説明

光学活性リン含有高分子化合物とその製造方法

【課題】各種光学活性な物質の分割剤や金属触媒支持体またはクロマトグラフ充填剤などとして有用な光学活性なリン含有アルケン重合体及びその製造方法の提供。
【解決手段】一般式(I)


(式中、リン原子上の絶対立体配置はR又はSのいずれかであり、nは1又はゼロを示す。RとRはそれぞれ異なるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基である)。で表わされる構成単位を含有する光学活性なリン含有アルケン重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な光学活性なリン含有アルケン重合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学構造中にリンを含む重合体としては、これまでにオレフィン性不飽和第三級ホスフィンオキシドを単独又は他のエチレン性不飽和化合物と重合させて得られる重合体(特許文献1参照)、ジアミノ置換リン又はそのオキシドで置換された共役ジエン系モノマー又はこれとアニオン共重合可能なモノマーとをアニオン重合触媒の存在下で重合させて得られるリン含有ポリマー(特許文献2参照)、ホスホン酸エステルから誘導される有機基をもつブタジエン化合物の重合体を含むリソグラフィー用反射防止膜形成組成物(特許文献3参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、光学活性なリン高分子は、リン置換基の強い配位能力による、各種光学活性な物質の分割剤や金属触媒支持体またはクロマトグラフ充填剤など、工業的に様々な用途を考えられるものであるが、これまで知られていなかった。
【0004】
【特許文献1】特公昭38−15491号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平3−95210号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開2004−205900号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、各種光学活性な物質の分割剤や金属触媒支持体またはクロマトグラフ充填剤などとして有用な光学活性なリン含有アルケン重合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これまで得られなかった光学活性なリン高分子を製造するために鋭意研究を重ねた結果、光学活性ビニルリン類単独又は他のアルケン類とを共重合させると、高分子量光学活性なリン重合体が生成することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
[1] 一般式(I)
【化1】

(式中、リン原子上の絶対立体配置はR又はSのいずれかであり、nは1又はゼロを示す。RとRはそれぞれ異なるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基である)。
で表わされる構成単位からなる、光学活性リン含有アルケン重合体。
[2] 一般式(II)
【化2】

(式中、リン原子上の絶対立体配置はR又はSのいずれかであり、nは1又はゼロを示す。aとbは、各構成単位の繰り返し数であり、ゼロ以外の任意の数字を表す。RとRはそれぞれ異なるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基であり、Rは水素原子又は同一若しくは異なる直鎖状炭化水素基を、Rは水素又は置換されていてもよい炭化水素基を示す)。
で表わされる構成単位からなる、光学活性リン含有アルケン重合体。
[3]一般式(III)
【化3】

(式中、リン原子上の絶対立体配置は、R又はSのいずれかであり、n、RとRは前記と同じ)
で表される光学活性リン含有ビニル化合物を重合させることを特徴とする請求項1に記載光学活性リン含有アルケン重合体の製造方法。
[4] 前記一般式(III)で表される光学活性リン含有ビニル化合物と下記一般式(IV)
【化4】

(RとRは前記と同じ)
で表されるアルケン類を共重合させることを特徴とする請求項2に記載の光学活性リン含有アルケン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る新規な光学活性リン含有アルケン重合体は、各種光学活性な物質の分割剤や金属触媒支持体またはクロマトグラフ充填剤などとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る重合体は二種類あり、その一つは、リン原子上の絶対立体配置がR又はSのいずれかである、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するものである。
【化1】

一般式(I)において、R及びRは、アルキル基好ましくは炭素数1〜4の低級アルキル基、例えばメチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、イソブチル基などであるか、アリール基好ましくはフェニル基、トリル基、キシリル基などであるか、又はアラルキル基好ましくはベンジル基、フェネチル基など、及びこれらのアルキル基、アリール基又はアラルキル基をもつアルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基である。nは1又はゼロである。
【0010】
本発明に係る重合体のもう一つは、リン原子上の絶対立体配置がR又はSのいずれかである、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を有するものである。
【化2】

