説明

光学活性2−ヒドロキシエステル化合物の製造方法

【課題】2−オキソエステル化合物を酵素還元して光学活性な2−ヒドロキシエステル化合物を製造する方法において、効率的に高い光学純度の光学活性な2−ヒドロキシエステル化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】式(1):
【化1】


(式中、Rは低級アルキル基を示す。)で表される2−オキソエステル化合物に、式(1)で表される2−オキソエステル化合物を不斉的に還元して式(2):
【化2】


(式中、Rは前記に同じ。*は光学活性な炭素原子であることを示す。)で表される光学活性2−ヒドロキシエステル化合物を生成する能力を有する酵素又は当該酵素を有する触媒を作用させることを特徴とする、式(2)で表される光学活性2−ヒドロキシエステル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性2−ヒドロキシエステル化合物の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸に代表される式(3):
【0003】
【化1】

で表される2−ヒドロキシ酢酸化合物は、認知障害治療薬等、医農薬の原料として重要な化合物であることが知られており(例えば、特許文献1又は非特許文献1参照。)、その製造方法としては、3−ピリジンカルボキシアルデヒドとシアン化カリウムを塩酸中で反応させる方法(例えば、非特許文献1参照。)が知られている。一方、近年ではその光学活性体が医農薬の合成原料として要望されているが(例えば、特許文献2参照)、前述の製造方法では光学活性体を得ることは困難であり、光学活性2−ヒドロキシ酢酸化合物の工業的に有利な製造法が望まれている。
【特許文献1】US5296478
【特許文献2】特開平8−205878号公報
【非特許文献1】J.Heterocycl.Chem.,35,145(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光学活性な医農薬の合成原料として重要な化合物である光学活性2−ヒドロキシ酢酸化合物に容易に誘導可能な、式(2):
【0005】
【化2】

(式中、Rは低級アルキル基を示し、*は光学活性な炭素原子であることを示す。)で表される光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(以下、光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)という。)の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、式(1):
【0007】
【化3】

(式中、Rは前記に同じ。)で表される2−オキソエステル化合物(以下、2−オキソエステル化合物(1)という。)に、酵素又は当該酵素を含む触媒を作用させ、高い光学純度の光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、2−オキソエステル化合物(1)に、2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する能力を有する酵素又は当該酵素を有する触媒を作用させることを特徴とする、光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)の製造方法(以下、本発明製造方法と記すこともある。)に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を提供でき、光学活性な医農薬の合成原料として有用な光学活性2−ヒドロキシ酢酸化合物を工業的に容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(1)及び(2)中、Rは直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜6の低級アルキル基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、tert−ブチル基等が例示される。
【0011】
2−オキソエステル化合物(1)としては、例えば2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸メチル、2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸エチル、2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸プロピル、2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸ブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸ヘキシル、2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸イソプロピル、2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸イソブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸sec−ブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸tert−ブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸メチル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸エチル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸プロピル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ヘキシル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸イソプロピル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸イソブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸sec−ブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸tert−ブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸メチル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸エチル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸プロピル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸ブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸ヘキシル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸イソプロピル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸イソブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸sec−ブチル、2−オキソ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸tert−ブチル等が挙げられる。
【0012】
光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)としては、例えば光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸メチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸エチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸プロピル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸ブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸ヘキシル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸イソプロピル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸イソブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸sec−ブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−2−イル)酢酸tert−ブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸メチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸エチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸プロピル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ヘキシル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸イソプロピル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸イソブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸sec−ブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸tert−ブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸メチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸エチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸プロピル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸ブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸ヘキシル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸イソプロピル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸イソブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸sec−ブチル、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−4−イル)酢酸tert−ブチル等が挙げられる。
【0013】
本発明製造方法において、2−オキソエステル化合物(1)に作用させる酵素(即ち、本酵素)又は本酵素を含む触媒(即ち、本触媒)とは、2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する能力を有するものであって、例えば、
(イ)NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)若しくはNADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を補酵素として要求する本酵素又は本触媒;
(ロ)本酵素又は本触媒が補酵素を要求するものであり、かつ本酵素又は当該触媒が、自らにより消費された補酵素を、電子受容体(酸化型補酵素)から電子供与体(還元型補酵素)に、不斉的な還元反応に付随しながら再生させる能力を有する本酵素又は本触媒;
等を挙げることができる。
【0014】
本酵素としては、通常キャンディダ(Candida)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、スポリディオボラス(Sporidiobolus)属、ヤロイア(Yarroiwa)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アスパルジーラス(Aspergillus)属、フサリウム(Fusarium)属、ジベレラ(Gibberella)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、ライフソニア(Leifsonia)属、エスシェリヒア(Escherichia)属からなる群より選ばれた微生物の菌体、培養物又はそれらの処理物を酵素源とした酵素が挙げられ、好ましくは、例えばキャンディダ・アンタルチカ(Candida antarctica)、クリプトコッカス・アルビダス(Cryptococcus albidus)、スポリディオボラス・サルモニコーラー(Sporidiobolus salmonicolor)、ヤロイア・リポリチカ(Yarroiwa lipolytica)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、ノカルディア・アステロイデス(Nocardia asteroides)、アスパルジーラス・ニガー(Aspergillusniger)、フサリウム・アングイオイデス(Fusarium anguioides)、ジベレラ・フジクロイ(Gibberella fujikuroi)、コリネバクテリウム・シュードジフテリティカム(Corynebacterium pseudodiphteriticum)、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)、ライフソニア・スピーシーズ(Leifsonia sp)、エスシェリヒア・コリ(Escherichia coli)からなる群より選ばれた微生物の菌体、培養物又はそれらの処理物を酵素源とした酵素であり、特に好ましくは、下記のアミノ酸配列群の中から選ばれるアミノ酸配列を有する酵素である。
【0015】
<アミノ酸配列群>
(a)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、かつ、2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する能力を有する酵素のアミノ酸配列
(c)配列番号2又は4で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列
(d)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列に相補性を有する塩基配列がコードするアミノ酸配列を有し、かつ、2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する能力を有する酵素のアミノ酸配列
(e)コリネバクテリウム属又はペニシリウム属に属する微生物由来の、2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する能力を有する酵素のアミノ酸配列
【0016】
ここで、上記(イ)に記載される「補酵素として要求する本酵素」又は上記(ロ)に記載される「補酵素を要求するもの」であることは、例えば、単離された本酵素を用いて補酵素の非存在下で、2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する能力を調べることにより確認すればよい。
【0017】
本酵素又は本触媒は、単離された蛋白質の形態であってもよいし、微生物等の細胞内に含まれた形態であってもよいし、当該細胞を処理することにより得られる細胞処理物のような形態であってもよい。さらに、本酵素を生産する形質転換体又はその処理物(以下、形質転換体処理物と記すこともある。)のような形態であってもよい。ここで「細胞処理物」又は「形質転換体処理物」としては、例えば、凍結乾燥細胞、有機溶媒処理細胞、乾燥細胞、細胞摩砕物、細胞の自己消化物、細胞の超音波処理物、細胞抽出物、細胞のアルカリ処理物等を挙げることができ、さらにこれら通常用いられる方法で固定化したもの(固定化物)等が挙げられる。
【0018】
本酵素又は本触媒は、天然に存在するものであっても、遺伝子工学的な手法を用いて作製された形質転換体により産生されるもの又はそれらから調製されるものであってもよい。尚、このような形質転換体を作製する際に用いられる、本酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(以下、本遺伝子と記すこともある。)は、天然に存在する遺伝子の中からクローニングされたものであってもよいし、天然に存在する遺伝子であっても、このクローニングされた遺伝子の塩基配列において、その一部の塩基の欠失、置換又は付加が人為的に導入されてなる遺伝子、即ち、天然に存在する遺伝子を変異処理(部分変異導入法、突然変異処理等)を行ったものであってもよいし、人為的に合成されたものであってもよい。
【0019】
ここで、前記(b)にある「アミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」や前記(d)にある「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列に相補性を有する塩基配列がコードするアミノ酸配列」には、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する酵素が細胞内で受けるプロセシング、該酵素が由来する生物の種差、個体差、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異等が含まれる。
【0020】
