説明

光学活性3−フェニルプロピオン酸誘導体を生成する方法、およびその誘導体の後続生成物

光学活性3−フェニルプロピオン酸誘導体を生成する方法、その誘導体から得られる光学活性1−クロロ−3−フェニルプロパン誘導体、およびその方法によって得られる光学活性中間体生成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性3−フェニルプロピオン酸誘導体を調製する方法、その誘導体から得られる光学活性1−クロロ−3−フェニルプロパン誘導体、およびその方法によって得られる光学活性中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
不斉合成、すなわち、立体異性体生成物(エナンチオマーまたはジアステレオマー)が同等でない量でもたらされるように、プロキラル基からキラル基を生成する反応は、特に製薬事業部門で非常に重要になってきている。一方の特定の光学活性異性体のみが治療活性を有することが多いからである。同じことが、合成素子A(シントンA)と称する以下の化合物にも当てはまるが、
【化1】

【0003】
この化合物は、レニン阻害薬アリスキレン(SPP100)の調製で重要な中間体である。アリスキレンは、高度に活性かつ選択的レニン阻害薬であり、それゆえ、高血圧および関連する心血管疾患を治療するための重要な潜在的活性医薬成分である(J.M. Woodら、Biochemical and Biophysical Research Communications 308 (2003) 698-705)。従って、合成素子A型系およびその光学対掌体をもたらす効率的合成手順には高いニーズが存在する。
【0004】
国際公開第02/02500号およびAdv. Synth. Catal. 2003, 345, 160-164は、以下のスキームに示すように、対応するトランス−アクリル酸の不斉水素化反応によって合成素子Aを調製する際の中間体として、(R)2−アルキル−3−フェニルプロピオン酸の合成について説明している。
【化2】

【0005】
この方法の一欠点は、このトランス異性体の調製が抽出と結晶化の繰り返しにより複雑なことである。加えて、エナンチオ選択的水素化に使用され、フェニルフェロセニル主鎖を有するホスフィンリガンドをベースとする触媒では、わずか95%のeeがほんの低い基材/触媒率(s/c=5700)でしか得られず、その結果、相応して多量の触媒を使用する必要があり、その方法は非経済的なものとなる。
【特許文献1】国際公開第02/02500号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0158875号
【特許文献3】同第437690号
【非特許文献1】J.M. Woodら、Biochemical and Biophysical Research Communications 308 (2003) 698-705
【非特許文献2】Adv. Synth. Catal. 2003, 345, 160-164
【非特許文献3】P. J. PyeおよびK. Rossen, Tetrahedron: Asymmetry 9 (1998), pp. 539-541
【非特許文献4】Uson, Inorg. Chim. Acta 73, 275 1983
【非特許文献5】J. March、『Advanced Organic Chemistry』第4版、John Wiley & Sons出版(1992)、p. 1212 および 表19.5、p. 1208
【非特許文献6】J. March、『Advanced Organic Chemistry』第4版、John Wiley & Sons 出版(1992)、pp. 431-433
【非特許文献7】J. March、『Advanced Organic Chemisty』第4版、John Wiley & Sons 出版(1992)、pp. 944-951
【非特許文献8】J. March、『Advanced Organic Chemistry』第4版、John Wiley & Sons 出版(1992)、pp. 378-383
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、光学活性3−フェニルプロピオン酸誘導体およびその後続生成物、すなわち結果として生じる生成物、特に合成素子Aを調製する新規な方法を提供することが本発明の目的であり、この方法によって効率的で費用効率の高い工業的合成が可能になる。これに関しては、特に、中間体として3−フェニルアクリル酸誘導体のシス/トランス異性体混合物が使用できることを意図している。さらに、可能な限り高い基材/触媒率で、すなわち、少量の触媒(s/c≧10000/1)で、高い光学収率(≧98%ee)を得ることを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、一般式Iの光学活性化合物を調製する方法であって、
【化3】

【0008】
[式中、
、R、R、およびRは、互いに独立して、水素、C−C−アルキル、ハロ−C−C−アルキル、ヒドロキシ−C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、ヒドロキシ−C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、ヒドロキシ−C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、C−C−アルコキシ−C−C−アルコキシ、またはヒドロキシ−C−C−アルコキシ−C−C−アルコキシであり、
は、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、フェニル、またはベンジルであり、そして
Aは、水素またはカチオン等価体である]
− 1つのエナンチオマーが富化されたエナンチオマー混合物を得るために、キラル水素化触媒の存在下で、一般式IIの化合物のシス異性体またはシス/トランス異性体混合物をエナンチオ選択的に水素化し、
【化4】

