説明

光学活性ケトンの製造方法

【課題】光学活性ケトンを効率的に製造する手段を提供する。
【解決手段】(R1)(R2)>C=C(R3)-C*(R4)-CO-R5(R1はアリール基;R2は水素原子又はアルキル基;R3はアルキル基;R4及びR5はアリール基又はアルキル基;*は不斉炭素を示す)で表されるケトン化合物の製造方法であって、(R1)(R2)CH-C(R3)=C(R4)-CO-R5 で表されるエノン化合物を下記式(R6はアルキル基、Arはアリール基を示す)で表される化合物を配位子として含む金属錯体の存在下でオレフィンの不斉転位を行う工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学活性ケトンの製造方法に関する。より具体的には抗結核薬として有用な光学活性ジアリールメタン化合物を効率的に製造するために有用な光学活性ケトンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジアリールメタン系の新しい抗結核薬R207910[(1R,2S)-1-フェニル-1-(2-メトキシ-6-ブロモキノリン-3-イル)-2-(1-ナフチル)-4-(ジメチルアミノ)ブタン-2-オール]は、現在標準的に使用されている抗結核薬よりも短期間で結核菌を除去することができ、多剤耐性結核菌に対しても有効性を示すことから注目を集めている(Science, 307, pp.223-227, 2005)。
【0003】
この化合物はそれぞれ4置換及び3置換された連続する2個の不斉炭素を有する特定の光学活性体であることから、複数の立体異性体のうち特定の光学活性体を選択的に製造する必要があるが、従来は立体制御を行うことなく骨格を構築し、マイナー成分として得られる所望の立体異性体を光学活性カラムを用いたHPLCにより単離する方法により製造されている(下記スキーム)。しかしながら、この方法は極めて非効率的な合成方法であり、しかも最終段階の分離操作を工業的に応用できないという問題がある。
【0004】
【化1】

【0005】
R207910の合成方法としては、シリルエノールエーテルを触媒的に不斉プロトン化して得られる下記の光学活性ケトンをキー化合物として用い、ジアステレオ選択的な触媒的アリル化反応(J. Am. Chem. Soc., 126, pp.8910, 2004)を経て2個の不斉中心を構築する合成方法が提案されている(日本薬学会第129年会、2009年、演題番号28P-am229、「抗結核薬R207910の効率的合成法の開発研究」)。この方法は触媒的に不斉中心を構築する点で従来法に比べて格段に効率的な合成方法であり、工業的にも応用可能な方法ではあるものの、キー化合物である光学活性ケトンの不斉収率の点で必ずしも満足できるものではない(下記の式中、MOMはメトキシメチル基、Meはメチル基、Etはエチル基、iPrはイソプロピル基、MeOHはメタノールを示す)。
【0006】
【化2】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Science, 307, pp.223-227, 2005
【非特許文献2】日本薬学会第129年会、2009年、演題番号28P-am229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は光学活性ケトンの効率的な製造を可能にする手段を提供することにある。より具体的には、抗結核薬として有用なR207910などの光学活性ジアリールメタン化合物を製造するために有用な光学活性ケトンを効率的に製造する手段を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、エノン化合物を触媒的に脱プロトン化及び不斉プロトン化して二重結合を転位させることにより、光学活性ジアリールメタン化合物の製造に有用な光学活性ケトン化合物を製造することができること、及びこの光学活性ケトン化合物をジアステレオ選択的に触媒的アリル化反応に付した後にさらに構造変換することにより、抗結核薬として有用なR207910などの光学活性ジアリールメタン化合物を極めて効率的に製造できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
【化3】

(式中、R1は置換基を有していてもよいアリール基を示し;R2は水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示し;R3は置換基を有していてもよいアルキル基を示すが、R3はR1が示すアリール基と結合して環を形成していてもよく;R4は置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示し;R5は置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示し;波線はR2が結合する二重結合の立体配置がZ配置若しくはE配置のいずれか、又は両者の混合物であることを示し;*を付した炭素原子はS配置又はR配置のいずれかの炭素原子を示す)で表されるケトン化合物の製造方法であって、下記の一般式(II):
【化4】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、及び波線は上記と同義である)で表されるエノン化合物に対して下記の一般式(III):
【化5】

