説明

光学活性α−ヒドロキシシラン類の製造方法及び新規な光学活性α−ヒドロキシシラン類化合物

【課題】触媒量を低減することができると共に副生成物の発生が少ない光学活性α−ヒドロキシシラン類の製造方法、及び新規な光学活性α−ヒドロキシシラン類化合物を提供する。
【解決手段】Ru錯体を触媒として用い、一般式(II)
【化2】


(式II中、R12〜R14は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、かつそれぞれ官能基を有していてもよい芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であって、R12〜R14のうち2つが接合して環を形成してもよく;R15は芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を示す)で表されるアシルシランを不斉水素化反応させ、光学活性α−ヒドロキシシラン類を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学活性α−ヒドロキシシラン類の製造方法及び新規な光学活性α−ヒドロキシシラン類化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学活性α−ヒドロキシシラン類の合成方法として、対応するアシルシラン類を不斉ヒドロホウ素還元する方法が知られている(非特許文献1参照)。この合成方法として、化学量論的不斉還元剤(DIP-Cl;(-)-B-chlorodiisopinocampheylborane)を用いた還元(非特許文献2参照)、及び触媒量の光学活性オキサアザボロリジンを用いるボラン還元(CBS還元)(非特許文献3参照)が知られている。
又、近年、光学活性アレーン/Ru錯体触媒と2−プロパノールとを水素源として用いる不斉水素移動型還元反応により、α−ヒドロキシシラン類を合成する方法が報告されている(非特許文献4参照)。
【0003】
【非特許文献1】Buynak, J. D.; Strickland, J. B.; Hurd, T.; Phan, A. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1989, 89-90.
【非特許文献2】Solderquist, J. A.; Anderson, C. L.; Miranda, E. I.; Rivera, I.; Kabalka, G. W. Tetrahedron Lett. 1990, 31, 4677-4680.
【非特許文献3】Cirillo, P. F.; Panek, J. S. Org. Prep. Proc. 1992, 24, 555-582.
【非特許文献4】Cossrow, J.; Rychnovsky, S. D. Org. Lett. 2002, 4, 147-150.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DIP-Clを用いた還元の場合、高い収率とエナンチオ選択性を得られ、基質一般性があるものの、基質と当量以上の不斉修飾剤を必要とするため、製造コストが高くなるという問題がある。さらに、この方法の場合、生成物として得られるホウ素アルコキシドを加水分解してα−ヒドロキシシランを導く過程で、大量のホウ酸系廃棄物が生じ、環境への負荷が問題となる。
一方、CBS還元の場合、触媒量を1/10〜1/100当量程度までしか低減することができないので製造コストが高いと共に、α,β−不飽和アシルシランの還元の際に高い選択性が得られないという問題がある。さらに、CBS還元においても大量のホウ酸系廃棄物が生じる問題を避けることができない。
【0005】
又、上記した不斉水素移動型還元反応の場合、ホウ酸系廃棄物は生じないが、触媒量を1/33〜1/200当量程度までしか低減することができず、又、芳香族アシルシラン類の反応にしか適用できないという問題がある。
すなわち、本発明は、触媒量を低減することができると共に副生成物の発生が少ない光学活性α−ヒドロキシシラン類の製造方法、及び新規な光学活性α−ヒドロキシシラン類化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明の光学活性α−ヒドロキシシラン類の製造方法は、一般式(I)
【化1】

(式I中、Wは、置換基を有していてもよい結合鎖;R1〜R4は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、かつそれぞれ置換基を有していてもよい炭化水素基;R5〜R11は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭化水素基又は水素;X,Yは同一又はそれぞれ異なっていてもよいアニオン性基;Ruの各配位子はどのように配置されていてもよい)で表されるRu錯体を触媒として用い、一般式(II)
【化2】

(式II中、R12〜R14は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、かつそれぞれ官能基を有していてもよい芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であって、R12〜R14のうち2つが接合して環を形成してもよく;R15は芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を示す)で表されるアシルシランを不斉水素化反応させ、一般式(III)
【化3】

