説明

光学用アクリル樹脂フィルム

【課題】
品位、生産性、加工性、耐熱性に優れた光学用アクリル樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】
最大径が5μm以上30μm以下である欠点が1個/10cm四方以下であり、最大径が30μmを越える欠点が0個/10cm四方以下であり、ガラス転移温度が110℃以上であるアクリル樹脂フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は品位、生産性、加工性、耐熱性に優れた光学用アクリル樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂フィルムは、透明性や表面光沢性および耐光性に優れているため、液晶ディスプレイ用シートまたはフィルム、導光板などの光学材料、車両用内装材および外装材、自動販売機の外装材、電化製品、建材用内装および外装材等の表面表皮に用いられたり、ポリカーボネート、塩化ビニルなどの表皮保護等の広範な分野で使用されている。
【0003】
近年これらの樹脂フィルムは、例えば、自動車のナビゲーションシステム、ハンディカメラなどの普及により、使用範囲が屋外や自動車の車内などの耐候性、耐熱性が要求される過酷な使用環境条件下へ拡大してきている。このような過酷な環境条件下で使用する場合、ポリメタクリル酸メチル樹脂を基板とするシートまたはフィルムは優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が低いために変形が生じるうえに、靱性が低いために加工時に割れやすいという問題があった。
【0004】
そのため、アクリル樹脂フィルムの耐熱性を改良する目的で、下記構造式(1)で示されるグルタル酸無水物単位を有するフィルムが開示されている。(特許文献1および特許文献2)
【0005】
【化1】

【0006】
しかし、単にアクリル樹脂フィルムの組成の調整によって耐熱性を向上させると、柔軟性が不足し、曲げ応力によって割れやすくなり、加工時に必要な十分な靱性が得られない。
【0007】
また、アクリル樹脂フィルムの耐熱性と靱性を同時に改良する目的で、メタクリル酸メチル単位、下記構造式(2)で示されるグルタル酸無水物単位およびスチレン系単位を含むアクリル樹脂に架橋弾性体を含有させたフィルムが開示されている(特許文献3)。
【0008】
【化2】

【0009】
しかし、このフィルムはアクリル樹脂にスチレン単位が含まれるため耐熱性および透明性が十分ではなく、生産性を高めるために高速かつ高温高張力で加工を行った場合に平面性が悪化したり、光学用フィルムなど高い光線透過率が求められる用途では性能が不十分であるといった問題が発生する。
【0010】
また、アクリル樹脂フィルムは溶融製膜法や溶液製膜法で製膜が可能であるが、溶融製膜法で製膜した場合、押出機で高温とすることによりポリマーが着色したり、キャスト時にダイラインなどの厚みムラが生じたり、濾過が困難であり異物起因の欠点が生じるなどの問題があった。溶液製膜法では溶媒乾燥に伴う発泡などの問題があった。
【特許文献1】特開平7−268036号公報(1頁)
【特許文献2】特開2004−2711号公報(1頁)
【特許文献3】特開2000−178399号公報(1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、品位、生産性、加工性、耐熱性に優れた光学用アクリル樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するための本発明は、最大径が5μm以上30μm以下である欠点が1個/10cm四方以下であり、最大径が30μmを越える欠点が0個/10cm四方であり、ガラス転移温度が110℃以上であるアクリル樹脂フィルムによって達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、品位、加工性、耐熱性に優れるため、画像表示素子などの光学部材に好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが必要である。より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。110℃未満の場合、プロジェクターのような高温になる機器や、車載用表示機器のような、高温の環境下で使用できない場合がある。また、フィルム表面にハードコート処理などを行うときに熱により変形し平面性を損なう場合がある。尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0015】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、フィルム面内の最大径5μm以上30μm以下の欠点が1個/10cm四方以下である。更に好ましくは0.5個/10cm四方以下、一層好ましくは0.1個/10cm四方以下である。最大径5μm以上30μm以下の欠点の個数が1個/10cm四方より多いと、例えば後工程での加工時などでフィルムに張力がかかると、欠点を起点としてフィルムが破断して生産性が著しく低下する場合がある。また、欠点の直径が5μm以上になると、偏光板観察などにより目視で確認でき、光学部材として用いたとき輝点が生じる場合がある。また、目視で確認できない場合でも、該フィルム上にハードコート層などを形成したときに、塗剤が均一に形成できず欠点(塗布抜け)となる場合がある。
【0016】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムは、最大径が30μmを越える欠点が0個/10cm四方である。30μmを越える欠点は目視で確認可能であり、画像表示素子として用いると輝点や色彩表示不良の原因となるため、光学用フィルムとして使用できない。
【0017】
更に昨今、画像表示の高精細化、高輝度化に伴い、フィルム品位への要求は益々高いものとなっており、本発明のアクリル樹脂フィルムを高級グレードの画像表示素子として用いるためには、最大径が5μm以上20μm以下である欠点が1個/10cm四方以下であり、最大径が20μmを越える欠点が0個/10cm四方であることが好ましい。更に好ましくは、最大径が5μm以上20μm以下である欠点が0.5個/10cm四方以下、一層好ましくは0.1個/10cm四方以下である。欠点の最大径が20μmを越えると、バックライトの輝度が向上したとき輝点や色彩表示不良として視認できる場合がある。
【0018】
かかる欠点頻度にて表される品位に優れたフィルムを生産性よく得るには、ポリマーの重合工程において、オリゴマーや異物の発生を抑制および/または除去することが有効である。
【0019】
また、ポリマー溶液または溶融ポリマーを流延直前に高精度濾過することが有効である。最終濾過精度は20μm以下であることが好ましい。より好ましくは15μm以下更に好ましくは5μm以下である。濾過精度が20μm以上の場合、フィルターを通過した異物が核となって得られたフィルムに目視で確認できる欠点が発生する場合がある。フィルムの欠点を減少させるためには濾過精度は小さいほど良いが、0.5μm以下であると製膜時の圧損が高くなり、製膜できない場合がある。フィルターの素材は濾過精度が保証されれば特に限定はなく、ポリプロピレン製、フッ素樹脂製、ステンレス製、焼結セラミック製などが用いられるが、洗浄して再利用できることからステンレス製や焼結セラミック製が好ましい。更に、本発明のフィルムを溶融製膜法により得る場合は、耐熱温度の観点から、ステンレス製、や焼結セラミック製のフィルターが好ましく用いられる。除去する異物がゲル状物の場合は焼結セラミック製のフィルターが好ましく用いられる。
【0020】
また、流延部周辺のクリーン度を高くすることが有効である。クリーン度はクラス1000以下であることが好ましい。さらに、口金周辺はブースで覆うなどしてクラス100以下に保つことが好ましい。
【0021】
また、流延後の乾燥条件を段階的に設定し、効率よくかつ発泡を抑えて乾燥させることが有効である。
【0022】
ここで、欠点とは、溶液製膜の乾燥工程において溶媒の急激な蒸発に起因して発生するフィルム中の空洞(発泡欠点)や、製膜原液中の異物や製膜中に混入する異物に起因するフィルム中の異物(異物欠点)を言う。ここで欠点の最大径とは、欠点の範囲を下記方法により顕微鏡で観察して決定し、その外接円の直径とする。欠点の範囲は、欠点が気泡や異物の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の透過光で観察したときの影として大きさを確認可能である。欠点が、ロール傷の転写や擦り傷など、表面形状の変化の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の反射光で観察して大きさを確認可能である。反射光で観察する場合は、表面にアルミや白金を蒸着して観察しても良い。
