説明

光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体の製造法

【課題】本発明は、医薬品中間体として有用な光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体を安価な原料から簡便に製造できる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、安価に入手可能な酢酸エステル誘導体と塩基及び蟻酸エステルとを反応させて、2−ホルミル酢酸エステル誘導体に変換した後、前記誘導体のホルミル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて、前記誘導体のホルミル基を立体選択的に還元することにより、光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品中間体として有用な光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体、とりわけ光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体の製法に関する。
【0002】
より詳細には、安価に入手可能な酢酸エステル誘導体、蟻酸エステル及び塩基を用いて2−ホルミル酢酸エステル誘導体を合成し、当該2−ホルミル酢酸エステル誘導体を、そのホルミル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて立体選択的に還元することを特徴とする、光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体、とりわけ光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体の製法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体の製造法としては、以下の様な方法が知られている。
【0004】
1)2−置換−1,3−プロパンジオールを微生物を用いて不斉酸化することにより、光学活性2−置換−3−ヒドロキシプロピオン酸を得る方法(非特許文献1)。
【0005】
2)0.1%濃度の2−ホルミル酢酸エステル誘導体をキャンディダ属、ロドトルラ属、トルロプシス属等に属する微生物を用いて還元することにより、光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体を得る方法(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、1)の方法では、基質として用いるジオール化合物が高価であり、また、2位置換基がメチル基以外の場合では立体選択性も低い。また、2)の方法では、使用基質が微生物、酵素の還元活性に悪影響を与えることから、仕込濃度が極めて低い等、いずれも工業的製法としては大きな課題を有している。
【0007】
一方、2−ホルミル酢酸エステル誘導体の製造法としては、以下の様な方法が知られている。
【0008】
3)2−メチル−1,3−ジオキソラン−2−プロピオン酸エチルをNaH及び蟻酸エチルを用いてホルミル化した後、蒸留精製することにより、α−(ホルミル)−2−メチル−1,3−ジオキソラン−2−プロピオン酸エチルを得る方法(非特許文献2)。
【0009】
4)フェニルプロピオン酸エチルを金属ナトリウム及び蟻酸エチルを用いてホルミル化することにより、粗2−ホルミルフェニルプロピオン酸エチルを得る方法(非特許文献3)。
【0010】
しかしながら、いずれの方法においても反応生成物は未反応原料あるいはNaH由来の鉱油等の不純物を多く含有しており、高純度の生成物を得るには、蒸留、晶析またはカラム等の精製工程を必要とする等、工業的製法としては改善すべき課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−199389号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Chem.Lett.,1979,Vol.11,1379−1380
【非特許文献2】Phosphorus and Sulfur,1986,Vol.28,330−345
【非特許文献3】Eur.J.Med.Chem,,1988,Vol.23,53−62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明の要約
上記現状に鑑み、本発明の目的は、医薬品の中間体として有用な光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体、中でも光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体を安価で入手容易な原料から簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は上記課題につき鋭意検討を行った結果、安価に入手可能な酢酸エステル誘導体から、簡便な方法にて高純度の2−ホルミル酢酸エステル誘導体を合成し、該2−ホルミル酢酸エステル誘導体を、そのホルミル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて立体選択的に還元することにより、光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体を簡便に製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、一般式(1);
【0016】
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基、又は置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基を表す。Rは炭素数1〜10のアルキル基、又は置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基を表す。)で表される酢酸エステル誘導体を、塩基及び蟻酸エステルと反応させることにより、一般式(2);
【0017】
【化2】

(式中、R及びRは前記と同じ。XはH、Li、Na、又はKを表す。)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体に変換する工程、及び、有機溶媒と水を用いて、不純物を有機層に除去しつつ、前記式(2)で表される誘導体を水層に転溶する工程からなることを特徴とする、前記式(2)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体の製造法を提供する。
【0018】
また、本発明は、一般式(2);
【0019】
【化3】

(式中、R、R及びXは前記と同じ基を表す。)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体を、そのホルミル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて立体選択的に還元することを特徴とする、一般式(3);
【0020】
【化4】

(式中、R及びRは前記と同じ、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体の製造法を提供する。
【0021】
また、本発明は、一般式(4);
【0022】
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エステル誘導体を提供する。
【0023】
また、本発明は、一般式(5);
【0024】
【化6】