(式中、R6は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Arはアリール基を示し、式中の立体表記は相対配置を示す)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)の存在下でオレフィンの不斉転位を行う工程を含む方法が提供される。
【0011】
上記発明の好ましい態様によれば、R1が置換基を有していてもよいフェニル基であり、R2が水素原子であり、R3が置換基を有していてもよいアルキル基であり、R3はR1が示す置換基を有していてもよいフェニル基と結合して環を形成していてもよく、R4が置換基を有していてもよいフェニル基であり、R5が置換基を有していてもよいアリール基であり、Arがフェニル基である上記の方法が提供され、さらに好ましい態様によれば、R1及びR3が結合してそれらが結合する炭素原子とともに置換基を有していてもよい2-ヒドロキシキノリン-3-イル基を示し、R2が水素原子であり、R4がフェニル基であり、R5がナフチル基であり、Arがフェニル基である上記の方法;及び金属錯体がイットリウム錯体である上記の方法が提供される。
【0012】
別の観点からは、オレフィンの不斉転位触媒であって、配位子として上記の一般式(III)で表される化合物を配位子として含む上記金属錯体からなる触媒、及び上記配位子として有用な上記一般式(III)で表される化合物が本発明により提供される。また、上記の触媒の調製に用いるための上記一般式(III)で表される化合物も本発明により提供される。
【0013】
さらに別の観点からは、(1R,2S)-1-フェニル-1-(2-メトキシ-6-ブロモキノリン-3-イル)-2-(1-ナフチル)-4-(ジメチルアミノ)ブタン-2-オールの製造方法であって、下記の一般式(IIA):
【化6】

(式中、R11は保護基を示し、波線はフェニル基が結合する二重結合の立体配置がZ配置若しくはE配置のいずれか、又は両者の混合物であることを示す)で表される化合物から下記の一般式(IA):
【化7】

(式中、R11は上記定義と同義であり、式中の立体配置は絶対配置を示す)で表される化合物をオレフィンの不斉転位反応により製造する工程であって、該反応を下記の式(IIIA):
【化8】

(式中、Phはフェニル基を示し、式中の立体表記は絶対配置を示す)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)、好ましくはイットリウム錯体の存在下で行う工程を含む方法が提供される。
【0014】
また、(1R,2S)-1-フェニル-1-(2-メトキシ-6-ブロモキノリン-3-イル)-2-(1-ナフチル)-4-(ジメチルアミノ)ブタン-2-オールの製造方法であって、下記の工程:
(a)一般式(IIA)で表される化合物から一般式(IA)で表される化合物をオレフィンの不斉転位反応により製造する工程であって、該反応を式(IIIA)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)、好ましくはイットリウム錯体の存在下で行う工程;及び
(b)上記工程(a)で得られた化合物(IA)を触媒的アリル化反応により下記の一般式(IV):
【化9】