【0023】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向の破断伸度が、10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。伸度が低いと成形、加工時の破断が生じやすくなくなる。破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には250%程度である。破断伸度を大きくするには異物や発泡に起因するフィルム中の欠点を抑制することが有効である。また、ポリマーに屈曲性分を導入することや、可塑剤などの添加も破断伸度の増加に有効であるが、耐熱性が低くなる場合がある。
【0024】
本発明のアクリル樹脂フィルムの厚みは15μm以上であることが好ましい。より好ましくは80μm以上である。フィルムの厚みが15μm未満であるとフィルム強度が低下し加工性が悪化する。厚みの上限は特に限定される物ではないが、溶液製膜法でフィルム化する場合は、塗布性、発泡、溶媒乾燥などの観点から、上限は250μm程度である。溶融製膜法でフィルム化する場合は、特に上限はないが、厚みが1mmを越えるとフィルムが着色する場合がある。なお、フィルムの厚みは用途により適宜選定すればよい。
【0025】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。また、製膜時のフィルム接触部(冷却ロール、カレンダーロール、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材、搬送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることや、アクリル樹脂(A)の屈折率を小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
【0026】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムは、透明性を表す指標の1つであるヘイズが、2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下、最も好ましくは0.5%以下である。かかるヘイズを達成するには、前述のようにアクリル樹脂(A)とアクリル弾性体粒子(B)との屈折率差を小さくすることが有効である。また、表面の粗さも表面ヘイズとしてヘイズに影響するため、アクリル弾性体粒子(B)の粒子径や添加量を前記範囲内に抑えたり、製膜時のフィルム接触部の表面粗さを小さくすることも、有効である。また、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散を低減させることが有効である。
【0027】
尚、上記熱可塑性樹脂組成物の全光線透過率はJIS−K7361−1−1997、ヘイズはJIS−K7136−2000に従い、測定した値である。
【0028】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、以上のような物性を満たしていれば、光学用のアクリル樹脂フィルムとして好ましく用いることができるが、以下の組成とすることにより、加工性、耐熱性に優れたフィルムを得ることができる。
【0029】
すなわち、加工性および耐熱性を両立させる観点から、アクリル樹脂フィルムを100質量部としたとき、下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)50〜95質量部とアクリル弾性体粒子(B)5〜50質量部からなる混合物を主たる材料とするアクリル樹脂フィルムであることが好ましい。さらに、透明性の観点から、アクリル樹脂(A)75〜95質量部とアクリル弾性体粒子(B)5〜25質量部からなる混合物を主たる材料とするアクリル樹脂フィルムであることが好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
次に、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)の製造方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
すなわち、後の加熱工程により上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を与える不飽和カルボン酸単量体(i)および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体(iii)とを重合させ、共重合体(a)とした後、かかる共重合体(a)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより製造することができる。この場合、典型的には共重合体(a)を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位が生成される。この際用いられる不飽和カルボン酸単量体(i)としては、特に限定はなく、他のビニル化合物(iii)と共重合させることが可能な、一般式(3)の不飽和カルボン酸単量体が使用できる。
【0033】
【化4】

【0034】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
特に、熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種、または2種以上用いることができる。なお、上記一般式(3)で表される不飽和カルボン酸単量体(i)は共重合すると上記一般式(1)で表される構造の不飽和カルボン酸単位を与える。
【0035】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(4)で表されるものを上げることができる。
【0036】
【化5】

【0037】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜6の脂肪族、もしくは脂環式炭化水素基を示す。)
これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基または置換基を有する該炭化水素基をもつアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが熱安定性が優れる点で特に好適である。なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記一般式(1)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0038】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが上げられ、中でもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0039】
また、本発明で用いるアクリル樹脂(A)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体(iii)を用いてもかまわない。その他のビニル系単量体(iii)の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを挙げることができるが、透明性、複屈折率、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0040】
アクリル樹脂(A)の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の重合方法を用いることができるが、不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合が特に好ましい。
【0041】
重合温度については、特に制限はないが、色調の観点から、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を95℃以下の重合温度で重合することが好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい重合温度は85℃以下であり、特に好ましくは75℃以下である。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温することも可能であるが、この場合も昇温する上限温度は95℃以下に制御することが好ましく、重合開始温度も75℃以下の比較的低温で行うことが好ましい。また重合時間は、必要な重合度を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜180分間の範囲が特に好ましい。
