説明

光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート

【課題】 光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの光学分割法、及び高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製法を提供する。
【解決手段】 光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、イソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンとを反応する方法、又はアミロース又はセルロース誘導体を用いてトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのラセミ体を光学分割する方法で得られる。光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの2種の鏡像異性体を混合して得られる高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学分割剤、高分子触媒或いは非線形光学材料などの非線形材料などの素材として、あるいはエポキシ基との反応性化合物や反応性高分子の架橋剤として有用な光学活性エポキシ化合物である光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートおよび製造法、更にここで製造された光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの2種の鏡像異性体を混合して得られる電気、電子材料用途に用いられる高分子原料、異種化合物又は反応性高分子の架橋剤として有用な高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学活性なエポキシ化合物を得るためにはオレフィンの不斉エポキシ化による方法がある。しかしながらこの方法は特殊で高価な触媒が必要であったり、多官能のエポキシ化合物を誘導する際には、高い光学純度のエポキシ化合物を得られる方法ではなかった。一方、ラセミ体を酵素などにより動力学的に分割する不斉分割法等も知られている。この方法は、酵素選択及びその条件選択の煩雑性があり、速度論的な分割方法であるために得られる化合物の光学純度に限界があり、上記の不斉エポキシ化と同様に多官能のエポキシ化合物を誘導する際には、高い光学純度のエポキシ化合物を得られる方法ではなかった。この様な理由から(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートや(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの様な多官能のエポキシ化合物を高い光学純度で製造する方法はこれまでに知られていなかった。一方、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを光学分割する方法もまたこれまでに知られていない。
【0003】
従来、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは公知であるが、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートや(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートについては分割方法或いは合成法が知られていなかったために光学活性体であるこの物自身について実施或いは記載されている例はない。
【0004】
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートには、不斉炭素が3つ存在する。その不斉炭素が3つとも揃った、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートと(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのラセミ混合物は一般にβ型と呼ばれ、150℃程度の高融点型結晶を与えることが知られている。これはこの2種の鏡像異性体同士が一対で強固な6個の水素結合を持つ分子格子となり他の分子格子とも高度な水素結合を有する結晶格子を形成しているためである。
【0005】
一方3つの不斉炭素のうち1つだけ光学異方性の異なる(2R,2R,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、(2S,2S,2R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの混合物は、一般にα型と呼ばれ上記のような結晶構造ではないために100℃程度の低い融点しか与えない。
【0006】
高融点型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、融点が高いだけでなく各種溶媒に対する溶解性が、α型等と比較してきわめて低い為に異種化合物や反応性高分子の架橋剤として一液型の反応性混合物として用いた際、強制的に加熱硬化するまでの保存時の反応が進行しないためにこれまでに電気、電子材料用途などで広く用いられてきた。この高融点型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造する方法としては、非特許文献1、非特許文献2等に記載されているが分解物や原料として使用するエピクロルヒドリンに由来する塩素性不純物を含有し易いなどの欠点があった。また以上の方法では不純物のα型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを包含しやすく、高融点型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの純度を上げるためには収率を犠牲にしなければならず、元々通常の方法で得られるトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート中に存在するα型と高融点型のβ型の比率は3:1であることから工業的にきわめて非効率な方法であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナルオブ サーマルアナリシス(Journal of Thermal Analysis,Vol.36(1990)p1819)
【非特許文献2】高分子論文集47巻、No.3(1990)第169頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学分割剤や、非線形光学材料などの非線形材料などの高分子原料として、あるいはエポキシ基との反応性化合物や反応性高分子の架橋剤として有用な光学活性エポキシ化合物である光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートとして(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び高い光学純度で効率的に製造する方法、さらに高融点型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを純度良く効率的に製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の(1)は、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、
(2)は、(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、
(3)は、イソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンとを反応する光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