(式中、R11は上記定義と同義であり、式中の立体配置は絶対配置を示す)で表される化合物に変換する工程
を含む方法が提供される。
【0015】
上記の製造方法の好ましい態様として、工程(b)の触媒的アリル化反応を2-アリル-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロランを用いて行う上記の方法;銅化合物の存在下で行う上記の方法;銅化合物がCuF・3PPh3・xEtOH(x = 1〜3)である上記の方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、エノン化合物を触媒的に脱プロトン化及び不斉プロトン化して二重結合を転位させることにより、光学活性ジアリールメタン化合物の製造に有用な光学活性ケトン化合物を効率的に製造することができる。この光学活性ケトン化合物をジアステレオ選択的に触媒的アリル化反応に付した後にさらに構造変換することにより、抗結核薬として有用なR207910などの光学活性ジアリールメタン化合物を極めて効率的に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、上記一般式(II)で表されるエノン化合物からオレフィンの不斉転位反応により上記一般式(I)で表されるケトン化合物を製造する方法であり、上記の反応を一般式(III)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)の存在下で行うことを特徴としている。
【0018】
上記一般式(I)において、R1は置換基を有していてもよいアリール基を示す。本明細書ににおいて「アリール基」は単環性アリール基又は縮合多環性アリール基のいずれであってもよく、アリール環は環構成ヘテロ原子(窒素原子、酸素原子、又はイオウ原子など)を1個又は2個以上含んでいてもよい。R1が示すアリール基として好ましくはフェニル基を用いることができる。
【0019】
R1が示すアリール基は置換基を有していてもよい。本明細書においてある官能基について「置換基を有していてもよい」と言及する場合には、該官能基が任意の置換基を任意の位置に1個又は2個以上有する場合があることを意味している。2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば炭素数1〜6個程度のアルキル基、炭素数1〜6個程度のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基などを例示することができるが、これらに限定されることはない。本明細書において「アルキル基」は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、アルキル部分を有する他の置換基(例えばメトキシ基など)におけるアルキル部分についても同様である。置換基として保護基を用いてもよい。例えばアミノ基の保護基やヒドロキシ基の保護基などを有していてもよい。
【0020】
R1が示すアリール基が置換基を有する場合の例として、R1がo-アミノフェニル基(該アミノ基は保護されていてもよい)を示す場合を挙げることができるが、この特定の態様に限定されることはない。アミノ基の保護基としては、例えばベンジル基、ベンゾイル基、メトキシメチル基などを用いることができるが、これらに限定されることはない。アミノ基の保護基については、例えばGreenらのProtective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。
【0021】
R2は水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R2が示すアルキル基としては炭素数1〜6個程度のアルキル基を用いることができる。R2としては水素原子が好ましい。
【0022】
R3は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R3が示すアルキル基としては炭素数1〜6個程度のアルキル基を用いることができる、例えばメチル基などが好ましい。R3が示すアルキル基上の置換基としては、例えばヒドロキシ基、オキソ基、アルコキシ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0023】
R3はR1が示すアリール基と結合して環を形成していてもよい。例えば、一般式(I)で表される化合物においては、R1及びR3が結合して、それらが結合する炭素原子とともに2-ヒドロキシキノリン-3-イル基を示す場合などを例示することができる。このようにして形成される2-ヒドロキシキノリン-3-イル基のキノリン環における1位窒素原子はアミノ基の保護基により保護されていてもよい。保護基としては、例えばベンジル基、ベンゾイル基、メトキシメチル基などを用いることができるが、これらに限定されることはない。アミノ基の保護基については、例えばGreenらの上記成書を参照することができる。2-ヒドロキシキノリン-3-イル基のキノリン環における1位窒素原子が保護されている場合、2-ヒドロキシキノリン-3-イル基は異性化して1,2-ジヒドロ-2-オキソキノリン-3-イル基となることは当業者に自明である。
【0024】
また、一般式(II)で表される化合物においても同様にR1及びR3が結合して、それらが結合する炭素原子とともに2-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロキノリン-3-イリデン基を示す場合などを例示することができる。上記と同様にキノリン環における1位窒素原子はアミノ基の保護基により保護されていてもよい。2-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロキノリン-3-イリデン基のキノリン環における1位窒素原子が保護されている場合、異性化して1,2,3,4-テトラヒドロ-2-オキソキノリン-3-イリデン基となることも当業者に自明である。
【0025】
R4は置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示すが、好ましくは置換基を有していてもよいアリール基を示し、さらに好ましくは置換基を有していてもよいフェニル基を示し、特に好ましくは無置換フェニル基を示す。R5は置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示すが、好ましくは置換基を有していてもよいアリール基を示し、より好ましくはナフチル基を示し、さらに好ましくは1-ナフチル基を示す。
【0026】
本明細書において、化学式中の波線は波線で結合した置換基に関して二重結合の立体配置がZ配置若しくはE配置のいずれか、又は両者の混合物であることを示す。また、本明細書において「*」を付した炭素原子はS配置又はR配置のいずれかの炭素原子を示す。もっとも、本発明の方法において、「*」を付した炭素原子に関して所望の立体配置の炭素原子を有する化合物とともに、逆の立体配置の炭素原子を有する化合物が少量生成することがあるが、このような場合も本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【0027】
一般式(III)で表される化合物において、R6は炭素数1〜4のアルキル基を示すが、好ましくはメチル基を用いることができる。2個のArは同一のアリール基を示すが、好ましくはフェニル基を示す。一般式(III)で表される化合物の化学式における立体表記は相対配置を示しており、一般式(I)で表される化合物にける所望の立体配置に応じて、いずれかのエナンチオマーを適宜選択することができる。一般式(III)で表される化合物の製造方法を本明細書の実施例に具体的に示した。従って、当業者は本明細書の実施例を参照しつつ、出発原料、反応試薬、及び反応条件などを適宜選択することにより、一般式(III)に包含される所望の化合物を容易に製造することができる。
【0028】
本発明の方法では、一般式(III)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)の存在下で一般式(II)で表される化合物におけるオレフィンを不斉転位させるが、上記金属錯体は一般的には反応系内で調製すればよい。金属錯体を構成する金属としては、希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる金属を用いることができる。希土類元素としては、例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、及びランタノイドに属する15元素(原子番号57〜71の15元素:ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu))を挙げることができる。金属としては、好ましくはイットリウムを用いることができる。
【0029】
例えば金属としてイットリウムを用いる場合には、イットリウム錯体の調製に用いるイットリウム化合物の種類は特に限定されないが、例えばイットリウムトリスヘキサメチルジシラザン [Y(HMDS)3]などを好適に用いることができる。反応系内ではイットリウムと配位子の比率が2:3の錯体が形成されることが確認されているので、イットリウム錯体の調製にあたってはイットリウム化合物に対して配位子として用いる上記一般式(III)で表される化合物を約2:3の比率となるように用いることが好ましい。
【0030】
反応は一般的には-78℃から0℃の間、好ましくは-50℃程度の温度で行うことができる。反応溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン(THF)などのエーテル系溶媒が好ましいが、他の溶媒を用いることが好ましい場合もある。反応を行う際して、N-オキシド化合物を添加することにより光学収率を改善できる場合があり、一般的にはN-オキシド化合物を用いることが好ましい。N-オキシド化合物としては、例えばパラメトキシピリジンオキシドなどのN-ピリジンオキシド類を用いることができるが、特に好ましいのはパラメトキシピリジンオキシドである。また、上記反応は好ましくはテトラブチルアンモニウムクロリドの存在下で行うことができる。反応時間は一般的には数時間から数日程度である。
【0031】
上記の反応を用いて、(1R,2S)-1-フェニル-1-(2-メトキシ-6-ブロモキノリン-3-イル)-2-(1-ナフチル)-4-(ジメチルアミノ)ブタン-2-オールの製造のために極めて有用なキー化合物である上記一般式(IA)で表される化合物を一般式(IIA)で表される化合物から効率的に製造することができる。一般式(IA)及び(IIA)においてR11はアミノ基の保護基を示す。アミノ基の保護基としては、例えばGreenらの成書に記載された保護基を用いることができ、例えばベンジル基、ベンゾイル基、メトキシメチル基などを用いることができるが、メトキシメチル基が特に好ましい。一般式(IIA)で表される化合物は、例えば実施例に具体的に示した方法に従って、公知の化合物から容易に製造することができる。
【0032】
上記の一般式(IA)で表される化合物を製造するためには、所望の立体配置の化合物が得られるように、上記金属錯体の調製にあたり一般式(IIIA)で表される化合物(式中の立体表記は絶対配置を示す)を用いる必要がある。反応は上記と同様にして行うことができ、極めて高い光学収率で目的物である一般式(IA)で表される化合物を製造することができる。
【0033】
続いて、得られた一般式(IA)で表される化合物を触媒的アリル化反応に付して上記一般式(IV)で表される化合物を収率よく製造することができる。触媒的アリル化反応は、基本的には日本薬学会第129年会、2009年、演題番号28P-am229において報告されている方法に従って、J. Am. Chem. Soc., 126, pp.8910, 2004に記載されたアリル化試薬を用いて行うことができ、下記表1に示された各種条件を適宜選択することにより反応を行うことができる。本明細書の実施例に示したように、条件を最適化することにより選択性(dr)は10/1以上、好ましくは13/1以上に改善する場合がある。
【0034】
【表1】

