験片を3分間浸漬してクリーナー・コンディショナー処理を行った後、室温のイオン交換水に2分間浸漬後して水洗した。次に、室温のメルプレートAD−331液(メルテックス株式会社製、ソフトエッチ剤)中に2分間浸漬してエッチング処理を行った後、室温のイオン交換水に2分間浸漬して水洗した。10%の濃度に調整した室温の硫酸水溶液に1分浸漬して酸活性処理を行った後、室温のイオン交換水に2分間浸漬して水洗し、室温のエンプレートPC−236液(メルテックス株式会社製、プリディップ剤)中に3分間浸漬してプリディップ処理を行った。次いで、室温のエンプレートアクチベータ444液(メルテックス株式会社製、Sn/Pd触媒溶液、触媒濃度10重量%)を市販の噴霧器に入れて塗布率(被めっき面の面積に対する触媒溶液が塗布された延べ面積の割合)が10%となるように適量噴霧して触媒付与処理を行った後、室温のイオン交換水に2分間浸漬して水洗した。室温のメルプレートPA−360液(メルテックス株式会社製、密着増強剤)中に5分間浸漬して触媒活性化処理を行った後、室温のイオン交換水中に2分間浸漬して水洗した。ウォーターバスで80℃に保持したメルプレートNI865液(メルテックス株式会社製、無電解ニッケルめっき薬品)中に8時間浸漬して無電解ニッケルめっき処理を行った後、室温のイオン交換水中に2分間浸漬して水洗し、無電解ニッケルめっきサンプルAを作製した。なお、各処理は連続して行い、薬液またはイオン交換水が乾燥しないように留意した。また、触媒溶液の塗布量については、上質紙を用いて噴霧するストローク長さと塗布率との関係について予め調査を行い、ストロークに印をつけておき、そこまで噴霧することにより制御した。触媒溶液の塗布率(%)は、キーエンス社製のデジタルハイスコープ(CCDカメラ)により触媒溶液が塗布された面を450倍で観察し、パソコン上で塗布部分のマーキングをするとともに、その延べ面積をソフトウエアで算出し、(触媒溶液が塗布された延べ面積)/(被めっき面の面積)×100として求めた。
【0013】
【表1】

【0014】
触媒溶液の塗布率を0%(サンプルB)、5%(サンプルC)、20%(サンプルD)、30%(サンプルE)、40%(サンプルF)、50%(サンプルG)、60%(サンプルH)および100%(サンプルI)に変える以外はサンプルAと同様にして無電解ニッケルめっきサンプルをそれぞれ作製した。なお、触媒を付与していないサンプルBにめっきは析出しなかった。
【0015】
サンプルA〜Iを各10枚ずつ作製し、ニッケルめっき(金属薄膜)の厚さを蛍光X線で測定した。その結果を表2に示した。
【0016】
【表2】

【0017】
表2から、塗布率の上昇に伴いニッケルめっきの析出速度が上昇し、触媒溶液の塗布率60%以上でほぼ狙い通りの膜厚(100μm)が得られることが分かる。工業的には析出速度は大きい方が望ましいが、狙い膜厚の40%以上が得られていればめっき時間の増大により対応可能な範囲と判断できる。よって触媒溶液の塗布率を10%以上とすることで工業的に採用可能なニッケルめっきの析出速度が得られる効果が確認できた。
【0018】
触媒溶液の塗布率により析出速度に差があり、膜厚が異なると基材の被覆性も異なることから、めっき時間を調整して膜厚100μmのニッケルめっきを試験片に施したサンプルA’〜I’を10枚ずつ作製した。なお、触媒溶液の塗布率は、サンプルA’が10%、サンプルB’が0%、サンプルC’が5%、サンプルD’が20%、サンプルE’が30%、サンプルF’が40%、サンプルG’が50%、サンプルH’が60%およびサンプルI’が100%である。
これらのサンプルA’〜I’のニッケルめっき面を30μm機械加工で切削した後に、#220耐水ペーパーを用いて荷重15Nで5分、#1200耐水ペーパーを用いて荷重15Nで5分、ダイヤモンド9ミクロン研磨剤を用いて荷重15Nで5分、ダイヤモンド1ミクロン研磨剤を用いて15Nで5分の研磨を行って鏡面に仕上げ、ニッケルめっき反射膜を形成した。1週間放置後のニッケルめっき反射膜の変色状態を光学顕微鏡で評価した。評価基準は、100%の場合の変色部の延べ面積を基準として×、これより少ない面積で変色部がある場合を△、ほとんど見られない場合を○とした。このときの○、△、×のサンプル数を表3に示した。
【0019】
【表3】

【0020】
表3から、触媒溶液の塗布率50%まではほぼ良好な鏡面が得られるが、60%以上となると変色部が多くなることが分かる。よって触媒溶液の塗布率を50%以下にすることで、ニッケルめっき膜の切削・研磨後の表面変色が著しく改善できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化炭素を含む複合材料基材の被めっき面を所望の鏡面形状に成形する基材成形工程と、前記複合材料基材の前記被めっき面に触媒溶液を塗布して触媒を付与した後、無電解めっきにより前記被めっき面に金属薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、前記金属薄膜を鏡面に仕上げる鏡面仕上げ工程とを含む光学機器用反射鏡の製造方法であって、
前記複合材料基材の前記被めっき面に対する前記触媒溶液の塗布率を10%以上50%以下にすることを特徴とする光学機器用反射鏡の製造方法。
【請求項2】
前記触媒溶液の塗布は、前記触媒溶液を前記被めっき面に向けて噴霧することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の光学機器用反射鏡の製造方法。

【公開番号】特開2007−279439(P2007−279439A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106525(P2006−106525)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】