(4)は、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、トリ置換ホスフィン及び第4級ホスフォニウム塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を触媒として用いてイソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンとを反応させ、イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルを生成させ、得られたイソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルにアルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する(3)に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
(5)は、イソシアヌール酸1モルと光学活性エピハロヒドリン3〜60モルとを反応させる(3)又は(4)に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
(6)は、イソシアヌール酸1モルと光学活性エピハロヒドリンとを反応させる際に、反応混合液内の水分量を1%未満とする(3)乃至(5)のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
(7)は、イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルを形成後、過剰量使用した光学活性エピハロヒドリンを留去法で回収し、その後溶媒を加えて希釈した後に、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する(3)乃至(6)のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
(8)は、イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルを形成後、過剰量使用した光学活性エピハロヒドリンを留去法で回収した後に、イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステル1重量部に対してラセミ体のエピハロヒドリン又は水に対する溶解度が5%以下の有機溶媒1重量部以上の添加によって希釈し、その後アルカリ金属水酸化物を脱水還流下に添加する(3)乃至(7)のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
(9)は、光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートである(3)乃至(8)のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
(10)は、光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが、(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートである(3)乃至(8)のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
(11)は、アミロース又はセルロース誘導体を用いてトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのラセミ体を光学分割する事を特徴とした光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、並びに、
(12)は、(3)乃至(11)に記載の方法によって製造された光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートである(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを1:1のモル比で混合する事を特徴とした高純度の高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
従来知られていなかった(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートや(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの性質に関して本発明によって単離し、性質を確認する事によって光学分割剤用硬化剤として優れた化合物であることを見出した。
【0011】
また、これまでにトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを光学分割する方法は知られていなかったが、アミロース又はセルロース誘導体を用いて光学分割することにより、簡便で効率的に(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートや(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得ることが可能となった。この場合カラムにアミロース又はセルロース誘導体を、好ましくはシリカゲル等の不活性な担体に担持させ充填した後、適切な溶媒によって流出させると、光学分割がより容易かつ精密になり、このカラムは再使用できる利点がある。
【0012】
また、イソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンから効率的に高い光学純度で(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造する事が可能となった。これは系内の水分量などをコントロールすることにより、さらに高い光学純度化する事が可能であり、また過剰量使用した光学活性エピハロヒドリンもまた、光学純度を保ったまま回収することが可能となった。
【0013】
さらにこれらの方法で得られた(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを1:1で混合することによって、従来法で製造した場合に混入する不純物のα型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートがほとんど混入することなく、高い収率でβ型である高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得ることが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明において光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートである。
【0015】
(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、下記構造式(1)
【0016】
【化1】








【0017】
を有する。
また、(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、下記構造式(2)
【0018】
【化2】








【0019】
を有する。
【0020】
本願発明において光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、原料としてイソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンを用いる方法で製造する事ができる。例えば、イソシアヌール酸と3倍量のアルカリ金属水酸化物を反応することによって得られるイソシアヌール酸3アルカリ金属塩と光学活性エピハロヒドリンを溶媒中で加熱し、脱塩化アルカリ金属を起こす方法などがある。しかし、好ましくは以下の方法によって製造することができる。