【0009】
[式中、R〜Rは前記の意味を有する]
− 水素化で得られた前記エナンチオマー混合物をさらにエナンチオマー富化するために、塩基性塩形成剤を含む溶媒を加えることによって結晶化させ、そのようにして形成し、1つの立体異性体が富化された固体を単離し、
− 式Iの光学活性化合物を得るために、適宜、前記単離した異性体をプロトン化反応またはカチオン交換にかける方法によって実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、「キラル化合物」とは、キラル軸、キラル平面、またはへリックスツイストと共に、少なくとも一個のキラル中心(すなわち、少なくとも一個の不斉原子、特に少なくとも一個の不斉C原子またはP原子)を有する化合物である。「キラル触媒」という用語は、少なくとも一個のキラルリガンドを有する触媒を含む。
【0011】
「アキラル化合物」はキラルではない化合物である。
【0012】
「プロキラル化合物」は、少なくとも一個のプロ不斉中心を有する化合物を意味する。「不斉合成」は、少なくとも一個のプロ不斉中心を有する化合物から、少なくとも一個のキラル中心、一キラル軸、キラル平面、またはへリックスツイストを有する化合物を生成する反応で、立体異性体生成物が同等でない量で生じる反応をさす。
【0013】
「立体異性体」は、同一の構造であるが三次元空間の原子配列が異なる化合物である。
【0014】
「エナンチオマー」は、鏡像に対する像として互いに関与し合う立体異性体である。不斉合成で求められる「鏡像体過剰率」(ee)は、下式:ee[%]=(R−S)/(R+S)×100から得られる。RおよびSは、2個のエナンチオマーのCIP則を説明する語であり、その不斉原子での絶対配置を表す。高光学純度の化合物(ee=100%)は、「ホモキラル化合物」ともいう。
【0015】
本発明の方法によって、特定の立体異性体が富化された生成物がもたらされる。得られる「鏡像体過剰率」(ee)は、一般的に少なくとも98%である。
【0016】
「ジアステレオマー」は、互いにエナンチオマーではない立体異性体である。
【0017】
以後、「アルキル」という用語は、直鎖および分枝アルキル基を含む。これらは、好ましくは直鎖または分枝C−C20−アルキルであり、より好ましくはC−C12−アルキル、特に好ましくはC−C−アルキル、より特に好ましくはC−C−アルキル基である。アルキル基の例としては、特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、2−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、2−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1−エチル−2−メチルプロピル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、2−エチルペンチル、1−プロピルブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、2−プロピルヘプチル、ノニル、デシルがある。
【0018】
「アルキル」という用語は、置換アルキル基をも含み、これらの基は、一般的に、シクロアルキル、アリール、ヘタリール、ハロゲン、NE、NE3+、COOH、カルボキシレート基、SOH、およびスルホネート基から選択される置換基を1、2、3、4、または5個、好ましくは1、2、または3個、特に好ましくは1個を含みうる。
【0019】
本発明の目的で「アルキレン」という用語は、好ましくは1〜6個の、特に1〜4個の炭素原子を有する、直鎖または分枝アルカンジイル基をさす。これらの基には、メチレン(−CH−)、エチレン(−CH−CH−)、n−プロピレン(−CH−CH−CH−)、イソプロピレン(−CH−CH(CH)−)などが含まれる。
【0020】
本発明の目的で「シクロアルキル」という用語には、非置換および置換シクロアルキル基、好ましくはC−C−シクロアルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはシクロヘプチルが含まれ、これらの基は、置換された場合、一般的に好ましくはアルキルについて記載した置換基から選択される置換基を1、2、3、4、または5個、好ましくは1、2、または3個、特に好ましくは1個を含みうる。
【0021】
本発明の目的で「ヘテロシクロアルキル」という用語は、一般的に、4〜7個、好ましくは5または6個の環原子を有する飽和脂環基を含み、その際、環炭素原子の1または2個は、好ましくは酸素、窒素、および硫黄成分から選択されるヘテロ原子で置換され、そしてそれらの飽和脂環基は任意に置換されていてよく、これらのヘテロ脂環基は、置換された場合、アルキル、アリール、COOR、COO、およびNEから選択される置換基、好ましくはアルキル基を1、2、または3個、好ましくは1または2個、特に好ましくは1個を含みうる。挙げることができるそのようなヘテロ脂環基の例には、ピロリジニル、ピペリジニル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、オキサゾリジニル、モルホリジニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソオキサゾリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニルがある。
【0022】
本発明の目的で「アリール」という用語は、非置換および置換アリール基を含み、好ましくは、フェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニル、アントラセニル、フェナントレニル、またはナフタセニルをさし、特に好ましくはフェニルまたはナフチルをさし、これらのアリール基は、置換された場合、一般的にアルキル、アルコキシ、カルボキシル、カルボキシレート、SOH、スルホネート、NE、アルキレン−NE、ニトロ、シアノ、またはハロゲン基から選択される置換基を1、2、3、4、または5個、好ましくは1、2、または3個、特に好ましくは1個を有しうる。
【0023】
本発明の目的で「ヘタリール」という用語には、非置換または置換ヘテロ環式芳香族基、好ましくはピリジニル、キノリニル、アクリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、インドリル、プリニル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,3,4−トリアゾリル、およびカルバゾリル基が含まれ、これらのヘテロ環式芳香族基は、置換された場合、一般的にアルキル、アルコキシ、アシル、カルボキシル、カルボキシレート、SOH、スルホネート、NE、アルキレン−NE、またはハロゲン基から選択される置換基を1、2、または3個含みうる。
【0024】
「アルキル」、「シクロアルキル」、「アリール」、「ヘテロシクロアルキル」、および「ヘタリール」という用語の上記説明は、「アルコキシ」、「シクロアルコキシ」、「アリールオキシ」、「ヘテロシクロアルコキシ」、および「ヘタリールオキシ」という用語にも同様に当てはまる。
【0025】
本発明の目的で「アシル」という用語は、一般的に、2〜11個、好ましくは2〜8個の炭素原子を有するアルカノイルまたはアロイル基、例えば、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、2−エチルヘキサノイル、2−プロピルヘプタノイル、ベンゾイル、またはナフトイル基をさす。
【0026】
好ましくは、基NEは、N,N−ジメチルアミノ、N−エチル−N−メチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N,N−ジプロピルアミノ、N,N−ジイソプロピルアミノ、N,N−ジ−n−ブチルアミノ、N,Nジ−t−ブチルアミノ、N,N−ジシクロヘキシルアミノ、またはN,N−ジフェニルアミノをさす。
【0027】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素をさし、フッ素、塩素、および臭素が好ましい。
【0028】
カチオン等価体は、単一荷電カチオン、または正の単一荷電相当する、多重荷電カチオンの一部分を意味する。好ましくは、アルカリ金属、特にNa、K、Li、イオン、またはオニウムイオン、例えば、アンモニウム、モノ−、ジ−、トリ−、テトラアルキルアンモニウム、ホスホニウム、テトラアルキルホスホニウム、またはテトラアリールホスホニウムイオンが使用される。
【0029】
基R、R、R、およびRは、互いに独立して、水素、C−C−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、およびtert−ブチル、C−C−アルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロピルオキシ、またはイソプロピルオキシ、またはC−C−アルコキシ−C−C−アルコキシ、例えば、メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、メトキシ−n−プロピルオキシ、エトキシ−n−プロピルオキシであるのが好ましい。
【0030】
好ましくは、RおよびRは水素であり、RおよびRは互いに独立して、水素ではない前述の適切で好ましい基から選択される。
【0031】
好ましくは、Rは、メトキシ−n−プロピルオキシであり、Rはメトキシである。
【0032】
基Rは、C−C−アルキルが好ましく、分枝C−C−アルキル、特にイソプロピルが好ましい。
【0033】
Aは、特に好ましくは、水素、またはアンモニア、一級アミン、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属に由来するカチオンである。Aは、特にH、NH、またはLiである。
【0034】
本発明の方法は、高光学純度で、特に、eeが少なくとも98%(*=立体中心)で、下式の「合成素子A酸(シントンA酸)」を調製する特定の実施形態で役立つ。
【化5】

【0035】
本発明の方法によって、一般式IIの化合物のシス異性体、または好ましくはシス/トランス異性体混合物から出発して、上記の一般式Iの光学活性化合物を調製できるようになる。シス異性体を少なくとも40%の量で、好ましくは過剰に含む一般式IIの化合物のシス/トランス異性体混合物を使用するのが好ましい。次いで、水素化に使用される異性体混合物は、好ましくは、シス異性体およびトランス異性体の総重量に対して、シス異性体を少なくとも50重量%、特に好ましくは少なくとも60重量%、特に少なくとも70重量%の量で含む。
【0036】
エナンチオ選択的水素化に使用される一般式IIの化合物の異性体混合物が、無視できない量でトランス異性体をさらに含むことは本発明の方法の特徴的性質である。それによって、本方法は、例えば、従来の1、2除去によって前駆体化合物から得られるような一般式IIの化合物のシス/トランス異性体混合物から出発して、好ましくはある種のシス立体選択性を備えた、一般式Iの光学活性化合物を有利に調製できるようになる。水素化に使用される一般式IIの化合物のシス/トランス異性体混合物は、シス異性体およびトランス異性体の総重量に対して、トランス異性体を少なくとも1重量%、特に好ましくは少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%の量で含むのが好ましい。
【0037】
本発明の方法によって、シス/トランス異性体混合物から出発して、技術純度等級の式Iの化合物を有利に調製できるようになる。すなわち、一般的に、水素化前の入念な精製ステップを省くことができるようになる。好ましくは、使用するシス/トランス異性体混合物組成物は、組成物の総重量に対して、シスおよびトランス異性体を少なくとも80重量%、特に好ましくは少なくとも85重量%含む。存在するその他の成分の例には、溶媒、ならびに先行する反応段階で生じた前駆体、中間体、および副産物がある。
【0038】
水素化に好ましく使用される触媒は、絶対配置が合成素子A酸の(R)異性体に対応する異性体に選択性を有して使用され、シス/トランス異性体混合物を水素化できるキラル水素化触媒である。不斉水素化段階では特に高いeeが好ましいが、そのee自体が決定的というわけではない。次の結晶化ステップで、本発明の方法に従ってさらにエナンチオマー富化が行われるからである。しかし、驚くべきことに、以下に記載する、シクロファン主鎖を有する平面キラルのビスホスファンをベースとするキラル水素化触媒によって、シス異性体およびトランス異性体を所望のエナンチオマーに高光学純度で水素化できること、すなわちee値がいずれの場合にも少なくとも50%(例えば少なくとも70%)のエナンチオマーに水素化できることが判明した。シス含有量が少なくとも70重量%(シス異性体およびトランス異性体の総重量に対する)のシス/トランス異性体混合物を使用する場合、一般的に、少なくとも80%のee値が得られ、シス含有量が100%の場合には、一般的に少なくとも90%のee値が得られる。
【0039】
従って、水素化触媒としては、リガンドとして少なくとも一種の下式化合物を含む遷移金属錯体を使用するのが好ましい。
【化6】

