説明

光学活性体の製造方法

【課題】キラルな化学的試薬、あるいは円偏光等のキラルな物理力を用いることなく、一般的な化合物を用いた、水溶液中での絶対不斉合成反応を提供する。
【解決手段】亜硫酸水素ナトリウムとベンツアルデヒドとを、特定の時間に、室温、撹拌下、水溶液中で反応させて、下記で表される光学活性α−ヒドロキシベンゼンメタンスルホン酸ナトリウムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルな物理力あるいは化学的試薬を用いることなく、光学活性のα−ヒドロキシベンゼンメタンスルホン酸ナトリウムを得る、絶対不斉合成に関する。
【背景技術】
【0002】
生命を形づくり、生命活動を維持している生体物質の多くは、L体のアミノ酸、D体の糖などのように、2つの鏡像異性体のうち、一方のみに偏っていることが知られている。鏡像異性体におけるこのような偏り、非対称(不斉)は、地球上に生命体が誕生する前に出現したと考えられている。
【0003】
素粒子間に働く力の一つである弱い核力におけるパリティー非保存が明らかにされ、すべての原子は本質的にキラルであり、通常の物質からできた鏡像異性体は厳密には安定性に差があることになるが、この差は極めてわずかであるため鏡像異性体の性質の違いには反映されず、差が増幅されるような機構があれば、一方の鏡像異性体に偏りが生じる可能性がありうるが、分子レベルでの不斉の起源を解明するには依然として隔たりが大きいといわれている。
【0004】
不斉の起源としてキラルな物理力、例えば、円偏光による不斉分解や不斉合成(例えば特許文献1、非特許文献1)は、最も可能性が大きいと考えられている。しかしながら、原始地球上には円偏光源がないといわれており、円偏光源をもつ地球外の宇宙空間での不斉を地球上の不斉の起源であるとする説も唱えられている。
【0005】
一方、キラルな物理力及びキラルな化学的試薬が全く存在しない反応条件下で、光学活性のない物質から光学活性な物質を合成する反応も検討されている。中でも、近年、不斉自己触媒反応が見出され、極微小の鏡像体過剰率の化合物から、他の不斉源の力を借りることなく自己増殖しつつ、その鏡像体過剰率を向上させる性質を利用し、一方の鏡像体異性体を過剰に生成させる方法が報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献2)。具体的には、2−置換−ピリミジン−5−カルボキシアルデヒドに、有機溶媒中、ジイソプロピル亜鉛を反応させて、一方の鏡像体異性体を過剰に生成させる方法であるが、本反応系は、鏡像異性体の濃度差(例えば、1ミリモルのラセミ体中には一方の鏡像異性体が6.7×10個程度過剰に存在している可能性があるといわれている。)を増幅する反応であり、望ましい鏡像異性体を選択的に生成できる可能性は低く、いかにして生命の発生以前に高い鏡像体過剰率を獲得したかについて合理的に説明するものであると言われている。
【0006】
また、物理力として、地球の重力場あるいは磁場等の影響と見られる報告もあるが(例えば、非特許文献3)、データの再現性に問題があったり、鏡像体異性体の過剰率が非常に低かったりするため、更なる検証が必要であるといわれている。
【特許文献1】特開2001−131093号公報
【特許文献2】特開平9−268179号公報
【非特許文献1】J.AM.Chem.Soc.1977 99 3622
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.2002 124 10010−10011、Tetrahedron:Asymmetry 2003 14 185−188、Org.Lett.2003 5 4337−4339
【非特許文献3】J.AM.Chem.Soc.1980 102 380−381、Electrochim.Acta 1986 31 127−130
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、キラルな物理力あるいはキラルな化学的試薬を用いることなく、一般的な化合物を用いた、水溶液中での絶対不斉合成反応を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、亜硫酸水素ナトリウムとベンツアルデヒドとの反応を検討中、特定の時間に反応を実施すると、驚くべきことに、光学活性体が得られることを見いだした。
すなわち本発明は、
(1)亜硫酸水素ナトリウムとベンツアルデヒドとを、特定の時間に反応させることを特徴とする、化2で表される光学活性α−ヒドロキシベンゼンメタンスルホン酸ナトリウムの製造方法、
を提供するものである。
【0009】
【化2】