(式中、Rは炭素数2〜6のアルキル基を表す。Rは炭素数1〜10のアルキル基を表す。XはH、Li、Na、又はKを表す。)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な開示
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、本発明に関わる化合物について説明する。前記式(1)、(2)及び(3)において、Rは、炭素数2〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基、又は置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基である。
【0026】
例えば、炭素数2〜10のアルキル基としては、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0027】
置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基及び置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜10のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;ニトロ基、シアノ基、メチレンジオキシ基等が挙げられる。なお、上記アラルキル基及びアリール基の炭素数は、当該置換基の炭素数は含まず、アラルキル基及びアリール基のみの炭素数を意味する。
【0028】
置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基としては、ベンジル基、o−クロロベンジル基、m−ブロモベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−ニトロベンジル基、p−シアノベンジル基、m−メトキシベンジル基、3,4−メチレンジオキシベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ピリジルメチル基等が挙げられる。
【0029】
置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基としては、フェニル基、o−クロロフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−フルオロフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−シアノフェニル基、m−メトキシフェニル基、ナフチル基、ピリジル基、インドリル基等が挙げられる。
【0030】
上記のなかでもRとして好ましくは、炭素数2〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基である。炭素数2〜10のアルキル基として好ましくは、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基であり、より好ましくはn−ブチル基である。置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基として好ましくは、ベンジル基、3,4−メチレンジオキシベンジル基であり、より好ましくは3,4−メチレンジオキシベンジル基である。
【0031】
また、前記式(1)、(2)及び(3)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、または置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基である。Rとしての置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基の置換基としては、Rのアラルキル基の置換基として例示したものと同じもの等が挙げられる。上記Rのアラルキル基の炭素数には、置換基の炭素数を含まないものである。
【0032】
例えば、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、tert−ブチル基である。
【0033】
置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基としては、ベンジル基、o−クロロベンジル基、m−ブロモベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−ニトロベンジル基、p−シアノベンジル基、m−メトキシベンジル基、3,4−メチレンジオキシベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ピリジルメチル基等が挙げられる。好ましくは、ベンジル基である。
【0034】
上記のなかでもRとして好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0035】
また、前記式(4)において、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0036】
また、前記式(3)及び(4)において、*は不斉炭素原子を表す。
【0037】
また、前記式(5)において、Rは炭素数2〜6のアルキル基である。炭素数2〜6のアルキル基としては、例えば、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。好ましくはn−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基であり、更に好ましくはn−ブチル基である。
【0038】
また、前記式(5)において、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。好ましくは、エチル基である。
【0039】
また、前記式(2)及び(5)において、XはH、Li、Na、又はKである。好ましくは、Naである。
【0040】
なお、前記式(4)で表される光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エステル誘導体及び前記式(5)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体は、文献に未記載の新規化合物である。
【0041】
次に、本発明における前記式(2)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体の製造法について説明する。
【0042】
まず、上記のR及びRを有する誘導体(1)は、工業的に入手可能、あるいは工業的に入手可能な原料から容易に合成することができる。例えば、3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルは、3,4−メチレンジオキシ桂皮酸を水素化した後、エチルエステル化することにより容易に調製することができる。
【0043】
前記式(1)で表される酢酸エステル誘導体を、適当な溶媒中にて塩基及び蟻酸エステルと反応させることにより、前記式(2)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体を製造することができる。
【0044】
上記塩基としては、ナトリウムハイドライド(NaH);リチウムハイドライド(LiH);金属ナトリウム(Na);ナトリウムメトキサイド(MeONa)、ナトリウムエトキサイド(EtONa)、ナトリウムイソプロポキサイド(iPrONa)、カリウムtert−ブトキサイド(tBuOK)等のアルカリ金属アルコキサイド等が挙げられる。好ましくは、ナトリウムハイドライド、金属ナトリウム、アルカリ金属アルコキサイドが挙げられ、より好ましくは、ナトリウムハイドライド(NaH)が挙げられる。
【0045】
塩基の使用量は、酢酸エステル誘導体(1)と塩基のモル比(酢酸エステル誘導体(1):塩基)として、好ましくは1:1〜1:15、より好ましくは1:1〜1:5、更に好ましくは1:1〜1:3である。
【0046】
上記蟻酸エステルとしては、例えば、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸n−プロピル、蟻酸iso−プロピル、蟻酸n−ブチル、蟻酸iso−ブチル、蟻酸tert−ブチル等が挙げられる。好ましくは、蟻酸メチル、蟻酸エチルである。なお、本反応においては、塩基性条件下、蟻酸エステル由来のアルコールが副生する為、前記酢酸エステル誘導体(1)は副生したアルコールによりエステル交換され易い。そこで、前記酢酸エステル誘導体(1)と蟻酸エステルのエステル基は同一基であることが望ましい。
【0047】
蟻酸エステルの使用量は、酢酸エステル誘導体(1)と蟻酸エステルのモル比(酢酸エステル誘導体(1):蟻酸エステル)として好ましくは1:1〜1:30、より好ましくは1:1〜1:10、更に好ましくは1:1〜1:5である。
【0048】
本反応に使用できる溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒;ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル等の含窒素系溶媒;ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。上記溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本反応の反応温度としては、好ましくは−20〜60℃、より好ましくは0〜50℃である。
【0050】
本反応の反応時間としては、好ましくは1時間〜72時間、より好ましくは1時間〜20時間である。
【0051】
上記反応を行うに際し、各試剤の混合方法は特に限定されないが、工業的規模で反応を安全に制御して行う上では、塩基と溶媒の混合物に、酢酸エステル誘導体および蟻酸エステルを同時に添加する方法が好ましい。この方法では、加えた酢酸エステル誘導体が逐次反応するため、添加速度を調節することによって反応を安全に制御することができる。ここで、工業的規模とは、反応で用いる塩基使用量として、通常1kg以上であり、好ましくは10kg以上、より好ましくは100kg以上、さらに好ましくは1000kg以上、特に好ましくは10000kg以上の塩基を反応に供することを意味する。
【0052】
酢酸エステル誘導体および蟻酸エステルの添加時間は、反応の規模にもよるが、1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上である。また、添加時間は、72時間以下とすることが好ましい。
【0053】
また、この方法にて反応をより安全に行う上では、塩基濃度を高めることが好ましく、その際の塩基と溶媒の混合物における塩基濃度としては一概には云えないが、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、とりわけ40重量%以上として反応を行うことも好適である。
【0054】
更に、上記反応方法に於いては、反応温度を高めて、添加した基質をより短時間で反応させて、反応を安全に制御することが好ましい。この場合の反応温度としては一概には云えないが、通常、20℃以上であり、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上であり、また反応液の沸点まで反応温度を高めてもよい。
【0055】
上記方法にて反応を行う場合、塩基濃度が10重量%以上、および反応温度が20℃以上の条件で行うことが特に好ましい。
【0056】
尚、反応の進行と共に反応液の流動性が低下する場合には、適正な攪拌状態を維持して反応を円滑に行う上で、反応の進行に応じて溶媒を添加すれば良く、簡便には酢酸エステル誘導体と蟻酸エステルの混合物を溶媒に溶解した溶液として加えれば良い。
【0057】
反応終了後、反応液中に含まれる前記式(2)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体は、その製造過程における各種分解や副反応、また原料等が残存することにより多量の不純物、例えば、未反応の酢酸エステル誘導体、蟻酸エステル、鉱油等の塩基由来の不純物等を多数含む。高純度の目的物を得るためには、これらの不純物を除去する必要がある。
【0058】
本発明者らは鋭意検討の結果、2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)及び不純物を含有する反応液を水と接触させることで、2−ホルミル酢酸エステル誘導体のアルカリ金属塩を水層に、不純物を有機層に選択的に分配できることを見いだし、得られた水層を酸を用いて酸性化した後、水層に含まれる2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)を有機溶媒で抽出、濃縮することにより、これら不純物を有機層に簡便に除去し、高純度の目的物を効率よく取得できる方法を開発するに至った。