前記(b)「(アミノ酸が)欠失、置換若しくは付加(された)」(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441−9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
【0021】
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個、又はそれ以上である。かかる改変の数は、2−オキソエステル化合物(1)を2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する能力を見出すことのできる範囲であればよい。
【0022】
また前記欠失、置換若しくは付加のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、[1]グリシン、アラニン;[2]バリン、イソロイシン、ロイシン;[3]アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;[4]セリン、スレオニン;[5]リジン、アルギニン;[6]フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
【0023】
本発明において「(アミノ酸が)欠失、置換若しくは付加(された)」には、例えば、2つの蛋白質間のアミノ酸配列に関する高い配列同一性(具体的には、80%以上の配列同一性、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性)が存在している必要がある。また「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」には2つのDNA間の塩基配列に関する配列同一性(具体的には、80%以上の配列同一性、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性)が存在している必要がある。
【0024】
ここで「配列同一性」とは、2つのDNA又は2つの蛋白質間の配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のDNA又は蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res.,22(22):4673−4680(1994)を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYX−MACや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ddbj.nig.ac.jpにおいて、一般的に利用可能である。
【0025】
前記(d)にある「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)に記載される方法や、「クローニングとシークエンス」(渡辺格監修、杉浦昌弘編集、1989年、農村文化社発行)に記載されているサザンハイブリダイゼーション法等の通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(900mM NaCl、90mM クエン酸三ナトリウムを含む溶液。尚ここでは、NaCl175.3g、クエン酸三ナトリウム88.2gを含む溶液を水800mlで溶解し、10N NaClでpHを調製した後、全量を1000 mlとした溶液を20×SSCとする。)中で65℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1〜6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.1×SSCで65℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
【0026】
本酵素又は本触媒の調製方法について以下に説明する。まず、本酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)、例えば、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列において、その一部の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNA、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAと配列相同性が80%以上であるDNA、コリネバクテリウム属又はペニシリウム属に属する微生物由来の、2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する能力を有する酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA等を調製する。具体的には、例えば、(I)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列(即ち、本アミノ酸配列)をコードする塩基配列からなるDNA、(II)配列番号2又は4で示される塩基配列(即ち、本塩基配列)を有するDNA等を調製すればよい。
【0027】
本遺伝子は、例えば、下記のような調製方法に準じて調製すればよい。
コリネバクテリウム・シュードジフテリティカム(Corynebacterium pseudodiphteriticum)等のコリネバクテリウム属又はペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)等のペニシリウム属に属する微生物等から通常の遺伝子工学的手法[例えば、「新 細胞工学実験プロトコール」(東京大学医科学研究所制癌研究部編、秀潤社、1993年)に記載された方法]に準じて染色体DNAを調製し、調製された染色体DNAを鋳型として、かつ適切なプライマーを用いてPCRを行うことにより、例えば配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA、配列番号2又は4で示される塩基配列を有するDNA等を増幅して本遺伝子を調製する。
【0028】
ここでコリネバクテリウム・シュードジフテリティカム又はペニシリウム・シトリナム由来の染色体DNAを鋳型として、かつ配列番号5又は7に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと配列番号6又は8に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとをプライマーに用いてPCRを行う場合には、配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAを増幅して本遺伝子を調製することになる。
【0029】
当該PCRの条件としては、例えば、4種類のdNTPを各々20μM、2種類のオリゴヌクレオチドプライマーを各々15pmol、Taqpolymeraseを1.3U及び鋳型となるcDNAライブラリーを混合した反応液を97℃(2分間)に加熱した後、97℃(0.25分間)〜50℃(0.5分間)〜72℃(1.5分間)のサイクルを10回、次いで97℃(0.25分間)〜55℃(0.5分間)〜72℃(2.5分間)のサイクルを20回行い、さらに72℃で7分間保持する条件が挙げられる。尚、当該PCRに用いるプライマーの5’末端側には、制限酵素認識配列等を付加していてもよい。
【0030】
上記のようにして増幅されたDNAを、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBNO−471−50338−X等に記載されている方法に準じてベクターにクローニングして組換ベクターを得ることができる。用いられるベクターとしては、具体的には、例えば、pUC119(宝酒造社製)、pTV118N(宝酒造社製)、pBluescriptII (東洋紡社製)、pCR2.1−TOPO(Invitrogen社製)、pTrc99A(Pharmacia社製)、pKK223−3(Pharmacia社製)等が挙げられる。このようにしてベクターに組み込んだ形態で本遺伝子を調製すれば、後の遺伝子工学的手法における使用において便利である。
【0031】
次いで、調製された本遺伝子を用いて、通常の遺伝子工学的方法に準じて本酵素又は本触媒を製造・取得することにより本酵素又は本触媒を調製するには以下のように行う。まず、宿主細胞で機能可能なプロモーターと本遺伝子とが機能可能な形で接続されてなるDNAのような、本遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる培養物から本酵素又は本触媒を取得又は調製すればよい。
【0032】
上記のプラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーを持つ発現ベクターに、本酵素をコードする遺伝子が機能可能な形で導入されたものを好ましく挙げることができる。尚、発現ベクターとしては、各種のものが市販されている。ここで、「機能可能な形で」とは、当該遺伝子を宿主細胞に導入することにより宿主細胞を形質転換させた際に、本遺伝子が、プロモーターの制御下に発現するようにプロモーターと結合された状態にあることを意味する。プロモーターとしては、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター、大腸菌のトリプトファンオペロンのプロモーター、又は、tacプロモーター若しくはtrcプロモーター等の大腸菌内で機能可能な合成プロモーター等を挙げることができる。またコリネバクテリウム・シュードジフテリティカム、ペニシリウム・シトリナムにおいて本還元遺伝子等の発現を制御しているプロモーターを利用してもよい。
