説明

光学活性1−置換―2―メチルピロリジンおよびその中間体の製造法

【課題】医薬中間体又は農薬中間体として有用な光学活性1,4−ペンタンジオール及び光学活性1−置換−2−メチルピロリジンを安価で入手容易な出発原料から、簡便且つ安価に製造できる方法を提供する。
【解決手段】安価に入手容易な5−ヒドロキシ−2−ペンタノンを不斉還元することにより、光学活性1,4−ペンタンジオールを製造する。更にこれをスルホニル化することにより光学活性スルホナート化合物に変換し、次いでアミンと反応させることにより、光学活性1−置換−2−メチルピロリジンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬及び農薬等の中間体として有用な光学活性1−置換―2−メチルピロリジンの製造法に関する。また、本発明は、該製造法において合成中間体として有用な光学活性1,4−ペンタンジオールの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学活性1−置換−2−メチルピロリジンの製造法としては以下の方法が知られている。
(1)L−プロリンから誘導されるL−プロリノールの水酸基を塩化チオニルでクロロ基に変換し、窒素原子をベンジルオキシカルボニル基により保護した後、水素化トリブチル錫を用いてラジカル的に還元することにより、(R)−1−ベンジルオキシカルボニル−2−メチルピロリジンを製造する方法(非特許文献1)。
(2)ラセミ体の2−メチルピロリジンを、酒石酸を用いて光学分割する方法(非特許文献2)。
【0003】
しかしながら、上記(1)の方法は工程が長く、毒性の高い錫化合物を使用している。また、上記(2)の方法は晶析を複数回繰り返す必要があるために操作が煩雑である。このように、いずれの方法も工業的に有利な方法とは言い難い。
【0004】
光学活性1,4−ペンタンジオールを原料として光学活性1−置換−2−メチルピロリジンに誘導すれば、上記の問題を解決して光学活性1−置換−2−メチルピロリジンを効率良く製造しうると考えられるが、従来の光学活性1,4―ペンタンジオールの製法はいずれも工業的に有利な方法とは言い難い。
【0005】
例えば、光学活性1,4−ペンタンジオールの製造法としては下記のような方法が報告されている。
(3)2,4,4−トリメチル−2−オキサゾリンとn−ブチルリチウムから調製したエノラートと、(S)−エピクロロヒドリンをカップリングさせた後、塩酸で加水分解し、次いで水素化リチウムアルミニウムで還元することにより(S)−1,4−ペンタンジオールを製造する方法(非特許文献3)。
(4)D−グルタミン酸を亜硝酸で処理することによりγ−ブチロラクトン−4−カルボン酸を製造し、カルボン酸をボラン−ジメチルスルフィド錯体でアルコールに還元し、次いで水酸基をトシル化した後、水素化リチウムアルミニウムで還元することにより(S)−1,4−ペンタンジオールを製造する方法(非特許文献4)。
(5)レブリン酸エステル(4−オキソペンタン酸エステル)のカルボニル基をパン酵母で還元し、次いで水素化リチウムアルミニウムで還元することにより(S)−1,4−ペンタンジオールを製造する方法(非特許文献5)。
(6)ラセミ体の1,4−ペンタンジオールの1位の水酸基をトリチル基により保護した後、リパーゼで不斉アシル化を行い、得られたエステル体とアルコール体の混合物からエステル体を分離した後、トシル酸で脱保護することにより(R)−1,4−ペンタンジオールを製造する方法(非特許文献6)。
【0006】
しかしながら、上記(3)及び(4)の方法は工程が長いうえ高価な試剤を多用する必要がある。上記(5)の方法は微生物による還元反応の収率が最大で60%と低い。また、上記(6)の方法はラセミ体の分割であるため非効率である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Org. Chem., 1989, 54, 209-216.
【非特許文献2】Acta. Pharm. Suec., 1978, 15, 255-263.
【非特許文献3】J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1994, 483-484.
【非特許文献4】J. Med. Chem., 1982, 25, 943-946.
【非特許文献5】Synthetic Communications, 1990, 20, 999-1010.