(式III中、R12〜R15は式IIと同一である)で表される光学活性α−ヒドロキシシラン類を製造するものである。
【0007】
本発明の新規な光学活性α−ヒドロキシシラン類化合物は、一般式(IV)
【化4】

(式IV中、R16は芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を示す)で表される。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、光学活性α−ヒドロキシシラン類を製造する際に、触媒量を低減することができると共に副生成物の発生を低減することができる。又、この発明によれば新規な光学活性α−ヒドロキシシラン類化合物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の光学活性α−ヒドロキシシラン類の製造方法は、一般式(I)
【化1】

で表されるRu錯体を触媒として用い、一般式(II)
【化2】

で表されるアシルシランを不斉水素化反応させ、一般式(III)
【化3】

で表される光学活性α−ヒドロキシシラン類を製造するものである。
【0010】
式I中、Wは、置換基を有していてもよい結合鎖;R1〜R4は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、かつそれぞれ置換基を有していてもよい炭化水素基;R5〜R11は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭化水素基又は水素;X,Yは同一又はそれぞれ異なっていてもよいアニオン性基であり;Ruの各配位子はどのように配置されていてもよい)
【0011】
Wの具体例としては、1,1'-ビナフチル-2,2'-ジイル基;5,6,7,8,5',6',7',8'-オクタヒドロ-1,1'-ナフチル-2,2'-ジイル基;2,2,2',2'-テトラヒドロ-4,4'-ビ-1,3-ベンゾジオキソール-5,5'-ジイル基;2,2,2',2'-テトラフルオロ-4,4'-ビ-1,3-ベンゾジオキソール-5,5'-ジイル基;2,2',3,3'-テトラヒドロ-5,5'-ビ-1,4-ベンゾジオキシン-6,6'-ジイル基;5,5'-ジクロロ-6,6'-ジメトキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジメトキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジエトキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジプロポキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジイソプロポキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジブトキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジイソブトキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジsec-ブトキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジtert-ブトキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジフェノキシ-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジメチル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジエチル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジプロピル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジイソプロピル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジブチル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジイソブチル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジsec-ブチル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジtert-ブチル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;6,6'-ジフェチル-1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイル基;[2.2]-パラシクロファン-4,12-ジイル基;の他、エチレン基,トリメチレン基,テトラメチレン基,ブタン-2,3-ジイル基,ペンタン-2,4-ジイル基,ビシクロペンチル-1,1'-ジイル基,ビシクロヘキシル-1,1'-ジイル基,O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシブタン-2,3-ジイル基,1,2-フェニレン基が挙げられる。
【0012】
R1〜R4の具体例としては、フェニル基,4-メチルフェニル基,3-メチルフェニル基,3,4-ジメチルフェニル基,3,5-ジメチルフェニル基,3,4,5-トリメチルフェニル基,4-エチルフェニル基,3-エチルフェニル基,3,4-ジエチルフェニル基,3,5-ジエチルフェニル基,3,4,5-トリエチルフェニル基,4-プロピルフェニル基,3-プロピルフェニル基,3,4-ジプロピルフェニル基,3,5-ジプロピルフェニル基,3,4,5-トリプロピルフェニル基,4-トリフルオロメチルフェニル基,3-トリフルオロメチルフェニル基,3,4-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基,3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基,3,4,5-トリス(トリフルオロメチル)フェニル基,ヘキサン-2,5-ジイル基,オクタン-3,6-ジイル基,2,7-ジメチルオクタン-3,6-ジイル基,デカン-4,7-ジイル基が挙げられる。
R5〜R11の具体例としては、水素,フッ素,塩素,臭素,ヨウ素,メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基,tert-ブチル基,トリフルオロメチル基,エチレン基,トリメチレン基,メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,イソプロポキシ基,ブトキシ基,イソブトキシ基,sec-ブトキシ基,tert-ブトキシ基,フェノキシ基,メチレンジオキシ基,エチレンジオキシ基,フェニル基が挙げられる。
【0013】
X,Yの具体例としては、水素,塩素,臭素,ヨウ素,メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,イソプロポキシ基,ブトキシ基,イソブトキシ基,sec-ブトキシ基,tert-ブトキシ基,フェノキシ基,テトラヒドロボリル基,等が挙げられる。
【0014】
式I中、Ruの各配位子がどのように配置されていてもよいということは、Ruに結合しているN、P、X、Yの位置が任意であることを意味する。例えば、式IにおいてXとYがRuをはさんで向かい合っているが、例えば、XとN、XとPが向かい合った配置でもよい。
【0015】
上記式II中、R12〜R14は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、かつそれぞれ官能基を有していてもよい芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であって、R12〜R14のうち2つが接合して環を形成してもよく;R15は芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を示す。
【0016】
12〜R14の具体例としては、メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,i-ブチル基,sec-ブチル基,t-ブチル基,テキシル基,シアミル基,ベンジル基,ノルボルニル基,フェニル基,2-ヒドロキシスチリル基,等が挙げられる。
合成上の理由からR12〜R14の組み合わせとして、R12〜R14がC2H5, n-C3H7, i-C3H7,n-C4H9,C6H5等であることが好ましい。特に、R12=R13=CH3,R14=t-C4H9,R12=R13=CH3,R14=C6H5であることが好ましい。
【0017】
式Iの触媒を用いて式IIの基質を不斉水素化反応させる反応は、中性から塩基性の有機溶媒、アルコール及び水を単独又は適宜混合した溶媒中で行うことができる。反応は、1.013×105〜2.026×107Paの水素雰囲気で行うことが好ましく、より好ましくは3.039×105〜1.013×107Paの水素雰囲気で行う。
反応温度は-30℃〜150℃で行うことが好ましく、より好ましくは-10℃〜50℃で行う。
式Iの触媒は、式IIの基質に対して1/50〜1/1000000(モル比)の割合とすることが好ましく、より好ましくは1/100〜1/100000の割合である。
【0018】
本発明の光学活性α−ヒドロキシシラン類化合物は、一般式(IV)
【化4】