【0059】
以下に、前記式(2)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体の単離精製操作について説明する。前記式(2)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体に含まれる不純物を除去する為には、2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)及び不純物を含有する反応液に水を添加して、2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)のアルカリ金属塩を水層に選択的に転溶する。この場合、目的物である2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)をほとんどロスすることなく、未反応の酢酸エステル誘導体等の不純物を反応溶媒等の有機層に除去することができる。
【0060】
水の添加に先立ち、予め反応液を濃縮減量しても良く、また、反応液に一般的な抽出溶媒、例えば、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、メチルエチルケトン、tert−ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、塩化メチレン等を添加しておいても良い。また、2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)のアルカリ金属塩を水層に転溶した後、水層を上記一般的な抽出溶媒を用いて再洗浄することにより、不純物をさらに低減することも可能である。
【0061】
次いで、上記の高純度の2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)を含有する水層を、一般的な酸、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸等を用いて、好ましくはpH5以下、より好ましくはpH3以下に調整した後、上記一般的な抽出溶媒を用いて2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)を抽出した後、これを濃縮することにより化学純度の高い目的物を効率よく取得することができる。
【0062】
上記純度は、好ましくは90重量%以上であり、より好ましくは94重量%以上である。一方、反応液に水を添加する上記転溶操作なしに、反応液に酸を加えて抽出する場合、目的物である2−ホルミル酢酸エステル誘導体及び未反応の酢酸エステル誘導体等の不純物は、ともに反応溶媒等の有機層に抽出される為、高純度の目的物を得ることができない。
【0063】
次に、本発明における前記式(3)で表される光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体の製造法について説明する。
【0064】
前記式(2)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体のホルミル基を立体選択的に還元する活性を有する酵素源の存在下、前記式(2)のホルミル基を立体選択的に還元することにより、前記式(3)で表される光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体を製造することができる。
【0065】
ここで、「酵素源」とは、上記還元活性を有する酵素自体はもちろんのこと、上記還元活性を有する微生物の培養物およびその処理物も含まれる。「微生物の培養物」とは、菌体を含む培養液あるいは培養菌体を意味する。「その処理物」としては、例えば、粗抽出液、凍結乾燥微生物体、アセトン乾燥微生物体、それら菌体の磨砕物等を意味する。さらにそれらは、酵素自体あるいは菌体のまま公知の手段で固定化して用いることができる。固定化は、当業者に周知の方法(例えば架橋法、物理的吸着法、包括法等)で行うことができる。
【0066】
本発明の酵素還元工程において、前記式(2)で表される誘導体のホルミル基を立体選択的に還元する活性を有する酵素源としては、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、ガラクトマイセス(Galactomyces)属、オガタエア(Ogataea)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)属、スポリディオボラス(Sporidiobolus)属、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、ステリグマトマイセス(Sterigmatomyces)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ヤマダジーマ(Yamadazyma)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、デボシア(Devosia)属、ハフニア(Hafnia)属、ジェンセニア(Jensenia)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、プロテウス(Proteus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、セラチア(Serratia)属、シストフィロバシディウム(Cystofillobasidium)属、ウィリオプシス(Williopsis)属、ヤロビア(Yarrowia)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、及びミクロコッカス(Micrococcus)属からなる群から選ばれた微生物由来の酵素源が挙げられる。
【0067】
上記酵素源のうち、前記式(2)で表される誘導体のホルミル基をR選択的に還元する活性を有する酵素源としては、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、クリプトコッカス(Clyptococcus)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、ガラクトマイセス(Galactomyces)属、オガタエア(Ogataea)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)属、スポリディオボラス(Sporidiobolus)属、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、ステリグマトマイセス(Sterigmatomyces)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ヤマダジーマ(Yamadazyma)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、デボシア(Devosia)属、ハフニア(Hafnia)属、ジェンセニア(Jensenia)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、プロテウス(Proteus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、及びセラチア(Serratia)属からなる群から選ばれた微生物由来の酵素源が好ましい。
【0068】
上記酵素源のうち、前記式(2)で表される誘導体のホルミル基をR選択的に還元する活性を有する酵素源としては、ブレタノマイセス・アノマラス(Brettanomyces anomalus)、キャンディダ・カンタレリ(Candida cantarellii)、キャンディダ・グラエボーサ(Candida glaebosa)、キャンディダ・グロペンギッセリイ(Candida gropengiesseri)、キャンディダ・ラクチス−コンデンシイ(Candida lactis−condensi)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoriae)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・マリス(Candida maris)、キャンディダ・モギイ(Candida mogii)、キャンディダ・ピニ(Candida pini)、キャンディダ・ルゴーサ(Candida rugosa)、キャンディダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・バーサチリス(Candida versatilis)、クリプトコッカス・クルバタス(Cryptococcus curvatus)、クリプトコッカス・テレウス(Cryptococcus terreus)、デバリオマイセス・ネパレンシス(Debaryomyces nepalensis)、デバリオマイセス・ロベルトシエ(Debaryomyces robertsiae)、ガラクトマイセス・レースシイ(Galactomyces reessii)、オガタエア・ミヌータバー.ミヌータ(Ogataea minutavar.minuta)、ピキア・カナデンシス(Pichia canadensis)、ピキア・シルビコラ(Pichia silvicola)、ピキア・キシローサ(Pichia xylosa)、ロドトルラ・アウランチアカ(Rhodotorul aaurantiaca)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、ロドトルラ・グラミニス(Rhodotorula graminis)、ロドトルラ・ラクトーサ(Rhodotorula lactosa)、サッカロマイコプシス・セレノスポラ(Saccharomycopsis selenospora)、スポリディオボラス・ジョンソニイ(Sporidiobolus johnsonii)、スポリディオボラス・サルモニコラ(Sporidiobolus salmonicolor)、スポロボロマイセス・サルモニコラ(Sporobolomyces salmonicolor)、ステリグマトマイセス・ハロフィラス(Sterigmatomyces halophilus)、トルラスポラ・デルブレッキイ(Torulaspora delbrueckii)、トリコスポロン・アステロイデス(Trichosporon asteroides)、ヤマダジーマ・スチピチス(Yamadazyma stipitis)、アクロモバクター・キシロキダンス・サブスピーシーズ・デニトリフィカンス(Achromobacter xylosoxidans subsp.denitrificans)、セルロモナス・フィミ(Cellulomonas fimi)、セルロモナス・スピーシーズ(Cellulomonas sp.)、セルロモナス・ウダ(Cellulomonas uda)、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ジェンセニア・カニクルリア(Jensenia canicruria)、クレブシエラ・プランチコラ(Klebsiella planticola)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、プロテウス・インコンスタンス(Proteus inconstans)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、ロドコッカス・スピーシーズ(Rhodococcus sp.)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)等の微生物由来の酵素源が好ましい。
【0069】
また、前記式(2)で表される誘導体のホルミル基をS選択的に還元する活性を有する酵素源としては、キャンディダ(Candida)属、シストフィロバシディウム(Cystofillobasidium)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、ウィリオプシス(Williopsis)属、ヤロビア(Yarrowia)属、デボシア(Devosia)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、及びミクロコッカス(Micrococcus)属からなる群から選ばれた微生物由来の酵素源が好ましい。
【0070】
