説明

光学活性β−ヒドロキシスルフィド化合物の製法

【課題】 チオール化合物によるエポキシドの開環反応により高収率かつ高立体選択的に光学活性β−ヒドロキシスルフィド化合物を製造する方法を提供をする。
【解決手段】 ルイス酸と光学活性なビピリジン化合物とから成る不斉触媒を用いることにより、エポキシドとチオール化合物との反応により光学活性β−ヒドロキシスルフィド化合物を高い不斉選択性で合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エポキシドをチオールにより不斉開環反応させて光学活性β−ヒドロキシスルフィド化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、不斉合成法の進歩に伴いエポキシドの触媒的不斉開環反応が注目されており、チオールを求核剤として用いる例が報告されている(特許文献1等)。
一方、本発明者らはスカンジウムトリフラートとキラルビピリジンから調製される不斉触媒を用いたエポキシドの不斉開環反応によるエナンチオ選択的なβ−アミノアルコールの合成を報告している(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特許3852122
【特許文献2】特開2007-31344
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のチオールを求核剤として用いるエポキシドの触媒的不斉開環反応(特許文献1等)は、利便性・収率・選択性が十分ではなかった。
そこで、本発明は、チオール化合物によるエポキシドの開環反応において、広い基質一般性を有し、高収率かつ高立体選択的に光学活性β−ヒドロキシスルフィド化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ルイス酸と光学活性なビピリジン化合物とから成る不斉触媒(特許文献2)を用いて、チオールを求核剤とするエポキシドの触媒的不斉開環反応を検討したところ、この不斉開環反応が高収率かつ高立体選択的に進行することを見出し、光学活性β−ヒドロキシスルフィド化合物の新規な製法を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、溶液中で下式(化1)
【化1】

(式中、Rは、炭素数が3以上のアルキル基又はアリール基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基若しくはアルコキシ基を表し、Xは、−OH又は−SHを表す。)で表される配位子又はその対称体とM(OSO又はM(OSO(式中、MはSc、Y又はランタノイド元素を表し、Rは炭素数6以上の脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基、又はハロゲン化アルキル基を表す。)で表されるルイス酸とを混合させて得られる触媒の存在下で、下式(式2)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基を表し、但し、R及びRの少なくとも一方は水素原子ではない。)で表されるエポキシドと、下式
SH
(式中、Rは、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。)で表されるチオール化合物とを反応させることから成る下式
【化3】

(式中、R〜Rは上記と同様を表す。)で表される光学活性β−ヒドロキシスルフィド化合物の製法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる触媒は、下記構造
【化1】

の配位子とM(OSO又はM(OSOで表されるルイス酸とを混合させて得られる。
【0008】
は、アルキル基又はアリール基を表す。このアルキル基は嵩高いこと、具体的には炭素数が3以上であることを要する。このアリール基はメトキシ基やハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基若しくはアルコキシ基、好ましくは水素原子を表す。
Xは−OH又は−SHを、好ましくは−OHを表す。
【0009】
一般式M(OSO又はM(OSOで表されるルイス酸において、金属MはSc(3価)、Y(3価)又はランタノイド元素(57La〜71Lu)(3価)、好ましくはScを表す。
は、炭素数6以上の脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基、又はハロゲン化アルキル基である。ハロゲン化アルキル基としてはパーフルオロアルキル基が好ましい。Rは、好ましくはドデシル基又はトリフルオロメチル基(CF)である。
【0010】
触媒調製時の金属Mと配位子とのモル比は1:1〜1:2付近が好ましく、より好ましくは1:1〜1.0:1.2である。
溶媒としては、水、有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合溶媒が用いられ、好ましくは水が用いられる。水と混合する有機溶媒として、好ましくはジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ジオキサン、炭素数が4以下のアルコールなどが挙げられ、水と混和しない有機溶媒として、好ましくは塩化メチレン、クロロホルム、ベンゼン、エーテルなどが挙げられるが、これらの中からどの溶媒有機溶媒を用いるかは、基質に対する溶解能により適宜選択される。また、水と有機溶媒との混合比(体積)は、一般的には水が10%以上、より好ましくは50%以上である。
有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ベンゼン、エーテル、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ジオキサン、炭素数が4以下のアルコールなどが挙げられる。
触媒の調製温度に制限はないが室温付近が好ましく、調製時間は通常5分間〜3時間程度である。
この配位子とM(OSO又はM(OSOで表されるルイス酸とを溶媒中で混合すると、M3+が配位子に配位し、触媒を形成する。溶媒中の濃度は0.01〜0.1mol/l程度が好ましい。
【0011】
本発明で用いるエポキシドの構造としては、下式(化2)
【化2】