で表される。式IV中、R16は芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を示す。
16の具体例としては、フェニル基,4-メチルフェニル基,3-メチルフェニル基,2-メチルフェニル基,4-メトキシフェニル基,3-メトキシフェニル基,2-メトキシフェニル基,4-フルオロフェニル基,3-フルオロフェニル基,2-フルオロフェニル基,ピリジル基,フラニル基,メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,i-ブチル基,sec-ブチル基,t-ブチル基,2-フェニルエテニル基,1-ヘキセニル基,シクロプロピル基,シクロブチル基,シクロペンチル基,シクロヘキシル基が挙げられる。
【0019】
なお、上記式Iの化合物として好ましいものとして、一般式(V)
【化5】

で表される化合物が挙げられる。
上記式V中、R17〜R19は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、かつそれぞれ官能基を有していてもよい芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であって、R17〜R19のうち2つが接合して環を形成してもよく;Arは置換基を有していてもよい芳香族基;X,Yは同一又はそれぞれ異なっていてもよい水素、ハロゲン原子、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はボロヒドリド基を示す。
【0020】
17〜R19の具体例としては、水素,メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,i-ブチル基,sec-ブチル基,t-ブチル基,トリメチレン基,テトラメチレン基,メチレンジオキシ基,エチレンジオキシ基,ベンジル基,フェニル基,等が挙げられる。
Arの具体例としては、フェニル基,3-メチルフェニル基,4-メチルフェニル基,3,4-ジメチルフェニル基,3,5-ジメチルフェニル基,3,4,5-トリメチルフェニル基,3-エチルフェニル基,4-エチルフェニル基,3,4-ジエチルフェニル基,3,5-ジエチルフェニル基,3,4,5-トリエ4チルフェニル基,3-トリフルオロメチルフェニル基,4-トリフルオロメチルフェニル基,3,4-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基,3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基,3,4,5-トリス(トリフルオロメチル)フェニル基、等が挙げられる。
上記式V中、R17=R18=R19=H, X=Y=Cl, Ar=C6H5; R17=R18=t-C4H9, R19=H, X=Y=Cl, Ar=C6H5: R17=R18=R19=H, X=Y=Cl, Ar=4-CH3C6H4; R17=R18=t-C4H9, R19=H, X=Y=Cl, Ar=4-CH3C6H4Iなどの組み合わせが合成的な理由から好ましい。
【0021】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
アルゴン置換された100 mlオートクレーブに、Ru錯体触媒としてRuCl2[(S)-tolbinap](pica)1.2 mg (1.2 μmol)を装入した。この触媒は、式Vの化合物において、R17〜R19を水素とし、Arをp-C6H4CH3とし、X,YをそれぞれClとしたものである。