【0021】
即ち、イソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンを反応させ、ここで得られたイソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルに、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する方法である。
【0022】
上記イソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンの反応では、光学活性エピハロヒドリンをイソシアヌール酸1モルに対し3〜60モル、好ましくは6〜60モル、さらに好ましくは10〜30モルの割合で添加する。そして、触媒として第3級アミン、第4級アンモニウム塩、トリ置換ホスフィン及び第4級ホスフォニウム塩よりなる群の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を使用し、その使用量としてはイソシアヌール酸1モルに対して0.001〜0.1モル、特に好ましくは0.01〜0.05モルである。
【0023】
イソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンとの反応では、反応混合液全体の水分量を1%未満、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは100ppm以下で行い、反応温度は、40〜115℃、好ましくは60〜100℃で行われる。
【0024】
中間物であるイソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステル1モルに、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを好ましくは3.0〜6.0モル、より好ましくは3.0〜4.0モルの割合で添加することによって、光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを効率よく製造する事ができ、副反応も抑える事ができる。
【0025】
上記反応は光学活性エピハロヒドリン以外に他の有機溶媒を併用しても差し支えないが、光学活性エピクロルヒドリンを単独で反応試剤兼溶媒として使用することで目的物を分解する副反応が抑えられ、反応速度を高めるので好ましい。
【0026】
通常のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを工業的に製造する際に使用するエピクロルヒドリンは、上記のように回収再利用するために水が混入する。また、反応混合液に対して水を添加することでイソシアヌール酸に対しエピハロヒドリンを付加する反応が促進されることから、一般に反応混合液全体に対して水を1〜5%程度添加して反応が行われる。しかし、本願のイソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンとの反応では、光学活性エピハロヒドリンのラセミ化反応を抑える為に反応混合液全体の水分量は1%未満に抑える事が好ましい。
【0027】
光学活性エピハロヒドリンは、例えばR体又はS体のエピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンが挙げられる。イソシアヌール酸と反応させる際に高い温度で反応させるとラセミ化することがあるので、反応を穏和に進行させるために触媒として第3級アミン、第4級アンモニウム塩、トリ置換ホスフィン及び第4級ホスフォニウム塩よりなる群の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を加える事が好ましい。例えば第3級アミンとしては、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N’−ジメチルピペラジン等が挙げられる。また、トリ置換ホスフィンとしては、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン等が挙げられる。また、第4級アンモニウム塩としてはテトラメチルアンモニウムハライド、テトラエチルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等が挙げられ、そのハライドとしてはクロライド、ブロマイド、アイオダイド等が挙げられる。さらに、第4級ホスフォニウム塩としてはテトラメチルホスフォニウムハライド、テトラブチルホスフォニウムハライド、メチルトリフェニルホスフォニウムハライド、エチルトリフェニルホスフォニウムハライド等が挙げられ、そのハライドとしてはクロライド、ブロマイド、アイオダイド等が挙げられる。ここで挙げた化合物のうち、なかでも第4級アンモニウム塩、第4級ホスフォニウム塩は、より穏和な条件下で副反応が少なく効率的に反応が進行するので好ましい。さらに好ましくは第4級アンモニウム塩であり、中でもテトラエチルアンモニウムハライドが最も好ましく、そのハライドとしてはクロライド、ブロマイドを用いることによって副反応がより抑えられ、反応後の触媒の除去も水洗によって容易に取り除けることから好ましい。
【0028】
またイソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルから脱ハロゲン化水素を起こさせる為に添加するアルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートとしては、例えば、金属水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが挙げられ、アルカリ金属アルコラートとしてはナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラートが挙げられる。
【0029】
イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステル形成後、そのままアルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加することによって、過剰量使用した光学活性エピハロヒドリンがラセミ化してしまうために過剰量使用した光学活性エピハロヒドリンは、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する前に留去法によって回収し、その後溶媒を加えて希釈した後、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する事が出来る。好ましくは、過剰量使用した光学活性エピハロヒドリンを留去法で回収後、それに変わって工業的に入手が容易で安価なラセミ体のエピハロヒドリン又は水に対する溶解度が5%以下の有機溶媒を、イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステル1重量部に対して1重量部以上加えて希釈後、アルカリ金属水酸化物を脱水還流下に添加することが出来る。ここで用いる溶媒としては、ラセミ体のエピハロヒドリンにすることによって、反応生成物の分解を低減できることから特に好ましい。
【0030】
アルカリ金属水酸化物で処理する反応は、20〜60重量%、好ましくは40〜55重量%のアルカリ金属水酸化物水溶液を滴下しながら還流脱水下で行うことが好ましく、反応温度としてはなるべく低い温度好ましくは10〜80℃さらに好ましくは20〜70℃で、ラセミ体のエピハロヒドリン又は水に対する溶解度が5%以下の有機溶媒の還流量を多くできるように減圧度を調節する。40〜55重量%のアルカリ金属水酸化物水溶液を滴下する場合、滴下量に対して5倍以上の還流量にすることによって目的物のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを分解する副反応が抑制されるので好ましい。