で表される一置換及び二置換のエポキシドが用いられる。
及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基を表し、好ましくはアルキル基、アリール基又はアルキルアリール基を表す。但し、R及びRの少なくとも一方は水素原子ではない。またR及びRは、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基等の置換基を有していてもよい。
このエポキシドは好ましくは二置換のシス体のエポキシド、より好ましくはメソ体(即ち、RとRとが同一である。)のエポキシドである。
【0012】
エポキシドへの求核剤となるチオール化合物は、下式
SH
で表される。
は、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。脂肪族炭化水素基としては、ブチル基、ヘキシル基などのアルキル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等のアリール基や、ベンジル基等のアルキルアリール基が挙げられる。
またRは、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基等の置換基を有していてもよい。
このようなチオール化合物として、例えば、4-tert-ブチルフェニルメルカプタン、4-メトキシチオフェノール、4-クロロチオフェノール、フェニルメルカプタン、ベンジルメルカプタン等が挙げられる。
【0013】
本発明に於いては、上記触媒と基質であるエポキシド及びチオール化合物を溶液中で混合することで、下式に示すように、チオール化合物によるエポキシドの不斉開環反応が進行し、光学活性なβ−ヒドロキシスルフィド化合物が高収率かつ高立体選択的に生成する。
【化4】

(式中、R〜Rは上記と同様を表す。)
【0014】
反応溶媒としては、水、有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合溶媒が用いられ、好ましくは水が用いられる。水と混合する有機溶媒として、好ましくはジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ジオキサン、炭素数が4以下のアルコールなどが挙げられ、水と混和しない有機溶媒として、好ましくは塩化メチレン、クロロホルム、ベンゼン、エーテルなどが挙げられるが、これらの中からどの溶媒有機溶媒を用いるかは、基質に対する溶解能により適宜選択される。また、水と有機溶媒との混合比(体積)は、一般的には水が10%以上、より好ましくは50%以上である。
有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ベンゼン、エーテル、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ジオキサン、炭素数が4以下のアルコールなどが挙げられる。
反応に用いる触媒の量は通常1〜20モル%程度であるが、多くの場合10モル%で良好な結果を与える。
基質の濃度は、0.1〜0.2 mol/Lである。
反応温度は、好ましくは0〜40℃、より好ましくは室温である。

以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0015】
以下の実施例で用いたエポキシドは、既報(Tetrahedron, 1997, 53, 13727)に従って、対応するシスアルケンをメタクロロ過安息香酸で酸化して合成した。1H NMR 及び 13C NMR はJEOL JNM-LA400(400 MHz)を、赤外吸収スペクトルは JASCO FT/IR-610 を、旋光度は JASCO P-1010 を、質量分析には Bruker Daltonics BioTOF II を用いて測定した。光学純度はキラルカラムを用いたHPLC(Shimadzu VP-series)により決定した。
【0016】
製造例1
キラルビピリジン配位子を、既報(Synthesis, 2005, 13, 2176)に従って合成した。まず、2,6-ジブロムピリジンをエーテル中でn-ブチルリチウムで処理した後、ピバロニトリルによりアシル化化合物を得た。このアシル化化合物のカルボニル基をRuCl[(S,S)-Tsdpen](p-cymene)により立体選択的に還元して(S)-体のアルコールを ee > 99.5 % で得た。このアルコールをパラジウム触媒によるホモカップリング反応を行うことにより、下式に示すC2対称の2,2'-ビピリジン体(S,S)(以下「キラルビピリジン配位子」という。)を得た。
【化5】