【0040】
[式中、
、RII、RIII、およびRIVは、互いに独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールであり、かつ
、RVI、RVII、RVIII、RIX、およびRは、互いに独立して、水素、アルキル、アルキレン−OH、アルキレン−NE、アルキレン−SH、アルキレン−OSiE、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、OH、SH、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、COOH、カルボキシレート、SOH、スルホネート、NE、ニトロ、アルコキシカルボニル、アシル、またはシアノである(式中、E、E、E、およびEは、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、およびアルキルアリールから選択されるそれぞれ同一のまたは異なる基である)]
リン原子に結合している基R、RII、RIII、およびRIVは、互いに独立して非置換および置換アリール基から選択されるのが好ましい。好ましくは、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、SOH、スルホネート、NE、アルキレン−NE、トリフルオロメチル、ニトロ、カルボキシル、アルコキシカルボニル、アシル、およびシアノから選択される置換基を1、2、3、または4個、好ましくは1、2、または3個、特に1または2個を有しうるフェニル基が好ましい。そのフェニルの置換基については、アルキルはC−C−アルキル、特にメチル、エチル、イソプロピル、およびtert−ブチルが好ましく、アルコキシはC−C−アルコキシ、特にメトキシが好ましく、アルコキシカルボニルは、C−C−アルコキシカルボニルが好ましい。基R、RII、RIII、およびRIVは、特に、フェニル、トリル、メトキシフェニル、メトキシキシリル、またはキシリルから、特にフェニルまたはキシリルから選択されるのが好ましい。R〜RIVは、全てフェニル、または全てトリル、または全てメトキシフェニル、または全てキシリル、または全てメトキシキシリルであるのが好ましい。トリル基は、そのリン原子に対して4位にメチル基を有するのが好ましい。メトキシフェニル基は、リン原子に対して4位にメトキシ基を有するのが好ましい。キシリル基は、リン原子に対して3位および5位にメチル基を有するのが好ましい。メトキシキシリル基は、リン原子に対して4位にメトキシ基を有し、3位および5位にメチル基を有するのが好ましい。
【0041】
基R、RVI、およびRVIIの少なくとも一つ、ならびに/あるいは基RVIII、RIX、およびRの一つは水素ではない基であり、その他の基は水素であるのが好ましい。水素ではない基は、C−C−アルキル、C−C−アルキレン−OH、C−C−アルキレン−OSi(C−C−アルキル)、C−C−アルコキシ、C−C−アルキレン−OC(アルキル)、およびC−C−アルキレン−OC(アリール)から選択するのが好ましい。
【0042】
好ましい実施形態では、基R〜Rは全て水素である。さらに好ましい実施形態では、基R、RVI、およびRVIIの一つ、ならびに/あるいは基RVIII、RIX、およびRの一つは、式CHOSi(CH(CH、CHOH、OCH、CHOC(CH、およびCHOC(Cの基から、特に、式CHOSi(CH(CH、CHOH、OCH、およびCHOC(Cの基から選択される。
【0043】
シクロファン主鎖を有する平面キラルのビスホスファンリガンドとして特に好ましいリガンドは下式のリガンドである。
【化7】