【0035】
上記の方法により得られた一般式(IV)で表される化合物から(1R,2S)-1-フェニル-1-(2-メトキシ-6-ブロモキノリン-3-イル)-2-(1-ナフチル)-4-(ジメチルアミノ)ブタン-2-オールへの化学変換は、例えば日本薬学会第129年会、2009年、演題番号28P-am229において報告されている方法に従って、キノリン環1位の脱保護、アリル基末端へのヒドロキシ基の導入、臭素原子の導入、2-ヒドロキシキノリンのヒドロキシ基の選択的メチル化、及びジメチルアミノ基の導入により行うことができる。これらの反応の詳細は以下の実施例に具体的に示した。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。実施例中の略号は以下のとおりである。Me: メチル基、Et: エチル基、i-Pr: イソプロピル基、Bu: ブチル基、t-Bu: ターシャリーブチル基、Ph: フェニル基、MeOH: メタノール、EtOH: エタノール。
【0037】
【化10】

【0038】
Pd(PPh3)2Cl2 (4.2 g, 6 mmol) とCuI (571 mg, 3 mmol)を反応容器に秤り取り、テトラヒドロフラン(THF, 230 mL)を加えた。この溶液にi-Pr2NH (42 mL, 300 mmol)、ヨウ化ナフチル2 (21.9 mL, 150 mmol)、化合物3 (19.8 mL, 180 mmol)を順次加え、室温で10分間攪拌した。原料消失をTLCで確認した後、反応液にシリカゲルを加え、懸濁液をそのままシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/10)精製をおこない、化合物4を褐色オイルとして得た(34.2 g, 100%)。
【0039】
【化11】

【0040】
化合物4 (34.2 g, 150 mmol)とPdCl2 (5.3 g, 30 mmol)にジメチルスルホキシド(DMSO, 500 mL)を室温で加え、130℃で24時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、水を加え、生成物をエーテルで抽出した。エーテル層を水と飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒濃縮により粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=7/1→4/1)、化合物5を褐色ないしオレンジ色の粉末として得た(39.0 g, 100%)。
【0041】
【化12】

【0042】
化合物6 (14.7 g, 100 mmol)をTHF (300 mL)に溶解し、NaH (50% oil dispersion, 7.2 g, 150 mmol)とMOMCl (10.6 mL, 1.4 mmol)を氷冷下加えた。氷冷下で2時間攪拌した後、飽和重曹水を加え、5分間攪拌した。生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄、Na2SO4で乾燥、ろ過、溶媒留去により粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=7/1→2/1)、純粋な化合物7を得た(17.3 g, 91%)。
【0043】
【化13】