【非特許文献6】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 1996, 6, 71-76.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に鑑み、本発明の目的は光学活性1,4−ペンタンジオールの効率的な製造法を提供し、更には光学活性1,4−ペンタンジオールから簡便かつ効率的に光学活性1−置換−2−メチルピロリジンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、安価且つ入手容易な5−ヒドロキシ−2−ペンタノンを不斉還元することにより、光学活性1,4−ペンタンジオールを簡便に製造でき、更にこれをスルホニル化することにより光学活性スルホナート化合物に変換し、次いでアミンと反応させることにより、光学活性1−置換−2−メチルピロリジンを簡便に製造できる方法を開発するに至った。
【0010】
即ち本発明は、下記式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
で表される5−ヒドロキシ−2−ペンタノンを不斉還元することを特徴とする、下記式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性1,4−ペンタンジオールの製造法である。
【0015】
また本発明は、前記式(2)で表される光学活性1,4−ペンタンジオールをスルホニル化することにより、下記式(3):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R1は置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜12のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性ジスルホナート化合物に変換し、更にアミンと反応させることを特徴とする、下記式(4):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R2は水素原子、水酸基、メトキシ基、ベンジルオキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜12のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性1−置換−2−メチルピロリジンの製造法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、医薬中間体又は農薬中間体として有用な光学活性1,4−ペンタンジオール及び光学活性1−置換−2−メチルピロリジンを安価で入手容易な出発原料から、簡便且つ安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明で使用する出発原料、並びに生成物について説明する。
本発明の出発原料である5−ヒドロキシ−2−ペンタノンは下記式(1):
【0022】
【化5】

【0023】
で表される。本化合物は安価に調達可能であるが、更に安価で入手容易な下記式(5):
【0024】
【化6】

【0025】
で表される2−アセチル−γ−ブチロラクトンをリン酸、硫酸、硝酸、又はメタンスルホン酸等の酸存在下で加水分解することにより、簡便に製造することもできる。
【0026】
なお、前記式(1)で表される5−ヒドロキシ−2−ペンタノンは高濃度で保存すると自己脱水縮合により純度低下する場合があるが、前記式(5)で表される2−アセチル−γ−ブチロラクトンを酸加水分解して得られた前記化合物(1)の酸性水溶液、若しくは必要に応じて中和処理した水溶液を保存すれば、このような問題は発生せず、そのまま不斉還元反応の原料として使用することが可能である。
【0027】
次に、本発明の生成物である光学活性1,4−ペンタンジオールは、下記式(2):
【0028】
【化7】

【0029】
で表される。ここで、*は不斉炭素原子を表し、その絶対配置はR又はSである。ここでRは両対掌体のうちR体を過剰に含む全ての場合を表し、同様にSは両対掌体のうちS体を過剰に含む全ての場合を表す。
【0030】
次に、本発明の生成物である光学活性ジスルホナート化合物は、下記式(3):
【0031】
【化8】

【0032】
で表される。ここで、R1は置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜12のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基を表す。
【0033】
1として好ましくは、メチル基、エチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基等であり、更に好ましくはメチル基、又は4−メチルフェニル基である。*は前記に同じである。
【0034】
次に、本発明の生成物である光学活性1−置換−2−メチルピロリジンは、下記式(4):
【0035】
【化9】

【0036】
で表される。ここで、R2は水素原子、水酸基、メトキシ基、ベンジルオキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜12のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基を表す。
【0037】