また、前記式(2)で表される誘導体のホルミル基をS選択的に還元する活性を有する酵素源としては、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、シストフィロバシディウム・ビスポリヂイ(Cystofillobasidium bisporidii)、ピキア・ビスポーラ(Pichia bispola)、ロドトルラ・グルチニスバー.グルチニス(Rhodotorula glutinis var.glutinis)、トルラスポラ・グロボーサ(Torulaspora globosa)、ウィリオプシス・サツルヌスバー.マラキイ(Williopsis saturnus var.mrakii)、ウィリオプシス・サツルヌス バー.サツルヌス(Williopsis saturnus var.saturnus)、ヤロビア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、ミクロバクテリウム・エステラロマチカム(Microbacterium esteraromaticum)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)等の微生物由来の酵素源が好ましい。
【0071】
また、上記微生物由来の還元酵素の産生能を有する微生物としては、野生株または変異株のいずれでもよい。あるいは細胞融合、遺伝子操作等の遺伝学的手法により誘導される微生物も用いることができる。本酵素を生産する遺伝子操作された微生物は、例えば、これらの酵素を単離及び/または精製して酵素のアミノ酸配列の一部または全部を決定する工程、このアミノ酸配列に基づいて酵素をコードするDNA配列を得る工程、このDNAを他の微生物に導入して組換え微生物を得る工程、及びこの組換え微生物を培養して、本酵素を得る工程を含有する方法により得ることができる(WO98/35025号パンフレット)。
【0072】
酵素源として用いる微生物の為の培養培地は、その微生物が増殖し得るものである限り特に限定されない。例えば、下記栄養源を含有する通常の液体培地を使用することができる。例えば、炭素源として、グルコース、シュークロース等の糖質;エタノール、グリセロール等のアルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸及びそのエステル類;菜種油、大豆油等の油類等が挙げられる。
【0073】
窒素源として、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、燐酸1水素アンモニウム、ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー、ふすま、酵母エキスなどが挙げられる。
【0074】
無機塩類として、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸マンガン等の硫酸塩;塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、燐酸1水素カリウム、燐酸2水素カリウムなどが挙げられる。
【0075】
他の栄養源として、麦芽エキス、肉エキス等を使用することができる。
【0076】
培養は好気的に行い、通常、培養時間は1〜5日間程度、培地のpHが3〜9、培養温度は10〜50℃で行うことができる。
【0077】
本発明の還元反応は、適当な溶媒中に基質の2−ホルミル酢酸エステル誘導体(2)、補酵素NAD(P)H及び上記微生物の培養物またはその処理物等を添加し、pH調整下攪拌することにより行うことができる。
【0078】
還元反応に用いる溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、ヘキサン等を添加してもよい。
【0079】
反応条件は、用いる酵素、微生物またはその処理物、基質濃度等によって異なるが、通常、基質濃度は約0.1〜100重量%、好ましくは1〜60重量%である。
【0080】
補酵素NAD(P)Hの濃度は、基質に対して、通常、0.0001〜100モル%、好ましくは0.0001〜0.1モル%である。
【0081】
反応温度は、通常、10〜60℃、好ましくは20〜50℃である。
【0082】
反応のpHは、通常、4〜9、好ましくは5〜8である。
【0083】
反応時間は、通常、1〜120時間、好ましくは1〜72時間である。
【0084】
上記反応は、基質を一括、または連続的に添加して行うことができる。また、反応はバッチ方式または連続方式で行うことができる。
【0085】
本発明の還元工程において、一般に用いられる補酵素NAD(P)H再生系を組み合わせて用いることにより、高価な補酵素の使用量を大幅に減少させることができる。代表的なNAD(P)H再生系としては、例えば、グルコース脱水素酵素及びグルコースを用いる方法が挙げられる。
【0086】
還元酵素遺伝子及びこの酵素が依存する補酵素を再生する能力を有する酵素(例えばグルコース脱水素酵素)の遺伝子を同一宿主微生物内に導入した形質転換微生物の培養物またはその処理物等を用いて、上記と同様の還元反応を行えば、別途に補酵素の再生に必要な酵素源を調整する必要がないため、より低コストで光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体を製造することができる。
【0087】
上記のような形質転換微生物としては、上記還元酵素をコードするDNA及び該酵素が依存する補酵素を再生する能力を有する酵素をコードするDNAを有するプラスミドで形質転換された形質転換微生物が挙げられる。ここで、酵素を再生する能力を有する酵素としては、グルコース脱水素酵素が好ましく、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素がより好ましい。また、宿主微生物としては大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。
【0088】
より好ましくは、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)IFO0705由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coliHB101(pNTCRG)(受託番号:FERM BP−6898、受託日:平成11年9月28日)、
デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)IFO13584由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coliHB101(pNTDRG1)(受託番号:FERM BP−08458、受託日:平成15年8月25日)、
ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)IFO0415由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coliHB101(pNTRGG1)(受託番号:FERM BP−7858、受託日:平成14年1月22日)、
セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)IFO12468由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coliHB101(pNTSGG1)(受託番号:FERM P−18449、受託日:平成13年8月6日)、
ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)IFO13867由来の還元酵素遺伝子及びバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coliHB101(pTSBG1)(受託番号:FERM BP−7119、受託日:平成12年4月11日)、
ロドコッカス・スピーシーズ(Rhodococcus sp.)KNK01由来の還元酵素遺伝子で形質転換されたEscherichia coliHB101(pNTRS)(受託番号:FERM BP−08545、受託日:平成15年11月10日)等が挙げられる。
【0089】
これらの形質転換微生物は、それぞれ、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、これらの形質転換微生物のうち、Escherichia coliHB101(pNTCRG)、Escherichia coliHB101(pNTDRG1)、Escherichia coliHB101(pNTRGG1)、Escherichia coliHB101(pTSBG1)、及び、Escherichia coliHB101(pNTRS)は、ブダペスト条約に基づいて国際寄託されている。
【0090】
なお、本発明の還元工程を、補酵素再生系と組み合わせて実施する、または、酵素源として上記形質転換微生物の培養物もしくはその処理物を用いる場合は、補酵素として、より安価な酸化型のNAD(P)を添加して反応を行うことも可能である。
【0091】
還元反応で生じた光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体(3)は、常法により精製することが出来る。例えば、光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−フェニルプロピオン酸エチルは、酵素源として微生物等を用いた場合には、必要に応じ遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒で抽出し、有機溶媒を減圧下に除去し、そして減圧蒸留またはクロマトグラフィー等の処理を行う事により、精製することができる。
【実施例】
【0092】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0093】
(参考例1)3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルエステルの調製
3,4−メチレンジオキシケイ皮酸50gをエタノール500mlに溶解させ、これに5%Pd/C触媒5gを加えた。反応系を水素ガス置換し、25℃で6時間攪拌した。反応終了後、Pd/C触媒をろ過操作にて除去した。得られたエタノール溶液を5℃に冷却し、塩化チオニル37.1gを一時間かけて滴下した。滴下終了後、内温5℃でさらに3時間攪拌した。反応終了後、減圧下にて溶媒を留去し、橙色濃縮物54.7gを得た。これを一部抜き取り、高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)(カラム:LiChrosphere 100 PR−8(E)250mm×4.0mmI.D.、メルク社製、移動相:リン酸・リン酸二水素カリウム水溶液/アセトニトリル=1/1、流速:1mL/分、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)にて分析を行ったところ、表題化合物49.8gを含有していることを確認した。
【0094】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.77−6.63(3H,m),5.93(2H,s),4,17−4.10(2H,q),2.86(2H,t),2.56(2H,t),1.27(3H,t)。
【0095】
(参考例2)2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸エチルの製造法
60%NaH4.4gをTHF200mlに懸濁した溶液に、3−フェニルプロピオン酸エチル17.8g及び蟻酸エチル8.2gを氷冷下、1時間かけて適下した後、室温にて15時間攪拌した。さらに、60%NaH14g及び蟻酸エチル25.9gを3回に分割して添加した後、室温にて15時間攪拌した。得られた反応液に、10%クエン酸溶液を添加した後、酢酸エチルにて抽出し、減圧濃縮することにより茶色油状の濃縮物32.4gを得た。得られた濃縮物をシリカゲルカラムにて精製することにより、表題化合物17.9gを透明油状物として得た。
【0096】
(参考例3)2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸メチルの製造法
3−フェニルプロピオン酸エチル及び蟻酸エチルの代わりに3−フェニルプロピオン酸メチル及び蟻酸メチルを用いて、参考例2と同様の方法に従い、表題化合物を透明油状物として得た。
【0097】
(参考例4)2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸イソプロピルの製造法
3−フェニルプロピオン酸エチル及び蟻酸エチルの代わりに3−フェニルプロピオン酸イソプロピル及び蟻酸イソプロピルを用いて、参考例2と同様の方法に従い、表題化合物を透明油状物として得た。