【0044】
ジイソプロピルアミン (8.1 mL, 57.6 mmol)をTHF (160 mL)に溶解し、BuLi (1.57 M ヘキサン溶液, 36.7 mL, 57.6 mmol)を氷冷下に加えた。1時間後、化合物7 (6.1 g, 32 mmol)をTHF 20 mLに溶解して氷冷下に加え、氷冷下1時間攪拌した。−78℃に反応液を冷却し、THF 25 mLに溶解した化合物5を30分以上かけて滴下した。4時間後に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を止め、生成物を酢酸エチルで2度抽出した後、集めた有機層を飽和食塩水で2回洗浄、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去により、粗生成物を得た。NMRから化合物8の収率を73%と決定した。粗生成物を少量の酢酸エチルに溶解し、ヘキサンを加えて結晶を晶出させ、ろ過により十分に純粋な化合物8を8 g得た。
【0045】
【化14】

【0046】
化合物8 (4.9 g, 10.9 mmol)をピリジン (109 mL)に溶解し、氷冷下塩化チオニル (15.8 mL)を加えた。30分後、反応液に飽和重曹水を氷冷下でゆっくりと加え、生成物を酢酸エチルで3回抽出した。有機層をあわせ、飽和食塩水で3回洗浄、Na2SO4乾燥の後、ろ過、溶媒留去により、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムで精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=100/0→3/1)、得られた化合物9と化合物10の混合物を酢酸エチル/ヘキサンから結晶化することで、十分に純粋な化合物9を2.6 g得た。
【0047】
【化15】

【0048】
反応容器にリガンド1(化合物1, 3.9 mg, 0.009 mmol)を秤り取り、イットリウムトリスヘキサメチルジシラザン [Y(HMDS)3, 0.06 M (THF溶液), 100 μL, 0.006 mmol]を室温で加え、1.5時間攪拌した。−50℃に冷却した後、化合物9 (26.1 mg, 0.06 mmol)のTHF溶液 (0.1 mL)、N-オキシド (0.38 mg, 0.003 mmol)のTHF溶液 (0.05 mL)、テトラブチルアンモニウムクロリドのTHF溶液 (0.0017 M THF溶液, 100 μL, 0.0012 mmol)を続けて加えた。28時間−50℃で攪拌した後、シリカゲルを加えて反応を止め、ろ過、酢酸エチル洗浄、溶媒留去により粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムで精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=100/0→4/1)、化合物10を得た(25 mg, 98%)。キラルHPLCにより化合物10のエナンチオマー過剰率を86% eeと決定した[OD-Hキラルカラム、溶出溶媒:イソプロパノール/ヘキサン=20/1、tR = 22.2 min (major), 28.0 min (minor) ]。
【0049】
【化16】

【0050】
よく乾燥した反応容器に、CuF・3PPh3・2EtOH (2.3 mg, 0.024 mmol), KOt-Bu (8.1 mg, 0.036 mmol), 塩化亜鉛 (32 mg, 0.24 mmol), PBu4BF4 (83 mg, 0.24mmol)を秤取り、THF 400 μLを加えた。これにアリルピナコールボロネート (180 μL, 0.48 mmol)と化合物10 (104 mg, 0.24 mmol)のTHF溶液 (800 μL)を室温で加え、2時間攪拌した。1 N塩酸を加えて反応を停止し、酢酸エチルで3回抽出した後、集めた有機層を重曹水と飽和食塩水で洗浄、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去により、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムで精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=100/0→4/1)、化合物11を得た(113mg, 99%)。[α]25D -7.6 (c = 0.5, CHCl3) (6% ee).
【0051】
【化17】

反応容器に入れたカテコールボロンブロミド (65.5 mg, 0.34 mmol)を−78℃に冷却し、化合物11 (32 mg, 0.067 mmol)の塩化メチレン溶液 (1 mL)を滴下した。1時間後に反応温度を0℃まで昇温し、さらに45分後に室温まで昇温した後、室温で30分間攪拌した。氷冷後、飽和重曹水で反応を停止し、生成物を酢酸エチルで3回抽出した。有機層をあわせ、飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去により粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムで精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=100/0→5/1)、化合物12を得た(24 mg, 83%)。[α]25D -13.2 (c = 0.5, CHCl3) (40% ee).
【0052】
【化18】

