説明

光学特性可変装置

【課題】透過光の屈折率を任意に変化させることができる光学特性可変装置を提供する。
【解決手段】光学特性可変素子203は、可視光波長より小さな磁場発生コイルを結線で結び、これらを一面に複数配置することで構成される。感光体201は、受光することによって、受光した光と同周波数の交流電流を発生させる。増幅回路202は、感光体201で発生した交流電流を増幅して光学特性可変素子203へ供給する。光学特性可変素子203は、供給された交流電流と同周波数の光の屈折率を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、透過光の屈折率を任意に変化させることが可能な光学特性可変装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、小口径レンズが用いられる機器として、コンパクトデジタルカメラや監視用カメラなどの撮像装置がある。これらの撮像装置では、光学系中の特定のレンズを光軸に沿って移動させたり、あるいはデジタル処理が可能であれば撮像データのデジタル処理を行ったりして、像の拡大縮小処理を実行している。像の合焦は、フォーカスレンズを動かすことで行うことが一般的である。また、レンズでは、光の波長による屈折率の違いなどから収差が存在する。このため、光学系中の特定レンズの曲面を、多項式からなる非球面形状に加工し、収差を取り除く努力がなされている。
【0003】
しかしながら、従来の撮像装置に備えられているズーム、フォーカス機構では、機構的にレンズを移動させるので、メカニカルなガタによる、光軸ブレ、光軸の傾き、レンズ倒れなどが発生し、結果として画質劣化に繋がる。さらに、公差の累積による固体のばらつきが発生するという問題がある。一方、非球面レンズを用いる場合にも、問題はある。たとえば、非球面レンズをガラスモールドで作成する場合には、高精度の加工技術が必要となる。また、非球面を複合レンズで作成する場合は、ガラスレンズ上にUV硬化樹脂などで非球面形状を形成する必要があり、製造工程の増加をまねく。
【0004】
一方、大口径レンズが用いられる機器としては、天文台などに備えられる望遠鏡がある。代表的なものとしては、ハワイにあるすばる天文台の望遠鏡があげられる。この望遠鏡は大口径の反射型望遠鏡であるが、最も重要な要素となっている主鏡の平面研磨誤差は14nmといわれ、非常に高い平面精度を維持している。また、主鏡は軽量化のため薄く作成されているが、裏側から261本のアクチュエータで支えられ、姿勢による主鏡の歪みを逐次補正している。さらに、大気の揺らぎに対しては、主鏡とほぼ同じ構造のプリズムを光路内に挿入し、揺らぎを打ち消す方向へ前記プリズムを変形させ、逐次補正を行っている。
【0005】
しかしながら、このような一枚の主鏡で高解像度を得る望遠鏡においては、前述のように、主鏡に非常に高い平面精度が要求されるため、主鏡の歪みを補正する装置は、当該主鏡の特性に合わせて個々に作成しなければならず、汎用性が極めて低い。また、大気の揺らぎを主鏡の歪み補正と同様の手法で補正する場合、補正に必要なプリズムなどの光学素子を追加する必要があり、その分だけ明度や彩度が低下する。さらに、用いられる光学素子が増えれば、機器の故障率が増加する、といった問題がある。
【0006】
そこで、かかる問題点を解決しうるものとして、光学特性の改善および、従来存在しなかった光学特性を持つ素子である「プラズモニック・メタマテリアル」(以下、メタマテリアルという)の開発が進んでいる。これは、光学素子表面に微細な構造体を作成し、その構造体の素材としての誘電率と、構造体の配置から得られる特異的な透磁率を用いて、負の屈折率を持つ素子を作成する試みである(たとえば、非特許文献1を参照。)。そして、「メタマテリアル」を用いて光学特性を改善する技術も提案されている(たとえば、特許文献1〜4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−226033号公報
【特許文献2】特開2007−256929号公報
【特許文献3】特開2006−301345号公報
【特許文献4】特開2005−260965号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田中拓男著「可視光領域におけるプラズモニック・メタマテリアルの構造設計」日本光学学会 学会誌「光学」、第6巻第10号(2007年)p.584〜589
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記小口径レンズにかかる問題点を解決するためには、光学素子を移動させることなく光学系全系の焦点距離を変化させることができることが要求される。また、光学素子に非球面レンズと同等の効果が得られる機能を備えることも要求される。
【0010】
しかしながら、上記各特許文献に開示された技術では、上記従来技術が有する問題点の解決には至らない。すなわち、上記特許文献1〜3に開示された技術は、いずれもあらかじめ透過光の屈折率がある値(負の屈折率)になるように設定して素子を設計し作成しているため、作成後に屈折率を変化させることはできない。したがって、光学素子を移動させることなく光学系全系の焦点距離を変化させることは不可能である。また、光学素子に対し均一な屈折率分布を付与しているので、たとえば、あえて不均一な屈折率分布にして、非球面レンズと同等の効果を得るといったことはできない。
【0011】
また、上記特許文献4に開示された技術では、透過光の屈折率を変化させることはできる。しかし、この技術は、無線波領域での使用に限定され、かつ、メタマテリアルとしての特性と通常特性との切替えが行えるのみなので、上記小口径レンズにかかる問題点を解決できない。
【0012】
一方、上記大口径レンズにかかる問題点を解決するためには、汎用性のある光学素子などで、光学系の歪みや大気の揺らぎなどに対処できるようにすることが好ましい。
【0013】