2として好ましくは、水素原子、水酸基、メトキシ基、ベンジルオキシ基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、tert−ブチル基、アリル基、ベンジル基、1−フェネチル基、フェニル基、メトキシフェニル基等であり、更に好ましくはベンジル基である。*は前記に同じである。
【0038】
次に、前記式(1)で表される5−ヒドロキシ−2−ペンタノンを不斉還元することにより、前記式(2)で表される光学活性1,4−ペンタンジオールを製造する方法について説明する。本工程における不斉還元方法としては特に限定されず、光学活性化合物によって修飾されたヒドリド還元剤を用いて還元する方法、不斉遷移金属触媒存在下に水素化する方法、不斉遷移金属触媒存在下に水素移動型還元する方法、若しくは微生物、或いは微生物由来の酵素を用いて還元する方法等が挙げられる。
【0039】
具体的には、光学活性化合物によって修飾されたヒドリド還元剤としては、光学活性酒石酸と水素化ホウ素ナトリウムから調製される還元剤、光学活性オキサボロリジン誘導体とボランから調製される還元剤、光学活性ケトイミナト型コバルト錯体と水素化ホウ素ナトリウムとテトラヒドロフラン−2−メタノールから調製される還元剤、光学活性1,1’−ビ−2−ナフトールと水素化アルミニウムリチウムから調製される還元剤等が挙げられる。
【0040】
また、前記水素化又は水素移動型還元に用いる不斉遷移金属触媒としては、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、又は白金等の周期律表第VIII族元素の金属錯体が好ましく、錯体の安定性や入手容易さ、経済性の観点からルテニウム錯体がより好ましい。
【0041】
該金属錯体中の不斉配位子としてはホスフィン系配位子が好ましく、ホスフィン系配位子として好ましくは二座配位子である。二座配位子として好ましくは、BINAP(2,2’−ビスジフェニルホスフィノ−1,1’−ビナフチル);Tol−BINAP(2,2’−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ−1,1’−ビナフチル)等のBINAP誘導体;BDPP(2,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン);DIOP(4,5−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン;BPPFA(1−[1’,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルアミン);CHIRAPHOS(2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン);DEGPHOS(1−置換−3,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ピロリジン);DuPHOS(1,2−ビス(2,5−置換ホスホラノ)ベンゼン);DIPAMP(1,2−ビス[(o−メトキシフェニル)フェニルホスフィノ]エタン)等が挙げられる。
【0042】
前記不斉遷移金属触媒存在下に水素ガス、若しくは水素供与能を有する化合物、例えばイソプロパノール、蟻酸、又は蟻酸アンモニウム等を用いて不斉還元することが可能である。
【0043】
また、前記式(1)で表される5−ヒドロキシ−2−ペンタノンのカルボニル基を立体選択的に還元する活性を有する酵素源の存在下、前記式(1)のカルボニル基を立体選択的に還元することにより、前記式(2)で表される光学活性1,4−ペンタンジオールを製造することもできる。
【0044】
ここで、「酵素源」とは、上記還元活性を有する酵素自体はもちろんのこと、上記還元活性を有する微生物の培養物も含まれる。「微生物の培養物」とは、菌体を含む培養液、培養菌体、又はその処理物を意味する。ここで「その処理物」とは、例えば、粗抽出液、凍結乾燥菌体、アセトン乾燥菌体、又はそれら菌体の磨砕物等を意味する。さらにこれら酵素源は、公知の手段により固定化酵素あるいは固定化菌体の形態として用いることもできる。固定化は、当業者に周知の方法(例えば架橋法、物理的吸着法、包括法等)で行うことができる。
【0045】
本発明の酵素還元工程において、前記式(1)で表される化合物のカルボニル基を立体選択的に還元する活性を有する酵素源としては、キャンディダ(Candida)属、デボシア(Devosia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、又はロドトルラ(Rhodotorula)属からなる群から選ばれた微生物由来の酵素源が挙げられる。
【0046】
上記酵素源のうち、前記式(1)で表される化合物のカルボニル基をS選択的に還元する活性を有する酵素源としては、ロドコッカス・スピーシーズ(Rhodococcus sp.)、又はロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)等の微生物由来の酵素源が挙げられる。
【0047】
また、前記式(1)で表される化合物のカルボニル基をR選択的に還元する活性を有する酵素源としては、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・マリス(Candida malis)、又はデボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)等の微生物由来の酵素源が挙げられる。
【0048】