【0017】
実施例1
スカンジウムトリフラート(Sc(OTf)3)(19.7 mg, 0.04 mmol)及び製造例1で得たキラルビピリジン配位子(15.8 mg, 0.048 mmol)を塩化メチレン(0.8 mL)中、室温で10分攪拌した。この溶液に、シス-スチルベンオキシド(0.4 mmol)の塩化メチレン(0.8 mL)溶液及び4-tert-ブチルフェニルメルカプタン(東京化成工業(株)製)(1.2 mmol)の塩化メチレン(0.4 mL)溶液を順次加え、室温で12時間攪拌した。水(2 mL)を加えて反応を停止させ、生成物を塩化メチレン(3 x 20 mL)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、さらにろ過及び減圧濃縮を行った後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し(n-ヘキサン/酢酸エチル=6/1)、無色液体のスルフィド((1S,2S)-1,2-diphenyl-2-(4-tert-butylphenylthio)ethanol)(126 mg, 87 %)を単離した。生成物のエナンチオ選択性は、キラルカラムを用いてHPLCで決定した。良好な化学収率及び不斉収率でβ−ヒドロキシスルフィド化合物が得られた。以下生成物の分析値を示す。
ee=95%(Daicel OD-H, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, λ=254 nm, Rt major=9.5, Rt minor=12.6).
[α]D24.5+160.0(c=1.05, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=1.25(s, 9H), 3.47(brs, 1H), 4.28(d, J=8.8 Hz, 1H), 4.88(d, J=8.8 Hz, 1H), 6.98-7.08(m, 2H), 7.08-7.11(m, 8H), 7.16-7.24(m, 4H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=31.12(3), 34.40, 64.03, 76.65, 125.86(2), 126.84(2), 127.08, 127.58, 127.81(2), 127.96(2), 128.47(2), 130.56, 132.15(2), 139.38, 140.36, 150.61 ppm.
IR(film): n=3437, 3060, 3028, 2960, 1581, 1493, 1451, 1188, 1027, 742, 697 cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 385.1597, Found 385.1595.
【0018】
実施例2
実施例1と同様の方法により、シス-スチルベンオキシドと4-メトキシチオフェノール(東京化成工業(株)製)を室温で12時間反応させた。クロマトグラフィーにより精製(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1)した後、(1S,2S)-2-(4-methoxyphenylthio)-1,2-diphenylethanol(106 mg, 79 %)を無色液体として単離した。以下生成物の分析値を示す。
ee=95%(Daicel AD-H, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, λ= 254 nm, Rt major=30.4, Rt minor=34.9).
[α]D 25.1 +120.88(c=0.35, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=3.45(brs, 1H), 3.77(s, 3H), 4.18(d, J=9.2 Hz, 1H), 4.90(d, J=9.2 Hz, 1H), 6.72-6.77(m, 2H), 6.91-6.97(m, 2H), 7.07-7.22(m, 10H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=55.30, 65.06, 76.15, 114.48(2), 123.55, 126.98(2), 127.13, 127.73, 128.01(2), 128.03(2), 128.61(2), 135.96(2), 139.22, 140.45, 159.89 ppm.
IR(film): n=3429, 3061, 3029, 2926, 2837, 1592, 1492, 1453, 1286, 1247, 1174, 1031,
828, 699 cm-1.
HRMS(ESI): [M+H]+ Calcd. 359.1076, Found 359.1068.
【0019】
実施例3
実施例1と同様の方法により、シス-スチルベンオキシドとフェニルメルカプタン(東京化成工業(株)製)を室温で12時間反応させた。クロマトグラフィーにより精製(n-ヘキサン/酢酸エチル=6/1)した後、(1S,2S)-1,2-diphenyl-2-(phenylthio)ethanol(102 mg, 84 %)を無色液体として単離した。以下生成物の分析値を示す。
ee=90%(Daicel OD, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, λ= 254 nm, Rt minor=18.5, Rt major=27.3).
[α]D 23.7 +144.6(c=1.03, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=3.28(s, 1H), 4.34(d, J=8.7 Hz, 1H), 4.93(d, J=8.7 Hz, 1H), 6.97-7.06(m, 2H), 7.07-7.32(m, 13H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=63.98, 76.88, 126.89(2), 127.27, 127.45, 127.78, 127.98(2), 128.13(2), 128.55(2), 128.88(2), 132.40(2), 134.13, 139.21, 140.38 ppm.