【0053】
化合物12 (65 mg, 0.15 mmol)をMeOH (9.5 mL)と水 (0.5 mL)の混合溶媒に溶解し、−78℃でオゾン(30 V)をバブリングした。TLCで原料消失を確認した後、酸素をバブリングして溶存したオゾンを置換し、水素化ホウ素ナトリウム (57 mg, 1.5 mmol)を加えた後に、氷冷で10分間反応させた。水を加えて反応を停止し、生成物を酢酸エチルで3回抽出した。有機層をあわせ、水と飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去によって粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムで精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=4/1→0/100)、目的物13を得た(42 mg, 65%)。[α]26D -45.4 (c = 0.88, MeOH) (40% ee).
【0054】
【化19】

【0055】
化合物13 (42 mg, 0.1 mmol)をジメチルホルムアミド(DMF, 1 mL)に溶解し、酢酸ナトリウム (232 mg, 2.9 mmol)とN-ブロモスクシンイミド (168 mg, 1.0 mmol)を室温で加えた。3.5時間後にチオ硫酸ナトリウム水溶液を0℃で加えて反応を停止し、生成物を酢酸エチルで3回抽出した後、有機層をあわせ、飽和食塩水で3回洗浄、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去により、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラム精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=4/1→0/100)、化合物14を得た(37 mg, 80%)。[α]26D -51.2 (c = 0.60, MeOH) (40% ee).
【0056】
【化20】

【0057】
化合物14 (22 mg, 0.046mmol)と炭酸銀 (117.8 mg, 0.46 mmol)を反応容器に秤取り、アセトニトリル (1.4 mL)とエタノール (50 μL)を加えた。ヨウ化メチル (80 μL, 1.4 mmol)を室温で加え、14時間攪拌した。シリカゲルを加えて反応を停止し、ろ過、酢酸エチル洗浄、溶媒留去により粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムにより精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=30/1→10/1)、化合物15を得た(6.5 mg, 33%)。[α]26D -37.6 (c = 0.65, CHCl3) (40% ee).
【0058】
【化21】

【0059】
ジオール15 (5.6 mg, 0.01 mmol)をピリジン (210 μL)に溶解し、ジメチルアミノピリジン (0.5 mg)とp-トルエンスルホニルクロリド (60.6 mg, 0.3 mmol)を室温で加えた。4時間後、水を加えて反応を停止し、生成物を酢酸エチルで3回抽出した。有機層をあわせ、飽和食塩水で洗浄、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去により、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムにより精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1→0/100)、化合物16を得た(3.2 mg, 50%)。[α]24D -54.9 (c = 0.3, CHCl3) (40% ee).
【0060】
【化22】

【0061】
化合物16 (3 mg, 0.0044 mmol)をDMF (0.13 mL)に溶解し、ジメチルアミン(50%水溶液、20 μL)を室温で加えた。1時間後40℃に昇温し、2時間攪拌した。水を加えて反応を停止し、生成物を酢酸エチルで3回抽出したのち、有機層をあわせ、水と飽和食塩水で洗浄、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去によって粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムにより精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1→1/1)、目的物R207910を得た(1.0 mg, 41%)。[α]26D -67.2 (c = 0.05, DMF) (40% ee).
【0062】
(b)リガンド1 (化合物1)の合成
【0063】
【化23】

【0064】
化合物16 (10.9 g, 100 mmol)をDMF (100 mL)に溶解し、イミダゾール (10.2 g, 150 mmol)とTIPSCl (27.8 mL, 130 mmol)を室温で加えた。14時間後、水を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。有機層をあわせ、水と飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去により粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムにより精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=4/1→0/100)、若干の不純物を含むO-TIPS体を得た(37.4 g)。
【0065】
得られたO-TIP体 610 mg (2.3 mmol)を塩化メチレン (3.8 mL)に溶解し、ピリジン (242 μL, 2.99 mmol)とo-ノシルクロリド (812 mg, 2.76 mmol)を氷冷下で加えた。45分後にピリジン (35 μL, 0.46 mmol)とo-ノシルクロリド (135 mg, 0.46 mmol)を再び氷冷下で加え、30分間攪拌した後、水を加えて反応を停止した。生成物を塩化メチレンで抽出した後、有機層を水と飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去により、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムにより精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)、化合物17を得た(762 mg, 71%)。
1H-NMR (CDCl3): 1.07 (d, J = 7.7 Hz, 18H), 1.28-1.36 (m, 3H), 6.80 (dd, J = 1.9, 7.8 Hz, 1H), 6.87-6.95 (m,2H), 7.62-7.69 (m, 3H), 7.84 (dd, J = 1.6, 7.8 Hz, 1H), 7.90 (s, 1H), 8.07 (dd, J = 1.6, 7.7 Hz, 1H).
【0066】
【化24】