また、上記微生物由来の還元酵素の産生能を有する微生物としては、野生株又は変異株のいずれでもよい。あるいは細胞融合または遺伝子操作等の遺伝学的手法により誘導される微生物も用いることができる。遺伝子操作された本酵素を生産する微生物は、例えば、これらの酵素を単離及び/または精製して酵素のアミノ酸配列の一部または全部を決定する工程、このアミノ酸配列に基づいて酵素をコードするDNA配列を得る工程、このDNAを他の微生物に導入して組換え微生物を得る工程、及びこの組換え微生物を培養して、本酵素を得る工程を含有する方法により得ることができる(WO98/35025)。
【0049】
酵素源として用いる微生物の為の培養培地は、その微生物が増殖し得るものである限り特に限定されない。例えば、炭素源として、グルコース、シュークロース等の糖質、エタノール、グリセロール等のアルコール類、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸及びそのエステル類、菜種油、大豆油等の油類、窒素源として、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー、ふすま、酵母エキスなど、無機塩類として、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸一水素カリウム、リン酸ニ水素カリウムなど、他の栄養源として、麦芽エキス、肉エキス等を含有する通常の液体培地が使用することができる。培養は好気的に行い、通常、培養時間は1〜5日間程度、培地のpHが3〜9、培養温度は10〜50℃で行うことができる。
【0050】
本発明の還元反応は、適当な溶媒中に基質の5−ヒドロキシ−2−ペンタノン、補酵素NAD(P)H及び上記微生物の培養物またはその処理物等を添加し、pH調整下に攪拌することにより行うことができる。反応溶媒としては、通常、水や緩衝液等の水性媒体を用いるが、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒と水性媒体の2相系で反応を行うこともできる。
【0051】
反応条件は用いる酵素源や基質濃度等によって異なるが、通常、基質濃度は約0.1〜100重量%、好ましくは1〜60重量%であり、補酵素NAD(P)Hは基質に対して0.000001〜1倍モル量、好ましくは0.000001〜0.001倍モル量、反応温度は10〜60℃、好ましくは20〜50℃であり、反応のpHは4〜9、好ましくは5〜8である。反応時間は通常1〜120時間、好ましくは1〜72時間で行うことができる。基質は一括、または連続的に添加して行うことができる。反応はバッチ方式または連続方式で行うことができる。
【0052】
本発明の還元工程において、一般に用いられる補酵素NAD(P)H再生系を組み合わせて用いることにより、高価な補酵素の使用量を大幅に減少させることができる。代表的なNAD(P)H再生系としては、例えば、グルコース脱水素酵素及びグルコースを用いる方法が挙げられる。
【0053】
酵素源として、還元酵素遺伝子及びこの酵素が依存する補酵素を再生する能力を有する酵素(例えばグルコース脱水素酵素)の遺伝子を同一宿主微生物内に導入した形質転換微生物の培養物を用いて還元反応を行えば、別途補酵素の再生に必要な酵素源を調製する必要がないため、より低コストで光学活性1,4−ペンタンジオールを製造することができる。
【0054】
上記のような形質転換微生物としては、上記還元酵素をコードするDNA及び該酵素が依存する補酵素を再生する能力を有する酵素をコードするDNAを有するプラスミドで形質転換された形質転換微生物が挙げられる。ここで、補酵素を再生する能力を有する酵素としては、グルコース脱水素酵素が好ましく、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素がより好ましい。また、宿主微生物としては大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。
【0055】
より好ましくは、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae) IFO0705由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coli HB101 (pNTS1G)(受託番号FERM BP−5835、原寄託日平成9年2月24日)、キャンディダ・マリス(Candida malis) IFO10003由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coli HB101 (pNTFPG)(受託番号FERM BP−7117、原寄託日平成12年4月11日)、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina) IFO13584由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coli HB101 (pNTDRG1)(受託番号FERM BP−08458、原寄託日平成14年5月29日の国内寄託株をブダペスト条約に基づく国際寄託に移管)、ロドコッカス・スピーシーズ(Rodococcus sp.) KNK01由来の還元酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coli HB101 (pNTRS)(受託番号FERM BP−08545、原寄託日平成14年2月13日の国内寄託株をブダペスト条約に基づく国際寄託に移管)、又は、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis) IFO415由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coli HB101 (pNTRGG1)(受託番号FERM BP−7858、原寄託日平成14年1月22日)等が挙げられる。これらの形質転換微生物は、それぞれ、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている。