IR(film): n=3435, 3060, 3029, 2924, 1582, 1492, 1479, 1453, 1439, 1191, 1026, 1037, 740, 698 cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 329.0971, Found 329.0962.
【0020】
実施例4
実施例1と同様の方法により、シス-スチルベンオキシドと4-クロロチオフェノール(東京化成工業(株)製)を室温で12時間反応させた。クロマトグラフィーにより精製(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1)した後、(1S,2S)-2-(4-chlorophenylthio)-1,2-diphenylethanol(108 mg, 76 %)を無色液体として単離した。以下生成物の分析値を示す。
ee=97%(Daicel OD, n-hexane/i-PrOH=40/1, flow rate=1 mL/ min, λ= 254 nm, Rt
major=32.4, Rt minor=37.3).
[α]D 24.5 +172.92(c=1.06, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=3.18(s, 1H), 4.31(d, J=8.4 Hz, 1H), 4.92(d, J=8.4 Hz, 1H), 7.00-7.14(m, 14H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=63.82, 76.84, 126.77(2), 127.39, 127.84, 128.02(2), 128.17(2), 128.54(2), 128.94(2), 132.65, 133.54, 133.71(2), 138.84, 140.40 ppm.
IR(film): n=3425, 3061, 3025, 2910, 1570, 1489, 1476, 1452, 1091, 822, 722, 697 cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 363.0581, Found 363.0596.
【0021】
実施例5
実施例1と同様の方法により、シス-スチルベンオキシドとベンジルメルカプタン(東京化成工業(株)製)を室温で12時間反応させた。クロマトグラフィーにより精製(n-ヘキサン/酢酸エチル=6/1)した後、(1S,2S)-2-benzylthio-1,2-diphenylethanol(87.7 mg, 68 %)を無色液体として単離した。以下生成物の分析値を示す。
ee=96%(Daicel OD-H, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, λ= 254 nm, Rt
major=16.6, Rt minor=33.1).
[α]D 24.0 +181.1(c=1.05, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=2.92(s, 1H), 3.52(2H), 3.82(d, J=8.4 Hz, 1H), 4.76(d, J=8.4 Hz, 1H), 6.98-7.08(m, 15H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=36.02, 58.74, 77.14, 126.58(2), 127.08, 127.24, 127.60, 127.90(2), 128.19(2), 128.42(2), 128.69(2), 128.99(2), 137.55, 139.20, 140.98 ppm.
IR(film): n=3434, 3061, 3027, 2916, 1600, 1482, 1453, 1044, 733, 698 cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 343.1127, Found 343.1130.
【0022】
実施例6
実施例1と同様の方法により、シス-ジ-パラ-トリルオキシランと4-tert-ブチルフェニルメルカプタン(東京化成工業(株)製)を0℃で7時間反応させた。クロマトグラフィーにより精製(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1)した後、(1S,2S)-2-(4-tert-butylphenylthio)-1, 2-di-para-tolylethanol(103 mg, 69 %)を無色液体として単離した。以下生成物の分析値を示す。
ee=94%(Daicel AD-H, n-hexane/i-PrOH=40/1, flow rate=1 mL/ min, λ=254 nm, Rt minor=30.8, Rt major=36.0).
[α]D 24..3 +143.5(c=1.03, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=1.24(s, 9H), 2.21(s, 6H), 3.33(brs, 1H), 4.26(d, J=8.8 Hz, 1H), 4.84(d, J=8.8 Hz, 1H), 6.88-7.21(m, 12H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=21.05, 21.08, 31.18(3), 63.62, 76.40, 125.85(2), 126.80(2), 128.33(2), 128.57(2), 128.74(2), 130.78, 132.10(2), 136.44, 136.65, 137.13, 137.46, 150.53 ppm.
