説明

光学活性エテニルフェニルアルコールの製造方法

式(I):
【化1】


を有する光学活性エテニルフェニルアルコールまたはその鏡像体、
ここで、R1が非置換または置換へテロアリールであり、R2がフェニルまたは置換アリールである、
を特定の白金族金属錯体触媒の存在下で水素ガスを適用する対応するケトンの不斉水素化により製造する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、以下の式:
【化1】

【0002】
を有する光学活性アルコールまたはその鏡像体、ここでR1が置換または非置換へテロアリールであり、R2がフェニルまたは置換アリールである、を対応するケトンを特定の白金族金属錯体触媒、特にルテニウムの存在下で不斉水素化することにより製造する方法について言及する。
【0003】
式Iは、有用な抗喘息治療薬、抗アレルギー治療薬、抗炎症治療薬、および細胞保護治療薬であるロイコトリエンアンタゴニストの製造のための中間体を含む。ロイコトリエンアンタゴニストはキラル化合物である。その最も顕著な代表の一つが、モンテルカストであり、これは(R)立体異性体の生理的に活性な形態である。対応するケトンの水素化は、得られるアルコールが光学的に濃縮されているか、または純粋である方法で行われなければならないため、式Iのキラル中心の形成は、最終的なロイコトリエン拮抗剤へ至る経路の中で重要な工程である。これらのケトンは、さらにオレフィン結合を有するので、その後光学分割が行われる標準的な水素化触媒による水素化は選択される方法ではない。当該オレフィン結合がケト基と同時に、またはケト基よりも先に水素化されやすいためである。したがって、水素化を立体選択的かつ官能基選択的な様式で行うことは、大きな課題である。
【0004】
化学量論的な量のキラル還元剤、特にボラン誘導体により当該対応するケトンを還元することによって式(I)の化合物を得ることができることが知られている。例えば、EP 0 480 717およびUS 2006/0223999はオキサザボロリジン複合体の使用について開示し、さらにEP 0 480 717は、B-クロロジイソピノカンフェイルボラン(「DIP塩化物」)の使用についても記載する。ボラン誘導体が当該還元剤である場合、これらの厄介で高価な試薬を扱うために、特に商業的な生産のために専門的且つ高価な設備が必要である。触媒的移動水素化(catalytic transfer hydrogenation)は、WO 2006/008562に開示される通り、式Iの物質を得るための別のアプローチである。しかしながら、この種の反応は結果的に中程度の収量をもたらし、反応の強固さ(robustness)が低く、一方では高価な触媒を比較的大量に必要とする。
【0005】
従って、安価な水素ガスを標準的で大規模な製造装置に適用し得る触媒的不斉水素化の必要性が高い。
【0006】
上記の目的は請求項1の方法により達成される。
【0007】
いずれも望まれないエテニル水素化を提供する異なる触媒を用いた数多くの不成功実験(比較例を参考にされたい)の後、出願人は驚くべきことに、以下の式:
【化2】

【0008】
を有する光学活性アルコール又はその鏡像体、ここでR1が非置換または置換ヘテロアリールであり、R2がフェニル又は置換アリールである、を以下の式:
【化3】

【0009】
を有するケトン、ここでR1およびR2は上で定義した通りである、にキラルホスフィン配位子を含む白金族金属複合体触媒、ここで当該白金族金属は、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムからなる群から選択され、当該キラルホスフィン配位子は、以下の式:
【化4】