しかしながら、上記各特許文献に開示された技術では、上記従来技術が有する問題点の解決には至らない。すなわち、上記特許文献1〜3に開示された技術は、いずれもあらかじめ透過光の屈折率がある値(負の屈折率)になるように設定して素子を設計し作成しているため、リアルタイムでその屈折率を変えることはできない。したがって、特に大口径光学系で問題になる姿勢差による光学素子の歪みを、臨機応変に補正することができない。また、リアルタイムでその屈折率を変化させることができない以上、大気の揺らぎを補正することもできない。
【0014】
また、上記特許文献4に開示された技術では、透過光の屈折率を変化させることはできる。しかし、この技術は、無線波領域での使用に限定され、かつ、メタマテリアルとしての特性と通常特性との切替えが行えるのみなので、光学素子の歪みや大気の揺らぎに対する補正を行うことはできない。
【0015】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、透過光の屈折率を任意に変化させることができる光学特性可変装置を提供することを目的とする。さらに、光学素子における屈折率分布を不均一にすることができる光学特性可変装置を提供することも、この発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかる光学特性可変装置は、可視光波長より小さなインダクタを互いに結線で結び、これらを一面に複数配置することで構成される光学特性可変素子と、入射光によって共振し、当該入射光と同周波数の交流電流を発生させる感光体と、前記感光体で発生した交流電流を増幅して前記光学特性可変素子へ供給する増幅回路と、を備え、前記光学特性可変素子は、前記増幅回路からの交流電流の供給により、任意に光の屈折率を変化させることを特徴とする。
【0017】
この請求項1に記載の発明によれば、前記光学特性可変素子に供給する交流電流の大きさやその向きを変えることで、光の屈折率を変化させることが可能になる。
【0018】
また、請求項2の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項1に記載の発明において、前記光学特性可変素子を構成するすべてのインダクタに均一に交流電流を供給することで、前記光学特性可変素子を透過する光の屈折率を均一に変化させて、焦点距離を変えることを特徴とする。
【0019】
この請求項2に記載の発明によれば、前記光学特性可変素子に供給する交流電流の大きさやその向きを変えることで、前記光学特性可変素子を移動させることなく、前記光学特性可変素子の焦点距離を変化させることができる。
【0020】
また、請求項3の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項1に記載の発明において、前記光学特性可変素子を構成する一部のインダクタについてのみ交流電流を供給することで、前記光学特性可変素子の一部を透過する光の屈折率を変化させることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする。
【0021】
この請求項3に記載の発明によれば、前記光学特性可変素子に交流電流を供給することのみで、非球面レンズの機能を実現することができる。したがって、前記光学特性可変素子に供給する交流電流のON/OFF制御により、球面レンズの機能を実現したり、非球面レンズの機能を実現したりすることができるようになる。
【0022】
また、請求項4の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項1に記載の発明において、前記光学特性可変素子が、それぞれ独立した、中心を同じくする複数の環状帯で形成されており、前記各環状帯に対してそれぞれ異なる大きさの交流電流を供給して、前記光学特性可変素子における屈折率分布が不均一になるようにすることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする。
【0023】
この請求項4に記載の発明によれば、前記光学特性可変素子の各部位ごとに細かく屈折率制御を行うことができ、より高精度な非球面レンズの機能を実現できる。
【0024】
また、請求項5の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項1に記載の発明において、前記光学特性可変素子が、それぞれ独立した複数の層で形成されており、前記各層に対してそれぞれ異なる大きさの交流電流を供給して、前記光学特性可変素子における屈折率分布が不均一になるようにすることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする。
【0025】
この請求項5に記載の発明によれば、前記光学特性可変素子の各部位ごとに細かく屈折率制御を行うことができ、より高精度な非球面レンズの機能を実現できる。
【0026】
また、請求項6の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項1〜5のいずれかひとつに記載の発明において、ズームポジションやフォーカスポジションに適合するように、前記光学特性可変素子における屈折率分布を設定することを特徴とする。
【0027】
この請求項6に記載の発明によれば、ズームポジションやフォーカスポジションに最適な前記光学特性可変素子における屈折率分布を設定することができる。
【0028】
また、請求項7の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項1〜6のいずれかひとつに記載の発明において、前記光学特性可変素子が、撮影レンズ面上に配置されることを特徴とする。
【0029】
この請求項7に記載の発明によれば、前記撮影レンズが元来有する屈折率を基準にして、さらに前記光学特性可変素子で透過光の屈折率を変化させることで、より細かい屈折率分布を設定することが可能になり、幅広い用途に適応させることができる。
【0030】