IR(film): n=3450, 3022, 2962, 2867, 1512, 1489, 1119, 1042, 825, 756 cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 413.1910, Found 413.1900.
【0023】
実施例7
実施例1と同様の方法により、シス-ジ-パラ-トリルオキシランと4-クロロフェニルメルカプタン(東京化成工業(株)製)を室温で12時間反応させた。クロマトグラフィーにより精製(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1)した後、(1S,2S)-2-(4-chlorophenylthio)-1, 2-di-para-tolylethanol(74.6 mg, 53 %)を無色液体として単離した。以下生成物の分析値を示す。
ee=93%(Daicel AD-H, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, λ=254 nm, Rt minor=28.2, Rt major=40.5).
[α]D 24..2 +138.3(c=1.02, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=2.42(s, 6H), 3.06(brs, 1H), 4.31(d, J=8.4 Hz, 1H), 4.90(d, J=8.4 Hz, 1H), 6.91-7.24(m, 12H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=21.05, 21.10, 63.32, 76.52, 126.68(2), 128.36(2), 128.72(2), 128.87(2), 132.80, 133.36, 133.60(2), 135.81, 136.98, 137.42 ppm.
IR(film): n=3422, 3022, 2921, 2854, 1511, 1475, 1094, 817, 734 cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 391.0894, Found 391.0904.
【0024】
実施例8
実施例1と同様の方法により、シス-ジ-(4-ブロモフェニル)オキシランと4-tert-ブチルフェニルメルカプタン(東京化成工業(株)製)を室温で18時間反応させた。クロマトグラフィーにより精製(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1)した後、(1S,2S)-1,2-bis(4-bromophenyl)-2-(4-tert-butylphenylthio)ethanol(176 mg, 86%)を無色液体として単離した。以下生成物の分析値を示す。
ee=96%(Daicel AD-H, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, l=254 nm, Rt
minor=32.4, Rt major=43.9).
[α]D 24.4 +91.0(c=0.6, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=3.31(br s, 1H), 4.22(d, J=8.5 Hz, 1H), 4.84(d, J=8.5 Hz, 1H), 6.83-6.88(m, 2H), 6.96-7.02(m, 2H), 7.18-7.33(m, 9H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=63.24, 75.90, 121.39, 121.91, 127.96, 128.56(2), 129.10(2), 130.19(2), 131.24(2), 131.37(2), 132.81(2), 133.12, 137.90, 139.10 ppm.
IR(film): n=3445, 3059, 2921, 1589, 1486, 1439, 1403, 1072, 1011, 832, 741 cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 484.9181, Found 484.9165.
【0025】
実施例9
実施例1と同様の方法により、シス-ジメチルオキシラン(和光純薬工業(株)製)と4-tert-ブチルフェニルメルカプタン(東京化成工業(株)製)を室温で24時間反応させた。クロマトグラフィーにより精製(n-ヘキサン/酢酸エチル=6/1)した後、(2S, 3S)-3-(p-tolylthio)butan-2-ol(39.5 mg, 41%)を無色液体として単離した。以下生成物の分析値を示す。
ee=50%(Daicel AD-H, n-hexane/i-PrOH=100/1, flow rate=1 mL/ min, l=254 nm, Rtmajor=17.6, Rt minor=20.9).
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=1.22(d, J=8.0 Hz, 3H), 1.26(d, J=8.0 Hz, 3H), 1.32(s, 9H), 2.99(m, 1H), 3.63(m, 1H), 7.31-7.40(m, 4H)ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=17.76, 19.45, 31.23(3), 52.73, 69.83, 126.00(2), 129.26, 133.38(2), 151.00 ppm.
【0026】
実施例1〜9の結果を下表にまとめる。
【表1】