【0010】
を有するものであるか、またはその鏡像体であり、
ここで、それぞれのR11がフェニル、4-メチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、フラニルまたはシクロヘキシルであり;
R12がそれぞれ、水素、C1-4アルキル、またはC1-4アルコキシであり;
(a)Qがそれぞれ窒素であり、R13がそれぞれC1-4アルキルまたはC1-4アルコキシであるか;または
(b) Qがそれぞれ=CR14-であり、R14が水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素およびC1-4アルコキシからなる群より選択され、R13がそれぞれC1-4アルキルまたはC1-4アルコキシであるか;または
(c) Qがそれぞれ=CH-であり、双方のR13基が共に式-O-(CH2)n-O-の部分を形成し、nが1−6の整数であるか;または
(d) Qがそれぞれ=CR15-であり、R13と共に同じベンゼン環に結合するR15がそれぞれ、前記ベンゼン環と共にナフタレン、テトラリン、2,3-ジヒドロ-ベンゾ[1,4]ジソキシン、非置換または置換ベンゾ[1,3]ジオキソール、およびN-メチル-2,3-ジヒドロ-ベンゾ[1,4]オキサジンからなる群より選択される環系を形成する;
の存在下、水素ガスにより不斉水素化することによって製造することが可能であることを見出した。
【0011】
これ以降、「白金族金属」の語は、第VIII族遷移金属ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、およびプラチナを意味する。
【0012】
これ以降、「C1-nアルキル」の語は、1〜n個の炭素原子を含む、いずれの直鎖または分枝アルキル基を意味すると理解されるべきである。例えば、「C1-6アルキル」の語は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル(3-メチルブチル)、ネオペンチル(2,2-ジメチルプロピル)、ヘキシル、イソヘキシル(4-メチルペンチニル)などの基を含む。
【0013】
したがって、「C1-nアルコキシ」の語は、上で定義したC1-nアルキル基および単一の共有結合により結合される酸素原子から構成される群を意味する。
【0014】
これ以降、「置換ベンゾ[1,3]ジオキソール」の語は、2位で2つのハロゲン、2つのC1-4アルキル、または2つのC1-4アルコキシにより、それぞれ二置換されるベンゾ[1,3]ジオキソール環を意味する。
【0015】
これ以降、「ハロゲン」の語は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を意味する。
【0016】
式IIIのキラルホスフィン配位子、これは(R)または(S)配置にあるが、この例は:
「P-phos」、ここでQが窒素であり、R11がフェニルであり、R12およびR13がメトキシであり、例えば2,2’,6,6’-テトラメチオキシ-4,4’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-3,3’-ビピリジンであり;
「Xyl-P-Phos」、ここでQが窒素であり、R11が3,5-ジメチルフェニルであり、R12およびR13がメトキシであり、例えば2,2’,6,6’-テトラメトキシ-4,4’-ビス[ジ(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-3,3’-ビピリジンであり;
「Tol-P-Phos」、ここでQが窒素であり、R11が4-メチルフェニルであり、R12およびR13がメトキシであり、例えば2,2’,6,6’-テトラメトキシ-4,4’-ビス[ジ(4-メチルフェニル)ホスフィノ]-3,3’-ビピリジンであり;
「MeO-Biphep」、ここでQが=CR14-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、R13がメトキシであり、R14が水素であり、例えば6,6’-ジメトキシ-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビフェニルであり;
「3’,5’-Me2-MeO-Biphep」、ここでQが=CR14-であり、R11が3,5-ジメチルフェニルであり、R12が水素であり、R13がメトキシであり、R14が水素であり、例えば6,6’-ジメトキシ-2,2’-ビス[ジ(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-1,1’-ビフェニルであり;
「BIMOP」、ここでQが=CR14-であり、R11がフェニルであり、R12およびR13がメチルであり、R14がメトキシであり、例えば、5,5’-ジメトキシ-4,4’,6,6’-テトラメチル-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビフェニルであり;
当該化合物、ここでQが=CR14-であり、R11が2-フラニルであり、R12が水素であり、R13がメトキシであり、R14が水素であり、例えば、6,6’-ジメトキシ-2,2’-ビス[ジ(2-フラニル)ホスフィノ]-1,1’-ビフェニルであり;
「Cl-MeO-Biphep」、ここでQが=CR14-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、R13がメトキシであり、R14が塩素であり、例えば、6,6’-ジメトキシ-5,5’-ジクロロ-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビフェニルであり;
「Bichep」、ここでQが=CR14-であり、R11がシクロヘキシルであり、R12が水素であり、R13がメチルであり、R14が水素であり、例えば、6,6’-ジメチル-2,2’-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)-1,1’-ビフェニルであり;
「Biphemp」、ここでQが=CR14-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、R13がメチルであり、R14が水素であり、例えば、6,6’-ジメチル-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1-ビフェニルであり;
「C1-TunePhos」、ここでQが=CH-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、両方のR13が一緒になって-O-CH2-O-であり、例えば、6,6’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-2,2’-メチレンジオキシビフェニルであり;
「C2-TunePhos」、ここでQが=CH-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、両方のR13が一緒になって-O-(CH2)2-O-であり、例えば、1,12-ビス(ジフェニルホスフィノ)-6,7-ジヒドロ-ジベンゾ[e,g][1,4]ジオキソシンであり;
「C3-TunePhos」、ここでQが=CH-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、両方のR13が一緒になって-O-(CH2)3-O-であり、例えば、1,13-ビス(ジフェニルホスフィノ)-7,8-ジヒドロ-6H-ジベンゾ[f,h][1,5]ジオキソニンであり;
「C4-TunePhos」、ここでQが=CH-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、両方のR13が一緒になって-O-(CH2)4-O-であり、例えば、1,14-ビス(ジフェニルホスフィノ)-6,7,8,9-テトラヒドロジベンゾ[g,i][1,6]ジオキセシンであり;
「C5-TunePhos」、ここでQが=CH-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、両方のR13が一緒になって-O-(CH2)5-O-であり、例えば、1,15-ビス(ジフェニルホスフィノ)-8,14-ジオキサ-トリシクロ[13.4.0.02,7]ノナデカ-1(15),2(7),3,5,16,18-ヘキサエンであり;
「C6-TunePhos」、ここでQが=CH-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、両方のR13が一緒になって-O-(CH2)6-O-であり、例えば、1,16-ビス(ジフェニルホスフィノ)-6,7,8,9,10,11-ヘキサヒドロ-5,12-ジオキサ-ジベンゾ[a,c]シクロドデセンであり;
「Binap」、ここでQが=CR15-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15がナフタレン環系を形成し、例えば、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-バイナフタレンであり;
「TolBinap」、ここでQが=CR15-であり、R11が4-メチルフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15がナフタレン環系を形成し、例えば、2,2’-ビス[ジ(4-メチルフェニル)ホスフィノ]-1,1’-バイナフタレンであり;
「XylBinap」、ここでQが=CR15-であり、R11が3,5-ジメチルフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15がナフタレン環系を形成し、例えば、2,2’-ビス[ジ(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-1,1’-バイナフタレンであり;
「H8-Binap」、ここでQが=CR15-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15がテトラリン環系を形成し、例えば、6,6’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-5,5’-バイテトラリンであり;
「Synphos」、ここでQが=CR15-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15が2,3-ジヒドロ-ベンゾ[1,4]ジオキシン環系を形成し、例えば、2,2’,3,3’-テトラヒドロ-6,6’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-5,5’-ビ(ベンゾ[1,4]ジオキシン)であり;
「Segphos」、ここでQが=CR15-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15がベンゾ[1,3]ジオキソール環系を形成し、例えば、5,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-4,4’-ビ(ベンゾ[1,3]ジオキソール)であり;
「Difluorphos」、ここでQが=CR15-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15が2,2-ジフルオロベンゾ[1,3]ジオキソール環系を形成し、例えば、2,2,2’,2’-テトラフルオロ-5,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-4,4’-ビ(ベンゾ[1,3]ジオキソール)であり;
当該化合物、ここでQが=CR15-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15が2,2-ジメチルベンゾ[1,3]ジオキソール環系を形成し、例えば、2,2,2’,2’-テトラメチル-5,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-4,4’-ビ(ベンゾ[1,3]ジオキソール)であり;
「Solphos」、ここでQが=CR15-であり、R11がフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15がN-メチル-2,3-ジヒドロ-ベンゾ[1,4]オキサジンを形成し、例えば、N,N’-ジメチル-2,2’,3,3’-テトラヒドロ-7,7’-ビス(ジフェニルホスフィノ)8,8’-ビ(ベンゾ[1,4]オキサジン)であり;および
「XylSolphos」、ここでQが=CR15-であり、R11が3,5-ジメチルフェニルであり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15がN-メチル-2,3-ジヒドロ-ベンゾ[1,4]オキサジンを形成し、例えば、N,N’-ジメチル-2,2’,3,3’-テトラヒドロ-7,7’-ビス[ジ(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-8,8’-ビ(ベンゾ[1,4]オキサジン)である。
【0017】
特に好ましくは、式IIIのホスフィンであり、ここでQが=CR15-であり、R12が水素であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共にそれぞれR15がナフタレン環系を形成する。「Binap」の使用は、特に有利であることが証明された。
【0018】
別の好ましい態様において、ここで開示される白金族金属錯体触媒はさらに以下の式:
【化5】