【0056】
なお、本発明の還元工程を、補酵素再生系と組み合わせて実施する、又は酵素源として上記形質転換微生物の培養物もしくはその処理物を用いる場合は、補酵素として、より安価な酸化型のNAD(P)を添加して反応を行うことも可能である。
【0057】
還元反応で生じた光学活性1,4−ペンタンジオールは、常法により精製することができる。例えば、微生物等を用いた場合には必要に応じ遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒で抽出し、有機溶媒を減圧下に除去することにより目的物が得られる。このようにして得られた目的物は、後続工程に使用できる十分な純度を有しているが、後続工程の収率、若しくは後続工程で得られる化合物の純度をさらに高める目的で、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な精製手法により、さらに純度を高めてもよい。
【0058】
次に、前記式(2)で表される光学活性1,4−ペンタンジオールをスルホニル化することにより、前記式(3)で表される光学活性ジスルホナート化合物に変換する工程について説明する。本工程は、塩基存在下にスルホニル化剤を用いることにより行うことができる。
【0059】
ここで、前記スルホニル化剤としては、ハロゲン化スルホニル、スルホン酸無水物等が挙げられる。ハロゲン化スルホニルとしては、塩化メタンスルホニル、塩化エタンスルホニル、塩化クロロメタンスルホニル、塩化ベンジルスルホニル、塩化ベンゼンスルホニル、塩化4−メチルベンゼンスルホニル、塩化4−クロロベンゼンスルホニル、塩化2−ニトロベンゼンスルホニル、塩化3−ニトロベンゼンスルホニル、塩化4−ニトロベンゼンスルホニル等が挙げられ、スルホン酸無水物としては、無水トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。好ましくは塩化メタンスルホニル、又は塩化4−メチルベンゼンスルホニルである。前記スルホニル化剤の使用量としては、好ましくは前記化合物(2)に対して2〜10倍モル量であり、更に好ましくは2〜4倍モル量である。
【0060】
また、前記塩基としては、特に制限されないが、第3級アミン類が好ましく、例えばトリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、N−メチルモルホリン、N−メチルピペリジン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。更に好ましくはトリエチルアミン、又はピリジンである。前記塩基の使用量としては、好ましくは前記化合物(2)に対して2〜100倍モル量であり、更に好ましくは2〜4倍モル量である。
【0061】
反応溶媒としては、塩基をそのまま反応溶媒として使用してもよいし、又はテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;ジメチルプロピレンウレア等のウレア系溶媒;ヘキサメチルホスホン酸トリアミド等のホスホン酸トリアミド系溶媒を用いてもよい。好ましくは、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、トルエンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合、混合比は特に制限されない。前記反応溶媒の使用量としては、前記化合物(2)に対し、好ましくは50倍重量以下、更に好ましくは5〜20倍重量である。
【0062】
反応温度は、反応時間短縮、及び収率向上の観点から−20〜150℃が好ましく、0〜100℃が更に好ましい。前記式(2)で表される光学活性1,4−ペンタンジオール、スルホニル化剤、塩基および溶媒の添加方法や、添加順序に特に制限はない。
【0063】
反応後の処理としては、反応液から生成物を取得するための一般的な処理を行えばよい。例えば、反応終了後の反応液に水、また必要に応じて水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液、或いは塩酸水溶液、硫酸水溶液等の酸水溶液を加えて中和し、一般的な抽出溶媒、例えば酢酸エチル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、トルエン、ヘキサン等を用いて抽出操作を行う。得られた抽出液から減圧加熱等の操作により、反応溶媒及び抽出溶媒を留去すると目的物が得られる。このようにして得られた目的物は、後続工程に使用できる十分な純度を有しているが、後続工程の収率、若しくは後続工程で得られる化合物の純度をさらに高める目的で、晶析、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な精製手法により、さらに純度を高めてもよい。
【0064】
次に、前記式(3)で表される光学活性ジスルホナート化合物をアミンと反応させることにより、前記式(4)で表される光学活性1−置換−2−メチルピロリジンを製造する工程について説明する。本工程は過剰のアミンと反応させるか、若しくは塩基存在下にアミンと反応させることにより行うことが出来る。