【0044】

【0045】
[Ph=フェニル、Tol=4−メチルフェニル、Xyl=3,5−ジメチルフェニル、Ani=4−メトキシフェニル、MeOXyl=3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル]
適切なキラルのパラシクロファンホスフィンは、当業者に知られており、例えば、Johnson Matthey Catalystsから市販されている。
【0046】
図示したリガンドでキラルを示す「R」の割当ては、P. J. PyeおよびK. Rossen, Tetrahedron: Asymmetry 9 (1998), pp. 539-541に従って行われ、このようなリガンドの市販名に対応する。
【0047】
エナンチオ選択的水素化には、リガンドとして、シクロファン主鎖を有する前述の平面キラルのビスホスファン化合物の少なくとも一種を有する、周期表のVIII族の金属錯体を使用するのが好ましい。遷移金属は、Pd、Pt、Ru、Rh、Ni、およびIrから選択されるのが好ましい。Rh、Ru、およびIrをベースとする触媒が特に好ましい。Rh触媒が特に好ましい。
【0048】
ホスフィン金属錯体は、ホスフィンと、不安定または準安定なリガンドを含む金属錯体とを反応させる当業者に公知の方法によって得られる(例えばUson, Inorg. Chim. Acta 73, 275 1983、欧州特許出願公開第0158875号、欧州特許出願公開第437690号)。これに関して使用できる金属の供給源は、錯体、例えば、Pd(ジベンジリデンアセトン)、Pd(Oac)、[Rh(COD)Cl]、[Rh(COD))]X、Rh(acac)(CO)、RuCl(COD)、Ru(COD)(メタリル)、Ru(Ar)Cl、Ar=アリール、非置換および置換[Ir(COD)Cl]、[Ir(COD)]X、Ni(アリル)Xなどである。COD(=1,5−シクロオクタジエン)の代わりに、NBD(=ノルボルナジエン)を使用することも可能である。[Rh(COD)Cl]、[Rh(COD))]X、Rh(acac)(CO)、RuCl(COD)、Ru(COD)(メタリル)、Ru(Ar)Cl、Ar=アリール、非置換および置換[Ir(COD)Cl]、ならびに[Ir(COD)]X、およびCODの代わりにNBDを有する対応する系が好ましい。[Rh(COD))]X、および[Rh(NBD))]Xが特に好ましい。
【0049】
Xは、一般的に不斉合成に有用であることが当業者に知られている任意のアニオンであってよい。Xの例には、ハロゲン、例えば、Cl、Br、I、BF、ClO、SbF、PF、CFSO、BArがある。Xは、BF、CFSO、SbF、ClOが好ましく、特にBFおよびCFSOが好ましい。
【0050】
当業者には公知なように、ホスフィン金属錯体は、実際の水素化反応前に、反応槽内でin situで生成してもよいし、または別個に生成し、単離し、続いて使用してもよい。これに関しては、少なくとも一個の溶媒分子をホスフィン金属錯体へ付加させることができる。それらの錯体を調製するための一般的な溶媒(例えばメタノール、ジエチルエーテル、ジクロロメタン)は当業者に知られている。
【0051】
当業者には公知なように、ホスフィン金属錯体またはホスフィン金属溶媒錯体は、水素化条件下で実際の触媒を生成する、少なくとも一個の不安定または準安定なリガンドを依然として有するプレ触媒である。
【0052】
水素化反応に適切な溶媒は、当業者に公知の全ての不斉水素化用溶媒である。好ましい溶媒は、低級アルキルアルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびトルエン、THF、酢酸エチルである。本発明の方法では、溶媒としてメタノールが特に好ましく使用される。
【0053】
本発明の水素化は、一般的には、温度が−20〜200℃、好ましくは0〜150℃、特に好ましくは20〜120℃で実施される。
【0054】
本発明の水素化では、水素圧は、0.1bar〜325barの広い範囲において様々であってよい。1〜300bar、好ましくは5〜250barの圧力範囲で非常に優れた結果が得られる。
【0055】
好ましくは、本発明の方法によって、少なくとも1000:1、特に好ましくは少なくとも10000:1、特に少なくとも30000:1の基材/触媒率(s/c)でエナンチオ選択的水素化ができるようになる。これに関して、30000:1の基材/触媒率であっても(シス異性体およびトランス異性体の総重量に対して、少なくとも70%のシス異性体を含むシス/トランス異性体混合物を使用した場合)、少なくとも80%のee値が得られることは有利である。これは、公知の方法で使用される水素化触媒に比べて極めて高い利点である。
【0056】
上記の水素化触媒(またはプレ触媒)は、適切な方法、例えば、アンカー基として適切な官能基、吸着、グラフト化などを通じて、例えば、ガラス、シリカゲル、合成樹脂から製造された適切な担体、ポリマー担体などに付着させることによって固定することもできる。さらに、好都合には、これらを固相触媒として使用することも適切である。好都合には、これらの方法によって、さらに触媒の消費量を減少させることができる。上記触媒も、例えば、上記の固定化後に固相触媒の形で一連の反応過程に適切である。
【0057】
好ましい実施形態では水素化は連続的に行われる。一反応区域、または好ましくは複数の反応区域で連続的に水素化を行うことができる。複数の反応区域は、複数のリアクター、または一リアクター内の空間的に異なる領域によって形成することができる。複数のリアクターを使用する場合は、それらのリアクターは、いずれの場合にも同一または異なってよい。いずれの場合にも、リアクターは、同一または異なる混合特性を有していてよく、かつ/または内在物によって一つまたは複数に細分化されていてよい。リアクターは、所望に応じて、例えば、並列にまたは直列に接続することができる。
【0058】
水素化に好適な圧力耐性リアクターは当業者には公知である。これらには、従来慣用の気液反応用リアクター、例えば、チューブリアクター、チューブバンドルリアクター、攪拌槽、ガス循環リアクター、気泡塔などが含まれ、リアクターは任意により内在物により包状化または細分化されていてよい。
【0059】
連続的水素化に好ましい方法は、
i) 一般式IIの化合物の異性体の混合物と水素を第1の反応区域へ供給し、キラル水素化触媒の存在下で部分的転換が行われる限り反応させ、
ii) 第1の反応区域から一部流れを取り出し、少なくとも一つの別の反応区域で水素化する
方法である。
【0060】
第1の好ましい実施形態では、前記カスケード式連続的水素化法の実施に使用するリアクターには、内在物によって形成した2個以上の反応区域が備わる。これらの内在物は、例えば、多孔板、ランダムパッキング、整列パッキング、またはそれらの組合せであってよい。第2の好ましい実施形態では、前記カスケード式連続的水素化法の実施に使用する反応装置は、直列に結合する2個のリアクターから構成される。
【0061】
一般的に、水素化の温度は、全反応区域で約10〜200℃の範囲、好ましくは20〜150℃の範囲である。所望の場合には、例えば、水素化で最高度の転換を実現するために、第1反応区域と第2反応区域を異なる温度に、好ましくは第2反応区域を高い温度に、あるいは先行反応区域よりも各後続反応区域を高い温度に設定することができる。全反応区域で、好ましくは水素圧を約1〜300barの範囲で、好ましくは5〜250barの範囲で反応を実施する。所望の場合には、例えば、第1または先行反応区域と、第2または後続反応区域を異なる水素圧に、例えば、第2または後続反応区域を高い水素圧に設定することができる。
【0062】
一般的に、供給する異性体混合物の少なくとも約10%が反応するように、第1の反応区域のリアクターの容量および/または滞留時間を選択する。供給する異性体混合物を基準にして、第1の反応区域での転換は少なくとも80%が好ましい。
【0063】
発熱性水素化で生ずる反応熱を除去するのに、第1および/または後続反応区域に冷却器を設けることができる。反応熱の除去は、外部循環流の冷却、または反応区域の少なくとも一区域の内部冷却によって実施できる。内部冷却に、この目的に慣用される器具、一般的に中空式モジュール、例えば、フィールド型チューブ、コイル型チューブ、熱交換用プレートなどを使用することができる。第2または後続反応区域で水素化される反応混合物が、その反応区域で所望の温度を維持するのに、反応で放出される熱では不十分な低い割合で、水素化可能化合物を含む場合、第2または後続反応区域も加熱する必要がありうる。この加熱は、外部循環流の加熱、または反応区域の内部加熱により、上記反応熱の除去と同様に行うことができる。適切な実施形態では、第2または後続反応区域の温度を制御するために、第1または先行反応区域からの反応熱を使用することができる。
【0064】
さらに前駆体を加熱するためにできることは、反応混合物から除去される反応熱の利用である。本方法の特定の構成では、直列に結合させた2個のリアクターから構成されるリアクターカスケードが使用され、第2リアクターの反応は断熱的に行われる。この用語は、本発明に関連して工業的センスにおいて理解され、物理化学的センスにおいてではない。従って、反応混合物が第2リアクターを通って流れる際には、発熱性水素化反応のために、その温度は上昇する。断熱性反応過程は、水素化で放出される熱量がリアクター中の反応混合物によって取り込まれ、冷却器による冷却が施されない手順を意味する。すなわち、反応熱は、反応混合物によって第2リアクターから除去されるが、リアクターからの熱の自然な伝導および放射を通じて周囲にもたらされる残余の量は別とする。
【0065】
外部冷却を使用し反応区域全体にわたって温度勾配を減少させるには、アフターリアクター供給流を外部熱交換器の後に引くことができる。従って、アフターリアクターの入口温度は、熱交換器の出口温度にまで低下し、メインリアクターの出口温度未満になる。そのようにして、後続反応区域の出口温度を低下させる。
【0066】
一実施形態では、使用する反応区域の少なくとも一区域で、またはリアクターシステム全体で、追加混合を行うことができる。反応混合物を長時間滞留させて水素化を行う場合には、追加混合は特に有利である。例えば、反応区域へ供給する流れは、ノズルなどの適切な混合器によってそれぞれの反応区域に導入することにより、混合に利用することができる。外部循環に誘導されたそれぞれの反応区域からの混合流を利用することも可能である。特定の実施形態では、リアクターシステムは、ガス状の流れを取り出し、適宜、熱交換器で温度を制御した後、適切な混合器、好ましくはノズルを介して液体反応混合物中に計り戻すガススペースを備える(循環ガス法)。好ましくは、排出装置形に設計した混合器によって、循環ガスをガススペースから吸い出す。
【0067】
水素化に必要な水素は、第1反応区域と、さらに後続反応区域に供給することができる。水素は、第1の反応区域のみに供給するのが好ましい。
【0068】
水素化で生じた放出物は、エナンチオマー富化前に、一段階または多段階分離操作にかけることができ、少なくとも多量の水素化生成物を含む流れと、適切であれば、さらに水素化触媒を含む流れが得られる。これについては、最初に水素化で生じた放出物を脱気処理して、過剰な水素を単離することができる。次いで、水素化生成物、触媒、そして適切であれば使用溶媒を含む、得られた液相を当業者に公知の従来法によってさらに分画する。分画には、蒸留分画または抽出分画による熱分画が含まれる。
【0069】
次の作業では、塩基性塩形成剤を添加して、水素化から得られたエナンチオマー混合物をエナンチオマー富化により結晶化させる。好適な塩基性塩形成剤は、例えば(R)−フェネチルアミンなど、当業者には公知の慣用の不斉アミンである。そのような不斉アミンの使用によって得られるee値は通常約99.5%である。驚くべきことに、アキラルな塩基性化合物は、エナンチオマー富化による結晶化で塩形成剤としても使用できることが判明している。これらは、アンモニア、一級アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アルカリ金属水酸化物、例えば、KOH、NaOH、LiOH、およびアルカリ土類金属水酸化物、例えば、Ca(OH)、およびMg(OH)から選択するのが好ましい。
【0070】
エナンチオマー富化による結晶化は、有機溶媒、好ましくは水混和性有機溶媒、混合溶媒、および水混和性有機溶媒と水の混合液から選択される溶媒により行うのが好ましい。好適な有機溶媒は、一価アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサノール;ポリオール、例えば、エチレングリコール、およびグリセロール;エーテル、およびグリコールエーテル、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、モノ−、ジ−、トリ−、およびポリアルキレングリコールエーテル;ケトン、例えば、アセトン、ブタノン、シクロヘキサノン;前記溶媒の混合液、ならびに前記一種または複数の溶媒と水の混合液である。特に好ましく使用される溶媒は、アルカノール、およびアルカノール−水混合液、特にイソプロパノール、およびイソプロパノール−水混合液である。
【0071】
適切な手順では、エナンチオマー富化水素化生成物は、溶媒に溶解し、または懸濁させることができ、次いで同一または異なる溶媒による溶液として、または固形形態で塩形成剤を加えることができる。すなわち、例えば、完全に溶解させるのに十分な量の溶媒に水素化生成物を溶解し、次いで塩形成剤水溶液を加えることができる。好ましい実施形態では、水素化生成物をイソプロパノールに溶解し、次いでアンモニア水溶液を加える。例えば、度数20〜30%のアンモニア水溶液が適している。さらに好ましい実施形態では、水素化生成物をイソプロパノールに溶解し、固体のLiOHを加え、次いで得られた懸濁液を攪拌する。適切な攪拌時間は、例えば、約10分〜12時間の範囲であり、好ましくは20分〜6時間、特に30分〜3時間である。
【0072】
一般的に、エナンチオマー富化による結晶化の温度は、使用する溶媒または混合溶媒の融点と沸点との範囲である。適切な実施形態では、所望のエナンチオマーの結晶形成を開始させるために、かつ/または析出を終了させるために、結晶化の間に一度または数度、温度を上げ、かつ/または下げてもよい。
【0073】
有利なことに、エナンチオマー富化により結晶化した後に単離した固体のeeは少なくとも98%であり、特に好ましくは少なくとも99%であり、特に99.5%を超える。
【0074】
所望の場合には、エナンチオマー富化による結晶化により単離した化合物をプロトン化反応またはカチオン交換にかけることができる。すなわち、例えば、プロトン化反応させるために結晶化生成物を適切な酸、好ましくは鉱酸、例えば、HCl、HSO、HPOに接触させ、Aが水素である式Iの光学活性化合物を得ることができる。適切な手順では、結晶化生成物を水に溶解し、または懸濁させ、次いで酸を加えてpHを約0〜4に、好ましくは約1に調整する。この酸性化させた溶液または懸濁液を適切な有機溶媒、例えば、メチルブチルエーテルなどのエーテル、アルカンなどの炭化水素または炭化水素混合液、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、またはアルカン混合物、リグロインまたは石油エーテル、あるいはトルエンなどの芳香族化合物で抽出することによって、遊離酸を単離することができる。トルエンが好ましい抽出剤である。この手順により事実上定量的に、eeを保持したままこの酸を得ることもできる。
【0075】
好ましい実施形態では、本発明の方法によって、以下の絶対配置を有する式Iの光学活性化合物を調製できるようになる。
【化8】