【0019】
を有するキラルジアミン配位子、ここでR16からR19がそれぞれ独立して水素、シクロアルキル、直鎖もしくは分枝C1-6アルキル、または1若しくは1以上のC1-4アルキル若しくはC1-4アルコキシ基によって任意に置換されるフェニルである、を含み、これらの配位子が当該反応の化学選択性に対して好ましい効果を示した。
【0020】
「シクロアルキル」の語は、単環式または二環式飽和基、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニル、ノルカリル、ノルピナニル、および関連する基、例えば、低級アルキル置換基によりさらに置換される上記の基などを意味すると理解されるべきである。
【0021】
前記式IVのキラルジアミン配位子の例は、特にDAIPENでは(R)および(S)配置、DPENでは(R,R)および(S,S)配置であり:
「DAIPEN」、ここでR16がイソプロピルであり;R17が水素であり、R18およびR19が4-メトキシフェニルであり、例えば、1,1,-ビス(4-メトキシフェニル)-3-メチル-1,2-ブタンジアミンであり、
「DPEN」、ここでR16およびR19がフェニルであり;R17およびR18が水素であり、例えば、1,2-ジフェニルエチレンジアミンである。
【0022】
好ましい態様において、式IVの当該キラルジアミン配位子は「DAIPEN」である。
【0023】
特定の態様において、R1が以下の式:
【化6】