【0031】
以上の方法により高い光学純度かつ効率的に(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造することができる。さらに、例えばメタノール等の溶媒を用いて再結晶によって精製する事によって光学純度99%ee以上の(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造する事も可能である。
【0032】
一方、発明者らはアミロース又はセルロース誘導体を用いることによってトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを光学分割し、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを高い光学純度で効率的に製造する方法もまた発明した。
【0033】
本発明において用いられるアミロース又はセルロース誘導体としては、アミロースやセルロースのトリエステル誘導体やトリカルバメート誘導体が用いられる。中でもセルローストリフェニルカルバメート、セルロース トリス−p−トリルカルバメート、セルロース トリベンゾエート、セルロース トリアセテート、セルロース トリシンナメート、セルローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、セルロース トリス(4−クロロフェニルカルバメート)、セルロース トリス(4−メチルベンゾエート)、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、アミロース トリス(1−フェニルエチルカルバメート)が挙げられ、特にセルロース トリス−p−トリルカルバメート、セルローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、アミロース トリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、アミロース トリス(1−フェニルエチルカルバメート)等の芳香族系のカルバメートが好ましく、この中でもアミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、アミロース トリス(1−フェニルエチルカルバメート)が最も効率的に分割可能である。
【0034】
本発明において、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを、アミロース又はセルロース誘導体を用いて光学分割する方法としては、例えばシリカゲルに担持させ、これをカラムに充填し、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートをカラムクロマト的に分離する方法など公知の各種の方法が用いられる。これら光学分割剤に用いられるアミロース又はセルロース誘導体やカラムなどは繰り返し使用でき、適正な溶離液とすることで光学純度99%ee以上かつ光学収率100%近くで得られるので効率的な製造法である。
【0035】
以上の方法で高い光学純度かつ効率的に(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造でき、さらに本発明者らが検討した結果、ここで得られた高純度の鏡像異性体を1:1のモル比で混合することにより高純度で高収率に高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造できることも見出した。これは、例えば両者の融点以上の温度、例えば120℃で溶融混合することによって得られる。
【0036】
また別法として、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートに対して高い溶解度を持ちかつ高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートに対して溶解度の低い溶媒に、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを溶解し、それぞれの溶液を混合することにより不純物であるα型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートをほとんど含むことなく高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが得られる。
【0037】
溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒、アセトニトリル、アジポニトリル等のニトリル系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、さらに酢酸エチルなどのエステル系溶媒、さらにベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒など広く使用できる。中でも(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートに対して室温での溶解度が10%以上の溶媒が好ましく、溶媒が25℃付近では液状であり、なるべく沸点の低い、例えば沸点が30℃から150℃程度の範囲であることによって不純物として溶媒が残留しにくいことから好ましい。
【0038】
本願発明により得られた(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、化合物自身をそのまま使用することができる。また硬化剤として酸無水物、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリオール、ポリフェノール、ポリメルカプタン等のエポキシとの反応性を有する多価活性水素化合物等を用いて硬化して使用することもできる。この際、例えば三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素錯体等のルイス酸、p−トルエンスルホン酸等の強酸や、イミダゾール等の通常硬化促進剤として使用される化合物を併用しても良く、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素錯体等のルイス酸、イミダゾール、ジシアンジアミド等を硬化剤として使用し、単独で硬化して使用することもできる。このようにして得られた(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート或いはその硬化物は、光学分割剤固定相、高分子触媒の素材或いは非線形光学材料などの非線形材料として有用である。
【0039】
一方高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートもまた上記の方法で優れた耐熱性を有する硬化物が得られる他、エポキシとの反応性を有する多価活性水素化合物、例えばカルボン酸等の反応性置換基を有する高分子の硬化剤として電気、電子材料用途等に使用することができる。前述のように高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、溶媒に対する溶解度が低いため反応性置換基を有する高分子と共に一液型の反応性混合液体として長時間保存できる特徴を有する。
【実施例】
【0040】
実施例1
〔トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの光学分割〕