【0067】
化合物17 (680 mg, 1.51 mmol)をTHF (5 mL)に溶解し、氷冷下、Ph3P (396 mg, 1.51 mmol)、DIAD (297 μL, 1.51 mmol)を加えた。20分間攪拌した後に、化合物18 (115 mg, 1.01 mmol)を加え、室温で反応させた。10.5時間後にPh3P (132 mg, 0.5 mmol)とDIAD (100 μL, 0.5 mmol)を再び氷冷下で加え、室温にて12時間反応させた。氷冷して水を加え反応を停止した後、生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄したのち、Na2SO4で乾燥させ、ろ過、溶媒留去により、粗生成物を得た。これを2回のシリカゲルカラムで精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1→4/1、ヘキサン/塩化メチレン=1/4→1/10)、化合物19を得た(449 mg, 81%)。
1H-NMR (CDCl3): 1.13 (d, J = 7.4 Hz, 18H), 1.31-1.42 (m, 7H), 1.69 (s, 0.3H), 1.92-2.03 (m, 1.7H), 3.02-3.11 (m, 1.6H), 3.77 (s, 0.4H), 4.53 (s, 1H), 6.79-6.88 (m, 2H), 6.95-7.05 (m, 2H), 7.55-7.60 (m, 2H), 7.64-7.67 (m, 1H), 7.74-7.87 (m, 1H):回転障害のために2つの配座由来のNMRピークが観測される。
【0068】
【化25】

【0069】
化合物19 (428 mg, 0.783 mmol)をアセトン (5.2 mL)に溶解し、炭酸カリウム (325 mg, 2.35 mmol)とPhSH (105 μL, 1.02 mmol)を室温で加えた。10時間後に水を加えて反応を停止し、生成物を酢酸エチルで抽出した。有機層を水と飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去によって、粗生成物を得た。シリカゲルカラムで精製したのち(溶出溶媒:ヘキサン/塩化メチレン=100/0→5/1)、ヘキサン洗浄により副生成物をろ取除去し部分的に精製された化合物20を得た(267 mg、<94%)。
1H-NMR (CDCL3): 1.12 (dd, J = 2.1, 10.2 Hz, 18H), 1.27-1.34 (m, 4H), 1.41-1.50 (m, 2H), 1.76-1.82 (m, 1H), 1.91-1.94 (m, 1H), 2.10-2.15 (m, 1H), 3.09 (d, J =3.7 Hz, 1H), 3.20 (brs, 1H), 3.63-3.66 (m, 1H), 6.56-6.59 (m, 1H), 6.76-6.78 (m, 2H), 6.86-6.89 (m, 1H).
【0070】
【化26】

【0071】
化合物21 (191 mg, 0.528 mmol)をアセトニトリル (2.6 mL)に溶解し、ホルマリン (128 μL, 1.58 mmol), 酢酸 (151 μL, 2.64 mmol), NaBH3CN (66 mg, 1.05 mmol)を室温で加えた。1時間後水を加えて反応を停止し、生成物をエーテルで抽出した。有機層を水と飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去によって、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムにて精製し(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=30/1)、化合物21を得た(155 mg, 78%)。
1H-NMR (CDCl3): 1.14 (dd, J = 4.6, 7.3 Hz, 18H), 1.29-1.35 (m, 5H), 1.40-1.43 (m, 1H), 1.52-1.58 (m, 1H), 2.07-2.10 (m, 1H), 2.78 (s, 3H), 3.23 (s, 2H), 6.80-6.89 (m, 3H), 7.00-7.02 (m, 1H).
【0072】
【化27】

【0073】
化合物21 (155 mg, 0.413 mmol)をTHF (2.1 mL)に溶解し、Ph2PH (216 μL, 1.24 mmol)を加えて−78℃に冷却した。ここにBuLi (2.77 M ヘキサン溶液, 448 μL, 1.24 mmol)を加えて、室温に昇温し、1.5時間後に飽和塩化アンモニウム水溶液 (0.2 mL)と30%過酸化水素水 (187 μL, 1.65 mmol)を氷冷下加えた。10分後水を加えて、生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去によって、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムにて精製し(溶出溶媒:ヘキサン/アセトン/メタノール=5/1/0.1)、化合物22を得た(231 mg, 97%)。
1H-NMR (CDCl3): 1.07 (d, J =5.3 Hz, 18H), 1.25-1.49 (m, 5H), 1.68-1.82 (m, 4H), 2.45-2.52 (m, 1H), 2.62 (s, 3H), 3.16-3.21 (m, 1H), 3.85-3.90 (m, 1H), 6.80-6.89 (m, 3H), 7.04 (dd, J =1.9, 7.7 Hz, 1H), 7.40-7.49 (m, 6H), 7.79-7.82 (m, 2H), 7.90-7.95 (m, 2H).
【0074】
【化28】