【0024】
ここでR3およびR4が共に式-S-CR5=CR6-の一部を形成し、当該硫黄原子が、当該ピリジン部分の3位の炭素原子に直接的に結合するか;
または、代わりにR3およびR4が共に式-CR5=CR6-CR7=CR8-の一部を形成し、当該R5に結合する炭素原子が、当該ピリジン部分の3位の炭素原子に直接的に結合し;
且つR5からR8のそれぞれが独立して水素またはハロゲンである;
を有する複素環基である。
【0025】
さらに、特にR2が-C6H4R9であり、ここでR9が水素、C1-4アルキル、分枝および直鎖C2-4アルケニル、C5-6シクロアルキル、フェニル、C1-4アルコキシ、C1-4アルキルチオ、カルボキシ、(C1-4アルコキシ)カルボニル、(C1-4アルコキシ)スルホニル、-T-O-R10、ここでTが分枝または直鎖C1-8アルカンジイルであり、且つR10が水素、メチル、置換メチル、置換エチル、フェニル、置換フェニル、置換ベンジル、ピリジニルメチル、置換ピリジニルメチル、置換シリル、C1-6アシル、置換C1-6アシル、(C1-4アルコキシ)カルボニル、置換(C1-4アルコキシ)カルボニル及びアリールオキシカルボニルからなる群より選択される;からなる群より選択され、R9が当該フェニル環のいずれかの位置に位置してもよい。
【0026】
これ以降、「C2-nアルケニル」の語は、当該炭素鎖のいずれかの位置に位置する少なくとも1つの二重結合を含む炭素鎖を意味すると理解すべきである。例えば、「C2-4アルケニル」の語は、基、例えば、エテニル、1-メチルエテニル、プロプ-1-エニル、プロプ-2-エニル、2-メチルプロプ-2-エニルおよびブタ-1,3-ジエニルなどを含む。
【0027】
これ以降、「C1-nアルキルチオ」の語は、上で定義されるC1-nアルキル基および単一の共有結合で連結される硫黄原子から構成される基を意味する。
【0028】
これ以降、「(C1-nアルコキシ)カルボニル」の語は、直鎖または分枝していてもよいC1-nアルカノールに由来するカルボキシ酸エステルを意味する。例えば、「(C1-4アルコキシ)カルボニル」の語は、基、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、2-メチルプロポキシ、およびtert-ブトキシカルボニルなどを含む。
【0029】
これ以降、「(C1-nアルコキシ)スルホニル」の語は、カルボン酸エステルの代わりにスルホン酸エステル以外に関して上に記載された「(C1-nアルコキシ)カルボニル」の語に類似する。
【0030】
これ以降、R10に関して「置換メチル」の語は、当該-T-O-R10部分の酸素に直接的に結合し、一方、少なくとも一つのヘテロ原子または炭素原子にも結合し、それにより任意に環式環系を形成する単一の炭素原子を意味する。「置換メチル」の例は、メトキシメチル、エトキシメチル、メチルチオメチル、tert-ブチルチオメチル、(フェニルジメチルシリル)メチオキシメチル、ベンジルオキシメチル、4-メトキシベンジルオキシメチル、(4-メトキシフェノキシ)メチル、(2-メトキシフェノキシ)メチル、tert-ブトキシメチル、4-ペンテニルオキシメチル、シロキシメチル、2-メトキシエトキシメチル、2,2,2-トリクロロエトキシメチル、ビス(2-クロロエトキシ)メチル、2-トリメチルシリル)エトキシメチル、ベンジル、ジフェニルメチル、トリフェニメチル、テトラヒドロピラニル、3-ブロモテトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、1-メトキシシクロヘキシル、4-メトキシテトラヒドロピラニル、4-メトキシテトラヒドロチオピラニル、S,S-ジオキソ-4-メトキシテトラヒドロチオピラニル、1-(2-クロロ-4-メチルフェニル)-4-メトキシピペリジン-4-イル、1,4-ジオキサン-2-イル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフラニル、および2,3,3a,4,5,6,7,7a-オクタヒドロ-7,8,8-トリメチル-4,7-メタノベンゾフラン-2-イルである。
【0031】
これ以降、R10に関して「置換エチル」の語は、1位が直接的に当該-T-O-R10部分の当該酸素に結合し、一方で当該エチル基が1および/または2位で少なくとも1つの置換基、ここで、当該置換基が炭素-炭素、炭素-ヘテロ原子、炭素-ケイ素および/または炭素-セレン結合により当該エチル基に結合する、により置換されるエチル基を意味する。「置換エチル」の例は、1-エトキシエチル、1-(2-クロロエトキシ)エチル、1-メチル-1-メトキシエチル、1-メチル-1-ベンジルオキシエチル、1-メチル-1-ベンジルオキシ-2-フルオロエチル、2,2,2-トリクロロエチル、2-トリメチルシリルエチル、2-(フェニルセレニル)エチル、tert-ブチルおよびアリルである。
【0032】
これ以降、R10に関して「置換フェニル」の語は、直接的に当該-T-O-R10部分の当該酸素に結合するフェニル基を意味し、ここで、当該フェニルは少なくとも、ハロゲン、ニトロ、C1-4アルキルまたはC1-4アルコキシによって置換される。「置換フェニル」の例は、4-クロロフェニル、4-メトキシフェニル、および2,4-ジニトロフェニルである。
【0033】
これ以降、R10に関して「置換ベンジル」の語は、当該-T-O-R10部分の当該酸素に直接的に結合し、且つ少なくとも1つの置換フェニル基にさらに結合する炭素原子を意味する。「置換ベンジル」の例は、4-メトキシベンジル、3,4-ジメトキシベンジル、2-ニトロベンジル、4-ニトロベンジル、4-ハロベンジル、2,6-ジクロロベンジル、4-シアノベンジル、4-フェニルベンジル、4,4’-ジニトロベンズヒドリル、10,11-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン-5-イル、α-ナフチルジフェニルメチル、(4-メトキシフェニル)ジフェニルメチル、ジ(4-メトキシフェニル)フェニルメチル、トリ(4-メトキシフェニル)メチル、[4-(4’-ブロモフェンアシルオキシ)フェニル]ジフェニルメチル、トリス[4-(4,5-ジクロロフタルイミド)フェニル]メチル、トリス[4-(4-オキソペンタノイル)フェニル]メチル、トリス(4-ベンジルオキシフェニル)メチル、[3-(イミダゾール-1-イルメチル)フェニル]ビス(4-メトキシフェニル)メチル、ビス(4-メトキシフェニル)(1-ピレニル)メチル、9-フェニルキサンテン-9-イルおよび9-フェニル-10-オキソアントラセン-9-イルである。
【0034】
これ以降、-T-O-R10-部分におけるR10に関して、「ピリジニルメチル」の語は、2-ピリジン-x-イルメチルおよび4-ピリジン-x-イルメチルを含む。
【0035】
これ以降、R10に関して「置換ピリジニルメチル」の語は、当該-T-O-R10部分の当該酸素に直接的に結合し、さらに少なくとも1つのピリジニル基に結合する炭素原子を意味する。「置換ピリジニルメチル」の例は、N-オキシ-3-メチル-2-ピリジン-x-イルメチルである。
【0036】
これ以降、R10に関して「置換シリル」の語は、当該-T-O-R10部分の当該酸素に直接的に結合し、直鎖または分枝C1-10アルキル、C1-3アルコキシ、および任意に1または1以上のC1-4アルキルまたはC1-4アルコキシにより置換されるベンジルおよびフェニルからなる群より独立して選択される置換基により置換されるシリル基を意味する。「置換シリル」の例は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、ジメチルイソプロピルシリル、ジエチルイソプロピルシリル、ジメチルへキシルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジフェニルシリル、トリベンジルシリル、トリ-p-キシリルシリル、トリフェニルシリル、ジフェニルメチルシリルおよびtert-ブチル-メトキシ-フェニルシリルである。
【0037】
これ以降、R10に関して「C1-6アシル」の語は、1〜6個の炭素原子の飽和または不飽和カルボン酸に由来するアシル基を意味する。「C1-6アシル」の例は、ホルミル、アセチル、プロパノイルおよびブト-2-エンオイルである。
【0038】
これ以降、R10に関して、「置換C1-6アシル」の語は、上で定義した通り、C1-4アルキル、ハロゲン、オキソ、フェニル、フェノキシ、1または1以上のC1-4アルキル、フェニル又はハロゲンにより任意に置換されるフェニルにより任意に置換されるC1-4アルコキシ、および1-アダマンチルからなる群より独立して選択される少なくとも一つの置換基により置換されるアシル基を意味する。「置換C1-6アシル」の例は、2-オキソ-2-フェニルアセチル、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチル、トリフェニルメトキシアセチル、メトキシアセチル、フェノキシアセチル、4-クロロフェニルアセチル、3-フェニルプロパノイル、4-オキソペンタノイル、2,2-ジメチルプロパノイル、1-アダマンチルホルミル、4-メトキシブト-2-エノイル、ベンゾイル、4-フェニルベンゾイルおよび2,4,6-トリメチルベンゾイルである。
【0039】
これ以降、R10に関して「置換(C1-4アルコキシ)カルボニル」の語は、上で定義した通り、(C1-4アルコキシ)カルボニル基を意味し、ここで、それが由来するC1-4アルカノールは、ハロゲン、C1-4アルキル置換されたシリル、ベンゼンスルホニル、ビニル、1または1以上のC1-4アルキル、C1-4アルコキシ、ハロゲン、ニトロ、により任意に置換されるフェニルおよびフルオレニルからなる群より独立して選択される少なくとも1つの置換基により置換される。置換された「(C1-4アルコキシ)カルボニル」の例は、9-フルオレニルメトキシカルボニル、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル、2-トリメチルシリルエトキシカルボニル、2-ベンゼンスルホニルエトキシカルボニル、プロプ-2-エンイルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、(4-メトキシフェニル)メトキシカルボニル、(3,4-ジメトキシフェニル)メトキシカルボニル、(2-ニトロフェニル)メトキシカルボニルおよび(4-ニトロフェニル)メトキシカルボニルである。