一般式(II)において、nは1又はゼロを示す。aとbは、各構成単位の繰り返し数であり、ゼロ以外の任意の数字を表し、好ましくはaは0.1〜20の数字であり、bは80〜99の数字である。RとRは前記と同じ。Rは水素原子又は同一若しくは異なる直鎖状炭化水素基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基例えばメチル基、エチル基、n‐プロピル基、n‐ブチル基である。Rは水素又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。置換されてよい炭化水素基としては、フェニル基、シアノ基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基等が挙げられる。
本発明に係る前記一般式(I)及び(II)で示される高分子化合物の分子量に特に制限はないが、通常、1000〜1000000である。
【0011】
本発明の前記一般式(I)で示されるリン含有アルケン重合体は、たとえば、一般式
(III)
【化3】

(式中、リン原子上の絶対立体配置は、R又はSのいずれかであり、n、RとRは前記と同じ)

で表わされるリン含有アルケン化合物を重合することによって製造することができる。
また、本発明の前記一般式(II)で示されるリン含有アルケン重合体は、前記一般式(III)で表わされるリン含有アルケン化合物と、前記一般式(IV)で示されるアルケン類を共重合することによって製造することができる。
【0012】
上記の一般式(II)で表わされるリン含有アルケン化合物の例としては、(Rp)―メントキシビニルフェニルホスフィナート、(Sp)―メントキシビニルフェニルホスフィナート、(Rp)―tert-ブチルビニルフェニルホスフィンオキシド、(Sp)―tert-ブチルビニルフェニルホスフィンオキシド、(Rp)―ノルマルブチルビニルフェニルホスフィンオキシド、(Sp)―ノルマルブチルビニルフェニルホスフィンオキシド、(Rp)―メチルフェニルビニルホスフィンオキシド、(Sp)―メチルフェニルビニルホスフィンオキシド、(Rp)―tert-ブチルビニルフェニルホスフィン、(Sp)―tert-ブチルビニルフェニルホスフィンオを挙げることができる。
また、一般式(IV)で示されるアルケン類の例として、スチレン、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メチールメタアクリレート、アクリル酸、メタアクリル酸などを挙げることができる。
【0013】
上記の一般式(III)で表わされるリン含有アルケン化合物又はこれらの混合物、またはこれらと一般式(IV)で表されるアルケン類との重合反応は、単に加熱のみによっても進行するが、効率よく重合させるには、ラジカル重合開始剤やアニオン開始剤の存在下で反応させることが必要である。
また、一般式(III)で表わされるリン含有アルケン化合物又はこれらの混合物、上記一般式(IV)で表されるアルケン類との重合反応においては、リン含有アルケン化合物とアルケン類との使用割合は、任意でよいが、好ましくは1〜1000である。
【0014】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化物触媒例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酢酸、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシドやアゾ系触媒例えばアゾビスイソブチロニトリルなどが好ましい。これらの重合開始剤は、単量体のリン含有アルカジエン化合物に基づき0.1〜50モル%、好ましくは1〜5モル%の範囲で用いられる。
【0015】
アニオン開始剤としては、グリニャール化合物や有機リチウム化合物等が好ましい。グリニヤール試薬としては、例えば、メチルマグネシウムハライド、n‐ブチルマグネシウムハライド、t‐ブチルマグネシウムハライド、ビニルマグネシウムハライド、アリルマグネシウムハライド、ベンジルマグネシウムハライド、フェニルマグネシウムハライドなどが挙げられる。ここでハライドとはクロリド、ブロミド及びヨージドを意味する。
また、有機リチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、n‐ブチルリチウム、t‐ブチルリチウム、フェニルリチウムなどがある。
これらの重合開始剤は、単量体のモノマーに基づき0.1〜50モル%、好ましくは1〜5モル%の範囲で用いられる。
【0016】
この重合反応は、必ずしも必要ではないが、溶媒中で行うのが有利である。この溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素系溶媒や、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンのような環状エーテル系溶媒が好ましい。
【0017】
重合反応は、通常0℃ないし200℃、好ましくは室温ないし100℃の温度で行われる。
また、この重合反応は、大気中で行われるが、所望に応じ不活性雰囲気例えば窒素雰囲気中で行うこともできる。