また、請求項8の発明にかかる光学特性可変装置は、可視光波長より小さなインダクタを互いに結線で結び、これらを一面に複数配置することで構成される光学特性可変素子と、任意の周波数の交流電流を発生させ、これを前記光学特性可変素子へ供給する電源と、を備え、前記光学特性可変素子を構成するインダクタの一部に前記電源からの交流電流を供給することで、前記光学特性可変素子の一部を透過する光の屈折率のみを変化させて非球面レンズの機能を実現することを特徴とする。
【0031】
この請求項8に記載の発明によれば、より多様な周波数の光に対して対応できる高精度な非球面レンズの機能を実現することができる。
【0032】
また、請求項9の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項8に記載の発明において、前記光学特性可変素子が、それぞれ独立したグリッドで形成されており、前記各グリッドに対してそれぞれ異なる大きさの交流電流を供給して、前記光学特性可変素子における屈折率分布が不均一になるようにすることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする。
【0033】
この請求項9に記載の発明によれば、細かい屈折率の制御を行うことができるため、より精度の高い非球面レンズの機能を実現することができる。
【0034】
また、請求項10の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項9に記載の発明において、前記グリッドが、それぞれ独立した複数の層で形成されており、前記各層に対してそれぞれ異なる大きさの交流電流を供給して、前記光学特性可変素子における屈折率分布が不均一になるようにすることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする。
【0035】
この請求項10に記載の発明によれば、さらに細かい屈折率の制御を行うことができるため、より精度の高い非球面レンズの機能を実現することができる。
【0036】
また、請求項11の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項8〜10のいずれかひとつに記載の発明において、所定の入射光の周波数・位相を検知する周波数・位相検知手段を設け、前記電源は、前記周波数・位相検知手段が検知した周波数・位相と同じ周波数・位相の交流電流を前記光学特性可変素子に供給することを特徴とする。
【0037】
この請求項11に記載の発明によれば、特定の周波数・位相の光に対する屈折率制御を行うことができる。
【0038】
また、請求項12の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項11に記載の発明において、結像の歪みを検出する歪み検出手段を設け、前記周波数・位相検知手段は、前記歪み検出手段が検出した結像の歪みを発生させている光の周波数・位相を検知することを特徴とする。
【0039】
この請求項12に記載の発明によれば、結像の歪みを発生させる原因となる光の周波数・位相を検知し、当該周波数・位相の光の屈折率を制御することで、結像の歪みを補正することができる。
【0040】
また、請求項13の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項8〜12のいずれかひとつに記載の発明において、前記光学特性可変素子が、望遠鏡を構成する最大口径の光学素子以外の光学素子面上に配置されることを特徴とする。
【0041】
この請求項13に記載の発明によれば、光学特性可変装置を容易に望遠鏡に設置することができる。すなわち、望遠鏡ごとに異なる形状の大口径素子そのものに歪み補正手段を設けていた従来技術と異なり、この光学特性可変装置は汎用的な光学素子に適用できるので、どのようなタイプの望遠鏡であっても適用が容易であり、既存の望遠鏡設備に取り付けるだけで、歪み補正機能を実現できる。
【0042】
また、請求項14の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項8〜12のいずれかひとつに記載の発明において、前記光学特性可変素子が、望遠鏡を構成する最小口径の光学素子面上に配置されることを特徴とする。
【0043】
この請求項14に記載の発明によれば、光学特性可変装置を容易に望遠鏡に設置することができる。すなわち、望遠鏡ごとに異なる形状の大口径の素子そのものに歪み補正手段を設けていた従来技術と異なり、この光学特性可変装置は汎用的な光学素子に適用できるので、どのようなタイプの望遠鏡であっても適用が容易であり、既存の望遠鏡設備に取り付けるだけで、歪み補正機能を実現できる。
【0044】
また、請求項15の発明にかかる光学特性可変装置は、請求項13または14に記載の発明において、前記望遠鏡を構成する光学素子を原因として発生する結像の歪みパターンをあらかじめ予測し、当該結像の歪みパターンに基づいて前記結像の歪みを補正するように前記光学特性可変素子を透過する光の屈折率制御を行うことを特徴とする。
【0045】
この請求項15に記載の発明によれば、望遠鏡における像の歪みを容易に補正することができる。
【発明の効果】
【0046】
この発明にかかる光学特性可変装置によれば、光学素子を透過する光の屈折率を任意に変化させることができるという効果を奏する。このため、光学素子を移動させることなく、光学系の焦点距離を変化させ、変倍を行うことができる。さらに、この光学特性可変装置は、光学素子における屈折率分布を不均一にすることができるため、当該光学素子に非球面レンズと同等の機能を持たせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】メタマテリアルの基本構造を示す図である。
【図2】実施の形態1にかかる光学特性可変装置の構成を示す図である。
【図3】感光体201、増幅回路202、および光学特性可変素子203の配置例を示す図である。
【図4】光学特性可変装置200を構成する感光体201および光学特性可変素子203の配置例を示す図である。