【0065】
ここで、前記アミンとしては例えば、アンモニア、ヒドロキシルアミン、メトキシアミン、ベンジルオキシアミン、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、tert−ブチルアミン、アリルアミン、ベンジルアミン、1−フェネチルアミン、アニリン、4−メトキシアニリン等が挙げられ、好ましくはベンジルアミンである。
【0066】
前記塩基としては例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、N−メチルモルホリン、N−メチルピペリジン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン等の第3級アミン類が挙げられる。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、又はピリジンである。
【0067】
前記アミンの使用量としては、好ましくは前記化合物(3)に対して1〜100倍モル量であり、更に好ましくは1〜10倍モル量である。前記塩基の使用量としては、好ましくは前記化合物(3)に対して1〜10倍モル量であり、更に好ましくは1〜5倍モル量である。
【0068】
反応溶媒としては、アミンをそのまま反応溶媒として使用してもよいし、又は水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;ジメチルプロピレンウレア等のウレア系溶媒;ヘキサメチルホスホン酸トリアミド等のホスホン酸トリアミド系溶媒を用いてもよい。好ましくは、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、トルエンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合、混合比は特に制限されない。前記反応溶媒の使用量としては、前記化合物(3)に対し、好ましくは50倍重量以下、更に好ましくは5〜20倍重量である。
【0069】
反応温度は、反応時間短縮、及び収率向上の観点から−20〜150℃が好ましく、0〜100℃が更に好ましい。前記式(3)で表される光学活性ジスルホネート化合物、アミン、塩基および溶媒の添加方法や、添加順序に特に制限はない。
【0070】
反応後の処理としては、反応液から生成物を取得するための一般的な処理を行えばよい。例えば、反応終了後の反応液に水、また必要に応じて水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液、或いは塩酸水溶液、硫酸水溶液等の酸水溶液を加えて中和し、一般的な抽出溶媒、例えば酢酸エチル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、トルエン、ヘキサン等を用いて抽出操作を行う。得られた抽出液から減圧加熱等の操作により、反応溶媒及び抽出溶媒を留去すると目的物が得られる。このようにして得られた目的物は、医薬、農薬等の合成中間体として十分な純度を有しているが、晶析、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な精製手法により、さらに純度を高めてもよい。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1) 光学活性1,4−ペンタンジオールの製造
表1に示す各種組換え大腸菌を500mL容坂口フラスコ中で滅菌した50mLの2×YT培地(トリペプトン 1.6%、イーストエキス 1.0%、NaCl 0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液1mLに5−ヒドロキシ−2−ペンタノン10mg、NAD又はNADP1mg、グルコース20mgを添加し、30℃で20時間攪拌した。反応終了後、反応液を酢酸エチル2mLにて抽出し、抽出液にトリフルオロ酢酸無水物を加えて誘導化した後、生成物のO−TFA誘導体を下記分析法に従い分析した。その結果を表1に示す。
[分析条件]
カラム:CHIRALDEX G−TA 20m×0.25mmI.D.(ASTEC社製)、カラム温度:80℃、スプリット比:100/1、キャリアーガス:He 40cm3/sec、検出:FID、試料:O−TFA誘導体
変換率(%)=生成物量/(基質量+生成物量)x100
光学純度(%ee)=(A−B)/(A+B)x100
(A及びBは対応する鏡像異性体量を表わし、A>Bである)。
【0073】
【表1】

【0074】
(実施例2) 5−ヒドロキシ−2−ペンタノンの製造
2−アセチル−γ−ブチロラクトン12.8g(100mmol)に5%リン酸水溶液100mLを加え、100℃、4時間攪拌した。室温まで冷却後、水酸化ナトリウム水溶液で中和することにより、5−ヒドロキシ−2−ペンタノン水溶液(130g、7.8重量%)を得た。
【0075】
(実施例3) (S)−1,4−ペンタンジオールの製造
組換え大腸菌HB101(pNTRGG1)受託番号FERM BP−7858を、500mL容坂口フラスコ中で滅菌した50mLの2×YT培地(トリペプトン 1.6%、イーストエキス 1.0%、NaCl 0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で20時間振とう培養した。得られた培養液50mLに、実施例2で得られた5−ヒドロキシ−2−ペンタノン2.5gを含む水溶液(32g)、NADP2.5mg、グルコース6.6gを添加し、7.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することによりpH6.5に調整しながら、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液に酢酸エチル50mLを加えて抽出し、有機層を減圧下で留去することにより、薄茶色油状物の(S)−1,4−ペンタンジオール2.6gを得た(収率:100%)。また、実施例1と同様の方法で光学純度を測定したところ、99%ee以上であった。