アミロース誘導体として、アミローストリス(1−フェニルエチルカルバメート)を用いた。シリル化処理したシリカゲルにアミロース トリス(1−フェニルエチルカルバメート)を担持した光学分割用カラム(市販のカラム[CHIRALPAKAS](ダイセル化学工業(株)製)、0.46cm径×25cm長)を用いた。)を用い、溶離液としてn−ヘキサン/エタノール(70/30 v/v)、カラム温度40℃、流量1.0ml/min.、UV検出器210nmで、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート(ラセミ体)のアセトニトリル10wt%溶液を溶離液で重量比1000倍希釈した100ppm溶液を10μl注入しクロマト分離させたところ、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが8.79分、(2R,2R,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが9.37分、(2R,2S,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが10.10分、(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが10.69分に分割できた。
【0041】
なお本願発明におけるトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの光学純度及び不純物として含有するα型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、本分割条件を用いることによって決定した。
【0042】
実施例2
〔トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの光学分割〕
アミロース誘導体として、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)を用いた。シリル化処理したシリカゲルにアミロース トリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)を担持した光学分割用カラム(市販のカラム[CHIRALPAKAD](ダイセル化学工業(株)製)、0.46cm径×25cm長)を用いた。)を用い、溶離液としてn−ヘキサン/エタノール(40/60 v/v)、カラム温度24℃、流量1.0ml/min.、UV検出器210nmで、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート(ラセミ体)のアセトニトリル10wt%溶液を溶離液で重量比1000倍希釈した100ppm溶液を10μl注入しクロマト分離させたところ、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが11.00分、(2R,2R,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが12.87分、(2R,2S,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが14.20分、(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが16.80分に分割できた。
【0043】
実施例3
〔トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの光学分割〕
アミロース誘導体として、アミローストリス(1−フェニルエチルカルバメート)を用いた。シリル化処理したシリカゲルにアミロース トリス(1−フェニルエチルカルバメート)を担持した光学分割用カラム(市販のカラム[CHIRALPAKAS](ダイセル化学工業(株)製))、1.0cm径×5cm長と1.0cm径×25cm長のカラムを直列に直結したHPLCを用い、溶離液としてn−ヘキサン/エタノール(70/30v/v)、カラム温度40℃、流量1.0ml/min.、UV検出器210nmで、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート(ラセミ体)のアセトニトリル2wt%溶液を10μlを繰り返し注入して、18.9分に流出する(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートと、24.5分に流出する(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートとを分取した。
【0044】
流出した溶液を減圧濃縮した結果10.1mgの(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート(99%ee以上)と、9.2mgの(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート(99%ee以上)がそれぞれ無色粘調物として得られた。
【0045】
実施例4
〔(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの合成〕
攪拌装置、温度計、連続滴下装置、減圧下に水分量2%のR−エピクロルヒドリンと水の共沸蒸気を濃縮し、R−エピクロルヒドリンだけを反応系に戻す装置のついた容量3リットルのフラスコに、イソシアヌール酸129g(1モル)、水分量2%のR−エピクロルヒドリン1890g(20モル)、テトラエチルアンモニウムブロマイド0.7gを加えて90℃で10時間攪拌した。次に反応系内を50mmHgの減圧にして反応容器内温度を40〜50℃に保ちながら50wt%濃度の苛性ソーダ水溶液320g(4モル)を約3時間かけて全量を滴下しながら反応した。この間、滴下した水および生成した水は、R−エピクロルヒドリンと共沸することによって系外に除去した。
【0046】
反応終了後、反応容器内を室温まで冷却した後、10%リン酸2水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄する事により、過剰量使用した苛性ソーダを中和し、次いで水洗によって、食塩を除去し、減圧下(10mmHg)120℃でR−エピクロルヒドリンを留去して205gの(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。そのエポキシ当量は104g/eqであり[α]D20=+15.8゜(c=0.5、H2O)、無色粘調液体であった。また、留去回収したR−エピクロルヒドリンはほぼラセミ化していることが確認できた(5%ee以下)。
【0047】
実施例5
〔(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの合成〕
攪拌装置、温度計、連続滴下装置、減圧下に水分量が100ppmのR−エピクロルヒドリンと水の共沸蒸気を濃縮し、R−エピクロルヒドリンだけを反応系に戻す装置のついた容量3リットルのフラスコに、イソシアヌール酸129g(1モル)、R−エピクロルヒドリン1850g(20モル)、テトラエチルアンモニウムブロマイド0.7gを加えて90℃で10時間攪拌した。次に反応系内を50mmHgの減圧にして反応容器内温度を40〜50℃に保ちながら50wt%濃度の苛性ソーダ水溶液280g(3.5モル)を約3時間かけて全量を滴下しながら反応した。この間、滴下した水および生成した水は、R−エピクロルヒドリンと共沸することによって系外に除去した。
【0048】
反応終了後、反応容器内を室温まで冷却した後、10%リン酸2水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄する事により、過剰量使用した苛性ソーダを中和し、次いで水洗によって、食塩を除去し、減圧下(10mmHg)120℃でR−エピクロルヒドリンを留去して205gの(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。そのエポキシ当量は103g/eqであり[α]D20=+20.1゜(c=0.5、H2O)、無色粘調液体であった。また、留去回収したR−エピクロルヒドリンはほぼラセミ化していることが確認できた(5%ee以下)。