【0076】
[式中、R〜RおよびAは前記の意味を有する]。従って、本発明の方法は、合成素子Aおよび合成素子A誘導体へさらに加工するのに適当な中間体を調製するのに特に有利に適している。
【0077】
従って本発明は、さらに、一般式IIIの光学活性化合物を調製する方法であって、
【化9】

【0078】
[式中、R〜Rは前記の意味を有し、HalはCl、Br、またはIである]
− Aが金属カチオンでもプロトンでもない場合は、プロトン化反応によって、先に定義した一般式Iの化合物を酸に転換し、
− 適宜、プロトン化反応後に得られたその酸または金属塩を還元して、一般式IVのアルコールを取得し、そして
【化10】

【0079】
[式中、R〜Rは前記の意味を有する]
− 式IVのアルコールをハロ脱水酸化反応にかけて式IIIの光学活性化合物を得る
方法に関する。
【0080】
式Iの化合物は、還元用の遊離酸の形で使用するのが好ましい。式Iの化合物[式中、Aはプロトンではないカチオン等価体である]を遊離酸に転換する方法は既に記載されている方法であってよい。それには、式Iの化合物を鉱酸、例えば、HCl、HSO、またはHPOと接触させるのが好ましい。好ましくは、式Iの化合物のプロトン化反応を水性媒体中で実施する。その遊離酸は、適切な有機溶媒を使用し、好ましくは、水非混和性の、またはほんのわずかに水混和性の溶媒で抽出することによって単離するのが好ましい。好適な溶媒の例には、エーテル、例えば、ジエチルエーテル、メチルブチルエーテル、およびメチルtert−ブチルエーテル、前述の炭化水素または炭化水素混合物、トルエンなどの芳香族化合物、およびハロゲン化させた芳香族化合物、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、および1,2−ジクロロエタンがある。この酸は、この酸を含む有機相を水相で抽出することによって単離しかつ/または精製するのが好ましい。既に記載されている通り、そのような手順によってeeも同様に保持したまま、酸を実質定量的に得ることができる。
【0081】
式Iの化合物[式中、Aはプロトンまたは金属カチオンである]を還元するために一般に好適な試薬は、錯体水素化物など、カルボン酸をアルコールに還元する慣用の試薬であり、分子水素による触媒水素化法である。好適な方法および反応条件は、J. March、『Advanced Organic Chemistry』第4版、John Wiley & Sons出版(1992)、p. 1212 および 表19.5、p. 1208に記載されており、参照として本明細書に記載する。例えば、LiAlH、AlH、LiAlH(OCH、LiAlH(OtC、(iCAlH(=DIBALH)、NaAl(C、NaAl(CHOCO)(=Vitride)などの錯体水素化物が好ましく使用される。
【0082】
還元で得られた一般式IVのアルコールは、当業者に公知の慣用の方法によってハロゲン化アルキルに転換することができる。好適な方法は、J. March、『Advanced Organic Chemistry』第4版、John Wiley & Sons 出版(1992)、pp. 431-433に記載されており、参照として本明細書に記載する。ハロ脱ヒドロキシ化反応には、HCl、HBr、HIなどのハロゲン化水素酸、またはSOCl、PCl、PCl、POClなどのハロゲン化無機酸が好ましく使用される。好ましくは、アルコールを対応するアルキル塩化物(Hal=Cl)に転換する。本発明の方法の特に好ましい実施形態では、そのアルキル塩化物は合成素子Aである。
【0083】
所望の場合には、当業者に公知の慣用の方法によって、例えば、適切な溶媒からの再結晶化によって、式IIIの化合物の最終精製を実施できる。
【0084】
合成素子Aおよび合成素子A誘導体を調製するための全体的な合成の一部として、本発明の方法を有利に使用することができる。従って、本発明は、先に定義した方法にも関し、その際、
a) 一般式Vの芳香族アルデヒドを
【化11】

【0085】
[式中、R〜R前記の意味を有する]
一般式VIのカルボキシルエステルと反応させて、
【化12】

【0086】
[式中、Rは、請求項1に示した意味を有し、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアルキルアリールである]
一般式VIIの化合物を取得し、
【化13】

【0087】
b) 式VIIの化合物のヒドロキシル基をより優れた脱離基に転換し除去して、一般式VIIIの化合物を取得し、
【化14】

【0088】
c) 式VIIIの化合物をエステル加水分解して一般式IIの化合物を取得し、
【化15】

【0089】
d) 1つのエナンチオマーが富化されたエナンチオマー混合物を得るために、キラル水素化触媒の存在下で、式IIの化合物をエナンチオ選択的に水素化し、
e) ステップd)の水素化で得られた前記エナンチオマー混合物をさらにエナンチオマー富化するために、塩基性塩形成剤を含む溶媒を加えることによって結晶化させ、そのようにして形成し、1つの立体異性体が富化された固体を単離し、
f) 式Iの光学活性化合物を得るために、適宜、ステップe)で単離した異性体をプロトン化反応またはカチオン交換にかけ、
g) 式Iの化合物の基Aが水素でも金属カチオンでもないカチオン等価体である場合は、この等価体をプロトン化反応にかけ、
h) その酸または金属塩を還元して一般式IVのアルコールを取得し、そして
【化16】

【0090】
i) 式IVのアルコールをハロ脱水酸化反応にかけて式IIIの光学活性化合物を得る。
【化17】

【0091】
本発明の方法で中間体として得られる一般式Iの光学活性化合物は新規であり
【化18】

【0092】
[式中、R〜Rは前記の意味を有し、Aは、アンモニア、一級アミン、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属に由来するカチオンである]、本発明は同様にその化合物にも関する。式Iの化合物の基Rは、分枝C−C−アルキル基、特にイソプロピルであるのが好ましい。本発明の化合物は、下式を有するのが好ましい。
【化19】