【0098】
(参考例5)2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸イソブチルの製造法
3−フェニルプロピオン酸エチル及び蟻酸エチルの代わりに3−フェニルプロピオン酸イソブチル及び蟻酸イソブチルを用いて、参考例2と同様の方法に従い、表題化合物を透明油状物として得た。
【0099】
(実施例1)2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルの製造法
60%NaH42.4gをテトラヒドロフラン(THF)500mlに懸濁した。3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチル84.5g(純度93.7重量%)をTHF100mlに溶かし、先の懸濁液に室温で滴下した。40℃に昇温して15分攪拌した後、蟻酸エチル131gを2.5時間かけて滴下した後、さらに3時間攪拌した。
【0100】
溶媒を留去し、反応溶液を約半量まで濃縮した後、氷浴で冷却し、水500mlを内温が10℃以下を保つ速度で滴下した。水層をヘキサン200mlで二回洗浄した後に、濃塩酸でpH4.5に調節した。これをトルエン500mlで3回抽出し、減圧濃縮により表題化合物82.8gを得た。下記の条件にてガスクロマトグラフィー(GC)法にて化学純度を分析したところ、化学純度94.7重量%であった。
【0101】
GC分析条件=カラム:TC−FFAP 1m×0.25mmI.D.(GLサイエンス社製)、キャリアーガス:He=8kPa、検出:FID、カラム温度:150℃、検出時間:2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチル4.0分。
【0102】
(実施例2)2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルの製造法
60%NaH7.91gをTHF12mlに懸濁し、40℃に昇温した。3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチル11.0gと蟻酸エチル11.0gをTHF77.0mlに溶解し、先の懸濁液に5〜14時間掛けて滴下した。1時間攪拌後、蟻酸エチル3.7gを5時間で添加し、更に12時間攪拌した。
【0103】
得られた反応混合物にトルエン250mlを加えて減圧濃縮し、約10重量%のトルエン懸濁液とした後、これを10℃以下に冷却した水55mlに内温が維持できる速度で滴下した。有機層を廃棄後、水層をトルエン180mlで一回洗浄し、この水層を濃塩酸でpH5〜7に調節した後に、トルエン90mlで2回抽出し、1回水洗後、有機層を減圧濃縮して、表題化合物11.2gを得た。実施例1の方法に従い、化学純度を分析したところ、化学純度98.8重量%であった。
【0104】
(実施例3)2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸メチルの製造法
60%NaH1.38gをTHF12mlに懸濁した。3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸メチル2.4gをTHF12mlに溶かし、先の懸濁液に室温で滴下した。40℃に昇温して15分攪拌した後、蟻酸メチル3.46gを1時間かけて滴下した。さらに、60%NaH0.7g及び蟻酸メチル0.9gを4回に分割して添加した後、40℃にて3時間攪拌した。
【0105】
溶媒を留去し、反応溶液を約半量まで濃縮した後、氷浴で冷却し、水40mlを内温が10℃以下を保つ速度で滴下した。水層をトルエン50mlで二回洗浄した後に、濃塩酸でpH4.5に調節した。これをトルエン50mlで2回抽出し、減圧濃縮により表題化合物2.63gを得た。実施例1の方法に従い、化学純度を分析したところ、化学純度96.4重量%であった。
【0106】
(実施例4)2−ホルミルヘキサン酸エチルの製造法
60%NaH60gをTHF600mlに懸濁し、ヘキサン酸エチル72.1gを先の懸濁液に室温で滴下した。40℃に昇温して15分攪拌した後、蟻酸エチル185.2gを6時間かけて滴下した。さらに、60%NaH30g及び蟻酸エチル92.6gを4回に分割して添加した後、40℃にて3時間攪拌した。
【0107】
溶媒を留去し、反応溶液を約半量まで濃縮した後、氷浴で冷却し、水40mlを内温が10℃以下を保つ速度で滴下した。水層をトルエン400mlで二回洗浄した後に、濃塩酸でpH4.5に調節した。これをトルエン700mlで2回抽出し、減圧濃縮により表題化合物76.8gを得た。下記の方法に従い、化学純度を分析したところ、化学純度96.6重量%であった。
【0108】
GC分析条件=カラム:HP−530m×0.32mmI.D.(J&W Scientific社製)、キャリアーガス:He=125kPa、検出:FID、カラム温度:120℃、検出時間:2−ホルミルヘキサン酸エチル6.9分、2−ヒドロキシメチルヘキサン酸エチル9.8分。
【0109】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:11.42(0.6H,d),9.70(0.4H,d),7.0(0.6H,d),4.16−4.27(2H,m),3.25(0.4H,m),1.24−2.37(9H,m),0.90(3H,t)。
【0110】
(実施例5)2−ホルミルヘキサン酸エチルの製造法
60%NaH62gをTHF126mlに懸濁し、40℃に昇温した。ヘキサン酸エチル56gと蟻酸エチル86gをTHF250mlに溶解し、先の懸濁液に5〜20時間掛けて滴下した。3時間攪拌後、蟻酸エチル86gを5時間で添加し、更に12時間攪拌した。
【0111】
得られた反応混合物にトルエン1200mlを加えて減圧濃縮し、約10重量%のトルエン懸濁液とした後、これを10℃以下に冷却した水280mlに内温が維持できる速度で滴下した。有機層を廃棄後、水層をトルエン570mlで一回洗浄し、この水層を濃塩酸でpH5〜7に調節した後に、酢酸エチル280mlで2回抽出し、1回水洗後、有機層を減圧濃縮して、表題化合物55gを得た。実施例4の方法に従い、化学純度を分析したところ、化学純度97.2重量%であった。
【0112】
(実施例6)2−ホルミル酪酸エチルの製造法
ヘキサン酸エチルの代わりに酪酸エチルを用いて、実施例4と同様の方法に従い、表題化合物を茶色油状物として得た。実施例4の方法に従い、化学純度を分析したところ、化学純度96.4重量%であった。
【0113】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:11.42(0.6H,d),9.70(0.4H,d),7.0(0.6H,d),4.15−4.28(2H,m),3.17−3.21(0.4H,m),1.23−2.29(5H,m),0.96−1.05(3H,m)。
【0114】
(実施例7) 2−ホルミルヘプタン酸エチルの製造法
ヘキサン酸エチルの代わりにヘプタン酸エチルを用いて、実施例4と同様の方法に従い、表題化合物を茶色油状物として得た。実施例4の方法に従い、化学純度を分析したところ、化学純度96.7重量%であった。
【0115】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:11.43(0.6H,d),9.70(0.4H,d),7.1(0.6H,d),4.16−4.27(2H,m),3.23−3.27(0.4H,m),1.21−2.06(11H,m),0.85−0.91(3H,m)。
【0116】
(実施例8)2−ホルミルオクタン酸エチルの製造法
ヘキサン酸エチルの代わりにオクタン酸エチルを用いて、実施例4と同様の方法に従い、表題化合物を茶色油状物として得た。実施例4の方法に従い、化学純度を分析したところ、化学純度95.4重量%であった。
【0117】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:11.43(0.6H,d),9.70(0.4H,d),7.0(0.6H,d),4.16−4.27(2H,m),3.23−3.27(0.4H,m),1.25−1.88(13H,m),0.88(3H,t)。
【0118】
(比較例1)2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルの製造法
60%NaH2.0gをTHF30mlに懸濁した。懸濁液を0℃に冷却し、3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチル6.0g(純度92.1重量%)をTHF20mlに溶かし、先の懸濁液に滴下した。0℃で蟻酸エチル4mLを滴下した後、室温に戻しさらに20分攪拌した。反応溶液を40℃に加熱し、さらに攪拌を続けた。加熱後、約30分でガス発生が認められた。ガス発生が終わった時点でHPLC(カラム:LiChrosphere100 PR−8(E)250mm×4.0mmI.D.、メルク社製、移動相:リン酸・リン酸二水素カリウム水溶液/アセトニトリル=1/1、流速:1mL/分、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)にて反応溶液を分析したところ、原料の残存が認められたため、さらにNaH1g、蟻酸エチル4mLを加え、40℃で攪拌した。再びガス発生が始まり、15分程度で終了した。反応液を再度分析したところ、まだ原料の残存が認められたため、再度NaH1gと蟻酸エチル4mLを加えた。ガス発生終了後、再度分析を行ったところ、わずかに原料の残存があり、さらにNaH1gおよび蟻酸エチル8mLを添加、原料の消失を確認したので、反応を停止した。塩酸でpH=7〜8に調整後、酢酸エチルを加え抽出を行った。分液ロートにて、NaHに含まれるミネラルオイルを分液操作で除去し、得られた酢酸エチル層を濃縮することにより、オレンジ色のオイルとして表題化合物4.75gを得た。実施例1の方法に従い、化学純度を分析したところ、化学純度80.20重量%であった。
【0119】
(実施例9)光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−フェニルプロピオン酸エチルの製造法
グルコース4%、イーストエキス0.3%、KHPO1.3%、(NHHPO0.7%、NaCl0.01%、MgSO・7HO0.08%、ZnSO・7HO0.006%、FeSO・7HO0.009%、CuSO・5HO0.0005%、MnSO・4〜5HO0.001%からなる液体培地(pH7.0)を調製し、大型試験管に5mlづつ分注して、120℃で20分間蒸気殺菌した。これらの液体培地に表1に示した微生物をそれぞれ1白金耳植菌し、30℃で2〜3日間振盪培養した。この培養液から遠心分離により菌体を集め、水洗後、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)1mlに懸濁した。この菌体懸濁液0.5mlと、2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸エチル2mg、グルコース20mgを含有する0.1Mリン酸緩衝液0.5mlとを混合し、栓付試験管に入れ30℃で24時間振盪した。反応後、反応液を等量体積の酢酸エチルにより抽出し、抽出液中の基質及び生成物量をガスクロマトグラフィー(GC)法により分析することにより、変換率(%)を求めた。また、光学純度については、生成物を薄層クロマトグラフィー(TLC)にて精製した後、HPLC法により分析した。その結果を表1に示す(変換率は20〜100%)。
【0120】
分析条件、及び、変換率、光学純度の計算方法は以下の通りである。
【0121】
GC分析条件=カラム:TC−FFAP 5m×0.25mmI.D.(GLサイエンス社製)、キャリアーガス:He=30kPa、検出:FID、カラム温度:150℃、検出時間:2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸エチル4.0分、2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エチル12.0分。
【0122】
HPLC分析条件=カラム:Chiralcel AS 250mm×4.6mmI.D.(ダイセル化学工業株式会社製)、溶離液:ヘキサン/イソプロパノール=98/2、流速:1.0ml/min、検出:210nm、カラム温度:40℃、検出時間:R体16.1分、S体18.3分。
変換率(%)=生成物量/(基質量+生成物量)×100
光学純度(%ee)=(A−B)/(A+B)×100(A及びBは対応する鏡像異性体量を表わし、A>Bである)。
【0123】
【表1】