【0049】
ここで得られた(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを攪拌装置、温度計、還流用のコンデンサーのついた3リットルのフラスコに2リットルのメタノールと共に入れ、60℃で攪拌しながら溶解し、その後室温で自然放冷して再結晶を行った。結晶を濾過し、減圧下(10mmHg)、100℃で結晶に付着するメタノールを除去して152gの(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。そのエポキシ当量は、99g/eqであり、[α]D20=+20.73゜(c=0.5、H2O)、融点は100.7〜104.9℃、99%ee以上で得られ白色針状結晶であった。
【0050】
実施例6
〔(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの合成〕
攪拌装置、温度計、連続滴下装置、減圧下に水分量が100ppmのS−エピクロルヒドリンと水の共沸蒸気を濃縮し、S−エピクロルヒドリンだけを反応系に戻す装置のついた容量3リットルのフラスコに、イソシアヌール酸129g(1モル)、S−エピクロルヒドリン1850g(20モル)、テトラエチルアンモニウムブロマイド0.7gを加えて90℃で10時間攪拌した。ここで過剰量使用したS−エピクロルヒドリンを留去64℃/13mmHgで回収した。ここで回収したS−エピクロルヒドリンは、1295g、ee=98.5%であった。
【0051】
次に反応液に溶媒としてラセミ体のエピクロルヒドリン1300gを加え、反応系内を50mmHgの減圧にして反応容器内温度を40〜50℃に保ちながら50wt%濃度の苛性ソーダ水溶液280g(3.5モル)を約3時間かけて全量を滴下しながら反応した。この間、滴下した水および生成した水は、ラセミ体のエピクロルヒドリンと共沸することによって系外に除去した。
【0052】
反応終了後、反応容器内を室温まで冷却した後、10%リン酸2水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄する事により、過剰量使用した苛性ソーダを中和し、次いで水洗によって、食塩を除去し、減圧下(10mmHg)120℃でS−エピクロルヒドリンを留去して198gの(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。そのエポキシ当量は103g/eqであり[α]D20=−20.0゜(c=0.5、H2O)、白色固体であった。
【0053】
ここで得られた(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを攪拌装置、温度計、還流用のコンデンサーのついた3リットルのフラスコに2リットルのメタノールと共に入れ、60℃で攪拌しながら溶解し、その後室温で自然放冷して再結晶を行った。結晶を濾過し、減圧下(10mmHg)、100℃で結晶に付着するメタノールを除去して145gの(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。そのエポキシ当量は、99g/eqであり[α]D20=−20.82゜(c=0.5、H2O)、融点は100.7〜104.9℃、99%ee以上で得られ白色針状結晶であった。
【0054】
実施例7
〔高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの合成〕
実施例3で得られた(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート5mgをアセトニトリル5mgに溶解した溶液と、(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート5mgをアセトニトリル5mgに溶解した溶液を混合し、25℃で一日以上放置した。そこで析出した結晶を濾過した後、減圧下で結晶に付着するアセトニトリルを留去し、9.7mg(収率97%)の高融点トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。不純物として含有するα型は0.1%以下であり、融点は155.2〜157.1℃、無色板状結晶であった。
【0055】
実施例8
〔高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの合成〕
実施例4で得られた(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート5gを150℃に加熱溶融したフラスコ中へ、実施例5で得られた(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート5gを150℃に加熱溶融して投入混合し、25℃で一日以上放置し、10g(収率100%)の高融点トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。不純物として含有するα型は0.1%以下であり、融点は149.2〜155.1℃、白色結晶であった。
【0056】
実施例9
攪拌装置の付いた50mLのガラス製容器に、実施例5で得られた(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを1g、無水フタル酸(市販の特級試薬)1.35g、ベンジルトリフェニルホスフォニウムブロミド(市販の試薬)0.02gおよびテトラヒドロフラン10gを入れ、80℃で若干の粘度上昇を確認するまで攪拌混合し、この混合液中にシリル化処理したシリカゲルを投入し、エバポレーターでテトラヒドロフランを留去した。続いてエバポレーター中で段階的に昇温し最終的に150℃で1時間程度処理し、オーブン中で180℃1時間焼き付けを行った。この表面処理シリカゲルを1.0cm径×25cm長のステンレスカラムに充填し、HPLCを用い、溶離液としてn−ヘキサン/エタノールを使用し、カラム温度40℃、流量1.0ml/min.で1,1’−ビ−2−ナフトールの光学分割を行った。その結果R体が11.5min.S体が12.5min.で分割された。
【0057】
比較例1
〔高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの合成〕
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート[市販の高純度トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、商品名TEPIC−S、エポキシ当量は100g/eq、日産化学工業(株)製]100gを攪拌装置、温度計、還流用のコンデンサーのついた2リットルのフラスコに1.5リットルのメタノールと共に入れ、60℃で2時間攪拌した後、不溶解分を濾別した。ここで得られた結晶をメチルエチルケトンで充分洗浄した。濾過した結晶は、減圧下(10mmHg)、100℃で結晶に付着するメチルエチルケトンを除去して27.3g(収率27.3%)の高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。不純物として含有するα体は23.5%であり、エポキシ当量は、99g/eqであり、融点は140.2〜150.3℃で得られ、白色結晶であった。
【0058】
比較例2
〔高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの合成〕