さらに、このオートクレーブに、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したエタノール(1.0 mL)と、カリウムtert-ブトキシド(1 M, 0.10 mL, 0.10 mmol)とを加え,室温で撹拌した。その後、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したアシルシラン(1.3 g, 6.1 mmol;式IIの化合物において、R12=R13=CH3, R14=t-C4H9とし、R15=C6H5としたもの)とエタノール(9.0 mL)を加えた。次に、6.078×105Paの水素雰囲気下、quick release-fillサイクルによってオートクレーブ内を水素で置換した後、オートクレーブ内の最終水素圧を1.013×106Paにして、2.3時間の反応を行った。TLC(薄層クロマトグラフィ)により反応が完結したことを確認(基質を示すスポットが消失したことで判断)した後,シリカゲルショートカラムにより錯体及び塩基を取り除き,目的物(式VI)を得た(1.3 g, 97%, 96% ee (R))。この化合物自体は既知である。
1H NMR(400 MHz, CDCl3) δ 0.25(s, 3H, SiC6H5(CH3)2), 0.29(s, 3H, SiC6H5(CH3)2), 1.70(s, 1H, OH), 4.69(s, 1H, CHOH) , 7.10-7.02(m, 2H, Ar-H), 7.19-7.10(m, 1H, Ar-H), 7.28-7.19(m, 2H, Ar-H), 7.41-7.29(m, 3H, Ar-H), 7.51-7.42(m, 2H, Ar-H) ; 13CNMR(100 MHz, CDCl3) δ -6.3(SiC6H5(CH3)2), -5.4(SiC6H5(CH3)2), 69.9(CHOH), 125.1(Ar), 125.9(Ar), 127.7(Ar), 128.0(Ar), 129.4(Ar), 134.3(Ar), 135.9(Ar), 143.4(Ar)
【化6】

【実施例2】
【0023】
アルゴン置換された100 mlオートクレーブに、Ru錯体触媒として実施例1と同一のRuCl2[(S)-tolbinap](pica) 0.97 mg (1.0 μmol)を装入した。
さらに、このオートクレーブに、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したエタノール(0.5 mL)と、カリウムtert-ブトキシド(1 M, 20 μL, 20 μmol)とを加え,室温で撹拌した。その後、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したアシルシラン(0.25 g, 1.1 mmol;式IIの化合物において、R12=R13=CH3, R14=t-C4H9とし、R15を3-CH3OC6H5としたもの)とエタノール(1.5 mL)を加えた。次に、6.078×105Paの水素雰囲気下、quick release-fillサイクルによってオートクレーブ内を水素で置換した後、オートクレーブ内の最終水素圧を1.013×106Paにして、3.5時間の反応を行った。TLC(薄層クロマトグラフィ)により反応が完結したことを確認した後,シリカゲルショートカラムにより錯体及び塩基を取り除き,目的物(式VII)を得た(0.22 g, 90%, 96% ee (R))。この化合物は新規なものである。
1H NMR(400 MHz, CDCl3) δ-0.21(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2), 0.01(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2), 0.95(s, 9H, Sitert-C4H9(CH3)2), 1.65(s, 1H, OH), 4.66(s, 1H, CHOH), 7.13-7.22(m, 3H, Ar-H), 7.25-7.33(m, 2H, Ar-H); 13CNMR(100 MHz, CDCl3) δ -9.5(Sitert-C4H9(CH3)2), -7.3(Sitert-C4H9(CH3)2), 17.1(Sitert-C(CH3)3(CH3)2), 26.9(Sitert-C(CH3)3(CH3)2), 69.0(CHOH), 125.5(Ar), 125.9(Ar), 128.1(Ar), 144.8(Ar)
【化7】