【0042】
本発明において、アクリル樹脂(A)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100質量部として、不飽和カルボン酸単量体(i)が5〜50質量部、より好ましくは9〜33質量部、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)は好ましくは50〜95質量部、より好ましくは67〜91質量部、これらに共重合可能な他のビニル系単量体(iii)を用いる場合、その好ましい割合は0〜5質量部であり、より好ましい割合は0〜3質量部である。
【0043】
不飽和カルボン酸単量体量(i)が5質量部未満の場合には、共重合体(a)の加熱による上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位の生成量が少なくなり、本発明のアクリル樹脂フィルムの耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体量(i)が50質量部を超える場合には、共重合体(a)の加熱による環化反応後に、不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0044】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムに使用するアクリル樹脂(A)は、質量平均分子量が8万〜15万であることが好ましい。このような分子量を有するアクリル樹脂(A)は、共重合体(a)の製造時に、共重合体(a)を所望の分子量、すなわち質量平均分子量で5万〜15万に予め制御しておくことにより、達成することができる。質量平均分子量が、15万を越える場合、後工程の加熱脱気時に着色する傾向が見られる。一方、質量平均分子量が、5万未満の場合、アクリル樹脂フィルムの機械的強度が低下する傾向見られる。
【0045】
共重合体(a)の分子量制御方法については、特に制限はない。例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用することができる。
【0046】
アルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0047】
これらアルキルメルカプタンの添加量としては、本発明の特定の分子量に制御するものであれば、特に制限はないが、通常、単量体混合物の全量100質量部に対して、0.2〜5.0質量部であり、好ましくは0.3〜4.0質量部、より好ましくは0.4〜3.0質量部である。
【0048】
本発明に好ましく用いられるアクリル樹脂(A)の製造に用いる共重合体(a)を加熱し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応を行いグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を製造する方法としては、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や不活性ガス雰囲気または真空下で加熱脱揮できる装置内で製造する方法が生産性の観点から好ましい。中でも、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。特に好ましい装置として、例えば、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸押出機が好ましく使用することができる。また、これらに窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有した装置であることがより好ましい。例えば、二軸押出機に、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパー上部および/または下部より、10〜100リットル/分程度の不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
【0049】
なお、上記の方法により加熱脱揮する温度は、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜300℃の範囲、特に200〜280℃の範囲が好ましい。
【0050】
また、この際の加熱脱揮する時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機スクリューの長さ/直径比(L/D)が40以上であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が大幅に悪化する傾向がある。
【0051】
さらに本発明では、共重合体(a)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、共重合体(a)100質量部に対し、0.01〜1質量部程度が適当である。また、これら酸、アルカリ、塩化合物の種類についても特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられる。ただし、その触媒保有の色が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。中でも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられ、とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウムが好ましく使用することができる。
【0052】
アクリル樹脂(A)は、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度を上げる方法としては、特に限定されないが、アクリル樹脂(A)中の前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位の含有量を増やす、および/または得られたフィルムを延伸により配向させる等が挙げられる。
【0053】
本発明のアクリル樹脂(A)としては、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からなる共重合体が好ましく使用することができる。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位とグルタル酸無水物単位の含有量は、質量平均分子量及びガラス転移温度が本発明の範囲内であれば特に制限はないが、ガラス転移温度を本発明の範囲内にするために、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位とグルタル酸無水物単位の合計を100質量部としたときに、好ましくは不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜90質量部およびグルタル酸無水物単位10〜50質量部からなり、より好ましくは、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位55〜80質量部およびグルタル酸無水物単位20〜45質量部からなる。グルタル酸無水物単位が10質量部未満である場合、耐熱性向上効果が小さくなるだけでなく、十分な複屈折特性(光学等方性)や耐薬品性が得られない傾向がある。
【0054】
また、本発明のアクリル樹脂(A)における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物単位は、1800cm-1及び1760cm-1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、1H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH3)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0055】
また、本発明のアクリル樹脂(A)は、アクリル樹脂(A)中に他の不飽和カルボン酸単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0056】
本発明の熱可塑性重合体100質量部中に含有される他の不飽和カルボン酸単位量は10質量部以下、すなわち0〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0〜5質量部、最も好ましくは0〜1質量部である。不飽和カルボン酸単位が10質量部を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0057】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は熱可塑性重合体100質量部中、5質量部以下、すなわち0〜5質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜3質量部である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が上記範囲を超えると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0058】