【0124】
(実施例10)光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−フェニルプロピオン酸エチルの製造法
表2に示す微生物について、グリセリン1.5%、イーストエキス0.5%、KHPO1.3%、(NHHPO0.7%、NaCl0.01%、MgSO・7HO0.08%、ZnSO・7HO0.006%、FeSO・7HO0.009%、CuSO・5HO0.0005%、MnSO・4〜5HO0.001%からなる液体培地(pH7.0)を用いて培養する以外は、実施例9と同様の方法に従い、変換率及び光学純度を測定した。その結果を表2に示す(変換率は20〜100%)。
【0125】
【表2】

【0126】
(実施例11)光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−フェニルプロピオン酸エチルの製造法
グルコース4%、イーストエキス0.3%、KHPO1.3%、(NHHPO0.7%、NaCl0.01%、MgSO・7HO0.08%、ZnSO・7HO0.006%、FeSO・7HO0.009%、CuSO・5HO0.0005%、MnSO・4〜5HO0.001%からなる液体培地(pH7.0)を調製し、大型試験管に5mlづつ分注して、120℃で20分間蒸気殺菌した。これらの液体培地に表3に示した微生物をそれぞれ1白金耳植菌し、30℃で2〜3日間振盪培養した。この培養液から遠心分離により菌体を集め、水洗し、氷冷アセトンを添加した後、減圧乾燥することにより、アセトン乾燥菌体を調製した。得られたアセトン乾燥菌体5mg、2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸エチル2mg、グルコース10mg、NAD(またはNADP)1mg、0.1Mリン酸緩衝液0.5ml(pH=6.5)及び酢酸エチル0.5mlを栓付試験管に添加し、30℃で24時間振盪した。次に、実施例9と同様の操作を行い、変換率及び光学純度を測定した。その結果を表3に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
(実施例12)光学活性2−ヒドロキシメチルアルカン酸エチルの製造法
実施例11で得られたアセトン乾燥菌体5mg、表4に示す各種2−ホルミルアルカン酸エチル2mg、グルコース10mg、NADP1mg、0.1Mリン酸緩衝液0.5ml(pH=6.5)及び酢酸エチル0.5mlを栓付試験管に添加し、30℃で24時間振盪した。反応後、反応液を等量体積の酢酸エチルにより抽出し、抽出液中の基質及び生成物量をガスクロマトグラフィー(GC)法により分析することにより、変換率(%)を求めた。また、光学純度については、生成物をHPLCラベル化剤(3,5−ジニトロ塩化ベンゾイル)を用いて誘導化し、TLCにて精製した後、HPLC法により分析した。その結果を表4に示す。分析条件は以下の通りである。
【0129】
GC分析条件=カラム:HP−530m×0.32mmI.D.(J&W Scientific社製)、キャリアーガス:He=125kPa、検出:FID、カラム温度:120℃、検出時間:2−ホルミルヘキサン酸エチル6.9分、2−ヒドロキシメチルヘキサン酸エチル9.8分。
【0130】
HPLC分析条件=カラム:Chiralcel OD−H0.46×25cmI.D.(ダイセル化学工業株式会社製)、溶離液:ヘキサン/イソプロパノール=95/5、流速:0.5ml/min、検出:210nm、カラム温度:40℃、検出時間:(R)−2−ヒドロキシメチルヘキサン酸エチル誘導体30.6分、(S)−2−ヒドロキシメチルヘキサン酸エチル誘導体37.4分。
【0131】
【表4】