【図5】光学特性可変素子203の他の構成例を示す図である。
【図6】複数の層で形成された光学特性可変素子203の構成例を示す図である。
【図7】実施の形態2にかかる光学特性可変装置の構成を示す図である。
【図8】光学特性可変素子701の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
この発明にかかる光学特性可変装置は、負の屈折率を人工的に作り出すメタマテリアルを用いて構成した光学特性可変素子を備えている。そこで、まず、このメタマテリアルの原理について説明する。
【0049】
図1は、メタマテリアルの基本構造を示す図である。図1に示すように、メタマテリアル100は、可視光波長より小さな磁場発生コイル(ナノコイル)101(インダクタ)を互いに結線102で結び、これらを一面に複数配置することで構成される。これがメタマテリアルの基本構造である。この磁場発生コイル101は、何層か積み重なっていても構わない。メタマテリアル100は、光に対して反磁場を発生させる、すなわち負の屈折率を有する素材である。
【0050】
ところで、屈折率Nは、素材の誘電率をε、透磁率をμとすると、
N=(εμ)1/2
で与えられる。
【0051】
これまで、通常、μ<0である物質は存在しないとされていた。たとえば、広く光学素子を形成する材質として用いられるガラスなどではε>0,μ>0となり、N>0となる。また、銀などε<0である物質の場合、Nは虚数となる。これは、光を含む電磁波が、透過できないことを示す。
【0052】
ここで、ガラス表面に光の波長より小さな銀の磁場発生コイル101を配置した場合、光が伴う磁場(および、銀表面の自由電子の共鳴振動)によって磁場発生コイル101に磁場が発生する。この磁場は、光が伴う磁場に抗する方向に働き、磁場発生コイル101の磁場の方が大きいと、見かけ上、ガラス表面では透磁率μ<0となる。また、磁場発生コイル101の素材である銀はε<0なので、見かけ上、ガラス表面でも誘電率ε<0となる。よって、ここに、N<0の物質(メタマテリアル)ができあがる。
【0053】
透磁率μの値は磁場発生コイル101に流れる電流の大きさで変わるので、外部から磁場発生コイル101に強制的に電流を流すことができれば、Nの値も可変とすることができる。独立行政法人理化学研究所(以下、理研という)の試算によれば、透磁率μを変えるために磁場発生コイル101の1個当たりに必要とされる電流は、磁場発生コイル101に3[V]印加すると仮定すると、1.6×10-12[A]である。そこで、この磁場発生コイル101をφ20の光学素子上に単層で配置する場合、全体で2.6×10-4[A]程度の電流が必要となる。
【0054】
ここで、たとえば、φ20で、第1面、第2面の曲率半径がそれぞれ100mm、面間隔が2mmのレンズ上に、一様にメタマテリアル100を分布させた素子を構成したと仮定する。磁場発生コイル101の形状は、理研で提案されている形状・材質とする。
【0055】
前記素子への入射光の周波数を700THzとすると、磁場発生コイル101の誘電率εは、ωpをプラズマ周波数、ωを角周波数として、ドルーデの法則より、
ε=((ωp)1/2)/((ω)1/2
=(1.4×10161/2/(7×10141/2
=−3.99×10-2
となる。なお、ωpの値は上記非特許文献1の585項を参照した。
【0056】
磁場発生コイル101に特に電流などを印加しなければ、上記非特許文献1によると、前記素子の透磁率μが−1となるので、当該素子の屈折率Nは、
N=(εμ)1/2≒20
となる。そして、このとき当該素子の焦点距離は、0.27mmとなる。
【0057】
ここで、たとえば、光の入射によって励起され磁場発生コイル101に流れる電流に対し、順方向に6.4×10-12[A]の電流を流すと、透磁率μは−2程度となり、前記素子の焦点距離は0.19mmとなる。一方、逆方向に1.2×10-12[A]の電流を流すと、透磁率μは−0.5程度となり、前記素子の焦点距離は0.41mmとなる。すなわち、前記素子に供給する電流の大きさや方向を変えることにより、屈折率を変化させることが可能になる。
【0058】
この発明の趣旨は、メタマテリアル100を用いて光の屈折率を変化させる光学素子(以下、光学特性可変素子という)を構成し、当該光学特性可変素子に電流を供給し、また供給する電流の大きさや方向を変えることで、光学特性可変素子を透過する光の屈折率を変化させることにある。このようにすることで、光学特性可変素子を移動させることなく、ズームレンズの機能を実現できる。また、光学特性可変素子を独立した複数のメタマテリアル100で構成し、異なる大きさの電流を各メタマテリアル100に供給することで、前記光学特性可変素子における屈折率分布を不均一にすることができる。このようにすることで、非球面レンズと同等の効果が得られる。
【0059】
この発明を実現する手段として、次の4つの要素が必要である。
(1)光によって共振を起こし、交流電流を発生させる感光体(感光コイル)を配置する。
(2)交流電流を増幅する増幅手段(増幅回路)を配置する。
(3)光に対して反磁場を発生させる手段(メタマテリアル)を配置する。
(4)以上の3要素を結線する。
【0060】
以下に、この発明にかかる光学特性可変装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0061】
(実施の形態1)
図2は、実施の形態1にかかる光学特性可変装置の構成を示す図である。この光学特性可変装置200は、感光体201と、増幅回路202と、光学特性可変素子203と、により構成される。
【0062】
感光体201は、図1に示した磁場発生コイル101と同様の、可視光波長よりも小さい感光コイルで構成される。この、感光体201は入射光によって共振し、当該入射光と同じ周波数の交流電流を発生させる。
【0063】