本発明においては、上記のアクリル樹脂(A)にアクリル弾性体粒子(B)を分散せしめることにより、アクリル樹脂(A)の優れた特性を大きく損なうことなく伸度や靭性が向上し優れた加工性を付与することができる。アクリル弾性体粒子(B)としては、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成さる、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体であるアクリル弾性体粒子(b−2)等が好ましく使用でき、より好ましくは多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)である。
【0059】
本発明に使用されるコアシェル型の多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)としては、これを構成する層の数は、特に限定されるものではなく、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に少なくとも1層以上のゴム質重合体よりなるゴム弾性体層を有する多層構造重合体であることが必要である。
【0060】
本発明の多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)において、ゴム弾性体層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴム弾性体としては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴム弾性体である。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴム弾性体も好ましく、例えば、(1)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分から構成されるゴム弾性体、(2)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴム弾性体、(3)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴム弾性体、および(4)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴム弾性体などが挙げられる。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位およびブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴム弾性体も好ましい。
【0061】
本発明の多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)において、ゴム弾性体層以外の層の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、ゴム弾性体層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であることが好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位およびその他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が好ましく、さらには不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
【0062】
上記不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルおよびメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸メチルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0063】
上記不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0064】
上記不飽和グリシジル基含有単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルおよび4−グリシジルスチレンなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0065】
上記不飽和ジカルボン酸無水物系単位の原料となる単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸および無水アコニット酸などが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、無水マレイン酸が好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0066】
また、上記脂肪族ビニル系単位の原料となる単量体としては、エチレン、プロピレンおよびブタジエンなどを、上記芳香族ビニル系単位の原料となる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンおよびハロゲン化スチレンなどを、上記シアン化ビニル系単位の原料となる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどを、上記マレイミド系単位の原料となる単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミドおよびN−(クロロフェニル)マレイミドなどを、上記不飽和ジカルボン酸系単位の原料となる単量体としては、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸およびフタル酸などを、上記その他のビニル系単位の原料となる単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを、それぞれ挙げることができ、これらの単量体は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0067】
本発明のゴム質重合体を含有する多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)において、最外層の種類は、特に限定されるものではなく、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位およびその他のビニル系単位などを含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位を含有する重合体から選ばれた少なくとも1種が好ましく、さらには不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体がより好ましい。
【0068】
さらに、上記の多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)における最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体である場合、加熱することにより、前述した本発明のアクリル樹脂(A)の製造時と同様に、分子内環化反応が進行し、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位が生成することを見出した。従って、最外層に不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体を有する多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)をアクリル樹脂(A)に配合し、適当な条件で、加熱溶融混練することにより、連続相(マトリックス相)となるアクリル樹脂(A)中に、最外層に上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有してなる重合体を有する多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)が分散することにより、凝集することなく、良好な分散状態が可能となり、耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が発現しうるものと考えられる。