【0075】
化合物22 (231 mg, 0.4 mmol)をTHF (2 mL)に溶解し、3HF・NEt3 (98 μL, 0.6 mmol)を氷冷下に加えた。室温にて45分間反応させた後、氷冷下飽和重曹水を加え、生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4乾燥、ろ過、溶媒留去によって、粗生成物を得た。これをイソプロパノールから再結晶にて精製し、化合物1 (リガンド1)を得た(116 mg, 69%)。
1H-NMR (CDCl3): 0.91-1.01 (m, 1H), 1.21-1.31 (m, 1H), 1.38-1.42 (m, 1H), 1.70-1.73 (m, 2H), 1.80-1.82 (m, 1H), 2.66 (s, 3H), 2.66-2.71 (m, 1H), 2.86-2.91 (m, 1H), 3.92-3.98 (m, 1H), 6.30 (s, 1H), 6.75-6.78 (m, 1H), 6.91 (dd, J = 1.6, 5.3 Hz, 1H), 6.96-7.03 (m, 2H), 7.50-7.55 (m, 4H), 7.58-7.64 (m, 2H), 7.74-7.79 (m, 4H), 8.82 (s, 1H).
【0076】
例2
例1に示した化合物9からオレフィン不斉転位反応による化合物10の合成をイットリウム錯体以外の金属錯体を用いて行った結果を以下の表2に示す。イットリウム錯体以外の金属錯体でも同様のオレフィン不斉転位反応が進行した。
【0077】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1は置換基を有していてもよいアリール基を示し;R2は水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示し;R3は置換基を有していてもよいアルキル基を示すが、R3はR1が示すアリール基と結合して環を形成していてもよく;R4は置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示し;R5は置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示し;波線はR2が結合する二重結合の立体配置がZ配置若しくはE配置のいずれか、又は両者の混合物であることを示し;*を付した炭素原子はS配置又はR配置のいずれかの炭素原子を示す)で表されるケトン化合物の製造方法であって、下記の一般式(II):
【化2】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、及び波線は上記と同義である)で表されるエノン化合物に対して下記の一般式(III):
【化3】

(式中、R6は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Arはアリール基を示し、式中の立体表記は相対配置を示す)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)の存在下でオレフィンの不斉転位を行う工程を含む方法。
【請求項2】
R1及びR3が結合してそれらが結合する炭素原子とともに置換基を有していてもよい2-ヒドロキシキノリン-3-イル基を示し、R2が水素原子であり、R4がフェニル基であり、R5がナフチル基であり、Arがフェニル基である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属錯体がイットリウム錯体である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
オレフィンの不斉転位触媒であって、配位子として請求項1に記載の一般式(III)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)からなる触媒。
【請求項5】
金属がイットリウムである請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
請求項1に記載の一般式(III)で表される化合物。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の触媒の調製に用いるための請求項1に記載の一般式(III)で表される化合物。
【請求項8】
(1R,2S)-1-フェニル-1-(2-メトキシ-6-ブロモキノリン-3-イル)-2-(1-ナフチル)-4-(ジメチルアミノ)ブタン-2-オールの製造方法であって、下記の一般式(IIA):
【化4】

(式中、R11は保護基を示し、波線はフェニル基が結合する二重結合の立体配置がZ配置若しくはE配置のいずれか、又は両者の混合物であることを示す)で表される化合物から下記の一般式(IA):
【化5】

(式中、R11は上記定義と同義であり、式中の立体配置は絶対配置を示す)で表される化合物をオレフィンの不斉転位反応により製造する工程であって、該反応を下記の式(IIIA):
【化6】

(式中、Phはフェニル基を示し、式中の立体表記は絶対配置を示す)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)の存在下で行う工程を含む方法。
【請求項9】
(1R,2S)-1-フェニル-1-(2-メトキシ-6-ブロモキノリン-3-イル)-2-(1-ナフチル)-4-(ジメチルアミノ)ブタン-2-オールの製造方法であって、下記の工程:
(a)請求項6に記載の一般式(IIA)で表される化合物から請求項6に記載の一般式(IA)で表される化合物をオレフィンの不斉転位反応により製造する工程であって、該反応を請求項6に記載の式(IIIA)で表される化合物を配位子として含む金属錯体(ただし該金属は希土類金属、アルカリ土類金属、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる)の存在下で行う工程;及び
(b)上記工程(a)で得られた化合物(IA)を触媒的アリル化反応により下記の一般式(IV):
【化7】

(式中、R11は上記定義と同義であり、式中の立体配置は絶対配置を示す)で表される化合物に変換する工程
を含む方法。
【請求項10】
金属錯体がイットリウム錯体である請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)の触媒的アリル化反応を2-アリル-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロランを用いて行う請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2011−168519(P2011−168519A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32891(P2010−32891)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】