増幅回路202は、感光体201で発生した交流電流を増幅して光学特性可変素子203へ供給する。この増幅回路202は、オペアンプ202a、可変抵抗202bを含み構成されている。可変抵抗202bの抵抗値を変えることで、光学特性可変素子203へ供給する交流電流の大きさを変えることができる。可変抵抗202bの抵抗値は、光学特性可変素子203の光学特性可変装置200の外部から変えることができるようになっている。また、ここでは、オペアンプ202aにより電流の増幅を行う例を示したが、電流の増幅は他の手段を用いてもよい。
【0064】
光学特性可変素子203は、図1に示したメタマテリアル100を用いて構成されている。すなわち、可視光波長より小さな磁場発生コイル101を互いに結線102で結び、これらを一面に複数配置することで構成される。なお、光学特性可変素子203は、フォトリソグラフィーなどのナノテクノロジーを用いて作成される。また、通常、この光学特性可変素子203は、光を透過する光学素子面上に配置されて用いる。
【0065】
この光学特性可変装置200では、感光体201が受光することによって、受光した光と同周波数の交流電流を発生させる。増幅回路202は、感光体201で発生した交流電流を増幅して光学特性可変素子203へ供給する。すると、光学特性可変素子203は、供給された交流電流と同周波数の光(すなわち、感光体201が受光した光と同じ光)の屈折率を変化させることができる。
【0066】
この光学特性可変装置200では、増幅回路202の可変抵抗202bの抵抗値を任意に変えることができる。このため、光学特性可変素子203への供給電流の大きさを任意に変えることで、光学特性可変素子203を透過する光の屈折率を任意に変えることができる。また、感光体201は交流電流を発生させることができるので、光学特性可変素子203への供給電流の向きも変えることができる。したがって、光学特性可変素子203への供給電流の向きを変えることによっても、光学特性可変素子203を透過する光の屈折率を任意に変えることができる。
【0067】
なお、光学特性可変素子203を構成する磁場発生コイル101と感光体201を構成する感光コイルとの磁場の向きが逆であっても、磁場発生コイル101に供給される電流の方が増幅回路202により大きくなっているので、前記感光コイルの磁場は相殺されるため支障はない。
【0068】
前述のように、光学特性可変装置200では、装置への入射光によって、電流を発生させ、当該入射光の屈折率を変える。したがって、効率的な屈折率の変換を行うためには、感光体201および光学特性可変素子203への光の入射条件が同様になることが好ましい。このためには、感光体201、増幅回路202、および光学特性可変素子203を近接させて配置するとよい。
【0069】
図3は、感光体201、増幅回路202、および光学特性可変素子203の配置例を示す図である。図3に示すように、感光体201を構成する感光コイルと、増幅回路202と、光学特性可変素子203を構成する磁場発生コイル101とが近接配置される。このとき、光を透過させる光学素子表面上に、感光体201、増幅回路202、光学特性可変素子203を配置するとよい。感光体201と光学特性可変素子203との位置関係であるが、感光体201を、光学特性可変素子203の有効径外に配置してもよいし、光学特性可変素子203の有効径内に配置してもよい。
【0070】
図4は、光学特性可変装置200を構成する感光体201および光学特性可変素子203の配置例を示す図である。図4は、円形状に形成された光学特性可変素子203の有効径外に、帯状に形成された感光体201を配置した例を示している。このようにすることで、感光体201および光学特性可変素子203への光の入射条件が同一になる。
【0071】
以上説明したように、この実施の形態1によれば、光学特性可変素子203を透過する光の屈折率を任意に変えることができる。このとき、光学特性可変素子203を構成するすべての磁場発生コイル101に均一に交流電流が流れるように構成すれば、光学特性可変素子203における屈折率分布が均一になる。そして、すべての磁場発生コイル101に流れる交流電流の大きさを均一に変えていけば、屈折率も均一に変化していくので、焦点距離を変えることができる。すなわち、この光学特性可変素子203を含む光学特性可変装置200で、従来のズーム,フォーカス機構の機能を実現することができる。このため、従来の撮像装置に備えられていたズーム機構、フォーカス機構などの駆動部位が不要となり、構造の簡略化、低ノイズ化、低振動化、軽量化が図れる。
【0072】
また、駆動機構を介することなく、電気的な信号が直接ズーム、フォーカスの制御信号となるので、反応遅れ、オーバーシュートなどの不具合を解消することができる。さらに、感光体201の前方(光の入射側)に、所定周波数の光のみを透過するフィルタなどを設置すれば、所定周波数の光に特化した屈折率制御を行うことができる。
【0073】
また、光学特性可変素子203は、平板形状の光学素子面上に配置しても、レンズ面上に配置しても構わない。レンズ面上に光学特性可変素子203を配置した場合は、当該レンズが元来有する屈折率を基準にして、さらに光学特性可変素子203で透過光の屈折率を変化させることで、幅広い用途に適応させることができる。さらに、ε<0の物質かε>0の物質かを選択して磁場発生コイル101を作成すれば、さらなる多様な用途に適用可能になる。
【0074】
ところで、光学特性可変素子203を構成する一部の磁場発生コイル101のみに交流電流が流れるように構成すれば、光学特性可変素子203における屈折率分布が不均一になる。すなわち、光学特性可変素子203の一部分を透過する光の屈折率のみが制御されることになる。この結果、非球面レンズと同等の効果が得られる。
【0075】
また、非球面レンズと同等の効果を得るためには、光学特性可変素子203を構成するメタマテリアル100の構造を特徴的に配して、当該素子の中で異なる屈折率が発生するようにしてもよい。
【0076】