【0132】
(実施例13)光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−フェニルプロピオン酸エステルの製造法
組換え大腸菌HB101(pNTCRG)受託番号FERM BP−6898を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液1mlに表5に示す各種2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸エステル10mg、NADP1mg、グルコース10mgを添加し、30℃で2時間攪拌した。反応終了後、実施例9と同様の分析法で、変換率及び光学純度を分析した。その結果を表5に示す(いずれも変換率は100%であった)。
【0133】
【表5】

【0134】
(実施例14)光学活性2−(ヒドロキシメチル)−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルの製造法
表6に示す各種組み換え大腸菌を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl 0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液1mlに2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチル10mg、NAD(またはNADP)1mg、グルコース10mgを添加し、30℃で2時間攪拌した。反応終了後、実施例9と同様の分析法で、変換率と生成物の光学純度を分析した。その結果を表6に示す(いずれも変換率は100%であった)。
【0135】
【表6】

【0136】
(実施例15)光学活性2−ヒドロキシメチルアルカン酸エチルの製造法
表7に示す各種組み換え大腸菌を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液1mlに、表7に示す各種2−ホルミルアルカン酸エチル10mg、NAD(またはNADP)1mg、グルコース10mgを添加し、30℃で2時間攪拌した。反応終了後、実施例12と同様の分析法で、変換率と生成物の光学純度を分析した。その結果を表7に示す(いずれも変換率は100%であった)。
【0137】
【表7】