【実施例3】
【0024】
アルゴン置換された100 mlオートクレーブに、Ru錯体触媒として実施例1と同一のRuCl2[(S)-tolbinap](pica) 2.2 mg (2.2 μmol)を装入した。
さらに、このオートクレーブに、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したエタノール(0.5 mL)と、カリウムtert-ブトキシド(1 M, 20 μL, 20 μmol)とを加え,室温で撹拌した。その後、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したアシルシラン(0.28 g, 1.3 mmol;式IIの化合物において、R12=R13=CH3, R14=t-C4H9とし、R15を4-CH3OC6H5としたもの)とエタノール(1.5 mL)を加えた。次に、6.078×105Paの水素雰囲気下、quick release-fillサイクルによってオートクレーブ内を水素で置換した後、オートクレーブ内の最終水素圧を1.013×106Paにして、5時間の反応を行った。TLC(薄層クロマトグラフィ)により反応が完結したことを確認した後,シリカゲルショートカラムにより錯体及び塩基を取り除き,目的物(式VIII)を得た(0.25 g, 90%, 96% ee (R))。この化合物は新規なものである。
1H NMR(400 MHz, CDCl3) δ -0.21(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2), 0.01(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2), 0.95(s, 9H, Sitert-C4H9(CH3)2), 1.61(s, 1H, OH), 3.79(s, 1H, OCH3), 4.60(s, 1H, CHOH), 6.85(d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.13(d, J = 8.8 Hz, 2H); 13CNMR(100 MHz, CDCl3) δ -9.3(Sitert-C4H9(CH3)2), -7.3(Sitert-C4H9(CH3)2), 17.0(Sitert-C(CH3)3(CH3)2), 26.9(Sitert-C(CH3)3(CH3)2), 55.2(OCH3), 68.4(CHOH), 113.6(Ar), 126.7(Ar), 136.9(Ar), 157.9(Ar)
【化8】

【実施例4】
【0025】
アルゴン置換された100 mlオートクレーブに、Ru錯体触媒として実施例1と同一のRuCl2[(S)-tolbinap](pica) 1.1 mg (1.2 μmol)を装入した。
さらに、このオートクレーブに、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したエタノール(0.5 mL)と、カリウムtert-ブトキシド(1 M, 35 ?L, 35 ?mol)とを加え,室温で撹拌した。その後、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したアシルシラン(0.44 g, 1.1 mmol;式IIの化合物において、R12=R13=CH3, R14=t-C4H9とし、R15を4-FOC6H5としたもの)とエタノール(3 mL)を加えた。次に、6.078×105Paの水素雰囲気下、quick release-fillサイクルによってオートクレーブ内を水素で置換した後、オートクレーブ内の最終水素圧を1.013×106Paにして、1.5時間の反応を行った。TLC(薄層クロマトグラフィ)により反応が完結したことを確認した後,シリカゲルショートカラムにより錯体及び塩基を取り除き,目的物(式IX)を得た(0.43 g, 96%, 96% ee (R))。この化合物は新規なものである。
1H NMR(400 MHz, CDCl3) δ -0.21(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2), -0.00(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2), 0.96(s, 9H, Sitert-C4H9(CH3)2), 1.68(d, J = 2.4 Hz, 1H, OH), 4.65(d, J = 2.4 Hz, 1H, CHOH), 6.96-7.03(m, 2H), 7.14-7.20(m, 2H); 13CNMR(100 MHz, CDCl3) δ -9.4(Sitert-C4H9(CH3)2), -7.3(Sitert-C4H9(CH3)2), 17.0(Sitert-C(CH3)3(CH3)2), 26.9(Sitert-C(CH3)3(CH3)2), 68.3(CHOH), 114.9(d, J = 21.4 Hz, Ar), 126.8(d, J = 7.6 Hz, Ar), 140.5(d, J = 3.0 Hz, Ar), 161.2(d, J = 244.1 Hz, Ar)
【化9】