図5は、光学特性可変素子203の他の構成例を示す図である。この例では、光学特性可変素子203を、光を透過する光学素子表面(不図示)に、それぞれ独立したメタマテリアル100を中心を同じくする環状帯(環状帯203a,203b,203c,203d,203e)で形成している。それぞれの環状帯203a,203b,203c,203d,203eには互いに独立した増幅回路(不図示)から交流電流が供給されるようになっている。そして、独立した増幅回路に付随する可変抵抗の抵抗値を変えることで、各環状帯203a,203b,203c,203d,203eには異なる大きさの電流を供給することができる。このようにすることにより、各環状帯203a,203b,203c,203d,203eでそれぞれ透過光の屈折率が異なるように設定でき、非球面レンズと同様の効果が得られる。
【0077】
図5では、複数の環状帯構造を備えた光学特性可変素子203で非球面レンズと同等の機能を実現する例を示したが、他の構成を採用することもできる。たとえば、光学特性可変素子203を光軸に沿う方向に複数の層を重ねて形成してもよい。
【0078】
図6は、複数の層で形成された光学特性可変素子203の構成例を示す図である。この例では、順に、第1層203f、第2層203g、第3層203hを積層して光学特性可変素子203を形成している。第1層203f、第2層203g、第3層203hは、それぞれ独立したメタマテリアル100で形成されている。また、第1層203f、第2層203g、第3層203hには、それぞれ独立した増幅回路(不図示)から交流電流が供給されるようになっている。そして、独立した増幅回路に付随する可変抵抗の抵抗値を変えることで、第1層203f、第2層203g、第3層203hには異なる大きさの電流を供給することができる。このようにすることにより、第1層203f、第2層203g、第3層203hでそれぞれ透過光の屈折率が異なるように設定し、光学特性可変素子203における屈折率分布が不均一になるようにすることで、非球面レンズと同様の効果が得られる。
【0079】
以上のように、光学特性可変素子203を互いに独立した複数の環状帯または層で構成することにより、ひとつの光学特性可変素子203で屈折率分布が均一になるようにしたり、屈折率分布が不均一になるようにしたりすることが可能になる。したがって、ひとつの光学特性可変素子203で球面レンズと非球面レンズの機能を実現することが可能になる。このような特徴を有する光学特性可変装置200を撮像装置に搭載すれば、非球面レンズが不要になるため、非球面レンズの作成・検査工程が不要となり、撮像装置の製造工程を簡略化できる。
【0080】
また、実施の形態1の光学特性可変装置200を用いる際、ズームポジションやフォーカスポジションにおける最適な屈折率分布がわかっているのであれば、ズームポジションやフォーカスポジションに合わせて、光学特性可変素子203を構成する各環状帯または層を透過する光の屈折率を変化させることで、常に理想的な光学性能が得られる。すなわち、前記各環状帯または層を透過する光の屈折率を、ズームやフォーカスのポジションに合わせて、動的に変化させるようにすることで、常に最適な屈折率分布が得られるレンズを提供できる。
【0081】
なお、以上の説明は、主に可視領域の周波数の光を扱うことを前提としているが、磁場発生コイル101の材質および流れる交流電流の周波数と位相を変化させれば、理論上、どのような電磁波であっても屈折率を変化させることができる。
【0082】
(実施の形態2)
実施の形態1では、主に小型撮像装置に最適な光学特性可変装置の例を示したが、実施の形態2では、たとえば天文台に設置される天体望遠鏡などに代表される大口径光学系に最適な光学特性可変装置について説明する。
【0083】
図7は、実施の形態2にかかる光学特性可変装置の構成を示す図である。この図7は、大口径の望遠鏡に搭載された状態を示している。この光学特性可変装置700は、光学特性可変素子701と、周波数・位相検知部702と、歪み検出部703と、電源704と、により構成される。
【0084】
光学特性可変素子701は、図1に示したメタマテリアル100を用いて構成されている。すなわち、可視光波長より小さな磁場発生コイル101を互いに結線102で結び、これらを一面に複数配置することで構成される。この光学特性可変素子701は、フォトリソグラフィーなどのナノテクノロジーを用いて作成される。また、この光学特性可変素子701は、天体望遠鏡を構成する光学素子面上に配置される。この光学特性可変素子701は、供給された交流電流と同じ周波数・位相の光の屈折率を変化させる。周波数・位相検知部702は、主鏡705に入射した光線を集光する集光ミラー706からの光線の周波数およびその位相を検知する。図7では、周波数・位相検知部702が、集光ミラー706からの光線の光路を変更するミラー707面において光線の周波数およびその位相を検知する例を示している。歪み検出部703は、結像面708において光学素子の歪みや大気の揺らぎを原因として発生する像の歪みを検出する。電源704は、光学特性可変素子701へ交流電流を供給する。電源704は、THzレベルまでの周波数の交流電流を発生させることができるものとする。この理由は、天体望遠鏡で観察するのは、可視光に限られず、たとえば高周波数の放射線などを観察するので、当該高周波数の光線の屈折率を変化させるためにも、高周波数の電流が必要であるからである。
【0085】
図7に示した例では、たとえば、周波数・位相検知部702が検知した周波数・位相の光の屈折率を変化させたい場合には、電源704が周波数・位相検知部702で検知された光の周波数・位相と同じ周波数・位相の交流電流を光学特性可変素子701に供給すればよい。このようにすることで、特定の周波数・位相の光に対する屈折率のみを制御することができる。
【0086】
また、天体望遠鏡では、内部の光学素子(特に主鏡705)の歪みや大気の揺らぎにより像に歪みが発生する場合がある。そこで、歪み検出部703が結像面708における像の歪みを検出すると、周波数・位相検知部702が当該歪みを発生させる原因となる光の周波数・位相を検知する。そして、電源704が周波数・位相検知部702で検知された周波数・位相と同じ周波数・位相の交流電流を光学特性可変素子701に供給することで、像の歪みの原因となっている周波数・位相の光の屈折率を変化させ、像の歪みを補正することができる。