【0138】
(実施例16)(R)−2−(ヒドロキシメチル)−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルの製造法
組換え大腸菌HB101(pNTCRG)受託番号FERM BP−6898を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液550mlに実施例1で得られた2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチル87g、NADP27.5mg、グルコース89gを添加し、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液からトルエンを用いて抽出、濃縮することにより、茶色油状物84.1gを得た。実施例9と同様の分析法で、生成物の化学純度と光学純度を分析したところ、化学純度96.5%、光学純度96.4%ee、(R)体であった。
【0139】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.73−6.56(3H,m),5.93(2H,s),4.12−4.23(2H,q),3.76−3.64(2H,m),2.95−2.69(3H,m),1.27(3H,t)。
【0140】
(実施例17)(R)−2−(ヒドロキシメチル)−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸メチルの製造法
組換え大腸菌HB101(pNTCRG)受託番号FERM BP−6898を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液50mlに実施例1で得られた2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸メチル1.89g、NADP2.5mg、グルコース1.9gを添加し、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液からトルエンを用いて抽出、濃縮することにより、茶色油状物1.82gを得た。実施例9と同様の分析法で、生成物の化学純度及び光学純度を分析したところ、化学純度96.8%、光学純度98.0%ee、(R)体であった。
【0141】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.73−6.62(3H,m),5.93(2H,s),3.77−3.67(2H,m),3.70(3H,s),2.96−2.90(1H,m),2.82−2.75(2H,m)。
【0142】
(実施例18)(S)−2−(ヒドロキシメチル)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−プロピオン酸エチルの製造法
組換え大腸菌HB101(pTSBG1)受託番号FERM BP−7119を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液50mlに実施例1で得られた2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチル0.5g、NADP2.5mg、グルコース0.5gを添加し、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液からトルエンを用いて抽出、濃縮することにより、茶色油状物0.49gを得た。実施例9と同様の分析法で、生成物の化学純度と光学純度を分析したところ、化学純度96.8%、光学純度43%ee、(S)体であった。
【0143】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.73−6.56(3H,m),5.93(2H,s),4.12−4.23(2H,q),3.76−3.64(2H,m),2.95−2.69(3H,m),1.27(3H,t)。
【0144】
(実施例19)(R)−2−ヒドロキシメチルヘキサン酸エチルの合成
組換え大腸菌HB101(pNTRS)受託番号FERM BP−08545を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl 0.5%、硫酸亜鉛7水和物50mg、pH=7.0)に接種し、30℃で40時間振とう培養した。得られた培養液25mlにグルコース脱水素酵素(天野エンザイム社製)1,000units、2−ホルミルヘキサン酸エチル2.5g、NAD3mg、グルコース4g、硫酸亜鉛7水和物50mgを添加し、2.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することによりpH6.5に調整しながら、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液に酢酸エチル100mlを加えて抽出し、有機層を減圧下で留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、油状の(R)−2−ヒドロキシメチルヘキサン酸エチルを得た。収率は90%、光学純度は93.6%e.e.であった。なお、光学純度の分析は、HPLCラベル化剤(3,5−ジニトロ塩化ベンゾイル)を用いて誘導化した後、ChiralcelOD−Hカラム0.46×25cmI.D.(ダイセル化学工業社製)を用いたHPLC法によって行った。
【0145】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:4.13−4.24(2H,q),3.72−3.79(2H,m),2.53−2.59(1H,m),1.5−1.7(2H,m),1.24−1.37(7H,m),0.9(3H,t)。
【0146】
(実施例20)(R)−2−ヒドロキシメチルヘプタン酸エチルの合成
2−ホルミルヘキサン酸エチルの代わりに2−ホルミルヘプタン酸エチルを用いて、実施例19と同様の方法に従い、表題化合物を透明油状物として得た。収率は90%、光学純度は87%eeであった。
【0147】
H NMR(400Hz,CDCl)δ:4.13−4.24(2H,q),3.69−3.79(2H,m),2.53−2.59(1H,m),1.44−1.69(2H,m),1.22−1.36(9H,m),0.9(3H,t)。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の方法により、医薬品中間体として有用な光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体を安価な原料から簡便に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2);
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基、又は置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基を表す。Rは炭素数1〜10のアルキル基、又は置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基を表す。XはH、Li、Na、又はKを表す。前記置換基はハロゲン原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルコキシ基;ニトロ基、シアノ基、メチレンジオキシ基から選択される。)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体に、そのホルミル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を作用させることにより、一般式(3);
【化2】

(式中、R及びRは前記と同じ。*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体を製造する方法であって、
キャンディダ・ラクチス−コンデンシイ(Candida lactis−condensi)、キャンディダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)、及び、キャンディダ・バーサチリス(Candida versatilis)からなる群より選択される微生物に由来し、前記式(2)で表される誘導体のホルミル基をR選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて、前記式(3)で表される誘導体のR体を製造することを特徴とする製造法。
【請求項2】
R選択的な酵素源が、Escherichia coli HB101(pNTCRG)(FERM BP−6898)又はEscherichia coli HB101(pNTRGG1)(FERM BP−7858)の培養物又はその処理物である請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
前記式(2)及び(3)において、Rがn−ブチル基又は3,4−メチレンジオキシベンジル基である請求項1に記載の製造法。
【請求項4】
一般式(1);
【化3】

(式中、Rは炭素数2〜10のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基、又は置換基を有していても良い炭素数5〜15のアリール基を表す。Rは炭素数1〜10のアルキル基、又は置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基を表す。前記置換基はハロゲン原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルコキシ基;ニトロ基、シアノ基、メチレンジオキシ基から選択される。)で表される酢酸エステル誘導体を、塩基及び蟻酸エステルと反応させることにより、一般式(2);
【化4】

(式中、R及びRは前記と同じ。XはH、Li、Na、又はKを表す。)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体に変換する工程、有機溶媒と水を用い、不純物を有機層に除去しつつ、前記式(2)で表される誘導体を水層に転溶する工程、及び前記式(2)で表される誘導体のホルミル基をR選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて、前記式(2)で表される誘導体を立体選択的に還元することにより、一般式(3);
【化5】

(式中、R及びRは前記と同じ。*は不斉炭素原子を表す。)で表される光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体のR体を取得する工程を含むことを特徴とする、前記式(3)で表される光学活性3−ヒドロキシプロピオン酸エステル誘導体の製造法であって、
前記酵素源が、キャンディダ・ラクチス−コンデンシイ(Candida lactis−condensi)、キャンディダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)、及び、キャンディダ・バーサチリス(Candida versatilis)からなる群より選択される微生物由来の酵素源である製造法。
【請求項5】
前記式(1)、(2)及び(3)において、Rが炭素数2〜10のアルキル基又は置換基を有していても良い炭素数5〜15のアラルキル基であって、前記置換基がハロゲン原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルコキシ基;ニトロ基、シアノ基、メチレンジオキシ基から選択される請求項4に記載の製造法。
【請求項6】
前記式(1)、(2)及び(3)において、Rが炭素数1〜10のアルキル基である請求項4又は5に記載の製造法。
【請求項7】
一般式(5);
【化6】

(式中、Rは炭素数2〜6のアルキル基を表す。Rは炭素数1〜10のアルキル基を表す。XはH、Li、Na、又はKを表す。)で表される2−ホルミル酢酸エステル誘導体。
【請求項8】
一般式(5)において、Rがエチル基である請求項7に記載の2−ホルミル酢酸エステル誘導体。
【請求項9】
一般式(5)において、Rがエチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基である請求項7又は8に記載の2−ホルミル酢酸エステル誘導体。

【公開番号】特開2010−88455(P2010−88455A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299437(P2009−299437)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【分割の表示】特願2005−502358(P2005−502358)の分割
【原出願日】平成15年12月8日(2003.12.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】