【0069】
ここでいう不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらには(メタ)アクリル酸メチルがより好ましく使用される。
【0070】
また、不飽和カルボン酸系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸が好ましく、さらにはメタクリル酸がより好ましく使用される。
【0071】
本発明の多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)の好ましい例としては、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるもの、コア層がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、コア層がブタンジエン/スチレン重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、およびコア層がアクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが挙げられる(“/”は共重合を示す)。さらに、ゴム弾性体層または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。中でも、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるものが、連続相(マトリックス相)であるアクリル樹脂(A)との屈折率を近似させること、および樹脂組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、近年より高度化する要求を満足しうる透明性が発現するため、好ましく使用することができる。
【0072】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)の粒子径については、特に限定されるものではないが、10nm以上、1000μm以下であることが好ましく、さらに、20nm以上、100μm以下であることがより好ましく、特に50nm以上、400nm以下であることが最も好ましい。
【0073】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)において、コアとシェルの質量比は、特に限定されるものではないが、多層構造重合体全体を100質量部としたときに、コア層が50質量部以上、90質量部以下であることが好ましく、さらに、60質量部以上、80質量部以下であることがより好ましい。
【0074】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよい。
【0075】
このような多層構造重合体の市販品の例としては、例えば、三菱レイヨン社製 メタブレン(登録商標)、鐘淵化学工業社製 カネエース(登録商標)、呉羽化学工業社製 パラロイド(登録商標)、ロームアンドハース社製 アクリロイド(登録商標)、ガンツ化成工業社製 スタフィロイド(登録商標)およびクラレ社製 パラペットSA(登録商標)などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0076】
また、本発明に好ましく用いられるアクリル弾性体粒子(B)として好適に使用されるグラフト共重合体であるアクリル弾性体粒子(b−2)の具体例としては、ゴム質重合体の存在下に、不飽和カルボン酸エステル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、芳香族ビニル系単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体が挙げられる。
【0077】
グラフト共重合体であるアクリル弾性体粒子(b−2)に用いられるゴム質重合体には特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴムなどが使用できる。具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体、およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0078】
本発明におけるグラフト共重合体であるアクリル弾性体粒子(b−2)を構成するゴム質重合体の質量平均粒子径には特に制限はないが、0.01〜0.5μm、特に0.05〜0.4μmの範囲が好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性組成物の衝撃強度が低下する傾向を生じ、上記の範囲を越えると透明性が低下する場合がある。なお、ゴム質重合体の質量平均粒子径は「Rubber Age, Vol.88, p.484-490 (1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法、つまりアルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した質量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積質量分率より累積質量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0079】
本発明におけるグラフト共重合体であるアクリル弾性体粒子(b−2)は、該粒子を100質量部としたときに、ゴム質重合体10〜80質量部、好ましくは20〜70質量部、より好ましくは30〜60質量部の存在下に、上記の単量体(混合物)20〜90質量部、好ましくは30〜80質量部、より好ましくは40〜70質量部を共重合することによって得られる。ゴム質重合体の割合が上記の範囲未満、または上記の範囲を越える場合には、衝撃強度や表面外観が低下する場合がある。
【0080】
なお、グラフト共重合体であるアクリル弾性体粒子(b−2)は、ゴム質重合体に単量体混合物をグラフト共重合させる際に生成するグラフトしていない共重合体を含んでいてもよい。ただし、衝撃強度の観点からは、グラフト率は10〜100%であることが好ましい。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体に対するグラフトした単量体混合物の質量割合である。また、グラフトしていない共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には特に制限はないが、0.1〜0.6dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられる。
【0081】
本発明におけるグラフト共重合体であるアクリル弾性体粒子(b−2)のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には、特に制限はないが、0.2〜1.0dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられ、より好ましくは0.3〜0.7dl/gのものである。
【0082】
本発明におけるグラフト共重合体であるアクリル弾性体粒子(b−2)の製造方法には、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合などの重合法により得ることができる。
【0083】
また、アクリル樹脂(A)およびアクリル弾性体粒子(B)のそれぞれの屈折率が近似している場合、本発明のアクリル樹脂フィルムの透明性を得ることができるため、好ましい。具体的には、アクリル弾性体粒子(B)とアクリル樹脂(A)の屈折率差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。このような屈折率条件を満たすためには、アクリル樹脂(A)の各単量体単位組成比を調整する方法、および/またはアクリル弾性体粒子(B)に使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成比を調製する方法などにより、屈折率差を小さくすることができ、透明性に優れたアクリル樹脂フィルムを得ることができる。
【0084】
尚、ここで言う屈折率差とは、アクリル樹脂(A)が可溶な溶媒に、本発明のアクリル樹脂フィルムを適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離し、この可溶部分(アクリル樹脂(A))と不溶部分(アクリル弾性体粒子(B))をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を示す。