【実施例5】
【0026】
アルゴン置換された100 mlオートクレーブに、Ru錯体触媒として実施例1と同一のRuCl2[(S)-tolbinap](pica) 0.5 mg (0.5 μmol)を装入した。
さらに、このオートクレーブに、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したエタノール(0.5 mL)と、カリウムtert-ブトキシド(1 M, 20 μL, 20 μmol)とを加え,室温で撹拌した。その後、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したアシルシラン(0.17 g, 1.1 mmol;式IIの化合物において、R12=R13=CH3, R14=t-C4H9とし、R15をCH3としたもの)とエタノール(1.5 mL)を加えた。次に、6.078×105Paの水素雰囲気下、quick release-fillサイクルによってオートクレーブ内を水素で置換した後、オートクレーブ内の最終水素圧を1.013×106Paにして、3時間の反応を行った。TLC(薄層クロマトグラフィ)により反応が完結したことを確認した後,シリカゲルショートカラムにより錯体及び塩基を取り除き,目的物(式X)を得た(0.15 g, 88%, 98% ee (R))。この化合物自体は既知である。
1H NMR(400 MHz, CDCl3) δ -0.06(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2), -0.00(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2) , 0.95(s, 9H, Sitert-C4H9(CH3)2), 1.00(br, 1H, OH), 1.31(d, J = 7.3 Hz, 3H, CH3), 3.66(q, J = 7.3 Hz, 1H, CHOH); 13CNMR(100 MHz, CDCl3) δ -9.1(Sitert-C4H9(CH3)2), -7.9(Sitert-C4H9(CH3)2), 16.6(Sitert-C(CH3)3(CH3)2), 16.6(CH3), 27.0(Sitert-C(CH3)3(CH3)2), 60.0(CHOH)
【化10】

【実施例6】
【0027】
アルゴン置換された100 mlオートクレーブに、Ru錯体触媒として実施例1と同一のRuCl2[(S)-tolbinap](pica) 7.0 mg (7.3 μmol)を装入した。
さらに、このオートクレーブに、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したエタノール(0.5 mL)と、カリウムtert-ブトキシド(1 M, 20 μL, 20 μmol)とを加え,室温で撹拌した。その後、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したアシルシラン(0.20 g, 0.96 mmol;式IIの化合物において、R12=R13=CH3, R14=t-C4H9とし、R15を(E)-CH=CH(CH2)2CH3としたもの)とエタノール(1.5 mL)を加えた。次に、6.078×105Paの水素雰囲気下、quick release-fillサイクルによってオートクレーブ内を水素で置換した後、オートクレーブ内の最終水素圧を1.013×106Paにして、1時間の反応を行った。TLC(薄層クロマトグラフィ)により反応が完結したことを確認した後,シリカゲルショートカラムにより錯体及び塩基を取り除き,目的物(式XI)を得た(0.19 g, 93%, 95% ee (R))。この化合物は新規なものである。
1H NMR(400 MHz, CDCl3) δ -0.05(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2), 0.01(s, 3H, Sitert-C4H9(CH3)2) , 0.90 (t, J = 7.3 Hz, 3H, CH3), 0.95(s, 9H, Sitert-C4H9(CH3)2), 1.34-1.45 (m, 2H, CH2), 1.98-2.07 (m, 2H, CH2), 4.04-4.10 (m, 1H, CHOH), 5.44-5.53 (m, 1H), 5.60-5.68 (m, 1H)
【化11】