【0093】
この化合物は、特に、AがNHまたはLiである化合物をさす。
【0094】
ステップa)で前駆体として使用される式Vの芳香族アルデヒドは、市場で購入し、または当業者に公知の慣用の方法によって調製することができる。「合成素子A」を調製するための適切な実施形態は、例えば、3−ヒドロキシ−4−メトキシベンズアルデヒド(イソバニリン)から出発することができ、ヒドロキシ官能基をエーテル化反応にかけ、式Vの化合物として3−(3−メトキシプロポキシ)−4−メトキシベンズアルデヒドを得る。
【0095】
アルドール反応という意味で、芳香族アルデヒドと、酸性水素原子を有するカルボキシルエステルとを反応させる方法に好適な条件は、例えば、J. March、『Advanced Organic Chemisty』第4版、John Wiley & Sons 出版(1992)、pp. 944-951に記載され、参照として本明細書に記載する。一般的に、この反応は、強力な塩基の存在下で行われ、この塩基はアルカリ金属アルコラート、例えば、ナトリウムメタノラート、カリウムメタノラート、カリウムtert−ブタノラート、アルカリ金属水素化物、例えば水素化ナトリウム、二級アミド、例えば、リチウムアミド、リチウムジイソプロピルアミドなどから選択するが好ましい。反応は、−80〜+30℃の範囲の、特に−60〜+20℃の範囲の温度で行うのが好ましい。好適な溶媒の例は、エーテル、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、およびジオキサン、芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどである。
【0096】
反応ステップb)の脱水も一般に同様に知られている。好ましくは、そのヒドロキシル基をスルホン酸またはその誘導体、例えば、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メチルスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、またはハロゲン化物など、それら誘導体と反応させることによって、より優れた脱離基に転換する。好ましい実施形態では、脱水は、水と低沸点共沸混合物を形成できる溶媒、例えば、ベンゼン、または好ましくはトルエン中で行う。次いで、反応で形成された水は、反応で形成された水を当業者に公知の慣用の方法によって共沸蒸留(ウォータートラップ付)によって除去することができる。この手順では、脱離基を形成しうる酸をほんの触媒量で使用するだけでよい。この手順によって、シス異性体を過剰に含む式VIIIの化合物のシス/トランス異性体混合物が有利に得られることが判明している。
【0097】
カルボキシルエステルをその対応するカルボン酸またはその塩に加水分解する方法(ステップc)も同様に一般に公知であり、例えば、J. March、『Advanced Organic Chemistry』第4版、John Wiley & Sons 出版(1992)、pp. 378-383に記載され、参照として本明細書に記載する。一般に、酸性または塩基性エステル加水分解が可能である。
【0098】
本方法のステップd)〜i)に関しては、本方法にとって適切で好ましい条件について先の記載のその全体を参照されたい。
【0099】
連続反応過程に関する本発明の方法の水素化ステップの有利な構成を図1および2に記載し、以下に説明する。
【0100】
図1は、水素化法を実施するのに適切な2段階式リアクターカスケードを示す図である。分かりやすくするために、本発明を説明するのに不適切な詳細な描写を省略する。システムは、第1水素化リアクター(1)、および第2水素化リアクター(8)を備える。水素化リアクター(1)は循環式リアクターとして設計し、水素化リアクター(8)は断熱性フローチューブリアクターとして設計されている。水素ガスは、加圧されてパイプライン(2)を通過してリアクター(1)に入り、水素化される化合物溶液は、パイプライン(3)を通過してリアクター(1)に入る。前駆体溶液中に触媒が存在しない場合、触媒は別のライン(10)によって直接リアクターに、または循環ポンプ上流に供給される。パイプライン(4)およびポンプ(5)を通してリアクター(1)から放出物を取り出し、熱交換器(6)で冷却し、2本の支流(7a)および(7b)に分ける。支流(7a)は再生流としてリアクター(1)に戻す。リアクター(1)の特徴的滞留時間分布は、実質的に循環流(7a)に依存する。第2支流は、パイプライン(7b)を通ってリアクター(8)に供給され水素化が完了する。放出流(4)は、例えば水素の溶存画分または気体画分を含みうる。別の実施形態では、放出流(4)は相分離タンクに供給され、気体画分は別個のライン(11)通ってリアクター(8)に供給される。さらに別の実施形態では、リアクター(8)には、リアクター(1)から採取した気体供給物ではなく、別個の供給ラインにより新鮮な水素を装入する。水素化生成物は、パイプライン(9)を通ってリアクター(8)から排出される。
【0101】
図2は、水素化法を実施するのに適切であり、2つの水素化区画から構成したリアクターを示す図である。再度、分かりやすくするために、本発明の説明に不適切な詳細な描写を省略する。リアクターは、水素化区画(1)および(2)を備え、そのどちらも逆混合用に設計されている。区画(1)は、ジェットループリアクターとして設計されている。水素化は、準断熱性条件下、区画(2)で行われる。放出流は、循環ポンプ(5)により区画(1)から採取され、供給された水素ガス(3)と共に熱交換器(6)を通ってフロー制御ノズル(9)に供給される。必要に応じて、水素ガスを供給ライン(10)によりノズル(9)に供給することができる。ノズル(9)の排出流は、偏向プレート(11)によって制限する。後続リアクター(2)には、少なくとも一つの開口部(13)を設けた多孔板を通って供給する。より良く混合するために、排出装置(9)を使用してガス循環(12)を利用することができる。水素化生成物は、区画(2)の液体空間からパイプライン(14)により採取される。
【0102】
以下の非制限的例によって本発明を説明する。
【0103】
実施例
【実施例1】
【0104】
下式化合物の調製
【化20】

【0105】
−50℃のジイソプロピルアミン88.5g含有テトラヒドロフラン溶液300mlに、度数15%のn−ブチルリチウムのヘキサン溶液544ml、イソ吉草酸メチル98.2g含有テトラヒドロフラン45ml、および4−メトキシ−3−(3−メトキプロピルオキシ)ベンズアルデヒド170g含有テトラヒドロフラン75mlを滴下した。得られた溶液を2時間にわたり放置して室温まで暖め、次いでこの温度で1時間攪拌した。続いて、この反応溶液に水300mlを滴下し、濃HClでpHを1に調整し相分離させ、次いで水相を300mlのトルエンで2度抽出した。有機相同士を混合し、ロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発させた。残留物を500mlのトルエンに採取し、p−トルエンスルホン酸6gを加えた後、ウォータートラップを取り付けて3.5時間加熱還流した。反応混合物を飽和NaHCO溶液150mlと水300mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。242gの生成物が得られた。
【0106】
反応生成物を以下のHPLC法によって分析した。
【0107】
カラム:Waters SymmetryC 18μm、250×4.6mm
溶出剤:A)HPOの0.1容量%水溶液、B)HPOの0.1容量%CHCN溶液
勾配(溶出剤Bに基づく):0分(35%)20分(100%)30分(100%)32分(35%)
流量:1ml/min、温度:20℃、注入量:5μl
検出:UV検出器205nm、BW=4nm
この方法では、シスエステルが15.7分に溶出し、トランスエステルが16.2分に、シス酸が10.6分に、トランス酸が10.9分に、および前駆体として使用される芳香族アルデヒドが7.9分に溶出した。
【0108】
得られた生成物には、69.1%シスエステル、21.0%トランスエステル、0.8%アルデヒドが含まれ、残りの成分は特定しなかった(HPLCピーク領域%)。
【0109】
得られたエステル混合物は、慣用の方法によって、例えば、KOH含有エタノール/水混合液によって加水分解することができる。
【実施例2】
【0110】
下式化合物の調製
【化21】