【0033】
また発現ベクターとしては、選択マーカー遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の抗生物質耐性付与遺伝子等)を含むベクターを用いると、当該ベクターが導入された形質転換体を当該選択マーカー遺伝子の表現型等を指標にして容易に選択することができる。
【0034】
さらなる高発現を導くことが必要な場合には、本酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子の上流にリボゾーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボゾーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。宿主細胞としては、例えば、原核生物(例えば、Escherichia属、Bacillus属、Corynebacterium属、Staphylococcus属、Streptomyces属)若しくは真核生物(例えば、Saccharomyces属、Kluyveromyces属、Aspergillus属)である微生物等(尚、昆虫細胞又は哺乳動物細胞等であってもよい。)を挙げることができる。例えば、形質転換体の大量調製が容易になるという観点では、大腸菌等を好ましく挙げることができる。
【0035】
本遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを宿主細胞に導入する方法としては、用いられる宿主細胞に応じて通常使われる導入方法であればよく、例えば、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBNO−471−50338−X等に記載される塩化カルシウム法や、「Methods in Electroporation:Gene Pulser /E.coli Pulser System」 Bio−Rad Laboratories, (1993)等に記載されるエレクトロポレーション法等を挙げることができる。
【0036】
宿主細胞において本遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドが導入された形質転換体を選抜するには、前記の如く、例えば、ベクターに含まれる選択マーカー遺伝子の表現型を指標にして選抜すればよい。プラスミドが導入された宿主細胞(即ち、形質転換体)が本遺伝子を保有していることは、例えば、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press等に記載される通常の方法に準じて、制限酵素部位の確認、塩基配列の解析、サザンハイブリダイゼーション、ウエスタンハイブリダイゼーション等を行うことにより、確認することができる。
【0037】
形質転換体の培養は、微生物等の宿主細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源及びビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、試験管振盪式培養、往復式振盪培養、ジャーファーメンター(Jar Fermenter)培養、タンク培養等の液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
【0038】
培養温度は、形質転換体が生育可能な範囲で適宜変更できるが、通常約10〜50℃、好ましくは約20〜40℃である。培地のpHは約6〜8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが通常約1日〜約5日が好ましい。
【0039】
形質転換体を培養するための培地としては、例えば、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される炭素源や窒素源、有機塩や無機塩等を適宜含む各種の培地を用いることができる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、シュークロース等の糖類、グリセロール等の糖アルコール、フマル酸、クエン酸、ピルビン酸等の有機酸、動物油、植物油及び糖蜜が挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
【0040】
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コーン・スティープ・リカー(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のアンモニウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
【0041】
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001〜5%(w/v)程度である。さらに、tacプロモーター、trcプロモーター及びlacプロモーター等のアロラクトースで誘導されるタイプのプロモーターと、本還元酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子とが機能可能な形で接続されてなるDNAが導入されてなる形質転換体の場合には、本還元酵素の生産を誘導するための誘導剤として、例えば、isopropyl thio−β−D−galactoside(IPTG)を培地中に少量加えることもできる。
【0042】
本酵素又は本触媒の取得は、一般の蛋白質の単離・精製に通常使用される方法及び/又は細胞処理若しくは形質転換体処理に通常使用される方法等を組み合わせて実施すればよい。例えば、前記の培養により得られた形質転換体や本酵素を含む細胞の培養物等から遠心分離等により細胞を集めた後、これを超音波処理、ダイノミル処理、フレンチプレス処理等の物理的破砕法又は界面活性剤若しくはリゾチーム等の溶菌酵素を用いる化学的破砕法等によって破砕又は溶解する。得られた破砕液又は溶解液から遠心分離、メンブレンフィルター濾過等により不純物を除去することにより無細胞抽出液を調製し、これを陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等の分離精製方法を適宜用いて分画することによって、本酵素を精製することができる。
【0043】
クロマトグラフィーに使用する担体としては、例えば、カルボキシメチル(CM)基、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、フェニル基若しくはブチル基を導入したセルロース、デキストリン又はアガロース等の不溶性高分子担体が挙げられる。市販の担体充填済カラムを用いることもでき、かかる市販の担体充填済カラムとしては、例えば、Q−Sepharose FF、Phenyl−Sepharose HP(商品名、いずれもAmersham Pharmacia Biotech社製)、TSK−gelG3000SW(商品名、東ソー社製)等が挙げられる。
【0044】
また、例えば、前記の培養により得られた形質転換体や本酵素を含む細胞の培養物等を遠心分離などで除去し、培養上清から本酵素を前記と同様にして精製してもよい。必要であれば、精製された蛋白質の高次構造を復元する操作をさらに行ってもよい。また、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロース、イオン交換樹脂等に本発明酵素等を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギーナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に本酵素等を閉じ込める方法)等により前記のようにして精製された本酵素を不溶化した固定化物として本触媒を調製してもよい。さらにまた、前記の培養により得られた形質転換体や本酵素を含む細胞の培養物等を、例えば、物理的殺菌法(加熱、乾燥、冷凍、光線、超音波、濾過、通電)や、化学薬品を用いる殺菌法(アルカリ、酸、ハロゲン、酸化剤、硫黄、ホウ素、砒素、金属、アルコール、フェノール、アミン、サルファイド、エーテル、アルデヒド、ケトン、シアン及び抗生物質)等により死滅化させた処理物として本触媒を調製してもよい。尚、前記の殺菌法のうちできるだけ本酵素の酵素活性を失活させず、かつ反応系への残留、汚染などの影響が少ない処理方法を各種の反応条件に応じて適宜選択することがよい。
【0045】
続いて、本発明製造方法における還元反応について説明する。