【0087】
実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、光学特性可変素子701を構成する一部の磁場発生コイル101のみに交流電流が流れるように構成すれば、光学特性可変素子701における屈折率分布が不均一になる。すなわち、光学特性可変素子701の一部分を透過する光の屈折率のみが制御されることになる。この結果、非球面レンズと同等の効果が得られ、より精度の高い像の歪み補正を実現できる。
【0088】
ところで、天文台に設置される天体望遠鏡では微弱な光を観察しなくてはならないため、高い結像精度が要求される。そこで、光学特性可変素子701にも高精度の屈折率制御が必要となる。このため、光学特性可変素子701では、より細かい屈折率の設定が可能であることが好ましい。
【0089】
図8は、光学特性可変素子701の構成例を示す模式図である。この光学特性可変素子701は、光を透過する光学素子表面に、それぞれ独立した複数のグリッド701aが配置されて形成される。各グリッド701aは、図1に示したメタマテリアル100で構成されている。そして、グリッド701aごとに、電源704から異なる大きさの交流電流や異なる周波数の交流電流が供給されるようになっている。このようにすることで、グリッド701aごとに、光の屈折率を設定することが可能である。と同時に、グリッド701aごとに、特定の周波数の光のみの屈折率制御を行うことも可能である。グリッド701a全体で透過光の屈折率制御を行えば、可視光領域から紫外・赤外領域に至るまで対応可能である。また、一部のグリッド701aのみにおいて、屈折率制御を行うこともできる。なお、図8では、グリッド701aが四角形であるように示されているが、グリッド701aの形状はこれに限らない。たとえば、五角形であっても、六角形であっても構わない。平面上のグリッド701aは、透過する光の波長よりも短い間隔で配置されていればよい。また、グリッド701aは、複数の層で形成されていてもよい。このとき、上下の層が互いに独立した関係にあってもよい。このようにすることで、より細かい屈折率の制御を行うことができる。
【0090】
以上説明したように、実施の形態2にかかる光学特性可変装置700によれば、光学特性可変素子701を構成する各グリッド701aがそれぞれ独立して透過光の屈折率を制御することができる。したがって、望遠鏡を構成する大口径光学素子の歪みを原因とする結像の歪みと、大気の揺らぎを原因とする結像の歪みを同時に補正することが可能である。また、特定の周波数の光に特化した歪み補正を行うことも可能である。しかも、光学特性可変素子701を移動させることなく、歪み補正を行うことができる。このことは光学特性可変素子701を移動させることによって発生する光軸のずれなどを回避することができる。また、光学特性可変素子701を移動させるための可動手段が不要となるため、装置の小型化を促進できる。また、光学特性可変素子701を構成する各グリッド701aがそれぞれ独立して透過光の屈折率を制御することができるため、光学特性可変素子701自体が非球面レンズと同等の機能を有するので、光学特性可変素子701の形状に複雑な曲率を付与する必要はない。
【0091】
また、光学特性可変素子701は、平板形状の光学素子面上に配置しても、レンズ面上に配置しても構わない。そこで、実施の形態2にかかる光学特性可変装置700を望遠鏡に適用する場合は、光学特性可変素子701を、望遠鏡の最大口径以外の光学素子、可能であれば最小口径の光学素子面に形成することが好ましい。このようにすることで、光学特性可変装置700を容易に望遠鏡に設置することができる。すなわち、望遠鏡ごとに異なる形状の大口径の素子そのものに歪み補正手段を設けていた従来技術と異なり、光学特性可変素子701は汎用的な光学素子に適用できるので、どのようなタイプの望遠鏡であっても適用が容易であり、既存の望遠鏡設備に取り付けるだけで、歪み補正機能を実現できる。図7に示した例では、光学特性可変装置700を反射型望遠鏡に適用した例を示したが、この光学特性可変装置700は屈折式望遠鏡にも適用できる。
【0092】
また、この光学特性可変装置700を望遠鏡に適用すれば、光学特性可変素子701で歪み補正が行えるため、主鏡705などの大口径の光学素子に高い加工精度が要求されない。たとえば、リブなどを設けて大口径の光学素子を全体に薄く特定部位のみが厚くなるように形成した場合、リブ付近で大きな歪みが生じると考えられる。しかし、この場合、歪みパターンはあらかじめ予測可能であるため、予測した歪みパターンの情報に基づいて光学特性可変素子701を透過する光の屈折率制御を行うことで、容易に結像の歪みを補正することができる。
【0093】
また、実施の形態2の光学特性可変装置700も、実施の形態1と同様に、磁場発生コイル101の材質および流れる交流電流の周波数と位相を変化させれば、理論上、どんな電磁波でも屈折率を変化させることができる。
【0094】
また、実施の形態2では、光学特性可変素子701を大口径の光学素子を備えた望遠鏡に適用した例を示したが、この光学特性可変素子701は、デジタルカメラや一眼レフカメラ、監視用カメラ、や携帯用カメラなどの小口径の光学素子を備えた小型撮像装置に適用することも可能である。この光学特性可変素子701を小型撮像装置に適用した場合、より複雑な光の屈折率制御を行うことができ、高解像度の画像を取得することができる。
【0095】
以上実施の形態を示して説明したように、この発明にかかる光学特性可変装置によれば、光学素子を透過する光の屈折率を任意に変化させることができる。このため、光学素子を移動させることなく、光学系の焦点距離を変化させ、変倍を行うことができる。さらに、この光学特性可変装置は、光学素子の屈折率分布を不均一にすることができるため、当該光学素子に非球面レンズと同等の機能を持たせることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上のように、この発明にかかる光学特性可変装置は、デジタルカメラや一眼レフカメラなどの小型撮像装置はもとより、天文台に設置される大口径望遠鏡にも有用である。この光学特性可変装置を用いることで、光学系を移動させずに焦点距離を変えたり、1つの光学素子で球面レンズと非球面レンズの機能を実現したりすることが可能になる。