重合は、通常30分ないし24時間で終了する。終了後、反応混合物から溶媒を留去し、水、希酸水溶液で洗浄したのち、真空乾燥すれば、所望の高分子量の光学活性高分子を95%以上の収率で得られる。
【実施例】
【0018】
次に実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0019】
実施例1
テトラヒドロフラン(THF)3.3mlに(Rp)−(−)メンチルフェニルビニルホスフィナート1グラムと触媒として3mol%のPhMgBrを加え、室温で20時間かきまぜながら重合反応させた。反応終了後、溶媒を留去し、残渣を先ず0.1M−塩酸2mlで、次に純水2mlずつで3回洗浄したのち、真空乾燥することにより、質量平均分子量(Mw)20,665、分子量分布(Mw/Mn)1.27の光学活性リン含有アルケン重合体を97%の収率で得た。
このものの旋光度は、[α]3.937(測定条件:24度、589nmナトリウムランプ、濃度c=0.508クロロホルム溶媒)。
【0020】
実施例2
トルエン0.3mlに(Rp)−(−)メンチルフェニルビニルホスフィナート0.3ミリモルと触媒としてAIBNを5モル%を加え、110度で20時間かきまぜながら重合反応させた。反応終了後、溶媒を留去し、残渣を先ず0.1M−塩酸2mlで、次に純水2mlずつで3回洗浄したのち、真空乾燥することにより、質量平均分子量(Mw)20,470、分子量分布(Mw/Mn)1.24の光学活性リン高分子を95%の収率で得た。
【0021】
実施例3
スチレンと(Rp)−(−)メンチルフェニルビニルホスフィナートの混合物(スチレン/リン化合物=10/1)のTHF溶液(スチレンに対して4M)にスチレン基準で5モル%のAIBNを加え、70度46時間加熱したところ、共重合高分子が43%の収率で得られた。a/b = 1/23、Mw = 32352, Mw/Mn = 1.50.
【0022】
実施例4
スチレンの代わりに、酢酸ビニルを用い、実施例3の条件で反応を行ったところ、共重合高分子が100%の収率で得られた。a/b = 1/10、Mw = 17021, Mw/Mn = 1.35。
【0023】
実施例5
スチレンの代わりに、メチルアクリレートを用い、実施例3の条件で反応を行ったところ、共重合高分子が92%の収率で得られた。a/b = 1/10、Mw = 57018, Mw/Mn = 2.92。
【0024】
実施例6
スチレンの代わりに、アクリロニトリルを用い、実施例3の条件で反応を行ったところ、共重合高分子が90%の収率で得られた。a/b = 1/10、Mw = 27711, Mw/Mn = 1.82。
【0025】
実施例7
スチレンの代わりに、メタメチルアクリレートを用いを用い、実施例3の条件で反応を行ったところ、共重合高分子が66%の収率で得られた。a/b = 1/15、Mw = 86571, Mw/Mn = 1.36。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の光学活性なリン含有アルケン重合体は、光学活性化合物の分割や光学活性化合物の分析のためのクロマトグラフィー及び不斉触媒担持体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、リン原子上の絶対立体配置はR又はSのいずれかであり、nは1又はゼロを示す。RとRはそれぞれ異なるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基である)。
で表わされる構成単位からなる、光学活性リン含有アルケン重合体。
【請求項2】
一般式(II)
【化2】

(式中、リン原子上の絶対立体配置はR又はSのいずれかであり、nは1又はゼロを示す。aとbは、各構成単位の繰り返し数であり、ゼロ以外の任意の数字を表す。RとRはそれぞれ異なるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基であり、Rは水素原子又は同一若しくは異なる直鎖状炭化水素基を、Rは水素又は置換されていてもよい炭化水素基を示す)。
で表わされる構成単位からなる、光学活性リン含有アルケン重合体。
【請求項3】
一般式(III)
【化3】

(式中、リン原子上の絶対立体配置は、R又はSのいずれかであり、n、RとRは前記と同じ)
で表される光学活性リン含有ビニル化合物を重合させることを特徴とする請求項1に記載光学活性リン含有アルケン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(III)で表される光学活性リン含有ビニル化合物と下記一般式(IV)
【化4】

(Rは水素原子又は同一若しくは異なる直鎖状炭化水素基を、Rは水素又は置換されていてもよい炭化水素基を示す)
で表されるアルケン類を共重合させることを特徴とする請求項2に記載の光学活性リン含有アルケン重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−115278(P2008−115278A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299782(P2006−299782)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】