【0040】
これ以降、R10に関して「アリールオキシカルボニル」の語は、1または1以上のC1-4アルキル、C1-4アルコキシ、ハロゲン、またはニトロにより任意に置換されるC6-18フェノールに由来するカルボン酸エステルを意味する。「アルコキシカルボニル」の例は、4-ニトロフェノキシカルボニルである。
【0041】
好ましい態様において、R1が式Vのものであり、ここでR3およびR4が共に式-CR5=CR6-CR7=CR8-の一部を形成し;R5からR8のそれぞれが独立して水素またはハロゲンであり;R2が-C6H4R9であり、ここでR9が(C1-4アルコキシ)カルボニルまたは-T-O-R10であり、ここでTが分枝または直鎖C1-8アルケンジイルでありR10が水素または置換メチルであり;R9がフェニル環の2位に位置する。
【0042】
より好ましい態様において、R1が式Vのものであり、ここでR3およびR4が共に、-CR5=CR6-CR7=CR8-の一部を形成し;R5, R6およびR8が水素であり;R7が塩素であり;ここでR2が-C6H4R9であり、R9が-T-O-R10であり、Tが-C(CH3)2-であり、R10は水素または、テトラヒドロピラニル、メトキシメチル、およびエトキシメチルからなる群より選択される置換メチルであり;R9はフェニル環の2位に位置する。
【0043】
最も好ましい態様において、R1が式Vのものであり、ここでR3およびR4が共に式-CR5=CR6-CR7=CR8-の一部を形成し、R5、R6およびR8が水素であり、R7が塩素であり;ここでR2が-C6H4R9であり、R9がメトキシカルボニルであってフェニル環の2位に位置し、例えば、メチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3-オキソプロピル]ベンゾエートである。
【0044】
当該触媒は、ルテニウム、ロジウムまたはイリジウムからなる群より選択される適切な白金族金属の塩、ここで適切な対イオンは例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物、四フッ化ホウ酸、六フッ化ヒ酸、六フッ化アンチモン酸、六フッ化リン酸、過塩素酸、または三フッ化メタンスルホン酸であり、これを極性溶媒に適切なホスフィン配位子により溶解し、続いて当該形成される錯体を単離することにより得ることができる。
【0045】
加えて、これらのルテニウム、ロジウム、またはイリジウムの適切な塩は、好ましくは少なくとも一つの安定化配位子、例えば、アルケン、アルカンジエンまたはアレーンなどを含む。好ましい態様において、当該安定化配位子は2-メチルアリル、1,5-シクロオクタジエン、ノルボルンアジエン、フェニル、またはp-シメンである。このように安定化した当該金属塩もまた、当該溶媒由来の追加の安定化配位子または追加の塩基として、少なくとも一つの極性分子を含んでよい。当該極性分子の例は、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、およびトリエチルアミンである。
【0046】
代わりに、当該触媒はインサイチューで、上で定義したホスフィン配位子および白金族金属の塩から調製可能である。好ましくは、当該触媒はインサイチューで、ホスフィン配位子、および上記の通り安定化されているか、又は例えば[RuCl2(PPh3)3]などの適切な前駆体複合体であるルテニウム、ロジウム、イリジウムの塩から調製される。
【0047】
任意に、当該触媒の調製はキラルジアミン配位子の存在下で行われる。
【0048】
特に好ましい態様において、当該塩はルテニウム塩であり、当該ホスフィン配位子は「Binap」であり、当該キラルジアミンは「DAIPEN」である。特に好ましい態様において、このルテニウム錯体触媒は、[(S)-Binap RuCl2 (S)-DAIPEN]および[(R)-Binap RuCl2 (R)-DAIPEN]である。
【0049】
「Binap」配位子の適切な調製方法は、D. Cai, J. F. Payack, D. R. Bender, D. L. Hughes, T. R. Verhoeven, P. J. Reider, Org. Synth. 1998, 76, 6-11に開示される。当該単離される[Binap RuCl2 DAIPEN]触媒は、[RuCl2(C6H6)]2、「Binap」および「DAIPEN」をジメチルホルムアミド中で反応させ、続いてジクロロメタンおよびジエチルエーテル(1:10)から再結晶させることにより得ることができる。
【0050】
当該触媒は、そのようなものとして当該反応混合物に加えるか、または適切な溶媒に溶解してもよく、または代わりに当該触媒はインサイチューで調製されてもよい。
【0051】
当該触媒もまた、当該ホスフィン配位子の適切な基の結合により樹脂とポリマー結合してもよい。この種のポリマー結合触媒は、当該生成物の単純な精製に特に有利である。
【0052】
本願発明に適用可能な塩基は、無機および有機塩基を含む。当該塩基は一般式MYにより表されてもよく、ここでMがアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の一同等物であり、Yが水酸基、アルコキシ基、カルボキシレート、ハイドロゲンカーボネートまたはカーボネートの一同等物である。より具体的には、適用可能な塩基は、NaOH, KOH, CsOH, LiOCH3, NaOCH3, NaOCH(CH3)2, KOCH3, KOCH(CH3)2, KOC(CH3)3, NaOCOCH3, K2CO3, Na2CO3, Cs2CO3, CaCO3および BaCO3を含む。代わりに、当該塩基は、tert-ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミンまたはトリエチレンジアミンのようなアミンであってよい。最も好ましくは、K2CO3, Cs2CO3またはNaOHが塩基として使用される。
【0053】
反応物質および触媒成分を溶解することのできるいずれかの不活性液体溶媒が、溶媒として使用されてもよい。適用可能な溶媒は、芳香族炭化水素、例えばトルエンおよびキシレンなど;ハロゲン化芳香族炭化水素、例えばクロロベンゼンおよびトリフルオロトルエンなど;脂肪族炭化水素、例えばペンタンおよびヘキサンなど;ハロゲン化炭化水素、例えばジクロロメタンおよびジクロロエテンなど;エーテル、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなど;アルコール、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、およびベンジルアルコールなど;ハロゲン化アルコール、例えば2,2,2-トリフルオロエタノールなど;カルボン酸エステルおよびラクトン、例えばエチルアセテート、メチルアセテート、およびバレロラクトンなど;およびヘテロ原子、例えばアセトニトリル、ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドなどを含む有機溶媒を含む。当該溶媒は、単独で使用されるか;混合物または水を有する2相系として使用されるか;または、任意に水と組み合わされる少なくとも2つの溶媒の混合物中に使用されてもよい。好ましい溶媒は、ハロゲン化芳香族炭化水素およびアルコールの混合物である。
【0054】
任意に、当該反応混合物は、ルイス酸、例えばスカンジウム(III)トリフレート、ビスマス(III)トリフレート、イットリウム(III)トリフレート、カッパー(I)クロリド、カッパー(II)クロリド、マグネシウムクロリド、アルミニウムクロリド、鉄(III)クロリド、セリウム(III)クロリド、ランタナム(III)クロリド、ネオジミウム(III)クロリドおよびサマリウム(III)クロリドなどを含んでよい。ルイス酸が水和物として現れる場合、この水和物化合物もまた適用されてよい。ルイス酸の追加により反応のエナンチオマー選択性および触媒の安定性の両方が高められてもよい。
【0055】
任意に、当該反応は、相間移動触媒、例えばアンモニウムハロゲン化物などの存在下で行われる。当該アンモニウムハロゲン化物の例は、テトラエチルアンモニウム臭化物、トリエチルベンジルアンモニウム塩化物(TEBA)、テトラブチルアンモニウム塩化物、テトラブチルアンモニウム臭化物、およびテトラブチルアンモニウムヨウ化物である。TEBAは特に有用であることがわかっている。相間移動触媒の追加によって、形成される生成物の分離に対してポジティブな影響が与えられてもよい。
【0056】
式IIのケトン(基質)の量は、反応器の容量によって変化し、当該触媒(S/C)に対して、100:1から100,000:1または、より好ましくは500:1から20,000:1のモル比であってよい。
【0057】
本発明に従う当該水素化の方法は、大気圧または超大気圧で行われてもよい。典型的な圧力は1から100バールである。有利には、1から70バールであり、特に、5から40バールが使用される。当該化学選択性は一般に、より低い気圧でより良好なようである。
【0058】
当該水素化反応は、低温または高温で行われてもよい。代表的な温度範囲は-20〜120℃である。好ましくは温度0〜100℃であり、最も好ましくは10〜40℃の範囲である。
【0059】
当該反応時間は、当該触媒充填、温度、及び水素圧のような異なる要因に依存する。したがって、当該反応は2、3分から数時間または数日までの範囲内の期間に完了してもよい。
【0060】