本発明製造方法において2−オキソエステル化合物(1)を不斉的に還元して光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)を生成する反応は、2−オキソエステル化合物(1)に本酵素(尚、勿論、形質転換体又はその死菌化細胞の形態で提供される本酵素であってもよい。)又は本触媒を作用させることによって達成される。当該反応は、通常、水の存在下で行われる。水は緩衝液の形態であってもよく、この場合に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸のアルカリ金属塩が挙げられる。尚、緩衝液を溶媒として用いる場合、その量は2−オキソエステル化合物(1)1重量部に対して、通常、1〜300重量倍、好ましくは5〜100重量倍である。当該反応に際しては、2−オキソエステル化合物(1)を反応系内に連続又は逐次加えてもよい。
【0046】
反応温度としては、本酵素又は本触媒の安定性、反応速度の点から15〜50℃程度をあげることができ、好ましくは約20〜40℃が挙げられる。反応pHとしては、反応が進行する範囲内で適宜変化させることができるが、通常4〜11、好ましくは6〜9を挙げることができる。
【0047】
反応は、水の他に有機溶媒の共存下に行うこともできる。この場合の有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル類、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、デカン等の炭化水素類、tert−ブタノール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジメチルスルホキサイドなどのスルホキサイド類、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類及びこれらの混合物が挙げられる。反応に使用する有機溶媒の量は、2−オキソエステル化合物(1)に対して、通常、100重量倍以下であり、好ましくは70重量倍以下である。
【0048】
本発明製造方法はさらに、本酵素又は本触媒が例えば、NADH、NADPH等のような補酵素を要求するものである場合には、本酵素又は当該触媒により消費された補酵素を、電子受容体(酸化型補酵素)から電子供与体(還元型補酵素)に、不斉的な還元反応に付随しながら再生させる工程(即ち、補酵素再生工程)を含有させることもできる。反応に用いられる補酵素の量は、本発明における第一工程及び上記の補酵素再生工程が円滑に進行するだけの量が存在すればよいが、例えば、第一工程の場合は2−オキソエステル化合物(1)に対して、通常、1.0モル倍以上、好ましくは1.1モル倍以上の量であり、補酵素再生工程の場合は2−オキソエステル化合物(1)に対して、通常、0.5重量倍以下、好ましくは0.1重量倍以下の量を挙げることができる。
【0049】
補酵素再生工程では、2−オキソエステル化合物(1)の不斉的な還元反応において化学量論量の還元型補酵素(電子供与体)が消費された結果生じた酸化型補酵素(電子受容体)を、再び還元型補酵素(電子供与体)に変換する能力を有する酵素(以下、補酵素再生酵素と記す。)の利用が不可欠となる。この場合には、補酵素再生酵素は、前記不斉的な還元反応を行う本酵素又は本触媒とは異なる酵素であってもよいし、また本酵素又は本触媒が補酵素再生酵素としての機能を合わせ持つものであってもよい。もちろん両者の組み合わせであってもよい。因みに、補酵素再生酵素が前記不斉的な還元反応を行う本酵素又は本触媒とは異なる酵素である場合における補酵素再生酵素の量としては、例えば、2−オキソエステル化合物(1)に対して0.1重量倍以下、好ましくは0.05重量倍以下を挙げることができる。
【0050】
ここで、「本酵素又は本触媒が補酵素再生酵素としての機能を合わせ持つもの」であることは、例えば、単離された酵素を用いて酸化型補酵素(電子受容体)の存在下で、補酵素再生酵素の基質である再生系原料化合物を酸化させる反応を行うことにより還元型補酵素(電子供与体)を生ずるか否かを調べることにより確認すればよい。
【0051】
補酵素再生酵素としては、例えば、アルコール脱水素酵素、グルコース脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素及び有機脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素等)等が挙げられる。中でも、イソプロパノール、sec−ブタノール等の脂肪族アルコール又はグルコースを酸化することにより補酵素再生を行う補酵素再生酵素が好ましい。
【0052】
この場合に用いられる脂肪族アルコールの使用量は、2−オキソエステル化合物(1)に対して通常100モル倍以下、好ましくは20モル倍以下であり、グルコースの使用量は、2−オキソエステル化合物(1)に対して通常0.5〜10モル倍、好ましくは0.8〜5モル倍、より好ましくは1〜3モル倍である。尚、補酵素再生酵素は、酵素そのものとして反応系内に共存させてもよいし、また本酵素を含む微生物等の細胞又はその処理物の形態で反応系内に共存させてもよい。さらにまた、補酵素再生酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(以下、補酵素再生系遺伝子と記すこともある。)を含む形質転換体又はその処理物の形態で反応系内に共存させてもよい。
【0053】
ここで処理物とは、前述にある「細胞処理物」又は「形質転換体処理物」と同等なものを意味する。また「補酵素再生酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を含む形質転換体」を作製する方法としては、例えば、単一である、本酵素の遺伝子と補酵素再生酵素の遺伝子との両遺伝子を含むベクターを宿主細胞に導入することにより作製する方法、複製起源の異なる複数のベクターに両遺伝子を別々に導入した組換ベクターにより宿主細胞を形質転換することにより作製する方法等が挙げられる。さらに、一方の遺伝子又は両遺伝子を宿主細胞の染色体中に導入する方法も挙げることができる。尚、単一である、両遺伝子を含むベクターを宿主細胞に導入する方法としては、例えば、プロモーター、ターミネーター等の発現制御に関わる領域をそれぞれの両遺伝子に連結して組換ベクターを構築したり、ラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させるような組換ベクターを構築する方法を挙げることができる。
【0054】
反応は、例えば、水、2−オキソエステル化合物(1)、形質転換体又はその死菌化細胞、及び必要に応じて補酵素、有機溶媒等を混合し、攪拌、振盪することにより行うことができる。
【0055】
反応の終点は、例えば、反応液中の原料化合物の存在量を液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等により追跡することにより決定することができる。反応時間の範囲としては、通常、5分間〜10日間、好ましくは30分間〜4日間の範囲を挙げることができる。
【0056】
反応終了後は、触媒として酵素を使用して化合物を製造する方法において通常用いられる化合物の回収方法により目的物を採取すればよい。例えば、まず反応液をヘキサン、ヘプタン、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒で抽出する。必要に応じて反応液を濾過したり、又は遠心分離等の処理により不溶物を除去した後に前記抽出操作を行なえばよい。次に抽出された有機層を乾燥した後、濃縮物として目的物を回収することができる。目的物は、必要によりカラムクロマトグラフィー等によりさらに精製することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例等により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1(本酵素遺伝子、本酵素を発現する形質転換体及び本酵素液の調製)
配列番号2で示される塩基配列からなるDNA(即ち、本遺伝子)を含有するプラスミドpKARを以下のようにして調製した。まず、Appl Microbiol Biotechnol,52,386−392(1999)等に記載されるプラスミドpUAR(受託番号FERM P−18127)から、配列番号2で示されるDNAを含むDNA断片を、PstI及びSmaIを用いて切り出した。切り出されたDNA断片を、PstI/SmaI処理したpKK223−3ベクター(Amersham Pharmacia Biotech社製)のTacプロモーターの下流に挿入した。このようにしてプラスミドpKARを構築した。構築されたプラスミドpKARを用いてE.coli JM109株を形質転換した。次に、フラスコに液体培地(水1000mlにトリプトン10g、酵母エキス5g及び塩化ナトリウム5gを溶解した。この溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液を滴下することによりpHを7.0に調整した。)100mlを入れ、滅菌した後、アンピシリンを100μg/ml、ZnClを0.01%(w/v)、isopropyl thio−β−D−galactoside(IPTG)を0.4mMになるように加えた。このようにして調製された培地に、上記で得られた形質転換体(E.coli JM109/pKAR株)が前記組成の液体培地で予め培養された培養液0.3mlを接種し、好気条件下30℃で14時間振盪培養した。培養後、得られた培養液を遠心分離(15000×g、15分、4℃)することにより、菌体を回収した。回収された菌体を、50mMリン酸1カリウム−リン酸2カリウムバッファー(pH7.0)30mlに懸濁し、この懸濁液を遠心分離(15000×g、15分、4℃)することにより、本遺伝子を含む形質転換体である洗浄菌体を得た。得られた洗浄菌体6.54gを15mlの0.1Mリン酸バッファー(pH7)に懸濁し、15gのガラスビーズを添加して、菌体破砕した。破砕終了後、遠心分離にて上清液を取得し、酵素液とした。