【0027】
実施例10
アルゴン雰囲気下、スカンジウムドデシルサルフェート(Sc(DS)3、既知法により調製)(25.2 mg, 0.030 mmol) 及び製造例1で得たキラルビピリジン配位子(11.8 mg, 0.032 mmol) を脱イオン水(300μL, エポキシドの濃度は1 M)に加えた。 室温で1時間攪拌した後に脱イオン水(エポキシド濃度で0.1 M になるように)、シススチルベンオキシド(既知の方法により調製)(0.3 mmol) とフェニルメルカプタン(東京化成工業(株)製)(0.9 mmol) を順次加えた. 室温で23-27 時間、激しく攪拌した後に反応液を塩化メチレン(20 mL)で希釈した。相分離後、水層を塩化メチレン(3 x 20 mL)で抽出した。有機層を合わせて硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶媒n-ヘキサン/ジエチルエーテル)で精製した。その結果、(1S,2S)-1,2-diphenyl-2-(phenylthio)ethanol(67.1 mg,73 %) が無色液体として得られた。以下生成物の分析値を示す。
ee=89%(Daicel OD, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, l=254 nm, Rt minor=18.5, Rt major=27.3).
[a]D23.7 +145.2(c=1.09, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=3.28(s, 1H), 4.34(d, J=8.7 Hz, 1H), 4.93(d, J=8.7 Hz, 1H), 6.97-7.06(m, 2H), 7.07-7.32(m, 13H) ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=63.98, 76.88, 126.89(2), 127.27, 127.45, 127.78,127.98(2), 128.13(2), 128.55(2), 128.88(2), 132.40(2), 134.13, 139.21, 140.38 ppm.
IR(film): n=3435, 3060, 3029, 2924, 1582, 1492, 1479, 1453, 1439, 1191, 1026, 1037, 740, 698 cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 329.0971, Found 329.0962.
【0028】
実施例11
実施例10と同様の方法により、シス-ジ-(4-ブロモフェニル)オキシラン(既知の方法により調製)とフェニルメルカプタンを室温で24時間反応させた(エポキシド濃度は0.1 M). クロマトグラフィー精製により(n-hexane/Et2O=4/1)、(1S,2S)-1,2-bis(4-bromophenyl)-2-(phenylthio)ethanol(105.8 mg,76 %) が無色液体として得られた。以下生成物の分析値を示す。
ee=85%(Daicel AD-H, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, l=254 nm, Rt minor=32.4, Rt major=43.9).
同様に、 シス-ジ-(4-ブロモフェニル)オキシランとフェニルメルカプタンを室温で23時間反応させた(エポキシド濃度は1 M). クロマトグラフィー精製により(n-hexane/Et2O=4/1)、(1S,2S)-1,2-bis(4-bromophenyl)-2-(phenylthio)ethanol(60.7 mg,44 %) が無色液体として得られた。。以下生成物の分析値を示す。
ee=92%(Daicel OD, n-hexane/i-PrOH=9/1, flow rate=1 mL/ min, l=254 nm, Rt minor=14.0, Rt major=32.3).
[a]D 22.6 +91.0(c=0.6, CHCl3, ee=92%)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=3.31(br s, 1H), 4.22(d, J=8.5 Hz, 1H), 4.84(d, J=8.5 Hz, 1H), 6.83-6.88(m, 2H), 6.96-7.02(m, 2H), 7.18-7.33(m, 9H) ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=63.24, 75.90, 121.39, 121.91, 127.96, 128.56(2),129.10(2), 130.19(2), 131.24(2), 131.37(2), 132.81(2), 133.12, 137.90, 139.10 ppm.
IR(film):n=3445, 3059, 2921, 1589, 1486, 1439, 1403, 1072, 1011, 832, 741cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 484.9181, Found 484.9165.
【0029】
実施例12
実施例10と同様の方法により、シス-ジ-(4-ブロモフェニル)オキシランと4-tert-ブチルベンゼンチオール(東京化成工業(株)製)を室温で27時間反応させた(エポキシド濃度は0.1 M)。クロマトグラフィー精製により(n-hexane/Et2O=4/1)、(1S,2S)-1,2-bis(4-bromophenyl)-2-(4-tert-butylphenylthio)ethanol(107.0 mg,69 %) が淡黄色液体として得られた。以下生成物の分析値を示す。
ee=92%(Daicel OD, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, l=254 nm, Rt major=14.3, Rt minor=18.0).
[a]D 22.8 +80.8(c=1.05, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=1.27(s, 9H), 3.40(br s, 1H), 4.17(d, J=8.7 Hz, 1H), 4.82(d, J=8.7 Hz, 1H), 6.83-6.88(m, 2H), 6.96-7.01(m, 2H), 7.16-7.32(m, 8H) ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=31.20(3), 34.59, 63.50, 75.78, 121.31, 121.80, 126.17(2), 128.58(2), 129.52, 130.19(2), 131.19(2), 131.33(2), 132.73(2), 138.14, 139.15, 151.46 ppm.