以下の例は、さらに本発明を説明するものであるが、いずれの方法によってもそれを限定するものではない。
【0061】
比較配位子1の構造および立体化学は以下の通りである:
【化7】

【0062】
例1:1-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-2-プロペン-1-オールの合成
(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)ベンズアルデヒド (50 g, 0.17 mol, Unibest Industrial Ltd., Ningbo, Chinaから商業的に入手可能である)の400 mLトルエン中の懸濁液を0℃で脱気した。THF中のビニルマグネシウムクロリドの1.6 M溶液(115 mL、0.18 mol)を、内部温度<10℃に保ちながら30分にわたって滴下した。0~5℃で1時間攪拌した後、400 mL水性アンモニウムアセテート溶液(10%)を緩徐に添加することにより当該反応混合物をクエンチした。このようにして得られた当該二相の混合物を1時間攪拌し、マグネシウム塩の加溶媒分解を確実なものとした。
【0063】
当該分離された有機層を500 mLの水で2回洗浄し、真空で75 mLの容量まで濃縮した。次に、再び75 mLのアセトニトリルを添加し、当該混合物を真空中で75 mLに濃縮した。当該最後の手順を繰り返した後、当該結果として生じたスラリーを直接次の工程で用いた。
【0064】
例2:メチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3-オキソプロピル]ベンゾエートの合成
当該アセトニトリル中の例1の粗製スラリーをメチル2-ヨードベンゾエート (44.6 g、0.17 mol)、トリエチルアミン(35.6 mL、0.254 mol)およびパラジウムアセテート(0.36 g、1.7 mmol)により処理した。当該混合物を6時間、窒素下で還流により脱気および加熱した。次に、当該高温の溶液をセルロース(Solka Floc(登録商標))によってろ過し、いずれの沈降パラジウムも除去した。ろ液を周囲の温度まで冷却した時、当該所望の表題生成物が結晶化した。周囲の温度で1時間の後、当該懸濁液をろ過した。当該ろ過ケークを130 mLアセトニトリル、100 mLアセトニトリル/水(1:1)、100 mL水、最終的に150 mLアセトニトリルによって連続的に洗浄した。乾燥後、当該表題生成物を薄黄色の固体として得た(53 g、69 %であり例1のベンズアルデヒドを参照する)。
【0065】
1H NMRはEP 0 480 717 B (例16, 工程3)に従う。
【0066】
例3〜9および比較例C1~C3:メチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3-オキソプロピル]ベンゾエートの不斉水素化
例3~6およびC1〜C3は、Symyx Inc.のHTS自動化スクリーニングツールおよび特別仕様のSymyx Workflowを用いるハイスループット触媒スクリーニング(HTS)により行った。すべて反応は、高圧反応器(HIP)に設置される96ウェルプレート上の1.2 mLバイアル中で行った。HTS全体はグローブ・ボックス中で行った。
【0067】
例3〜6の手順−例3について見本として示される:
ジクロロエテン中の[(S)-Binap RuCl2 (S)-DAIPEN]の原液(0.08 mL中0.0017 mmol)を調製し、反応バイアルに満たした。当該溶媒を減圧下で完全に除去した。当該基質、メチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)-エテニル)フェニル]-3-オキソプロピル]ベンゾエートの、テトラヒドロフラン中の原液(0.09 mL中0.042 mmol)を添加した。当該溶媒を2度目に減圧下で完全に除去した。水中の炭酸カリウムの原液(0.05 mL中、0.046 mmol)および2-プロパノール中のトリエチルベンジルアンモニウムクロリドの原液(0.06 mL中、0.004 mmol)を添加した。最後に、総容量が0.5 mLに達するまで当該バイアルをトルエンで満たした。次に当該反応混合物を水素で4度パージし、5バールまで加圧し、室温で18時間処理した。
【0068】
例7〜9の一般的手順:
例8について、当該反応混合物および水素化条件は、当該反応時間を除いて例10と同一である。例7及び9について、例10に類似する当該反応混合物を調製したが、水素化は50 mLステンレススチールのオートクレーブ中で行い、当該生成物を抽出のみによって単離した。
【0069】
例C1〜C3の比較例の手順−例C1について見本として示される:
当該配位子1のジクロロエテン溶液(0.12 mL中、0.0020 mmol)を反応バイアルに満たした。ジクロロエテン中の[RuI2(p-シメン)]2の原液(0.04 mL中0.0008 mmol)を添加し、続いて総容量が0.40 mLに達するまでトルエンを添加した。当該バイアルを閉じ、当該混合物を80℃で1時間加熱した。次に、当該溶媒を減圧下で完全に除去し、テトラヒドロフラン中の基質、メチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3-オキソプロピル]ベンゾエートの原液 (0.09 mL中、0.042 mmol)を添加した。メタノール中のリチウムメタノレートの原液(0.10 mL中、0.033 mmol)をさらに添加した。最後に、総容量が0.50 mLに達するまで、当該バイアルを2-プロパノールで満たした。次に当該反応混合物を水素で4度パージし、5バールまで加圧し、室温で16時間実施した。
【0070】
当該用いた触媒、反応条件、及び得られた結果に関して、当該例3〜9およびC1〜C3の詳細は、表1及び2に編集される。変換および当該生成物メチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3-ヒドロキシプロピル]ベンゾエートを未修正の超臨界液体クロマトグラフィー(SFC)積分により計算した。鏡像体過剰率(ee)もまた、SFC(Chiralpak AD-H, 40% 2-プロパノール)により測定した。
【表1】