【0085】
また、実質的なアクリル樹脂フィルム中でのアクリル樹脂(A)とアクリル弾性体粒子(B)の共重合組成は、上記の溶媒による可溶成分と不溶成分の分離操作により、各成分を個別に分析可能である。
【0086】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムには本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど)、熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)の一種以上をさらに含有させることができ、また、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0087】
本発明においてアクリル樹脂(A)にアクリル弾性体粒子(B)あるいはその他の添加剤などの任意成分を配合する方法には、特に制限はなく、アクリル樹脂(A)とその他の任意成分を予めブレンドした後、通常200〜350℃において、一軸または二軸押出機により均一に溶融混練する方法が好ましく用いられる。また、アクリル弾性体粒子(B)を配合する場合には、(A)、(B)成分の両者を溶解する溶媒の溶液中で混合した後に溶媒を除く方法を用いることができる。
【0088】
次に、得られたアクリル樹脂の製膜方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0089】
本発明のアクリル樹脂フィルムの製膜方法としては、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から流延法による溶液製膜が好ましい。
【0090】
溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがありいずれの方法で製膜されても差し支えないが、ここでは乾式法を例にとって説明する。
【0091】
製膜原液としては、溶液重合などによりポリマーを重合した場合は、ポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦単離したポリマーを、溶媒に溶解したものを用いてもよい。
【0092】
溶媒としては、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能であり、好ましくはアセトン、メチルエチルケトンあるいはN−メチルピロリドン等が使用できる。溶媒は1種類の溶媒を用いてもよいし、2種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。また、溶媒の乾燥促進や基材からの剥離性向上を目的に乾燥助剤や剥離剤などを添加してもよい。製膜原液中のポリマー濃度は2〜50質量%程度が好ましい。濃度が低いとフィルムの表面性が悪化したり、溶媒乾燥に長時間を要するため好ましくない。濃度が高いとポリマー溶液の流動性が低下したり、溶解性が悪化したりする。ポリマー濃度は、より好ましくは10〜45質量%、さらに好ましくは15〜40質量%である。
【0093】
濃度調整後のポリマー溶液は、濾過を行い、異物やゲル状物を取り除くことが好ましい。異物を除去することにより、欠点が減少し光学用途フィルムとして有用に使用できる。濾過精度は50μm以上の異物を除去できることが好ましい。さらに好ましくは10μm、最も好ましくは1μmである。濾過精度の異なる複数のフィルターにより段階的に濾過を行うと濾過寿命が延長されるため好ましい。濾過は、25℃以上100℃以下の温度で適宜フィルター、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網等で濾過することができる。
【0094】
乾式法で製膜する場合は該原液を口金からドラム、エンドレスベルト、工程フィルム等の支持体上に押し出して膜を形成し、続く乾燥工程でかかる膜層から溶媒を飛散させ膜が自己保持性をもつまで乾燥し、支持体から剥離可能なフィルムを得る。
【0095】
乾燥工程の温度条件は例えば、室温〜220℃の範囲で行うことが出来る。効率よく溶媒を除去するため、段階的に乾燥温度を上昇させることが好ましい。初期の乾燥温度は使用する溶媒の沸点をbpとすると、(bp−40℃)〜bpの範囲にあることが好ましい。より好ましくは(bp−40℃)〜(bp−20℃)である。初期乾燥温度が低すぎると溶媒乾燥に時間がかかり生産性が悪化する。初期乾燥温度が溶媒の沸点より高いと、発泡欠点が生じる場合がある。初期乾燥後のフィルム中の溶媒濃度は10〜30質量%であることが好ましく、通常初期乾燥に要する時間は、30秒〜5分程度である。次に、初期乾燥を終えたフィルムはポリマーのガラス転移温度をTgとすると、(Tg−50℃)〜Tgの温度範囲で2次乾燥を行うことが好ましい。2次乾燥の温度が低すぎると溶媒乾燥に時間がかかり生産性が悪化する。温度がTg以上であると、フィルム中の残存溶媒が揮発する際に発泡欠点を生じる場合がある。2次乾燥後のフィルム中の溶媒濃度は2〜15質量%であることが好ましく、通常2次乾燥に要する時間は5〜60分程度である。2次乾燥を終えたフィルムは、ポリマーの分解温度以下の温度で最終乾燥を行い、フィルム中の溶媒濃度を2質量%未満に低減させることが好ましい。溶媒濃度が2質量%以上であると、製品として使用したときに溶媒が溶出する場合がある。
【0096】
得られたフィルムは、例えば工程フィルムを基材として製膜した場合は、積層したまま巻き取ってもよいし、乾燥工程の途中または最後で基材から剥離してもよい。基材から剥離する場合は、保護フィルムを積層して巻き取ると傷が抑制されるため好ましい。またこの乾燥工程で用いられるドラム、エンドレスベルト、工程フィルム等の表面はできるだけ平滑であれば表面の平滑なフィルムが得られる。
【0097】
得られたフィルムは、後工程で延伸、ハードコート層や反射防止層の積層などの処理を行ってもよい。
【0098】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、その優れた透明性、耐熱性、耐光性、靱性を活かして、電気・電子部品、光学部材、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0099】
上記成形品の具体的用途としては、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0100】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0101】
1.ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。サンプル量は5mgとした。
【0102】
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い、求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0103】
2.透明性(全光線透過率、ヘイズ)
日本電色工業(株)製濁度計NDH2000を用いて、23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(%)を3回測定し、平均値で透明性を評価した。光源にはハロゲンランプ(12V50W)を用い、全光線透過率はJIS−K7361−1997、ヘイズはJIS−K7136−2000に準じて測定を行った。
【0104】
3.破断伸度
JIS K7127−1999に規定された方法によりオリエンテック社製テンシロンRTA−100を用いて25℃、65%RH雰囲気で5回測定を行い、平均値を求めた。
【0105】
4.フィルム厚み
マイクロ厚み計K−402B(アンリツ社製)を用いて5点測定し、平均値を求めた。
【0106】
5.屈折率、屈折率差
本発明のアクリル樹脂フィルムにアセトンを加え、4時間還流し、この溶液を9,000rpmで30分間遠心分離により、アセトン可溶分((A)成分)と不溶分((B)成分)に分離した。これらを60℃で5時間減圧乾燥した。得られたそれぞれの固形物を250℃でプレス成形し、厚さ0.1mmのフィルムとした後、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製、DR−M2)によって、23℃、550nm波長における屈折率を測定した。尚、(A)成分と(B)成分の屈折率差については、その絶対値を用いた。
【0107】
6.欠点の最大径と頻度
クラス1000のクリーンルーム内で1mのフィルムをサンプリングし、フィルムの帯電を除電ガンで除去した後、エアでフィルム両表面の付着異物を除去した。得られたフィルムサンプルを微分干渉顕微鏡の透過モードおよび反射モードで観察し、欠点の最大径を求めた。
【0108】