【0111】
300mlのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、エステル加水分解後に得られたシス/トランス酸混合物30.1gをメタノール55.4gに導入した。(R)−ファネホス(phanephos)−Rh−(COD)BF×1(CO2.05mgを加えた後、水素圧200bar下、温度100℃で12時間水素化を行った。12時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は83%であった。
【0112】
水素化生成物および後続の結晶化(実施例3および4)を以下のHPLC法によって分析した。
【0113】
カラム:CHIRALPAK AD-H(250×4.6mm)
溶出剤:n−ヘプタン950ml、エタノール50ml、およびトリフルオロ酢酸2ml混合液
流量:1.0ml/min、カラム温度25℃、注入量25μl
検出:UV検出器225nm
この方法では、シス異性体(前駆体)が22.3分に溶出し、トランス異性体(前駆体)が30.7分に、エナンチオマー(生成物)が11.7分に、および(R)エナンチオマー(生成物)が14.0分に溶出した。
【実施例3】
【0114】
アンモニアで結晶化させるエナンチオマー富化
実施例2で得られた水素化粗生成物95.6gを750mlのイソプロパノールに溶解し、強度25%のアンモニア溶液44.2mlを攪拌しながら加えた。10分後に結晶形成が観察された。続いて室温で3時間攪拌した後、結晶/溶液を−10℃に冷却し、結晶をろ過により単離した。得られた固形物を低温石油エーテル100mlで2回洗浄し、30℃の乾燥オーブンで終夜乾燥した。
【0115】
使用したee98.9%の粗生成物を基にして、アンモニウム塩が78%の収量で得られた。
【実施例4】
【0116】
LiOHで結晶化させるエナンチオマー富化
実施例2で得られた水素化粗生成物0.5gをイソプロパノール5mlに溶解し、LiOH40mgを加え、得られた懸濁液を室温で1時間攪拌した。得られた結晶をろ過により単離し、その固形物を低温石油エーテル2mlで2回洗浄し、30℃の乾燥オーブンで終夜乾燥した。eeが97.5%の結晶(60%)が0.3g得られた。
【実施例5】
【0117】
合成素子A酸の調製
実施例3で得られたアンモニウム塩を水500mlに溶解し、濃HCl30mlを加えることによってpH値を1に調整した。水相を2度、そのつど250mlのトルエンで抽出し、混合した有機相を脱イオン水で洗浄し、次いでロータリーエバポレーターで溶媒を150mlに濃縮した。室温で10分間攪拌すると結晶形成が観察された。続いて、室温で3時間攪拌した後、結晶溶液を−10℃に冷却し、ろ過により結晶を単離した。得られた固形物を2度、そのつど100mlの低温石油エーテルで洗浄し、30℃の乾燥オーブンで終夜乾燥した。99%の収量でeeが98.9%の白色固体として合成素子A酸が69.3g得られた。
【実施例6】
【0118】
実施例1のスケールアップ
1mのステンレススチール容器に、ジイソプロピルアミン68.4kgおよびテトラヒドロフラン(THF)155kgを導入し−50℃に冷却した。その次に、度数15%のn−ブチルリチウム含有ヘキサン溶液274kg、イソ吉草酸メチル72.7kg、THF30kg、および4−メトキシ−3−(3−メトキシプロピルオキシ)ベンズアルデヒド139kgを順次計量投入し、続いてTHF30kgを投入したが、その間温度を−30℃未満に維持した。投入完了後、リアクターを10K/hで20℃に暖めた。2.5mのスチール/エナメル容器に脱イオン水500lを導入し、20℃でそのステンレススチール容器の内容物を供給し、88kgのTHFでステンレススチール容器を漱いだ。次いで、強度31%のHCl200kgを加えることによって、pHを1に調整し、そして相分離させた。1mのスチール/エナメル容器を400mbarにして上部有機相を段階的に排除し、THFを留去させた。脱イオン水12lにトルエン585kgおよびp−トルエンスルホン酸5.4kgを加えた後、留出物が純粋なトルエンになるまで、容器の内容物からトルエン/水を共沸蒸留した。20℃に冷却後、容器の内容物を飽和NaHCO溶液200lおよび水200lで洗浄し、有機相を実施例7で直接使用した。強度28%の粗生成物溶液には、シス−トランス異性体混合物が160kg含まれた(3.2:1)。
【実施例7】
【0119】
実施例6で調製した化合物の加水分解
2mのステンレススチール容器に、前段階(実施例6)の2つのバッチの生成物溶液を混合し、150mbarの圧力下で大部分のトルエンを留去させた。内部温度80℃で強度25%のNaOH720kgを供給し、内部温度が115℃に達するまで6時間蒸留した。容器の内容物を60℃に冷却し、静置して相分離させた。透明水相500lを除去し、続いて容器中の茶褐色有機相に水630kgおよびトルエン300kgを加えた後、60℃で30分間攪拌した。続いて、水相1100lを放出し有機相を廃棄した。2度目に300kgのトルエンで水相を抽出した。次いで、2.5mのスチール/エナメル容器で水相とトルエン590kgを混合し、強度75%の硫酸105kgを加えることによって酸性化させ30分間攪拌した。相分離させ、水相を再度590kgのトルエンで抽出した。有機相同士を混合し、脱イオン水700kgで洗浄した。洗浄した有機相を150mbar下で加熱沸騰させ、底部温度が120℃になるまでトルエンを留去した。メタノール350kgを加えることによって底部生成物を希釈した。シス−トランス異性体混合物として酸302kgが得られた(3.2:1)。
【実施例8】
【0120】
実施例2のスケールアップ
3.5mのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、実施例7と同様にして得られたシス/トランス酸混合物486kgをメタノール1118kgに導入した。(R)−ファネホス−Rh−(COD)BF64.3gのメタノール溶液を加えた後、水素圧200bar下、温度75℃で水素化を行った。14時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は86%であった。
【実施例9】
【0121】
実施例3および5のスケールアップ
2mのステンレススチール容器に実施例8の段階の水素化生成物の度数25%溶液1000kgを装入し、600mbarの圧力下でほとんどのメタノールを留去させた。前記底部生成物にイソプロパノール1000kgを加え、50℃で度数25%のアンモニア水溶液57kgを加えた。投入完了後、混合液を50℃で30分間攪拌し、次いで10K/hで0℃に冷却し、0℃で1時間攪拌した。ピーラー遠心分離機で結晶塊を遠心分離して4部分に分け、それらの結晶をいずれの場合にもイソプロパノール100kgで洗浄し、残留水分含有量約60%にして放出した。
【0122】
2mのスチール−エナメル容器の水800kgに結晶を溶解し、トルエン400kgで覆った。30℃で、度数31%のHCl溶液120lを加え、混合液を30分間攪拌した。相分離後、水相を再び400kgのトルエンで抽出し、有機相同士を混合し、脱イオン水300kgで洗浄した。トルエン500lを常圧下で留去させた。度数28%のトルエン溶液としてeeが99.2%の合成素子A酸205kgが得られた。
【実施例10】
【0123】
80bar下、ファネホスでの水素化による下式化合物の調製
【化22】

【0124】
300mlのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、実施例1によるエステル加水分解後に得られたシス/トランス酸混合物30gをメタノール59gに導入した。(R)−ファネホス−Rh−(COD)BF3.8mgを加えた後、水素圧80bar下、温度90℃で水素化を行った。20時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は83%であった。
【実施例11】
【0125】
(リガンドC)での水素化による下式化合物の調製
【化23】

【化24】

【0126】
300mlのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、実施例1と同様にしてエステル加水分解後に得られたシス/トランス酸混合物30gをメタノール62gに導入した。(R)−(リガンドC)−Rh−(NBD)BF5.0mgを加えた後、水素圧80bar下、温度90℃で水素化を行った。20時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は83%であった。
【実施例12】
【0127】
リガンドDでの水素化による下式化合物の調製
【化25】

【0128】
300mlのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、実施例1と同様にしてエステル加水分解後に得られたシス/トランス酸混合物30gをメタノール60gに導入した。(リガンドD)−Rh−(COD)BF4.7mgを加えた後、水素圧200bar下、温度100℃で水素化を行った。8時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は83%であった。
【化26】

【実施例13】
【0129】
リガンドEでの水素化による下式化合物の調製
【化27】

【0130】
300mlのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、実施例1と同様にしてエステル加水分解後に得られたシス/トランス酸混合物40gをメタノール40gに導入した。(リガンドE)−Rh−(COD)BF6.0mgを加えた後、水素圧80bar下、温度90℃で水素化を行った。12時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は80%であった。
【化28】

【実施例14】
【0131】
リガンドFでの水素化による下式化合物の調製
【化29】

【0132】
300mlのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、実施例1と同様にしてエステル加水分解後に得られたシス/トランス酸混合物40gをメタノール40gに導入した。(メタノール溶液として)(リガンドF)−Rh−(COD)BF5.9mgを加えた後、水素圧80bar下、温度90℃で水素化を行った。12時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は82%であった。
【化30】