【実施例7】
【0028】
アルゴン置換された100 mlオートクレーブに、Ru錯体触媒として実施例1と同一のRuCl2[(S)-tolbinap](pica) 1.3 mg (1.4 μmol)を装入した。
さらに、このオートクレーブに、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したエタノール(0.5 mL)と、カリウムtert-ブトキシド(1 M, 4 μL, 4 μmol)とを加え,室温で撹拌した。その後、freeze-and-thawサイクルによって凍結脱気したアシルシラン(0.30 g, 1.2 mmol;式IIの化合物において、R12=R13=CH3, R14=C6H5とし、R15をC6H5としたもの)とエタノール(2 mL)を加えた。次に、6.078×105Paの水素雰囲気下、quick release-fillサイクルによってオートクレーブ内を水素で置換した後、オートクレーブ内の最終水素圧を1.013×106Paにして、1時間の反応を行った。TLC(薄層クロマトグラフィ)により反応が完結したことを確認した後,シリカゲルショートカラムにより錯体及び塩基を取り除き,目的物(式XII)を得た(0.24 g, 80%, 96% ee (R))。この化合物自体は既知である。
1H NMR(400 MHz, CDCl3) δ 0.25(s, 3H, SiC6H5(CH3)2), 0.29(s, 3H, SiC6H5(CH3)2), 1.70(s, 1H, OH), 4.69(s, 1H, CHOH) , 7.10-7.02(m, 2H, Ar-H), 7.19-7.10(m, 1H, Ar-H), 7.28-7.19(m, 2H, Ar-H), 7.41-7.29(m, 3H, Ar-H), 7.51-7.42(m, 2H, Ar-H) ; 13CNMR(100 MHz, CDCl3) δ -6.3(SiC6H5(CH3)2), -5.4(SiC6H5(CH3)2), 69.9(CHOH), 125.1(Ar), 125.9(Ar), 127.7(Ar), 128.0(Ar), 129.4(Ar), 134.3(Ar), 135.9(Ar), 143.4(Ar)
【化12】

【0029】
上記した実施形態によれば、光学活性α−ヒドロキシシラン類を製造する際に、触媒量を低減することができると共に副生成物の発生を低減することができ、さらにエナンチオ選択性を高くすることができる。又、これまで合成できなかった新規の光学活性α−ヒドロキシシラン類を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式I中、Wは、置換基を有していてもよい結合鎖;R1〜R4は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、かつそれぞれ置換基を有していてもよい炭化水素基;R5〜R11は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭化水素基又は水素;X,Yは同一又はそれぞれ異なっていてもよいアニオン性基;Ruの各配位子はどのように配置されていてもよい)で表されるRu錯体を触媒として用い、一般式(II)
【化2】

(式II中、R12〜R14は同一又はそれぞれ異なっていてもよく、かつそれぞれ官能基を有していてもよい芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であって、R12〜R14のうち2つが接合して環を形成してもよく;R15は芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を示す)で表されるアシルシランを不斉水素化反応させ、一般式(III)
【化3】

(式III中、R12〜R15は式IIと同一である)で表される光学活性α−ヒドロキシシラン類を製造する方法。
【請求項2】
一般式(IV)
【化4】

(式IV中、R16は芳香族基、ヘテロ環、鎖状若しくは環状アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を示す)で表される新規な光学活性α−ヒドロキシシラン類化合物。

【公開番号】特開2008−195647(P2008−195647A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32105(P2007−32105)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】