欠点の最大径は、欠点の範囲を下記方法により顕微鏡で観察して決定し、その外接円の直径とする。欠点の範囲は、欠点が気泡や異物の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の透過光で観察したときの影として大きさを確認する。欠点が、ロール傷の転写や擦り傷など、表面形状の変化の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の反射光で観察して大きさを確認する。反射光で観察する場合は、表面にアルミや白金を蒸着して観察しても良い。
【0109】
このようにして最大径を求めた欠点について、最大径が5μm以上20μm以下、最大径が20μmを越え30μm以下、最大径が30μmを越えるものに分類し、それぞれの10cm四方当たりの個数を欠点頻度(個/10cm四方)とした。
【0110】
7.質量平均分子量(絶対分子量)
ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて測定した。
【0111】
8.平均粒子径
フィルムを厚さ方向に100〜800nm程度の超薄切片とし、ルテニウム酸で染色した後に透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-1200EX)を用いて、10万倍の倍率で場所を変えながら100個の粒子について円相当径を求め、平均値を平均粒子径とした。なお、コア・シェル型やグラフト共重合型のアクリル弾性体粒子(B)においては、ゴム質重合体部分の粒子径を測定した。
【0112】
9.耐熱加工適性
アクリル樹脂フィルム上へ以下の方法にてハードコート層を形成した。ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)社製)90質量部、マクロモノマーAN−6S(末端基がメタクリロイル基で高分子量(セグメント)の成分がスチレン/アクリロニトリルであり、数平均分子量が6,000のマクロモノマー)(東亞合成(株)社製、固形分40質量部)20質量部、光開始剤1−ヒドロキシフェニルケトン(チバ・スペシャリテイ・ケミカルズ(株)社製)5質量部、トルエン50質量部、メチルエチルケトン50質量部を攪拌混合して、ハードコート層形成用の塗液とした。幅570mmのフィルムの中央部550mmについて、市販のコーター装置を用いて、3本リバースコート法によって上記塗液Aを乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布し、フローターオーブンで、1.5MPaの張力下で80℃30秒、100℃30秒の2段階乾燥を行った後、塗膜からの高さ12cmにセットした80W/cmの強度を有する高圧水銀ランプ灯の下を5m/分の速度で通過させ、ハードコート層を形成した。ハードコート層形成中の走行フィルムの状態を観察し、耐熱加工性を下記の通り判定した。
○ :平面性が良好であり、振幅20mm以上のうねりを伴う平面性悪化や10mm以上のエッジ部上カールが発生しなかった。
△ :振幅20mm以上のうねりを伴う平面性悪化は発生しなかったが、10mm以上のエッジ部のカールが発生した。または、1回/10分以上の頻度でフィルム破れが発生した。
× :振幅20mm以上のうねりを伴う平面性悪化が発生した。または、1回/10分以上の頻度でフィルム破れが発生した。
【0113】
10.フィルム品位
上記方法でアクリル樹脂フィルム上にハードコート層を形成し、ハードコート層の欠点(塗布抜け)の個数を目視により確認し、以下の基準で評価した。
○:欠点(ハードコート層の塗布抜け)が0.5個/10cm四方未満
△:欠点(ハードコート層の塗布抜け)が0.5個/10cm四方以上1個/10cm四方未満
×:欠点(ハードコート層の塗布抜け)が1個/10cm四方以上。
【0114】
[実施例1]
(1)アクリル樹脂の調製
アクリル樹脂(A−1)
先ず、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、次の様にして調整した。
メタクリル酸メチル20質量部、
アクリルアミド80質量部、
過硫酸カリウム0.3質量部、
イオン交換水1500質量部
を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで、70℃に保ち反応を進行させた。得られた水溶液を懸濁剤とした。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
次に、下記仕込み組成の混合物質を、反応系を撹拌しながら添加した。
メタクリル酸 :27質量部
メタクリル酸メチル :73質量部
t−ドデシルメルカプタン :1.2質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4質量部
添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。
その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体を得た。この共重合体の重合率は97%であり、質量平均分子量は13万であった。上記共重合体に添加剤(NaOCH3)を0.2質量%配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル樹脂(A−1)を得た。アクリル樹脂(A−1)の分子量は13万、Tgは140℃であった。
【0115】
(2)アクリル弾性体粒子の調製
多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に、初期調整溶液として、
脱イオン水120質量部、
炭酸カリウム0.5質量部、
スルホコハク酸ジオクチル0.5質量部、
過硫酸カリウム0.005質量部
を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、
アクリル酸ブチル53質量部、
スチレン17質量部、
メタクリル酸アリル(架橋剤)1質量部
を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、ゴム質重合体を得た。
次いで、メタクリル酸メチル21質量部、
メタクリル酸9質量部、
過硫酸カリウム0.005質量部
の混合物を引き続き70℃で90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層を重合させた。
この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、多層構造重合体であるアクリル弾性体粒子(b−1)を得た。電子顕微鏡で測定したアクリル弾性体粒子のゴム質重合体部分の平均粒子径は140nmであった。
【0116】
(3)アクリル樹脂(A)とアクリル弾性体粒子(B)との配合
アクリル樹脂(A)80質量部とアクリル弾性体粒子(B)20質量部とを配合し、2軸押出機(日本製鋼社製TEX30、L/D=44.5)を用いて、スクリュー回転数150rpm、シリンダ温度280℃で混練し、ペレット状のアクリル樹脂組成物を得た。
【0117】
(4)製膜
アクリル樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した後、メチルエチルケトンに固形分濃度30質量%となるように溶解させ、1μmカットフィルターを用いて濾過を行い、ホッパーにて24時間静置して溶液中の泡を除去した。この溶液をギアポンプを用い、リップ間隙0.5mmのTダイを通じてPETフィルム上にキャストし、熱風オーブンにて50℃で1分、120℃で30分、170℃で30分の3段階で熱処理を行い、厚み100μmのアクリル樹脂フィルムを得た。口金周辺のクリーン度はクラス100,その他はクラス1000であった。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0118】
[実施例2]
実施例1において、製膜の乾燥条件を70℃で1分、120℃で30分、170℃で30分の3段階にした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。初期乾燥温度が高いため若干発泡が生じた。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0119】
[実施例3]
実施例1において、アクリル樹脂(A)とアクリル弾性体粒子(B)との配合量を、アクリル樹脂(A)90質量部とアクリル弾性体粒子(B)10質量部とした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0120】
[実施例4]