【実施例15】
【0133】
リガンドGでの水素化による下式化合物の調製
【化31】

【0134】
300mlのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、実施例1と同様にしてエステル加水分解後に得られたシス/トランス酸混合物40gをメタノール40gに導入した。(リガンドG)−Rh−(COD)BF5.3mgを加えた後、水素圧80bar下、温度90℃で水素化を行った。16時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は81%であった。
【化32】

【実施例16】
【0135】
リガンドHでの水素化による下式化合物の調製
【化33】

【0136】
300mlのスチールオートクレーブで保護性ガス雰囲気下、実施例1と同様にしてエステル加水分解後に得られたシス/トランス酸混合物40gをメタノール40gに導入した。(リガンドH)−Rh−(COD)BF5.5mgを加えた後、水素圧80bar下、温度90℃で水素化を行った。16時間後に水素化量を測定した。生成物の鏡像体過剰率は82%であった。
【化34】

【実施例17】
【0137】
粗合成素子Aの再結晶化
1mのスチール−エナメル容器で、含有量が89.1重量%(HPLCによって定量)、eeが97.2%である合成素子A粗生成物200kgと、メタノール400kgを50℃で混合し30℃に冷却した。純粋合成素子Aの結晶を接種し、続いて速度10K/hで−10℃に冷却し、得られた結晶塊をプロセスフィルタでろ過除去し、低温メタノール約100kgで洗浄し真空乾燥した。含有量が99.5重量%の白色結晶として合成素子A144kgが得られた。鏡像体過剰率は99.8%であった。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】水素化法を実施するのに適切な2段階式リアクターカスケードを示す図である。
【図2】水素化法を実施するのに適切であり、2つの水素化区画から構成したリアクターを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iの光学活性化合物を調製する方法であって、
【化1】

[式中、
、R、R、およびRは、互いに独立して、水素、C−C−アルキル、ハロ−C−C−アルキル、ヒドロキシ−C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、ヒドロキシ−C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、ヒドロキシ−C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、C−C−アルコキシ−C−C−アルコキシ、またはヒドロキシ−C−C−アルコキシ−C−C−アルコキシであり、
は、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、フェニル、またはベンジルであり、そして
Aは、水素またはカチオン等価体である]
− 1つのエナンチオマーが富化されたエナンチオマー混合物を得るために、キラル水素化触媒の存在下で、一般式IIの化合物のシス異性体またはシス/トランス異性体混合物をエナンチオ選択的に水素化し、
【化2】

[式中、R〜Rは前記の意味を有する]
− 水素化で得られた前記エナンチオマー混合物をさらにエナンチオマー富化するために、塩基性塩形成剤を含む溶媒を加えることによって結晶化させ、そのようにして形成し、1つの立体異性体が富化された固体を単離し、
− 式Iの光学活性化合物を得るために、適宜、前記単離した異性体をプロトン化反応またはカチオン交換にかける方法。
【請求項2】
シス異性体を少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、特に少なくとも70重量%含むシス/トランス異性体混合物を水素化に使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
トランス異性体を少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%を含むシス/トランス異性体混合物を水素化に使用する、前記請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水素化に使用する触媒が、リガンドとして、下式化合物の少なくとも一種を含む遷移金属錯体である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【化3】

[式中、
、RII、RIII、およびRIVは、互いに独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールであり、かつ
、RVI、RVII、RVIII、RIX、およびRは、互いに独立して、水素、アルキル、アルキレン−OH、アルキレン−NE、アルキレン−SH、アルキレン−OSiE、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、OH、SH、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、COOH、カルボキシレート、SOH、スルホネート、NE、ニトロ、アルコキシカルボニル、アシル、またはシアノである(式中、E、E、E、およびEは、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、およびアルキルアリールから選択されるそれぞれ同一のまたは異なる基である)]
【請求項5】
、RII、RIII、およびRIVが、互いに独立して、フェニル、トリル、メトキシフェニル、キシリル、またはメトキシキシリルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
基R、RVI、およびRVIIの一つ、ならびに/あるいは基RVIII、RIX、およびRの一つが水素ではない基であり、該水素ではない基が、C−C−アルキル、C−C−アルキレン−OH、C−C−アルキレン−OSi(C−C−アルキル)、C−C−アルコキシ、C−C−アルキレン−OC(アルキル)、およびC−C−アルキレン−OC(アリール)から選択される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
触媒が、下式化合物から選択されるリガンドを少なくとも一種を含む、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【化4】



【請求項8】
触媒が、下式化合物から選択される少なくとも一種のリガンドを含む、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【化5】

【請求項9】
水素化が連続的に行われる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
i) 一般式IIの化合物の異性体の混合物と水素を第1の反応区域へ供給し、キラル水素化触媒の存在下で部分的転換が行われる限り反応させ、
ii) 第1の反応区域から一部流れを取り出し、少なくとも一つの別の反応区域で水素化する、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
結晶化に使用する塩形成剤は、アキラルな塩基性化合物から選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記塩形成剤が、アンモニア、一級アミン、アルカリ金属水酸化物、およびアルカリ土類金属水酸化物から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
結晶化に、塩形成剤としてアンモニアまたはLiOHが使用され、溶媒としてイソプロパノールが使用される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
結晶化後に単離される固体のeeが少なくとも98%である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
以下の絶対配置を有する式Iの光学活性化合物が得られる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【化6】

[式中、R〜RおよびAは請求項1に示した意味を有する]
【請求項16】
一般式IIIの光学活性化合物を調製する方法であって、
【化7】

[式中、R〜Rは請求項1に示した意味を有し、HalはCl、Br、またはIである]
− Aが水素でも金属カチオンでもないカチオン等価体である場合は、プロトン化反応によって、請求項1で定義した一般式Iの化合物を酸に転換し、
− その酸または金属塩を還元して、一般式IVのアルコールを取得し、そして
【化8】

[式中、R〜Rは前記の意味を有する]
− 式IVのアルコールをハロ脱水酸化反応にかけて式IIIの光学活性化合物を得る
方法。
【請求項17】
a) 一般式Vの芳香族アルデヒドを
【化9】

[式中、R〜Rは請求項1に示した意味を有する]
一般式VIのカルボキシルエステルと反応させて、
【化10】

[式中、Rは、請求項1に示した意味を有し、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアルキルアリールである]
一般式VIIの化合物を取得し、
【化11】

b) 式VIIの化合物のヒドロキシル基をより優れた脱離基に転換し除去して、一般式VIIIの化合物を取得し、
【化12】

c) 式VIIIの化合物をエステル加水分解して一般式IIの化合物を取得し、
【化13】

d) 1つのエナンチオマーが富化されたエナンチオマー混合物を得るために、キラル水素化触媒の存在下で、式IIの化合物をエナンチオ選択的に水素化し、
e) ステップd)の水素化で得られた前記エナンチオマー混合物をさらにエナンチオマー富化するために、塩基性塩形成剤を含む溶媒を加えることによって結晶化させ、そのようにして形成し、1つの立体異性体が富化された固体を単離し、
f) 式Iの光学活性化合物を得るために、適宜、ステップe)で単離した異性体をプロトン化反応またはカチオン交換にかけ、
g) 式Iの化合物の基Aが水素でも金属カチオンでもないカチオン等価体である場合は、この等価体をプロトン化反応にかけ、
h) その酸または金属塩を還元して一般式IVのアルコールを取得し、そして
【化14】

i) 式IVのアルコールをハロ脱水酸化反応にかけて式IIIの光学活性化合物を得る、
【化15】

請求項16に記載の方法。
【請求項18】
一般式Iの光学活性化合物。
【化16】

[式中、R〜Rは請求項1に示した意味を有し、Aは、アンモニア、一級アミン、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属に由来するカチオンである]
【請求項19】
が、分枝C−C−アルキル基、特にイソプロピルである、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
下式の請求項18または19に記載の化合物。
【化17】

【請求項21】
AがNHまたはLiである、請求項18〜20のいずれかに記載の化合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−534448(P2008−534448A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501231(P2008−501231)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002435
【国際公開番号】WO2006/097314
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】