【発明の効果】
【0010】
本発明によると、キラルな化学的試薬あるいは円偏光等のキラルな物理力を用いることなく、水溶液中で、絶対不斉合成反応が好適に進行する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いられる亜硫酸水素ナトリウム及びベンツアルデヒドは公知化合物であり、反応も、公知の条件が適用される(例えば、O.S.coll.vol.V p.437)。
生成物は、反応終了後、析出した結晶を濾取することにより単離される。
【0012】
地球上で最初にできた不斉有機化合物はアミノ酸であるともいわれている。また、分子雲における有機化合物の生成のシミュレーション実験において、アミノ酸、オキシカルボン酸等が生成することが確認されている。本発明においては、これら点を考慮し、水系で、特殊な化合物を用いることなく反応を実施することを目的に、亜硫酸水素ナトリウムとベンツアルデヒドとの反応という古典的な反応を選ぶこととした(なお、本反応系において、物理的に光学活性な光電磁場中で反応を行い、光学活性なマンデロニトリルを得た報告がある。:特開昭57−72953号公報、Proc.Hoshi Pharm.1985 21−29)。
その結果、実施例に見られる通り、本反応系においては、反応を実施する時間によって測定機器の計測精度(±0.002°)を超える旋光度を与えること、その旋光度は回転の方向が同じであること、が見いだされた。
反応を実施する時間については、十分な考察はできないが、4月の上旬、下旬、あるいは6月の上旬、下旬が可能性が高いと推察される。現在までの実験で、これらが地球自体の運動を含めてどのような力によって起こるのか、推測することは困難であるが、年によって得られる結果が異なっていることから、例えば、太陽の活動のように周期的なものである可能性を否定できない。
【0013】
また、本実験では、旋光度を測定中(約5分間)、ほぼ安定な旋光度を与えるもの、と、急激に旋光度が低下するもの、とが観察された。これらの結果についても考察は困難であるが、生成物自体の安定性に加え、単離精製方法等の問題があるものと推察している(旋光度が急激に低下するものを再測定したところ、同様に急激に低下したものの他に、割と安定な旋光度を与えた場合もあった。)。
【0014】
前述の通り、絶対不斉合成研究において、物理力の影響とされる報告がいくつか見られるが、再現性に問題があるとされていること、得られる鏡像異性体の過剰率が非常に低いこと、等により、怪しげなインチキ臭いデータとも言われており、また、条件によってはどちらか一方の過剰率が高くなればよいが、常にどっちかというのであれば、人間の手垢がつく以上、それを実証すること、本当に人為的な何か、外的な要因がないことを実現することは極めて難しい、といわれている(例えば、「キラル化学、不斉の起源から最先端不斉合成まで」、平成13年、69−70頁、(社)日本化学会化)。
本実験は、通常の実験室で通常の注意のもとに実施されたものであり(ただし、反応に供されたフラスコ、撹拌子等の実験器具類は、一定の数に限定された。)、測定された旋光度はきわめて小さく、かつ測定精度を越える旋光度が測定された割合もきわめて低く、さらに、常に同じ回転方向の旋光度を与えること、等を考慮すると、不斉源の汚染(試薬・溶媒等は考えられないが、器具等の表面あるいは外部からの汚染)がないことを証明することも、また、困難である。しかしながら、実験結果に大きなかたよりがみられることは、不斉源の汚染によるもの、と、断言することも困難である。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例における旋光度は、下記のいずれかの装置により、その10%水溶液を、100mmセルを用い、589nm(Naランプ)で測定したものである。
(1)堀場製作所製高速自動旋光計 SEPA−300形(測定精度±0.002)
1分おきに5回測定し、その平均値を旋光度とした。
(2)日本分光工業製Digital Polarimeter DIP−370
(測定精度±0.002)
約30秒おきに5回測定し、その平均値を旋光度とした。
【0016】
実施例
蒸留水25mlに亜硫酸水素ナトリウム(和光純薬製、試薬特級、亜硫酸水素ナトリウムとピロ亜硫酸ナトリウムとの混合物)5gを溶解し、室温、撹拌下、ベンツアルデヒド(和光純薬製、試薬特級)5mlを添加し、30−120分間、室温で撹拌した。
反応終了後、析出した結晶を濾取し、結晶をアセトン、エーテルで洗浄後、風乾することにより、α−ヒドロキシベンゼンメタンスルホン酸ナトリウムを得た。
融点>280℃
得られた化合物は、10%水溶液としてその旋光度を測定した。
結果を表1〜表3に示す。
【0017】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0017】
以上説明してきたように、本発明によると、キラルな化学的試薬、あるいは円偏光等のキラルな物理力を用いることなく、水溶液中での絶対不斉合成反応が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硫酸水素ナトリウムとベンツアルデヒドとを、特定の時間に反応させることを特徴とする、化1で表される光学活性α−ヒドロキシベンゼンメタンスルホン酸ナトリウムの製造方法。
【化1】


【公開番号】特開2010−30976(P2010−30976A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214664(P2008−214664)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(508255311)
【Fターム(参考)】