実施例1において、アクリル弾性体粒子(B)を配合しない以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。耐熱加工適性評価において、Tgが高いため平面性は良好であったが、伸度が低いためフィルム破れの頻度が多くなった。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0121】
[実施例5]
実施例1において、アクリル樹脂(A)とアクリル弾性体粒子(B)との配合量を、アクリル樹脂(A)60質量部とアクリル弾性体粒子(B)40質量部とした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。耐熱加工適性評価において、Tgがやや低下したためエッジ部が若干カールした。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0122】
[実施例6]
実施例1において、フィルターの精度を10μmカットとした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。欠点頻度が若干多くなった。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0123】
[実施例7]
実施例1において、フィルターの精度を18μmカットとした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。欠点頻度が若干多くなった。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0124】
[実施例8]
実施例1のペレット状のアクリル樹脂組成物を100℃で3時間乾燥し、ベント付きの65mmφの一軸押出機を用いて押出し、ギアポンプ、7μmカットのフィルターを通してTダイ(設定温度250℃)からポリシングロールに両面を完全に接着させるようにして冷却して、厚み100μmのアクリル樹脂フィルムを得た。口金周辺のクリーン度はクラス100,その他はクラス1000であった。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0125】
[実施例9]
実施例8において、フィルターの精度を12μmカットとした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0126】
[比較例1]
実施例1において、製膜の乾燥条件を80℃で1分、120℃で30分、170℃で30分の3段階にした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。初期乾燥温度が高いため発泡が生じ、品位が悪化した。また、欠点に起因して加工時の破れが多くなった。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0127】
[比較例2]
実施例1において、製膜の乾燥条件を50℃で1分、140℃で30分、170℃で30分の3段階にした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。2次乾燥温度が高いため発泡が生じた。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0128】
[比較例3]
市販のアクリル樹脂デルペット80NH(旭化成ケミカルズ)を用いて、実施例1と同様の方法で製膜を行った。ただし、ポリマーのTgが100℃であるため、乾燥条件を50℃で1分、80℃で30分、150℃で30分の3段階に変更した。フィルムの耐熱性が低いため、ハードコート層形成過程で平面性が悪化した。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0129】
[比較例4]
実施例8において、フィルターの精度を75μmカットとした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。得られたフィルムには30μmを越える欠点が10個/10cm四方以上の欠点があり、フィルム品位評価は×であった。
【0130】
[比較例5]
実施例1において、フィルターの精度を25μmカットとした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。欠点頻度が多くフィルム品位評価は×であった。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0131】
[比較例6]
実施例1において、製膜機周辺のクリーン度を10000とした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。欠点頻度が多くフィルム品位評価は×であった。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0132】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、その優れた透明性、耐熱性、耐光性、靱性を活かして、電気・電子部品、光学部材、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大径が5μm以上30μm以下である欠点が1個/10cm四方以下であり、最大径が30μmを越える欠点が0個/10cm四方であり、ガラス転移温度が110℃以上であるアクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
さらに、最大径が20μmを越え30μm以下である欠点が0個/10cm四方である請求項1に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
ヘイズが2%以下である請求項1または2に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
厚みが15μm以上であり、全光線透過率が90%以上である請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項5】
破断伸度が3%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項6】
アクリル樹脂フィルムが下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)からなる請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【化1】

(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項7】
アクリル樹脂(A)が、アクリル樹脂(A)を100質量部としたとき、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜90質量部およびグルタル酸無水物単位10〜50質量部からなる請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項8】
アクリル樹脂フィルムが、粒子径が10nm以上1000μm以下であるアクリル弾性体粒子(B)を、アクリル樹脂フィルム100質量部に対し、5〜50質量部含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項9】
アクリル弾性体粒子(B)が1以上のゴム質重合体を含む層と、該ゴム質重合体以外の重合体から構成される1以上の層から構成される多層構造重合体である請求項1〜8のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項10】
アクリル弾性体粒子(B)とアクリル樹脂(A)の屈折率差が0.05以下である請求項1〜9のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項11】
溶液製膜法により製造される請求項1〜10のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項12】
溶液製膜時に使用する溶媒の沸点をbpとしたとき、(bp−40℃)〜bpの温度範囲で流延直後に初期乾燥を行い、かつ、ポリマーのガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg−50℃)〜Tgで2次乾燥を行うアクリル樹脂フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2008−74918(P2008−74918A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253970(P2006−253970)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】