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート[市販の高純度トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、商品名TEPIC−S、エポキシ当量は100g/eq、日産化学工業(株)製]100gを攪拌装置、温度計、還流用のコンデンサーのついた2リットルのフラスコに1.5リットルのメタノールと共に入れ、60℃で2時間攪拌した後、不溶解分を濾別した。ここで得られた結晶をメチルエチルケトンで充分洗浄し、その後メチルエチルケトンで1回再結晶を行った。最終的に濾過した結晶は、減圧下(10mmHg)、100℃で結晶に付着するメチルエチルケトンを除去して15.2g(収率15.2%)の高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。不純物として含有するα体は5.7%であり、エポキシ当量は99g/eqであり、融点は145.3〜151.1℃で得られ、白色結晶であった。
【0059】
比較例3
〔高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの合成〕
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート[市販の高純度トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート、商品名TEPIC−S、エポキシ当量は100g/eq、日産化学工業(株)製]100gを攪拌装置、温度計、還流用のコンデンサーのついた2リットルのフラスコに1.5リットルのメタノールと共に入れ、60℃で2時間攪拌した後、不溶解分を濾別した。ここで得られた結晶をメチルエチルケトンで充分洗浄し、その後メチルエチルケトンで2回再結晶を行った。最終的に濾過した結晶は、減圧下(10mmHg)、100℃で結晶に付着するメチルエチルケトンを除去して10.3g(収率10.3%、高融点型の回収率41%)の高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得た。不純物として含有するα体は0.5%であり、エポキシ当量は99g/eqであり、融点は150.4〜152.1℃で得られ、白色結晶であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも99%eeの光学純度を有する(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート。
【請求項2】
少なくとも99%eeの光学純度を有する(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート。
【請求項3】
イソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンとを反応する少なくとも99%eeの光学純度を有する光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項4】
第3級アミン、第4級アンモニウム塩、トリ置換ホスフィン及び第4級ホスフォニウム塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を触媒として用いてイソシアヌール酸と光学活性エピハロヒドリンとを反応させ、イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルを生成させ、得られたイソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルにアルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する請求項3に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項5】
イソシアヌール酸1モルと光学活性エピハロヒドリン3〜60モルとを反応させる請求項3又は請求項4に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項6】
イソシアヌール酸1モルと光学活性エピハロヒドリンとを反応させる際に、反応混合液内の水分量を1%未満とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項7】
イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルを形成後、過剰量使用した光学活性エピハロヒドリンを留去法で回収し、その後溶媒を加えて希釈した後に、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する請求項3乃至請求項6のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項8】
イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルを形成後、過剰量使用した光学活性エピハロヒドリンを留去法で回収した後に、イソシアヌール酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステル1重量部に対してラセミ体のエピハロヒドリン又は水に対する溶解度が5%以下の有機溶媒1重量部以上の添加によって希釈し、その後アルカリ金属水酸化物を脱水還流下に添加する請求項3乃至請求項7のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項9】
光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが、(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートである請求項3乃至請求項8のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項10】
光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートが、(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートである請求項3乃至請求項8のいずれか1項に記載の光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項11】
アミロース又はセルロース誘導体を用いてトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのラセミ体を光学分割する事を特徴とした少なくとも99%eeの光学純度を有する光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。
【請求項12】
請求項3乃至請求項11に記載の方法によって製造された光学活性β型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートである(2R,2’R,2”R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート及び(2S,2’S,2”S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを1:1のモル比で混合する事を特徴とした高純度の高融点型トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの製造方法。

【公開番号】特開2010−18630(P2010−18630A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240203(P2009−240203)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【分割の表示】特願平11−15660の分割
【原出願日】平成11年1月25日(1999.1.25)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】