【0059】
実施例2(本酵素遺伝子の調製)
(2−1)
cDNAライブラリーの調製500mlフラスコに培地(水にポテト・デキストロース・ブロース(ベクトン・ディッキンソン社製)を24g/Lの割合で溶解したもの)100mlを入れ、121℃で15分間滅菌した。ここに同組成の培地中で培養(30℃、48時間、振盪培養)したペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)IFO4631株の培養液0.5mlを加え、30℃で72時間振盪培養した。その後、得られた培養液を遠心し(8000xg、10分)、生じた沈殿を集めた。この沈殿を20mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)50mlで3回洗浄して、約1.0gの洗浄菌体を得た。ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)IFO4631株の洗浄菌体を用いて、チオシアン酸グアニジンフェノールクロロホルム法で全RNAを調製した。調製された全RNAから、Oligotex(dT)30−Super(宝酒造社製)を用いてpoly(A)を有するRNAを得た。cDNAライブラリーの作製は、Gubler and Hoffman法に基づいて実施した。まず、上記のようにして得られたpoly(A)を有するRNA、Oligo(dT)18−リンカープライマー((含XHoiサイト)宝酒造社製)、RAV−2 Rtase及びSuperScriptII Rtaseを用いて一本鎖cDNAを調製した。調製された一本鎖cDNA(を含む前記反応液)にE.coli DNA polymerase、E.coli Rnase/E.coli DNA Ligase Mixture及びT4 DNA Polymeraseを加えることにより、二本鎖cDNAの合成及び当該二本鎖cDNAの平滑末端化処理を行った。このようにして得られた二本鎖cDNAとEcoRI−NotI−BamHIアダプター(宝酒造社製)とのライゲーションを行った。ライゲーション後に得られたDNAを、以下の順で、リン酸化処理、XHoiでの切断処理、スピンカラム(宝酒造社製)を用いる低分子量DNAの除去処理、λZapII(EcoRI−XhoI切断)とのライゲーションした後、in vitro packaging kit(STRATAGENE社製)を用いてパッケージングすることにより、cDNAライブラリー(以下、cDNAライブラリー(A)と記すこともある。)を調製した。
【0060】
(2−2)本酵素遺伝子を含有するプラスミドの調製(プラスミドpTrcRPcの構築)
配列番号7で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと配列番号8で示されるオリゴヌクレオチドとをプライマーに用いて、前記(2−1)で調製されたcDNAライブラリーを鋳型にして下記反応液組成、反応条件でPCRを行った。(ロシュ・ダイアグノスティック社製のExpand High Fidelity PCR Systemを使用)
【0061】
[反応液組成]
cDNAライブラリー原液 1μl
dNTP(各2.5mM−mix) 0.4μl
プライマー(20pmol/μl) 各0.75μl
10xbuffer(with MgCl) 5μl
enz.expandHiFi(3.5x103U/ml) 0.375μl
超純水 41.725μl
【0062】
[反応条件]
上記組成の反応液が入った容器をPERKIN ELMER−GeneAmp PCR System2400にセットし、97℃(2分間)に加熱した後、97℃(0.25分間)−55℃(0.5分間)−72℃(1.5分間)のサイクルを10回、次いで97℃(0.25分間)〜55℃(0.5分間)〜72℃(2.5分間)のサイクルを20回行い、さらに72℃で7分間保持した。
【0063】
PCR反応液を精製して得られたPCR増幅DNA断片に2種類の制限酵素(NcoI及びBamHI)を加えることにより、当該DNA断片を2重消化させた。次いで得られたDNA断片を精製した。一方、ベクターpTrc99A(Pharmacia製)を2種類の制限酵素(NcoI及びBamHI)を加えることにより、当該ベクターを2重消化させた。次いで消化されたDNA断片を精製した。このようにして精製して得られた2種類のDNA断片を混合し、T4 DNAリガーゼでライゲーションした。得られたライゲーション液でE.coli DH5αを形質転換した。得られた形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen社製)を用いて本還元酵素遺伝子を含有するプラスミド(以下、プラスミドpTrcRPcと記すこともある。)を取り出した。
【0064】
実施例3(本補酵素再生酵素遺伝子の調製)
(3−1)
酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド等を還元型に変換する能力を有する酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製するための準備フラスコにLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム)100mlを入れ、滅菌した。このようにして調製された培地に、Bacillus megaterium IFO12108株が前記組成の液体培地で予め培養された培養液0.3mlを接種し、これを30℃で10時間振盪培養した。培養後、得られた培養液を遠心分離(15000×g、15分、4℃)することにより、菌体を回収した。回収された菌体を、50mMリン酸1カリウム−リン酸2カリウムバッファー(pH7.0)30mlに懸濁し、この懸濁液を遠心分離(15000×g、15分、4℃)することにより、洗浄菌体を得た。このようにして得られた洗浄菌体からQiagen Genomic Tip(Qiagen社製)を用い、それに付属するマニュアルに記載される方法に従って染色体DNAを精製した。
【0065】
(3−2)酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド等を還元型に変換する能力を有する酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子の調製(プラスミドpSDGDH12の構築)
The Journal of Biological Chemistry Vol.264,No.11,6381−6385(1989)に記載された公知のBacillus megaterium IWG3由来のグルコース脱水素酵素のアミノ酸配列に基づいて配列番号9で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと配列番号10で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとを合成する。配列番号9で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと配列番号10で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとをプライマーに用いて、前記(3−1)で精製された染色体DNAを鋳型にして実施例2(2−2)に記載させる反応液組成、反応条件でPCRを行う(ロシュ・ダイアグノスティック社製のExpand High Fidelity PCR Systemを使用)。PCR反応液を精製して得られたPCR増幅DNA断片を、Invitrogen社製TOPOTMTA cloningキットを用いてpCR2.1−TOPOベクターの既存「PCR Product挿入サイト」にライゲーションする。得られるライゲーション液でE.coli DH5αを形質転換する。得られる形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen社製)を用いてグルコース脱水素酵素を含有するプラスミド(以下、プラスミドpSDGDH12と記すこともある。)を取り出す。次に、取り出されるプラスミドpSDGDH12を鋳型として、Dye Terminator Cycle sequencing FS ready Reaction Kit(パーキンエルマー製)を用いたシークエンス反応を行った後、得られるDNAの塩基配列をDNAシーケンサー373A(パーキンエルマー製)で解析する。その結果を配列番号11に示す。