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ1.21(3H,d)、1.4−1.6(4H,m)、2.6−3.0(2H,brs)、3.67(2H,m)、3.86(1H,m)。
【0076】
(実施例4) (S)−1,4−ペンタンジオールの製造
組換え大腸菌HB101(pNTRS)受託番号FERM BP−08545を、500mL容坂口フラスコ中で滅菌した50mLの2×YT培地(トリペプトン 1.6%、イーストエキス 1.0%、NaCl 0.5%、硫酸亜鉛7水和物 50mg、pH=7.0)に接種し、30℃で40時間振とう培養した。得られた培養液50mLにグルコース脱水素酵素(天野エンザイム社製)1,000units、実施例2で得られた5−ヒドロキシ−2−ペンタノン5.0gを含む水溶液(64g)、NAD2.5mg、グルコース13.2gを添加し、7.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することによりpH6.5に調整しながら、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液に酢酸エチル100mLを加えて抽出し、有機相を減圧下で留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、油状の(S)−1,4−ペンタンジオール5.0gを得た(収率:100%)。また、実施例1と同様の方法で光学純度を測定したところ、99%ee以上であった。
【0077】
(実施例5) (S)−1,4−ビス(メタンスルホニルオキシ)ペンタンの製造
実施例3にて製造した(S)−1,4−ペンタンジオール2.5g(24mmol)、トルエチルアミン7.3g(72mmol)、酢酸エチル30mLからなる溶液を5℃に冷却し、塩化メタンスルホニル6.6g(58mmol)を加えて1時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液15mLを加えて洗浄し、有機層を更に水15mLで洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に溶媒を留去することにより、(S)−1,4−ビス(メタンスルホニルオキシ)ペンタンを淡黄色油状物として得た(6.1g、収率:98%)。
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ1.45(3H,d)、1.7−2.0(4H,m)、3.03(6H,s)、4.27(2H,m)、4.86(1H,m)。
【0078】
(実施例6) (R)−1−ベンジル−2−メチルピロリジンの製造
実施例5にて製造した(S)−1,4−ビス(メタンスルホニルオキシ)ペンタン2.49g(9.6mmol)とベンジルアミン5.13g(47.9mmol)を70℃、3時間攪拌した。酢酸エチル30mL、20重量%水酸化ナトリウム水溶液4.0gを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮することにより、黄色油状物を得た。このものをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、(R)−1−ベンジル−2−メチルピロリジンを淡黄色油状物として得た(1.83g、収率:100%)。
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ1.17(3H,d)、1.45(1H,m)、1.6−1.8(2H、m)、1.93(1H,m)、2.09(1H,dd)、2.38(1H,dq)、2.89(1H,dd)、3.13(1H,d)、4.02(1H,d)、7.2−7.4(5H,m)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(5):
【化1】

で表される2−アセチル−γ−ブチロラクトンを酸加水分解して、下記式(1):
【化2】

で表される5−ヒドロキシ−2−ペンタノンの酸水溶液を製造した後、当該化合物(1)を単離することなく酸水溶液のまま不斉還元反応に供するか、若しくは必要に応じて中和処理した水溶液を不斉還元反応に供することを特徴とする、下記式(2):
【化3】

(式中、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性1,4−ペンタンジオールの製造法。


【公開番号】特開2011−42660(P2011−42660A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216556(P2010−216556)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【分割の表示】特願2005−517417(P2005−517417)の分割
【原出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】