【表2】

【0071】
例10:[(R)-Binap RuCl2 (R)-DAIPEN]の触媒としての使用
メチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3-オキソプロピル]ベンゾエート14.50 g (31.80 mmol)および375 mg (1.64 mmol)トリエチルベンジルアンモニウムクロリドを、アルゴン下、中空軸スターラー及びサンプリングチューブを備える300 mLのステンレススチールオートクレーブ内に設置した。25 mLの脱気した2-プロパノールおよび36.2 mL (36.2 mmol)の脱気した水酸化ナトリウム水性溶液[1 M]を連続して添加した。72.95 mg(0.066 mmol, S/C = 482:1)の[(R)-Binap RuCl2 (R)-DAIPEN]をアルゴン下に置き、120 mLの乾燥および脱気したクロロベンゼンに溶解した。当該触媒溶液を、アルゴン下のオートクレーブ中に移動した。次に、当該オートクレーブを3度、それぞれアルゴンおよび水素でパージし、その後、水素圧を室温で5バールの値に設定した。当該反応の進行中、3時間および6時間後に試料を採取した。さらに、水素の取り込み曲線を測定した。8時間後、それ以上の水素消費が観察されなくなり、そのため当該圧力を解放し、結果生じる不均一混合物を2つの均等な部分に分けた。当該2つの部分を、合計13.37 g (92%)の所望の生成物、2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3(S)-3-ヒドロキシプロピル]ベンゾエートをもたらす2つの異なる試験手順に供した:
a) 非水性試験(ろ過)
当該一番目の部分を直接的にガラスフィルターに移動し、ろ過した。そのようにして得られた当該沈殿物を50 mLの水、50 mLトルエンおよび30 mLエチルアセテート/ヘキサン(1:1)で洗浄した。乾燥後、3.96 g (27%)のメチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3(S)-3-ヒドロキシプロピル]ベンゾエートを淡褐色の結晶性粉末として得た。
【0072】
当該母液および洗浄溶液を、上に概略した通り、水性試験に適用した。したがって、追加量2.11 g(15%)のメチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3(S)-3ヒドロキシプロピル]ベンゾエートを得た。
【0073】
b) 水性試験(抽出)
当該2番目の部分を600 mLのエチルセテートおよび200 mLの水で処理した。当該層を分離し、水性層を300 mLエチルアセテートで2度抽出した。当該組み合わされた有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥した。最終的に、当該溶媒を減圧下で除去し、7.30 g (50%)のメチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3(S)-3-ヒドロキシプロピル]ベンゾエートを樹脂状のオレンジ色固体として得た。
【0074】
純度: 98%、SFC(Chiralpak AD-H, 40% 2-プロパノール)による。鏡像体純度:96.4% ee (S)、SFCによる(同条件)。
【0075】
例11:[(R)-Binap RuCl2 (R)-DAIPEN]の触媒としての使用
クロロベンゼン(891 g)を、窒素下、中空軸スターラーおよびサンプリングチューブを備える2Lのステンレススチールオートクレーブ中に置いた。攪拌中に、新たに再結晶した(活性炭およびセライト、THF/MeOH)メチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3-オキソプロピル]ベンゾエート226 g (0.495 mol)を添加した。5.6 g (0.025 mol;5 mol%)のトリエチルベンジルアンモニウムクロリドを131 g (2.185 mol)の2-プロパノールに溶解し、当該溶液を窒素下にある当該オートクレーブに移動した。次に、198 mL (0.198 mol;40 mol%)の水性水酸化ナトリウム溶液[1 M]を続けて添加した。当該オートクレーブを窒素で4度パージした。
【0076】
110 mg (0.099 mmol;S/C = 5000:1)の[(R)-Binap RuCl2 (R)-DAIPEN]を33 g (0.297 mol)のクロロベンゼンに溶解した。当該触媒溶液を当該窒素下にあるオートクレーブに移動し、当該混合物を攪拌した。次に、当該オートクレーブを初めに4度、窒素でパージし、その後4度、水素でパージし、その後当該水素圧を23℃で10 barに設定した。
【0077】
当該水素化の初めの30〜120分の間、水素消費は、触媒の活性化のため観察されなかった。当該反応が進行した後、水素取り込み曲線が測定され、反応の最後にサンプルを採取し、完了を確認した。さらなる水素消費が観察されなくなる(約15時間後)とすぐに、当該水素圧を解放し、結果得られる不均一混合物を窒素で4度パージした。
【0078】
100 gのクロロベンゼンを当該懸濁液に添加した。当該スラリーを5℃で30分間攪拌し、最終的にガラスフィルターに移動してろ過した。そのようにして得られた当該沈殿物を5℃で450 mLメタノール/水(1:1、v/v)、最終的に226 mLのメタノールで洗浄した。乾燥後、40℃、減圧下で、204 g (86%)のメチル2-[3-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3(S)-3-ヒドロキシプロピル]ベンゾエートを、99.7%の含有量(1H NMRによる)かつ旋光度[α] D 25=−26.4° (c = 1, CH2Cl2)の黄色がかった結晶性粉末として得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