【0066】
実施例4(本酵素遺伝子及び本補酵素再生遺伝子を含有するプラスミドの調製:プラスミドpTrcRSbG12の構築)
実施例3(3−2)で調製されたプラスミドpSDGDH12に2種類の制限酵素(BamHIとXbaI)を加えることにより、当該プラスミドを2重消化させた。次いで消化されたDNA断片を精製した。一方、実施例2で調製されるプラスミドpTrcRPcに2種類の制限酵素(BamHIとXbaI)を加えることにより、当該プラスミドを2重消化させた。次いで消化されたDNA断片を精製した。このようにして精製して得られた2種類のDNA断片を混合し、T4 DNAリガーゼでライゲーションした。得られたライゲーション液でE.coli DH5αを形質転換した。得られた形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen社製)を用いて本還元酵素遺伝子及び本補酵素再生酵素遺伝子を含有するプラスミド(以下、プラスミドpTrcRSbG12と記すこともある。)を取り出した。
【0067】
実施例5(本酵素遺伝子を含有する形質転換体及び酵素液の調製)
実施例2で調製されたプラスミドpTrcRPcを用いてE.coli HB101株を形質転換した。得られた形質転換体を0.1mMのIPTG及び50μg/mlのアンピシリンを含有する滅菌LB培地(100ml×17本)に接種した後、これを振盪培養した(30℃、18時間)。培養後、培養液を遠心分離・洗浄することにより、洗浄菌体6.54gを得た。得られた洗浄菌体を15mlの0.1Mリン酸バッファー(pH7)に懸濁し、15gのガラスビーズを添加して、菌体破砕した。破砕終了後、遠心分離にて上清液を取得し、酵素液とした。
【0068】
実施例6(本酵素遺伝子及び本補酵素再生酵素遺伝子を含有する形質転換体及び酵素液の調製)
実施例4で調製されたプラスミドpTrcRSbG12を用いてE.coli HB101株を形質転換した。得られた形質転換体を0.1mMのIPTG及び50μg/mlのアンピシリンを含有する滅菌LB培地(100ml×17本)に接種した後、これを振盪培養した(30℃、18時間)。培養後、培養液を遠心分離・洗浄することにより、洗浄菌体6.54gを得た。得られた洗浄菌体を15mlの0.1Mリン酸バッファー(pH7)に懸濁し、15gのガラスビーズを添加して、菌体破砕した。破砕終了後、遠心分離にて上清液を取得し、酵素液とした。
【0069】
実施例7(大腸菌酵素液の調製)
E.coli JM109株を滅菌LB培地(100ml×17本)に接種した後、これを振盪培養した(30℃、18時間)。培養後、培養液を遠心分離・洗浄することにより、洗浄菌体6.54gを得た。得られた洗浄菌体を15mlの0.1Mリン酸バッファー(pH7)に懸濁し、15gのガラスビーズを添加して、菌体破砕した。破砕終了後、遠心分離にて上清液を取得し、酵素液とした。
【0070】
実施例8(大腸菌酵素液の調製)
E.coli HB101株を滅菌LB培地(100ml×17本)に接種した後、これを振盪培養した(30℃、18時間)。培養後、培養液を遠心分離・洗浄することにより、洗浄菌体6.54gを得た。得られた洗浄菌体を15mlの0.1Mリン酸バッファー(pH7)に懸濁し、15gのガラスビーズを添加して、菌体破砕した。破砕終了後、遠心分離にて上清液を取得し、酵素液とした。
【0071】
実施例9
pH7に調製された250mMリン酸緩衝液2mlにNADH1.3mg及びイソプロパノール0.1mlを混合して、温度計を備えたガラス製フラスコに仕込み30℃に保温した。その中に、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル20mgと実施例1で得られた酵素液(50mg)とを投入し、8時間撹拌して反応させた。この反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、エバポレーターを用いて濃縮して、濃縮オイルを得た。得られた濃縮オイルをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:トルエン/酢酸エチル=2:1)で精製し、油状の光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル15mgを得た(収率75%)。得られた光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチルをピリジン−ベンゾイルクロリドによりベンゾイル化したベンゾエート誘導体の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析の結果、立体構造は(R)−体であり、光学純度は95%eeであることが確認された。
【0072】
実施例10
pH7に調製された250mMリン酸緩衝液2mlにNADPH75mgを混合して、温度計を備えたガラス製フラスコに仕込み30℃に保温した。その中に、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル20mgと実施例5で得られた酵素液(50mg)とを投入し、8時間撹拌して反応させた。この反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、エバポレーターを用いて濃縮して、濃縮オイルを得た。得られた濃縮オイルをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:トルエン/酢酸エチル=2:1)で精製し、油状の光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル15.3mgを得た(収率76%)。得られた光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチルをピリジン−ベンゾイルクロリドによりベンゾイル化したベンゾエート誘導体の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析の結果、立体構造は(R)−体であり、光学純度は99%eeであることが確認された。
【0073】
実施例11
pH7に調製された250mMリン酸緩衝液2mlにNADH75mgを混合して、温度計を備えたガラス製フラスコに仕込み30℃に保温した。その中に、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル20mgと実施例7で得られた酵素液(50mg)とを投入し、8時間撹拌して反応させた。この反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、エバポレーターを用いて濃縮して、濃縮オイルを得た。得られた濃縮オイルをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:トルエン/酢酸エチル=2:1)で精製し、油状の光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル17.1mgを得た(収率85%)。得られた光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチルをピリジン−ベンゾイルクロリドによりベンゾイル化したベンゾエート誘導体の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析の結果、立体構造は(R)−体であり、光学純度は43%eeであることが確認された。
【0074】
実施例12
pH7に調製された250mMリン酸緩衝液2mlにNADPH75mgを混合して、温度計を備えたガラス製フラスコに仕込み30℃に保温した。その中に、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル20mgと実施例8で得られた酵素液(50mg)とを投入し、8時間撹拌して反応させた。この反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、エバポレーターを用いて濃縮して、濃縮オイルを得た。得られた濃縮オイルをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:トルエン/酢酸エチル=2:1)で精製し、油状の光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチル16.5mgを得た(収率82%)。得られた光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチルをピリジン−ベンゾイルクロリドによりベンゾイル化したベンゾエート誘導体の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析の結果、立体構造は(S)−体であり、光学純度は90%eeであることが確認された。
【0075】
実施例13