IR(film):n=3446, 2965, 2855, 2820, 1591, 1487, 1402, 1071, 1011, 830, 736cm-1.
HRMS(ESI): [M+Na]+ Calcd. 540.9807, Found 540.9825.
【0030】
実施例13
実施例10と同様の方法により、シススチルベンオキシドと4-メトキシチオフェノール(東京化成工業(株)製)を室温で26時間反応させた(エポキシド濃度は0.1 M). クロマトグラフィー精製により(n-hexane/Et2O=4/1)、(1S,2S)-2-(4-methoxyphenylthio)-1,2-diphenylethanol(66.3 mg,66 %) が無色液体として得られた。以下生成物の分析値を示す。
ee=87%(Daicel AD-H, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, l=254 nm, Rt minor=30.4, Rt minor=34.9).
[a]D 25.1 +120.88(c=0.35, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3):d=3.45(br s, 1H), 3.77(s, 3H), 4.18(d, J=9.2 Hz, 1H), 4.90(d, J=9.2 Hz, 1H), 6.72-6.77(m, 2H), 6.91-6.97(m, 2H), 7.07-7.22(m, 10H) ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=55.30, 65.06, 76.15, 114.48(2), 123.55, 126.98(2), 127.13, 127.73, 128.01(2), 128.03(2), 128.61(2), 135.96(2), 139.22, 140.45, 159.89 ppm.
IR(film): n=3429, 3061, 3029, 2926, 2837, 1592, 1492, 1453, 1286, 1247, 1174, 1031, 828, 699 cm-1.
HRMS(ESI): [M+H]+ Calcd. 359.1076, Found 359.1068.
【0031】
実施例14
実施例10と同様の方法により、シス-ジ-(4-ブロモフェニル)オキシラン1b と4-メトキシチオフェノールを室温で26時間反応させた(エポキシド濃度は0.1 M). クロマトグラフィー精製により(n-hexane/Et2O=4/1)、(1S,2S)-1,2-bis(4-bromophenyl)-2-(4-methoxyphenylthio)ethanol(104.4 mg,70 %) が淡黄色液体として得られた。以下生成物の分析値を示す。
ee=93%(Daicel AD-H, n-hexane/i-PrOH=95/5, flow rate=1 mL/ min, l=254 nm, Rt minor=44.2, Rt major=50.1).
[a]D 25.0 +28.3(c=0.31, CHCl3)
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): d=3.46(br s, 1H), 3.78(s, 3H), 4.05(d, J=8.7 Hz, 1H), 4.81(d, J=8.7 Hz, 1H), 6.74-6.82(m, 4H), 6.97-7.03(m, 2H), 7.15-7.21(m, 2H), 7.23-7.33(m, 4H) ppm.
13C-NMR(100 MHz, CDCl3): d=55.34, 64.22, 75.20, 114.68(2), 121.26, 121.90, 122.52, 128.63(2), 130.22(2), 131.26(4), 136.23(2), 137.91, 139.18, 160.19 ppm.
IR(film): n=3465, 2926, 2836, 1591, 1492, 1462, 1403, 1286, 1248, 1173, 1071, 1031, 1011, 829, 740 cm-1.
HRMS(ESI): [M+H]+ Calcd. 492.9467, Found 492.9481.
【0032】
実施例10〜14の結果を下表にまとめる。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中で下式(化1)
【化1】

(式中、Rは、炭素数が3以上のアルキル基又はアリール基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基若しくはアルコキシ基を表し、Xは、−OH又は−SHを表す。)で表される配位子又はその対称体とM(OSO又はM(OSO(式中、MはSc、Y又はランタノイド元素を表し、Rは炭素数6以上の脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基、又はハロゲン化アルキル基を表す。)で表されるルイス酸とを混合させて得られる触媒の存在下で、下式(式2)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基を表し、但し、R及びRの少なくとも一方は水素原子ではない。)で表されるエポキシドと、下式
SH
(式中、Rは、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。)で表されるチオール化合物とを反応させることから成る下式
【化3】

(式中、R〜Rは上記と同様を表す。)で表される光学活性β−ヒドロキシスルフィド化合物の製法。
【請求項2】
前記Mがスカンジウムである請求項1に記載の製法。
【請求項3】
前記Rが、ドデシル基又はトリフルオロメチル基である請求項1又は2に記載の製法。
【請求項4】
前記エポキシドがメソ体(即ち、RとRとが同一である。)である請求項1〜3のいずれか一項に記載の製法。

【公開番号】特開2008−280284(P2008−280284A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125408(P2007−125408)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月27日 日本化学会主催の「第87春季年会」に文書をもって発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】