を有する光学活性アルコールまたはその鏡像体、
ここで、R1が非置換または置換ヘテロアリールであり、R2がフェニルまたは置換アリールである、を
式:
【化2】

ここで、R1およびR2が上で定義した通りである、
を有するケトンを不斉水素化することによる製造方法であって、
当該不斉水素化が、キラルホスフィン配位子を含む白金族金属錯体触媒の存在下、水素ガスによって行われ、
ここで、当該白金族金属が、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムからなる群より選択され、当該キラルホスフィン配位子が以下の式:
【化3】

のものであるか、またはその鏡像体であり、
ここで、それぞれのR11がフェニル、4-メチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、フラニル、またはシクロへキシルであり;
それぞれのR12が水素、C1-4アルキルまたはC1-4アルコキシであり;
ここで、
(a) Qがそれぞれ窒素であり、
R13がそれぞれC1-4アルキルまたはC1-4アルコキシであるか;または
(b) Qがそれぞれ=CR14-であり、R14が水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、
およびC1-4アルコキシからなる群より選択され、R13がそれぞれC1-4アルキルまたはC1-4アルコキシであるか;または
(c) Qがそれぞれ=CH-であり、
双方のR13基が一緒になって式-O-(CH2)n-O-、ここでnが1〜6の整数、であるか;または
(d) Qがそれぞれ=CR15-であり、同じベンゼン環に結合するR13と共に、且つ前記ベンゼン環と共に、R15がそれぞれ、ナフタレン、テトラリン、2,3-ジヒドロ-ベンゾ[1,4]ジオキシン、非置換または2,2-ジハロゲン置換のベンゾ[1,3]ジオキソール、およびN-メチル-2,3-ジヒドロ-ベンゾ[1,4]オキサジンからなる群より選択される環系を形成する;
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、当該白金族金属錯体触媒がさらにキラルジアミン配位子を含む方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、当該キラルジアミン配位子が以下の式:
【化4】

のものであり、
R16からR19がそれぞれ独立して、水素、シクロアルキル、直鎖または分枝C1-6アルキルまたは任意に1若しくは1以上のC1-4アルキル若しくはC1-4アルコキシ基により置換されるフェニルである方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、R16がイソプロピルであり;R17が水素であり;R18およびR19が4-メトキシフェニルである方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、R1が以下の式:
【化5】

を有する複素環基であり、
ここで、R3およびR4が共に式-S-CR5=CR6-の一部を形成し、当該硫黄原子が直接的にピリジン部分の3位の炭素原子に結合し;
または、代わりにR3およびR4が共に式-CR5=CR6-CR7=CR8-の一部を形成し、R5に結合する当該炭素原子が直接的にピリジン部分の3位の炭素原子に結合し;
R5からR8のそれぞれが独立して水素またはハロゲンである方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法であり、R2が-C6H4R9であり、ここでR9がハロゲン、C1-4アルキル、分枝または直鎖C2-4アルケニル、C5-6シクロアルキル、フェニル、C1-4アルコキシ、C1-4アルキルチオ、カルボキシ、(C1-4アルコキシ)カルボニル、(C1-4アルコキシ)スルホニル、-T-O-R10、ここでTが分枝または直鎖C1-8アルカンジイルであり、R10が水素、メチル、置換メチル、置換エチル、フェニル、置換フェニル、置換ベンジル、ピリジニルメチル、置換ピリジニルメチル、置換シリル、C1-6アシル、置換C1-6アシル、(C1-4アルコキシ)カルボニル、置換(C1-4アルコキシ)カルボニルおよびアリールオキシカルボニルからなる群より選択される;からなる群より選択され、
R9がフェニル環のいずれかの位置に位置してもよい方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法であり、R1が式Vのものであり、R3およびR4が共に-CR5=CR6-CR7=CR8-の一部を形成し;R5、R6およびR8が水素であり;R7が塩素であり;
R2が-C6H4R9であり、R9がメトキシカルボニルであり、フェニル環の2位に位置する方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であり、R1が式Vのものであり、R3およびR4が共に-CR5=CR6-CR7=CR8-の一部を形成し;R5、R6およびR8が水素であり;R7が塩素であり;
R2が-C6H4R9であり、R9が-T-O-R10であり、Tが-C(CH3)2-であり、R10が水素、またはテトラヒドロピラニル、メトキシメチル、およびエトキシメチルからなる群より選択される置換メチルであり;R9が当該フェニル環の2位に位置する方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法であり、R11がそれぞれフェニルであり; R12がそれぞれ水素であり; Qがそれぞれ=CR15-であり、ここで、同じベンゼン環に結合するR13と共に且つ、前記ベンゼン環と共にR15がそれぞれナフタレン環系を形成する方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法であって、当該方法が塩基の存在下で行われる方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法であって、当該方法がルイス酸の存在下で行われる方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法であって、当該方法が相間移動触媒の存在下で行われる方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法であって、当該方法が1〜100バールの圧力で行われる方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法であって、当該方法が、式IIを有する当該ケトン(基質)が当該触媒(S/C)に対して100:1から100,000:1のモル比の量で行われる方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法であって、当該方法が、0〜100℃の温度で行われる方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法であって、式Iを有する光学活性アルコールを、1-[[[1-[(E)-3-(2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル)フェニル]-3(R)-[2-(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)フェニル]プロピル]チオ]メチル]シクロプロパン酢酸(モンテルカスト)またはモンテルカストナトリウムの製造における中間体として合成するための方法。

【公表番号】特表2010−525001(P2010−525001A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504562(P2010−504562)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003374
【国際公開番号】WO2008/131932
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(398075600)ロンザ アーゲー (58)
【Fターム(参考)】