pH7に調製されたリン酸緩衝液にNADP、グルコース及びグルコース脱水素酵素を混合し、その中に、2−オキソ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチルと実施例6で得られた酵素液とを投入して反応させる。この反応混合物を抽出後、濃縮し、得られた濃縮オイルをカラムクロマトグラフィーで精製することで、光学活性2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)酢酸ブチルが得られる。
【0076】
上記の実施例におけるHPLC分析条件は次の通りである。
<HPLC条件>
カラム:CHIRALPAK AD(4.6mmΦ×25cm;ダイセル化学工業社製)
カラム温度:40℃
溶離液:ヘキサン/イソプロパノール=9/1
検出:254nm
溶離液流速:1.0ml/min
溶出時間:(S)−体8.3分、(R)−体9.6分
【0077】
参考例1 (2−オキソエステル化合物(1)を光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)に変換する能力を有する微生物の取得方法)
(1−1) 洗浄菌体の調製
市販の微生物又は土壌等から単離された微生物を滅菌LB培地(10ml)に接種した後、これを振盪培養する(30℃、18時間)。培養後、培養液を遠心分離・洗浄することにより、洗浄菌体を回収する。
【0078】
(1−2) スクリーニング
100mMリン酸1カリウム−リン酸2カリウムバッファー(pH6.5)20mlに、上記(14−1)で調製された洗浄菌体1g、NADP12mg、NAD12mg、グルコース2.5g及びグルコースヒドロゲナーゼ150Uを加える。この混合物に、さらに240mgの2−オキソエステル化合物(1)を加えた後、当該混合物のpHを15%炭酸ナトリウム水溶液で7に調製する。このようにして得られる混合物(反応液)を30℃で4時間攪拌することにより反応を行う。反応終了後、反応液にトルエン25mlを注加攪拌し、次いで遠心分離することにより有機層及び水層を別々に回収する。回収される水層にトルエン25mlを加えて同様な操作を行う。このようにして得られる有機層を混合した後、無水NaSOを用いて乾燥する。乾燥後、トルエンを留去することにより残渣を得る。得られる残渣に、光学活性2−ヒドロキシエステル化合物(2)が含まれていることを液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーにて定性分析及び/定量分析(光学純度分析も可能)により確認する。
【0079】
[配列表フリーテキスト]
配列番号1
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号2
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号3
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号4
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号5
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号6
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号7
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号8
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号9
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号10
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号11
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド
配列番号12
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレオチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)で表される2−オキソエステル化合物に、式(1)で表される2−オキソエステル化合物を不斉的に還元して式(2):
【化2】

(式中、Rは前記に同じ。*は光学活性な炭素原子であることを示す。)で表される光学活性2−ヒドロキシエステル化合物を生成する能力を有する酵素又は当該酵素を有する触媒を作用させることを特徴とする、式(2)で表される光学活性2−ヒドロキシエステル化合物の製造方法。
【請求項2】
酵素又は当該酵素を有する触媒が、NADH(還元型ニコチンアミドアデニンヌクレオシド)若しくはNADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を補酵素として要求するものであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
酵素又は当該酵素を含む触媒が補酵素を要求するものであり、且つ当該酵素又は当該触媒により消費された補酵素を、電子受容体(酸化型補酵素)から電子供与体(還元型補酵素)に、不斉的な還元反応に付随しながら再生させる工程を含有することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
酵素又は当該酵素を含む触媒が補酵素を要求するものであり、且つ当該酵素又は当該触媒が、自らにより消費された補酵素を、電子受容体(酸化型補酵素)から電子供与体(還元型補酵素)に、不斉的な還元反応に付随しながら再生させる能力を有するものであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
酵素又は当該酵素を含む触媒が、コリネバクテリウム属、ペニシリウム属、エスシェリヒア属からなる群より選ばれた微生物の菌体、培養物又はそれらの処理物を酵素源とした酵素又は当該酵素を含む触媒である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
酵素又は当該酵素を含む触媒が、コリネバクテリウム・シュードジフテリティカム、ペニシリウム・シトリナム、エスシェリヒア・コリからなる群より選ばれた微生物の菌体、培養物又はそれらの処理物を酵素源とした酵素又は当該酵素を含む触媒である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
酵素又は当該酵素を含む触媒が、下記のアミノ酸配列群の中から選ばれるアミノ酸配列を有する酵素又は当該酵素を含む触媒であることを特徴とする請求項6記載の製造方法。
<アミノ酸配列群>
(a)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、かつ、式(1)で表される2−オキソエステル化合物を不斉的に還元して式(2)で表される光学活性2−ヒドロキシエステル化合物を生成する能力を有する酵素のアミノ酸配列
(c)配列番号2又は4で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列
(d)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列に相補性を有する塩基配列がコードするアミノ酸配列を有し、かつ、式(1)で表される2−オキソエステル化合物を不斉的に還元して式(2)で表される光学活性2−ヒドロキシエステル化合物を生成する能力を有する酵素のアミノ酸配列
(e)コリネバクテリウム属又はペニシリウム属に属する微生物由来の、式(1)で表される2−オキソエステル化合物を不斉的に還元して式(2)で表される光学活性2−ヒドロキシエステル化合物を生成する能力を有する酵素のアミノ酸配列
【請求項8】
酵素又は当該酵素を含む触媒が、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列を有する酵素又は当該酵素を含む触媒であることを特徴とする請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
酵素又は当該酵素を含む触媒が、配列番号2又は4で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する酵素又は当該酵素を含む触媒であることを特徴とする請求項7記載の製造方法。
【請求項10】
酵素又は当該酵素を含む触媒が、コリネバクテリウム属に属する微生物由来の酵素又は当該酵素を含む触媒であることを特徴とする請求項7記載の製造方法。
【請求項11】
酵素又は当該酵素を含む触媒が、ペニシリウム属に属する微生物由来の酵素又は当該酵素を含む触媒であることを特徴とする請求項7記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−325495(P2006−325495A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154814(P2005−154814)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】