【符号の説明】
【0097】
100 メタマテリアル
101 磁場発生コイル
102 結線
200,700 光学特性可変装置
201 感光体
202 増幅回路
202a オペアンプ
202b 可変抵抗
203,701 光学特性可変素子
203a,203b,203c,203d,203e 環状帯
203f 第1層
203g 第2層
203h 第3層
701a グリッド
702 周波数・位相検知部
703 歪み検出部
704 電源
705 主鏡
706 集光ミラー
707 ミラー
708 結像面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光波長より小さなインダクタを互いに結線で結び、これらを一面に複数配置することで構成される光学特性可変素子と、
入射光によって共振し、当該入射光と同周波数の交流電流を発生させる感光体と、
前記感光体で発生した交流電流を増幅して前記光学特性可変素子へ供給する増幅回路と、を備え、
前記光学特性可変素子は、前記増幅回路からの交流電流の供給により、任意に光の屈折率を変化させることを特徴とする光学特性可変装置。
【請求項2】
前記光学特性可変素子を構成するすべてのインダクタに均一に交流電流を供給することで、前記光学特性可変素子を透過する光の屈折率を均一に変化させて、焦点距離を変えることを特徴とする請求項1に記載の光学特性可変装置。
【請求項3】
前記光学特性可変素子を構成する一部のインダクタについてのみ交流電流を供給することで、前記光学特性可変素子の一部を透過する光の屈折率を変化させることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする請求項1に記載の光学特性可変装置。
【請求項4】
前記光学特性可変素子は、それぞれ独立した、中心を同じくする複数の環状帯で形成されており、
前記各環状帯に対してそれぞれ異なる大きさの交流電流を供給して、前記光学特性可変素子における屈折率分布が不均一になるようにすることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする請求項1に記載の光学特性可変装置。
【請求項5】
前記光学特性可変素子は、それぞれ独立した複数の層で形成されており、
前記各層に対してそれぞれ異なる大きさの交流電流を供給して、前記光学特性可変素子における屈折率分布が不均一になるようにすることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする請求項1に記載の光学特性可変装置。
【請求項6】
ズームポジションやフォーカスポジションに適合するように、前記光学特性可変素子における屈折率分布を設定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかひとつに記載の光学特性可変装置。
【請求項7】
前記光学特性可変素子は、撮影レンズ面上に配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかひとつに記載の光学特性可変装置。
【請求項8】
可視光波長より小さなインダクタを互いに結線で結び、これらを一面に複数配置することで構成される光学特性可変素子と、
任意の周波数の交流電流を発生させ、これを前記光学特性可変素子へ供給する電源と、を備え、
前記光学特性可変素子を構成するインダクタの一部に前記電源からの交流電流を供給することで、任意に前記光学特性可変素子の一部を透過する光の屈折率のみを変化させて非球面レンズの機能を実現することを特徴とする光学特性可変装置。
【請求項9】
前記光学特性可変素子は、それぞれ独立したグリッドで形成されており、
前記各グリッドに対してそれぞれ異なる大きさの交流電流を供給して、前記光学特性可変素子における屈折率分布が不均一になるようにすることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする請求項8に記載の光学特性可変装置。
【請求項10】
前記グリッドは、それぞれ独立した複数の層で形成されており、
前記各層に対してそれぞれ異なる大きさの交流電流を供給して、前記光学特性可変素子における屈折率分布が不均一になるようにすることにより非球面レンズの機能を実現することを特徴とする請求項9に記載の光学特性可変装置。
【請求項11】
所定の入射光の周波数・位相を検知する周波数・位相検知手段を設け、
前記電源は、前記周波数・位相検知手段が検知した周波数・位相と同じ周波数・位相の交流電流を前記光学特性可変素子に供給することを特徴とする請求項8〜10のいずれかひとつに記載の光学特性可変装置。
【請求項12】
結像の歪みを検出する歪み検出手段を設け、
前記周波数・位相検知手段は、前記歪み検出手段が検出した結像の歪みを発生させている光の周波数・位相を検知することを特徴とする請求項11に記載の光学特性可変装置。
【請求項13】
前記光学特性可変素子は、望遠鏡を構成する最大口径の光学素子以外の光学素子面上に配置されることを特徴とする請求項8〜12のいずれかひとつに記載の光学特性可変装置。
【請求項14】
前記光学特性可変素子は、望遠鏡を構成する最小口径の光学素子面上に配置されることを特徴とする請求項8〜12のいずれかひとつに記載の光学特性可変装置。
【請求項15】
前記望遠鏡を構成する光学素子を原因として発生する結像の歪みパターンをあらかじめ予測し、当該結像の歪みパターンに基づいて前記結像の歪みを補正するように前記光学特性可変素子を透過する光の屈折率制御を行うことを特徴とする請求項13または14に記載の光学特性可変装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate